説明

弾性表面波装置の周波数調整方法、弾性表面波装置および電子機器

【課題】 擬似縦型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置において、周波数調整を高精度に行える弾性表面波装置の周波数調整方法を提供する。
【解決手段】 IDT電極2を形成した、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板からなる圧電基板1の、IDT電極2を形成した面と厚み方向に対向する面(基板裏面)1bをエッチングすることにより、弾性表面波装置10bの周波数調整を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似縦型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置の周波数調整方法、弾性表面波装置、および弾性表面波装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、弾性表面波素子の共振周波数はIDT電極や反射器電極(以下、両者を合わせて電極と表現する)の実効膜厚に依存し、電極膜厚が薄くなると周波数が上がり、厚くなると周波数が下がることが知られている。この原理を利用して、従来から弾性表面波装置の周波数調整が行われている。
例えば特許文献1には、電極を削って薄くし周波数を調整する方法が開示されている。また、他の周波数調整方法としては、電極を厚くする方法に代えて、電極をマスクにして基板を削って見かけ上の電極膜厚を増す方法(例えば特許文献2)が知られている。
また、近年、通信機器の利用拡大に伴い、弾性表面波装置の高周波化や周波数調整精度の高精度化が望まれている。特に、弾性表面波装置の高周波化については、漏洩弾性表面波の理論を発展させて、基板表面での変位の殆どが縦波成分で構成され、体積波として2つの横波成分を圧電基板内部に放射しながら速い位相速度で伝搬する擬似縦型漏洩弾性表面波の利用が期待されている。特に、電気機械結合係数の大きなタンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、四ホウ酸リチウム(Li247)を基板材料とすることで、弾性表面波装置の高周波化が期待されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−274081
【特許文献2】特開昭61−92011
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来の弾性表面波の周波数調整では、電極あるいは電極を形成した面の基板をエッチングなどの方法を用いて削ることで行っているが、エッチング量に対する周波数の変化が大きく、高精度に周波数調整を行うことが困難である。特に、擬似縦型漏洩弾性表面波を利用し高周波化を図った弾性表面波装置においては、エッチング量に対する周波数の変化がさらに大きく、周波数調整の高精度化が実用にあたっての課題となっている。
【0005】
本発明の目的は、擬似縦型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置において、周波数調整を高精度に行える弾性表面波装置の周波数調整方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、この周波数調整方法で高精度に周波数調整された弾性表面波装置および弾性表面波装置を備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、各発明は以下のように構成した。
第1の発明の弾性表面波装置の周波数調整方法は、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板と、このタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板上に形成され擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極とを備えた弾性表面波装置の周波数調整方法であって、周波数調整は、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを前記IDT電極の形成面と厚み方向に対向する面から調整することによって行うようにしたことを特徴とする。
【0007】
圧電基板の厚みを、IDT電極の形成面と厚み方向に対向する面から調整することにより、圧電基板の電極あるいは電極を形成した面の基板を調整して周波数調整を行った場合と比較し、エッチング量に対する周波数変動が小さいため、精度の良い周波数調整を行うことが可能である。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明の弾性表面波装置の周波数調整方法において、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と厚み方向に対向する面をドライエッチングで削るようにしたことを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、ウェットエッチングに比べて微小量のエッチング量を制御できるドライエッチングで電極形成面と厚み方向に対向する面を削ることができ、さらに精度の良い周波数調整を行うことができる。
【0010】
また、第3の発明は、第1および第2の発明の弾性表面波装置の周波数調整方法において、周波数調整に先立って、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板のIDT電極形成面の基板表面および前記IDT電極の表面のうちの少なくとも一方を削って予備周波数調整を行うようにしたことを特徴とする。
【0011】
このようにすれば、周波数を大きく調整する必要がある場合に、最初に電極形成面の基板表面および電極の少なくとも一方を、ウェットエッチングなどで削って周波数の調整を粗く行い(予備調整)、その後に、電極形成面と対向する面からエッチングなどにより基板の厚みを調整して、精度の良い周波数調整(微調整)を行うことができる。このため、電極形成面と対向する面のみをエッチングして周波数調整をする場合に比べて、周波数調整を短時間で行うことができる。
【0012】
第4の発明の弾性表面波装置の周波数調整方法は、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板と、このタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板上に形成され擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極とを備え、前記タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板を収容容器内に収容させた弾性表面波装置を、エッチングガスを導入するチャンバ内に配置させ、前記弾性表面波装置の入出力特性の測定を行いながら、所望の周波数が得られるまで前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と厚み方向に対向する面のエッチングを行い、周波数調整をするようにしたことを特徴とする。
【0013】
このようにすれば、IDT電極が形成された圧電基板をパッケージにマウントした後に、圧電基板の電極形成面と対向する面をエッチングすることが可能となり、弾性表面波装置の周波数を精度よく調整することができる。
【0014】
また、第5の発明は、第4の発明の弾性表面波装置の周波数調整方法において、周波数調整に先立って、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板のIDT電極形成面の基板表面および前記IDT電極の表面のうちの少なくとも一方を削って予備周波数調整を行うようにしたことを特徴とする。
【0015】
このようにすれば、周波数を大きく調整する必要がある場合に、最初に電極形成面の基板表面および電極の少なくとも一方を、ウェットエッチングなどで削って周波数の調整を粗く行い(予備周波数調整)、その後に、電極形成面と対向する面をエッチングして、精度の良い周波数調整(微調整)を行うことができる。このため、電極形成面と対向する面のみをエッチングして周波数調整をする場合に比べて、周波数調整を短時間で行うことができる。
【0016】
第6の発明の弾性表面波装置は、上記第1から第5の発明の周波数調整方法で周波数調整されたことを特徴とする。
【0017】
このようにすれば、擬似縦型漏洩弾性表面波を利用し、精度良く周波数が調整された弾性表面波装置を提供できる。
【0018】
第7の発明の電子機器は、弾性表面波装置をフィルタや共振子などとして含む電子機器であって、前記弾性表面波装置は、上記第1から第5の発明の周波数調整方法で周波数調整された弾性表面波装置を備えていることを特徴とする。
【0019】
この構成の電子機器は、精度良く周波数調整された弾性表面波装置を備えており、良好な性能を持った電子機器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面に従って説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本実施形態に係る弾性表面波素子の概略構成を示す斜視図、図1(b)は同図(a)のA−A断面図である。
弾性表面波装置としての弾性表面波素子10aは、タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板を含む圧電基板1と、この圧電基板1の表面上に形成されたIDT電極2および反射器電極3a、3bを備えている。
図1において、tは圧電基板1の厚み、PはIDT電極2のピッチ、λはIDT波長、hはIDT電極2および反射器電極3a、3bの厚みである。
圧電基板1は、擬似縦型漏洩弾性表面波が励振されるように、それぞれの圧電材料に応じた切り出し角で切り出され、また、厚みtは所定の厚さに調整されている。
【0022】
IDT電極2および反射器電極3a、3bは、アルミニウムを主成分とする金属からなり、圧電基板1上に形成されている。このIDT電極2は、駆動電圧の供給により擬似縦型漏洩弾性表面波を励振し、所定の周波数の振動を出力する機能を有している。反射器電極3a、3bは、IDT電極2を挟むように形成され、IDT電極2により励振された擬似縦型漏洩弾性表面波を、外部に向かって伝搬するのを反射し、IDT電極2に表面波エネルギーを閉じ込める機能を有している。
【0023】
図2は、上述した弾性表面波素子10aを収容容器に収容した弾性表面波装置の概略断面である。
弾性表面波装置10bは、収容容器14と弾性表面波素子10aを備えている。セラミックスなどで形成された収容容器14は、一面が開放されて凹部が設けられている。この凹部に、圧電基板1からなる弾性表面波素子10aをIDT電極2が下を向くようにし金バンプ13を介して収容容器14内にマウントさせ、電気的接続と機械的接続を同時に果たしている。この、弾性表面波装置10bでは、この状態で圧電基板1の電極形成面と対向する面1bをエッチングし、目標の中心周波数となるように圧電基板1の厚みtが調整される。
そして、図3に示すように、収容容器14の上面には蓋体15が、内部を真空雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気に保持して封止され、パッケージされた弾性表面波装置10cとなる。
【0024】
次に、本実施形態における弾性表面波装置の周波数調整方法の説明に先立って、周波数調整の原理について説明する。
一般に、弾性表面波装置の周波数はIDT電極や反射器電極(以下、両者を合わせて電極と表現する)の実効膜厚に依存し、電極膜厚が薄くなると周波数が上がり、厚くなると周波数が下がる。この原理を利用して、実用的には、電極をエッチングして周波数を上げる方法や、電極を厚くする方法に代えて、電極をマスクにして基板を削って見かけ上の電極膜厚を増し、周波数を下げる方法で弾性表面波素子の周波数調整が行われている。
また、擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置の場合には、この擬似縦波型漏洩弾性表面波が弾性体(圧電体)の深さ(厚み)方向にエネルギーを放射しながら伝搬する弾性表面波であるため、基板厚みを調整することにより中心周波数を変化させることが可能である。つまり、電極を形成した面の厚み方向に対向する面をエッチングして、基板厚さを薄くすることにより、周波数を上げることができる。
【0025】
図4は擬似縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置の各周波数調整方法における、エッチング量と周波数の変動を示す概略説明図である。
電極の表面をエッチングして電極膜厚を薄くした場合には、一点鎖線で示すように電極のエッチング量に対して、周波数の変動量は大きく、周波数は上がる方向に変化する。また、電極をマスクにして圧電基板をエッチングした場合には、破線で示すように、圧電基板のエッチング量に対して、周波数の変動量は大きく、周波数は下がる方向に変化する。これらに対して、電極を形成した面に対向する基板面をエッチングした場合には、実線で示すように圧電基板のエッチング量に対して周波数の変動量は小さく、周波数が上がる方向に変化する。このことは、精度の良い周波数調整に適し、特に周波数が高く、IDT波長の短い弾性表面波装置の周波数調整に適しているのがわかる。
【0026】
図5は圧電基板としてタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板を用い、IDT電極や反射器電極を形成した面に対向する基板面(基板裏面)をエッチングした場合の、エッチング量と周波数変動量の関係を示すグラフである。
このように、上述したそれぞれの基板材料を用いた場合に、基板裏面のエッチング量に対して周波数変動量が小さく、高精度の周波数調整が可能である。
そこで、本発明に係る弾性表面波装置の周波数調整方法は、上記の点に着目し、圧電基板裏面をエッチングすることにより、精度の良い周波数調整ができるようにしたものである。
【0027】
この圧電基板裏面をエッチングする方法としては、ウェットエッチングでもドライエッチングでも良いが、微小量のエッチング量の制御が可能であるドライエッチングが好適である。
以下、本実施形態に用いられるエッチング装置(周波数調整装置)について、説明をする。図6はエッチング装置の概略構成図である。
エッチング装置40は、チャンバ41を有しており、チャンバ41内を排気およびチャンバ41内にガスを導入できるように構成されている。また、このチャンバ41内に上部電極42aおよび下部電極42bが配置されている。上部電極42aは接地され、下部電極42bはコンデンサ43を介してRF電源(高周波電源)44に接続されている。下部電極42b上には支持台45が設けられ、その支持台45の上に、収容容器に弾性表面波素子をマウントした弾性表面波装置10bを載置できるようになっている。
【0028】
また、支持台45には、弾性表面波装置10bから発生する擬似縦波型漏洩弾性表面波の周波数を測定するための測定端子47が設けられている。この測定端子47は、電気ケーブル48を介して周波数測定計49に接続されている。
周波数測定計49は、その測定した中心周波数をRF電源制御部46に供給するようになっている。RF電源制御部46は、その供給される測定中心周波数と目標値を比較してRF電源44の動作などを制御するようになっている。
【0029】
このエッチング装置40を用いて弾性表面波装置10bの周波数調整を行う場合には、図2に示すように、圧電基板1のIDT電極2の形成面と対向する面(基板裏面1b)を上にマウントされた弾性表面波装置10bを支持台45上に載せる。
次に、周波数測定計49により、弾性表面波装置10bの中心周波数の測定を開始する。そこで、チャンバ41内を排気しつつ、エッチングガスをチャンバ41内に導入して所定の減圧下でプラズマを発生させる。
【0030】
このとき、RF電源44により、上部電極42aと下部電極42bとの間に高周波電圧が印加されているため、プラズマ中で生成したイオンが電界で加速され、圧電基板1の裏面1bのエッチングが行われる。これにより、そのエッチングにより測定される中心周波数が変化し目標値に近づいていく。
このエッチング中は、周波数測定計49は、弾性表面波装置10bの中心周波数の測定を行い、その測定値をRF電源制御部46に供給する。RF電源制御部46は、その測定値が予め設定されている目標値と比較し、目標値になるとRF電源44の動作を停止させる。これにより上記のエッチングが停止し、周波数調整が終了する。
【0031】
このようなエッチング装置40を用いた弾性表面波装置の周波数調整方法について、図7のフローチャートを参照しながら説明をする。
まず、ステップS1で圧電基板1上に形成されたIDT電極2の厚みhを、目標の厚みよりもわずかに厚めであって、中心周波数が目標値よりわずかに低めとなるように設定しておく。次に、弾性表面波装置10bをエッチング装置40のチャンバ41内に設置してIDT電極2に電圧を印加させて中心周波数の測定(入出力測定)を開始する(ステップS2)。そして、ステップS3に進み、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングが行われる。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が徐々に上がって目標値に近づいていく。次のステップS4では中心周波数が目標値でなければステップS3に戻りエッチングを継続し、目標値になればステップS5に進みエッチングを停止する。つまり、エッチングしながら中心周波数の測定を繰り返し、目標値になるまでエッチングを継続する。
【0032】
以上のような周波数調整方法によれば、エッチング量に対して周波数の変動量が小さい圧電基板1の基板裏面1bをエッチングすることにより、中心周波数を精度良く目標値に調整することができる。
このように、周波数調整をドライエッチングにより圧電基板1の基板裏面1bについて行うことができるので、圧電基板1の表面をプラズマなどでエッチングする場合に問題となる残留アルミニウムに起因した調整後の周波数変動を防止することができる。
また、圧電基板1に形成される電極を一切侵すことなく周波数調整を行うことができるので、中心周波数の経年変化が少なく、長期的に安定に動作する弾性表面波装置を実現できる。
【0033】
次に、他の周波数調整方法について図8を参照しながら説明をする。
この方法は、弾性表面波装置の圧電基板上に形成されるIDT電極の厚みなどに製造上の大きなバラツキがあり、精度よく周波数調整を必要とする場合に有用な方法である。
まず、IDT電極2に電圧を印加させて中心周波数の測定を開始する(ステップS11)。次に、その測定中心周波数が目標値以下または目標値以上であるかを判定する(ステップS12)。
【0034】
この判定の結果、測定中心周波数が目標値以下の場合にはステップS13に進み、測定中心周波数が目標値以上の場合にはステップS19に進む。なお、測定中心周波数が目標値に一致する場合には、周波数の調整が不要であるので、その調整を終了する。
ステップS13では、IDT電極2の表面のエッチング、例えばウェットエッチングで測定周波数を確認しながら行う。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が短時間に上がっていく。そして、その測定中心周波数が、中心周波数の目標値よりもわずかに低く設定されている「仮の目標値」になるまで、そのエッチングを継続し(ステップS13、S14)、それが「仮の目標値」になった時点でそのエッチングを停止する(ステップS15)。以上のステップS13、S14の処理は、周波数の粗調整(予備周波数調整)となる。
【0035】
次に、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングを、エッチング装置40を用いて行う。このエッチングでは、測定周波数を確認しながら行う(ステップS16)。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が徐々に上がって目標値に近づいていく。そして、中心周波数が目標値になるまでそのエッチングを継続し(ステップS16、S17)、それが目標値になった時点でエッチングを停止する(ステップS18)。以上のステップS16、S17の処理は、周波数の微調整となる。
【0036】
一方、ステップS19では、圧電基板1のIDT電極形成面の基板表面をエッチング(例えば、ウェットエッチング)する。このエッチングでは測定周波数を確認しながら行う。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が短時間に下がっていく。そして、その測定中心周波数が、中心周波数の目標値よりわずかに低く設定されている「仮の目標値」になるまで、そのエッチングを継続し(ステップS19、S20)、それが「仮の目標値」になった時点でそのエッチングを停止する(ステップS21)。以上のステップS19、S20の処理は、周波数の粗調整(予備周波数調整)となる。
【0037】
次に、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングを、エッチング装置40を用いて行う。このエッチングでは、測定周波数を確認しながら行う(ステップS22)。すると、そのエッチングにより測定される中心周波数が徐々に上がって目標値に近づいていく。そして、中心周波数が目標値になるまでそのエッチングを継続し(ステップS22、S23)、それが目標値になった時点でエッチングを停止する(ステップS24)。以上のステップS22、S23の処理は、周波数の微調整となる。
【0038】
このような周波数調整方法によれば、中心周波数の目標値にバラツキがある場合でも、圧電基板1の表面またはIDT電極2の表面のエッチングにより周波数の粗調整を短時間で行い、その後、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングにより周波数の微調整を行うことにより、全体として短時間で精度の良い周波数調整ができる。
また、特に周波数調整の前の中心周波数が目標値より高い場合には、基板裏面1bのエッチングでは、中心周波数が上がる方向の調整であるため、周波数の調整ができない。このときには、圧電基板1の基板表面をエッチングすることで、中心周波数を目標値以下に下げ、その後、基板裏面1bのエッチングで中心周波数を上げて、中心周波数を目標値に調整することができる。このように、上記の周波数調整方法では、圧電基板1の基板表面のエッチングと圧電基板1の基板裏面のエッチングを組み合わせることで、周波数調整の前の中心周波数が目標値より高い場合であっても調整ができ、その結果、歩留まりの良い周波数調整方法を得ることができる。
【0039】
さらに、周波数の粗調整をウェットエッチングによりIDT電極2の表面あるいは圧電基板1の表面について行い、微調整をドライエッチングにより圧電基板1の基板裏面1bについて行うことができるので、圧電基板1の表面をプラズマなどでエッチングする場合に問題となる残留アルミニウムに起因した調整後の周波数変動を防止することができる。このことから、圧電基板1に形成される電極を一切侵すことなく周波数調整を行うことができるので、中心周波数の経年変化が少なく、長期的に安定に動作する弾性表面波装置を実現できる。
【0040】
なお、上記の例では、圧電基板1の表面のエッチング(ステップS19、S20)またはIDT電極2の表面のエッチング(ステップS13、S14)により周波数の粗調整を行い、その後、圧電基板1の基板裏面1bのエッチングにより周波数の微調整を行うようにしたが、以下のような調整方法も可能である。
すなわち、ステップS11の周波数測定の結果、その中心周波数が「仮の目標値」の許容範囲内の場合には、直ちに圧電基板1の基板裏面1bのエッチング処理(ステップS16またはステップS22)に移行するようにする。
【0041】
また、必要に応じて、まずIDT電極2の表面のエッチングを行い、次に圧電基板1の表面のエッチングを行い、最後に圧電基板1の基板裏面1bのエッチングを行い、中心周波数が目標値になるように調整しても良い。
【0042】
なお、上記実施形態では、弾性表面波素子10bを収容容器にマウントした状態で周波数調整の説明をしたが、図1に示す弾性表面波素子10aの状態で同様に周波数調整を行うこともできる。このとき、弾性表面波素子10aの中心周波数が目標値になるように調整し、その後、収容容器にマウントして収容容器を封止しても良い。また、弾性表面波素子10aの状態で周波数の粗調整(予備周波数調整)を行い、その後、収容容器にマウントして、目標値までの周波数の微調整を行っても良い。(本発明の周波数調整方法が適用される弾性表面波装置の形態)
【0043】
図9は本発明の周波数調整方法が適用される弾性表面波装置10dの断面図である。
弾性表面波装置10dは、IDT電極22などが形成された圧電基板21を、IDT電極22が上を向くようにして、接着剤24を介してセラミックなどで形成された収容容器26内に接着されている。また、圧電基板21上の電極は、ボンデングワイヤ25を介して収容容器26の電極と接続されている。
【0044】
圧電基板21の裏面側の外周部に沿って補強部28が設けられ、この補強部28により圧電基板21の裏面側に凹部23が形成されている。この凹部23は、少なくとも圧電基板21上のIDT電極22の形成範囲に対応するように、形成されている。この凹部23における圧電基板21の厚みtを、エッチングにより調整し、目標の中心周波数に調整するようにしている。
【0045】
この周波数調整のために、収容容器26の底部には、圧電基板21の凹部23に対応するように開口部27が設けられている。そして、圧電基板21を収容容器26に接着後、この開口部27を介して水晶基板21の裏面をエッチングすることにより、凹部23の圧電基板21の厚みtを調整することができる。そして、周波数調整後には、開口部27が塞がれるとともに、収容容器26は封止される。
【0046】
このような弾性表面波装置10dによれば、圧電基板21のIDT電極22の形成面が上を向くようにマウントできるため、ワイヤーボンディングを用いて回路接続を行うことが可能となるとともに、目標の周波数に精度良く調整することができる。
【0047】
図10は本発明の周波数調整方法が適用される弾性表面波装置10eの断面図である。
この弾性表面波装置10eは、駆動回路や増幅回路などを備えたICチップ51を、金バンプ52を介して収容容器53内の底部に接続させ、電気的な接続と機械的な接続とを同時に行うようになっている。ICチップ51上には、圧電基板58が、IDT電極59が下を向くようにして、金バンプ54により接続され、ICチップ51とIDT電極59が電気的に接続されるように構成されている。このように、ICチップ51は、圧電基板58により覆われた状態になっている。
【0048】
このような構成からなる弾性表面波装置10eでは、圧電基板58の電極形成面と対向する面58bがエッチングされ、目標の中心周波数となるように圧電基板58の厚みtが調整される。そして、周波数の調整後には、セラミックパッケージ53は封止される。
【0049】
この弾性表面波装置10eでは、圧電基板58でICチップ51を覆うように配置したので、周波数調整におけるプラズマエッチング時に、圧電基板58でICチップ51を保護した状態となり、プラズマによるICチップ51へのダメージを防止できる。
【0050】
図11は本発明の周波数調整方法が適用される弾性表面波装置10fの断面図である。
この弾性表面波装置10fは、収容容器61内の底部に凹部62が設けられ、この凹部62内にICチップ63を収容させるとともに、そのICチップ63を、金バンプ64を介して凹部62内の底部に接続させ、電気的な接続と機械的な接続とを同時に行うようになっている。
凹部62の開口部の周囲にはマウント部65が形成され、そのマウント部65で囲まれた部分に、圧電基板68のIDT電極69が下を向くようにして嵌め込まれるようになっている。そして、この状態で、圧電基板68は、凹部62の開口部の周縁に封止材66により接合されるとともに、ICチップ63とは金バンプ67を介して接続されている。従って、ICチップ63は凹部62内に収容されるとともに、その凹部62内は密封された状態になる。
【0051】
このような構成からなる弾性表面波装置10fでは、圧電基板68の電極形成面と対向する面68bがエッチングされ、目標の中心周波数となるように圧電基板68の厚みtが調整される。そして、周波数の調整後には、収容容器61は封止される。
【0052】
この弾性表面波装置10fでは、ICチップ63を凹部62内に密封するようにしたので、周波数調整におけるプラズマエッチング時に、圧電基板68でICチップ63を保護した状態となり、プラズマによるICチップ63へのダメージを防止できる。
【0053】
図12は本発明の周波数調整方法が適用される弾性表面波装置10gの断面図である。この弾性表面波装置10gは、収容容器71内の底部に凹部72が設けられ、この凹部72内にICチップ73を収容させるとともに、そのICチップ73を、金バンプ74を介して凹部72内の底部に接続させ、電気的な接続と機械的な接続とを同時に行うようになっている。
【0054】
凹部72の開口部周囲の一部(この例では、その周囲の一端側)にはマウント部75が設けられ、圧電基板78は、IDT電極79が下を向くようにして、その少なくとも一辺がそのマウント部75に支持されるようになっている。そして、この状態で、圧電基板78の少なくとも一辺が、凹部72の開口部の周縁に導電性接着剤76により接着固定されている。さらに、圧電基板78とICチップ73とは、収容容器71に設けたスルーホール77を介して電気的に接続させるようにした。
従って、圧電基板78は、凹部72を塞ぐ状態になるので、凹部72内のICチップ73は、圧電基板78により覆われた状態になる。
【0055】
このような構成からなる弾性表面波装置10gでは、圧電基板78の電極形成面と対向する面78bがエッチングされ、目標の中心周波数となるように圧電基板78の厚みtが調整されている。そして、周波数の調整後には、収容容器71は封止される。
【0056】
この弾性表面波装置10gでは、圧電基板78によりICチップ73を覆うようにしたので、上記のプラズマエッチング時に、圧電基板78によってICチップ73が保護された状態となり、プラズマによるICチップ73へのダメージを防止できる。
【0057】
(第2の実施形態)
次に本発明の弾性表面波装置の実施形態について説明する。
この実施形態に係る弾性表面波装置は、図1、図3、図9〜図12に示すように、上記のような周波数調整方法により調整されている。
この弾性表面波装置によれば、擬似縦型漏洩弾性表面波を利用し、精度良く周波数が調整された弾性表面波装置を提供できる。
【0058】
(第3の実施形態)
次に本発明の電子機器の実施形態について説明する。
図13は電子機器の構成を示す構成図である。電子機器80には、上記のような周波数調整方法により調整された弾性表面波装置90を備えている。この実施形態に係る電子機器としては、例えば、携帯電話やキーレスエントリーシステムなどが挙げられる。
携帯電話の場合には、図1、図3、図9に示すような弾性表面波装置を携帯電話の周波数選別フィルタとして用いるようにした。また、キーレスエントリーシステムの場合には、弾性表面波装置を、図10〜図12に示すような発振器の共振子として用いるようにした。
【0059】
このように、この実施形態の電子機器は、擬似縦型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波装置をフィルタや共振子、あるいは発振器として含んだものである。
このような構成からなる電子機器は、精度良く周波数調整された弾性表面波装置を備えており、良好な性能を持った電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の概略構成図。
【図2】本発明の周波数調整方法が適用される弾性表面波装置の断面図。
【図3】パッケージされた弾性表面波装置の断面図。
【図4】周波数調整方法によるエッチング量と周波数変動の関係を示すグラフ。
【図5】基板材料による基板のエッチング量と周波数変動の関係を示すグラフ。
【図6】本実施形態のエッチング装置の概略構成図。
【図7】本実施形態の周波数調整方法の手順を説明するフローチャート。
【図8】本実施形態の周波数調整方法の手順を説明するフローチャート。
【図9】本発明の周波数調整方法が適用される他の弾性表面波装置の断面図。
【図10】本発明の周波数調整方法が適用される他の弾性表面波装置の断面図。
【図11】本発明の周波数調整方法が適用される他の弾性表面波装置の断面図。
【図12】本発明の周波数調整方法が適用される他の弾性表面波装置の断面図。
【図13】本実施形態の電子機器の構成図。
【符号の説明】
【0061】
1…圧電基板、2…IDT電極、3a、3b…反射器電極、10a…弾性表面波装置としての弾性表面波素子、10b、10c、10d、10e、10f、10g…弾性表面波装置、40…エッチング装置、80…電子機器、t…圧電基板の厚み、h…電極の厚み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板と、このタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板上に形成され擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極とを備えた弾性表面波装置の周波数調整方法であって、
周波数調整は、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の厚みを前記IDT電極の形成面と厚み方向に対向する面から調整することによって行うようにしたことを特徴とする弾性表面波装置の周波数調整方法。
【請求項2】
前記周波数調整は、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と厚み方向に対向する面をドライエッチングで削るようにしたことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波装置の周波数調整方法。
【請求項3】
前記周波数調整に先立って、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板のIDT電極形成面の基板表面および前記IDT電極の表面のうちの少なくとも一方を削って予備周波数調整を行うようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波装置の周波数調整方法。
【請求項4】
タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板と、このタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板上に形成され擬似縦波型漏洩弾性表面波を励振するIDT電極とを備え、前記タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または四ホウ酸リチウム基板を収容容器内に収容させた弾性表面波装置を、エッチングガスを導入するチャンバ内に配置させ、
前記弾性表面波装置の入出力特性の測定を行いながら、所望の周波数が得られるまで前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板の前記IDT電極の形成面と厚み方向に対向する面のエッチングを行い、周波数調整をするようにしたことを特徴とする弾性表面波装置の周波数調整方法。
【請求項5】
前記周波数調整に先立って、前記タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板もしくは四ホウ酸リチウム基板のIDT電極形成面の基板表面および前記IDT電極の表面のうちの少なくとも一方を削って予備周波数調整を行うようにしたことを特徴とする請求項4に記載の弾性表面波装置の周波数調整方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の周波数調整方法で周波数調整されたことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項7】
弾性表面波装置をフィルタや共振子などとして含む電子機器であって、前記弾性表面波装置は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の周波数調整方法で周波数調整された弾性表面波装置を備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−25393(P2006−25393A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31525(P2005−31525)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】