説明

形状変化測定方法及び形状変化測定装置

【課題】
経時変化や温度、湿度などの環境変化に対する物品の形状変化を試験片に荷重を加えることなく測定することで、試験片の環境による変形のみを正確に測定することのできる形状変化の測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】
温度及び/又は湿度の変化する環境下にある物品の形状変化をデジタル画像撮影により検出すると共に、センサーにより環境条件も検出し、該環境条件および該形状変化を電気信号に変換し環境条件に対する形状変化を計測する形状変化測定方法及びそれに用いる形状変化測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度、湿度等の環境下の変化により影響を受ける物品、特に試験片の形状変化を接触圧、荷重等の影響を排除した条件で測定するための形状変化測定方法及び形状変化測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種材料の温度による寸法の変化は線膨張率と呼ばれ、JIS等で測定方法が決められている。例えば、JIS K7197では、熱機械分析によって測定が行われる。熱機械分析では、温度の調整が可能なチャンバーに断面5mm角程度、高さ10mm程度の試験片をセットし、高さの変化を測定するためのプローブを試験片に密着させ、温度とプローブ位置の関係を測定する。また、装置によっては、プローブをフィルム用のものに交換することにより、フィルム状の試験片でも測定が可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の熱機械分析による測定では、試験片にプローブを密着させる、あるいは、フィルム状試験片にたるみが生じないようにするため、わずかではあるが荷重を加える必要がある。したがって、試験片の変形は、熱による変形と荷重による変形が足し合わさったものとなる。そのため、試験片の軟化点付近、あるいは、軟化点以上の温度で測定を行った場合、熱による変形量と比較して荷重による変形量が大きくなるため、熱による変形量を正確に測定することができない。特にフィルムでは、軟化点よりもかなり低い温度において荷重による変形の寄与が著しく大きくなり、熱による変形量のみを測定することは不可能であった。
【0004】
そこで、測定の際の接触圧、荷重等の影響を排除し、温度変化、湿度変化等の環境条件のみによる物品、特にフィルムの形状変化を測定する方法及び測定装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、デジタル画像撮影装置による物品の画像の形状を電気信号とし、さらに環境条件をセンサーにより感知し電気信号化し、これら電気信号の関係より、測定の際に接触圧、荷重等をかけることなく形状変化を測定することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0006】
即ち、本発明は、温度及び/又は湿度の変化する環境下にある物品の形状変化をデジタル画像撮影により検出すると共に、センサーにより環境条件も検出し、該環境条件および該形状変化を電気信号に変換し環境条件に対する形状変化を計測することを特徴とする形状変化測定方法及びそれに用いる形状変化測定装置に関するものである。
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の形状変化測定方法は、温度及び/又は湿度の変化する環境下にある物品の形状変化をデジタル画像撮影により検出すると共に、センサーにより環境条件も検出し、該環境条件および該形状変化を電気信号に変換し環境条件に対する形状変化を測定する方法であり、特に温度変化に対する膨張率の変化を測定することに適するものである。
【0009】
本発明の形状変化測定方法は、デジタル画像撮影による画像、つまり測定対象の物品の形状変化を電気信号化することにより、測定の際に測定対象に接触圧、荷重をかけずに測定することが可能となる。ここで、デジタル画像以外の撮影である場合、該形状変化を電気信号化することが出来ない。その際の電気信号としては、例えば電圧又は電流を挙げることができる。
【0010】
本発明における測定対象の物品としては、デジタル画像として撮影を行った上で測定を行うことから如何なる形状の物品であっても測定を行うことが可能であり、その中でも測定の主旨から言えば各種試験評価用の試験片形状を有するものであることが好ましく、特に従来の試験評価では、接触圧、荷重の影響を受け温度、湿度の影響のみによる形状変化の測定が困難であった薄膜、シート形状、フィルム形状を有する物品の測定に適している。
【0011】
以下に、本発明の一実施形態の図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の形状変化測定方法を実施する際に適した形状変化測定装置の概略図の一例である。ここで、1);チャンバー、2):センサー、3);デジタル画像撮影装置、4);画像解析装置、5);演算処理装置、6):測定物品のそれぞれを示す。
【0013】
1)のチャンバーとは、測定対象の物品の測定環境を一定条件下に保つための筐体であり、本発明は温度変化、湿度変化における形状変化を測定するものであることから、温度及び/又は湿度調整可能なチャンバーであることが好ましく、特に線膨張率を測定する際には、最低限として温度調節可能なチャンバーであることが好ましい。
【0014】
2)のセンサーとしては、形状変化に対し影響を与える因子を観測することが可能である各種センサーを用いることができ、例えば温度センサー、湿度センサーを挙げることができ、その中でも、試料温度検出センサー、チャンバー内温度検出センサー及びチャンバー内湿度検出センサーからなる群より選択される少なくとも一種以上のセンサーであることが好ましい。
【0015】
3)のデジタル画像撮影装置は、チャンバー内に設置した物品を撮影し、その形状変化を撮影するものであり、デジタル画像の画素を電気信号化することが可能なデジタル画像を撮影する装置であればいかなる装置であってもよく、例えばデジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、CCDカメラ等を挙げることができ、特にその画像解像度が高く、形状変化をより精度よく測定することが可能となることからCCDカメラであることが好ましい。
【0016】
4)の画像解析装置とは、物品形状のデジタル画像から該物品形状の画素、特に寸法の画素を電気信号に変換して出力する装置であり、その際の電気信号としては、例えば電圧、電流を挙げることができる。
【0017】
5)演算処理装置とは、センサー及び画像解析装置から電気信号を経時で取り込み目的とする測定結果を算出するための装置であり、通常はパーソナルコンピューター等を用いることができ、演算処理としては、プログラムにより、例えば温度−物品寸法、湿度−物品寸法、温度−寸法変化率、湿度−寸法変化率、線膨張率等を行うことが可能となる。
【0018】
該形状変化測定装置による測定は、例えば以下の手順で行うことが可能である。
ア)温度及び/又は湿度が制御されたチャンバー内に測定物品(6))を静置し、その形状を画像撮影装置(3))で撮影する。
イ)得られた画像から画像解析装置(4))にて物品の形状(寸法)を計測し、電気信号に変換して出力する。
ウ)チャンバー内に設置されたセンサー(2))(例えば温度センサーおよび/または湿度センサー)から出力された情報の電気信号とイ)で得られた物品の形状に関する電気信号を同期させて、演算処理装置(5))で時間情報とともに処理し、経時変化として収集し目的の測定に応じた処理を行い、測定結果を算出する。
【0019】
該測定装置は、物品の形状を測定する際に物品に直接接触させることなく、撮影結果より測定結果を計測することが可能となることから、物品に対して接触圧、荷重等の因子の影響がない状態での測定が可能となることから、特に寸法変化率測定装置、線膨張率測定装置として適したものとなり、さらにフィルム等の特に荷重による影響を受けやすい物品の測定用装置として適している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、温度、湿度等の環境下の変化により影響を受ける物品、特に試験片の形状変化を接触圧、荷重等の影響を排除した条件で測定することが可能となり、その結果信頼性の高い測定が可能となる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を用いより詳細に本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0022】
実施例1
市販の温度調節機能付きチャンバー(ヤマト製、(商品名)恒温槽 DX−38;チャンバー内温度検出センサー付)、CCDカメラ(キーエンス製、(商品名)CV−025)、画像解析装置(キーエンス製、(商品名)CV−2500)及び温度に対する寸法変化率算出プログラム、線膨張率算出プログラムを組み込んだ演算処理装置(パーソナルコンピューターにA/D変換ボードを組み込んだもの)を用い図1に示す形状変化測定装置を作成した。
【0023】
実施例2
実施例1の形状変化測定装置内に厚さ500μmのポリエーテルサルフォンフィルムを設置し、昇温条件下と降温条件下における温度−寸法変化率及び線膨張率の測定を行った。
【0024】
表1に温度−寸法変化率関係の測定結果を示す。また、表3には線膨張率の測定結果を示す。
【0025】
本発明の方法によれば、ガラス転移温度(Tg200℃)付近の測定においても、測定装置による荷重の影響を受けないことから昇温時、降温時のそれぞれにおいて安定した形状変化の測定が可能である。
【0026】
比較例1
熱機械分析装置(TMA)(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、(商品名)TMA/SS6100型)に厚さ500μmのポリエーテルサルフォンフィルムを設置し、昇温条件下と降温条件下における温度−寸法変化率及び線膨張率の測定を行った。
【0027】
表2に温度−寸法変化率関係の測定結果を示す。また、表3には線膨張率の測定結果を示す。
【0028】
熱機械分析装置によれば、測定対象は検出機の荷重を常に受けており、特にガラス転移温度(Tg200℃)付近の測定においては、その荷重の影響を大きく受ける結果となり、その信頼性が低くなると共に昇温時、降温時のそれぞれにおいて結果の異なるものとして測定される。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本願発明の形状変化測定方法の測定に適した形状変化測定装置の1例示の概略図である。
【符号の説明】
【0033】
1);チャンバー
2):センサー
3);デジタル画像撮影装置
4);画像解析装置
5);演算処理装置
6):測定物品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度及び/又は湿度の変化する環境下にある物品の形状変化をデジタル画像撮影により検出すると共に、センサーにより環境条件も検出し、該環境条件および該形状変化を電気信号に変換し環境条件に対する形状変化を計測することを特徴とする形状変化測定方法。
【請求項2】
温度の変化する環境下にある試験片の寸法変化をデジタル画像撮影により検出すると共に、センサーにより温度条件も検出し、該温度条件及び該寸法変化を電圧又は電流に変換し、温度条件に対する膨張率を計測することを特徴とする請求項1に記載の形状変化測定方法。
【請求項3】
1)温度及び/又は湿度調整可能なチャンバー、2)試料温度検出センサー、チャンバー内温度検出センサー及びチャンバー内湿度検出センサーからなる群より選択される少なくとも一種以上のセンサー、3)チャンバー内設置試料を撮影するためのデジタル画像撮影装置、4)デジタル画像の形状を電気信号に変換して出力する画像解析装置、5)センサー及び画像解析装置から電気信号を経時で取り込む演算処理装置、からなることを特徴とする形状変化測定装置。
【請求項4】
1)温度調整可能なチャンバー、2)試料温度検出センサー及び/又はチャンバー内温度検出センサー、3)チャンバー内設置試料を撮影するためのデジタル画像撮影装置、4)デジタル画像の寸法を電気信号に変換して出力する画像解析装置、5)センサー及び画像解析装置から電気信号を経時で取り込み温度に対する寸法変化率を算出する演算処理装置、からなる寸法変化率測定装置であることを特徴とする請求項3に記載の形状変化測定装置。
【請求項5】
1)温度調整可能なチャンバー、2)試料温度検出センサー及び/又はチャンバー内温度検出センサー、3)チャンバー内設置試料を撮影するためのデジタル画像撮影装置、4)デジタル画像の寸法を電気信号に変換して出力する画像解析装置、5)センサー及び画像解析装置から電気信号を経時で取り込み温度に対する寸法変化率を算出するとともに線膨張率を算出する演算処理装置、からなる線膨張率測定装置であることを特徴とする請求項3又は4に記載の形状変化測定装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−267982(P2008−267982A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111427(P2007−111427)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(507130912)株式会社 東ソー分析センター (6)
【Fターム(参考)】