説明

形状検査治具及びロッカーモールの塗装方法

【課題】塗装治具の形状異常の検査を容易かつ迅速に行うことが可能な形状検査治具及びロッカーモールの塗装NG品の発生を抑えることが可能なロッカーモールの塗装方法を提供する。
【解決手段】本発明の形状検査治具60は、塗装治具10のスタンド11が着脱可能に固定される下面梁63及び位置決支柱63Pを有し、塗装治具10のスタンド11が下面梁63及び位置決支柱63Pに固定された状態で、塗装治具10の両側方に位置した1対のゲージ支持レール64,64の間に複数の架橋ゲージ65を取り付けることができるか否かによって、塗装治具10の形状異常を検査することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッカーモールを被せて保持可能な塗装治具の形状異常を検査するための形状検査治具及びロッカーモールの塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装治具として、車両外装部品を被せて取り付け可能なインナーフレームを備えたものが知られている(例えば、先行文献1参照)。そのような塗装治具の一つとして、ロッカーモール用の塗装治具のインナーフレームは、略平行になって略水平方向に延びた複数の縦長部材に、複数の横長部材を交差させて溶接した構造になっている。また、インナーモールは、スタンドに取り付けられて空中に浮かせた状態に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−51751号公報(図1,図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した塗装治具は、設計通りの形状に製作されていなかったり、当初、設計通りの形状に製作されていたものが使用中に変形して、設計通りの形状ではなくなる場合がある。そうすると、塗装治具によるロッカーモールの安定した支持が不可能になり、塗装ガンからの塗料の噴出圧力やコンベア搬送時の衝撃等により、ロッカーモールが治具からずれたり、離脱したり、変形する等の事態が生じ、塗装ムラや損傷を有した塗装NG品が発生することがある。
【0005】
ところが、従来、塗装治具の形状異常を検査する場合には、塗装治具を定盤に載せ、その定盤から塗装治具の所定部位までの距離をメジャーで計測する作業を行っていたので、塗装治具の形状異常の検査に手間がかかっていた。このため、塗装治具の形状異常の検査は定期的に行われず、塗装NG品の発生頻度が高くなると、塗装治具に形状不良が発生していると判断して、その塗装治具をメンテナンスするか又は新品と交換していた。このためロッカーモールの塗装NG品の発生が問題になっていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、塗装治具の形状異常の検査を容易かつ迅速に行うことが可能な形状検査治具及びロッカーモールの塗装NG品の発生を抑えることが可能なロッカーモールの塗装方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る形状検査治具は、略平行になって略水平方向に延びた複数の縦長部材に、複数の横長部材を交差させて溶接してなるインナーフレームを、スタンドに取り付けて空中に浮かせた状態に支持し、インナーフレームに、ロッカーモールを被せて保持可能な塗装治具の形状異常を検査するための形状検査治具であって、スタンドが着脱可能に固定されるスタンド固定部と、スタンド固定部にスタンドが固定された状態で、塗装治具の両側方に位置して縦長部材と略平行に延びた1対のゲージ支持レールと、1対のゲージ支持レールの間に差し渡されて両端部がゲージ支持レールに着脱可能に取り付けられると共に、複数の縦長部材が嵌合可能な複数の検査嵌合凹部を有した複数の架橋ゲージとを備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の形状検査治具において、架橋ゲージを縦長部材の長手方向に移動してゲージ支持レールにスライド係合させることが可能なスライド係合機構と、架橋ゲージとゲージ支持レールとに形成されて、それらがスライド係合した状態で上下方向で対向する1対の位置決用ピン孔と、それら1対の位置決用ピン孔に共に嵌合可能な位置決めピンとを備えたところに特徴を有する。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の形状検査治具において、複数種類のロッカーモールの形状に対応してインナーフレームの形状が異なりかつスタンドの形状が共通な複数種類の塗装治具用に、架橋ゲージを複数種類備えたところに特徴を有する。
【0010】
請求項4の発明に係るロッカーモールの塗装方法は、略平行になって略水平方向に延びた複数の縦長部材に、複数の横長部材を交差させて溶接してなるインナーフレームを、スタンドに取り付けて空中に浮かせた状態に支持した塗装治具のインナーフレームに、ロッカーモールを被せて塗装を行う塗装工程と、予め定められた回数又は期間に亘って塗装工程で使用された塗装治具を洗浄する洗浄工程と、塗装工程の前に、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の形状検査治具を用いて塗装治具の形状異常の有無を検査する形状検査工程とを行い、形状検査工程において形状異常が検出されなかった塗装治具を、塗装工程で再利用するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
[請求項1及び2の発明]
請求項1の発明では、塗装治具に形状異常がなければ、形状検査治具のスタンド固定部に塗装治具を固定した状態で全ての架橋ゲージをゲージ支持レールに取り付けることができる。しかしながら、塗装治具に形状異常がある場合には、何れかの架橋ゲージが塗装治具と干渉してゲージ支持レールに取り付けることができなくなる。このように、本発明の形状検査治具によれば、架橋ゲージをゲージ支持レールに取り付けることができるか否かによって形状異常の検査を行うので、形状異常の検査を容易かつ迅速に行うことができる。
【0012】
ここで、架橋ゲージは螺子によってゲージ支持レールに取り付けてもよいし、請求項2の発明のように、架橋ゲージを縦長部材の長手方向に移動してゲージ支持レールにスライド係合しかつ、架橋ゲージ及びゲージ支持レールの位置決用ピン孔に位置決めピンを嵌合して架橋ゲージをゲージ支持レールに取り付けてもよい。
【0013】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、形状検査治具のうち架橋ゲージの種類のみを変更して、複数種類の塗装治具に対応することができる。
【0014】
[請求項4の発明]
請求項4のロッカーモールの塗装方法によれば、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の形状検査治具を用いることで形状検査工程を容易かつ迅速に行うことができる。また、形状検査工程は塗装工程の前に行われるので、ロッカーモールの塗装NG品の発生が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)ロッカーモールの側面図,(B)ロッカーモールの鉛直断面における断面図
【図2】ロッカーモールの鉛直断面における断面図
【図3】本発明の一実施形態に係る塗装治具の斜視図
【図4】塗装治具の正面図
【図5】塗装治具の平面図
【図6】縦長部材の正面図
【図7】ウイングプレートの斜視図
【図8】塗装治具の正面図
【図9】形状検査治具の斜視図
【図10】形状検査治具の一部拡大斜視図
【図11】架橋ゲージの正面図
【図12】架橋ゲージの取り付け部分の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図12に基づいて説明する。図1(A)及び図1(B)には、車両99に組み付けられた状態のロッカーモール90が示されている。図1(B)に示すようにロッカーモール90は、車両99の両側部の下端に配置され、一側面に開放口91を有した断面湾曲構造をなし、図1(A)に示すように車両99の前輪と後輪との間で車両99の前後方向に延びている。また、ロッカーモール90の鉛直断面形状は長手方向の位置に応じて細部が異なり、その鉛直断面形状の一例が図1(B)に示されると共に、それを拡大したものが図2に示されている。
【0017】
詳細には、図1(B)に示すように、ロッカーモール90のうち車両99の側面を構成する部分は、上下方向の中間部分に外側斜め下方に若干傾斜したメイン段差壁93を有する略クランク状をなし、そのメイン段差壁93と下方から対向する段差対向壁95を下端部に備えている。また、図2に示すように、メイン段差壁93と段差対向壁95の外側縁部同士の間を連絡する湾曲奥部壁94の上端寄り位置には、湾曲奥部壁94の一部を外側に二つ折りに屈曲させて第1突部94Aが形成されている。また、湾曲奥部壁94の下端部は第1突部94Aと略同一の大きさで側方に突出しかつ第1突部94Aより幅広な第2突部94Bが備えられている。さらに、メイン段差壁93の内側縁部からは平坦な板状の端部平坦壁92が鉛直上方に起立し、段差対向壁95の内縁部には、肉厚が薄くなったヒンジ部90Hを介してヒンジ付属壁96が接続されている。ヒンジ付属壁96は、ヒンジ部90Hから上方に立ち上がってから湾曲奥部壁94とは反対側に屈曲した形状をなし、このヒンジ付属壁96と端部平坦壁92及びメイン段差壁93との間が開放口91になっている。また、ロッカーモール90の長手方向の両端縁からは、突出した図示しない突壁が内側に向かって突出している。
【0018】
本実施形態の塗装治具10は、図3に示すように1対のインナーフレーム20,20を左右対称に備え、それらインナーフレーム20,20をスタンド11にて空中に浮かせた状態に保持した構造になっている。そして、図4に示すように、左右対称の1対のロッカーモール90,90が、それぞれ開放口91を下方に向けた状態でインナーフレーム20,20に被せて取り付けられる。
【0019】
各インナーフレーム20は、対応したロッカーモール90の長手方向における複数位置に当接可能な複数の横長部材25を複数の縦長部材24で連結した構造になっている。それら複数の横長部材25は、ロッカーモール90の長手方向の複数位置における鉛直断面形状に対応した外縁形状を有し、それぞれ板厚方向がロッカーモール90の長手方向に向けられている。ここで、ロッカーモール90は、前述したように長手方向の位置に応じて鉛直断面形状が異なった構造になっているので、複数の横長部材25はロッカーモール90の各位置の鉛直断面形状に応じて互いに異なる形状をなしている。そして、その横長部材25の一例が図6に拡大して示されている。
【0020】
各横長部材25は、NC制御されたレーザー加工機で板金の母材を切断してなり、そのNCデータは、ロッカーモール90の設計図のCADデータから作成されている。そして、例えば、図6に示した横長部材25では、上側の外縁形状(即ち、上縁形状)が、前述したロッカーモール90の端部平坦壁92、メイン段差壁93及び湾曲奥部壁94に対応した形状になっている。具体的には、横長部材25の上縁部には、ロッカーモール90の端部平坦壁92の内面に面当接可能な板厚面を有した端部水平支持部25Aと、ロッカーモール90のメイン段差壁93の内面にクリアランスC1を介して対向可能な板厚面を有したメイン段差支持部25Bと、湾曲奥部壁94の内面うち略水平な部分に面当接する中央水平支持部25Cと、第2突部94Bの内側に収まる端部突入支持部25Vとが備えられている。また、端部突入支持部25Vには、第2突部94Bの内面のうち段差対向壁95側の傾斜面に面当接する端部傾斜支持部25Eと、第2突部94Bの内面のうち段差対向壁95と離れた側の傾斜面にクリアランスC2を介して対向する板厚面を有したサブ段差支持部25Dとが備えられている。
【0021】
横長部材25の下縁部では、ロッカーモール90の端部平坦壁92とメイン段差壁93との角部に対応した部分が丸みを帯びて屈曲し、ロッカーモール90の湾曲奥部壁94に対応した部分がヒンジ付属壁96の上方位置で水平に延びている。また、横長部材25の端部傾斜支持部25Eと横長部材25の下縁部との間は、ロッカーモール90の段差対向壁95から徐々に離れるように傾斜した端部傾斜対向部25Fによって連絡されている。そして、図6の二点鎖線で示したようにロッカーモール90のうち段差対向壁95と湾曲奥部壁94とが交差した角部を支点にして、端部平坦壁92及び湾曲奥部壁94等を、横長部材25の端部傾斜支持部25E及び中央水平支持部25C等から離すように傾斜させた状態にして、横長部材25をロッカーモール90の内側に収容し、上記支点を中心にロッカーモール90を回動して端部平坦壁92及び湾曲奥部壁94等を横長部材25の端部傾斜支持部25E及び中央水平支持部25C等に上方から当接させることができる。また、これら横長部材25の端部水平支持部25A、メイン段差支持部25B、中央水平支持部25C、端部突入支持部25V等によって、ロッカーモール90の荷重を受けると共にロッカーモール90を水平幅方向で位置決めされる。また、ロッカーモール90の長手方向の両端部に配置された横長部材25,25は、ロッカーモール90の長手方向の両端縁から突出した図示しない突壁と対向し、これによりロッカーモール90を水平長手方向でも位置決めされる。
【0022】
図5に示すように、縦長部材24は、ロッカーモール90の幅方向の複数位置に配置されてロッカーモール90の長手方向に延びている。また、各縦長部材24は横長部材25と同様に、NC制御されたレーザー加工機で板金の母材を切断してなり、そのNCデータは、ロッカーモール90の設計図のCADデータから作成されている。そして、縦長部材24は、横長部材25群がロッカーモール90の内面に当接した状態でロッカーモール90の図示しない内面突部と干渉しないように屈曲した構造になっている。
【0023】
各縦長部材24の長手方向のうち横長部材25と交差する複数位置には、上下方向の下端から中間位置に亘って位置決用スリット24S(図6参照)が形成されている。これに対し、横長部材25における上縁部の複数位置には、上下方向の上端から中間位置に亘って位置決用スリット25S(図6参照)が形成されると共に、上縁部に一端に切り欠き部25T(図6参照)が形成されている。そして、縦長部材24のうち各位置決用スリット24Sより上側部分に、横長部材25の位置決用スリット25S又は切り欠き部25Tを係合させると共に、横長部材25のうち位置決用スリット25S及び切り欠き部25Tより下側部分に、縦長部材24の位置決用スリット24Sを係合させて、縦長部材24群と横長部材25群とが互いに位置決めされて溶接されている。
【0024】
上記のように構成されたインナーフレーム20は対をなして左右対称に備えられ、それら1対のインナーフレーム20,20が、図3に示すようにスタンド11によって空中に浮かせた状態に保持されている。スタンド11は、1対のインナーフレーム20,20の間の中央に配置されてインナーフレーム20と平行に延びたメイン支持梁12を備え、そのメイン支持梁12の長手方向の複数位置には、ウイングプレート15が取り付けられている。ウイングプレート15は、NC制御されたレーザー加工機で板金の母材を切断してなり、図4に示すように、メイン支持梁12に取り付けられる中央部から両側方に向かって下るように傾斜して延びてから斜め上側方に屈曲した形状になっている。また、ウイングプレート15の中央部には、下端開放の四角形の切り欠き部15Cが備えられ、その切り欠き部15Cの上側には1対のボルト挿通孔15B,15Bが貫通形成されている。さらに、ウイングプレート15の両先端には、フレーム固定孔15D,15Dが貫通形成されている。
【0025】
これに対し、メイン支持梁12の上面における長手方向の複数位置には、図7に示したL形ブラケット17が取り付けられている。各L形ブラケット17は、板金をL字状に屈曲させた構造をなし、そのL形ブラケット17の一方の片である固定片17Bがメイン支持梁12の上面に重ねた状態にして溶接されて、L形ブラケット17の他方の片である起立突片17Aがメイン支持梁12の上面から突出している。また、起立突片17Aには、図示しない1対のボルト挿通孔が貫通形成されている。そして、ウイングプレート15の切り欠き部15Cをメイン支持梁12に係合させてウイングプレート15を起立突片17Aに重ね、ウイングプレート15及び起立突片17Aの各ボルト挿通孔に挿通したボルトにてウイングプレート15がL形ブラケット17に固定されている。また、ウイングプレート15のうちメイン支持梁12から両側方に張り出した部分がそれぞれ支持アーム15A,15Aをなし、各支持アーム15Aの先端部のフレーム固定孔15Dと、横長部材25に形成されたアーム取付孔25Hとを重ねてリベット又はボルトを挿通することで、支持アーム15A群の先端にインナーフレーム20が固定されている。
【0026】
なお、図3に示すように、本実施形態ではウイングプレート15が、メイン支持梁12の長手方向における略等間隔の例えば4カ所に配置され、これに対し、1つのインナーフレーム20には例えば9つの横長部材25が備えられている。そして、一部の横長部材25のみに支持アーム15Aが連結されている。
【0027】
メイン支持梁12の長手方向における中央部からは、1対の支持脚13,13が垂下され、それら支持脚13,13の中間部同士の間に補強梁14が差し渡されている。これら支持脚13は、パイプ構造をなして下端面が開口している。また、図4に示すように、支持脚13の外面下端部からは側方に自立補助壁13Aが側方に張り出している。
【0028】
ところで、ロッカーモール90は、車種に応じて長さ、断面形状等が異なる。また、複数種類のロッカーモール90に応じて塗装治具10も複数種類備えられ、それら塗装治具10は、各種ロッカーモール90の形状に応じてインナーフレーム20の形状のみが異なり、スタンド11の形状は共通している。そして、塗装治具10のうちメイン支持梁12の上面に備えた品番プレート16(図3参照)に対応したロッカーモール90の品番(型番)が表示されている。
【0029】
本実施形態の塗装治具10の構成に関する説明は以上である。次に、この塗装治具10の形状異常を検査するための形状検査治具60について、図9〜図12を参照して説明する。図9に示すように、形状検査治具60は、台車61の上面に固定されている。台車61は、平面形状長方形の1対のフレーム61F,61Fを上下に対向配置して備え、それらの間が複数の支柱61Gで接続されると共に、下側のフレーム61Fの下面四隅にキャスター61Wが取り付けられている。なお、フレーム61F、支柱61Gは、H形鋼で構成されている。
【0030】
形状検査治具60は、互いに並行して延びた1対のゲージ支持レール64,64を備えている。ゲージ支持レール64,64はI形鋼で構成されて、上端と下端とに1対の帯板部64H,64Hを有している。また、1対のゲージ支持レール64,64の間には、複数の下面梁63と複数の上面梁63Tとが差し渡されている。下面梁63は板状をなして、両ゲージ支持レール64,64の下面の長手方向における両端部及び中間部の2箇所に配置されている。一方、上面梁63Tは角柱状をなして、両ゲージ支持レール64,64の上面の長手方向における両端部のみに配置されている。そして、下面梁63群が台車61の上面に重ねられ、1対のゲージ支持レール64,64が台車61の上面おける1対の長辺部分の上に配置された状態で形状検査治具60が台車61に固定されている。
【0031】
ゲージ支持レール64,64の長手方向の中央部に配置された1対の下面梁63,63からは、図10に示すように位置決支柱63P(図10には、一方の下面梁63と位置決支柱63Pのみが示されている)が起立している。そして、それら1対の位置決支柱63Pを塗装治具10の1対の支持脚13,13の内側に挿入し、支持脚13の下面が下面梁63に当接した状態で塗装治具10が形状検査治具60に位置決めされる。なお、本実施形態では、下面梁63及び位置決支柱63Pによって、本発明に係る「スタンド固定部」が構成されている。
【0032】
図9に示すように、各ゲージ支持レール64の上面における長手方向の複数位置にはゲージ番号64Nがレーザー加工機にて印字されている。図12には、そのゲージ番号64Nの一例が拡大して示されている。このゲージ番号64Nは、1から所定数の通し番号で構成され、例えば、各ゲージ支持レール64の長手方向の一端部から他端部に向かって昇順に並べられている。また、各ゲージ支持レール64の上面のうちゲージ番号64Nを印字した部分には、スライド係合ピン71が突出形成されると共に、そのスライド係合ピン71の横にピン孔70Hが形成されている。また、各スライド係合ピン71は、円柱部71Eの上端から円板状のヘッド部71Hを張り出した形状になっている。
【0033】
各スライド係合ピン71には、架橋ゲージ65が着脱可能に取り付けられる。架橋ゲージ65は、図10に示すように、水平に延びた板金の両端部に突片を設け、それら突片を直角曲げして装着板部68,68とした構造になっている。各装着板部68には、図12に示すように、装着板部68の先端に開放したスリット68Bとピン孔68Aとが形成されている。そして、架橋ゲージ65の両端部の装着板部68,68を両ゲージ支持レール64,64の上面に重ねてスライドさせることで、各装着板部68におけるスリット68Bの縁部をスライド係合ピン71のヘッド部71Hとゲージ支持レール64の上面との間に挿入して、架橋ゲージ65がゲージ支持レール64に対して上方への移動を規制された状態で固定される。また、スリット68Bの奥部にスライド係合ピン71を突き当てると装着板部68のピン孔68Aとゲージ支持レール64のピン孔70Hとが整合するので、そこにスライド規制ピン70を挿入すると、架橋ゲージ65がゲージ支持レール64に対してスライド不能に固定される。
【0034】
詳細には、本実施形態では、スライド係合ピン71のヘッド部71Hとゲージ支持レール64の上面との間の隙間に比べて装着板部68の板厚が薄くなっている。これにより、スライド規制ピン70によって、架橋ゲージ65がゲージ支持レール64に対してスライド不能に固定された状態で、架橋ゲージ65は、ゲージ支持レール64に対して上方への移動範囲が所定の許容範囲に規制される。
【0035】
図11に示すように、架橋ゲージ65のうち1対のゲージ支持レール64,64の間で延びたゲージ本体部66の下縁部は、塗装治具10との干渉を避けた凹凸形状をなしている。また、その下縁部の所定の複数位置には、下端開放の検査スリット67(本発明の「検査嵌合凹部」に相当する)がそれぞれ形成されている。そして、架橋ゲージ65がゲージ支持レール64の長手方向における正規の位置に取り付けられ、塗装治具10が形状異常になっていない場合に、架橋ゲージ65の各検査スリット67が塗装治具10の縦長部材24群と凹凸係合する。
【0036】
架橋ゲージ65のうちゲージ本体部66の左右の両端部には、ゲージ支持レール64のゲージ番号64Nに対応したゲージ番号67Nが印字されると共に、架橋ゲージ65の左右を区別するためのLRマーカー67Hが印字されている。また、ゲージ本体部66の中央には、塗装治具10の品番にも相当するロッカーモール90の品番67Wが印字されている。そして、各品番の塗装治具10毎に異なる形状の複数の架橋ゲージ65がセットになって備えられている。
【0037】
本実施形態の形状検査治具60の構成に関する説明は以上である。次に、本発明に係る「ロッカーモールの塗装方法」について説明する。塗装治具10をロッカーモール90の塗装に使用する前に、上記した形状検査治具60によって、塗装治具10の形状異常の有無を検査する。そのために、塗装治具10の品番プレート16(図3参照)に表示された品番と同じ品番67W(図11参照)の架橋ゲージ65のセットを用意する。そして、塗装治具10の支持脚13,13を形状検査治具60の1対の位置決支柱63P(図10参照)に挿入して、塗装治具10を形状検査治具60に固定する。
【0038】
次いで、各架橋ゲージ65のゲージ番号67Nとゲージ支持レール64のゲージ番号64Nとを一致させて各架橋ゲージ65をゲージ支持レール64の長手方向における所定位置に順次取り付けて行く。そのためには、各架橋ゲージ65の各検査スリット67に塗装治具10の縦長部材24を凹凸係合させる。そして、架橋ゲージ65の両端部の装着板部68,68を両ゲージ支持レール64,64の上面に重ねてスライドさせることで、各装着板部68におけるスリット68Bの縁部をスライド係合ピン71のヘッド部71Hとゲージ支持レール64の上面との間に挿入する。次いで、スリット68Bの奥部にスライド係合ピン71を突き当て、装着板部68のピン孔68Aとゲージ支持レール64のピン孔70Hとが整合させて、そこにスライド規制ピン70を挿入する。
【0039】
このとき、各架橋ゲージ65の各検査スリット67に塗装治具10の縦長部材24を凹凸係合させることができない場合、または、各装着板部68におけるスリット68Bの縁部をスライド係合ピン71のヘッド部71Hとゲージ支持レール64の上面との間に挿入することができない場合、さらには、装着板部68のピン孔68Aとゲージ支持レール64のピン孔70Hとが整合させて、そこにスライド規制ピン70を挿入することができない場合には、例えば、その都度、工具を用いて塗装治具10を形状を修正し、その修正が不可能であれば、塗装治具10を廃棄する。以上の工程が、本発明の「ロッカーモールの塗装方法」における「形状検査工程」に相当する。
【0040】
次いで、本発明の「ロッカーモールの塗装方法」における「塗装工程」を行う。そのために、塗装治具10を、例えば、車両の塗装ラインに設置された図示しない搬送台に取り付ける。その搬送台車には、上記した形状検査治具60における1対の位置決支柱63P(図10参照)と同様に、図示しない1対の位置決支柱が起立している。そして、それら位置決支柱を塗装治具10の支持脚13,13内に挿入して、塗装治具10が搬送台に固定する。
【0041】
次いで、塗装治具10のインナーフレーム20,20に1対のロッカーモール90,90を装着する。すると、各インナーフレーム20における複数の横長部材25の外縁部が、ロッカーモール90の内面の複数位置で当接し、ロッカーモール90が水平方向に移動不能に保持される。この状態で、塗装治具10を搬送台と共に図示しない塗装ブース内に自動搬送する。そして、塗装ブース内に設置されている図示しない塗装ロボットに取り付けられた塗装ガン98(図8参照)にてロッカーモール90,90に塗料を吹き付けて塗装する。このとき、ロッカーモール90は、上方、斜め上方、斜め下方、水平方向と様々な方向から塗料の噴射圧を受ける。
【0042】
しかしながら、本実施形態のロッカーモール90の塗装方法では、塗装工程の前に行った形状検査工程において、形状異常を有する塗装治具10が排除されている。これにより、塗装治具10のインナーフレーム20が各ロッカーモール90の内面にフィットし、ロッカーモール90が安定して保持されるので、塗料の噴射圧によるロッカーモール90の変形不良や位置ずれが防がれ、塗装品質が安定する。
【0043】
上記塗装工程に塗装治具10が予め定められた回数又は期間に亘って使用されたら、その塗装治具10は洗浄工程に送られる。この工程では、塗装治具10に洗浄液が高圧で吹き付けられて洗浄される。そして、その洗浄工程後に、塗装治具10は、形状検査工程に送られて上記した形状異常の検査を通過したものだけが、塗装工程で再利用される。
【0044】
このように本実施形態の形状検査治具60によれば、塗装治具10と共に架橋ゲージ65を取り付けることができるか否かによって形状異常の検査を行うので、塗装治具10の形状異常の検査を容易かつ迅速に行うことができる。また、形状検査治具60のうち架橋ゲージ65の種類のみを変更して、複数種類の塗装治具10に対応することができる。さらに、本実施形態のロッカーモール90の塗装方法によれば、形状検査治具60を用いることで形状検査工程を容易かつ迅速に行うことができる。その上、塗装工程の前に形状検査工程を行うので、ロッカーモール90の塗装NG品の発生が抑えられる。なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、上記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 塗装治具
11 スタンド
12 メイン支持梁
13 支持脚
16 品番プレート
17 L形ブラケット
20 インナーフレーム
24 縦長部材
25 横長部材
60 形状検査治具
61 台車
63 下面梁
63P 位置決支柱
64 ゲージ支持レール
64N ゲージ番号
65 架橋ゲージ
67 検査スリット
68 装着板部
68A ピン孔
68B スリット
70 スライド規制ピン
70H ピン孔
71 スライド係合ピン
90 ロッカーモール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平行になって略水平方向に延びた複数の縦長部材に、複数の横長部材を交差させて溶接してなるインナーフレームを、スタンドに取り付けて空中に浮かせた状態に支持し、前記インナーフレームに、ロッカーモールを被せて保持可能な塗装治具の形状異常を検査するための形状検査治具であって、
前記スタンドが着脱可能に固定されるスタンド固定部と、
前記スタンド固定部に前記スタンドが固定された状態で、前記塗装治具の両側方に位置して前記縦長部材と略平行に延びた1対のゲージ支持レールと、
前記1対のゲージ支持レールの間に差し渡されて両端部が前記ゲージ支持レールに着脱可能に取り付けられると共に、前記複数の縦長部材が嵌合可能な複数の検査嵌合凹部を有した複数の架橋ゲージとを備えたことを特徴とする形状検査治具。
【請求項2】
前記架橋ゲージを前記縦長部材の長手方向に移動して前記ゲージ支持レールにスライド係合させることが可能なスライド係合機構と、前記架橋ゲージと前記ゲージ支持レールとに形成されて、それらがスライド係合した状態で上下方向で対向する1対の位置決用ピン孔と、それら1対の位置決用ピン孔に共に嵌合可能な位置決めピンとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の形状検査治具。
【請求項3】
複数種類の前記ロッカーモールの形状に対応して前記インナーフレームの形状が異なりかつ前記スタンドの形状が共通な複数種類の前記塗装治具用に、前記架橋ゲージを複数種類備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の形状検査治具。
【請求項4】
略平行になって略水平方向に延びた複数の縦長部材に、複数の横長部材を交差させて溶接してなるインナーフレームを、スタンドに取り付けて空中に浮かせた状態に支持した塗装治具の前記インナーフレームに、ロッカーモールを被せて塗装を行う塗装工程と、
予め定められた回数又は期間に亘って前記塗装工程で使用された前記塗装治具を洗浄する洗浄工程と、
前記塗装工程の前に、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載の形状検査治具を用いて前記塗装治具の形状異常の有無を検査する形状検査工程とを行い、
前記形状検査工程において前記形状異常が検出されなかった塗装治具を、前記塗装工程で再利用することを特徴とするロッカーモールの塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−121008(P2011−121008A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281416(P2009−281416)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】