弾性境界波装置
電気機械結合係数が大きく、伝搬損失及びパワーフロー角が小さく、周波数温度係数TCFが適度な範囲にあり、簡略な構造により簡単な工法で製造され得るストンリー波を利用した弾性境界波装置を提供する。
圧電体2の一面に誘電体3が積層されており、圧電体2と誘電体3との間の境界に電極としてIDT4及び反射器5,6が配置されており、誘電体3を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体2を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、上記電極の厚みが決定されている、弾性境界波装置1。
圧電体2の一面に誘電体3が積層されており、圧電体2と誘電体3との間の境界に電極としてIDT4及び反射器5,6が配置されており、誘電体3を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体2を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、上記電極の厚みが決定されている、弾性境界波装置1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストンリー波を利用した弾性境界波装置に関し、より詳細には、圧電体と誘電体との境界に電極が配置された構造のストンリー波を利用した弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話用のRFフィルタ及びIFフィルタ、並びにVCO用共振子及びテレビジョン用VIFフィルタなどに、各種弾性表面波装置が用いられている。弾性表面波装置は、媒質表面を伝搬するレイリー波や第1漏洩波などの弾性表面波を利用している。
【0003】
弾性表面波は、媒質表面を伝搬するため、媒質の表面状態の変化に敏感である。従って、媒質の弾性表面波伝搬面を保護するために、該伝搬面に臨む空洞を設けたパッケージに弾性表面波素子が気密封止されていた。このような空洞を有するパッケージが用いられていたため、弾性表面波装置のコストは高くならざるを得なかった。また、パッケージの寸法は、弾性表面波素子の寸法よりも大幅に大きくなるため、弾性表面波装置は大きくならざるを得なかった。
【0004】
他方、弾性波の中には、上記弾性表面波以外に、固体間の境界を伝搬する弾性境界波が存在する。
【0005】
例えば、下記の非特許文献1には、126°回転Y板X伝搬のLiTaO3基板上にIDTが形成されており、IDTとLiTaO3基板上にSiO2膜が所定の厚みに形成されている弾性境界波装置が開示されている。ここでは、ストンリー波と称されているSV+P型の弾性境界波が伝搬することが示されている。なお、非特許文献1では、上記SiO2膜の膜厚を1.0λ(λは弾性境界波の波長)とした場合、電気機械結合係数は2%になることが示されている。
【0006】
弾性境界波は、固体間の境界部分にエネルギーが集中した状態で伝搬する。従って、上記LiTaO3基板の底面及びSiO2膜の表面にはエネルギーがほとんど存在しないため、基板や薄膜の表面状態の変化により特性が変化しない。従って、空洞形成パッケージを省略することができ、弾性波装置のサイズを低減することができる。
【0007】
他方、下記の非特許文献2には、128°回転Y板X伝搬のLiNbO3基板上に、SiO2膜を形成した構造において、ストンリー波と称されている境界波が伝搬することが示されている。非特許文献2における解析によれば、SiO2が本来の状態では、SiO2層とLiNbO3基板との境界に変位は集中しないため境界波とはならず、SiO2の弾性的性質を表すラメ定数μを、SiO2の本来の値である0.3119×1011N/m2から、0.4679×1011N/m2に変更することにより変位が境界に集中し、境界波となることが示されている。また、非特許文献2の実験結果によれば、SiO2層の形成条件を種々変更したとしても、境界波が伝搬可能なSiO2膜を形成することはできない旨が示されている。
【非特許文献1】「Piezoelectric AcousticBoundary Waves Propagating Along the Interface Between SiO2 and LiTaO3」IEEE Trans.Sonics and ultrason.,VOL.SU-25,No.6,1978 IEEE
【非特許文献2】「層状構造基板における圧電性境界波」中条、山之内、柴山、信学技報、US80−4、1980
【発明の開示】
【0008】
弾性境界波装置では、電気機械結合係数が大きいこと、伝搬損失、パワーフロー角及び周波数温度係数が小さいことが求められる。弾性境界波の伝搬に伴う損失、すなわち、伝搬損失は、境界波フィルタの挿入損失を劣化させたり、境界波共振子の共振抵抗や共振周波数におけるインピーダンスと反共振周波数におけるインピーダンスのインピーダンス比を劣化させたりする。従って、伝搬損失は小さいほど望ましい。
【0009】
パワーフロー角は、境界波の位相速度の方向と、境界波のエネルギーが進む群速度の方向の違いを表す角度である。パワーフロー角が大きい場合、IDTをパワーフロー角に合わせて傾斜した状態に配置する必要がある。従って、電極設計が煩雑となる。また、角度ずれによる損失が発生し易くなる。
【0010】
さらに、温度により境界波装置の動作周波数が変化すると、境界波フィルタの場合には、実用可能な通過帯域や阻止帯域が減少する。共振子の場合には、上記温度による動作周波数の変化は、発振回路を構成した場合の異常発振の原因となる。そのため、1℃あたりの周波数変化量TCFは小さいほど望ましい。
【0011】
例えば、境界波を送受信する送信用IDTと受信用IDTとが設けられている領域の伝搬方向外側に反射器を配置することにより、低損失の共振器型フィルタを構成することができる。この共振器型フィルタの帯域幅は、境界波の電気機械結合係数に依存する。電気機械結合係数k2が大きければ広帯域のフィルタを得ることができ、小さければ狭帯域なフィルタとなる。従って、境界波装置に用いられる境界波の電気機械結合係数k2は、用途に応じて適切な値とすることが必要である。携帯電話のRFフィルタなどを構成するには、電気機械結合係数k2は5%以上であることが求められる。
【0012】
しかしながら、上記非特許文献1に示されているストンリー波を用いた弾性境界波装置では、電気機械結合係数は2%と小さかった。
【0013】
また、非特許文献2に記載のSiO2/LiNbO3構造では、圧電性が大きなLiNbO3基板が用いられている。従って、非特許文献1に記載の弾性境界波装置に比べて大きな電気機械結合係数k2を得られると考えられるが、境界波が伝搬可能となるようにSiO2膜を形成することは極めて難しく、非特許文献2では、実際にSiO2膜を成膜し、ストンリー波を実測した結果は示されていない。
【0014】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、電気機械結合係数が十分な大きさを有し、伝搬損失及びパワーフロー角が小さく、周波数温度係数が小さく、かつ簡単な工法で製造することができる、ストンリー波を利用した弾性境界波装置を提供することにある。
【0015】
第1の発明は、圧電体と、前記圧電体の一面に積層された誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置において、前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極の厚みが決定されていることを特徴とする。
【0016】
第2の発明は、圧電体と、前記圧電体の一面に積層された誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置において、前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極を構成するストリップのデューティ比が決定されていることを特徴とする。
【0017】
第3の発明は、LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されている誘電体と、前記圧電体と前記誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、前記LiNbO3を主成分とする圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が下記の表1の各範囲にあり、音速が3757m/秒より低いストンリー波を利用したことを特徴とする。
【0018】
【表1】
【0019】
第2,第3の発明に係る弾性境界波装置のある特定の局面では、前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極の厚みが決定されている。
【0020】
第3の発明の他の特定の局面では、前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極を構成するストリップのデューティ比が決定されている。
【0021】
第4の発明は、LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されており、誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、ストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、前記電極の密度をρ(kg/m3)、電極の膜厚をH(λ)、ストンリー波の波長をλとしたときに、H>1/{1/(3×107×ρ−2.22+0.017)−0.4}とされていることを特徴とする。
【0022】
第4の発明のある特定の局面では、上記電極の密度ρは、4711kg/m3以上とされている。
【0023】
第5の発明は、LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されており、誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、ストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、前記電極の密度をρ(kg/m3)、電極の膜厚をH(λ)、ストンリー波の波長をλとしたときに、H>0.03λかつρ>2699kg/m3とされていることを特徴とする。
【0024】
第1〜第5の発明に係る弾性境界波装置では、好ましくは、前記電極が、Ag、Au、Cu、Fe、Mo、Ni、Ta、W、Ti及びPtから選択された少なくとも1種からなる電極層を主体とする。
【0025】
第1の発明に係る弾性境界波装置では、圧電体と、圧電体の一面に積層された誘電体と、圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とが備えられ、誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、電極の厚みが決定されている。
【0026】
また、本願の第2の発明では、圧電体と、圧電体の一面に積層された誘電体と、圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とが備えられており、誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、電極を構成するストリップのデューティ比が決定されている。
【0027】
従って、第1,第2の発明によれば、上記電極の厚みまたはストリップのデューティ比が上記のように決定されているため、ストンリー波が誘電体と圧電体を伝搬する弾性境界波装置を提供することが可能となる。
【0028】
第3の発明に係る弾性境界波装置では、LiNbO3を主成分とする圧電体が用いられており、該圧電体の一面に誘電体が積層されており、圧電体と誘電体との間の境界に電極が配置されており、上記圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が、表1の各範囲にあり、音速が3757m/秒よりも低いストンリー波が利用されている。従って、後述の実施例の説明から明らかなように、スプリアスを効果的に抑圧することができ、ストンリー波の電気機械結合係数k2を大きくすることができる。
【0029】
第2,第3の発明において、誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速が低くなるように電極の厚みが決定されている場合には、あるいはデューティ比が決定されている場合には、ストンリー波が誘電体と圧電体との境界を確実に伝搬する弾性境界波装置を提供することができる。
【0030】
第4の発明では、LiNbO3を主成分とする圧電体の一面に誘電体が積層されており、圧電体と誘電体との間の境界に電極が配置されており、電極の密度ρと、電極の膜厚H(λ)とストンリー波の波長λとの間に、H>1/{1/(3×107×ρ−2.22+0.017)−0.4}の関係があるため、ストンリー波を利用しており、かつストンリー波の電気機械結合係数が適切な弾性境界波装置を提供することができる。特に、電極の密度ρが、4711kg/m3以上の場合には、伝搬損失が0となる電極の膜厚を小さくすることができ、それによって電極を容易に形成することができる。
【0031】
第5の発明では、LiNbO3を主成分とする圧電体の一面に誘電体が積層されており、圧電体と誘電体との間の境界に電極が配置されており、電極の密度ρと、電極の膜厚H(λ)と、ストンリー波の波長λとの間に、H>0.03λかつρ>2699kg/m3とされているため、Alよりも重い電極を用いてストンリー波が伝搬される弾性境界波装置を提供することが可能となる。
【0032】
本発明において、電極が、Ag、Au、Cu、Fe、Mo、Ni、Ta、W、Ti及びPtから選択された少なくとも1種からなる電極層を主体とする場合には、本発明に従って、ストンリー波を利用した境界波装置を提供することができ、該電極層を構成している金属以外の金属からなる少なくとも1層の第2の電極層がさらに備えられている場合には、第2の電極層を構成する金属材料を選択することにより、電極と誘電体もしくは圧電体との密着性を高めたり、耐電力性を高めたりすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置を示す正面断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置で電極として構成されているIDT及び反射器を示す模式的平面図である。
【図3】図3は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A1のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図4】図4は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A2のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図5】図5は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A3のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図6】図6は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A4のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図7】図7は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A5のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図8】図8は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A6のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図9】図9は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A7のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図10】図10は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、音速Vとの関係を示す各図である。
【図11】図11は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図12】図12は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図13】図13は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図14】図14は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図15】図15は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、音速Vとの関係を示す図である。
【図16】図16は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図17】図17は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図18】図18は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図19】図19は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図20】図20は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、音速Vとの関係を示す図である。
【図21】図21は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図22】図22は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図23】図23は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図24】図24は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図25】図25は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、音速Vとの関係を示す図である。
【図26】図26は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図27】図27は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図28】図28は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図29】図29は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図30】図30は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、音速Vとの関係を示す図である。
【図31】図31は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図32】図32は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図33】図33は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図34】図34は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図35】図35は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、音速Vとの関係を示す図である。
【図36】図36は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図37】図37は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図38】図38は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図39】図39は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図40】図40は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、音速Vとの関係を示す図である。
【図41】図41は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図42】図42は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図43】図43は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図44】図44は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図45】図45は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、音速Vとの関係を示す図である。
【図46】図46は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図47】図47は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図48】図48は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図49】図49は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図50】図50は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、音速Vとの関係を示す図である。
【図51】図51は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図52】図52は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図53】図53は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図54】図54は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図55】図55は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、音速Vとの関係を示す図である。
【図56】図56は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図57】図57は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図58】図58は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図59】図59は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図60】図60は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、音速Vとの関係を示す図である。
【図61】図61は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図62】図62は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図63】図63は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図64】図64は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図65】図65は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、音速Vとの関係を示す図である。
【図66】図66は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図67】図67は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図68】図68は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図69】図69は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図70】図70は実施例3においてAgからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図71】図71は実施例3においてAgからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図72】図72は実施例3においてAgからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図73】図73は実施例3においてAgからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図74】図74は実施例3においてAlからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図75】図75は実施例3においてAlからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図76】図76は実施例3においてAlからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図77】図77は実施例3においてAlからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図78】図78は実施例3においてAuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図79】図79は実施例3においてAuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図80】図80は実施例3においてAuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図81】図81は実施例3においてAuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図82】図82は実施例3においてCrからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図83】図83は実施例3においてCrからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図84】図84は実施例3においてCrからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図85】図85は実施例3においてCrからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図86】図86は実施例3においてCuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図87】図87は実施例3においてCuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図88】図88は実施例3においてCuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図89】図89は実施例3においてCuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図90】図90は実施例3においてFeからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図91】図91は実施例3においてFeからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図92】図92は実施例3においてFeからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図93】図93は実施例3においてFeからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図94】図94は実施例3においてMoからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図95】図95は実施例3においてMoからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図96】図96は実施例3においてMoからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図97】図97は実施例3においてMoからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図98】図98は実施例3においてNiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図99】図99は実施例3においてNiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図100】図100は実施例3においてNiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図101】図101は実施例3においてTaからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図102】図102は実施例3においてTaからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図103】図103は実施例3においてTaからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図104】図104は実施例3においてTaからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図105】図105は実施例3においてWからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図106】図106は実施例3においてWからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図107】図107は実施例3においてWからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図108】図108は実施例3においてWからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図109】図109は実施例3においてTiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図110】図110は実施例3においてTiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図111】図111は実施例3においてTiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図112】図112は実施例3においてTiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図113】図113は実施例3においてPtからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図114】図114は実施例3においてPtからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図115】図115は実施例3においてPtからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図116】図116は実施例3においてPtからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図117】図117は実施例3において電極の密度を種々異ならせて弾性境界波装置を作製した場合の電極の密度と、ストンリー波の伝播損失が0となる電極膜厚との関係を示す図である。
【図118】図118は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、音速との関係を示す図である。
【図119】図119は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図120】図120は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図121】図121は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図122】図122は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図123】図123は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、音速との関係を示す図である。
【図124】図124は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図125】図125は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図126】図126は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図127】図127は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1…弾性境界波装置
2…圧電体
3…誘電体
4…電極としてのIDT
5,6…電極としての反射器
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0036】
2つの固体層間に弾性境界波を伝搬させるには、固体層間に境界波のエネルギーが集中する条件を満たす必要がある。
【0037】
一般に、高速の領域と、低速の領域とが存在する場合、波動は音速の遅い部分に集中して伝搬する。そこで、本願発明者は、2つの固体層間に配置された電極材料として、密度が大きく、低音速であるAuやCuなどの金属からなる材料を利用し、電極の厚みを増加させることにより、固体層間を伝搬する境界波の音速を低音速化すれば、固体層間へのエネルギー集中条件を満たし得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0038】
従来、固体内を伝搬するバルク波には、縦波と、速い横波と、遅い横波の3種類があることが知られており、それぞれ、P波、SH波、SV波と呼ばれている。なお、SH波とSV波のいずれが遅い横波になるかは、基体の異方性によって変わる。これら3種類のバルク波のうち、もっとも低音速のバルク波が、遅い横波である。なお、SiO2のように固体が等方体の場合には、横波は1種のみ伝搬するので、この横波が遅い横波となる。
【0039】
他方、圧電基板などの異方性基体を伝搬する弾性境界波では、大抵の場合には、P波、SH波及びSV波の3つの変位成分が結合しながら伝搬し、主要成分により弾性境界波の種類が分類される。例えば、上記ストンリー波は、P波とSV波とが主体の弾性境界波であり、SH型境界波は、SH成分が主体である弾性境界波である。なお、条件によっては、SH波成分や、P波もしくはSV波成分が結合せずに伝搬することもある。
【0040】
弾性境界波では、上記3つの変位成分が結合しながら伝搬するため、例えば、SH波よりも高音速の弾性境界波では、SH成分とSV成分とが漏洩し、SV波よりも高音速の弾性境界波では、SV成分が漏洩することとなる。この漏洩成分が、境界波の伝搬損失の原因となる。
【0041】
そこで、2つの固体層の双方の遅い横波の音速よりも、ストンリー波の音速を低速化すれば、ストンリー波のエネルギーを、2つの固体層間に配置した電極付近に集中させ、電気機械結合係数k2の大きいストンリー波を伝搬させることができ、伝搬損失0の条件を得ることができる。密度の大きな電極材料は音速が遅いので、ストンリー波を低速化するには、密度の大きな電極を用いることが望ましい。本発明は、このような考えに基づいてなされたものである。
【0042】
そして、少なくとも一方の固体を圧電体、他方の固体を圧電体を含む誘電体とすることにより、固体間に配置した電極によりストンリー波が励振される。電極としては、「弾性表面波工学」柴山幹夫、電子情報通信学会、p57−58に開示されるくし形電極や、すだれ状電極(インターデジタルトランスデューサ、IDT)を用いることができる。
【0043】
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の略図的正面断面図であり、図2はその電極構造を示す平面図である。弾性境界波装置1では、板状の圧電体2の上面に、誘電体3が積層されている。圧電体2と誘電体3との境界に電極として、IDT4及び反射器5,6が配置されている。反射器5,6はIDT4の表面波伝搬方向両側に配置されており、それによって本実施形態では、境界波共振子が構成されている。
【0044】
本実施形態の弾性境界波装置1の特徴は、上記誘電体3を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体2を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、IDT4及び反射器5,6の厚みが厚くされていることにある。
【0045】
本実施形態では、電極の厚みが、厚くされ、それによってストンリー波の音速が、圧電体2及び誘電体3を伝搬する各遅い横波の音速よりも低められ、それによって、ストンリー波のエネルギーが圧電体2と誘電体3との境界に集中する。従って、電気機械結合係数k2の大きなストンリー波を、伝搬損失が小さい状態で伝搬させることができる。
【0046】
なお、電極の厚みを厚くすることによりストンリー波を伝搬させることができるだけでなく、本発明では、後述するように電極を構成するストリップのデューティ比を制御することによっても、ストンリー波の音速を、圧電体2及び誘電体3を伝搬する各遅い横波の音速よりも低くし、ストンリー波を境界に集中させて伝搬させることも可能である。
【0047】
なお、上記ストリップのデューティ比とは、ストリップの幅をL、隣接しているストリップ間のスペースの中心と、次の隣接するストリップ間のスペースの中心との間の中心間距離をPとした時、L/Pで表される値である。
【0048】
図1に示した構成は、圧電体2と、誘電体3との間に電極としてIDT4及び反射器5,6を配置した簡潔な構成である。この構成により、非常に多くの材料を用いてストンリー波を利用した弾性境界波装置を構成することができる。例えば、非特許文献2に記載したSiO2/IDT電極/128°回転Y板X伝搬LiNbO3構造では、ストンリー波は確認されていないが、電極の厚みが薄い場合にはストンリー波を形成することができなくとも、電極の厚みを厚くすることによりストンリー波を存在させることができる。以下、具体的な実施例に基づき、本発明をより詳細に説明する。
【0049】
〔実施例1〕
オイラー角(0°,38°,0°)すなわち128°Y板X伝搬のLiNbO3基板を圧電体2として用意した。このLiNbO3基板上に、密着層として、蒸着法によりNiCr膜を形成した。次に、密着層上に、蒸着法によりAu膜を形成し、リフトオフ法によりパターニングし、IDT4及び反射器5,6を形成した。また、上記IDT4及び反射器5,6を覆うように、RFマグネトロンスパッタリング法により、200℃の成膜温度でSiO2膜を形成した。
【0050】
IDT4の電極指の対数は50.5対、1つの反射器の電極指の本数は51本とした。
【0051】
また、IDT4における電極指交差幅は、30λとした。他方、反射器5,6における開口長A(図2参照)は、30.5λとした。なお、λは、IDT4及び反射器5,6における電極指の配置周期である。なお、IDT4及び反射器5,6におけるデューティ比は0.5とした。
上記のようにして、但し下記の表2に示すように、NiCr膜、Au膜及びSiO2膜を種々異ならせ、1ポート型弾性境界波装置1を作製した。
【0052】
【表2】
【0053】
上記のようにして作製された表2のA1〜A7の各弾性境界波装置のインピーダンス−周波数特性を測定した。結果を図3〜図9に示す。なお、図3〜図9の縦軸のインピーダンスは、
【0054】
【数1】
【0055】
で表される値である。
【0056】
また、図3〜図9において、横軸は、ストンリー波の応答の共振周波数で規格化された周波数である。
【0057】
図3〜図9から明らかなように、上記表2に示したA1〜A7で示される弾性境界波装置では、反共振点におけるインピーダンスZaと、共振点におけるインピーダンスZrとの比Za/Zrは50〜60dBであり、優れた共振特性を示すことがわかる。
【0058】
他方、電極材料として、Alのみを用い、他は上記弾性境界波装置と同様にして弾性境界波装置を作製したところ、高次スプリアスモードの応答のみが確認され、ストンリー波の応答は確認できなかった。この結果は、前述した非特許文献2における実験結果と一致する。なお、ストンリー波の応答の確認は、チップ表面にダンピング材を密着し、減衰の有無により評価した。
【0059】
上記実験結果から明らかなように、Alよりも重い電極、すなわちAuを主体とする電極を用い、その厚みHを0.03λ以上とすることにより、従来実現できなかったSiO2/LiNbO3基板におけるストンリー波の応答を確認することができ、優れた共振特性の得られることがわかる。
【0060】
また、回転Y板X伝搬のLiTaO3基板や水晶基板を圧電体2として用いた場合にも、Au膜の厚みを0.03λ以上とすれば、ストンリー波を伝搬し得ることを確認した。さらに、他の圧電基板においても、同様に、Au膜の厚みを0.03λ以上とすることにより同様にストンリー波を伝搬させ得ることを確認した。
【0061】
図3〜図9において、ストンリー波の応答の共振周波数は、規格化された値である1.0である。ストンリー波の応答よりも低周波側における応答は、SH型弾性境界波によるスプリアス応答であり、ストンリー波の応答よりも高周波側の複数の応答は、高次スプリアスモードによる応答である。
【0062】
高次スプリアスモードによる応答は、特願2003−114592などに記載の方法により抑制することができる。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1においては、ストンリー波による応答よりも、低周波側において、SH型の弾性境界波によるスプリアス応答が生じていた。実施例2では、このスプリアス応答の抑制を図った。
【0064】
すなわち、SH型弾性境界波によるスプリアスを抑圧するために、LiNbO3基板のオイラー角と、ストンリー波及びSH型の弾性境界波の音速V、電気機械結合係数k2、伝搬損失α、周波数温度係数TCF及びパワーフロー角PFAとの関係をそれぞれ求めた。なお、計算に際しては、「A method for estimating optimal cuts and propagation directions for
excitation and propagation directions for excitation of piezoelectric surface
waves」(J.J.Campbell and W.R.Jones,IEEE Trans.Sonics and
Ultrason.,Vol.SU-15(1968)pp.209-217)に開示された手法を元に、開放境界の場合は、SiO2とAu、AuとLiNbO3の境界における変位、電位、電束密度の法線成分、上下方向の応力が連続で、SiO2とLiNbO3の厚さを無限とし、Auの比誘電率を1として音速と伝搬損失を求めた。また、短絡境界の場合は、SiO2とAu、AuとLiNbO3の境界における電位が0として求めた。また、電気機械結合係数k2は〔1〕式により求めた。なお、Vfは開放境界の音速である。
k2=2x|Vf−V|/Vf…〔1〕
【0065】
周波数温度係数TCFは、20、25、30℃における位相速度V〔20℃〕、V〔25℃〕及びV〔30℃〕より〔2〕式により求めた。
【0066】
TCF=V〔25℃〕−1×{V〔30℃〕−V〔20℃〕)÷10℃}−dS…〔2〕
ここで、dSは境界波伝搬方向におけるLiNbO3基板の線膨張係数である。
【0067】
また、任意のオイラー角(φ,θ,ψ)におけるパワーフロー角PFAは、ψ−0.5°、ψ、ψ+0.5°における位相速度Vより〔3〕式を求めた。
【0068】
PFA=tan−1{V〔ψ〕−1×(V〔ψ+0.5°〕−V〔ψ−0.5°〕)}…〔3〕
【0069】
なお、前提とした構造は、LiNbO3基板上に、Au電極を形成し、SiO2膜を形成した構造である。Au電極の膜厚は0.07λとし、オイラー角(0°,0°,ψ)、(0°,90°,ψ)、(90°,0°,ψ)、(90°,90°,ψ)、(0°,θ,0°)、(0°,θ,90°)、(90°,θ,0°)、(90°,θ,90°)、(φ,0°,0°)、(φ,0°,90°)、(φ,90°,0°)及び(φ,90°,90°)であり、φ、θ、ψはそれぞれ0°〜180°である。
【0070】
図10〜図69に結果を示す。
【0071】
なお、図10〜図69において、添え字として小文字mが付されている値は、SiO2膜とLiNbO3基板との間に金属膜を配置した短絡境界における計算値を示し、添え字としてfが付与されている値は、金属膜の比誘電率を1として求めた仮想的な開放境界における計算値である。接頭文字として、U2を付されている値は、SH型の弾性境界波の計算値であり、U3が付与されている値がストンリー波の計算値である。
【0072】
ストンリー波を利用する場合、SH型の弾性境界波はスプリアス応答となり、通過帯域においてリップルを発生させたり、帯域外減衰量を劣化させたりする。SH型の弾性境界波の電気機械結合係数k2が2%以下であれば、該SH型境界波スプリアスによる特性劣化は小さくなり、比較的広い用途にストンリー波を用いた境界波装置を利用することができる。さらに、SH型境界波の電気機械結合係数k2が1%以下であれば、より広い用途に利用し得るストンリー波を用いた弾性境界波装置を提供することができる。さらに好ましくは、SH型境界波の電気機械結合係数k2が0.1%以下であれば、SH型弾性境界波スプリアスの影響をほとんど受けなくなるため、大きな減衰量が要求されるフィルタや僅かな共振スプリアス応答が許容され得ない高精度の共振子などに、ストンリー波を利用した本発明の弾性境界波装置を用いることができる。
【0073】
図10〜69において、SH型境界波の電気機械結合係数k2が2%以下となるオイラー角は、(0°,0°,0°)〜(0°,0°,180°)、(0°,90°,49°)〜(0°,90°,131°)、(90°,0°,0°)〜(90°,0°,180°)、(90°,90°,48°)〜(0°,90°,131°)、(0°,−32°,0°)〜(0°,47°,0°)、(0°,0°,90°)〜(0°,180°,90°)、(90°,−39°,0°)〜(90°,39°,0°)、(90°,0°,90°)〜(90°,180°,90°)、(0°,0°,0°)〜(180°,0°,0°)、(0°,0°,90°)〜(180°,0°,90°)、(0°,90°,90°)〜(180°,90°,90°)の範囲であり、SH型境界波のk2が1%以下となるオイラー角は、(0°,0°,12.5°)〜(0°,0°,47.5)、(0°,0°,62.5°)〜(0°,0°,107.5°)、(0°,0°,132.5°)〜(0°,0°,167.5°)、(0°,90°,56°)〜(0°,90°,125°)、(90°,0°,−18°)〜(90°,0°,18°)、(90°,0°,42°)〜(90°,0°,78°)、(90°,0°,102°)〜(90°,0°,138°)、(90°,0°,162°)〜(90°,0°,180°)、(90°,90°,57°)〜(90°,90°,127°)、(0°,13°,0°)〜(0°,42°,0°)、(0°,0°,90°)〜(0°,180°,90°)、(90°,−32°,0°)〜(90°,32°,0°)、(90°,70°,90°)〜(90°,110°,90°)、(12°,0°,0°)〜(48°,0°,0°)、(72°,0°,0°)〜(107°,0°,0°)、(132°,0°,0°)〜(167°,0°,0°)、(−18°,0°,90°)〜(18°,0°,90°)、(42°,0°,90°)〜(78°,0°,90°)、(102°,0°,90°)〜(138°,0°,90°)、(0°,90°,90°)〜(180°,90°,90°)の範囲であり、SH型境界波のk2が0.1%以下となるオイラー角は、(0°,0°,26°)〜(0°,0°,36°)、(0°,0°,86°)〜(0°,0°,96°)、(0°,0°,146°)〜(0°,0°,156°)、(0°,90°,80°)〜(0°,90°,111°)、(90°,90°,110°)〜(90°,90°,119°)、(0°,26°,0°)〜(0°,34°,0°)、(0°,0°,90°)〜(0°,180°,90°)、(90°,−14°,0°)〜(90°,14°,0°)、(26°,0°,0°)〜(34°,0°,0°)、(86°,0°,0°)〜(94°,0°,0°)、(146°,0°,0°)〜(154°,0°,0°)、(−6°,0°,90°)〜(6°,0°,90°)、(54°,0°,90°)〜(66°,0°,90°)、(114°,0°,90°)〜(126°,0°,90°)、(−7°,90°,90°)〜(7°,90°,90°)、(53°,90°,90°)〜(67°,90°,90°)、(113°,90°,90°)〜(127°,90°,90°)である。
【0074】
上記オイラー角の範囲のLiNbO3基板を用いることにおいてもスプリアス応答が小さく、あるいはスプリアスが発生しないストンリー波を用いた弾性境界波装置を提供することができる。
【0075】
なお、図10〜69の計算結果の全ての条件において、ストンリー波の伝搬損失U3−αm、U3−αfは0であり、良好な伝搬特性を示した。
【0076】
また、ストンリー波の音速U3−Vmは3000〜3400m/秒付近に集中しており、カット角による変化は小さいことがわかる。
【0077】
従って、カット角を変更した場合であっても伝搬損失が0となる電極膜厚Hを、後述の式(4)により得られることがわかる。
【0078】
また、ストンリー波の周波数温度係数U3−TCFmは、−30〜−40ppm/℃に集中しており、カット角による変化はあまり大きくないことがわかる。従って、カット角を変更した場合であっても、周波数温度係数TCFが小さくなる電極膜厚Hを式(4)により決定し得ることがわかる。
【0079】
〔実施例3〕
実施例2における計算方法を用い、圧電体2としてオイラー角(0°,30°,0°)、すなわち120°Y板X伝搬のLiNbO3基板を用い、誘電体3として、薄膜形成が容易であること、LiNbO3のTCFを打ち消すことができることを考慮して、SiO2膜を選択した。様々な密度の電極材料を用いて電極を構成し、弾性境界波装置を作製した。このようにして得られた弾性境界波装置における電極膜厚と、ストンリー波の音速V、伝搬損失α(dB/λ)、電気機械結合係数k2(%)及び周波数温度係数TCFとの関係を求めた。結果を図70〜図116に示す。なお、パワーフロー角PFAは、いずれにおいてもゼロであった。
【0080】
120°Y板X伝搬のLiNbO3における縦波の音速、遅い横波の音速、遅い横波の音速は、それぞれ、6547、4752及び4031m/秒である。他方、SiO2における縦波、遅い横波の音速は、それぞれ、5960m/秒及び3757m/秒である。図70〜図116によれば、ストンリー波の音速が、上記各音速のうち最も遅い3757m/秒以下となるような電極膜厚では、ストンリー波の伝搬損失αは0となっていることがわかる。すなわち、単に密度の大きな電極材料を用いただけではストンリー波の伝搬損失αは0とはならず、電極膜厚を厚くし、ストンリー波の音速を3757m/秒よりも遅くすることにより、伝搬損失αが0となることがわかる。
【0081】
従って、本発明においては、好ましくは、電極膜厚は、ストンリー波の音速が、上記各音速のうち最も遅い音速よりも遅くされ得る厚みとされ、それによってストンリー波の伝搬損失αを0とすることができる。
【0082】
さらに、本発明においては、密度の大きな材料からなる電極を用いることにより、電極における横波の音速が遅くなり、電極にストンリー波のエネルギーが集中することとなる。従って、電極に印加される電気エネルギーとストンリー波の電気エネルギーが効率的に結合するため、大きな電気機械結合係数が得られる。また、電極にエネルギーが集中するため、電極を構成する電極指により反射されるストンリー波の反射係数も高められる。ストンリー波の電極指による反射係数が高められると、グレーティング反射器を構成する電極指の本数を少なくすることができる。従って、弾性境界波装置の小型化を進めることができる。さらに、反射器の反射帯域を広げることも可能である。
【0083】
IDT4を構成する電極指の反射がない場合には、IDT4のコンダクタンスの周波数特性は左右対称のsinc関数で表現される。他方、電極指の反射がある場合には、コンダクタンスの周波数特性は非対称となり、帯域の低周波側、または帯域の高周波側のコンダクタンスが大きくなる。電極指の反射が大きくなるほど、上記周波数特性の非対称性が高められることになる。
【0084】
上記のような内部反射を有するIDTを用いて、例えば、入力側IDTと、出力側IDTを境界波伝搬方向に配置し、これらの設けられている領域の両側に反射器を配置した縦結合型のフィルタを構成した場合には、コンダクタンス特性の非対称性を反映したフィルタ通過帯域が形成されることになる。この場合、電極指の反射係数が高くなるほど、急峻な帯域を設計することができる。このように、IDTを構成する電極指の反射係数を高めることができれば、より急峻なフィルタ特性を容易に得ることができる。
【0085】
図117は、電極材料の密度ρと、ストンリー波の伝搬損失が0となる電極膜厚Hとの関係を示す図である。なお、下記の表3は、電極材料として用いられる種々の金属の密度を示す。
【0086】
【表3】
【0087】
図117から明らかなように、下記の式(4)を満たすような膜厚及び電極材料を用いることにより、ストンリー波の伝搬損失を0とすることができる。
H〔λ〕>1/{1/(3×197×ρ−2.22+0.017)−0.4}…式(4)
【0088】
また、この種の弾性境界波装置を製造する場合、LiNbO3基板などの圧電基板上にリフトオフ法やドライエッチなどのフォトリソグラフ工法によりIDTなどの電極を形成し、電極上にスパッタ、蒸着またはCVDなどの薄膜形成法によりSiO2などからなる誘電体膜を形成する。そのため、IDTの厚さに起因して、誘電体膜の上面に凹凸が生じる。また、誘電体膜が斜めに成長したり、誘電体膜の膜質が不均一になったりするおそれがあった。このような凹凸、斜め方向への成長膜質の不均一性が生じると、弾性境界波装置の特性が劣化する。
【0089】
上記特性の劣化を避けるには、電極の膜厚が薄いことが望ましい。本願発明者らの検討によれば、電極の膜厚Hが0.1λ以上になると、品質の優れた誘電体薄膜を形成することが困難となる。特に、電極膜厚が0.25λ以上になると、電極のアスペクト比が1以上となり、電極を安価なドライエッチ工程やリフトオフ工程で形成することも難しくなる。さらに、誘電体薄膜の形成に利用し得る工法や装置が限定されることになり、汎用的なRFマグネトロンスパッタにより誘電体薄膜を形成することが困難となる。従って、電極膜厚は、0.25λ以下であることが好ましく、より好ましくは0.1λ以下である。
【0090】
図117から明らかなように、密度ρが4711kg/m3以上の電極材料を用いると、ストンリー波の伝搬損失が0となる電極膜厚Hの厚みを0.25λ以下とすることができ、密度ρが7316kg/m3以上の電極材料を用いると、伝搬損失が0となる電極膜厚Hの大きさを0.10λ以下とすることができる。従って、本発明においては、好ましくは、電極材料の密度ρが、4711kg/m3以上、より好ましくは7316kg/m3以上である。
【0091】
また、図72、図76、図80、図84、図88、図92、図96、図103、図107、図111及び図115から明らかなように、上述した式(4)の条件を満たす電極膜厚Hにおいても、電気機械結合係数k2は、3〜9.4%の範囲と十分な大きさである。従って、上記式(4)を満たす電極膜厚Hにおいても、十分な帯域幅の弾性境界波装置を提供することができる。
【0092】
また、図73、図77、図81、図85、図89、図93、図97、図100、図104、図108、図112及び図116から明らかなように、Ag、Au、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtは、式(4)を満たす電極膜厚Hにおいて、TCFの絶対値が40ppm以下となることがわかる。従って、好ましくは、電極材料として、Ag、Au、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtからなる群から選択された1種以上が周波数温度特性を改善し得るため好適に用いられる。
【0093】
〔実施例4〕
次に、オイラー角(φ,30°,0°)及び(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上に、それぞれ、厚み0.06λのAuからなる電極を形成し、さらに電極上にSiO2膜を形成した場合のオイラー角のφ及びψと、SH型境界波及びストンリー波の音速V、電気機械結合係数k2、伝搬損失α、周波数温度係数TCF及びパワーフロー角PFAとの関係を求めた。図118〜図122及び図119〜図127に結果を示す。図118〜図122において、U2はSH型境界波、U3はストンリー波の結果を示す。なお、オイラー角(0°〜90°,30°,0°)及び(0°,30°,0°〜90°)の全範囲において、伝搬損失αは0dB/λであった。
【0094】
図118〜図122から明らかなように、φ=0°〜15°の範囲において、SH型境界波の電気機械結合係数k2は0.3%以下と小さくなり、φ=0°において、SH型境界波の電気機械結合係数k2がほぼ0%となり、SH型境界波によるスプリアス応答が非常に小さくなることがわかる。また、φ=0°〜90°の範囲において、TCFは−37〜−33ppm/℃と良好であり、ストンリー波の電気機械結合係数k2は、3.5〜5%と十分な大きさであり、従って狭帯域〜中帯域のRFフィルタとして好適な弾性境界波フィルタを提供し得ることがわかる。また、φ=0°〜90°の範囲において、ストンリー波のパワーフロー角PFFは±1.5°以下と小さかった。
【0095】
図123〜図127から明らかなように、ψ=0°〜14°の範囲において、SH型境界波の電気機械結合係数k2は0.3%以下と小さくなり、ψ=0°においてSH型境界波の電気機械結合係数がほぼ0%となり、SH型境界波によるスプリアス応答が非常に小さくなることがわかる。また、ψ=0°〜90°の範囲において、TCFは−36〜−33ppm/℃と良好であった。さらに、ψ=0°〜45°の範囲において、ストンリー波の電気機械結合係数k2は3.5〜5%と十分な大きさであり、従って、狭帯域〜中帯域のRFフィルタに好適な弾性境界波フィルタを提供し得ることがわかる。また、ψ=0°〜90°の範囲において、ストンリー波のパワーフロー角は±1.7°以下と小さかった。
【0096】
なお、本発明において、誘電体と圧電体の厚さは上記計算の前提となったモデルのように無限である必要はなく、弾性境界波のエネルギーが境界である電極付近に十分に閉じこもる厚さを少なくとも有すればよく、すなわち、例えば1λ以上の厚みを有すればよい。
【0097】
また、本発明では、上記圧電体は、誘電体上に成膜された圧電膜であってもよい。
【0098】
さらに、本発明に係る弾性境界波装置では、誘電体−電極−圧電体の積層構造の積層方向外側に弾性境界波装置の強度を高めるため、あるいは腐食ガスなどの侵入を防止するために保護層を形成してもよい。場合によっては、本発明の弾性境界波装置は、パッケージに封入されてもよい。
【0099】
なお、上記保護層としては、酸化チタン、窒化アルミ、酸化アルミなどの絶縁性材料、あるいはAu、AlまたはWなどの金属膜、ウレタン、エポキシ、シリコーンなどの樹脂により構成され得る。
【0100】
また、電極は、Au、Ag、CuまたはAl以外の他の金属、例えば、Fe、Ni、W、Ta、Pt、Mo、Cr、Ti、ZnO及びITOなどの導体膜で構成されてもよい。また、密着性や耐電力性を高めるために、Au、Ag、CuもしくはAlまたはこれらの合金からなる電極層に、さらにTi、CrもしくはNiCr合金などの他の金属材料からなる第2の電極層を積層してもよい。この場合第2の電極層は、第1の電極層と圧電体との間、あるいは第1の電極層と誘電体との間のいずれか、または両方に配置してもよい。
【0101】
さらに、本発明において、電極は、導波路やバスバーなどを構成する面状の電極膜であってもよく、境界波を励振するIDTやくし型電極であってもよく、境界波を反射する反射器であってもよい。
【0102】
なお、本明細書において、基板の切断面と境界波の伝搬方向を表現するオイラー角(φ,θ,ψ)は、文献「弾性波素子技術ハンドブック」(日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会、第1版第1刷、平成13年11月30日発行、549頁)記載の右手系オイラー角を用いた。すなわち、LNの結晶軸X、Y、Zに対し、Z軸を軸としてX軸を反時計廻りにφ回転しXa軸を得る。次に、Xa軸を軸としてZ軸を反時計廻りにθ回転しZ′軸を得る。Xa軸を含み、Z′軸を法線とする面を基板の切断面とした。そして、Z′軸を軸としてXa軸を反時計廻りにψ回転した軸X′方向を境界波の伝搬方向とした。
【0103】
また、オイラー角の初期値として与えるLiNbO3の結晶軸X、Y、Zは、Z軸をc軸と平行とし、X軸を等価な3方向のa軸のうち任意の1つと平行とし、Y軸はX軸とZ軸を含む面の法線方向とする。
【0104】
なお、本発明におけるLiNbO3のオイラー角(φ,θ,ψ)は結晶学的に等価であればよい。例えば、「日本音響学会誌36巻3号、1980年、140〜145頁」によれば、LiNbO3は三方晶系3m点群に属する結晶であるので(A)式が成り立つ。
【0105】
F(φ,θ,ψ)=F(60°−φ,−θ,ψ)
=F(60°+φ,−θ,180°−ψ)
=F(φ,180°+θ,180°−ψ)
=F(φ,θ,180°+ψ) …式(A)
ここで、Fは、電気機械結合係数k2、伝搬損失、TCF、PFA、ナチュラル一方向性などの任意の境界波特性である。PFAやナチュラル一方向性は、例えば伝搬方向を正負反転してみた場合、符合は変わるものの絶対量は等しいので実用上等価であると考えられる。なお、上記文献は表面波に関するものであるが、境界波に関しても結晶の対称性は同様に扱える。例えば、オイラー角(30°,θ,ψ)の境界波伝搬特性は、オイラー角(90°,180°−θ,180°−ψ)の境界波伝搬特性と等価である。また、例えば、オイラー角(30°,90°,45°)の境界波伝搬特性は、下記の表4に示すオイラー角の境界波伝搬特性と等価である。
【0106】
また、本発明において計算に用いた電極の材料定数は多結晶体の値であるが、エピタキシャル膜などの結晶体においても、膜自体の結晶方位依存性より基板の結晶方位依存性が境界波特性に対して支配的であるので式(A)で表わされる等価なオイラー角の場合も、実用上問題ない程度に同等の境界波伝搬特性が得られる。
【0107】
【表4】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストンリー波を利用した弾性境界波装置に関し、より詳細には、圧電体と誘電体との境界に電極が配置された構造のストンリー波を利用した弾性境界波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話用のRFフィルタ及びIFフィルタ、並びにVCO用共振子及びテレビジョン用VIFフィルタなどに、各種弾性表面波装置が用いられている。弾性表面波装置は、媒質表面を伝搬するレイリー波や第1漏洩波などの弾性表面波を利用している。
【0003】
弾性表面波は、媒質表面を伝搬するため、媒質の表面状態の変化に敏感である。従って、媒質の弾性表面波伝搬面を保護するために、該伝搬面に臨む空洞を設けたパッケージに弾性表面波素子が気密封止されていた。このような空洞を有するパッケージが用いられていたため、弾性表面波装置のコストは高くならざるを得なかった。また、パッケージの寸法は、弾性表面波素子の寸法よりも大幅に大きくなるため、弾性表面波装置は大きくならざるを得なかった。
【0004】
他方、弾性波の中には、上記弾性表面波以外に、固体間の境界を伝搬する弾性境界波が存在する。
【0005】
例えば、下記の非特許文献1には、126°回転Y板X伝搬のLiTaO3基板上にIDTが形成されており、IDTとLiTaO3基板上にSiO2膜が所定の厚みに形成されている弾性境界波装置が開示されている。ここでは、ストンリー波と称されているSV+P型の弾性境界波が伝搬することが示されている。なお、非特許文献1では、上記SiO2膜の膜厚を1.0λ(λは弾性境界波の波長)とした場合、電気機械結合係数は2%になることが示されている。
【0006】
弾性境界波は、固体間の境界部分にエネルギーが集中した状態で伝搬する。従って、上記LiTaO3基板の底面及びSiO2膜の表面にはエネルギーがほとんど存在しないため、基板や薄膜の表面状態の変化により特性が変化しない。従って、空洞形成パッケージを省略することができ、弾性波装置のサイズを低減することができる。
【0007】
他方、下記の非特許文献2には、128°回転Y板X伝搬のLiNbO3基板上に、SiO2膜を形成した構造において、ストンリー波と称されている境界波が伝搬することが示されている。非特許文献2における解析によれば、SiO2が本来の状態では、SiO2層とLiNbO3基板との境界に変位は集中しないため境界波とはならず、SiO2の弾性的性質を表すラメ定数μを、SiO2の本来の値である0.3119×1011N/m2から、0.4679×1011N/m2に変更することにより変位が境界に集中し、境界波となることが示されている。また、非特許文献2の実験結果によれば、SiO2層の形成条件を種々変更したとしても、境界波が伝搬可能なSiO2膜を形成することはできない旨が示されている。
【非特許文献1】「Piezoelectric AcousticBoundary Waves Propagating Along the Interface Between SiO2 and LiTaO3」IEEE Trans.Sonics and ultrason.,VOL.SU-25,No.6,1978 IEEE
【非特許文献2】「層状構造基板における圧電性境界波」中条、山之内、柴山、信学技報、US80−4、1980
【発明の開示】
【0008】
弾性境界波装置では、電気機械結合係数が大きいこと、伝搬損失、パワーフロー角及び周波数温度係数が小さいことが求められる。弾性境界波の伝搬に伴う損失、すなわち、伝搬損失は、境界波フィルタの挿入損失を劣化させたり、境界波共振子の共振抵抗や共振周波数におけるインピーダンスと反共振周波数におけるインピーダンスのインピーダンス比を劣化させたりする。従って、伝搬損失は小さいほど望ましい。
【0009】
パワーフロー角は、境界波の位相速度の方向と、境界波のエネルギーが進む群速度の方向の違いを表す角度である。パワーフロー角が大きい場合、IDTをパワーフロー角に合わせて傾斜した状態に配置する必要がある。従って、電極設計が煩雑となる。また、角度ずれによる損失が発生し易くなる。
【0010】
さらに、温度により境界波装置の動作周波数が変化すると、境界波フィルタの場合には、実用可能な通過帯域や阻止帯域が減少する。共振子の場合には、上記温度による動作周波数の変化は、発振回路を構成した場合の異常発振の原因となる。そのため、1℃あたりの周波数変化量TCFは小さいほど望ましい。
【0011】
例えば、境界波を送受信する送信用IDTと受信用IDTとが設けられている領域の伝搬方向外側に反射器を配置することにより、低損失の共振器型フィルタを構成することができる。この共振器型フィルタの帯域幅は、境界波の電気機械結合係数に依存する。電気機械結合係数k2が大きければ広帯域のフィルタを得ることができ、小さければ狭帯域なフィルタとなる。従って、境界波装置に用いられる境界波の電気機械結合係数k2は、用途に応じて適切な値とすることが必要である。携帯電話のRFフィルタなどを構成するには、電気機械結合係数k2は5%以上であることが求められる。
【0012】
しかしながら、上記非特許文献1に示されているストンリー波を用いた弾性境界波装置では、電気機械結合係数は2%と小さかった。
【0013】
また、非特許文献2に記載のSiO2/LiNbO3構造では、圧電性が大きなLiNbO3基板が用いられている。従って、非特許文献1に記載の弾性境界波装置に比べて大きな電気機械結合係数k2を得られると考えられるが、境界波が伝搬可能となるようにSiO2膜を形成することは極めて難しく、非特許文献2では、実際にSiO2膜を成膜し、ストンリー波を実測した結果は示されていない。
【0014】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、電気機械結合係数が十分な大きさを有し、伝搬損失及びパワーフロー角が小さく、周波数温度係数が小さく、かつ簡単な工法で製造することができる、ストンリー波を利用した弾性境界波装置を提供することにある。
【0015】
第1の発明は、圧電体と、前記圧電体の一面に積層された誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置において、前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極の厚みが決定されていることを特徴とする。
【0016】
第2の発明は、圧電体と、前記圧電体の一面に積層された誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置において、前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極を構成するストリップのデューティ比が決定されていることを特徴とする。
【0017】
第3の発明は、LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されている誘電体と、前記圧電体と前記誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、前記LiNbO3を主成分とする圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が下記の表1の各範囲にあり、音速が3757m/秒より低いストンリー波を利用したことを特徴とする。
【0018】
【表1】
【0019】
第2,第3の発明に係る弾性境界波装置のある特定の局面では、前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極の厚みが決定されている。
【0020】
第3の発明の他の特定の局面では、前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極を構成するストリップのデューティ比が決定されている。
【0021】
第4の発明は、LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されており、誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、ストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、前記電極の密度をρ(kg/m3)、電極の膜厚をH(λ)、ストンリー波の波長をλとしたときに、H>1/{1/(3×107×ρ−2.22+0.017)−0.4}とされていることを特徴とする。
【0022】
第4の発明のある特定の局面では、上記電極の密度ρは、4711kg/m3以上とされている。
【0023】
第5の発明は、LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されており、誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、ストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、前記電極の密度をρ(kg/m3)、電極の膜厚をH(λ)、ストンリー波の波長をλとしたときに、H>0.03λかつρ>2699kg/m3とされていることを特徴とする。
【0024】
第1〜第5の発明に係る弾性境界波装置では、好ましくは、前記電極が、Ag、Au、Cu、Fe、Mo、Ni、Ta、W、Ti及びPtから選択された少なくとも1種からなる電極層を主体とする。
【0025】
第1の発明に係る弾性境界波装置では、圧電体と、圧電体の一面に積層された誘電体と、圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とが備えられ、誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、電極の厚みが決定されている。
【0026】
また、本願の第2の発明では、圧電体と、圧電体の一面に積層された誘電体と、圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とが備えられており、誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、電極を構成するストリップのデューティ比が決定されている。
【0027】
従って、第1,第2の発明によれば、上記電極の厚みまたはストリップのデューティ比が上記のように決定されているため、ストンリー波が誘電体と圧電体を伝搬する弾性境界波装置を提供することが可能となる。
【0028】
第3の発明に係る弾性境界波装置では、LiNbO3を主成分とする圧電体が用いられており、該圧電体の一面に誘電体が積層されており、圧電体と誘電体との間の境界に電極が配置されており、上記圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が、表1の各範囲にあり、音速が3757m/秒よりも低いストンリー波が利用されている。従って、後述の実施例の説明から明らかなように、スプリアスを効果的に抑圧することができ、ストンリー波の電気機械結合係数k2を大きくすることができる。
【0029】
第2,第3の発明において、誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速が低くなるように電極の厚みが決定されている場合には、あるいはデューティ比が決定されている場合には、ストンリー波が誘電体と圧電体との境界を確実に伝搬する弾性境界波装置を提供することができる。
【0030】
第4の発明では、LiNbO3を主成分とする圧電体の一面に誘電体が積層されており、圧電体と誘電体との間の境界に電極が配置されており、電極の密度ρと、電極の膜厚H(λ)とストンリー波の波長λとの間に、H>1/{1/(3×107×ρ−2.22+0.017)−0.4}の関係があるため、ストンリー波を利用しており、かつストンリー波の電気機械結合係数が適切な弾性境界波装置を提供することができる。特に、電極の密度ρが、4711kg/m3以上の場合には、伝搬損失が0となる電極の膜厚を小さくすることができ、それによって電極を容易に形成することができる。
【0031】
第5の発明では、LiNbO3を主成分とする圧電体の一面に誘電体が積層されており、圧電体と誘電体との間の境界に電極が配置されており、電極の密度ρと、電極の膜厚H(λ)と、ストンリー波の波長λとの間に、H>0.03λかつρ>2699kg/m3とされているため、Alよりも重い電極を用いてストンリー波が伝搬される弾性境界波装置を提供することが可能となる。
【0032】
本発明において、電極が、Ag、Au、Cu、Fe、Mo、Ni、Ta、W、Ti及びPtから選択された少なくとも1種からなる電極層を主体とする場合には、本発明に従って、ストンリー波を利用した境界波装置を提供することができ、該電極層を構成している金属以外の金属からなる少なくとも1層の第2の電極層がさらに備えられている場合には、第2の電極層を構成する金属材料を選択することにより、電極と誘電体もしくは圧電体との密着性を高めたり、耐電力性を高めたりすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置を示す正面断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置で電極として構成されているIDT及び反射器を示す模式的平面図である。
【図3】図3は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A1のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図4】図4は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A2のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図5】図5は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A3のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図6】図6は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A4のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図7】図7は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A5のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図8】図8は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A6のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図9】図9は実施例1で作製された表1の弾性境界波装置A7のインピーダンス−周波数特性を示す図である。
【図10】図10は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、音速Vとの関係を示す各図である。
【図11】図11は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図12】図12は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図13】図13は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図14】図14は(φ,0°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図15】図15は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、音速Vとの関係を示す図である。
【図16】図16は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図17】図17は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図18】図18は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図19】図19は(φ,0°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図20】図20は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、音速Vとの関係を示す図である。
【図21】図21は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図22】図22は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図23】図23は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図24】図24は(φ,90°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図25】図25は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、音速Vとの関係を示す図である。
【図26】図26は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図27】図27は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図28】図28は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図29】図29は(φ,90°,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図30】図30は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、音速Vとの関係を示す図である。
【図31】図31は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図32】図32は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図33】図33は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図34】図34は(0°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図35】図35は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、音速Vとの関係を示す図である。
【図36】図36は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図37】図37は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図38】図38は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図39】図39は(0°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図40】図40は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、音速Vとの関係を示す図である。
【図41】図41は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図42】図42は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図43】図43は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図44】図44は(90°,θ,0°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図45】図45は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、音速Vとの関係を示す図である。
【図46】図46は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図47】図47は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図48】図48は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図49】図49は(90°,θ,90°)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のθと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図50】図50は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、音速Vとの関係を示す図である。
【図51】図51は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図52】図52は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図53】図53は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図54】図54は(0°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図55】図55は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、音速Vとの関係を示す図である。
【図56】図56は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図57】図57は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図58】図58は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図59】図59は(0°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図60】図60は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、音速Vとの関係を示す図である。
【図61】図61は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図62】図62は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図63】図63は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図64】図64は(90°,0°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図65】図65は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、音速Vとの関係を示す図である。
【図66】図66は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図67】図67は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図68】図68は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図69】図69は(90°,90°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極を形成し、SiO2膜を形成した構造において、オイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図70】図70は実施例3においてAgからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図71】図71は実施例3においてAgからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図72】図72は実施例3においてAgからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図73】図73は実施例3においてAgからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図74】図74は実施例3においてAlからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図75】図75は実施例3においてAlからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図76】図76は実施例3においてAlからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図77】図77は実施例3においてAlからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図78】図78は実施例3においてAuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図79】図79は実施例3においてAuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図80】図80は実施例3においてAuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図81】図81は実施例3においてAuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図82】図82は実施例3においてCrからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図83】図83は実施例3においてCrからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図84】図84は実施例3においてCrからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図85】図85は実施例3においてCrからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図86】図86は実施例3においてCuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図87】図87は実施例3においてCuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図88】図88は実施例3においてCuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図89】図89は実施例3においてCuからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図90】図90は実施例3においてFeからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図91】図91は実施例3においてFeからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図92】図92は実施例3においてFeからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図93】図93は実施例3においてFeからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図94】図94は実施例3においてMoからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図95】図95は実施例3においてMoからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図96】図96は実施例3においてMoからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図97】図97は実施例3においてMoからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図98】図98は実施例3においてNiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図99】図99は実施例3においてNiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図100】図100は実施例3においてNiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図101】図101は実施例3においてTaからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図102】図102は実施例3においてTaからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図103】図103は実施例3においてTaからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図104】図104は実施例3においてTaからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図105】図105は実施例3においてWからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図106】図106は実施例3においてWからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図107】図107は実施例3においてWからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図108】図108は実施例3においてWからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図109】図109は実施例3においてTiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図110】図110は実施例3においてTiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図111】図111は実施例3においてTiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図112】図112は実施例3においてTiからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図113】図113は実施例3においてPtからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の音速との関係を示す図である。
【図114】図114は実施例3においてPtからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図115】図115は実施例3においてPtからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図116】図116は実施例3においてPtからなる電極を用いて構成された弾性境界波装置における電極膜厚とストンリー波の周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図117】図117は実施例3において電極の密度を種々異ならせて弾性境界波装置を作製した場合の電極の密度と、ストンリー波の伝播損失が0となる電極膜厚との関係を示す図である。
【図118】図118は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、音速との関係を示す図である。
【図119】図119は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図120】図120は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図121】図121は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図122】図122は実施例4においてオイラー角(φ,30°,0°)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のφと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【図123】図123は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、音速との関係を示す図である。
【図124】図124は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、周波数温度係数TCFとの関係を示す図である。
【図125】図125は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、電気機械結合係数k2との関係を示す図である。
【図126】図126は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、パワーフロー角PFAとの関係を示す図である。
【図127】図127は実施例4においてオイラー角(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上にAu電極及びSiO2膜を形成してなる弾性境界波装置におけるオイラー角のψと、伝搬損失αとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1…弾性境界波装置
2…圧電体
3…誘電体
4…電極としてのIDT
5,6…電極としての反射器
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0036】
2つの固体層間に弾性境界波を伝搬させるには、固体層間に境界波のエネルギーが集中する条件を満たす必要がある。
【0037】
一般に、高速の領域と、低速の領域とが存在する場合、波動は音速の遅い部分に集中して伝搬する。そこで、本願発明者は、2つの固体層間に配置された電極材料として、密度が大きく、低音速であるAuやCuなどの金属からなる材料を利用し、電極の厚みを増加させることにより、固体層間を伝搬する境界波の音速を低音速化すれば、固体層間へのエネルギー集中条件を満たし得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0038】
従来、固体内を伝搬するバルク波には、縦波と、速い横波と、遅い横波の3種類があることが知られており、それぞれ、P波、SH波、SV波と呼ばれている。なお、SH波とSV波のいずれが遅い横波になるかは、基体の異方性によって変わる。これら3種類のバルク波のうち、もっとも低音速のバルク波が、遅い横波である。なお、SiO2のように固体が等方体の場合には、横波は1種のみ伝搬するので、この横波が遅い横波となる。
【0039】
他方、圧電基板などの異方性基体を伝搬する弾性境界波では、大抵の場合には、P波、SH波及びSV波の3つの変位成分が結合しながら伝搬し、主要成分により弾性境界波の種類が分類される。例えば、上記ストンリー波は、P波とSV波とが主体の弾性境界波であり、SH型境界波は、SH成分が主体である弾性境界波である。なお、条件によっては、SH波成分や、P波もしくはSV波成分が結合せずに伝搬することもある。
【0040】
弾性境界波では、上記3つの変位成分が結合しながら伝搬するため、例えば、SH波よりも高音速の弾性境界波では、SH成分とSV成分とが漏洩し、SV波よりも高音速の弾性境界波では、SV成分が漏洩することとなる。この漏洩成分が、境界波の伝搬損失の原因となる。
【0041】
そこで、2つの固体層の双方の遅い横波の音速よりも、ストンリー波の音速を低速化すれば、ストンリー波のエネルギーを、2つの固体層間に配置した電極付近に集中させ、電気機械結合係数k2の大きいストンリー波を伝搬させることができ、伝搬損失0の条件を得ることができる。密度の大きな電極材料は音速が遅いので、ストンリー波を低速化するには、密度の大きな電極を用いることが望ましい。本発明は、このような考えに基づいてなされたものである。
【0042】
そして、少なくとも一方の固体を圧電体、他方の固体を圧電体を含む誘電体とすることにより、固体間に配置した電極によりストンリー波が励振される。電極としては、「弾性表面波工学」柴山幹夫、電子情報通信学会、p57−58に開示されるくし形電極や、すだれ状電極(インターデジタルトランスデューサ、IDT)を用いることができる。
【0043】
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の略図的正面断面図であり、図2はその電極構造を示す平面図である。弾性境界波装置1では、板状の圧電体2の上面に、誘電体3が積層されている。圧電体2と誘電体3との境界に電極として、IDT4及び反射器5,6が配置されている。反射器5,6はIDT4の表面波伝搬方向両側に配置されており、それによって本実施形態では、境界波共振子が構成されている。
【0044】
本実施形態の弾性境界波装置1の特徴は、上記誘電体3を伝搬する遅い横波の音速及び圧電体2を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、IDT4及び反射器5,6の厚みが厚くされていることにある。
【0045】
本実施形態では、電極の厚みが、厚くされ、それによってストンリー波の音速が、圧電体2及び誘電体3を伝搬する各遅い横波の音速よりも低められ、それによって、ストンリー波のエネルギーが圧電体2と誘電体3との境界に集中する。従って、電気機械結合係数k2の大きなストンリー波を、伝搬損失が小さい状態で伝搬させることができる。
【0046】
なお、電極の厚みを厚くすることによりストンリー波を伝搬させることができるだけでなく、本発明では、後述するように電極を構成するストリップのデューティ比を制御することによっても、ストンリー波の音速を、圧電体2及び誘電体3を伝搬する各遅い横波の音速よりも低くし、ストンリー波を境界に集中させて伝搬させることも可能である。
【0047】
なお、上記ストリップのデューティ比とは、ストリップの幅をL、隣接しているストリップ間のスペースの中心と、次の隣接するストリップ間のスペースの中心との間の中心間距離をPとした時、L/Pで表される値である。
【0048】
図1に示した構成は、圧電体2と、誘電体3との間に電極としてIDT4及び反射器5,6を配置した簡潔な構成である。この構成により、非常に多くの材料を用いてストンリー波を利用した弾性境界波装置を構成することができる。例えば、非特許文献2に記載したSiO2/IDT電極/128°回転Y板X伝搬LiNbO3構造では、ストンリー波は確認されていないが、電極の厚みが薄い場合にはストンリー波を形成することができなくとも、電極の厚みを厚くすることによりストンリー波を存在させることができる。以下、具体的な実施例に基づき、本発明をより詳細に説明する。
【0049】
〔実施例1〕
オイラー角(0°,38°,0°)すなわち128°Y板X伝搬のLiNbO3基板を圧電体2として用意した。このLiNbO3基板上に、密着層として、蒸着法によりNiCr膜を形成した。次に、密着層上に、蒸着法によりAu膜を形成し、リフトオフ法によりパターニングし、IDT4及び反射器5,6を形成した。また、上記IDT4及び反射器5,6を覆うように、RFマグネトロンスパッタリング法により、200℃の成膜温度でSiO2膜を形成した。
【0050】
IDT4の電極指の対数は50.5対、1つの反射器の電極指の本数は51本とした。
【0051】
また、IDT4における電極指交差幅は、30λとした。他方、反射器5,6における開口長A(図2参照)は、30.5λとした。なお、λは、IDT4及び反射器5,6における電極指の配置周期である。なお、IDT4及び反射器5,6におけるデューティ比は0.5とした。
上記のようにして、但し下記の表2に示すように、NiCr膜、Au膜及びSiO2膜を種々異ならせ、1ポート型弾性境界波装置1を作製した。
【0052】
【表2】
【0053】
上記のようにして作製された表2のA1〜A7の各弾性境界波装置のインピーダンス−周波数特性を測定した。結果を図3〜図9に示す。なお、図3〜図9の縦軸のインピーダンスは、
【0054】
【数1】
【0055】
で表される値である。
【0056】
また、図3〜図9において、横軸は、ストンリー波の応答の共振周波数で規格化された周波数である。
【0057】
図3〜図9から明らかなように、上記表2に示したA1〜A7で示される弾性境界波装置では、反共振点におけるインピーダンスZaと、共振点におけるインピーダンスZrとの比Za/Zrは50〜60dBであり、優れた共振特性を示すことがわかる。
【0058】
他方、電極材料として、Alのみを用い、他は上記弾性境界波装置と同様にして弾性境界波装置を作製したところ、高次スプリアスモードの応答のみが確認され、ストンリー波の応答は確認できなかった。この結果は、前述した非特許文献2における実験結果と一致する。なお、ストンリー波の応答の確認は、チップ表面にダンピング材を密着し、減衰の有無により評価した。
【0059】
上記実験結果から明らかなように、Alよりも重い電極、すなわちAuを主体とする電極を用い、その厚みHを0.03λ以上とすることにより、従来実現できなかったSiO2/LiNbO3基板におけるストンリー波の応答を確認することができ、優れた共振特性の得られることがわかる。
【0060】
また、回転Y板X伝搬のLiTaO3基板や水晶基板を圧電体2として用いた場合にも、Au膜の厚みを0.03λ以上とすれば、ストンリー波を伝搬し得ることを確認した。さらに、他の圧電基板においても、同様に、Au膜の厚みを0.03λ以上とすることにより同様にストンリー波を伝搬させ得ることを確認した。
【0061】
図3〜図9において、ストンリー波の応答の共振周波数は、規格化された値である1.0である。ストンリー波の応答よりも低周波側における応答は、SH型弾性境界波によるスプリアス応答であり、ストンリー波の応答よりも高周波側の複数の応答は、高次スプリアスモードによる応答である。
【0062】
高次スプリアスモードによる応答は、特願2003−114592などに記載の方法により抑制することができる。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1においては、ストンリー波による応答よりも、低周波側において、SH型の弾性境界波によるスプリアス応答が生じていた。実施例2では、このスプリアス応答の抑制を図った。
【0064】
すなわち、SH型弾性境界波によるスプリアスを抑圧するために、LiNbO3基板のオイラー角と、ストンリー波及びSH型の弾性境界波の音速V、電気機械結合係数k2、伝搬損失α、周波数温度係数TCF及びパワーフロー角PFAとの関係をそれぞれ求めた。なお、計算に際しては、「A method for estimating optimal cuts and propagation directions for
excitation and propagation directions for excitation of piezoelectric surface
waves」(J.J.Campbell and W.R.Jones,IEEE Trans.Sonics and
Ultrason.,Vol.SU-15(1968)pp.209-217)に開示された手法を元に、開放境界の場合は、SiO2とAu、AuとLiNbO3の境界における変位、電位、電束密度の法線成分、上下方向の応力が連続で、SiO2とLiNbO3の厚さを無限とし、Auの比誘電率を1として音速と伝搬損失を求めた。また、短絡境界の場合は、SiO2とAu、AuとLiNbO3の境界における電位が0として求めた。また、電気機械結合係数k2は〔1〕式により求めた。なお、Vfは開放境界の音速である。
k2=2x|Vf−V|/Vf…〔1〕
【0065】
周波数温度係数TCFは、20、25、30℃における位相速度V〔20℃〕、V〔25℃〕及びV〔30℃〕より〔2〕式により求めた。
【0066】
TCF=V〔25℃〕−1×{V〔30℃〕−V〔20℃〕)÷10℃}−dS…〔2〕
ここで、dSは境界波伝搬方向におけるLiNbO3基板の線膨張係数である。
【0067】
また、任意のオイラー角(φ,θ,ψ)におけるパワーフロー角PFAは、ψ−0.5°、ψ、ψ+0.5°における位相速度Vより〔3〕式を求めた。
【0068】
PFA=tan−1{V〔ψ〕−1×(V〔ψ+0.5°〕−V〔ψ−0.5°〕)}…〔3〕
【0069】
なお、前提とした構造は、LiNbO3基板上に、Au電極を形成し、SiO2膜を形成した構造である。Au電極の膜厚は0.07λとし、オイラー角(0°,0°,ψ)、(0°,90°,ψ)、(90°,0°,ψ)、(90°,90°,ψ)、(0°,θ,0°)、(0°,θ,90°)、(90°,θ,0°)、(90°,θ,90°)、(φ,0°,0°)、(φ,0°,90°)、(φ,90°,0°)及び(φ,90°,90°)であり、φ、θ、ψはそれぞれ0°〜180°である。
【0070】
図10〜図69に結果を示す。
【0071】
なお、図10〜図69において、添え字として小文字mが付されている値は、SiO2膜とLiNbO3基板との間に金属膜を配置した短絡境界における計算値を示し、添え字としてfが付与されている値は、金属膜の比誘電率を1として求めた仮想的な開放境界における計算値である。接頭文字として、U2を付されている値は、SH型の弾性境界波の計算値であり、U3が付与されている値がストンリー波の計算値である。
【0072】
ストンリー波を利用する場合、SH型の弾性境界波はスプリアス応答となり、通過帯域においてリップルを発生させたり、帯域外減衰量を劣化させたりする。SH型の弾性境界波の電気機械結合係数k2が2%以下であれば、該SH型境界波スプリアスによる特性劣化は小さくなり、比較的広い用途にストンリー波を用いた境界波装置を利用することができる。さらに、SH型境界波の電気機械結合係数k2が1%以下であれば、より広い用途に利用し得るストンリー波を用いた弾性境界波装置を提供することができる。さらに好ましくは、SH型境界波の電気機械結合係数k2が0.1%以下であれば、SH型弾性境界波スプリアスの影響をほとんど受けなくなるため、大きな減衰量が要求されるフィルタや僅かな共振スプリアス応答が許容され得ない高精度の共振子などに、ストンリー波を利用した本発明の弾性境界波装置を用いることができる。
【0073】
図10〜69において、SH型境界波の電気機械結合係数k2が2%以下となるオイラー角は、(0°,0°,0°)〜(0°,0°,180°)、(0°,90°,49°)〜(0°,90°,131°)、(90°,0°,0°)〜(90°,0°,180°)、(90°,90°,48°)〜(0°,90°,131°)、(0°,−32°,0°)〜(0°,47°,0°)、(0°,0°,90°)〜(0°,180°,90°)、(90°,−39°,0°)〜(90°,39°,0°)、(90°,0°,90°)〜(90°,180°,90°)、(0°,0°,0°)〜(180°,0°,0°)、(0°,0°,90°)〜(180°,0°,90°)、(0°,90°,90°)〜(180°,90°,90°)の範囲であり、SH型境界波のk2が1%以下となるオイラー角は、(0°,0°,12.5°)〜(0°,0°,47.5)、(0°,0°,62.5°)〜(0°,0°,107.5°)、(0°,0°,132.5°)〜(0°,0°,167.5°)、(0°,90°,56°)〜(0°,90°,125°)、(90°,0°,−18°)〜(90°,0°,18°)、(90°,0°,42°)〜(90°,0°,78°)、(90°,0°,102°)〜(90°,0°,138°)、(90°,0°,162°)〜(90°,0°,180°)、(90°,90°,57°)〜(90°,90°,127°)、(0°,13°,0°)〜(0°,42°,0°)、(0°,0°,90°)〜(0°,180°,90°)、(90°,−32°,0°)〜(90°,32°,0°)、(90°,70°,90°)〜(90°,110°,90°)、(12°,0°,0°)〜(48°,0°,0°)、(72°,0°,0°)〜(107°,0°,0°)、(132°,0°,0°)〜(167°,0°,0°)、(−18°,0°,90°)〜(18°,0°,90°)、(42°,0°,90°)〜(78°,0°,90°)、(102°,0°,90°)〜(138°,0°,90°)、(0°,90°,90°)〜(180°,90°,90°)の範囲であり、SH型境界波のk2が0.1%以下となるオイラー角は、(0°,0°,26°)〜(0°,0°,36°)、(0°,0°,86°)〜(0°,0°,96°)、(0°,0°,146°)〜(0°,0°,156°)、(0°,90°,80°)〜(0°,90°,111°)、(90°,90°,110°)〜(90°,90°,119°)、(0°,26°,0°)〜(0°,34°,0°)、(0°,0°,90°)〜(0°,180°,90°)、(90°,−14°,0°)〜(90°,14°,0°)、(26°,0°,0°)〜(34°,0°,0°)、(86°,0°,0°)〜(94°,0°,0°)、(146°,0°,0°)〜(154°,0°,0°)、(−6°,0°,90°)〜(6°,0°,90°)、(54°,0°,90°)〜(66°,0°,90°)、(114°,0°,90°)〜(126°,0°,90°)、(−7°,90°,90°)〜(7°,90°,90°)、(53°,90°,90°)〜(67°,90°,90°)、(113°,90°,90°)〜(127°,90°,90°)である。
【0074】
上記オイラー角の範囲のLiNbO3基板を用いることにおいてもスプリアス応答が小さく、あるいはスプリアスが発生しないストンリー波を用いた弾性境界波装置を提供することができる。
【0075】
なお、図10〜69の計算結果の全ての条件において、ストンリー波の伝搬損失U3−αm、U3−αfは0であり、良好な伝搬特性を示した。
【0076】
また、ストンリー波の音速U3−Vmは3000〜3400m/秒付近に集中しており、カット角による変化は小さいことがわかる。
【0077】
従って、カット角を変更した場合であっても伝搬損失が0となる電極膜厚Hを、後述の式(4)により得られることがわかる。
【0078】
また、ストンリー波の周波数温度係数U3−TCFmは、−30〜−40ppm/℃に集中しており、カット角による変化はあまり大きくないことがわかる。従って、カット角を変更した場合であっても、周波数温度係数TCFが小さくなる電極膜厚Hを式(4)により決定し得ることがわかる。
【0079】
〔実施例3〕
実施例2における計算方法を用い、圧電体2としてオイラー角(0°,30°,0°)、すなわち120°Y板X伝搬のLiNbO3基板を用い、誘電体3として、薄膜形成が容易であること、LiNbO3のTCFを打ち消すことができることを考慮して、SiO2膜を選択した。様々な密度の電極材料を用いて電極を構成し、弾性境界波装置を作製した。このようにして得られた弾性境界波装置における電極膜厚と、ストンリー波の音速V、伝搬損失α(dB/λ)、電気機械結合係数k2(%)及び周波数温度係数TCFとの関係を求めた。結果を図70〜図116に示す。なお、パワーフロー角PFAは、いずれにおいてもゼロであった。
【0080】
120°Y板X伝搬のLiNbO3における縦波の音速、遅い横波の音速、遅い横波の音速は、それぞれ、6547、4752及び4031m/秒である。他方、SiO2における縦波、遅い横波の音速は、それぞれ、5960m/秒及び3757m/秒である。図70〜図116によれば、ストンリー波の音速が、上記各音速のうち最も遅い3757m/秒以下となるような電極膜厚では、ストンリー波の伝搬損失αは0となっていることがわかる。すなわち、単に密度の大きな電極材料を用いただけではストンリー波の伝搬損失αは0とはならず、電極膜厚を厚くし、ストンリー波の音速を3757m/秒よりも遅くすることにより、伝搬損失αが0となることがわかる。
【0081】
従って、本発明においては、好ましくは、電極膜厚は、ストンリー波の音速が、上記各音速のうち最も遅い音速よりも遅くされ得る厚みとされ、それによってストンリー波の伝搬損失αを0とすることができる。
【0082】
さらに、本発明においては、密度の大きな材料からなる電極を用いることにより、電極における横波の音速が遅くなり、電極にストンリー波のエネルギーが集中することとなる。従って、電極に印加される電気エネルギーとストンリー波の電気エネルギーが効率的に結合するため、大きな電気機械結合係数が得られる。また、電極にエネルギーが集中するため、電極を構成する電極指により反射されるストンリー波の反射係数も高められる。ストンリー波の電極指による反射係数が高められると、グレーティング反射器を構成する電極指の本数を少なくすることができる。従って、弾性境界波装置の小型化を進めることができる。さらに、反射器の反射帯域を広げることも可能である。
【0083】
IDT4を構成する電極指の反射がない場合には、IDT4のコンダクタンスの周波数特性は左右対称のsinc関数で表現される。他方、電極指の反射がある場合には、コンダクタンスの周波数特性は非対称となり、帯域の低周波側、または帯域の高周波側のコンダクタンスが大きくなる。電極指の反射が大きくなるほど、上記周波数特性の非対称性が高められることになる。
【0084】
上記のような内部反射を有するIDTを用いて、例えば、入力側IDTと、出力側IDTを境界波伝搬方向に配置し、これらの設けられている領域の両側に反射器を配置した縦結合型のフィルタを構成した場合には、コンダクタンス特性の非対称性を反映したフィルタ通過帯域が形成されることになる。この場合、電極指の反射係数が高くなるほど、急峻な帯域を設計することができる。このように、IDTを構成する電極指の反射係数を高めることができれば、より急峻なフィルタ特性を容易に得ることができる。
【0085】
図117は、電極材料の密度ρと、ストンリー波の伝搬損失が0となる電極膜厚Hとの関係を示す図である。なお、下記の表3は、電極材料として用いられる種々の金属の密度を示す。
【0086】
【表3】
【0087】
図117から明らかなように、下記の式(4)を満たすような膜厚及び電極材料を用いることにより、ストンリー波の伝搬損失を0とすることができる。
H〔λ〕>1/{1/(3×197×ρ−2.22+0.017)−0.4}…式(4)
【0088】
また、この種の弾性境界波装置を製造する場合、LiNbO3基板などの圧電基板上にリフトオフ法やドライエッチなどのフォトリソグラフ工法によりIDTなどの電極を形成し、電極上にスパッタ、蒸着またはCVDなどの薄膜形成法によりSiO2などからなる誘電体膜を形成する。そのため、IDTの厚さに起因して、誘電体膜の上面に凹凸が生じる。また、誘電体膜が斜めに成長したり、誘電体膜の膜質が不均一になったりするおそれがあった。このような凹凸、斜め方向への成長膜質の不均一性が生じると、弾性境界波装置の特性が劣化する。
【0089】
上記特性の劣化を避けるには、電極の膜厚が薄いことが望ましい。本願発明者らの検討によれば、電極の膜厚Hが0.1λ以上になると、品質の優れた誘電体薄膜を形成することが困難となる。特に、電極膜厚が0.25λ以上になると、電極のアスペクト比が1以上となり、電極を安価なドライエッチ工程やリフトオフ工程で形成することも難しくなる。さらに、誘電体薄膜の形成に利用し得る工法や装置が限定されることになり、汎用的なRFマグネトロンスパッタにより誘電体薄膜を形成することが困難となる。従って、電極膜厚は、0.25λ以下であることが好ましく、より好ましくは0.1λ以下である。
【0090】
図117から明らかなように、密度ρが4711kg/m3以上の電極材料を用いると、ストンリー波の伝搬損失が0となる電極膜厚Hの厚みを0.25λ以下とすることができ、密度ρが7316kg/m3以上の電極材料を用いると、伝搬損失が0となる電極膜厚Hの大きさを0.10λ以下とすることができる。従って、本発明においては、好ましくは、電極材料の密度ρが、4711kg/m3以上、より好ましくは7316kg/m3以上である。
【0091】
また、図72、図76、図80、図84、図88、図92、図96、図103、図107、図111及び図115から明らかなように、上述した式(4)の条件を満たす電極膜厚Hにおいても、電気機械結合係数k2は、3〜9.4%の範囲と十分な大きさである。従って、上記式(4)を満たす電極膜厚Hにおいても、十分な帯域幅の弾性境界波装置を提供することができる。
【0092】
また、図73、図77、図81、図85、図89、図93、図97、図100、図104、図108、図112及び図116から明らかなように、Ag、Au、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtは、式(4)を満たす電極膜厚Hにおいて、TCFの絶対値が40ppm以下となることがわかる。従って、好ましくは、電極材料として、Ag、Au、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtからなる群から選択された1種以上が周波数温度特性を改善し得るため好適に用いられる。
【0093】
〔実施例4〕
次に、オイラー角(φ,30°,0°)及び(0°,30°,ψ)のLiNbO3基板上に、それぞれ、厚み0.06λのAuからなる電極を形成し、さらに電極上にSiO2膜を形成した場合のオイラー角のφ及びψと、SH型境界波及びストンリー波の音速V、電気機械結合係数k2、伝搬損失α、周波数温度係数TCF及びパワーフロー角PFAとの関係を求めた。図118〜図122及び図119〜図127に結果を示す。図118〜図122において、U2はSH型境界波、U3はストンリー波の結果を示す。なお、オイラー角(0°〜90°,30°,0°)及び(0°,30°,0°〜90°)の全範囲において、伝搬損失αは0dB/λであった。
【0094】
図118〜図122から明らかなように、φ=0°〜15°の範囲において、SH型境界波の電気機械結合係数k2は0.3%以下と小さくなり、φ=0°において、SH型境界波の電気機械結合係数k2がほぼ0%となり、SH型境界波によるスプリアス応答が非常に小さくなることがわかる。また、φ=0°〜90°の範囲において、TCFは−37〜−33ppm/℃と良好であり、ストンリー波の電気機械結合係数k2は、3.5〜5%と十分な大きさであり、従って狭帯域〜中帯域のRFフィルタとして好適な弾性境界波フィルタを提供し得ることがわかる。また、φ=0°〜90°の範囲において、ストンリー波のパワーフロー角PFFは±1.5°以下と小さかった。
【0095】
図123〜図127から明らかなように、ψ=0°〜14°の範囲において、SH型境界波の電気機械結合係数k2は0.3%以下と小さくなり、ψ=0°においてSH型境界波の電気機械結合係数がほぼ0%となり、SH型境界波によるスプリアス応答が非常に小さくなることがわかる。また、ψ=0°〜90°の範囲において、TCFは−36〜−33ppm/℃と良好であった。さらに、ψ=0°〜45°の範囲において、ストンリー波の電気機械結合係数k2は3.5〜5%と十分な大きさであり、従って、狭帯域〜中帯域のRFフィルタに好適な弾性境界波フィルタを提供し得ることがわかる。また、ψ=0°〜90°の範囲において、ストンリー波のパワーフロー角は±1.7°以下と小さかった。
【0096】
なお、本発明において、誘電体と圧電体の厚さは上記計算の前提となったモデルのように無限である必要はなく、弾性境界波のエネルギーが境界である電極付近に十分に閉じこもる厚さを少なくとも有すればよく、すなわち、例えば1λ以上の厚みを有すればよい。
【0097】
また、本発明では、上記圧電体は、誘電体上に成膜された圧電膜であってもよい。
【0098】
さらに、本発明に係る弾性境界波装置では、誘電体−電極−圧電体の積層構造の積層方向外側に弾性境界波装置の強度を高めるため、あるいは腐食ガスなどの侵入を防止するために保護層を形成してもよい。場合によっては、本発明の弾性境界波装置は、パッケージに封入されてもよい。
【0099】
なお、上記保護層としては、酸化チタン、窒化アルミ、酸化アルミなどの絶縁性材料、あるいはAu、AlまたはWなどの金属膜、ウレタン、エポキシ、シリコーンなどの樹脂により構成され得る。
【0100】
また、電極は、Au、Ag、CuまたはAl以外の他の金属、例えば、Fe、Ni、W、Ta、Pt、Mo、Cr、Ti、ZnO及びITOなどの導体膜で構成されてもよい。また、密着性や耐電力性を高めるために、Au、Ag、CuもしくはAlまたはこれらの合金からなる電極層に、さらにTi、CrもしくはNiCr合金などの他の金属材料からなる第2の電極層を積層してもよい。この場合第2の電極層は、第1の電極層と圧電体との間、あるいは第1の電極層と誘電体との間のいずれか、または両方に配置してもよい。
【0101】
さらに、本発明において、電極は、導波路やバスバーなどを構成する面状の電極膜であってもよく、境界波を励振するIDTやくし型電極であってもよく、境界波を反射する反射器であってもよい。
【0102】
なお、本明細書において、基板の切断面と境界波の伝搬方向を表現するオイラー角(φ,θ,ψ)は、文献「弾性波素子技術ハンドブック」(日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会、第1版第1刷、平成13年11月30日発行、549頁)記載の右手系オイラー角を用いた。すなわち、LNの結晶軸X、Y、Zに対し、Z軸を軸としてX軸を反時計廻りにφ回転しXa軸を得る。次に、Xa軸を軸としてZ軸を反時計廻りにθ回転しZ′軸を得る。Xa軸を含み、Z′軸を法線とする面を基板の切断面とした。そして、Z′軸を軸としてXa軸を反時計廻りにψ回転した軸X′方向を境界波の伝搬方向とした。
【0103】
また、オイラー角の初期値として与えるLiNbO3の結晶軸X、Y、Zは、Z軸をc軸と平行とし、X軸を等価な3方向のa軸のうち任意の1つと平行とし、Y軸はX軸とZ軸を含む面の法線方向とする。
【0104】
なお、本発明におけるLiNbO3のオイラー角(φ,θ,ψ)は結晶学的に等価であればよい。例えば、「日本音響学会誌36巻3号、1980年、140〜145頁」によれば、LiNbO3は三方晶系3m点群に属する結晶であるので(A)式が成り立つ。
【0105】
F(φ,θ,ψ)=F(60°−φ,−θ,ψ)
=F(60°+φ,−θ,180°−ψ)
=F(φ,180°+θ,180°−ψ)
=F(φ,θ,180°+ψ) …式(A)
ここで、Fは、電気機械結合係数k2、伝搬損失、TCF、PFA、ナチュラル一方向性などの任意の境界波特性である。PFAやナチュラル一方向性は、例えば伝搬方向を正負反転してみた場合、符合は変わるものの絶対量は等しいので実用上等価であると考えられる。なお、上記文献は表面波に関するものであるが、境界波に関しても結晶の対称性は同様に扱える。例えば、オイラー角(30°,θ,ψ)の境界波伝搬特性は、オイラー角(90°,180°−θ,180°−ψ)の境界波伝搬特性と等価である。また、例えば、オイラー角(30°,90°,45°)の境界波伝搬特性は、下記の表4に示すオイラー角の境界波伝搬特性と等価である。
【0106】
また、本発明において計算に用いた電極の材料定数は多結晶体の値であるが、エピタキシャル膜などの結晶体においても、膜自体の結晶方位依存性より基板の結晶方位依存性が境界波特性に対して支配的であるので式(A)で表わされる等価なオイラー角の場合も、実用上問題ない程度に同等の境界波伝搬特性が得られる。
【0107】
【表4】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、前記圧電体の一面に積層された誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置において、
前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極の厚みが決定されていることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項2】
圧電体と、前記圧電体の一面に積層された誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置において、
前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極を構成するストリップのデューティ比が決定されていることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項3】
LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されている誘電体と、
前記圧電体と前記誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、
前記LiNbO3を主成分とする圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が下記の表1の各範囲にあり、音速が3757m/秒より低いストンリー波を利用したことを特徴とする、弾性境界波装置。
【表1】
【請求項4】
前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極の厚みが決定されている、請求項2または3に記載の弾性境界波装置。
【請求項5】
前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極を構成するストリップのデューティ比が決定されている、請求項3に記載の弾性境界波装置。
【請求項6】
LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されており、誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、ストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、
前記電極の密度をρ(kg/m3)、電極の膜厚をH(λ)、ストンリー波の波長をλとしたときに、H>1/{1/(3×107×ρ−2.22+0.017)−0.4}とされていることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項7】
前記電極の密度ρが、ρ≧4711kg/m3である、請求項6に記載の弾性境界波装置。
【請求項8】
LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されており、誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、ストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、
前記電極の密度をρ(kg/m3)、電極の膜厚をH(λ)、ストンリー波の波長をλとしたときに、H>0.03λかつρ>2699kg/m3とされていることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項9】
前記電極が、Ag、Au、Cu、Fe、Mo、Ni、Ta、W、Ti及びPtから選択された少なくとも1種からなる電極層を主体とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【請求項1】
圧電体と、前記圧電体の一面に積層された誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置において、
前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極の厚みが決定されていることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項2】
圧電体と、前記圧電体の一面に積層された誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置において、
前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極を構成するストリップのデューティ比が決定されていることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項3】
LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されている誘電体と、
前記圧電体と前記誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、該境界を伝搬するストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、
前記LiNbO3を主成分とする圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が下記の表1の各範囲にあり、音速が3757m/秒より低いストンリー波を利用したことを特徴とする、弾性境界波装置。
【表1】
【請求項4】
前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極の厚みが決定されている、請求項2または3に記載の弾性境界波装置。
【請求項5】
前記誘電体を伝搬する遅い横波の音速及び前記圧電体を伝搬する遅い横波の音速よりもストンリー波の音速を低くするように、前記電極を構成するストリップのデューティ比が決定されている、請求項3に記載の弾性境界波装置。
【請求項6】
LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されており、誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、ストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、
前記電極の密度をρ(kg/m3)、電極の膜厚をH(λ)、ストンリー波の波長をλとしたときに、H>1/{1/(3×107×ρ−2.22+0.017)−0.4}とされていることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項7】
前記電極の密度ρが、ρ≧4711kg/m3である、請求項6に記載の弾性境界波装置。
【請求項8】
LiNbO3を主成分とする圧電体と、前記圧電体の一面に積層されており、誘電体と、前記圧電体と誘電体との間の境界に配置された電極とを備え、ストンリー波を利用した弾性境界波装置であって、
前記電極の密度をρ(kg/m3)、電極の膜厚をH(λ)、ストンリー波の波長をλとしたときに、H>0.03λかつρ>2699kg/m3とされていることを特徴とする、弾性境界波装置。
【請求項9】
前記電極が、Ag、Au、Cu、Fe、Mo、Ni、Ta、W、Ti及びPtから選択された少なくとも1種からなる電極層を主体とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の弾性境界波装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72】
【図73】
【図74】
【図75】
【図76】
【図77】
【図78】
【図79】
【図80】
【図81】
【図82】
【図83】
【図84】
【図85】
【図86】
【図87】
【図88】
【図89】
【図90】
【図91】
【図92】
【図93】
【図94】
【図95】
【図96】
【図97】
【図98】
【図99】
【図100】
【図101】
【図102】
【図103】
【図104】
【図105】
【図106】
【図107】
【図108】
【図109】
【図110】
【図111】
【図112】
【図113】
【図114】
【図115】
【図116】
【図117】
【図118】
【図119】
【図120】
【図121】
【図122】
【図123】
【図124】
【図125】
【図126】
【図127】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72】
【図73】
【図74】
【図75】
【図76】
【図77】
【図78】
【図79】
【図80】
【図81】
【図82】
【図83】
【図84】
【図85】
【図86】
【図87】
【図88】
【図89】
【図90】
【図91】
【図92】
【図93】
【図94】
【図95】
【図96】
【図97】
【図98】
【図99】
【図100】
【図101】
【図102】
【図103】
【図104】
【図105】
【図106】
【図107】
【図108】
【図109】
【図110】
【図111】
【図112】
【図113】
【図114】
【図115】
【図116】
【図117】
【図118】
【図119】
【図120】
【図121】
【図122】
【図123】
【図124】
【図125】
【図126】
【図127】
【国際公開番号】WO2005/069485
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516987(P2005−516987)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019551
【国際出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/019551
【国際出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]