説明

弾性波共振子及びラダー型フィルタ

【課題】バスバーの内側端縁が傾斜しているような交叉幅が重み付が施されていても、励振部に弾性波を良好に閉じ込めることができ、良好な共振特性を有する弾性波共振子を提供する。
【解決手段】第1のバスバー21,22が、それぞれ、複数本の第1の電極指23または第2の電極指24の端部からバスバー側に延ばされた複数本の第1の電極指延長部23a及び第2の電極指延長部24aと、電極指延長部23aまたは24aを被覆し、電極指延長部23a,24aの外側端よりも外側に延ばされている第1の金属膜28,29とを有し、金属膜28,29の内側端縁28a,29aが第1,第2のバスバー21,22の内側端縁をそれぞれ構成しており、電極指延長部23a,24aの平均密度をρ1、膜厚をH1、金属膜28,29の平均密度をρ2、膜厚をH2としたときに、ρ1×H1がρ2×H2よりも大きい、弾性波共振子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話機の帯域フィルタなどに用いられる弾性波共振子及び該弾性波共振子を用いたラダー型フィルタに関し、より詳細には、IDT電極のバスバーが複数の金属層を積層した構造を有する弾性波共振子及びラダー型フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機の帯域フィルタなどに、弾性波共振子を用いて構成された弾性波フィルタ装置が広く用いられている。
【0003】
例えば下記の特許文献1は、この種の弾性波フィルタ装置に用いられるIDT(インターデジタルトランスデューサ)が開示されている。図9は、特許文献1において、従来から用いられていると記載されているIDTの概略構成図である。
【0004】
IDT1001は、圧電基板上に図示のIDT電極1002を形成することにより構成されている。IDT電極1002は、対向し合う第1,第2のバスバー1003,1004を有する。第1のバスバー1003から第2のバスバー1004側に延びるように、複数本の第1の電極指1005が形成されている。第2のバスバー1004からは、第1のバスバー1003側に延びるように、複数本の第2の電極指1006が形成されている。
【0005】
IDT電極1002において、第1の電極指1005と第2の電極指1006との間に交流電圧を印加することにより、弾性表面波が励振される。弾性表面波が励振される部分、すなわち励振部1007は、図9の矢印Wで示す幅すなわち交叉幅を有する部分である。励振部において、弾性表面波が第1,第2の電極指1005,1006の延びる方向と直交する方向に伝搬する。IDT電極1002では、励振部1007を伝搬する弾性表面波の音速は、第1,第2のバスバー1003,1004を伝搬する弾性波の音速よりも遅くされている。そのため、励振された弾性表面波が励振部1007に閉じ込められると記載されている。
【特許文献1】特開平10−145173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のように、従来のIDT電極1002では、励振部1007に弾性表面波が閉じ込められ、第1,第2のバスバー1003,1004側への弾性表面波の漏洩は非常に少なくされている。
【0007】
しかしながら、IDT電極において、交叉幅重み付が施されている場合、特に、第1のバスバー側の包絡線と第2のバスバー側の包絡線とにより菱形の形状が形成されるような重み付けが施されている場合には、弾性波がバスバーに漏洩し、共振特性やフィルタ特性が劣化することのあることがわかった。
【0008】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、IDT電極に様々な形態の交叉幅重み付が施されている場合であっても、弾性波がバスバーに漏洩し難く、従って良好な共振特性を有する弾性波共振子、並びに該弾性波共振子を用いたラダー型フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る弾性波共振子は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられたIDT電極とを備える弾性波共振子であって、前記IDT電極が、第1のバスバーと、第1のバスバーと対向するように配置された第2のバスバーと、第1のバスバーから第2のバスバーに向かって、ただし第2のバスバーには至らないように延ばされた複数本の第1の電極指と、第2のバスバーから第1のバスバーに向かって、ただし第1のバスバーには至らないように延ばされており、かつ前記第1の電極指と間挿し合うように配置された複数本の第2の電極指とを有し、前記第1,第2のバスバーが、それぞれ、複数本の第1の電極指の端部または複数本の第2の電極指の端部から外側に延ばされた複数本の第1,第2の電極指延長部と、複数本の第1,第2の電極指延長部を被覆している電極指延長部被覆部及び複数本の第1,第2の電極指延長部よりも弾性波伝搬方向と直交する方向において外側に延ばされており、かつ前記第1,第2の電極指延長部を被覆していない電極指延長部非被覆部とを有する金属膜とを備え、該金属膜の内側端縁がバスバーの内側端縁を構成しており、前記第1,第2の電極指延長部の平均密度をρ1、膜厚をH1とし、前記金属膜の平均密度をρ2とし、膜厚をH2としたときに、ρ1×H1がρ2×H2よりも大きくされていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る弾性波共振子のある特定の局面では、前記IDT電極が、電極指交叉幅が最大となる部分から、弾性波伝搬方向両側に行くにつれて電極指交叉幅が減少するように交叉幅重み付けされており、前記複数本の第1の電極指の先端を結ぶことにより形成される第1の包絡線に対し一定の距離を隔てて前記第2のバスバーの内側端縁が位置するように、かつ前記複数本の第2の電極指の先端を結ぶことにより形成される第2の包絡線に対し一定の距離を隔てて前記第1のバスバーの内側端縁が位置するように、前記第1,第2のバスバーの内側端縁が、弾性波伝搬方向に対して傾斜された傾斜部分を有する。このような第1,第2のバスバーの内側端縁が上記傾斜部分を有する構造であっても、本発明によれば、励振部に確実に弾性波を閉じ込めることができ、第1,第2のバスバー側への弾性波の漏洩を確実に抑制することができる。
【0011】
本発明に係る弾性波共振子の他の特定の局面では、前記複数本の第1,第2の電極指延長部を構成している金属が、AlまたはAlを主体とする合金である。この場合には、音速が早いAlまたはAlを主体とする合金により電極指延長部非被覆部が形成されているので、本発明に従って弾性波を励振部に確実に閉じ込めることができる。
【0012】
本発明に係る弾性波共振子のさらに他の特定の局面では、前記第1,第2の電極指が、Al膜と、Al膜よりも圧電基板側に積層されておりかつAlよりも密度の大きい高密度金属からなる電極膜とを主体とする。この場合には、弾性波の閉じ込めをより高めることができる。
【0013】
本発明に係る弾性波共振子のさらに別の特定の局面では、前記第1,第2のバスバーの前記金属膜を第1の金属膜としたときに、該第1の金属膜の上面に積層された第2の金属膜をさらに備え、該第2の金属膜の内側端縁が、前記電極指延長部の外側端縁よりも外側に位置しており、それによって、前記第1の金属膜の電極指延長部非被覆部が、前記電極指延長部と前記第2の金属膜の内側端縁との間に位置している。この場合には、電極指延長部と第2の金属膜の内側端縁との間に電極指延長部被覆部が設けられており、該電極指延長部非被覆部により確実に弾性波の励振部外への漏洩を抑制することができ、他方第1の金属膜を構成する金属として導電性の低い金属を適宜用いることができ、配線抵抗を低めることができる。
【0014】
本発明に係る弾性波共振子のさらに別の特定の局面では、前記第1の金属膜の平均導電率をσ2、前記第2の金属膜の平均導電率をσ3及び膜厚H3としたときσ2×H2<σ3×H3である。この場合には、バスバー及び配線の抵抗を低減できる。それにより弾性波共振子の電気的特性の改善ができる。
【0015】
本発明に係るラダー型フィルタは、本発明に従って構成された弾性波共振子を直列腕共振子または並列腕共振子と備える。従って、上記弾性波共振子からなる直列腕共振子または並列腕共振子を有するため、フィルタ特性を改善することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る弾性波共振子では、第1,第2のバスバーが、上記第1,第2の電極指延長部と、第1または第2の電極指延長部を被覆していない電極指延長部非被覆部を有する金属膜とを備え、ρ1×H1がρ2×H2よりも大きくされているため、弾性波を確実に電極指延長部非被覆部の内側に閉じ込めることができ、弾性波共振子の電気的特性の改善を図ることが可能となる。
【0017】
よって、本発明に係る弾性波共振子を用いて、例えばラダー型フィルタなどのフィルタ装置を構成した場合、フィルタ特性を改善することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0019】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る弾性波共振子を直列腕共振子及び並列腕共振子として備えるラダー型フィルタ装置の模式的平面図であり、(b)は該弾性波共振子の要部を示す正面断面図である。図2は上記ラダー型フィルタを備えるデュプレクサの回路図である。
【0020】
図1(a)に示すラダー型フィルタ装置1は、圧電基板2上に図示の電極構造を形成することにより構成されている。
【0021】
上記ラダー型フィルタ装置1は、図2に示すデュプレクサ3における送信側帯域フィルタとして用いられる。
【0022】
なお、本実施形態では、送信帯域が880MHz〜915MHzであり、受信帯域が925MHz〜960MHzであるバンド8タイプの携帯電話機のデュプレクサの送信側帯域フィルタとして、上記ラダー型フィルタ装置1を用いられている。
【0023】
図2に示すように、デュプレクサ3は、携帯電話機のアンテナに接続されるアンテナ端子4を有する。アンテナ端子4に、送信側帯域フィルタとして、ラダー型フィルタ装置1の一端が接続されている。ラダー型フィルタ装置1の他方端が送信端子5である。
【0024】
他方、デュプレクサ3では、アンテナ端子4に、受信側帯域フィルタ6が接続されている。受信側帯域フィルタ6は、平衡−不平衡変換機能を有する帯域フィルタであり、第1,第2の平衡端子8,9を有する。受信側帯域フィルタ6は、アンテナ端子4側の接続点11に、弾性波共振子12,13を介して、それぞれ、第1,第2の弾性波フィルタ部14,15が接続されている。第1,第2の弾性波フィルタ部14,15は、それぞれ、平衡−不平衡変換機能を有する3IDT型の弾性波フィルタである。この第1,第2の弾性波フィルタ部14,15の後段に、3IDT型の第3,第4の弾性波フィルタ16,17がそれぞれ縦続接続されている。
【0025】
他方、送信側フィルタを構成しているラダー型フィルタ装置1は、アンテナ端子4と送信端子5との間に延びる直列腕を有し、該直列腕において、複数の直列腕共振子S1〜S8が互いに直列に接続されている。直列腕共振子S2と直列腕共振子S3との間の接続点とグラウンド電位とを結ぶ第1の並列腕に、第1の並列腕共振子P1が設けられている。また、直列腕共振子S4と直列腕共振子S5との間の接続点とグラウンド電位とを結ぶ第2の並列腕に第2の並列腕共振子P2が設けられている。直列腕共振子S6と直列腕共振子S7との接続点との間の接続点とグラウンド電位とを結ぶ並列腕に第3の並列腕共振子P3が設けられている。直列腕共振子S3,S4に並列にキャパシタンスCが接続されている。また、各並列腕において、並列腕共振子P1〜P3にそれぞれ、直列にインダクタンスL1〜L3が接続されている。また、インダクタンスL1,L2のグラウンド側端部が共通接続され、インダクタンスL4を介してグラウンド電位に接続されている。
【0026】
図1(a)においては、上記直列腕共振子S1〜S8及び並列腕共振子P1〜P3と、キャパシタンスCを構成している櫛歯電極18とが図示されている。なお、インダクタンスL1〜L4は、配線パターンにより形成されるインダクタンス部である。
【0027】
本実施形態の特徴は、上記直列腕共振子S1〜S8及び並列腕共振子P1〜P3のIDT電極のバスバーの構造が改良されていることにある。これを、直列腕共振子S1を代表して、図1(b)及び図3〜図5を参照して説明する。
【0028】
図5は、直列腕共振子S1を示す平面図である。この直列腕共振子S1では、対向し合う第1,第2のバスバー21,22が設けられている。第1のバスバー21から第2のバスバー22に向かって複数本の第1の電極指23が、ただし第2のバスバー22に至らないように形成されている。第2のバスバー22から第1のバスバー21側に向かって、ただし第1のバスバー21には至らないように複数本の第2の電極指24が延ばされている。複数本の第1の電極指23と、複数本の第2の電極指24とは互いに間挿し合っている。
【0029】
なお、特に必須ではないが、第1の電極指23の先端には、ギャップを隔てて、第2のバスバー22から第1のバスバー21側に向かって延びる第1のダミー電極指25が形成されている。同様に、第2の電極指24の先端に対してギャップを隔てて第1のバスバー21から第2のバスバー22側に向かって延びる第2のダミー電極指26が形成されている。
【0030】
ところで、上記第1,第2の電極指23,24及び第1,第2のダミー電極指25,26並びにバスバー21,22は、いずれも金属材料からなるが、本実施形態では以下のようにして形成される。まず、圧電基板2上に全面にSiOなどの絶縁性材料からなる絶縁膜を第1,第2の電極指23,24と同じ厚みに形成する。しかる後、フォトリソグラフィ法によりパターニングし、第1,第2の電極指23,24及び第1,第2のダミー電極指25,26及び後述する電極指延長部及びダミー電極指延長部が設けられる部分が開口部となるように絶縁膜をパターニングする。しかる後、誘電体膜の全面に金属材料を蒸着またはスパッタリング等により付与し、絶縁膜上の不要金属膜をレジストと共に除去する。
【0031】
このようにして、図3に示すように、絶縁膜27と同じ膜厚の第1,第2の電極指23,24及び第1,第2のダミー電極指25,26を形成する。ここでは、第1,第2の電極指23,24の基端側には、電極指延長部23a,24aが連ねられている。第1,第2のダミー電極指25,26の基端側にも第1,第2のダミー電極指延長部25a,26aが連ねられている。
【0032】
しかる後、図4に示すように、第1の金属膜28,29を形成する。第1の金属膜28,29は、その内側端縁28a,29aが第1,第2のバスバー21,22の内側端縁を形成している。
【0033】
なお、「内側」とは、弾性波伝搬方向と直交する方向すなわち第1,第2の電極指23,24が延びる方向において、第1,第2の電極指23,24が交叉している励振部に向かう側をいうものとし、「外側」とは、励振部に対し、弾性波伝搬方向と直交する方向において遠ざかる方向をいうものとする。
【0034】
次に、第1の金属膜28,29上に、第2の金属膜30,31を形成することにより、図5に示す電極構造が形成される。第2の金属膜30,31の内側端縁30a,31aは、第1の金属膜28,29の内側端縁28a,29aよりも外側に位置している。
【0035】
ところで、第1の電極指延長部23a及び第2のダミー電極指延長部26aは、上記金属膜28で被覆されている部分である。言い換えれば、金属膜28の内側端縁28aよりも励振部側すなわち内側部分が第1の電極指23及び第2のダミー電極指26であり、金属膜28で覆われている部分が第1の電極指延長部23a及び第2のダミー電極指延長部26aである。
【0036】
バスバーとは、同電位に接続される複数本の電極指を短絡している部分である。この定義に従うと、バスバー21においては、金属膜28により複数本の第1の電極指23が電気的に接続されているため、金属膜28の内側端縁28aがバスバー21の内側端縁に相当することとなる。従って、第1の電極指23と金属膜28の下方に位置している第1の電極指延長部23aとをこのように区別し、電極指延長部23aは電極指23に含まれない部分とする。
【0037】
同様に、第2のバスバー22側においても、金属膜29の内側端縁29aが、第2の電極指24と、第2の電極指延長部とを区画する境界であり、第1のダミー電極指25と、第1のダミー電極指延長部25aとを区画する境界である。
【0038】
図1(b)は、第1のバスバー21及び第1の電極指23が形成されている部分を部分的に拡大して示す。ここでは、圧電基板2上において、第1の電極指23及び第1の電極指延長部23aが連ねられている。この第1の電極指延長部23a上に、上記金属膜28が第1の電極指延長部23aを被覆するように形成されている。この金属膜28は、第1の電極指延長部23a上からさらに外側に延ばされている。そして、第2の金属膜30が、第1の金属膜28上に形成されている。第1の金属膜28は、第1の電極指延長部23aを被覆している電極指延長部被覆部28bと、第1の電極指延長部23aを被覆していない第1の電極指延長部非被覆部28cとを有する。すなわち、第2の金属膜30の内側端縁30aと、第1の電極指延長部23aとの間に、第1の電極指延長部非被覆部28cが設けられている。
【0039】
なお、必須ではないが、本実施形態では、上記第1の電極指延長部23aが存在している部分以外では、金属膜28の下方に絶縁膜32が形成されている。そのため、第2の金属膜30が形成される面及び金属膜28の上面が平坦化されている。従って、第2の金属膜30を容易にかつ高精度に形成することが可能とされている。
【0040】
なお、上記IDT電極の弾性波伝搬方向両側には、反射器33,34が設けられており、それによって、本実施形態では、1ポート型の弾性波共振子が形成されている。
【0041】
なお、直列腕共振子S1につき電極構造を説明したが、他の直列腕共振子S2〜S8及び並列腕共振子P1〜P3も同様の構造を有する。
【0042】
本実施形態では、直列腕共振子S1のIDT電極は交叉幅重み付が施されている。すなわち、IDT電極では、複数本の第1の電極指23の先端を結ぶ第1の包絡線Aと、複数本の第2の電極指24の先端を結ぶ第2の包絡線が、菱形を形成するように交叉幅重み付が施されている。言い換えれば、交叉幅重み付けが最大の部分から、弾性波伝搬方向端部に向かうにつれて交叉幅が順次小さくなるようにIDT電極に交叉幅重み付が施されている。そして、バスバー21,22の内側端縁、すなわち第1の金属膜28,29の内側端縁28a,29aは、上記包絡線Bまたは包絡線Aに沿うような形状とされている。従って、内側端縁28a,29aは、弾性波伝搬方向端部に向かうにつれて内側に傾斜している傾斜部C,Dをそれぞれ有する。言い換えれば、内側端縁28a,29aは、包絡線Bまたは包絡線Aとほぼ一定の距離を有するように傾斜している傾斜部C,Dを有する。このような構造では、励振部の幅が弾性波伝搬方向において変化しているため、励振された弾性波がバスバー21または22に達する部分が存在する。例えば、最大交叉幅部分において弾性波伝搬方向と直交する方向両端付近で励振された弾性波は、弾性波伝搬方向に進行すると、バスバー21またはバスバー22にて到達することとなる。従って、励振部で励振された弾性波がバスバー側に漏洩しやすいという問題がある。
【0043】
本実施形態の特徴は、上記電極指延長部23a,24aの平均密度をρ1、膜厚をH1とし、第1の金属膜28,29の平均密度をρ2、膜厚H2としたときに、ρ1×H1がρ2×H2よりも大きいことにある。このような構成では、励振される弾性波の音速は、第1の電極指延長部23aが設けられている領域に比べて、金属膜28のみが存在する上記電極指延長部非被覆部28cにおいて相対的に速くなる。そのため、IDT電極で励振された弾性波は、上記バスバー21の電極指延長部非被覆部28cの内側端縁よりも内側に閉じ込められ、外側への弾性波の漏洩を確実に抑制することができる。それによって、直列腕共振子S1では、共振特性が改善される。
【0044】
他の直列腕共振子S2〜S8及び並列腕共振子P1〜P3も同様の構造を有するため、本実施形態のラダー型フィルタ装置1では、フィルタ特性の改善を図ることができる。これを、図6〜図8を参照してより具体的に説明する。
【0045】
また、上記のような交叉幅重み付が施されているため、所望とする共振特性を容易に得ることができる。言い換えれば重み付の対応を工夫することにより、弾性波共振子の周波数特性を広い範囲にわたり調整することが可能とされている。
【0046】
図6及び図7は、本発明の一実施形態に係る上記直列腕共振子S1としての弾性波共振子のインピーダンス特性及び比較のために用意した比較例の弾性波共振子のインピーダンス特性及びリターンロス特性をそれぞれ示す図である。実線が実施形態の結果を示し、破線が比較例の結果を示す。使用した圧電基板2はカット角126°のLiNbO基板である。上記実施形態では、IDTの電極指の対数は88対とし、中央における交叉幅が80μmであり、両端に行くにつれて交叉幅が小さくなり、両端における交叉幅は8μmとした。また、IDT電極における電極指ピッチで定まる波長λは4μmとし、IDT電極のデューティは0.5とした。さらに、第1,第2の電極指23,24の先端と第1,第2のダミー電極指25,26との間のギャップの寸法は0.4μmとした。また、IDT電極中央においては、ダミー電極としての長さは0、すなわち、ダミー電極は配置しなかった。
【0047】
IDT電極両端における第1,第2のダミー電極指の長さは、ダミー電極指の本数が17本のときに7.4μmとした。
【0048】
また、第1,第2の反射器における電極指の本数は、ダミー電極指の本数と同一とした。反射器33,34における電極指の開口長は、IDT電極の端部における開口長(=交叉幅+2×ダミー電極指の長さ)と同一とした。
【0049】
反射器の電極指のピッチで定まる波長λはIDT電極の波長λと同一とし、電極指のデューティは0.5とした。
【0050】
また、電極指間に配置される絶縁膜としては、200nmの厚みのSiO膜を形成した。
【0051】
上記第1,第2の電極指23,24及び第1,第2のダミー電極指25,26並びに電極指延長部及びダミー電極指延長部は、上層から順にTi/Al/Ti/Pt/NiCrをこの順序で積層してなり、これらの厚みが10/80/10/80/10(単位はnm)である積層膜を用いた。また、第1の金属膜28,29については、上層からTi/Al/Tiを10/100/10(単位はnm)の厚みとなるように積層した積層金属膜により形成した。第2の金属膜30,31については、上層からAl/Tiを2000/200(単位はnm)となるように積層した積層金属膜を用いた。
【0052】
第1,第2の電極指延長部非被覆部28c,29cの表面波伝搬方向と直交する方向の長さは1λ、すなわち、4μmとした。
【0053】
さらに、図1(b)に示したように、保護膜として1000nmのSiO膜及び50nmの厚みのSiN膜を順次成膜した。
【0054】
比較例の弾性波共振子では、図1(b)に示した電極指延長部非被覆部を設けず、第1の電極指延長部及び第2の電極指延長部上に第1の金属膜28及び第1の金属膜29がそれぞれ積層されている部分上に、さらに第2の金属膜30及び第2の金属膜31を形成した。言い換えれば第1,第2のバスバーにおいて、第1,第2の電極指延長部上に金属膜が積層されている部分の全領域において第2の金属膜を積層した構造を用いた。
【0055】
図6から明らかなように、上記比較例の弾性波共振子に比べて、実施例によれば、山谷比が大きくなる。また、図7のリターンロス特性から明らかなように、910MHz付近及び950MHz付近において、比較例に比べて上記実施形態によれば、リターンロスを大幅に改善し得ることがわかる。
【0056】
また、上記実施例の弾性波共振子を上記ラダー型フィルタ装置1の直列腕共振子S1〜S8に採用し、同様の構造を有する、ただし共振特性が異なる並列腕共振子P1〜P3を用いたラダー型フィルタ装置1の周波数特性を図8に実線で示す。比較のために、上記比較例の弾性波共振子を用いて同様にして構成されたラダー型フィルタ装置の周波数特性を図8に破線で示す。
【0057】
図8から明らかなように、上記実施形態の弾性波共振子を用いることにより、通過帯域右肩部における挿入損失が0.09dB改善されていることがわかる。
【0058】
上記実施形態では、第1の電極指23及び第1の電極指延長部23aは、同じ金属材料により一体に形成されている。第2の電極指24及び第2の電極指延長部24aも同じ金属材料により一体に形成されている。さらに、第1,第2のダミー電極指25,26及び第1,第2のダミー電極指延長部25a,26aもそれぞれ同じ金属材料により一体に形成されている。このような電極指23,24及びダミー電極指25,26等を形成する金属材料については特に限定されず、Al、Cu、Agまたはこれらの合金などを適宜用いることができる。
【0059】
もっとも、安価であり、弾性波の音速が高いため、AlまたはAlを主体とする合金を用いることが望ましい。また、第1,第2の電極指23,24は、複数の金属膜を積層した積層金属膜により形成されていてもよい。その場合には、好ましくは、第1,第2の電極指23,24は、Al膜と、Al膜よりも圧電基板側に積層されており、かつAlよりも密度の大きい高密度の金属からなる金属膜とを主体とすることが好ましい。それによって、弾性波の閉じ込め効果をより高めることができる。このようなAlよりも密度の大きい高密度金属としては、Cu、W、Au、Ptなどを挙げることができる。
【0060】
また、第1の金属膜28,29としては、第1の電極指延長部23,第2の電極指延長部24aよりも密度が小さい適宜の金属、例えばAl、AlCu合金などを用いることができる。第1の金属膜28,29についても、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜により形成されていてもよい。いずれにしても、ρ1×H1がρ2×H2よりも大きければ、適宜の金属により、金属膜28,29を形成することができる。
【0061】
第2の金属膜30,31についても、例えばAl、Al合金、Auなどの適宜の金属により形成することができる。第2の金属膜30,31についても、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜により形成されていてもよい。
【0062】
第1,第2の金属膜に、さらにTi、NiCr合金の薄い層を積層してもよい。
【0063】
上記実施形態では、ラダー型フィルタ装置の直列腕共振子は並列腕共振子に本発明の実施形態の弾性波共振子を用いたが、ラダー型フィルタ装置の直列腕共振子及び並列腕共振子の少なくとも一方の少なくとも1つに本発明の弾性波共振子を用いることにより、フィルタ特性を改善することができる。
【0064】
また、ラダー型フィルタに限らず、1以上の弾性波共振子を用いて構成されている様々な弾性波フィルタ装置に本発明の弾性波共振子を好適に用いることができる。
【0065】
また、本発明が適用される弾性波共振子は、弾性表面波を利用した弾性表面波共振子に限らず、弾性境界波を利用した弾性境界波共振子であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)は本発明の一実施形態のラダー型フィルタ装置の電極構造を説明するための模式的平面図であり、(b)はその要部を示す正面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態のラダー型フィルタ装置が送信側帯域フィルタとして用いられているデュプレクサの回路図である。
【図3】本発明の弾性波共振子の電極形成工程を説明するための模式的平面図である。
【図4】本発明の弾性波共振子の電極形成工程を説明するための模式的平面図である。
【図5】本発明の一実施形態の弾性波共振子の電極構造を拡大して示す平面図である。
【図6】実施形態及び比較例の弾性波共振子のインピーダンス特性を示す図である。
【図7】実施形態及び比較例の弾性波共振子のリターンロス特性を示す図である。
【図8】実施形態及び比較例の弾性波共振子を用いて構成されたラダー型フィルタ装置の各周波数特性を示す図である。
【図9】従来の弾性表面波装置を説明するための模式的平面図である。
【符号の説明】
【0067】
1…ラダー型フィルタ装置
2…圧電基板
3…デュプレクサ
4…アンテナ端子
5…送信端子
6,7…受信側帯域フィルタ
8,9…第2の平衡端子
11…接続点
12,13…弾性波共振子
14,15…第1,第2の弾性波フィルタ部
16,17…第3,第4の弾性波フィルタ
18…櫛歯電極
21,22…第1,第2のバスバー
23,24…第1,第2の電極指
23a,24a…第1,第2の電極指延長部
25,26…第1,第2のダミー電極指
25a,26a…第1,第2のダミー電極指延長部
27…絶縁膜
28,29…第1の金属膜
28a,29a…内側端縁
28b…電極指延長部被覆部
28c…電極指延長部非被覆部
30,31…第2の金属膜
30a,31a…内側端縁
32…絶縁膜
33,34…反射器
L1〜L4…インダクタンス
P1〜P3…並列腕共振子
S1〜S8…直列腕共振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDT電極とを備える弾性波共振子であって、
前記IDT電極が、第1のバスバーと、第1のバスバーと対向するように配置された第2のバスバーと、第1のバスバーから第2のバスバーに向かって、ただし第2のバスバーには至らないように延ばされた複数本の第1の電極指と、第2のバスバーから第1のバスバーに向かって、ただし第1のバスバーには至らないように延ばされており、かつ前記第1の電極指と間挿し合うように配置された複数本の第2の電極指とを有し、
前記第1,第2のバスバーが、それぞれ、複数本の第1の電極指の端部または複数本の第2の電極指の端部から外側に延ばされた複数本の第1,第2の電極指延長部と、複数本の第1,第2の電極指延長部を被覆している電極指延長部被覆部及び複数本の第1,第2の電極指延長部よりも弾性波伝搬方向と直交する方向において外側に延ばされており、前記第1,第2の電極指延長部を被覆していない電極指延長部非被覆部とを有する金属膜とを備え、該金属膜の内側端縁がバスバーの内側端縁を構成しており、
前記第1,第2の電極指延長部の平均密度をρ1、膜厚をH1とし、前記金属膜の平均密度をρ2とし、膜厚をH2としたときに、ρ1×H1がρ2×H2よりも大きいことを特徴とする、弾性波共振子。
【請求項2】
前記IDT電極が、電極指交叉幅が最大となる部分から、弾性波伝搬方向両側に行くにつれて電極指交叉幅が減少するように交叉幅重み付けされており、前記複数本の第1の電極指の先端を結ぶことにより形成される第1の包絡線に対し一定の距離を隔てて前記第2のバスバーの内側端縁が位置するように、かつ前記複数本の第2の電極指の先端を結ぶことにより形成される第2の包絡線に対し一定の距離を隔てて前記第1のバスバーの内側端縁が位置するように、前記第1,第2のバスバーの内側端縁が、弾性波伝搬方向に対して傾斜された傾斜部分を有する、請求項1に記載の弾性波共振子。
【請求項3】
電極指延長部非被覆部を有すく前記金属膜を構成している金属が、AlまたはAlを主体とする合金である、請求項1または2に記載の弾性波共振子。
【請求項4】
前記第1,第2の電極指及び前記第1,第2の電極指延長部が、Al膜と、Al膜よりも圧電基板側に積層されておりかつAlよりも密度の大きい高密度金属からなる電極膜とを主体とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波共振子。
【請求項5】
前記第1,第2のバスバーの前記金属膜を第1の金属膜としたときに、該第1の金属膜の上面に積層された第2の金属膜をさらに備え、該第2の金属膜の内側端縁が、前記電極指延長部の外側端縁よりも外側に位置しており、それによって、前記第1の金属膜の電極指延長部非被覆部が、前記電極指延長部と前記第2の金属膜の内側端縁との間に位置している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波共振子。
【請求項6】
前記第1の金属膜の平均導電率をσ2、前記第2の金属膜の平均導電率をσ3及び膜厚H3としたときσ2×H2<σ3×H3である、請求項5に記載の弾性波共振子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性波共振子を直列腕共振子または並列腕共振子として備える、ラダー型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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