弾性波共振子及び弾性波デバイス
【課題】圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けした弾性波共振子において、高次横モードに基づくスプリアスを抑圧することのできる弾性波共振子及びこの弾性波共振子を用いた弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波共振子は、圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けされ、バスバーに接続された電極指群の先端を結んで形成される包絡線にはバスバーからの距離が極大となる少なくとも3つの極大部と、この距離が極小となる少なくとも2つの極小部とが交互に配列され、隣り合う極大部と極小部とを通る包絡線を構成する電極指群には、予め定めたn次横モード(nは予め定めた3以上の奇数)が発生しない上限の交差幅を有する電極指が含まれ、前記上限の交差幅を有する電極指の先端部を通る包絡線は、弾性波の伝播方向に対して10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度を有する直線等である。
【解決手段】弾性波共振子は、圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けされ、バスバーに接続された電極指群の先端を結んで形成される包絡線にはバスバーからの距離が極大となる少なくとも3つの極大部と、この距離が極小となる少なくとも2つの極小部とが交互に配列され、隣り合う極大部と極小部とを通る包絡線を構成する電極指群には、予め定めたn次横モード(nは予め定めた3以上の奇数)が発生しない上限の交差幅を有する電極指が含まれ、前記上限の交差幅を有する電極指の先端部を通る包絡線は、弾性波の伝播方向に対して10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度を有する直線等である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW(Surface Acoustic Wave)等の弾性波を利用した弾性波共振子及びこれを利用した弾性波デバイスに関し、特に高次横モードに起因するスプリアスを抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動体端末に実装され、高周波信号の弁別を行う例えばラダー型フィルタ等に組み込まれる共振子として、弾性波を利用した弾性波共振子が知られている。図14は、水晶、LiTaO3やLiNbO3等の圧電体の表面に発生させた弾性表面波(以下、SAW(Surface Acoustic Wave)という)を利用したSAW共振子100の一例を示している。
【0003】
SAW共振子100は、圧電体からなる図示しない圧電基板上に、櫛型交差指状電極2(以下、IDT(InterDigital Transducer)電極2という)と、このIDT電極2の両側に配置された反射器3a、3bとが配置された構成を備えている。IDT電極2は、例えばアルミニウム等により構成され、互いに対向するように設けられた2つのバスバー21、22と、これらのバスバー21、22に交差指状に接続された多数の電極指231とを備えている。そして、一方側のバスバー21に入力された周波数信号を電気-機械変換することにより隣り合う電極指231、232間に励振されるSAWを利用し、周波数に応じて共振、反共振を生じる周波数特性を得ている。なお反射器3a、3bは、例えばアルミニウム等よりなる多数の電極指231を備えたグレーティング反射器として構成されており、IDT電極2の外側方向に伝播したSAWをIDT電極2へと反射する役割を果たす。
【0004】
IDT電極2の各電極指231、232間に励振されるSAWは、例えば図14中に矢印で示した方向(縦方向という)へと伝播し、このSAWの進行波と、両側の反射器3a、3bにて反射されたSAWの反射波とが重なり合うと、縦方向に対して垂直な方向(横方向という)に振幅の分布を持つ横モードが励振される。横モードには、主共振モード、2次モード、3次モード、…と、無数の次数を持つモードが存在し、これらのうち図15(a)に振幅の分布を模式的に示した主共振モードのみがSAW共振子100の周波数特性を得るために利用される。
【0005】
一方、主共振モードより高次のモードのうち、偶数次のモードは各モード内で振動エネルギーが相殺され周波数特性には影響を与えないが、3次、5次…といった奇数次のモードは、例えば図15(a)に斜線で塗りつぶされていない領域に相当する振動エネルギーが相殺されずに残ってしまう。このような相殺されなかった振動エネルギーは、SAW共振子100の周波数特性にスプリアスとなって現れ、例えばラダー型フィルタの周波数特性にリップルを生ずる原因となる。
【0006】
そこでこのような高次横モードの影響を抑圧するため、電極指231、232の交差幅に重み付けを行った各種のSAW共振子が知られている。例えば非特許文献1に記載のSAW共振子100aは、図16に示すように電極指231、232の交差幅がIDT電極2の中央領域にて最大、両端部にて最小となっていて、各電極指231、232同士の先端部を結んで形成される包絡線の形状が直線となっている。
【0007】
重み付けによって電極指231、232の交差幅が小さくなっている領域においては、図15(b)に示すようにモード内で相殺されるエネルギーの割合が大きくなる。この結果、交差幅を小さくしていくにつれて次数の低いモードから順に高次横モードの影響が小さくなり、SAW共振子100a全体の周波数特性においてもスプリアスを小さくすることができる。なお対向する電極指231、232と交差していない電極233は、SAWの位相の乱れを防止するためのダミー電極233である。
【0008】
このように電極指231、232の交差幅を重み付けして高次横モードの影響をより小さく抑えようとする技術は、移動体端末の低消費電力化や受信アンテナの小型化に伴う受信電波の微弱化等の要求に応じて盛んに検討されており、様々な包絡線形状を持ったSAW共振子が提案されている。例えば特許文献1においては、図17に示したx軸の原点を基準にして、電極指231、232の包絡線形状を「cos−1(|ax|)、但し、aは定数」として、SAWの励振強度分布を主共振モードと一致させ、高次横モードの抑圧の度合いをより高めたSAW共振子100bが記載されている。
【0009】
しかしながら、これら図16、図17に記載されたSAW共振子100a、100bにおいても、後掲の実測定結果(実験値)に示すように、高次の横振動モードを所望のレベルにまで抑圧できないことを本発明者は把握している。
【0010】
なお、特許文献2には電極指の交差幅が極大となる極大点と、同じく交差幅が極小となる極小点とを複数備え、これらの極大点と極小点とが交互に配置されたSAW共振子が記載されている。しかしながら当該特許文献2に記載の技術は包絡線の傾斜角度が10°以上、65°以下の範囲を外れており、包絡線の傾きが大きすぎるため高次横モードを抑圧する効果を十分に得ることはできない。また当該SAW共振子は、包絡線の極小点がIDT電極の中央部まで伸び出しており、電極指の交差幅が小さい領域が多数ある。後述のように電極指の交差幅が小さい領域では、IDT電極に電力を印加した際に電極指に過大な応力が加わり電極指の破壊に至るおそれがあるばかりでなく、当該SAW共振子を備えたフィルタの挿入損失が増大するといった問題がある。
【0011】
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌A Vol.75−A No.3 第464頁左欄第8行目〜右欄第7行目、図11
【特許文献1】特開平7−22898号公報:第0002段落、図5
【特許文献2】特開2007−60108号公報:、第0009段落、第0035段落、第0044段落、図7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に基づいて行われたものであり、その目的は、圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けした弾性波共振子において、高次横モードに基づくスプリアスを抑圧することのできる弾性波共振子及びこの弾性波共振子を用いた弾性波デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係わる弾性波共振子は、圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けした弾性波共振子において、
前記IDT電極の少なくとも一方側のバスバーに接続された電極指群の先端を結んで形成される包絡線には、当該バスバーからの距離が極大となる少なくとも3つの極大部と、この距離が極小となる少なくとも2つの極小部とが交互に配列されていることと、
これらの隣り合う極大部と極小部とを通る包絡線を構成する電極指群には、予め定めたn次横モード(nは予め定めた3以上の奇数)が発生しない上限の交差幅を有する電極指が含まれていることと、
前記上限の交差幅を有する電極指の先端部を通る包絡線は、弾性波の伝播方向に対して10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度を有する直線であるか、または前記上限の交差幅を有する電極指の先端部及びこの電極指よりも交差幅の小さい電極指の先端部を予め決められた本数だけ結んで形成される包絡線は、当該包絡線に対して引いた接線と前記伝播方向との成す最大傾斜角度が前記範囲内の傾斜角度を有する曲線であることと、を備えていることを特徴とする。
ここで前記極大点の1つは、IDT電極内に励振される0次縦モードの最大振幅の発生する位置に設けられていることが好ましく、前記n次横モードは、3次横モードである場合が好適である。また、前記IDT電極の対向するバスバーの内端間の開口長に対し、前記極小部に位置する電極指と、この電極指に隣り合う左右の電極指との交差幅のうち、いずれか短い方の交差幅の比が0.3以上であることが好ましい。
【0014】
また本発明に係わる弾性波デバイスは、複数の弾性波共振子が共通の基板上に形成された弾性波デバイスであって、前記複数の弾性波共振子の少なくとも一つは上述の弾性波共振子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係わる弾性波共振子によれば、IDT電極の電極指群の先端部を結んで形成される包絡線が、バスバーからの距離が最大となる少なくとも3つの極大部と、この距離が極小となる少なくとも2つの極小部とを交互に備えているので、予め定めた次数の高次横モードを抑圧可能な上限の交差幅を持つ電極指を弾性波の伝播方向に間隔を空けて複数回配置することができる。更に隣り合う極大点と極小点とを結ぶ包絡線を構成する直線の傾斜角度、またはこの包絡線を構成する曲線に対して引いた接線の最大傾斜角度が10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度となっているので、前述の上限交差幅を持つ電極指の近傍に、当該上限交差幅に近い交差幅を持つ電極指を複数本まとめて配置することができ、周波数特性への影響の大きな高次横モードを効果的に抑圧してスプリアスの小さい弾性波共振子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本実施の形態に係わるSAW共振子の具体的な構成例を説明する前に、本発明の主旨について簡単に説明しておく。背景技術にて説明したように、従来、高次横モードによるスプリアスの発生を抑えることを目的として様々な包絡線形状を備えたSAW共振子が提案されてきたが、低スプリアス化の要求はますます強くなってきている。そこで本発明者は、より性能の高いSAW共振子を開発すべく鋭意検討を行ったところ、以下の知見を得るに至った。
【0017】
即ち、(1)既述の図16や図17に記載のSAW共振子100a、100bにおいては、例えば比較的振動エネルギーの大きな3次横モード等、特定の次数の高次横モードについての抑圧が十分でないためにスプリアスが発生してしまう場合が多い。(2)このように抑圧しきれないある特定の高次横モードを十分に抑圧するためには、例えば交差幅が一定のIDT電極2に共振周波数を持つ信号を入力しながら電極指231、232の交差幅を徐々に小さくしていったとき、当該特定の高次横モードが発生しなくなる上限の交差幅(以下、上限交差幅という)を持つ電極指231、232を多くの本数備えていることが好ましい。(3)このような上限交差幅を備えた電極指231、232を多数本配置する場合には、これらの電極指231、232を一つの場所にまとめて配置するよりは、弾性波の伝播方向に分散して配置したほうがよい。
【0018】
以上に述べた(1)〜(3)の知見に基づけば、例えば図18に模式的に示すように、特定の高次横モードを抑圧可能な上限交差幅「Wmax」を持った電極指231、232をSAWの伝播方向に幅広く配置した包絡線41、42形状を持つIDT電極2を採用することが効果的にも思われる。しかしながら高次横モードの特性は、圧電基板の微妙な物性の変化やバスバー21、22の内端間の距離(開口長という)のわずかなずれ等によって変化し、実際の上限交差幅はIDT電極2毎にばらつきがある。このため図18に示したように計算上の上限交差幅「Wmax」を持つ電極指231、232を備えたSAW共振子を製造しても、当該交差幅が実際の上限交差幅からずれてしまっている場合には、スプリアスの抑圧に何ら役立たないおそれがある。
【0019】
以上に説明したように、(1)〜(3)にて得られた知見を活用するためには、抑圧したい高次横モードに対応する上限交差幅「Wmax」が変動した場合においても、安定して当該高次横モードを抑圧できる構成が必要となる。本発明はこのような観点からなされている。以下、本実施の形態に係わるSAW共振子1の構成について詳細に説明する。
【0020】
図1は本実施の形態に係わるSAW共振子1の平面図であり、IDT電極2と反射器3a、3bとを備え、各バスバー21、22に接続された電極指231、232の交差幅に重み付けがされている点は、図16、図17に示した既述のSAW共振子100a、100bと同様である。当該SAW共振子1は、各電極指231、232群の先端部を結んで形成される包絡線に極大部である極大点P1〜P3、Q1〜Q3と、極小部である極小点B1、B2、C1、C2とを交互に備えており、予め定めた高次横モード、例えば3次横モードの影響を抑圧できるようになっている点が従来のSAW共振子100a、100bと異なっている。
【0021】
ここで電極指231、232の交差幅の重み付けに係わる設計変数について図2を参照しながら定義しておくと、隣り合う電極指231、232に挟まれる圧電基板の領域(タップという)にIDT電極2の左端側から順に「1,2,3,…」と番号をつけたとき、i番目のタップを形成する電極指231、232の交差幅を「W(i)」とする。i番目のタップにおいては交差幅「W(i)」と等しい幅でSAWが励振されるため、この励振幅を「Y(i)」とするとき重み付け係数「y(i)」の絶対値は以下の(1)式で定義される。
|y(i)|=Y(i)/W0=W(i)/W0=w(i) …(1)
ここでW0はIDT電極2の開口長でありw(i)はi番目のタップを形成する電極指231、232の開口長に対する交差幅の比(相対交差幅という)である。
【0022】
(1)式において重み付け係数の絶対値をとっている理由は、電極指231、232間に形成される電界の向きによって重み付け係数の向きが変化するからである。今、i番目のタップを形成する電極指231、232間に、図2に示したx軸の右方向へ向かう電界が形成されている場合をプラス、左方向へ向かう電界が形成されている場合をマイナスとしたとき、重み付け係数は以下の(2)式で表される。
y(i)=sign*(Y(i)/W0) …(2)
ここで「sign」は、電極指231、232間に形成される電界の向きがプラスの場合に「sign=1」、マイナスの場合に「sign=−1」を返す。
【0023】
このように電極指231、232の交差幅の重み付けは、SAWの励振される領域の幅を調節するために行われるものであり、本実施の形態においては既述のように高次横モードの影響を抑圧する目的で重み付け係数「|y(i)|」の分布が設定されており、この重み付け係数の分布を実現するように電極指231、232群の先端部を結んで形成される包絡線の形状が決定されている。
【0024】
図3(b)は、実施の形態に係わるIDT電極2の電極指231、232の記載を省略して各包絡線41、42を線描した模式図である。図面に向かって上方側を前方、下方側を後方とすると、41は後方側のバスバー22に接続されている電極指232群により形成される包絡線であり、42は前方側のバスバー21に接続されている電極指231群により形成される包絡線である。
【0025】
図3に示すように縦方向(SAWの伝播方向)にx軸、横方向にy軸をとって、2つのバスバー21、22の中央左端を原点とし、同右端を「L点」としたとき、包絡線41は、原点を出発して「原点近傍位置→P1→B1→P2→B2→P3→L点近傍位置」の順に原点からL点までの各極大点P1〜P3、極小点B1、B2を直線で結んだ屈曲線となっている。
【0026】
ここでSAW共振子1に周波数信号を入力すると、IDT電極2には、既述の横モードに加えて、SAWの伝播方向に縦モードが励振されことが知られている。図3(a)に示すように縦モードの主共振モード(0次モード)は、IDT電極2のx軸方向中央部にて振幅が最大となるピークを有しており、この領域における電極指231、232の交差幅が小さいと周波数信号が電気-機械変換される際に電極指231、232に過大な応力が加わり電極指231、232の破壊に至る要因となる。
【0027】
そこで当該包絡線41においては、前述のピークの発生する位置にて電極指231、232の交差幅が極大となるように、前後方向(y方向)についてはバスバー21付近、左右方向(x方向)についてはIDT電極2の中央位置に極大点P2が配置されている。そして残る2つの極大点P1、P3は、前後方向については既述の極大点P2とほぼ同じ位置、左右方向についてはIDT電極2の両端から中央までの距離のおよそ3分の1の位置に配置されている。
【0028】
一方、2つの極小点B1、B2は、前後方向についてはx軸からバスバー21までの中央位置、左右方向については極大点P1とP2との中央位置よりもやや外端寄りの位置、並びに極大点P2とP3との間の中央よりもやや外端寄りの位置に各々配置されている。この結果、包絡線41を構成する線分P1-B1、B1-P2、P2-B2並びにB2-P3がSAWの伝播方向に対して成す傾斜角度θ1〜θ4は、例えば10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度となっている。また、バスバー21、22間の開口長W0に対し、各極小点B1、B2に位置する電極指232と、この電極指232に隣り合う左右の電極指231との交差幅のうち、いずれか短い方の交差幅W(mB)の比が0.3以上、好ましくは0.35以上となっている。
【0029】
これに対してもう一方の包絡線42を構成する極大点Q1〜Q3、極小点C1、C2は、電極指231の先端部が離散的に配置されているため多少のずれはあるものの、x軸を挟んで既述の包絡線41を構成する極大点P1〜P3、極小点B1、B2とほぼ線対称となる位置に配置されている。よって当該包絡線42は、「原点近傍位置→Q1→C1→Q2→C2→Q3→L点近傍位置」の順にこれらの点を直線で結んだ屈曲線により構成され、線分Q1-C1、C1-Q2、Q2-C2並びにC2-Q3がSAWの伝播方向に対して成す傾斜角度θ1’〜θ4’についても、既述の傾斜範囲内の傾斜角度となっており、各極小点C1、C2に位置する電極指231と、左右の電極指232との交差幅のうちいずれか短い方の交差幅W(mC)は、開口長W0に対する長さの比率が0.3以上、好ましくは0.35以上となっている。
【0030】
以上に説明したように各々の包絡線41、42において、3つの極大点P1〜P3、Q1〜Q3と、2つの極小点B1、B2、C1、C2とが交互に配置され、これらの点が直線で結ばれていることにより、本実施の形態に係わるIDT電極2の重み付け係数は、以下の(3)式〜(6)式を満たしている。
|y(P1)|≒|y(P2)|≒|y(P3)| …(3)
|y(B1)|≒|y(B2)| …(4)
|y(Q1)|≒|y(Q2)|≒|y(Q3)| …(5)
|y(C1)|≒|y(C2)| …(6)
そして、電極指231、232の交差幅は包絡線41、42に含まれる線分(P1-B1、B1-P2、P2-B2、B2-P3及び、Q1-C1、C1-Q2、Q2-C2、C2-Q3)に沿って連続的に変化することになる。
【0031】
そこで本実施の形態では、3次横モードに対応する上限交差幅(3次横モードが発生しなくなる上限の交差幅)を設計レベルで予め把握しておき、当該設計上の上限交差幅よりも例えば交差幅の小さい電極指231、232も包絡線41、42に含まれるように余裕をとって極小点B1、B2、C1、C2のy方向の配置位置を設定している。これにより、実際の上限交差幅がこの設計値を外れてばらついたとしても、包絡線41、42上のいずれかの位置に、実際の上限交差幅に対応する交差幅を持つ電極指231、232を前記線分の数に対応する本数だけ存在させるようにすることができる。
【0032】
ここで既述の(2)の知見にて述べたように、例えば3次横モードを抑圧するためには、当該3次横モードに対応した上限交差幅を持つ電極指231、232を多数配置することが好ましい。しかしながら、当該上限交差幅よりも交差幅の小さい電極指231、232では3次横モードを抑圧する効果が急激に小さくなってしまうわけではなく、例えば交差幅が数μm小さい程度の範囲であれば上限交差幅を持つ電極指231、232に劣らない横モードの抑圧効果を発揮することができることがわかっている。
【0033】
そこで本実施の形態に係わる本実施の形態に係わるIDT電極2においては、SAWの伝播方向に対して包絡線41、42を構成する各線分の成す傾斜角度が10°以上、65°以下の範囲内の角度となるようにすることにより、例えば図3(b)にS1〜S4の符号を付した各領域内に、3次横モードを抑圧するにあたって有効な交差幅を持つ電極指231、232を例えば数本〜十数本程度配置することが可能となる。この結果、領域S1〜S4全体では当該交差幅を持つ電極指231、232が例えば十数本〜数十本程度、SAWの伝播方向に間隔を空けて配置されることになる。
【0034】
なお、極大点P1、Q1よりも左側の領域、並びに極大点P3、Q3よりも右側の領域の包絡線41、43を構成する線分(原点-P1、原点-Q1、P3-L点、Q3-L点)については、SAWの伝播方向に対する傾斜角度を所定の範囲内とする設計はなされていない。しかしながら、これらの線分を構成する電極指231、232にも、図3(b)中に領域S0、S0’の符号を付した領域内に3次横モードを抑圧するにあたって有効な交差幅を持つ電極指231、232が含まれており、他の領域S1〜S4の電極指231、232と相俟って3次横モードを抑圧する効果を発揮することは勿論である。
【0035】
既述のように高次横モードの発生は、SAW共振子1の周波数特性にスプリアスとして現れ、当該SAW共振子1を用いたラダー型フィルタの周波数特性のリップル等となる。このため、既述の10°以上、65°以下の傾斜角度の範囲は、例えば当該SAW共振子1を用いたラダー型フィルタ等の挿入損失の仕様を満たすように高次横モードの抑圧に有効な交差幅を持つ電極指231、232が十数本〜数十本程度配置できる範囲となっている。
【0036】
ここで、ある傾斜角度を持つ線分の単位長さ内に配置可能な電極指231、232の本数は、例えば隣り合う電極指231、232間の配置間隔(以下、ピッチという)の長短によって増減し、電極指231、232のピッチはSAW共振子1の共振周波数等によって決定される。そこで上記範囲内の実際の傾斜角度θ1〜θ4、θ1’〜θ4’の決定にあたっては、例えば共振周波数等、所望の周波数特性を持つように電極指231、232間のピッチを決定し、その条件下で極大点P1〜P3、Q1〜Q3、極小点B1、B2、C1、C2の配置位置を変化させ、シミュレーションや実験等によりSAW共振子1の周波数特性を確認する。そして例えばラダー型フィルタの挿入損失の使用値を満たす程度までスプリアスを抑圧できる位置にてこれら各極大点、極小点の配置位置を決定すること等により決めるとよい。
【0037】
以上の構成を備えることにより、本実施の形態に係わるSAW共振子1には、3次横モードを抑圧するのに有効な上限交差幅及びこの交差幅に近い交差幅を持つ電極指231、232を例えば十数本〜数十本備え、例えば図3(b)に示すように、これらの電極指231、232が領域S1〜S4に間隔を空けて配置される(更に領域S0、S0’にも配置される)こととなる。この結果、当該SAW共振子1は既述の知見(2)、(3)にて説明した要件を備えることとなり、予め定めた次数の高次横モード(本実施の形態においては3次横モード)を効果的に抑圧することができる。
【0038】
本実施の形態に係わるSAW共振子1によれば以下の効果がある。IDT電極2の電極指231、232群の先端部を結んで形成される各々の包絡線41、42には、バスバー21、22からの距離が最大となる3つの極大点P1〜P3、Q1〜Q3と、この距離が極小となる2つの極小点B1、B2、C1、C2とが交互に配列されているので、例えば3次横モード等、予め定めた次数の高次横モードを抑圧可能な上限交差幅を持つ電極指231、232をSAWの伝播方向に間隔を空けて複数回配置することができる。更に隣り合う極大点と極小点とを結ぶ包絡線41、42を構成する直線(線分)の傾斜角度が10°以上、65°以下の範囲内となっているので、前述の上限交差幅を持つ電極指231、232の近傍に、当該上限交差幅に近い交差幅を持つ電極指231、232を複数本まとめて配置することができ、周波数特性への影響の大きな高次横モードを効果的に抑圧してスプリアスの小さいSAW共振子1を得ることができる。
【0039】
また、SAW共振子1の主共振モード(0次モード)のピークが発生する位置と、極大点P2、Q2の位置を一致させることにより、電極指231、232の交差幅を極大とすることで、IDT電極2への電力の印加時に電極指231、232に加わる応力の最も大きな領域における耐電力性を低下させないようにすることできる。さらにまた、極小点B1、B2、C1、C2における電極指231、232の交差幅を、少なくともバスバー21、22間の開口長の30%以上とすることにより、交差幅が短くなる領域であってもIDT電極2に入力される電力に対して実用上十分な耐電力性を持たせることができる。
【0040】
当該実施の形態に係わるSAW共振子1は、例えば複数のSAW共振子をラダー型に接続したラダー型フィルタ、通過帯域の異なるフィルタを2つ組み合わることにより、送受信信号を弁別するデュプレクサ、また共振子や発信器等の各種SAWデバイスに適用することができる。ここで、複数のSAW共振子1を備えたSAWデバイスは、全ての共振子について実施の形態に係わるSAW共振子1を採用することが好ましいが、当該SAW共振子1を複数の共振子の中に1つ以上備えていれば、当該SAW共振子1を備えていないSAWデバイスと比較してスプリアス抑圧の効果を発揮することができる。
【0041】
またバスバー21、22から包絡線41、42までの距離が最大となる極大部や、この距離が極小となる極小部は、極大点、極小点により構成する場合に限定されない。例えば図4に示したSAW共振子1aのようにSAWの伝播方向に平行な直線部により極小部B1、B2、C1、C2を構成してもよい。また図5に示すSAW共振子1bのように極大部P2、Q2をSAWの伝播方向に平行な直線部としてもよい。
【0042】
また2本の包絡線41、42の形状は、図3のSAW共振子1に示すようにx軸に対して互いに線対称な構成とする場合に限定されない。例えば図6のSAW共振子1cに示すように、2本の包絡線がx軸に対して互いに非対称であってもよい。また、図7(a)に示すように反射器3a、3bを備えないSAW共振子1dや、図7(b)に示すように反射器3a、3bの電極指301の両端部により包絡線の一部を形成したSAW共振子1eも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
更にまた極大点P1〜P3、極小点B1、B2を通る包絡線41の傾きは一定の場合に限られず、例えば図8(a)のIDT電極2に示すように、包絡線41、42を構成する直線の傾きが途中で変化してもよい。この場合には、所定の高次横モードを抑圧可能な上限交差幅を持つ電極指231、232(図8(a)中の領域S1〜S4内に存在している)の先端部を通る包絡線41、42の傾きが既述の10°以上、65°以下の範囲内の角度となっていればよい。
【0044】
次に図8(b)は包絡線41、42が曲線により構成されているIDT電極2の例を示している。この場合には、例えば設計上の上限交差幅を持つ電極指231、232の左右方向に、所定の高次横モードを抑圧可能であって交差幅の異なる電極指231、232を予め決めた本数、例えば十数本〜数十本程度並べ(図8(b)中に領域T1〜T4で表してある)、これらの電極指231、232の先端部で形成される包絡線41、42の曲線に対して引いた接線のSAWの伝播方向に対する最大傾斜角度θ1〜θ4が、予め決めた範囲内の傾斜角度となるようにするとよい。このとき、領域T1〜T4に並べる電極指231、232の本数を、前記高次横モードを抑圧するために必要な必要本数よりも多く設けておくことにより、実際の上限交差幅がばらついたとしてもこの領域内に当該上限交差幅及びこの交差幅よりも数μm程度小さい交差幅を持つ電極指231、232を十数本〜数十本、間隔を空けて配置することが可能となる。
【0045】
上述の各実施の形態においては3次横スプリアスを抑圧する場合について説明したが、予め定めたn次横モードの次数は3次に限定されるものではない。例えば5次横モードの影響が大きなSAW共振子においては、当該モードに対応する上限交差幅を持つ電極指231、232の先端部を通る包絡線の傾きが既述の傾斜角度を持つ直線となるようにしてもよいし、このような直線が3次横モード、5次横モードの各々に対応させて配置された包絡線形状としてもよい。
【0046】
また包絡線41、43上に配置する極大部、極小部の数についても、実施の形態中に示した極大部3つ、極小部2つの場合に限定されるものではなく、これらが交互に配置されていれば、極大部の数は4つ以上、極小部の数は3つ以上であってもよい。
【0047】
更にまた、上述の各実施の形態においては弾性波共振子としてSAWを利用するタイプのSAW共振子について説明したが、本発明に適用可能な弾性波共振子の種類はこれに限られない。例えば弾性境界波を利用するタイプの弾性波共振子であってもよい。
なお、図9に示すトランスバーサル型SAW共振子110において、SAWの位相を反転するために形成された極小点D1、D2と、これらに隣接する極大点R1〜R3とを通る包絡線については、本発明の技術的範囲に含まれない。
【実施例】
【0048】
(実験)
実施の形態に係わるSAW共振子1及び従来タイプのSAW共振子100、100a、100bを作成し、これらのSAW共振子1、100、100a、100bの一方側のバスバーに周波数を変化させながら信号を入力して、当該入力信号の反射特性(S11特性)を実測定した。
A.実験条件
(実施例1)
図1に記載の包絡線形状を備えたSAW共振子1に対し、入力信号の周波数を1.1〜2.7[GHz]の範囲で変化させ反射特性を実測定した。
(比較例1)
図14に記載の電極指231、232が重み付けされていないSAW共振子100に対し、入力信号の周波数を1.0〜2.5[GHz]の範囲で変化させ反射特性を実測定した。
(比較例2)
図16に示す包絡線形状がひし形のSAW共振子100aに対し、入力信号の周波数を1.0〜2.4[GHz]の範囲で変化させ反射特性を実測定した。
(比較例3)
図17に示す「cos−1(|ax|)」の包絡線形状を備えたSAW共振子100bに対し、入力信号の周波数を1.0〜2.4[GHz]の範囲で変化させ反射特性を実測定した。
【0049】
B.実験結果
(実施例1)の実験結果を図10のスミスチャートに示し、(比較例1〜比較例3)の実験結果を各々図11〜図13のスミスチャートに示す。なお、これらの各スミスチャートにおいて太い矢印にて指示した反射応答は、高次横モードとは異なる原理により引き起こされる応答であり、本実施の形態に係わる技術の適用対象ではない。
【0050】
不要なスプリアスの無い理想的な周波数特性を持つSAW共振子においては、SAW共振子の反射特性は、スミスチャートの外周円に沿って単一の円を描く。このような理想的な反射特性と比較すると、図10に示した(実施例1)に係わるSAW共振子1は、高次横モードとは関係の無い既述の応答を除いて、きれいな単一円を描いており、スプリアスの無い優れた周波数特性を持っている。
【0051】
これに対して例えば高次横モードを抑圧する重み付けを行っていない(比較例1)のSAW共振子100では、図11に示した反射特性の破線の矢印で示した位置に比較的大きな不要応答が多数観察され、スプリアスの多い周波数応答となっている。また、高次横モードの抑圧を目的として、電極指231、232の重み付けを行った従来型のSAW共振子100a、100bについては、夫々図12、図13に示した反射特性からも分かるように、不要応答の大きさはかなり小さくなっているものの、これらが消滅しているとは言えない。
以上の結果から実施の形態に係わるSAW共振子1は、従来のSAW共振子100a、100に比べて優れた周波数性能を備えており、当該SAW共振子1を利用してフィルタを構成すれば、リップルの小さな高性能のフィルタ特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図2】上記SAW共振子の電極指に関する拡大平面図である。
【図3】上記SAW共振子のIDT電極を模式的に示した平面図である。
【図4】第2の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図5】第3の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図6】第4の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図7】第5、第6の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図8】第7、第8の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図9】実施の形態には該当しないSAW共振子の平面図である。
【図10】実施の形態に係わるSAW共振子の反射特性を示す特性図である。
【図11】第1の比較例に係わるSAW共振子の反射特性を示す特性図である。
【図12】第2の比較例に係わるSAW共振子の反射特性を示す特性図である。
【図13】第3の比較例に係わるSAW共振子の反射特性を示す特性図である。
【図14】電極指の重み付けがされていないSAW共振子の一例を示す平面図である。
【図15】高次横モードを抑圧する原理を示す説明図である。
【図16】電極指の重み付けがされたSAW共振子の第1の従来例を示す平面図である。
【図17】電極指の重み付けがされたSAW共振子の第2の従来例を示す平面図である。
【図18】電極指の重み付けがされたSAW共振子の参考例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0053】
B1、B2、C1、C2、D1、D2
極小点
P1〜P3、Q1〜Q3、R1〜R3
極大点
1、1a〜1e
SAW共振子
2 IDT電極
3a、3b 反射器
21、22 バスバー
41、42 包絡線
100、100a〜100b
SAW共振子
110 トランスバーサル型SAW共振子
231、232
電極指
233 ダミー電極
301 電極指
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW(Surface Acoustic Wave)等の弾性波を利用した弾性波共振子及びこれを利用した弾性波デバイスに関し、特に高次横モードに起因するスプリアスを抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動体端末に実装され、高周波信号の弁別を行う例えばラダー型フィルタ等に組み込まれる共振子として、弾性波を利用した弾性波共振子が知られている。図14は、水晶、LiTaO3やLiNbO3等の圧電体の表面に発生させた弾性表面波(以下、SAW(Surface Acoustic Wave)という)を利用したSAW共振子100の一例を示している。
【0003】
SAW共振子100は、圧電体からなる図示しない圧電基板上に、櫛型交差指状電極2(以下、IDT(InterDigital Transducer)電極2という)と、このIDT電極2の両側に配置された反射器3a、3bとが配置された構成を備えている。IDT電極2は、例えばアルミニウム等により構成され、互いに対向するように設けられた2つのバスバー21、22と、これらのバスバー21、22に交差指状に接続された多数の電極指231とを備えている。そして、一方側のバスバー21に入力された周波数信号を電気-機械変換することにより隣り合う電極指231、232間に励振されるSAWを利用し、周波数に応じて共振、反共振を生じる周波数特性を得ている。なお反射器3a、3bは、例えばアルミニウム等よりなる多数の電極指231を備えたグレーティング反射器として構成されており、IDT電極2の外側方向に伝播したSAWをIDT電極2へと反射する役割を果たす。
【0004】
IDT電極2の各電極指231、232間に励振されるSAWは、例えば図14中に矢印で示した方向(縦方向という)へと伝播し、このSAWの進行波と、両側の反射器3a、3bにて反射されたSAWの反射波とが重なり合うと、縦方向に対して垂直な方向(横方向という)に振幅の分布を持つ横モードが励振される。横モードには、主共振モード、2次モード、3次モード、…と、無数の次数を持つモードが存在し、これらのうち図15(a)に振幅の分布を模式的に示した主共振モードのみがSAW共振子100の周波数特性を得るために利用される。
【0005】
一方、主共振モードより高次のモードのうち、偶数次のモードは各モード内で振動エネルギーが相殺され周波数特性には影響を与えないが、3次、5次…といった奇数次のモードは、例えば図15(a)に斜線で塗りつぶされていない領域に相当する振動エネルギーが相殺されずに残ってしまう。このような相殺されなかった振動エネルギーは、SAW共振子100の周波数特性にスプリアスとなって現れ、例えばラダー型フィルタの周波数特性にリップルを生ずる原因となる。
【0006】
そこでこのような高次横モードの影響を抑圧するため、電極指231、232の交差幅に重み付けを行った各種のSAW共振子が知られている。例えば非特許文献1に記載のSAW共振子100aは、図16に示すように電極指231、232の交差幅がIDT電極2の中央領域にて最大、両端部にて最小となっていて、各電極指231、232同士の先端部を結んで形成される包絡線の形状が直線となっている。
【0007】
重み付けによって電極指231、232の交差幅が小さくなっている領域においては、図15(b)に示すようにモード内で相殺されるエネルギーの割合が大きくなる。この結果、交差幅を小さくしていくにつれて次数の低いモードから順に高次横モードの影響が小さくなり、SAW共振子100a全体の周波数特性においてもスプリアスを小さくすることができる。なお対向する電極指231、232と交差していない電極233は、SAWの位相の乱れを防止するためのダミー電極233である。
【0008】
このように電極指231、232の交差幅を重み付けして高次横モードの影響をより小さく抑えようとする技術は、移動体端末の低消費電力化や受信アンテナの小型化に伴う受信電波の微弱化等の要求に応じて盛んに検討されており、様々な包絡線形状を持ったSAW共振子が提案されている。例えば特許文献1においては、図17に示したx軸の原点を基準にして、電極指231、232の包絡線形状を「cos−1(|ax|)、但し、aは定数」として、SAWの励振強度分布を主共振モードと一致させ、高次横モードの抑圧の度合いをより高めたSAW共振子100bが記載されている。
【0009】
しかしながら、これら図16、図17に記載されたSAW共振子100a、100bにおいても、後掲の実測定結果(実験値)に示すように、高次の横振動モードを所望のレベルにまで抑圧できないことを本発明者は把握している。
【0010】
なお、特許文献2には電極指の交差幅が極大となる極大点と、同じく交差幅が極小となる極小点とを複数備え、これらの極大点と極小点とが交互に配置されたSAW共振子が記載されている。しかしながら当該特許文献2に記載の技術は包絡線の傾斜角度が10°以上、65°以下の範囲を外れており、包絡線の傾きが大きすぎるため高次横モードを抑圧する効果を十分に得ることはできない。また当該SAW共振子は、包絡線の極小点がIDT電極の中央部まで伸び出しており、電極指の交差幅が小さい領域が多数ある。後述のように電極指の交差幅が小さい領域では、IDT電極に電力を印加した際に電極指に過大な応力が加わり電極指の破壊に至るおそれがあるばかりでなく、当該SAW共振子を備えたフィルタの挿入損失が増大するといった問題がある。
【0011】
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌A Vol.75−A No.3 第464頁左欄第8行目〜右欄第7行目、図11
【特許文献1】特開平7−22898号公報:第0002段落、図5
【特許文献2】特開2007−60108号公報:、第0009段落、第0035段落、第0044段落、図7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に基づいて行われたものであり、その目的は、圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けした弾性波共振子において、高次横モードに基づくスプリアスを抑圧することのできる弾性波共振子及びこの弾性波共振子を用いた弾性波デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係わる弾性波共振子は、圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けした弾性波共振子において、
前記IDT電極の少なくとも一方側のバスバーに接続された電極指群の先端を結んで形成される包絡線には、当該バスバーからの距離が極大となる少なくとも3つの極大部と、この距離が極小となる少なくとも2つの極小部とが交互に配列されていることと、
これらの隣り合う極大部と極小部とを通る包絡線を構成する電極指群には、予め定めたn次横モード(nは予め定めた3以上の奇数)が発生しない上限の交差幅を有する電極指が含まれていることと、
前記上限の交差幅を有する電極指の先端部を通る包絡線は、弾性波の伝播方向に対して10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度を有する直線であるか、または前記上限の交差幅を有する電極指の先端部及びこの電極指よりも交差幅の小さい電極指の先端部を予め決められた本数だけ結んで形成される包絡線は、当該包絡線に対して引いた接線と前記伝播方向との成す最大傾斜角度が前記範囲内の傾斜角度を有する曲線であることと、を備えていることを特徴とする。
ここで前記極大点の1つは、IDT電極内に励振される0次縦モードの最大振幅の発生する位置に設けられていることが好ましく、前記n次横モードは、3次横モードである場合が好適である。また、前記IDT電極の対向するバスバーの内端間の開口長に対し、前記極小部に位置する電極指と、この電極指に隣り合う左右の電極指との交差幅のうち、いずれか短い方の交差幅の比が0.3以上であることが好ましい。
【0014】
また本発明に係わる弾性波デバイスは、複数の弾性波共振子が共通の基板上に形成された弾性波デバイスであって、前記複数の弾性波共振子の少なくとも一つは上述の弾性波共振子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係わる弾性波共振子によれば、IDT電極の電極指群の先端部を結んで形成される包絡線が、バスバーからの距離が最大となる少なくとも3つの極大部と、この距離が極小となる少なくとも2つの極小部とを交互に備えているので、予め定めた次数の高次横モードを抑圧可能な上限の交差幅を持つ電極指を弾性波の伝播方向に間隔を空けて複数回配置することができる。更に隣り合う極大点と極小点とを結ぶ包絡線を構成する直線の傾斜角度、またはこの包絡線を構成する曲線に対して引いた接線の最大傾斜角度が10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度となっているので、前述の上限交差幅を持つ電極指の近傍に、当該上限交差幅に近い交差幅を持つ電極指を複数本まとめて配置することができ、周波数特性への影響の大きな高次横モードを効果的に抑圧してスプリアスの小さい弾性波共振子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本実施の形態に係わるSAW共振子の具体的な構成例を説明する前に、本発明の主旨について簡単に説明しておく。背景技術にて説明したように、従来、高次横モードによるスプリアスの発生を抑えることを目的として様々な包絡線形状を備えたSAW共振子が提案されてきたが、低スプリアス化の要求はますます強くなってきている。そこで本発明者は、より性能の高いSAW共振子を開発すべく鋭意検討を行ったところ、以下の知見を得るに至った。
【0017】
即ち、(1)既述の図16や図17に記載のSAW共振子100a、100bにおいては、例えば比較的振動エネルギーの大きな3次横モード等、特定の次数の高次横モードについての抑圧が十分でないためにスプリアスが発生してしまう場合が多い。(2)このように抑圧しきれないある特定の高次横モードを十分に抑圧するためには、例えば交差幅が一定のIDT電極2に共振周波数を持つ信号を入力しながら電極指231、232の交差幅を徐々に小さくしていったとき、当該特定の高次横モードが発生しなくなる上限の交差幅(以下、上限交差幅という)を持つ電極指231、232を多くの本数備えていることが好ましい。(3)このような上限交差幅を備えた電極指231、232を多数本配置する場合には、これらの電極指231、232を一つの場所にまとめて配置するよりは、弾性波の伝播方向に分散して配置したほうがよい。
【0018】
以上に述べた(1)〜(3)の知見に基づけば、例えば図18に模式的に示すように、特定の高次横モードを抑圧可能な上限交差幅「Wmax」を持った電極指231、232をSAWの伝播方向に幅広く配置した包絡線41、42形状を持つIDT電極2を採用することが効果的にも思われる。しかしながら高次横モードの特性は、圧電基板の微妙な物性の変化やバスバー21、22の内端間の距離(開口長という)のわずかなずれ等によって変化し、実際の上限交差幅はIDT電極2毎にばらつきがある。このため図18に示したように計算上の上限交差幅「Wmax」を持つ電極指231、232を備えたSAW共振子を製造しても、当該交差幅が実際の上限交差幅からずれてしまっている場合には、スプリアスの抑圧に何ら役立たないおそれがある。
【0019】
以上に説明したように、(1)〜(3)にて得られた知見を活用するためには、抑圧したい高次横モードに対応する上限交差幅「Wmax」が変動した場合においても、安定して当該高次横モードを抑圧できる構成が必要となる。本発明はこのような観点からなされている。以下、本実施の形態に係わるSAW共振子1の構成について詳細に説明する。
【0020】
図1は本実施の形態に係わるSAW共振子1の平面図であり、IDT電極2と反射器3a、3bとを備え、各バスバー21、22に接続された電極指231、232の交差幅に重み付けがされている点は、図16、図17に示した既述のSAW共振子100a、100bと同様である。当該SAW共振子1は、各電極指231、232群の先端部を結んで形成される包絡線に極大部である極大点P1〜P3、Q1〜Q3と、極小部である極小点B1、B2、C1、C2とを交互に備えており、予め定めた高次横モード、例えば3次横モードの影響を抑圧できるようになっている点が従来のSAW共振子100a、100bと異なっている。
【0021】
ここで電極指231、232の交差幅の重み付けに係わる設計変数について図2を参照しながら定義しておくと、隣り合う電極指231、232に挟まれる圧電基板の領域(タップという)にIDT電極2の左端側から順に「1,2,3,…」と番号をつけたとき、i番目のタップを形成する電極指231、232の交差幅を「W(i)」とする。i番目のタップにおいては交差幅「W(i)」と等しい幅でSAWが励振されるため、この励振幅を「Y(i)」とするとき重み付け係数「y(i)」の絶対値は以下の(1)式で定義される。
|y(i)|=Y(i)/W0=W(i)/W0=w(i) …(1)
ここでW0はIDT電極2の開口長でありw(i)はi番目のタップを形成する電極指231、232の開口長に対する交差幅の比(相対交差幅という)である。
【0022】
(1)式において重み付け係数の絶対値をとっている理由は、電極指231、232間に形成される電界の向きによって重み付け係数の向きが変化するからである。今、i番目のタップを形成する電極指231、232間に、図2に示したx軸の右方向へ向かう電界が形成されている場合をプラス、左方向へ向かう電界が形成されている場合をマイナスとしたとき、重み付け係数は以下の(2)式で表される。
y(i)=sign*(Y(i)/W0) …(2)
ここで「sign」は、電極指231、232間に形成される電界の向きがプラスの場合に「sign=1」、マイナスの場合に「sign=−1」を返す。
【0023】
このように電極指231、232の交差幅の重み付けは、SAWの励振される領域の幅を調節するために行われるものであり、本実施の形態においては既述のように高次横モードの影響を抑圧する目的で重み付け係数「|y(i)|」の分布が設定されており、この重み付け係数の分布を実現するように電極指231、232群の先端部を結んで形成される包絡線の形状が決定されている。
【0024】
図3(b)は、実施の形態に係わるIDT電極2の電極指231、232の記載を省略して各包絡線41、42を線描した模式図である。図面に向かって上方側を前方、下方側を後方とすると、41は後方側のバスバー22に接続されている電極指232群により形成される包絡線であり、42は前方側のバスバー21に接続されている電極指231群により形成される包絡線である。
【0025】
図3に示すように縦方向(SAWの伝播方向)にx軸、横方向にy軸をとって、2つのバスバー21、22の中央左端を原点とし、同右端を「L点」としたとき、包絡線41は、原点を出発して「原点近傍位置→P1→B1→P2→B2→P3→L点近傍位置」の順に原点からL点までの各極大点P1〜P3、極小点B1、B2を直線で結んだ屈曲線となっている。
【0026】
ここでSAW共振子1に周波数信号を入力すると、IDT電極2には、既述の横モードに加えて、SAWの伝播方向に縦モードが励振されことが知られている。図3(a)に示すように縦モードの主共振モード(0次モード)は、IDT電極2のx軸方向中央部にて振幅が最大となるピークを有しており、この領域における電極指231、232の交差幅が小さいと周波数信号が電気-機械変換される際に電極指231、232に過大な応力が加わり電極指231、232の破壊に至る要因となる。
【0027】
そこで当該包絡線41においては、前述のピークの発生する位置にて電極指231、232の交差幅が極大となるように、前後方向(y方向)についてはバスバー21付近、左右方向(x方向)についてはIDT電極2の中央位置に極大点P2が配置されている。そして残る2つの極大点P1、P3は、前後方向については既述の極大点P2とほぼ同じ位置、左右方向についてはIDT電極2の両端から中央までの距離のおよそ3分の1の位置に配置されている。
【0028】
一方、2つの極小点B1、B2は、前後方向についてはx軸からバスバー21までの中央位置、左右方向については極大点P1とP2との中央位置よりもやや外端寄りの位置、並びに極大点P2とP3との間の中央よりもやや外端寄りの位置に各々配置されている。この結果、包絡線41を構成する線分P1-B1、B1-P2、P2-B2並びにB2-P3がSAWの伝播方向に対して成す傾斜角度θ1〜θ4は、例えば10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度となっている。また、バスバー21、22間の開口長W0に対し、各極小点B1、B2に位置する電極指232と、この電極指232に隣り合う左右の電極指231との交差幅のうち、いずれか短い方の交差幅W(mB)の比が0.3以上、好ましくは0.35以上となっている。
【0029】
これに対してもう一方の包絡線42を構成する極大点Q1〜Q3、極小点C1、C2は、電極指231の先端部が離散的に配置されているため多少のずれはあるものの、x軸を挟んで既述の包絡線41を構成する極大点P1〜P3、極小点B1、B2とほぼ線対称となる位置に配置されている。よって当該包絡線42は、「原点近傍位置→Q1→C1→Q2→C2→Q3→L点近傍位置」の順にこれらの点を直線で結んだ屈曲線により構成され、線分Q1-C1、C1-Q2、Q2-C2並びにC2-Q3がSAWの伝播方向に対して成す傾斜角度θ1’〜θ4’についても、既述の傾斜範囲内の傾斜角度となっており、各極小点C1、C2に位置する電極指231と、左右の電極指232との交差幅のうちいずれか短い方の交差幅W(mC)は、開口長W0に対する長さの比率が0.3以上、好ましくは0.35以上となっている。
【0030】
以上に説明したように各々の包絡線41、42において、3つの極大点P1〜P3、Q1〜Q3と、2つの極小点B1、B2、C1、C2とが交互に配置され、これらの点が直線で結ばれていることにより、本実施の形態に係わるIDT電極2の重み付け係数は、以下の(3)式〜(6)式を満たしている。
|y(P1)|≒|y(P2)|≒|y(P3)| …(3)
|y(B1)|≒|y(B2)| …(4)
|y(Q1)|≒|y(Q2)|≒|y(Q3)| …(5)
|y(C1)|≒|y(C2)| …(6)
そして、電極指231、232の交差幅は包絡線41、42に含まれる線分(P1-B1、B1-P2、P2-B2、B2-P3及び、Q1-C1、C1-Q2、Q2-C2、C2-Q3)に沿って連続的に変化することになる。
【0031】
そこで本実施の形態では、3次横モードに対応する上限交差幅(3次横モードが発生しなくなる上限の交差幅)を設計レベルで予め把握しておき、当該設計上の上限交差幅よりも例えば交差幅の小さい電極指231、232も包絡線41、42に含まれるように余裕をとって極小点B1、B2、C1、C2のy方向の配置位置を設定している。これにより、実際の上限交差幅がこの設計値を外れてばらついたとしても、包絡線41、42上のいずれかの位置に、実際の上限交差幅に対応する交差幅を持つ電極指231、232を前記線分の数に対応する本数だけ存在させるようにすることができる。
【0032】
ここで既述の(2)の知見にて述べたように、例えば3次横モードを抑圧するためには、当該3次横モードに対応した上限交差幅を持つ電極指231、232を多数配置することが好ましい。しかしながら、当該上限交差幅よりも交差幅の小さい電極指231、232では3次横モードを抑圧する効果が急激に小さくなってしまうわけではなく、例えば交差幅が数μm小さい程度の範囲であれば上限交差幅を持つ電極指231、232に劣らない横モードの抑圧効果を発揮することができることがわかっている。
【0033】
そこで本実施の形態に係わる本実施の形態に係わるIDT電極2においては、SAWの伝播方向に対して包絡線41、42を構成する各線分の成す傾斜角度が10°以上、65°以下の範囲内の角度となるようにすることにより、例えば図3(b)にS1〜S4の符号を付した各領域内に、3次横モードを抑圧するにあたって有効な交差幅を持つ電極指231、232を例えば数本〜十数本程度配置することが可能となる。この結果、領域S1〜S4全体では当該交差幅を持つ電極指231、232が例えば十数本〜数十本程度、SAWの伝播方向に間隔を空けて配置されることになる。
【0034】
なお、極大点P1、Q1よりも左側の領域、並びに極大点P3、Q3よりも右側の領域の包絡線41、43を構成する線分(原点-P1、原点-Q1、P3-L点、Q3-L点)については、SAWの伝播方向に対する傾斜角度を所定の範囲内とする設計はなされていない。しかしながら、これらの線分を構成する電極指231、232にも、図3(b)中に領域S0、S0’の符号を付した領域内に3次横モードを抑圧するにあたって有効な交差幅を持つ電極指231、232が含まれており、他の領域S1〜S4の電極指231、232と相俟って3次横モードを抑圧する効果を発揮することは勿論である。
【0035】
既述のように高次横モードの発生は、SAW共振子1の周波数特性にスプリアスとして現れ、当該SAW共振子1を用いたラダー型フィルタの周波数特性のリップル等となる。このため、既述の10°以上、65°以下の傾斜角度の範囲は、例えば当該SAW共振子1を用いたラダー型フィルタ等の挿入損失の仕様を満たすように高次横モードの抑圧に有効な交差幅を持つ電極指231、232が十数本〜数十本程度配置できる範囲となっている。
【0036】
ここで、ある傾斜角度を持つ線分の単位長さ内に配置可能な電極指231、232の本数は、例えば隣り合う電極指231、232間の配置間隔(以下、ピッチという)の長短によって増減し、電極指231、232のピッチはSAW共振子1の共振周波数等によって決定される。そこで上記範囲内の実際の傾斜角度θ1〜θ4、θ1’〜θ4’の決定にあたっては、例えば共振周波数等、所望の周波数特性を持つように電極指231、232間のピッチを決定し、その条件下で極大点P1〜P3、Q1〜Q3、極小点B1、B2、C1、C2の配置位置を変化させ、シミュレーションや実験等によりSAW共振子1の周波数特性を確認する。そして例えばラダー型フィルタの挿入損失の使用値を満たす程度までスプリアスを抑圧できる位置にてこれら各極大点、極小点の配置位置を決定すること等により決めるとよい。
【0037】
以上の構成を備えることにより、本実施の形態に係わるSAW共振子1には、3次横モードを抑圧するのに有効な上限交差幅及びこの交差幅に近い交差幅を持つ電極指231、232を例えば十数本〜数十本備え、例えば図3(b)に示すように、これらの電極指231、232が領域S1〜S4に間隔を空けて配置される(更に領域S0、S0’にも配置される)こととなる。この結果、当該SAW共振子1は既述の知見(2)、(3)にて説明した要件を備えることとなり、予め定めた次数の高次横モード(本実施の形態においては3次横モード)を効果的に抑圧することができる。
【0038】
本実施の形態に係わるSAW共振子1によれば以下の効果がある。IDT電極2の電極指231、232群の先端部を結んで形成される各々の包絡線41、42には、バスバー21、22からの距離が最大となる3つの極大点P1〜P3、Q1〜Q3と、この距離が極小となる2つの極小点B1、B2、C1、C2とが交互に配列されているので、例えば3次横モード等、予め定めた次数の高次横モードを抑圧可能な上限交差幅を持つ電極指231、232をSAWの伝播方向に間隔を空けて複数回配置することができる。更に隣り合う極大点と極小点とを結ぶ包絡線41、42を構成する直線(線分)の傾斜角度が10°以上、65°以下の範囲内となっているので、前述の上限交差幅を持つ電極指231、232の近傍に、当該上限交差幅に近い交差幅を持つ電極指231、232を複数本まとめて配置することができ、周波数特性への影響の大きな高次横モードを効果的に抑圧してスプリアスの小さいSAW共振子1を得ることができる。
【0039】
また、SAW共振子1の主共振モード(0次モード)のピークが発生する位置と、極大点P2、Q2の位置を一致させることにより、電極指231、232の交差幅を極大とすることで、IDT電極2への電力の印加時に電極指231、232に加わる応力の最も大きな領域における耐電力性を低下させないようにすることできる。さらにまた、極小点B1、B2、C1、C2における電極指231、232の交差幅を、少なくともバスバー21、22間の開口長の30%以上とすることにより、交差幅が短くなる領域であってもIDT電極2に入力される電力に対して実用上十分な耐電力性を持たせることができる。
【0040】
当該実施の形態に係わるSAW共振子1は、例えば複数のSAW共振子をラダー型に接続したラダー型フィルタ、通過帯域の異なるフィルタを2つ組み合わることにより、送受信信号を弁別するデュプレクサ、また共振子や発信器等の各種SAWデバイスに適用することができる。ここで、複数のSAW共振子1を備えたSAWデバイスは、全ての共振子について実施の形態に係わるSAW共振子1を採用することが好ましいが、当該SAW共振子1を複数の共振子の中に1つ以上備えていれば、当該SAW共振子1を備えていないSAWデバイスと比較してスプリアス抑圧の効果を発揮することができる。
【0041】
またバスバー21、22から包絡線41、42までの距離が最大となる極大部や、この距離が極小となる極小部は、極大点、極小点により構成する場合に限定されない。例えば図4に示したSAW共振子1aのようにSAWの伝播方向に平行な直線部により極小部B1、B2、C1、C2を構成してもよい。また図5に示すSAW共振子1bのように極大部P2、Q2をSAWの伝播方向に平行な直線部としてもよい。
【0042】
また2本の包絡線41、42の形状は、図3のSAW共振子1に示すようにx軸に対して互いに線対称な構成とする場合に限定されない。例えば図6のSAW共振子1cに示すように、2本の包絡線がx軸に対して互いに非対称であってもよい。また、図7(a)に示すように反射器3a、3bを備えないSAW共振子1dや、図7(b)に示すように反射器3a、3bの電極指301の両端部により包絡線の一部を形成したSAW共振子1eも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
更にまた極大点P1〜P3、極小点B1、B2を通る包絡線41の傾きは一定の場合に限られず、例えば図8(a)のIDT電極2に示すように、包絡線41、42を構成する直線の傾きが途中で変化してもよい。この場合には、所定の高次横モードを抑圧可能な上限交差幅を持つ電極指231、232(図8(a)中の領域S1〜S4内に存在している)の先端部を通る包絡線41、42の傾きが既述の10°以上、65°以下の範囲内の角度となっていればよい。
【0044】
次に図8(b)は包絡線41、42が曲線により構成されているIDT電極2の例を示している。この場合には、例えば設計上の上限交差幅を持つ電極指231、232の左右方向に、所定の高次横モードを抑圧可能であって交差幅の異なる電極指231、232を予め決めた本数、例えば十数本〜数十本程度並べ(図8(b)中に領域T1〜T4で表してある)、これらの電極指231、232の先端部で形成される包絡線41、42の曲線に対して引いた接線のSAWの伝播方向に対する最大傾斜角度θ1〜θ4が、予め決めた範囲内の傾斜角度となるようにするとよい。このとき、領域T1〜T4に並べる電極指231、232の本数を、前記高次横モードを抑圧するために必要な必要本数よりも多く設けておくことにより、実際の上限交差幅がばらついたとしてもこの領域内に当該上限交差幅及びこの交差幅よりも数μm程度小さい交差幅を持つ電極指231、232を十数本〜数十本、間隔を空けて配置することが可能となる。
【0045】
上述の各実施の形態においては3次横スプリアスを抑圧する場合について説明したが、予め定めたn次横モードの次数は3次に限定されるものではない。例えば5次横モードの影響が大きなSAW共振子においては、当該モードに対応する上限交差幅を持つ電極指231、232の先端部を通る包絡線の傾きが既述の傾斜角度を持つ直線となるようにしてもよいし、このような直線が3次横モード、5次横モードの各々に対応させて配置された包絡線形状としてもよい。
【0046】
また包絡線41、43上に配置する極大部、極小部の数についても、実施の形態中に示した極大部3つ、極小部2つの場合に限定されるものではなく、これらが交互に配置されていれば、極大部の数は4つ以上、極小部の数は3つ以上であってもよい。
【0047】
更にまた、上述の各実施の形態においては弾性波共振子としてSAWを利用するタイプのSAW共振子について説明したが、本発明に適用可能な弾性波共振子の種類はこれに限られない。例えば弾性境界波を利用するタイプの弾性波共振子であってもよい。
なお、図9に示すトランスバーサル型SAW共振子110において、SAWの位相を反転するために形成された極小点D1、D2と、これらに隣接する極大点R1〜R3とを通る包絡線については、本発明の技術的範囲に含まれない。
【実施例】
【0048】
(実験)
実施の形態に係わるSAW共振子1及び従来タイプのSAW共振子100、100a、100bを作成し、これらのSAW共振子1、100、100a、100bの一方側のバスバーに周波数を変化させながら信号を入力して、当該入力信号の反射特性(S11特性)を実測定した。
A.実験条件
(実施例1)
図1に記載の包絡線形状を備えたSAW共振子1に対し、入力信号の周波数を1.1〜2.7[GHz]の範囲で変化させ反射特性を実測定した。
(比較例1)
図14に記載の電極指231、232が重み付けされていないSAW共振子100に対し、入力信号の周波数を1.0〜2.5[GHz]の範囲で変化させ反射特性を実測定した。
(比較例2)
図16に示す包絡線形状がひし形のSAW共振子100aに対し、入力信号の周波数を1.0〜2.4[GHz]の範囲で変化させ反射特性を実測定した。
(比較例3)
図17に示す「cos−1(|ax|)」の包絡線形状を備えたSAW共振子100bに対し、入力信号の周波数を1.0〜2.4[GHz]の範囲で変化させ反射特性を実測定した。
【0049】
B.実験結果
(実施例1)の実験結果を図10のスミスチャートに示し、(比較例1〜比較例3)の実験結果を各々図11〜図13のスミスチャートに示す。なお、これらの各スミスチャートにおいて太い矢印にて指示した反射応答は、高次横モードとは異なる原理により引き起こされる応答であり、本実施の形態に係わる技術の適用対象ではない。
【0050】
不要なスプリアスの無い理想的な周波数特性を持つSAW共振子においては、SAW共振子の反射特性は、スミスチャートの外周円に沿って単一の円を描く。このような理想的な反射特性と比較すると、図10に示した(実施例1)に係わるSAW共振子1は、高次横モードとは関係の無い既述の応答を除いて、きれいな単一円を描いており、スプリアスの無い優れた周波数特性を持っている。
【0051】
これに対して例えば高次横モードを抑圧する重み付けを行っていない(比較例1)のSAW共振子100では、図11に示した反射特性の破線の矢印で示した位置に比較的大きな不要応答が多数観察され、スプリアスの多い周波数応答となっている。また、高次横モードの抑圧を目的として、電極指231、232の重み付けを行った従来型のSAW共振子100a、100bについては、夫々図12、図13に示した反射特性からも分かるように、不要応答の大きさはかなり小さくなっているものの、これらが消滅しているとは言えない。
以上の結果から実施の形態に係わるSAW共振子1は、従来のSAW共振子100a、100に比べて優れた周波数性能を備えており、当該SAW共振子1を利用してフィルタを構成すれば、リップルの小さな高性能のフィルタ特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図2】上記SAW共振子の電極指に関する拡大平面図である。
【図3】上記SAW共振子のIDT電極を模式的に示した平面図である。
【図4】第2の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図5】第3の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図6】第4の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図7】第5、第6の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図8】第7、第8の実施の形態に係わるSAW共振子の平面図である。
【図9】実施の形態には該当しないSAW共振子の平面図である。
【図10】実施の形態に係わるSAW共振子の反射特性を示す特性図である。
【図11】第1の比較例に係わるSAW共振子の反射特性を示す特性図である。
【図12】第2の比較例に係わるSAW共振子の反射特性を示す特性図である。
【図13】第3の比較例に係わるSAW共振子の反射特性を示す特性図である。
【図14】電極指の重み付けがされていないSAW共振子の一例を示す平面図である。
【図15】高次横モードを抑圧する原理を示す説明図である。
【図16】電極指の重み付けがされたSAW共振子の第1の従来例を示す平面図である。
【図17】電極指の重み付けがされたSAW共振子の第2の従来例を示す平面図である。
【図18】電極指の重み付けがされたSAW共振子の参考例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0053】
B1、B2、C1、C2、D1、D2
極小点
P1〜P3、Q1〜Q3、R1〜R3
極大点
1、1a〜1e
SAW共振子
2 IDT電極
3a、3b 反射器
21、22 バスバー
41、42 包絡線
100、100a〜100b
SAW共振子
110 トランスバーサル型SAW共振子
231、232
電極指
233 ダミー電極
301 電極指
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けした弾性波共振子において、
前記IDT電極の少なくとも一方側のバスバーに接続された電極指群の先端を結んで形成される包絡線には、当該バスバーからの距離が極大となる少なくとも3つの極大部と、この距離が極小となる少なくとも2つの極小部とが交互に配列されていることと、
これらの隣り合う極大部と極小部とを通る包絡線を構成する電極指群には、予め定めたn次横モード(nは予め定めた3以上の奇数)が発生しない上限の交差幅を有する電極指が含まれていることと、
前記上限の交差幅を有する電極指の先端部を通る包絡線は、弾性波の伝播方向に対して10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度を有する直線であるか、または前記上限の交差幅を有する電極指の先端部及びこの電極指よりも交差幅の小さい電極指の先端部を予め決められた本数だけ結んで形成される包絡線は、当該包絡線に対して引いた接線と前記伝播方向との成す最大傾斜角度が前記範囲内の傾斜角度を有する曲線であることと、を備えていることを特徴とする弾性波共振子。
【請求項2】
前記極大点の1つは、IDT電極内に励振される0次縦モードの最大振幅の発生する位置に設けられていることを特徴とする弾性波共振子。
【請求項3】
前記n次横モードは、3次横モードであることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性波共振子。
【請求項4】
前記IDT電極の対向するバスバーの内端間の開口長に対し、前記極小部に位置する電極指と、この電極指に隣り合う左右の電極指との交差幅のうち、いずれか短い方の交差幅の比が0.3以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の弾性波共振子。
【請求項5】
複数の弾性波共振子が共通の基板上に形成された弾性波デバイスであって、
前記複数の弾性波共振子の少なくとも一つは請求項1ないし4のいずれか一つに記載された弾性波共振子であることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項1】
圧電基板上に設けたIDT電極の電極指の交差幅を重み付けした弾性波共振子において、
前記IDT電極の少なくとも一方側のバスバーに接続された電極指群の先端を結んで形成される包絡線には、当該バスバーからの距離が極大となる少なくとも3つの極大部と、この距離が極小となる少なくとも2つの極小部とが交互に配列されていることと、
これらの隣り合う極大部と極小部とを通る包絡線を構成する電極指群には、予め定めたn次横モード(nは予め定めた3以上の奇数)が発生しない上限の交差幅を有する電極指が含まれていることと、
前記上限の交差幅を有する電極指の先端部を通る包絡線は、弾性波の伝播方向に対して10°以上、65°以下の範囲内の傾斜角度を有する直線であるか、または前記上限の交差幅を有する電極指の先端部及びこの電極指よりも交差幅の小さい電極指の先端部を予め決められた本数だけ結んで形成される包絡線は、当該包絡線に対して引いた接線と前記伝播方向との成す最大傾斜角度が前記範囲内の傾斜角度を有する曲線であることと、を備えていることを特徴とする弾性波共振子。
【請求項2】
前記極大点の1つは、IDT電極内に励振される0次縦モードの最大振幅の発生する位置に設けられていることを特徴とする弾性波共振子。
【請求項3】
前記n次横モードは、3次横モードであることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性波共振子。
【請求項4】
前記IDT電極の対向するバスバーの内端間の開口長に対し、前記極小部に位置する電極指と、この電極指に隣り合う左右の電極指との交差幅のうち、いずれか短い方の交差幅の比が0.3以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の弾性波共振子。
【請求項5】
複数の弾性波共振子が共通の基板上に形成された弾性波デバイスであって、
前記複数の弾性波共振子の少なくとも一つは請求項1ないし4のいずれか一つに記載された弾性波共振子であることを特徴とする弾性波デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−219045(P2009−219045A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63122(P2008−63122)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]