説明

弾性表面波アクチュエータ

【課題】弾性表面波アクチュエータにおいて、スライダを略直線移動させることを可能とし、小型化と低消費電力化及び高効率化を可能とする
【解決手段】本アクチュエータ10は、弾性表面波を発生するステータ15を有するアクチュエータ本体16と、その表面に配置されたスライダ14とを備え、ステータ15の表面に発生させた弾性表面波によりスライダ14を移動させる。スライダ14に予圧を付与してステータ15に密着させる予圧部11を備え、予圧部11は、一端がアクチュエータ本体16に回動自在に軸支され、他端にスライダ14に接触して押圧する押圧部11aを備えた片持ち梁構造である。スライダ14は、ステータ15に対し略直線移動自在に保持され、押圧部11aは、スライダ14と滑り合う構造である。これにより、スライダを略直線移動させることができ、アクチュエータ10を小型化できると共に低消費電力で高効率にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性体の表面を伝播する弾性表面波(Surface Acoustic Wave: SAW)をステータに生成して、予圧によってステータに密着させたスライダを駆動する弾性表面波アクチュエータが知られている。例えば、特許文献1には、揺動アームに連結したスライダを弾性表面波によって揺動させるアクチュエータが記載されている。
【0003】
上記特許文献1に示される揺動アームを用いたアクチュエータは、スライダを直線移動させるものではない。図7及び図8は、スライダを直線移動させることができるアクチュエータを示す。アクチュエータ本体(ハウジング)56は、ステータ55を有し、高周波電圧をステータ55上の電極55Tに印加することによってステータ55に弾性表面波が生成される。アクチュエータ本体56に固定されたシャフト57の軸方向に直線移動自在となるようにステージ58が保持され、ステージ58に設けれらた貫通穴にスライダ54が回転しないように勘合される。ステータ55に生成した弾性表面波の駆動力をスライダ54に伝えるには、スライダ54の予圧が必要であり、スライダ54は、門型バネ51によって予圧が付与されてステータ55に密着する。ステータ55に生成した弾性表面波がスライダ54を駆動し、シャフト57の軸方向に直線移動させる。
【0004】
しかしながら、上述したようなアクチュエータ50では、門型バネ51のバネクランプ部51cにスライダ54の運動を阻害する動作抵抗が発生するので消費電力が大きく、低効率である。また、バネクランプ部51cの動作抵抗によって、スライダ付与される予圧がスライダの接触面に垂直にならず、接触面への予圧に不均等な圧力分布が生じ、アクチュエータ50が低効率となる。低効率を補償するためにアクチュエータ50の入力電力を上げるとアクチュエータ50が大型化する。さらに、アクチュエータ50は、門型バネ51の動作空間範囲が大きいので収納体積がさらに大きくなり、小型化が困難である。
【特許文献1】特開平9−233865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、スライダを略直線移動させることを可能とするアクチュエータにあって、小型化できると共に低消費電力で高効率な弾性表面波アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、弾性表面波を発生するステータを有するアクチュエータ本体と、前記ステータの表面に配置されたスライダと、を備え、前記ステータの表面に発生させた弾性表面波により前記スライダを前記ステータに対して移動させる弾性表面波アクチュエータにおいて、前記弾性表面波アクチュエータは、前記スライダに予圧を付与して該スライダを前記ステータに密着させる予圧部を備え、前記予圧部は、一端が前記アクチュエータ本体に回動自在に軸支され、他端に前記スライダに接触して押圧する押圧部を備えた片持ち梁構造であり、前記スライダは、前記ステータに対し略直線移動自在に保持され、前記押圧部は、前記スライダと滑り合う構造とされているものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記押圧部と前記スライダとは、互いに球面接触するように形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記予圧部は、無負荷時に曲がった形状であり、前記スライダへの予圧付与時に略平板形状の板バネであるものである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記予圧部は、該予圧部を軸支する回動軸に設けられた軸バネによって該軸方向に付勢され、該付勢力によって前記スライダに予圧を付与するものである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記スライダは、前記予圧部と前記ステータとの間に予圧を発生する押圧バネを備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、スライダを略直線移動自在に保持したので、スライダを略直線移動させることができる。また、スライダに予圧を付与する予圧部は、動作空間範囲が小さい。また、予圧部を回動自在としたので、スライダの動作抵抗が一定かつ小さい。従って、弾性表面波アクチュエータを小型化できると共に低消費電力で高効率にできる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、予圧部とスライダが互いに球面接触するので、予圧部からスライダの接触面への押圧力の伝達が均等になり、弾性表面波アクチュエータを高効率にできる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、予圧部をスライダへの予圧付与時に略平板形状になる板バネとしたので、スライダ付与される予圧がスライダの接触面に垂直になり、弾性表面波アクチュエータを高効率にできる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、スライダ付与される予圧がスライダの接触面に垂直になるので、弾性表面波アクチュエータを高効率にできる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、スライダ付与される予圧がスライダの接触面に垂直になるので、弾性表面波アクチュエータをさらに高効率にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータ(以下、アクチュエータという)について図1及び図2を参照して説明する。アクチュエータ10は、弾性表面波を発生するステータ15が、ハウジングとしてのアクチュエータ本体16の表面に固定されている。ステータ15は、圧電材料などから成る基板であり、例えば、LiNbO(ニオブ酸リチウム)のような圧電体そのものから成る基板である。また、ステータ15は、非圧電体の表面に圧電体薄膜、例えば、PZT薄膜(鉛、ジルコニウム、チタン合金薄膜)などを形成したものでもよく、その圧電体薄膜の表面部分において、弾性表面波が生成される。ステータ15は、弾性表面波を生成するため電極15Tを表面に有する。電極15Tは、離間して対向する一対の交差指電極(Interdigital transducer: IDT)であり、外部電源(図示せず)に電気的に接続される。アクチュエータ10には、ステータ15の表面にスライダ14が配置される。
【0017】
アクチュエータ10は、スライダ14に予圧を付与してスライダ14をステータ15に密着させる予圧部11を備える。予圧部11は、片持ち梁構造であり、例えば、板バネである。アクチュエータ本体16には、回動軸18が立設されおり、予圧部11は、一端が回動軸18を介してアクチュエータ本体16に回動自在に軸支される。この回動の回り対偶は、予圧部11と回動軸18との間であっても、回動軸18とアクチュエータ本体16との間であってもよい。予圧部11は、他端にスライダ14に接触して押圧する押圧部11aを備える。押圧部11aは、スライダ14と滑り合う構造としている。
【0018】
スライダ14は、予圧部11に接触して予圧が付与されるブロック142と、ステータ15に接触するスライダ本体144と、ブロック142とスライダ本体144との間に力を均等に伝える予圧均等材143とを有する。アクチュエータ本体16には、その表面に対して平行な軸(X軸方向)を有するシャフト17が設けられており、シャフト17には、直線移動自在にステージ19が設けられている。スライダ14は、ステージ19に設けられた貫通穴に貫装され、ステータ15の表面に対して垂直(Z軸方向)に保持される。スライダ14とステージ19との組み合わせにおいて、スライダ14は、ステータ15に対する垂直方向(Z軸方向)には変位自在であるが、その垂直軸(Z軸)を回転軸とする回転はしない形状、例えば、四角柱などの多角柱となっている。スライダ14は、シャフト17の軸方向(X軸方向)に移動する際、予圧部11の回転軌跡分シャフトに直交する方向(Y軸方向)にも移動する。この移動を考慮して、貫通穴の形状が定められる。従って、スライダ14は、ステータ15に対しシャフト17の軸方向(X軸方向)に略直線移動自在に保持される。
【0019】
上記構成において、電極15Tに外部電源から高周波(例えば、MHz帯)電圧を印加することにより、電気的エネルギーが波の機械的エネルギーに変換されて、ステータ15の表面にレイリー波と呼ばれる弾性表面波が生成される。スライダ14に付与された予圧によって、スライダ本体144とステータ15との接触面に摩擦力が発生し、この摩擦力によって弾性表面波の駆動力がスライダ本体144に伝達され、スライダ本体144が駆動される。スライダ本体144に接合されている予圧均等材143とブロック142は、スライダ本体144と共に移動する。スライダ本体144は、ステータ15に密着して動作するので、ステータ15のうねりや変形を受けるが、このうねりや変形を予圧均等材143の変形により吸収する。予圧部11の押圧部11aは、スライダ14のブロック142と滑り合う構造であり、ブロック142は、予圧部11と自在結合される。ブロック142が移動すると、予圧部11は、回動軸18を中心にZ軸回転方向に移動する。この移動中も、予圧部11は、ブロック142に予圧を付与している。スライダ14の移動に従い、ステージ19は、シャフト17の軸方向(X軸方向)に移動する。このようにして、アクチュエータ10は、ステータ15の表面に発生させた弾性表面波によりスライダ14をステータ15に対して略直線移動させる。
【0020】
予圧部11は、上記のように回動軸18を中心に移動する片持ち梁構造であるので、動作空間範囲が小さい。また、予圧部11を回動自在としたので、スライダ14の動作抵抗が一定かつ小さい。従って、アクチュエータ10を小型化できると共に低消費電力で高効率にできる。
【0021】
予圧部11において、スライダ14を押圧する押圧部11aと、スライダ14とは、互いに球面接触するように形成されていることが好ましい。押圧部11aに接触するスライダ14のブロック142に球面142aを設け、それを押圧部11aに形成した凹球面形状と合わせることで、スライダ14と押圧部11aが互いに球面接触し、スライダ14と予圧部11が自在結合される。
【0022】
予圧部11とスライダ14がこのように球面接触するので、予圧部11からスライダ14の接触面への押圧力の伝達が均等になり、弾性表面波アクチュエータ10をさらに高効率にできる。
【0023】
次に、本実施形態の変形例に係る弾性表面波アクチュエータについて図3及び図4を参照して説明する。本変形例のアクチュエータ20は、予圧部である板バネ21に特徴がある。図4に示すように、板バネ21は、アクチュエータ20から取り外した無負荷状態では曲がった形状であり、回動軸18の軸方向に取り外した場合、スライダ14の方向に曲がっている。図3に示すように、板バネ21がアクチュエータ20に取り付けられた予圧付与時に、板バネ21は、略平板形状となる。
【0024】
アクチュエータ20は、予圧部をスライダ14への予圧付与時に略平板形状になる板バネ21としたので、スライダ14に付与される予圧がスライダ14のステータ15との接触面に垂直になり、接触面に大きな圧力分布が生じず、高効率にできる。また、板バネ21が使用時に平板である分、アクチュエータ20の厚み(Z軸方向の厚み)を低減して小型化できる。
【0025】
次に、本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについて図5を参照して説明する。予圧部31は、予圧部31を軸支する回動軸38に設けられた軸バネ31Sによって該軸方向に付勢される。例えば、回動軸38は、軸方向に変位自在にアクチュエータ本体16に支持され、回動軸38に設けられた軸バネ31Sによってアクチュエータ本体16に対して付勢される。予圧部31は、軸バネ31Sによって回動軸38の軸方向に付勢され、軸バネ31Sによる付勢力によってスライダ14に予圧を付与する。その他の構成は、第1の実施形態のアクチュエータ10と同様である。
【0026】
予圧部31の片持ち梁構造は、スライダ14に対して垂直な状態を保って、スライダ14に予圧を付与するので、スライダ14に付与される予圧がスライダ14の接触面に垂直になり、接触面に大きな圧力分布が生じず、アクチュエータ30を高効率にできる。
【0027】
次に、本発明の第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについて図6を参照して説明する。本実施形態のスライダ44は、予圧部41とステータ15との間に予圧を発生する押圧バネ41Sを備える。スライダ44は、予圧部41に接触するブロック442と、ステータ15に接触するスライダ本体444と、ブロック442とスライダ本体444との間に力を均等に伝える予圧均等材443とを有する。予圧部41は、片持ち梁構造の押え部材として、スライダ44のブロック442を押える。予圧均等材443は、例えば、ブロック142及びスライダ本体444よりも小断面とし、外周に押圧バネ41Sが設けられる。押圧バネ41Sがブロック442とスライダ本体444との間に弾性力を発生し、予圧部41とステータ15との間に予圧を発生する。その他の構成は、第1の実施形態のアクチュエータ10と同様である。
【0028】
本実施形態のアクチュエータ40は、スライダ44に予圧を付与する押圧バネ41Sを設けたので、スライダ44に付与される予圧がスライダ44の接触面に垂直になり、接触面に大きな圧力分布が生じず、高効率にできる。
【0029】
なお、本発明は、上記各実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、第2の実施形態において、軸バネをアクチュエータ本体16の裏面側に設ける代わりに、回動軸38の先端部と予圧部31との間に設ける構成にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの平面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】同アクチュエータの変形例の断面図。
【図4】同変形例の板バネを外した状態の断面図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの断面図。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの断面図。
【図7】門型バネを備えた弾性表面波アクチュエータの平面図。
【図8】図7のB−B線断面図。
【符号の説明】
【0031】
10、20、30、40 弾性表面波アクチュエータ
11 予圧部
14 スライダ
15 ステータ
16 アクチュエータ本体
21 板バネ
31S 軸バネ
41S 押圧バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を発生するステータを有するアクチュエータ本体と、
前記ステータの表面に配置されたスライダと、を備え、
前記ステータの表面に発生させた弾性表面波により前記スライダを前記ステータに対して移動させる弾性表面波アクチュエータにおいて、
前記弾性表面波アクチュエータは、前記スライダに予圧を付与して該スライダを前記ステータに密着させる予圧部を備え、
前記予圧部は、一端が前記アクチュエータ本体に回動自在に軸支され、他端に前記スライダに接触して押圧する押圧部を備えた片持ち梁構造であり、
前記スライダは、前記ステータに対し略直線移動自在に保持され、
前記押圧部は、前記スライダと滑り合う構造とされていることを特徴とする弾性表面波アクチュエータ。
【請求項2】
前記押圧部と前記スライダとは、互いに球面接触するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項3】
前記予圧部は、無負荷時に曲がった形状であり、前記スライダへの予圧付与時に略平板形状の板バネであることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項4】
前記予圧部は、該予圧部を軸支する回動軸に設けられた軸バネによって該軸方向に付勢され、該付勢力によって前記スライダに予圧を付与することを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項5】
前記スライダは、前記予圧部と前記ステータとの間に予圧を発生する押圧バネを備えることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−159665(P2009−159665A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332066(P2007−332066)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】