説明

建設機械

【課題】建設機械の転覆事故等から運転室内の運転手を保護すること。
【解決手段】本発明は、下部走行体上に搭載された上部旋回体と、運転室及びエンジン室と、ブーム、アーム及びバケットを具備して各々の油圧シリンダにより駆動する作業装置とを備える建設機械であって、車体フレーム13とボトムプレート20の間に取り付けられた振動吸収装置と、運転室に過大な多荷重が加わった場合、運転室に荷重が伝わる方向に移動できるように、固定装置30により振動吸収装置のフランジに固定される荷重支持用カバー32と、運転室、ボトムプレート、荷重支持用カバー及び振動吸収装置を一体型に密着固定する固定用締結部材33と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転室に衝撃等が伝わる場合に、運転室の過度な変位(移動)を運転手保護構造物により防止する建設機械に関するものである。
【0002】
より詳細には、走行中または作業中、機械の転覆事故等により運転室に過大な荷重が伝わった場合に、運転室の変位を運転手保護構造物により制限し、運転手を保護することができるようにした振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置を一体化した建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0003】
国際標準化機構(ISO(International Organization for Standardization))や自動車技術者協会(SAE(Society of Automotive Engineers))などでは、運転手のいる機械における事故の際、運転手の安全を確保することができるように運転室の保護構造に対する規定を漸次、強化しているというのが、現在の趨勢である。つまり、作業中に危険性のある物体が運転室内にいる運転手の操縦作業の限界範囲内に侵入できないようにする運転手保護構造物(落下物運転手護構造)(FOPS(Falling Object Protective Structure))と、作業中に機械が転覆した場合に変位した運転室の構造物から運転手を保護する運転手保護構造物(転倒時運転手保護構造)(ROPS(Roll Over Protective Structures))等を運転室に設けるようになっている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
図1に示した本発明が適用される建設機械は、下部走行体1と、下部走行体1上に旋回可能に搭載された上部旋回体2と、上部旋回体2上に装着された運転室3及びエンジン室4と、作業装置11と、上部旋回体2の後方に取り付けられたカウンターウェイト12とを備える。作業装置11は、上部旋回体2に回動可能に固定してブームシリンダ5により駆動するブーム6と、ブーム6に連結してアームシリンダ7により駆動するアーム8と、アーム8に連結してバケットシリンダ9により駆動するバケット10を具備する。
【0005】
図2に示した従来技術による建設機械の運転室に取り付けられた振動吸収装置と荷重支持装置は、運転室3に上下方向に伝わる機械の振動等を相殺させるように車体フレーム13に対して運転室3を弾性的に支持する振動吸収装置14と、運転室3に変位が生じた場合、その変位を制御する荷重支持装置15を備える。
【0006】
図2において拡大して示したように、車体フレーム13の上面に上板16aと側壁16bからなるブラケット16が固定され、上板16aに振動吸収装置14及び荷重支持装置15を取り付けるための貫通孔17,18が各々形成される。
【0007】
前記した振動吸収装置14はブラケット16の貫通孔17に挿入され、外部フランジ19がボルト(図示せず)により上板16aに固定される。
【0008】
前記した荷重支持装置15は、貫通孔18を螺子部が通過してボトムプレート20に固定される軸部材21と、軸部材21の頭部21aに取り付けられるストッパー22とを具備する。車体フレーム13に衝撃等が生じない場合、ストッパー22の上面と上板16aの間に間隙G1を維持し、軸部材21の外側面と貫通孔18の内側面の間に間隙G2を維持する。
【0009】
前記した運転室3が車体フレーム13から遠ざかった方向に変位した場合、荷重支持装置15のストッパー22の上面が上板16aの底面に接触する時まで、その変位を許容することになる。これとは反対に、運転室3が車体フレーム13に近づいた方向に変位した場合、ボトムプレート20の底面が上板16aの上面に接触する時まで、その変位を許容することになる。
【0010】
一方、運転室3が車体フレーム13に対して水平方向に変位する場合、荷重支持装置15の軸部材21の外側面が貫通孔18の内側面に接触する時まで、その変位を許容することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−180552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記した振動吸収装置14の弾性体(ゴム材)が外部に露出してグリース、オゾン、化学物質、または鋭利な物体と直接接触する場合、その使用寿命が短縮する虞がある。その場合、荷重支持装置15の機能が喪失する虞があるという問題点を持つ。
【0013】
また、前記した振動吸収装置14と荷重支持装置15を別々に取り付けることにより、それらを固定するための部品点数が増加し、コストの上昇を招くという問題点がある。
【0014】
また、分離して取り付けた振動吸収装置14と荷重支持装置15により、多くのスペースを占有することになる問題点がある。
【0015】
また、運転室内部の空間が狭小で振動吸収装置14と荷重支持装置15との組み付けの作業性が悪かった。
【0016】
本発明は、運転室の床面に取り付けられた振動吸収装置のゴム材質の弾性体が外部に露出し、化学物質、鋭利な物体等により破損することを防止できるようにした、振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置が一体化した建設機械を提供することにその目的がある。
【0017】
また、本発明は、振動吸収装置に荷重支持装置を同一軸上に一体化させて装着することによって、該当部品の数が減り、コストを削減し、荷重支持装置が占有するスペースを有効に活用できるようにした、振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置が一体化した建設機械を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、スペースが狭小な運転室内部での振動吸収装置と荷重支持装置との組み付けの作業性を向上させることができるようにした、振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置が一体化した建設機械を提供する。
【0019】
また、さらに、本発明は、振動吸収装置の固定ボルトの弛緩を防止し、振動吸収装置の雄螺子をボトムプレートに固定する場合、雄螺子の螺子山の破損を防止できるようにした振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置が一体化した建設機械を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る建設機械は、下部走行体と、下部走行体上に旋回可能に搭載された車体フレーム、及び、車体フレーム上に装着されるボトムプレートが備えられた上部旋回体と、上部旋回体の上に装着された運転室及びエンジン室と、上部旋回体に回動可能に固定され、ブームシリンダにより駆動するブーム、ブームに連結してアームシリンダにより駆動するアーム、及び、アームに連結してバケットシリンダにより駆動するバケットを具備する作業装置と、上部旋回体における作業装置と逆側の位置の後方に取り付けられたカウンターウェイトと、車体フレームとボトムプレートの間に取り付けられ、車体フレームに対して運転室を弾性的に支持する振動吸収装置と、運転室に過大な荷重が加わった場合、運転室に荷重が伝わる方向に移動できるように、振動吸収装置に安着されて固定装置により振動吸収装置のフランジに固定される荷重支持用カバーと、運転室、ボトムプレート、荷重指示用カバー及び振動吸収装置を一体型に密着し固定する締結部材とを備える。
【0021】
望ましくは、前記した固定装置は、荷重支持用カバーのフランジを振動吸収装置のフランジに固定する固定部材と、固定部材の外側に組み合わされ、荷重支持用カバーのフランジに形成された貫通孔を下端部が通過して振動吸収装置のフランジの上面に密着され、運転室に加わる過大な荷重により運転室に発生する変位を制限する荷重支持用ストッパーを備える。
【0022】
前記した荷重支持用ストッパーの本体の外径は、運転室に荷重が加わる場合、荷重支持用カバーが固定装置に対して遊動するようにフランジの貫通孔の内径より小さく形成されている。
【発明の効果】
【0023】
本発明による振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置が一体化した建設機械は下記のような利点を持つ。
【0024】
掘削機等の運転室の床面に取り付けられた振動吸収装置の弾性体が外部に露出し、化学物質、鋭利な物体等により破損することを防止して、使用寿命を延長することができる。
【0025】
また、振動吸収装置に荷重支持装置を同一軸上に一体化させて装着することにより、該当部品点数を減らし、組み付け作業時間を短縮させ、コストを節減することができる。
【0026】
また、狭小な運転室内部でも振動吸収装置と荷重支持装置を容易に組み付けることができる。
【0027】
また、振動吸収装置の固定ボルトの弛緩を防止して信頼性を確保し、振動吸収装置の雄螺子をボトムプレートに固定する場合、雄螺子の螺子山破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明が適用される建設機械の概略図である。
【図2】従来技術による建設機械に取り付けられた振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置の概略図である。
【図3】本発明の一実施形態による振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置が一体化した建設機械の要部抜粋分離斜視図である。
【図4】図3に示した振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置の断面図である。
【図5】(A)、(B)、(C)は、図3に示した振動吸収装置と一体型に取り付けられた荷重支持装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の望ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。ただし、以下で説明する実施形態は本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が発明を容易に実施できる程度に詳細に説明するためのものに過ぎず、これに本発明の技術的な思想及び範疇が限定されることを意味するものではない。
【0030】
なお、本実施形態の建設機械における構成のうち、荷重支持用カバー32と、固定部材35及び荷重支持用ストッパー37からなる固定装置30と、固定用締結部材33(締結部材)を除いては、図1及び図2に示した建設機械の構成と同一であるため、それらの構成及び動作の詳細な説明を省略し、同じ構成要素には同じ図面符号を付する。
【0031】
図3〜図5に示した本発明の実施形態による振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置が一体化した建設機械は、下部走行体1と、上部旋回体2と、上部旋回体2上に装着された運転室3及びエンジン室4と、作業装置11と、上部旋回体2の後方に取り付けられたカウンターウェイト12と、振動吸収装置14と、荷重支持用カバー32と、固定用締結部材33とを備える。
【0032】
上部旋回体2は、下部走行体1上に旋回可能に搭載された車体フレーム13と、車体フレーム13上に装着されたボトムプレート20を具備する。
作業装置11は、上部旋回体2に回動可能に固定して、ブームシリンダ5により駆動するブーム6と、ブーム6に連結してアームシリンダ7により駆動するアーム8と、アーム8に連結してバケットシリンダ9により駆動するバケット10を具備する。
【0033】
振動吸収装置14は、車体フレーム13とボトムプレート20の間に取り付けられ、車体フレーム13に対して運転室3を弾性的に支持して建設機械から運転室3に上下方向に伝わる衝撃を相殺させる装置であり、運転室3の後方左右側か、運転室3の前後方及び左右側に各々取り付けられる。
【0034】
荷重支持用カバー32は、運転室3に過大な荷重が加わる場合、運転室3に荷重が伝わる方向に移動できるように、振動吸収装置14に安着(安定した状態に装着)して固定装置30により振動吸収装置14のフランジ31に固定される。
固定用締結部材33は、運転室3、ボトムプレート20、荷重支持用カバー32及び振動吸収装置14を一体型に密着固定するための運転手保護構造物である。
【0035】
前記した固定装置30は、荷重支持用カバー32のフランジ34を振動吸収装置14のフランジ31に固定する固定部材35(本実施形態では頭付きボルト)と、固定部材35の外側面に結合し、荷重支持用カバー32のフランジ34に形成された貫通孔36を下端部が通過して振動吸収装置14のフランジ31の上面に密着し、運転室3に加わる過大な荷重により運転室3に発生する変位(例えば、荷重支持用カバー32のフランジ34の上面と荷重支持用ストッパー37のボス(外径の大きな円筒形部分)の底面との間の間隔(h)分の変位)を制限する荷重支持用ストッパー37と、を備える。
【0036】
前記した荷重支持用ストッパー37のボス以外の部分(本体)の外径は、運転室3に荷重が加わる場合、荷重支持用カバー32が固定装置30に対して遊動できるようにフランジ34に形成される貫通孔36の内径より小さく形成される。
【0037】
以下、本発明の一実施形態による振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持用装置が一体化した建設機械の使用例を、添付図面を参照しながら説明する。
【0038】
図3〜図5に示したように、前記した車体フレーム13上に取り付けられたブラケット16に、振動吸収装置14のフランジ31をボルトにより固定する。次に、前記した荷重支持用カバー32を振動吸収装置14に安着させ、荷重支持用カバー32のフランジ34を固定部材35により振動吸収装置14のフランジ31に固定する。このとき、固定部材35の外側面に荷重支持用ストッパー37が既に結合した後に固定される。
【0039】
このように、振動吸収装置14に、荷重支持用カバー32と固定装置30からなる荷重支持装置が一体型に装着される。
【0040】
そして、振動吸収装置14と、これと一体型に同一軸上に固定された荷重支持用カバー32を、固定用締結部材33により運転室3及びボトムプレート20に密着するように一体型に固定する。
【0041】
前記したように構成された本発明の一実施形態による振動吸収装置と運転手保護構造物の荷重支持装置とが一体化した建設機械によると、運転室3に過大な荷重が伝わらない程度の作業条件で作業または走行する場合は、振動吸収装置14上に安着して遊動可能に固定された荷重支持用カバー32は振動吸収装置14の弾性変位内で一体型に遊動する。
【0042】
一方、機械の転覆事故等により運転室3に荷重が過大に加わり、運転室3が車体フレーム13から遠ざかった方向に変位する場合、荷重支持用カバー32のフランジ34の上面が固定装置30に沿って図4において上方向に移動する。そして、運転室3の変位は、荷重支持用カバー32のフランジ34の上面と荷重支持用ストッパー37のボス底面との間の間隔(h)内に制限される。
【0043】
一方、前記した運転室3が車体フレーム13に対して水平方向に変位する場合、荷重支持用ストッパー37の外側面がフランジ34の貫通孔36の内側面に接触するときまで、その変位を許容することになる。
【符号の説明】
【0044】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 運転室
4 エンジン室
5 ブームシリンダ
6 ブーム
7 アームシリンダ
8 アーム
9 バケットシリンダ
10 バケット
11 作業装置
12 カウンターウェイト
13 車体フレーム
14 振動吸収装置
15 荷重支持装置
16 ブラケット
17 貫通孔
18 貫通孔
19 外部フランジ
20 ボトムプレート
21 軸部材
22 ストッパー
30 固定装置
31 フランジ
32 荷重支持用カバー
33 固定用締結部材(締結部材)
34 フランジ
35 固定部材
36 貫通孔
37 荷重支持用ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体上に旋回可能に搭載された車体フレーム、及び、前記車体フレーム上に取り付けられたボトムプレートを具備する上部旋回体と、
前記上部旋回体上に装着された運転室及びエンジン室と、
前記上部旋回体に回動可能に固定され、ブームシリンダにより駆動するブーム、前記ブームに連結してアームシリンダにより駆動するアーム、及び、前記アームに連結してバケットシリンダにより駆動するバケットを具備する作業装置と、
前記上部旋回体における前記作業装置と逆側の位置に取り付けられたカウンターウェイトと、
前記車体フレームと前記ボトムプレートの間に取り付けられ、前記車体フレームに対して前記運転室を弾性的に支持する振動吸収装置と、
前記運転室に過大な荷重が加わった場合、前記運転室に荷重が伝わる方向に移動できるように前記振動吸収装置に安着されて固定装置により前記振動吸収装置のフランジに固定される荷重支持用カバーと、
前記運転室、前記ボトムプレート、前記荷重支持用カバー及び前記振動吸収装置を一体型に密着固定する締結部材と、を備える
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記固定装置は、
前記荷重支持用カバーのフランジを前記振動吸収装置のフランジに固定する固定部材と、
前記固定部材の外側に結合し、前記荷重支持用カバーのフランジに形成される貫通孔を下端部が通過して前記振動吸収装置のフランジの上面に密着し、前記運転室に加わる過大な荷重により運転室に発生する変位を制限する荷重支持用ストッパーと、を備える
ことを特徴とする、請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記荷重支持用ストッパーの本体の外径は、前記運転室に荷重が加わる場合、前記荷重支持用カバーが前記固定装置に対して遊動するように前記フランジに形成された前記貫通孔の内径より小さく形成されている
ことを特徴とする、請求項2に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−117277(P2011−117277A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269914(P2010−269914)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(502032378)ボルボ コンストラクション イクイップメント アーベー (156)
【Fターム(参考)】