説明

弾性表面波フィルタ及び弾性表面波デバイス

【課題】LBO基板からなる圧電基板上にIDTを形成したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて周波数温度特性を向上させる。
【解決手段】カット面及びSAW伝搬方向がオイラー角(φ,θ,ψ)表示でφ=(27.15±8.35°)+90°×n、(但し、n=0〜3)又はφ=(62.85±8.35°)+90°×n、(但し、n=0〜3)、θ=90±7.5°、及びψ=90±12°であるLi247からなる圧電基板2上に、レイリーSAWを励振する一方向性の入力用及び出力用IDT3,4をSAW伝搬方向に沿って配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四硼酸リチウムからなる圧電基板を用いた弾性表面波(SAW)デバイス、特にトランスバーサル型の弾性表面波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、情報通信の分野において、SAWを利用したフィルタ等のSAWデバイスが広く利用されている。特に携帯電話や無線LAN等の無線通信では、大容量のデータを高速で伝送するために、広帯域で低挿入損失の特性、急峻な減衰特性を有するSAWフィルタが要求されている。最近は、従来のSTカット水晶板よりも広帯域な特性を有する四硼酸リチウム(Li2B4O7)からなる圧電基板(以下、LBO基板という)を用いたSAWフィルタが実用化されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
しかしながら、LBO基板は、周波数温度特性がSTカット水晶板に比して相当劣るという問題がある。従来使用されている45°回転XカットZ伝搬LBO基板は、SAW装置を構成した場合に、群遅延温度特性の頂点温度が使用温度範囲の中心より高温側にずれるという欠点がある。特許文献1記載のSAW装置は、LBO基板の切り出し角及びSAW伝搬方向をオイラー角表示で(φ,θ,ψ)としたとき、φ=40〜50°、θ=70〜85°、ψ=85〜95°の範囲に設定することによって、群遅延時間温度特性を改善している。
【0004】
特許文献2は、45°回転XカットZ伝搬LBO基板からなる圧電基板上にIDT電極を備え、一次温度係数が零、二次温度係数が負のSAWデバイスを、圧電基板の線膨張係数より大きな線膨張係数を有する材料で形成したパッケージに収容し、JIS−A30より硬度の大きな接着剤で接着固定する構成を開示している。同文献によれば、このように圧電基板とパッケージと接着剤との組合せにより、二次温度係数を改善して周波数温度特性を改善することができる。
【0005】
また、45°回転XカットZ伝搬LBO基板は、レーリーSAWを主モードとして用いたとき、横波を主成分としたバルク波によるスプリアスが高域側に生じ、周波数応答を劣化させるという問題がある。特許文献3記載のトランスバーサル型SAWフィルタは、SAWの実効的な波長をλ0として、IDTの電極膜厚を1.57%λ0超かつ2%λ0以下とし、中心周波数を500MHz以下とすることにより、LBO基板を使用した場合でもバルクスプリアスを抑圧することができる。
【0006】
他方、一般にトランスバーサル型SAWフィルタは、フィルタの挿入損失が大きいという欠点を有する。挿入損失を改善するために、SAWの励振方向を一方向にする一方向性電極をIDTに用いる方法が知られている(例えば、特許文献3,4を参照)。一方向性電極の1つとして、例えばIDTが励振するSAW1波長分の基本区間に3つの電極指を配置したDART電極がよく利用されている。
【0007】
特許文献3には、IDTのSAW1波長λ0分の基本区間に幅λ0/8の2本の電極指と幅0.26〜0.33λ0の1本の反射電極指とを組み合わせて配置し、その電極膜厚を1.0〜2.0%λ0にした一方向性電極が記載されている。また、特許文献3には、方向性の異なる3つのグループのDART電極を組み合わせて、IDT内部に幾つかの局所的な共振キャビティを生じさせ、IDT全体として一方向性を持たせた内部共振型一方向性変換器を用いたトランスバーサル型SAWフィルタが記載されている。
【0008】
更に、特許文献4は、IDTのSAW1波長分の基本区間に第1の励振電極、第1の短絡型浮き電極、第2の短絡型浮き電極、第1の開放型浮き電極、第2の励振電極、第3の短絡型浮き電極、第4の短絡型浮き電極、第2の開放型浮き電極を配置し、第1の励振電極と第2の励振電極との中心間距離をλ/2とし、励振電極の反射波を打ち消すように第2及び第4の短絡型浮き電極を配置して励振効率を高め、かつ第1及び第3の短絡型浮き電極と第1及び第2の開放型浮き電極とにより正負反射型反射エレメントを構成して反射量を高めることにより、高い一方向性が得られるSAWデバイスを提案している。また、特許文献4には、正電極指と負電極指との中心からずらして開放型浮き電極と短絡型浮き電極とを配置し、励振中心と反射中心の位相差をλ/8に近づけることにより一方向性SAW変換器として機能させるようにした浮き電極型内部反射一方向性変換器が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−139652号公報
【特許文献2】特開2004−328260号公報
【特許文献3】特開2007−214943号公報
【特許文献4】特開2006−157536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来のLBO基板を用いたSAWデバイスは、その多くが圧電基板として45°回転XカットZ伝搬LBO基板を前提に構成されている。特許文献1は、LBO基板のカット面及びSAW伝搬方向について言及しており、オイラー角表示(φ,θ,ψ)の回転角θをパラメータとして群遅延時間温度特性の頂点温度の変化を検討した結果、これを変えることで頂点温度を常温まで下げられると記載されている。しかしながら、それ以外の回転角をパラメータとする検討結果は記載されていない。そこで本願発明者は、SAWデバイス、特にSAWフィルタにLBO基板を用いた場合に、そのカット面と周波数温度特性との関係を様々に検討した。
【0011】
多くの場合、LBO基板のカット面及びSAW伝搬方向を特定するために、オイラー角表示が使用される。オイラー角表示(φ,θ,ψ)とは、図10に示すように、四硼酸リチウム(Li2B4O7)の直交する3つの結晶軸をX軸、Y軸、Z軸として、Z軸を中心にX軸及びY軸を+X軸側から+Y軸側へ角度φ回転させてX´軸、Y´軸とし、X´軸を中心にZ軸及びY´軸を+Y´軸側から+Z軸側へ角度θ回転させてZ´軸、Y''軸とし、Z´軸を中心にX´軸及びY''軸を+X´軸側から+Y''軸側へ角度ψ回転させてX''軸及びY'''軸とする新しい座標軸(X'',Y''',Z´)において、元の座標軸のXY面10をこのように回転させたX''Y'''面11をカット面として切り出し、X''軸をSAW伝搬方向とする場合をいう。従って、45°回転XカットZ伝搬LBO基板は、オイラー角表示で(45°,90°,90°)と表す。
【0012】
先ず、従来の45°回転XカットZ伝搬LBO基板について、周波数温度特性を検討した。図11は、このLBO基板を用いたトランスバーサル型のSAWフィルタを、特許文献2に記載されるようにJIS−A45より硬い接着剤でパッケージに接着固定した場合に、温度変化に対する周波数変動量を測定したものである。この場合の頂点温度は、14℃であった。一般的なSAWデバイスの動作温度範囲は−40℃〜+85℃であるから、その中心温度は頂点温度から相当ずれており、温度変化による周波数変動が大きいことが分かる。
【0013】
次に、0°回転XカットZ伝搬LBO基板について、周波数温度特性を検討した。図12は、このLBO基板を用いたトランスバーサル型のSAWフィルタを、同じくJIS−A45より硬い接着剤でパッケージに接着固定した場合に、温度変化に対する周波数変動量を測定したものである。この場合の頂点温度は、69℃であった。一般的なSAWデバイスの動作温度範囲は−40℃〜+85℃であるから、その中心温度は頂点温度から大きくずれており、温度変化による周波数変動が非常に大きいことが分かる。
【0014】
更に本願発明者は、前記DART構造の一方向性電極を有するIDTを備えるトランスバーサル型のSAWフィルタについて、IDTを構成する電極の膜厚と頂点温度及び2次温度係数を測定した。その結果を図13(A)(B)に示す。同図から、一方向性SAWフィルタの場合、電極膜厚に対する頂点温度及び2次温度係数の変化は不規則であることが分かる。これから、一方向性SAWフィルタにおいて、IDTの電極膜厚によってその周波数温度特性を調整することは困難である。従って、一方向性SAWフィルタは、使用するLBO基板のカット角を検討することが、周波数温度特性を改善するために有効かつ必要と考えられる。
【0015】
また、SAWが伝搬方向に沿って両方向に励振する双方向性のIDTを有するSAW共振子について、IDTを構成する電極の膜厚と頂点温度及び2次温度係数を測定した。その結果を図14(A)(B)に示す。同図から、双方向性のSAW共振子や共振子型のSAWフィルタの場合、電極膜厚に対して頂点温度及び2次温度係数は略線形的に変化することが分かる。これから、双方向性のSAWデバイスは、IDTの電極膜厚によってその周波数温度特性を調整することは可能である。
【0016】
そこで、LBO基板を用いたトランスバーサル型のSAWフィルタを、同じくJIS−A45より硬い接着剤でパッケージに接着固定した場合に、LBO基板のオイラー角表示(φ,θ,ψ)の回転角φが周波数温度特性に及ぼす影響をシミュレーションした。図15(A)は、回転角φに対する2次温度係数の変化を、図15(B)は、回転角φに対する頂点温度の変化を示している。両図から分かるように、回転角φが大きくなるほど、2次温度係数が負側に大きくなり、回転角φが小さくなるほど、頂点温度が高くなる傾向を示している。
【0017】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、その目的は、LBO基板からなる圧電基板上にIDTを形成したトランスバーサル型のSAWフィルタにおいて、LBO基板のカット面及びSAW伝搬方向をオイラー角表示(φ,θ,ψ)で最適の範囲に設定することによって、要求される動作温度範囲における周波数変動量を小さくするように、周波数温度特性を向上させることにある。
【0018】
また、SAWフィルタ等のSAWデバイスにおいて、使用する圧電基板を切り出すカット角を変えた場合、SAWの伝搬方向がSAWのパワーフローの方向に対して斜めになることがある。SAWの伝搬角度によってその伝搬速度が大きく変化する圧電基板では、励振したSAWの一部が回折現象を起こして斜めに伝搬する虞がある。このように斜めに伝搬する不要なSAWは、Q値や挿入損失の劣化を生じたり、特許文献3に記載されるようなバルク波による横モードのスプリアスを生じ、SAWデバイスの特性を劣化させることになる。
【0019】
そこで、本発明の別の目的は、LBO基板からなる圧電基板上にIDTを形成したSAWフィルタ、SAW共振子等のSAWデバイスにおいて、LBO基板のカット面及びSAW伝搬方向をオイラー角表示(φ,θ,ψ)で最適の範囲に設定することによって、SAWのパワーフローの方向に対して斜めに伝搬する不要波によるQ値又は挿入損失の劣化、スプリアスの発生等、特性の劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願発明者は、上記目的を達成するため、四硼酸リチウム(Li2B4O7)からなる圧電基板のカット面及びSAW伝搬方向と周波数温度特性との関係をシミュレーションしかつ検討した。その結果、要求される動作温度範囲に対して周波数温度特性を良好に向上させ得るLBO基板のカット面及びSAW伝搬方向を見出し、本発明を案出するに至ったものである。
【0021】
本発明によれば、上記目的を達成するために、四硼酸リチウム(Li2B4O7)からなる圧電基板上に、それぞれ一方向性電極を有する2つ以上のIDTを、該IDTにより励振されるレイリーSAWの伝搬方向に沿って配置したSAWフィルタであって、圧電基板のカット面及びSAW伝搬方向が、オイラー角(φ,θ,ψ)表示でφ=(27.15±8.35°)+90°×n、(但し、n=0〜3)又はφ=(62.85±8.35°)+90°×n、(但し、n=0〜3)、θ=90±7.5°、及びψ=90±12°であるSAWフィルタが提供される。
【0022】
このようなカット面及びSAW伝搬方向のLBO基板上に一方向性電極のIDTを形成することによって、要求される動作温度範囲に対して、頂点温度を好適な範囲内に設定しかつ周波数変動量を少なくし、周波数温度特性を向上させることができる。
【0023】
或る実施例では、一方向性電極として、励振されるSAWの1波長当り3本の電極指から構成される、一般にDARTと呼ばれる電極構造を有するものをIDTに使用することができ、IDTの設計が容易な点で有利である。
【0024】
本発明の別の側面によれば、四硼酸リチウム(Li2B4O7)からなる圧電基板上に1つ以上のIDTを、該IDTにより励振されるレイリーSAWの伝搬方向に沿って配置したSAWデバイスであって、圧電基板のカット面及びSAW伝搬方向が、オイラー角(φ,θ,ψ)表示で5°+(90°×n)≦φ<21°+(90°×n)、(但し、n=0〜3)又は69°+(90°×n)<φ≦85°+(90°×n)、(但し、n=0〜3)であるSAWデバイスが提供される。
【0025】
このようなカット面及びSAW伝搬方向のLBO基板上にIDTを形成することによって、SAWのパワーフローの方向に対してSAWが斜めに伝搬する回折現象を小さくし、Q値又は挿入損失の劣化、スプリアスの発生等によるSAWデバイスの特性劣化を抑制することができる。
【0026】
或る実施例では、前記IDTが、例えば励振されるSAWの1波長当り3本の電極から構成される、一般にDARTと呼ばれる構造の一方向性電極を有することにより、特性劣化を抑制したトランスバーサル型のSAWフィルタを構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用したトランスバーサル型SAWフィルタの典型例を示している。このSAWフィルタ1は、Li2B4O7からなる細長い矩形の圧電基板2を有する。圧電基板2上には、それぞれ1対の交差指電極3a,3b,4a,4bからなる入力用IDT3及び出力用IDT4が、SAWの伝搬方向に沿って形成されている。入力用IDT3は、入力端子5からの入力信号によりレイリーSAWを励振する。出力用IDT4は、圧電基板2表面を伝搬したSAWを検出して出力端子6から外部に出力する。
【0028】
前記各IDTは、DART構造と呼ばれる一方向性電極で構成されている。入力用IDT3について説明すると、前記一方向性電極は、該IDTにより励振されるSAWの1波長λ0分の基本区間に3本の電極指M1〜M3が配置されている。各電極指M1〜M3は異なる電極指幅に、例えば図中左側から順に3λ0/8、λ0/8、λ0/8に設定する。これにより、SAWを図中右側へ強く励振することができる。別の実施例では、上述した従来技術に記載されるように、公知の様々な電極構造の一方向性電極で前記各IDTを構成することができる。また、別の実施例では、前記各IDTについてその一部だけを一方向性電極で構成することもできる。
【0029】
圧電基板2は、そのカット面及びSAW伝搬方向がオイラー角(φ,θ,ψ)表示でφ=27.15±8.35°又はφ=62.85±8.35°、θ=90±7.5°、及びψ=90±12°のLBO基板で形成されている。よく知られるように、Li2B4O7は正方晶系であり、Z軸方向に4回回転軸を持つので、或るカット面の基板とそれをZ軸周りに90°、180°又は270°回転させた基板は同じ物性を有する。従って、本実施例の圧電基板2は、X軸の回転角φを、(27.15±8.35°)+90°×n、(但し、n=1〜3)、即ち117.15±8.35°、207.15±8.35°、297.15±8.35°とした場合、又は、φ=(62.85±8.35°)+90°×n、(但し、n=1〜3)、即ち152.85±8.35°、242.85±8.35°、332.85±8.35°とした場合にも、同じ効果が得られる。
【0030】
図2は、図1のSAWフィルタ1において、圧電基板2の回転角φに関する頂点温度の変化を所定の近似式でシミュレーションした結果を示している。SAWフィルタ1の一般的な動作温度範囲は−40℃〜+85℃であるから、その中間値である22.5℃が頂点温度の最適値であり、好ましい頂点温度範囲は、製造誤差等を考慮して22.5℃±7.5℃である。この頂点温度の範囲に対応する回転角φの範囲は、本シミュレーション結果から、18.8°≦φ≦35.5°即ち27.15°±8.35°、及び、54.5°≦φ≦71.2°即ち62.85±8.35°であると認められる。
【0031】
図3は、図1のSAWフィルタ1において、圧電基板2の回転角をφ=27.15°、ψ=90°とした場合に、回転角θに関する頂点温度の変化を所定の近似式でシミュレーションした結果を示している。同様に、SAWフィルタ1の一般的な動作温度範囲−40℃〜+85℃において頂点温度の最適値は22.5℃であり、好ましい頂点温度範囲は22.5℃±7.5℃である。この頂点温度範囲に対応する回転角θの範囲は、本シミュレーション結果から、82.5°≦φ≦97.5°即ち90°±7.5°と認められる。
【0032】
図4は、図1のSAWフィルタ1において、圧電基板2の回転角をφ=27.15°、θ=90°とした場合に、回転角ψに関する頂点温度の変化を所定の近似式でシミュレーションした結果を示している。同様に、SAWフィルタ1の一般的な動作温度範囲−40℃〜+85℃において頂点温度の最適値は22.5℃であり、好ましい頂点温度範囲は22.5℃±7.5℃である。この頂点温度範囲に対応する回転角ψの範囲は、本シミュレーション結果から、78°≦φ≦102°即ち90°±12°と認められる。
【0033】
このように圧電基板2を形成するLBO基板のカット角を設定することによって、SAWフィルタ1は、一般的な動作温度範囲において頂点温度を好適な範囲内に設定することができる。従って、従来の45°XカットZ伝搬LBOよりも、温度変化に対する周波数変動を小さく抑制でき、好ましい温度特性が得られる。
【0034】
20°回転XカットZ伝搬LBO基板、即ちカット面及び弾性表面波伝搬方向がオイラー角(φ,θ,ψ)表示で(20,90,90)のLBO基板を用い、JIS−A45より硬い接着剤でパッケージに接着固定した図1のSAWフィルタ1の周波数温度特性をシミュレーションした。図5は、その温度変化に関する周波数変動量を示している。頂点温度は29℃、2次温度係数は−0.145ppm/℃2であった。この結果から、本発明によれば、頂点温度が適切な範囲内に設定され、動作温度範囲内における周波数変動量が改善されて、良好な周波数温度特性を得られることが確認された。
【0035】
また、このSAWフィルタをJIS−A30の柔らかい接着剤でパッケージに接着固定し、その周波数温度特性をシミュレーションしたところ、頂点温度は27℃、2次温度係数は−0.295ppm/℃2であった。この結果から、本発明のSAWフィルタをパッケージに固定する接着剤は硬い方が良いことが分かる。
【0036】
更に、図1のSAWフィルタ1について、一般的な動作温度範囲−40℃〜+85℃において、圧電基板2の回転角φに関する温度係数の変化を所定の近似式でシミュレーションした。その結果を図6に示す。本シミュレーション結果から、回転角φが12.5≦φ≦40.8の範囲において、温度係数は7.3ppm/℃未満であった。特に、18.2≦φ≦35.1°の範囲において、温度係数は5.84ppm/℃未満であった。これに対し、従来の45°回転XカットZ伝搬LBO基板では、温度係数が−8.8ppm/℃であり、特許文献2には、周波数変動量が7.3ppm/℃であったと報告されている。従って、本発明によれば、前記動作温度範囲において従来よりも非常に優れた温度係数及び周波数変動量を実現することができる。
【0037】
また、圧電基板2のLBO基板のカット角を変えたことが、SAWの回折現象、即ちSAWのパワーフローの方向に対するSAWの斜め伝搬にどのような影響を及ぼすかを検討した。SAWの斜め伝搬の起こり易さは、圧電基板の異方性定数によって評価することができる。一般に異方性定数が大きい圧電基板は、SAWの伝搬速度が伝搬角によって大きく変化し、SAWの斜め伝搬が起こり易い傾向がある。
【0038】
図1のSAWフィルタ1について、圧電基板2の回転角φに関する異方性定数を所定の近似式でシミュレーションした。その結果を図7に示す。更に、本発明による20°回転XカットZ伝搬LBO基板を用いたSAWフィルタについて、相対伝搬角に関するスローネス(SAW伝搬速度の逆数)の変化をシミュレーションした結果を図8に示す。また、比較例として、従来の45°回転XカットZ伝搬LBO基板を用いたSAWフィルタについて、相対伝搬角に関するスローネス(SAW伝搬速度の逆数)の変化をシミュレーションした結果を図9に示す。
【0039】
図7から分かるように、回転角φが約15°の場合に異方性定数γが1となる。回転角φ=20°のLBO基板は、異方性定数γが約1.15で、図8から分かるように、スローネスが略一定であり、伝搬角が変化してもSAW伝搬速度の変化が小さいことを示している。このようにSAW伝搬速度の変化が小さいLBO基板を用いたSAWデバイスは、SAWの波の一部が斜めに伝搬する不要波を生じ難い。
【0040】
これに対し、回転角φ=45°である従来のLBO基板は、異方性定数γが1.7で、図9から分かるように、スローネスが伝搬角によって大きく湾曲した曲線を示しており、SAW伝搬速度の変化が大きいことを示している。このように伝搬角によってSAW伝搬速度が大きく変化するLBO基板を用いたSAWデバイスは、SAWの波の一部が斜めに伝搬する不要波となり易い。その結果、Q値又は挿入損失の劣化や横モードのスプリアスを生じ、SAWデバイスの特性を劣化させることになる。
【0041】
本発明では、これらのシミュレーション結果から、SAW伝搬速度の変化が小さい異方性定数の範囲を1.00±0.15に設定する。この異方性定数の範囲に対応する回転角φの範囲は、5°≦φ<21°、又は69°<φ≦85°となる。
【0042】
上述したように、Li2B4O7は正方晶系であり、Z軸方向に4回回転軸を持つので、或るカット面の基板とそれをZ軸周りに90°、180°又は270°回転させた基板は同じ物性を有する。従って、好適な異方性定数範囲に対応する回転角φの範囲も、圧電基板2のX軸の回転角φを、5°+(90°×n)≦φ<21°+(90°×n)、(但し、n=1〜3)、即ち95≦φ<111、185≦φ<201、275≦φ<291とした場合、又は、69°+(90°×n)<φ≦85°+(90°×n)、(但し、n=1〜3)、即ち159<φ≦175、249<φ≦265、339<φ≦355とした場合にも、同じ効果が得られる。
【0043】
本発明によれば、このように異方性定数の範囲を設定したLBO基板を用いたSAWデバイスは、伝搬方向から傾斜して伝搬する不要波を生じ難い。従って、SAWの斜め伝搬によるQ値又は挿入損失の劣化や横モードのスプリアスを生じないので、SAWデバイスの特性劣化を抑制することができる。更に、このSAWデバイスは、トランスバーサル型の一方向性SAWフィルタに限定されるものでなく、SAW共振子、共振子型SAWフィルタ、その他のSAWデバイスにも、同様に適用することができる。
【0044】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、図1のSAWフィルタは、上記実施例以外の様々なIDT電極構造を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明を適用したトランスバーサル型SAWフィルタの典型例を示す平面図。
【図2】図1のSAWフィルタにおいてLBO基板の回転角φに関する頂点温度の変化をシミュレーションした結果を示す線図。
【図3】図1のSAWフィルタにおいてLBO基板の回転角θに関する頂点温度の変化をシミュレーションした結果を示す線図。
【図4】図1のSAWフィルタにおいてLBO基板の回転角ψに関する頂点温度の変化をシミュレーションした結果を示す線図。
【図5】20°回転XカットZ伝搬LBO基板を用いた図1のSAWフィルタにおいて温度変化に関する周波数変動量を測定した結果を示す線図。
【図6】図1のSAWフィルタにおいてLBO基板の回転角φに関する温度係数の変化をシミュレーションした結果を示す線図。
【図7】図1のSAWフィルタにおいてLBO基板の回転角φに関する異方性定数の変化をシミュレーションした結果を示す線図。
【図8】20°回転XカットZ伝搬LBO基板を用いた図1のSAWフィルタにおいて相対伝搬角に関するスローネス曲線のシミュレーション結果を示す線図。
【図9】45°回転XカットZ伝搬LBO基板を用いた図1のSAWフィルタにおいて相対伝搬角に関するスローネス曲線のシミュレーション結果を示す線図。
【図10】オイラー角表示の説明図。
【図11】45°回転XカットZ伝搬LBO基板を用いたトランスバーサル型SAWフィルタにおいて温度変化に対する周波数変動量を示す線図。
【図12】0°回転XカットZ伝搬LBO基板を用いたトランスバーサル型SAWフィルタにおいて温度変化に対する周波数変動量を示す線図。
【図13】(A)(B)図は、一方向性電極のIDTを備えるトランスバーサル型SAWフィルタにおいて電極膜厚に関する頂点温度及び2次温度係数を測定した結果をそれぞれ示す線図。
【図14】(A)(B)図は、双方向性のIDTを有するSAW共振子において電極膜厚に関する頂点温度及び2次温度係数を測定した結果をそれぞれ示す線図。
【図15】(A)図は、LBO基板を用いたトランスバーサル型SAWフィルタにおいて回転角φに対する2次温度係数の変化を、(B)図は、回転角φに対する頂点温度の変化をそれぞれ示す線図。
【符号の説明】
【0046】
1…SAWフィルタ、2…圧電基板、3…入力用IDT、3a,3b,4a,4b…交差指電極、4…出力用IDT、5…入力端子、6…出力端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四硼酸リチウム(Li247)からなる圧電基板上に、それぞれ一方向性電極を有する2つ以上のIDTを、前記IDTにより励振されるレイリー弾性表面波の伝搬方向に沿って配置した弾性表面波フィルタであって、
前記圧電基板のカット面及び弾性表面波伝搬方向が、オイラー角(φ,θ,ψ)表示でφ=(27.15±8.35°)+90°×n、(但し、n=0〜3)又はφ=(62.85±8.35°)+90°×n、(但し、n=0〜3)、θ=90±7.5°、及びψ=90±12°であることを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
前記一方向性電極が前記弾性表面波の1波長当り3本の電極指から構成されることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
四硼酸リチウム(Li247)からなる圧電基板上に1つ以上のIDTを、前記IDTにより励振されるレイリー弾性表面波の伝搬方向に沿って配置した弾性表面波デバイスであって、
前記圧電基板のカット面及び弾性表面波伝搬方向が、オイラー角(φ,θ,ψ)表示で5°+(90°×n)≦φ<21°+(90°×n)、(但し、n=0〜3)又は69°+(90°×n)<φ≦85°+(90°×n)、(但し、n=0〜3)であることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記IDTが一方向性電極を有することを特徴とする請求項3記載の弾性表面波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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