説明

弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法

【課題】安定性の改善された酸化皮膜を有する弁作用金属体及びその形成方法を提供し、これにより、固体電解コンデンサの誘電体として機能する酸化皮膜の安定性を増加させ、漏れ電流特性の悪化を防ぎ、収率及び信頼性を改善する。
【解決手段】微細孔を有する弁作用金属材料の表面が化成処理され、所定寸法に裁断された該材料の裁断部端部の少なくとも一部にエネルギー線を照射し、予め化成処理されていた酸化皮膜の膜厚の5倍〜200倍の酸化皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法並びにこれを用いた固体電解コンデンサの製造方法及び固体電解コンデンサに関する。さらに詳しく言えば、微細孔を有する弁作用金属材料を化成処理して表面に誘電体皮膜が形成された材料の、特定箇所の酸化皮膜の膜厚を厚くする方法、及びこの方法を用いて耐圧の高い誘電体皮膜を含む固体電解コンデンサを製造する方法及びそのようにして製造される信頼性に優れた固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、一般的にアルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン及びその合金などの弁作用金属からなる陽極体の表面をエッチングにより粗面化してμmオーダーの微細孔を形成して表面積を拡大し、その上に化成工程によって誘電体酸化皮膜を形成し、さらに陽極部との間にセパレータを介して固体電解質を含浸させ、その上にカーボンペースト、金属含有導電性ペーストからなる陰極導電層を形成した後に、外部電極となるリードフレームを溶接し、エポキシ樹脂等の外装部を形成して構成される。
【0003】
特に、固体電解質として導電性重合物を用いた固体電解コンデンサは、二酸化マンガンなどを固体電解質とする固体電解コンデンサに比べて等価直列抵抗及び漏れ電流を小さくでき、電子機器の高性能化、小型化に対応できるコンデンサとして有用であるため、多くの製造方法が提案されている。
【0004】
導電性重合物を用いて高性能の固体電解コンデンサを製造する際、特に弁作用金属箔上に形成される酸化皮膜に欠陥部が存在すると、形成される導電性高分子が直接弁作用金属に触れてしまうことによるショートが発生し、また実装工程でのリフロー時に素子を構成する材料の熱応力の違い等から、酸化皮膜がダメージを受けて欠陥が生じてしまい、ショートの原因となるなど、酸化皮膜の完全性・安定性はコンデンサ素子の性能を左右する重要な因子である。
【0005】
酸化皮膜の完全性を高める化成の手法として、例えば、特開平10−223483号公報(特許文献1)は、欠陥部修復のために減極処理を行ない、次いでリン酸、硼酸または有機酸もしくはその塩を含む酸溶液への浸漬後に通電処理を行なって再化成する方法が記載されている。もっとも、有機酸の具体例は開示されていない上、実施されている電流密度は100mA/cm2である。また、減極処理を要し、浸漬と通電処理との間には時間差が必要である。
【0006】
特開2000−12396号公報(特許文献2)には、酸化皮膜を有する固体電解コンデンサの製造方法において、酸化皮膜の形成のために酸化剤中での化成(及び再化成)処理が規定されている。もっとも、酸化剤を用いる目的は化成及び再化成における対極での水素の発生を抑制するためのものであり、そのためには強力な酸化剤が必要である。
【0007】
また、特開2000−68159号公報(特許文献3)には、切断面の再化成について、リン酸、蓚酸、硫酸等を含む電解液中で、電流密度で0.1〜1000mA/cm2の化成処理を行なうことが記載されている。ここで挙げられている電流密度は広い範囲に及ぶが、実施されている電流密度は180mA/cm2である。
【0008】
このように、従来法においては電解酸化を基本とした修復方法で、電流密度100mA/cm2以上での化成処理が行なわれているが、これは高い耐電圧を有する酸化皮膜の欠陥部の修復には、化成液の皮膜への浸透性も含めて、大電流が必要であると考えられていたことが大きな原因である。
【0009】
また、特開2006−100559号公報(特許文献4)においては、表面に酸化皮膜層及びエッチング層を備えた電極箔の引き出し端子接続部位を加熱し、該電極箔を構成するアルミニウム芯金とエッチング層と該エッチング層上に形成された酸化皮膜層とを溶解させて、アルミニウムと酸化皮膜層との混合層からなる接続部を形成し、この接続部に前記引き出し端子を接続したことを特徴とする電解コンデンサが記載されており、前記混合層形成のために所定のレーザ光を照射することが記載されている。
【0010】
さらに、特開2006−100561号公報(特許文献5)においては、表面に酸化皮膜層及びエッチング層を備えた電極箔の前記引き出し端子接続部位に、パルス幅が1000nscc以下のレーザを照射することにより、前記電極箔の引き出し端子接続部位の酸化皮膜を除去する技術が開示されており、所定のレーザ照射によりその照射部位を加熱し、該電極箔を構成するアルミニウム芯金と接続部位の背面側の酸化皮膜を溶融させることが好適であるとされる。
【0011】
もっともこれらの技術は、引き出し端子との接続部とその周囲の酸化皮膜層との境界部分におけるバリの発生を低減し、引き出し端子と電極箔の良好な接続状態を得るための技術であり、また背面側の酸化皮膜をも溶融させてアルミニウムと酸化皮膜との混合層を形成されることが特徴であるとされ、エネルギー線照射によって酸化皮膜を形成し、これを誘電体として利用する本発明とは異なる。
【0012】
【特許文献1】特開平10−223483号公報
【特許文献2】特開2000−12396号公報
【特許文献3】特開2000−68159号公報
【特許文献4】特開2006−100559号公報
【特許文献5】特開2006−100561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、必要な箇所のみに安定性の改善された酸化皮膜を形成する方法を提供し、これにより、固体電解コンデンサの品質を安定化させて生産性を向上できる固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明者らは、裁断部端面に、エネルギー線を照射して、予め形成された酸化皮膜よりも厚い酸化皮膜を形成することで、コンデンサ諸特性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法並びにこれを用いた固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法を提供する。
【0015】
1.エネルギー線の照射により酸化皮膜層を形成した弁作用金属材料。
2.エネルギー線の照射により酸化皮膜層の層厚を部分的に増大させた弁作用金属材料。
3.微細孔を有する弁作用金属材料の表面が化成処理され、所定寸法に裁断された該材料の裁断部端部の少なくとも一部にエネルギー線を照射して、予め化成処理されていた酸化皮膜の膜厚の5倍〜200倍の酸化皮膜が形成された前記1または2に記載の弁作用金属材料。
4.酸化皮膜を形成する領域が、弁作用金属材料の投影面積の全体に対し、40%未満であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の弁作用金属材料。
5.エネルギー線の照射により酸化皮膜層を形成する弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法。
6.エネルギー線の照射により酸化皮膜層の層厚を部分的に増大させる弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法。
7.微細孔を有する弁作用金属材料の表面が化成処理され、所定寸法に裁断された該材料の裁断部端部にエネルギー線を照射して、予め化成処理されていた酸化皮膜の膜厚の5倍〜200倍の酸化皮膜を形成することを特徴とする弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法。
8.エネルギー線が、0.1μm〜11μmの波長を有するレーザ光であることを特徴とする前記5〜7のいずれかに記載の弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法。
9.前記5〜8のいずれかに記載の方法を用いて酸化皮膜形成された弁作用金属材料を含む固体電解コンデンサ。
10.固体電解コンデンサの定格電圧が10V以上の品種であることを特徴とする前記9に記載の固体電解コンデンサ。
11.前記5〜8のいずれかに記載の方法が製造工程として含まれる固体電解コンデンサの製造方法。
12.酸化皮膜が形成された弁作用金属材料であって、弁作用金属材料の端部領域の10%以上において、前記酸化皮膜の膜厚が中央部の酸化皮膜の膜厚の5倍〜100倍である弁作用金属材料。
13.弁作用金属材料の表面に陽極酸化皮膜層が形成され、当該陽極酸化皮膜層上に導電性高分子からなる固体電解質層、陰極層が順次積層形成されて陰極部が形成された固体電解コンデンサにおいて、陽極酸化皮膜層の端部領域の10%以上の酸化皮膜の膜厚が中央部の酸化皮膜の膜厚の5倍〜100倍である固体電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0016】
本発明の酸化皮膜形成方法によれば、修復の必要性があるとされる裁断部端面に形成される酸化皮膜の安定性が改善される。このため、本発明の酸化皮膜形成方法を固体電解コンデンサの製造方法に適用すれば、固体電解コンデンサの誘電体として機能する酸化皮膜の安定性が増し、漏れ電流特性の劣化が防止されるとともに、収率及び信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を構成する各要素及び工程について説明する。
本発明の酸化皮膜形成が適用される対象は、弁作用金属材料、特に微細孔を有する弁作用金属材料である。弁作用金属は、好ましくは、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムまたはこれらの1種以上を含む合金から選択され、より具体的な材料にはこれらの金属板、箔、棒、線あるいはこれらを主成分とする焼結体等から選ばれる。これらの金属は、予め微細孔が形成されているか、あるいは公知の方法によりエッチング処理等をして表面に微細孔が形成される。
【0018】
本発明の酸化皮膜形成方法は、上記弁作用金属一般に適用できるが、特に化成箔から固体電解コンデンサ等を製造する際の酸化皮膜形成方法として有用である。ここで、「化成箔」とは市販の化成基板または市販の条件に準じて化成を施した化成基板を指し、予め化成処理によって誘電体酸化皮膜を形成させてある弁作用金属材料からなる化成基板を示す。しかし、これらの材料は実際に使用する際には適当な形状に裁断しなければならず、この際、化成層を含まない裁断面が露出し、裁断部付近の誘電体皮膜が損傷ないし破壊されることがある。
【0019】
例えば、固体電解コンデンサの製造プロセスでは、前記材料を製品形状に合わせた寸法に裁断したものを使用する。使用目的によって厚さが変わるが、一般的に厚みが約40〜150μmの箔が使用される。また、大きさ及び形状も用途により異なるが、平板形素子単位として幅約1〜50mm、長さ約1〜50mmの矩形の金属箔が好ましく、より好ましくは幅約2〜20mm、長さ約2〜20mm、さらに好ましくは幅約2〜5mm、長さ約2〜6mmである。
【0020】
従って、市販の化成箔を用いる場合でも、裁断後には弁作用金属が露出した部分を含め、酸化皮膜を形成させる必要がある。本発明の酸化皮膜形成処理は、特に、裁断されて弁作用金属が露出した部分の尖塔形状を修正して酸化皮膜を再形成する処理(以下、「端部処理」と言う)に好適に適用することができる。但し、これ以外の酸化皮膜形成処理に本発明の方法を用いることも可能である。
【0021】
本発明の酸化皮膜形成方法は、前述のように生じた裁断面端部に形成されるが、一般に裁断時にはその近傍にも力が加わり酸化皮膜が損傷することがあるので、裁断面端部を中心とした一定の領域に適用することが好ましい。その酸化皮膜の形成面積は、弁作用金属体の投影面積(金属体が箔等の平面である場合は、事実上、片面の面積を指す)の40%未満、好ましくは20%未満にすることが望ましい。酸化皮膜形成面積が過大であると、酸化皮膜の安定性には寄与するが、コンデンサの基本特性である容量の減少に与える影響が大きく、好ましくない。
【0022】
本発明の酸化皮膜形成方法によって形成させる酸化皮膜は、予め化成処理されていた酸化皮膜の膜厚の5倍〜200倍であればよく、その膜厚は同一平面上で均一でも不均一でも構わない。
【0023】
本発明の酸化皮膜形成方法は、裁断面端部の限られた領域にエネルギー線を照射して行なう方法であり、予め形成された酸化皮膜膜厚よりも厚い酸化皮膜を形成することができる方法である。エネルギー線としては、レーザ光等が挙げられるが、特に短時間で酸化皮膜を形成できる点では、大気下でレーザ光を照射して行なう方法が好ましい。
【0024】
レーザ光を利用した酸化皮膜形成方法では、0.1μm〜11μmの波長を有するレーザ光が使用でき、具体的にはルビー、ガラス、YAG等の固体レーザ、GaAs、InGaAsP等の半導体レーザ、色素レーザ等の液体レーザ、He−Ne、Ar、ArF、F2、CO2等の気体レーザ等が挙げられる。特に好ましくは、YAG、CO2のレーザ光を使用した酸化皮膜形成方法が好ましい。
【0025】
レーザ光の照射条件については、形成される酸化皮膜が固体電解コンデンサの誘電体として機能し、漏れ電流特性の劣化が安定的に抑制される酸化皮膜が形成される条件であれば、特に制限はない。
【0026】
本発明の方法を、固体電解コンデンサの素子として用いる弁作用金属材料に適用する場合、その酸化皮膜形成工程は、箔を所定の大きさに裁断した後に行うこともでき、また従来技術である一般的な化成工程を経た後に行うことも可能である。以下にそうした化成工程の一例を挙げる。本発明ではその全部、一部またはこれらの一部と他の化成工程との組み合わせを用いてもよい。従って、本発明の弁作用金属材料には、例えば固体電解コンデンサ用材料として、酸化皮膜が形成された弁作用金属材料であって、弁作用金属材料の端部領域の10%以上において、前記酸化皮膜の膜厚が中央部の酸化皮膜の膜厚の5倍〜100倍である弁作用金属材料も含まれる。ここで、端部領域とは金属材料において金属が露出した面、特に端面である。
【0027】
箔を所定の大きさに裁断した後に、本発明の手法を適用して、更に化成処理工程を実施する場合、化成処理工程としては、酸性溶液、具体的には、酸及び/またはその塩の電解液、例えば、蓚酸、リン酸、硫酸、アジピン酸等の少なくとも一種を含む電解液を用いた第1の化成処理を含む。これらの中ではpH5以下の酸溶液(特に酸水溶液)、特に蓚酸を含む溶液が好ましい。第1の化成処理は、電流密度1mA/cm2〜50mA/cm2の範囲、好ましくは3mA/cm2〜30mA/cm2の範囲で行なう。好ましくは電解液濃度が0.1質量%〜30質量%、温度が0℃〜90℃、時間が100分以内の条件で化成基板の芯部を陽極として定電流化成を行ない、規定電圧に達した後には定電圧化成を行なう。さらに好ましくは電解液濃度が1質量%〜20質量%、温度が20℃〜80℃、時間が60分以内の条件を選定する。
【0028】
なお、第1の化成処理は、箔の所定の領域を化成液に浸漬して所定の電圧及び電流密度で化成を行なうが、その際、化成液の浸漬液面レベルを安定化させるために、所定の位置にマスキング材を塗布して化成を施すことが望ましい。マスキング材としては陰陽両極を分離するマスキング材として後述するものを使用することができる。この点は以下に述べる化成処理も同様である。
【0029】
また、第1の化成処理の終了後、異なる酸性溶液を用いてさらに第2の化成処理を行なうことが好ましい。こうした異なる酸性溶液としては、アジピン酸、ケイ酸、リン酸、硝酸、硫酸、ホウ酸及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含む電解液が挙げられる。
第2の化成処理は、第1の化成処理と同様な電流密度条件で行なってもよいし、より広い範囲の電流密度条件、すなわち、電流密度が0.1mA/cm2〜1000mA/cm2で行なってもよく、好ましくは1mA/cm2〜400mA/cm2、より好ましくは、2mA/cm2〜50mA/cm2、さらに好ましくは5mA/cm2〜30mA/cm2の範囲で行なう。
例えば、アジピン酸またはその塩の場合、時間が100分以内の条件で化成基板の芯部を陽極として定電流化成を行ない、規定電圧に達成した後には定電圧化成を行なう。さらに好ましくは電解液濃度が1質量%〜20質量%、温度が20℃〜80℃、時間が60分以内の条件を選定する。なお、アジピン酸塩としては、アジピン酸アンモニウム、アジピン酸ナトリウム、アジピン酸カリウム等が好ましい。
【0030】
また、例えば、ケイ酸またはその塩の場合、好ましくは、その電解液濃度が0.1質量%〜30質量%、温度が0℃〜90℃、時間が100分以内の条件で化成基板の芯部を陽極として定電流化成を行ない、規定電圧に達成した後には定電圧化成を行なう。さらに好ましくは電解液濃度が1質量%〜20質量%、温度が20℃〜50℃、時間が60分以内の条件を選定する。
ケイ酸アルカリは、水酸化アルカリあるいは炭酸アルカリとケイ酸塩(SiO2と金属酸化物とからなる塩、一般式xM2O・ySiO2)とを融解して、水に可溶性のものを得ることができ、弁作用金属及び弁作用金属の表面に形成された酸化皮膜を溶解する特性を有するものであれば良く、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸リチウム等が使用できる。
なお、第2の化成処理は、同一条件で、または酸の種類や電流密度、温度等の条件を変えて複数回行なってもよいし、第2の化成処理の後に前記第1の化成処理を行なってもよく、さらにその後に第2の化成処理を行なってもよい。
【0031】
また、第2の化成処理の後に熱処理を行なうことが可能である。
熱処理工程は、250℃〜400℃の温度で行なうことが好ましい。より好ましくは270℃以上390℃以下、さらに好ましくは340℃以上380℃以下である。温度が低すぎると本発明の効果が得られない。なお、温度が高すぎると却って酸化皮膜のダメージを招くことがある。熱処理時間は、酸化皮膜の安定性が期待できる範囲で、あるいは誘電体皮膜に必要以上に損傷を与えない範囲で任意の時間に設定できる。
【0032】
化成電圧は、酸化皮膜の修復及び安定化が期待できる範囲であれば良く、好ましくは、化成箔形成時電圧の0.75〜1.2倍、より好ましくは0.80〜1.15倍である。さらに好ましくは、0.85〜1.10倍である。0.80倍以下であると、裁断時等にダメージを受けた化成皮膜の修復が十分ではなく、また1.2倍以上であると、既に形成されていた化成皮膜をさらに成長させ、容量の低下を引き起こすなど、コンデンサとしての特性に影響を与えてしまう。なお、本発明は製品の耐電圧に関わらず有効であるが、特に従来法では安定した酸化皮膜の形成が困難であった10V以上の高耐電圧品において有効である。
【0033】
熱処理後に少なくとも1回以上のアジピン酸塩化成を第3の化成処理工程として行なうことが好ましい。この化成条件としては、好ましくは、その電解液濃度が0.1質量%〜30質量%、温度が0℃〜90℃、電流密度が0.1mA/cm2〜1000mA/cm2で、時間が100分以内の条件で化成基板の芯部を陽極として定電流化成を行ない、規定電圧に達成した後には定電圧化成を行なう。さらに好ましくは電解液濃度が1質量%〜20質量%、温度が20℃〜80℃、電流密度が1mA/cm2〜400mA/cm2で、好ましくは1mA/cm2〜100mA/cm2、より好ましくは、2mA/cm2〜50mA/cm2、さらに好ましくは5mA/cm2〜30mA/cm2の範囲で行なう。時間は60分以内の条件を選定する。なお、アジピン酸塩としては、アジピン酸アンモニウムが好ましい。
【0034】
なお、上記の化成処理の条件は工業的方法として好適なものではあるが、弁作用金属材料表面に既に形成されている誘電体酸化皮膜を破壊または劣化させない限り、また、本発明の必須の工程である上述したエネルギー線照射による酸化皮膜を破壊または劣化させない限りにおいて、電解液の種類、電解液濃度、化成温度、電流密度、化成時間、酸化皮膜層の厚さ等の諸条件は任意に選定することができる。
【0035】
本発明の酸化皮膜形成方法は、固体電解コンデンサの製造工程の内の一つとして有用である。以下に具体的な製造方法を挙げる。但し、これは例示であって本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0036】
上述の通り、化成処理において、固体電解コンデンサの陽極となる部分と固体電解質(陰極部分)との絶縁を確実とするために、マスキング材を塗布することが好ましい。
【0037】
マスキング材としては一般的な耐熱性樹脂、好ましくは溶剤に可溶あるいは膨潤しうる耐熱性樹脂またはその前駆体、無機質微粉とセルロース系樹脂からなる組成物(特開平11−80596号公報)などが使用できるが、材料には限定されない。具体例としてはポリフェニルスルホン(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、シアン酸エステル樹脂、フッ素樹脂(テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ポリイミド及びそれらの誘導体などが挙げられる。ポリイミド、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂及びそれらの前駆体が好ましく、特に弁作用金属に十分な密着力、充填性を有し、約450℃までの高温処理に耐えられる絶縁性に優れたポリイミドが好ましい。ポリイミドとしては、200℃以下、好ましくは100〜200℃の低温度での熱処理により硬化が十分可能であり、陽極箔の表面上の誘電体層の熱による破損・破壊などの外的衝撃が少ないポリイミドが好適に使用できる。ポリイミドの好ましい平均分子量としては約1000〜1000000であり、より好ましくは約2000〜200000である。
【0038】
これらは、有機溶剤に溶解あるいは分散可能であり、塗布操作に適した任意の固形分濃度(従って粘度)の溶液あるいは分散液を容易に調製することができる。好ましい濃度としては、約10〜60質量%、より好ましい濃度としては約15〜50質量%である。低濃度側では遮蔽材の線がにじみ、高濃度側では糸引き等が起こり、線幅が不安定になる。
【0039】
ポリイミド溶液の具体例としては、塗布後の熱処理により硬化する低分子ポリイミドを2−メトキシエチルエーテルやトリエチレングリコールジメチルエーテルなどの吸湿性の少ない溶剤に溶した(例えば宇部興産(株)から「ユピコート(商標)FS−100L」として販売されている。)、あるいは前記式(5)で示されるポリイミド樹脂をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)やDMAc(ジメチルアセトアミド)に溶解した溶液(例えば、新日本理化(株)から「リカコート(商標)」として販売されている。)が好ましく使用できる。遮蔽材溶液によって形成される遮蔽材層は、遮蔽材溶液の塗布後、必要に応じて乾燥、加熱、光照射などの処理を行っても良い。
【0040】
また、陰極部には固体電解質層が形成される。
本発明において、固体電解質としてはチオフェン骨格を有する化合物、多環状スルフィド骨格を有する化合物、ピロール骨格を有する化合物、フラン骨格を有する化合物、アニリン骨格を有する化合物等で示される構造を繰り返し単位として含む導電性重合物が挙げられるが、固体電解質を形成する導電性重合物はこれに限られるものではない。
【0041】
チオフェン骨格を有する化合物としては、3−メチルチオフェン、3−エチルオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ペンチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−ノニルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−フルオロチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−シアノチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジエチルチオフェン、3,4−ブチレンチオフェン、3,4−メチレンジオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン等の誘導体を挙げることができる。これらの化合物は、一般には市販されている化合物または公知の方法(例えばSynthetic Metals誌、1986年、15巻、169頁)で準備できるが、本発明においてはこれらに限るものではない。
【0042】
また、例えば、多環状スルフィド骨格を有する化合物としては、具体的には1,3−ジヒドロ多環状スルフィド(別名、1,3−ジヒドロベンゾ[c]チオフェン)骨格を有する化合物、1,3−ジヒドロナフト[2,3−c]チオフェン骨格を有する化合物が使用できる。さらには1,3−ジヒドロアントラ[2,3−c]チオフェン骨格を有する化合物、1,3−ジヒドロナフタセノ[2,3−c]チオフェン骨格を有する化合物を挙げることができ、公知の方法、例えば特開平8−3156号公報記載の方法により準備することができる。
【0043】
また、例えば、1,3−ジヒドロナフト[1,2−c]チオフェン骨格を有する化合物が、1,3−ジヒドロフェナントラ[2,3−c]チオフェン誘導体や、1,3−ジヒドロトリフェニロ[2,3−c]チオフェン骨格を有する化合物が、1,3−ジヒドロベンゾ[a]アントラセノ[7,8−c]チオフェン誘導体なども使用できる。
【0044】
縮合環に窒素またはN−オキシドを任意に含んでいる場合もあり、1,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]キノキサリンや、1,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]キノキサリン−4−オキシド、1,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]キノキサリン−4,9−ジオキシド等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0045】
また、ピロール骨格を有する化合物としては、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−ペンチルピロール、3−ヘキシルピロール、3−ヘプチルピロール、3−オクチルピロール、3−ノニルピロール、3−デシルピロール、3−フルオロピロール、3−クロロピロール、3−ブロモピロール、3−シアノピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジエチルピロール、3,4−ブチレンピロール、3,4−メチレンジオキシピロール、3,4−エチレンジオキシピロール等の誘導体を挙げることができる。これらの化合物は、市販品または公知の方法で準備できるが、本発明においてはこれらに限るものではない。
【0046】
また、フラン骨格を有する化合物としては、3−メチルフラン、3−エチルフラン、3−プロピルフラン、3−ブチルフラン、3−ペンチルフラン、3−ヘキシルフラン、3−ヘプチルフラン、3−オクチルフラン、3−ノニルフラン、3−デシルフラン、3−フルオロフラン、3−クロロフラン、3−ブロモフラン、3−シアノフラン、3,4−ジメチルフラン、3,4−ジエチルフラン、3,4−ブチレンフラン、3,4−メチレンジオキシフラン、3,4−エチレンジオキシフラン等の誘導体を挙げることができる。これらの化合物は市販品または公知の方法で準備できるが、本発明においてはこれらに限るものではない。
【0047】
また、アニリン骨格を有する化合物としては、2−メチルアニリン、2−エチルアニリン、2−プロピルアニリン、2−ブチルアニリン、2−ペンチルアニリン、2−ヘキシルアニリン、2−ヘプチルアニリン、2−オクチルアニリン、2−ノニルアニリン、2−デシルアニリン、2−フルオロアニリン、2−クロロアニリン、2−ブロモアニリン、2−シアノアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,5−ジエチルアニリン、3,4−ブチレンアニリン、3,4−メチレンジオキシアニリン、3,4−エチレンジオキシアニリン等の誘導体を挙げることができる。これらの化合物は、市販品または公知の方法で準備できるが、本発明においてはこれらに限るものではない。
【0048】
また、上記化合物群から選ばれる化合物を併用し、3元系共重合体として用いても良い。その際重合性単量体の組成比などは重合条件等に依存するものであり、好ましい組成比、重合条件は簡単なテストにより確認できる。
【0049】
本発明において、固体電解質として用いる導電性重合物の製造に用いられる酸化剤は脱水素的4電子酸化反応の酸化反応を十分行わせ得る酸化剤であれば良い。詳しくは、工業的に安価であり、製造上取り扱いが容易である化合物が好まれる。具体的には例えば、FeCl3、FeClO4、Fe(有機酸アニオン)塩等のFe(III)系化合物、または無水塩化アルミニウム/塩化第一銅、アルカリ金属過硫酸塩類、過硫酸アンモニウム塩類、過酸化物類、過マンガン酸カリウム等のマンガン類、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)、テトラクロロ−1,4−ベンゾキノン、テトラシアノ−1,4−ベンゾキノン等のキノン類、沃素、臭素等のハロゲン類、過酸、硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸等のスルホン酸、オゾン等及びこれら複数の酸化剤の組み合わせが挙げられる。
【0050】
この中で、前記Fe(有機酸アニオン)塩を形成する有機酸アニオンの基本化合物としては、有機スルホン酸または有機カルボン酸、有機燐酸、有機硼酸が挙げられる。有機スルホン酸の具体例としては、ベンゼンスルホン酸やp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、α−スルホ−ナフタレン、β−スルホ−ナフタレン、ナフタレンジスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸(アルキル基としてはブチル、トリイソプロピル、ジ−t−ブチル等)等が使用される。
【0051】
一方、有機カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、蓚酸等が挙げられる。さらに本発明においては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸、ポリ−α−メチルスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、ポリリン酸等の高分子電解質アニオンも使用されるが、これら有機スルホン酸または有機カルボン酸の例は単なる例示であってこの限りではない。また、前記アニオンの対カチオンはH+、Na+、K+等のアルカリ金属イオン、または水素原子やテトラメチル基、テトラエチル基、テトラブチル基、テトラフェニル基等で置換されたアンモニウムイオンであるが、本発明においては特に限定を受けない。前記記載の酸化剤のうち、特に好ましくは3価のFe系化合物、または塩化第一銅系、過硫酸アルカリ塩類、過硫酸アンモニウム塩類、マンガン酸類、キノン類を含む酸化剤が好適に使用できる。
【0052】
本発明において、固体電解質として用いる導電性重合物の製造において、必要に応じて共存されるドーパント能を有する対アニオンは、前記酸化剤から産生される酸化剤アニオン(酸化剤の還元体)を対イオンに持つ電解質化合物または他のアニオン系電解質を挙げることができる。具体的には例えば、PF6-、SbF6-、AsF6-の如き5B族元素のハロゲン化アニオン、BF4-の如き3B族元素のハロゲン化アニオン、I-(I3-)、Br-、Cl-の如きハロゲンアニオン、ClO4-の如きハロゲン酸アニオン、AlCl4-やFeCl4-、SnCl5-等の如きルイス酸アニオン、あるいはNO3-、SO42-の如き無機酸アニオン、またはp−トルエンスルホン酸やナフタレンスルホン酸、炭素数1乃至5のアルキル置換スルホン酸、CH3SO3-、CF3SO3-の如き有機スルホン酸アニオン、またはCF3COO-、C65COO-の如きカルボン酸アニオン等のプロトン酸アニオンを挙げることができる。また同じく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸、ポリ−α−メチルスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、ポリリン酸等の高分子電解質アニオン等を挙げることができるが、必ずしも限定されるものではない。
【0053】
しかしながら好ましくは高分子系または低分子系の有機スルホン酸化合物、あるいはポリリン酸が挙げられ、望ましくはアリールスルホン酸塩系ドーパントが好適に使用される。例えば、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラセンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸及びそれらの誘導体などの塩を用いることができる。
【0054】
本発明に用いられる固体電解質に使用する導電性重合物を形成するモノマーの濃度はその化合物の置換基の種類や溶媒等の種類によって異なるが、一般的には10-3〜10モル/リットルの範囲が望ましく、また10-2〜5モル/リットルの範囲がさらに好ましい。また反応温度はそれぞれ反応方法によって定められるもので特に限定できるものではないが、一般的には−70℃〜250℃の温度範囲で選ばれる。望ましくは−30℃〜150℃であり、さらに−10℃〜30℃の温度範囲で行なわれることが望ましい。
【0055】
本発明において、用いられる反応溶媒は単量体あるいは酸化剤、ドーパント能を有する対アニオンを共に、またはそれぞれ単独に溶解可能な溶媒であれば良く、例えばテトラヒドロフランやジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、あるいはジメチルホルムアミドやアセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルムや塩化メチレン等の非芳香族性の塩素系溶媒、ニトロメタンやニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、あるいはメタノールやエタノール、プロパノール等のアルコール類、または蟻酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸または該有機酸の酸無水物(例、無水酢酸等)、水、アルコール類またはケトン類あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。また前記酸化剤または/及びドーパント能を有する対アニオン及び単量体はそれぞれ単独に溶解した溶媒系、すなわち二液系、もしくは三液系で取り扱っても良い。
【0056】
このようにして製造された固体電解質の電導度は、1S/cm以上であるが、望ましい条件では5S/cm以上、さらに好ましくは10S/cm以上である。
【0057】
さらに、固体電解質層の表面にカーボンペースト層と金属粉含有導電性層を設けてコンデンサの陰極部が形成される。金属粉含有導電性層は固体電解質層と密着接合し、陰極として作用すると同時に最終コンデンサ製品の陰極リード端子を接合するための接着層となるものであり、金属含有導電性層の厚さは限定されないが、一般には1〜100μm程度、好ましくは5〜50μm程度である。
【0058】
固体電解コンデンサは陽極部に接合したリードフレームにリード端子を接合し、固体電解質層、カーボンペースト層及び金属粉含有導電性層からなる陰極部にリード線を接合し、さらに全体をエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂で封止して得られる。
【0059】
本発明のコンデンサ用陽極箔は、通常、積層型のコンデンサ素子として用いられる。積層型固体電解コンデンサは、例えば、リードフレーム上にコンデンサ素子を積層することにより形成できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。
(実施例1)
厚み110μmの化成アルミ箔(33V化成品)を3.5mm幅に切断したものを13mmずつの長さに切り取り、この箔片の一方の短辺部を金属製ガイドに溶接により固定した。この固定しない側の短辺部の端部から400μmの範囲の領域に、波長1064nmのレーザ光(YAG)(MIYACHI製,ECOMARKER ML−7064A)を照射し、端部に酸化皮膜を形成した。形成した酸化皮膜の状態を図1に示す。酸化皮膜の厚みは、アルミニウム箔端部の破断面SEMより、直接酸化皮膜形成部分の深さを読み取った。図2に模式的に示すように、本発明によるレーザ照射部(3)における測定値は1.0〜2.4μmであり、これは通常のエッチング部(2)の酸化皮膜の厚みの25倍〜60倍であった(図2は誇張して示してある。また、酸化皮膜は図中の斜線部に含まれる多孔質層の表面の酸化皮膜層厚である。)。
レーザ光照射により酸化皮膜を形成した後、更に処理していない全面の修復化成を行うため、固定していない端から7mmの箇所にポリイミド樹脂溶液を0.8mm幅に線状に描き、乾燥させた。
固定していないアルミ箔の先端から塗布されたポリイミド樹脂までの部分を、第1の化成(切口化成)として5質量%蓚酸水溶液中、電流密度10mA/cm2、化成電圧33V、温度25℃で2分間化成処理した後、水洗、乾燥した。次に第2の化成工程として1質量%のケイ酸ナトリウム水溶液中、電流密度5mA/cm2、化成電圧33V、温度65℃で10分間化成を行って同様に水洗、乾燥した。その後、300℃の熱処理を30分行なった。さらに第3の化成として、9質量%アジピン酸アンモニウム水溶液中、電流密度7mA/cm2、化成電圧33V、温度65℃で7分間化成処理を行ない、同様に水洗、乾燥を行なった。
【0061】
次に陽極部と陰極部を分離するポリイミド樹脂を、アルミ箔の先端から5mmの部分を中心として0.8mm幅に線状に塗布し、180℃で1時間乾燥させた。陰極層である固体電解質は以下のように固体電解質を形成した。
すなわち、陰極部(3.5mm×4.6mm)を3,4−エチレンジオキシチオフェンを含むイソプロパノール溶液(溶液1)に浸漬し、引き上げて放置した。次に過硫酸アンモニウムを含む水溶液(溶液2)に浸漬し、これを乾燥し、酸化重合を行なった。溶液1に浸漬してから溶液2に浸漬し、酸化重合を行なう操作を繰り返した。洗浄後、100℃で乾燥させ、固体電解質層を形成した。さらに、陰極部にカーボンペースト、銀ペーストで電極を形成し、コンデンサ素子を完成させた。
塗布したマスキング材を含む部分をリードフレーム上に銀ペーストで接合しながら2枚重ね、固体電解質のついていない部分に陽極リード端子を溶接により接続し、全体をエポキシ樹脂で封止し、16Vの電圧を印加してエージングして合計30個のチップ型固体電解コンデンサを作製した。
【0062】
これら30個のコンデンサについて、初期特性として120Hzにおける容量と損失係数(tanδ)、100kHzにおける等価直列抵抗(以下ESRとする。)、それに漏れ電流を測定した。尚、漏れ電流は定格電圧12.5Vを印加して1分後に測定した。測定結果は以下の通りであった。
容量(平均値) :36.6μF、
tanδ(平均値) :0.79%、
ESR(平均値) :14.7mΩ、
漏れ電流(平均値) :0.84μA。
また、2.06μA(0.005CV)以上の漏れ電流を不良品とした時の工程不良率は3%であった。
【0063】
さらにリフロー試験及びこれに続いて行なった耐湿試験での結果を示した。リフロー試験(ハンダ耐熱性試験とも言う。)は次の方法で評価した。すなわち20個のコンデンサ素子を準備し、該素子を255℃の温度下に10秒間通過させ、定格電圧印加1分後の漏れ電流を測定し、そしてその値がμA(0.1CV)以上の素子を不良品とした。また、耐湿試験は60℃、90%RHの高温高湿下に500時間放置し、定格電圧印加1分後漏れ電流値が123.8μA(0.3CV)以上を不良品とした。
リフロー試験後の漏れ電流 :3.95μA、
耐湿試験後の漏れ電流 :56.3μA。
いずれも不良率0であった。
【0064】
(実施例2)
レーザ光を照射する領域を、固定しない側の短辺部の端部から200μmの範囲の領域に加え、長軸方向の裁断部の端部から200μmの範囲に実施した以外は、実施例1と同様にコンデンサを作製し、初期特性及び信頼性試験を行なった。結果を表1及び2に示す。
【0065】
(比較例1)
従来の化成方法として、特開2000−68159号公報記載実施例1を参照し、化成を実施した以外は、実施例1と同様にコンデンサを作製し、初期特性及び信頼性試験を行なった。結果を表1及び2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、安定性の改善された酸化皮膜を形成する方法を提供する。従って、種々の酸化皮膜形成工程において有用であるが、特に、固体電解コンデンサの製造方法に適用することにより、固体電解コンデンサの誘電体として機能する酸化皮膜の安定性を増加させ、漏れ電流特性の悪化を防ぎ、収率及び信頼性の向上に寄与し、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例1において、レーザ処理後の弁作用金属体表面を示す写真。
【図2】レーザ照射後の弁作用金属体端部の断面構造を示す模式図。
【符号の説明】
【0070】
1 アルミニウム芯金
2 エッチング層
3 レーザ照射による酸化皮膜形成部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー線の照射により酸化皮膜層を形成した弁作用金属材料。
【請求項2】
エネルギー線の照射により酸化皮膜層の層厚を部分的に増大させた弁作用金属材料。
【請求項3】
微細孔を有する弁作用金属材料の表面が化成処理され、所定寸法に裁断された該材料の裁断部端部の少なくとも一部にエネルギー線を照射して、予め化成処理されていた酸化皮膜の膜厚の5倍〜200倍の酸化皮膜が形成された請求項1または2に記載の弁作用金属材料。
【請求項4】
酸化皮膜を形成する領域が、弁作用金属材料の投影面積の全体に対し、40%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の弁作用金属材料。
【請求項5】
エネルギー線の照射により酸化皮膜層を形成する弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法。
【請求項6】
エネルギー線の照射により酸化皮膜層の層厚を部分的に増大させる弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法。
【請求項7】
微細孔を有する弁作用金属材料の表面が化成処理され、所定寸法に裁断された該材料の裁断部端部にエネルギー線を照射して、予め化成処理されていた酸化皮膜の膜厚の5倍〜200倍の酸化皮膜を形成することを特徴とする弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法。
【請求項8】
エネルギー線が、0.1μm〜11μmの波長を有するレーザ光であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の弁作用金属材料の酸化皮膜形成方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の方法を用いて酸化皮膜形成された弁作用金属材料を含む固体電解コンデンサ。
【請求項10】
固体電解コンデンサの定格電圧が10V以上の品種であることを特徴とする請求項9に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項11】
請求項5〜8のいずれかに記載の方法が製造工程として含まれる固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
酸化皮膜が形成された弁作用金属材料であって、弁作用金属材料の端部領域の10%以上において、前記酸化皮膜の膜厚が中央部の酸化皮膜の膜厚の5倍〜100倍である弁作用金属材料。
【請求項13】
弁作用金属材料の表面に陽極酸化皮膜層が形成され、当該陽極酸化皮膜層上に導電性高分子からなる固体電解質層、陰極層が順次積層形成されて陰極部が形成された固体電解コンデンサにおいて、陽極酸化皮膜層の端部領域の10%以上の酸化皮膜の膜厚が中央部の酸化皮膜の膜厚の5倍〜100倍である固体電解コンデンサ。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−45190(P2008−45190A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224162(P2006−224162)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】