説明

弾性表面波装置

【課題】十分な帯域外減衰量を確保でき、受信用のフィルタとして好適に使用できる弾性表面波装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の弾性表面波装置は、圧電基板10の一主面上にIDT電極および反射器を二重モード構造に配置した入力段および出力段のフィルタ要素が二段縦続接続されたフィルタの形成された弾性表面波素子1が配線基板2上に搭載されており、配線基板2は入力配線21の一部と電磁気的に結合するとともに出力側共通グランド26に接続された結合配線28を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の電子通信機器において特定の周波数帯域を通過させるフィルタとして用いられる弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話においては、アナログとデジタルの2つの方式の無線通信システムが利用されており、使用する周波数も800〜1000MHz帯、1.5〜2.0GHz帯と多岐に亘っている。これらの移動体通信機器では、アンテナを通して送受信される信号の分岐・生成を行なうRF部(分波器)における部品として、圧電基板上にIDT電極をラダー型に配置した構造の弾性表面波素子や圧電基板上にIDT電極を二重モード構造に形成した弾性表面波素子が用いられている。
【0003】
ここで、分波器の重要な特性として、送信配線と受信配線とのアイソレーション特性がある。これは、送信周波数帯域において受信配線側に漏洩する信号強度、あるいは受信周波数帯域において送信配線側へ漏洩する信号強度として評価されるもので、これら漏洩信号の強度が所定の水準よりも小さくなければならず、一般には送信周波数帯域で要求される水準のほうが受信周波数帯域で要求される水準よりも厳しい。このアイソレーション特性を良好なものとするためには、弾性表面波素子の帯域外減衰量を十分に確保することが不可欠であり、特に要求水準の厳しい受信用弾性表面波素子の送信周波数帯域における減衰量の十分な確保が必要である。
【0004】
そこで、アイソレーション特性を改善した分波器として、DMSフィルタ(二重モード構造のフィルタ要素)を2段カスケード接続(従属接続)してなる弾性表面波素子を配線基板上に搭載した構造のものが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
なお、この構造において採用される配線基板としては、図9および図10に示すように、弾性表面波素子1に高周波信号を入力する入力配線21と、弾性表面波素子1によるフィルタを通過した高周波信号を出力するための出力配線22と、弾性表面波素子1の入力段接地電極に入力側接地配線23を介して接続された入力側共通グランド24と、弾性表面波素子1の出力段接地電極に出力側接地配線25を介して接続された出力側共通グランド26と、入力側共通グランド24と出力側共通グランド26とに接続されたインダクタ配線27とを具備する構成が挙げられる。
【特許文献1】特開2003−249842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案された分波器はそれ以前の分波器に比べてアイソレーション特性が改善されたものの、極めて良好な受信品質を確保できる程度に送信回路と受信回路とのアイソレーション特性を満足するためには、さらに大きな帯域外減衰量を確保する必要があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、十分な帯域外減衰量を確保でき、受信用のフィルタとして好適に使用できる弾性表面波装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、圧電基板の一主面上に入力電極と、出力電極と、IDT電極および反射器を二重モード構造に配置した入力段および出力段のフィルタ要素が二段縦続接続されたフィルタと、前記入力段のフィルタ要素に接続された入力段接地電極と、前記出力段のフィルタ要素に接続された出力段接地電極とが形成された弾性表面波素子が、配線基板上に搭載されてなる弾性表面波装置であって、前記配線基板は、前記入力電極に接続された入力配線と、前記出力電極に接続された出力配線と、前記入力段接地電極に一端が接続された入力側接地配線と、該入力側接地配線に接続された入力側共通グランドと、前記出力段接地電極に一端が接続された出力側接地配線と、該出力側接地配線に接続された出力側共通グランドと、前記入力側共通グランドおよび前記出力側共通グランドに接続されたインダクタ配線とを具備し、さらに前記入力配線の一部と電磁気的に結合するとともに前記出力側共通グランドに接続された結合配線を具備することを特徴とする弾性表面波装置である。
【0009】
ここで、前記圧電基板の一主面の外縁に沿って環状導体が形成されているとともに、該環状導体に対応して前記結合配線の一部が前記配線基板上に環状に形成されており、前記弾性表面波素子は、前記環状導体と前記環状に形成された結合配線の一部とが接合されて弾性表面波を伝播するための密閉空間を形成しつつ配線基板上にフリップチップ実装され、前記入力配線の一部が前記配線基板の内部に形成され、前記結合配線と対向することにより電磁気的に結合しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、入力配線と電磁気的に結合する結合配線を設け、これを出力側共通グランドに接続することで、十分な帯域外減衰量を確保し、受信用のフィルタとして好適に使用できる弾性表面波装置が得られる。
【0011】
これは、入力配線と結合配線との磁界結合により、入力電流の一部が結合配線を経由して出力側共通グランドに流れ、弾性表面波素子に入る漏洩信号が小さくなるからであると考えられる。また、電位の低い2段目の共通グランド(出力側共通グランド)の電位を電位の高い1段目の共通グランド(入力側共通グランド)の電位に近づけることができるので、弾性表面波素子本来の特性が発揮されるからであると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態を説明する。
本発明の弾性表面波装置は、図1に示す圧電基板10の一主面上に入力電極11と、出力電極12と、IDT電極および反射器を二重モード構造に配置した入力段および出力段のフィルタ要素が二段縦続接続されたフィルタと、入力段のフィルタ要素13に接続された入力段接地電極14と、出力段のフィルタ要素15に接続された出力段接地電極16とが形成された弾性表面波素子1を、図2の概略説明図に示す配線基板2上に搭載した(図示しない)ものである。
【0013】
弾性表面波素子1は、タンタル酸リチウム単結晶、ランガサイト型結晶構造を有するランタン−ガリウム−ニオブ系単結晶および四ホウ酸リチウム単結晶等の材料からなる圧電基板10の一主面に銀、銅等でIDT電極やその他の電極が形成されたものである。
【0014】
具体的には、図1に示すように、IDT電極は互いに交差した複数本の電極指を有する一対の櫛歯電極により構成されたもので、IDT電極131、132、133が3個横並びに配置されるとともにその両側(SAW伝搬方向両側)にそれぞれ反射器134が配置されてなる二重モード構造の入力段フィルタ要素13と、IDT電極151、152、153が3個横並びに配置されるとともにその両側(SAW伝搬方向両側)にそれぞれ反射器154が配置されてなる二重モード構造の出力段フィルタ要素15とが2段に縦続接続されている。
【0015】
入力段フィルタ要素13における横並びに配置された3個のIDT電極131、132、133のうちの真ん中にあるIDT電極132において、一対の櫛歯電極のうちの一方が入力電極12に接続され、他方が入力段接地電極14に接続されている。そして、IDT電極131において、一対の櫛歯電極のうちの一方が出力段フィルタ要素15のIDT電極151に接続され、他方が入力段接地電極14に接続されている。同様に、IDT電極133において、一対の櫛歯電極のうちの一方が出力段フィルタ要素15のIDT電極153に接続され、他方が入力段接地電極15に接続されている。反射器134はIDT電極からの漏洩弾性表面波を反射する機能を有している。IDT電極で励起される弾性表面波のエネルギーを両反射器間に閉じこめることにより、縦1次モードと縦3次モードを分離して励起し、この二つのモードの共振周波数差を利用してDMSフィルタを実現する。
【0016】
また、出力段フィルタ要素15における横並びに配置された3個のIDT電極151、152、153のうちの真ん中にあるIDT電極152において、一対の櫛歯電極のうちの一方が出力電極12に接続され、他方が出力段接地電極16に接続されている。そして、IDT電極151において、一対の櫛歯電極のうちの一方が入力段フィルタ要素13のIDT電極131に接続され、他方が出力段接地電極16に接続されている。同様に、IDT電極153において、一対の櫛歯電極のうちの一方が入力段フィルタ要素13のIDT電極133に接続され、他方が出力段接地電極16に接続されている。反射器154はIDT電極からの漏洩弾性表面波を反射する機能を有している。IDT電極で励起される弾性表面波のエネルギーを両反射器間に閉じこめることにより、縦1次モードと縦3次モードを分離して励起し、この二つのモードの共振周波数差を利用してDMSフィルタを実現する。
【0017】
なお、IDT電極131からIDT電極151までの経路は、IDT電極133からIDT電極153までの経路と接続されている。これにより、それぞれの経路を伝達される信号の位相がずれにくくなっている。
【0018】
入力電極11から入力された信号は、IDT電極132を経てIDT電極131とIDT133とに二分される。すなわち、弾性表面波(SAW)がIDT電極132からIDT電極131およびIDT電極133へ伝搬する。そして、入力段フィルタ要素13で二分された信号の一方はIDT電極131から出力段のフィルタ要素15におけるIDT電極151に伝えられるとともに、二分された他方の信号はIDT電極133から出力段のフィルタ要素15におけるIDT電極153に伝えられる。さらに、IDT電極151からの信号とIDT電極153からの信号がIDT電極152で合流する。すなわち、弾性表面波(SAW)がIDT電極151およびIDT電極153からIDT電極152へ伝搬する。そして、信号は出力電極16から出力される。
【0019】
なお、図1に示す弾性表面波素子1には、フリップチップ実装(フェースダウン実装)するために圧電基板10の一主面の外縁に沿って環状導体17が形成されており、配線基板2上にこの環状導体17に対応して環状に形成された導体パターン(図2には示していない)と半田接合されて、弾性表面波を伝播するための密閉空間を形成するようになっている。ただし、本発明においては、弾性表面波素子1の実装方法は、フリップチップ実装(フェースダウン実装)に限定されるものではない。
【0020】
そして本発明の弾性表面波装置における配線基板2は、図2に示すように、絶縁基体20と、絶縁基体20の表面または内部に形成された各種配線とから構成されている。各種配線は、具体的には入力電極11に接続された入力配線21と、出力電極12に接続された出力配線22と、入力段接地電極14に一端が接続された入力側接地配線23と、入力側接地配線23に接続された入力側共通グランド24と、出力段接地電極16に一端が接続された出力側接地配線25と、出力側接地配線25に接続された出力側共通グランド26と、入力側共通グランド24および出力側共通グランド26に接続されたインダクタ配線27と、入力配線21の一部と電磁気的に結合するとともに出力側共通グランド26に接続された結合配線28とを含んでいる。なお、図2は本発明の一実施形態における配線基板2の各種配線のみを取り出し、積層方向に引き伸ばしてわかりやすくした概略説明図である。
【0021】
絶縁基体20の構成材料としては、アルミナなどのセラミックス、あるいは低温焼成が可能なガラスセラミックス、FR4などの樹脂が挙げられ、特に限定はされない。そして、絶縁基体20に形成される各種配線は絶縁基体20との同時焼成により形成されるために、絶縁基体20を形成する材料の焼成温度に応じてその構成材料が選択される。例えば、絶縁基体20がアルミナなどのセラミックスからなる場合には、各種配線としてはタングステン、モリブデンなどの高融点材料を主成分とするものが用いられ、絶縁基体20がガラスセラミックスからなる場合には、各種配線としては銅、銀、金などの低抵抗材料を主成分とするものが用いられる。
【0022】
図2に示すように、絶縁基体20の表面には、半導体素子から送られてくる高周波信号を入力する入り口となる入力パッド211、入力接地パッド212が形成されている。高周波信号の伝送線路がこのような一対の組み合わせからなることから、これら入力パッド211と入力接地パッド212も一対の組み合わせとなっている。なお、入力接地パッド212は入力側共通グランド24に接続されている。
【0023】
そして、入力パッド211には入力配線21の一端が接続され、この入力配線21の他端は弾性表面波素子1の入力電極11に対応して絶縁基体20の表面に設けられた入力側接続パッド213に接続されており、入力パッド211から入力配線21および入力側接続パッド213を経て弾性表面波素子1の入力電極11へと高周波信号が送られるようになっている。なお、入力配線21は入力パッド211と入力側接続パッド213との間の経路の配線のことをいい、通常は絶縁基体20の内部に形成され、入力配線パターン214を含んでいる。
【0024】
入力側接地接続パッド231は、弾性表面波素子1の入力段接地電極14に対応して絶縁基体20の表面に設けられたものである。この入力側接地接続パッド231は、絶縁基体20の内部に形成された入力側接地配線23に接続されており、入力側接地配線23を経て絶縁基体20の裏面に設けられた入力側共通グランド24に接続されている。なお、図1に示す弾性表面波素子1のフィルタ要素13におけるIDT電極は3個設けられているが、それぞれの接地側は合流して1個の入力段接地電極14に接続されている。この入力段接地電極14が半田バンプなどで入力側接地接続パッド231に接続される。
【0025】
また、絶縁基体20の表面には、出力側接続パッド221と出力側接地接続パッド251が設けられており、弾性表面波素子1を通過した高周波信号を受けとるようになっている。そして、出力側接続パッド221は、絶縁基体20の内部に形成された出力配線22に接続されており、出力配線22を経て絶縁基体20の裏面に形成された出力パッド222に接続されている。なお、出力配線22は出力側接続パッド221と出力パッド222との間の経路の配線のことをいう。
【0026】
出力側接地接続パッド251は、弾性表面波素子1の出力段接地電極16に対応して絶縁基体20の表面に設けられたもので、出力側接地配線25を経て絶縁基体20の裏面に設けられた出力側共通グランド26に接続されている。なお、図1に示す弾性表面波素子1のフィルタ要素15におけるIDT電極は3個設けられているが、それぞれの接地側は合流して1個の出力段接地電極16に接続されている。この出力段接地電極16が半田バンプなどで出力側接地接続パッド251に接続される。
【0027】
入力側共通グランド24と出力側共通グランド26とは、高周波的に分離されつつインダクタ配線27により接続されている。入力側共通グランド24と出力側共通グランド26とが接続されないと通過帯域内の信号が伝播しなくなってしまい、インダクタ配線27によらずに接続されると入力配線から出力配線への信号漏れが大きくなってしまうためである。
【0028】
そして、出力パッド222と出力側共通グランド26とが一対の組み合わせとなって、外部回路の伝送線路に接続され、高周波信号が出力される。
【0029】
配線基板2を構成する絶縁基体20の内部には本発明の特徴部分である結合配線28が設けられており、この結合配線28の一部である結合配線パターン281が入力配線21の一部である入力配線パターン214と電磁気的に結合する位置に設けられている。図3には、入力配線21の一部である入力配線パターン214と結合配線28の一部である結合配線パターン281とを同一層に形成したものを例示している。なお、結合配線28とは、結合配線パターン281とビアホール導体282とを含むものを意味する。
【0030】
ここで、入力配線パターン214および結合配線パターン281の厚みは通常5〜10μm程度である。そして、この形態における入力配線21(入力配線パターン214)と結合配線28(結合配線パターン281)とが近接する領域(結合領域)の長さLおよび間隔Dは、誘電損失が大きくなりすぎないことおよび結合量が小さすぎることのないことを考慮して、長さLが100〜1000μm、間隔Dが50〜300μmであるのが好ましい。
【0031】
また、結合配線28はインダクタンス成分に敏感ではないが、長くなりすぎると低い電位である出力側共通グランド26の電位を高い電位である入力側共通グランド24の電位に近づけることができず、弾性表面波素子1本来の性能を発揮させ帯域外減衰量を大きくすることができるという効果が小さくなってしまうことから、結合配線28の全長は3000μm以下であるのが好ましい。
【0032】
さらに、結合配線28と出力側共通グランド26との接続点は、出力側接地配線25と出力側共通グランド26との接続点に近い方がよく、遠すぎると出力側共通グランド26の低い電位を入力側共通グランド24の高い電位に近づけることができず、弾性表面波素子1本来の性能を発揮させ帯域外減衰量を大きくすることができるという効果が小さくなってしまう。したがって、これらの距離は、2000μm以下であるのが好ましい。
【0033】
ここで、図1乃至図4に示すように、同一層に形成された入力配線パターンの一部と結合配線パターンの一部とで電磁気的に結合させた構造であって、結合領域の長さLを600μm、間隔Dを75μmとしたものについて、フィルタの挿入損失を1.81GHzから1.93GHzまで評価した。その結果を図5に示す。
【0034】
図5によれば、帯域外減衰量が−50dB以下の帯域は1.85GHzから1.91GHzとなっている。また、比較例として図9および図10に示すような結合配線を設けていない構造の従来の弾性表面波装置について、フィルタの挿入損失を1.81GHzから1.93GHzまで評価した。その結果は、図11に示すように帯域外減衰量−50dB以下の帯域が1.89GHzから1.91GHzであった。したがって、本発明によりフィルタ特性(帯域外減衰特性)が良くなっており、帯域外減衰量が十分に確保されていることがわかる。
【0035】
このような特性となるように設計するには、まず図9および図10に示すような結合配線を設けていない構造のもので、入力接地配線23や出力接地配線25のインダクタンス調整などにより帯域外を減衰させた所望のフィルタ特性を有する配線基板を設計する。そして、入力配線21の一部と電磁気的に結合し、一端を出力側共通グランド26に接続させた結合配線28を設ける。このとき、結合領域の長さLや間隔Dを上述のように好ましい範囲に設定して結合量を調整することで、帯域外減衰量を十分に確保することができる。このような効果が現れるのは、以下の2点によるものと考えられる。
【0036】
一つめの考察としては、入力配線の一部と結合配線の一部との磁界結合により、入力電流の一部が結合配線を経由して出力側共通グランドに流れ、弾性表面波素子に入る信号が小さくなると考えられる点である。
【0037】
もう一つの考察としては、従来の配線構造では、入力側接地配線と入力側共通グランドの接続点の電位に比べて、出力側接地配線と出力側共通グランドの接続点の電位が低くなってしまう。つまり、弾性表面波素子は、1段目の共通グランド(入力側共通グランド)と2段目の共通グランド(出力側共通グランド)が異なる状態で作動しているため、弾性表面波素子本来の特性が発揮されない。これに対し、本発明の構造では、最も電位の高い入力配線と結合配線とを電界結合させることにより、結合配線の電位が上昇し、結合配線が接続されている出力側共通グランドの電位も上昇する。この結果、電位の低い出力側共通グランドの電位が入力側共通グランドの電位に近づき、弾性表面波素子本来の性能が発揮され、帯域外減衰量が大きくなると考えられる点である。
【0038】
次に本発明の他の実施形態を説明する。
この弾性表面波装置は、図6および図7に示すように、絶縁基体20の表面に環状の結合配線パターン282を形成し、絶縁層を挟んで結合配線パターン282の一部と入力配線パターン214の一部とを対向させて、この対向する部分で電磁気的な結合がなされており、配線基板2におけるその他の部分は図1乃至図4に示す実施形態とほぼ同様の構造になっている。この実施形態における入力配線21の一部と結合配線28の一部との距離(対向する領域の距離)は、誘電損失および結合量を考慮して、数十〜数百μm、好ましくは20〜100μmである。また、対向する面積は5000〜30000μmであるのが好ましい。
【0039】
そして、図1に示すように、弾性表面波素子1の圧電基板10の一主面の外縁に沿って独立して環状導体17を形成するとともにこの環状導体17に対応するように結合配線パターン282を配線基板(絶縁基体20)上に形成することにより、弾性表面波素子1が前記環状導体および結合配線パターン282が接合されて弾性表面波を伝播するための密閉空間を形成しつつ配線基板(絶縁基体20)上にフリップチップ実装される。
【0040】
このような形態によれば、弾性表面波を伝播するための密閉空間の形成と結合電極の形成とを同時に行うことができる。
【0041】
ここで、図6および図7に示すように、絶縁基体20の表面に環状の結合配線パターン282を形成し、絶縁層を挟んで結合配線パターン282の一部と入力配線パターン214の一部とを対向させて、この対向する部分で電磁気的に結合させた構造であって、結合領域の面積を9750μm、間隔Dを40μmとしたものについて、フィルタの挿入損失を1.81GHzから1.93GHzまで評価した。その結果を図8に示す。
【0042】
図8によれば、帯域外減衰量が−50dB以下の帯域が1.84GHzから1.91GHzとなり、図11の特性に比べて大幅にフィルタ特性(帯域外減衰特性)が良くなっていることがわかる。なお、図5に示すフィルタ特性よりも良くなっているが、図5に示すフィルタよりも結合量の調整が適していたことによる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態における弾性表面波素子の構成の概略説明図である。
【図2】本発明の一実施形態における配線基板の各種配線のみを取り出し、積層方向に引き伸ばした概略説明図である。
【図3】図2に示す結合配線パターンと入力配線パターンとの電磁気的な結合状態を示す概略断面図である。
【図4】本発明の一実施形態の配線構造の概略図である。
【図5】図1乃至図4に示す弾性表面波装置のフィルタ特性を示すグラフである。
【図6】本発明の他の実施形態における配線基板の各種配線のみを取り出し、積層方向に引き伸ばした概略説明図である。
【図7】図6に示す結合配線パターンと入力配線パターンとの電磁気的な結合状態を示す概略断面図である。
【図8】図6および図7に示す弾性表面波装置のフィルタ特性を示すグラフである。
【図9】比較例として結合配線を設けていない配線基板の各種配線のみを取り出し、積層方向に引き伸ばした概略説明図である。
【図10】比較例の形態の配線構造の概略図である。
【図11】比較例としての弾性表面波装置のフィルタ特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1・・・・弾性表面波素子
10・・・圧電基板
11・・・入力電極
12・・・出力電極
13・・・入力段フィルタ要素
14・・・入力段接地電極
15・・・出力段フィルタ要素
16・・・出力段接地電極
131、132、133、151、152、153・・IDT電極
134、154・・反射器
2・・・・配線基板
20・・・絶縁基体
21・・・入力配線
211・・入力パッド
212・・入力接地パッド
213・・入力側接続パッド
214・・入力配線パターン
22・・・出力配線
221・・出力側接続パッド
222・・出力パッド
23・・・入力側接地配線
231・・入力側接地接続パッド
24・・・入力側共通グランド
25・・・出力側接地配線
251・・出力側接地接続パッド
26・・・出力側共通グランド
27・・・インダクタ配線
28・・・結合配線
281、282・・結合配線パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一主面上に入力電極と、出力電極と、IDT電極および反射器を二重モード構造に配置した入力段および出力段のフィルタ要素が二段縦続接続されたフィルタと、前記入力段のフィルタ要素に接続された入力段接地電極と、前記出力段のフィルタ要素に接続された出力段接地電極とが形成された弾性表面波素子が、配線基板上に搭載されてなる弾性表面波装置であって、
前記配線基板は、前記入力電極に接続された入力配線と、前記出力電極に接続された出力配線と、前記入力段接地電極に一端が接続された入力側接地配線と、該入力側接地配線に接続された入力側共通グランドと、前記出力段接地電極に一端が接続された出力側接地配線と、該出力側接地配線に接続された出力側共通グランドと、前記入力側共通グランドおよび前記出力側共通グランドに接続されたインダクタ配線とを具備し、さらに前記入力配線の一部と電磁気的に結合するとともに前記出力側共通グランドに接続された結合配線を具備することを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記圧電基板の一主面の外縁に沿って環状導体が形成されているとともに、該環状導体に対応して前記結合配線の一部が前記配線基板上に環状に形成されており、
前記弾性表面波素子は、前記環状導体と前記環状に形成された結合配線の一部とが接合されて弾性表面波を伝播するための密閉空間を形成しつつ配線基板上にフリップチップ実装され、
前記入力配線の一部が前記配線基板の内部に形成され、前記結合配線と対向することにより電磁気的に結合していることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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