説明

建設機械のエンジン始動補助機構

【課題】エンジン始動時の負荷を軽減させるエンジン始動補助機構を提供する。
【解決手段】アイドリングストップ用アキュムレータを設けた油圧回路1と、該油圧回路1に作動油を送る油圧ポンプモータ5と、該油圧ポンプモータ5を駆動させるエンジン17と、を備えた建設機械であって、前記油圧回路1には、前記エンジン17の始動時に、前記油圧ポンプモータ5に作動油を供給して回動させるアシスト用アキュムレータ9Bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クレーン、油圧ショベル、ブルトーザ、ボーリングマシン、フォークリフトなどの建設機械(「建機」ともいう)の油圧ポンプモータのエンジン始動補助機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車やバスなどは、走行していないときにエンジンをかけっぱなしにすること(アイドリング)は、できるだけ止める(アイドリング・ストップ)ようにして、燃料の節約(省エネ)や排ガスの減少化が図られている。しかし、走行主体でない建機の油圧駆動装置においては、このアイドリングストップは、あまりすすんでいないのが現状である。
【0003】
建機は、大形アクチュエータを作動させるために、エンジンを常に回し、油圧ポンプを回すことで油圧回路に作動油を供給し続けている。この油圧回路には、アキュムレータが設けられている。そのため、該アキュムレータに作動油が溜め込まれるので、ポンプ即ちエンジンが停止しても、作動油の供給が可能である。これが、建機におけるアイドリングストップである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来例では、前記エンジンが停止起動を繰り返すため、該エンジンの起動時に電動機(セルモータ)及び電気系に大きな負担がかかり、例えば、バッテリーの消耗やケーブルの焼損などが発生することがある。
【0005】
この発明は、上記事情に鑑み、エンジン始動時の負荷を軽減させるエンジン始動補助機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、 アイドリングストップ用アキュムレータを設けた油圧回路と、該油圧回路に作動油を送る油圧ポンプモータと、該油圧ポンプモータを駆動させるエンジンと、を備えた建設機械であって、前記油圧回路には、前記エンジンの始動時に、前記油圧ポンプモータに作動油を供給して回動させるアシスト用アキュムレータが設けられていることを特徴とする。
【0007】
この発明の前記アシスト用アキュムレータは、電磁切換弁を介して前記油圧ポンプモータ及び油タンクに連結されていることを特徴とする。この発明の前記アシスト用アキュムレータが、前記アイドリングストップ用アキュムレータと兼用されていることを特徴とする。この発明の前記アシスト用アキュムレータが、前記アイドリングストップ用アキュムレータと別個独立に設けられていることを特徴とする。
【0008】
この発明の前記アシスト用アキュムレータは、油圧ポンプモータの入口と出口に連通するバイパス管に配設されていることを特徴とする。この発明は、前記油圧ポンプモータの入口と出口に連通するバイパス管と、前記アシスト用アキュムレータが配設され、前記バイパス管に電磁切換弁を介して連結されているアシスト管と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の前記油圧回路には、前記エンジンの始動時に、前記油圧ポンプモータに作動油を供給して回動させるアシスト用アキュムレータが設けられているので、エンジンの起動時に前記アシスト用アキュムレータが記油圧ポンプモータを回転させる。そのため、起動時におけるエンジンの負荷が軽減し、円滑に起動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態を示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示す図である。
【図3】本発明の第3実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明の第1実施の形態を図1により説明する。油圧回路1の回路配管には、建設機械(例えば、クレーン)のアクチュエータ3と油圧ポンプモータ5が配設されている。前記アクチュエータ3は、電磁弁7を介してアイドリングストップアシスト兼用アキュムレータ9に連結されている。
【0012】
前記電磁弁7と前記アキュムレータ9と間には、逆止弁11を介して油圧ポンプモータ5の出口5aが連結され、その出口5bは逆止弁13を介してタンク(作動油槽)15に連通している。前記油圧ポンプモータ5は、エンジン17で駆動軸を回転させれば油圧ポンプとなり、強制的に油を送り込んだときには油圧モータとなるが、このポンプとして、ピストンポンプ、ギヤポンプなどのような、強制流入に耐えうるものが選択される。なお、エンジン17には、起動用のセルモータ(図示省略)が設けられているが、本実施形態では、前記セルモータは省力することも可能である。
【0013】
前記アキュムレータ9は、電磁切換弁19を介して前記タンク15に連通している。電磁切換弁19は、バイパス管21に連結されているが、このバイパス管21の一端は、前記油圧ポンプモータ5の入口5aと逆止弁13との間に連結され、他端は出口5bと逆止弁11との間に連結されている。図において、23は圧力スイッチ、25,26はタンク(廃油)、29は安全弁、をそれぞれ示す。
【0014】
次に、本件実施形態の作動を説明する。
始動時
図示しない制御盤の指示により、電磁切換弁19が切り換わると、前記アキュムレータ9内の作動油が油圧管路1内に排出され、作動油が油圧ポンプモータ5の入口5a内に圧送され該モータ5内を通って出口5bからバイパス管21に流入する。そのため、前記油圧ポンプモータ5は回転し、起動時にかかるエンジンの負荷を軽減するので、容易にエンジンを始動させることができる(アシスト機能)。
【0015】
又、前記出口5bから排出された作動油(戻り油)は、前記バイパス管21を通ってタンク15内に戻されるが、この作動油(戻り油)には、殆ど負荷がかからない。そのため、前記油圧ポンプモータ5内を通る作動油の流速を速くすることができるので、エンジン17の始動を速くすることができる。
【0016】
運転中
前述のようにして、エンジン17が始動すると、油圧ポンプモータ5が回転駆動してタンク15内の作動油を吸い上げる。そうすると、該作動油は油圧回路1内に圧送され、前記アキュムレータ9に蓄圧される。前記油圧回路1の電磁弁7の切り替えにより、油圧回路1内の作動油は、アクチュエータ3のピストン3aを押圧し摺動させる。
【0017】
停止時
アクチュエータ3の運転が停止されると、油圧回路1の圧力スイッチ23がオンし、図示しない制御盤に停止信号を送出する。そうすると、前記制御盤は、エンジン17のスイッチをオフにするので、油圧ポンプモータ5は、停止する。このとき、スイッチが切れても前記モータ5は慣性力によりしばらく回転し作動油を圧送するが、そのエネルギは前記アキュムレータ9に回収され蓄積される。
【0018】
前述の始動、運転、停止を繰り返しながら(アイドリングストップ)、建設機械を操作し、所望の作業を行う。
【0019】
なお、アクチュエータ3の必要パワーによって、アキュムレータ9の使用圧力が決められるが、その使用圧力がアシストに必要なアキュムレータの使用圧力に対して上回る場合には、本実施形態のように、アイドリングストップアシスト兼用アキュムレータ、即ち、アイドリングストップ用アキュムレータとアシスト用アキュムレータを併用できる一本のアキュムレータ、を用いるが、逆に、それが下回る場合には、アイドリングストップ用アキュムレータとアシスト用アキュムレータとを別個独立に設ける必要がある。
【0020】
この発明の第2実施形態を図2により説明するが、図1と同一図面符号は、その名称も機能も同一である。
この実施形態と前記第1実施形態との主なる相違点は、次の通りである。
(1)アイドリングストップ用アキュムレータ9Aとアシスト用アキュムレータ9Bは別個独立に設けられていること。例えば、アイドリングストップ用アキュムレータ9Aの使用圧力が2MPaであり、アシストに必要なアキュムレータの使用圧力(アシスト圧力)が、0.5MPaの場合には、前記アシスト圧力と同力(0.5MPa)又はそれより大きな圧力のアシスト用アキュムレータ9Bが用いられる。
【0021】
(2)前記アシスト用アキュムレータ9Bは、バイパス管21に配設され、該バイパス管21の上流側は圧力スイッチ23A、逆止弁30、電磁切換弁19Aを介して、前記逆止弁11と前記モータ5の出口5bとの間に連結されるとともに、その下流側は電磁切換弁19Bを介して、前記モータ5の入口5aと逆止弁13との間に接続されている。
【0022】
この実施形態では、始動時に電磁弁19Aは開、電磁弁19Bは開となり,アシスト用アキュムレータ9Bからの作動油は、電磁弁19Bを通って油圧ポンプモータ5の入口5aに流入し該モータ5内を通って出口5bから吐き出されるが、前記吐き出された作動油は、該タンク15に戻らず、そのままアイドリングストップ用アキュムレータ9Aに流れ込むので、使用したエネルギの再利用が可能となる。
【0023】
なお、アシスト用アキュムレータ9Bに油圧ポンプモータ5の停止にかかる慣性エネルギを回収する際、始動時に消費するエネルギが不足する場合は、アシスト用アキュムレータ9Bに不足の圧力を油圧ポンプモータ5から予め供給しておくことで、カバーできるが、前記アシスト用アキュムレータ9Bに複数回始動可能な油量を蓄積しておいても良い。
【0024】
この発明の第3実施形態を図3により説明するが、図1と同一図面符号は、その名称も機能も同一である。
この実施形態と前記第1実施形態との主なる相違点は、次の通りである。
(1)アイドリングストップ用アキュムレータ9Aとアシスト用アキュムレータ9Bは別個独立に設けられていること。このアシスト用アキュムレータ9Bとしては、例えば、アイドリングストップ用アキュムレータ9Aの使用圧力が2MPaであり、アシストに必要なアキュムレータの使用圧力(アシスト圧力)が、2.5MPaの場合には、前記アシスト圧と同じ(2.5MPa)又はそれより大きな圧力のアキュムレータが用いられる。
【0025】
(2)前記アシスト用アキュムレータ9Bは、バイパス管21と別個に設けられたアシスト管22に配設されていること。このアシスト管22の前記アキュムレータ9Bの上流側は、圧力スイッチ23A、逆止弁30、電磁切換弁19Aを介して、前記逆止弁11と前記モータ5の出口5bとの間に連結されるとともに、その下流側は電磁弁19を介して、前記モータ5の入口5aと逆止弁13との間に接続されている。
【0026】
この実施形態では、始動時に電磁切換弁19を開にすると,アシスト用アキュムレータ9Bからの作動油は、バイパス管22、電磁切換弁19、バイパス管21を介して、油圧ポンプモータ5の入口5aに流入し、該モータ5内を通って出口5bから吐き出されるが、前記吐き出された作動油は、アシスト管22に流入し、第1実施形態と同様にタンク15に戻る。そのため、前記タンク15に戻る回路には負荷がかからないので、前記アイドリングストップ用アキュムレータ9Aに作動油を流すよりも流量が大きくなる。従って、作動油が油圧ポンプモータ5を通過する際のスピードが速くなるので、エンジンの始動を早めることができる。
【0027】
なお、エンジンのスイッチを切る際に、電磁切換弁19Aを切り換えておけば、小さな使用圧力のアシスト用アキュムレータ9Bでは、瞬時で蓄油は完了するので、自然に必要な蓄油を維持することができる。
【0028】
この発明の実施形態は、上記に限定されるものではなく、例えば、作動油を用いる油圧回路は、水を用いる液圧回路にすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 油圧回路
3 アクチュエータ
5 油圧ポンプモータ
9 アイドリングストップアシスト兼用アキュムレータ
9A アイドリングストップ用アキュムレータ
9B アシスト用アキュムレータ
17 エンジン
21 バイパス管
22 アシスト管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイドリングストップ用アキュムレータを設けた油圧回路と、該油圧回路に作動油を送る油圧ポンプモータと、該油圧ポンプモータを駆動させるエンジンと、を備えた建設機械であって、
前記油圧回路には、前記エンジンの始動時に、前記油圧ポンプモータに作動油を供給して回動させるアシスト用アキュムレータが設けられていることを特徴とする建設機械のエンジン始動補助機構。
【請求項2】
前記アシスト用アキュムレータは、電磁切換弁を介して前記油圧ポンプモータ及び油タンクに連結されていることを特徴とする請求項1記載の建設機械のエンジン始動補助機構。
【請求項3】
前記アシスト用アキュムレータが、前記アイドリングストップ用アキュムレータと兼用されていることを特徴とする請求項1記載の建設機械のエンジン始動補助機構。
【請求項4】
前記アシスト用アキュムレータが、前記アイドリングストップ用アキュムレータと別個独立して設けられていることを特徴とする請求項1記載の建設機械のエンジン始動補助機構。
【請求項5】
前記アシスト用アキュムレータは、油圧ポンプモータの入口と出口に連通するバイパス管に配設されていることを特徴とする請求項4記載の建設機械のエンジン始動補助機構。
【請求項6】
前記油圧ポンプモータの入口と出口に連通するバイパス管と、前記アシスト用アキュムレータが配設され、前記バイパス管に電磁切換弁を介して連結されているアシスト管と、を備えていることを特徴とする請求項4記載の建設機械のエンジン始動補助機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−91953(P2013−91953A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233938(P2011−233938)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000193999)
【出願人】(507418223)
【Fターム(参考)】