説明

弾性表面波素子、デバイス基板及びその製造方法

【課題】弾性表面波素子において、圧電基板に対するアブソーバの接合強度を向上させることができる弾性表面波素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】弾性表面波素子1は、圧電基板10上に入力側櫛形電極12と、その電極に接続されている入力側電極パッド16と、出力側櫛形電極20と、その電極に接続されている出力側電極パッド24及び、圧電基板10の両端部には、不要な弾性表面波を吸収又は減衰させるアブソーバ28と、が設けられている。さらに、圧電基板10上にAl層によるベース部32を形成し、ベース部の上にAl23膜33を形成し、その上に吸収材29が接合するようにアブソーバ28を形成する。結合強度を高めたこのアブソーバ28によって、信号検出における不要な弾性表面波をより多く減衰させることでフィルタ特性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子に関し、特に、圧電基板上に少なくとも一つ設けられた櫛形電極と、圧電基板及び櫛形電極によって励起される弾性表面波のうち、不要な弾性表面波を減衰させるアブソーバと、を有する弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線通信機に用いられる弾性表面波素子には、周波数特性を改善する目的で不要な弾性表面波を減衰させるアブソーバを圧電基板に有するものがある。このアブソーバは、弾性表面波が伝搬される方向の伝搬領域外に配置されている。アブソーバが設けられた弾性表面波素子を製造する場合には、圧電材料のウエハ上で樹脂のシルク印刷を行い、その後、ウエハのダイシングを行って弾性表面波素子を得る。
【0003】
例えば、特許文献1で示される弾性表面波装置では、所望の周波数特性となるインパルス応答を形成する入力用のすだれ状電極及び出力用のすだれ状電極を圧電基板上に配置し、すだれ状電極の二つの最端交差部で発生する不要励振の受信側の電極における応答をそれぞれ等しくするための補助電極と、弾性表面波装置の表面に保護マスクを位置合わせした後、保護マスクの上から吸収材を塗布することにより形成されるアブソーバと、を有する弾性表面波装置の技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−232681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、携帯電話の更なる小型化が要求されている。このため、圧電基板を小さくすると共に、圧電基板上にアブソーバを配置する領域も小さくすることが望まれるようになった。しかし、特許文献1の技術では、シルク印刷によるアブソーバの形成であるため、小型化が難しい。また、圧電基板上に形成するアブソーバを小さくすると、圧電基板に対するアブソーバの接合強度が低下し、例えば、ダイシング工程等の後工程において、アブソーバが圧電基板から剥がれやすくなってしまうという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、圧電基板に対するアブソーバの接合強度を向上させることができる弾性表面波素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る弾性表面波素子は、圧電基板上に少なくとも一つ設けられた櫛形電極と、櫛形電極によって励起される弾性表面波のうち不要な弾性表面波を減衰させるアブソーバと、を有する弾性表面波素子において、アブソーバを配置する基板上にアルミニウム層を形成し、アルミニウム層の表面を酸化処理して酸化膜を形成し、形成された酸化膜の上に感光性樹脂を用いてアブソーバを形成すると共に、その酸化膜と接合させたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る弾性表面波素子において、アブソーバを配置するアルミニウム層は、一方向又はその方向とは異なる方向に別のライン状の溝が形成されたアルミニウム層であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るデバイス基板は、基板上にアルミニウム層が形成され、アルミニウム層の上に感光性樹脂によって形成された部品を配置したデバイス基板において、アルミニウム層の表面を酸化処理して酸化膜を形成し、その酸化膜の上に感光性樹脂による部品を接合させたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る弾性表面波素子を製造する方法において、アブソーバを配置する基板上にアルミニウム層を配置し、アルミニウム層の表面を酸化処理して酸化膜を形成する酸化処理工程と、形成された酸化膜の上に感光性樹脂を用いてアブソーバを形成するアブソーバ形成工程と、を含み、アブソーバ形成工程は、形成されたアブソーバと酸化膜とを接合させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明を用いることにより、圧電基板に対するアブソーバの接合強度を向上させた弾性表面波素子及びその製造方法を提供することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0013】
図1(a)は、弾性表面波フィルタとして機能する弾性表面波素子1の概要構成を示し、図1(b)は弾性表面波素子1のアブソーバ28の断面である断面A−Aを示している。弾性表面波素子1は、圧電基板10上に入力側櫛形電極12と、その電極に接続されている入力側電極パッド16と、出力側櫛形電極20と、その電極に接続されている出力側電極パッド24及び、圧電基板10の両端部には、不要な弾性表面波を吸収又は減衰させるアブソーバ28と、が設けられている。
【0014】
弾性表面波素子1は、弾性表面波フィルタとして機能し、入力側電極パッド16から入力された電気信号が入力側櫛形電極12に印加される。印加された電気信号は、圧電基板10と入力側櫛形電極12の電極ピッチに対応する波長の弾性表面波を励振する。励振された弾性表面波は、圧電基板10上を伝搬して出力側櫛形電極20により電気信号に変換される。このとき、変換された電気信号は、入力側櫛形電極12と出力側櫛形電極20の櫛形電極ピッチに対応する帯域の電気信号として検出され、出力側電極パッド24から取り出されることになる。(以下、説明の都合上、入出力に関する櫛形電極12,20及び電極パッド16,24と略す。)
【0015】
アブソーバ28は、圧電基板10の両端部に感光性樹脂によるフォトリソグラフィー技術によって形成されている。感光性樹脂には、ポジ型感光性樹脂とネガ型感光性樹脂等があり、ネガ型感光性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等がある。本実施形態においては、エポキシ系ネガ型感光性樹脂である化薬マイクロケム社製SU−8(登録商標)を用いた。このアブソーバ28によって、信号検出における不要な弾性表面波の乱反射を減衰させることができるので、フィルタ特性を向上することができる。
【0016】
(第1の実施形態)
図2(a)−(c)は、図1の断面A−Aから見た断面であり、弾性表面波素子1に用いられる基本的なアブソーバ28の形成工程を示す。図2に示すように、本実施形態で特徴的なことは、(a)圧電基板10上にAl層によるベース部32を形成し、(b)ベース部の上に酸化膜であるAl23膜33を形成し、さらに、(c)その上に吸収材29が接合するようにアブソーバ28を形成したことである。これは、例えば水晶などの圧電材料による圧電基板又はAl層と感光性樹脂との接合力に対して、Al23膜と感光性樹脂との接合力が大きいため、このような構成とすることで、接合強度を高めることが可能となる。
【0017】
本実施形態で用いたSU−8は、硬化する際にエポキシ樹脂の親和性官能基とAl23膜の酸化被膜との親和性が高いため、強い接合となる。また、酸化処理の一例を表1に示す。表1に示すように、アルミニウム上にAl23膜等の酸化膜を形成する方法として、陽極酸化処理の他に、プラズマ酸化処理、熱酸化処理、及び、スパッタリング処理等があり、これらの酸化膜形成方法を適時選択することも可能である。
【表1】

【0018】
次に、弾性表面波素子1を製造する製造工程を説明する。図3は、弾性表面波素子1の製造工程の順序を示すフローチャートである。本実施形態に係る弾性表面波素子1は、レジストパターン形成工程S10と、金属層形成工程S12と、リフトオフ工程S14と、アブソーバ形成工程S16と、ダイシング工程S20と、により製造することができる。
【0019】
また、図4(a)−(c)の製造工程は、図3のレジストパターン形成工程S10から不要なパターンをレジストにより浮かせて形成するリフトオフ工程S14までの三つの工程を示す。さらに図4は、図4(c)に示す櫛形電極12,20、電極パッド16,24、及びアブソーバを配置するベース部32をリフトオフ法により形成する方法を示している。なお、図4では、説明の便宜上詳細な形状の図示を省略している。
【0020】
最初に、図3のレジストパターン形成工程(S10)では、図4(a)の圧電基板10上にレジスト層44を塗布し、フォトリソグラフィー技術を使用して櫛形電極12,20及び電極パッド16,24の領域46と、アブソーバを形成するアブソーバ領域48と、のレジスト層44を除去することで、マスキングのためのレジストパターンを形成する(図4(a))。
【0021】
次に、図3の金属層形成工程(S12)では、櫛形電極12,20と、電極パッド16,24、及びベース部32と、を構成する金属材料を、例えば、蒸着法を用いて堆積させることで、圧電基板10上に金属層を形成する(図4(b))。図4(b)では、まず、Ti層50を形成し、その上にAl層52を形成した場合を示している。なお、本実施形態では2種類の金属材料で形成したが、この処理に限定するものではなく、1種類の金属材料の層を形成してもよい。
【0022】
次に、図3のリフトオフ工程(S14)では、レジスト溶剤を用いてレジストにより浮かせて形成した金属層をレジスト層44とその上のTi層50及びAl層52と共に除去する(図4(c))。以上、上述した処理により、櫛形電極12,20、電極パッド16,24、及びアブソーバを配置するベース部32を形成する。
【0023】
(第2の実施形態)
次に、図3のアブソーバ形成工程(S16)では、図1と図2に示したアブソーバ28と異なる第2の実施形態を、図5と図6とを用いて説明する。なお、図5は弾性表面波素子のアブソーバの形成工程の流れを示し、図6は弾性表面波素子のアブソーバの形成工程を示している。
【0024】
図5のアブソーバ形成工程におけるレジストパターン形成工程(S30)では、図6(a)の圧電基板10上にレジスト層44を塗布し、フォトリソグラフィー技術を使用して弾性表面波の伝搬方向と交差する方向に複数の溝を形成するためにレジスト層44を除去することで、マスキングのためのレジストパターンを形成する(図6(a))。
【0025】
次に、図5のエッチング工程(S32)では、レジスト層44をマスキングとしてAl層をエッチングにより、深さ約0.1μmの溝を加工する(図6(b))。次に、図5の陽極酸化工程(S34)では、例えば、2%ホウ酸アンモニウム水溶液を用いて、溝加工したAl層上にAl23膜33を形成する(図6(c))。最後に、図5の吸収材形成工程(S36)では、Al23膜33の上にSU−8の感光性樹脂を塗布して紫外線により硬化させることで、アブソーバ28を形成する(図6(d))。以上でアブソーバ形成工程が終了する。
【0026】
次に、図3のダイシング工程(S20)では、図示しないダイシングラインに沿って圧電基板(ウエハ)10をチップ単位に切断する。以上の工程によって、図3の弾性表面波素子1の製造工程が終了し、弾性表面波フィルタである弾性表面波素子1がチップ単位ごとに製造される。
【0027】
(第3の実施形態)
また、図3のアブソーバ形成工程(S16)では、上述した第2の実施形態と異なる工程(第3の実施形態)で行うことも可能である。図7は弾性表面波素子のアブソーバの形成工程の流れを示し、図8は弾性表面波素子のアブソーバの形成工程を示している。第3の実施形態で特徴的なことは、溝加工を行うエッチング工程の前後に陽極酸化工程を行うことでより機械的な結合を高めることである。
【0028】
図7のアブソーバ形成工程におけるレジストパターン形成工程(S40)では、図8(a)の圧電基板10上にレジスト層44を塗布し、フォトリソグラフィー技術を使用して弾性表面波の伝搬方向と交差する方向に複数の溝を形成するためにレジスト層44を除去することで、マスキングのためのレジストパターンを形成する(図8(a))。
【0029】
次に、図7の陽極酸化工程(S42)では、レジスト層44をマスキングとしてAl層上に、例えば、2%ホウ酸アンモニウム水溶液を用いて、Al層上にAl23膜33を形成する(図8(b))。
【0030】
次に、図7のエッチング工程(S44)では、陽極酸化工程(S42)で形成されたAl23膜をマスキングとし、エッチングにより、Al層に深さ約0.1μmの溝を加工する(図8(c))。次に、図7の陽極酸化工程(S46)では、陽極酸化工程(S42)で形成されたAl23膜33をマスキングとして、例えば、2%ホウ酸アンモニウム水溶液を用いて、Al層上にAl23膜33を形成する(図8(d))。最後に、Al23膜の上にSU−8の感光性樹脂を塗布して紫外線により硬化させることで、アブソーバ28を形成する(図8(e))。以上でアブソーバ形成工程が終了する。
【0031】
さらに、図9は、別の弾性表面波素子1の概要構成を示す。本実施形態で特徴的なことは、アブソーバ28を形成するベース部32の表面に高低差を設けた二方向の溝を加工し、この溝の上にAl23膜を形成することで、化学的な結合とさらなる機械的な結合により結合強度を高めたことである。図9のベース部32の拡大斜視図に示すように、ベース部32は、ベース上面32Hと、ベース中面32Mと、ベース下面32Lと、を有する形状となっている。
【0032】
以上、上述したように、本実施形態を用いることにより、圧電基板に対するアブソーバの接合強度を向上させた弾性表面波素子及びその製造方法を提供することができる。さらに、結合強度を高めたアブソーバ28によって、信号検出における不要な弾性表面波を減衰させることでフィルタ特性の向上が可能となる。なお、本実施形態では、酸化処理を陽極酸化処理として示したが、これに限定するものではなく、Al23膜(アルミナ、酸化アルミニウム)の他にSiO2膜(ケイ酸、二酸化珪素)を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の概要構成を説明する説明図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る弾性表面波素子のアブソーバの形成工程を説明する説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の製造工程の流れを示すフローチャート図である。
【図4】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の製造工程を説明する説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る弾性表面波素子のアブソーバの形成工程の流れを示すフローチャート図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る弾性表面波素子のアブソーバの形成工程を説明する説明図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る弾性表面波素子のアブソーバの形成工程の流れを示すフローチャート図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る弾性表面波素子のアブソーバの形成工程を説明する説明図である。
【図9】本発明の実施形態に係る別の弾性表面波素子の概要構成を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 弾性表面波素子、10 圧電基板、12 入力側櫛形電極、16 入力側電極パッド、20 出力側櫛形電極、24 出力側電極パッド、28 アブソーバ、29 吸収材、32 ベース部、33 Al23膜、44 レジスト層、46 櫛形電極領域、48 アブソーバ領域、50 Ti層、52 Al層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に少なくとも一つ設けられた櫛形電極と、櫛形電極によって励起される弾性表面波のうち不要な弾性表面波を減衰させるアブソーバと、を有する弾性表面波素子において、
アブソーバを配置する基板上にアルミニウム層を形成し、アルミニウム層の表面を酸化処理して酸化膜を形成し、形成された酸化膜の上に感光性樹脂を用いてアブソーバを形成すると共に、その酸化膜と接合させたことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子において、
アブソーバを配置するアルミニウム層は、一方向又はその方向とは異なる方向に別のライン状の溝が形成されたアルミニウム層であることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項3】
基板上にアルミニウム層が形成され、アルミニウム層の上に感光性樹脂によって形成された部品を配置したデバイス基板において、
アルミニウム層の表面を酸化処理して酸化膜を形成し、その酸化膜の上に感光性樹脂による部品を接合させたことを特徴とするデバイス基板。
【請求項4】
請求項1に記載の弾性表面波素子を製造する方法において、
アブソーバを配置する基板上にアルミニウム層を配置し、アルミニウム層の表面を酸化処理して酸化膜を形成する酸化処理工程と、
形成された酸化膜の上に感光性樹脂を用いてアブソーバを形成するアブソーバ形成工程と、
を含み、
アブソーバ形成工程は、形成されたアブソーバと酸化膜とを接合させたことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−100335(P2009−100335A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271085(P2007−271085)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】