説明

建設機械

【課題】車輪で走行する建設機械の走行装置の電動化を、車体寸法やコストの大きな増大を伴わずに実現する。
【解決手段】車体に備えられた走行用の車輪10,11と、エンジン3と、走行用電動発電機15と、電動発電機15に電気的に接続されたインバータ21及び電池22と、エンジンにより駆動される油圧ポンプ4と、エンジン3、車輪10,11、走行用電動発電機15及び油圧ポンプ4の間の動力伝達を行う動力伝達機構とを備えて、ホイールショベル41を構成する。前記動力伝達機構中に、エンジン3と車輪10,11との間の動力伝達を断続するクラッチ23を備えると共に、車体上の所要の部位に、平坦路走行時においてはクラッチ23を切断状態に切り換え、下り坂走行時においてはクラッチ23を接続状態に切り換えるクラッチ切換手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動走行装置を備えた建設機械に係り、特にホイールショベルなどの車輪で走行する建設機械に搭載される電動走行装置の性能向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題や原油高騰問題などに対処するため、各工業製品に対して省エネ志向が強まっている。これを受けて、これまでエンジンにより油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプから吐出される圧油により油圧アクチュエータを駆動する方式が中心であった建設機械についても、電動化やハイブリッド化による環境性能の向上や省エネルギ性能の向上が要請されるに至っている。
【0003】
建設機械の走行装置をハイブリッド化すると、エンジンに余剰動力が生じる場面では、エンジンで発電機を動かして電池への充電を行うことができ、建設機械がエンジンの能力を超えるトルクで走行される場面では、電池の電力を使用して電動機を駆動し、この電動機の駆動力によってエンジンの駆動力を補助することができるので、エンジンを小型化することができて、エンジンの低燃費化、排ガスの抑制及び低騒音化を図ることができる。また、制動時には、電動機から回生される回生電力を電池に充電できるので、エネルギを有効活用することができ、この点からも建設機械の省エネルギ化を図ることができる。
【0004】
従来、建設機械においては、負荷である油圧ポンプに対して、エンジンと電動発電機とを並列に接続したパラレルハイブリッド駆動装置を適用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の技術は、油圧ポンプの入力軸を、差動装置を介して、エンジンの出力軸と電動発電機の出力軸とに接続し、エンジンを最も効率のよい定格回転数で運転させながら、油圧ポンプの回転数を自由に変更可能とすることで流量を調整し、また、エンジンの出力軸にクラッチを設けることなく、電動発電機だけでもポンプが駆動できるようにしたものである。
【0005】
図7に、従来より知られている一般的なホイールショベルの一例を示す。この図から明らかなように、本例のホイールショベルは、走行用の前輪10及び後輪11を支持するシャシ2の上部に、機械室1が旋回可能に設置されており、この機械室1の内部には、エンジン3と、エンジン3により駆動される油圧ポンプ4と、油圧ポンプ4が使用する作動油を蓄える油タンク25とが設けられている。また、機械室1の前部には、ブーム12、アーム13及びバケット14からなるフロント部材が直列状に連結されている。シャシ2に対する機械室1の旋回は、油圧ポンプ4から吐出される圧油を図示しない旋回用油圧モータに供給することにより行われ、フロント部材の駆動は、油圧ポンプ4から吐出される圧油を図示しない油圧シリンダに供給することにより行われる。
【0006】
シャシ2の内部には、走行用油圧モータ24と、これに連結された変速機6が設けられており、変速機6から車体前後方向に伸びたプロペラシャフト7によって、前輪10及び後輪11のそれぞれに連結された、前輪デフ8及び後輪デフ9へ動力を伝達する。走行用油圧モータ24は、機械室1の旋回中心に設けられた配管ジョイント38を介して、油圧ポンプ4より圧油が供給されることにより回転し、この回転力が変速機6からプロペラシャフト7、前輪デフ8及び後輪デフ9を介して、前輪10及び後輪11へと伝達されることにより、ホイールショベル41は走行する。走行用油圧モータ24を駆動することにより圧力が低下した油圧は、配管ジョイント38を通じて、機械室1に備えられた油タンク25へと戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−280796
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のパラレルハイブリッド駆動装置は、例えば油圧ショベルのように、長距離を走行することが予定されていない建設機械に適用する場合には、格別な問題を有しない。しかしながら、前輪10及び後輪11を備え、長距離を走行することが予定されているホイールショベルなどの建設機械に適用する場合には、長い下り坂を下るような走行状態をも考慮しなければならず、このときの制動力の確保が問題になる。
【0009】
即ち、ホイールショベルが電動発電機のみの駆動力で走行している場合においては、電動発電機が回生可能な動力のみによって制動がかけられる。ところが、制動に要する動力は走行時の数倍にも達するため、電動発電機によって大重量の建設機械が長い下り坂を下るときの制動力を得るためには、走行に不必要な大型の電動発電機を備えなくてはならず、建設機械が大型化及び高コスト化する。また、このような大型の電動発電機を搭載できたとしても、電池が満充電となった場合には、余剰動力を廃棄する巨大な回生抵抗器が必要となり、更なる車体寸法や製造コストの増大を招くので、到底実用化が困難である。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題を考慮してなされたものであり、その目的は、車輪で走行する建設機械の走行装置の電動化を、車体寸法やコストの大きな増大を伴わずに実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的を達成するため、車体に備えられた走行用の車輪と、エンジンと、発電機及び電動機の両機能を有する電動発電機と、該電動発電機に電気的に接続された蓄電装置と、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記エンジンと前記電動発電機との間の動力伝達、前記電動発電機と前記車輪との間の動力伝達及び前記エンジンと前記油圧ポンプとの間の動力伝達を行う動力伝達機構とを備えた建設機械であって、前記エンジンと前記電動発電機との間の動力伝達を行う動力伝達機構にクラッチを備えると共に、該クラッチを接続状態又は切断状態に切り換えるクラッチ切換手段を備え、前記クラッチ切換手段を用いて前記クラッチを接続状態に切り換えたとき、前記動力伝達機構を介して前記車輪の駆動力を前記エンジン及び前記油圧ポンプに伝達し、前記エンジンによるエンジンブレーキ及び前記油圧ポンプによる油圧制動力を得て、前記車輪を減速するという構成にした。
【0012】
かかる構成によると、下り坂走行時において、動力伝達機構に備えられたクラッチを接続状態に切り換えことにより、電動発電機の回生動力のみならず、エンジンブレーキ及び油圧ポンプによる油圧制動力を建設機械の制動力として活用することができる。よって、大出力の電動発電機を備えることなく、パラレルハイブリッド駆動装置を備えた建設機械の制動性能を高めることができる。
【0013】
また本発明は、前記クラッチ切換手段が、前記クラッチの可動部を駆動するクラッチ駆動手段と、前記電動発電機にて回生される回生電力の有無を検出する回生電力検出手段と、該回生電力検出手段により前記回生電力が検出されたときには、前記クラッチ駆動手段に前記クラッチを接続状態に切り換えるクラッチ接続信号を出力し、前記回生電力検出手段により前記回生電力が検出されないときには、前記クラッチ駆動手段に前記クラッチを切断状態に切り換えるクラッチ切断信号を出力するコントローラとからなるという構成にした。
【0014】
かかる構成によると、回生電力の有無を検出することにより、自動的にクラッチを接続状態又は切断状態に切り換えることができるので、建設機械のオペレータの負担を軽減することができる。
【0015】
また本発明は、前記クラッチ切換手段が、前記クラッチの可動部を駆動するクラッチ駆動手段と、オペレータにより操作されるクラッチ切換スイッチと、該クラッチ切換スイッチからスイッチオン信号が出力されたときには、前記クラッチ駆動手段に前記クラッチを接続状態に切り換えるクラッチ接続信号を出力し、前記クラッチ切換スイッチからスイッチオフ信号が出力されたときには、前記クラッチ駆動手段に前記クラッチを切断状態に切り換えるクラッチ切断信号を出力するコントローラとからなるという構成にした。
【0016】
かかる構成によると、建設機械のオペレータが必要に応じて任意にクラッチを接続状態又は切断状態に切り換えることができるので、建設機械の制動を建設機械の実情に合わせて効率的に行うことができる。
【0017】
また本発明は、前記車体を、前記走行用の車輪を支持するシャシと、該シャシの上部に旋回可能に設けられた機械室とから構成し、該機械室に、前記エンジンと、前記エンジンに直結された油圧ポンプと、前記クラッチと、前記動力伝達機構に設けられた第1歯車装置と、前記蓄電装置とを備えると共に、前記シャシに、前記電動発電機と、前記動力伝達機構に設けられた第2歯車装置とを備え、前記第1歯車装置と前記第2歯車装置との間の動力伝達及び前記蓄電装置と前記電動発電機との間の電気的な接続を、前記シャシと前記機械室の接続部に備えられた旋回継手を介して行うという構成にした。
【0018】
かかる構成によると、シャシ側に電動発電機を配置するので、シャシが有する空きスペースを有効利用することができて、建設機械の小型化を図ることができる。
【0019】
また本発明は、前記車体を、前記走行用の車輪を支持するシャシと、該シャシの上部に旋回可能に設けられた機械室とから構成し、該機械室に、油圧ポンプを備えると共に、前記シャシに、前記エンジンと、前記動力伝達機構に設けられ、前記エンジンの動力を前記油圧ポンプに伝達する歯車装置と、前記クラッチと、前記蓄電装置と、前記電動発電機とを備え、前記歯車装置と前記油圧ポンプとの間の動力伝達を、前記シャシと前記機械室の接続部に備えられた旋回継手を介して行うという構成にした。
【0020】
かかる構成によると、シャシ側に、エンジン、クラッチ、蓄電装置及び電動発電機を配置するので、動力伝達機構に設けられる歯車装置を1つのみとすることができると共に、蓄電装置と電動発電機とを電気的に接続するためのスリップリングなどを省略することができて、建設機械の低コスト化を図ることができる。また、油圧ポンプを除くほとんどの機器をシャシ側に配置するので、機械室側のユーティリティスペースを大きくすることができる。
【0021】
また本発明は、前記クラッチ切換手段により前記クラッチを接続状態に切り換えたとき、前記エンジンの燃料噴射装置を無噴射状態に制御するという構成にした。
【0022】
かかる構成によると、エンジンブレーキを最大限に活用することができるので、パラレルハイブリッド駆動装置を備えた建設機械の制動性能を最適化することができる。
【0023】
また本発明は、前記歯車装置として、まがりばかさ歯車を用いたまがりばかさ歯車装置を備えるという構成にした。
【0024】
かかる構成によると、歯車装置によって動力の伝達方向を直角方向に変更する場合にも、円滑な動力伝達が可能となるので、エネルギの無駄を抑制することができる。
【0025】
また本発明は、前記クラッチ切換手段により前記クラッチを切断状態から接続状態へと移行させる際に、前記エンジンの回転速度を前記車体の車速に合致するように制御するという構成にした。
【0026】
かかる構成によると、クラッチに過大な摩擦力が作用せず、クラッチの耐用命数を延長することができるので、耐久性に優れた建設機械とすることができる。
【0027】
また本発明は、前記蓄電装置の電池残量を監視するコントローラを備え、該コントローラは、前記蓄電装置の電池残量が所定値よりも低下したとき、自動的に前記クラッチを切断状態から接続状態へと移行し、前記エンジンの駆動力により前記車体を走行させるという構成にした。
【0028】
かかる構成によると、電池残量の不足によって建設機械が稼働不能になる事態を防止できるので、電動走行装置を備えた建設機械の信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、エンジンと電動発電機との間の動力伝達を行う動力伝達機構にクラッチを備えると共に、該クラッチを接続状態又は切断状態に切り換えるクラッチ切換手段を備え、クラッチ切換手段を用いてクラッチを接続状態に切り換えたとき、動力伝達機構を介して車輪の駆動力をエンジン及び油圧ポンプに伝達し、エンジンによるエンジンブレーキ及び油圧ポンプによる油圧制動力を得て前記車輪を減速するので、大出力の電動発電機を備えることなく、パラレルハイブリッド駆動装置を備えた建設機械の制動性能を高めることができ、この種の建設機械の小型化と低コスト化とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態に係る建設機械の全体構造図である。
【図2】第1実施形態に係る建設機械の駆動機構部の拡大断面図である。
【図3】クラッチ切換手段の第1例を示すブロック図である。
【図4】クラッチ切換手段の第2例を示すブロック図である。
【図5】第2実施形態に係る建設機械の全体構造図である。
【図6】第2実施形態に係る建設機械の駆動機構の拡大断面図である。
【図7】従来の建設機械の構造説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る建設機械の実施形態を、ホイールショベルを例にとり、各実施例毎に説明する。
【実施例1】
【0032】
図1及び図2に示すように、実施例1に係るホイールショベル41は、機械室1の旋回中心に機械室側(第1)かさ歯車装置17が設けられ、この機械室側かさ歯車装置17とエンジン3とは、クラッチ23を介して連結されている。また、エンジン3には、油圧ポンプ4が直結されており、油圧ポンプ4の配管上には流量調整弁40、オイルクーラ39及び油タンク25が設けられている。一方、機械室側かさ歯車装置17の直下には、シャシ2の内部に設置されたシャシ側(第2)かさ歯車装置16が設けられ、これら機械室側かさ歯車装置17とシャシ側かさ歯車装置16とは、旋回継手20を介して連結されている。また、シャシ側かさ歯車装置16と変速機6との間には、走行用電動発電機15が配置されており、この走行用電動発電機15と変速機6とは、軸継手5を介して連結されている。さらに、シャシ2の内部には、変速機6から車体前後方向に伸びたプロペラシャフト7と、前輪10及び後輪11のそれぞれに連結された前輪デフ8及び後輪デフ9とが備えられている。したがって、実施例1に係るホイールショベル41においては、機械室側かさ歯車装置17、旋回継手20、シャシ側かさ歯車装置16、走行用電動発電機15、軸継手5、変速機6、プロペラシャフト7、前輪デフ8及び後輪デフ9をもって、エンジン3及び走行用電動発電機15の動力を前輪10及び後輪11に伝達するための動力伝達機構が構成される。
【0033】
クラッチ23には、これを接続状態又は切断状態に切り換えるクラッチ切換手段50が付設される。クラッチ切換手段50は、図3に示すように、クラッチ23の可動部を駆動するソレノイドなどのクラッチ駆動手段50aと、走行用電動発電機15にて回生される回生電力の有無を検出する回生電力検出手段50bと、回生電力検出手段50bから回生電力検出信号S1が出力されたときには、クラッチ駆動手段50aにクラッチ23を接続状態に切り換えるクラッチ接続信号S2を出力し、回生電力検出手段50bから回生電力非検出信号S3が出力されたときには、クラッチ駆動手段50aにクラッチ23を切断状態に切り換えるクラッチ切断信号S4を出力するコントローラ50cとからなるという構成にすることができる。かかる構成によると、回生電力検出手段50bにより回生電力の有無を検出することにより、自動的にクラッチ23を接続状態又は切断状態に切り換えることができるので、建設機械のオペレータの負担を軽減することができる。
【0034】
また、クラッチ切換手段50は、図4に示すように、クラッチ23の可動部を駆動するソレノイドなどのクラッチ駆動手段50aと、オペレータにより操作されるクラッチ切換スイッチ50dと、クラッチ切換スイッチ50dからスイッチオン信号S5が出力されたときには、クラッチ駆動手段50aにクラッチ23を接続状態に切り換えるクラッチ接続信号S2を出力し、クラッチ切換スイッチ50dからスイッチオフ信号S6が出力されたときには、クラッチ駆動手段50aにクラッチ23を切断状態に切り換えるクラッチ切断信号S4を出力するコントローラ50cとからなるという構成にすることもできる。かかる構成によると、建設機械のオペレータが必要に応じて任意にクラッチ23を接続状態又は切断状態に切り換えることができるので、建設機械の制動を建設機械の実情に合わせて効率的に行うことができる。
【0035】
なお、コントローラ50cに、図3に示す回生電力検出手段50bと図4に示すクラッチ切換スイッチ50dとを接続する構成とすることもできる。
【0036】
図2に拡大して示すように、シャシ側かさ歯車装置16及び機械室側かさ歯車装置17に内蔵されている縦軸30及び34は中空となっており、図示しない電気配線が軸内に通されている。この電気配線は、縦軸30及び34の上下両軸端に設けたスリップリング18及び19を接続しており、これにより、機械室1に設けられた蓄電装置である電池22及びインバータ21とシャシ2側に設置された走行用電動発電機15とを電気的に接続している。また、機械室1とシャシ2とは、旋回ベアリング29を介して旋回可能に連結されており、機械室1に備えられた旋回用電動発電機26のモータ軸に取り付けられた旋回ピニオン27が、シャシ2に設けられたリングギア28に噛み合わされている。よって、旋回用電動発電機26を駆動することにより、シャシ2に対して機械室1を右旋回又は左旋回することができる。その他については、図7に示す従来のホイールショベルと同じであるので、対応する部分に同一の符号を付して、説明を省略する。
【0037】
本例のホイールショベル41は、従来のホイールショベルと同様に、エンジン3により油圧ポンプ4を回転させて得られた圧油で、ブーム12、アーム13、バケット14を駆動する。これらのフロント部材を駆動することにより行われる掘削等の作業時においては、クラッチ23は切断状態にあり、かつ走行用電動発電機15はエンジン3及び油圧ポンプ4とは独立して回転することができるため、電池22からの電力により走行用電動発電機15を回転させて、自由に走行することができる。
【0038】
ホイールショベル41が移動のため平坦路を走行する際には、クラッチ23は切断状態にあり、電池22からの電力により走行用電動発電機15を回転させて走行する。減速時には、走行用電動発電機15を発電機として機能させ、制動動力を電力として回収し電池22に戻すことにより、少ない電力消費量で走行することができる。また、電池22の残量が少なくなった場合には、エンジン3を起動し、クラッチ23を接続状態に切り換えることにより、電池22の電力を消費せずに走行することもできる。この場合、油圧ポンプ4も同時に回転することになるため、流量調整弁40は全開状態とし、ポンプの回転抵抗が最小となるようにする。また、機械室は動力伝達による旋回モーメントを受けるため、機械室が旋回せぬよう図示しない旋回ブレーキを掛けておく必要がある。
【0039】
ホイールショベル41が長い下り坂を走行する場合、車体重量が大きく、基本的に摩擦ブレーキが使用できないため、走行用原動機により速度を調整する必要がある。このような場合、本発明ではエンジン3を起動後にクラッチ23を接続状態とし、エンジンブレーキを用いて減速動作を行なう。なお、エンジン速度が車速と適合しない状態で接続すると、摩擦熱によりクラッチ23が焼損する可能性があるため、横軸36の回転速度と概略同期するようエンジン3の回転速度を調整し、クラッチ23を接続する。エンジン3の回転速度が十分に高い場合には、エンジンブレーキは強く作用するため、流量調整弁40は全開状態に維持する。しかし、車速が低下し、エンジン3の回転速度が低下すると、エンジンブレーキの効果が低下するため、流量調整弁40を閉鎖側に調整して圧油の流量を減少させ、発生する油圧により制動効果を得ることもできる。この場合、エンジン3の燃料噴射装置を無噴射状態とすることにより、燃料消費量を削減することができる。加えて、流量調整弁40を通過することにより、圧油の温度は上昇するため、作業に使用する既設のオイルクーラ39を作動させて、圧油の温度を低下させる。以上のような構成及び動作とすることにより、長い下り坂においても、継続的に所望の制動力を得ることができる。
【0040】
なお、電動発電機15は、エンジン3とは異なり逆転運転が容易なため、本構成においては、変速機6にリバースギヤを備える必要はない。ただし、クラッチ23を接続状態とし、エンジン3やオイルポンプ4を接続する際には前進走行が原則となるため、後進時にはクラッチ23を接続状態としないインターロックや、オペレータに注意を即す警告灯などが必要となる。
【実施例2】
【0041】
図5及び図6に示すように、実施例2に係るホイールショベル41は、機械室1の旋回中心に油圧ポンプ4が設けられ、油圧ポンプ4の直下のシャシ2の内部に、シャシ側かさ歯車装置16が設けられていて、油圧ポンプ4とシャシ側かさ歯車装置16とは、旋回継手20を介して連結されている。シャシ側かさ歯車装置16は、クラッチ23を介して、変速機6に連結された走行用電動発電機15に接続される。また、シャシ側かさ歯車装置16を挟んで、走行用電動発電機15と対向する位置には、エンジン3が設置され、入力軸43、入力軸歯車42により、シャシ側かさ歯車装置16と接続されている。さらに、シャシ2の底部には、電池22及びインバータ21が設けられ、走行用電動発電機15と電気的に接続されている。その他については、実施例1に係るホイールショベルと同じであるので、対応する部分に同一の符号を付して、説明を省略する。
【0042】
以上の構成において、エンジン3を起動すると、シャシ側かさ歯車装置16及び旋回継手20を介して、機械室1に置かれた油圧ポンプ4が回転し、圧油が送出されることにより、従来のホイールショベルと全く同様に作業を行なうことができる。このとき、クラッチ23は切断状態にあり、電池22及びインバータ21からの電力により走行用電動発電機15を回転させて自由に走行することができるのは、実施例1の場合と同様である。平坦路走行、下り坂走行に際しても、クラッチ23の切り換えを実施例1と同様に制御することにより、同じ機能を得ることができる。
【0043】
以上のような構成とした場合、旋回用電動発電機26に給電する図示しない旋回用電池を機械室1に設置する必要は生じるが、スリップリングを通じて走行用電動発電機15に給電する必要がなくなり、かつ機械室側かさ歯車装置が不要となるため、大幅なコストダウンが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1・・・機械室、2・・・シャシ、3・・・エンジン、4・・・油圧ポンプ、5・・・軸継手、6・・・変速機、7・・・プロペラシャフト、8・・・前輪デフ、9・・・後輪デフ、10・・・前輪、11・・・後輪、12・・・ブーム、13・・・アーム、14・・・バケット、15・・・走行用電動発電機、16・・・シャシ側かさ歯車装置、17・・・機械室側かさ歯車装置、18・・・シャシ側スリップリング、19・・・機械室側スリップリング、20・・・旋回継手、21・・・インバータ、22・・・電池、23・・・クラッチ、24・・・走行用油圧モータ、25・・・油タンク、26・・・旋回用電動発電機、27・・・旋回ピニオン、28・・・リングギヤ、29・・・旋回ベアリング、30/34・・・縦軸、32/36・・・横軸、31/35・・・縦軸歯車、33/37・・・横軸歯車、38・・・配管ジョイント、39・・・オイルクーラ、40・・・流量調整弁、41・・・ホイールショベル、42・・・入力軸歯車、43・・・入力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に備えられた走行用の車輪と、エンジンと、発電機及び電動機の両機能を有する電動発電機と、該電動発電機に電気的に接続された蓄電装置と、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記エンジンと前記電動発電機との間の動力伝達、前記電動発電機と前記車輪との間の動力伝達及び前記エンジンと前記油圧ポンプとの間の動力伝達を行う動力伝達機構とを備えた建設機械であって、
前記エンジンと前記電動発電機との間の動力伝達を行う動力伝達機構にクラッチを備えると共に、該クラッチを接続状態又は切断状態に切り換えるクラッチ切換手段を備え、前記クラッチ切換手段を用いて前記クラッチを接続状態に切り換えたとき、前記動力伝達機構を介して前記車輪の駆動力を前記エンジン及び前記油圧ポンプに伝達し、前記エンジンによるエンジンブレーキ及び前記油圧ポンプによる油圧制動力を得て、前記車輪を減速することを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記クラッチ切換手段が、前記クラッチの可動部を駆動するクラッチ駆動手段と、前記電動発電機にて回生される回生電力の有無を検出する回生電力検出手段と、該回生電力検出手段により前記回生電力が検出されたときには、前記クラッチ駆動手段に前記クラッチを接続状態に切り換えるクラッチ接続信号を出力し、前記回生電力検出手段により前記回生電力が検出されないときには、前記クラッチ駆動手段に前記クラッチを切断状態に切り換えるクラッチ切断信号を出力するコントローラとからなることを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記クラッチ切換手段が、前記クラッチの可動部を駆動するクラッチ駆動手段と、オペレータにより操作されるクラッチ切換スイッチと、該クラッチ切換スイッチからスイッチオン信号が出力されたときには、前記クラッチ駆動手段に前記クラッチを接続状態に切り換えるクラッチ接続信号を出力し、前記クラッチ切換スイッチからスイッチオフ信号が出力されたときには、前記クラッチ駆動手段に前記クラッチを切断状態に切り換えるクラッチ切断信号を出力するコントローラとからなることを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項4】
前記車体を、前記走行用の車輪を支持するシャシと、該シャシの上部に旋回可能に設けられた機械室とから構成し、該機械室に、前記エンジンと、前記エンジンに直結された油圧ポンプと、前記クラッチと、前記動力伝達機構に設けられた第1歯車装置と、前記蓄電装置とを備えると共に、前記シャシに、前記電動発電機と、前記動力伝達機構に設けられた第2歯車装置とを備え、前記第1歯車装置と前記第2歯車装置との間の動力伝達及び前記蓄電装置と前記電動発電機との間の電気的な接続を、前記シャシと前記機械室の接続部に備えられた旋回継手を介して行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の建設機械。
【請求項5】
前記車体を、前記走行用の車輪を支持するシャシと、該シャシの上部に旋回可能に設けられた機械室とから構成し、該機械室に、油圧ポンプを備えると共に、前記シャシに、前記エンジンと、前記動力伝達機構に設けられ、前記エンジンの動力を前記油圧ポンプに伝達する歯車装置と、前記クラッチと、前記蓄電装置と、前記電動発電機とを備え、前記歯車装置と前記油圧ポンプとの間の動力伝達を、前記シャシと前記機械室の接続部に備えられた旋回継手を介して行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の建設機械。
【請求項6】
前記クラッチ切換手段により前記クラッチを接続状態に切り換えたとき、前記エンジンの燃料噴射装置を無噴射状態に制御することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の建設機械。
【請求項7】
前記歯車装置として、まがりばかさ歯車を用いたまがりばかさ歯車装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の建設機械。
【請求項8】
前記クラッチ切換手段により前記クラッチを切断状態から接続状態へと移行させる際に、前記エンジンの回転速度を前記車体の車速に合致するように制御することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の建設機械。
【請求項9】
前記蓄電装置の電池残量を監視するコントローラを備え、該コントローラは、前記蓄電装置の電池残量が所定値よりも低下したとき、自動的に前記クラッチを接続状態へと移行し、前記エンジンの駆動力により前記車体を走行させることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80257(P2011−80257A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233491(P2009−233491)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】