説明

弁装置

【課題】空気溜りが生じるのを防止することができ、かつ、最小限の摩擦抵抗で弁軸を支持する。
【解決手段】燃料電池スタックを冷却する液状の冷媒が通流する通流路51aを有し、通流路51aを横断する弁軸52と、弁体53と、を含むバタフライ型の弁装置であって、弁軸52は、駆動側となる一端側の軸受がリップシール52bでシールされているとともに、非駆動側となる他端側の軸受が樹脂製の液中軸受52cとされて、その側方がキャップシール52dでシールされており、キャップシール52dと液中軸受52cとの間には、通流路51aから液中軸受52cを通じて流入してくる冷媒の流入室55が形成され、流入室55と通流路51aとの間には、流入室55に溜まった空気を通流路51aに向けて排出するための排出路56が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水素(燃料ガス、反応ガス)がアノードに、酸素を含む空気(酸化剤ガス、反応ガス)がカソードに、それぞれ供給されることで発電する固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)等の燃料電池の開発が盛んである。このような燃料電池を用いたシステムでは、燃料電池スタックを冷却するためにラジエータを用いた冷却システムが用いられている。
【0003】
そして、この冷却システムでは、燃料電池スタックに導入する冷却液体の流量を調節するために、流量制御用の弁装置を通流路に設けることが検討されている。
【0004】
ところで、流量を調節する弁装置としては、一般的な内燃機関のエンジンに用いられる、吸入空気量を調節するためのスロットルバルブが知られている。
このスロットルバルブでは、吸入空気の通路を横断する弁軸の一端側が、玉軸受で支持されるとともにリップシールでシールされており、他端側が、同じく玉軸受で支持されるとともにキャップシールで他端側からシールされた構造となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−255395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記した従来のスロットルバルブに採用されている弁装置を、例えば、前記した冷却システムの弁装置に対して採用しようとした場合、弁軸の他端側の玉軸受が、通流路から流入した冷媒で没してしまう。このため、玉軸受の内部のグリスが流出したり、腐食等が生じたりする問題があった。
また、冷媒の充填時等に、キャップシールの内側に空気溜りが生じてしまう。
【0007】
そこで、弁軸の他端側に、弁軸の一端側と同様のリップシールを設けることが考えられる。しかしながら、そのようにすると弁軸が回動する際の摩擦抵抗が増加し、例えば、弁軸を駆動するためのモータの消費電力が増加したり、モータが大型化したりするといった問題が生じてくる。
【0008】
そこで、本発明は、空気溜りが生じるのを防止することができ、かつ、最小限の摩擦抵抗で弁軸を支持することができる弁装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の弁装置は、燃料電池スタックを冷却する液状の冷媒の通流路に設置され、前記通流路を横断する弁軸と、前記弁軸に設けられた弁体と、を含み、前記弁軸がその軸線方向の一端側から回動駆動されるように構成されたバタフライ型の弁装置であって、前記弁軸は、駆動側となる一端側の軸受がリップシールでシールされているとともに、非駆動側となる他端側の軸受が樹脂製の液中軸受とされて、その側方がキャップシールでシールされており、前記キャップシールと前記液中軸受との間には、前記通流路から前記液中軸受を通じて流入してくる冷媒の流入室が形成され、前記流入室と前記通流路との間には、前記流入室に溜まった空気を前記通流路に向けて排出するための排出路が形成されていることを特徴とする。
【0010】
この弁装置によれば、弁軸は、駆動側となる一端側の軸受がリップシールでシールされ、非駆動側となる他端側の軸受が樹脂製の液中軸受とされて、その側方がキャップシールでシールされているので、非駆動側となる他端側からリップシールを排除することができ、駆動側となる一端側にのみリップシールを使用すればよいので、弁軸の摩擦抵抗を低減することができる。したがって、最小限の摩擦抵抗で弁軸を支持することができ、弁軸を駆動するモータ等の低トルク化を実現することができる。
【0011】
さらに、キャップシールと液中軸受との間には、通流路から液中軸受を通じて流入してくる流体の流入室が形成され、流入室と通流路との間には、流入室に溜まった空気を通流路に向けて排出するための排出路が形成されているので、液中軸受の周りや流入室に溜まった空気をこの排出路を通じて通流路に好適に排出することができる。
したがって、液中軸受により弁軸を低摩擦で好適に支持することができ、長期間にわたって安定した弁軸の回動動作を維持することができる。このことは、耐久性に優れ、信頼性に優れた燃料電池システムの実現に寄与する。
また、流入室に溜まった空気を排出路を通じて通流路に排出することができるので、冷媒の変動量を減少することができ、冷媒を貯留するために用いられるリザーブタンクの小型化も可能になる。
【0012】
また、前記通流路の側壁には、前記液中軸受に冷媒を導く導入部が設けられている構成とするのがよい。このように構成することによって、導入部を通じて液中軸受に冷媒がスムーズに導入されるようになり、液中軸受が冷媒中に好適に没した状態となって、弁軸の摩擦抵抗をより確実に低減することができる。
また、冷媒が導入部を通じて液中軸受から流入室にスムーズに流入するようになり、流入室に溜まった空気が排出路を通じて通流路にスムーズに排出されることとなる。
したがって、空気溜りがより一層生じ難くなり、長期間にわたって安定した弁軸の回動動作を維持することができる。このことは、より耐久性に優れ、より信頼性に優れた燃料電池システムの実現に寄与する。
【0013】
前記排出路は、前記液中軸受の鉛直方向の上側に配置されている構成とするのがよい。このように構成することによって、流入室に溜まった空気が排出路を通じて通流路に好適に排出されるようになり、空気溜りがより一層生じ難くなって、長期間にわたって安定した弁軸の回動動作を維持することができるようになる。このことは、より耐久性に優れ、より信頼性に優れた燃料電池システムの実現に寄与する。
【0014】
また、前記弁体は、前記通流路に開口した前記排出路の開口部を、閉弁位置に回動した状態で塞ぐように構成されているのがよい。このような場合には、弁体が閉弁位置に回動されると、排出路を通じた冷媒の通流が遮断されるようになり、排出路をバイパス路として冷却水が通流するのを好適に阻止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、空気溜りが生じるのを防止することができ、かつ、最小限の摩擦抵抗で弁軸を支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を適宜図面を参照しながら説明する。
はじめに本実施形態の弁装置が適用される燃料電池システムについて説明する。
図1において、本実施形態の弁装置が適用される燃料電池システム1は、図示しない燃料電池自動車(移動体)に搭載されている。燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、燃料電池スタック10のアノードに対して水素(燃料ガス、反応ガス)を給排するアノード系と、燃料電池スタック10のカソードに対して酸素を含む空気(酸化剤ガス、反応ガス)を給排するカソード系と、掃気時にカソード系からアノード系に掃気ガスを導く掃気ガス系と、燃料電池スタック10を冷却する冷媒を冷却する冷却ラインと、を備えている。
本実施形態では、冷媒として冷却水を用いている。なお、冷却水としては、例えば、ロングライフクーラント等を使用することができる。
【0017】
制御装置2は、例えば図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを備えるコンピュータおよびプログラム、周辺回路等を含んで構成され、ROMに記憶されるプログラムによって制御される。
そして、制御装置2は、燃料電池システム1の全体を制御する機能を有するとともに、冷却ラインに備わる弁装置としての流量制御弁50の開度の調節、アノード系に備わるコンプレッサ31と冷却ラインに備わる冷却水ポンプ61を駆動するモータMの駆動を制御する機能を有する。
【0018】
<燃料電池スタック>
燃料電池スタック10は、複数(例えば200〜400枚)の固体高分子型の単セルが積層されることで構成されたスタックであり、複数の単セルは電気的に直列で接続されている。単セルは、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)と、これを挟み2枚の導電性を有するアノードセパレータおよびカソードセパレータと、を備えている。
【0019】
MEAは、1価の陽イオン交換膜(例えばパーフルオロスルホン酸型)からなる電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟むアノードおよびカソードとを備えている。アノードおよびカソードは、カーボンペーパ等の導電性を有する多孔質体から主に構成されると共に、アノードおよびカソードにおける電極反応を生じさせるための触媒(Pt、Ru等)を含んでいる。
【0020】
アノードセパレータには、各MEAのアノードに対して水素を給排するため単セルの積層方向に延びる貫通孔(内部マニホールドと称される)や、単セルの面方向に延びる溝が形成されており、これら貫通孔および溝がアノード流路11(燃料ガス流路)として機能している。
カソードセパレータには、各MEAのカソードに対して空気を給排するため単セルの積層方向に延びる貫通孔(内部マニホールドと称される)や、単セルの面方向に延びる溝が形成されており、これら貫通孔および溝がカソード流路12(酸化剤ガス流路)として機能している。
【0021】
このようなアノード流路11を介して各アノードに水素が供給されると、後記式(1)の電極反応が起こり、また、カソード流路12を介して各カソードに空気が供給されると、後記式(2)の電極反応が起こり、各単セルで電位差(OCV(Open Circuit Voltage)、開回路電圧)が発生するようになっている。そして、燃料電池スタック10と走行モータ等の外部回路とが電気的に接続されて電流が取り出されると、燃料電池スタック10が発電するようになっている。
2H→4H+4e …(1)
+4H+4e→2HO …(2)
【0022】
また、燃料電池スタック10の内部には、冷却水が流れる冷却水通路13が形成され、この冷媒通路13には、燃料電池スタック10に冷却水を循環させながら供給する冷却配管62が接続される。
【0023】
<アノード系>
アノード系は、燃料電池スタック10よりも上流側に水素タンク21を備えている。
水素タンク21は、配管22a、遮断弁22、配管22bを通じてアノード流路11に接続されている。そして、燃料電池自動車のイグニッションがオンされ、燃料電池スタック10の起動が要求されて制御装置2により遮断弁22が開かれると、水素タンク21の水素が配管22a等を介してアノード流路11に供給されるようになっている。
【0024】
<カソード系>
カソード系は、コンプレッサ31を備えている。コンプレッサ31は、配管32、図示しない加湿器を介して、カソード流路12に接続されている。そして、制御装置2の指令にしたがって作動すると、コンプレッサ31は、酸素を含む空気を取り込み、空気をカソード流路12に供給するようになっている。また、コンプレッサ31は、燃料電池スタック10の掃気時には、これを掃気する掃気手段として機能するようになっている。
なお、コンプレッサ31を駆動する駆動モータMは、燃料電池スタック10および燃料電池スタック10の少なくとも一方の発電電力を充放電する高圧バッテリ(図示しない)を電源として作動する。
【0025】
<冷却ライン>
冷却ラインは、燃料電池スタック10を冷却するための冷却水が通流する経路である。本実施形態では、燃料電池スタック10とラジエータ63との間が冷却配管62によって接続されており、冷却水が循環する循環経路が構成されている。
冷却ラインには、冷却水ポンプ61、弁装置としての流量制御弁50、ラジエータ63、リザーブタンクRが設けられている。
【0026】
冷却水ポンプ61は、冷却ラインに冷却水を循環させるためのものであり、冷却水を流量制御弁50側へ向けて圧送する。
また、ラジエータ63は、冷却配管62を通じて通流する冷却水を介して外気と熱交換し、燃料電池スタック10の放熱を行うものである。
【0027】
ところで、冷却水ポンプ61は、モータMによって駆動されるが、モータMの駆動軸は、燃料電池スタック10に空気を供給するコンプレッサ31にも接続されている。つまり、冷却水ポンプ61とコンプレッサ31は、モータMによって同期して駆動されるようになっており、モータMを共通の駆動源として用いることで、余分な駆動源を排除している。
【0028】
このような構成とされていることで、コンプレッサ31が駆動している間は、冷却水ポンプ61の出力を単独で制御することができないことから、低温環境等における燃料電池スタックの暖気を促進するために、冷却水ポンプ61の吐出側の冷却配管62には、流量制御弁50が設けられている。
【0029】
流量制御弁50は、図2に示すように、弁軸52と一体に回動する弁体53によって開度が調節され、その開度によって冷却配管62(図1参照、以下同じ)を通流する冷却水の流量を調節するように構成されている。
具体的に、流量制御弁50は、ボディ51と、このボディ51に形成され、冷却配管62に連通する断面略円形の通流路51aと、この通流路51aを横断する弁軸52と、この弁軸52に設けられた弁体53と、を備え、弁軸52がその軸線方向の一端側から駆動機構57によって回動駆動されるように構成されたバタフライ型の弁である。この例では、通流路51aを挟んで、弁軸52の一端側となる右側(以下、駆動側というときがある)に、駆動機構57が配置され、これとは反対側の弁軸52の他端側となる左側(以下、非駆動側というときがある)が、後記するキャップシール52dでシールされる構成について説明するが、駆動機構57やキャップシール52dが配置される側を限定する趣旨ではない。
【0030】
通流路51aには、その通流方向における両端部に図示しない冷却配管62が接続可能であり、冷却配管62を通流する冷却液が通流路51a内を通流するようになっている。通流路51aの左右側壁には、弁軸52が挿通される挿通孔51bと、挿通孔51cとが開口形成されている。ここで、液中軸受52c側の挿通孔51cは、挿通孔51bよりも大径とされており、通流路51aに通流する冷却水を、挿通孔51c内に積極的に導入するための導入部(導入口)として機能するようになっている。
また、通流路51aの側壁には、後記する排出路56の排出口56aが開口している。
【0031】
弁軸52は、前記挿通孔51b,51cに挿通され、通流路51aの断面中心を横断して冷却水の通流方向に対して略垂直方向に配置される。弁軸52は、駆動側となる一端側が、玉軸受(軸受)52aで回動可能に支持されるとともにリップシール52bでシールされた構成となっている。一方、弁軸52は、非駆動側となる他端側が、樹脂製の液中軸受52cで回動可能に支持されるとともに、その側方がキャップシール52dでシールされた構成となっている。
【0032】
弁体53は、その平面形状が通流路51aの断面形状と略等しくされており、全閉時には、通流路51aを通流する冷却水を全く通流させないか、ほとんど通流させない状態に通流路51aを閉じるようになっている。なお、弁体53は、閉弁位置(全閉位置)とされたときに、図3に示すように、鉛直方向から若干傾いた状態で通流路51aを閉じるようになっている。また、弁体53は、全開時に、冷却水の流れる方向に沿って略水平状態(冷却水を最大限に通流させる状態)となる開弁位置(全開位置)に保持されるようになっている。
【0033】
弁軸52の一端側をシールするリップシール52bは、弾性を有する部材から形成されており、弁軸52を取り巻くリング形状を呈している。このようなリップシール52bは、回動状態にある弁軸52と摺接可能なリップ部52bを有し、挿通孔51bを液密にシールする。したがって、挿通孔51bから玉軸受52a側への冷却水の漏洩が封じられるようになっている。
一方、弁軸52の他端側の側方をシールするキャップシール52dは、弾性を有する部材から形成されて円板状を呈しており、ボディ51の他端側に形成される有底円筒部54の内壁に係止されて、挿通孔51cに通じる有底円筒部54の開口部を液密にシールする。したがって、液中軸受52cは、挿通孔51cを通じて通流路51aから流入した冷却水に没する状態となる。
ここで、液中軸受52cは、例えば、フッ素樹脂やフェノール樹脂等の合成樹脂材からなる樹脂製であり、冷却水中で使用された場合に極めて安定した摺動特性を示すものが用いられている。
このような液中軸受52cは、挿通孔51cに通じる段状部51cに配置されて圧入等によって固定されている。
【0034】
このような液中軸受52cとキャップシール52dとの間には、流入室55が形成されている。この流入室55には、通流路51aから液中軸受52cの隙間を通じて流入してくる冷却水が流入可能である。
そして、流入室55と通流路51aとの間には、冷却水の充填時等に流入室55に溜まった空気を通流路51aに向けて排出するための排出路56が形成されている。
【0035】
排出路56は、有底円筒部54の底部54aを貫通して流入室55と通流路51aを連通しており、本実施形態では、液中軸受52cの鉛直方向の上側において、弁軸52の軸線方向に沿うように設けられている。
また、排出路56の排出口56aは、前記のように通流路51aの側壁に開口しているが、その開口位置は、図3に示すように、弁軸52の軸線方向(軸線方向一端側)から見て、閉弁位置に回動した弁体53によって塞がれることのない位置に形成されている。つまり、排出路56の排出口56aは、弁体53の回動位置に左右されることがなく、常に、通流路51aに連通するようになっている。これによって、排出路56の排出口56aが弁体53に邪魔されず、排出路56を通じた空気抜きが良好に行われることとなる。
【0036】
駆動機構57は、弁軸52の一端側に設けられており、DCモータ58と、付勢手段59とを含んで構成されている。
DCモータ58は、例えば、図示しない駆動部から供給される電力で駆動し、駆動部は、制御装置2から入力される指令に基づいてDCモータ58に電力を供給する。DCモータ58の出力軸は、弁軸52の一端部に図示しない連結手段等によって連結されており、DCモータ58の回動が直接に弁軸52へ伝達されるようになっている。なお、ギア伝達等による駆動機構を用いて、DCモータ58の出力を弁軸52に伝達するように構成してもよい。
【0037】
付勢手段59は、例えば、コイルばねからなるリターンスプリング59aと補助スプリング59bとを含み、リターンスプリング59aと補助スプリング59bとは、それぞれの中心軸が弁軸52の中心と一致するように設けられている。また、リターンスプリング59aと補助スプリング59bとの間には、弁軸52に固定されて弁軸52に一体に回動される補助板59cが設けられている。
【0038】
リターンスプリング59aの一端は、補助板59cに固定され、他端は、ボディ51に固定されている。このようなリターンスプリング59aは、弁体53が閉弁位置から開弁位置に開く方向に補助板59cが回動するように付勢する。また、補助スプリング59bの一端は、ボディ51に固定され、他端は、補助板59cに固定されている。このような補助スプリング59bは、リターンスプリング59aと逆の方向、つまり、弁体53が開弁位置から閉弁位置に閉じる方向に補助板59cが回動するように付勢する。
例えば、この例では、リターンスプリング59aと補助スプリング59bとの付勢力が釣り合う位置を、弁体53の開弁位置に設定してある。つまり、DCモータ58の駆動力が弁軸52に作用していない状態では、弁体53が、開弁位置となるように設定されている。
【0039】
次に、このような弁装置としての流量制御弁50において、冷却水充填時の作用を説明する。
冷却水を充填する際には、冷却配管62等に設けられた図示しない冷却水充填口から冷却水を充填する。
図4(a)に示すように、通流路51a内で冷却水の水位W1が上昇してきて、導入口である挿通孔51cに冷却水が流入すると、冷却水は、液中軸受52cと弁軸52との隙間を通じて流入室55に流れ込む。
【0040】
その後、冷却水の水位W1がさらに上昇し、これに伴って、流入室55の水位W2が上昇すると、流入室55内の空気が排出路56を通じて排出口56aから通流路51a内に放出される。これによって流入室55内の冷却水の水位W2が、水位W1の上昇とともにスムーズに上昇する。
【0041】
そして、さらに図示しない冷却水充填口から冷却水が充填されると、図4(b)に示すように、流入室55内の空気が排出路56を通じて通流路51a側に抜けきり、流入室55内が冷却水で満たされた状態になる。つまり、液中軸受52cが冷却水中に没した状態となり、液中軸受52cの周りや流入室55に存在する空気が、排出路56を通じて好適に排出されることとなる。
【0042】
以上説明した本実施形態の弁装置によれば、弁軸52は、駆動側となる一端側が玉軸受52aとされてリップシール52bでシールされ、非駆動側となる他端側が樹脂製の液中軸受52cとされて、その側方がキャップシール52dでシールされているので、非駆動側となる他端側からリップシールを排除することができ、駆動側となる一端側にのみリップシール52bを使用すればよいので、弁軸52の摩擦抵抗を低減することができる。したがって、最小限の摩擦抵抗で弁軸52を支持することができ、弁軸52を駆動するモータ等の低トルク化を実現することができる。
【0043】
さらに、キャップシール52dと液中軸受52cとの間には、通流路51aから液中軸受52cを通じて流入してくる流体の流入室55が形成され、流入室55と通流路51aとの間には、冷却水の充填時等に流入室55に溜まった空気を通流路51aに向けて排出するための排出路56が形成されているので、冷却水の充填時等に、液中軸受52cの周りや流入室55に溜まった空気をこの排出路56を通じて通流路51aに好適に排出することができる。
したがって、液中軸受52cにより弁軸52を低摩擦で好適に支持することができ、長期間にわたって安定した弁軸52の回動動作を維持することができる。このことは、耐久性に優れ、信頼性に優れた燃料電池システム1の実現に寄与する。
また、流入室55に溜まった空気を排出路56を通じて通流路51aに排出することができるので、冷却水の変動量を減少することができ、冷却水を貯留するために用いられる、リザーブタンクRの小型化も可能になる。
【0044】
また、通流路51aの側壁には、液中軸受52cに冷却水を導く大径とされた挿通孔51cが設けられているので、挿通孔51cを通じて液中軸受52cに冷却水がスムーズに導入されるようになり、液中軸受52cが冷却水中に好適に没した状態となって、弁軸52の摩擦抵抗をより確実に低減することができる。
また、冷却水の充填時等に、冷却水が挿通孔51cを通じて液中軸受52cから流入室55にスムーズに流入するようになり、流入室55に溜まった空気が排出路56を通じて通流路51aにスムーズに排出されることとなる。
したがって、空気溜りがより一層生じ難くなり、長期間にわたって安定した弁軸52の回動動作を維持することができる。このことは、より耐久性に優れ、より信頼性に優れた燃料電池システム1の実現に寄与する。
【0045】
また、排出路56は、液中軸受52cの鉛直方向の上側に配置されているので、流入室55に溜まった空気が排出路56を通じて通流路51aに好適に排出されるようになり、空気溜りがより一層生じ難くなって、長期間にわたって安定した弁軸52の回動動作を維持することができるようになる。このことは、より耐久性に優れ、より信頼性に優れた燃料電池システム1の実現に寄与する。
【0046】
図5は流量制御弁の変形例を示す断面図である。
この変形例では、弁体53の縁部に膨出部53aが設けられており、この膨出部53aは、弁体53が閉弁位置(全閉位置)に回動した際に、通流路51aに開口した排出路56の排出口56aを塞ぐようになっている。つまり、膨出部53aは、弁体53が閉弁位置にあるときに、排出路56の排出口56aを塞ぐ状態に対向配置されるようになっており、排出路56の通流を遮断するようになっている。
このような場合には、弁体53が閉弁位置に回動されると、排出路56を通じた冷却水の通流が遮断されるようになり、排出路56をバイパス路として冷却水が通流するのを好適に阻止することができる。
なお、この例では弁体53に設けた膨出部53aで、排出路56の排出口56aを塞ぐようにしたものを示したが、これに限られることはなく、排出路56の形成位置や弁体53の厚さ寸法等を調整することによって、弁体53が閉弁位置に回動した状態で、弁体53の周縁部によって排出路56の排出口56aを塞ぐように構成してもよい。
【0047】
前記実施形態では、挿通孔51cを大径に形成して導入部を形成したが、これに限られることはなく、挿通孔51cの内壁の少なくとも一部に、挿通孔51cの軸線方向に沿うような溝部(導入部)を設け、この溝部を通じて通流路51aの冷却水が液中軸受52cに導かれるように構成してもよい。
【0048】
なお、流入室55の容積は、液中軸受52cとキャップシール52dとの距離を調節することや、有底円筒部54の内壁の形状を変更することによって、調節可能な範囲で任意に設定することができる。
【0049】
また、排出路56は、液中軸受52cの鉛直方向の上側に設ける例を示したが、これに限られることはなく、液中軸受52cの側方等に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る弁装置としての流量制御弁が適用される燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】流量制御弁の断面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う拡大断面図である。
【図4】(a)(b)は作用説明図である。
【図5】流量制御弁の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
10 燃料電池スタック
50 流量制御弁(弁装置)
51a 通流路
51c 挿通孔(導入部)
52 弁軸
52a 玉軸受(軸受)
52b リップシール
52c 液中軸受
52d キャップシール
53 弁体
55 流入室
56 排出路
56a 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックを冷却する液状の冷媒が通流する通流路を有し、
前記通流路を横断する弁軸と、前記弁軸に設けられた弁体と、を含み、前記弁軸がその軸線方向の一端側から回動駆動されるように構成されたバタフライ型の弁装置であって、
前記弁軸は、駆動側となる一端側の軸受がリップシールでシールされているとともに、
非駆動側となる他端側の軸受が樹脂製の液中軸受とされて、その側方がキャップシールでシールされており、
前記キャップシールと前記液中軸受との間には、前記通流路から前記液中軸受を通じて流入してくる冷媒の流入室が形成され、
前記流入室と前記通流路との間には、前記流入室に溜まった空気を前記通流路に向けて排出するための排出路が形成されていることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
前記通流路の側壁には、前記液中軸受に冷媒を導く導入部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の弁装置。
【請求項3】
前記排出路は、前記液中軸受の鉛直方向の上側に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弁装置。
【請求項4】
前記弁体は、前記通流路に開口した前記排出路の排出口を、閉弁位置に回動した状態で塞ぐように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−275763(P2009−275763A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126048(P2008−126048)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】