弾性波フィルタ
【課題】通過帯域近傍の低周波側の減衰量をより大きくすることが可能な弾性波フィルタを提供する。
【解決手段】圧電基板22と、前記圧電基板22上に設けられたIDT2、IDT4及びIDT6と、前記IDT2、IDT4及びIDT6の両側に設けられた反射器8及び反射器10と、を具備し、前記反射器8の複数の電極指8aが各々一つのギャップ9を有し、前記反射器10の複数の電極指10aが各々一つのギャップ11を有し、ギャップ9及びギャップ11は弾性波の伝搬路(IDTの電極指が重なる領域)内に位置するように構成する。
【解決手段】圧電基板22と、前記圧電基板22上に設けられたIDT2、IDT4及びIDT6と、前記IDT2、IDT4及びIDT6の両側に設けられた反射器8及び反射器10と、を具備し、前記反射器8の複数の電極指8aが各々一つのギャップ9を有し、前記反射器10の複数の電極指10aが各々一つのギャップ11を有し、ギャップ9及びギャップ11は弾性波の伝搬路(IDTの電極指が重なる領域)内に位置するように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタに関し、特に圧電基板上にIDTと反射器とを有する弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化社会の進展とともに、移動体通信機器の小型化、軽量化、高周波化が要求されている。それに伴い、小型で軽量な弾性波フィルタが利用されている。特に携帯電話システムでは、送信周波数と受信周波数とが近接しているシステムが増えているため、通過帯域近傍で減衰量をより大きくする要求が強くなっている。
【0003】
弾性波フィルタの一つとして、圧電基板上に櫛型電極からなるIDT(Interdigital Transducer)と、反射器とを設けた弾性表面波フィルタがある。この弾性表面波素子に電力を印加することで、弾性波を励振する。弾性表面波フィルタは、例えば45MHz〜2.0GHzの周波数帯域における無線信号を処理する、例えば送信用バンドパスフィルタ、受信用バンドパスフィルタ等に用いられている。
【0004】
図1(a)は従来の二重モード弾性表面波フィルタ(以下、二重モードSAWフィルタ)を示す上面図であり、図1(b)は特許文献1に開示された二重モードSAWフィルタを示す上面図である。図1(a)に示すように、例えばLiNbO3やLiTaO3等の圧電体からなる圧電基板22上に三つのIDT2、4及び6が設けられており、その両側には反射器8及び10が設けられている。各IDT、及び各反射器は例えばAl等の金属からなる。なお図面においては、簡略化のため電極指の数は省略している。
【0005】
上記の二重モードSAWフィルタに電気信号が入力されると、IDTにおいて弾性波が励振され、IDT及び反射器の電極指に対して垂直な方向に弾性波が伝搬する。弾性波は通過帯域の周波数を有した電気信号に変換され出力される。このとき、反射器8及び10は、IDT2、4及び6から伝搬してきた弾性波を反射し閉じ込めることにより、出力される電気信号の減衰を抑制する役割を担う。しかし、反射器8及び10により通過帯域外の弾性波(スプリアス)も反射されるため、スプリアス同士が重なり、結果的に二重モードSAWフィルタの通過帯域外の減衰量が悪化するという問題があった。
【0006】
図1(b)に示すように、特許文献1では、反射器8及び10の電極指が、IDTから離れるにつれて短くなっている反射減衰域Bを形成した二重モードSAWフィルタが開示されている。これによれば、電極指の長さが等しい通常の反射域Aと反射減衰域Bとでは反射係数が異なるため、反射がランダムとなる。結果的に、スプリアス同士が互いに相殺し、通過帯域近傍の低周波側の減衰量を大きくすることができる。
【特許文献1】特開2000−196399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明では、減衰量を改善できるものの、その効果は十分とは言えなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、通過帯域近傍の低周波側の減衰量をより大きくすることが可能な弾性波フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられたIDTと、前記IDTの両側に設けられ、複数の電極指を有した反射器とを具備し、前記複数の電極指のうち少なくとも一つが、弾性波の伝搬路内に、少なくとも一つのギャップを有することを特徴とする弾性波フィルタである。本発明によれば、反射器からの反射がランダムとなり、スプリアスが相殺されるため、通過帯域近傍の低周波側の減衰量を大きくすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数の電極指のうち少なくとも一つは、複数の前記ギャップを有する構成とすることができる。この構成によれば、電極指にオープンとなる領域を設けることができるため、反射がよりランダムとなり、減衰量をさらに大きくすることができる。
【0011】
上記構成において、前記複数の電極指は、前記反射器のうち少なくとも一つに、弾性波の伝搬方向に対して斜めの、少なくとも一つのスリットが形成されるように、前記ギャップを有する構成とすることができる。この構成によれば、反射器からの反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0012】
上記構成において、前記反射器のうち少なくとも一つに、複数の前記スリットが形成されている構成とすることができる。この構成によれば、電極指にオープンとなる領域を設けることができるため、減衰量をさらに大きくすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数のスリットは、前記弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差している構成とすることができる。この構成によれば、反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0014】
上記構成において、前記反射器の各々に、少なくとも一つの前記スリットが形成されている構成とすることができる。この構成によれば、各反射器からの反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0015】
上記構成において、前記反射器の各々に形成された前記スリットは、前記弾性波の伝搬路に垂直な方向に対して鏡面対称になっていない構成とすることができる。この構成によれば、反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0016】
上記構成において、前記反射器の各々に形成された前記スリットは、前記弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差している構成とすることができる。この構成によれば、反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0017】
上記構成において、前記複数の電極指は、前記IDTから距離が離れるにつれて短くなっている構成とすることができる。この構成によれば、反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0018】
上記構成において、前記弾性波フィルタは、二重モード弾性表面波フィルタである構成とすることができる。
【0019】
上記構成において、前記弾性波フィルタは、複数の二重モード弾性表面波フィルタをカスケード接続した弾性波フィルタである構成とすることができる。
【0020】
上記構成において、前記弾性波フィルタは、複数の二重モード弾性表面波フィルタを並列接続した弾性波フィルタである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、通過帯域近傍の低周波側の減衰量をより大きくすることが可能な弾性波フィルタを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図2から図3(c)は、実施例1に係る二重モードSAWフィルタ100を示す模式図である。
【0024】
図2に示すように、反射器8の複数の電極指8aが各々一つのギャップ9を有し、反射器10の複数の電極指10aが各々一つのギャップ11を有している。ギャップ9及び11は弾性波の伝搬路(IDTの電極指が重なる領域)内に位置している。実施例1によれば、ギャップ9及び11においては弾性波が反射されないため、反射器8及び10の反射係数が変化する。このため、反射がランダムとなり、反射器8からのスプリアスと反射器10からのスプリアスとが相殺されることとなり、通過帯域近傍の低周波側の減衰量を大きくすることができる。
【0025】
図3(a)から図3(c)は、実施例1の変形例を示す模式図である。
【0026】
図3(a)は、反射器8の複数の電極指8aのうち一つが、一つのギャップ9を、また反射器10の複数の電極指10aのうち一つが、一つのギャップ11を、各々有している例である。
【0027】
図3(b)は、ギャップが各々直線状に配置され、スリットを形成している例である。すなわち、複数の電極指8aの各々が反射器8にスリット50が形成されるようにギャップ9を、また複数の電極指10aの各々が反射器10にスリット60が形成されるようにギャップ11を、各々有している。このとき、スリット50及び60が弾性表面波の伝搬方向(電極指に対して垂直な方向)と平行ならば、各電極指で反射される波が同一となり、結果的にスプリアスが大きくなってしまう。従って、反射をランダムにし、減衰量を大きくするためには、スリット50及び60を、弾性表面波の伝搬方向に対して斜めに形成することが好ましい。また、スリット50とスリット60とが、弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向に対して鏡面対称である場合、反射器8からの反射と反射器10からの反射とが同一となり、上記の場合と同様に、スプリアスが大きくなってしまう。従って反射をランダムにするために、スリット50とスリット60とは、弾性波の伝搬方向に垂直な方向に対して鏡面対称になっていないことが好ましい。但し、鏡面対称であっても、それぞれの反射器の電極指のピッチが異なっていればスプリアスは抑制される。さらに、反射をよりランダムにするために、スリット50とスリット60とは平行でないこと、すなわちスリット50とスリット60とが、弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差していることが好ましい。
【0028】
図3(c)は、反射器8及び10に、IDTから離れるにつれて電極指8a及び10aが短くなる反射減衰域Bを設けた例である。この例によれば、電極指の長さが同一である反射域Aからの反射と、反射減衰域Bからの反射とが異なる。このため、反射がさらにランダムとなり、図2の例よりも、スプリアスの相殺の効果が増大し、減衰量をより大きくすることができる。
【0029】
図3(a)では、反射器8の複数の電極指8aのうち一つ、及び反射器10の複数の電極指10aのうち一つが、各々一つのギャップ9及び11を有している例を示した。しかし、電極指8a及び10aのうち少なくとも一つが、弾性波の伝搬路内に、一つのギャップを有していればよい。また、図3(b)では、反射器8及び10の各々に、一つのスリット50及び60が形成されている例を示したが、反射器8及び10のうち少なくとも一つに、一つのスリットが形成されていてもよい。
【実施例2】
【0030】
実施例2は、電極指が複数のギャップを有している例である。図4は、実施例2に係る二重モードSAWフィルタ100を示す模式図である。
【0031】
図4に示すように、反射器8の複数の電極指8aが、各々二つのギャップ9を有し、反射器10の複数の電極指10aが、各々二つのギャップ11を有している。これにより、電極指8aの中にオープンとなる領域8b、同様に電極指10aの中にオープンとなる領域10bを設けることができる。反射器8及び10は接地されているので、領域8b及び10bは、反射器の他の部分とは異なる電位を有することとなる。このため、反射器8及び10の反射係数が変化し、実施例1のようにギャップが1つの場合よりも、反射がさらにランダムとなる。結果的に、通過帯域近傍の低周波側の減衰量を、さらに大きくすることができる。
【0032】
図5(a)から図5(b)は、実施例2の変形例を示す模式図である。
【0033】
図5(a)は、反射器8に2つのスリット50及び52が、反射器10に2つのスリット60及び62が、各々形成されている例である。この例においても、電極指8及び10にオープンとなる領域8b及び10bを設けることができる。このとき、反射器8からの反射をよりランダムにするために、スリット50とスリット52とは平行でないこと、すなわちスリット50とスリット52とが、弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差していることが好ましい。スリット60及び62についても同様である。
【0034】
図5(b)は、反射器8及び10に、IDTから離れるにつれて電極指8a及び10aが短くなる反射減衰域Bを設けた例である。この例によれば、反射域Aからの反射と、反射減衰域Bからの反射とが異なる。このため、図4の例よりも、スプリアスの相殺の効果が増大し、減衰量をより大きくすることができる。
【0035】
図4から図5(b)では、電極指8a及び10aが二つのギャップを有している場合を示したが、二つ以上のギャップを有していてもよい。同様に、反射器8及び10にスリットが二つ以上形成されていてもよい。また、図4では、電極指8a及び10aの各々が二つのギャップを有している例を示したが、電極指8a及び10aのうち少なくとも一つが、複数のギャップを有していればよい。同様に、反射器8及び10のうち少なくとも一つに、複数のスリットが形成されていてもよい。
【実施例3】
【0036】
実施例3は、二重モードSAWフィルタ100、及び同様の構成を有した二重モードSAWフィルタ110の接続例である。
【0037】
図6は、二重モードSAWフィルタ100と二重モードSAWフィルタ110とがカスケード接続されている弾性表面波フィルタを示す模式図である。二重モードSAWフィルタ110は、IDT12、14及び16、反射器18及び20から構成される。二重モードSAWフィルタ100の中央に位置するIDT4に端子24が、二重モードSAWフィルタ110の中央に位置するIDT14に端子26が、各々接続されている。端子24及び26は、何れが入力端子又は出力端子であってもよい。IDT2とIDT12、IDT4とIDT14、IDT6とIDT16とは各々接続されている。
【0038】
図7は、実施例3の変形例であり、二重モードSAWフィルタ100と二重モードSAWフィルタ110とが並列接続されている弾性表面波フィルタを示す模式図である。IDT4及び14は端子24に接続されている。IDT2、6、12及び16は、端子26に接続されている。
【0039】
図6及び図7のどちらの例においても、反射器8にスリット50、反射器10にスリット60、反射器18にスリット70、反射器20にスリット80が各々形成されている。このため、励振された弾性波が反射器8及び10でランダムに反射され、二重モードSAWフィルタ100から通過帯域近傍の低周波側の減衰量が大きい電気信号が出力されることとなる。同様に、二重モードSAWフィルタ110からも減衰量の大きな電気信号が出力される。
【0040】
実施例3においては、各反射器に一つのスリットが形成された例を示したが、各反射器が実施例1及び2において説明した構成を有していてもよい。
【実施例4】
【0041】
実施例4は、一つの二重モードSAWフィルタにおいて、ギャップの数を変化させ、減衰量を計算した実験である。
【0042】
図8は、実施例4のベースとなる弾性表面波フィルタを示す模式図であり、これをサンプル1とする。図8に示すように、圧電基板22上に二重モードSAWフィルタ120及び共振器130が設けられている。二重モードSAWフィルタ120はIDT31、32、33及び34、反射器38及び40からなる。また、共振器130はIDT30、及びその両側に設けられた反射器28からなる。電気信号は入力端子24からIDT30に入力され、IDT31及び34へと出力される。IDT31及び34において弾性波が励振され、IDT32及び33により弾性波が電気信号へと変換される。最終的に、IDT32に接続された出力端子25、及びIDT33に接続された出力端子26から電気信号が出力される。出力端子25と出力端子26とは、各々から出力される電気信号の位相が180°異なる平衡出力端子である。
【0043】
反射器38及び40には各々反射減衰域Bが設けられており、どちらの反射器においても、通常の反射域Aの電極指数は20本、反射減衰域Bの電極指数は18本である。また、IDT31、32、33及び34の電極指の交差幅W1、すなわち弾性表面波の伝搬路の幅は158μmである。
【0044】
図9(a)は、反射器38の電極指38aの各々が一つのギャップ39を有し、反射器40の電極指40aの各々が一つのギャップ41を有している二重モードSAWフィルタ120を示す模式図である。図8の二重モードSAWフィルタ120を、図9(a)の二重モードSAWフィルタ120に置き換えたものを実施例4のサンプル2とする。ギャップ39及び41の幅は2μmである。
【0045】
図9(b)は、サンプル1及びサンプル2の計算結果を示す図であり、図9(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図9(c)に示すように、サンプル2によればサンプル1と比較して、840MHz付近のスパイクが約2.0dB減衰している。なお、計算結果を表す図では、横軸は周波数、縦軸は減衰量を表している。
【0046】
図10(a)は、反射器38の電極指38aの各々が二つのギャップ39を有し、反射器40の電極指40aの各々が二つのギャップ41を有している二重モードSAWフィルタ120を示した模式図である。図8の二重モードSAWフィルタ120を図10(a)の二重モードSAWフィルタ120に置き換えたものを実施例4のサンプル3とする。ギャップ39及び41の幅は2μmである。
【0047】
図10(b)はサンプル1とサンプル3との計算結果を示す図であり、図10(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図10(c)に示すように、サンプル3によればサンプル1と比較して、840MHz付近のスパイクが約3.0dB減衰している。また833MHz付近及び830MHz付近においても、約4.0dB減衰量が大きくなっている。
【0048】
以上のように、反射器の電極指の各々が一つのギャップを有することで、ギャップを有さない場合よりも減衰量を大きくすることができた。また二つのギャップを有することで、より減衰量を大きくすることができた。
【実施例5】
【0049】
実施例5は、並列に接続した二重モードSAWフィルタにおいて、反射器の電極指がギャップを有する場合と、有していない場合とで、減衰量の計算をした実験である。
【0050】
図11は、実施例5のベースとなる弾性表面波フィルタを示す模式図であり、これをサンプル4とする。図11に示すように、圧電基板22上に、二重モードSAWフィルタ100及び110、共振器130、140及び150が設けられている。二重モードSAWフィルタ100と二重モードSAWフィルタ110とは、共振器130に並列接続されている。二重モードSAWフィルタ100及び110、共振器130の構成は既述したので、説明を省略する。共振器140はIDT37と、その両側に設けられた反射器35とからなる。同様に、共振器150はIDT43と、その両側に設けられた反射器36とからなる。入力端子24からIDT30に入力された電気信号は、IDT4及び14へと出力される。電気信号がIDT4に入力されると、弾性波が励振される。励振された弾性波はIDT2及び6により電気信号へ変換され、IDT37へと出力される。最終的に、出力端子25から電気信号が出力される。同様にIDT14に入力された電気信号は、IDT12及び16からIDT43へと出力され、最終的に出力端子26から出力される。
【0051】
反射器8、10、18及び20には各々反射減衰域Bが設けられており、どちらの反射器においても、通常の反射域Aの電極指数は30本、反射減衰域Bの電極指数は42本である。また、弾性表面波の伝搬路の幅W2は83μmである。
【0052】
図12(a)は、各反射器の各電極指が一つのギャップを有している二重モードSAWフィルタ100及び110を示した模式図である。図11の二重モードSAWフィルタ100及び110を、図12(a)の二重モードSAWフィルタ100及び110に置き換えたものを実施例5のサンプル5とする。各ギャップの幅は2μmである。
【0053】
図12(b)はサンプル4及びサンプル5の計算結果を示した図であり、図12(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図12(c)に示すように、サンプル5によればサンプル4と比較して、1780MHz付近のスパイクが約2.0dB減衰している。
【0054】
以上のように、反射器の電極指がギャップを有することにより、並列接続した二重モードSAWフィルタにおいても、減衰量を大きくすることができた。
【実施例6】
【0055】
実施例6は、スリットの本数を変化させ、減衰量を計算した実験である。
【0056】
図13は、実施例6のベースとなる弾性表面波フィルタを示す模式図であり、これをサンプル6とする。図13に示すように、圧電基板22上に二重モードSAWフィルタ100、110及び120、並びに共振器130が設けられている。各二重モードSAWフィルタ及び共振器130の構成は既述したので説明を省略する。図11と同様に、二重モードSAWフィルタ100と二重モードSAWフィルタ110とは、共振器130に並列接続されている。また、二重モードSAWフィルタ100のIDT2及び6は二重モードSAWフィルタ120のIDT31に、二重モードSAWフィルタ110のIDT12及び16は二重モードSAWフィルタ120のIDT34に、各々接続されている。
【0057】
反射器8及び10には各々反射減衰域Bが設けられており、通常の反射域Aの電極指数は30本、反射減衰域Bの電極指数は27本である。また、反射器18及び20には各々反射減衰域Dが設けられており、通常の反射域Cの電極指数は30本、反射減衰域Dの電極指数は24本である。二重モードSAWフィルタ100における弾性表面波の伝搬路の幅W3は56μmであり、二重モードSAWフィルタ110における弾性表面波の伝搬路の幅W4は18μmである。
【0058】
図14(a)は、各電極指が、各反射器に一本のスリットが形成されるように一つのギャップを有している場合の、二重モードSAWフィルタ100及び110を示した模式図である。図13の二重モードSAWフィルタ100及び110を図14(a)の二重モードSAWフィルタ100及び110に置き換えたものを実施例6のサンプル7とする。各ギャップの幅は4μmである。
【0059】
図14(b)はサンプル6及びサンプル7の計算結果を示した図であり、図14(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図14(c)に示すように、サンプル7によればサンプル6と比較して、1880MHz付近のスパイクが約7.0dB減衰している。また1900MHz付近のスパイクが約4.0dB減衰している。
【0060】
図15(a)は、各電極指が、各反射器に二本のスリットが形成されるように二つのギャップを有している場合の、二重モードSAWフィルタ100及び110を示した模式図である。図13の二重モードSAWフィルタ100及び110を図15(a)の二重モードSAWフィルタ100及び110に置き換えたものを実施例6のサンプル8とする。
【0061】
図15(b)はサンプル6及びサンプル8の計算結果を示した図であり、図15(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図15(c)に示すように、サンプル8によればサンプル6と比較して、1880MHz付近のスパイクは約14.0dB減衰しており、また1885MHz付近では約25.0dB減衰している。1900MHz付近のスパイクは、約18.0dB減衰している。
【0062】
以上のように、反射器に一本のスリットが形成されることで減衰量を大きくすることができた。また反射器に二本のスリットが形成されることで、より大幅に減衰量を大きくすることができた。
【0063】
実施例1から実施例6においては、二重モードSAWフィルタについて説明したが、本発明はそれに限られるものではなく、二重モードSAWフィルタ以外の表面弾性波フィルタや、弾性境界波フィルタにも適用可能である。
【0064】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は従来技術に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図2】図2は実施例1に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図3】図3は実施例1の変形例に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図4】図4は実施例2に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図5】図5は実施例2の変形例に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図6】図6は実施例3に係る二重モードSAWフィルタの接続例を示した模式図である。
【図7】図7は実施例3の変形例に係る二重モードSAWフィルタの接続例を示した模式図である。
【図8】図8は実施例4のベースとなる弾性表面波フィルタの模式図である。
【図9】図9(a)は実施例4のサンプル2に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図9(b)及び図9(c)は計算結果を示す図である。
【図10】図10(a)は実施例4のサンプル3に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図10(b)及び図10(c)は計算結果を示す図である。
【図11】図11は実施例5のベースとなる弾性表面波フィルタの模式図である。
【図12】図12(a)は実施例5のサンプル5に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図12(b)及び図12(c)は計算結果を示す図である。
【図13】図13は実施例6のベースとなる弾性表面波フィルタの模式図である。
【図14】図14(a)は実施例6のサンプル7に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図14(b)及び図14(c)は計算結果を示す図である。
【図15】図15(a)は実施例6のサンプル8に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図15(b)及び図15(c)は計算結果を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
IDT 2、4、6、12、14、16、30、31、32、33、34、37、43
反射器 8、10、18、20、28、35、36、38、40
ギャップ 9、11、19、21、39、41
圧電基板 22
スリット 50、52、60、62、70、72、80、82
二重モードSAWフィルタ 100、110、120
共振器 130、140、150
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタに関し、特に圧電基板上にIDTと反射器とを有する弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化社会の進展とともに、移動体通信機器の小型化、軽量化、高周波化が要求されている。それに伴い、小型で軽量な弾性波フィルタが利用されている。特に携帯電話システムでは、送信周波数と受信周波数とが近接しているシステムが増えているため、通過帯域近傍で減衰量をより大きくする要求が強くなっている。
【0003】
弾性波フィルタの一つとして、圧電基板上に櫛型電極からなるIDT(Interdigital Transducer)と、反射器とを設けた弾性表面波フィルタがある。この弾性表面波素子に電力を印加することで、弾性波を励振する。弾性表面波フィルタは、例えば45MHz〜2.0GHzの周波数帯域における無線信号を処理する、例えば送信用バンドパスフィルタ、受信用バンドパスフィルタ等に用いられている。
【0004】
図1(a)は従来の二重モード弾性表面波フィルタ(以下、二重モードSAWフィルタ)を示す上面図であり、図1(b)は特許文献1に開示された二重モードSAWフィルタを示す上面図である。図1(a)に示すように、例えばLiNbO3やLiTaO3等の圧電体からなる圧電基板22上に三つのIDT2、4及び6が設けられており、その両側には反射器8及び10が設けられている。各IDT、及び各反射器は例えばAl等の金属からなる。なお図面においては、簡略化のため電極指の数は省略している。
【0005】
上記の二重モードSAWフィルタに電気信号が入力されると、IDTにおいて弾性波が励振され、IDT及び反射器の電極指に対して垂直な方向に弾性波が伝搬する。弾性波は通過帯域の周波数を有した電気信号に変換され出力される。このとき、反射器8及び10は、IDT2、4及び6から伝搬してきた弾性波を反射し閉じ込めることにより、出力される電気信号の減衰を抑制する役割を担う。しかし、反射器8及び10により通過帯域外の弾性波(スプリアス)も反射されるため、スプリアス同士が重なり、結果的に二重モードSAWフィルタの通過帯域外の減衰量が悪化するという問題があった。
【0006】
図1(b)に示すように、特許文献1では、反射器8及び10の電極指が、IDTから離れるにつれて短くなっている反射減衰域Bを形成した二重モードSAWフィルタが開示されている。これによれば、電極指の長さが等しい通常の反射域Aと反射減衰域Bとでは反射係数が異なるため、反射がランダムとなる。結果的に、スプリアス同士が互いに相殺し、通過帯域近傍の低周波側の減衰量を大きくすることができる。
【特許文献1】特開2000−196399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明では、減衰量を改善できるものの、その効果は十分とは言えなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、通過帯域近傍の低周波側の減衰量をより大きくすることが可能な弾性波フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられたIDTと、前記IDTの両側に設けられ、複数の電極指を有した反射器とを具備し、前記複数の電極指のうち少なくとも一つが、弾性波の伝搬路内に、少なくとも一つのギャップを有することを特徴とする弾性波フィルタである。本発明によれば、反射器からの反射がランダムとなり、スプリアスが相殺されるため、通過帯域近傍の低周波側の減衰量を大きくすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数の電極指のうち少なくとも一つは、複数の前記ギャップを有する構成とすることができる。この構成によれば、電極指にオープンとなる領域を設けることができるため、反射がよりランダムとなり、減衰量をさらに大きくすることができる。
【0011】
上記構成において、前記複数の電極指は、前記反射器のうち少なくとも一つに、弾性波の伝搬方向に対して斜めの、少なくとも一つのスリットが形成されるように、前記ギャップを有する構成とすることができる。この構成によれば、反射器からの反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0012】
上記構成において、前記反射器のうち少なくとも一つに、複数の前記スリットが形成されている構成とすることができる。この構成によれば、電極指にオープンとなる領域を設けることができるため、減衰量をさらに大きくすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数のスリットは、前記弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差している構成とすることができる。この構成によれば、反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0014】
上記構成において、前記反射器の各々に、少なくとも一つの前記スリットが形成されている構成とすることができる。この構成によれば、各反射器からの反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0015】
上記構成において、前記反射器の各々に形成された前記スリットは、前記弾性波の伝搬路に垂直な方向に対して鏡面対称になっていない構成とすることができる。この構成によれば、反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0016】
上記構成において、前記反射器の各々に形成された前記スリットは、前記弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差している構成とすることができる。この構成によれば、反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0017】
上記構成において、前記複数の電極指は、前記IDTから距離が離れるにつれて短くなっている構成とすることができる。この構成によれば、反射がランダムとなるため、減衰量を大きくすることができる。
【0018】
上記構成において、前記弾性波フィルタは、二重モード弾性表面波フィルタである構成とすることができる。
【0019】
上記構成において、前記弾性波フィルタは、複数の二重モード弾性表面波フィルタをカスケード接続した弾性波フィルタである構成とすることができる。
【0020】
上記構成において、前記弾性波フィルタは、複数の二重モード弾性表面波フィルタを並列接続した弾性波フィルタである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、通過帯域近傍の低周波側の減衰量をより大きくすることが可能な弾性波フィルタを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図2から図3(c)は、実施例1に係る二重モードSAWフィルタ100を示す模式図である。
【0024】
図2に示すように、反射器8の複数の電極指8aが各々一つのギャップ9を有し、反射器10の複数の電極指10aが各々一つのギャップ11を有している。ギャップ9及び11は弾性波の伝搬路(IDTの電極指が重なる領域)内に位置している。実施例1によれば、ギャップ9及び11においては弾性波が反射されないため、反射器8及び10の反射係数が変化する。このため、反射がランダムとなり、反射器8からのスプリアスと反射器10からのスプリアスとが相殺されることとなり、通過帯域近傍の低周波側の減衰量を大きくすることができる。
【0025】
図3(a)から図3(c)は、実施例1の変形例を示す模式図である。
【0026】
図3(a)は、反射器8の複数の電極指8aのうち一つが、一つのギャップ9を、また反射器10の複数の電極指10aのうち一つが、一つのギャップ11を、各々有している例である。
【0027】
図3(b)は、ギャップが各々直線状に配置され、スリットを形成している例である。すなわち、複数の電極指8aの各々が反射器8にスリット50が形成されるようにギャップ9を、また複数の電極指10aの各々が反射器10にスリット60が形成されるようにギャップ11を、各々有している。このとき、スリット50及び60が弾性表面波の伝搬方向(電極指に対して垂直な方向)と平行ならば、各電極指で反射される波が同一となり、結果的にスプリアスが大きくなってしまう。従って、反射をランダムにし、減衰量を大きくするためには、スリット50及び60を、弾性表面波の伝搬方向に対して斜めに形成することが好ましい。また、スリット50とスリット60とが、弾性表面波の伝搬方向に垂直な方向に対して鏡面対称である場合、反射器8からの反射と反射器10からの反射とが同一となり、上記の場合と同様に、スプリアスが大きくなってしまう。従って反射をランダムにするために、スリット50とスリット60とは、弾性波の伝搬方向に垂直な方向に対して鏡面対称になっていないことが好ましい。但し、鏡面対称であっても、それぞれの反射器の電極指のピッチが異なっていればスプリアスは抑制される。さらに、反射をよりランダムにするために、スリット50とスリット60とは平行でないこと、すなわちスリット50とスリット60とが、弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差していることが好ましい。
【0028】
図3(c)は、反射器8及び10に、IDTから離れるにつれて電極指8a及び10aが短くなる反射減衰域Bを設けた例である。この例によれば、電極指の長さが同一である反射域Aからの反射と、反射減衰域Bからの反射とが異なる。このため、反射がさらにランダムとなり、図2の例よりも、スプリアスの相殺の効果が増大し、減衰量をより大きくすることができる。
【0029】
図3(a)では、反射器8の複数の電極指8aのうち一つ、及び反射器10の複数の電極指10aのうち一つが、各々一つのギャップ9及び11を有している例を示した。しかし、電極指8a及び10aのうち少なくとも一つが、弾性波の伝搬路内に、一つのギャップを有していればよい。また、図3(b)では、反射器8及び10の各々に、一つのスリット50及び60が形成されている例を示したが、反射器8及び10のうち少なくとも一つに、一つのスリットが形成されていてもよい。
【実施例2】
【0030】
実施例2は、電極指が複数のギャップを有している例である。図4は、実施例2に係る二重モードSAWフィルタ100を示す模式図である。
【0031】
図4に示すように、反射器8の複数の電極指8aが、各々二つのギャップ9を有し、反射器10の複数の電極指10aが、各々二つのギャップ11を有している。これにより、電極指8aの中にオープンとなる領域8b、同様に電極指10aの中にオープンとなる領域10bを設けることができる。反射器8及び10は接地されているので、領域8b及び10bは、反射器の他の部分とは異なる電位を有することとなる。このため、反射器8及び10の反射係数が変化し、実施例1のようにギャップが1つの場合よりも、反射がさらにランダムとなる。結果的に、通過帯域近傍の低周波側の減衰量を、さらに大きくすることができる。
【0032】
図5(a)から図5(b)は、実施例2の変形例を示す模式図である。
【0033】
図5(a)は、反射器8に2つのスリット50及び52が、反射器10に2つのスリット60及び62が、各々形成されている例である。この例においても、電極指8及び10にオープンとなる領域8b及び10bを設けることができる。このとき、反射器8からの反射をよりランダムにするために、スリット50とスリット52とは平行でないこと、すなわちスリット50とスリット52とが、弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差していることが好ましい。スリット60及び62についても同様である。
【0034】
図5(b)は、反射器8及び10に、IDTから離れるにつれて電極指8a及び10aが短くなる反射減衰域Bを設けた例である。この例によれば、反射域Aからの反射と、反射減衰域Bからの反射とが異なる。このため、図4の例よりも、スプリアスの相殺の効果が増大し、減衰量をより大きくすることができる。
【0035】
図4から図5(b)では、電極指8a及び10aが二つのギャップを有している場合を示したが、二つ以上のギャップを有していてもよい。同様に、反射器8及び10にスリットが二つ以上形成されていてもよい。また、図4では、電極指8a及び10aの各々が二つのギャップを有している例を示したが、電極指8a及び10aのうち少なくとも一つが、複数のギャップを有していればよい。同様に、反射器8及び10のうち少なくとも一つに、複数のスリットが形成されていてもよい。
【実施例3】
【0036】
実施例3は、二重モードSAWフィルタ100、及び同様の構成を有した二重モードSAWフィルタ110の接続例である。
【0037】
図6は、二重モードSAWフィルタ100と二重モードSAWフィルタ110とがカスケード接続されている弾性表面波フィルタを示す模式図である。二重モードSAWフィルタ110は、IDT12、14及び16、反射器18及び20から構成される。二重モードSAWフィルタ100の中央に位置するIDT4に端子24が、二重モードSAWフィルタ110の中央に位置するIDT14に端子26が、各々接続されている。端子24及び26は、何れが入力端子又は出力端子であってもよい。IDT2とIDT12、IDT4とIDT14、IDT6とIDT16とは各々接続されている。
【0038】
図7は、実施例3の変形例であり、二重モードSAWフィルタ100と二重モードSAWフィルタ110とが並列接続されている弾性表面波フィルタを示す模式図である。IDT4及び14は端子24に接続されている。IDT2、6、12及び16は、端子26に接続されている。
【0039】
図6及び図7のどちらの例においても、反射器8にスリット50、反射器10にスリット60、反射器18にスリット70、反射器20にスリット80が各々形成されている。このため、励振された弾性波が反射器8及び10でランダムに反射され、二重モードSAWフィルタ100から通過帯域近傍の低周波側の減衰量が大きい電気信号が出力されることとなる。同様に、二重モードSAWフィルタ110からも減衰量の大きな電気信号が出力される。
【0040】
実施例3においては、各反射器に一つのスリットが形成された例を示したが、各反射器が実施例1及び2において説明した構成を有していてもよい。
【実施例4】
【0041】
実施例4は、一つの二重モードSAWフィルタにおいて、ギャップの数を変化させ、減衰量を計算した実験である。
【0042】
図8は、実施例4のベースとなる弾性表面波フィルタを示す模式図であり、これをサンプル1とする。図8に示すように、圧電基板22上に二重モードSAWフィルタ120及び共振器130が設けられている。二重モードSAWフィルタ120はIDT31、32、33及び34、反射器38及び40からなる。また、共振器130はIDT30、及びその両側に設けられた反射器28からなる。電気信号は入力端子24からIDT30に入力され、IDT31及び34へと出力される。IDT31及び34において弾性波が励振され、IDT32及び33により弾性波が電気信号へと変換される。最終的に、IDT32に接続された出力端子25、及びIDT33に接続された出力端子26から電気信号が出力される。出力端子25と出力端子26とは、各々から出力される電気信号の位相が180°異なる平衡出力端子である。
【0043】
反射器38及び40には各々反射減衰域Bが設けられており、どちらの反射器においても、通常の反射域Aの電極指数は20本、反射減衰域Bの電極指数は18本である。また、IDT31、32、33及び34の電極指の交差幅W1、すなわち弾性表面波の伝搬路の幅は158μmである。
【0044】
図9(a)は、反射器38の電極指38aの各々が一つのギャップ39を有し、反射器40の電極指40aの各々が一つのギャップ41を有している二重モードSAWフィルタ120を示す模式図である。図8の二重モードSAWフィルタ120を、図9(a)の二重モードSAWフィルタ120に置き換えたものを実施例4のサンプル2とする。ギャップ39及び41の幅は2μmである。
【0045】
図9(b)は、サンプル1及びサンプル2の計算結果を示す図であり、図9(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図9(c)に示すように、サンプル2によればサンプル1と比較して、840MHz付近のスパイクが約2.0dB減衰している。なお、計算結果を表す図では、横軸は周波数、縦軸は減衰量を表している。
【0046】
図10(a)は、反射器38の電極指38aの各々が二つのギャップ39を有し、反射器40の電極指40aの各々が二つのギャップ41を有している二重モードSAWフィルタ120を示した模式図である。図8の二重モードSAWフィルタ120を図10(a)の二重モードSAWフィルタ120に置き換えたものを実施例4のサンプル3とする。ギャップ39及び41の幅は2μmである。
【0047】
図10(b)はサンプル1とサンプル3との計算結果を示す図であり、図10(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図10(c)に示すように、サンプル3によればサンプル1と比較して、840MHz付近のスパイクが約3.0dB減衰している。また833MHz付近及び830MHz付近においても、約4.0dB減衰量が大きくなっている。
【0048】
以上のように、反射器の電極指の各々が一つのギャップを有することで、ギャップを有さない場合よりも減衰量を大きくすることができた。また二つのギャップを有することで、より減衰量を大きくすることができた。
【実施例5】
【0049】
実施例5は、並列に接続した二重モードSAWフィルタにおいて、反射器の電極指がギャップを有する場合と、有していない場合とで、減衰量の計算をした実験である。
【0050】
図11は、実施例5のベースとなる弾性表面波フィルタを示す模式図であり、これをサンプル4とする。図11に示すように、圧電基板22上に、二重モードSAWフィルタ100及び110、共振器130、140及び150が設けられている。二重モードSAWフィルタ100と二重モードSAWフィルタ110とは、共振器130に並列接続されている。二重モードSAWフィルタ100及び110、共振器130の構成は既述したので、説明を省略する。共振器140はIDT37と、その両側に設けられた反射器35とからなる。同様に、共振器150はIDT43と、その両側に設けられた反射器36とからなる。入力端子24からIDT30に入力された電気信号は、IDT4及び14へと出力される。電気信号がIDT4に入力されると、弾性波が励振される。励振された弾性波はIDT2及び6により電気信号へ変換され、IDT37へと出力される。最終的に、出力端子25から電気信号が出力される。同様にIDT14に入力された電気信号は、IDT12及び16からIDT43へと出力され、最終的に出力端子26から出力される。
【0051】
反射器8、10、18及び20には各々反射減衰域Bが設けられており、どちらの反射器においても、通常の反射域Aの電極指数は30本、反射減衰域Bの電極指数は42本である。また、弾性表面波の伝搬路の幅W2は83μmである。
【0052】
図12(a)は、各反射器の各電極指が一つのギャップを有している二重モードSAWフィルタ100及び110を示した模式図である。図11の二重モードSAWフィルタ100及び110を、図12(a)の二重モードSAWフィルタ100及び110に置き換えたものを実施例5のサンプル5とする。各ギャップの幅は2μmである。
【0053】
図12(b)はサンプル4及びサンプル5の計算結果を示した図であり、図12(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図12(c)に示すように、サンプル5によればサンプル4と比較して、1780MHz付近のスパイクが約2.0dB減衰している。
【0054】
以上のように、反射器の電極指がギャップを有することにより、並列接続した二重モードSAWフィルタにおいても、減衰量を大きくすることができた。
【実施例6】
【0055】
実施例6は、スリットの本数を変化させ、減衰量を計算した実験である。
【0056】
図13は、実施例6のベースとなる弾性表面波フィルタを示す模式図であり、これをサンプル6とする。図13に示すように、圧電基板22上に二重モードSAWフィルタ100、110及び120、並びに共振器130が設けられている。各二重モードSAWフィルタ及び共振器130の構成は既述したので説明を省略する。図11と同様に、二重モードSAWフィルタ100と二重モードSAWフィルタ110とは、共振器130に並列接続されている。また、二重モードSAWフィルタ100のIDT2及び6は二重モードSAWフィルタ120のIDT31に、二重モードSAWフィルタ110のIDT12及び16は二重モードSAWフィルタ120のIDT34に、各々接続されている。
【0057】
反射器8及び10には各々反射減衰域Bが設けられており、通常の反射域Aの電極指数は30本、反射減衰域Bの電極指数は27本である。また、反射器18及び20には各々反射減衰域Dが設けられており、通常の反射域Cの電極指数は30本、反射減衰域Dの電極指数は24本である。二重モードSAWフィルタ100における弾性表面波の伝搬路の幅W3は56μmであり、二重モードSAWフィルタ110における弾性表面波の伝搬路の幅W4は18μmである。
【0058】
図14(a)は、各電極指が、各反射器に一本のスリットが形成されるように一つのギャップを有している場合の、二重モードSAWフィルタ100及び110を示した模式図である。図13の二重モードSAWフィルタ100及び110を図14(a)の二重モードSAWフィルタ100及び110に置き換えたものを実施例6のサンプル7とする。各ギャップの幅は4μmである。
【0059】
図14(b)はサンプル6及びサンプル7の計算結果を示した図であり、図14(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図14(c)に示すように、サンプル7によればサンプル6と比較して、1880MHz付近のスパイクが約7.0dB減衰している。また1900MHz付近のスパイクが約4.0dB減衰している。
【0060】
図15(a)は、各電極指が、各反射器に二本のスリットが形成されるように二つのギャップを有している場合の、二重モードSAWフィルタ100及び110を示した模式図である。図13の二重モードSAWフィルタ100及び110を図15(a)の二重モードSAWフィルタ100及び110に置き換えたものを実施例6のサンプル8とする。
【0061】
図15(b)はサンプル6及びサンプル8の計算結果を示した図であり、図15(c)は通過帯域近傍の低周波側の拡大図である。図15(c)に示すように、サンプル8によればサンプル6と比較して、1880MHz付近のスパイクは約14.0dB減衰しており、また1885MHz付近では約25.0dB減衰している。1900MHz付近のスパイクは、約18.0dB減衰している。
【0062】
以上のように、反射器に一本のスリットが形成されることで減衰量を大きくすることができた。また反射器に二本のスリットが形成されることで、より大幅に減衰量を大きくすることができた。
【0063】
実施例1から実施例6においては、二重モードSAWフィルタについて説明したが、本発明はそれに限られるものではなく、二重モードSAWフィルタ以外の表面弾性波フィルタや、弾性境界波フィルタにも適用可能である。
【0064】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は従来技術に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図2】図2は実施例1に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図3】図3は実施例1の変形例に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図4】図4は実施例2に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図5】図5は実施例2の変形例に係る二重モードSAWフィルタの模式図である。
【図6】図6は実施例3に係る二重モードSAWフィルタの接続例を示した模式図である。
【図7】図7は実施例3の変形例に係る二重モードSAWフィルタの接続例を示した模式図である。
【図8】図8は実施例4のベースとなる弾性表面波フィルタの模式図である。
【図9】図9(a)は実施例4のサンプル2に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図9(b)及び図9(c)は計算結果を示す図である。
【図10】図10(a)は実施例4のサンプル3に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図10(b)及び図10(c)は計算結果を示す図である。
【図11】図11は実施例5のベースとなる弾性表面波フィルタの模式図である。
【図12】図12(a)は実施例5のサンプル5に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図12(b)及び図12(c)は計算結果を示す図である。
【図13】図13は実施例6のベースとなる弾性表面波フィルタの模式図である。
【図14】図14(a)は実施例6のサンプル7に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図14(b)及び図14(c)は計算結果を示す図である。
【図15】図15(a)は実施例6のサンプル8に係る二重モードSAWフィルタの模式図であり、図15(b)及び図15(c)は計算結果を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
IDT 2、4、6、12、14、16、30、31、32、33、34、37、43
反射器 8、10、18、20、28、35、36、38、40
ギャップ 9、11、19、21、39、41
圧電基板 22
スリット 50、52、60、62、70、72、80、82
二重モードSAWフィルタ 100、110、120
共振器 130、140、150
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDTと、
前記IDTの両側に設けられ、複数の電極指を有した反射器と、を具備し、
前記複数の電極指のうち少なくとも一つが、弾性波の伝搬路内に、少なくとも一つのギャップを有することを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記複数の電極指のうち少なくとも一つは、複数の前記ギャップを有することを特徴とする請求項1記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記複数の電極指は、前記反射器のうち少なくとも一つに、弾性波の伝搬方向に対して斜めの、少なくとも一つのスリットが形成されるように、前記ギャップを有することを特徴とする請求項1または2記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記反射器のうち少なくとも一つに、複数の前記スリットが形成されていることを特徴とする請求項3記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記複数のスリットは、前記弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差していることを特徴とする請求項4記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
前記反射器の各々に、少なくとも一つの前記スリットが形成されていることを特徴とする請求項3から5いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項7】
前記反射器の各々に形成された前記スリットは、前記弾性波の伝搬方向に垂直な方向に対して鏡面対称になっていないことを特徴とする請求項6記載の弾性波フィルタ。
【請求項8】
前記反射器の各々に形成された前記スリットは、前記弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差していることを特徴とする請求項6または7記載の弾性波フィルタ。
【請求項9】
前記複数の電極指は、前記IDTから距離が離れるにつれて短くなっていることを特徴とする請求項1から8いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項10】
前記弾性波フィルタは、二重モード弾性表面波フィルタであることを特徴とする請求項1から9いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項11】
前記弾性波フィルタは、複数の二重モード弾性表面波フィルタをカスケード接続した弾性波フィルタであることを特徴とする請求項1から10いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項12】
前記弾性波フィルタは、複数の二重モード弾性表面波フィルタを並列接続した弾性波フィルタであることを特徴とする請求項1から10いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDTと、
前記IDTの両側に設けられ、複数の電極指を有した反射器と、を具備し、
前記複数の電極指のうち少なくとも一つが、弾性波の伝搬路内に、少なくとも一つのギャップを有することを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記複数の電極指のうち少なくとも一つは、複数の前記ギャップを有することを特徴とする請求項1記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記複数の電極指は、前記反射器のうち少なくとも一つに、弾性波の伝搬方向に対して斜めの、少なくとも一つのスリットが形成されるように、前記ギャップを有することを特徴とする請求項1または2記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記反射器のうち少なくとも一つに、複数の前記スリットが形成されていることを特徴とする請求項3記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記複数のスリットは、前記弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差していることを特徴とする請求項4記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
前記反射器の各々に、少なくとも一つの前記スリットが形成されていることを特徴とする請求項3から5いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項7】
前記反射器の各々に形成された前記スリットは、前記弾性波の伝搬方向に垂直な方向に対して鏡面対称になっていないことを特徴とする請求項6記載の弾性波フィルタ。
【請求項8】
前記反射器の各々に形成された前記スリットは、前記弾性波の伝搬方向と、各々異なった角度で交差していることを特徴とする請求項6または7記載の弾性波フィルタ。
【請求項9】
前記複数の電極指は、前記IDTから距離が離れるにつれて短くなっていることを特徴とする請求項1から8いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項10】
前記弾性波フィルタは、二重モード弾性表面波フィルタであることを特徴とする請求項1から9いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項11】
前記弾性波フィルタは、複数の二重モード弾性表面波フィルタをカスケード接続した弾性波フィルタであることを特徴とする請求項1から10いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【請求項12】
前記弾性波フィルタは、複数の二重モード弾性表面波フィルタを並列接続した弾性波フィルタであることを特徴とする請求項1から10いずれか一項記載の弾性波フィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−218812(P2009−218812A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59813(P2008−59813)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
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