説明

強化繊維用サイジング剤、合成繊維ストランドおよび繊維強化複合材料

【課題】 本発明の目的は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維に対して、優れた樹脂含浸性、接着性および耐熱性を付与できる強化繊維用サイジング剤と、それを用いた合成繊維ストランド、繊維強化複合材料を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、発熱性官能基含有化合物及び熱可塑性樹脂を必須に含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記発熱性官能基含有化合物の重量割合が5〜50重量%であり、前記熱可塑性樹脂の重量割合が50〜95重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤、これを用いた合成繊維ストランドおよび繊維強化複合材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた樹脂含浸性、接着性および耐熱性を合成繊維ストランドに付与することができる強化繊維用サイジング剤、これを用いた合成繊維ストランドおよび繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途、航空・宇宙用途、スポーツ・レジャー用途、一般産業用途等に、プラスチック材料(マトリックス樹脂と称される)を各種合成繊維で補強した繊維強化複合材料が幅広く利用されている。これらの複合材料に使用される繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。これら各種合成繊維は通常、フィラメント形状で製造され、その後ホットメルト法やドラムワインディング法等により一方向プリプレグと呼ばれるシート状の中間材料に加工されたり、フィラメントワインディング法による加工や、場合によっては織物またはチョップドファイバー形状に加工されたりする等、各種高次加工工程を経て、強化繊維として使用されている。
【0003】
上記のマトリックス樹脂の内、成型が容易でリサイクル面でも有利な為注目されているポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などのいわゆる熱可塑性樹脂を用いた繊維強化複合材料の場合、補強繊維は一般的に1〜15mm長に切断されたチョップドファイバー形状で使用されることが多い。このチョップドファイバーと熱可塑性樹脂とを混練したペレットを製造する際には、チョップドファイバーの集束性が重要で、これが不適切であると、チョップドファイバーの供給量の不安定化、ストランド切れなどが発生し、得られた複合材料の物性が低下することがある。これを防止するため、繊維に適切な集束性を付与する目的で、各種熱可塑性樹脂を主剤とするサイジング剤を付与する技術が多数提案され(特許文献1〜5参照)、工業的に広く利用されている。
【0004】
一方、近年では、補強剤として用いる繊維の引張強度などの特性をより効果的に得るため、長繊維ペレットと呼ばれる形態や、熱硬化性樹脂をマトリックスとする複合材料の様に、繊維を一方向シートやテープ状、織物の状態で熱可塑性樹脂を含浸させて成型するケースも増加している。このような場合には、コンポジット成型時に熱溶融した熱可塑性樹脂が速やかに繊維ストランド内部、具体的に繊維−繊維間に含浸することが、成型工程時間の短縮化、得られた複合材料の物性向上の面で重要である。
【0005】
しかし、従来技術に開示された熱可塑性樹脂をマトッリクス(熱可塑性マトリックス樹脂)とするときの強化繊維用サイジング剤では、チョップドファイバーの集束性には優れているが、この樹脂含浸性が不十分な事があり、得られた複合材料の物性も満足なものでない場合があった。
また、サイジング剤組成によっては、耐熱性が不十分な場合があり、特にナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂などのエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックをマトリックス樹脂とする繊維強化熱可塑性樹脂のコンポジット成型時には、サイジング剤の熱分解ガスの発生により、繊維とマトリックス樹脂との接着阻害が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−126375号公報
【特許文献2】特開昭60−88062号公報
【特許文献3】特開平6−107442号公報
【特許文献4】特開2003−165849号公報
【特許文献5】特開2005−48344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる従来の技術背景に鑑み、本発明の目的は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維に対して、優れた樹脂含浸性、接着性および耐熱性を付与できる強化繊維用サイジング剤と、それを用いた合成繊維ストランド、繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の成分を有する強化繊維用サイジング剤であれば、上記課題を解決出来るという知見を得て、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、発熱性官能基含有化合物及び熱可塑性樹脂を必須に含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記発熱性官能基含有化合物の重量割合が5〜50重量%であり、前記熱可塑性樹脂の重量割合が50〜95重量%である。
【0010】
前記発熱性官能基含有化合物は、ビニルエステル化合物及びモノエポキシ化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
前記熱可塑性樹脂は、変性ポリオレフィン系樹脂、共重合ポリエステル系樹脂及び変性ナイロン系樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
サイジング剤の不揮発分を350℃まで昇温したときの該不揮発分の重量減少率は、15%以下であることが好ましい。また、本発明の強化繊維用サイジング剤は、水中に分散したエマルジョンとなっていることが好ましい
【0012】
本発明の合成繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、上記記載の強化繊維用サイジング剤をその不揮発分が0.1〜10重量%となるよう付着させ、サイジング処理したものである。
また、本発明の合成繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、発熱性官能基含有化合物を0.005〜5重量%及び熱可塑性樹脂を0.05〜9.5重量%付着させ、サイジング処理したものである。
【0013】
前記合成繊維ストランドの合成繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維及びポリケトン繊維から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の繊維強化複合材料は、熱可塑性マトリックス樹脂と上記の合成繊維ストランドを含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の強化繊維用サイジング剤で処理して得られる合成繊維ストランドは、優れた樹脂含浸性、接着性および耐熱性を有する。
本発明により得られた合成繊維ストランドを使用することにより、優れた成形性、物性を有する繊維強化複合材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、発熱性官能基含有化合物及び熱可塑性樹脂を必須に含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記発熱性官能基含有化合物の重量割合が5〜50重量%であり、前記熱可塑性樹脂の重量割合が50〜95重量%である。以下に詳細に説明する。
【0016】
〔発熱性官能基含有化合物〕
本発明の強化繊維用サイジング剤は発熱性官能基含有化合物を必須成分として含む。発熱性官能基含有化合物は、熱可塑性マトリックス樹脂とのコンポジット成型の際に、熱溶融した熱可塑性マトリックス樹脂が速やかに繊維ストランド内部に含浸することを促進し、得られた複合材料の物性を向上する成分である。本発明でいう発熱性官能基とは、コンポジット成型の際の熱溶融状態の熱可塑性マトリックス樹脂による熱により励起され、発熱をともなう化学反応が起こり得る官能基を指す。具体的には、ビニル基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられ、これらの中でも、官能基としての安定性などの理由から、ビニル基、エポキシ基が好ましい。
【0017】
発熱性官能基含有化合物は、発熱性官能基を含有する化合物であれば特に限定はなく、例えば、ビニル基、エポキシ基及びイソシアネート基から選択される少なくとも1種の発熱性官能基を含有する化合物等が挙げられる。より詳細には、例えば、ビニルエステル化合物、モノエポキシ化合物、ポリエポキシ化合物等が挙げられる。発熱性官能基含有化合物は単独でもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、併用する熱可塑性樹脂との相溶性や、耐熱性、粘度特性などの観点から、ビニルエステル化合物及び/又はモノエポキシ化合物が好ましい。
【0018】
ビニルエステル化合物とは、化合物主鎖の末端にビニル基、アクリレート基、メタクリレート基等の高反応性二重結合をもつ化合物であり、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も選択できる。具体的には、アルキル(メタ)アクリル酸エステル、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、ベンジル(メタ)アクリル酸エステル、
フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリル酸エステル、グリシジル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル、フェノキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシ−3フェノキシプロパノール(メタ)アクリル酸エステル、ポリアルキレングリコールノニルフェニルエーテル(メタ)アクリル酸エステル、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、アルキレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマーなどが挙げられる。
これらの中でも、耐熱性、可撓性の観点から、2−メタクリロイロキシエチル2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物が好ましく、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物がさらに好ましい。
【0019】
モノエポキシ化合物とは、化合物末端にエポキシ基を一つ有する化合物であり、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も選択できる。具体的には、アルキルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル、ビスフェノールAモノグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンモノグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性の観点から、ポリエチレングリコールアルキルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールフェニルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルグリシジルエーテルが好ましい。
【0020】
〔熱可塑性樹脂〕
本発明の強化繊維用サイジング剤は熱可塑性樹脂を必須成分として含む。熱可塑性樹脂は、合成繊維および熱可塑性マトリックス樹脂との接着性に優れることにより、得られた複合材料の物性を向上させる成分である。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂は単独でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
これらの中でも、強化繊維と熱可塑性マトリックス樹脂とのさらなる接着性の向上、およびサイジング剤を水分散体とする場合において、乳化剤成分の比率を低減、あるいは乳化剤不要とできるなどの観点から、熱可塑性樹脂としては、変性熱可塑性樹脂が好ましい。ここで、変性熱可塑性樹脂とは、熱可塑性樹脂の主鎖を形成し得るモノマー成分以外に、その熱可塑性樹脂の性状を変化させる目的で、異なるモノマー成分を共重合させ、親水性、結晶性、熱力学特性などを改質したものを意味する。
前記変性熱可塑性樹脂としては特に限定はなく、例えば、変性ポリオレフィン系樹脂、共重合ポリエステル系樹脂、変性ナイロン系樹脂、変性ウレタン樹脂などが挙げられる。変性熱可塑性樹脂は単独でもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、合成繊維およびマトリックス樹脂との接着性、耐熱性などの観点から、変性ポリオレフィン系樹脂、共重合ポリエステル系樹脂及び変性ナイロン系樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
変性ポリオレフィン系樹脂とは、エチレン、プロピレンなどのオレフィン系モノマーと、不飽和カルボン酸などのオレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体であり、公知の方法で製造できる。オレフィンと不飽和カルボン酸とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、オレフィンに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。
オレフィン系モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテンなどが挙げられ、これらは単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸などが挙げられ、これらは単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
上記のオレフィン系モノマーと、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合比率としては、共重合の合計重量を100重量%として、オレフィン系モノマー60〜95重量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー5〜40重量%であることが好ましく、オレフィン系モノマー70〜85重量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー15〜30重量%であることがさらに好ましい。オレフィン系モノマーの重量%が60重量%未満であると、繊維およびマトリックス樹脂との接着性が低下することがあり、また、オレフィン系モノマーの重量%が95重量%を超えると、該変性ポリオレフィン樹脂の水分散性が低下し、繊維への均一付与が困難となることがあり好ましくない。
【0024】
なお、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、共重合により導入したカルボキシル基などの変性基が、塩基性化合物で中和されていてもよい。塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属塩;アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。
また、本発明の変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量としては、5000〜200000が好ましく、50000〜150000がより好ましい。重量平均分子量が5000未満であると、耐熱性に劣り、また、200000を超えると、水溶液とする場合の乳化安定性が劣るため好ましくない。
本発明の変性ポリオレフィン樹脂の市販されている具体例としては、ケミパールS100,S300,S75N,WP100(三井化学株式会社製)、ハイテックP−9018(東邦化学工業株式会社製)などを挙げることができる。
【0025】
共重合ポリエステル樹脂とは、ポリカルボン酸またはその無水物と、ポリオールとの共重合体で、かつ末端を含む分子骨格中に親水基を有する化合物であり、公知の方法で製造できる。上記親水基としては、例えばポリアルキレンオキサイド基、スルホン酸塩、カルボキシル基、これらの中和塩などが挙げられる。
【0026】
上記ポリカルボン酸またはその無水物としては、芳香族ジカルボン酸、スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上のポリカルボン酸などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸などが挙げられる
スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸としては、スフホテレフタル酸塩、5−スルホイソフタル酸塩、5−スルホイソフタル酸塩などが挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
3官能以上のポリカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などが挙げられる。
この中で、共重合ポリエステル樹脂の耐熱性を向上させる観点から、全ポリカルボン酸成分の40〜99モル%が芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。また、共重合ポリエステル樹脂を水溶液とする場合の乳化安定性の観点から、全ポリカルボン酸成分の1〜10モル%がスルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。
【0027】
上記ポリオールとしては、ジオール、3官能以上のポリオールなどが挙げられる。
ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
3官能以上のポリオールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどを挙げられる。
【0028】
上記のポリカルボン酸またはその無水物と、ポリオールとの共重合比率としては、共重合の合計重量を100重量%として、ポリカルボン酸またはその無水物40〜60重量%、ポリオール40〜60重量%であることが好ましく、ポリカルボン酸またはその無水物45〜55重量%、ポリオール45〜55重量%であることがさらに好ましい。
共重合ポリエステル樹脂の重量平均分子量としては、3000〜100000が好ましく、10000〜30000がより好ましい。重量平均分子量が3000未満であると、耐熱性に劣り、また、100000を超えると、水溶液とする場合の乳化安定性が劣るため好ましくない。
本発明の共重合ポリエステル樹脂の市販されている具体例としては、バイロナールMD−1985,MD−1480(東洋紡績株式会社製)、ファインテックスES−850,ES−675(DIC株式会社製)などを挙げることができる。
【0029】
変性ナイロン系樹脂とは、分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖や3級アミン成分などの親水基を導入した変性ポリアミド化合物であり、公知の方法で製造できる。
分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖を導入する場合は、例えばポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどの一部または全部をジアミンまたはジカルボン酸に変性したものを共重合して製造される。3級アミン成分を導入する場合は、例えばアミノエチルピペラジン、ビスアミノプロピルピペラジン、α−ジメチルアミノε−カプロラクタムなどを共重合して製造される。
【0030】
〔サイジング剤〕
本発明のサイジング剤は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であり、前記の発熱性官能基含有化合物及び熱可塑性樹脂を必須に含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記発熱性官能基含有化合物の重量割合が5〜50重量%であり、前記熱可塑性樹脂の重量割合が50〜95重量%である。
本構成により、それを付与した合成繊維ストランド(強化繊維)が優れた樹脂含浸性、接着性を得られる理由については必ずしも明らかではないが、以下の様に考えられる。すなわち、本発明のサイジング剤は、発熱性官能基含有化合物を含有するため、該サイジング剤を付与した合成繊維ストランドと熱可塑性マトリックス樹脂とのコンポジット成型の際に、熱溶融状態の熱可塑性マトリックス樹脂による熱により発熱性官能基が励起され、発熱をともなう化学反応が起こる。その繊維表層部分における発熱により、繊維近傍の熱可塑性マトリックス樹脂がより低粘度化し、結果として合成繊維ストランド内部、つまり繊維−繊維間に速やかに含浸するものと考えられる。そして、本発明のサイジング剤は、熱可塑性樹脂を含有するため、合成繊維ストランドおよび熱可塑性マトリックス樹脂との親和性が良好なため、接着性に優れる。
従って、本発明のサイジング剤を、熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂を補強する場合の強化繊維に使用しても、上記のような作用効果は期待できない。
【0031】
本効果を得るための、サイジング剤の不揮発分全体に占める発熱性官能基含有化合物の重量割合は5〜50重量%であり、熱可塑性樹脂の重量割合は50〜95重量%である。発熱性官能基含有化合物の重量割合が5重量%未満であると、前述の樹脂含浸性の効果が得られにくく、また、50重量%を超えると、必然的にもう一方の必須成分である熱可塑性樹脂の重量割合が50重量%未満となり、良好な接着性が得られないことがある。他方の熱可塑性樹脂の重量割合についても同様である。
ここで本発明における不揮発分とは、サイジング剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0032】
熱可塑性マトリックス樹脂と強化繊維(合成繊維ストランド)を含有する繊維強化複合材料は、成型時に熱可塑性マトリックス樹脂を軟化点以上に加温し溶融状態とする必要があるため、強化繊維に付与したサイジング剤の耐熱性が低いと、成型時にサイジング剤が熱分解し、発生ガスにより作業環境が悪化するばかりか、得られた成型物にボイドが発生し、繊維強化複合材料としての物性が低下することがある。特にエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックをマトリックス樹脂とする場合には、成型温度が300℃以上に達するため、このサイジング剤の耐熱性は重要な特性となる。よって、本発明のサイジング剤の不揮発分を350℃まで昇温したときの該不揮発分の重量減少率は、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。350℃における重量減少率は、後述する示差熱天秤を使用して測定される。
【0033】
本発明のサイジング剤は、その性状が水中に分散したエマルジョン(水分散体)でなくてもよく、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に分散させた状態のものも使用できるが、取扱い時の人体への安全性や、火災等の災害防止、自然環境の汚染防止等の観点から、水分散体が好ましい。
【0034】
本発明のサイジング剤を水系乳化して製造する方法については、特に限定はなく、公知の手法が採用できる。たとえば、サイジング剤を構成する各成分を攪拌下の温水中に投入して乳化分散する方法や、サイジング剤を構成する各成分を混合し、得られた混合物を軟化点以上に加温後、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法等が挙げられる。
【0035】
なお、上記水分散体には、製造時の操作性や水分散体の経日安定性を向上させる目的で、上記水分散体の利点を損なわない範囲で、有機溶剤等の水以外の溶媒を含有することができる。
有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールまたはグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が例示できる。その含有量としては、溶媒の種類にもよるが、水分散体の利点を損なわないために、サイジング剤の不揮発分に対して100重量%以下が好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明のサイジング剤が水分散体の場合、その不揮発分の濃度については、特に限定はなく、そのサイジング剤の不揮発分組成により、水分散体としての安定性や、製品として取り扱いやすい粘度等を考慮して適宜選択されるものであるが、製品の輸送コスト等を考慮すれば10重量%以上が好ましく、20重量%がさらに好ましく、30重量%が特に好ましい。
本発明のサイジング剤を構成する上記で説明した以外の成分としては、たとえば、各種界面活性剤や、各種平滑剤、酸化防止剤、難燃剤、抗菌剤、結晶核剤、消泡剤等を挙げることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
特に、界面活性剤は、本発明のサイジング剤中に、水不溶性または難溶性である樹脂成分を有する場合に、乳化剤として使用することによって、水系乳化を効率よく実施することができ、よって、サイジング剤を水分散体にすることができる。
界面活性剤としては、特に限定されず、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤から、公知のものを適宜選択して使用することができる。界面活性剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0038】
非イオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキレンオキサイド付加非イオン系界面活性剤(高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルフェノール、スチレン化フェノール、ベンジルフェノール、ソルビタン、ソルビタンエステル、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド(2種以上の併用可)を付加させたもの)、ポリアルキレングリコールに高級脂肪酸等を付加させたもの、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体等を挙げることができる。
アニオン系界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸(塩)、高級アルコール・高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、スルホン酸塩、高級アルコール・高級アルコールエーテルの燐酸エステル塩等を挙げることができる。
【0039】
カチオン系界面活性剤としては、たとえば、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等)、アミン塩型カチオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルアミン乳酸塩等)等を挙げることができる。
両性界面活性剤としては、たとえば、アミノ酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等)、ベタイン型両性界面活性剤(ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)等を挙げることができる。
【0040】
〔合成繊維ストランド〕
本発明の合成繊維ストランドは、本発明の原料合成繊維ストランドに対して、上記の強化繊維用サイジング剤をその不揮発分が0.1〜10重量%となるよう付着させ、サイジング処理したものであり、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するための強化繊維である。
【0041】
本発明の合成繊維ストランドの製造方法は、前述したサイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む製造方法である。
サイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させて付着物を得る方法については、特に限定はないが、サイジング剤をキスローラー法、ローラー浸漬法、スプレー法その他公知の方法で、原料合成繊維ストランドに付着させる方法であればよい。これらの方法のうちでも、ローラー浸漬法が、サイジング剤を原料合成繊維ストランドに均一付着できるので好ましい。
得られた付着物の乾燥方法については、特に限定はなく、例えば、加熱ローラー、熱風、熱板等で加熱乾燥することができる。
【0042】
また、本発明の合成繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、前記の発熱性官能基含有化合物を0.005〜5重量%及び前記の熱可塑性樹脂を0.05〜9.5重量%付着させ、サイジング処理したものであってもよい。
この場合の合成繊維ストランドの製造方法としては、前述のように発熱性官能基含有化合物および熱可塑性樹脂を含有するサイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む製造方法でもよいが、発熱性官能基含有化合物を含有するサイジング剤および熱可塑性樹脂を含有するサイジング剤を、原料合成繊維ストランドに個別に付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む製造方法であってもよい。
優れた樹脂含浸性、接着性および耐熱性を各種合成繊維ストランドに付与するという効果においては、前者の製造方法であっても後者の製造方法であっても、同一の効果を得ることができる。
【0043】
本発明の合成繊維ストランドは、各種熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の強化繊維として使用され、使用させる形態としては、連続繊維の状態でも、所定の長さに切断された状態でもよい。
【0044】
原料合成繊維ストランドへのサイジング剤の不揮発分の付着量は適宜選択でき、合成繊維ストランドが所望の機能を有するための必要量とすればよいが、連続繊維の状態の合成繊維ストランドにおいては、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%がより好ましい。また、所定の長さに切断された状態のストランドにおいては0.5〜10重量%であることが好ましく、1〜5重量%がより好ましい。
サイジング剤の付着量が少ないと、樹脂含浸性、接着性に関する本発明の効果が得られにくく、また、合成繊維ストランドの集束性が不足し、取扱い性が悪くなることがある。また、サイジング剤の付着量が多過ぎると、合成繊維ストランドが剛直になり過ぎて、かえって取扱い性が悪くなったり、コンポジット成型の際に樹脂含浸性が悪くなったりすることがあり好ましくない。
【0045】
同様に、前記発熱性官能基含有化合物の付着量も適宜選択でき、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.005〜5重量%であることが好ましく、0.025〜2.5重量%であることが好ましい。前記の熱可塑性樹脂の付着量も適宜選択でき、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.05〜9.5重量%であることが好ましく、0.25〜4.75重量%であることが好ましい。
【0046】
本発明のサイジング剤を適用し得る(原料)合成繊維ストランドの合成繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維、ポリケトン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。得られる繊維強化複合材料としての物性の観点から、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維及びポリケトン繊維から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0047】
〔繊維強化複合材料〕
本発明の繊維強化複合材料は、熱可塑性マトリックス樹脂と前述の強化繊維としての合成繊維ストランドを含むものである。合成繊維ストランドは本発明のサイジング剤により処理されているので、合成繊維ストランドおよび熱可塑性マトリックス樹脂との親和性が良好となり、接着性に優れた繊維強化複合材料となる。
ここで、本発明の熱可塑性マトリックス樹脂とは、熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂をいい、1種または2種以上含んでいてもよい。熱可塑性マトリックス樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等が挙げられ、特にポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂が好適である。これら熱可塑性マトリックス樹脂は、合成繊維ストランドとの接着性をさらに向上させるなどの目的で、変性したものであっても差し支えない。
繊維強化複合材料の製造方法としては、特に限定はなく、チョップドファイバー、長繊維ペレットなどによるコンパウンド射出成型、UDシート、織物シートなどによるプレス成型、その他フィラメントワインディング成型など公知の方法を採用できる。
繊維強化複合材料中の合成繊維ストランドの含有量についても特に限定はなく、繊維の種類、形態、熱可塑性マトリックス樹脂の種類などにより適宜選択すればよいが、得られる繊維強化複合材料に対して、5〜70重量%が好ましく、20〜60重量%がより好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)は特に限定しない限り、「重量%」を示す。各特性値の測定は以下に示す方法に基づいて行った。
【0049】
<付着量>
サイジング剤の不揮発分の付着量は、ソックスレー抽出器によるトルエン抽出法により算出した。
【0050】
<樹脂含浸性>
溶融樹脂が充填された直線ダイ、溶融樹脂がスリットから吐出する曲面ダイを有する樹脂含浸テープ製造装置を用い、実施例および比較例で製造した炭素繊維ストランドに、ポリカーボネート樹脂カリバー301−30(住友ダウ株式会社製)を含浸させた樹脂含有ストランドを得た。得られた樹脂含有ストランドの重量に対する炭素繊維ストランドの重量%は30重量%であった。この樹脂含有ストランドを6mm長にカットし、その断面を光学顕微鏡で観察して樹脂含浸状態を下記の評価基準で判定した。
○:炭素繊維ストランド内に未含浸部が全く観察されない状態
△:僅かな未含浸部が観察された状態
×:未含浸部が観察された状態
【0051】
<接着性>
複合材料界面特性評価装置HM410(東栄産業株式会社製)を使用し、マイクロドロップレット法により接着性を評価した。
実施例および比較例で製造した炭素繊維ストランドより、炭素繊維フィラメントを取り出し、複合材料界面特性評価装置にセッティングする。装置上で溶融したポリプロピレン樹脂J−900GP(出光石油化学社製)のドロップを炭素繊維フィラメント上に形成させ、室温で十分に冷却し、測定用の試料を得た。再度測定試料を装置にセッティングし、ドロップを装置ブレードで挟み、炭素繊維フィラメントを装置上で0.06mm/分の速度で走行させ、炭素繊維フィラメントからドロップを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。
次式により界面剪断強度τを算出し、炭素繊維フィラメントとポリプロピレン樹脂との接着性を評価した。
界面剪断強度τ=F/πdl
(F:最大引き抜き荷重 d:炭素繊維フィラメント直径 l:ドロップの引き抜き方向の粒子径)
【0052】
<重量減少率>
サイジング剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去、恒量に達しせしめサイジング剤の不揮発分を得る。得られた不揮発分を重量既知のアルミパンに約4mg採り、重量(W)を測定した。アルミパンに入った不揮発分を示差熱天秤TG−8120(株式会社リガク社製)にセットし、空気中25℃から500℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、350℃時点における重量(W)を測定した。その後重量減少率を次式により算出した。
重量減少率(%)=( (W−W)/W)×100
【0053】
<成分の説明>
ビニルエステル樹脂水分散体 VE−1:ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物水分散体
ビニルエステル樹脂水分散体 VE−2:エチレンオキサイド4mol付加ビスフェノールAアクリル酸付加物水分散体
ビニルエステル樹脂水分散体 VE−3:2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸水分散体
ビニルエステル樹脂水分散体 VE−4:トリメチロールプロパントリメタクリレート水分散体
モノエポキシ化合物 Ep−1:ポリオキシエチレン30mol付加ラウリルアルコールモノグリシジルエーテル
モノエポキシ化合物 Ep−2:ポリオキシエチレン20mol付加ノニルフェノールモノグリシジルエーテル
変性ポリオレフィン系樹脂 P−1:ハイテックP−9018(東邦化学工業株式会社製)
変性ポリオレフィン系樹脂 P−2:ケミパールEP310H(三井化学株式会社製)
変性ポリオレフィン系樹脂 P−3:ケミパールS75N(三井化学株式会社製)
共重合ポリエステル系樹脂 E−1:バイロナールMD−1985(東洋紡績株式会社製)
共重合ポリエステル系樹脂 E−2:バイロナールMD−1480(東洋紡績株式会社製)
共重合ポリエステル系樹脂 E−3:ファインテックスES−850(DIC株式会社製)
共重合ポリエステル系樹脂 E−4:ファインテックスES−670(DIC株式会社製)
変性ナイロン系樹脂 N−1:AQナイロンT−70(東レ株式会社製)
【0054】
〔製造例1〕
ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物/エチレンオキサイド150mol付加硬化ヒマシ油エーテル=80/20(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一なビニルエステル樹脂水分散体VE−1を得た。ビニルエステル樹脂水分散体VE−1の不揮発分は40重量%であった。
【0055】
〔製造例2〕
製造例1において、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物に代わり、エチレンオキサイド4mol付加ビスフェノールAアクリル酸付加物を使用した以外は製造例1と同様にしてビニルエステル樹脂水分散体VE−2を得た。ビニルエステル樹脂水分散体VE−2の不揮発分は40重量%であった。
【0056】
〔製造例3〕
2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸/エチレンオキサイド150mol付加硬化ヒマシ油エーテル/オキシエチレン−オキシプロピレンブロック重合体(分子量15,000、オキシプロピレン/オキシエチレン=20/80(重量比))=70/20/10(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一なビニルエステル樹脂水分散体VE−3を得た。ビニルエステル樹脂水分散体VE−3の不揮発分は40重量%であった。
【0057】
〔製造例4〕
トリメチロールプロパントリメタクリレート/オキシエチレン−オキシプロピレンブロック重合体(分子量15,000、オキシプロピレン/オキシエチレン=20/80(重量比))/オキシエチレン−オキシプロピレンブロック重合体(分子量2,000、オキシプロピレン/オキシエチレン=60/40(重量比))=70/15/15(重量比)よりなる組成物を乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一なビニルエステル樹脂水分散体VE−4を得た。ビニルエステル樹脂水分散体VE−4の不揮発分は40重量%であった。
【0058】
〔実施例1〕
ビニルエステル樹脂水分散体VE−1/変性ポリオレフィン系樹脂P−1:ハイテックP−9018(東邦化学工業株式会社製)を不揮発分比率で30/70(重量比)となるように配合し、水で希釈して濃度3%の水分散体を作成し、サイジング剤未処理炭素繊維ストランド(繊度800tex、フィラメント数12000本)を浸漬・含浸させた後、105℃で15分間熱風乾燥させてサイジング剤処理炭素繊維ストランドを得た。本ストランドについて、前述の方法により付着量、樹脂含浸性、接着性、重量減少率を評価した。その結果を表1に示した。
【0059】
〔実施例2〜16、比較例1〜7〕
実施例1において、表1〜3に示すサイジング剤不揮発成分組成になるようにサイジング剤エマルションを調製した以外は実施例1と同様にして、サイジング剤処理炭素繊維ストランドを得た。各特性値の評価結果を表1〜3に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表1〜3から明らかな様に、比較例と比較して実施例ではいずれも樹脂含浸性および接着性に関し良好な結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、発熱性官能基含有化合物及び熱可塑性樹脂を必須に含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記発熱性官能基含有化合物の重量割合が5〜50重量%であり、前記熱可塑性樹脂の重量割合が50〜95重量%である、強化繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記発熱性官能基含有化合物が、ビニルエステル化合物及びモノエポキシ化合物から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、変性ポリオレフィン系樹脂、共重合ポリエステル系樹脂及び変性ナイロン系樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項4】
サイジング剤の不揮発分を350℃まで昇温したときの該不揮発分の重量減少率が、15%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項5】
水中に分散したエマルジョンとなっている、請求項1〜4のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項6】
原料合成繊維ストランドに対して、請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤をその不揮発分が0.1〜10重量%となるよう付着させ、サイジング処理した、合成繊維ストランド。
【請求項7】
原料合成繊維ストランドに対して、発熱性官能基含有化合物を0.005〜5重量%及び熱可塑性樹脂を0.05〜9.5重量%付着させ、サイジング処理した、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる合成繊維ストランド。
【請求項8】
前記合成繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維及びポリケトン繊維から選択される少なくとも1種である、請求項7又は8に記載の合成繊維ストランド。
【請求項9】
熱可塑性マトリックス樹脂と請求項6〜8のいずれかに記載の合成繊維ストランドを含む、繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2011−21281(P2011−21281A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164704(P2009−164704)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】