説明

強化複合材料ならびにその製造方法および用途

本特許は、エラストマーの層と芳香族ポリアミド繊維の織物の層とを少なくとも含み、芳香族ポリアミド繊維の前記織物の表面がシランで処理されている、一種の積層複合材料を開示する。また、前記積層複合材料の製造方法ならびにゴムパイプラインの製造での用途だけでなく鉄道車両を連結する風防の製造でのその用途を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はある種の強化複合材料に関する。具体的には、本発明は、芳香族ポリアミドの強化エラストマーに関し、また、当該種類の強化複合材料の製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
(繊維強化エラストマー複合材料などの)高強度複合材料は、高い強度、軽量、耐腐食性などの利点を有し、それらは、建設、輸送装置および設備ならびに製造分野で包括的に適用されている。
【0003】
主に2種類の繊維強化エラストマー複合材料があり、1種類は、エラストマー材料中の短繊維混合物で構成される短繊維強化複合材料であり、他の種類は、エラストマーまたは短強化繊維と混合されたエラストマーの層と織強化繊維または不織強化繊維の層とで形成されるエラストマー複合材料である。2種類の繊維複合材料のうち、前者の全体強度は、後者のそれより低く、それ故後者が、建築エンジニアリングおよび製造工業においてエンジニアリング部品を製造するために使用される必要がある。
【0004】
エラストマーまたは短強化繊維と混合されたエラストマーの層と織強化繊維または不織強化繊維の層とで形成されたエラストマー複合材料のうち、芳香族ポリアミド繊維の層と有機シリコンエラストマーの層とで形成された有機複合材料は、一種の高級な、環境にやさしい製品であり、それは、軽量、高強度、耐化学薬品腐食性および難燃性という利点を有する。それは、列車の2つの鉄道車両を連結する波状連結二叉(ripple coupling fork)の製造、高圧パイプの連結部分の製造、自動車および工業パイプラインの製造などに適用することができる。
【0005】
芳香族ポリアミドは非常に不活性な表面を有する。(ナイロンおよびポリエステルなどの)他の合成繊維と比較して、その表面は活性化されるのが困難である。芳香族ポリアミドが、界面崩壊を防ぐために強化ポリマー材料、特にエラストマーに使用されるとき、芳香族ポリアミドの表面は、当該繊維と強化されるべき繊維との間の接合を改善するために処理される必要がある。2つの方法が、芳香族ポリアミド繊維とエラストマーとからなる既存の積層複合材料の連結に主に用いられる。一方法は、繊維の表面を化学的に処理することであり、他の方法は、緩い繊維を織ることである。
【0006】
最も一般的に用いられる表面処理方法は、活性化学剤での化学的活性化を含む。例えば、表面は先ずエポキシ樹脂またはイソシアニドで処理され、次にそれはレゾルシノールホルムアルデヒドラテックス(RFL)接着剤に浸漬される。第1の化学的活性化とレゾルシノールホルムアルデヒドラテックス接着剤への次の浸漬とのこの方法は、芳香族ポリアミドで強化されたゴム(例えば、タイヤおよびコンベヤ工業で使用される天然ゴムまたはスチレン−ブタジエンならびにコンベヤ工業で使用されるクロロプレンゴム)などの、ゴム製品の表面処理に広く用いられている。
【0007】
1961年ほど早期に、Knowlesらによって発明された米国特許第2,990,313号明細書は、ゴムとの接着性を改善するためのブタジエン−ビニルピリジンラテックスでのポリエステル繊維の処理を開示した。この方法は、RFL浸漬法として一般に知られている。Shoafによって発明された米国特許第3,307,966号明細書は、エポキシ樹脂およびイソシアニドに浸漬し、次にRFLに浸漬する表面の浸漬処理方法を開示した。これらの2つの特許に開示された技術の開発は、ポリエステルまたは芳香族ポリアミドとエラストマーとの接着性を改善するために現在広く用いられている二段階浸漬法を形成した。
【0008】
Fukuyamaによって発明された米国特許第6,896,930 B2号明細書は、類似の二段階浸漬法を開示した。この方法は、非常に良好な接着強度を達成することができる。しかしながら、この方法は、レゾルシン、ホルムアルデヒド、アンモニア、水、イソシアニド、またはエポキシ樹脂などの大量の原材料を必要とする。加えて、この方法は、複雑な浸漬剤、および複雑な浸漬設備ならびに(浸漬液の低温硬化、乾燥、固化、熱伸長などの)処理手順を必要とする。加えて、イソシアニドが使用されるとき、この方法は、トルエンなどの、毒性の揮発性溶剤の使用を必要とし、RFL浸漬液の貯蔵は制限され、それは指定の時間枠内で使い尽くされなければならない。異なるエラストマーが使用されるとき、理想の接着を達成するために、相当する様々なラテックスが選択された様々なエラストマーに応じて選択されなければならない。
【0009】
芳香族ポリアミドの層とエラストマーの層との接着の別の方法は、芳香族ポリアミド繊維を一種の緩い織物に織り込むことであり、次に緩い織物上の穴がエラストマーを固定するための安定化点として使用される。例えば、John Porterらによって発明された米国特許第5,763,043号明細書は、一種のオープンウェブ織物を使用した。この方法は、層の崩落[剥離]なしの強い複合材料を製造するために用いることができるが、緩い織物の強度が通常密度織物のそれより低いために、この種の複合材料の強度は、必然的に低下し得るし、高強度用途の要件を満たすことは困難である。加えて、比較的濃密な織物が複合材料の強度を改善するために使用される場合、コーティング材料の粘度は比較的低いものでなければならないかまたは液体コーティング材料は容易に浸透し、次にそれは固化する。例えば、この方法は、Water Fungによる「Coated and laminated Textiles」の第3章(Coated and laminated Textiles、第3章、Woodhead Press、2002年)で参照することができるが、この方法は、コーティング材料の処方の設計空間を大きく減少させるであろう。
【0010】
それ故、既存の技術については、それは、あらゆる種類の方法による芳香族ポリアミド繊維の一種の表面処理方法を探究しようと試み、それは便利で、そして良好な処理効果を有するべきである、すなわち、芳香族ポリアミド繊維の層とエラストマーの層とは、できるだけ高い接着強度を有するべきである。
【0011】
独国の譲受人、Degussa Aktiengesellschaftの米国特許第4,968,560号明細書は、エポキシ樹脂を強化するために使用される一種の芳香族ポリアミドを開示した。具体的には、当該種の芳香族ポリアミドの表面処理方法を開示した、すなわち、芳香族ポリアミド繊維の織物は5〜40℃の温度で1〜120分間有機シリコーン溶液に浸漬され、次に室温で乾燥され、次に60〜120℃の温度で0.1〜15時間熱処理される。最終の好ましい実施形態は、当該方法が芳香族ポリアミド繊維を処理するために用いられる場合、芳香族ポリアミド繊維とエポキシ樹脂との間の接合強度(すなわち、剥離強度)は、最大で38.5%だけ改善できることを証明した。しかしながら、この接合強度は依然として多くの特殊用途の要件を満たすことができない。
【0012】
特開2002−194669号公報は、一種の基材樹脂と良好に接合する一種の芳香族ポリアミド繊維を開示した。この種の繊維は、熱可塑性ベース樹脂もしくは熱硬化性基材樹脂と一種の複合材料を形成することができる。上述の芳香族ポリアミド繊維の表面処理方法は、フィルムフォーマ、シランカップリング剤および界面活性剤からなる表面処理液体中へ繊維を浸漬することであり、次にそれは80〜400℃の温度下に熱処理される。この方法で表面処理された芳香族ポリアミド繊維では芳香族ポリアミド繊維と基材樹脂との間の接合強度が最大で36%改善できることが好ましい実施形態で証明されている。依然として、この接合強度は、多くの特殊用途の要件を満たすことができない。
【0013】
加えて、この処理方法は高い含水率(少なくとも15%)を有する芳香族ポリアミド繊維を使用しなければならず、処理技法ウィンドウは非常に狭いことが当該開示文献におけるデータによって実証されている。高い含水率を有する繊維を使用することの主な欠点は、芳香族ポリアミド繊維の重量が重いことである。繊維の単一ストランドまたは複合ストランドが基材樹脂などの材料を強化するために使用されるとき、重量増加によって発生する欠点は非常に重大であるわけではない。しかしながら、高い含水率の繊維で織られた織物が基材樹脂を強化するために使用される場合、含水率の著しい増加は究極的に、強化された樹脂製品の重量を増加させ、それは重量に対して非常に敏感である用途向けに有利ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
それ故、上述の既存の技術的方法は、芳香族ポリアミド繊維の表面処理によって強化繊維と基材樹脂との間の接合強度を向上させるが、既存の技術的方法は、複雑な処理技法もしくは制限された設計空間を有するか、または接合強度が依然として幾つかの特殊な複合材料の要件を満たすことができないかのどちらかである。それ故、好都合な処理技法、より多くの製品設計空間、およびエラストマーと芳香族ポリアミド繊維との間のより高い接合強度を有する複合材料を開発することが依然として必要である。
【0015】
本発明の目的は、簡単な処理技法および非常に柔軟な製品設計空間を持ちながら、エラストマーと強化芳香族ポリアミド繊維との間のより高い接合強度を有するある種の複合材料を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、前記複合材料の製造方法を提供することであり、それは簡単な処理という利点を有し、かつ、それは環境にやさしいものである。
【0017】
本発明の別の目的は、前記複合材料の用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このように、本発明の一つの観点は、エラストマーの層と芳香族ポリアミド繊維の織物の層とを少なくとも有し、芳香族ポリアミド繊維の前記織物の表面がシランで処理されている、ある種の積層複合材料を提供することである。
【0019】
本発明の別の観点は、前記複合材料のある種の製造方法を提供することであり、この方法は、次の手順:
(a)一種の基材エラストマーを提供すること;
(b)芳香族ポリアミドの一種の織物を提供すること;
(c)芳香族ポリアミドの前記織物がシラン溶液に浸漬され、前記表面が処理されること;および
(d)前記基材エラストマーと表面処理した芳香族ポリアミドの前記織物とが一緒に積層されること
を含む。
【0020】
本発明の別の観点は、ゴムパイプラインの製造での前記複合材料の用途だけでなく鉄道車両を連結する風防の製造での積層複合材料の用途を提供することである。
【0021】
本積層複合材料ならびに製造方法は、次の通り図に関連して詳細にさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に明記される積層材料のサンプルの略図である。
【図2】剥離接着実験に使用される積層複合材料の断面図である。
【図3】剥離接着実験に使用される単一ストランド剥離のサンプルの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に明記される積層複合材料については、少なくともエラストマーの層がある。具体的な用途による、前記エラストマーの特有の制限は全くない。
【0024】
本発明では、通常、「エラストマー」および「ゴム」の用語は、同じ意味で用いることができ、それは熱硬化性エラストマーのみならず、熱可塑性エラストマーをも含む。
【0025】
本発明の好ましい実施形態の1つでは、前記エラストマーの限定されない例には、有機シリコンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、メタクリレートエラストマー、エチレン−メタクリレートコポリマーエラストマー、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレントリマーゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、天然ゴム、ブタジエン−スチレンゴム、クロロ−エーテルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ポリウレタンエラストマーなど、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0026】
ニーズに基づいて、前記エラストマーはまた、可塑剤、充填剤、難燃剤、加硫剤、老化防止剤、加硫活性化剤、酸化防止剤、強化剤、強靱化剤、スコーチ防止剤、抗紫外線安定剤、帯電防止剤、チキソトロピック剤、熱安定剤、滑剤、触媒、顔料などの、一種または多種のこの分野で一般に使用される既存の添加剤を含むことができる。当業者は、彼らの専門的知識だけでなく具体的な用途に基づいて使用されるべき適切な添加剤ならびに量を容易に選択することができる。
【0027】
具体的な用途の要件に従って、強化繊維を本発明に明記されるエラストマーへ加えることができる。繊維強化の方法だけでなく適切な強化繊維に特有の制限も全くなく、それらは、この分野に公知の、そしてエラストマーに適用できる任意の既存の強化繊維であることができる。例えば、特開2002−194669号公報に明記される表面処理した強化繊維および強化繊維入りエラストマーを使用することができ、当該日本特許は、本特許の参考文献および一部として本特許に含められる。
【0028】
本発明に適用できるエラストマーはまた、市場で購入することができ、例えば、以下の製品を使用することができる:Wacker Chemie AGから購入されるElastosil(登録商標)401/70、420/60もしくは420/70の銘柄名の有機シリコンエラストマー;米国のE.I.duPont de Nemours(DuPont)から購入されるHypalon(登録商標)40、クロロスルホン化ポリエチレンエラストマー;または米国のDuPontから購入されるVamac(登録商標)Gエラストマー、エチレン−エラストマー。
【0029】
本発明では、積層複合材料は、芳香族ポリアミド繊維の織物の少なくとも1つの層を含む。本発明では、用語「織物」には、織布または不織布が含まれ、また撚り合わせた芳香族ポリアミド繊維も含まれる。
【0030】
上述の織物を形成する芳香族ポリアミド繊維についての限定されない例は、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)コポリマー繊維、ポリテレフタルアミド繊維、ポリテレフタルアミドコポリマー繊維、ポリ(スルホンアミド)繊維、ポリ(スルホンアミド)コポリマー繊維、ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維など、ならびに任意の二種または多種のポリマーの混合物で形成された繊維から選択することができる。
【0031】
上述の芳香族ポリアミド繊維の含水率に関して特別な制約は全くなく、任意の含水率の芳香族ポリアミド繊維を使用することができる。しかしながら、最終複合材製品の重量を低下させるために、芳香族ポリアミド繊維の含水率は、10%より下、例えば、0.1%〜8%に通常制御され、それは3〜7%などであることが好ましい。
【0032】
好ましい実施形態では、前記織物層は100%芳香族ポリアミド繊維からなる。別の好ましい実施形態では、前記織物は、芳香族ポリアミド繊維と他の繊維との混合物からなり、前記他の繊維には、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリ(ビニルアルコール)繊維、綿繊維、ポリビニルホルマールステープル(ビニロン)繊維、人造繊維、ビスコース繊維、ポリアミド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、玄武岩繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などが含まれる。この方法によって形成される混合物繊維では、芳香族ポリアミド繊維と前記他の繊維との重量比は60〜99:40〜1であり、80〜98:20〜2であることが好ましく;90〜95:10〜5であることがさらに好ましい。
【0033】
用途に依存して、芳香族ポリアミド繊維の繊維性(fibrousness)に関して特別な制約は全くない。本発明での好ましい実施形態の1つでは、前記繊維の繊維サイズは800〜3000デニールであり、1000〜1500デニールであることが好ましい。
【0034】
本発明に明記される織物層のために適用できる繊維は、市場から購入することができる。例えば、それは、米国のDuPontから購入される、その繊維性が1000デニールである、Kevlar(登録商標)129;Kevlar(登録商標)29:米国のDuPontから購入される、繊維性が1500デニールである、一種の芳香族ポリアミド繊維、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド(ポリアミド);Nomex(登録商標)T430:米国のDuPontから購入される、繊維性が1200デニールである、一種の芳香族ポリアミド繊維(ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維)であることができる。
【0035】
具体的な用途に依存して、本発明に明記される層状複合材料中の織物の坪量に関して特別な制約は全くない。好ましい実施形態の1つでは、前記織物層の坪量は50〜800g/m2であり、75〜600であることが好ましく、90〜400であることがさらにより好ましい。
【0036】
本発明に明記される織物層は、任意の従来法で製造することができる。例えば、芳香族ポリアミド繊維は、織機で平織物に織られ、そのたて糸密度およびよこ糸密度はそれぞれ、10cm当たり60〜110撚糸であることができ、70〜100撚糸であることが好ましく、80〜90撚糸であることがさらにより好ましい。
【0037】
具体的な用途に依存して、本発明に適用できる層状複合材料の織物の厚さに関して特別な制約は全くない。本発明の好ましい実施形態の1つでは、前記織物の厚さは0.05〜2mmであり、0.1〜1mmの厚さが好ましく、0.15〜0.5mmの厚さがさらにより好ましい。
【0038】
本発明では、積層複合材料中の芳香族ポリアミド繊維の織物の表面は、芳香族ポリアミド繊維の織物とエラストマーの表面との間の表面接合強度を改善するためにシランで処理される。本発明に明記される芳香族ポリアミド繊維の織物の処理のために適用できるシランに関して特別な制約は全くなく、それは、この分野で芳香族ポリアミド繊維を処理するために一般に使用される任意のシランであることができる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態の1つでは、共通式の次のシランが使用される:
x−((CH2ySi(OR1m(OR2nk、またはSi(OR34
式中、Aは、ビニル基、メタクリル基、脱水グリセロールエーテル基、エポキシシクロヘキシル基、メルカプト基、オクタノイルチオ基、硫黄、ハロゲン、アミノ基、エチレンジアミン基、イソブチルアミノ基、アニリン基、ウレア基、イソシアニド基などの官能基から選択され;
xは1〜4の整数であり;
yは0〜6の整数であり;
1は、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基またはエーテル基であり;
2およびR3は、それぞれ、1〜3個の炭素原子を含有するアルキル基であり;
m、nおよびkは1〜3の整数である。
【0040】
上述のシランは市場から購入することができる。本発明での好ましい実施形態の1つでは、シランは、Momentive Performance Material Co.から購入された。前記シランの詳細は表1に示される。
【0041】
【表1】

【0042】
芳香族ポリアミド繊維の織物に適用できるシランでの表面処理方法に関して特別な制約はなく、それは、この分野における任意の従来法であることができる。本発明での好ましい実施形態の1つでは、シランで表面処理されるべき織物の表面は、シランでの表面処理の効果に影響を及ぼす可能性がある表面上のいかなるグリース、汚れなども除去するために先ずきれいにされる。
【0043】
適用できる表面クリーニング方法は、この分野でよく知られている。本発明での好ましい実施形態の1つでは、表面処理されるべき芳香族ポリアミドの織物は、1g/lの洗剤および1g/lの炭酸ナトリウムを含有する水溶液に80℃で少なくとも30分間浸漬され、次に織物は、泡およびグリースが全くなくなるまできれいな熱水でリンスされる。
【0044】
適用できる洗剤は、粉末洗濯洗剤、液体洗剤ならびに台所で使用される洗剤を含む、市場で販売される家庭用洗剤などの、表面グリースをきれいにするために役立つ任意の洗剤であることができる。
【0045】
表面処理のために使用されるシランは、水または有機溶剤中のシラン溶液であることができる。シラン溶液の調製のための適用できる溶剤に関して特別な制約は全くなく、それは、この分野での任意の一般に使用される溶剤であることができる。適用できる有機溶剤の限定されない例には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、第三ブタノールなどの、C1-8アルキルアルコール;エチルエステル、プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、テトラヒドロフランなどの、エステル;ギ酸、酢酸などの、酸;ならびにそれらの2つまたは多数の溶剤の混合物が挙げられる。
【0046】
好ましい実施形態の1つでは、シランは、適用できる溶剤に溶解され、重量濃度で5〜15%の溶液に調製され、8〜12%の溶液が好ましく、9〜11%の溶液がさらに好ましく、次に濃度を0〜3重量%にするように氷酢酸がこの溶液に加えられ、0.8〜1.2重量%の溶液が好ましい。次に混合溶液は、室温下に0.1〜2時間撹拌され、それを0.3〜1時間撹拌することが好ましい。
【0047】
芳香族ポリアミドの織物についてのシラン溶液での表面処理方法に関して特別な制約は全くなく、この方法は、この分野における任意の公知方法であることができる。本発明での好ましい実施形態の1つでは、表面をきれいにされた織物は、上述のシラン溶液に浸漬され、芳香族ポリアミドの織物が上述のシラン溶液に完全に浸漬される限り、浸漬時間に関して特別な制約は全くない。本発明での好ましい実施形態の1つでは、前記浸漬時間は0.05〜18時間であり、0.1〜12時間であることが好ましくは、0.5〜8時間であることがさらに好ましい。織物を浸漬するための温度に関して特別な制約は全くなく、それは、この分野に公知の任意の浸漬温度であることができる。本発明での好ましい実施形態の1つでは、浸漬温度は10〜40℃であり、室温で浸漬することが好ましい。織物がシラン溶液に浸漬された後、それは取り出され、溶剤が室温で自然に蒸発した後、それはオーブン中で熱処理される。オーブンの通常の温度は50〜250℃であり、80〜200℃であることが好ましい。熱処理の時間は通常0.5〜10分であり、1〜3分であることが好ましい。次に織物は取り出される。
【0048】
本発明では、用語「層状複合材料」、「積層複合材料」および「同じ意味で用いることができる積層複合材料」は、エラストマーの1つの層と芳香族ポリアミドの織物の少なくとも1つの層とを意味する。交互にエラストマーの多層と芳香族ポリアミドの織物の多層とで積層された複合材料であることが好ましい。
【0049】
本発明に明記されるエラストマーとシラン処理された織物とを積層することにより積層材料を形成する方法に関して特別な制約は全くなく、それは、この分野における任意の従来の公知方法であることができる。本発明での好ましい実施形態の1つでは、正方形金型で、厚さが3mmの、金型と同じ寸法の未硬化エラストマーの試験片を金型に入れ、次に同じサイズの織物がカットされ、エラストマーの表面上に置かれ、次に同じサイズにされたエラストマーの別の層が織物の上に置かれ、次に金型の他の半分が閉じられる。金型は、予熱された平らな硬化機に入れられ、そしてこの予熱温度は14℃〜200℃であり、160〜180℃であることが好ましく、165〜170℃であることがさらに好ましい。次に圧力がかけられる。芳香族ポリアミド繊維とエラストマーとをうまく置くことができる限り、かけられる圧力に特別な制約は全くない。本発明での好ましい実施形態の1つでは、かけられる圧力は5〜10トンであり、6〜8トンであることが好ましく、6.5〜7.5トンであることがさらに好ましい。次に材料は、140〜200℃の温度で10〜30分間硬化させられ、160〜180℃であることが好ましく、165〜170℃であることがさらに好ましく、15〜25分の硬化時間であることが好ましく、18〜22分であることがさらに好ましい。その後、金型は取り出され、次にサンプルが金型から取り出され、室温で自然に冷却される。冷却時間は、8〜15時間など、通常8時間より長い。図1は、本発明の好ましい実施形態に明記されるレイド複合材料のサンプルの略図である。本発明に明記されるレイド材料は、織物4と、織物4の2つの反対面上に接合されているエラストマー2とを含む。剥離接着実験を容易にするために、幅25mmのポリエステル薄膜のストライプ3が、硬化プロセス後にエラストマー2と織物4とを容易に分離するために図1に示されるサンプル中の織物4とエラストマー2との間の面へ挿入される。この実施形態のレイド複合材料の織物強化エラストマーでは、綿ライニングの層1が、図1に示されるようにエラストマー層2の外面上に適用される。
【0050】
シランによって処理されていない織物で形成されたエラストマーレイド複合材料と比較して、本発明において、織物を強化するためのシラン処理によって、エラストマー(すなわち、強化されるべき基材)と織物との間の接着強度は、少なくとも100%だけ増加し、それは、最高で1266%に達し、こうして高い接合強度を必要とする用途の特別な要件を満たすことができる。一方、現在の技法は、芳香族ポリアミド繊維と基材(エポキシ樹脂)との間の接合強度(剥離強度)を38.5%だけ改善できるにすぎない(米国特許第4,968,560号明細書)か、または芳香族ポリアミド繊維と基材(熱可塑性基材樹脂もしくは熱硬化性基材樹脂)との間の接合強度(剥離強度)を36%だけ改善できるにすぎない(特開2002−194669号公報)。
【0051】
他方で、本発明はまた、以下の手順:
(a)一種の基材エラストマーを提供する;
(b)芳香族ポリアミドの一種の織物を提供する;
(c)芳香族ポリアミドの前記織物がシラン溶液に浸漬され、前記表面が処理される;および
(d)前記基材エラストマーと表面処理した芳香族ポリアミドの前記織物とが一緒に積層される
を含む、積層複合材料用の一種の製造方法を提供する。
【0052】
他方で、本発明は、列車の鉄道車両を連結する風防の製造での本積層複合材料の用途を提供する。
【0053】
他方で、本発明は、ゴムパイプラインの製造でのこの種の複合材料の用途を提供する。
【実施例】
【0054】
本発明は、以下の好ましい実施形態でさらに説明される。追加の記載を除けば、本発明の説明または好ましい実施形態では、部分または百分率の全ては重量部または重量百分率である。
【0055】
以下の材料を、次の通り好ましい実施形態において使用する:
芳香族ポリアミド繊維
Kevlar(登録商標)129:−DuPont、米国から購入される、一種の芳香族パラ−ポリアミド繊維(ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド))、1000デニール;
Kevlar(登録商標)29:−DuPont、米国から購入される、一種の芳香族パラ−ポリアミド繊維(ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド))、1500デニール;
Nomex(登録商標)T430:−DuPont、米国から購入される、一種の芳香族メタ−ポリアミド繊維(ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド))、1200デニール。
【0056】
エラストマー
Elastosil(登録商標)401/70:−Wacker Chemie AGから購入される、一種の有機シリコンエラストマー;
Elastosil(登録商標)420/60:−Wacker Chemie AGから購入される、一種の有機シリコンエラストマー;
Elastosil(登録商標)420/70:−Wacker Chemie AGから購入される、一種の有機シリコンエラストマー;
Hypalon(登録商標)40:−DuPont、米国から購入される、一種のクロロスルホン化ポリエチレンエラストマー;
Vamac(登録商標)G:−DuPont、米国から購入される、一種のエチレン−アクリレートコポリマーエラストマー;
天然ゴム:−それは以下の処方でミルにかけられる:52重量部のNo.1の畝のある燻製シート(Ribbed Smoked Sheet)、13重量部のブタジエン−スチレンゴム1500、22.8重量部のN330カーボンブラック、2.6重量部のpara−flux(C.P.Hallによって製造される)、1.3重量部のステアリン酸、3.26重量部の酸化亜鉛、0.8重量部の促進剤MBS、1.3重量部のフェノール−ホルムアルデヒド樹脂SP−1068、1.0重量部の老化防止剤TMQ、および2.2重量部の不溶性硫黄。
【0057】
シラン
A−174:Momentive Performance Materials Co.Inc.から購入される、一タイプのγ−トリメトキシシランプロピルメタクリレート
A−187:Momentive Performance Materials Co.Inc.から購入される、一タイプのγ−グリシドールエーテルプロピルトリメトキシシラン
A−186:Momentive Performance Materials Co.Incから購入される、一タイプのβ−(3、4−エポキシシクロヘキサン)エチルトリメトキシシラン
A−189:Momentive Performance Materials Co.Inc.から購入される、一タイプのγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、
A1120:Momentive Performance Materials Co.Inc.から購入される、一タイプのN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン
A−1524:Momentive Performance Materials Co.Inc.から購入される、一タイプのγ−カルバミノプロピルトリメトキシシラン
A−Link 35:Momentive Performance Materials Co.Inc.から購入される、一タイプのγ−トリメトキシシランプロピルイソシアネート。
【0058】
芳香族ポリアミドの織物の製造
(1)Kevlar(登録商標)クロス802G
織機(モデル番号は、Dornier Companyから購入される、Rapier PTV4/Sである)で、Kevlar(登録商標)129繊維を平織布に織り、織物のたて糸およびよこ糸密度は10cm当たり全て87撚糸であり、坪量は198g/m2であり、厚さは0.25mmであった。以下の好ましい実施形態では、当該クロスを802Gのコードに割り当てた。
【0059】
次の精製クリーニング方法を、802Gの表面上のグリースを除去するために用いた:それを溶液(熔解させた1g/lのポリ(エチレングリコール)オクチルフェニルエーテル(銘柄名Triton X−100)および1g/lの炭酸ナトリウムの80℃水溶液)に浸漬し、クロスを少なくとも30分間浸漬し、次にそれを、泡およびグリースが全くなくなるまできれいな熱水でリンスした。以下の好ましい実施形態では、精製しきれいにしたクロスを802Sのコードに割り当てた。
【0060】
(2)Kevlar(登録商標)撚糸
リング精紡糸機(すなわち、リング撚糸機)(モデル番号は、Twistechnology S.L,スペイン国から購入される、TDM−10/250である)で、1500デニールのKevlar(登録商標)29繊維を1500/2×3へ撚り、撚りの強さは、Z方向の最初の撚りについて195撚り/メートル、繰り返し撚りについて195撚り/メートルであった。
【0061】
(3)Nomex(登録商標)クロス
織機(モデル番号は、Dornier Companyから購入される、Rapier PTV 4/Sである)で、Nomex(登録商標)T430繊維を平織布に織り、織物のたて糸およびよこ糸密度は10cm当たり全て91撚糸であり、坪量は460g/m2であり、厚さは0.6mmであった。以下の好ましい実施形態では、当該クロスを602Gのコードに割り当てた。
【0062】
シラン溶液の調製
表2に示されるシランを、表2に示される溶剤に溶解させ、10%の重量濃度を有する溶液へ調製し、次に氷酢酸を、濃度を1%にするように溶液へ加えた。幾つかのシランについては、氷酢酸を加えることは必要ではない。混合溶液を室温で1時間撹拌した。比較実験の目的のために、ブランク溶液、すなわち、シランなしの溶剤と酢酸との溶液をまた調製した。溶液の詳細な情報を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
織物の表面のシラン処理
上で製造された織物を、上で調製された溶液にそれぞれ浸漬した。浸漬時間を表3に示す。次に織物を取り出し、溶剤を室温で自然に蒸発させた後、それらを、シラン処理した織物のサンプルを得るために一定期間オーブン中で熱処理した。
【0065】
【表3】

【0066】
芳香族ポリアミド織物とエラストマーとの積層複合材料のサンプルの調製
積層複合材料のサンプルの調製手順は次の通りである:正方形金型で、厚さが3mmの、金型と同じ寸法の未硬化エラストマーの試験片を金型に入れ、次に同じサイズの織物をカットし、エラストマーの表面上に置き、次に同じサイズにしたエラストマーの別の層を織物の上に置いた。実験の便宜のために、積層材料で、エラストマーを強化し、そしてエラストマーを後の剥離接着実験で変形させないために綿クロスの層をエラストマーの上面および底面に取り付けた。次に硬化後にエラストマーと織物とを容易に分離するために幅25mmのポリエステル薄膜のストライプを織物とエラストマーとの間の面へ挿入した。サンプルの積層の略図を図1に示す。
【0067】
試験用の積層複合材料を製造した後、金型の他の半分を閉じた。金型を、165℃の温度での予熱された平らな硬化機(PHI Company、米国から購入される、モデルPHI S30R1818S−3LCS−L−M−S7−19)に入れた。7トンの圧力を金型にかけ、それを165℃〜170℃の温度で20分間硬化させた。次に、金型を取り出し、サンプルを金型から取り出し、剥離接着実験を実施する前に23℃の温度および55%の相対湿度で少なくとも8時間自然に冷却した。
【0068】
接着実験
図2に示されるように、含硫積層複合材料を、ポリエステル薄膜3の方向に垂直の方向に沿って長さ100mmおよび幅30mmのサンプルストライプ5へカットした。次に、幅25mmの領域を縦方向に沿ってマークし、エラストマー2の一側面を、織物4を損傷することなく織物4に達するまで、マークの方向に沿って(すなわち、図2に示される点線6に沿って)注意深くカットする。次にエラストマーと織物4とを、ポリエステル薄膜3で分離された側から注意深く分離する。
【0069】
織物なしの分離したエラストマーを、伸び試験機(Instron Company、米国から購入される、モデル5567)の上方クリッパーで留め、織物の端を下方クリッパーで留めた。次に100mm/分の速度で織物とエラストマーとを分離するためにクリッパーのスイッチを入れた。伸び試験機に接続されたコンピューターが剥離の応力−歪み曲線を自動的に記録した。最後に、織物とエラストマーとの剥離の最大値および平均値をまとめた。平均値は、ISO標準6133:1998に従って計算した。
【0070】
好ましい実施形態1〜2および比較実施形態1
本好ましい実施形態は、異なるシラン溶液およびブランク溶液で表面処理することによって形成される織物のエラストマーへの剥離接着強度に対する影響、ならびに浸漬後の熱処理の異なる条件下の織物の剥離接着強度に対する影響を比較する。
【0071】
前に記載されたように、表面処理した芳香族ポリアミド織物のサンプル3およびサンプル4と対照サンプルとを調製した。表面処理用のシラン溶液は、10重量%のγ−グリシドールエーテルプロピルトリメトキシシランの溶液(シラン対イソプロパノール対酢酸の重量比は10:90:10であった)であった。織物をシラン溶液に12時間浸漬した。織物を、図1に示されるようにElastosil(登録商標)401/70と積層し、図2に示される方法を、カッティング後の剥離接着特性を試験するために用いた。各サンプルについて、並列実験を5回実施し、5回の実験のデータの算術平均がサンプルの平均剥離接着強度であった(ニュートンが単位である)。結果を表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
上の実験結果から理解することができるように、2つの異なる種類の処理条件が好ましい実施形態1および好ましい実施形態2で用いられたとき、剥離接着力の改善は、700%超だけ改善され(好ましい実施形態1では、改善は777%であり、好ましい実施形態2では、改善は703%であった)、これは、本特許に明記される積層材料中の強化織物とエラストマーとの間の接着強度が、既存技術での強化繊維と基材材料との間の接着強度(未処理繊維と比較して、強化繊維とエポキシ樹脂との間の接着強度は、米国特許第4,968,560号明細書で明記される最大で38.5%だけ増加し;特開2002−194669号公報では、強化繊維と基材樹脂との間の接着強度は、最大で36%だけ増加する)より著しく高いことを証明している。とりあえず、上の実験結果はまた、接着強度が、既存技法(特開2002−194669号公報などの)で実証された狭い処理ウィンドウと比較して、非常に広い範囲の熱処理で著しく増加し、著しい改善があることを明らかに示す。
【0074】
好ましい実施形態3〜5および比較実施形態2〜4
本実施形態および比較実施形態では、同じエラストマーについて、芳香族ポリアミド繊維の精製クリーニング、織物の表面処理用の溶液、ならびに後処理方法の最終剥離接着強度に対する影響を比較した。
【0075】
調製された表面処理芳香族ポリアミド織物サンプルおよび対照サンプルについての表5で理解することができるように、それらを、図1に示されるようにElastosil(登録商標)420/60エラストマーと積層し、サンプルを図2に示される方法でカットし、そして剥離接着特性を試験した。各サンプルについて、並列実験を5回実施し、5回の実験のデータの算術平均がサンプルの平均剥離接着強度であった(ニュートンが単位である)。結果を表5に示す。
【0076】
【表5】

【0077】
上の実験結果から、
(a)シランなしのブランク溶液では剥離接着強度に対する有利な影響は全くない;
(b)好ましい実施形態3のデータと好ましい実施形態4のデータとを比較することによって、シラン溶液への短い浸漬時間でさえ、剥離接着強度がまた著しく増加し得る、すなわち、浸漬時間の延長が剥離接着強度を著しく改善し得ないことを理解できる;
(c)好ましい実施形態4と好ましい実施形態5とを比較することによって、予想通り、シラン処理前の芳香族ポリアミド織物の精製クリーンが剥離接着強度を著しく増加させ得ることを理解できる
ことを明らかに理解することできる。
【0078】
好ましい実施形態6〜11
本好ましい実施形態は、シラン処理の最終剥離接着強度に対する影響を試験した。
【0079】
表面処理した芳香族ポリアミド織物802Sを前に記載されたように製造し、表面処理のために使用されるシラン溶液を表6に示した。シラン溶液中の織物の浸漬時間は1時間であり、後処理のオーブン温度は80℃であり、オーブン中の時間は3分であった。織物を、図1に示されるようにElastosil(登録商標)401/70のエラストマー上に置き、材料を図2に示される方法でカットした後に剥離接着特性を試験した。各サンプルについて、並列実験を5回実施し、5回の実験のデータの算術平均がサンプルの平均剥離接着強度であった(ニュートンが単位である)。結果を表6に示す。
【0080】
【表6】

【0081】
異なる種類のシランが接着性改善の異なる効果を実証するが、シランでの表面処理が芳香族ポリアミド織物とエラストマーとの間の剥離接着強度を、38.5%以下である、既存の技法での剥離接着強度の増加より大きい、105%だけ少なくとも増加させ得ることを上の実験結果から理解することができる。
【0082】
好ましい実施形態12〜16、比較実施形態5
本好ましい実施形態および比較実施形態は、異なるシラン処理剤のNomex(登録商標)織物と有機シリコンエラストマーとの間の剥離接着強度に対する影響を比較した。
【0083】
表面処理した芳香族ポリアミド織物Nomex(登録商標)を前に記載されたように製造し、表面処理のために使用されるシラン溶液を表7に示す。シラン溶液中の織物の浸漬時間は1時間であり、後処理のオーブン温度は80℃であり、オーブン中の時間は3分であった。織物を、図1に示されるようにElastosil(登録商標)420/70のエラストマー上に置き、材料を図2に示される方法でカットした後に剥離接着特性を試験した。各サンプルについて、並列実験を5回実施し、5回の実験のデータの算術平均がサンプルの平均剥離接着強度であった(ニュートンが単位である)。結果を表7に示す。
【0084】
【表7】

【0085】
シラン処理したNomex(登録商標)織物と有機シリコンエラストマーとの間の剥離接着強度が少なくとも200%だけ増加し、最大で12倍である得ることを上の実験結果から理解することができる。
【0086】
好ましい実施形態17〜31、比較実施形態6〜8
本好ましい実施形態および比較実施形態は、接着力を測定するための一種の異なる方法を使ってシラン溶液で処理した芳香族ポリアミドと異なるエラストマーとの間の剥離接着強度を試験した。
【0087】
剥離接着実験の試験方法
Kevlar(登録商標)29繊維の2つの撚糸(1500デニール、米国のDuPontから購入される)を先ず、Z方向に沿って195撚り/メートルに撚り、次に既に撚られた1500/2繊維の3つの撚糸を、S方向に沿って195撚り/メートルに撚ってタイト構造の撚糸を形成し、当該サンプルをKevlar(登録商標)1500/2×3のコードに割り当てた。シラン処理方法は、浸漬時間が1時間であり、熱処理の温度が80℃であり、熱処理の時間が3分で、織物についてのものと同じものであった。
【0088】
適切なサイズのエラストマーの試験片を金型に入れ、幅25mmのポリエステル薄膜のストリップをエラストマーの端に置き、次にKevlar(登録商標)1500/2×3を、ポリエステル薄膜のストライプに垂直な方向に沿ってエラストマーの表面上に平らに置いた。Kevlar(登録商標)1500/2×3上に、エラストマーの別の層を置かなかった。次に、綿ライニングの層をエラストマーの背面に取り付けた。金型を閉じ、それをヒートブレスし、前に記載された同じ硬化方法で硬化させた。ヒートプレッシングの条件は、前に記載された条件と同じものであった。当該方法は、単一撚糸剥離として知られている。前記方法で調製されたサンプルの略図を図3に示す。
【0089】
図3に示されるように、エラストマー2の一端に、ポリエステル薄膜3のストライプがあり、Kevlar(登録商標)1500/2×3撚糸20の一端をエラストマー2と複合させ、材料を硬化させた後、当該エラストマー2を埋め込み、エラストマー2を、ポリエステル薄膜2に近接したKevlar(登録商標)1500/2×3撚糸10の他端にさらした。
【0090】
ヒートプレスされ、硬化したサンプルは、剥離試験を実施する前に少なくとも8時間標準実験室に置かれていた。エラストマーと複合させていないKevlar(登録商標)1500/2×3 10の一端を、伸び試験機(Instron Company、米国から購入される、モデル5567)の上方クリッパーで留め、ポリエステル薄膜3付きのエラストマー2の端を下方クリッパーで留めた。剥離は100mm/分の速度であった。平均剥離接着強度は、ISO標準6133:1998に従って計算した。
【0091】
表8は、異なるシランで処理されたKevlar(登録商標)1500/2×3と異なるエラストマーとの間の剥離接着強度のデータをリストする。
【0092】
【表8−1】

【表8−2】

【0093】
上の実験結果から、芳香族ポリアミド繊維が撚糸へ撚られたとき、シランで処理された撚糸は、織機で織られた織物のようにエラストマー基材との良好な接着効果を得ることができ、従って積層材料の層の崩落防止の要件を満たすことを理解することができる。
【0094】
要約すれば、本発明に明記される方法で製造される積層複合材料は、高強度の接着性、簡単な処理、広い処理ウィンドウおよび織物の広範な設計空間という利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーの少なくとも1つの層、及び、芳香族ポリアミド繊維の織物の少なくとも1つの層を含有し、ポリアミド繊維の前記織物の表面がシランで処理されている、ある種の積層複合材料。
【請求項2】
前記エラストマーが、有機シリコンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、メタクリレートエラストマー、エチレン−メタクリレートコポリマーエラストマー、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレントリマーゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、天然ゴム、ブタジエン−スチレンゴム、クロロ−エーテルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ポリウレタンエラストマーなど、ならびにそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記織物を形成するための前記芳香族ポリアミド繊維が、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)コポリマー繊維、ポリテレフタルアミド繊維、ポリテレフタルアミドコポリマー繊維、ポリ(スルホンアミド)繊維、ポリ(スルホンアミド)コポリマー繊維、ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維など、ならびに、任意の2種または多種のポリマーの混合物で形成された繊維から選択される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記芳香族ポリアミド繊維の含水率が0.1%〜10重量%である、請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
前記織物が100%芳香族ポリアミド繊維からなる、請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
前記織物が芳香族ポリアミド繊維と他の繊維との混合物からなり、前記他の繊維が、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリ(ビニルアルコール)繊維、綿繊維、ポリビニルホルマールステープル(ビニロン)繊維、人造繊維、ビスコース繊維、ポリアミド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、玄武岩繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などから選択され;この方法で形成される混合物繊維において、芳香族ポリアミド繊維と前記他の繊維との重量比が60〜99:40〜1である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項7】
前記芳香族ポリアミド繊維の繊維性が200〜10000デニールである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項8】
前記織物層の坪量が50〜600g/m2である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項9】
前記織物層の厚さが0.02〜2mmである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項10】
表面処理のために使用される前記シランが一般式:
x−((CH2ySi(OR1m(OR2nk、またはSi(OR34
(式中、Aは、ビニル基、メタクリル基、脱水したグリセロールエーテル基、エポキシシクロヘキシル基、メルカプト基、オクタノイルチオ基、硫黄、ハロゲン、アミノ基、エチレンジアミン基、イソブチルアミノ基、アニリン基、ウレア基、イソシアニド基から選択され;
xは1〜4の整数であり;
yは0〜6の整数であり;
1は、1〜4個の炭素原子を含有するアルキル基またはエーテル基であり;
2およびR3は、それぞれ1〜3個の炭素原子を含有するアルキル基であり;そして
m、nおよびkは1〜3の整数である)
を有する、請求項1に記載の複合材料。
【請求項11】
表面処理のために使用される前記シランが、γ−トリメトキシシランプロピルメタクリレート、γ−グリシドールエーテルプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキサン)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−カルバミノプロピルトリメトキシシランまたはγ−トリメトキシシランプロピルイソシアネートから選択される、請求項10に記載の複合材料。
【請求項12】
以下の手順:
(a)一種の基材エラストマーを提供すること;
(b)芳香族ポリアミドの一種の織物を提供すること;
(c)芳香族ポリアミドの前記織物がシラン溶液に浸漬され、前記表面が処理されること;および
(d)前記基材エラストマーと表面処理した芳香族ポリアミドの前記織物とが一緒に積層されること
を含む、請求項1に記載の複合材料。
【請求項13】
水または有機溶剤中のシラン溶液が表面処理のために使用される、請求項12に記載の複合材料。
【請求項14】
前記シラン溶液を調製するための前記溶剤が、水、C1-8アルキルアルコール、エーテル、酸、ならびにそれらの2種または多種の混合物から選択することができる、請求項13に記載の複合材料。
【請求項15】
前記C1-8アルキルアルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、第三ブタノールなどから選択することができ;前記エステルが、エチルエステル、プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、テトラヒドロフランなどから選択することができ;前記酸が、ギ酸、酢酸などから選択することができる、請求項14に記載の複合材料。
【請求項16】
前記シラン溶液が、シランを非酸性溶剤中に溶解させた3〜15重量%の溶液である、請求項14または請求項15に記載の複合材料。
【請求項17】
前記シラン溶液が、シランを非酸性溶剤中に溶解させた3〜15重量%の溶液であり、次いでこの濃度を0.5〜3重量%にするように氷酢酸が加えられる、請求項16に記載の複合材料。
【請求項18】
シラン溶液中の浸漬時間が0.01〜18時間である、請求項12に記載の複合材料。
【請求項19】
芳香族ポリアミドの前記織物の表面が処理された後、方法がまた、50〜250℃のオーブン中0.5〜10分間の前記織物の熱処理の手順を含む、請求項11に記載の複合材料。
【請求項20】
前記積層複合材料が、鉄道車両を連結する風防の製造に用途を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項21】
前記複合材料がゴムパイプラインの製造に用途を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−504515(P2012−504515A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531107(P2011−531107)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/059618
【国際公開番号】WO2010/042465
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】