説明

弾性表面波装置

【課題】 通過帯域外の減衰量を大きくすることができるWLP型のSAW装置を提供する。
【解決手段】 圧電基板3に、複数の並列共振子21に共通に接続された第1領域24aおよび第1領域24aから延出された第2領域24bを有する基準電位配線24が形成された弾性表面波装置1である。基準電位配線24の第1領域24aには、枠部15および蓋部17を貫通する第1基準電位端子8が配置され、基準電位配線24の第2領域24bには、枠部15および蓋部17を貫通する第2基準電位端子9が配置されている。蓋部17の主面に、第2基準電位端子9に接続され、かつ第1基準電位端子8には接続されない金属層14を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタや分波器などの弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電基板をセラミックなどからなるパッケージに収容し、金属の蓋などで封止したSAW装置(例えば、特許文献1参照)や、圧電基板を平板状のセラミック基板にフリップチップ実装してなるCSP(Chip Size Package)型のSAW装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
また近年においては、SAW装置の全体構造をより小型化する構造として、圧電基板上に樹脂などからなる保護カバーをビルドアップにより形成したいわゆるWLP(Wafer Level size Package)型のSAW装置が提案されている。かかるWLP型のSAW装置は、圧電基板と、圧電基板に設けられたフィルタ部と、フィルタ部の振動空間を設けるようにして形成される保護カバーとを有するものである(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
ところで特定の周波数帯域の信号のみを通過させるフィルタリング機能を有するSAW装置においては、フィルタの特性を調整するためにインダクタパターンが設けられることがある。例えば、特許文献1のSAW装置では、ラダー型SAWフィルタを構成する並列共振子と基準電位部との間にインダクタパターンを設けることによりフィルタの通過帯域外の減衰量を大きくすることが開示されている。このようなインダクタパターンは、所定の大きさのインダクタンスを確保するために細長いパターンを比較的長く引き回す必要があり、通常、圧電基板が実装されるパッケージなどに設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−7250号公報
【特許文献2】特開2003−78389号公報
【特許文献3】特開2007−208665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、WLP型のSAW装置の場合は、圧電基板が実装されるパッケージがもはや存在せず、その全体構造が非常に小型であることから、インダクタパターンを形成するためのスペースが殆どない。すなわち、WLP型のSAW装置では、十分な大きさのインダクタンスを有するインダクタパターンを形成することが困難であり、ラダー型SAWフィルタの通過帯域外の減衰量を大きくすることが難しい状況にある。換言すれば、通過帯域外の減衰量を大きくすることができるWLP型SAW装置が望まれる。
【0007】
そこで本発明は、通過帯域外の減衰量を大きくすることができるWLP型のSAW装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様としての弾性表面波装置は、圧電基板と、該圧電基板に設けられた、複数の並列共振子を含むラダー型のフィルタ部と、前記複数の並列共振子を囲むようにして前記圧電基板の主面に配置された枠部および該枠部の開口を塞ぐ蓋部を有する保護カバーと、前記圧電基板に設けられ、前記複数の並列共振子に共通に接続された第1領域および該第1領域から延出された第2領域を有する基準電位配線と、該基準電位配線の前記第1領域に立てて設けられ、前記枠部および前記蓋部を貫通する第1基準電位端子と、前記基準電位配線の前記第2領域に立てて設けられ、前記枠部および前記蓋部を貫通する第2基準電位端子と、前記蓋部の主面に設けられ、前記第2基準電位端子に接続され、かつ前記第1基準電位端子には接続されない金属層と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成からなるSAW装置によれば、圧電基板に設けられ、複数の並列共振子に共通に接続された第1領域および該第1領域から延出された第2領域を有する基準電位配線と、該基準電位配線の前記第1領域に立てて設けられ、前記枠部および前記蓋部を貫通する第1基準電位端子と、前記基準電位配線の前記第2領域に立てて設けられ、前記枠部および前記蓋部を貫通する第2基準電位端子と、前記蓋部の主面に設けられ、前記第2基準電位端子に接続され、かつ前記第1基準電位端子には接続されない金属層とを備えた構成としたことから、基準電位配線の第2領域に形成されるインダクタを有効に利用することができるので、通過帯域外の減衰量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るSAW装置の外観斜視図である。
【図2】図1のII−II線における断面図である。
【図3】図1のSAW装置におけるフィルタ部の構成を示す模式的な平面図である。
【図4】図1のSAW装置における金属層と振動空間との位置関係を説明するための平面図である。
【図5】比較パターンFのSAW装置の平面図である。
【図6】(a)はパターンAのSAW装置の平面図であり、(b)はパターンAおよび比較パターンFに係るSAW装置の減衰特性を示すシミュレーションによるグラフである。
【図7】(a)はパターンBのSAW装置の平面図であり、(b)はパターンBおよび比較パターンFに係るSAW装置の減衰特性を示すシミュレーションによるグラフである。
【図8】(a)はパターンCのSAW装置の平面図であり、(b)はパターンCおよび比較パターンFに係るSAW装置の減衰特性を示すシミュレーションによるグラフである。
【図9】(a)はパターンDのSAW装置の平面図であり、(b)はパターンDおよび比較パターンFに係るSAW装置の減衰特性を示すシミュレーションによるグラフである。
【図10】(a)はすべての基準電位端子が金属層に接続されている場合のSAW装置の等価回路図であり、(b)は所定の基準電位端子が金属層から切り離され、所定の基準電位端子が金属層に接続されている場合のSAW装置の等価回路図である。
【図11】SAW装置の別の例を示す平面図である。
【図12】シミュレーションに用いたSAW装置のモデルを示す平面図であり、(a)は金属層が端子を囲っていない状態のもの、(b)は金属層が端子を囲っている状態のものである。
【図13】図12のモデルについて行ったシミュレーション結果を示す図であり、(a)は図12(a)に対応するもの、(b)は図12(b)に対応するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波装置(SAW装置)について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るSAW装置1の外観斜視図、図2は図1のII−II線における断面図である。
【0013】
SAW装置1は、圧電基板3の上に樹脂からなる保護カバーにより振動空間を確保するようにしたいわゆるWLP型のSAW装置である。SAW装置1は、圧電基板3と、圧電基板3に固定された保護カバー5と、保護カバー5の主面17aに設けられた金属層14と、保護カバー5から露出する複数の端子(入力信号端子6、出力信号端子7、第1基準電位端子8)と、を有している。
【0014】
SAW装置1は、入力信号端子6から信号の入力がなされる。入力された信号は、圧電基板3に設けられたフィルタ部12によりフィルタリングされる。そして、SAW装置1は、フィルタリングした信号を出力信号端子7から出力する。
【0015】
SAW装置1は、例えば、保護カバー5側の面を不図示の外部の回路基板等の実装面に対向させて当該実装面に載置された状態で全体を樹脂封止されることにより、複数の端子を実装面上の端子に接続した状態で実装される。
【0016】
圧電基板3は、例えば、タンタル酸リチウム単結晶、ニオブ酸リチウム単結晶等の圧電性を有する直方体状の単結晶基板である。圧電基板3は、主面3aと、その背面側の主面3bとを有している。圧電基板3の平面形状は適宜に設定されてよいが、例えば、所定方向(Y方向)を長手方向とする矩形である。圧電基板3の大きさは適宜に設定されてよいが、例えば、厚さは0.2mm〜0.5mm、1辺の長さは0.5mm〜2mmである。
【0017】
図3は、圧電基板3の主面3aにおける配線構造を示す模式的な平面図である。
【0018】
圧電基板3には、信号をフィルタリングする機能を有するフィルタ部12が設けられている。図3において破線で囲った領域がフィルタ部12である。フィルタ部12は、第1〜第4直列共振子19a〜19d(以下、これらをまとめて直列共振子19と称することがある)と第1〜第3並列共振子21a〜21c(以下、これらをまとめて並列共振子21と称することがある)とをラダー型に配置してなるラダー型フィルタである。なお、図3の模式図では直列共振子19と並列共振子21をわかりやすくするために、それらに斜線を引いている。
【0019】
直列共振子19と並列共振子21とは、例えば、複数の電極指を有する一対の櫛歯状電極同士を互いの電極指が噛み合うようにして配置されたIDT(InterDigital Transducer)電極と、IDT電極の、弾性表面波の伝搬方向(X方向)両側に配置された2つの反射器電極から構成される。各共振子のIDT電極は、直列共振子19と並列共振子21のそれぞれに要求される共振特性に基づいて、その交差幅、電極幅、電極指本数、電極指間のピッチ等が定められる。
【0020】
圧電基板3の主面3aには、直列共振子19および並列共振子21の他にも、入力信号パッド13a、出力信号パッド13b、第1基準電位パッド13c、第2基準電位パッド13d、第3基準電位パッド13e、第4基準電位パッド13fが設けられており、これらのパッドは、直列共振子19および並列共振子21のいずれかに各種配線により電気的に接続されている。具体的には、入力信号パッド13aは、入力信号配線22により第1直列共振子19aと接続されている。出力信号パッド13bは、出力信号配線23により第4直列共振子19dと接続されている。第1〜第4基準電位パッド13c〜13fは、基準電位配線24により並列共振子13に接続されている。本実施形態において基準電位配線24は、第1領域24aおよび第2領域24bの2つの領域に分けて考えることができる。第1領域24aは、基準電位配線24のうち第1〜第3の並列共振子21a〜21cに共通に接続される領域であり、第2領域24bは、基準電位配線のうち第1領域24aから延出される領域である。第1領域24aと第2領域24bの境界を一点鎖線Bで示す。基準電位配線24の第2領域24bは、圧電基板3の主面3aの外周に沿って略C字状に形成されている。換言すれば、第2領域24bは、全体が圧電基板3の主面3aの外周に沿って形成されるとともに、両端が接続されないようにギャップを有している。このように第2領域24bを形成することによって、第2領域には比較的大きなインダクタンスが形成されることになる。
【0021】
また第1直列共振子19a、第2直列共振子19bおよび第1並列共振子21aは、第1中間配線25aにより互いに接続されている。第2直列共振子19b、第3直列共振子19cおよび第2並列共振子21bは第2中間配線25bにより互いに接続されている。第3直列共振子19c、第4直列共振子19dおよび第3並列共振子21cは、第3中間配線25cにより互いに接続されている。
【0022】
圧電基板3の主面3a上に形成された各種の配線、電極およびパッドは、例えば、Al−Cu合金等のAl合金により形成されており、その厚さは、例えば、100〜200nmである。またこれら各種の配線、電極およびパッドは、異なる金属材料を積層した構造としてもよく、例えば、Ti/Al、Cr/Ni/Au、Ni/Auといった組み合わせからなる金属を積層させることにより形成してもよい。
【0023】
直列共振子19および並列共振子21は、図2の断面図に示すように保護層26によって覆われている。保護層26は、主に直列共振子19および並列共振子21を構成する電極の酸化防止等に寄与するものである。保護層26は、例えば、絶縁性を有するとともに、SAWの伝搬に影響を与えない程度に質量の軽い材料、例えば、酸化珪素(SiOなど)、窒化珪素、シリコンなどにより形成されている。保護層26の厚さは、例えば、10〜50nmである。
【0024】
このようなフィルタ部12の直列共振子19および並列共振子21の振動空間51を確保するようにして保護カバー5が設けられている。保護カバー5の平面形状は、例えば、圧電基板3の平面形状と同様である。保護カバー5は、例えば、主面3aと概ね同等の広さを有し、主面3aの概ね全面を覆っている。
【0025】
保護カバー5は、主面3aに積層される枠部15と、枠部15に積層される蓋部17とを有している。枠部15には開口が形成されており、この開口が蓋部17により塞がれることによって、主面3aと保護カバー5との間に振動空間51が形成される。
【0026】
枠部15は、概ね一定の厚さの層により構成されている。枠部15の厚さは、例えば、数μm〜30μmである。蓋部17は、概ね一定の厚さの層により構成されている。蓋部17の厚さは、例えば、数μm〜30μmである。
【0027】
枠部15および蓋部17は、例えば、感光性の樹脂により形成されている。感光性の樹脂は、例えば、アクリル基やメタクリル基などのラジカル重合により硬化する、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系の樹脂である。
【0028】
枠部15および蓋部17は、同一の材料により形成されていてもよいし、互いに異なる材料により形成されていてもよい。本願では、説明の便宜上、枠部15と蓋部17との境界線を明示しているが、実際の製品においては、枠部15と蓋部17とが同一材料により形成され、一体的に形成されていてもよい。
【0029】
このような枠部15および蓋部17を貫くようにして複数の端子が形成されている。本実施形態では、6個の端子が形成されている。具体的には、入力信号端子6、出力信号端子7、第1基準電位端子8、第2基準電位端子9、第3基準電位端子10、第4基準電位端子11である。入力信号端子6は、図3において示した入力信号パッド13aに立てられ、出力信号端子7は出力信号パッド13bに立てられる。また第1基準電位端子8は第1基準電位パッド13cに、第2基準電位端子9は第2基準電位パッド13dに、第3基準電位端子10は第3基準電位パッド13eに、第4基準電位端子11は第4基準電位パッド13fに、それぞれ立てられる。
【0030】
これらの端子のうち入力信号端子6、出力信号端子7、第1基準電位端子8は、保護カバー5の上面(圧電基板3とは反対側の面)から露出しており、後述する金属層14とは離されている。一方、第2基準電位端子9、第3基準電位端子10、第4基準電位端子11は金属層14に接続されている。図2には金属層14と第4基準電位端子11とが接続される態様が示されている。第2、第3基準電位端子9、10も図2に示される第4基準電位端子11と同様に金属層14に接続されている。
【0031】
第1基準電位端子8は、図2の断面図に示すように、保護カバー5を貫通する部分である柱部8aと、柱部8aの保護カバー5からの露出部に接続されるランド8bとを有している。ランド8bは、保護カバー5の上面に積層されるフランジを有している。入力信号端子6および出力信号端子7も第1基準電位端子8と同様に、保護カバー5を貫通する部分である柱部と、柱部の保護カバー5からの露出部に接続されるランドをそれぞれ有している。
【0032】
一方、第4基準電位端子11は図2の断面図に示すように、保護カバー5を貫通する部分である柱部を有するがランドは有していない。第2基準電位端子9および第3基準電位端子10も同様に柱部は有するがランドは有していない。
【0033】
これらの端子は、例えば、銅めっきなどにより形成され、端子と保護カバー5との間にはめっき下地層35が形成されている。
【0034】
蓋部17の主面17aには金属層14が形成されている。金属層14は、例えば、銅めっきなどにより先に述べた端子と同じプロセスで形成することができる。
【0035】
金属層14は、ほぼ全体が薄い絶縁膜18で覆われている。金属層14を絶縁膜18で覆うことにより、SAW装置1を外部の回路基板などに実装する際、金属層14と保護カバー5から露出している端子(入力信号端子6、出力信号端子7、第1基準電位端子8とが、半田などの実装用の接合材によって短絡するのを防止することができる。絶縁膜18は、例えば、SiOなどからなる。また絶縁膜18の一部には図1に示されるように窓部18aが設けられている。本実施形態では、第2基準電位端子9、第3基準電位端子10、第4基準電位端子11の直上に対応する部分に3個の窓部18aが設けられている。このような窓部18aを設けることによって、金属層14の窓部18aから露出する部分と、SAW装置1が実装される外部の回路基板の端子とを半田などの接合材で接続することができる。すなわち、金属層14の窓部18aから露出する部分を外部の回路基板への接合用のランドとして使用することができる。
【0036】
次に、図4を用いて金属層14と振動空間51との位置関係を説明する。図4は、SAW装置1を保護カバー5側から見たときのSAW装置1の平面図であり、振動空間51の外周縁を一点鎖線で示している。なお、図4では絶縁膜18を省略するとともに各基準電位端子の柱部を二点鎖線で示している。
【0037】
同図に示すように金属層14は、その外周縁が振動空間51の外周縁より一回り大きくなるように形成されている。換言すれば、金属層14は、平面透視したときに枠部15の開口を覆うようにして設けられている。このような金属層14を設けることにより、例えば、SAW装置1全体を樹脂モールドする際などの高温、高圧の環境下においても、振動空間51が大きく変形するのを防止することができる。金属層14の厚みは、例えば、35μm〜55μmに設定される。このように比較的厚く金属層14を形成することによって、振動空間51の変形防止の効果をより高めることができる。
【0038】
本発明者等は、この金属層14に着目し、金属層14の形状等によって通過帯域外の減衰量を改善することができないか鋭意研究を重ね、この金属層14と特定の基準電位端子とを切り離すことによってフィルタの通過帯域外の減衰量を大きくすることができることを見出した。
【0039】
図6乃至図9は、金属層14と各基準電位端子との接続と、通過帯域外の減衰特性との関係についてシミュレーションにより調べた結果を示す図である。シミュレーションは、図3に示す構成からなるフィルタについて行ったものであり、その通過帯域周波数は、GPS(Global Positioning System)用の通過帯域周波数(1574MHz〜1576MHz)である。
【0040】
図5は、すべての基準電位端子を金属層14に接続した比較パターンFのSAW装置の平面図であり、図6(a)は、基準電位端子のうち第1基準電位端子8を金属層14から切り離し、第2基準電位端子9、第3基準電位端子10および第4基準電位端子11を金属層14に接続したパターンAのSAW装置の平面図である。
【0041】
図6(b)は、パターンAの減衰特性と比較パターンFの減衰特性とを比較したものであり、実線がパターンAの減衰特性、破線がパターンFの減衰特性をそれぞれ示している。同図に示されるように、GPS用のフィルタに要求される2GHz近傍の通過帯域外減衰量が比較パターンFよりもパターンAの方が大きくなっていることがわかる。すなわち、すべての基準電位端子が金属層14に接続されている場合よりも、ラダー型フィルタを構成する複数の並列共振子に共通に接続された基準電位配線の第1領域に立てられた第1基準電位端子8を金属層14から切り離すことによって帯域外減衰が顕著に改善されていることがわかる。
【0042】
図7(a)は、基準電位端子のうち第3基準電位端子10を金属層14から切り離し、第1基準電位端子8、第2基準電位端子9および第4基準電位端子11を金属層14に接続したパターンBのSAW装置の平面図である。
【0043】
図7(b)は、パターンBの減衰特性と比較パターンFの減衰特性とを比較したものであり、実線がパターンBの減衰特性、破線がパターンFの減衰特性をそれぞれ示している。同図に示されるように、パターンBと比較パターンFとでは帯域外減衰特性に違いがほとんど現れなかった。すなわち、ラダー型フィルタを構成する複数の並列共振子に共通に接続された基準電位配線の第2領域に立てられた第3基準電位端子10を金属層14から切り離しても、すべての基準電位端子が金属層14に接続されている場合と比較して帯域外減衰の顕著な改善は見られない。
【0044】
図8(a)は、基準電位端子のうち第1基準電位端子8、第3基準電位端子10および第4基準電位端子11を金属層14から切り離し、第2基準電位端子9を金属層14に接続したパターンCのSAW装置の平面図である。
【0045】
図8(b)は、パターンCの減衰特性と比較パターンFの減衰特性とを比較したものであり、実線がパターンCの減衰特性、破線がパターンFの減衰特性をそれぞれ示している。同図に示されるように、GPS用のフィルタに要求される2GHz近傍の通過帯域外減衰量が比較パターンFよりもパターンCの方が大きくなっていることがわかる。すなわち、すべての基準電位端子が金属層14に接続されている場合よりも、ラダー型フィルタを構成する複数の並列共振子に共通に接続された基準電位配線の第1領域に立てられた第1基準電位端子8、基準電位配線の第2領域に立てられた第3基準電位端子10および第4基準電位端子11を金属層14から切り離すことによって帯域外減衰が顕著に改善されている。この結果は、パターンAの結果とほぼ同じである。
【0046】
図9(a)は、すべての基準電位端子を金属層14から切り離したパターンDのSAW装置の平面図である。
【0047】
図9(b)は、パターンDの減衰特性と比較パターンFの減衰特性とを比較したものであり、実線がパターンFの減衰特性、破線がパターンFの減衰特性をそれぞれ示している。同図に示されるように、比較パターンFと比較してパターンDの減衰特性に顕著な改善は見られず、逆に1800MHz付近の通過帯域外の減衰量が比較パターンFよりもパターンDの方が若干小さくなっている。すなわち、すべての基準電位端子を金属層14から切り離しても、全ての基準電位端子が金属層14に接続されている場合と比較して通過帯域外の減衰特性に顕著な改善は見られない。
【0048】
以上のシミュレーション結果から、ラダー型フィルタを構成する複数の並列共振子に接続された基準電位配線の第1領域に立てられた第1基準電位端子8を金属層14から切り離し、基準電位配線のうち第1領域から延出された第2領域に立てられた第2基準電位端子9、第3基準電位端子10および第4基準電位端子11の少なくとも1つを金属層14に接続しておくことによって、SAW装置の通過帯域外の減衰量を改善することができることを確認できた。
【0049】
このように所定の基準電位端子を金属層から切り離し、所定の基準電位端子を金属層に接続させておくことによって通過帯域外の減衰特性を改善することができるのは以下の理由によるものと考えられる。
【0050】
図10はSAW装置の等価回路図であり、(a)はすべての基準電位端子が金属層14に接続されている場合の等価回路図、(b)は第1基準電位端子8が金属層14から切り離され、第2基準電位端子9が金属層14に接続されている場合の等価回路図をそれぞれ表している。なお、説明の簡略化のため第3基準電位端子10および第4基準電位端子11を省略した等価回路図としている。
【0051】
図10においてL(24a)は基準電位配線24の第1領域24aに形成されるインダクタ、L(24b)は基準電位配線24の第2領域24bに形成されるインダクタ、L(8)は第1基準電位端子8に形成されるインダクタ、L(9)は第2基準電位端子9に形成されるインダクタ、L(14)は金属層14に形成されるインダクタをそれぞれ表している。
【0052】
図10(a)に示されるように第1基準電位端子8と第2基準電位端子9がともに金属層14に接続されている場合、金属層14を介して第1基準電位端子8と第2基準電位端子9とがその末端で接続されることになり、この接続部分にインダクタL(14)が形成されると考えられる。
【0053】
ここで、インダクタL(24b)、インダクタL(8)、インダクタL(9)、インダクタL(14)のそれぞれの大小関係について考えると、インダクタL(24b)は、インダクタL(8)、インダクタL(9)およびインダクタL(14)よりも十分大きいインダクタンスを有する。インダクタL(24b)は、圧電基板上で引き回された薄くて長い配線(基準電位配線の第2領域24b)によって形成されるため、そのインダクタンスが比較的大きくなるのに対し、インダクタL(8)、インダクタL(9)およびインダクタL(14)は、それが形成される部分の長さが短く、直径や厚みが大きい金属部分に形成されるものであり、それらのインダクタンスは比較的小さくなるからである。
【0054】
このようなインダクタンスの大小関係を前提として、図10(a)の回路についてみてみると、インダクタL(24b)側の経路の先に、インダクタL(24b)よりも大きさが非常に小さいインダクタL(14)が形成されているために、インダクタL(24a)を通過した信号のほとんどは、インダクタL(8)側に流れると考えられる。換言すれば、インダクタL(24a)を通過した信号は、インダクタL(24b)にはほとんど流れない。したがって、図10(a)の等価回路図の場合、大きなインダクタンスが得られないと考えられる。
【0055】
一方、図10(b)の回路の場合、第1基準電位端子8が金属層14と切り離されていることによって、インダクタンスの小さいバイパス経路(インダクタL(14))が形成されないため、インダクタL(24a)を通過した信号は、ある程度インダクタンスの大きいインダクタL(24b)を通過するようになる。これにより図10(b)の等価回路図では、比較的大きなインダクタンスを得ることができるものと考えられる。
【0056】
ただし、すべての基準電位端子を金属層14から切り離すと、金属層14が電気的に浮いた状態となり、この金属層14とフィルタ部を構成する各種電極との間に不要な容量が発生し、パターンDのSAW装置で示したシミュレーション結果のようにフィルタ特性が劣化するものと考えられる。
【0057】
次に、図11〜図13を用いて、端子と金属層14とを切り離す場合の金属層14の形状の好適な例について説明する。
【0058】
図11は図6に示したSAW装置の平面図に対応するものであり、図6のものとは金属層14の形状が異なっている。具体的には、図6に示すSAW装置1では、金属層14が、この金属層14を平面視したときに、金属層14とは接続されない入力信号端子6、出力信号端子7および第1基準電位端子8に対し、これらの端子の略半分だけ囲うようにした状態で形成されていたのに対し、図11に示すSAW装置1では、金属層14が、これらの端子の全体を囲むようにして形成されている。別の見方をすれば、図11に示すSAW装置1において、金属層14は、入力信号端子6、出力信号端子7および第1基準電位端子8が配置される箇所に、入力信号端子6、出力信号端子7および第1基準電位端子8よりも一回り大きい円状の窓部を有した状態で、蓋部17の上面の略全面にわたって形成されている。
【0059】
図11に示すような形状で金属層14を形成することによって、蓋部17、特に金属層14とは接続されない端子の周辺部にクラックが発生するのを抑制することができる。これは、金属層14の形状の違いによる蓋部17に発生する応力の変化の様子をシミュレーションによって調べた結果から確かめられたものである。
【0060】
図12は、シミュレーションのモデルに使用したSAW装置1の平面図であり、(a)は金属層14がダミー端子31を囲まないようにして形成されたもの、(b)は金属層14がダミー端子31を囲むようにして形成されたものである。図12の(a)のモデルと(b)のモデルとでは、金属層14の形状以外の条件はすべて同じとした。具体的には、圧電基板3はLiTaO、保護カバー5は感光性のアクリレート系樹脂、金属層14およびダミー端子31はCuからなるものとした。なお、モデルはSAW装置1を半分の状態にしたものである。
【0061】
図12のモデルについて行ったシミュレーション結果を図13に示す。図13の(a)は、図12(a)のモデルに対応する蓋部17に発生した応力の様子を示すものであり、図13(b)は、図12(b)のモデルに対応する蓋部17に発生した応力の様子を示すものであ。シミュレーションは、図12に示したモデルからなるSAW装置1を他の基板に半田実装した状態において、温度荷重を−125℃に設定して行った。なお、ここで用いたシミュレーションは、有限要素法による熱応力シミュレーションである。
【0062】
図13において、応力の大きさが色の濃淡によって表されており、色が濃い部分ほど大きい応力が発生していることを示す。この図13に示す結果から明らかなように、(a)の場合はダミー端子31の周辺に比較的大きな応力が発生しているのに対し、(b)の場合は(a)のものに比べてダミー端子31の周辺に発生する応力が小さくなっている。また、(a)の場合には発生した応力の最大値が28.11MPaであったのに対し、(b)の場合には発生した応力の最大値が23.14MPaであり、約18%低減されていた。
【0063】
以上の結果から、金属層14を図11に示すように端子を囲むようにして形成することによって、カバー5を構成する蓋部17においてクラックの発生を抑制することができるといえる。
【0064】
したがって、図11に示したSAW装置1によれば、蓋部17にクラックが発生するのを抑制することができるため、クラックの発生に起因して振動空間51の雰囲気の状態が変化するのを抑えることができ、SAW装置1の電気特性を安定化させることができる。なお、入力信号端子6および出力信号端子7は本発明の信号端子の一態様である。また金属層14によって囲まれる端子の種類は、信号端子に限られず、金属層14と蓋部17の上面において接続されない各種の端子(例えば、基準電位端子、あるいは電気的にフローティング状態とされたダミー端子など)においても、それらの端子を囲むようにして金属層14を形成することによって、その周囲においてクラックの発生を抑制することができることはいうまでもない。
【0065】
本発明は、以上の実施形態および変形例に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0066】
上述した実施形態では、第1基準電位端子8を金属層14から切り離し、その他の基準電位端子を金属層14に接続するようにしたが、基準電位端子と金属層14との接続および切り離しの態様はこれに限らず、基準電位配線24の第1領域24aに立てられた基準電位端子が金属層14に接続され、基準電位配線24の第2領域24bに立てられた基準電位端子が金属層14から切り離されていればどのような態様であってもよい。例えば、上述した実施形態において、第2基準電位端子9、第3基準電位端子10、第4基準電位端子11のうち少なくとも1つを金属層14に接続しておけば、他の基準電位端子を金属層14から切り離してもよい。ただし、基準電位配線24の第2領域24bに形成されるインダクタを有効に利用するためには、第2領域24bの終端部に配置された第2基準電位端子9を金属層14に接続しておくことが好ましい。
【0067】
また上述した実施形態では、振動空間51が1個設けられていたが、振動空間51を複数に区画するようにしてもよい。換言すれば、振動空間を複数個設けるようにしてもよい。この場合には、1つの振動空間が小さくなり耐モールド性が向上する。
【符号の説明】
【0068】
1・・・弾性表面波装置
3・・・圧電基板
5・・・保護カバー
6・・・入力信号端子
7・・・出力信号端子
8・・・第1基準電位端子
9・・・第2基準電位端子
10・・・第3基準電位端子
11・・・第4基準電位端子
12・・・フィルタ部
14・・・金属層
15・・・枠部
17・・・蓋部
18・・・絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
該圧電基板に設けられた、複数の並列共振子を含むラダー型のフィルタ部と、
前記複数の並列共振子を囲むようにして前記圧電基板の主面に配置された枠部および該枠部の開口を塞ぐ蓋部を有する保護カバーと、
前記圧電基板に設けられ、前記複数の並列共振子に共通に接続された第1領域および該第1領域から延出された第2領域を有する基準電位配線と、
該基準電位配線の前記第1領域に立てて設けられ、前記枠部および前記蓋部を貫通する第1基準電位端子と、
前記基準電位配線の前記第2領域に立てて設けられ、前記枠部および前記蓋部を貫通する第2基準電位端子と、
前記蓋部の主面に設けられ、前記第2基準電位端子に接続され、かつ前記第1基準電位端子には接続されない金属層と、
を備える弾性表面波装置。
【請求項2】
前記第2領域は、全体が前記圧電基板の主面の外周に沿って形成されているとともに、両端同士が接続されないようにギャップを有しており、前記第2基準電位端子は、前記第2領域の前記第1領域から延出した先端部に配置されている請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記金属層を覆う絶縁膜をさらに備える請求項1または2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記絶縁膜には、前記金属層の一部を露出させる窓部が設けられている請求項3に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記フィルタ部に対して信号を入力または出力するための信号端子を備え、
該信号端子は、前記枠部および前記蓋部を貫通しており、
前記金属層は、前記金属層を平面視したときに、前記信号端子を囲い、かつ該信号端子から離間して形成されている請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性表面波装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−199823(P2011−199823A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122946(P2010−122946)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】