弾性境界波装置
【課題】 安価な水晶基板を用い、しかもSH型弾性境界波を利用することが可能であり、電気機械結合係数K2等の物性や特性を高めること等が可能な弾性境界波装置を提供する。
【解決手段】 水晶基板2上に、少なくともIDT4が形成されており、IDT4を覆うように、誘電体3が形成されており、水晶基板2と誘電体3との界面を弾性境界波が伝搬する弾性境界波装置であって、IDT4の厚みは、SH型境界波の音速は、水晶基板2を伝搬する遅い横波及び誘電体3を伝搬する遅い横波の各音速よりも低音速となるように設定されており、かつ水晶基板2のオイラー角が、図13に示されている斜線を付した領域内とされている、弾性境界波装置1。
【解決手段】 水晶基板2上に、少なくともIDT4が形成されており、IDT4を覆うように、誘電体3が形成されており、水晶基板2と誘電体3との界面を弾性境界波が伝搬する弾性境界波装置であって、IDT4の厚みは、SH型境界波の音速は、水晶基板2を伝搬する遅い横波及び誘電体3を伝搬する遅い横波の各音速よりも低音速となるように設定されており、かつ水晶基板2のオイラー角が、図13に示されている斜線を付した領域内とされている、弾性境界波装置1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1,第2の媒質間の境界を伝搬する弾性境界波を利用した弾性境界波装置に関し、より詳細には、第1の媒質が水晶であり、第2の媒質が誘電体である弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビション受像機、携帯電話器などの様々な電子機器において、発振子や帯域フィルタを構成するために弾性表面波装置が広く用いられている。弾性表面波装置では、圧電基板上に、少なくとも1つのIDT(インターデジタルトランスデューサ)が形成されている。この圧電基板としては、LiTaO3基板や水晶基板などが用いられている。
【0003】
LiTaO3基板を用いた弾性表面波フィルタに比べて、水晶基板を用いた弾性表面波フィルタは、狭帯域用途に適している。そこで、水晶基板を用いた弾性表面波共振子が従来広く用いられている。この種の弾性表面波共振子では、オイラー角で(0°,120°〜140°,0°)、すなわちSTカットX伝搬の水晶基板上に、Alからなるくし形電極を形成することにより、IDTが構成されていた。
【0004】
弾性表面波共振子では、共振周波数と反共振周波数との差、すなわち帯域幅は狭いことが望ましいものの、狭帯域フィルタである共振子とはいえ、所望の特性を得るには、ある程度の帯域幅を有することが望ましい。また、狭帯域フィルタでは、帯域幅が狭いため、通過帯域が温度に対して非常に敏感となる。従って、通過帯域の温度依存性が少ないことが望ましい。従来、これらの要求を考慮し、水晶基板として、STカットX伝搬の水晶基板が用いられていた。
【0005】
また、弾性表面波共振子の共振周波数と反共振周波数との差は、圧電基板の電気機械結合係数K2に比例し、STカットX伝搬の水晶基板の電気機械結合係数K2は約0.14%であった。
【0006】
しかしながら、上記のような弾性表面波共振子では、弾性表面波を励振する必要があるため、水晶基板上に形成された電極上に振動を妨げないための空洞を設けねばならなかった。そのため、パッケージが高価となり、かつ大型にならざるを得なかった。また、パッケージから生じた金属粉などが電極に落下し、短絡不良を起こすおそれがあった。
【0007】
これに対して、下記の特許文献1に記載の弾性境界波装置では、第1,第2の媒質間を伝搬する弾性境界波を利用しているため、パッケージの小型化及び低コスト化を果たすことができ、かつ上記のような短絡不良が生じるおそれがない。
【0008】
特許文献1に記載の弾性境界波装置では、Si系材料からなる第1の基板上に、くし形電極が形成されており、かつ該くし形電極を覆うように、圧電性の第2の基板が貼り合わされている。ここでは、Si系基板として、Si基板、アモルファスシリコン基板またはポリシリコン基板などが挙げられている。また、第2の基板を構成する圧電材料としては、LiNbO3、LiTaO3、水晶などが例示されている。そして、特許文献1では、弾性境界波としてのストンリー波を利用することにより、パッケージの小型化及びコストダウンを図ることができるとされている。
【0009】
他方、下記の特許文献2には、第1,第2の媒質のうち一方が圧電材料からなり、他方が圧電材料または非圧電材料からなる弾性境界波装置が示されている。そして、第1,第2の媒質間において、弾性境界波としてのSH波、すなわち純粋横インターフェース波を伝搬させる構成が示唆されている。上記圧電材料としては、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムとともに、STカットX伝搬の水晶が示されている。
【0010】
また、下記の特許文献3には、圧電体と誘電体とを積層し、両者の界面に電極を形成した弾性境界波装置において、圧電体を伝搬する遅い横波の音速と、誘電体を伝搬する遅い横波の音速よりも、SH型弾性境界波の音速を低音速とすることにより、SH型弾性境界波を伝搬させ得ることが開示されている。
【特許文献1】特開平10−84246号公報
【特許文献2】特表2003−512637号公報
【特許文献3】WO2004−070946
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、上記のように、水晶を用いた弾性境界波装置は開示されているものの、特許文献1で用いられている弾性境界波はストンリー波であった。ストンリー波を用いた場合には、弾性表面波装置並みの大きな電気機械結合係数を得ることが困難であり、またIDTや反射器の反射係数も十分な大きさとなり難い。従って、特許文献1に記載の弾性境界波装置では、十分な帯域幅を得ることが困難であった。
【0012】
他方、特許文献2では、上記のようなSH型の弾性境界波を利用することは示唆されているものの、特許文献2では、SH型の境界波が利用される具体的な条件については何ら示されていない。
【0013】
特許文献3には、上記のように、圧電体と誘電体を積層した弾性境界波装置において、SH型弾性境界波を利用した構成は示されているものの、全体としては、LiTaO3やLiNbO3などの圧電単結晶が示されているにすぎない。圧電体としてLiTaO3やLiNbO3を用い、誘電体としてSiO2を用いた場合、弾性境界波装置の群遅延時間温度係数(TCD)が小さい条件を得ることができる。しかしながらLiTaO3やLiNbO3の本来のTCDが大きいため、弾性境界波装置のTCDには製造ばらつきを生じ易い。一方圧電体としての水晶を用いた場合には水晶のTCDが小さいので、弾性境界波装置のTCDの製造ばらつきを低減できると考えられるが、水晶を用いた場合のSH型境界波を利用する上での具体的な構成については特に示されていない。
【0014】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、パッケージの小型化及び低コスト化を果たし得るだけでなく、水晶基板を用いて構成されており、SH型の弾性境界波を利用しており、電気機械結合係数などの様々な物性や特性において優れている弾性境界波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願の第1の発明によれば、水晶基板と、前記水晶基板上に形成されたIDTと、前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、前記水晶基板のオイラー角が、図13において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置が提供される。
【0016】
本願の第2の発明によれば、水晶基板と、前記水晶基板上に形成されたIDTと、前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、前記水晶基板のオイラー角が、図14において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置が提供される。
【0017】
本願の第3の発明によれば、水晶基板と、前記水晶基板上に形成されたIDTと、前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、前記水晶基板のオイラー角が、図15において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置が提供される。
【0018】
第1の発明のある特定の局面では、前記オイラー角が、図14において斜線を付した領域にある。
【0019】
第1,第2の発明のある特定の局面では、前記オイラー角が、図15において斜線を付した領域にある。
【0020】
第1〜第3の発明(以下、本発明と総称する。)のある特定の局面によれば、前記弾性境界波の音速が、前記水晶を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くかつ前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くなるように、前記IDTの電極指の厚み及び電極指の幅が設定されている。
【0021】
本発明において、上記IDTは、適宜の導電性材料により形成されるが、本発明のある特定の局面では、前記IDTが、Ni、Mo、Fe、Cu、W、Ag、Ta、Au及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属からなる。
【0022】
本発明に係る弾性境界波装置において、上記誘電体膜を構成する材料は特に限定されないが、好ましくは、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンが用いられる。
【0023】
また、上記誘電体は、シリコン系材料からなる必要は必ずしもなく、窒化アルミニウム、ガラス、四ホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイア、窒化シリコン及びアルミナからなる群から選択された1種により構成され得る。
【発明の効果】
【0024】
第1の発明によれば、水晶基板と誘電体の界面にIDTが配置されており、弾性境界波の音速が、水晶基板及び誘電体を伝搬する各遅い横波よりも低音速となるようにIDTの厚みが決定されており、水晶基板のオイラー角が図13の斜線で示された領域内にあるため、LiNbO3やLiTaO3に比べて安価である水晶を用い、弾性境界波装置を提供することができる。従って、弾性境界波素子のコストを低減することができる。しかも、弾性境界波として利用するSH型の境界波の電気機械結合係数K2を高めることが可能となる。よって、十分な帯域幅を有する弾性境界波装置を提供することができる。
【0025】
第2の発明によれば、水晶基板と誘電体の界面にIDTが配置されており、弾性境界波の音速が、水晶基板及び誘電体を伝搬する各遅い横波よりも低音速となるようにIDTの厚みが決定されており、水晶基板のオイラー角が図14の斜線で示された領域内にあるため、LiNbO3やLiTaO3よりも安価な水晶を用いてSH型境界波を利用した弾性境界波装置を提供することができる。従って、弾性境界波装置のコストを低減することができる。しかも、利用するSH型境界波の群遅延時間温度係数TCDを小さくすることができる。しかも、水晶自体のTCDは小さいため、TCDの補正による製造ばらつきも小さくすることができる。
【0026】
第3の発明によれば、水晶基板と誘電体の界面にIDTが配置されており、弾性境界波の音速が、水晶基板及び誘電体を伝搬する各遅い横波よりも低音速となるようにIDTの厚みが決定されており、水晶基板のオイラー角が図15の斜線で示された領域内にあるため、LiNbO3やLiTaO3よりも安価な水晶を用いて、SH型境界波を利用した弾性境界波装置を提供することができる。従って、弾性境界波装置のコストを低減することができる。しかも、オイラー角が上記特定の範囲とされているので、SH型境界波のパワーフロー角PFAを小さくすることが可能となる。
【0027】
第1の発明において、水晶基板のオイラー角が図14において斜線を付した領域内にも位置している場合には、電気機械結合係数K2を大きくし得るだけでなく群遅延時間温度係数TCDを小さくすることも可能となる。しかも、水晶自体のTCDは小さいため、TCDの補正による製造ばらつきも小さくすることができる。
【0028】
第1,第2の発明において、水晶基板のオイラー角が、図15において斜線を付した領域内にある場合には、電気機械結合係数K2を大きくし、かつパワーフロー角PFAを小さくすることができ、さらに、オイラー角が、図13〜図15において斜線を付した各領域内に位置している場合には、電気機械結合係数K2を大きくし、群遅延時間温度係数TCD及びパワーフローPFAを小さくすることが可能となる。しかも、水晶自体のTCDは小さいため、TCDの補正による製造ばらつきも小さくすることができる。
【0029】
本発明において、弾性境界波の音速が、水晶を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くかつ誘電体を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くなるように、IDTの厚み及び線路幅が設定されている場合には、それによって伝搬損失を小さくすることが可能となる。
【0030】
IDTが、Ni、Mo、Fe、Cu、W、Ag、Ta、Au及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属からなる場合には、その膜厚を適正にする、すなわち弾性境界波の音速を水晶及び誘電体の遅い横波の音速より遅くなるようにすることにより弾性境界波を問題なく励振することができる。
【0031】
また、上記誘電体が、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンからなる場合には、電気機械結合係数K2を高めることができ、群遅延時間温度係数TCD及びパワーフロー角PFAを小さくすることができる条件を示すオイラー角範囲を比較的広くすることができる。従って、特性の良好な弾性境界波装置を容易に提供することが可能となる。
【0032】
誘電体膜が、窒化アルミニウム、ガラス、四ホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイア、窒化シリコン及びアルミナからなる群から選択された1種により構成されている場合、多結晶シリコンやアモルファスシリコンを用いた場合と同様に、電気機械結合係数K2を大きくでき、群遅延時間温度係数TCD及びパワーフロー角PFAを小さくすることができる条件を示すオイラー角範囲が比較的広い弾性境界波装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0034】
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の模式的正面断面図及び模式的平面断面図である。
【0035】
本実施形態の弾性境界波装置1は、水晶基板2と、水晶基板2に積層されたポリシリコンからなる誘電体3とを有する。水晶基板2と誘電体3との間には、図1(b)に模式的に示されている電極構造が形成されている。この電極構造は、IDT4と、IDT4の弾性境界波伝搬方向両側に配置された反射器5,6とを有する。IDT4及び反射器5,6は、後述する金属により構成されている。IDT4には、図示のように、交差幅重み付けが施されている。なお、IDT4は重み付けされていなくてもよい。
【0036】
本実施形態の弾性境界波装置1は、上記電極構造を有する1ポート型の弾性境界波共振子である。
【0037】
また、弾性境界波装置1では、水晶基板2を伝搬する遅い横波よりもSH型弾性境界波の音速が低音速となるように、かつ誘電体3を伝搬する遅い横波よりもSH型弾性境界波の音速が低音速となるように、IDT4の厚みが設定されている。そのため、SH型の弾性境界波を利用した弾性境界波装置1が構成されている。
【0038】
水晶基板2のような圧電体と、誘電体3との界面にIDTを形成した構造において、圧電体及び誘電体を伝搬する各遅い横波の音速よりも、SH型弾性境界波の音速を低くすることにより、SH型弾性境界波を界面に伝搬させ得ることは、例えば、前述した特許文献3などに開示されている。
【0039】
上記弾性境界波装置1において、IDT4及び反射器5,6を構成する電極材料として、Ni、Mo、Fe、Cu、W、Ag、Ta、AuまたはPtを用いた場合の、電極の厚みと、SH波を主成分とするSH型境界波の音速、電気機械結合係数K2、伝搬損失α及び周波数温度係数TCFとの関係を求めた。結果を図2〜図6に示す。なお、図2〜図6に示した結果は、以下の条件に従って文献「A method for estimating optimal cuts and propagation directions for excitation and propagation direction for excitation of piezoelectric surface waves」(J.J.Campbell and W.R.Jones,IEEE Trans.Sonics and Ultrason.,bol.SU-15(1968)pp.209-217)に開示されている方法をもとに計算することにより求めた。
【0040】
計算条件
誘電体(SiN)/IDT/水晶基板
誘電体としてのSiNの厚みは無限大とし、水晶基板の厚みも無限大とした。また、水晶基板の結晶方位は、55°Yカット90°X伝搬(オイラー角で(0°,145°,90°)とした。
【0041】
回転Y板X伝搬の水晶基板における縦波、速い横波及び遅い横波の音速は、それぞれ、5799、4881及び4139m/秒であり、SiNを伝搬する縦波、遅い横波の音速は、それぞれ、10642及び5973m/秒である。
【0042】
なお、開放境界の場合には、水晶基板と電極、電極と誘電体との境界における変位、電位、電束密度の法線成分及び上下方向の応力が連続で、水晶基板と誘電体の厚さを無限とし、電極の比誘電率を1として音速と伝搬損失を求めた。また、短絡境界の場合には、誘電体と電極、電極と水晶基板との各境界における電位を0とした。また、電気機械結合係数K2は、下記の式(1)により求めた。なお、式(1)においてVfは開放境界の音速、Vmは短絡境界の音速である。
【0043】
K2=2|Vf−Vm|/Vf …式(1)
周波数温度係数TCFについては、20℃、25℃及び30℃における境界波の音速V〔25℃〕、V〔25℃〕及びV〔30℃〕により、下記の式(2)により求めた。
【0044】
TCF=V〔25℃〕-1×{(V〔30℃〕−V〔20℃〕)÷10℃}−αs …式(2)
また、群遅延時間温度係数TCDについては、下記の式(2A)に従って求めた。
【0045】
TCD=−V〔25℃〕-1×{(V〔30℃〕−V〔20℃〕)÷10℃}+αs …式(2A)
なお、式(2)及び式(2A)において、αsは境界波伝搬方向における水晶基板の線膨張係数である。
【0046】
また、水晶基板の任意のオイラー角(φ,θ,ψ)におけるパワーフロー角PFAは、ψ−0.5°、ψ及びψ+0.5°における境界波の音速Vに基づき式(3)により求めた。
【0047】
PFA=tan-1{V〔ψ〕-1×(V〔ψ+0.5°〕−V〔ψ−0.5°〕)} …式(3)
図2は、上記のようにして求められたIDTの厚みと、SH型境界波の電気機械結合係数との関係を示す図である。図3は、IDTの厚みと、周波数温度係数TCFとの関係を示す。図4は、IDTの厚みとパワーフロー角PFAとの関係を示す。図5は、IDTの厚みと、SH型境界波の音速との関係を示し、図6は、IDTの厚みと伝搬損失αとの関係を示す。
【0048】
図5、図6から明らかなように、上述したいずれの金属を用いた場合においても、IDTの厚みを、SH型境界波の音速は、上記縦波、速い横波及び遅い横波のうち最も遅い波の音速である4139m/秒以下となるように厚くすることにより、SH型境界波の伝搬損失αが0となり、低損失となることがわかる。一例として、IDTがAuからなる場合を説明する。図5から明らかなように、AuからなるIDTを用いた場合、音速を4139m/秒よりも遅くするには、IDTの厚みは0.05λ程度以上とすればよいことがわかる。そして、図6から明らかなように、IDTがNiからなる場合、IDTの厚みが0.05λ以上となれば、伝搬損失αがほぼ0となることがわかる。なお、図5においてSH型境界波の音速が4139m/秒より低下する各種金属の膜厚と、図6において伝搬損失αが次第に減少しほぼ0となる点の各種金属の膜厚とは完全に一致しない。これはSH型境界波の音速が水晶の速い横波の音速(4881m/秒)よりも低下するようにIDTの膜厚が設定された時点で伝搬損失αが急激に低下し、金属によっては0に近い値を示すためである。伝搬損失αは0であることが好ましいため、図5においてSH型境界波の音速が4139m/秒より低下するようにIDTの膜厚を設定することがより好ましい。もっとも図5においてSH型境界波の音速が4139m/秒より低下する領域でなくとも、IDTに対して実際に用いる金属について、図6において伝搬損失αが実用上問題のないレベルに低下する範囲にIDTの設計膜厚範囲を設定し、その他の条件を鑑みてIDTの膜厚を決定することにより特性の優れた弾性境界波装置を得ることができる。
【0049】
このように、従来、水晶基板を用いた弾性境界波装置においてSH型境界波を伝搬させることができないと考えられていた水晶基板のオイラー角においても、SH型境界波をほとんど損失を発生させることなく伝搬させ得ることがわかる。
【0050】
また、図2と、図5とを比較すれば明らかなように、SH型境界波の音速が4139m/秒よりも遅くなるIDTの厚みとした場合、いずれの金属からなるIDTを用いた場合であっても、電気機械結合係数K2を十分大きくし得ることがわかる。
【0051】
また、図3、図4を、図5と比較することにより、IDTの厚みを、SH型境界波の音速が4139m/秒以下となるように設定した場合、TCFやPFAが十分に小さくされ得ることもわかる。
【0052】
よって、図2〜図6の結果から、上記実施形態において、IDTを構成する金属材料の如何にかかわらず、SH型境界波の音速が、水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつSiNを伝搬する遅い横波よりも低音速となるようにIDTの厚みを設定すれば、SH型境界波をほとんど無損失で伝搬させることができ、しかも十分大きな電気機械結合係数K2を得たり、周波数温度係数TCFやパワーフロー角PFAを小さくし得ることがわかる。
【0053】
図7〜図12は、SiN以外に、窒化アルミニウム(AlN)、ガラス(BGL)、四ホウ酸リチウム(LBA)、ニオブ酸リチウム(LNK)、タンタル酸リチウム(LTK)、サファイア(SAPP)、ポリシリコン(SIP)、酸化亜鉛(ZnO)またはアルミナ(Al2O3)を用いた場合のIDTの厚みと、SH型境界波の音速、電気機械結合係数K2、伝搬損失及び周波数温度係数TCFとの関係を示す。
【0054】
図7〜図12に示す結果は、水晶基板/IDT/誘電体の積層構造において、水晶基板の厚さを無限大とし、水晶基板のカット角を、上述した計算例と同様に、55°Yカット90°X伝搬〔オイラー角で(0°,145°,90°)〕とし、誘電体の厚みを無限大として求めた。
【0055】
図7〜図12の結果は、図2〜図6に示す結果を求めた場合と同様にして計算して求められた。
【0056】
上記水晶基板の遅い横波の音速は、前述したように4139m/秒である。なお、上記各誘電体材料を構成する遅い横波の音速は、4139m/秒よりも速い。従って、SH型境界波の音速が4139m/秒よりも遅くなれば、SH型境界波を伝搬させることができる。言い換えれば、図11において、音速Vが4139m/秒以下となるIDTの厚みの範囲を選択すれば、SH型境界波を利用することができる。そして、図12と図11とを比較すれば明らかなように、誘電体の材料を種々異ならせた場合であっても、IDTの厚みを、SH型境界波を伝搬させ得る条件、すなわちSH型境界波の音速Vが4139m/秒よりも遅くなる範囲とされている場合、伝搬損失αはほぼ0となる。従って、図5及び図6に示した計算結果の場合と同様に、誘電体をSiN以外の材料とした場合であっても、SH型境界波の音速を4139m/秒よりも遅くなるようにIDTの厚みを設定することにより、SH型境界波をほぼ無損失で伝搬させ得ることがわかる。
【0057】
また、IDTの厚みをこのように設定した場合、図7から明らかなように、SH型境界波の電気機械結合係数K2を十分大きくすることができる。例えば、誘電体として、AlNを用いた場合には、図12から明らかなように、IDTの厚みを0.02λ以上とすることにより、SH型境界波の損失をほぼ0とすることができ、その場合、図7から明らかなように、電気機械結合係数K2を0.05%以上とし得ることがわかる。
【0058】
図7〜図12から明らかなように、誘電体材料をSiN以外の他の材料に変更した場合においても、同様に、十分大きな電気機械結合係数K2の得られることがわかる。
【0059】
図2〜図6及び図7〜図12の結果から、IDTを構成する材料や誘電体を構成する材料を種々変更した場合であっても、オイラー角(0°,145°,90°)の水晶基板を用いた場合、IDTの厚みを、SH型境界波の音速が4139m/秒以下となるように設定することにより、十分大きな電気機械結合係数K2、小さな群遅延時間温度係数TCD及びPFAを実現し得ることがわかった。
【0060】
次に、水晶基板2のオイラー角を種々変更し、弾性境界波共振子としての弾性境界波装置1を作製した場合の電気機械結合係数K2、周波数温度係数TCF、パワーフロー角PFA及びSH型境界波の音速Vの変化を計算した。結果を図13〜図16に示す。
【0061】
なお、条件は以下の通りである。
【0062】
構造:誘電体2は多結晶Siで構成した。水晶基板については、オイラー角を種々変更し、その厚みは無限大とした。
【0063】
IDTはAuからなり、その厚みは0.07λとした。
【0064】
なお、図1に示した弾性境界波装置1により発振器を作製した場合、電気機械結合係数K2が大きいほど発振しやすくなる。本願発明者によれば、電気機械結合係数K2が0.08%より小さいと、発振させることが困難となることが確かめられている。
【0065】
従って、水晶基板のオイラー角(0°,θ,ψ)において、θ,ψを図13に示す斜線で付したハッチングの領域内とすることにより、電気機械結合係数K2を0.08%以上とすることができ、弾性境界波装置1を用いて良好に発振させ得ることがわかる。
【0066】
また、この誘電体を伝搬する横波では、群遅延時間温度係数TCDは正の値である。他方、水晶では、群遅延時間温度係数TCDは負の値となる。群遅延時間TCBは、横波の音速の音速温度係数をTCVs、SH型境界波の伝搬方向における材料の線膨張係数をαsとすると、次の式で表わされる。
【0067】
TCD=αs−TCVs …式(4)
誘電体/IDT/水晶基板の構造を有する弾性境界波装置において、厚さ100λ程度の水晶基板上に、IDTをフォトリソグラフィー法により形成し、誘電体をスパッタリング法などの堆積法で十分に振動が閉じ込められる厚み、例えば0.8λ程度の厚みに形成した場合、式(4)において線膨張係数αsとして、誘電体の線膨張係数は無視でき、水晶基板の線膨張係数が支配的となる。横波成分が支配的なSH型の弾性境界波において、弾性境界波の群遅延時間温度係数TCDは誘電体と水晶基板の横波の音速間の値となる。弾性境界波装置に用いられる誘電体材料の音速温度係数TCVsは、−10〜−40ppm/℃程度に分布している。図13〜図16に示した結果を求める際に用いたポリシリコンのTCVsは約−25ppm/℃である。
【0068】
従って、図13〜図16において、TCVが+15よりも小さい(TCFが−15よりも大きい。ポリシリコンのTCVsが−25であるため、差が+10となり、TCV=−10である誘電体と組み合わせた際にTCD=0と概算)水晶のカット角を用いることにより、音速温度係数TCVが負の誘電体と組み合わせて、群遅延時間温度係数TCDがほぼ0の弾性境界波装置の得られることがわかる。従って、図14において、TCFが−15ppm/℃よりも大きい領域、すなわち図14の斜線で示した領域内のオイラー角の水晶基板を用いれば、群遅延時間温度係数TCDがほぼ0の弾性境界波装置を提供し得ることがわかる。
【0069】
パワーフロー角PFAとは、弾性境界波の位相速度の方向と、弾性境界波のエネルギーが進む群速度の方向の違いを表わす角度である。パワーフロー角PFAが大きいと、IDTをパワーフロー角に合わせて傾斜して配置する必要があり、電極設計が複雑となる。また、角度ずれによる損失も発生しやすくなる。従って、弾性境界波では、パワーフロー角PFAが小さいことが望ましい。
【0070】
そして、このパワーフロー角PFAの値は、±6°以下であれば、上記角度ずれによる損失が著しく小さくなる。従って、図15に示す斜線で付した領域とすれば、パワーフロー角PFAを−6°より大きく、+6°より小さくすることができ、それによって上記損失を効果的に抑制し得ることがわかる。
【0071】
なお、図13〜図16は、IDT電極がAuの場合の結果を示しているが、IDTの電極材料の種類が変わった場合においても、電気機械結合係数などの絶対値はともかくとして、図13〜図16と同様の傾向があることが本願発明者により確かめられている。例えば、CuからなるIDTを用いた場合、図13〜図16に示す等高線分布と等高線の分布自体は同様であることが確かめられている。
【0072】
なお、本発明は、図1(a),(b)に示したような弾性境界波共振子に限定されず、ラダー型フィルタ、縦結合共振子型フィルタ、横結合共振子型フィルタ、トランスバーサル型フィルタ、弾性境界波光スイッチ、弾性境界波光フィルタなどの様々な弾性境界波を用いた装置に広く適用することができる。
【0073】
水晶基板を用いた狭帯域の弾性表面波フィルタ、特に共振子型弾性表面波フィルタやラダー型弾性表面波フィルタにおいて十分大きな減衰量を得るには、電極の反射係数が大きいことが必要である。水晶基板を用いた表面波フィルタでは、通常、Alからなる電極が用いられており、その厚みは表面波の波長をλとしたとき0.7λ以上であり、その場合の電極指1本あたりの反射係数は約0.08であった。
【0074】
これに対して、本発明では、SiNの膜厚をλとしたとき、IDTの電極指1本あたりの反射係数は図17に示す通りとなる。すなわち、図17は、様々な電極によりIDTを形成した場合の電極を構成している金属の厚みと、反射係数との関係を示す図である。図17から明らかなように、Cuを用いた場合、厚みが0.07λ以上であれば、反射係数は0.08以上となる。また、その他の金属を用いた場合には、反射係数は図示の範囲では全て0.08以上である。
【0075】
従って、十分大きな減衰量を確実に得ることができる。
【0076】
また、IDTを含む各種電極が、上述した各種金属により形成され得るが、電極は、他の電極層をさらに積層した構造を有していてもよい。すなわち、密着性や耐電力性を高めるために、Ti、Cr、NiCr、Niなどからなる薄い層を積層してもよい。このように積層される薄い電極層を、誘電体との界面や、水晶基板との界面に配置したり、複数の金属層間に配置することにより、密着性や耐電力性などを高めることができる。
【0077】
また、IDTの厚みの設定については、水晶基板上にIDTを構成するための金属膜を形成した後、逆スパッタ、イオンビームミリング、RIEまたはウェットエッチングなどの様々な方法で容易に調整することができる。
【0078】
また、本発明に係る弾性境界波装置では、上記誘電体の水晶基板とは反対側の面にさらに誘電体とは異なる誘電体が積層されていてもよい。
【0079】
また、水晶基板/IDT/誘電体からなる構造の外側に、弾性境界波装置の強度を高めるために、あるいは腐食性ガスの進入を防止するために保護層を形成してもよい。保護層としては、ポリイミド、エポキシ樹脂、酸化チタン、窒化アルミ、酸化アルミニウムなどの適宜の絶縁性材料、あるいはAu、AlまたはWなどの金属膜を用いることができる。また、場合によっては、本発明に係る弾性境界波装置は、パッケージに封入されていてもよい。
【0080】
なお、本明細書において、オイラー角、結晶軸及び等価なオイラー角とは以下の内容を意味するものとする。
【0081】
オイラー角
本明細書において、基板の切断面と、境界波の鉄板方向を表現するオイラー角(φ,θ,ψ)は、文献「弾性波素子技術ハンドブック」(日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会、第1版第1刷、平成3年11月30日発行、549頁)記載の右手系オイラー角を用いた。すなわち、水晶の結晶軸X、Y、Zに対し、Z軸を軸としてX軸を反時計廻りにφ回転しXa軸を得る。次に、Xa軸を軸としてZ軸を反時計廻りにθ回転しZ′軸を得る。Xa軸を含み、Z′軸を法線とする面を基板の切断面とした。そして、Z′軸を軸としてXa軸を反時計廻りにψ回転した軸X′方向を表面波の伝搬方向とした。また、Y軸が上記回転により移動して得られるX′軸とZ′軸と垂直な軸をY′軸とした。
【0082】
結晶軸
また、オイラー角の初期値として与える水晶の結晶軸X、Y、Zは、Z軸をc軸と平行とし、X軸を等価な3方向のa軸のうち任意の一つと平行とし、Y軸はX軸とZ軸を含む面の法線方向とした。
【0083】
等価なオイラー角
なお、本発明における水晶基板のオイラー角(φ,θ,ψ)は結晶学的に等価であればよい。例えば、文献(日本音響学会誌36巻3号、1980年、140〜145頁)によれば、三方晶系3m点群に属する結晶であるので、下記の式〔100〕が成り立つ。
【0084】
F(φ,θ,ψ)=F(60°−φ,−θ,ψ)
=F(60°+φ,−θ,180°−ψ)
=F(φ,180°+θ,180°−ψ)
=F(φ,θ,180°+ψ) …式〔100〕
ここで、Fは、電気機械結合係数Ks2、伝搬損失、TCF、PFA、ナチュラル一方向性などの任意の表面波特性である。PFAのナチュラル一方向性は、例えば伝搬方向を正負反転してみた場合、符号は変わるものの絶対量は等しいので実用上等価であると考えられ、水晶は32点群に属する結晶であるが、式〔100〕が成り立つ。
【0085】
例えば、オイラー角(30°,θ,ψ)の表面波伝搬特性は、オイラー角(90°,180°−θ,180°−ψ)の表面波伝搬特性と等価である。また、例えば、オイラー角(30°,90°,45°)の表面波伝搬特性は、表1に示すオイラー角の表面波伝搬特性と等価である。
【0086】
基板表面に圧電膜を形成した場合、厳密には式〔100〕の通りとはならないが、実用上問題ない程度に同等の表面波伝搬特性が得られる。
【0087】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態の弾性境界波装置の模式的正面断面図及び模式的平面断面図。
【図2】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みと、電気機械結合係数K2との関係を示す図。
【図3】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図。
【図4】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図。
【図5】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みとSH型境界波の音速Vとの関係を示す図。
【図6】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みと、伝搬損失αとの関係を示す図。
【図7】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みと電気機械結合係数K2との関係を示す図。
【図8】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みと電気機械結合係数K2との関係を示す図。
【図9】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みと周波数温度係数TCFとの関係を示す図。
【図10】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みとパワーフローPFAとの関係を示す図。
【図11】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みとSH型境界波の音速Vとの関係を示す図。
【図12】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みと伝搬損失αとの関係を示す図。
【図13】実施形態において、オイラー角(0°,θ,ψ)の水晶基板を用いた場合のθ及びψと電気機械結合係数K2との関係を示す図。
【図14】実施形態において、オイラー角(0°,θ,ψ)の水晶基板を用いた場合のθ及びψと周波数温度係数TCFとの関係を示す図。
【図15】実施形態において、オイラー角(0°,θ,ψ)の水晶基板を用いた場合のθ及びψとパワーフロー角PFAとの関係を示す図。
【図16】実施形態において、オイラー角(0°,θ,ψ)の水晶基板を用いた場合のθ及びψと音速との関係を示す図。
【図17】オイラー角(0°,127と,90°)の水晶基板上に、金属及びSiNを積層した構造における金属の厚みと、反射係数との関係を示す図。
【符号の説明】
【0089】
1…弾性境界波装置
2…水晶基板
3…誘電体
4…IDT
5,6…反射器
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1,第2の媒質間の境界を伝搬する弾性境界波を利用した弾性境界波装置に関し、より詳細には、第1の媒質が水晶であり、第2の媒質が誘電体である弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビション受像機、携帯電話器などの様々な電子機器において、発振子や帯域フィルタを構成するために弾性表面波装置が広く用いられている。弾性表面波装置では、圧電基板上に、少なくとも1つのIDT(インターデジタルトランスデューサ)が形成されている。この圧電基板としては、LiTaO3基板や水晶基板などが用いられている。
【0003】
LiTaO3基板を用いた弾性表面波フィルタに比べて、水晶基板を用いた弾性表面波フィルタは、狭帯域用途に適している。そこで、水晶基板を用いた弾性表面波共振子が従来広く用いられている。この種の弾性表面波共振子では、オイラー角で(0°,120°〜140°,0°)、すなわちSTカットX伝搬の水晶基板上に、Alからなるくし形電極を形成することにより、IDTが構成されていた。
【0004】
弾性表面波共振子では、共振周波数と反共振周波数との差、すなわち帯域幅は狭いことが望ましいものの、狭帯域フィルタである共振子とはいえ、所望の特性を得るには、ある程度の帯域幅を有することが望ましい。また、狭帯域フィルタでは、帯域幅が狭いため、通過帯域が温度に対して非常に敏感となる。従って、通過帯域の温度依存性が少ないことが望ましい。従来、これらの要求を考慮し、水晶基板として、STカットX伝搬の水晶基板が用いられていた。
【0005】
また、弾性表面波共振子の共振周波数と反共振周波数との差は、圧電基板の電気機械結合係数K2に比例し、STカットX伝搬の水晶基板の電気機械結合係数K2は約0.14%であった。
【0006】
しかしながら、上記のような弾性表面波共振子では、弾性表面波を励振する必要があるため、水晶基板上に形成された電極上に振動を妨げないための空洞を設けねばならなかった。そのため、パッケージが高価となり、かつ大型にならざるを得なかった。また、パッケージから生じた金属粉などが電極に落下し、短絡不良を起こすおそれがあった。
【0007】
これに対して、下記の特許文献1に記載の弾性境界波装置では、第1,第2の媒質間を伝搬する弾性境界波を利用しているため、パッケージの小型化及び低コスト化を果たすことができ、かつ上記のような短絡不良が生じるおそれがない。
【0008】
特許文献1に記載の弾性境界波装置では、Si系材料からなる第1の基板上に、くし形電極が形成されており、かつ該くし形電極を覆うように、圧電性の第2の基板が貼り合わされている。ここでは、Si系基板として、Si基板、アモルファスシリコン基板またはポリシリコン基板などが挙げられている。また、第2の基板を構成する圧電材料としては、LiNbO3、LiTaO3、水晶などが例示されている。そして、特許文献1では、弾性境界波としてのストンリー波を利用することにより、パッケージの小型化及びコストダウンを図ることができるとされている。
【0009】
他方、下記の特許文献2には、第1,第2の媒質のうち一方が圧電材料からなり、他方が圧電材料または非圧電材料からなる弾性境界波装置が示されている。そして、第1,第2の媒質間において、弾性境界波としてのSH波、すなわち純粋横インターフェース波を伝搬させる構成が示唆されている。上記圧電材料としては、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムとともに、STカットX伝搬の水晶が示されている。
【0010】
また、下記の特許文献3には、圧電体と誘電体とを積層し、両者の界面に電極を形成した弾性境界波装置において、圧電体を伝搬する遅い横波の音速と、誘電体を伝搬する遅い横波の音速よりも、SH型弾性境界波の音速を低音速とすることにより、SH型弾性境界波を伝搬させ得ることが開示されている。
【特許文献1】特開平10−84246号公報
【特許文献2】特表2003−512637号公報
【特許文献3】WO2004−070946
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、上記のように、水晶を用いた弾性境界波装置は開示されているものの、特許文献1で用いられている弾性境界波はストンリー波であった。ストンリー波を用いた場合には、弾性表面波装置並みの大きな電気機械結合係数を得ることが困難であり、またIDTや反射器の反射係数も十分な大きさとなり難い。従って、特許文献1に記載の弾性境界波装置では、十分な帯域幅を得ることが困難であった。
【0012】
他方、特許文献2では、上記のようなSH型の弾性境界波を利用することは示唆されているものの、特許文献2では、SH型の境界波が利用される具体的な条件については何ら示されていない。
【0013】
特許文献3には、上記のように、圧電体と誘電体を積層した弾性境界波装置において、SH型弾性境界波を利用した構成は示されているものの、全体としては、LiTaO3やLiNbO3などの圧電単結晶が示されているにすぎない。圧電体としてLiTaO3やLiNbO3を用い、誘電体としてSiO2を用いた場合、弾性境界波装置の群遅延時間温度係数(TCD)が小さい条件を得ることができる。しかしながらLiTaO3やLiNbO3の本来のTCDが大きいため、弾性境界波装置のTCDには製造ばらつきを生じ易い。一方圧電体としての水晶を用いた場合には水晶のTCDが小さいので、弾性境界波装置のTCDの製造ばらつきを低減できると考えられるが、水晶を用いた場合のSH型境界波を利用する上での具体的な構成については特に示されていない。
【0014】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、パッケージの小型化及び低コスト化を果たし得るだけでなく、水晶基板を用いて構成されており、SH型の弾性境界波を利用しており、電気機械結合係数などの様々な物性や特性において優れている弾性境界波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願の第1の発明によれば、水晶基板と、前記水晶基板上に形成されたIDTと、前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、前記水晶基板のオイラー角が、図13において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置が提供される。
【0016】
本願の第2の発明によれば、水晶基板と、前記水晶基板上に形成されたIDTと、前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、前記水晶基板のオイラー角が、図14において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置が提供される。
【0017】
本願の第3の発明によれば、水晶基板と、前記水晶基板上に形成されたIDTと、前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、前記水晶基板のオイラー角が、図15において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置が提供される。
【0018】
第1の発明のある特定の局面では、前記オイラー角が、図14において斜線を付した領域にある。
【0019】
第1,第2の発明のある特定の局面では、前記オイラー角が、図15において斜線を付した領域にある。
【0020】
第1〜第3の発明(以下、本発明と総称する。)のある特定の局面によれば、前記弾性境界波の音速が、前記水晶を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くかつ前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くなるように、前記IDTの電極指の厚み及び電極指の幅が設定されている。
【0021】
本発明において、上記IDTは、適宜の導電性材料により形成されるが、本発明のある特定の局面では、前記IDTが、Ni、Mo、Fe、Cu、W、Ag、Ta、Au及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属からなる。
【0022】
本発明に係る弾性境界波装置において、上記誘電体膜を構成する材料は特に限定されないが、好ましくは、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンが用いられる。
【0023】
また、上記誘電体は、シリコン系材料からなる必要は必ずしもなく、窒化アルミニウム、ガラス、四ホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイア、窒化シリコン及びアルミナからなる群から選択された1種により構成され得る。
【発明の効果】
【0024】
第1の発明によれば、水晶基板と誘電体の界面にIDTが配置されており、弾性境界波の音速が、水晶基板及び誘電体を伝搬する各遅い横波よりも低音速となるようにIDTの厚みが決定されており、水晶基板のオイラー角が図13の斜線で示された領域内にあるため、LiNbO3やLiTaO3に比べて安価である水晶を用い、弾性境界波装置を提供することができる。従って、弾性境界波素子のコストを低減することができる。しかも、弾性境界波として利用するSH型の境界波の電気機械結合係数K2を高めることが可能となる。よって、十分な帯域幅を有する弾性境界波装置を提供することができる。
【0025】
第2の発明によれば、水晶基板と誘電体の界面にIDTが配置されており、弾性境界波の音速が、水晶基板及び誘電体を伝搬する各遅い横波よりも低音速となるようにIDTの厚みが決定されており、水晶基板のオイラー角が図14の斜線で示された領域内にあるため、LiNbO3やLiTaO3よりも安価な水晶を用いてSH型境界波を利用した弾性境界波装置を提供することができる。従って、弾性境界波装置のコストを低減することができる。しかも、利用するSH型境界波の群遅延時間温度係数TCDを小さくすることができる。しかも、水晶自体のTCDは小さいため、TCDの補正による製造ばらつきも小さくすることができる。
【0026】
第3の発明によれば、水晶基板と誘電体の界面にIDTが配置されており、弾性境界波の音速が、水晶基板及び誘電体を伝搬する各遅い横波よりも低音速となるようにIDTの厚みが決定されており、水晶基板のオイラー角が図15の斜線で示された領域内にあるため、LiNbO3やLiTaO3よりも安価な水晶を用いて、SH型境界波を利用した弾性境界波装置を提供することができる。従って、弾性境界波装置のコストを低減することができる。しかも、オイラー角が上記特定の範囲とされているので、SH型境界波のパワーフロー角PFAを小さくすることが可能となる。
【0027】
第1の発明において、水晶基板のオイラー角が図14において斜線を付した領域内にも位置している場合には、電気機械結合係数K2を大きくし得るだけでなく群遅延時間温度係数TCDを小さくすることも可能となる。しかも、水晶自体のTCDは小さいため、TCDの補正による製造ばらつきも小さくすることができる。
【0028】
第1,第2の発明において、水晶基板のオイラー角が、図15において斜線を付した領域内にある場合には、電気機械結合係数K2を大きくし、かつパワーフロー角PFAを小さくすることができ、さらに、オイラー角が、図13〜図15において斜線を付した各領域内に位置している場合には、電気機械結合係数K2を大きくし、群遅延時間温度係数TCD及びパワーフローPFAを小さくすることが可能となる。しかも、水晶自体のTCDは小さいため、TCDの補正による製造ばらつきも小さくすることができる。
【0029】
本発明において、弾性境界波の音速が、水晶を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くかつ誘電体を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くなるように、IDTの厚み及び線路幅が設定されている場合には、それによって伝搬損失を小さくすることが可能となる。
【0030】
IDTが、Ni、Mo、Fe、Cu、W、Ag、Ta、Au及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属からなる場合には、その膜厚を適正にする、すなわち弾性境界波の音速を水晶及び誘電体の遅い横波の音速より遅くなるようにすることにより弾性境界波を問題なく励振することができる。
【0031】
また、上記誘電体が、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンからなる場合には、電気機械結合係数K2を高めることができ、群遅延時間温度係数TCD及びパワーフロー角PFAを小さくすることができる条件を示すオイラー角範囲を比較的広くすることができる。従って、特性の良好な弾性境界波装置を容易に提供することが可能となる。
【0032】
誘電体膜が、窒化アルミニウム、ガラス、四ホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイア、窒化シリコン及びアルミナからなる群から選択された1種により構成されている場合、多結晶シリコンやアモルファスシリコンを用いた場合と同様に、電気機械結合係数K2を大きくでき、群遅延時間温度係数TCD及びパワーフロー角PFAを小さくすることができる条件を示すオイラー角範囲が比較的広い弾性境界波装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0034】
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の模式的正面断面図及び模式的平面断面図である。
【0035】
本実施形態の弾性境界波装置1は、水晶基板2と、水晶基板2に積層されたポリシリコンからなる誘電体3とを有する。水晶基板2と誘電体3との間には、図1(b)に模式的に示されている電極構造が形成されている。この電極構造は、IDT4と、IDT4の弾性境界波伝搬方向両側に配置された反射器5,6とを有する。IDT4及び反射器5,6は、後述する金属により構成されている。IDT4には、図示のように、交差幅重み付けが施されている。なお、IDT4は重み付けされていなくてもよい。
【0036】
本実施形態の弾性境界波装置1は、上記電極構造を有する1ポート型の弾性境界波共振子である。
【0037】
また、弾性境界波装置1では、水晶基板2を伝搬する遅い横波よりもSH型弾性境界波の音速が低音速となるように、かつ誘電体3を伝搬する遅い横波よりもSH型弾性境界波の音速が低音速となるように、IDT4の厚みが設定されている。そのため、SH型の弾性境界波を利用した弾性境界波装置1が構成されている。
【0038】
水晶基板2のような圧電体と、誘電体3との界面にIDTを形成した構造において、圧電体及び誘電体を伝搬する各遅い横波の音速よりも、SH型弾性境界波の音速を低くすることにより、SH型弾性境界波を界面に伝搬させ得ることは、例えば、前述した特許文献3などに開示されている。
【0039】
上記弾性境界波装置1において、IDT4及び反射器5,6を構成する電極材料として、Ni、Mo、Fe、Cu、W、Ag、Ta、AuまたはPtを用いた場合の、電極の厚みと、SH波を主成分とするSH型境界波の音速、電気機械結合係数K2、伝搬損失α及び周波数温度係数TCFとの関係を求めた。結果を図2〜図6に示す。なお、図2〜図6に示した結果は、以下の条件に従って文献「A method for estimating optimal cuts and propagation directions for excitation and propagation direction for excitation of piezoelectric surface waves」(J.J.Campbell and W.R.Jones,IEEE Trans.Sonics and Ultrason.,bol.SU-15(1968)pp.209-217)に開示されている方法をもとに計算することにより求めた。
【0040】
計算条件
誘電体(SiN)/IDT/水晶基板
誘電体としてのSiNの厚みは無限大とし、水晶基板の厚みも無限大とした。また、水晶基板の結晶方位は、55°Yカット90°X伝搬(オイラー角で(0°,145°,90°)とした。
【0041】
回転Y板X伝搬の水晶基板における縦波、速い横波及び遅い横波の音速は、それぞれ、5799、4881及び4139m/秒であり、SiNを伝搬する縦波、遅い横波の音速は、それぞれ、10642及び5973m/秒である。
【0042】
なお、開放境界の場合には、水晶基板と電極、電極と誘電体との境界における変位、電位、電束密度の法線成分及び上下方向の応力が連続で、水晶基板と誘電体の厚さを無限とし、電極の比誘電率を1として音速と伝搬損失を求めた。また、短絡境界の場合には、誘電体と電極、電極と水晶基板との各境界における電位を0とした。また、電気機械結合係数K2は、下記の式(1)により求めた。なお、式(1)においてVfは開放境界の音速、Vmは短絡境界の音速である。
【0043】
K2=2|Vf−Vm|/Vf …式(1)
周波数温度係数TCFについては、20℃、25℃及び30℃における境界波の音速V〔25℃〕、V〔25℃〕及びV〔30℃〕により、下記の式(2)により求めた。
【0044】
TCF=V〔25℃〕-1×{(V〔30℃〕−V〔20℃〕)÷10℃}−αs …式(2)
また、群遅延時間温度係数TCDについては、下記の式(2A)に従って求めた。
【0045】
TCD=−V〔25℃〕-1×{(V〔30℃〕−V〔20℃〕)÷10℃}+αs …式(2A)
なお、式(2)及び式(2A)において、αsは境界波伝搬方向における水晶基板の線膨張係数である。
【0046】
また、水晶基板の任意のオイラー角(φ,θ,ψ)におけるパワーフロー角PFAは、ψ−0.5°、ψ及びψ+0.5°における境界波の音速Vに基づき式(3)により求めた。
【0047】
PFA=tan-1{V〔ψ〕-1×(V〔ψ+0.5°〕−V〔ψ−0.5°〕)} …式(3)
図2は、上記のようにして求められたIDTの厚みと、SH型境界波の電気機械結合係数との関係を示す図である。図3は、IDTの厚みと、周波数温度係数TCFとの関係を示す。図4は、IDTの厚みとパワーフロー角PFAとの関係を示す。図5は、IDTの厚みと、SH型境界波の音速との関係を示し、図6は、IDTの厚みと伝搬損失αとの関係を示す。
【0048】
図5、図6から明らかなように、上述したいずれの金属を用いた場合においても、IDTの厚みを、SH型境界波の音速は、上記縦波、速い横波及び遅い横波のうち最も遅い波の音速である4139m/秒以下となるように厚くすることにより、SH型境界波の伝搬損失αが0となり、低損失となることがわかる。一例として、IDTがAuからなる場合を説明する。図5から明らかなように、AuからなるIDTを用いた場合、音速を4139m/秒よりも遅くするには、IDTの厚みは0.05λ程度以上とすればよいことがわかる。そして、図6から明らかなように、IDTがNiからなる場合、IDTの厚みが0.05λ以上となれば、伝搬損失αがほぼ0となることがわかる。なお、図5においてSH型境界波の音速が4139m/秒より低下する各種金属の膜厚と、図6において伝搬損失αが次第に減少しほぼ0となる点の各種金属の膜厚とは完全に一致しない。これはSH型境界波の音速が水晶の速い横波の音速(4881m/秒)よりも低下するようにIDTの膜厚が設定された時点で伝搬損失αが急激に低下し、金属によっては0に近い値を示すためである。伝搬損失αは0であることが好ましいため、図5においてSH型境界波の音速が4139m/秒より低下するようにIDTの膜厚を設定することがより好ましい。もっとも図5においてSH型境界波の音速が4139m/秒より低下する領域でなくとも、IDTに対して実際に用いる金属について、図6において伝搬損失αが実用上問題のないレベルに低下する範囲にIDTの設計膜厚範囲を設定し、その他の条件を鑑みてIDTの膜厚を決定することにより特性の優れた弾性境界波装置を得ることができる。
【0049】
このように、従来、水晶基板を用いた弾性境界波装置においてSH型境界波を伝搬させることができないと考えられていた水晶基板のオイラー角においても、SH型境界波をほとんど損失を発生させることなく伝搬させ得ることがわかる。
【0050】
また、図2と、図5とを比較すれば明らかなように、SH型境界波の音速が4139m/秒よりも遅くなるIDTの厚みとした場合、いずれの金属からなるIDTを用いた場合であっても、電気機械結合係数K2を十分大きくし得ることがわかる。
【0051】
また、図3、図4を、図5と比較することにより、IDTの厚みを、SH型境界波の音速が4139m/秒以下となるように設定した場合、TCFやPFAが十分に小さくされ得ることもわかる。
【0052】
よって、図2〜図6の結果から、上記実施形態において、IDTを構成する金属材料の如何にかかわらず、SH型境界波の音速が、水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつSiNを伝搬する遅い横波よりも低音速となるようにIDTの厚みを設定すれば、SH型境界波をほとんど無損失で伝搬させることができ、しかも十分大きな電気機械結合係数K2を得たり、周波数温度係数TCFやパワーフロー角PFAを小さくし得ることがわかる。
【0053】
図7〜図12は、SiN以外に、窒化アルミニウム(AlN)、ガラス(BGL)、四ホウ酸リチウム(LBA)、ニオブ酸リチウム(LNK)、タンタル酸リチウム(LTK)、サファイア(SAPP)、ポリシリコン(SIP)、酸化亜鉛(ZnO)またはアルミナ(Al2O3)を用いた場合のIDTの厚みと、SH型境界波の音速、電気機械結合係数K2、伝搬損失及び周波数温度係数TCFとの関係を示す。
【0054】
図7〜図12に示す結果は、水晶基板/IDT/誘電体の積層構造において、水晶基板の厚さを無限大とし、水晶基板のカット角を、上述した計算例と同様に、55°Yカット90°X伝搬〔オイラー角で(0°,145°,90°)〕とし、誘電体の厚みを無限大として求めた。
【0055】
図7〜図12の結果は、図2〜図6に示す結果を求めた場合と同様にして計算して求められた。
【0056】
上記水晶基板の遅い横波の音速は、前述したように4139m/秒である。なお、上記各誘電体材料を構成する遅い横波の音速は、4139m/秒よりも速い。従って、SH型境界波の音速が4139m/秒よりも遅くなれば、SH型境界波を伝搬させることができる。言い換えれば、図11において、音速Vが4139m/秒以下となるIDTの厚みの範囲を選択すれば、SH型境界波を利用することができる。そして、図12と図11とを比較すれば明らかなように、誘電体の材料を種々異ならせた場合であっても、IDTの厚みを、SH型境界波を伝搬させ得る条件、すなわちSH型境界波の音速Vが4139m/秒よりも遅くなる範囲とされている場合、伝搬損失αはほぼ0となる。従って、図5及び図6に示した計算結果の場合と同様に、誘電体をSiN以外の材料とした場合であっても、SH型境界波の音速を4139m/秒よりも遅くなるようにIDTの厚みを設定することにより、SH型境界波をほぼ無損失で伝搬させ得ることがわかる。
【0057】
また、IDTの厚みをこのように設定した場合、図7から明らかなように、SH型境界波の電気機械結合係数K2を十分大きくすることができる。例えば、誘電体として、AlNを用いた場合には、図12から明らかなように、IDTの厚みを0.02λ以上とすることにより、SH型境界波の損失をほぼ0とすることができ、その場合、図7から明らかなように、電気機械結合係数K2を0.05%以上とし得ることがわかる。
【0058】
図7〜図12から明らかなように、誘電体材料をSiN以外の他の材料に変更した場合においても、同様に、十分大きな電気機械結合係数K2の得られることがわかる。
【0059】
図2〜図6及び図7〜図12の結果から、IDTを構成する材料や誘電体を構成する材料を種々変更した場合であっても、オイラー角(0°,145°,90°)の水晶基板を用いた場合、IDTの厚みを、SH型境界波の音速が4139m/秒以下となるように設定することにより、十分大きな電気機械結合係数K2、小さな群遅延時間温度係数TCD及びPFAを実現し得ることがわかった。
【0060】
次に、水晶基板2のオイラー角を種々変更し、弾性境界波共振子としての弾性境界波装置1を作製した場合の電気機械結合係数K2、周波数温度係数TCF、パワーフロー角PFA及びSH型境界波の音速Vの変化を計算した。結果を図13〜図16に示す。
【0061】
なお、条件は以下の通りである。
【0062】
構造:誘電体2は多結晶Siで構成した。水晶基板については、オイラー角を種々変更し、その厚みは無限大とした。
【0063】
IDTはAuからなり、その厚みは0.07λとした。
【0064】
なお、図1に示した弾性境界波装置1により発振器を作製した場合、電気機械結合係数K2が大きいほど発振しやすくなる。本願発明者によれば、電気機械結合係数K2が0.08%より小さいと、発振させることが困難となることが確かめられている。
【0065】
従って、水晶基板のオイラー角(0°,θ,ψ)において、θ,ψを図13に示す斜線で付したハッチングの領域内とすることにより、電気機械結合係数K2を0.08%以上とすることができ、弾性境界波装置1を用いて良好に発振させ得ることがわかる。
【0066】
また、この誘電体を伝搬する横波では、群遅延時間温度係数TCDは正の値である。他方、水晶では、群遅延時間温度係数TCDは負の値となる。群遅延時間TCBは、横波の音速の音速温度係数をTCVs、SH型境界波の伝搬方向における材料の線膨張係数をαsとすると、次の式で表わされる。
【0067】
TCD=αs−TCVs …式(4)
誘電体/IDT/水晶基板の構造を有する弾性境界波装置において、厚さ100λ程度の水晶基板上に、IDTをフォトリソグラフィー法により形成し、誘電体をスパッタリング法などの堆積法で十分に振動が閉じ込められる厚み、例えば0.8λ程度の厚みに形成した場合、式(4)において線膨張係数αsとして、誘電体の線膨張係数は無視でき、水晶基板の線膨張係数が支配的となる。横波成分が支配的なSH型の弾性境界波において、弾性境界波の群遅延時間温度係数TCDは誘電体と水晶基板の横波の音速間の値となる。弾性境界波装置に用いられる誘電体材料の音速温度係数TCVsは、−10〜−40ppm/℃程度に分布している。図13〜図16に示した結果を求める際に用いたポリシリコンのTCVsは約−25ppm/℃である。
【0068】
従って、図13〜図16において、TCVが+15よりも小さい(TCFが−15よりも大きい。ポリシリコンのTCVsが−25であるため、差が+10となり、TCV=−10である誘電体と組み合わせた際にTCD=0と概算)水晶のカット角を用いることにより、音速温度係数TCVが負の誘電体と組み合わせて、群遅延時間温度係数TCDがほぼ0の弾性境界波装置の得られることがわかる。従って、図14において、TCFが−15ppm/℃よりも大きい領域、すなわち図14の斜線で示した領域内のオイラー角の水晶基板を用いれば、群遅延時間温度係数TCDがほぼ0の弾性境界波装置を提供し得ることがわかる。
【0069】
パワーフロー角PFAとは、弾性境界波の位相速度の方向と、弾性境界波のエネルギーが進む群速度の方向の違いを表わす角度である。パワーフロー角PFAが大きいと、IDTをパワーフロー角に合わせて傾斜して配置する必要があり、電極設計が複雑となる。また、角度ずれによる損失も発生しやすくなる。従って、弾性境界波では、パワーフロー角PFAが小さいことが望ましい。
【0070】
そして、このパワーフロー角PFAの値は、±6°以下であれば、上記角度ずれによる損失が著しく小さくなる。従って、図15に示す斜線で付した領域とすれば、パワーフロー角PFAを−6°より大きく、+6°より小さくすることができ、それによって上記損失を効果的に抑制し得ることがわかる。
【0071】
なお、図13〜図16は、IDT電極がAuの場合の結果を示しているが、IDTの電極材料の種類が変わった場合においても、電気機械結合係数などの絶対値はともかくとして、図13〜図16と同様の傾向があることが本願発明者により確かめられている。例えば、CuからなるIDTを用いた場合、図13〜図16に示す等高線分布と等高線の分布自体は同様であることが確かめられている。
【0072】
なお、本発明は、図1(a),(b)に示したような弾性境界波共振子に限定されず、ラダー型フィルタ、縦結合共振子型フィルタ、横結合共振子型フィルタ、トランスバーサル型フィルタ、弾性境界波光スイッチ、弾性境界波光フィルタなどの様々な弾性境界波を用いた装置に広く適用することができる。
【0073】
水晶基板を用いた狭帯域の弾性表面波フィルタ、特に共振子型弾性表面波フィルタやラダー型弾性表面波フィルタにおいて十分大きな減衰量を得るには、電極の反射係数が大きいことが必要である。水晶基板を用いた表面波フィルタでは、通常、Alからなる電極が用いられており、その厚みは表面波の波長をλとしたとき0.7λ以上であり、その場合の電極指1本あたりの反射係数は約0.08であった。
【0074】
これに対して、本発明では、SiNの膜厚をλとしたとき、IDTの電極指1本あたりの反射係数は図17に示す通りとなる。すなわち、図17は、様々な電極によりIDTを形成した場合の電極を構成している金属の厚みと、反射係数との関係を示す図である。図17から明らかなように、Cuを用いた場合、厚みが0.07λ以上であれば、反射係数は0.08以上となる。また、その他の金属を用いた場合には、反射係数は図示の範囲では全て0.08以上である。
【0075】
従って、十分大きな減衰量を確実に得ることができる。
【0076】
また、IDTを含む各種電極が、上述した各種金属により形成され得るが、電極は、他の電極層をさらに積層した構造を有していてもよい。すなわち、密着性や耐電力性を高めるために、Ti、Cr、NiCr、Niなどからなる薄い層を積層してもよい。このように積層される薄い電極層を、誘電体との界面や、水晶基板との界面に配置したり、複数の金属層間に配置することにより、密着性や耐電力性などを高めることができる。
【0077】
また、IDTの厚みの設定については、水晶基板上にIDTを構成するための金属膜を形成した後、逆スパッタ、イオンビームミリング、RIEまたはウェットエッチングなどの様々な方法で容易に調整することができる。
【0078】
また、本発明に係る弾性境界波装置では、上記誘電体の水晶基板とは反対側の面にさらに誘電体とは異なる誘電体が積層されていてもよい。
【0079】
また、水晶基板/IDT/誘電体からなる構造の外側に、弾性境界波装置の強度を高めるために、あるいは腐食性ガスの進入を防止するために保護層を形成してもよい。保護層としては、ポリイミド、エポキシ樹脂、酸化チタン、窒化アルミ、酸化アルミニウムなどの適宜の絶縁性材料、あるいはAu、AlまたはWなどの金属膜を用いることができる。また、場合によっては、本発明に係る弾性境界波装置は、パッケージに封入されていてもよい。
【0080】
なお、本明細書において、オイラー角、結晶軸及び等価なオイラー角とは以下の内容を意味するものとする。
【0081】
オイラー角
本明細書において、基板の切断面と、境界波の鉄板方向を表現するオイラー角(φ,θ,ψ)は、文献「弾性波素子技術ハンドブック」(日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会、第1版第1刷、平成3年11月30日発行、549頁)記載の右手系オイラー角を用いた。すなわち、水晶の結晶軸X、Y、Zに対し、Z軸を軸としてX軸を反時計廻りにφ回転しXa軸を得る。次に、Xa軸を軸としてZ軸を反時計廻りにθ回転しZ′軸を得る。Xa軸を含み、Z′軸を法線とする面を基板の切断面とした。そして、Z′軸を軸としてXa軸を反時計廻りにψ回転した軸X′方向を表面波の伝搬方向とした。また、Y軸が上記回転により移動して得られるX′軸とZ′軸と垂直な軸をY′軸とした。
【0082】
結晶軸
また、オイラー角の初期値として与える水晶の結晶軸X、Y、Zは、Z軸をc軸と平行とし、X軸を等価な3方向のa軸のうち任意の一つと平行とし、Y軸はX軸とZ軸を含む面の法線方向とした。
【0083】
等価なオイラー角
なお、本発明における水晶基板のオイラー角(φ,θ,ψ)は結晶学的に等価であればよい。例えば、文献(日本音響学会誌36巻3号、1980年、140〜145頁)によれば、三方晶系3m点群に属する結晶であるので、下記の式〔100〕が成り立つ。
【0084】
F(φ,θ,ψ)=F(60°−φ,−θ,ψ)
=F(60°+φ,−θ,180°−ψ)
=F(φ,180°+θ,180°−ψ)
=F(φ,θ,180°+ψ) …式〔100〕
ここで、Fは、電気機械結合係数Ks2、伝搬損失、TCF、PFA、ナチュラル一方向性などの任意の表面波特性である。PFAのナチュラル一方向性は、例えば伝搬方向を正負反転してみた場合、符号は変わるものの絶対量は等しいので実用上等価であると考えられ、水晶は32点群に属する結晶であるが、式〔100〕が成り立つ。
【0085】
例えば、オイラー角(30°,θ,ψ)の表面波伝搬特性は、オイラー角(90°,180°−θ,180°−ψ)の表面波伝搬特性と等価である。また、例えば、オイラー角(30°,90°,45°)の表面波伝搬特性は、表1に示すオイラー角の表面波伝搬特性と等価である。
【0086】
基板表面に圧電膜を形成した場合、厳密には式〔100〕の通りとはならないが、実用上問題ない程度に同等の表面波伝搬特性が得られる。
【0087】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態の弾性境界波装置の模式的正面断面図及び模式的平面断面図。
【図2】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みと、電気機械結合係数K2との関係を示す図。
【図3】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図。
【図4】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図。
【図5】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みとSH型境界波の音速Vとの関係を示す図。
【図6】実施形態の弾性境界波装置の解析結果を示し、IDTを構成する金属材料を変化させた場合のIDTの厚みと、伝搬損失αとの関係を示す図。
【図7】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みと電気機械結合係数K2との関係を示す図。
【図8】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みと電気機械結合係数K2との関係を示す図。
【図9】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みと周波数温度係数TCFとの関係を示す図。
【図10】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みとパワーフローPFAとの関係を示す図。
【図11】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みとSH型境界波の音速Vとの関係を示す図。
【図12】本発明の実施形態において、誘電体の材料を変化させた場合のIDTの厚みと伝搬損失αとの関係を示す図。
【図13】実施形態において、オイラー角(0°,θ,ψ)の水晶基板を用いた場合のθ及びψと電気機械結合係数K2との関係を示す図。
【図14】実施形態において、オイラー角(0°,θ,ψ)の水晶基板を用いた場合のθ及びψと周波数温度係数TCFとの関係を示す図。
【図15】実施形態において、オイラー角(0°,θ,ψ)の水晶基板を用いた場合のθ及びψとパワーフロー角PFAとの関係を示す図。
【図16】実施形態において、オイラー角(0°,θ,ψ)の水晶基板を用いた場合のθ及びψと音速との関係を示す図。
【図17】オイラー角(0°,127と,90°)の水晶基板上に、金属及びSiNを積層した構造における金属の厚みと、反射係数との関係を示す図。
【符号の説明】
【0089】
1…弾性境界波装置
2…水晶基板
3…誘電体
4…IDT
5,6…反射器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板と、
前記水晶基板上に形成されたIDTと、
前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、
前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、
前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、
前記水晶基板のオイラー角が、図13において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項2】
水晶基板と、
前記水晶基板上に形成されたIDTと、
前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、
前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、
前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、
前記水晶基板のオイラー角が、図14において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項3】
水晶基板と、
前記水晶基板上に形成されたIDTと、
前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、
前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、
前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、
前記水晶基板のオイラー角が、図15において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項4】
前記オイラー角が、図14において斜線を付した領域にある、請求項1に記載の弾性境界波装置。
【請求項5】
前記オイラー角が、図15において斜線を付した領域にある、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項6】
前記弾性境界波の音速が、前記水晶を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くかつ前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くなるように、前記IDTの電極指の厚み及び電極指の幅が設定されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項7】
前記IDTが、Ni、Mo、Fe、Cu、W、Ag、Ta、Au及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属を主成分として含むIDT電極を用いて構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項8】
前記誘電体が、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンからなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項9】
前記誘電体が、窒化アルミニウム、ガラス、四ホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイア、窒化シリコン及びアルミナからなる群から選択された1種により構成されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項1】
水晶基板と、
前記水晶基板上に形成されたIDTと、
前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、
前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、
前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、
前記水晶基板のオイラー角が、図13において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項2】
水晶基板と、
前記水晶基板上に形成されたIDTと、
前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、
前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、
前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、
前記水晶基板のオイラー角が、図14において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項3】
水晶基板と、
前記水晶基板上に形成されたIDTと、
前記IDTを覆うように前記水晶基板上に形成された誘電体とを有し、
前記水晶基板と前記誘電体との境界において弾性境界波が伝搬される弾性境界波装置であって、
前記弾性境界波の音速が前記水晶基板を伝搬する遅い横波よりも低音速であり、かつ前記誘電体を伝搬する遅い横波よりも低音速となるように、前記IDTの厚みが設定されており、
前記水晶基板のオイラー角が、図15において斜線で示された領域にあることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項4】
前記オイラー角が、図14において斜線を付した領域にある、請求項1に記載の弾性境界波装置。
【請求項5】
前記オイラー角が、図15において斜線を付した領域にある、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項6】
前記弾性境界波の音速が、前記水晶を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くかつ前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速よりも遅くなるように、前記IDTの電極指の厚み及び電極指の幅が設定されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項7】
前記IDTが、Ni、Mo、Fe、Cu、W、Ag、Ta、Au及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属を主成分として含むIDT電極を用いて構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項8】
前記誘電体が、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンからなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項9】
前記誘電体が、窒化アルミニウム、ガラス、四ホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイア、窒化シリコン及びアルミナからなる群から選択された1種により構成されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−36344(P2007−36344A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212561(P2005−212561)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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