説明

弾性表面波素子の製造方法及び弾性表面波素子

【課題】圧電基板を薄くした後に圧電基板に支持層を形成すると生じる反りを防止することができる弾性表面波素子の製造方法及び弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】(a)圧電基板10の一方主面10aに、IDT電極20を含む導電パターンを形成するパターン形成工程と、(b)圧電基板10の一方主面10aのうちIDT電極20による弾性表面波が伝搬する振動伝搬領域以外の領域に、補助層22を形成する補助層形成工程と、(c)圧電基板10の他方主面10bについて除去加工を行い、圧電基板10を薄くする基板薄化工程と、(d)圧電基板10の他方主面10bに支持層12を形成する支持層形成工程とを備える。補助層22は、支持層12が無ければ圧電基板10と補助層22との接合によって生じる第1の反りが、補助層22が無ければ圧電基板10と支持層12との接合によって生じる第2の反りを打ち消すように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子の製造方法及び弾性表面波素子に関し、詳しくは、圧電基板を薄くした後に圧電基板に支持層を形成する弾性表面波素子の製造方法及び弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波素子は所望の特性を得るために圧電基板を薄くする必要があり、圧電基板が薄い弾性表面波素子を製造する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、第1の製造方法として、圧電基板と支持基板とを貼り合わせた状態で圧電基板を切削・研磨して薄くした後、圧電基板に櫛型のIDT電極(IDT:interdigital transducer)を含む導電パターンを形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
第2の製造方法として、支持基板の表面に結晶成長により圧電薄膜を形成した後、圧電薄膜上に導電パターンを形成することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−297693号公報
【特許文献2】特開2006−345281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの製造方法とは異なる第3の製造方法として、例えば図5の断面図に示す製造方法が考えられる。すなわち、図5(a)に示すように、ウェハ状の圧電基板10の表面10aにIDT電極20を含む導電パターンを形成する。次いで、図5(b)に示すように、圧電基板10の裏面10bについて研削・研磨などの除去加工を行なって圧電基板10を薄くする。次いで、図5(c)に示すように、圧電基板10の裏面10bに支持層12を形成する。
【0007】
しかしながら、この製造方法で弾性表面波素子を製造した場合、圧電基板10と支持層12の線膨張係数の違い、圧電基板10と支持層12の接合界面に生じる残留応力、圧電基板10の裏面10bを研磨するときの応力などにより、図5(c)において矢印40で示すように、支持層12が形成されたウェハに反りが発生することがある。ウェハに反りがあると、弾性表面波素子の個片に分割する際に、割れや欠けなどが発生する。ウェハに反りによって弾性表面波素子の個片に反りが生じると、弾性表面波素子の個片のピックアップが難しくなる。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑み、圧電基板を薄くした後に圧電基板に支持層を形成すると生じる反りを防止することができる弾性表面波素子の製造方法及び弾性表面波素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した弾性表面波素子の製造方法を提供する。
【0010】
弾性表面波素子の製造方法は、(a)圧電基板の一方主面に、IDT電極を含む導電パターンを形成するパターン形成工程と、(b)前記圧電基板の前記一方主面のうち前記IDT電極による弾性表面波が伝搬する振動伝搬領域以外の領域に、補助層を形成する補助層形成工程と、(c)前記補助層が形成される前記圧電基板の他方主面について除去加工を行い、前記圧電基板を薄くする基板薄化工程と、(d)薄くされる前記圧電基板の前記他方主面に支持層を形成する支持層形成工程とを備える。前記補助層は、前記支持層が無ければ前記圧電基板と前記補助層との接合によって生じる第1の反りが、前記補助層が無ければ前記圧電基板と前記支持層との接合によって生じる第2の反りを打ち消すように形成する。
【0011】
上記方法によれば、圧電基板の他方主面に支持層を形成することにより生じる第2の反りを、補助層を圧電基板の一方主面に形成することにより生じる第1の反りで相殺し、全体として反りの発生を防止することができる。
【0012】
なお、圧電基板の一方主面についてパターン形成工程の後に補助層形成工程を行い、圧電基板の他方主面について基板薄化工程に後に支持層形成工程を行えばよく、パターン形成工程及び補助層形成工程と、基板薄化工程及び支持層形成工程との順序は任意である。
【0013】
好ましくは、前記補助層は、前記振動伝搬領域との間に間隔を設けて前記振動伝搬領域を覆う中空保護膜である。
【0014】
この場合、中空保護膜を圧電基板の一方主面に形成することにより、第1の反りを容易に調整することができる。
【0015】
好ましくは、前記圧電基板は、タンタル酸リチウム基板又はニオブ酸リチウム基板である。前記支持層は、Si、Al、又はSiOを主成分とする。
【0016】
この場合、温度変化に伴う圧電基板の伸縮が支持層によって抑制されるため、弾性表面波素子は、温度変化に伴う周波数特性の変動が小さくなり、温度特性が改善される。
【0017】
好ましくは、前記支持層形成工程において、前記支持層を溶射により形成する。
【0018】
この場合、圧電基板よりも線膨張係数が十分に小さい材料を用いて支持層を容易に形成することができ、支持層による温度特性の改善効果を大きくすることができる。また、圧電基板の他方主面に凹凸があっても、溶射であれば支持層を容易に形成することができ、直接接合の場合のように圧電基板の他方主面の平坦性について高い加工精度は要求されないため、製造が簡単である。
【0019】
また、本発明は、以下のように構成された弾性表面波素子を提供する。
【0020】
弾性表面波素子は、(a)圧電基板と、(b)前記圧電基板の一方主面に形成された、IDT電極を含む導電パターンと、(c)前記圧電基板の前記一方主面のうち前記IDT電極による弾性表面波が伝搬する振動伝搬領域以外の領域に形成された補助層と、(d)前記圧電基板の他方主面に形成された支持層とを備える。前記補助層は、前記支持層が無ければ前記圧電基板と前記補助層との接合によって生じる第1の反りが、前記補助層が無ければ前記圧電基板と前記支持層との接合によって生じる第2の反りを打ち消すように形成されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の弾性表面波素子の製造方法及び弾性表面波素子は、圧電基板の他方主面に支持層を形成すると発生する反りを、圧電基板の一方主面に保護層を形成することにより発生する反りで相殺することで、圧電基板を薄くした後に圧電基板に支持層を形成すると生じる反りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】弾性表面波素子の製造工程を示す断面図である。(実施例)
【図2】弾性表面波素子の断面図である。(実施例)
【図3】弾性表面波素子の要部断面図である。(実施例)
【図4】弾性表面波素子の要部断面図である。(実施例)
【図5】弾性表面波素子の製造工程を示す断面図である。(比較例)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。
【0024】
<実施例> 実施例の弾性表面波素子2の製造方法について、図1〜図4を参照しながら説明する。
【0025】
図2は、弾性表面波素子2の断面図である。図2に示すように、弾性表面波素子2は、圧電基板10の一方主面である表面10aに、IDT電極20を含む導電パターンと、補助層である中空保護膜22とが形成されている。中空保護膜22は、IDT電極20による弾性表面波が伝搬する振動伝搬領域11との間に間隔を設けて振動伝搬領域11を覆うように形成されている。
【0026】
次に、弾性表面波素子2の製造方法について、図1を参照しながら説明する。図1は、弾性表面波素子2の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0027】
(a)パターン形成工程
まず、図1(a)に示すように、ウェハ状の圧電基板10の一方主面である表面10aに、IDT電極20を含む導電パターンを形成する。
【0028】
具体的には、タンタル酸リチウム(LiTaO)基板やニオブ酸リチウム(LiNbO)基板などの圧電基板10の表面10aに、IDT電極20と、不図示のパッドと、IDT電極20とパッドとの間を接続する不図示の配線とを含む導電パターンを、フォトリソグラフィー技術やエッチング技術を用いて形成する。
【0029】
(b)中空保護膜形成工程
次いで、図1(b)に示すように、圧電基板10の表面10aに、補助層である中空保護膜22を形成する。中空保護膜22は、IDT電極20による弾性表面波が伝搬する振動伝搬領域11の周囲に形成されたカバー枠層22aと、カバー枠層22aの上に形成されたカバー層22bとにより形成する。補助層としては、カバー枠層22aのみを形成し、カバー層22bが無い構成とすることも可能である。補助層として中空保護膜22を形成すると、カバー枠層22aやカバー層22bの材質や厚み等によって、支持層12が無ければ圧電基板10と補助層(中空保護膜22)との接合によって生じる第1の反りを容易に調整することができる。
【0030】
具体的には、例えば感光性ポリイミド系樹脂を圧電基板10の表面10a全体に塗布した後、振動伝搬領域11をフォトリソグラフィー技術により開口(除去)してカバー枠層22aを形成する。次いで、カバー枠層22a上にラミネート等によりシート状のカバー層22bを形成する。カバー層22bには、例えば、低温硬化プロセスが可能となる非感光性エポキシ系フィルム樹脂を用いる。
【0031】
(c)外部電極形成工程
次いで、必要に応じて、圧電基板10に外部電極を形成する。例えば、レーザ加工により、中空保護膜22のカバー層22b及びカバー枠層22aに貫通孔(ビアホール)を形成し、ビアホールの底部にパッドを露出させる。次いで、ビアホールに電解メッキ(Cu、Ni等)にてアンダーバンプメタルを充填し、アンダーバンプメタルの表面に酸化防止のための厚さ0.05〜0.1μm程度のAu膜を形成する。アンダーバンプメタルの直上に、メタルマスクを介して、Sn−Ag−Cu等のはんだペーストを印刷し、はんだペーストが溶解する温度、例えば260℃くらいで加熱することで、はんだをアンダーバンプメタルと固着させ、フラックス洗浄剤によりフラックスを除去し、球状のはんだバンプを形成する。
【0032】
なお、後述する基板薄化工程の後に、外部電極形成工程を行うことも可能であるが、この場合、接着材が残っていると、中空保護膜22のカバー層22b及びカバー枠層22aに貫通孔(ビアホール)を形成したときに汚れの原因となる。これに対し、基板薄化工程の前に外部電極形成工程を行うようにすれば、接着材による汚れの問題は生じないため、基板薄化工程の前に外部電極形成工程を行えば、接着力が強く、はがれにくい接着材を用いることができる。
【0033】
(d)基板薄化工程
次いで、図1(c)に示すように、圧電基板10の他方主面である裏面10bについて除去加工を行って、圧電基板10を薄くする。例えば、圧電基板10の表面10a側に、接着材としてワックスを塗布し、ワックスを介して圧電基板10を固定した状態で、圧電基板10の裏面10bについて研削、研磨等の除去加工を行い、圧電基板10を薄くする。
【0034】
(e)支持層形成工程
次いで、図1(d)に示すように、圧電基板10の裏面10bに支持層12を形成する。
【0035】
支持層12は、線膨張係数が、圧電基板10の線膨張係数よりも小さくなるように形成する。これにより、温度変化に伴う圧電基板10の伸縮が支持層12で抑制されるため、弾性表面波素子2は、温度変化に伴う周波数特性の変動が小さくなり、温度特性が改善される。
【0036】
支持層12は、溶射などの成膜、接着、直接接合などの方法で形成することができる。
【0037】
溶射などの成膜方法によって、Si、Al、SiOなど、金属やセラミック等を用いて、圧電基板10の裏面10bに支持層12を形成する。例えば、厚さ20〜30μmまで薄くしたタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム基板の圧電基板10の裏面10bに、溶射によりAlの支持層12を形成する。
【0038】
特に溶射で支持層12を形成すると、圧電基板10よりも十分に線膨張係数が小さい支持層12を容易に形成することができ、温度特性の改善効果を大きくすることができる。また、圧電基板10の裏面10bに凹凸があっても支持層12を形成することができ、圧電基板10の裏面10bの平坦性について高い加工精度は要求されないため、製造が簡単である。
【0039】
接着の場合には、圧電基板10の裏面10bに、接着材を介して支持基板を接着し、支持基板によって支持層12を形成する。必要に応じて、例えば基板薄化工程と同様の方法で、接着した支持基板を薄くしてもよい。
【0040】
直接接合の場合には、圧電基板10の裏面10bと支持基板の接合面とを親水化処理して重ね合わせて熱処理を行なうことにより、直接接合する。直接接合の場合には、圧電基板10の裏面10bと支持基板の接合面とを高精度に平坦に加工する必要がある。必要に応じて、例えば基板薄化工程と同様の方法で、直接接合した支持基板を薄くしてもよい。
【0041】
(f)基板分割工程
次いで、ダイシング等により圧電基板10を個片に分割し、図2に示す弾性表面波素子2が完成する。
【0042】
以上に説明したように、弾性表面波素子2は、圧電基板10を薄くした後に圧電基板10に支持層12を形成すると生じる反りを防止することができる。
【0043】
すなわち、図3の断面図に模式的に示すように、支持層12が無ければ圧電基板10と中空保護膜22との接合によって、例えば矢印30で示すように、圧電基板10の裏面10b側が突出する反り(第1の反り)が発生する。第1の反りは、例えば中空保護膜22の硬化時の収縮によって発生する。
【0044】
一方、図4の断面図に模式的に示すように、中空保護膜22が無ければ圧電基板10と支持層12との接合によって、例えば矢印40で示すように、圧電基板10の表面10a側が突出する反り(第2の反り)が発生する。第2の反りは、例えば圧電基板10と支持層12との接合界面に残留する接合時の圧縮応力よって発生する。
【0045】
例えば中空保護膜22の材質や厚みなどを選択することで、第1の反りが第2の反りを打ち消すように、圧電基板10に中空保護膜22を形成することができる。これによって、全体として反りの発生を防止することができる。
【0046】
したがって、圧電基板10を薄くした後に圧電基板10に支持層12を形成すると生じる反りを防止することができる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
2 弾性表面波素子
10 圧電基板
10a 表面(一方主面)
10b 裏面(他方主面)
11 振動伝搬領域
12 支持層
20 IDT電極
22 中空保護膜(補助層)
22a カバー枠層
22b カバー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一方主面に、IDT電極を含む導電パターンを形成するパターン形成工程と、
前記圧電基板の前記一方主面のうち前記IDT電極による弾性表面波が伝搬する振動伝搬領域以外の領域に、補助層を形成する補助層形成工程と、
前記補助層が形成される前記圧電基板の他方主面について除去加工を行い、前記圧電基板を薄くする基板薄化工程と、
薄くされる前記圧電基板の前記他方主面に支持層を形成する支持層形成工程と、
を備え、
前記補助層は、前記支持層が無ければ前記圧電基板と前記補助層との接合によって生じる第1の反りが、前記補助層が無ければ前記圧電基板と前記支持層との接合によって生じる第2の反りを打ち消すように形成することを特徴とする、弾性表面波素子の製造方法。
【請求項2】
前記補助層は、前記振動伝搬領域との間に間隔を設けて前記振動伝搬領域を覆う中空保護膜であることを特徴とする、請求項1に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
前記圧電基板は、タンタル酸リチウム基板又はニオブ酸リチウム基板であり、
前記支持層は、Si、Al、又はSiOを主成分とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
前記支持層形成工程において、前記支持層を溶射により形成することを特徴とする、請求項3に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項5】
圧電基板と、
前記圧電基板の一方主面に形成された、IDT電極を含む導電パターンと、
前記圧電基板の前記一方主面のうち前記IDT電極による弾性表面波が伝搬する振動伝搬領域以外の領域に形成された補助層と、
前記圧電基板の他方主面に形成された支持層と、
を備え、
前記補助層は、前記支持層が無ければ前記圧電基板と前記補助層との接合によって生じる第1の反りが、前記補助層が無ければ前記圧電基板と前記支持層との接合によって生じる第2の反りを打ち消すように形成されていることを特徴とする、弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−213016(P2010−213016A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57210(P2009−57210)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】