説明

形状測定装置及び方法

【課題】 プローブによって、垂直へ切り立った壁面や穴の内面であっても、安定して接触力を制御し、高速な形状計測を行うこと。
【解決手段】 接触式プローブを被測定物の表面に沿って移動させることで、被測定物の表面形状を測定する形状測定方法において、プローブに加わる接触力の分力の大きさにより、被測定面と移動手段の方向の関係を推定する。その結果、被測定面と垂直に近い状態であると判断された方向の移動手段のみによって、プローブの接触力制御を行うこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズやミラーなど光学素子、及び光学素子を製作するための型の表面形状を、ナノメートルオーダの高精度で測定する触針式プローブを有する形状測定方法及び装置に関する。特に垂直へ切り立った壁面や穴の内面にも対応できる倣い形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にレンズやミラーのような、三次元形状を有する被測定物表面の座標や形状を測定する形状測定装置として、プローブと呼ばれる触針を用いる倣い測定装置が知られている。これは、プローブを被測定物の表面に所定の接触力で押圧しながら被測定物の表面に倣って移動させ、その移動位置から被測定物の座標や形状を測定する。
【0003】
このような形状測定装置においては、特許文献1に開示されているように、プローブ制御装置が知られている。この装置では、X軸およびY軸の2軸の方向にそれぞれ傾斜可能なプローブと、その2軸の傾斜を任意の値に保つ傾き制御器、プローブを移動させることのできる2軸の位置制御器とを有している。プローブには、プローブの先端位置の情報を光学的に計測するための光学系があり、この光学系によってプローブの空間内のX、Y、Zの三次元の座標位置とプローブの傾斜角度を計測し、得られた情報から被測定物に接触するプローブ先端位置、即ち被測定物形状を測定することができる。この装置は、傾き制御器によってプローブ接触時のプローブ傾きを一定に保たせることで、被測定物への接触力を一定にしている。また片方の軸が傾き制御器による接触力制御を行っているときには、他方の軸を位置制御器によってプローブを移動させることで、プローブの接触力を一定に保ちながら倣い走査を行うことを可能にしている。また、既知の位置情報、或いは2軸方向の接触力関係の条件から、傾き制御と位置制御を行っている軸を入れ替えることで、この装置の有する2軸で構成される平面内の任意の位置へのプローブの倣い走査を可能にして、円柱形状の対象物の壁面を周回走査するなどしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−300200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、直交する2つの軸の間で傾き制御と位置制御を入れ替えてプローブの走査方向を転換する。そのため、走査方向を転換する箇所においては、入れ替えに伴いプローブの移動速度を保とうとすると動作が不連続になり接触力が一定に保てないため切り替え点では測定精度が低下する。一方で、接触力を可能な限り一定に保とうとすると、位置制御による移動速度を落とす必要があり、スループットの低下を招く。
【0006】
本発明は上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであり、周回走査や垂直に切り立った面を含む走査など、制御上の不連続点が生じうる被測定物に対しても安定的な制御形状測定装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本出願に係る発明は、
三次元方向に移動可能なプローブ保持手段に弾性支持されたプローブを被測定物に接触させつつ前記被測定物の表面を走査させるとともに前記プローブの位置を計測することで前記被測定物の形状を測定する形状測定方法において、
計測した前記プローブの位置又は姿勢から前記被測定物に対して前記プローブが受ける接触力および、前記接触力の前記三次元方向の分力をそれぞれ演算する工程と、
前記接触力あるいは前記接触力の目標値に比べた差分が予め定められた閾値より小さな前記分力の方向の前記プローブ保持手段の移動軸にて、前記接触力を目標値に近づける制御を行い、その他の分力の方向の前記プローブ保持手段の移動軸による接触力の制御を無効化してプローブ走査を行う工程と、
を有することを特徴とする形状測定方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本出願にかかる発明によれば、プローブに加わる接触力と、プローブを移動させる移動手段の方向の分力と比して、被測定面と移動軸との関係を推定する。その結果、被測定面と移動軸とが平行に近い状態であると判断すると、その被測定面に平行な移動軸は接触力の制御を無効化し、被測定面に直交な移動軸を用いて接触力の制御を行う。一方で位置制御はプローブを被測定面に沿わせる動きをさせるため、被測定面と平行な移動軸を用いている。このため、接触力の制御が位置制御に干渉することは無く、接触力制御と位置制御の応答性を個別に高めることが可能となる。また被測定面が、複数の移動軸における軸方向の単位ベクトルの和ベクトルに対し直交に近い場合では、それら複数の移動軸の移動手段を用いて、接触力制御を行うことが可能である。この状態においても、接触力ベクトルとプローブ移動方向ベクトルとは直交に近い関係であり、接触力制御と位置制御の応答性を個別に高めても問題がない。一方で、位置制御を担う移動手段の切り替えが必要な場合には、一時的に複数の移動手段の利用を可能にしている。
【0009】
したがって切り替えに伴う不連続性を回避することができる。以上により、円柱外周面の周回走査等の、測定の際に接触力制御と位置制御が複数の方向に渡る必要のある被測定物であっても、滑らか且つ高速に形状計測を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態のプローブの構成図である。
【図2】同実施形態における測定状態の一例を説明する模式図である。
【図3】同実施形態における無効化する移動軸を決定するフローチャートである。
【図4】同実施形態における、円柱面を走査する場合における閾値とプローブ位置の関係を説明する模式図である。
【図5】同実施形態における、半球面を走査する場合における閾値とプローブ位置の関係を説明する模式図である。
【図6】同実施形態における、円柱側壁円周上を走査する際の針圧分力と閾値Fthの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の特徴をもっとも良く表す図面であり、第1の実施形態を示す構成図である。同図において、プローブ1によって被測定物2表面上を倣い走査を行いプローブの位置情報を計測することで形状測定を行うことになる。まず、プローブ1は、先端部に先端球7と後端に3面ミラー6を搭載するプローブシャフト5からなる。プローブ1は、板バネ4によってプローブ保持手段3から懸架され弾性支持されていて、プローブ保持手段3上に設けられた干渉計XpとZp、及び図示しない紙面の奥行き方向に設けられたYpによって、3面ミラー6との距離が計測されている。プローブ保持手段3は、互いに直交関係にあるX軸移動手段8、Y軸移動手段9とZ軸移動手段10によって、各軸のストローク内で任意の空間内を三次元方向に移動可能となっている。各干渉計の測長方向はプローブ保持手段3を移動させるX軸移動手段8、Y軸移動手段9とZ軸移動手段10の各移動方向と平行としている。
【0013】
干渉計によって計測された距離は、プローブ位置姿勢計算手段17に入力され、既知である板バネ4のバネ剛性からX、Y、Z方向の接触力へと計算される。得られた接触力は接触力ベクトル演算手段16にてベクトルとして扱われ、測定された接触力のベクトル、即ち大きさと方向が演算される。得られた合力の大きさについて、接触力制御器15にて目標値で一定となるように、X軸移動手段8、Y軸移動手段9、Z軸移動手段10への各制御量が計算される。一方で、接触力に関わらずプローブ1を動作させるため、上位コントローラ18からの指令によって位置制御器14もX軸移動手段8、Y軸移動手段9、Z軸移動手段10への各制御量を計算し、プローブ走査の指令を出す。この位置制御器14に与えられる情報は、設計形状などから与えられた被測定物を倣う軌道である。これら2つの制御器からの制御量をX軸方向移動量算出手段11、Y軸方向移動量算出手段12及びZ軸方向移動量算出手段13によって、X軸移動手段8、Y軸移動手段9とZ軸移動手段10の最終的な移動量を算出し、各軸方向の移動を行わせる。このようにして、プローブ1を被測定物2への接触力を一定に保ちつつ、走査させるようにプローブ保持手段3を移動させることが可能となる。
【0014】
プローブの接触力制御について説明する。干渉計Xp、図示しないYp、Zpにて測定された3面ミラー6との距離をXp、Yp、Zpとすると、接触力ベクトル演算手段16において、予め求めておいたプローブの剛性Kx、Ky、Kzから各移動軸方向の分力Fx、Fy、Fzが計算されて、
Fx=Kx*Xp (式1)
Fy=Ky*Yp (式2)
Fz=Kz*Zp (式3)
となる。従ってこれらの合力の大きさ(接触力)は、
Fxyz=(Fx+Fy+Fz1/2 (式4)
と計算される。つまり位置を計測して三次元の座標位置を算出するとともに、位置に対してプローブの剛性を乗ずることで分力を算出する。
【0015】
この接触力Fxyzが目標値Ftとなるように接触力制御器15にて、X軸移動手段8、Y軸移動手段9への各制御量を計算する。このとき接触力制御器15において、各軸移動手段向けの目標値Ftx、Fty、Ftzを算出し、各分力が各目標値と一致するように各軸向けの制御量を算出する。この制御量の算出方法として、例えば、X軸について制御量がFxとFtxとの差分に比例する比例制御を用いるか、更なる目標追従性を発揮させるため、積分器や各種補償器を用いても良い。
【0016】
FtからFtx、Fty、Ftzを算出する方法は、各軸の移動手段の性能差によって決める必要がある。ここでは、3軸全てが等しい性能を有する場合の一例について述べる。測定された各軸方向の分力から、外乱を除去する目的でローパスフィルター処理を施したものを、Fx’、Fy’、Fz’とすると、X軸については、
Ftx=Ft*Fx’/(Fx’+Fy’+Fz’1/2 (式5)
とし、他の軸も同様にする。
【0017】
位置制御器14によって算出されたX軸移動手段8、Y軸移動手段9、Z軸移動手段10への位置の制御量と接触力制御器15よる接触力の制御量とが反対方向の場合、相殺が発生してしまう。相殺が発生しても、制御器が飽和しない限りは倣い走査は可能であるが、制御器を飽和させないために、走査速度を上げることができない。そこで、可能な限り位置制御を担う移動手段の軸と接触力制御を担う移動手段の軸とを分離させ、位置制御と接触力制御との干渉に伴う制御量の相殺が発生しないようにする。図2は接触力とそのX軸方向の分力の大きさが近く、X軸方向と交差する方向(Y軸方向、Z軸方向どちらでも良い)の分力との破線で示した移動方向とが略反対方向となる様子を模式的にあらわしたものである。
【0018】
例えば図2に示すように、測定されている被測定物2のプローブが接触する接平面とX軸とが垂直に近いため、計算される接触力FxyzおよびFx、Fy、Fzは、
Fxyz≒Fx
Fx≫Fy
Fx≫Fz (式6)
であり、Fx以外の接触力制御量はFxとくらべ微小なので、X軸移動手段8のみで接触力制御を行っても問題が無い。そこで、合力Fxyz、と各軸の分力について、その差分が、ある閾値Fth以下になった場合には、その分力方向に平行な移動軸での接触力制御が可能であるとみなす。これは、例えば図2の場合では、
Fxyz−Fx<Fth (式7)
となる場合である。この場合、接触力制御器15においてX方向以外の分力、即ちY、Z方向への接触力制御を無効化してプローブを走査することで、接触力制御の影響をY、Z方向の位置制御へ及ぼせなくする。
【0019】
ここで「無効化」とは、力制御することを停止することを指し、具体的には接触力制御器15に内蔵された積分器のゲインを0にすることなどによって実現できる。前記接触力あるいは前記接触力の目標値に対する現在の力の差分に基づき無効化してもよいし、ある閾値を越えたか否かで無効化してもよい。
【0020】
これによりY或いはZ方向への位置制御に対し、接触力制御に伴う制御量の相殺を抑え、接触力を一定に保ちつつ高速な倣い走査が可能となる。
【0021】
上述の特許文献1ではこのような状況をさけるために、特定の座標で力制御と位置制御とを排他的に切り替えていたため、切り替え点で測定が不安定になり測定精度が低下していた。一方本発明は位置制御はそのままに接触力の目標値に比べた差分から決められた閾値に基づき接触力制御量が微小な移動軸に対する力制御を無効化するため、スムーズな走査が可能となる。
【0022】
閾値Fthの決め方について説明する。例として平面内で直交するX軸、Y軸の2軸の移動手段を用い、図4に示すような円柱形状の被測定物側壁表面を円周上に走査する場合について説明する。このとき本実施例によると、単軸制御から2軸制御を経て単軸制御に接触力制御は変化する。従って、XY両軸による位置と接触力の同時制御が起こり得るように閾値Fthを決定する必要がある。具体的には、XとY軸方向の分力の比が等しくなるとき(例えば始点から反時計回りに45°の地点)、各分力の合力Fxyに対する比は(1/2)1/2である。即ち、
Fth≦Fxy*(1−(1/2)1/2) (式8)
において、両辺の関係が等号であれば、接触力を2軸で制御する区間がなく単軸制御同士を切り替えることを意味し、不等号であれば2軸で制御する区間が存在することになる。
【0023】
但し、(式8)において、Fxyは目標値Ftであってもよい。更に、Fth=0ならば、合力と分力が完全に一致したときのみ単軸制御を行い、その他の場合では2軸制御が行われることとなる。従って閾値Fthの条件は、
0<Fth<Fxy*(1−(1/2)1/2) (式9)
であれば良い。なお、用いる移動軸がXYZの3軸である場合にも、同様の考えでもって、
0<Fth<Fxyz*(1−(1/3)1/2) (式10)
とすれば良い。
【0024】
以上の閾値Fthと合力Fxy、分力Fx、Fyとの関係を説明するものを図6に示す。これはX軸+方向を0°の方向、Y軸+方向を90°の方向としたときの、各軸方向の分力の大きさと設定すべき閾値の関係を示したものである。図2の円柱体のA点を始点として反時計まわりにプローブが円周上を360°周回走査した場合のX及びY方向分力の大きさの変化を示している。この図6において、網掛けの範囲がFthを設定すべき(式9)で示される範囲であり、Fth=0は上限、Fth=Fxy*(1−(1/2)1/2)は下限を意味している。この図において、合力FxyはFtに制御されており、全方位において一定である。一方で各軸方向の分力はプローブの接触方向の変化に伴って変化し、被測定面の法線方向と一致した軸の分力は極大となる。このとき、被測定面を倣う軌道は極大となった分力の方向と直交となるので、該分力と平行な移動手段のみで接触力を制御することが好ましい。また、図6においてFx=Fyとなる点においては合力に含まれる分力の寄与は等しいので、X及びY方向の両方の移動手段を用いて接触力を制御せざるを得ない。現実的には、より高速の測定を重視する場合には、単軸制御区間が多い方が制御量の相殺が発生しにくいため有利であるので、Fthは(式9)の範囲内で大きくとれば良い。例えば、Fth=0.9*Fxy*(1−(1/2)1/2)のように決める。またFthについて、制御の切り替えが発生する前と後で値を変化させる、所謂ヒステリシストリガーとすることで、切り替えが連続して発生する状態を防いでもよい。
【0025】
図3に、プローブ倣い走査の際の、接触力制御を担う移動手段の軸、即ち移動軸を決定するフローチャートを示す。図3では移動軸はX、Y、Z方向の3軸の構成としているが、X、Y方向の2軸の場合であってもZ方向に関する要素を除去するだけで、同様に考えることができる。ここでは、まず接触力の大きさFxyzを一定に保つ制御を行いながら、該接触力を構成する移動軸X、Y、Zの方向の分力Fx、Fy、Fzを測定する。各分力について、接触力との差、即ち(式7)に相当する計算を行い、該当する分力が閾値Fthより小さい分力の方向の移動軸は接触力の力制御に用い、そうではない移動軸の力制御は無効化する。また、何れの分力も接触力との差がFth以下にならない場合は、全ての移動軸を用いて接触力制御を行う。Fthは(式9)或いは(式10)の範囲に決められており、用いる移動軸方向の分力の全てが同時にFth以上に合力に近づくことはない。従ってこのような状態が発生するときは、プローブが全く接触していないか干渉計など接触力を算出するための手段の何れかに問題が発生していることが考えられ、異常を知らせる信号を発信してプローブを安全な位置に退避させる処置を行う。
【0026】
以下に、図3に従い図4aに示されるような、被測定物2が円柱形状として、その側面を形状計測する場合における、形状計測装置の動作を、図4bを用いて説明する。被測定物2はワーク架台22に設置し、先端球7が被測定物2表面を倣い走査するようにプローブ1を移動させることで形状計測が行われる。始点をAとして反時計回りの走査を行い再びAを終点として周回走査する場合を説明する。
【0027】
ここでは、形状計測装置により先端球7を図中の始終点Aに接触させ、被測定物2の表面円周上を倣って反時計回りに周回させ、再び始終点に至って先端球7を離脱させる。まず、被測定物2上の始終点Aに対し、先端球7をX軸移動手段8、Y軸移動手段9、Z軸移動手段10を用いて移動させ、接触させる。この際、各軸移動手段への指令は位置制御器14を用いて行われ、被測定物2と先端球7或いはプローブシャフト5等が不意に接触しない軌道を上位コントローラ18から与える。この始終点の位置は目視によって与えても良いし、予め粗計測を行って座標を求めておいても良い。先端球7と被測定物2の接触の判定は干渉計Xp、Yp、Zpの計測値によって行う。
【0028】
先端球7を始終点に接触させたら、即座に接触力制御器15による接触力制御を行う。これは接触力Fxyが目標値Ftで一定となるように、各軸の移動手段を用いてプローブ1を移動させることで、行われる。この際、図3に従った接触力制御を担う移動手段の選択が行われ、現段階のように先端球7がAの区間に存在する場合には、被測定面とX軸とが垂直に近い関係であるとみなせ、
Fxy−Fx<Fth (式11)
且つ、
Fxy−Fy>Fth (式12)
となり、X軸移動手段8のみで接触力制御が行われ、X軸と交差する軸であるY軸の接触力制御は無効化する。
【0029】
次に、位置制御器14により図4bのような反時計回りの被測定物2に沿う軌道周回の指令を出させることで、X軸方向移動量算出手段11、Y軸方向移動量算出手段12に該円周を周回する動作の位置制御指令を送信する。このときの位置制御指令に用いる被測定物2に沿う軌道は、普通は設計形状から与えるが、粗計測や他の測定器の測定値を用いて生成しても良い。X軸方向移動量算出手段11、Y軸方向移動量算出手段12は、接触力制御器15による指令と該位置制御指令とを加算し、X軸移動手段8とY軸移動手段9を動作させる。これにより先端球7は接触力Fxyを目標値Ftに近づくように制御させながら被測定物2に沿う円周軌道を周回することができる。このようにしてBの区間に先端球7が到達すると、図3にて説明した判断に従い、
Fxy−Fx>Fth
Fxy−Fy>Fth (式13)
となるので、接触力に対して近接するほどの強い分力が生じる軸は無いため、X軸移動手段8とY軸移動手段9とが同時に接触力制御を行う。以下同様に、先端球7が周回するに従って区間Cの紙面のであるならば、
Fxy−Fy<Fth
Fxy−Fx>Fth (式14)
となり、Y軸方向の分力が接触力と近接しX軸方向の分力は非常に小さくなるため、Y軸移動手段9のみで接触力制御が行われる。以降D、E、F、G、Hと同じ考え方で先端球7は被測定物2の外形円周を周回することができ、再び始終点に至る。なお、以上の周回動作に関しては、穴の内径においても同様であり、垂直へ切り立った内壁面であってもつなぎ目の無い高速な倣い走査が可能となる。
【0030】
先端球7が再び始終点Aに至り、倣い動作を終了させる場合には、まず接触力制御を停止する。本例の場合には接触力制御はX軸移動手段8のみで行われているので、接触力制御器15による指令値を制御打ち切り時の値で一定化させ、プローブ1の位置を固定する。接触力制御が停止されたならば、プローブ1を先端球7或いはプローブシャフト5等が被測定物2等に不意に接触しないように上位コントローラ18から位置制御指令を与え退避させる。以上により、円柱表面のXY平面内における周回倣い走査が可能となり、接触力の合力Fxyが目標値Ftに制御されている間の先端球7の接触位置を算出することで、先端球7の倣った該円柱の円周形状を得ることができる。
【0031】
次に、図5に示されるように、被測定物2が半球形状でプローブ1を三次元的に動作させ、その表面を走査する場合について説明する。即ち、(式10)を用いてFthをFth=0.9*Fxyz*(1−(1/3)1/2)のように決め、図5の点線矢印のように始点から終点へ辿る軌道を先端球7に経させる場合について説明する。
【0032】
ここでは、本発明における装置が先端球7を図中の始点に接触させ、被測定物2の表面上を倣って移動し、頂点付近を経て終点に至り先端球7を離脱させるまでを説明する。まず、被測定物2上の始点に対し、先端球7をX軸移動手段8、Y軸移動手段9、Z軸移動手段10を用いて移動させ、接触させる。この際、各軸移動手段への指令は位置制御器14を用いて行われ、被測定物2と先端球7或いはプローブシャフト5等が不意に接触しない軌道を上位コントローラ18から与える。この始点の位置は目視によって与えても良いし、予め粗計測や設計形状を用いて座標を求めておいても良い。先端球7と被測定物2の接触の判定は干渉計Xp、Yp、Zpの計測値によって行う。
【0033】
先端球7を始点に接触させたら、即座に接触力制御器15による接触力制御を行う。これは接触力の合力Fxyzが目標値Ftで一定となるように、各軸の移動手段を用いてプローブ1を移動させることで行われる。この際、図3に従った接触力制御を担う移動手段の選択が行われる。先端球7が図5(b)における半球の裾野部にある始点に位置した場合、接触力の殆どは水平方向に働き、FxとFyの大きさは同程度なので、
Fxyz−Fx<Fth (式15)
且つ、
Fxyz−Fy<Fth (式16)
且つ、
Fxyz−Fz>Fth (式17)
の関係が成立する。この場合、X軸移動手段8とY軸移動手段9とが同時に接触力制御を行い、Z軸移動手段10は接触力制御を行わず、無効化する。
【0034】
次に、位置制御器14により図5(b)の点線矢印のような被測定物2に沿う半球面上を周回する指令を出させることで、X軸方向移動量算出手段11、Y軸方向移動量算出手段12、Z軸方向移動量算出手段13に該球面上を周回する動作の位置制御指令を送信する。このときの位置制御指令に用いる被測定物2に沿う球面軌道は、普通は設計形状から与えるが、粗計測や他の測定器の測定値を用いて生成しても良い。X軸方向移動量算出手段11、Y軸方向移動量算出手段12、Z軸方向移動量算出手段13は、接触力制御器15による指令と位置制御器14による位置制御指令とを加算し、X軸移動手段8、Y軸移動手段9とZ軸移動手段10を動作させる。これにより先端球7は接触力の合力Fxyzを目標値Ftに一定化させながら被測定物2に沿って始点から終点へ至る球面軌道を周回することができる。
【0035】
次に点線矢印上を先端球7が前進し、二点鎖線の円の内側と一点鎖線の円の外側に位置した場合、接触力の分力はXYZ方向に均等に近い状態に配分され、接触力に対して近い力が生じる分力は無いため
Fxyz−Fx>Fth (式18)
且つ、
Fxyz−Fy>Fth (式19)
且つ、
Fxyz−Fz>Fth (式20)
となる。この場合図3に従い、X軸移動手段8、Y軸移動手段9、Z軸移動手段10の全てが接触力制御と位置制御を行うことになる。
【0036】
更にプローブが前進し、一点鎖線の円の内側に先端球7が位置した場合、即ち半球面の頂点付近に先端球7が到達すると、接触力の殆どはFzによって占められることになる。即ち、
Fxyz−Fx>Fth (式21)
且つ、
Fxyz−Fy>Fth (式22)
且つ、
Fxyz−Fz<Fth (式23)
となる。従ってこの場合は、Z軸移動手段10のみが接触力制御を行い、X軸移動手段8、Y軸移動手段9が接触力制御を行わないことになる。以降、再び二点鎖線の円の内側と一点鎖線の円の外側の領域、二点鎖線の外側の領域を経て終点に達する。
【0037】
先端球7が終点に至り、倣い動作を終了させる場合には、まず接触力制御を停止する。本例の場合には、接触力制御はX軸移動手段8とY軸移動手段9で行われているので、接触力制御器15による双方の移動手段への指令値を制御打ち切り時の値で一定化させ、プローブ1の位置を固定する。接触力制御が停止されたならば、プローブ1を先端球7或いはプローブシャフト5等が被測定物2等に不意に接触しないように上位コントローラ18から位置制御指令を与え終点から退避させる。以上により、XYZの三軸を用いて三次元的にプローブが走査された場合にも、位置制御に対し、接触力制御の影響を及ぼさずに走査を行うことが可能となる。従って、接触力を一定に保ちつつ継ぎ目の少ない高速な倣い走査が可能となる。また、接触力の合力Fxyzが目標値Ftに制御されている間の先端球7の接触位置を算出することで、先端球7の倣った球面形状を得ることができる。
【0038】
位置制御器14に与える指令は、上位コントローラ18において、例えば被測定物2の設計形状から求めてもよい。即ち、被測定物2の設計形状に基づき、測定を希望する範囲やデータ密度を反映した走査軌道を、指令として位置制御器14に与えてもよい。また、被測定物2の詳細な設計形状が不明であっても、例えばサブミリオーダまで近しい代表形状を、概略の設計形状や他の簡便な測定手段によって得た上で、走査軌道を決定してもよい。
【0039】
複数或いは全ての移動手段方向の分力と合力或いは目標値Ftとの差が、閾値Fthを下回った場合には、該当する方向の移動手段によって、接触力制御を行う。即ち、該当する方向の分力ベクトルの和で表されるベクトルの大きさが、目標値Ftと一致するように、該当する各移動手段に接触力制御器15から制御量を出力することとなる。例として平面内で直交するXY方向の2軸の移動手段が関わる場合、
(Fx+Fy1/2=Ft (式24)
となるように、Ftx、Ftyを算出し制御量を出力してもよい。
【0040】
全ての移動手段方向の分力と合力或いは目標値Ftとの差が、閾値Fthを上回った場合には、プローブ1がいずれの方向にも接触していないと推定でき、正常な倣い測定が行われていない状態である。従って、この場合は上位コントローラ18へ異常を知らせておき、接触力とは無関係に位置制御、即ちプローブ1を退避させる等、上位コントローラの指令に従って移動させるようにして置けばよい。
【0041】
本実施例において、Xp等のプローブの位置姿勢を測定する手段として、レーザ測長器を想定して説明を行ったが、他の測定手段、例えば、静電容量変位計、渦電流変位計などを用いても同じことである。
【0042】
(その他の実施例)
上述の実施例では接触力に対する分力の差分に対して閾値を定めた。このような方法をとると、装置の振動等の外乱にて接触力が変動した際にも接触力の変動に応じて無効化がなされるためロバスト性が向上する。
【0043】
一方、閾値の設定の仕方を以下のように変更してもよい。
特定の閾値Fthを定めた上で、分力Fx、Fy,Fzがその閾値を超えたか否かで無効化の判定を行ってもよい。その場合、差分値の計算が不要となるため、制御に伴う上位コントローラを始め演算手段の計算負荷が低減され、取得した位置データなどの処理など大きな計算負荷を必要とする処理に計算資源を充当することができるなど、効率的なシステム設計に有益である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は上記構成、作用を有するもので、垂直へ切り立った壁面や穴の内面を有する被測定物の形状測定を可能になり、産業上、科学技術上の効果は大きい。
【符号の説明】
【0045】
1 プローブ
2 被測定物
3 プローブ保持手段
4 板バネ
5 プローブシャフト
6 3面ミラー
7 先端球
8 X軸移動手段
9 Y軸移動手段
10 Z軸移動手段
11 X軸方向移動量算出手段
12 Y軸方向移動量算出手段
13 Z軸方向移動量算出手段
14 位置制御器
15 接触力制御器
16 接触力ベクトル演算手段
17 プローブ位置姿勢計算手段
18 上位コントローラ
19 Xスライダー
20 Yスライダー
21 Zスライダー
22 ワーク架台
23 ステージ架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元方向に移動可能なプローブ保持手段に弾性支持されたプローブを被測定物に接触させつつ前記被測定物の表面を走査させるとともに前記プローブの位置を計測することで前記被測定物の形状を測定する形状測定方法において、
計測した前記プローブの位置又は姿勢から前記被測定物に対して前記プローブが受ける接触力および、前記接触力の前記三次元方向の分力をそれぞれ演算する工程と、
前記接触力あるいは前記接触力の目標値に比べた差分が予め定められた閾値より小さな前記分力の方向の前記プローブ保持手段の移動軸にて、前記接触力を目標値に近づける制御を行い、その他の分力の方向の前記プローブ保持手段の移動軸による接触力の制御を無効化してプローブ走査を行う工程と、
を有することを特徴とする形状測定方法。
【請求項2】
前記接触力の分力のいずれも、前記接触力あるいは前記接触力の目標値に比べた差分が前記閾値以上の場合には、前記プローブ保持手段の各移動軸にて前記分力の和が前記接触力の目標値に近づける制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の形状測定方法。
【請求項3】
前記分力の全てが前記接触力あるいは前記接触力の目標値に比べた差分が前記閾値以上の場合には、異常を知らせる信号を発信することを特徴とする請求項2に記載の形状測定方法。
【請求項4】
三次元方向に移動可能なプローブ保持手段に弾性支持されたプローブを被測定物に接触させつつ前記被測定物の表面を走査させるとともに前記プローブの位置を計測することで前記被測定物の形状を測定する形状測定方法において、
計測した前記プローブの位置又は姿勢から前記被測定物に対して前記プローブが受ける接触力および、前記接触力の分力を演算する工程と、
前記分力が、予め定められた閾値より大きな場合、前記分力の方向の前記プローブ保持手段の移動軸にて、前記接触力を目標値に近づける制御を行い、その他の分力の方向の移動軸による接触力の制御を無効化してプローブ走査を行う工程と、
を有することを特徴とする形状測定方法。
【請求項5】
プローブを被測定物に接触させつつ前記被測定物の表面を走査させるとともに前記プローブの位置を計測することで前記被測定物の形状を測定する形状測定装置において、
三次元方向に移動可能なプローブ保持手段と、
前記プローブ保持手段に弾性支持されたプローブと、
プローブの位置および姿勢を計測する計測手段と、
計測した前記プローブの位置又は姿勢から前記被測定物に対して前記プローブが受ける接触力および、前記接触力の分力を演算する演算手段と、
を有し、
前記分力が、前記接触力あるいは接触力の目標値に比べた差分が予め定められた閾値より小さい場合、前記分力の方向の前記プローブ保持手段の移動軸にて、前記接触力を目標値に近づける制御を行い、その他の分力の方向の移動軸による接触力の制御を無効化してプローブ走査を行うこと、
を有することを特徴とする形状測定装置。
【請求項6】
プローブを被測定物に接触させつつ前記被測定物の表面を走査させるとともに前記プローブの位置を計測することで前記被測定物の形状を測定する形状測定装置において、
三次元方向に移動可能なプローブ保持手段と、
前記プローブ保持手段に弾性支持されたプローブと、
プローブの位置および姿勢を計測する計測手段と、
計測した前記プローブの位置又は姿勢から前記被測定物に対して前記プローブが受ける接触力および、前記接触力の分力を演算する演算手段と、
を有し、
前記分力が、予め定められた閾値より大きな場合、前記分力の方向の前記プローブ保持手段の移動軸にて、前記接触力を目標値に近づける制御を行い、その他の分力の方向の移動軸による接触力の制御を無効化してプローブ走査を行うこと、
を有することを特徴とする形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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