弾性波素子、フィルタ素子、通信モジュール、および通信装置
【課題】共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差を小さくすることができる弾性波素子を実現する。
【解決手段】圧電基板5と、圧電基板5上に形成された櫛形電極2と、櫛形電極2を覆うように圧電基板5上に形成された誘電体層21とを備えた弾性波素子であって、圧電基板5上に形成された誘電体層21の厚さは、櫛形電極2の厚さと櫛形電極2上に形成された誘電体層21の厚さとの和より大きいことを特徴としている。
【解決手段】圧電基板5と、圧電基板5上に形成された櫛形電極2と、櫛形電極2を覆うように圧電基板5上に形成された誘電体層21とを備えた弾性波素子であって、圧電基板5上に形成された誘電体層21の厚さは、櫛形電極2の厚さと櫛形電極2上に形成された誘電体層21の厚さとの和より大きいことを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテレビジョン受像機、携帯電話端末、PHS(Personal Handy-phone System)端末等に搭載される弾性波素子に関する。また、そのような弾性波素子を備えたフィルタ素子に関する。また、そのようなフィルタ素子を備えた通信モジュール、および通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波を応用したデバイスの1つとして弾性表面波素子(SAWデバイス:Surface Acoustic Wave Device)が以前より良く知られている。このSAWデバイスは、例えば45MHz〜2GHzの周波数帯における無線信号を処理する装置における各種回路(例えば送信バンドパスフィルタ、受信バンドパスフィルタ、局発フィルタ、アンテナ共用器、IFフィルタ、FM変調器等)に用いられる。
【0003】
近年、携帯電話端末などの高性能化に伴い、例えばバンドパスフィルタに用いられるSAWデバイスに対して、帯域内での低ロス化、帯域外での高抑圧化、温度安定性の向上など、諸特性の改善やデバイスサイズの小型化が求められている。中でも、温度特性の向上に対しては、圧電基板上に温度特性の符号が異なる酸化ケイ素膜などを成膜する方法など様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、圧電性の大きなLiNbO3基板上にSiO2薄膜を形成することによって、温度特性を改善できる構成が開示されている。また、特許文献2には、リフトオフ法を用いることによってSiO2薄膜表面の凹凸を小さくすることによって、デバイスのロスが低減する構成が開示されている。特許文献1あるいは特許文献2に開示された構成によれば、SiO2膜厚を調整することによって、弾性波素子の温度特性を例えば±20ppm/℃に改善することができる。
【特許文献1】特開2003−209458号公報
【特許文献2】特許第3841053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1あるいは2に開示された弾性波素子を用いて櫛形電極からなる共振器を作製すると、その共振周波数および反共振周波数は異なる温度特性を有する。特に、電気機械結合係数の大きなLiNbO3基板を用いた場合は、共振周波数と反共振周波数の温度特性の差が20〜30ppm/℃となることがある。そのため、共振周波数の温度特性を0ppm/℃にすることができたとしても、反共振周波数の温度特性は+30ppm/℃と大きな値となってしまう。あるいは、このような弾性波素子を用いたフィルタ素子を梯子状に接続してラダーフィルタを形成した場合は、フィルタの通過帯域の高周波側の温度特性と低周波側の温度特性との差が大きくなり、高周波側と低周波側の両方を所定数値範囲内(例えば。±5ppm/℃以内)にすることができない。そのため、弾性波素子の温度が変動した場合、規格のスペックを満たさなかったり、帯域幅が変化するなどの悪影響があった。
【0006】
本発明の目的は、共振周波数と反共振周波数との温度特性差を小さくすることができる弾性波素子を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の弾性波素子は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子であって、前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さは、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、共振周波数と反共振周波数との弾性波のエネルギー分布差を小さくすることができるので、共振周波数と反共振周波数との温度特性差を小さくすることができ、素子の温度が変動しても安定した動作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子であって、前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さは、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きいことを特徴とする。このような構成とすることによって、共振周波数と反共振周波数の弾性波のエネルギー分布差を小さくすることができ、共振周波数と反共振周波数での温度特性差を小さくすることができる。
【0010】
本発明の弾性波素子は、上記構成を基本として以下のような態様をとることができる。すなわち、本発明の弾性波素子において、前記圧電基板は、ニオブ酸リチウムあるいはタンタル酸リチウムで形成されている構成とすることができる。
【0011】
また、前記誘電体層は、酸化シリコンを主成分とする構成とすることができる。
【0012】
また、前記櫛形電極は、前記誘電体層より大きな密度を有する材料で形成されている構成とすることができる。
【0013】
また、前記櫛形電極は、銅あるいは銅を主成分とする合金を含む構成とすることができる。
【0014】
本発明のフィルタ素子は、入力電極と、前記入力電極を介して入力する電気信号のうち所定周波数の電気信号のみ通過させる共振器と、前記共振器を通過した電気信号を外部へ出力する出力電極とを備えたフィルタ素子であって、前記共振器は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子で構成され、前記弾性波素子は、前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さが、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きく形成されているものである。このような構成とすることによって、共振周波数と反共振周波数の弾性波のエネルギー分布差を小さくすることができ、共振周波数と反共振周波数との温度特性差が小さい弾性波素子を備えたフィルタ素子を実現することができる。また、フィルタ素子の通過帯域の高周波側と低周波側の両方の温度特性差を小さくすることができる。
【0015】
また、本発明の通信モジュールは、上記フィルタ素子を備えたものである。
【0016】
また、本発明の通信装置は、上記通信モジュールを備えたものである。
【0017】
(実施の形態)
〔1.弾性波素子の構成〕
図1は、実施の形態1における弾性波素子の平面図である。図1において、弾性波素子1は、圧電基板5上に櫛形電極2と、櫛形電極2の両側に配されている反射部3と、端子電極4a及び4bとが形成されて構成されている。例えば、端子電極4aに電気信号を印加することにより圧電基板5が振動し、櫛形電極2の周期に基づいた所定波長の弾性表面波が発生する。発生した弾性表面波に基づき、端子電極4bから所定の周波数の電気信号を取り出すことができる。なお、弾性波素子1は、ラブ波を発生させるために、圧電基板5はニオブ酸リチウム(LiNbO3)あるいはタンタル酸リチウム(LiTaO3)で形成されていることが好ましく、櫛形電極2は誘電体膜(SiO2膜)よりも大きな密度を有する材料で形成されていることが好ましく、また櫛形電極2は銅(Cu)またはCuを主成分とする合金で形成されていることが好ましい。また、本実施の形態の弾性波素子は、ラブ波を発生させる素子に限らず、他の弾性波を発生させる素子にも適用可能である。
【0018】
図2は、図1におけるZ−Z部の断面である。図2に示すように、本実施の形態の弾性波素子1は、回転Y板(例えば0°Y)の圧電基板5上に、Cuを主成分とする櫛形電極2を形成し、櫛形電極2及び圧電基板5上にSiO2膜(誘電体膜)21を形成して構成されている。また、本実施の形態では、SiO2膜21の表面は平坦ではなく、櫛形電極2上のSiO2膜21よりも櫛形電極2間のSiO2膜21が突出するように形成されている。したがって、圧電基板5上のSiO2膜21の厚さは、櫛形電極2の厚さと櫛形電極2上に形成されているSiO2膜21の厚さとの和よりも大きくなるように、SiO2膜21が形成されている。また、櫛形電極2上のSiO2膜21を凹状部21aとし、櫛形電極2間のSiO2膜21を凸状部21bとする。また、弾性波素子1における弾性波の波長をλ、櫛形電極2の膜厚をt、SiO2膜21(凹状部21a)の膜厚をh、櫛形電極2間のSiO2膜21の凸状部21bの高さをHと定義する。高さHは、凹状部21aに対する凸状部21bの突出量である。波の伝搬方向は、圧電基板5のX軸方向である。
【0019】
本発明者らは、有限要素法(FEM:Finite Element Method)によるシミュレーションを行って、各種構造下での共振周波数と反共振周波数での周波数温度特性を計算した。図3は、FEMシミュレーションモデルを示す。図3に示すモデルは、図2における櫛形電極2の1本分を基本単位のモデルを示し、この基本単位が無限に繰り返して配される場合を計算するためのモデルであり、図中の領域31はSiO2膜21のモデル、領域32は櫛形電極2のモデル、領域33は圧電基板5のモデルを示している。櫛形電極2は、Cu(密度=8.92kg/m3)で形成し、その膜厚は100nmとして計算を行った。
【0020】
図4〜図9は、図3に示すモデルについて有限要素法を用いて測定した結果であり、SiO2膜21の凸状部21bの高さ(H/λ)が0,0.025,0.05,0.075,0.1のサンプルを作製し、それぞれのSiO2膜21について共振周波数と反共振周波数の周波数温度特性差を測定した。H/λ=0は、凸状部21bが形成されていない従来構成に相当する。図4はh=0.3λの時の計算結果を示し、図5はh=0.35λの時の計算結果を示し、図6はh=0.4λの時の計算結果を示し、図7はh=0.45λの時の計算結果を示し、図8はh=0.5λの時の計算結果を示し、図9はh=0.6λの時の計算結果を示す。
【0021】
なお、本計算では、櫛形電極2の周期λを2μmに設定して計算を行ったが、この計算結果は周期λが2μmの場合だけに当てはまるわけではない。そのため、図4〜図9中の櫛形電極2間のSiO2の高さHは、λで規格化して示している。また、共振周波数および反共振周波数の温度特性は、温度が+1℃変動した時の周波数の変化率である周波数温度係数で表わされ、単位はppm/℃である。なお、温度係数は、周波数温度係数(TCF:Temperature coefficient of frequency)に限定されず、速度温度係数(TCV:Temperature coefficient of velocity)や延滞時間温度係数(TCD:Temperature coefficient of delay time)であってもよい。したがって、図4〜図9のグラフにプロットされた値は、
温度特性差 = 共振周波数の温度特性 − 反共振周波数の温度特性
である。図4から分かるように、SiO2膜21の厚さhが異なっても、SiO2膜21の凹凸の高さH=0の場合(凹凸が無くフラットな場合)には温度特性差がプラスの値となっており、凹凸の高さH/λが大きくなるに従って単調に差が小さくなっていく。その途中で、凹凸の高さH/λが0.01〜0.06の範囲で温度特性差がほぼ0となっている。つまり、櫛形電極2間のSiO2膜21(凸状部21b)の高さを櫛形電極2上のSiO2膜21(凹状部21a)の高さより、0.01λ〜0.06λ高くすることで、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差をほぼ0にできると言える。
【0022】
図10は、図4から図9に示す計算結果から得られた、各SiO2厚21の高さhにおける共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が0となる凹凸の高さH/λの値をプロットしたグラフである。図10に示すように、本発明の実施例で計算した構成においては、凹凸の高さH/λが0.01〜0.06の範囲で、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が0に近くなることが分かる。
【0023】
図11A、図11B、図12A、図12Bは、図2のFEMシミュレーションモデルにおける波の変位分布を示す図であり、本発明の物理的な意味を考察するための図である。図に示す変位分布は、波のエネルギー分布を示したものにほぼ等しく、図中のドット密度が高い部分が変位(つまり波のエネルギー)が大きく、ドット密度が低い部分が変位(つまり波のエネルギー)が小さいことを示す。図11Aは、従来構成(SiO2膜に凹凸が形成されていない場合)の弾性波素子における共振周波数での波の変位分布を示す。図11Bは、同様に反共振周波数での波の変位分布を示す。図12Aは、本実施の形態の構成(SiO2膜に凹凸が形成されている場合)の弾性波素子における共振周波数での波の変位分布を示す。図12Bは、同様に反共振周波数での波の変位分布を示す。
【0024】
弾性波素子は、弾性表面波を伝搬させるものであるため、SiO2膜の表面(領域31の図中上側)にエネルギーが集中していることが分かる。図11A及び図12Aに示すように、SiO2膜の凹凸の有無による共振周波数での波の変位(エネルギー)分布の違いはあまり無いが、図11B及び図12Bに示すように、反共振周波数では凹凸がある方(図12B)が波の変位(エネルギー)が大きい領域が櫛形電極(領域32)付近まで広がっている。このことから、図12A及び図12Bに示すように、SiO2膜に凹凸が存在することによって、共振周波数での波の変位分布と反共振周波数での波の変位(エネルギー)分布との違いが小さくなるために、温度特性の差が小さくなるというように考えられる。すなわち、図11A及び図11Bに示す従来の変位分布は、図11Aに示すように共振周波数の場合においては波の変位が高い部分が櫛形電極(領域32)付近に集中し、図11Bに示すように反共振周波数の場合においては波の変位が高い部分がSiO2膜(領域31)の表面付近に集中している。これに対して、図12A及び図12Bに示す本実施の形態の変位分布は、共振周波数の場合と反共振周波数の場合とにおいて波の変位が高い部分がいずれも櫛形電極(領域32)付近に集中している。よって、本実施の形態では、共振周波数と反共振周波数での波の変位(エネルギー)分布の違いが小さくなるために、温度特性の差が小さくなることがわかる。
【0025】
〔2.弾性波素子の製造方法〕
図13A〜図13Fは、弾性波素子の第1の製造方法を説明するための図である。なお、図1に示す構成と同一の構成については同一符号を付与した。まず、図13Aに示すように、圧電基板5上にSiO2膜21を形成する、次に、図13Bに示すように、SiO2膜21上において、最終的に櫛形電極2を形成しない部分にレジストパターン41を形成する。次に、図13Cに示すように、レジストパターン41で覆われていない部分のSiO2膜21を、例えばドライエッチングで除去する。次に、図13Dに示すように、Cu膜42を、例えば電子ビーム蒸着法などにより成膜する。ここで、図13Aに示す工程で成膜したSiO2膜21と、図13Bに示す工程で成膜したCu膜42との膜厚の差が、SiO2膜21の凹凸の高さHとなる。次に、図13Eに示すように、リフトオフ工法を用いてレジストパターン41とその上に堆積したCu膜42とを除去する。次に、図13Fに示すように、SiO2膜21及びCu膜42上に新たにSiO2膜を全面に成膜する。これにより、表面に凹状部21a及び凸状部21bが形成されたSiO2膜21を備えた弾性波素子を作製することができる。
【0026】
図14A〜図14Dは、弾性波素子の第2の製造方法を説明するための図である。まず、例えば特許文献2に開示されている方法を用いて、図14Aに示す素子を作製する。図14Aに示す素子は、圧電基板5上に櫛形電極2を形成し、櫛形電極2を覆うようにSiO2膜21が形成されているものであり、SiO2膜21の表面は平坦である。次に、図14Bに示すように、SiO2膜21の表面にレジストパターン41を形成する。次に、図14Cに示すように、ドライエッチングなどの腐食工法を用いて、櫛形電極2上のSiO2膜21を除去し、凹状部21aを形成する。この工程では、凹状部21aの深さ、すなわち凸高さHに相当する深さにSiO2膜21を除去する。次に、図14Dに示すように、レジストパターン41を除去する。
【0027】
ここで、図14Aに示す状態では、SiO2膜21の表面には凹凸が形成されていないが、櫛形電極2上のSiO2膜21が櫛形電極2間のSiO2膜21よりも厚い場合においても、図14Cに示す工程でのエッチング量を制御することによって、櫛形電極2間のSiO2膜21が厚い弾性波素子を作製することができる。
【0028】
第2の製造方法の方が、第1の製造方法よりも工程が少ないため、作製しやすくかつ製造コストを低く抑えることができる。
【0029】
〔3.バンドパスフィルタの構成〕
図15は、本実施の形態の弾性波素子を搭載したバンドパスフィルタの構成例を示す。図15に示すバンドパスフィルタ50は、圧電基板51上に、複数の共振器52と給電配線部53とを形成して構成されている。共振器52は、本実施の形態の弾性波素子で構成されている。給電配線部53は、入力端子53a、出力端子53b、接地端子53c及び53dを備えている。入力端子53aに入力される電気信号は、共振器52によって設定された共振周波数及び反共振周波数に基づいて濾波され、所定の周波数の電気信号を出力端子53bから出力される。なお、バンドパスフィルタ50は、フィルタ素子の一例である。
【0030】
本実施の形態の弾性波素子で構成された共振器52を搭載することによって、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が小さく、温度変動に対して特性が安定したバンドパスフィルタを実現することができる。
【0031】
〔4.通信モジュールの構成〕
図16は、本実施の形態の弾性波素子を備えた通信モジュールの一例を示す。図16に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bには、本実施の形態における弾性波素子、または弾性波素子を備えたバンドパスフィルタが含まれている。
【0032】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0033】
以上のように本実施の形態の弾性波素子を、通信モジュールの受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bに備えることで、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が小さく、温度変動に対して特性が安定した通信モジュールを実現することができる。
【0034】
なお、図16に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本発明の弾性波素子あるいはバンドパスフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0035】
〔5.通信装置の構成〕
図17は、本実施の形態の弾性波素子を備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図17に示す構成は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Divition Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図17に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a,77,78,79,80、および送信フィルタ73bには、本実施の形態における弾性波素子が含まれている。
【0036】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御する。
【0037】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0038】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御する。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0039】
以上のように、本実施の形態の弾性波素子を通信装置に備えることで、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が小さく、温度変動に対して特性が安定した通信装置を実現することができる。
【0040】
〔6.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、SiO2膜21の表面に所定の高さを有する凸状部21bを形成したことにより、共振周波数と反共振周波数との周波数温度特性差、あるいはフィルタの通過帯域の高周波側と低周波側の両方の温度特性差を小さくすることができる。
【0041】
これを実現することで、例えば、通過帯域の高周波側と低周波側の両方が±5ppm/℃以内という、温度特性に非常に優れた弾性波素子を実現することができる。
【0042】
さらに、弾性波素子の温度が変動した場合にも、フィルタ特性が大きく変動することを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の弾性波素子は、所定周波数の信号を受信または送信することができる機器に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態における弾性波素子の構成を示す平面図
【図2】図1におけるZ−Z部分の断面図
【図3】実施の形態における弾性波素子を用いて有限要素法によるシミュレーションを行った時のモデル図
【図4】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図5】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図6】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図7】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図8】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図9】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図10】誘電体層の高さと、周波数温度特性差がゼロになる凹凸高さとの関係を示す特性図
【図11A】誘電体層の表面に凹凸を形成しない場合の波の変位分布を示すモデル図
【図11B】誘電体層の表面に凹凸を形成しない場合の波の変位分布を示すモデル図
【図12A】誘電体層の表面に凹凸を形成した場合の波の変位分布を示すモデル図
【図12B】誘電体層の表面に凹凸を形成した場合の波の変位分布を示すモデル図
【図13A】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13B】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13C】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13D】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13E】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13F】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図14A】実施の形態の弾性波素子の第2の製造工程の一部を示す断面図
【図14B】実施の形態の弾性波素子の第2の製造工程の一部を示す断面図
【図14C】実施の形態の弾性波素子の第2の製造工程の一部を示す断面図
【図14D】実施の形態の弾性波素子の第2の製造工程の一部を示す断面図
【図15】実施の形態の弾性波素子を備えたフィルタ素子の構成を示す平面図
【図16】実施の形態のフィルタ素子を備えた通信モジュールの構成を示すブロック図
【図17】実施の形態の通信モジュールを備えた通信装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0045】
1 弾性波素子
2 櫛形電極
21 SiO2膜
21a 凹状部
21b 凸状部
5 圧電基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテレビジョン受像機、携帯電話端末、PHS(Personal Handy-phone System)端末等に搭載される弾性波素子に関する。また、そのような弾性波素子を備えたフィルタ素子に関する。また、そのようなフィルタ素子を備えた通信モジュール、および通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波を応用したデバイスの1つとして弾性表面波素子(SAWデバイス:Surface Acoustic Wave Device)が以前より良く知られている。このSAWデバイスは、例えば45MHz〜2GHzの周波数帯における無線信号を処理する装置における各種回路(例えば送信バンドパスフィルタ、受信バンドパスフィルタ、局発フィルタ、アンテナ共用器、IFフィルタ、FM変調器等)に用いられる。
【0003】
近年、携帯電話端末などの高性能化に伴い、例えばバンドパスフィルタに用いられるSAWデバイスに対して、帯域内での低ロス化、帯域外での高抑圧化、温度安定性の向上など、諸特性の改善やデバイスサイズの小型化が求められている。中でも、温度特性の向上に対しては、圧電基板上に温度特性の符号が異なる酸化ケイ素膜などを成膜する方法など様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、圧電性の大きなLiNbO3基板上にSiO2薄膜を形成することによって、温度特性を改善できる構成が開示されている。また、特許文献2には、リフトオフ法を用いることによってSiO2薄膜表面の凹凸を小さくすることによって、デバイスのロスが低減する構成が開示されている。特許文献1あるいは特許文献2に開示された構成によれば、SiO2膜厚を調整することによって、弾性波素子の温度特性を例えば±20ppm/℃に改善することができる。
【特許文献1】特開2003−209458号公報
【特許文献2】特許第3841053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1あるいは2に開示された弾性波素子を用いて櫛形電極からなる共振器を作製すると、その共振周波数および反共振周波数は異なる温度特性を有する。特に、電気機械結合係数の大きなLiNbO3基板を用いた場合は、共振周波数と反共振周波数の温度特性の差が20〜30ppm/℃となることがある。そのため、共振周波数の温度特性を0ppm/℃にすることができたとしても、反共振周波数の温度特性は+30ppm/℃と大きな値となってしまう。あるいは、このような弾性波素子を用いたフィルタ素子を梯子状に接続してラダーフィルタを形成した場合は、フィルタの通過帯域の高周波側の温度特性と低周波側の温度特性との差が大きくなり、高周波側と低周波側の両方を所定数値範囲内(例えば。±5ppm/℃以内)にすることができない。そのため、弾性波素子の温度が変動した場合、規格のスペックを満たさなかったり、帯域幅が変化するなどの悪影響があった。
【0006】
本発明の目的は、共振周波数と反共振周波数との温度特性差を小さくすることができる弾性波素子を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の弾性波素子は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子であって、前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さは、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、共振周波数と反共振周波数との弾性波のエネルギー分布差を小さくすることができるので、共振周波数と反共振周波数との温度特性差を小さくすることができ、素子の温度が変動しても安定した動作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子であって、前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さは、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きいことを特徴とする。このような構成とすることによって、共振周波数と反共振周波数の弾性波のエネルギー分布差を小さくすることができ、共振周波数と反共振周波数での温度特性差を小さくすることができる。
【0010】
本発明の弾性波素子は、上記構成を基本として以下のような態様をとることができる。すなわち、本発明の弾性波素子において、前記圧電基板は、ニオブ酸リチウムあるいはタンタル酸リチウムで形成されている構成とすることができる。
【0011】
また、前記誘電体層は、酸化シリコンを主成分とする構成とすることができる。
【0012】
また、前記櫛形電極は、前記誘電体層より大きな密度を有する材料で形成されている構成とすることができる。
【0013】
また、前記櫛形電極は、銅あるいは銅を主成分とする合金を含む構成とすることができる。
【0014】
本発明のフィルタ素子は、入力電極と、前記入力電極を介して入力する電気信号のうち所定周波数の電気信号のみ通過させる共振器と、前記共振器を通過した電気信号を外部へ出力する出力電極とを備えたフィルタ素子であって、前記共振器は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子で構成され、前記弾性波素子は、前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さが、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きく形成されているものである。このような構成とすることによって、共振周波数と反共振周波数の弾性波のエネルギー分布差を小さくすることができ、共振周波数と反共振周波数との温度特性差が小さい弾性波素子を備えたフィルタ素子を実現することができる。また、フィルタ素子の通過帯域の高周波側と低周波側の両方の温度特性差を小さくすることができる。
【0015】
また、本発明の通信モジュールは、上記フィルタ素子を備えたものである。
【0016】
また、本発明の通信装置は、上記通信モジュールを備えたものである。
【0017】
(実施の形態)
〔1.弾性波素子の構成〕
図1は、実施の形態1における弾性波素子の平面図である。図1において、弾性波素子1は、圧電基板5上に櫛形電極2と、櫛形電極2の両側に配されている反射部3と、端子電極4a及び4bとが形成されて構成されている。例えば、端子電極4aに電気信号を印加することにより圧電基板5が振動し、櫛形電極2の周期に基づいた所定波長の弾性表面波が発生する。発生した弾性表面波に基づき、端子電極4bから所定の周波数の電気信号を取り出すことができる。なお、弾性波素子1は、ラブ波を発生させるために、圧電基板5はニオブ酸リチウム(LiNbO3)あるいはタンタル酸リチウム(LiTaO3)で形成されていることが好ましく、櫛形電極2は誘電体膜(SiO2膜)よりも大きな密度を有する材料で形成されていることが好ましく、また櫛形電極2は銅(Cu)またはCuを主成分とする合金で形成されていることが好ましい。また、本実施の形態の弾性波素子は、ラブ波を発生させる素子に限らず、他の弾性波を発生させる素子にも適用可能である。
【0018】
図2は、図1におけるZ−Z部の断面である。図2に示すように、本実施の形態の弾性波素子1は、回転Y板(例えば0°Y)の圧電基板5上に、Cuを主成分とする櫛形電極2を形成し、櫛形電極2及び圧電基板5上にSiO2膜(誘電体膜)21を形成して構成されている。また、本実施の形態では、SiO2膜21の表面は平坦ではなく、櫛形電極2上のSiO2膜21よりも櫛形電極2間のSiO2膜21が突出するように形成されている。したがって、圧電基板5上のSiO2膜21の厚さは、櫛形電極2の厚さと櫛形電極2上に形成されているSiO2膜21の厚さとの和よりも大きくなるように、SiO2膜21が形成されている。また、櫛形電極2上のSiO2膜21を凹状部21aとし、櫛形電極2間のSiO2膜21を凸状部21bとする。また、弾性波素子1における弾性波の波長をλ、櫛形電極2の膜厚をt、SiO2膜21(凹状部21a)の膜厚をh、櫛形電極2間のSiO2膜21の凸状部21bの高さをHと定義する。高さHは、凹状部21aに対する凸状部21bの突出量である。波の伝搬方向は、圧電基板5のX軸方向である。
【0019】
本発明者らは、有限要素法(FEM:Finite Element Method)によるシミュレーションを行って、各種構造下での共振周波数と反共振周波数での周波数温度特性を計算した。図3は、FEMシミュレーションモデルを示す。図3に示すモデルは、図2における櫛形電極2の1本分を基本単位のモデルを示し、この基本単位が無限に繰り返して配される場合を計算するためのモデルであり、図中の領域31はSiO2膜21のモデル、領域32は櫛形電極2のモデル、領域33は圧電基板5のモデルを示している。櫛形電極2は、Cu(密度=8.92kg/m3)で形成し、その膜厚は100nmとして計算を行った。
【0020】
図4〜図9は、図3に示すモデルについて有限要素法を用いて測定した結果であり、SiO2膜21の凸状部21bの高さ(H/λ)が0,0.025,0.05,0.075,0.1のサンプルを作製し、それぞれのSiO2膜21について共振周波数と反共振周波数の周波数温度特性差を測定した。H/λ=0は、凸状部21bが形成されていない従来構成に相当する。図4はh=0.3λの時の計算結果を示し、図5はh=0.35λの時の計算結果を示し、図6はh=0.4λの時の計算結果を示し、図7はh=0.45λの時の計算結果を示し、図8はh=0.5λの時の計算結果を示し、図9はh=0.6λの時の計算結果を示す。
【0021】
なお、本計算では、櫛形電極2の周期λを2μmに設定して計算を行ったが、この計算結果は周期λが2μmの場合だけに当てはまるわけではない。そのため、図4〜図9中の櫛形電極2間のSiO2の高さHは、λで規格化して示している。また、共振周波数および反共振周波数の温度特性は、温度が+1℃変動した時の周波数の変化率である周波数温度係数で表わされ、単位はppm/℃である。なお、温度係数は、周波数温度係数(TCF:Temperature coefficient of frequency)に限定されず、速度温度係数(TCV:Temperature coefficient of velocity)や延滞時間温度係数(TCD:Temperature coefficient of delay time)であってもよい。したがって、図4〜図9のグラフにプロットされた値は、
温度特性差 = 共振周波数の温度特性 − 反共振周波数の温度特性
である。図4から分かるように、SiO2膜21の厚さhが異なっても、SiO2膜21の凹凸の高さH=0の場合(凹凸が無くフラットな場合)には温度特性差がプラスの値となっており、凹凸の高さH/λが大きくなるに従って単調に差が小さくなっていく。その途中で、凹凸の高さH/λが0.01〜0.06の範囲で温度特性差がほぼ0となっている。つまり、櫛形電極2間のSiO2膜21(凸状部21b)の高さを櫛形電極2上のSiO2膜21(凹状部21a)の高さより、0.01λ〜0.06λ高くすることで、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差をほぼ0にできると言える。
【0022】
図10は、図4から図9に示す計算結果から得られた、各SiO2厚21の高さhにおける共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が0となる凹凸の高さH/λの値をプロットしたグラフである。図10に示すように、本発明の実施例で計算した構成においては、凹凸の高さH/λが0.01〜0.06の範囲で、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が0に近くなることが分かる。
【0023】
図11A、図11B、図12A、図12Bは、図2のFEMシミュレーションモデルにおける波の変位分布を示す図であり、本発明の物理的な意味を考察するための図である。図に示す変位分布は、波のエネルギー分布を示したものにほぼ等しく、図中のドット密度が高い部分が変位(つまり波のエネルギー)が大きく、ドット密度が低い部分が変位(つまり波のエネルギー)が小さいことを示す。図11Aは、従来構成(SiO2膜に凹凸が形成されていない場合)の弾性波素子における共振周波数での波の変位分布を示す。図11Bは、同様に反共振周波数での波の変位分布を示す。図12Aは、本実施の形態の構成(SiO2膜に凹凸が形成されている場合)の弾性波素子における共振周波数での波の変位分布を示す。図12Bは、同様に反共振周波数での波の変位分布を示す。
【0024】
弾性波素子は、弾性表面波を伝搬させるものであるため、SiO2膜の表面(領域31の図中上側)にエネルギーが集中していることが分かる。図11A及び図12Aに示すように、SiO2膜の凹凸の有無による共振周波数での波の変位(エネルギー)分布の違いはあまり無いが、図11B及び図12Bに示すように、反共振周波数では凹凸がある方(図12B)が波の変位(エネルギー)が大きい領域が櫛形電極(領域32)付近まで広がっている。このことから、図12A及び図12Bに示すように、SiO2膜に凹凸が存在することによって、共振周波数での波の変位分布と反共振周波数での波の変位(エネルギー)分布との違いが小さくなるために、温度特性の差が小さくなるというように考えられる。すなわち、図11A及び図11Bに示す従来の変位分布は、図11Aに示すように共振周波数の場合においては波の変位が高い部分が櫛形電極(領域32)付近に集中し、図11Bに示すように反共振周波数の場合においては波の変位が高い部分がSiO2膜(領域31)の表面付近に集中している。これに対して、図12A及び図12Bに示す本実施の形態の変位分布は、共振周波数の場合と反共振周波数の場合とにおいて波の変位が高い部分がいずれも櫛形電極(領域32)付近に集中している。よって、本実施の形態では、共振周波数と反共振周波数での波の変位(エネルギー)分布の違いが小さくなるために、温度特性の差が小さくなることがわかる。
【0025】
〔2.弾性波素子の製造方法〕
図13A〜図13Fは、弾性波素子の第1の製造方法を説明するための図である。なお、図1に示す構成と同一の構成については同一符号を付与した。まず、図13Aに示すように、圧電基板5上にSiO2膜21を形成する、次に、図13Bに示すように、SiO2膜21上において、最終的に櫛形電極2を形成しない部分にレジストパターン41を形成する。次に、図13Cに示すように、レジストパターン41で覆われていない部分のSiO2膜21を、例えばドライエッチングで除去する。次に、図13Dに示すように、Cu膜42を、例えば電子ビーム蒸着法などにより成膜する。ここで、図13Aに示す工程で成膜したSiO2膜21と、図13Bに示す工程で成膜したCu膜42との膜厚の差が、SiO2膜21の凹凸の高さHとなる。次に、図13Eに示すように、リフトオフ工法を用いてレジストパターン41とその上に堆積したCu膜42とを除去する。次に、図13Fに示すように、SiO2膜21及びCu膜42上に新たにSiO2膜を全面に成膜する。これにより、表面に凹状部21a及び凸状部21bが形成されたSiO2膜21を備えた弾性波素子を作製することができる。
【0026】
図14A〜図14Dは、弾性波素子の第2の製造方法を説明するための図である。まず、例えば特許文献2に開示されている方法を用いて、図14Aに示す素子を作製する。図14Aに示す素子は、圧電基板5上に櫛形電極2を形成し、櫛形電極2を覆うようにSiO2膜21が形成されているものであり、SiO2膜21の表面は平坦である。次に、図14Bに示すように、SiO2膜21の表面にレジストパターン41を形成する。次に、図14Cに示すように、ドライエッチングなどの腐食工法を用いて、櫛形電極2上のSiO2膜21を除去し、凹状部21aを形成する。この工程では、凹状部21aの深さ、すなわち凸高さHに相当する深さにSiO2膜21を除去する。次に、図14Dに示すように、レジストパターン41を除去する。
【0027】
ここで、図14Aに示す状態では、SiO2膜21の表面には凹凸が形成されていないが、櫛形電極2上のSiO2膜21が櫛形電極2間のSiO2膜21よりも厚い場合においても、図14Cに示す工程でのエッチング量を制御することによって、櫛形電極2間のSiO2膜21が厚い弾性波素子を作製することができる。
【0028】
第2の製造方法の方が、第1の製造方法よりも工程が少ないため、作製しやすくかつ製造コストを低く抑えることができる。
【0029】
〔3.バンドパスフィルタの構成〕
図15は、本実施の形態の弾性波素子を搭載したバンドパスフィルタの構成例を示す。図15に示すバンドパスフィルタ50は、圧電基板51上に、複数の共振器52と給電配線部53とを形成して構成されている。共振器52は、本実施の形態の弾性波素子で構成されている。給電配線部53は、入力端子53a、出力端子53b、接地端子53c及び53dを備えている。入力端子53aに入力される電気信号は、共振器52によって設定された共振周波数及び反共振周波数に基づいて濾波され、所定の周波数の電気信号を出力端子53bから出力される。なお、バンドパスフィルタ50は、フィルタ素子の一例である。
【0030】
本実施の形態の弾性波素子で構成された共振器52を搭載することによって、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が小さく、温度変動に対して特性が安定したバンドパスフィルタを実現することができる。
【0031】
〔4.通信モジュールの構成〕
図16は、本実施の形態の弾性波素子を備えた通信モジュールの一例を示す。図16に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bには、本実施の形態における弾性波素子、または弾性波素子を備えたバンドパスフィルタが含まれている。
【0032】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0033】
以上のように本実施の形態の弾性波素子を、通信モジュールの受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bに備えることで、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が小さく、温度変動に対して特性が安定した通信モジュールを実現することができる。
【0034】
なお、図16に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本発明の弾性波素子あるいはバンドパスフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0035】
〔5.通信装置の構成〕
図17は、本実施の形態の弾性波素子を備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図17に示す構成は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Divition Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図17に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a,77,78,79,80、および送信フィルタ73bには、本実施の形態における弾性波素子が含まれている。
【0036】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御する。
【0037】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0038】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御する。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0039】
以上のように、本実施の形態の弾性波素子を通信装置に備えることで、共振周波数の温度特性と反共振周波数の温度特性との差が小さく、温度変動に対して特性が安定した通信装置を実現することができる。
【0040】
〔6.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、SiO2膜21の表面に所定の高さを有する凸状部21bを形成したことにより、共振周波数と反共振周波数との周波数温度特性差、あるいはフィルタの通過帯域の高周波側と低周波側の両方の温度特性差を小さくすることができる。
【0041】
これを実現することで、例えば、通過帯域の高周波側と低周波側の両方が±5ppm/℃以内という、温度特性に非常に優れた弾性波素子を実現することができる。
【0042】
さらに、弾性波素子の温度が変動した場合にも、フィルタ特性が大きく変動することを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の弾性波素子は、所定周波数の信号を受信または送信することができる機器に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態における弾性波素子の構成を示す平面図
【図2】図1におけるZ−Z部分の断面図
【図3】実施の形態における弾性波素子を用いて有限要素法によるシミュレーションを行った時のモデル図
【図4】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図5】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図6】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図7】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図8】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図9】誘電体層の凸状部の高さと周波数温度特性差との関係を示す特性図
【図10】誘電体層の高さと、周波数温度特性差がゼロになる凹凸高さとの関係を示す特性図
【図11A】誘電体層の表面に凹凸を形成しない場合の波の変位分布を示すモデル図
【図11B】誘電体層の表面に凹凸を形成しない場合の波の変位分布を示すモデル図
【図12A】誘電体層の表面に凹凸を形成した場合の波の変位分布を示すモデル図
【図12B】誘電体層の表面に凹凸を形成した場合の波の変位分布を示すモデル図
【図13A】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13B】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13C】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13D】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13E】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図13F】実施の形態の弾性波素子の第1の製造工程の一部を示す断面図
【図14A】実施の形態の弾性波素子の第2の製造工程の一部を示す断面図
【図14B】実施の形態の弾性波素子の第2の製造工程の一部を示す断面図
【図14C】実施の形態の弾性波素子の第2の製造工程の一部を示す断面図
【図14D】実施の形態の弾性波素子の第2の製造工程の一部を示す断面図
【図15】実施の形態の弾性波素子を備えたフィルタ素子の構成を示す平面図
【図16】実施の形態のフィルタ素子を備えた通信モジュールの構成を示すブロック図
【図17】実施の形態の通信モジュールを備えた通信装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0045】
1 弾性波素子
2 櫛形電極
21 SiO2膜
21a 凹状部
21b 凸状部
5 圧電基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子であって、
前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さは、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きい、弾性波素子。
【請求項2】
前記圧電基板は、ニオブ酸リチウムあるいはタンタル酸リチウムで形成されている、請求項1記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記誘電体層は、酸化シリコンを主成分とする、請求項1記載の弾性波素子。
【請求項4】
前記櫛形電極は、前記誘電体層より大きな密度を有する材料で形成されている、請求項1記載の弾性波素子。
【請求項5】
前記櫛形電極は、銅あるいは銅を主成分とする合金を含む、請求項1記載の弾性波素子。
【請求項6】
入力電極と、前記入力電極を介して入力する電気信号のうち所定周波数の電気信号のみ通過させる共振器と、前記共振器を通過した電気信号を外部へ出力する出力電極とを備えたフィルタ素子であって、
前記共振器は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子で構成され、
前記弾性波素子は、
前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さが、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きく形成されている、フィルタ素子。
【請求項7】
請求項6に記載のフィルタ素子を備えた、通信モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の通信モジュールを備えた、通信装置。
【請求項1】
圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子であって、
前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さは、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きい、弾性波素子。
【請求項2】
前記圧電基板は、ニオブ酸リチウムあるいはタンタル酸リチウムで形成されている、請求項1記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記誘電体層は、酸化シリコンを主成分とする、請求項1記載の弾性波素子。
【請求項4】
前記櫛形電極は、前記誘電体層より大きな密度を有する材料で形成されている、請求項1記載の弾性波素子。
【請求項5】
前記櫛形電極は、銅あるいは銅を主成分とする合金を含む、請求項1記載の弾性波素子。
【請求項6】
入力電極と、前記入力電極を介して入力する電気信号のうち所定周波数の電気信号のみ通過させる共振器と、前記共振器を通過した電気信号を外部へ出力する出力電極とを備えたフィルタ素子であって、
前記共振器は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆うように前記圧電基板上に形成された誘電体層とを備えた弾性波素子で構成され、
前記弾性波素子は、
前記圧電基板上に形成された前記誘電体層の厚さが、前記櫛形電極の厚さと前記櫛形電極上に形成された前記誘電体層の厚さとの和より大きく形成されている、フィルタ素子。
【請求項7】
請求項6に記載のフィルタ素子を備えた、通信モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の通信モジュールを備えた、通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図13F】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図13F】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−147818(P2009−147818A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325099(P2007−325099)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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