説明

弾性表面波デバイス

【課題】IDTの抵抗を低減させ、挿入損失を改善することが可能な弾性表面波デバイスを提供する。
【解決手段】圧電基板2と、圧電基板2上に設けられたIDT3と、IDT3を形成する互いに対向した複数の櫛型電極4及び10の各々と電気的に接続され、複数の櫛型電極4及び10を形成する複数の電極指6及び12の少なくとも一部を覆うように、IDT3の上に設けられた複数のブリッジ16及び20と、を具備する弾性表面波デバイスである。IDTの抵抗を低減させ、挿入損失を改善することが可能な弾性表面波デバイスを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性表面波デバイスに関し、特に圧電基板上に櫛型電極を設けた構造の弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板上に櫛型電極からなるIDT(Inter Digital Transducer)を備えた弾性表面波デバイスは、デュプレクサ、バンドパスフィルタ等として、携帯電話に代表される移動体通信機器に広く用いられている。近年の情報化社会の進展に伴い、弾性表面波デバイスには挿入損失の低減や周波数特性の改善が要求されている。
【0003】
特許文献1には、配向させたAlにより配線を形成することで、電気抵抗が低く、かつマイグレーション耐性の高い配線を形成する技術が開示されている。
【特許文献1】特許第2937613号公報
【0004】
従来の技術について説明する。図1(a)は従来例に係る弾性表面波デバイス100を示す斜視図であり、図1(b)は電極指6の先端部分(図1(a)中の点線で囲まれた部分)の拡大図である。
【0005】
図1(a)に示すように、例えば42°回転YカットLiTaO(42°Y−LiTaO)からなる圧電基板2の上に、例えばAl等の金属からなるIDT3が設けられている。IDT3は互いに対向する櫛型電極4、及び櫛型電極10からなる。櫛型電極4はバスバー8と、バスバー8から延出した電極指6とで形成されている。同様に、櫛型電極10はバスバー14と電極指12とで形成されている。櫛型電極4及び10の端子間に電気信号が入力されると、電極指6及び12により弾性波が励振され、通過帯域の周波数を有した電気信号が出力される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来例において説明したような弾性表面波デバイスでは、IDT3自体が有する電気抵抗により、通過帯域の挿入損失が増大する。IDT3の抵抗は電極指6及び12の抵抗rからなる。
【0007】
図1(b)に示すように、電極指6の膜厚をh、幅をd、図1(a)に示すように電極指6と電極指12との交差幅をWとすると、電極指6の抵抗rはr=ρ・W/(d・h)と表される。電極指12についても同様である。すなわち、抵抗rは電極指の断面積d・hに反比例する。このように、従来の弾性表面波デバイスには、IDT自体が抵抗を有することにより、通過帯域の挿入損失が増大するという課題があった。
【0008】
挿入損失を改善させるために、IDTを形成する材料として、例えばAu、Ag、Cu等といった抵抗率ρの小さな金属を使用することが検討されている。しかし、これらの金属の使用には、加工の難しさや、これらの金属が高価であることによるコストアップという課題がある。また、複数のIDTを並列に接続することも検討されているが、弾性表面波デバイスの小型化に適しないという課題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、IDTの抵抗を低減させ、挿入損失を改善することが可能な弾性表面波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられたIDTと、前記IDTを形成する互いに対向した複数の櫛型電極の各々と電気的に接続され、前記複数の櫛型電極を形成する複数の電極指の少なくとも一部を覆うように、前記IDTの上に設けられた複数の導体と、を具備することを特徴とする弾性表面波デバイスである。本発明によれば、IDTの抵抗を低減させ、弾性表面波デバイスの挿入損失を改善することが可能となる。
【0011】
上記構成において、前記複数の導体の各々は、前記複数の電極指の各々の上に設けられた接続導体を介して、前記複数の櫛型電極の各々と電気的に接続されている構成とすることができる。この構成によれば、電極指の断面積を増大させることができるため、IDTの抵抗を低減することができる。
【0012】
上記構成において、前記接続導体は、前記導体と前記電極指とが重なる領域の少なくとも一部に設けられている構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数の電極指の各々の上に設けられた前記接続導体の各々は、単数の導体とすることができる。この構成によれば、電極指の断面積を増大させることができるため、IDTの抵抗を低減することができる。
【0014】
上記構成において、前記複数の電極指の各々の上に設けられた前記接続導体の各々は、複数の柱状の導体とすることができる。この構成によれば、電極指の断面積を増大させることができるため、IDTの抵抗を低減することができる。
【0015】
上記構成において、前記複数の導体は、互いに電気的に接続されていない構成とすることができる。この構成によれば、対向した櫛型電極間の導通を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、IDTの抵抗を低減させ、挿入損失を改善することが可能な弾性表面波デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0018】
図2(a)は実施例1に係る弾性表面波デバイス200を示す斜視図であり、図2(b)は図2(a)中の矢印Aの方向から見た側面図である。図1(a)と同様の構成については説明を省略する。また、ブリッジ16を透視して図示している。
【0019】
図2(a)及び図2(b)に示すように、IDT3の上には、電極指6及び12の一部を覆うように、例えばAl等の金属からなるブリッジ16及び20(導体)が設けられている。ブリッジ16は、櫛型電極4を形成する複数の電極指6の各々の上に設けられた接続導体18を介して、櫛型電極4と電気的に接続されている。接続導体18は、ブリッジ16と電極指6とが重なる領域に設けられた、例えばAl等の金属からなる複数の柱状の導体である。同様に、ブリッジ20は、櫛型電極10を形成する複数の電極指12の各々に設けられた複数の柱状の接続導体22を介して、櫛型電極10と電気的に接続されている。電極指6とブリッジ16との間の接続導体18が設けられていない部分、電極指12とブリッジ20との間の接続導体22が設けられていない部分、電極指6とブリッジ20との間、及び電極指12とブリッジ16との間は、各々空隙である。ブリッジ16とブリッジ20とは離間して配置されている。すなわち、ブリッジ16とブリッジ20とは電気的に接続されていない。これにより、櫛型電極4と櫛型電極10との導通を防止することができる。
【0020】
実施例1によれば、電極指6及び12に、接続導体18、22、ブリッジ16及び20を接続することにより、電極指6及び12の断面積を増大させることができる。従来例において説明したように、IDT3の抵抗rは電極指の断面積に反比例する。従って、電極指6及び12に、接続導体18、22、ブリッジ16及び20を接続することにより、抵抗rを低減することができ、弾性表面波デバイスの挿入損失を改善することが可能となる。
【0021】
次に、実施例1を用いた場合の抵抗の計算結果について説明する。図3(a)は計算に用いた弾性表面波デバイスを示す上面図であり、図3(b)は等価回路を示す模式図である。図4は抵抗値の計算結果を示す図である。計算の手法として、汎用的な3次元電磁界解析ツールを用いた。また、図3(a)においては、ブリッジ16及び20を網掛けで示し、かつ透視している。
【0022】
図3(a)に示すように、櫛型電極4のバスバー8に端子24が、櫛型電極10のバスバー14に端子26が各々接続されており、端子24及び26の端子間に電気信号を印加する。圧電基板2は42°Y−LiTaOから形成され、IDT3、接続導体18及び22、ブリッジ16及び20は、全てAlで形成されている。Alの膜厚、すなわち電極指6及び12、接続導体18及び22、ブリッジ16及び20各々の厚さは、0.18μmである。電極指6及び12の幅dは0.5μm、隣接する電極指6と電極指12との間のピッチpは1μm、交差幅Wは50μmである。電極指6及び12の合計本数は45本である。また、接続導体18及び22は柱(円柱)状であり、直径は0.5μmである。ブリッジ16は電極指6のバスバー8に近い領域、ブリッジ20は電極指12のバスバー14に近い領域を覆うように、各々設けられている。ブリッジ16とブリッジ20との間の距離をsとする。
【0023】
図3(b)に示すように、図3(a)の弾性表面波フィルタは電気信号に対して、容量成分Cと抵抗成分Rとを有する等価回路として表現でき、以下に説明する計算結果は、周波数を変化させた際の抵抗成分Rである。
【0024】
図4に示すように、横軸は周波数、縦軸は抵抗値を表す。図中の点線で示した従来例では、全周波数帯域において、抵抗成分Rは約0.70Ωとなった。それに対し、実施例1においてブリッジ間の距離をs=10μmとした場合には、破線で示すように、抵抗成分Rは約0.34Ωであり、抵抗は従来例の半分程度となった。さらに、s=0.5μmとした場合には、実線で示すように、抵抗成分Rは約0.3Ωとなり、抵抗をさらに低減することができた。
【0025】
この結果が示すように、実施例1によれば、抵抗を従来例の半分程度に低減することが可能となり、ブリッジ16とブリッジ20との間隔を狭めることで、抵抗をさらに低減することができた。また、接続導体18、22、ブリッジ16及び20はAlで形成することができるため、加工が容易であり、かつ安価である。従って、弾性表面波デバイスのコストアップを抑制することができる。さらに、複数のIDTを接続することなく、一つのIDTのみで抵抗を低減することができるため、弾性表面波デバイスの小型化が可能となる。
【0026】
図2(a)から図3においては、接続導体18及び22を円柱としたが、複数の柱状の導体であれば、円柱に限定されない。
【0027】
実施例1の変形例として、接続導体の形状を変化させた例について説明する。図5は、実施例1の変形例に係る弾性表面波デバイスの電極指6の先端部付近を拡大した斜視図である。
【0028】
図5に示すように、電極指12とブリッジ20とを接続する接続導体28は、電極指12とブリッジ20とが重なる領域の一部に設けられた単数の導体である。図示は省略するが、電極指6とブリッジ16とを接続する接続導体も同様の構成である。図5においては、接続導体28は電極指12とブリッジ20とが重なる領域の一部に設けられているが、その領域の全体に設けられていてもよい。
【0029】
このように、接続導体は複数の柱状の導体に限られず、電極指とブリッジとが重なる領域の少なくとも一部に設けられた、単数の導体とすることができる。
【実施例2】
【0030】
実施例2は、複数の弾性表面波デバイスを並列接続し、従属接続した弾性表面波フィルタにおいて、従来例に係る弾性表面波デバイスを使用した場合と、実施例1に係る弾性表面波デバイスを使用した場合とで周波数特性を計算し比較した例である。図6(a)は実施例2に係る弾性表面波フィルタを示す上面図であり、図6(b)は各弾性表面波デバイスの構成を示す模式図である。なお、図6(b)及び後述の図7においてはブリッジ及び接続導体を省略して図示している。
【0031】
図6(a)に示すように、42°Y−LiTaOからなる圧電基板2の上に、入力端子30、出力端子32、接地端子34、弾性表面波デバイス210、220、230及び240が設けられている。各弾性表面波デバイスは図中の網掛けで示した部分である。図6(b)に示すように、各弾性表面波デバイスは、中心に位置するIDT37、その両側に配置されたIDT36、三つのIDTの両側に配置された反射器35により構成されたダブルモードフィルタであり、この例では1.9GHz帯フィルタを用いた。櫛型電極の電極指の上には、接続導体及びブリッジが設けられている。IDT、各弾性表面波デバイス及び端子を接続する配線31(図中の斜線で示した部分)、入力端子30、出力端子32、接地端子34、ブリッジ及び接続導体は、全てAlで形成されている。
【0032】
図7は、図6(a)の弾性表面波デバイス210に係る部分(図6(a)中の点線で囲まれた部分)の拡大図を示したものである。図7に示すように、各IDTを形成する櫛型電極の一方、及び反射器35は、配線31により各々接地端子34に接続されている。また、入力端子30が配線31により中心に位置するIDT37に接続されている。入力端子30からIDT37に入力された電気信号により弾性表面波が励振され、IDT36から弾性表面波デバイス230及び240へと出力される。各弾性表面波デバイスについても同様の構成である。
【0033】
図6(a)に示すように、入力端子30から入力された電気信号により、弾性表面波デバイス210及び220において弾性波が励振される。励振された弾性波は電気信号に変換され、弾性表面波デバイス230及び240の両側に位置するIDT36に入力し、ここで再び弾性波が励振される。最終的に、通過帯域の周波数を有した電気信号が、弾性表面波デバイス230及び240の中心に位置するIDT37から出力端子32へと出力される。すなわち、弾性表面波フィルタ400は、2個のダブルモードフィルタが並列接続され、同時に2個のダブルモードフィルタが縦列接続された、不平衡入力端子、不平衡出力端子を備えた弾性表面波フィルタである。
【0034】
計算に用いたパラメータを説明する。Alの膜厚hは各々0.18μmである。IDTの電極指間のピッチpは1.02μm、電極指の幅dは0.51μm、交差幅Wは50μmであり、各弾性表面波デバイスは45対の電極指を有している。ブリッジ間の距離sは0.5μmである(図3参照)。
【0035】
図8(a)は計算結果を示す図であり、図8(b)は通過帯域の拡大図である。横軸は周波数、縦軸は減衰量を表す。図8(a)及び図8(b)に示すように、点線で示した従来例では、減衰量が1960MHzにおいて−1.537dB、1944MHzにおいて−2.165dBとなった。これに対し、実線で示した実施例2では、1960MHzにおいて−1.475dB、1944MHzにおいて−2.027dBとなった。このように、本発明を利用した弾性表面波フィルタにより、従来技術と比較して挿入損失を約0.1dB改善することができた。
【0036】
実施例2においては、弾性表面波デバイスをダブルモードフィルタとしたが、ダブルモードフィルタ以外の弾性表面波フィルタであってもよい。
【実施例3】
【0037】
実施例3はブリッジの位置を変更した例である。図9は実施例3に係る弾性表面波フィルタを示す斜視図である。なお、ブリッジ16を透視して図示している。
【0038】
図9に示すように、ブリッジ16が電極指6の先端付近に、ブリッジ20が電極指12の先端付近に、各々設けられている。この構成によっても、実施例1同様に電極指6及び12の断面積を増大させることができるため、IDT4及び10の抵抗を低減することができる。
【0039】
実施例3によれば、図4の計算で用いたものと同じパラメータ、及びブリッジ間の距離s=0.5μmの条件下で抵抗成分Rを計算した結果、2GHzにおいてR=0.6Ωとなり、従来例のR=0.7Ωから14%程度抵抗を低減することができた。
【0040】
ブリッジは、実施例1及び2のように、電極指のバスバー付近に設けた場合、実施例3のように電極指の先端付近に設けた場合、どちらの場合においても抵抗を低減することができた。
【0041】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1(a)は従来例に係る弾性表面波デバイス100を示す斜視図であり、図1(b)は電極指の先端部分の拡大図である。
【図2】図2(a)は実施例1に係る弾性表面波デバイス200を示す斜視図であり、図2(b)は側面図である。
【図3】図3は実施例1に係る弾性表面波デバイス200を示す平面図である。
【図4】図4はIDTの抵抗値を計算した結果を示す図である。
【図5】図5は実施例1の変形例に係る弾性表面波デバイスの電極指12の先端部を拡大した斜視図である。
【図6】図6(a)は実施例2に係る弾性表面波フィルタ250を示す上面図であり、図6(b)は各弾性表面波デバイスの構成を示す模式図である。
【図7】図7は図6(a)中の弾性表面波デバイス210に係る部分の拡大図である。
【図8】図8(a)は実施例2に係る弾性表面波フィルタ250の周波数特性の計算結果を示す図であり、図8(b)は通過帯域の拡大図である。
【図9】図9は実施例3に係る弾性表面波デバイス300を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
圧電基板 2
IDT 3
櫛型電極 4、10
電極指 6、12
バスバー 8、14
ブリッジ 16、20
接続導体 18、22、28
弾性表面波デバイス 100、200、210、220、230、240、300
弾性表面波フィルタ 250

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられたIDTと、
前記IDTを形成する互いに対向した複数の櫛型電極の各々と電気的に接続され、前記複数の櫛型電極を形成する複数の電極指の少なくとも一部を覆うように、前記IDTの上に設けられた複数の導体と、を具備することを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記複数の導体の各々は、前記複数の電極指の各々の上に設けられた接続導体を介して、前記複数の櫛型電極の各々と電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記接続導体は、前記導体と前記電極指とが重なる領域の少なくとも一部に設けられていることを特徴とする請求項2記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記複数の電極指の各々の上に設けられた前記接続導体の各々は、単数の導体であることを特徴とする請求項2または3記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記複数の電極指の各々の上に設けられた前記接続導体の各々は、複数の柱状の導体であることを特徴とする請求項2または3記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
前記複数の導体は、互いに電気的に接続されていないことを特徴とする請求項1から5いずれか一項記載の弾性表面波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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