説明

弾性境界波装置の製造方法及び弾性境界波装置

【課題】周波数ばらつきが少ない弾性境界波装置の製造方法を提供する。
【解決手段】第1〜第3の媒質1〜3がこの順序で積層されており、第1の媒質1と第2の媒質2との境界に電極5が配置されている弾性境界波装置の製造方法であって、第1の媒質1と第2の媒質2とが積層されており、第1,第2の媒質1,2の境界に電極5が配置されている積層体を用意し、該積層体段階で、第2の媒質2の膜厚を調整することにより周波数、または弾性表面波、擬似弾性境界波もしくは弾性境界波の音速を調整し、調整後に、第2の媒質と弾性境界波の音速及び/または材料が異なる第3の媒質3を形成する、弾性境界波装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒質の間の境界を伝搬する弾性境界波を利用した弾性境界波装置の製造方法及び該弾性境界波装置に関し、より詳細には、電極の両側の媒質のうちの一方の媒質の外側にさらに媒質が積層されている構造を有する弾性境界波装置の製造方法及び弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話用のRFフィルタ及びIFフィルタ、並びにVCO用共振子及びテレビジョン用VIFフィルタなどに、各種弾性表面波装置が用いられている。弾性表面波装置は、媒質表面を伝搬するレイリー波や第1漏洩波などの弾性表面波を利用している。
【0003】
弾性表面波は、媒質表面を伝搬するため、媒質の表面状態の変化に敏感である。従って、媒質の弾性表面波伝搬面を保護するために、該伝搬面に臨む空洞を設けたパッケージに弾性表面波素子が気密封止されていた。このような空洞を有するパッケージが用いられていたため、弾性表面波装置のコストは高くならざるを得なかった。また、パッケージの寸法は、弾性表面波素子の寸法よりも大幅に大きくなるため、弾性表面波装置は大きくならざるを得なかった。
【0004】
他方、弾性波の中には、上記弾性表面波以外に、固体間の境界を伝搬する弾性境界波が存在する。
【0005】
例えば、下記の非特許文献1には、126°回転Y板X伝搬のLiTaO基板上にIDTが形成されており、IDTとLiTaO基板上にSiO膜が所定の厚みに形成されている弾性境界波装置が開示されている。ここでは、ストンリー波と称されているSV+P型の弾性境界波が伝搬することが示されている。なお、非特許文献1では、上記SiO膜の膜厚を1.0λ(λは弾性境界波の波長)とした場合、電気機械結合係数は2%になることが示されている。
【0006】
弾性境界波は、固体間の境界部分にエネルギーが集中した状態で伝搬する。従って、上記LiTaO基板の底面及びSiO膜の表面にはエネルギーがほとんど存在しないため、基板や薄膜の表面状態の変化により特性が変化しない。従って、空洞形成パッケージを省略することができ、弾性波装置のサイズを低減することができる。
【0007】
他方、弾性波を利用したフィルタや共振子では、共振周波数や中心周波数のばらつきを抑制するために、様々な周波数調整方法が提案されている。例えば、下記の特許文献1には、バルク波の厚み振動を利用した圧電セラミックフィルタにおいて、圧電セラミック基板の表面に形成されている共振電極に絶縁性物質を蒸着することにより周波数調整を行う方法が開示されている。
【0008】
また、下記の特許文献2には、表面波を利用した表面波装置において、圧電基板上に形成されているIDT電極及び反射器を覆うようにSiN膜が形成され、該SiN膜の膜厚調整により中心周波数や共振周波数が調整されている。
【0009】
他方、下記の特許文献3には、図12に示す弾性境界波装置が開示されている。弾性境界波装置100では、圧電性の第1の基板101上に、くし歯電極102,102が形成されている。そして、くし歯電極102,102を覆うように誘電体膜103が形成されている。そして、誘電体膜103の上面に、Si系材料からなる第2の基板104が積層されている。弾性境界波装置100では、Si系材料からなる第2の基板104がくし歯電極102,102と直接接触しておらず、間に誘電体膜103が配置されているため、くし歯電極102,102間の寄生抵抗を低減することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−191193号公報
【特許文献2】特開平2−301210号公報
【特許文献3】WO98/51011号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「Piezoelectric Acoustic Boundary Waves Propagating Along the Interface Between SiO2 and LiTaO3」IEEE Trans. Sonics and ultrason.,VOL.SU-25,No.6,1978 IEEE
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述した弾性境界波装置では、空洞形成パッケージを必要としないため、弾性波装置の小型化を図ることができる。しかしながら、本願発明者の実験によれば、弾性境界波装置においても、弾性表面波装置の場合と同様に、製造ばらつきにより、共振周波数や中心周波数がばらつきがちであった。特に、弾性境界波装置では、第1の媒質上に電極が形成された後に、第2の媒質が該電極を覆うように形成される。そのため、第2の媒質の製造ばらつきが生じると、弾性境界波装置の周波数ばらつきが大きく発生しがちであった。
【0013】
他方、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、バルク波装置の周波数調整に際し、バルク波基板表面に絶縁性物質が蒸着されており、特許文献2に記載の方法では、表面波基板上にSiN膜が付与されて周波数調整が行われていた。すなわち、従来のバルク波装置や弾性表面波装置では、振動エネルギーが基板表面に分布することを利用し、基板表面に絶縁体や金属を付着させることにより周波数調整が行われていた。また、基板表面の電極をエッチングしたり、基板の表面をエッチングすることによって周波数を調整する方法も知られている。
【0014】
しかしながら、弾性境界波装置では、装置表面には境界波の振動エネルギーはほとんど分布しないため、このような周波数調整方法を用いることはできない。すなわち、基板表面に絶縁物などの異物を付着させたり、基板表面を削ったとしても、共振周波数や通過帯域は変化しない。
【0015】
特許文献3に記載の弾性境界波装置100では、上記誘電体膜103を介在させることにより寄生抵抗の低減が図られているが、完成後には周波数調整はできなかった。
【0016】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、製造ばらつきなどに起因する周波数ばらつきを効果的に抑制することができ、従って所望通りの周波数特性を有する弾性境界波装置を安定にかつ確実に提供することを可能とする製造方法、並びに周波数ばらつきが少ない所望通りの周波数特性を有する弾性境界波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願の第1の発明は、第1〜第3の媒質がこの順序で積層されており、かつ第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されている弾性境界波装置の製造方法であって、第1の媒質と第2の媒質とが積層されており、第1,第2の媒質の境界に電極が配置されている積層体を用意する工程と、前記積層体段階で第2の媒質の膜厚により周波数、または弾性表面波、擬似弾性境界波もしくは弾性境界波の音速を調整する調整工程と、前記調整工程後に、弾性境界波の音速及び/または材料が第2の媒質とは異なる第3の媒質を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
第1の発明のある特定の局面では、第3の媒質の厚みが、弾性境界波の波長をλとしたときに、0.5λより大きい。
【0019】
本願の第2の発明は、第1〜第4の媒質がこの順序で積層されており、かつ第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されている弾性境界波装置の製造方法であって、第1〜第3の媒質がこの順序で積層されており、かつ第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されている積層体を用意する工程と、前記積層体段階で、周波数、または弾性表面波、擬似弾性境界波もしくは弾性境界波の音速を調整する調整工程と、前記調整工程後に、音速及び/または材料が第3の媒質とは異なる第4の媒質を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0020】
上記のように、第1,第2の発明では、それぞれ、第3の媒質及び第4の媒質が、第2の媒質及び第3の媒質と、音速及び/または材料が異なるように構成されている。この場合、材料が異なれば、縦波の音速や横波の音速は異なることになる。また、同一材料であっても、結晶状態を異ならせることにより、あるいは多結晶体の場合には緻密さを変更することにより、音速を変えることができる。また、媒質層が等方体の場合、媒質層の縦波の音速Vsと、横波の音速Vpは、該媒質層の弾性スチフネス定数C11,C12及び密度ρから、下記の式(1)及び(2)で表される。
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

【0023】
第2の発明のある特定の局面では、前記第4の媒質の厚みが、弾性境界波の波長をλとしたときに、0.5λよりも大きくされている。
【0024】
第1,第2の発明の他の特定の局面では、少なくとも1つの媒質が、複数の材料層を積層した積層構造を有する。
【0025】
第1,第2の発明のさらに別の特定の局面では、前記電極材料として、Au、Ag、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtからなる群から選択された1種の金属が用いられる。
【0026】
第1,第2の発明に係る製造方法のさらに他の特定の局面では、前記媒質が、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイトやランガナイト、水晶、PZT、ZnO(チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス)、AlN、酸化珪素、ガラス、シリコン、サファイア、窒化シリコン及び窒素化炭素からなる群から選択された少なくとも1種の材料を用いて構成されている。
【0027】
第1,第2の発明に係る製造方法のさらに別の特定の局面では、前記電極が、弾性境界波共振子または弾性境界波フィルタを構成するための電極であり、弾性境界波装置として、弾性境界波共振子または弾性境界波フィルタが得られる。
【0028】
本願の第3の発明は、第1〜第4の媒質がこの順序で積層されており、第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されており、第3の媒質と第4の媒質との音速及び/または材料が異なっていることを特徴とする弾性境界波装置である。
【発明の効果】
【0029】
第1の発明に係る製造方法では、第1の媒質と第2の媒質とが積層されており、第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されている積層体を用意した後に、該積層体段階で第2の媒質の膜厚により周波数または弾性境界波の音速が調整される。しかる後、調整工程後に、第2の媒質とは音速及び/または材料が異なる第3の媒質が形成される。すなわち、第1,第2の媒質間に電極が配置された積層体を用意し、該積層体段階で第2の膜厚を調整すれば、周波数または弾性表面波または擬似弾性境界波または弾性境界波の音速を調整することができる。従って、所望通りの周波数の弾性境界波装置を実現する積層体を得ることができる。この場合、積層体段階で第2の媒質により周波数または音速を調整するには、積層体を得るに際して第2の媒質の膜厚を調整してもよく、あるいは積層体を得た後に第2の媒質の膜厚を変化させるように調整を行ってもよい。
【0030】
そして、上記調整工程後に、第2の媒質とは音速及び/または材料が異なる第3の媒質が形成されるが、弾性境界波のエネルギー分布は第3の媒質中にはほとんど存在しないため、第3の媒質の製造ばらつきが生じたとしても、得られた弾性境界波装置における音速や周波数のばらつきは生じ難い。従って、特性のばらつきの少ない弾性境界波装置を容易にかつ安定に提供することができる。
【0031】
第2の発明に係る製造方法では、第1の媒質と第2の媒質と第3の媒質とがこの順序で積層されており、第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されている積層体を用意した後に、該積層体段階で第3の媒質の膜厚により周波数または弾性境界波の音速が調整される。しかる後、調整工程後に、第3の媒質とは音速及び/または材料が異なる第4の媒質が形成される。すなわち、第1,第2の媒質間に電極が配置され、さらに第2の媒質層の上に第3の媒質層が積層された積層体を用意し、該積層体段階で第3の媒質の膜厚を調整すれば、周波数または弾性表面波または擬似弾性境界波または弾性境界波の音速を調整することができる。従って、所望通りの周波数の弾性境界波装置を実現する積層体を得ることができる。この場合、該積層体段階で第3の媒質により周波数または音速を調整するには、積層体を得るに際して第3の媒質の膜厚を調整してもよく、あるいは積層体を得た後に第3の媒質の膜厚を変化させるように調整を行ってもよい。
【0032】
そして、上記調整工程後に、第3の媒質とは音速及び/または材料が異なる第4の媒質が形成されるが、弾性境界波のエネルギー分布は第4の媒質中にはほとんど存在しないため、第4の媒質の製造ばらつきが生じたとしても、得られた弾性境界波装置における音速や周波数のばらつきは生じ難い。従って、特性のばらつきの少ない弾性境界波装置を容易にかつ安定に提供することができる。
【0033】
第1の発明や第2の発明により構成された弾性境界波装置を伝搬する境界波は、第1の発明の媒質3や第2の発明の媒質4の厚さ0.5λまでの範囲に大半のエネルギーが分布する。従って、第1の発明の媒質3や第2の発明の媒質4の厚さは0.5λ以上とすれば良い。
【0034】
少なくとも1つの媒質が、複数の材料層を積層した積層構造を有する場合、複数の材料層を選択することにより、様々な音速もしくは周波数特性の媒質層を容易に形成することができる。
【0035】
電極材料として、Ag、Au、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtからなる群から選択された1種の金属を用いた場合、これらの金属は、境界波装置の伝搬路やIDT、反射器として用いることができる。
【0036】
媒質層が、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイトやランガナイト、水晶、PZT、ZnO、AlN、酸化珪素、ガラス、シリコン、サファイア、窒化シリコン及び窒素化炭素からなる群から選択された少なくとも1種の材料を用いて構成されている場合には、これらの金属材料と媒質材料を用いて、金属材料の膜厚やIDT、反射器のデューティ比を調整して境界波の音速を媒質材料の音速より低音速化することにより、境界波装置を構成することができる。
【0037】
上記電極が、弾性境界波共振子または弾性境界波フィルタを構成するための電極である場合には、本発明に従って、周波数ばらつきの少ない弾性境界波共振子または弾性境界波フィルタを提供することができる。
【0038】
本発明に係る弾性境界波装置では、第1〜第3の媒質がこの順序で積層されており、第1の媒質と第2の媒質との間の境界に電極が配置されており、第2の媒質と第3の媒質との音速及び/または材料が異なっており、図5に示すように境界波のエネルギーが分布しているため、第2の媒質の厚さを変えることで境界波の音速を調整できる。なお、第3の媒質の厚さを変えても、第3の媒質表面には境界波のエネルギーが分布していないので、境界波の音速は調整できない。境界波装置の動作周波数Fは、境界波の音速VとIDTのストリップ配置周期λより、F=V/λであるので、音速を調整することにより、境界波装置の動作周波数を調整できる。
【0039】
第3の発明では、第1〜第4の媒質がこの順序で積層されており、第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されており、第3の媒質と第4の媒質の音速及び/または材料が異なっており、図6に示すように境界波のエネルギーが分布しているため、第3の媒質の厚さを変えることで境界波の音速を調整できる。なお、第4の媒質の厚さを変えても、第4の媒質表面には境界波のエネルギーが分布していないので、境界波の音速は調整できない。境界波装置の動作周波数Fは、境界波の音速VとIDTのストリップ配置周期λより、F=V/λであるので、音速を調整することにより、境界波装置の動作周波数を調整できる。
【0040】
また、第3の発明では、第2の媒質と第4の媒質として同じ材料を用いることができ、それによって様々な特性の改善を図ることができる。一般に多くの誘電体材料、金属材料は弾性波の音速に対し、負の温度係数を持つ。第1〜第3の媒質層及び電極層にそれぞれ負の材料を用いた場合、弾性境界波の音速の温度係数は負となる。弾性境界波装置の動作周波数の温度係数TCFは、
【0041】
【数3】

【0042】
である。ここで、Vは境界波の音速、ΔVは音速変化幅、ΔTは温度変化幅、αは線熱膨張係数である。αは多くの誘電体材料、金属材料で正である。従って、弾性境界波装置のTCFは負となる。弾性境界波装置において、TCFはゼロが望ましい。
【0043】
温度特性を改善するために、正の温度係数をもつSiOにより第2の媒質及び第4の媒質を構成することができる。この場合、第2の媒質を負の温度係数をもつ誘電体材料で構成した場合に比べ、温度係数をゼロに近づけることができる。さらに、第1及び第3の媒質材料や各媒質の厚さを適切に選定すれば、TCFをゼロとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置を説明するための略図的正面断面図である。
【図2】図2は、(a)及び(b)は、本発明をなす前提となった弾性境界波装置における電極構造を示す平面図及び該弾性境界波装置の正面断面図である。
【図3】図3は、弾性境界波装置におけるIDTや反射器のデューティ比を説明するための模式的部分拡大断面図である。
【図4】図4は、従来の弾性境界波装置の断面構造と弾性境界波のエネルギー分布との関係を示す図である。
【図5】図5は、本願の第1の発明により得られる弾性境界波装置の断面構造と弾性境界波のエネルギー分布との関係を示す図である。
【図6】図6は、本願の第2の発明により得られる弾性境界波装置の断面構造と弾性境界波のエネルギー分布との関係を示す図である。
【図7】図7は、実施例1で得られた弾性境界波装置における第2の媒質であるSiO膜の膜厚H2と、音速(中心周波数×λ)との関係を示す図である。
【図8】図8は、実施例1で得られた弾性境界波装置における第2の媒質であるSiO膜の膜厚H2と、周波数温度係数との関係を示す図である。
【図9】図9は、実施例2で得られた弾性境界波装置における第3の媒質としての多結晶Siの膜厚H3と、音速(中心周波数×λ)との関係を示す図である。
【図10】図10は、実施例2で得られた弾性境界波装置における第3の媒質としての多結晶Siの膜厚H3と、周波数温度係数との関係を示す図である。
【図11】図11は、本発明が適用される弾性境界波装置の一例としてのラダー型フィルタの回路構成を示す回路図である。
【図12】図12は、従来の弾性境界波装置の一例を説明するための斜視図である。
【図13】図13は、従来の弾性境界波装置において、周波数ばらつきが生じている状態を示す周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面を参照しつつ本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0046】
本願発明者らは、図2(a)及び(b)に示す弾性境界波装置を作製し、検討を行った。図2(b)は、この弾性境界波装置200の正面断面図であり、弾性境界波装置200は、第1の媒質201と第2の媒質202とを積層した構造を有する。第1,第2の媒質201,202間の境界には、電極として、入力IDT205、出力IDT206,207及び反射器208,209が形成されている。これらの電極構造は、図2(a)において平面図で示されている。
【0047】
上記弾性境界波装置200の作製に際し、第1の媒質201を15°YカットX伝搬のLiNbO基板により構成し、IDT205〜207の中心部の配置周期に基づく波長λを3.0μmとし、電極指交差幅を50λとした。また、入力IDT205の電極指の対数は14.5対とし、該IDT204の境界波伝搬方向外側の4本の電極指の配置周期は0.86λとした。出力IDT206,207では、それぞれ、電極指の対数は8.5対とし、入力IDT205側に近接した4本の電極指の配置周期を0.86λとした。反射器208,209の電極指の本数は41本、配置周期は1.033λとした。そして、反射器208,209の反射帯域内にフィルタ通過域を配置し、入力IDT205と出力IDT206,207の最近接電極指中心間距離を0.43λとした。また、出力IDT206,207と反射器208,209の最近接電極指中心間距離を0.5λとした。IDT205〜207と反射器208,209のデューティ比は0.5とした。
【0048】
なお、図3は、上記デューティ比を説明するための模式的断面図である。デューティ比とは、図3のL/Pで決定される値である。ここで、Lは、電極指の幅であり、Pは境界波伝搬方向において隣接する電極指間スペースの中心間距離である。IDTや反射器の配置周期λは、λ=2×Pで表される。
【0049】
なお、上記各電極は、0.05λのAu膜と、該Au膜の下地に配置された0.003λのNiCr膜との積層体により構成した。なお、第2の媒質はSiO膜により構成した。
【0050】
上記弾性境界波装置を2度作製し、第1のロット及び第2のロットの各弾性境界波装置を得た。
【0051】
そして、第1のロット及び第2のロットで得られた弾性境界波装置のS21特性(通過特性)を測定したところ、図13に示すように、通過帯域の中心周波数が、第1のロットの平均値と、第2のロットの平均値とで、5.6MHz異なっていることが確かめられた。
【0052】
フィルタの通過帯域では、その中心周波数が所望とする中心周波数と一致される必要があり、通過帯域の周波数ばらつきは高精度に抑制されることが必要である。そこで、上記第1,第2のロットと同様にして、再度第1のロット及び第2のロットの弾性境界波装置を作製した。ここでは、第2の媒質であるSiO膜の成膜前後の通過周波数を測定した。結果を下記の表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、第1のロット及び第2のロットのいずれにおいても、SiO膜を成膜した前後の周波数変化幅は約220MHzと大きかった。また、第1のロットの弾性境界波装置の場合の結果と、第2のロットの弾性境界波装置の結果とを比較すると、SiO膜を成膜した後では、さらに周波数差が2MHz広がっていることがわかる。従って、第2の媒質であるSiO膜のロット間におけるばらつきが、最終的に得られた弾性境界波装置の周波数ばらつきに大きく影響していることがわかる。
【0055】
上記のように、第1の媒質上に電極を形成した後、第2の媒質としてのSiO膜を形成した場合、第2の媒質のばらつきが生じると、弾性境界波装置において大きな周波数ばらつきの生じることがわかる。
【0056】
これに対して、本願の第1の発明では、第2の媒質が形成された積層体段階で周波数調整が行われる。従って、周波数調整工程後において、ロット間の周波数ばらつきが著しく低減される。そして、第3の媒質をさらに形成した場合、第3の媒質にばらつきが生じたとしても、得られた弾性境界波装置における周波数ばらつきは効果的に抑制される。これを、図1、図4及び図5を参照して説明する。
【0057】
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置を示す部分切欠正面断面図である。この弾性境界波装置では、第1の媒質1上に第2の媒質2及び第3の媒質3が積層されている。第1の媒質1と第2の媒質2との間の境界に電極5が形成されている。本実施形態では、第1の媒質上に電極5を形成した後に、第2の媒質2が形成され、積層体が得られる。そして、この積層体段階で、周波数調整が行われる。より具体的には、第2の媒質2の膜厚を変化させるようにして、周波数調整が行われる。この第2の媒質2の膜厚を変化させる方法としては、エッチングなどにより第2の媒質2の膜厚を薄くする加工を用いる方法、あるいはさらにスパッタリングなどの成膜法により第2の媒質と同じ材料からなる膜を成膜し、第2の媒質2の膜厚を実質的に増大させる方法などが挙げられる。あるいは第2の媒質2の成膜段階においてその膜厚を調整していってもよい。
【0058】
そして、本実施形態では、膜厚調整が行われた後に、第3の媒質3が形成される。
【0059】
なお、第2の媒質2及び第3の媒質3の形成方法は、スパッタリングなどの成膜形成方法に限定されず、様々な方法により行われ得る。特に、第3の媒質3については、別途用意された第3の媒質からなるフィルムもしくは板状体を第2の媒質上に貼り合わせてもよい。
【0060】
なお、第1の発明に係る弾性境界波装置では、第3の媒質3は、第2の媒質2に対し、境界波の音速及び/または材料が異なるように構成されていることが必要である。第2の媒質2と第3の媒質3における音速及び材料が等しい場合には、上記周波数調整工程を行ったとしても、周波数が変化しないことがある。
【0061】
図4は、従来の弾性境界波装置の模式的正面断面図と、弾性境界波のエネルギー分布との関係を示す図である。図4から明らかなように、弾性境界波装置200では、膜厚H1の第1の媒質201と膜厚H2の第2の媒質202との境界にIDT205などの電極が配置されている。図4の右側に示すように、境界波のエネルギーは境界付近に集中している。しかしながら、第1,第2の媒質201,202において、境界から遠ざかるにつれてエネルギーは減衰するものの、例えば第2の媒質202中においては図4のハッチングを付した部分においてもエネルギーは分布している。従って、第2の媒質202を形成した後に、第2の媒質にばらつきが生じると、周波数ばらつきが生じることになる。
【0062】
図5は、本願の第1の発明に従って構成された上記実施形態の弾性境界波装置の模式的断面図とエネルギー分布との関係を示す図である。
【0063】
図5に示す弾性境界波装置では、膜厚H1の第1の媒質1と膜厚H2の第2の媒質2との境界に電極5が形成されている。この場合、第1の媒質1上に電極5が形成され、しかる後第2の媒質2が形成される。この第2の媒質2を形成した段階で、周波数調整が行われる。そして、周波数調整後に膜厚H3の第3の媒質3が形成される。このようにして得られた弾性境界波装置では、第1,第2の媒質1,2が積層されている積層体段階で周波数調整が行われる。
【0064】
他方、上記弾性境界波装置における境界波のエネルギー分布では、図5の右側に示されているように、第3の媒質3にはエネルギーのごく一部しか分布しない。従って、第3の媒質3において製造ばらつきが生じたとしても、それによる周波数ばらつきは非常に小さいことがわかる。従って、第3の媒質3の形成前に周波数調整を行うことにより、第3の媒質3を形成した後の弾性境界波装置の周波数ばらつきを著しく小さくし得ることがわかる。
【0065】
図6は、第2の発明に係る弾性境界波装置において周波数ばらつきが小さくされ得る理由を説明するための模式的断面図及び境界波のエネルギー分布を示す図である。
【0066】
第2の発明の弾性境界波装置20では、膜厚H1の第1の媒質21と、膜厚H2の第2の媒質22との間に電極25が形成され、さらに膜厚H3の第3の媒質23が積層され、積層体が得られる。この積層体段階で周波数調整が行われる。そして、第3の媒質23上に膜厚H4の第4の媒質24が積層される。このようにして得られた弾性境界波装置20では、境界波のエネルギー分布は図6の右側に示す通りとなる。すなわち、第4の媒質においては、境界波のエネルギーはごく一部しか分布しない。従って、上記第3の媒質23が形成されている積層体段階で周波数調整が行われ、周波数ばらつきが著しく小さくされると、さらに第4の媒質24を形成したとしても、周波数ばらつきを小さく抑制することができる。
【0067】
なお、第2の発明においては、第3の媒質23と第4の媒質24とが、音速が異なるように、及び/または材料が異なるように構成されることが必要である。さもなければ、周波数が変化しないからである。
【0068】
上記のように、本願の第1,第2の発明の製造方法において周波数ばらつきを抑制し得るのは、最後に形成される第3の媒質または第4の媒質の形成前に周波数調整を行い、最後に第3の媒質及び第4の媒質が形成されることによる。すなわち、第1の発明における第3の媒質、第2の発明における第4の媒質中には、境界波のエネルギーはごく一部しか分布しない。従って、第1の発明における第3の媒質及び第2の発明における第4の媒質に製造ばらつきが生じたとしても、これらの製造ばらつきは最終的に得られる弾性境界波装置の周波数ばらつきにあまり影響しない。よって、積層体段階で周波数調整を行っておくことにより、周波数ばらつきの少ない弾性境界波装置を提供することができる。
【0069】
なお、第2の発明においては、第2の媒質22と第4の媒質24は同一材料で構成されてもよく、異なる材料で構成されていてもよい。例えば、第2の媒質22が周波数温度係数が正の材料であるSiOで構成されている場合、SiOと、周波数温度係数が負である多くの材料と組み合わせることにより、境界波装置の周波数温度係数を改善することができる。第1の発明では、第2の媒質2及び第3の媒質3の一方にSiOを用いた場合、他方は、周波数温度係数が負であるSiO以外の材料を用いることが望ましい。もっとも、第2の媒質2と第3の媒質3の双方をSiOにより構成してもよいが、その場合には、SiOの密度や硬さ(弾性定数)等を異ならせて、音速を異ならせる必要があるため、周波数温度係数の改善効果が劣化するおそれがある。従って、第1の発明では、第2の媒質2及び第3の媒質3の一方にのみSiOを用いることが望ましい。
【0070】
他方、第2の発明では、第2の媒質22及び第4の媒質24の双方をSiOで構成した場合、第3の媒質23としてSiO以外の材料を用いればよい。従って、SiOによる周波数温度係数改善効果を維持しつつ、周波数調整を行うことができる。
【0071】
なお、第1の発明においては、第2の媒質の厚みH2(λ)は、好ましくは、1λ以下とされる。すなわち、第2の媒質の厚みを1λ以下とすることにより、弾性境界波のエネルギー分布が第3の媒質側においてほとんど分布しないため、第3の媒質の製造ばらつきによる周波数ばらつきを効果的に低減することができる。また、好ましくは、第3の媒質の厚みH3は、0.5λより大きくされる。第3の媒質の厚みが0.5λより大きくなると、第3の媒質中に境界波のエネルギーが分布している場合であっても、第3の媒質において、図5に示すように、媒質2と接する面と反対面側の媒質3の表面に到達するまでに境界波のエネルギーが確実に減衰され、良好な境界波伝搬が得られる。このように構成すると、表面に異物が付着した場合においても、境界波装置の特性は安定である。
【0072】
第2の発明において、第2の媒質の厚みH2を0.5λ以下とすると、図6に示すように、境界波のエネルギーを第3の媒質に漏れ出させることができる。また、第3の媒質の厚みH3を0.1λ以下とすると、第4の媒質に境界波のエネルギーを漏れ出させることができる。「第2、第4」と「第3」の媒質の音速は異なるので、第3の媒質の厚みを調整すると、境界波の音速を調整することができる。第2の媒質が厚く、第3の媒質に境界波のエネルギーが漏れ出さない場合には、第3の媒質の状態を変更しても境界波の音速は調整できない。さらに、第3の媒質が厚く、第4の媒質に境界はのエネルギーが漏れ出さない場合は、第3の媒質の厚さを変えても境界波の音速は調整できない。
【0073】
また、図6に示すように、媒質3と接する面と反対面側の媒質4の表面に到達するまでに境界波のエネルギーが確実に減衰され、良好な境界波伝搬が得られる。このように構成すると、表面に異物が付着した場合においても、境界波装置の特性は安定である。
【0074】
次に、具体的な実施例につき説明する。
【0075】
(実施例1)
第1の媒質として、15°YカットX伝搬のLiNbO基板を用意し、該LiNbO基板上に、図2に示した電極構造を作製した。すなわち、図2(a)に示されている入力IDT205、出力IDT206,207及び反射器208,209を形成した。電極の形成に際しては、LiNbO基板を洗浄した後、レジストをスピンコーティングし、プリベークした後、現像し、レジストパターンを形成した。しかる後、NiCr膜及びAu膜をこの順序で真空蒸着し、レジストをリフトオフし、洗浄した。上記のようにして、Au膜の膜厚が0.055λ、NiCrの膜厚が0.001λである電極構造を得た。
【0076】
次に、上記LiNbO基板の電極形成面を覆うように第2の媒質として、厚さ0.1λのSiO膜をRFスパッタリング法により成膜した。このようにして、図2(b)に示す積層体を得た。
【0077】
次に、上記SiO膜上に、レジストをスピンコーティングし、現像し、レジストパターンを形成し、しかる後反応性イオンエッチング及びレジスト除去を行い、外部と電気的に接続される電極上のSiO膜を除去した。
【0078】
上記のようにして露出された外部端子にウェハープローブの検査端子を接触し、中心周波数を測定した。得られた測定値が所望とする中心周波数に一致するように、SiO膜を加工した。この加工に際しては、反応性イオンエッチングによりSiO膜を薄くする加工、あるいはスパッタリングにより成膜してSiO膜を厚くする方法で行った。
【0079】
すなわち、測定値が所望とする中心周波数よりも低い場合には、上記のようにSiO膜を薄くし、逆に高かった場合にはSiO膜の厚みを増加させた。
【0080】
なお、この時点で伝搬する弾性波は、弾性境界波ではなく、表面に変位を集中させた弾性表面波であり、周波数調整は弾性表面波に対して行った。
【0081】
周波数調整後に、上記SiO膜上に、第3の媒質として、厚さ1λの多結晶Si膜をスパッタリング法により形成した。
【0082】
この時点で、伝搬する弾性波は、弾性境界波となる。
【0083】
上記多結晶Si膜上に、レジストをスピンコーティングし、現像し、焼き付け、反応性イオンエッチングによりパターニングした。そして、レジストを除去し、外部端子上の多結晶Siを除去した。このようにして、多数の弾性境界波装置を得た。
【0084】
上記のようにして得られた弾性境界波装置は、共振周波数のばらつきは小さくなる。
【0085】
なお、図7は、本実施例で得られた弾性境界波装置におけるSiOの膜厚H2と、中心周波数にλを乗算して求めた境界波装置の音速との関係を示す図である。また、図8は、SiO膜の膜厚H2と、周波数温度係数TCF(ppm/℃)との関係を示す。なお、弾性境界波装置であるため、第3の媒質である多結晶Siの膜厚は音速とは関係しない。
【0086】
図7から明らかなように、第2の媒質としてのSiO膜の膜厚H2が大きくなるほど音速が低くなることがわかる。また、図8から明らかなように、SiO膜の膜厚H2が厚くなるほど、周波数温度係数TCFが改善されることがわかる。
【0087】
(実施例2)
第1の媒質として、15°YカットX伝搬のLiNbO基板を用意し、実施例1と同様に図2(a)に示した電極構造を実施例1と同様にして形成した。このように電極が形成されたLiNbO基板を多数用意した。
【0088】
次に、上記LiNbO基板上の電極を覆うようにLiNbO基板上にSiO膜をRFスパッタリング法により成膜した。この場合、厚さ0.1λ、0.3λ、0.5λ及び1.0λの膜厚のSiO膜が成膜された構造をそれぞれ作製した。しかる後、SiO膜上に、厚さ0.5λの多結晶シリコンをRFスパッタリング法により成膜し、多結晶Si/SiO/電極/LiNbO基板の積層構造を有する、すなわち、第3の媒質/第2の媒質/電極/第1の媒質が積層されている積層体を用意した。
【0089】
なお、この時点で伝搬する弾性波は、弾性境界波ではなく、表面に変位を集中させた弾性表面波であり、周波数調整は弾性表面波に対して行った。
【0090】
次に、上記のようにして得られた積層体の多結晶Si膜上に、レジストをスピンコーティングし、プリベークし、パターニングし、しかる後反応性イオンエッチングを行い、レジストを除去することにより、外部端子上の多結晶SiとSiOを除去し、外部端子を露出させた。露出された外部端子にウェハープローブの検査端子を接触させ、フィルタ特性の中心周波数を測定した。
【0091】
周波数測定値が、所望の中心周波数に一致するように、多結晶Siを加工した。加工に際しては、測定値が中心周波数の目標値よりも低い場合には、反応性イオンエッチングにより多結晶Siを薄く加工した。逆に、測定値が所望とする中心周波数よりも高い場合には、スパッタリングにより多結晶Siを再度成膜し、多結晶Siの膜厚を増大させた。周波数調整工程後に、多結晶Si上に、第4の媒質として、厚さ1λのSiO膜をスパッタリング法により成膜した。
【0092】
この時点で、伝搬する弾性波は、弾性境界波となる。
【0093】
上記SiO膜上にレジストをスピンコーィングし、パターニングし、反応性イオンエッチングを行い、レジストを除去することにより、外部端子上のSiO膜を除去した。このようにして多数の弾性境界波装置を得た。
【0094】
上記のようにして得られた多数の弾性境界波装置について中心周波数を測定した。厚さ0.1λ、0.3λ、0.5λ、1.0λの第2の媒質が形成されている各弾性境界波装置における中心周波数のばらつきは、それぞれ順に小さくなる。
【0095】
図9は、上記のようにして得られ、かつ第2の媒質のSiO膜の厚みH2が0.1λ、0.3λ及び0.5λである弾性境界波装置における、第3の媒質である多結晶Siの厚みH3と、音速(中心周波数×λ)との関係を示す図であり、図10は、多結晶Siの厚みH3と、周波数温度係数TCF(ppm/℃)との関係を示す図である。
【0096】
なお、弾性境界波装置であるため、第4の媒質のSiO膜の膜厚は音速とは関係しない。
【0097】
図9から明らかなように、多結晶Siの膜厚H3が0〜0.1λの範囲で音速の変化が大きく、この範囲で効率的に周波数調整を行い得ることがわかる。また、この範囲において、図10から明らかなように、周波数温度係数TCFは図8に示した実施例1の場合の周波数温度係数に比べて最大で25ppm/℃良好であることがわかる。また、第2の媒質であるSiO膜の膜厚が0.5λでは、図9に示すように音速の変化が見られたが、第2の媒質の膜厚が0.5λよりも大きい場合には多結晶Siの膜厚H3を図9に示す範囲で変化させても音速は変化しなかった。
【0098】
従って、好ましくは、第1〜第4の媒質を積層してなる弾性境界波装置では、第2の媒質の膜厚H2は、0.5λ以下であることが望ましいことがわかる。
【0099】
なお、上記実施例では、図2(a)に示した3IDT構造の縦結合型弾性境界波共振子フィルタにつき説明したが、本発明に係る弾性境界波装置は、様々な電極構造を有するように構成され得る。すなわち、2個以上のIDTを用いた縦結合型弾性境界波共振子フィルタや、図11に回路図で示すように、複数個の弾性境界波共振子S1,S2,P1,P2を接続してなるラダー型フィルタであってもよい。なお、図11では、4個の弾性境界波共振子が接続されていたが、任意の段数のラダー型フィルタを構成することができる。
【0100】
また、ラダー型フィルタにおける共振子の数は特に限定されない。また、本発明に係る弾性境界波装置及びその製造方法は、横結合型弾性境界波フィルタにも提供することができる。
【0101】
さらに、電極として、IDTではなく、「弾性表面波工学」(電子情報通信学会発行、初版第6刷、第57頁)に記載のようなくし形トランスデューサを用いることができる。くし形トランスデューサを用いる場合には、λはくし形トランスデューサのくしの配置周期となる。要するに、電気音響変換器が励振する波長をλとすればよい。
【0102】
さらに、上記実施例1,2では、電極はAuからなる電極層を主体とし、下地にNiCr層が積層されていたが、他の金属を用いて電極が形成されてもよい。例えば、Ag、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtの1種を用いてもよい。加えて、第1の媒質及び第2の媒質に対する電極の密着性を高めたり、耐電力性を高めるために、Ti、CrまたはNiCrなどからなる薄い第2の電極層を積層してもよい。第2の電極層は、第1の媒質と上記Auなどからなる主たる電極層との間、主たる電極層と第2の媒質との間のいずれに配置されてもよい。さらに、電極は3以上の電極層を積層した構造とされてもよく、その場合、第2の電極層は、中間層として積層されてもよい。
【0103】
また、本発明においては、電極構造は、複数の金属からなる合金により構成されてもよい。
【0104】
さらに、本発明における第1〜第3の媒質及び第1〜第4の媒質を構成する材料についても特に限定されない。すなわち、様々な誘電体を媒質として用いることができる。このような媒質としては、例えば、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイトやランガナイト、水晶、PZT、ZnO、AlN、酸化珪素、ガラス、シリコン、サファイア、窒化シリコン及び窒素化炭素からなる群から選択される1種などが挙げられる。
【0105】
また、媒質は、単一材料で構成されている必要は必ずしもなく、複数の媒質層を積層してなる積層構造を有していてもよい。すなわち、第1〜第3の媒質または第1〜第4の媒質のうち少なくとも1つの媒質が、複数の材料層を積層した積層構造を有するものであってもよい。
【0106】
加えて、本発明に係る弾性境界波装置では、外側に、強度を高めたり、腐食性ガスなどの浸入を防止するための保護層を形成してもよい。また、弾性境界波装置は、部品サイズが大きくなることを厭わないのであれば、パッケージに封入された構造を有していてもよい。
【0107】
なお、上記保護層としては、酸化チタン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどの絶縁性材料により構成されていてもよく、Au、AlまたはWなどの金属膜により構成されていてもよく、エポキシ樹脂などの樹脂膜により構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1…第1の媒質
2…第2の媒質
3…第3の媒質
5…電極
20…弾性境界波装置
21…第1の媒質
22…第2の媒質
23…第3の媒質
24…第4の媒質
25…電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1〜第3の媒質がこの順序で積層されており、かつ第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されている弾性境界波装置の製造方法であって、
第1の媒質と第2の媒質とが積層されており、第1,第2の媒質の境界に電極が配置されている積層体を用意する工程と、
前記積層体段階で第2の媒質の膜厚により周波数、または弾性表面波、擬似弾性境界波もしくは弾性境界波の音速を調整する調整工程と、
前記調整工程後に、弾性境界波の音速及び/または材料が第2の媒質とは異なる第3の媒質を形成する工程とを備える、弾性境界波装置の製造方法。
【請求項2】
第3の媒質の厚みが、弾性境界波の波長をλとしたときに、0.5λより大きい、請求項1に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項3】
第1〜第4の媒質がこの順序で積層されており、かつ第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されている弾性境界波装置の製造方法であって、
第1〜第3の媒質がこの順序で積層されており、かつ第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されている積層体を用意する工程と、
前記積層体段階で、周波数、または弾性表面波、擬似弾性境界波もしくは弾性境界波の音速を調整する調整工程と、
前記調整工程後に、音速及び/または材料が第3の媒質とは異なる第4の媒質を形成する工程とを備える、弾性境界波装置の製造方法。
【請求項4】
前記第4の媒質の厚みが、弾性境界波の波長をλとしたときに、0.5λより大きい、請求項3に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項5】
少なくとも1つの媒質が、複数の材料層を積層した積層構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項6】
前記電極材料として、Au、Ag、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtからなる群から選択された1種の金属を用いる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項7】
前記媒質層が、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイトやランガナイト、水晶、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス)、ZnO、AlN、酸化珪素、ガラス、シリコン、サファイア、窒化シリコン及び窒素化炭素からなる群から選択された少なくとも1種の材料を用いて構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項8】
前記電極が、弾性境界波共振子または弾性境界波フィルタを構成するための電極であり、弾性境界波装置として、弾性境界波共振子または弾性境界波フィルタが得られる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性境界波装置の製造方法。
【請求項9】
第1〜第4の媒質がこの順序で積層されており、第1の媒質と第2の媒質との境界に電極が配置されており、第3の媒質と第4の媒質との音速及び/または材料が異なっている、弾性境界波装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−166592(P2010−166592A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47762(P2010−47762)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【分割の表示】特願2006−511505(P2006−511505)の分割
【原出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】