説明

形状測定装置

【課題】プローブの運動の履歴に基づく測定誤差を補正することができ、測定精度を向上させることができる形状測定装置の提供。
【解決手段】形状測定装置1は、装置本体2と、装置本体2を制御する制御手段3とを備える。装置本体2は、プローブ4を備え、プローブ4は、被測定物に接触する測定子を先端側に有する棒状のスタイラス41と、スタイラス41の基端側を支持する支持機構42とを備える。支持機構42は、スタイラス41の位置を検出するプローブセンサ421を備え、スタイラス41を一定の範囲内で移動可能に支持する。制御手段3は、プローブセンサ421にて検出されるスタイラス41の位置を入力とし、測定子、及び被測定物の接触する位置を出力とする伝達関数に基づいて、測定値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一定の範囲内で移動可能に構成され、被測定物に接触する測定子を有するプローブを備え、測定子を被測定物に接触させることで被測定物の形状を測定する形状測定装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
特許文献1に記載の座標測定機(形状測定装置)では、プローブの位置を座標測定機の座標系に関連付けるプローブ較正マトリクスを用いることで測定値を算出している。
また、特許文献2,3に記載の座標測定機では、ヘルツの弾性接触理論と、測定力比とに基づいて補正をすることで測定値を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−521343号公報
【特許文献2】特開平5−87501号公報
【特許文献3】特開平6−201366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の座標測定機のように、マトリクスで表現される写像を用いることで測定値を算出する形状測定装置や、特許文献2,3に記載の座標測定機のように、測定力比に基づいて補正をすることで測定値を算出する形状測定装置では、プローブの運動特性は考慮されないので、プローブの運動特性に起因する位相遅れ等のように、プローブの運動の履歴に基づく測定誤差を補正することはできないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、プローブの運動の履歴に基づく測定誤差を補正することができ、測定精度を向上させることができる形状測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の形状測定装置は、一定の範囲内で移動可能に構成され、被測定物に接触する測定子を有するプローブを備え、前記測定子を前記被測定物に接触させることで前記被測定物の形状を測定する形状測定装置であって、前記プローブの位置を検出する検出手段と、前記検出手段にて検出される前記プローブの位置を入力とし、前記測定子、及び前記被測定物の接触する位置を出力とする伝達関数に基づいて、測定値を算出する測定値算出手段を備えることを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、形状測定装置は、プローブの位置を入力とし、測定子、及び被測定物の接触する位置を出力とする伝達関数に基づいて、測定値を算出する測定値算出手段を備えるので、測定値算出手段で用いられる伝達関数における1次以上の項に起因する測定誤差をそれぞれ補正することができる。したがって、プローブの運動の履歴に基づく測定誤差を補正することができ、測定精度を向上させることができる。
【0008】
本発明では、前記測定値算出手段は、前記検出手段にて検出される前記プローブの位置をサンプリングするサンプリング部と、前記サンプリング部にてサンプリングされた前記プローブの位置に対して前記伝達関数に基づくデジタルフィルタを適用して前記測定値を算出するフィルタ部とを備えることが好ましい。
【0009】
このような構成によれば、形状測定装置は、サンプリング部と、フィルタ部とを備えるので、伝達関数を構成するためのハードウェアを追加することなく、簡素な構成でプローブの運動の履歴に基づく測定誤差を補正することができ、測定精度を向上させることができる。
【0010】
本発明では、前記プローブは、複数の軸方向に移動可能に構成され、前記測定値算出手段は、前記各軸方向における前記プローブの位置を入力とし、各軸方向のうち、いずれか1つの軸方向における前記測定子、及び前記被測定物の接触する位置を出力とする各伝達関数の出力の総和を取ることによって、前記いずれか1つの軸方向における前記測定値を算出することが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、いずれか1つの軸方向における測定値を算出するときに、各軸方向におけるプローブの位置を入力とし、各軸方向のうち、いずれか1つの軸方向における測定子、及び被測定物の接触する位置を出力とする各伝達関数の出力の総和を取るので、各軸方向の間の干渉を考慮してプローブの運動の履歴に基づく測定誤差を補正することができる。したがって、測定精度を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る形状測定装置を示すブロック図。
【図2】本発明の第1実施形態に係るプローブの運動モデルを示す図。
【図3】本発明の第1実施形態に係るプローブの運動モデルを示すブロック線図。
【図4】本発明の第1実施形態に係る変位入力装置を用いることで伝達関数を求めている状態を示す図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る形状測定装置を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る形状測定装置1を示すブロック図である。
形状測定装置1は、図1に示すように、装置本体2と、装置本体2を制御する制御手段3とを備える。
装置本体2は、プローブ4と、プローブ4を所定の軸方向に沿って移動させる移動機構5とを備える。
【0014】
図2は、プローブ4の運動モデルを示す図である。なお、図2では、紙面上下方向をX軸方向として説明する。
プローブ4は、図1、及び図2に示すように、被測定物Wに接触する測定子411を先端側に有する棒状のスタイラス41と、スタイラス41の基端側を支持する支持機構42とを備える。
【0015】
支持機構42は、スタイラス41をX軸方向に付勢することで所定位置に位置決めするように支持するとともに、外力が加わった場合、例えば測定子411が被測定物Wに当接した場合には、スタイラス41をX軸方向に沿って一定の範囲内で移動可能に支持するものである。この支持機構42は、X軸方向におけるスタイラス41の位置、すなわちプローブ4の位置を検出する検出手段としてのプローブセンサ421を備える。
そして、形状測定装置1は、測定子411を被測定物Wに押し込んだ状態で移動機構5にてプローブ4を所定の軸方向(例えば、図2中矢印A方向)に沿って被測定物Wの表面に倣って移動させることで被測定物Wの形状を測定する。
【0016】
測定値算出手段としての制御手段3は、図1に示すように、制御手段3で用いられる情報を記憶する記憶部31と、サンプリング部32と、フィルタ部33とを備える。
サンプリング部32は、プローブセンサ421にて検出されるスタイラス41の位置をサンプリングすることでスタイラス41の位置についてのデジタルデータを取得し、各デジタルデータを記憶部31に記憶させる。
フィルタ部33は、記憶部31に記憶された各デジタルデータに対して、プローブ4の位置を入力とし、測定子411、及び被測定物Wの接触する位置を出力とする伝達関数G1に基づくデジタルフィルタを適用して測定値を算出する。
【0017】
ここで、伝達関数G1は、例えば、プローブ4の運動モデルに基づいて導出することができる。
具体的に、図2に示すように、プローブセンサ421にて検出されるスタイラス41の位置をXPとし、測定子411、及び被測定物Wの接触する位置、すなわち測定値をXとし、プローブ4の質量をMとし、支持機構42のバネ定数をK1とし、測定子411、及び被測定物Wの接触バネ定数をK2として、支持機構42にかかる力F1と、測定子411にかかる力F2と、スタイラス41にかかる力FPとを数式で表すと、以下の式(1)〜(3)で表される。なお、式(3)における記号のプライムは時間微分を表している。以下の式においても同様である。
【0018】
【数1】

【0019】
ここで、測定子411、及び被測定物Wの接触バネ定数K2は、ヘルツの弾性接触理論に基づいて、被測定物Wの物理特性、被測定物Wにかかる荷重、被測定物Wの半径、及び測定子411の半径などの測定条件から算出することができる。
しかしながら、形状測定装置1は、前述したように、測定子411を被測定物Wに押し込む量を一定とするように被測定物Wの表面に倣って移動させることで被測定物Wの形状を測定するので、接触バネ定数K2は、一定の値として近似することができる。
したがって、接触バネ定数K2は、一般的なバネ定数の測定方法で測定することができる。また、プローブ4の質量M、及び支持機構42のバネ定数K1は、一般的な質量、及びバネ定数の測定方法で測定することができる。
【0020】
そして、前述の式(1),(2)を式(3)に代入して整理すると、以下の式(4)を導出することができる。
【0021】
【数2】

【0022】
さらに、式(4)をラプラス変換すると、以下の式(5)を導出することができる。したがって、スタイラス41の位置XPを入力とし、測定値Xを出力とするように式(5)を変形すれば、伝達関数G1は、以下の式(6)で表すことができる。
【0023】
【数3】

【0024】
図3は、プローブ4の運動モデルを示すブロック線図である。なお、図3は、測定値Xを入力とし、スタイラス41の位置XPを出力とする伝達関数G1−1を示すブロック線図である。
伝達関数G1は、例えば、プローブ4の運動モデルを示すブロック線図に基づいて導出することもできる。
具体的に、図3に示すように、測定子411にかかる力F2を入力とし、スタイラス41の位置XPを出力とする伝達関数をG0とすれば、伝達関数G1−1は、以下の式(7)で表すことができる。
【0025】
【数4】

【0026】
そして、伝達関数G1−1の入出力を反転させると、伝達関数G1は、以下の式(8)で表すことができる。なお、前述した伝達関数G1を表す式(6)と、式(8)は同一である。
【0027】
【数5】

【0028】
したがって、測定値Xは、スタイラス41の位置XPと、伝達関数G1とに基づいて、以下の式(9)で算出することができる。
【0029】
【数6】

【0030】
図4は、変位入力装置6を用いることで伝達関数G1を求めている状態を示す図である。
変位入力装置6は、図4に示すように、測定子411の先端側に設置され、X軸方向に沿って駆動されるものであり、測定子411と接触させることで測定子411に変位を与えるものである。
伝達関数G1−1は、例えば、このような変位入力装置6を用いることで測定値Xに変位を与えてスタイラス41の位置XPを検出し、システム同定を行うことによっても求めることもできる。そして、伝達関数G1−1に基づいて、伝達関数G1を求めることができる。
【0031】
そして、制御手段3は、伝達関数G1における1次以上の項に起因する測定誤差E、すなわちプローブ4の運動の履歴に基づく測定誤差Eを補正する。具体的に、本実施形態では、測定誤差Eは、式(6),(8)に基づいて、以下の式(10)で表すことができる。
【0032】
【数7】

【0033】
このような本実施形態によれば以下の効果がある。
(1)形状測定装置1は、プローブ4の位置XPを入力とし、測定子411、及び被測定物Wの接触する位置を出力とする伝達関数G1に基づいて、測定値Xを算出する制御手段3を備えるので、制御手段3で用いられる伝達関数G1における1次以上の項に起因する測定誤差Eを補正することができる。したがって、プローブ4の運動の履歴に基づく測定誤差Eを補正することができ、測定精度を向上させることができる。
(2)形状測定装置1は、サンプリング部32と、フィルタ部33とを備えるので、伝達関数G1を構成するためのハードウェアを追加することなく、簡素な構成でプローブ4の運動の履歴に基づく測定誤差Eを補正することができ、測定精度を向上させることができる。
【0034】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る形状測定装置1Aを示すブロック図である。
前記第1実施形態では、形状測定装置1は、プローブ4と、支持機構42とを備え、支持機構42は、スタイラス41をX軸方向に沿って一定の範囲内で移動可能に支持していた。
これに対して、本実施形態では、形状測定装置1Aは、図5に示すように、プローブ4Aと、支持機構42Aとを備え、支持機構42Aは、スタイラス41を一定の範囲内で複数の軸方向に移動可能に支持している点で異なる。
【0035】
支持機構42Aは、スタイラス41をX軸と、X軸に直交するY,Z軸との各軸方向に付勢することで所定位置に位置決めするように支持するとともに、外力が加わった場合には、スタイラス41を一定の範囲内でX,Y,Z軸の各軸方向に移動可能に支持するものである。この支持機構42Aは、X,Y,Z軸の各軸方向におけるスタイラス41の位置、すなわちプローブ4Aの位置を検出する検出手段としての3つのプローブセンサ421Aを備える。
【0036】
また、前記第1実施形態では、形状測定装置1は、フィルタ部33を備え、フィルタ部33は、プローブ4の位置を入力とし、測定子411、及び被測定物Wの接触する位置を出力とする伝達関数G1に基づくデジタルフィルタを適用して測定値を算出していた。
これに対して、本実施形態では、形状測定装置1Aは、フィルタ部33Aを備え、フィルタ部33Aは、各軸方向におけるプローブ4Aの位置を入力とし、各軸方向のうち、いずれか1つの軸方向における測定子411、及び被測定物Wの接触する位置を出力とする各伝達関数の出力の総和を取ることによって、いずれか1つの軸方向における測定値を算出している点で異なる。
【0037】
具体的に、フィルタ部33Aは、以下の式(11)に示すように、プローブ4Aの位置XP,YP,ZPを入力とし、X軸方向における測定子411、及び被測定物Wの接触する位置を出力とする各伝達関数G11,G12,G13の出力の総和を取ることによって、X軸方向における測定値Xを算出している。なお、フィルタ部33Aは、以下の式(11)に示すように、Y,Z軸方向における測定値Y,ZについてもX軸方向における測定値Xと同様に算出している。
【0038】
【数8】

【0039】
このような本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用、効果を奏することができる他、以下の作用、効果を奏することができる。
(3)フィルタ部33Aは、いずれか1つの軸方向における測定値を算出するときに、各軸方向におけるプローブ4Aの位置を入力とし、各軸方向のうち、いずれか1つの軸方向における測定子411、及び被測定物Wの接触する位置を出力とする各伝達関数の出力の総和を取るので、各軸方向の間の干渉を考慮してプローブ4Aの運動の履歴に基づく測定誤差Eを補正することができる。したがって、測定精度を更に向上させることができる。
【0040】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記各実施形態では、制御手段3は、記憶部31を備えていたが、記憶部を備えていなくてもよい。しかしながら、バッファの役割を果たす記憶部を備えることで高速のサンプリングと、演算に時間のかかるデジタルフィルタの適用とを分離して行うことができるので、記憶部を備える前記各実施形態の構成が好ましい。
【0041】
前記各実施形態では、測定値算出手段は、サンプリング部32と、フィルタ部33,33Aとで構成されていたが、アナログ回路などを用いて構成されていてもよい。要するに、測定値算出手段は、検出手段にて検出されるプローブの位置を入力とし、測定子、及び被測定物の接触する位置を出力とする伝達関数に基づいて、測定値を算出するように構成されていればよい。
【0042】
前記第2実施形態では、フィルタ部33Aは、各軸方向におけるプローブ4Aの位置を入力とし、各軸方向のうち、いずれか1つの軸方向における測定子411、及び被測定物Wの接触する位置を出力とする各伝達関数の出力の総和を取ることによって、いずれか1つの軸方向における測定値を算出していた。これに対して、フィルタ部は、各軸方向の間の干渉を考慮することなく、各軸方向で独立して測定値を算出してもよい。要するに、測定値算出手段は、検出手段にて検出されるプローブの位置を入力とし、測定子、及び被測定物の接触する位置を出力とする伝達関数に基づいて、測定値を算出すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、形状測定装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1,1A…形状測定装置
3…制御手段(測定値算出手段)
4,4A…プローブ
32…サンプリング部
33,33A…フィルタ部
411…測定子
421,421A…プローブセンサ(検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の範囲内で移動可能に構成され、被測定物に接触する測定子を有するプローブを備え、前記測定子を前記被測定物に接触させることで前記被測定物の形状を測定する形状測定装置であって、
前記プローブの位置を検出する検出手段と、
前記検出手段にて検出される前記プローブの位置を入力とし、前記測定子、及び前記被測定物の接触する位置を出力とする伝達関数に基づいて、測定値を算出する測定値算出手段を備えることを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の形状測定装置において、
前記測定値算出手段は、
前記検出手段にて検出される前記プローブの位置をサンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリング部にてサンプリングされた前記プローブの位置に対して前記伝達関数に基づくデジタルフィルタを適用して前記測定値を算出するフィルタ部とを備えることを特徴とする形状測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の形状測定装置において、
前記プローブは、複数の軸方向に移動可能に構成され、
前記測定値算出手段は、前記各軸方向における前記プローブの位置を入力とし、各軸方向のうち、いずれか1つの軸方向における前記測定子、及び前記被測定物の接触する位置を出力とする各伝達関数の出力の総和を取ることによって、前記いずれか1つの軸方向における前記測定値を算出することを特徴とする形状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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