説明

弾性表面波素子およびそれを用いた環境差異検出装置

【課題】大量生産に適し常に安定して良好な弾性表面波伝搬性能を発揮可能な弾性表面波素子(SAWデバイス)、及びそれを用いた環境差異検出装置を提供する。
【解決手段】SAWデバイスは、SAW(弾性表面波)が伝搬可能な曲面が連続した少なくとも円環状の曲面の一部を含む表面を有する3次元基体12と;上記表面にSAWを励起し上記表面に沿いSAWを伝搬させるとともに伝搬するSAWを受信可能な電気音響変換素子14と;を備え、3次元基体がランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3214)であり、3次元基体の表面において電気音響変換素子は、これらの結晶の結晶面と前記表面との交線に沿いSAWを伝搬させ、前記交線は前記表面の最大外周線である、ことを特徴とする。環境差異検出装置は、SAWデバイスの複数の伝搬表面帯の電気音響変換素子の弾性表面波受信信号を比較し夫々が接する空間部分の環境の差異を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス濃度,温度,気圧などに代表される素子周囲の環境差異を検出する上で好適な弾性表面波素子(SAWデバイスとも称する。SAW:Surface Acoustic Wave)の改良に関する。
特に、既存の平坦なSAWデバイスではなく、SAWの伝搬経路が円環状であるような、例えば球形状のSAWデバイス(以降は、ボールSAWデバイスと称することもある。)の基材を構成する上で好適な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(SAW)が励起可能であり励起された弾性表面波を伝搬させることが可能な表面を有する基体と、前記基体の表面に前記弾性表面波を励起し前記表面に沿い前記弾性表面波を伝搬させるとともに前記伝搬する前記弾性表面波を受信可能な電気音響変換素子と、を備えた弾性表面波素子は従来から良く知られている。
【0003】
弾性表面波素子は、遅延線,発振素子,共振素子,周波数選択素子,例えば化学センサやバイオセンサや圧力センサを含む種々のセンサ,或いはリモートタグ等として使用されている。
【0004】
国際公開WO01/45255号公報は、球形状の弾性表面波素子を開示している。
この球形状の弾性表面波素子の基体は、弾性表面波が励起可能であり励起された弾性表面波を伝搬させることが可能な球形状の表面を有している。
前記球形状の弾性表面波素子の電気音響変換素子は、基体の球形状の表面において円環状に連続している所定の幅を有した帯域に配置されていて、前記表面に励起した弾性表面波を前記帯域が連続している方向に沿い伝搬させ繰り返し周回させるよう構成されている。
【0005】
球形状の弾性表面波素子では、基体の表面の円環状に連続している弾性表面波伝搬帯域に電気音響変換素子により励起された弾性表面波を、弾性表面波伝搬帯域内で実質的に減衰することなく上記表面を繰り返し周回させることが出来る。
【0006】
本出願人は、ボールSAWデバイスの改良策として、
弾性表面波を伝搬させる表面を有している3次元基体を、ランガサイト結晶により形成し、しかも結晶の前記表面において結晶の特定の結晶面と前記表面との交線に沿い電気音響変換素子により前記表面に励起された弾性表面波を伝搬させるようにし、前記交線を前記表面の最大外周線にしていることにより、弾性表面波素子を容易に安価に大量生産することができ、しかも常に安定して良好な弾性表面波伝搬性能を発揮させることを可能にする提案を行なっている。(特許文献2参照)
【特許文献1】国際公開 WO01/45255号公報
【特許文献2】特開2005−191650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
弾性表面波素子の基体は、その表面に沿い弾性表面波を伝搬させるために、基体の全体が、弾性表面波が励起されることが可能であると共に励起された弾性表面波を伝搬可能な材料で作られているか、或いは、その表面に弾性表面波励起伝搬可能材料により形成された薄膜を付着させることにより作られている。
前記薄膜との組み合わせにより形成する前記基体は、現時点では製造コストが高く大量生産に不向きであることが分かっている。
弾性表面波励起伝搬可能材料のみにより形成された前記基体では、前記基体の表面において前記弾性表面波を伝搬させようとする方向によって前記弾性表面波を伝搬或いは周回させることが出来ない等の弾性表面波を伝搬する性能に差異が生じることが分かっている。
また前記表面において、前記弾性表面波を相互に異なった複数の方向に伝搬させる、或いは周回させる、などが困難である。
【0008】
本発明は、上記事情の下で為され、その発明の目的は、大量生産に適していて常に安定して良好な弾性表面波伝搬性能を発揮することが可能な弾性表面波素子、及びこのような弾性表面波素子を用いた環境差異検出装置を提供することである。
特に、本発明に固有な目的は、特許文献2に示す「ランガサイト(LGS:La3Ga5SiO14)」に限らず、ランガサイト系化合物や化学式A3BC3214で表わされる酸化物圧電結晶材料を、良好な弾性表面波伝搬性能を発揮する素子基材として用いた弾性表面波素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明に従った弾性表面波素子は:
弾性表面波が伝搬可能な曲面が連続した少なくとも円環状の曲面の一部を含む表面を有する3次元基体と;
前記表面に前記弾性表面波を励起し前記表面に沿い前記弾性表面波を伝搬させると共に前記表面を伝搬する前記弾性表面波を受信可能な電気音響変換素子と;
を備えていて、
前記3次元基体の前記表面において前記電気音響変換素子は、化学式A3BC3214で表わされる結晶構造の結晶軸であるZ軸を法線とする結晶面と前記表面との交線に沿い、前記励起した弾性表面波を伝搬させており、前記交線は前記表面の最大外周線になっていることを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成する為に、この発明に従った環境差異検出装置は、この発明の上述した弾性表面波素子の表面において複数の交線に沿い複数の電気音響変換素子に弾性表面波を励起させ伝搬させるとともに伝搬する前記弾性表面波を受信させて受信信号を出力させ、複数の電気音響変換素子から出力される受信信号を比較し、前記表面において複数の弾性表面波が伝搬する複数の部分が接する空間の複数の部分の環境の差異を検出することを特徴としている。
【0011】
なお、本発明では、擬似弾性表面波や前記3次元基体を形成している結晶材料の表面の直下に電気音響変換素子により励起され伝搬される例えば回廊波も弾性表面波と称して記述している。
さらに、例えば弾性境界波のように表面上に異なる物質が接している3次元基体の前記表面に沿い伝搬する、通常は弾性表面波と称さないような弾性波であっても、ここでは弾性表面波と称して記述している。
【0012】
また、3次元基体の表面において弾性表面波が伝搬する部分に何等かの膜を形成したり、或いは前記表面に電気音響変換素子を何等かの膜を介して形成しても、そのような膜が弾性表面波の所望の伝搬を実質的に阻害しなければそのような膜の存在を許容する。
【0013】
さらに、本願の特許請求の範囲や明細書や図面において3次元基体の構造結晶(A3BC3214)の結晶軸を、+や−の符号やX,Y,Z軸を使用して表現したが、このような表現は圧電性結晶の結晶軸について従来良く知られている表現方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従った前述の弾性表面波素子、及びこの発明に従った前述の弾性表面波素子を使用したこの発明に従った環境差異検出装置においては、弾性表面波を伝搬させる表面を有している3次元基体を、結晶構造(A3BC3214:以降は、ランガサイトタイプ構造結晶とも称する。)で表される材料により形成し、しかも結晶の前記表面において結晶の特定の結晶面と前記表面との交線に沿い電気音響変換素子により前記表面に励起された弾性表面波を伝搬させるようにし、前記交線を前記表面の最大外周線にしていることにより、弾性表面波素子を容易に安価に大量生産することができ、しかも常に安定して良好な弾性表面波伝搬性能を発揮させることが可能になっている。
【0015】
なお、3次元基体の表面に弾性表面波を励起しまた受信する為の本発明で記載する「送受信部分」は、「送信部分」と「受信部分」とに機能を分離した2つの相互に独立した部分として構成することも出来る。このように「送信部分」と「受信部分」とを相互に独立した部分として構成するとこれらの為の駆動回路及び検出回路の設計が容易になるが、弾性表面波が上記表面を周回する場合には、1回の周回の度に相互に独立した「送信部分」と「受信部分」を弾性表面波が通過するので弾性表面波の伝搬効率が「送信部分」と「受信部分」とを相互に独立した部分として構成しない場合に比べ幾分低下するが実用上は問題がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<第1の実施の形態>
以下、この発明に従った弾性表面波素子の第1の実施の形態を添付の図面中の図1〜図4を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1には、第1の実施の形態の弾性表面波素子10の外観が示されている。この弾性表面波素子10は:弾性表面波が伝搬可能な曲面が連続した少なくとも円環状の曲面の一部によってなる伝搬表面帯12aを含む表面を有する3次元基体12と;伝搬表面帯12aに前記弾性表面波を励起し伝搬表面帯12aに沿い弾性表面波を伝搬させるとともに伝搬表面帯12aに伝搬する前記弾性表面波を受信可能な電気音響変換素子14と;を備えている。
【0018】
なおここで伝搬表面帯12aは図面の簡略化の為に幅方向Wの寸法が伝搬表面帯12aが円環状に連続する方向において一定であるように描かれているが、実際には3次元基体12の表面において伝搬表面帯12aが円環状に連続する方向に弾性表面波が伝搬する間には、弾性表面波は図1に示されているように幅方向Wにおける寸法が一定であることもあるし、幅方向Wにおける寸法が拡散と収縮とを繰り返すこともある。
【0019】
いずれにせよ、伝搬表面帯12aを伝搬する弾性表面波は電気音響変換素子14から所望の距離を、或いは1周回当たり、少なくとも80%以上のエネルギーを保ち伝搬することが実用上望まれている。
【0020】
本実施形態において3次元基体12は、全体が3方晶系のランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3214)により球形状に形成されている。
化学式A3BC3214で表わされる酸化物圧電結晶であるランガサイト系化合物は、水晶と同じ3方晶点群32に属するが、空間群はP321であり、水晶のP3221またはP3121と異なり3回の螺旋回転軸を持たない。
A,B,C,Dはそれぞれ陽イオンを占有するサイトを示し、各サイトの陽イオンを他の陽イオンで置換でき、類似する構造を持つ様々なランガサイト系化合物が合成でき、本発明に適用することが可能な化合物も存在し、LNG,LTG,CNGSなどの適性(好適である旨)が実験により確認されている。
本実施形態においては、伝搬表面帯12aが3次元基体12の球形状の表面において円環状に連続している。
伝搬表面帯12aは3次元基体12の最大外周線12bに沿い連続しており、好ましくは伝搬表面帯12aの範囲内に最大外周線12bが含まれている。
【0021】
3次元基体12の外表面において最大外周線12bは、図2の中に示されている様にランガサイト結晶のZ軸を法線とする結晶面と3次元基体12の外表面において伝搬表面帯12aが沿っている最大外周線12bは、ランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3D2O14)の1つの結晶面上を伝搬する間には、上記結晶面に対し交差する方向には弾性表面波のエネルギーは大きな拡散が生じないので、3次元基体12の外表面において弾性表面波をもっとも効率よく伝搬させることが出来る。
【0022】
3次元基体12の表面を伝搬する表面弾性波がその伝搬方向に対し上記表面に沿い直交する方向に実際にどの程度の幅を有しているのかは、例えば上記表面に水滴を付着させ上記表面において水滴が付着した部分では表面弾性波が伝搬しなくなることから視覚的に推測することも出来る。
【0023】
また、一般に、電気音響変換素子としてすだれ状電極を用いて高い周波数の弾性表面波を励起する場合には、すだれ状電極の有効幅(即ち、すだれ状電極において、3次元基体の表面に対しすだれ状電極が弾性表面波を励起させ所望の方向に伝搬させることが出来るとともに上記表面を伝搬した弾性表面波を受信することが出来る部分の、上記表面に沿って上記所望の方向とは直交する方向の寸法)は小さくなるが、上記有効幅は、上記表面において弾性表面波が伝搬する伝搬表面帯(図1では、参照符号12aにより指摘されている)が上記所望の方向となる最大外周線(図1では、参照符号12bにより指摘されている)に対し直交する方向において有している曲率の曲率半径の1.5倍よりも大きくなると、弾性表面波を励起し受信する効率が大きく低下することが分かっている。
【0024】
3次元基体12は、その外表面において電気音響変換素子14により励起された弾性表面波が伝搬する伝搬表面帯12a以外の部分が支持腕16を介して支持台18に支持されている。伝搬表面帯12aを伝搬する弾性表面波に対しいかなる影響も与えないようにする為に、伝搬表面帯12aには電気音響変換素子14を除き何も接触させない。
従って、この実施の形態においては、伝搬表面帯12aにおいて電気音響変換素子14に弾性表面波を励起させる為や伝搬表面帯12aを伝搬し電気音響変換素子14に受信された弾性表面波を電気音響変換素子14から受け取る為の電気音響変換素子制御ユニット20は、電気音響変換素子14から3次元基体12の外表面において伝搬表面帯12a以外の領域上を延びるリード線により電気音響変換素子14に接続されている。電気音響変換素子制御ユニット20は例えば、図1中に示されている如く、インピーダンスマッチング回路20a,サーキュレータ20,高周波電源を含む発信器20c,アンプ20d,そしてデジタルオシロスコープ20e等を備えている。なお、発信器20cに代わり高周波電波受信アンテナを使用することも出来る。
【0025】
電気音響変換素子14は、図3の(A)中に示されているように、伝搬表面帯12aに励起した弾性表面波のエネルギーの流れる密度が最大となる方位MDが最大外周線12bに対し20°以内になるよう構成されていることが好ましい。
なおこの角度はより好ましくは10°以内であり、さらに好ましくは5°以内である。
このことは、電気音響変換素子14により伝搬表面帯12aに励起された弾性表面波は、3次元基体12の外表面上で最大外周線12bに沿い例えば周回毎にエネルギーの80%以上を保つような小さな減衰率で周回することが出来るのであれば伝搬するにつれて励起された直後の幅よりも最大外周線12bから拡散する傾向にあっても良いが、上記の角度範囲内にあることが好ましいことを意味している。
【0026】
なお本発明において記載される「最大外周線に沿う」は、弾性表面波が周回或いは伝搬経路に亘り伝搬する場合に、弾性表面波のエネルギーの流れる密度が最大となる方向が最大外周線に対し好ましくは20°以内、より好ましくは10°以内、さらに好ましくは5°以内の範囲内である場合をいう。
【0027】
本実施形態において、電気音響変換素子14は3次元基体12の外表面上で伝搬表面帯12aの範囲内に直接形成されている。この実施の形態において電気音響変換素子14は例えば櫛型電極のようなすだれ状電極22であって、例えば蒸着や印刷やスパッタリングやゾル・ゲル法などの種々の公知の方法により上記外表面上に直接形成されることが出来る。
【0028】
電気音響変換素子14がすだれ状電極22により形成されている場合、すだれ状電極22は、図3の(B)中に良く示されているように、すだれ状電極22において伝搬表面帯12aに対し弾性表面波を励起するとともに伝搬表面帯12aに伝搬する弾性表面波を受信可能な送受信部分(前述の有効幅の部分)に対し3次元基体12の外表面に沿い直交す
る線が、伝搬表面帯12aが沿っている対応する最大外周線12bに対し10°以下の範囲に含まれるよう構成されていることが好ましい。
より詳細には、すだれ状電極22のパターンの各端子(線要素)22aにおける前記送受信部分(すだれ状電極22の場合には、パターンの各端子(線要素)22aが最大外周線12bに沿った方向において相互に重複する部分)に対し伝搬表面帯12aの外表面に沿って延出する直交線OLが最大外周線12bに対し10°以下の範囲内にあることが好ましいことを意味している。
【0029】
その理由は、図3の(A)を参照しながら前述したように、電気音響変換素子14を、伝搬表面帯12aに励起した弾性表面波のエネルギーの流れの密度が最大となる方位MDを最大外周線12bに対し20°以内になるよう構成することが好ましい理由と同じである。
【0030】
さらに、最大外周線12bに沿った方向におけるすだれ状電極22のパターンの複数の端子22a(図3の(B)参照)の配列周期Pは、最大外周線12bの曲率半径の1/10以下であることが好ましい。配列周期Pは、すだれ状電極22が励起する弾性表面波の一波長(即ち、振動周期)分の長さに相当している。
【0031】
弾性表面波の波長(即ち、すだれ状電極22のパターンの複数の端子22aの配列周期P)が弾性表面波が伝搬する伝搬表面帯12aに含まれる最大外周線12bの曲率半径(伝搬表面帯12aがこの実施の形態のように球面の一部により構成されている場合は、上記球面の半径)の1/10よりも大きいと、湾曲した伝搬表面帯12aの幾何学的な特徴が伝搬表面帯12aを伝搬する弾性表面波が拡散しようとするのを抑制する機能が弱くなる。
従って、3次元基体12の表面の伝搬表面帯12aに比較的長い波長の弾性表面波を所望の距離だけ伝搬させようとする場合には、伝搬表面体12aに含まれる最大外周線12bの曲率半径を上記波長との上述した関係を充たすよう予め設定しなければならない。
【0032】
従って、伝搬表面帯12bにおいて効率良く弾性表面波を伝搬させるには前記配列周期にすることが好ましい。
【0033】
本実施の形態に従い本願の発明者が実際に作成したランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3214)の球形状の3次元基体の直径は25.4mmであり、電気音響変換素子として使用するすだれ状電極を球形状の3次元基体の外表面において3次元基体の中心から見て上記結晶の+X方向に相当する位置に形成した。
すだれ状電極は、3次元基体の外表面にクロムの1000オングストロームの蒸着又は金の1000オングストロームの蒸着による膜形成を行なった後に、すだれ状電極のパターンの端子(線要素)が、前述したようにランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3214)のZ軸方向を中心として上記球形状の外表面上を周回する方向に対し直交するようフォトリソプロセスされることにより形成された。
この時に形成されたすだれ状電極のパターンの端子(線要素)の配列周期Pは0.532mmであり、夫々が0.133mmの幅の複数の端子(線要素)が0.133mmの間隔で配列され、互いに隣り合う端子(線要素)間に所望のパルス電圧が印加される。そして、パルス電圧が印加されることにより、相互間に電界が生じる互いに隣り合う端子(線要素)の夫々の重複する部分の長さは3.1mmである。
【0034】
ここでは、本願発明者がランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3214)の球形状の3次元基体の外表面に実際に作成した電気音響変換素子として使用するすだれ状電極の一例の寸法を記載したが、本願発明の3次元基体の外表面において本願発明の求める機能或いは効果を達成することが出来るのであれば、現在知られている如何なる材料や寸法や形状のすだれ状電極も使用することができる。
【0035】
そして、上述した如く構成された球形状の弾性表面波素子のすだれ状電極に100Vの電圧で半値幅2ナノ秒のインパルス信号を印加したところ、その結果として上記すだれ状電極から上記周回する方向に約42.7MHzの中心周波数を有したバースト状のシグナルが33.7μ秒の間隔で少なくとも50回繰り返し出力されたことがデジタルオシロスコープにより確認された。
このことは、上述した如く25.4mmの直径を有したランガサイト結晶の球形状の3次元基体の外表面を上記周回する方向に平均して2368m/sの速度で弾性表面波が少なくとも50回以上周回していることを意味している。
【0036】
そして本願発明者により上述した如く構成された2つの種類の球形状の弾性表面波素子の夫々の外表面においてすだれ状電極から上記周回する方向に離れた位置(即ち、弾性表面波の周回経路上)に水を含ませた綿棒を接触させたところ、すだれ状電極に上述した如くインパルス信号を印加してもすだれ状電極からは何も出力を得ることが出来なくなり、弾性表面波の周回が阻害されていることが判った。
さらに、上述した如く構成された2つの種類の球形状の弾性表面波素子の夫々の外表面においてすだれ状電極から上記周回する方向に対し直交する方向に5mm以上離れた位置(即ち、弾性表面波の周回経路から外れた位置)に水を含ませた綿棒を接触させたところ、すだれ状電極に上述した如くインパルス信号を印加した時にすだれ状電極から上述した如きバースト状のシグナルが上述した如く繰り返し出力され、上述した如き弾性表面波の周回が阻害されないことが判った。
【0037】
<第2の実施の形態>
次に、図4を参照しながら、この発明に従った弾性表面波素子の第2の実施の形態を詳細に説明する。
第2の実施の形態に従った弾性表面波素子40は、3次元基体12が凹所又は中空部を有していて、これら凹所又は中空部の内表面12cが、弾性表面波が伝搬可能な曲面が円環状に連続した伝播表面帯12aを含んでいる。
図4には中空部の一種である貫通孔を有した3次元基体12が示されている。
【0038】
3次元基体12は、前述の第1の実施の形態の3次元基体12と同様に、全体がランガサイトタイプ構造結晶により形成されている。
そして、前述の第1の実施の形態,そして第1又は第2の変形例の3次元基体12の外表面に3次元基体12を形成している結晶に特有の結晶面と前記外表面との交線に伝搬表面帯12aを沿わせる基準となる最大外周線12bが規定されていたのと同様に、第2の実施の形態に従った弾性表面波素子40の3次元基体12の内表面に3次元基体12を形成している結晶に特有の結晶面と前記内表面との交線に伝搬表面帯12aを沿わせる基準となる少なくとも1つの最大外周線12bが規定されている。
そして、この内表面上で最大外周線12bに沿い連続して延出するよう伝搬表面帯12aが規定されている。この実施の形態の3次元基体12の内表面における伝搬表面帯12aの規定の仕方は、前述の第1の実施の形態の3次元基体12の外表面における伝搬表面帯12aの規定の仕方と同じである。従って好ましくは前記内表面上の伝搬表面帯12aの範囲内に最大外周線12bが含まれている。
【0039】
そして、この実施の形態の3次元基体12の内表面における伝搬表面帯12aにも、伝搬表面帯12aの範囲内で最大外周線12bに沿い弾性表面波を大きく減衰させることなく伝搬させるよう電気音響変換素子14が形成されていて、電気音響変換素子14には前述の電気音響変換素子制御ユニット20が接続されている。
【0040】
本実施形態においても、前記内表面は伝搬表面帯12aが前述した所定の方法により規定されていれば、伝搬表面帯12a以外の部位の形状は任意である。
【0041】
本実施形態の弾性表面波素子40は、電気音響変換素子14により伝搬表面帯12aに励起され伝搬表面帯12a内を例えば1周回当たり80%以上のエネルギーを保って大きく減衰することなく伝搬する弾性表面波が、3次元基体12の内表面における伝搬表面帯12aが接する環境である貫通孔の内部空間を通過する流体(気体又は流体)の種々の変化に対応して、変化するのを電気音響変換素子14を介して電気音響変換素子制御ユニット20により電気信号として受信することにより、前記環境の変化、即ち差異、を検知することが出来る。
【0042】
<第3の実施の形態>
次に、図5及び図6を参照しながら、この発明に従った弾性表面波素子の第3の実施の形態を詳細に説明する。
第3の実施の形態に従った弾性表面波素子50は、前述の第1の実施の形態,そして第1又は第2の変形例の3次元基体12と同様に、全体がランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3D2O14)により形成されている球形状の3次元基体12を備えている。
3次元基体12の外表面には、3次元基体12の材料の複数の結晶面と前記外表面との複数の交線の少なくとも1つを最大外周線12bとし最大外周線12bに沿い円環状に連続する伝搬表面帯12aを規定している。
本実施の形態の弾性表面波素子50の3次元基体12の外表面上の伝搬表面帯12aもまた、前述の第1の実施の形態,そして第1又は第2の変形例の3次元基体12の外表面上の伝搬表面帯12aと同様に、好ましくは伝搬表面帯12aの範囲内に最大外周線12bを含んでいる。
【0043】
本実施形態の弾性表面波素子50が、第1の実施の形態の弾性表面波素子10と異なっているのは、3次元基体12の外表面上の伝搬表面帯12aに表面弾性波を励起させ、励起させた弾性表面波を伝搬表面帯12aの範囲内で最大外周線12bに沿い伝搬させる電気音響変換素子14が3次元基体12の外表面上の伝搬表面帯12aに直接形成されていないことである。
【0044】
本実施形態では、3次元基体12の外表面上の伝搬表面帯12a以外の部分を支持する台座52が伝搬表面帯12aとの間に所定の隙間Sを介して対面する伝搬表面帯対面領域52aを有していて、台座52の伝搬表面帯対面領域52aに電気音響変換素子14が形成されている。伝搬表面帯12aに対する電気音響変換素子14の寸法や配置は、第1の実施の形態や第1及び第2の変形例の弾性表面波素子10において伝搬表面帯12aに電気音響変換素子14が直接形成されている場合と同様である。
【0045】
なお所定の隙間Sは、電気音響変換素子14が櫛型電極のようなすだれ状電極22の場合、すだれ状電極22のパターンの複数の線要素(端子)の配列周期P(図4の(B)参照)の4分の1以下であることが好ましい。
所定の隙間Sが配列周期P(図4の(B)参照)の4分の1以上であると、電気音響変換素子14は3次元基体12の外表面上の伝搬表面帯12aに所望の弾性表面波を常に確実に励起させることが難しくなる。
【0046】
第3の実施の形態に従った弾性表面波素子50は、前述の第1の実施の形態の3次元基体12と同様に、使用することができる。
しかも、電気音響変換素子14が3次元基体12の外表面上の伝搬表面帯12aに所定の隙間Sを介して対面している場合には、3次元基体12の外表面上の伝搬表面帯12aに電気音響変換素子14が直接形成されている場合と比べると、伝搬表面帯12aに直接形成されている電気音響変換素子14が電気音響変換素子14により伝搬表面帯12aに励起され伝搬表面帯12a中を伝搬する弾性表面波に極僅かに与えるかも知れない影響を排除することが出来、伝搬表面帯12a中を伝搬する弾性表面波の変化をより精密に検知することが出来る。
【0047】
<第4の実施の形態>
次に、図7を参照しながら、この発明に従った弾性表面波素子の第4の実施の形態を詳細に説明する。
第4の実施の形態に従った弾性表面波素子60は半球形状を有している3次元基体12’を備えていて、3次元基体12’の外表面に弾性表面波が伝搬可能な曲面が連続した少なくとも円環状の曲面の一部によってなる伝播表面帯12’aを含んでいる。
【0048】
半球形状の3次元基体12’は、前述の第1の実施の形態の3次元基体12と同様に、全体がランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3214)により形成されている。
そして、前述の第1の実施の形態,そして第1又は第2の変形例の3次元基体12の外表面に3次元基体12を形成している結晶に特有の結晶面と前記外表面との交線に、伝搬表面体12aを連続して沿わせる基準となる最大外周線12bが規定されていたのと同様に、第4の実施の形態に従った弾性表面波素子60の3次元基体12’の半球形状の外表面に3次元基体12’を形成している結晶に特有の結晶面と前記外表面との交線に一致させて、伝搬表面体12’aを連続して沿わせる基準となる少なくとも1つの最大外周線12’bが規定されている。
そして、好ましくは伝搬表面帯12’aの範囲内に最大外周線12’bが含まれている。
【0049】
本実施形態の3次元基体12’の外表面において伝搬表面帯12’aを沿わせる基準となる最大外周線12’bの規定の仕方は、前述の第1の実施の形態,そして第1の3次元基体12の外表面における最大外周線12bの規定の仕方と同じである。
【0050】
そして、本実施形態の3次元基体12’の外表面における伝搬表面帯12’aにも、伝搬表面帯12’aの範囲内で最大外周線12’bに沿い弾性表面波を1周回当たり少なくとも80%以上のエネルギを保ち伝搬させるよう電気音響変換素子14が直接形成されていて、電気音響変換素子14には前述の電気音響変換素子制御ユニット20が接続されている。
【0051】
本実施形態においては、電気音響変換素子14により伝搬表面帯12’aの範囲内に励起され伝搬表面帯12’aの範囲内で最大外周線12’bに沿い伝搬する弾性表面波の伝搬方向に電気音響変換素子14から離れた位置に、弾性表面波反射体62が形成されている。
弾性表面波反射体62は、電気音響変換素子14から伝搬表面帯12’a中を弾性表面波反射体62に向い伝搬して来た弾性表面波を伝搬表面帯12’aを同じ経路で電気音響変換素子14に向うよう反射する。
【0052】
本実施形態においても、前記外表面は伝搬表面帯12’aが前述した所定の方法により規定されていれば、伝搬表面帯12’a以外の部位の形状は任意である。
【0053】
本実施形態においても、3次元基体12’は伝搬表面帯12’a以外の部分が図示しない台座に支持されている。
【0054】
本実施の形態の弾性表面波素子60は、電気音響変換素子14により少なくとも円環状の曲面の一部によってなる伝搬表面帯12’aに励起され伝搬表面帯12’a内を大きく減衰することなく伝搬する弾性表面波が、3次元基体12の外表面における伝搬表面帯12’aが接する環境である外部空間に含まれている流体(気体又は流体)の種々の変化に対応して、変化するのを電気音響変換素子14を介して電気音響変換素子制御ユニット20により電気信号として受信することにより、前記環境の変化、即ち差異、を検知することが出来る。
【0055】
またさらに、本実施形態においても、図4を参照しながら前述した第3の実施の形態の弾性表面波素子40と同様に、3次元基体12に形成した例えば半球形状の凹所又は空洞の内表面に中心線12bを伴なった少なくとも円環状の曲面の一部によってなる伝搬表面帯12aを規定し、このような伝搬表面帯12aに中心線12aに沿い相互に離間し相互に対向する電気音響変換素子14及び弾性表面波反射体62を設置するよう変形させることも出来る。
【0056】
またさらに、本実施形態においても、図5及び図6を参照しながら前述した第4の実施の形態の弾性表面波素子50と同様に、3次元基体12’の伝搬表面帯12aに直接電気音響変換素子14を形成するのではなく、伝搬表面帯12aに対し所定の隙間Sを介して対向するよう前述の図示しない台座に電気音響変換素子14を形成することも出来るし、3次元基体12’の外表面の複数の伝搬表面帯12’aの交差領域に所定の隙間Sを介して対向するよう前述の図示しない台座に共通励起用電気音響変換素子14’を形成するとともに複数の伝搬表面帯12’aの夫々において交差領域以外に所定の隙間Sを介して対向するよう前述の図示しない台座に受信用電気音響変換素子14’’を形成することも出来る。
【0057】
さらに、弾性表面波反射体62の代わりに前述の電気音響変換素子制御ユニット20が接続されているもう1つの電気音響変換素子14を使用することも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施の形態に従った弾性表面波素子の概略図である。
【図2】(A)は、この発明の第1の実施の形態に従った弾性表面波素子の3次元基体の全体をランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3214)により形成した場合に3次元基体の外表面に弾性表面波を伝搬させる伝搬表面帯の基準となる最大外周線をランガサイトタイプ構造結晶(A3BC3214)の3つの結晶面の1つに沿い規定する様子を概略的に示す斜視図である。
【図3】(A)は、この発明の第1の実施の形態に従った弾性表面波素子の3次元基体の伝搬表面帯中において対応する最大外周線に対し電気音響変換素子が配置される好ましい状態を概略的に示す図であり;そして、(B)は、この発明の第1の実施の形態に従った弾性表面波素子の3次元基体の伝搬表面帯中において対応する最大外周線に対しすだれ状電極による電気音響変換素子が配置されるさらに好ましい状態を概略的に示す図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に従った弾性表面波素子を概略的に示す斜視図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に従った弾性表面波素子を概略的に示す斜視図である。
【図6】図5の弾性表面波素子の3次元基体の外表面の伝搬表面帯に対し所定の隙間を介し対向して配置されるよう3次元基体の台座に電気音響変換素子が形成されている様子を概略的に示す部分断面図。
【図7】本発明の第5の実施の形態に従った弾性表面波素子を概略的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
10…弾性表面波素子、12…3次元基体、12a…伝搬表面帯、12b…最大外周線、12c…内表面、14…電気音響変換素子、14’…共通励起用電気音響変換素子、14’’…受信用電気音響変換素子、22…すだれ状電極、22a…線要素(端子)、CA…結晶軸方向、P…配列周期。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波が伝搬可能な曲面が連続した少なくとも円環状の曲面の一部を含む表面を有する3次元基体と;
前記表面に前記弾性表面波を励起し前記表面に沿い前記弾性表面波を伝搬させると共に前記表面を伝搬する前記弾性表面波を受信可能な電気音響変換素子と;
を備えていて、
前記3次元基体の前記表面において前記電気音響変換素子は、化学式A3BC3214で表わされる結晶構造の結晶軸であるZ軸を法線とする結晶面と前記表面との交線に沿い、前記励起した弾性表面波を伝搬させており、前記交線は前記表面の最大外周線になっていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記3次元基体の前記表面において前記電気音響変換素子は、化学式A3BC3214で表わされる結晶構造の結晶軸であるZ軸を法線とする結晶面と前記表面との交線の両方に沿い、前記励起した弾性表面波を伝搬させており、前記両方の交線の夫々は前記表面の最大外周になっていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
3次元基体を構成する材料として、
LNG(La3Nb0.5Ga5.514),LTG(La3Ta0.5Ga5.514),CNGS(La3Ta0.5Ga5.514)に例示される化学式A3BC3214で表わされる結晶構造による圧電単結晶材料から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
上記弾性表面波素子の上記表面は球形状である、ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の球状弾性表面波素子。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の弾性表面波素子の表面にて、複数の交線に沿い複数の電気音響変換素子に弾性表面波を励起させ伝搬させると共に、伝搬する前記弾性表面波を受信させて受信信号を出力させ、複数の電気音響変換素子から出力される受信信号を比較し、前記表面において複数の弾性表面波が伝搬する複数の部分が接する空間の複数の部分の環境の差異を検出することを特徴とする環境差異検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−166253(P2007−166253A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359926(P2005−359926)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】