説明

弾性波装置

【課題】平衡度の悪化を抑えつつ、フィルタの帯域内でのリップルの発生が抑えられる弾性波装置を提供する。
【解決手段】弾性波装置100は、第1〜第4の縦結合共振子型弾性波フィルタ110、120、130、140を備えている。第2のIDT132、142の電極指の合計本数はそれぞれ奇数である。そして、くし型電極132a及び142aは第2の平衡端子103に接続されており、くし型電極132b及び142bは第1の平衡端子102に接続されている。そして、第1の平衡端子102に接続されているくし型電極の電極指の合計本数と、第2の平衡端子103に接続されているくし型電極の電極指の合計本数は同じであることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ機能とともに平衡−不平衡変換機能を有する弾性波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機の小型化及び軽量化が進んでいる。そのため、携帯電話機では構成部品点数の削減、部品の小型化及び機能の複合化が進んでいる。上記のような状況に鑑み、携帯電話機のRF段に用いられる弾性波フィルタに、平衡−不平衡機能として、いわゆるバランの機能を持たせたものが種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1では、第1〜第3のIDTを有する縦結合共振子型弾性波フィルタが記載されている。特許文献1の弾性波フィルタは、第1〜第3のIDTのうち中央のIDTの電極指の合計本数が偶数であり、中央のIDTの一端及び他端にそれぞれ平衡端子が接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−84164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この構成ではIDTの電極指の合計本数が偶数であるため対称性が悪く、対称であれば励起されない反対称モードが励起されるため、フィルタの通過帯域内にリップルが発生するという問題がある。一方、中央のIDTの電極指の合計本数を奇数にすると、二つの平衡端子に接続される電極指の本数が異なるため、位相及び振幅の平衡度が悪くなるという問題がある。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、位相の平衡度の悪化を抑えつつ、フィルタの帯域内でのリップルが改善される弾性波装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る弾性波装置は、平衡−不平衡変換機能を有する弾性波装置であって、弾性波の伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTを有し、並列に接続されている第1及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタと、弾性波の伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTを有し、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタと縦続接続されている第3の縦結合共振子型弾性波フィルタと、弾性波の伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTを有し、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタと縦続接続されている第4の縦結合共振子型弾性波フィルタと、を備え、前記第1及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの前記第1〜第3のIDTのうち中央の第2のIDTの一端がそれぞれ不平衡端子に接続されており、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTの各一端と、第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTの各一端がそれぞれ接続されており、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTの各一端と、第4の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1,第3のIDTの各一端がそれぞれ接続されており、前記第3及び第4の縦結合共振子型弾性波フィルタにおいて、第2のIDTの電極指の合計本数はそれぞれ奇数であり、前記第2のIDTの一端および他端は前記第1及び第2の平衡端子に接続されており、前記第1の平衡端子に接続されているくし型電極の電極指の合計本数と、前記第2の平衡端子に接続されているくし型電極の電極指の合計本数が同じであることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係る弾性波装置では、弾性波として弾性表面波を用いることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る弾性波装置では、弾性波として弾性境界波を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、平衡度の悪化を抑えつつ、フィルタの帯域内でのリップルが改善された弾性波装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る弾性波装置を示す模式的な平面図である。
【図2】実験例の弾性波装置の一部を示す模式的な平面図である。
【図3】比較例の弾性波装置を示す模式的な平面図である。
【図4】実験例と比較例の弾性波装置の減衰量を示す図である。
【図5】実験例と比較例の周波数−振幅平衡度特性を示す図である。
【図6】実験例と比較例の周波数−位相平衡度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る弾性波装置を示す模式的な平面図である。図1には、圧電基板上に形成された電極構造が示されている。本実施形態では、圧電基板として、LiNbO3を用いている。なお、圧電基板としては、LiNbO3の他に、LiTaO3や水晶などを用いることができる。なお、図1においては、図を簡潔にするために、電極構造における電極指の本数は実際の構造よりも少なく示されている。電極は適宜の導電材料からなる。具体例としては、例えば、Al、Pt、Au、Cu、Ag、Ti、Ni、Crなどの金属、またはこれらの金属いずれかを主体とする合金などを適宜用いることができる。また、電極は、単一の導電膜により構成されていてもよいし、これらの金属もしくは合金からなる複数の金属膜を積層することにより構成されていてもよい。本実施形態では、電極は、積層導電膜により構成されている。具体的には、圧電基板に近い側から、Ti/Pt/Ti/AlCu/Tiのように構成されている。
【0014】
弾性波装置100は、不平衡端子101から入力される信号を第1の平衡端子102及び第2の平衡端子103へ出力したり、第1の平衡端子102及び第2の平衡端子103から入力される信号を不平衡端子101へ出力する、いわゆる平衡−不平衡変換機能を有する。そして、弾性波装置100は、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110と、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ120と、第3の縦結合共振子型弾性波フィルタ130と、第4の縦結合共振子型弾性波フィルタ140と、を備えている。そして、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ120は、互いに並列に接続されている。また、第3の縦結合共振子型弾性波フィルタ130は、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110に縦続接続されている。また、第4の縦結合共振子型弾性波フィルタ140は、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ120に縦続接続されている。
【0015】
第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110は、弾性波の伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDT111〜113を有している。また、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ120は、弾性波の伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDT121〜123を有している。第3の縦結合共振子型弾性波フィルタ130や第4の縦結合共振子型弾性波フィルタ140についても同様である。すなわち、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110、第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ120、第3の縦結合共振子型弾性波フィルタ130、及び第4の縦結合共振子型弾性波フィルタ140は、いずれも3IDT型である。これらのIDTは、くし形電極が互いに間挿し合うことにより、形成されている。なお、図示していないが、IDT111〜113の設けられている領域の弾性波の伝搬方向に沿った両側には、反射器が配置されている。第2〜第4の縦結合共振子型弾性波フィルタについても同様である。なお、これらの反射器は配置されなくともよい。
【0016】
第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110において、第2のIDT112のくし型電極112aは不平衡端子101に接続されている。また、くし型電極112bはグランドに接続されている。これらのくし形電極112aと112bとが互いに間挿し合うことにより、第2のIDT112が形成されている。本実施形態においては、IDTはこの第2のIDT112と同様に形成されている。また、第1のIDT111のくし型電極111aと、第3のIDT113のくし型電極113aはグランドに接続されている。不平衡端子101から入力された信号は、第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110を通過した後、くし型電極111b及び113bから同相の信号として出力される。
【0017】
第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ120においても同様であり、不平衡端子101から入力された信号は、くし型電極121b及び123bから同相の信号として出力される。
【0018】
第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110と第3の縦結合共振子型弾性波フィルタ130とが接続されている部分において、くし型電極111bとくし型電極131aが接続されており、くし型電極111bから出力された信号はくし型電極131aに供給される。また、くし型電極113bとくし型電極133aが接続されており、くし型電極113bから出力された信号はくし型電極133aに供給される。くし型電極131b及び133bはグランドに接続されている。
【0019】
くし型電極132aは、第2の平衡端子103と接続されており、くし型電極132bは第1の平衡端子102と接続されている。そして、くし型電極132a及び132bからは位相が180°反転した信号が出力される。第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ120及び第4の縦結合共振子型弾性波フィルタ140においても同様であり、くし型電極142a及び142bからは位相が180°反転した信号が出力される。
【0020】
本発明では、第2のIDT132の電極指の合計本数、すなわちくし型電極132a及び132bの電極指の合計本数は奇数である。同様に、第2のIDT142の電極指の合計本数も奇数である。そのため、電極指の合計本数を偶数にした場合に比べてIDTの対称性が良く、反対称モードが励起されないため、フィルタの通過帯域内のリップルの発生が抑えられる。
【0021】
また、第1の平衡端子102に接続されているくし型電極132b、142bの電極指の合計本数と、第2の平衡端子103に接続されているくし型電極132a、142aの電極指の合計本数が同じである。このように、第1の平衡端子102と第2の平衡端子103に接続されている電極指の本数を同じにすることで、平衡端子間の平衡度の低下を抑えることが可能である。
【0022】
ここで、平衡度とは、不平衡端子101と平衡端子102との間及び不平衡端子101と平衡端子103との間のそれぞれの通過帯域内における伝送特性が、振幅特性において等しくかつ位相が180°反転している度合いのことをいう。この振幅特性が等しい条件を振幅平衡度といい、位相の180°反転の程度を位相平衡度と呼んでいる。
【0023】
上記振幅平衡度及び位相平衡度は、平衡−不平衡変換機能を有する弾性波フィルタを、3ポートのデバイスと考え、例えば不平衡端子を入力端子としてポート1、平衡端子を出力端子としてそれぞれポート2,ポート3とした場合、以下のように定義される。
振幅平衡度=|A|、但し、A=|20logS21|−|20logS31|
位相平衡度=|B−180|、但し、B=|∠S21−∠S31|
なお、S21はポート1からポート2への伝達係数を、S31はポート1からポート3への伝達係数を示す。本実施形態においては、上記のように定義される平衡度の劣化を抑制することができる。
【0024】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。例えば、弾性波としては、弾性表面波を用いても良いし、弾性境界波を用いても良い。また、上記の実施形態ではいわゆる3IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタについて説明したが、5IDT型や、7IDT型にも本発明は適用可能である。
【0025】
(実験例)
実験例として、図1の構成に加えてトラップフィルタを設けた弾性波装置を作製した。図2は、実験例の弾性波装置の一部を示す模式的な平面図である。図2は、不平衡端子101と縦結合共振子型弾性波フィルタ110及び120との間の接続を示している。本実験例では、図2のように不平衡端子101と、くし型電極112a、122aの間にトラップフィルタ151を設けている。このトラップフィルタ151は、IDTを備えており、通過帯域外の減衰量を確保するために設けられている。トラップフィルタ151の詳細な設計は以下のとおりである。
交叉幅W :40.33λ
IDT本数 :105
IDT波長λ1 :1.8749μm
IDTデューティー :0.50
【0026】
第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ110及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ120の詳細な設計を以下に示す。IDTの電極指のうち、他のIDTとの境界付近に位置する電極指は、境界付近以外に位置する電極指に比べて波長が短くなっており、この波長が短い部分を狭ピッチ電極指部分と呼んでいる。なお、IDTの本数におけるカッコ内の数字は、狭ピッチ電極指部分の電極指の本数を示している。また、IDTの波長におけるカッコ内の数字は、狭ピッチ電極指部分の波長を示している。
交叉幅W :40λ
第1のIDT111、121の本数 :20(5)
第2のIDT112、122の本数 :(4)25(4)
第3のIDT113、123の本数 :(5)20
第1のIDT111、121の波長 :1.9704μm(1.8592μm)
第2のIDT112、122の波長 :(1.819μm)1.9719μm(1.819μm)
第3のIDT113、123の波長 :(1.8592μm)1.9704μm
IDTデューティー :0.50
反射器の本数 :30
反射器の波長 :2.034μm
反射器デューティー :0.50
【0027】
また、第3の縦結合共振子型弾性波フィルタ130及び第4の縦結合共振子型弾性波フィルタ140の詳細な設計を以下に示す。
交叉幅W :40λ
第1のIDT131、141の本数 :20(5)
第2のIDT132、142の本数 :(4)17(4)
第3のIDT133、143の本数 :(5)20
第1のIDT131、141の波長 :1.9728μm(1.8241μm)
第2のIDT132、142の波長 :(1.8572μm)1.9956μm(1.8572μm)
第3のIDT133、143の波長 :(1.8241μm)1.9728μm
IDTデューティー :0.50
反射器の本数 :60
反射器の波長 :2.0282μm
反射器デューティー :0.50
【0028】
(比較例)
図3は従来の弾性波装置を示す模式的な平面図である。比較例である弾性波装置500は、第2のIDT512、522、532、542の電極指の合計本数がそれぞれ34、34、24、24本であり、偶数である点が実験例と異なる。その他は実験例と同様の配置である。
【0029】
図4は実験例と比較例の弾性波装置の減衰量を示す図である。図4の実線は実験例のデータを示しており、二点鎖線は比較例のデータを示している。また、図4の実験結果の4つの曲線のうち、下の2つの曲線は、上の2つの曲線の通過帯域での減衰量を拡大して表示したものである。実験例と比較例のデータを比較すると、実験例では特に1890MHz近辺のリップルが大きく改善されていることが分かる。
【0030】
また、図5は実験例と比較例の周波数−振幅平衡度特性を示す図であり、図6は、周波数−位相平衡度特性を示す図である。どちらも1800〜1890MHzの帯域での平衡度を示している。図5及び図6をみると、振幅平衡度及び位相平衡度は、実験例と比較例で大きく変わらないことが分かる。従って、本発明の実験例の構成によれば、振幅平衡度と位相平衡度の低下を抑えつつ、フィルタの帯域内でのリップルが改善されることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0031】
100 弾性波装置
101 不平衡端子
102 第1の平衡端子
103 第2の平衡端子
110 第1の縦結合共振子型弾性波フィルタ
120 第2の縦結合共振子型弾性波フィルタ
130 第3の縦結合共振子型弾性波フィルタ
140 第4の縦結合共振子型弾性波フィルタ
111、121、131、141 第1のIDT
112、122、132、142 第2のIDT
113、123、133、143 第3のIDT
111a、111b、112a、112b、113a、113b、121a、121b、122a、122b、123a、123b、131a、131b、132a、132b、133a、133b、141a、141b、142a、142b、143a、143b くし型電極
151 トラップフィルタ
500 弾性波装置
501 不平衡端子
502、503 平衡端子
510、520、530 縦結合共振子型弾性波フィルタ
511、512、513、521、522、523、531、532、533、541、542、543 IDT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平衡−不平衡変換機能を有する弾性波装置であって、
弾性波の伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTを有し、並列に接続されている第1及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタと、
弾性波の伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTを有し、前記第1の縦結合共振子型弾性波フィルタと縦続接続されている第3の縦結合共振子型弾性波フィルタと、
弾性波の伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTを有し、前記第2の縦結合共振子型弾性波フィルタと縦続接続されている第4の縦結合共振子型弾性波フィルタと、
を備え、
前記第1及び第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの前記第1〜第3のIDTのうち中央の第2のIDTの一端がそれぞれ不平衡端子に接続されており、
第1の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1、第3のIDTの各一端と、第3の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1、第3のIDTの各一端がそれぞれ接続されており、
第2の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1、第3のIDTの各一端と、第4の縦結合共振子型弾性波フィルタの第1、第3のIDTの各一端がそれぞれ接続されており、
前記第3及び第4の縦結合共振子型弾性波フィルタにおいて、第2のIDTの電極指の合計本数はそれぞれ奇数であり、前記第2のIDTの一端および他端は前記第1及び第2の平衡端子に接続されており、
前記第1の平衡端子に接続されているくし型電極の電極指の合計本数と、前記第2の平衡端子に接続されているくし型電極の電極指の合計本数が同じである、弾性波装置。
【請求項2】
弾性波として弾性表面波を用いる、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
弾性波として弾性境界波を用いる、請求項1に記載の弾性波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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