説明

建築用パネル

【課題】軽量、高強度で耐久性にも優れ、吸水や気温変動での強度低下、変形がなく、釘打ち等の加工性も良好で、建築物の床、壁、天井などにも使用可能な建築用パネルを提供する。
【解決手段】建築用パネル1は、ガラスチョップを含有し、多数の独立気泡を有する多孔質の発泡セメント固化物3内にガラスチョップドストランドマット又はガラスネット等3を埋設してパネル本体2を構成し、その両面に、接着剤8により、表面に合成樹脂フィルム7がコートされた耐水紙6を積層して耐水層5を形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用パネルに関し、更に詳しくは、コンクリート型枠用パネルあるいは建築物の壁、床又は天井などに使用される建築用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からコンクリート型枠用パネルとしては、木質合板が多用されてきた。しかし、木質合板は使用回数が3〜7回程度と少ないため、建築廃材が多量に発生するだけでなく、熱帯林から得られる木材資源を多量に消費することから使用削減が求められている。また、木質合板は、通常6枚程度の単板を積層し、酢酸ビニル系接着剤にて接着しているため、廃材の焼却時には、ダイオキシン等の有害ガスが発生し、環境汚染の原因となる。更に、木質合板はコンクリート打設時の余剰水や保管時の降雨により吸水して重量が増大するだけでなく強度が低下するといった問題がある。また、前記のように、合板の場合は酢酸ビニル系接着剤が使用されていることから、住宅建築用等として使用した場合にはシックハウスの問題があり、特にクリーンルーム等には使用することができない。
【0003】
上記のような木質合板からなるコンクリート型枠用パネルの問題点に鑑み、合成樹脂製の型枠用パネルが種々提案されている(例えば、特許文献1〜4等参照。)。これらの合成樹脂製のパネルは、使用回数が20〜30回と多いものもあり、また木材資源の消費も減少でき、しかも吸水による重量増加や強度の低下といった問題もない。しかしながら、合成樹脂製パネルの場合には、気温の変化により強度、特にヤング率が変動しやすく、気温の高い夏場のコンクリート打設時においてはヤング率が低下して打設コンクリート圧により変形するおそれがある。また、構造によっては、釘打ち可能な範囲が限られるものもあり、木質合板と比べて加工性も必ずしも充分とは言い難い。
【特許文献1】特開平6−66021号公報
【特許文献2】特開平8−207190号公報
【特許文献3】特開平11−182029号公報
【特許文献4】特開2003−161037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記のような木質合板や合成樹脂製のコンクリート型枠用パネルの問題点に鑑み、軽量、高強度で耐久性にも優れ、かつ吸水や気温変動などによっても強度の低下や変形がなく、また釘打ち等の加工性も良好で建築物の床、壁、天井などにも使用可能な建築用パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明に係る建築用パネルは、セメントと水と起泡剤とを練り合わせ、板状に成形して養生固化してなり、成形体中に、ガラスチョップを分散状態で含有するとともに厚さ方向の中間部に多数の通孔を有する補強シート、マット又はマット(以下、これらを「補強シート」という。)を1枚又は2枚以上埋設してなり、比重が1.0g/cm3以下の多孔質成形体からなることを特徴とするものである。
【0006】
本発明の建築用パネルにおいては、前記ガラスチョップをセメントと水との混練物に対して3〜15容量%含有することが好ましい。
【0007】
また、本発明の建築用パネルにおける前記補強シートはガラス繊維製であることが好ましく、例えばガラスチョップドストランドマット(ガラスチョップスチランドマットともいう、以下「ストランドマット」と略記する。)、ガラスネット又はガラスクロス等を使用することが好ましい。
【0008】
本発明の建築用パネルには、砂、砂利またはその他の骨材を適宜含有してもよい。
【0009】
本発明の建築用パネル表面には、耐水層を設けることもでき、この耐水層は合成樹脂フィルムをコートした耐水紙を積層して設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る建築用パネルは、セメントを主材料とし、木質合板のように木材資源を使用しないことから、熱帯林からの木材資源の使用を削減でき、環境保全に寄与することができる。また、木質合板に比べて耐久性が高く使用回数が多いため、建築廃材を削減できるうえ、施工費用の低減も可能となる。また、合板のように酢酸ビニル系接着剤は使用しないことから廃材処理に際しても木質合板のように焼却時の有毒ガスが発生するという問題はなく、更にシックハウスの問題もなく、クリーンルームにも使用できる。また、起泡剤により形成された多数の独立気泡を有する多孔質成形体からなることから比重が1.0g/cm3以下と軽く、施工性に優れるとともに、吸水による重量の増大も少なく強度低下の問題もない。更には、前記多孔質成形体が、分散状態で含有するガラスチョップ及び厚さ方向の中間に埋設された補強シートにより補強された構造を有することから、少なくともヤング率が2000MPa以上という高い強度を有しながら、釘打ち等の加工性にも優れ、且つ成形体内に含有されるガラスチョップと補強シートにより、打ち込まれた釘等がしっかりと保持され、コンクリート型枠用のみでなく、建築物の壁、床、天井等にも好適に使用することができる。また、前記補強シートは、多数の通孔を有することから、セメントが固化した多孔質成形体部分と補強シートとの接着強度が高く、層間剥離の恐れもない。
【0011】
本発明の建築用パネルにおいては、ガラスチョップをセメントと水との混練物に対して3〜15容量%含有することで、打設コンクリート圧に対する十分な強度を確保することができる。
【0012】
本発明の建築用パネルにおいて、補強シートとしてガラス繊維製のもの、好ましくはストランドマット、ガラスネット又はガラスクロスを使用することで、高強度のパネルとすることができる。
【0013】
本発明の建築用パネルは、砂を含有したモルタルとしたり、更に砂利を含有したコンクリートとしたり、また、その他の骨材を適宜配合することで、より高強度とすることができる。
【0014】
本発明の建築用パネル表面に耐水層を設けることで、コンクリート型枠として使用する場合にコンクリート打設時の余剰水や降雨による吸水が更に低減され、吸水による重量の増加を防止できる、またコンクリート打設面の仕上がりが綺麗になるとともに打設したコンクリートからの離型性も向上する。
【0015】
前記耐水層を、合成樹脂フィルムをコートした耐水紙をパネル表面に積層して設けることで、吸水を確実に防止でき、また平滑で綺麗なコンクリート打設面が得られるとともに打設したコンクリートからの離型性も良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明に係る建築用パネル1の1実施形態を示す断面図である。建築用パネル1は、ガラスチョップを含有し、多数の独立気泡を有する多孔質の発泡セメント固化物3内にガラス製の補強シート3を埋設してパネル本体2を構成し、その両面に、接着剤8により、表面に合成樹脂フィルム7がコートされた耐水紙6を積層して耐水層5を形成してある。
【0017】
本発明に使用するセメントとしては特に限定されるものではなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等、各種セメントを使用できる。生産性、強度の点からは早強ポルトランドセメントを使用することは好ましい。また、起泡剤も特に限定されるものではなく、タンパク質系、界面活性剤系、樹脂系等の公知の各種起泡剤を使用することができる。更に、ガラス短繊維であるガラスチョップの繊維長も特に限定されるものではないが、3〜20mmの範囲のものが好ましく、より好ましくは5〜15mmである。繊維長が3mm未満のガラスチョップでは補強効果が不足する傾向にあり、また20mmを超えると分散性が低下する傾向にある。また、本発明に使用する補強シート4としては、ガラス製、カーボン製、合成繊維製、天然繊維製等、各種のものを使用できるが、これらの中でも、補強効果、コスト、セメントとの馴染みなどの観点から、ガラスチョップドストランドマット、ガラスネット又はガラスクロス等のガラス製が好ましい。補強シートの質量(坪量)や厚さは特に限定されるものでないが、補強効果の観点からは、100〜500g/cm2の範囲が好ましく、更に好ましくは150〜300g/cm2の範囲である。ガラスチョップドストランドマット、ガラスネットなどの補強シートの質量が100g/m2未満では、枚数にもよるが、補強効果が不足する傾向にあり、また500g/m2を超えるとコストアップになるうえに、セメントミルクの浸透性が悪くなり、セメント固化物との間の接着力が低下して層間接着強度が低下する傾向にあり、また補強シートとしてのガラス層が厚くなることで、むしろその部分で強度が低下する傾向にある。
【0018】
また、ガラスチョップや、ストランドマット、ガラスネット又はガラスクロスのようなガラス繊維材料とセメント固化物との接着性を向上させ、より高強度のパネルとするために、前記ガラスチョップや、ストランドマット、ガラスネット又はガラスクロスのようなガラス繊維材料として、エポキシ系、スチレン系等のバインダーを吹き付け又は含浸したものを用いることも好ましい。
【0019】
建築用パネル1は、上記のようなセメント、起泡剤、ガラスチョップ、更にはガラスチョップドストランドマット、ガラスネット等の補強シート4及び水を用い、成形型に入れて、例えば60cm×180cm×12mmの板状に成形し、養生することで、起泡剤を含んだセメントミルクが、セメントと水との水和反応により硬化して、多数の独立気泡を有する軽量な多孔質成形体からなるセメント固化物3が得られる。具体的には、セメント、起泡剤、ガラスチップ及び水を混練したセメントミルクを型に流し込み、その表面にガラスチョップドストランドマット、ガラスネット等の補強シート4を載置積層し、この補強シート4の上から更に前記と同様のセメントミルクを流し込む。このようなセメントミルクの流し込みと補強シート4を載置積層する工程を所定の回数繰り返すことで(但し、補強シートが1枚のみ場合には1回のみ)、厚さ方向の中間部にガラスチョップドストランドマット、ガラスネット等の補強シート4が埋設された状態とし、これを養生、固化させることで、セメントが固化した多孔質成形体からなる本発明の建築用パネルが得られる。
【0020】
前記の場合、セメントと水との配合割合は、重量比で、セメント:水=1:1〜1:0.2の範囲内とすることが好ましい。水が多すぎると強度が低下する傾向にあり、水が少なすぎると成形時にセメントミルクの流動性が低下して成形性を阻害する傾向にある。また、ガラスチョップの添加量は、セメントと水との混練物(セメントミルク)に対して3〜15容量%とすることが好ましい。ガラスチョップが3容量%未満の場合には、得られるパネルの強度が不足する傾向がある。またガラスチョップが15容量%を超えるとセメントミルクに対する分散性が悪くなり、パネルの強度が不均一になる傾向がある。更に、起泡剤の添加量は特に限定されるものではないが、通常はセメントに対して0.5〜5重量%の範囲で、得られるパネルの比重が1.0g/cm3以下の目的とする値となるように適宜調整すればよい。パネルの比重としては、好ましくは0.5〜1.0g/cm3であり、更に好ましくは0.6〜0.9g/cm3の範囲であり、補強シート4を含めても木質合板と同じ0.7g/cm3程度の重さにすることができる。また、パネル中に埋設されるガラスチョップドストランドマット、ガラスネット等の補強シート4の枚数にも特に限定はなく、要求される強度やパネルの厚さにより増減すればよいが、建築用パネルの一般的な厚み、例えばパネルの厚さを9.5〜12mmとすると、通常は1〜3枚程度である。また、これら補強シート等の埋設位置にも特に限定はないが、パネル本体(セメント固化物3)の表面からの深さが1〜10mm、即ち、ガラスチョップドストランドマット、ガラスネット等からなる補強シート4の表面に、セメント固化物3が1〜10mm程度の厚さで被るようにすることが好ましい。更に、ガラスチョップドストランドマット、ガラスネット等が、パネルの厚さ方向に均等な間隔で埋設されることが好ましく、例えば、図1に示すように補強シート4を2枚埋設したパネルにあっては、補強シート4によりパネル本体2が厚さ方向に3等分されるような位置に埋設することが好ましい。このような均等位置に埋設することで、パネルが表裏でバランスよく補強されるとともに、釘打ち性や釘の保持性の観点からも好ましい。
【0021】
本発明の建築用パネルでは、前記セメントミルクに骨材として砂を入れてモルタルとしたり、更に砂利を入れてコンクリートとすることができ、更にその他の骨材や公知のセメント添加剤等を必要に応じて適宜添加することができる。前記砂や砂利等の骨材の配合量は特に限定されるものではないが、砂や砂利等の骨材の配合量が多すぎると釘打ち性が低下したり、ノコギリでの切断が困難になり成形加工性等が低下する傾向にあるので、本発明の目的を阻害しない範囲に留めることが好ましい。
【0022】
本発明の建築パネルには、図1に示すように、パネル本体2の表面に耐水層5を設けておくことが好ましく、コンクリート型枠用として使用する場合には特に好ましい。耐水層としては、パネル本体2の表面に耐水塗料を塗布したり、合成樹脂フィルムを積層接着してもよい。また、図例の如く、表面に合成樹脂フィルム7を積層した耐水紙6を積層接着して耐水層5を設けてもよい。前記耐水層5や耐水紙6の厚さには特に限定はなく、例えば、表面にポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、PET等のポリエステル系樹脂等の合成樹脂フィルム7をコートした厚さ0.1〜0.9mm程度の耐水紙6を、ゴム系、エポキシ系等の接着剤8により接着して耐水層5を設けることができる。耐水層5は、パネル本体2の表裏両面に設けてもよいし、用途によっては片面のみでもよいし、表裏いずれの面にも耐水層を設けないで使用することもできる。
【0023】
上記のような本発明の建築用パネル1は、コンクリート型枠用、建築物の壁、床、天井等、建築用途に広範に使用することができる。例えば、図2に示すものは、コンクリート型枠用パネルとした例を示すものである。このコンクリート型枠10は、堰板となる建築用パネル1の裏面の周囲および中間の所定の位置に、桟木9を釘nにより打ち付けたものであり、堰板となる建築用パネル1が、少なくともヤング率2000MPa(3点曲げ)以上の高強度を有し、打設コンクリート圧に耐えうる十分な強度を有する。
【実施例1】
【0024】
セメント、水、起泡剤およびガラスチョップを混合してセメントミルクを混練し、成形型にてストランドマットを2枚埋設した板状に成形し、3日間養生して固化させ、厚さ12mmで、多数の独立気泡を有する多孔質成形体からなるパネルを製造した。得られたパネルは、比重が0.8g/cm3、ヤング率(3点曲げ)が2500MPaであった。また、このパネルは釘打ち性に優れ、かつ打ち込まれた釘の保持性も良好であった。更に、ノコギリでの切断も容易であった。
【実施例2】
【0025】
実施例1と同じセメントミルクに、ガラスネットを2枚埋設し、3日間養生して固化させ、厚さ12mmで、多数の独立気泡を有する多孔質成形体からなるパネルを製造した。得られたパネルは、比重が0.8g/cm3、ヤング率が3000MPaであった。また、このパネルも釘打ち性に優れ、かつ打ち込まれた釘の保持性も良好であった。更に、ノコギリでの切断も容易であった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の建築用パネルの1実施形態を示す拡大断面図である。
【図2】本発明の建築用パネルを用いたコンクリート型枠の斜視図であり、(a)は表面側、(b)は裏面側である。
【符号の説明】
【0027】
1 建築用パネル
2 パネル本体
3 セメント固化物
4 補強シート
5 耐水層
6 耐水紙
7 合成樹脂フィルム
8 接着剤
9 桟木
n 釘


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと水と起泡剤とを練り合わせ、板状に成形して養生固化してなり、成形体中に、ガラスチョップを分散状態で含有するとともに厚さ方向の中間部に多数の通孔を有する補強シート、マット又はネットを1枚又は2枚以上埋設してなり、比重が1.0g/cm3以下の多孔質成形体からなることを特徴とする建築用パネル。
【請求項2】
セメントと水との混練物に対してガラスチョップを3〜15容量%含有する請求項1記載の建築用パネル。
【請求項3】
補強シート、マット又はネットがガラス繊維製である請求項1又は2に記載の建築用パネル。
【請求項4】
補強シート、マット又はネットがガラスチョップドストランドマット、ガラスネット又はガラスクロスである請求項3記載の建築用パネル。
【請求項5】
砂、砂利またはその他の骨材を含有してなる請求項1〜4のいずれかに記載の建築用パネル。
【請求項6】
パネル表面に耐水層を設けてなる請求項1〜5のいずれかに記載の建築用パネル。
【請求項7】
パネル表面に、合成樹脂フィルムをコートした耐水紙を積層してなる請求項6記載の建築用パネル。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−146484(P2007−146484A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342364(P2005−342364)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(398062574)カナフレックスコーポレーション株式会社 (62)
【Fターム(参考)】