形状記憶材料を含む材料の加工方法およびその装置
材料の所定部分に制御された方法でエネルギを印加して、前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するステップを備えることを特徴とする材料の処理方法。前記材料が形状記憶材料の場合には、前記所定の結果は、前記形状記憶材料の所定部分に付加的な記憶を提供するか、あるいは、前記形状記憶材料の擬弾性特性を変えることであってもよい。必ずしも形状記憶材材料に限定されない別の例では、前記プロセスは、表面の成分濃度を調節して前記材料の前記表面に酸化被膜を形成し耐食性を提供するため、前記材料から汚染物質を除去するため、表面テクスチャを調節するため、あるいは前記材料中に少なくとも1つの付加的な相粒子を生成し、次に前記材料を強化できる粒子成長用の核形成サイトを提供するため、に用いられてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年8月7日出願の米国仮特許出願番号第61/232,243号および2010年1月5日出願の同第61/292,367号の優先権を主張するものであり、それらは共に参照により本明細書に援用される。
【0002】
本明細書は、金属、合金および形状記憶材料を含む材料の加工に関する。形状記憶材料としては、形状記憶合金(SMA)と形状記憶ポリマー(SMP)がある。本明細書は特に、所定の結果を得るために、制御された方法で所定領域の局所的な化学的性質を調整するための、材料の加工または処理方法とその装置に関する。
【0003】
材料加工は、種々の用途の製品用として種々の特性を有する材料を製造するために、ほとんどすべての産業で利用されている。一部の領域では、材料加工の方法は現在も発展中であり、形状記憶材料の領域もこの中に含まれる。
【背景技術】
【0004】
形状記憶材料は、高温で特定の形状を保持しそれに戻るように仕込め、低温で可鍛性を有する材料である。低温で違った形状に曲げられたとしても、高温になると仕込まれた形状に戻る。この材料が仕込まれた高温構成に戻る温度は、一般的に変態点と呼ばれる。これらの材料で生じる形状記憶効果は、温度低下に伴ってオーステナイト状態とマルテンサイト状態間で材料が転移する可逆的な固相転移に関係する。マルテンサイト状態では、形状記憶材料はより容易に変形し、一般的には、ほとんど一定の応力レベルで大きな塑性変形にも適応できる。形状記憶材料がマルテンサイト状態の場合、加熱することができ、熱の印加によってオーステナイト状態に戻る金属となる。この転移は、特定の温度あるいは温度範囲で起こり得る。形状記憶材料は周知になってきており、医療(例えばステント)、工業、自動車、航空宇宙およびその他種々などの多くの用途で利用されている。
【0005】
形状記憶材料は一般に、形状記憶金属/合金(SMA)と形状記憶ポリマー(SMP)に分けられる。多くの合金は、処理されて、いくつかの磁性材料や合金を含む形状記憶材料になり得る。SMAの主要な3タイプは、1)ニッケル−チタン(NiTi)、2)銅−亜鉛−アルミニウム−ニッケル、3)銅−アルミニウム−ニッケル、である。
【0006】
他のSMAとしては、これに限定されないが、1)Ag−Cd(Cd:44/49原子%)、2)Au−Cd(Cd:46.5/50原子%)、3)Cu−Al−Ni(Al:14/14.5質量%、Ni:3/4.5質量%)、4)Cu−Sn(Sn:約15原子%)、5)Cu−Zn(Zn:38.5/41.5質量%)、6)Cu−Zn−X(X=Si、Al、Sn)、7)Fe−Pt(Pt:約25原子%)、8)Mn−Cu(Cu:5/35原子%)、9)Fe−Mn−Si、10)Pt合金、11)Co−Ni−Al、12)Co−Ni−Ga、13)Ni−Fe−Ga、14)Ti−Pd(含量は種々)、15)Ni−Ti(Ni:55原子%)、などが挙げられる。
【0007】
SMPとしては、これに限定されないが、1)イオン成分またはメソゲン成分を有するポリウレタン系形状記憶ポリマー、2)無水マレイン酸で架橋させたポリエチレン−テレフタレート−ポリエチレンオキシド(PET−PEO)ブロック共重合体などが挙げられる。
【0008】
最も一般的な形状記憶材料の1つが、ニッケルとチタンの合金であるニチノール(NiTiとも呼ぶ)である。本出願では、特にSMAとニチノールに焦点を当てているが、当業者には理解されるように、同様の原理は、他のSMA、SMPあるいは形状記憶材料に適用可能である。
【0009】
SMAは典型的には、単一の変態点を有し得るモノリスな材料である。SMAの弾性や剛性を含む物性は、該SMAの化学組成やこれが受ける特定の処理などの種々のファクタの影響を受ける。特に、わずかに異なる近等原子比ベース金属組成を有するニチノールSMAでは、NiとTiの比率が変態点に著しく影響し得る。
【0010】
その優れた擬弾性、形状記憶および生体適合性によって、ニチノールは、航空宇宙、マイクロエレクトロニクスおよび医療機器を含む種々の用途で最有力候補になってきた。ニチノールはその擬弾性特性により、18%までの歪みに耐え、その開放時には実質的に完全に回復できる。形状記憶効果は、冷却中に剛体の高温オーステナイト相から可鍛性の低温マルテンサイト相に転移するニチノールの能力に起因する。オーステナイト相での高温形状をひとたびニチノールのワークピースに仕込むと、その後、マルテンサイト相まで冷却して弾性的に変形させられるが、加熱すると、該材料は再びオーステナイト相に転移して当初の形状に戻る。変態点に影響する主要な要因としては、1)合金化元素(すなわち、NiとTiの比率)、2)熱−機械加工、および3)金属マトリックスに埋め込まれた析出物などが挙げられる。
【0011】
変態点が1つのニチノールの特性は周知であるが、SMAの用途範囲を広げる目的および既存用途でより一層有用なものにする目的で、近年、複数の変態点を有するモノリスニチノールの製造が試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本出願人は、複数の変態点を有するSMAを提供するために、基本成分からモノリスな形状記憶合金を形成するために用いられることを意図して開発中の、2つの材料形成技術を認識している。
【0013】
1)テープ成形では、種々の組成の粉末成分を用い、それらを焼結してモノリス材料を形成する。焼結した近等原子比ニッケル−チタン粉末は、近年、形状記憶効果を示した。また、モノリスシート上の局所組成を変える試みも行われてきたが、酸化させるべきチタン固有の性質のために、実際の組成を制御することは非常に困難であり、該加工では脆性構造が形成され得る。また、焼結の間に形成される多孔性材料は一般に、機械的特性が劣る。
【0014】
2)レーザ加工ネットシェイピング法(LENS)は、市販のラピッドプロトタイピング法であり、粉末成分を用いて層状構造を形成する。プロセスパラメータを変えることによって、加工中に変態点を変更することが可能であり得る。しかしながら、加工が複雑であるために、変態点を正確に調整することは困難である。また、最終製品の表面仕上げが通常粗く、相当な後加工が必要になり得る。
【0015】
前述のことから、複数の変態点を有する材料および上記の懸案事項の少なくとも一部を克服するための試みを提供するために、材料、特に形状記憶材料を加工又は処理する改良された方法と装置が求められている。
【0016】
本明細書におけるある態様では、材料の所定部分に制御された方法でエネルギを印加して、前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するステップを備える材料の処理方法が提供される。
【0017】
制御された方法でのエネルギの印加では、前記材料の一部分のみを処理し他の部分は一般に影響を受けないようにでき、前記局所的な化学的性質および構造のより複雑な調整も可能である。SMAの文脈では、これによって、一般に所定の変態点を有する材料の所定位置に、記憶あるいは付加的な記憶を配置できる。ある場合には、前記所定部分は前記材料のすべてを含んでもよいことは理解されるであろう。
【0018】
特定の場合では、前記エネルギを印加するステップは、前記所定部分をレーザで加工するステップを備える。この場合、前記の方法は、前記所定の結果を得るために、レーザに対する電力、ビームサイズおよび移動速度を選択するステップと、前記所定部分のサブセット上に前記レーザの焦点を合わせるステップと、前記レーザからのビームが前記所定部分のすべてに当たるように前記レーザと前記材料の空間的関係を調節するステップと、を備えていてもよい。ある場合には、エネルギの印加を制御するために、前記レーザをパルス操作してより短いエネルギ爆発を提供してもよい。
【0019】
上記のように、一般に、印加されるエネルギを制御して材料の所定部分外への伝導を低減する。
【0020】
種々の特定の場合では、前記所定のあるいは所望の結果は、前記材料の所望の利用/用途と前記材料特性に応じて変わってもよい。
【0021】
例えば、前記材料が形状記憶材料の場合には、前記所定の結果は、前記形状記憶材料の所定部分に付加的な記憶を提供する(すなわち、前記材料の残りの変態点とは異なる変態点を前記所定部分に提供する)か、あるいは、前記形状記憶材料の擬弾性特性を変えて付加的な擬弾性領域を提供することであってもよい。
【0022】
必ずしも形状記憶材料に限定されない他の例では、他の結果が意図されてもよい。
【0023】
例えば、前記所定部分は、前記材料の表面または表面層であってもよく、前記所定の結果は、前記表面または表面層の成分濃度を調節して前記材料の表面に酸化被膜を形成し、耐食性を提供することであってもよい。前記表面層の深さは、材料特性、エネルギ印加方法、前記材料の目的とする利用などに依存することは理解されるであろう。
【0024】
別の例では、前記所定の結果は、前記材料から汚染物質を除去することであってもよい。
【0025】
さらに別の例では、前記所定の結果は、前記材料中に少なくとも1つの付加的な相粒子を生成することであってもよい。付加的な相に粒子を形成することによって、粒成長のための核形成サイトが提供され、これによって次に前記材料を強化できる。
【0026】
ある場合には、前記材料の前記所定部分の冷却を制御して所定の結果を得てもよい。例えば、前記所定部分を所定の速度で冷却して、前記所定部分の表面テクスチャを変えてもよい。
【0027】
更に別の場合では、前記方法は、前記エネルギ印加中に利用する充填材を添加するステップを備えていてもよい。この場合、前記材料の成分の添加量は、前記所定部分の組成(例えば、特定の成分の濃度など)を変えるものであってもよく、あるいは他の材料を添加して前記所定部分の局所的な化学的性質に違った方法で影響を及ぼしてもよい。
【0028】
さらに別の場合では、前記材料は2つの形状記憶材料片を含み、前記所定部分は、前記2つの片が結合する領域を含み、前記所定の結果は、前記2つの片の内の少なくとも1つの変態点とは異なる変態点を前記所定部分に与えることを含む。
【0029】
本明細書における別の態様では、少なくとも2つの変態点を含む形状記憶材料であって、少なくとも1つの変態点は、前記材料の形成後に加えられることを特徴とする形状記憶材料が提供される。特定の場合では、前記少なくとも2つの変態点の内の少なくとも1つは、前記の方法で形成される。
【0030】
本明細書における別の態様では、材料の所定部分にエネルギを印加するエネルギモジュールと、前記材料とエネルギモジュールを互いに関連させて位置決めする位置決めモジュールと、前記位置決めモジュールとエネルギモジュールを制御して、前記材料の前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するように前記材料を処理する加工モジュールと、を備える材料処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本明細書に記載の実施形態をより理解するために、また、それらの実施方法をより明確にするために、例示の目的のみで添付図を参照し、実施形態例とその詳細を説明する。
【図1】制御された方法で局所的な化学的性質を変える材料の加工方法を示す、ある実施形態のフローチャートである。
【図2】制御された方法で局所的な化学的性質を変える、ある実施形態による材料の加工装置のブロック図である。
【図3】図3Aは、伝導溶接を示す。図3Bは、キーホール溶接を示す。
【図4】図4Aおよび図4Bは、引張試験片の寸法を示す概略図である。
【図5】擬弾性NiTi合金の載荷−除荷曲線を示す。
【図6】図6Aおよび図6Bは、プロセスパラメータの最小溶接部幅への影響を示す。
【図7】異なるパルス周波数に対する代表的な引張曲線である。
【図8】異なるピーク電力入力に対する代表的な引張曲線である。
【図9】溶接サンプルにおける複数の水平域を示す図である。
【図10】第1および第2の曲線を示す。
【図11】図11Aおよび図11Bは、未溶接サンプルおよびレーザ溶接サンプルの繰り返し載荷を示す。
【図12】図12Aおよび図12Bは、垂直溶接軸および水平溶接軸に沿ったミクロ硬度跡を示す。
【図13】基材および溶接部材の示差走査熱量測定(DSC)を示す。
【図14】図14Aおよび図14Bは、基材のミクロ構造と融合境界のそれの光学顕微鏡写真を示す。
【図15】図15A〜図15Cは、0.6kW×10pps、0.6kW×1ppsおよび0.9kW×10ppsそれぞれでの、ベース金属と比較した溶接部頂部および底部のX線回折データ(XRD)を示す。
【図16】図16A〜図16Cは、複数の変態点を有するニチノールリボンの写真である。
【図17】図17Aおよび図17Bは、異なる変態点の2次元適用あるいは3次元適用を有するSMAの付加的形状を示す。
【図18】異なる変態点を形状記憶成分に印加した追加の例を示す。
【図19】複数の変態点を有する形状記憶金属材料片に対して予測される応力−歪み曲線を示す。
【図20】複数の変態点を有する形状記憶成分の応用実施例を示す。
【図21】複数の変態点を有する形状記憶成分の別の実例応用を示す。
【図22】図22Aおよび図22Bは、複数の変態点を有する形状記憶成分の別の実例応用を示す。
【図23】汚染物質を含むバルク材の横断面を示す。
【図24】加工後のニチノールのTi2Ni粒子を示す。
【図25】図25A〜図25Dは、一連のレーザパルスでの組成変化の効果を示す。
【図26】は第2の相転移を示す状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図面の簡略化と明確化のために、対応するまたは類似の成分あるいはステップには同じ参照番号を付す。また、本明細書に記載の例示的な実施形態の完全な理解のために多くの特定的な詳細が述べられるが、本明細書に記載の実施形態は、これらの特定的な詳細なしに実施できることは当業者には理解されるであろう。本発明の実施形態を曖昧にしないために、周知の方法、手順および成分を詳細には記載していない実例もある。また、この記載は、本明細書に記載の実施形態の範囲をいかなる意味でも限定するように解釈されるものではなく、単に、本明細書に記載の種々の実施形態の実施を記載するものとして解釈される。
【0033】
以下の議論はある程度、形状記憶合金(SMA)に焦点を当てているが、この原理、加工および装置は他の形状記憶材料にも同様に適用できることは理解されるであろう。また、興味ある結果として、形状記憶材料に関連して当初開発されたプロセスは、後述の金属を含む他の材料にもある程度応用できる。
【0034】
従来の形状記憶合金(SMA)はバッチ処理されて、単一の変態点を有するモノリスシートに作られている。この加工は、SMA内の均質な組成および構造の故に最適である。このように、この加工は、SMAが、ある「記憶された」形状のための単一の変態点を有することだけを可能とする。
【0035】
上述のように、複数の変態点を有するSMAの製造が試みられてきた。異なる変態点を有する2つのSMA(ニチノール)片の結合の可能性を検討するために、本出願人は、溶接法を用いてニチノールを試験した。特に、ニチノールの2つのモノリス片の溶接の可能性について検討するために、本出願人は、ニチノールのモノリスシート(ニチノールワークピース)の中心点に溶接レーザを照射する「ビードオンプレート」法を用いて試験した。このプロセスの間、エネルギを印加したため、温度が従来の溶接法で用いられたものを超える場合もあった。興味深いことには、レーザの効果により、ニチノールの対象領域はより高温で溶解するが、ニチノールの局所部分は十分に溶解する(すなわち、ニチノールは相変化する)ものの、溶融ニチノールの表面張力によりその場所に保持された。ある場合には、付加的な中間相転移(ニチノールのR−相など)が起こるが、該付加的な中間相は、さらに以下で議論する形状記憶効果において重要な役割を演じていないように思われた。
【0036】
レーザの局所照射の間、局所温度と分圧効果によって溶解が起こるが、それは材料またはその成分の沸騰と考えられる。その時点では予測できないが、以降の試験によって、ニチノールワークピースのレーザ処理部分は、処理された部分/領域の変態点の変化を示した。ニチノールの溶解とその後の凝固によって、ニチノールの局所的な化学的性質が変化するものと思われた。その結果、加工された領域は付加的な記憶を示すが、残りの未処理材料は依然として、当初の物性と記憶を示した。この予期しない進展によって、本明細書でより詳細に記載する処理の装置及び方法の背景が提供された。特に、該装置と方法によって、1つまたは複数の付加的な記憶をモノリスな形状記憶材シートに仕込みできる。理解されるように、付加的な記憶を有することによって、多くの用途に対する付加的な機能が可能となる。
【0037】
変態点の変化は、変態点がニチノールの局所的な構造と化学的性質に非常に影響を受けるためであると考えられる。溶解中の気化(関連する温度と分圧による)のために、以前のミクロ構造は、溶融金属がその後再凝固するまでの間、不安定になる。ニチノールの場合は特に、NiTiの当初の基材が典型的に均質構造であり、ニッケル(Niが50原子%超の場合)またはチタン(Tiが50原子%超の場合)のいずれかで飽和されている。この構造は通常、該合金をアニーリングし(500〜1200℃で)その後焼き入れしてNiTi構造を保持することによって得られる。特定の場合には、合金のアニーリングを約800℃で行ってもよい。さらに、圧延などの機械加工を行って、該ミクロ構造を改良し強度を上げてもよい。しかしながら、この構造を溶解し再凝固させる(例えば、さらに後述のようにレーザを用いて)と、1つまたは複数の成分が気化し、残りの飽和した成分は、その特定の化学的性質がリッチな凝固する最終液との凝固先端に沿うように押しやられる。その後、この局所領域は金属間化合物(すなわち、NiリッチなNi3Ti、Ni4Ti3、TiリッチなTi2Ni)になって安定する。組成がアンバランスな時にこの結果が生じ得るが、他のメカニズムも関与し得る。再凝固金属の全体の化学的性質は一般的に変わらない(マトリックスおよび金属間化合物を含めて)が、マトリックスの化学的性質は当初の基材とは異なっているであろう。従って、該局所領域のマトリックスの変態点は違っているであろう。興味深いことには、ある場合には、ピーク温度を十分に高く長く維持して、該局所領域がある程度の加工後熱処理(アニーリングなど)を経験するようにもでき、これには熱影響域が含まれてもよい。
【0038】
SMAの局所溶解は、アニーリングなどの合金/金属の熱処理における一部の低温度形成と対称的である。なぜなら、こうした低温プロセスでは、固相状態での内部構造や化学的性質に与える影響が溶液状態でのものより少ないためである。また、溶解プロセスは適切に行なえば、マルテンサイト状態のSMAの超弾性を変化させ得るが、その完全破壊は起こさない。またさらに、該プロセスは、基本成分からのSMA形成に用いられるプロセスとは対照的に、上述のように既存の材料で行える。
【0039】
この予期しない情報に基づいて、本明細書における出願人は、材料のある領域における局所的な化学的性質/構造を変えるために材料の加工/処理の方法と装置を開発し、所定の結果を得た。ある特定の結果とは、変更された特性、特にモノリス材料の異なるゾーンに複数の変態点を有するSMAやニチノールなどの形状記憶材料を提供することである。
【0040】
図1は、複数の変態点を有するニチノールのモノリスシートまたはワークピースの処理/形成方法100の実施例を示すフローチャートである。さらに後述のように、所望の結果を提供するために、局所的な化学的性質/構造を変える目的で多材料のプロセスに適用できることは理解されるであろう。
【0041】
プロセス100は、ニチノールのモノリスシートの投入で開始される。ニチノールのモノリスシートまたはワークピースを最初に加工して、特定の形状記憶を該モノリスシート110に付与してもよい。第1の形状記憶(および変態点)を付与するニチノールの加工は当分野で周知である。しかしながら、該形状記憶効果を発揮させるのに十分な組成を有する未加工の合金を加工してもよく、その場合には、プロセス100を用いて第1の記憶が仕込まれる。その後、レーザ処理される加工ステーションに処理されたニチノールワークピースを移動させる。
【0042】
該方法は、所望の変態点、化学組成あるいは所定の結果に基づいて、用いられる加工120のプロセスパラメータを自動的に算出するプロセッサなどの使用を備えていてもよい。該算出あるいは表の調査などに用いられる、NiTiの化学的性質などの機能としての変態点を含む情報の種類の一例としては、例えば、Tang Wの、Thermodynamic Study of the Low−Temperature Phase B19’ and the Martensitic Transformation in Near−Equiatomic Ti−Ni Shape Memory Alloys,Metallurgical and Materials Transactions A,Volume28A,March,1997,pp.537−544などが挙げられる。本実施形態のこの態様は、計算機(プロセッサ)で実行されると、実行手順を形成する、物理メディア上のコンピュータで読み取り可能な命令で構成され得ることは理解されるであろう。
【0043】
その後、該ニチノールワークピースの局所的な化学的性質を変える領域をレーザ処理130し、この場合には、異なる変態点を提供する。ニチノールワークピースの必要領域のレーザ処理を保証するために、用途に応じてレーザを移動させてもよいこと、あるいは、ニチノールワークピースをレーザに対して移動させてもよいことは理解されるであろう。該レーザ処理130では、エネルギをニチノールの局所領域に印加して、溶解および気化を少なくとも一部生じさせる(該局所領域の温度と分圧に基づいて)。ニチノールなどのSMAに対する融点の範囲は、加熱プロセスで生じ得る該SMAの化学組成と化学変化に影響される。当分野で既知のように、気化速度も局所圧によって影響される。ニチノールに対しては、約1,000℃以上の温度に加熱後に、一部の効果が得られる。この温度範囲は、アニーリングなどの合金/金属の熱処理における一部の低温度形成と対称的である。なぜなら、これらのプロセスでは、固相状態での内部構造に与える影響が溶液状態でのものより少ないためである。さらに特定の場合では、該ニチノールを約1,250〜1,280℃に加熱してもよい。別の場合では、ニチノールは約1,300℃以上に、例えば約1,320〜1,340℃に加熱される。一般的に言えば、十分なレベルの溶解と気化を生じさせて局所的な化学的性質を変化させ、付加的な変態点などの所望の結果を提供するための温度が選択される。
【0044】
加熱のためのエネルギの印加は好適には局在化され、局所的な化学的性質の変化が局在化されて、該SMAシートの他の領域にはこの効果が不適に広がらないように構成される。多くの場合、エネルギを短期間印加するプロセスによって、局所的な化学的性質が明確に変化した、従って変態点の変化が局在化した領域または区間をより良好に定義し得る。このように、レーザ溶解は好適であるが、抵抗溶解またはプラズマ溶解などの他の加熱形態を用いてもよい。レーザ溶解の場合、通常、1msec以内という短い時間で適切な温度に達し、SMAの非常に急速な加熱と処理が行える。特定の場合では、0.5msecで適切な温度に達し得る。抵抗加熱またはプラズマ加熱であっても、熱印加時間は1秒以下と短くできる。
【0045】
レーザ加熱であっても他の加熱であっても、エネルギ印加プロセスは一般に、アルゴンやまたは同様の既知の生産ガスなどのシールドガスの存在下で行われるであろう。該成分や形状記憶材料は酸素と反応して不要な副生成物を作るために、シールドガスを用いる。
【0046】
処理された材料の冷却および再凝固は、エネルギ源を除去後直ちに起こるであろう。プロセスパラメータは、制御されたその場の冷却速度が提供できるように構成できる。ある場合には、ニチノールワークピースをさらに加工(140)し、例えば、より急速な冷却用のヒートシンク(すなわち、冷却装置または冷温ガスとしての銅ブロック)を用いて冷却や再凝固を制御してもよい。付加的な加工はさらに、以下の一実施例で述べるような熱処理あるいは特定の用途に対して準備される他の加工を備えていてもよい。
【0047】
図2は、局所的な化学的性質/構造の変化を生じさせるための、ある実施形態による材料の加工装置のブロック図である。この特定の実施形態では、該装置は、複数の変態点を有するSMAを形成するものである。該装置は、ニチノールワークピースを、処理前およびまたは処理中にニチノールワークピースの位置を調節する位置決めモジュール160に提供する供給モジュール150と、さらに加工するために前記ニチノールワークピースを移動させる除去モジュール170と、を備える。該装置は、前記位置決めモジュールに保持されたニチノールワークピースの適切な領域にエネルギを印加する加熱/溶解モジュール180を備えていてもよい。本明細書に記載するように、前記加熱/溶解モジュール180は、エネルギを印加するレーザまたは他の装置/材料を備えていてもよい。該装置は、前記加熱/溶解プロセス中の不要な反応を防止するシールドガスを提供するシールドガスモジュール190も含む。一部の実施形態では、該装置は、入力パラメータまたは入力パラメータに基づいて自動的に計算された値に基づいた、前記位置決めモジュール160と加熱/溶解モジュール180の制御に用いられる加工モジュール200を含んでいてもよい。入力パラメータは、実行される加工の種類または所望の結果に関連していてもよい。
【0048】
本明細書に記載の方法と装置は、1つまたは複数の加工ステーションで行われてもよく、また、別の加工ステーションとして記載されたものが適宜組み合わせられてもよいことは理解されるであろう。同様に、第1の成分が移されたと記載された場合は、代替となる成分が移されて前記第1の成分がその場所に残されてもよく、あるいは両方の成分が移されてもよい。例えば、前記レーザ、前記ニチノールワークピース、あるいはその両方が局所領域の処理を提供するために移されてもよい。本明細書に記載の装置及び方法は、NiMnGaなどの磁気形状記憶合金で有効となるように予想されることもまた注目されるべきである。
【0049】
レーザ処理によってニチノールの局所変態点を首尾よく変更する実験を行った。上記の通り、この効果は主に、各成分の蒸気圧の差によって生じる選択成分の気化に基づくものと考えられる。また、その後の溶解金属の再凝固の間に生じる分離によって、前記局所的な化学的性質をさらに変える。これらの結果は、再凝固部分の局所的な化学的性質に変化をもたらし、次に局所変態点と形状記憶効果とを変えて、単一のワークピースあるいは部分が複数の形状記憶効果を有することが可能になるものと考えられる。局所的な化学的性質の変化は、用いられるプロセスパラメータに応じて非常に僅かなものでものであり得る。
【0050】
ある実験では、ネオジム−ドープイットリウムアルミニウムガーネット(Nd:YAG)レーザを用いた。いくつかの主要パラメータを用いてパルスNd:YAGレーザ処理を制御する。これらのパラメータは、これに限定されないが、パルス幅、ピーク電力、周波数、レーザ移動速度(溶接速度とも呼ぶ)および焦点はずし距離などである。材料に受け渡されたエネルギ量を概念化するために、パルスエネルギと平均電力も用いられる。オペレータは、レーザ加工機のピーク電力、パルス幅および周波数を事前にセットする。ピーク電力はレーザパルスの瞬間的な電力であり、材料の温度上昇に影響を及ぼすことができる。十分な熱が存在して、該ワークピースの液化温度以上にピーク温度が上がると溶解が始まる。このプロセスは、伝導と対流による熱損失を克服するステップを含む。パルス幅は、各パルスがワークピースを照射する時間である。パルス幅が大きければ大きいほど、ピーク電力が印加される時間が長くなる。最後に、パルス周波数は、レーザが1秒間当たりにパルス化される回数であり、これを用いてパルスのオーバラップ量とワークピースに入力する熱量が制御できる。この実験では、パルスレーザを用いるが、これは必ずしも本明細書における要件ではない。
【0051】
レーザの移動速度と焦点はずし距離は、ワークピースの全体的な加工にも影響を及ぼし得るパラメータである。レーザ移動速度は、あるパルス周波数に対する各スポットサイズ上のオーバラップ量に影響する。しかしながら、パルス周波数とレーザ移動速度は、典型的には相互に関連して所望のスポットオーバラップが得られる。溶接の分野では、スポットオーバラップは典型的に、溶接部強度用途では約50%から変化し、溶接部を気密シールの形成に用いる用途では80%から変化する。
【0052】
図3Aは、伝導溶接と呼ばれる方法での材料加工を示し、図3Bは、レーザ加工中に生じるキーホール溶接モードを示す。伝導モード中のレーザビーム210からのレーザ強度は、単にワークピースの溶解に十分なものであってもよい。溶融池220は表面で発生し、伝導によって全ての方向に成長して半楕円形の溶接部および熱影響域230ができる。レーザエネルギは材料の頂面に吸収されるだけなので、伝熱量は材料の反射率によって実質的に低減される。
【0053】
キーホールモードは、表面のピーク温度が十分高くワークピース材料が気化するときに生じる。融解した溶融池250のキーホール凹部240は、気化圧で形成されてもよい。これによって、図3Bに示すように、深い突入と熱影響域260を有する狭小な溶接部が得られる。伝導溶接と比較して、キーホール溶接はワークピースへの伝熱を有してより効率的である。キーホールは、レーザエネルギを捕捉し、キーホール内の内部反射によって黒体として作用できる。
【0054】
この実験では、市販のSE508ニチノール片(厚み:0.37mm)を用いた。この特定の合金の化学的性質は、Niが55.8質量%、Tiが44.2質量%、酸素および炭素の最大含量がそれぞれ0.05質量%および0.02質量%であった。これの冷間圧延材を800℃×1時間加熱して、擬弾性特性を得た。フッ化水素酸と硝酸の希釈液を用いて、レーザ加工前に表面の黒い酸化物を除去した。
【0055】
スポット径400μm、パルス時間3msecでレーザ加工を行った。この実験では、最小基準として、十分な突入と気密シール状態(オーバラップ80%)が含まれていた。十分な突入の形成は、0.6kWのピークパルス電力で十分であると判断された。慣例的には、80%の溶解スポットオーバラップによって、気密シール状態が形成されることが示されている。下記の表1には、選択されたパラメータと、パルス周波数およびピーク電力を含む可変プロセスパラメータが示されている。パラメータは、周波数(f)、スポット径(ds)、レーザ移動速度(V)およびオーバラップパーセント(%OL)を含む種々のパラメータを相互に関連付けた式1を用いて選択した。
f=100V/(ds)(100−%OL) 〔1〕
【0056】
上記式から、パルス周波数とレーザ移動速度は直接に関連する(すなわち、パルス周波数が高ければ高いほど、溶接速度は速くなる)ことが示される。従って、レーザ移動速度(V)は、パルス周波数(T)と呼ばれることもある。
【表1】
【0057】
機械的な変形時のバリの影響を最小化するために、ワイヤ放電加工(EDM)切断を用いて引張試験片を準備した。溶接部金属とベース金属の両方の影響を調べるために、横溶接部の構成を選択した。図4Aは、ゲージ長に沿って十分な溶接部領域を有するように、サブゲージドサンプルが選択された寸法を有する試験片の引張試験片270を示す概略図である。図4Bは、溶接部位置280を有する試験片を示す。ロードセル分解能が±3NのInstron型5548ミクロ引張試験機を用いて、試験を行った。試験はすべてほぼ室温(25℃)で行なった。第1の載荷サイクルを歪みが0.06mm/mmになるまで行い、次に、除荷サイクルを応力が7MPaに低下するまで行う繰り返し載荷を、クロスヘッド速度0.04mm/分で行った。母材試験片およびレーザ溶接試験片に対して、同じサイクルを50回(50サイクル)繰り返した。50サイクル終了後、クロスヘッド速度0.4mm/分で破断するまで試験片を引張った。
【0058】
擬弾性挙動を示す典型的なNiTiに対する載荷−除荷サイクルにおける応力−歪み曲線の概略図を図5に示す。擬弾性パラメータE1、E2および永久残留歪みがこの図で定義される。E1は、1つの完全なサイクルにおいて単位体積当たりに消失されるエネルギであり、E2は、載荷時に単位体積当たりに蓄積され、除荷中に解放時に利用可能なエネルギである。エネルギ蓄積効率(η)は、式2で表され得る。
η=E2/(E2+E1) 〔2〕
【0059】
金属組織学的手法を用いて溶接部の寸法を測定した。連続的に減少するグリットサイズを有するSiCペーパを用いて搭載サンプルを磨いた。1μmダイヤモンド用いてサンプルを研磨し、HNO3:14ml、HF:3mlおよびH2O:82mlを用いてエッチングした。図6Aおよび図6Bは、パルス周波数とピーク電力の最小溶接部幅への影響を示す。最小溶接部幅を図6Aに示す。図6Bに示すように、溶接電力が維持された状態でのパルス周波数の上昇に伴って、溶接部幅に対する名目変化が見られた。しかしながら、溶接電力が0.6kWから0.9kWに上昇するのに伴って、最小溶接部幅は260μmから460μmまで上昇した。
【0060】
未溶接試験片と溶接試験片について、パルス周波数と入力電力を種々変えた時の工学的応力−歪み曲線の比較を、それぞれ図7および図8に示す。ベース金属試験片では、形状記憶合金の典型的な擬弾性挙動が見られたが、それは、歪みが0.03mm/mm、応力が290MPa近傍の、線形的弾性歪み後の平坦領域(水平域)で示されている。歪みが0.12mm/mmを超えると、マルテンサイトの塑性変形が生じて荷重は歪み硬化によって上昇し、その後歪みが0.90mm/mm近傍で破断した。
【0061】
図7は、0.6kWレーザ溶接試験片では、パルス周波数の上昇(5pps、10ppsおよび15pps)と共に延性と強度が低下したことを示している。これは、十分な応力を印加して隣接のベース金属をマルテンサイトに転移する前の、溶接部帯の初期破壊によるものであった。しかしながら、0.6kWレーザ溶接での最小パルス周波数1ppsにおいて、延性と強度の僅かな上昇が見られた(図7)。該1pps溶接物では、ゲージ長に沿ってマルテンサイトの塑性変形を生じさせることができる歪みに達することもできた。パルス周波数を一定(10pps)にし、ピーク電力を0.6、0.7、0.8および0.9kWに変えた溶接条件での工学的応力−歪み曲線を図8に示す。0.6kW溶接を除いた他の条件(0.7、0.8および0.9kW)の各々では擬弾性領域を越えた。しかしながら、すべての溶接試験片の破断強度と延性は、ベース金属に対してそれぞれ70%と50%未満であった。溶接電力の上昇に伴う引張り強度の上昇は、溶接パラメータの効果であった。レーザ溶接したNiTi合金の破断歪みの低下は、凝固時の溶質の分離や溶接部金属中の粗粉と樹枝状構造を含むいくつかの要因によるものである。しかしながら、電流の結果からは、溶接パラメータが機械的特性に影響を与え得ること、具体的には、入力エネルギが大きくパルス周波数が低いほど、機械的性能が改善されることが示されている。
【0062】
図9は、未溶接試験片と溶接試験片とで溶接電力を変えた場合の、弾性変形から擬弾性変形開始までの応力−歪み線図を詳述するものである。多くの引張り試験片の引張り(オーステナイト→マルテンサイト)の間に、マルテンサイト(SIM)転移によって生じる応力によるNiTiの典型的な擬弾性挙動が見られた。しかしながら、溶接試験片において、ピーク溶接電力の上昇に伴ってより顕著となる初期降伏の兆候が結果から示された。これらの結果から、ベ−ス金属の通常の擬弾性挙動前の引張り時に、溶接部帯で非弾性変形が起こったことが示唆される。横溶接部引張り試験片では、載荷の間、ベース金属と溶接部金属の両方に応力が発生した。従って、初期降伏は溶接部領域に起因し、その後の擬弾性特性は残りの基材から起こり得る。
【0063】
初期降伏は、歪みが0.015mm/mm〜0.022mm/mmの間に溶接部金属で生じ、その後、付加的な引張りによって残りのゲージ長での転移が生じた。該SIM転移は、ベース金属(BM)の応力−歪み曲線を反映すると解釈される。図9では、溶接試験片における降伏が低応力で発生しており、転移が溶接部で生じたことがこれから示唆される。ピーク電力の上昇と共に拡大する降伏領域は、図6Bで見られるように、溶接部幅の上昇によるものであり得る。溶接電力の上昇に伴って最小溶接部幅が大きくなった。従って、ゲージ長内の溶接部領域が大きくなるほど、初期SIM転移が起こる。
【0064】
十分な付加的応力がある温度で加えられると、双晶マルテンサイト相の塑性変形による変形は不可逆になることは既知である。この非双晶化をさらに詳述するために、2−サイクル載荷試験を室温で行った。図10は、歪みが最高で0.06mm/mmとなる0.9kW×10ppsの溶接条件での第1の載荷曲線と第2の載荷曲線を示す。初期載荷の間、該降伏で示される溶接部金属の非双晶化が起こり、その後、基材のSIM転移が起こる。第2の載荷サイクルでは降伏は起こらず、これによって、溶接部金属内で不可逆的の非双晶化が起こっていることが示された。
【0065】
ニチノール変態点は、SIM転移に緊密に関連しており、加工経路と方法によって強く影響され得る。レーザ加工による再溶解によってベース金属の構造が変更され、ニチノールでは、樹枝状晶や粗粉の形成および粒界分離が起こり得る。また、レーザ処理によるニチノールの異常な室温相シフトも起こり得る。溶接部金属に対するこうした変更は、その変更された変態点によるものであり得る。変態点の変更をもたらすすべての要因を決定するには、溶接部金属のより詳細なミクロ構造分析が必要であると思われる。
【0066】
図11Aおよび図11Bに、サイクル回数(N)に伴うエネルギ蓄積効率(η)および永久残留歪みの変化を示す。0.06mm/mm歪み前に初期破壊が起こるため、5pps、10ppsおよび15pps×0.6kW電力でのレーザ溶接サンプルでは繰り返し載荷は行なわなかった。図11Aは、ベース金属と溶接部金属の両方に対する1〜5サイクル間の永久残留歪みの急激な上昇を示す。5サイクルを越えると、各材料は定常状態に達した。材料の除荷後に当初の形状を回復する能力は、永久残留歪みによって測定できる。最高0.06mm/mmまでの引張り時、すべての溶接試験片は、BMと比較して大きな永久残留歪みを示した。10サイクル後、ベース金属および溶接部金属での残留歪みの大きさは、それぞれ0.020%および0.026%であった。図11Bは、サイクル数(N)の関数としてのエネルギ蓄積効率(η)を示す。基材および溶接部材では共に、5サイクルまでにηが上昇した。溶接部材では、最初の5サイクルの間に効率がわずかに上昇した。20サイクルを超えると、効率は0.9%近傍で安定した。従って、溶接試験片では、ベース金属に比べて全体的な残留永久歪みが高く、最初の5サイクル時のエネルギ効率が僅かに高いことが示された。
【0067】
前述のように、溶接部金属では初期降伏が起こり、冷間加工された溶接部領域が得られた。従って、溶接試験片の永久残留歪みの上昇は、初期載荷後の永久SIM転移によるものであり得る。また、大きな入力電力で作られた試験片における永久残留歪みの僅かな上昇は、溶接部幅の上昇によるものであり得る。向上したη値は、冷間加工されたTiNi SMAによるものであり得ることが示された。従って、溶接部金属における初期サイクル時の効率の向上は、溶接部金属の初期サイクル後の、非弾性変形が生じる塑性変形によるものであり得る。
【0068】
各溶接試験片の引張り試験片の溶接部帯に破断が生じた。ベース金属の破壊表面には、延性破壊を示唆するくぼんだ表面が現れた。溶接条件が0.6kW×1ppsの破壊表面の引張り強度は最小であった。溶接部の指向性の樹枝状凝固構造を示す平滑な破壊表面が見られた。これは、破壊が樹枝状晶界面で伝播する粒内破壊であることを示す。対照的に、溶接条件が0.9kW×10ppsでは比較的粗い表面が現れた。詳しく観察すると、より微細なくぼんだ構造が露出していたが、これは、融合部樹枝状晶を貫く延性粒内破断であることを示唆している。これらの結果から、溶接条件を変えることによって、違った破断モードになり得ることが明らかであるが、しかしながら、この破断モード遷移を起こすメカニズムを決定するためには、溶接部ミクロ構造を詳述するさらなる研究が必要であることが示唆される。
【0069】
図12Aおよび図12Bは、溶接部横断面の硬度跡を示す。すべてのサンプルで、融合部の硬度はX軸に沿って低下した。溶接部中心線から離れ最終的にベース金属の溶接部中心線に収束するまでの間、硬度値は徐々に上昇する。ベース金属硬度値の範囲は370〜400Hvであった。溶接部硬度最小値は、0.6kW×10ppsの条件時に見られ、ほぼ250Hvであった。対照的に、0.6kW×1ppsおよび0.9kW×10pps溶接条件での溶接部硬度最小値は、ほぼ280Hvであった。先にアニーリングした材料の溶接部中心の硬度が低いことは、ほとんど歪みのないより大きな再結晶粒を生じ得る、溶接による再凝固によるものであり得る。しかしながら、軟化を生じた主要な理由は、室温でのより柔らかいマルテンサイトへの局所相変化によるものであり得る。
【0070】
図12Aに示した溶接部中心線:Y軸に沿った硬度値は、サンプル間で同じようなものであった。0.6kW×10ppsでの溶接部底部の硬度値は、溶接部表面と比較するとわずかに低かった。0.6kW×1pps溶接での硬度値は、縦方向のパターンと同様に、中心線全体に亘って拡散していた。しかしながら、0.9kW×10ppsでは、横方向で比較的一貫した硬度値を示した。
【0071】
図13は、基材と溶接部材での示差走査熱量曲線を示す。オーステナイト終了(Af)温度およびマルテンサイト開始(Ms)温度は共に室温より低く、それぞれ−8.61℃および−33.27℃であった。これは、室温相は主にオーステナイトであり、従って、引張り試験の間は擬弾性挙動が現れることを示している。溶接部材は基材と同様な熱イベントを示したが、一対の高温ピークも存在した。
【0072】
付加的なピークは、R−相転移中の冷間加工ニチロールまたは熟成ニチロールで典型的に見られる。しかしながら、マルテンサイト転移の中間のR−相転移の事例では、冷却の間、オーステナイトとマルテンサイト間に1つのピークが出来、本溶接部材では、その範囲外に2つの別個の転移ピークを示す。また、十分にアニーリングした基材では、概略室温までの焼き入れによる固溶体の保持により、R−相転移のいかなる存在も示さなかった。従って、これらの付加的なピークによって、低温転移(<室温)と高温転移(>室温)を含む複数の相転移の存在が示唆される。ピーク開始温度を表2に示す。
【表2】
【0073】
溶接部横断面の光学顕微鏡写真を撮影した。溶接部は、パルスNd:YAG処理時のそれぞれの熱サイクルの間に生成された典型的なバンド構造を示した。溶接部表面近傍に集中して現れた分離相の定義に、偏光の利用が役立った。パルシNd:YAG溶接処理の間、ワークピースの鉛直面に沿った冷却速度の可能な相違によって、頂面が最後まで凝固しない領域になり得る。これは次に、溶接部頂面近傍での金属間相形成を促進し得る。しかしながら、冷却速度勾配の存在およびその大きさを決定するためには、詳細な熱分析が必要である。
【0074】
ベース金属のミクロ構造と融合境界のそれとを、それぞれ図14Aおよび図14Bに示す。予想通りに、アニーリングプロセスによって、室温におけるオーステナイトNiTiであることがDSC結果から示された、より大きな粒子が生成した。図14Bは、再融解材と基材の界面に位置する、0.9kW×10pps溶接での代表的な融合境界ミクロ構造を示す。円柱状の樹枝状成長が融合境界近傍で見られた。狭小な熱影響域(HAZ)は、その小さな熱入力のために、パルスNd:YAG処理に固有のものであり、その結果として、HAZは図14Bでは定義できない。
【0075】
各溶接条件での融合部ミクロ構造も見られた。各条件ではそれぞれ、異なる量の連続的なサブミクロンレベルの分離が存在した。0.6kW×10pps溶接では、高濃度の連続的な粒子間分離が示された。対照的に、0.6kW×1pps溶接では、比較的低濃度の同様な分離が示された。しかしながら、0.9KW×10pps溶接では、断続的な第2の位相分布が見られた。融合部の分離相は、破断が開始あるいは伝播する優先部位として作用する。該異なる量の分離は、図7および図8に示した溶接部の機械的性能に相互に関連する。高濃度に分離した0.6kW×10pps溶接では、機械的性能が最も劣り、断続的に分離した0.9kW×10pps溶接では、比較的良好な性能を有することが示された。
【0076】
すべての条件でのベース金属、溶接部表面、溶接部底部に対してインデックスを付けたピークを示す室温XRDデータを図15A、図15B、および図15Cに示す。図13のBM DSCから予想されるように、ベース金属ピークは、オーステナイトの唯一の存在を明確に特定した。すべての溶接条件で、高濃度の分離相が存在する溶接部表面には、オーステナイト相とマルテンサイト相の両方の兆候が示された。各溶接部の底部は、異なる相タイプとその相対的な量を示した。0.6kW×10pps溶接部は単にオーステナイト相を示し、0.6kW×1pps溶接部はオーステナイトといくらかのマルテンサイト兆候を示した。しかしながら、0.9kW×10pps溶接部は、頂面と同様にオーステナイト相とマルテンサイト相の両方を示し、それによって、0.9kW×10ppsにおける硬度傾向がさらに裏付けられた。従って、溶接パラメータによって、溶接部それぞれの頂部および底部において違った相が生成されることがこれらの結果から示唆される。
【0077】
溶接サンプル内で見られた高温DSCピークは、XRD結果に見られたマルテンサイト相に関連し得る。表2に示したピーク開始温度から、この相のMs温度範囲は60〜67℃であることが示唆される。従って、溶接部金属中に見られたマルテンサイト相の化学的性質は、等原子比またはTiリッチな化学的性質に由来し得る。このことは次に、融合部の観察された分離相は、恐らく、Ti2Niが主に観察されるTiリッチな金属間化合物であることが暗示される。しかしながら、検出可能なXRD信号の生成に必要な粒子群が恐らくはなかったために、XRD分析では、これらの金属間化合物の存在を検出することはできなかった。従って、溶接部金属内のサブミクロンオーダの分離相を特定し特徴付けるためには、詳細なミクロ構造観察(TEMを含めて)が必要である。
【0078】
パルスNd:YAGレーザ処理したニチノールの機械的特性を実験によって調査した。異なるパラメータでの溶接強度、擬弾性特性および繰り返し載荷特性を基材と比較し、破断表面を分析した。また、硬度試験、DSCスキャン、金属組織学的検査およびXRD分析を用いて、選択した溶接条件を分析した。主要な観察結果は以下の通りであった。1)加工パラメータ(ピーク電力とパルス周波数)は、ミクロレーザ処理したNiTi合金の機械的特性(引張り強度および延性)に強く影響することが示された。ピーク電力が高いほどまたパルス周波数が低いほど、機械的性能が向上した。2)溶接試験片では、横引張り載荷中に初期降伏の兆候が見られた。降伏は、引張り変形時に溶接部領域で起こる非双晶化によるものであった(溶接部金属およびベース金属)。3)レーザ処理サンプルでは基材と比較して、永久残留歪みが大きく、初期の5サイクルの間のエネルギ蓄積効率がわずかに高かった。4)融合部DSCスキャンで、複数の相転移が見られた。これらの転移は、低温(室温未満)および高温(室温超)で起こった。5)ミクロ構造観察により、アニール処理した基材には大きなオーステナイト粒子が見られ、融合部境界では円柱状の樹枝状成長が存在した。0.6kW×10pps処理では、多量の分離が発生し、擬弾性領域前に破断した。対照的に、0.6kW×1pps溶接は、断続的な分離を示し、良好な機械的性能を示した。6)XRD結果から、溶接部金属は、すべての条件でその表面にオーステナイト相とマルテンサイト相の両方を含んでいた。しかしながら、溶接部底部では、溶接条件に依存して異なる量のマルテンサイト相が見られた。
【0079】
上記の実験ではパルスNd:YAGレーザを用いたが、他の局所的なエネルギ/熱源を用いても同様な結果が得られることは理解されるであろう。レーザの場合、パルスレーザに替えて連続波レーザを適用してもよい。これには、これに限定されないが、ダイオードレーザ、ファイバレーザおよび炭酸ガスレーザが含まれ得る。
【0080】
図16A、図16B、図16Cは、上記の実験の結果として、単一のニチノールリボンに仕込まれた2つの別個の記憶を示す。図16Aは、加熱により図16Bに示す第1の記憶形状に転移可能な「C」の変形形状を示し、さらに加熱して完全に転移させて、図16Cに示す最終の記憶形状が得られる。
【0081】
図17Aおよび図17Bは、複数の変態点の2次元構成(図17A)および3次元構成(図17B)への潜在的な適用を示す。これらの実施例では、異なる変態点域は、灰色の違った陰影で示す。これらの異なる変態点を利用することによって、種々の形状が得られることは理解されるであろう。特に、温度範囲は、所望のものと使用材料によって決定され、例えば、NiTiでは約−150〜150℃であり、他の合金ではそれより高いかあるいは低い。
【0082】
図18は、アクチュエータ装置300に対する異なる変態点の潜在的な適用を示す。この実施例では、3−アームアクチュエータ装置300の内、中央アーム310を処理して、外側のアーム320および330とは異なる変態点を持たせられる。これらの異なる変態点によって、アクチュエータ装置300を2段階作動で使用可能になる。上記の方法のさらなる実施形態では、局所的な構造や化学的性質を変えて中央アーム310に沿ってNi濃度勾配を形成し、これによって中央アーム310に沿って変態点勾配を設けるために、アクチュエータ装置300をさらに熱処理(アニーリングなど)してもよい。概略の実施例として、Ni濃度が51原子%になるようにまた第1の変態点を有するように、アクチュエータ装置300を最初に処理する場合、Ni濃度が49原子%になるようにまた第2の変態点を有するように、中央アームを処理してもよい。以降の熱処理によって、Ni原子を中央アームに拡散させて、中央アーム310に沿った濃度勾配と従って変態点勾配を設けることができ、スムーズな作動が提供できる。
【0083】
材料に付与された付加的な変態点は、開始パラメータとプロセスパラメータに依存することは理解されるであろう。そのため、開始パラメータおよびプロセスパラメータ(例えば、必要となる局所加熱/溶解の範囲)は、変態点を調整するために変更できる。利用可能な変態点は、医療機器などに使用されるものに限定されず、使用される形状記憶材料の特性によってのみ限定される。
【0084】
変態点や域/領域を細かく調整するために、付加的な技術も用いることができ、あるいは局所的な構造や化学的性質の変更を支援し得ると予想される。これには、レーザ再溶解、ミクロ−アーク再溶解、抵抗溶解などの、溶解を起こす種々の熱処理の利用が含まれ、個別でもあるいは一部組み合わせでも用いられる。特に、局所的な構造や化学的性質を調整するために材料に印加されるエネルギ源を調整できる。
【0085】
代替となる技術は、種々の組成を有し、次にレーザ処理の一部としての材料に配合される追加の材料、第2の材料、あるいは充填材などの利用や結合技術の利用などを含んでいてもよい。充填材としては、純ニッケル、純チタン、パラジウムおよびプラチナなどが挙げられる。
結合方法としては、固相拡散結合/ろう付け、レーザ溶接、アーク溶接、抵抗溶接などが挙げられる。ある場合には、エネルギを添加して(例えば、本明細書に記載のプロセスを用いて)、異なる変態点を有する形状記憶材料を互いに結合し、例えば、結合部位に第3の変態点を有するモノリスな形状記憶成分を生成することも期待される。
【0086】
局所的な化学的性質を変えて、複数の変態点(記憶)を形容記憶材料に提供する別の態様は、これによって、該材料が複数の擬弾性領域を反映する応力−歪み曲線を有することである。図19は、長さ方向に複数の変態点を有する形状記憶材料片に期待される応力−歪み曲線のタイプを示す。図示のように、載荷曲線に対して、材料は、弾性変形の後に擬弾性変形の水平域が続く、複数のシーケンスを示すものと期待される。除荷曲線は同様に影響されるものと期待される。
【0087】
当業者であれば、本明細書に記載のプロセスおよび装置は、適切に改質された他のSMAおよびSMPに適用できることは理解するであろう。例えば、SMPの場合、必要とされる温度範囲や時間(すなわち、パルス周波数など)が異なり、代替のエネルギ源あるいは技術を用いてSMPの局所領域の局所的な構造や化学的性質を調整し、同様な効果を提供してもよい。
【0088】
本明細書に記載の方法と装置は、種々の産業用途に適用でき、特定の用途に取り組むためにユニークな解決法を実行することができる。現在の用途の一例としては、SMAアクチュエータがある。現在のSMAアクチュエータでは典型的に、SMA材を当初の位置に引っ込めるためにバイアスを必要とする。該バイアスは一般に、従来のスプリングを用いて容易化されている。しかしながら、複数の変態点を有するSMAが使用されれば、バイアスの使用は削除され得る。
【0089】
複数の変態点を有する形状記憶材料は、対象物が違った温度で反応する必要がある用途およびまたは対象物の形状を徐々に調整する必要がある用途などの、種々の用途に使用できる。特に、複数の変態点によって、特定の金属の唯一の開形状または閉形状ではなく、該対象物に加えられる温度に基づいて徐々に開放または閉鎖されるような用途が可能になる。そうした用途としては、フラッパ弁などのバルブ、医療用途または産業用途のダイヤフラム、温度センサまたは複数の変態点を有するモノリスアクチュエータセンサ、マイクログリッパ、ステントおよび微小電子機械システム(MEMS)などが挙げられる。ある特定の実施例として、複数の変態点によって、加熱により延長できてその後接続可能なチューブ構造が可能になるであろう。別のチューブ部材に接続するために、該チューブの一端を大きくし、次に加熱して小さな記憶形状に収縮させることが可能であろう。
【0090】
さらに、本方法と装置によって、付加的な変態点を加えるためのプレハブ式の市販部分の加工が可能となり、これによって、全く新規の部品を製作しなければならないテープ成形やLENSなどの技術と比較すると、製作コストを低減できる。さらに、本プロセスではチタン成分が不要なため、チタン酸化も回避できる。さらに、最終製品は一般的に多孔性がなく、変態点が一つのモノリス形状記憶材と本質的に同等の機械的性能を有する。さらに、製品重量を軽くすることもでき得る。
【0091】
図20は、複数の変態点を有する形状記憶材の応用実施例を示す。図20は、種々の用途に使用可能なあるタイプのダイヤフラムを示す。この実施例において、中央領域400は、室温より高く、支持フレーム410とは異なる変態点を有する。これによって、中央領域400は室温で、ダイヤフラム形状を形成する支持フレーム410とは別に変形することができる。支持フレーム410は非弾性状態でありながら、中央領域400を弾性状態あるいは擬弾性状態とすることを可能にするために、複数の変態点がこの状況では重要である。
【0092】
図21、図22Aおよび図22Bは、複数の変態点を有する形状記憶材の産業用途における他の実施例を示す。この場合、該用途はバルブである。図21は、入口または出口の端部に搭載され、異なる2(以上)レベルでの流路の開口に該複数の変態点が使用可能な第1の実施例のバルブを示す。より具体的には、該バルブは、複数の記憶が仕込まれたフラッパアームを備えている。該フラッパアームは一端に確保されており、他端は、液流路を被覆するように配置されている。該フラッパアームは第1の位置で、すべてあるいは大部分の液が液流路を流れないように制限する。このフラッパアームは、形状を変えることによってこれらの複数の記憶に応答し、ある温度での所望の応答に応じて、多くのあるいは少量の液を流すことができる。このフラッパアーム配置を熱交換に用いて、液温に基づいて液制御を調節してもよい。
【0093】
図22Aおよび図22Bは、ドーム状に形成され、該ドーム部分は、開くとバルブ内の種々の方向に流れるように形成されたバルブの実施例である。該ドーム部分は、典型的には異なった変態点で形成されるが、これは要求される流れパターン/流路に依存してもよい。該ドームは、摩擦(すなわち、プレート間あるいはチューブなどの内に挟まれて)、結合、留め具などを含む種々の方法で、流路内に搭載されることは理解されるであろう。バルブは、産業全体で多くの用途で利用される。ある具体的な実施例としては、自動車産業においてエンジン冷却液の流れを変えるバルブの利用がある。例えば、エンジンが始動すると、エンジンが十分高温になって冷却が必要になるまで、エンジン冷却液は熱交換器内を流れてはならない。そのために、温度作動性のバルブは、エンジン冷却液の流れ変換に非常に便利であり得る。
【0094】
本明細書に記載のプロセスと装置に関する進行中の研究において、その他の態様も明らかになってきた。例えば、処理される材料の組成の局所的変化によって、耐食性が向上することも期待される。強固な酸化被膜は耐食性の達成において重要であり、酸化物安定化成分が存在するときに、強固な酸化被膜が得られる。NiTiの場合には、チタンリッチな合金ほど酸化に対して高い親和性を有するが、しかしながら、過剰なニッケルの存在下では、酸化被膜を形成しそうにない。例えば、TiO2(あるいはNiTi2O4であっても)酸化物は、十分なチタンが存在する場合に出来るが、典型的なNiTi系では、近等原子比組成物は、室温アーステナイト相の擬弾性特性を利用するためにはわずかにNiリッチであることが多い。さらに、この擬弾性は、医療機器用途で開発された主要な機能特性である。その結果、Niリッチなニチノールの腐食特性について理解を進展させる研究が現在進められている。
【0095】
本明細書に記載の形状記憶材料プロセスは、その化学組成を局所的に改質するので、これによって局所耐食性特性も変化させ得る。より具体的には、ニチノールワークピース表面でのNi濃度の低下(従ってTi濃度は上昇)によって、より強固な酸化被膜と向上した耐食性が形成される。耐食性のために形状記憶材料プロセスを適用する利点の一部としては、これに限定されないが、下記のものがある。1)表面のみを改質して向上した腐食性能を得るので、バルク材の特性は同じままにできる。例えば、NiリッチなNiTiの表面がTiリッチ合金と同様な特性を示しながら、該NiTiの擬弾性特性を保持できる。2)ワークピースの選択した場所を処理できる。例えば、他の成分との流電結合が成形でき得る場合、加工を行って抵抗界面を作ることができる。3)レーザパルス周波数と処理時間を調整することによって、突入深さを正確に制御でき、コーティング技術と比較して、はるかに強固な保護皮膜を形成できる可能性がある。突入深さは、レーザ出力密度に依存し得、それについては業界で進められている。深さ50mmの現在の技術でそれは達成可能である。それ以上および最低数十ミクロンの深さは実現できそうになくとも、ナノメートル範囲のより小さな最小値も可能であり得る。
【0096】
特に、蒸気圧がより高い成分は、上記の加工方法で気化させて除去でき、表面の他の成分の濃度を上昇させて、材料表面の局所的な化学的性質を調節できる。また、処理深さを調節して表面の酸化物レベルの厚みを調節することによって、当分野で既知のプロセスである電界研磨を用いてその光学的特性も操作し得る。NiTi材料の観点から記載したが、本プロセスは、その中に複数の成分が存在し、従って成分間の蒸気圧差が存在する他の材料にも適用し得ることは理解されるべきである。
【0097】
上記のように、加工中にピーク温度が融点を越え、冷却時に凝固が起こる。この際の凝固速度に基づいて表面形態が制御できる。表面テクスチャ(あるいは粗度も)としては、平滑さ(遅い冷却速度で達成)、波状(中間の冷却速度)、あるいは多孔性(急速な冷却速度のために取り込まれる)がある。さらに、種々の熱サイクルの相互作用によって表面形態をさらに改良して、所望のテクスチャを得ることができる。これに関連した利点の一部としては下記のものがある。1)局所化された加工では、所望の領域だけを処理することができる。さらに、単一の成分中に、複数の表面テクスチャあるいは表面テクスチャ勾配さえも仕込める。2)変更された表面テクスチャと他のプロセス結果(すなわち、耐食性、形状記憶)とを組み合わせると、該局所領域をさらに調整することができ、例えば、表面は、多孔性に加えて、より柔らかくより耐食性になるであろう。3)加工深さは、バルク材に対する影響を最小にしながら、比較的正確に(推測では、数十ミクロン〜cmの範囲で)制御できる。これらの改質による利点の1つは、医療機器用途における骨あるいは細胞成長用の改良表面であり得る。
【0098】
本明細書に記載のプロセスと装置の別の態様は、材料からの汚染物質の除去に関する。材料、特に合金の製造中、汚染物質が原料中に存在するか、あるいは材料中に進入し得る。例えば、NiTi合金は、炭素あるいは他の汚染物質を含み得る。また、ある場合には、この汚染物質によって、バルク材から成分を消費し全体の化学的比率を変化させ得る金属間化合物(例えばTiC)を生成し得る。こうして、汚染物によって、所望の変態点が得られ難くなり得る。さらに、機械的性能の低下(すなわち、応力上昇により経験する疲労)が起こり得る。ここに記載の加工装置と方法を用いることによって、汚染物質を首尾よく除去し、処理領域でより純粋な合金を得ることができる。該形状記憶材料プロセスを用いてNiTiに付加的な記憶を仕込んだ時に、この結果が見られた。図23は、処理領域の中心およびバルク材端部の横断面を示す。この実施例において、バルク材中の黒点は、TiCまたは他の汚染物質と考えられる。図23に示すように、加工後、この汚染物質は削減あるいは除去される。この汚染物質はこのプロセスの間に蒸発し、より純粋な材料ができるものと考えられる。汚染物質が、図23に示すように除去されるにつれて、バルク材の体積はわずかな変化し得る。NiTi合金を実施例として用いたが、しかしながら、他の適切な材料に対して、本明細書における方法と装置を用いて同様な結果が得られることは再度理解されるべきである。
【0099】
耐食性処理と汚染物質除去の両方において、材料が処理され得る深さは一般的に、レーザに関連する電力および材料の化学的特性とその成分などに依存し得る。NiTiでは約50mmの深さまで処理できることが電流試験で示されたが、この深さは他の材料では違ってくる可能性があり、より強力なレーザが用いられ、あるいは利用可能になるとともに、上昇し得る。
【0100】
本明細書における方法と装置のさらに別の態様では、該プロセスを用いてある種類の材料の強化ができることが決定できた。特に、NiTi合金の場合には、本明細書におけるプロセスを用いてニッケルを除去した後に、第2相(Ti2Ni)の小粒子の形成が観察された。図24は、直径が約100〜150nmの一対の粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。図24には、マルテンサイト相双晶構造を有する基材も見れる。これらの第2相粒子によって、NiTi合金および他の形状記憶材料の特性は、多数の核形成サイトの生成によりさらに強化されると考えられる。特性の強化を支援すると考えられるメカニズムは少なくとも2つあり、それらを下記する。1)複合材料が複合する材料(または2相鋼であっても)を強化するのと酷似して、第2相粒子は、析出強化点として作用し得ること、および2)これらの第2相粒子は、凝固中に、粒子の核形成を促進する接種材料として作用することができ、より微細な粒子構造が形成され得る(材料をより強くする)こと、である。
【0101】
より小さな粒子構造の証拠を図25A〜図25Dに示す。これらの図では、用いた腐食液が粒界を攻撃し、より暗い領域は、小粒子領域における粒界への優先的攻撃を示すことに留意する必要がある。また、印加したレーザパルス数の上昇と共に、除去されるニッケル量も上昇している。図25Aは最初のパルス後の状況を示し、粒径の顕著な変化は見られないが、2回目のパルス後(図25B)および3回目のパルス後(図25C)では、この構造には、益々微細な粒子構造が含まれ得る。10回のパルスサンプル(図25D)をより詳しく検査すると、Ti2Ni相が見られた。さらに、凝固中に行った急速冷却によって、粒子成長が阻止され得る。従って、第2相粒子の形成によって、処理領域に微細な粒子構造が促進され得る。用いたプロセスによって、質量変化もある程度起こり得るが、10質量%を超える可能性はない。多くの材料で、原子質量変化は2質量%を超える可能性はない。
【0102】
組成変化(例えば、よりTiリッチになる)のミクロ構造に与える効果は、図26に示すように、近原子比領域近傍の部分的なNi−Ti二元状態図を調べることによって予測できる。Coでラベル化された冷却経路が合金(約50.7原子%)の初期バルク組成を代表すると仮定すると、組成がチタンリッチになるにつれて、凝固範囲は、一致凝固が等原子比組成(C1)で得られるまで減少する。さらに、C1からC2へのNiの減少によって、凝固範囲は、共融転移が984℃で起こるまで急激に上昇する(0℃から約300℃に)。Ni含量がC2未満の組成は安定して、NiTiおよびTi2Niを含む二相構造または多相構造になる。形状記憶材料プロセスから経験される急速冷却によって、Ti2Ni核形成サイトが増加し、図26に見られるように、より微細な粒子が形成され得る。この結果は他の合金系にも起こり得るが、それはNiTiに限定されるものではないことは再度理解されるべきである。
【0103】
本明細書における装置と方法の実施形態を適用するに当たって、種々の組み合わせが用いられ得ることは理解されるであろう。記憶を追加するために、あるいは材料表面を処理するためなどで、該材料の所定部分を処理することが適切であり得る場合もあり、例えば、材料から汚染物質を除去する場合に、該材料のすべてを含む所定部分を処理することが適切であり得る場合もある。さらに、本明細書における実施形態を用いて、単一の材料の処理、あるいは1つまたは複数の材料を、その結合部位の局所的な化学的性質を制御しながら結合してもよい。
【0104】
上記のように、マルチメモリ形状記憶合金、特に、本明細書におけるプロセスを用いて作られたものは、向上した機能性を既存のデバイスに提供する用途や、ある場合には、従来の技術では不可能なデバイスの開発を可能にする用途などを含む様々な分野における用途を有し得る。いくつかの実施例を提供するために、マルチメモリ形状記憶材料技術から便益を得られる現在のデバイスには、これに限定されないが、下記のものが含まれる。1)ダイヤフラム:形状記憶材料に仕込まれ得る複数の別個の記憶を利用して、今や、多段ダイヤフラムが構築され得る。ダイヤフラムは、例えば航空宇宙用途で使用され得る。2)アクチュエータ:モノリスなアクチュエータは、共にマルチメモリ形状記憶材料技術を用いてモノリスなニチノールデバイスに付与可能な形状記憶特性と擬弾性特性を利用し得る。MEMS用途では、これらのアクチュエータが求められている。3)自動車テンショナ:自動車テンショナは、タイミングベルトの張力を動的に変えて、エンジンの温度上昇に伴う滑りや電力損失を防ぎ得る。この用途によって、クランクシャフトとカムシャフトが広い温度範囲で正確に計時されることが保証されるであろう。4)バルブ:上記で説明した温度条件に準拠して、液流を正確に制御できる多段バルブ。5)多段ステント:医療用の多段ステントも設計可能である。これによって向上した機能性が提供され、ある場合には、ステントの拡張が、恐らく超音波加熱などにより遠隔でも制御し得る。多段ステントについては、形状記憶効果を引き起こすために、形状記憶合金における冷却と加熱間の周知のヒステリシス関係が利用され得ることが想定される。例えば、形状記憶合金は、NiTiの場合には50℃までであり得る、加熱変態点と冷却変態点間のオフセットを有することが多い。埋め込み可能なステントの場合、操作環境は体温(すなわち37℃)に近い。従って、外部エネルギ源を用いてわずかに体温以上(すなわち39℃)に遠隔的に加熱することによって、徐々に開く多段ステントを作ることができる。この熱は、患者を傷つけないように一時的に印加されるであろう。熱を取り除くと、温度が実質的に低下(NiTiで10〜50℃)しない限りステントは閉じない。そのように温度が低下する場合は、温度変化は患者にとっては致命的であろう。同様に、磁性SMAを用いる場合、付与された複数の記憶および同様の結果を得るために印加された磁界により、ステントを実現し得る。
【0105】
前述のデバイス類は、本明細書に記載の方法と装置を利用し得ると想定される用途タイプの単なるサンプリングである。
【0106】
当業者には理解されるように、本明細書に記載あるいは図示した実施形態例に、種々の変更が可能であることは理解されるべきである。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年8月7日出願の米国仮特許出願番号第61/232,243号および2010年1月5日出願の同第61/292,367号の優先権を主張するものであり、それらは共に参照により本明細書に援用される。
【0002】
本明細書は、金属、合金および形状記憶材料を含む材料の加工に関する。形状記憶材料としては、形状記憶合金(SMA)と形状記憶ポリマー(SMP)がある。本明細書は特に、所定の結果を得るために、制御された方法で所定領域の局所的な化学的性質を調整するための、材料の加工または処理方法とその装置に関する。
【0003】
材料加工は、種々の用途の製品用として種々の特性を有する材料を製造するために、ほとんどすべての産業で利用されている。一部の領域では、材料加工の方法は現在も発展中であり、形状記憶材料の領域もこの中に含まれる。
【背景技術】
【0004】
形状記憶材料は、高温で特定の形状を保持しそれに戻るように仕込め、低温で可鍛性を有する材料である。低温で違った形状に曲げられたとしても、高温になると仕込まれた形状に戻る。この材料が仕込まれた高温構成に戻る温度は、一般的に変態点と呼ばれる。これらの材料で生じる形状記憶効果は、温度低下に伴ってオーステナイト状態とマルテンサイト状態間で材料が転移する可逆的な固相転移に関係する。マルテンサイト状態では、形状記憶材料はより容易に変形し、一般的には、ほとんど一定の応力レベルで大きな塑性変形にも適応できる。形状記憶材料がマルテンサイト状態の場合、加熱することができ、熱の印加によってオーステナイト状態に戻る金属となる。この転移は、特定の温度あるいは温度範囲で起こり得る。形状記憶材料は周知になってきており、医療(例えばステント)、工業、自動車、航空宇宙およびその他種々などの多くの用途で利用されている。
【0005】
形状記憶材料は一般に、形状記憶金属/合金(SMA)と形状記憶ポリマー(SMP)に分けられる。多くの合金は、処理されて、いくつかの磁性材料や合金を含む形状記憶材料になり得る。SMAの主要な3タイプは、1)ニッケル−チタン(NiTi)、2)銅−亜鉛−アルミニウム−ニッケル、3)銅−アルミニウム−ニッケル、である。
【0006】
他のSMAとしては、これに限定されないが、1)Ag−Cd(Cd:44/49原子%)、2)Au−Cd(Cd:46.5/50原子%)、3)Cu−Al−Ni(Al:14/14.5質量%、Ni:3/4.5質量%)、4)Cu−Sn(Sn:約15原子%)、5)Cu−Zn(Zn:38.5/41.5質量%)、6)Cu−Zn−X(X=Si、Al、Sn)、7)Fe−Pt(Pt:約25原子%)、8)Mn−Cu(Cu:5/35原子%)、9)Fe−Mn−Si、10)Pt合金、11)Co−Ni−Al、12)Co−Ni−Ga、13)Ni−Fe−Ga、14)Ti−Pd(含量は種々)、15)Ni−Ti(Ni:55原子%)、などが挙げられる。
【0007】
SMPとしては、これに限定されないが、1)イオン成分またはメソゲン成分を有するポリウレタン系形状記憶ポリマー、2)無水マレイン酸で架橋させたポリエチレン−テレフタレート−ポリエチレンオキシド(PET−PEO)ブロック共重合体などが挙げられる。
【0008】
最も一般的な形状記憶材料の1つが、ニッケルとチタンの合金であるニチノール(NiTiとも呼ぶ)である。本出願では、特にSMAとニチノールに焦点を当てているが、当業者には理解されるように、同様の原理は、他のSMA、SMPあるいは形状記憶材料に適用可能である。
【0009】
SMAは典型的には、単一の変態点を有し得るモノリスな材料である。SMAの弾性や剛性を含む物性は、該SMAの化学組成やこれが受ける特定の処理などの種々のファクタの影響を受ける。特に、わずかに異なる近等原子比ベース金属組成を有するニチノールSMAでは、NiとTiの比率が変態点に著しく影響し得る。
【0010】
その優れた擬弾性、形状記憶および生体適合性によって、ニチノールは、航空宇宙、マイクロエレクトロニクスおよび医療機器を含む種々の用途で最有力候補になってきた。ニチノールはその擬弾性特性により、18%までの歪みに耐え、その開放時には実質的に完全に回復できる。形状記憶効果は、冷却中に剛体の高温オーステナイト相から可鍛性の低温マルテンサイト相に転移するニチノールの能力に起因する。オーステナイト相での高温形状をひとたびニチノールのワークピースに仕込むと、その後、マルテンサイト相まで冷却して弾性的に変形させられるが、加熱すると、該材料は再びオーステナイト相に転移して当初の形状に戻る。変態点に影響する主要な要因としては、1)合金化元素(すなわち、NiとTiの比率)、2)熱−機械加工、および3)金属マトリックスに埋め込まれた析出物などが挙げられる。
【0011】
変態点が1つのニチノールの特性は周知であるが、SMAの用途範囲を広げる目的および既存用途でより一層有用なものにする目的で、近年、複数の変態点を有するモノリスニチノールの製造が試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本出願人は、複数の変態点を有するSMAを提供するために、基本成分からモノリスな形状記憶合金を形成するために用いられることを意図して開発中の、2つの材料形成技術を認識している。
【0013】
1)テープ成形では、種々の組成の粉末成分を用い、それらを焼結してモノリス材料を形成する。焼結した近等原子比ニッケル−チタン粉末は、近年、形状記憶効果を示した。また、モノリスシート上の局所組成を変える試みも行われてきたが、酸化させるべきチタン固有の性質のために、実際の組成を制御することは非常に困難であり、該加工では脆性構造が形成され得る。また、焼結の間に形成される多孔性材料は一般に、機械的特性が劣る。
【0014】
2)レーザ加工ネットシェイピング法(LENS)は、市販のラピッドプロトタイピング法であり、粉末成分を用いて層状構造を形成する。プロセスパラメータを変えることによって、加工中に変態点を変更することが可能であり得る。しかしながら、加工が複雑であるために、変態点を正確に調整することは困難である。また、最終製品の表面仕上げが通常粗く、相当な後加工が必要になり得る。
【0015】
前述のことから、複数の変態点を有する材料および上記の懸案事項の少なくとも一部を克服するための試みを提供するために、材料、特に形状記憶材料を加工又は処理する改良された方法と装置が求められている。
【0016】
本明細書におけるある態様では、材料の所定部分に制御された方法でエネルギを印加して、前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するステップを備える材料の処理方法が提供される。
【0017】
制御された方法でのエネルギの印加では、前記材料の一部分のみを処理し他の部分は一般に影響を受けないようにでき、前記局所的な化学的性質および構造のより複雑な調整も可能である。SMAの文脈では、これによって、一般に所定の変態点を有する材料の所定位置に、記憶あるいは付加的な記憶を配置できる。ある場合には、前記所定部分は前記材料のすべてを含んでもよいことは理解されるであろう。
【0018】
特定の場合では、前記エネルギを印加するステップは、前記所定部分をレーザで加工するステップを備える。この場合、前記の方法は、前記所定の結果を得るために、レーザに対する電力、ビームサイズおよび移動速度を選択するステップと、前記所定部分のサブセット上に前記レーザの焦点を合わせるステップと、前記レーザからのビームが前記所定部分のすべてに当たるように前記レーザと前記材料の空間的関係を調節するステップと、を備えていてもよい。ある場合には、エネルギの印加を制御するために、前記レーザをパルス操作してより短いエネルギ爆発を提供してもよい。
【0019】
上記のように、一般に、印加されるエネルギを制御して材料の所定部分外への伝導を低減する。
【0020】
種々の特定の場合では、前記所定のあるいは所望の結果は、前記材料の所望の利用/用途と前記材料特性に応じて変わってもよい。
【0021】
例えば、前記材料が形状記憶材料の場合には、前記所定の結果は、前記形状記憶材料の所定部分に付加的な記憶を提供する(すなわち、前記材料の残りの変態点とは異なる変態点を前記所定部分に提供する)か、あるいは、前記形状記憶材料の擬弾性特性を変えて付加的な擬弾性領域を提供することであってもよい。
【0022】
必ずしも形状記憶材料に限定されない他の例では、他の結果が意図されてもよい。
【0023】
例えば、前記所定部分は、前記材料の表面または表面層であってもよく、前記所定の結果は、前記表面または表面層の成分濃度を調節して前記材料の表面に酸化被膜を形成し、耐食性を提供することであってもよい。前記表面層の深さは、材料特性、エネルギ印加方法、前記材料の目的とする利用などに依存することは理解されるであろう。
【0024】
別の例では、前記所定の結果は、前記材料から汚染物質を除去することであってもよい。
【0025】
さらに別の例では、前記所定の結果は、前記材料中に少なくとも1つの付加的な相粒子を生成することであってもよい。付加的な相に粒子を形成することによって、粒成長のための核形成サイトが提供され、これによって次に前記材料を強化できる。
【0026】
ある場合には、前記材料の前記所定部分の冷却を制御して所定の結果を得てもよい。例えば、前記所定部分を所定の速度で冷却して、前記所定部分の表面テクスチャを変えてもよい。
【0027】
更に別の場合では、前記方法は、前記エネルギ印加中に利用する充填材を添加するステップを備えていてもよい。この場合、前記材料の成分の添加量は、前記所定部分の組成(例えば、特定の成分の濃度など)を変えるものであってもよく、あるいは他の材料を添加して前記所定部分の局所的な化学的性質に違った方法で影響を及ぼしてもよい。
【0028】
さらに別の場合では、前記材料は2つの形状記憶材料片を含み、前記所定部分は、前記2つの片が結合する領域を含み、前記所定の結果は、前記2つの片の内の少なくとも1つの変態点とは異なる変態点を前記所定部分に与えることを含む。
【0029】
本明細書における別の態様では、少なくとも2つの変態点を含む形状記憶材料であって、少なくとも1つの変態点は、前記材料の形成後に加えられることを特徴とする形状記憶材料が提供される。特定の場合では、前記少なくとも2つの変態点の内の少なくとも1つは、前記の方法で形成される。
【0030】
本明細書における別の態様では、材料の所定部分にエネルギを印加するエネルギモジュールと、前記材料とエネルギモジュールを互いに関連させて位置決めする位置決めモジュールと、前記位置決めモジュールとエネルギモジュールを制御して、前記材料の前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するように前記材料を処理する加工モジュールと、を備える材料処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本明細書に記載の実施形態をより理解するために、また、それらの実施方法をより明確にするために、例示の目的のみで添付図を参照し、実施形態例とその詳細を説明する。
【図1】制御された方法で局所的な化学的性質を変える材料の加工方法を示す、ある実施形態のフローチャートである。
【図2】制御された方法で局所的な化学的性質を変える、ある実施形態による材料の加工装置のブロック図である。
【図3】図3Aは、伝導溶接を示す。図3Bは、キーホール溶接を示す。
【図4】図4Aおよび図4Bは、引張試験片の寸法を示す概略図である。
【図5】擬弾性NiTi合金の載荷−除荷曲線を示す。
【図6】図6Aおよび図6Bは、プロセスパラメータの最小溶接部幅への影響を示す。
【図7】異なるパルス周波数に対する代表的な引張曲線である。
【図8】異なるピーク電力入力に対する代表的な引張曲線である。
【図9】溶接サンプルにおける複数の水平域を示す図である。
【図10】第1および第2の曲線を示す。
【図11】図11Aおよび図11Bは、未溶接サンプルおよびレーザ溶接サンプルの繰り返し載荷を示す。
【図12】図12Aおよび図12Bは、垂直溶接軸および水平溶接軸に沿ったミクロ硬度跡を示す。
【図13】基材および溶接部材の示差走査熱量測定(DSC)を示す。
【図14】図14Aおよび図14Bは、基材のミクロ構造と融合境界のそれの光学顕微鏡写真を示す。
【図15】図15A〜図15Cは、0.6kW×10pps、0.6kW×1ppsおよび0.9kW×10ppsそれぞれでの、ベース金属と比較した溶接部頂部および底部のX線回折データ(XRD)を示す。
【図16】図16A〜図16Cは、複数の変態点を有するニチノールリボンの写真である。
【図17】図17Aおよび図17Bは、異なる変態点の2次元適用あるいは3次元適用を有するSMAの付加的形状を示す。
【図18】異なる変態点を形状記憶成分に印加した追加の例を示す。
【図19】複数の変態点を有する形状記憶金属材料片に対して予測される応力−歪み曲線を示す。
【図20】複数の変態点を有する形状記憶成分の応用実施例を示す。
【図21】複数の変態点を有する形状記憶成分の別の実例応用を示す。
【図22】図22Aおよび図22Bは、複数の変態点を有する形状記憶成分の別の実例応用を示す。
【図23】汚染物質を含むバルク材の横断面を示す。
【図24】加工後のニチノールのTi2Ni粒子を示す。
【図25】図25A〜図25Dは、一連のレーザパルスでの組成変化の効果を示す。
【図26】は第2の相転移を示す状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図面の簡略化と明確化のために、対応するまたは類似の成分あるいはステップには同じ参照番号を付す。また、本明細書に記載の例示的な実施形態の完全な理解のために多くの特定的な詳細が述べられるが、本明細書に記載の実施形態は、これらの特定的な詳細なしに実施できることは当業者には理解されるであろう。本発明の実施形態を曖昧にしないために、周知の方法、手順および成分を詳細には記載していない実例もある。また、この記載は、本明細書に記載の実施形態の範囲をいかなる意味でも限定するように解釈されるものではなく、単に、本明細書に記載の種々の実施形態の実施を記載するものとして解釈される。
【0033】
以下の議論はある程度、形状記憶合金(SMA)に焦点を当てているが、この原理、加工および装置は他の形状記憶材料にも同様に適用できることは理解されるであろう。また、興味ある結果として、形状記憶材料に関連して当初開発されたプロセスは、後述の金属を含む他の材料にもある程度応用できる。
【0034】
従来の形状記憶合金(SMA)はバッチ処理されて、単一の変態点を有するモノリスシートに作られている。この加工は、SMA内の均質な組成および構造の故に最適である。このように、この加工は、SMAが、ある「記憶された」形状のための単一の変態点を有することだけを可能とする。
【0035】
上述のように、複数の変態点を有するSMAの製造が試みられてきた。異なる変態点を有する2つのSMA(ニチノール)片の結合の可能性を検討するために、本出願人は、溶接法を用いてニチノールを試験した。特に、ニチノールの2つのモノリス片の溶接の可能性について検討するために、本出願人は、ニチノールのモノリスシート(ニチノールワークピース)の中心点に溶接レーザを照射する「ビードオンプレート」法を用いて試験した。このプロセスの間、エネルギを印加したため、温度が従来の溶接法で用いられたものを超える場合もあった。興味深いことには、レーザの効果により、ニチノールの対象領域はより高温で溶解するが、ニチノールの局所部分は十分に溶解する(すなわち、ニチノールは相変化する)ものの、溶融ニチノールの表面張力によりその場所に保持された。ある場合には、付加的な中間相転移(ニチノールのR−相など)が起こるが、該付加的な中間相は、さらに以下で議論する形状記憶効果において重要な役割を演じていないように思われた。
【0036】
レーザの局所照射の間、局所温度と分圧効果によって溶解が起こるが、それは材料またはその成分の沸騰と考えられる。その時点では予測できないが、以降の試験によって、ニチノールワークピースのレーザ処理部分は、処理された部分/領域の変態点の変化を示した。ニチノールの溶解とその後の凝固によって、ニチノールの局所的な化学的性質が変化するものと思われた。その結果、加工された領域は付加的な記憶を示すが、残りの未処理材料は依然として、当初の物性と記憶を示した。この予期しない進展によって、本明細書でより詳細に記載する処理の装置及び方法の背景が提供された。特に、該装置と方法によって、1つまたは複数の付加的な記憶をモノリスな形状記憶材シートに仕込みできる。理解されるように、付加的な記憶を有することによって、多くの用途に対する付加的な機能が可能となる。
【0037】
変態点の変化は、変態点がニチノールの局所的な構造と化学的性質に非常に影響を受けるためであると考えられる。溶解中の気化(関連する温度と分圧による)のために、以前のミクロ構造は、溶融金属がその後再凝固するまでの間、不安定になる。ニチノールの場合は特に、NiTiの当初の基材が典型的に均質構造であり、ニッケル(Niが50原子%超の場合)またはチタン(Tiが50原子%超の場合)のいずれかで飽和されている。この構造は通常、該合金をアニーリングし(500〜1200℃で)その後焼き入れしてNiTi構造を保持することによって得られる。特定の場合には、合金のアニーリングを約800℃で行ってもよい。さらに、圧延などの機械加工を行って、該ミクロ構造を改良し強度を上げてもよい。しかしながら、この構造を溶解し再凝固させる(例えば、さらに後述のようにレーザを用いて)と、1つまたは複数の成分が気化し、残りの飽和した成分は、その特定の化学的性質がリッチな凝固する最終液との凝固先端に沿うように押しやられる。その後、この局所領域は金属間化合物(すなわち、NiリッチなNi3Ti、Ni4Ti3、TiリッチなTi2Ni)になって安定する。組成がアンバランスな時にこの結果が生じ得るが、他のメカニズムも関与し得る。再凝固金属の全体の化学的性質は一般的に変わらない(マトリックスおよび金属間化合物を含めて)が、マトリックスの化学的性質は当初の基材とは異なっているであろう。従って、該局所領域のマトリックスの変態点は違っているであろう。興味深いことには、ある場合には、ピーク温度を十分に高く長く維持して、該局所領域がある程度の加工後熱処理(アニーリングなど)を経験するようにもでき、これには熱影響域が含まれてもよい。
【0038】
SMAの局所溶解は、アニーリングなどの合金/金属の熱処理における一部の低温度形成と対称的である。なぜなら、こうした低温プロセスでは、固相状態での内部構造や化学的性質に与える影響が溶液状態でのものより少ないためである。また、溶解プロセスは適切に行なえば、マルテンサイト状態のSMAの超弾性を変化させ得るが、その完全破壊は起こさない。またさらに、該プロセスは、基本成分からのSMA形成に用いられるプロセスとは対照的に、上述のように既存の材料で行える。
【0039】
この予期しない情報に基づいて、本明細書における出願人は、材料のある領域における局所的な化学的性質/構造を変えるために材料の加工/処理の方法と装置を開発し、所定の結果を得た。ある特定の結果とは、変更された特性、特にモノリス材料の異なるゾーンに複数の変態点を有するSMAやニチノールなどの形状記憶材料を提供することである。
【0040】
図1は、複数の変態点を有するニチノールのモノリスシートまたはワークピースの処理/形成方法100の実施例を示すフローチャートである。さらに後述のように、所望の結果を提供するために、局所的な化学的性質/構造を変える目的で多材料のプロセスに適用できることは理解されるであろう。
【0041】
プロセス100は、ニチノールのモノリスシートの投入で開始される。ニチノールのモノリスシートまたはワークピースを最初に加工して、特定の形状記憶を該モノリスシート110に付与してもよい。第1の形状記憶(および変態点)を付与するニチノールの加工は当分野で周知である。しかしながら、該形状記憶効果を発揮させるのに十分な組成を有する未加工の合金を加工してもよく、その場合には、プロセス100を用いて第1の記憶が仕込まれる。その後、レーザ処理される加工ステーションに処理されたニチノールワークピースを移動させる。
【0042】
該方法は、所望の変態点、化学組成あるいは所定の結果に基づいて、用いられる加工120のプロセスパラメータを自動的に算出するプロセッサなどの使用を備えていてもよい。該算出あるいは表の調査などに用いられる、NiTiの化学的性質などの機能としての変態点を含む情報の種類の一例としては、例えば、Tang Wの、Thermodynamic Study of the Low−Temperature Phase B19’ and the Martensitic Transformation in Near−Equiatomic Ti−Ni Shape Memory Alloys,Metallurgical and Materials Transactions A,Volume28A,March,1997,pp.537−544などが挙げられる。本実施形態のこの態様は、計算機(プロセッサ)で実行されると、実行手順を形成する、物理メディア上のコンピュータで読み取り可能な命令で構成され得ることは理解されるであろう。
【0043】
その後、該ニチノールワークピースの局所的な化学的性質を変える領域をレーザ処理130し、この場合には、異なる変態点を提供する。ニチノールワークピースの必要領域のレーザ処理を保証するために、用途に応じてレーザを移動させてもよいこと、あるいは、ニチノールワークピースをレーザに対して移動させてもよいことは理解されるであろう。該レーザ処理130では、エネルギをニチノールの局所領域に印加して、溶解および気化を少なくとも一部生じさせる(該局所領域の温度と分圧に基づいて)。ニチノールなどのSMAに対する融点の範囲は、加熱プロセスで生じ得る該SMAの化学組成と化学変化に影響される。当分野で既知のように、気化速度も局所圧によって影響される。ニチノールに対しては、約1,000℃以上の温度に加熱後に、一部の効果が得られる。この温度範囲は、アニーリングなどの合金/金属の熱処理における一部の低温度形成と対称的である。なぜなら、これらのプロセスでは、固相状態での内部構造に与える影響が溶液状態でのものより少ないためである。さらに特定の場合では、該ニチノールを約1,250〜1,280℃に加熱してもよい。別の場合では、ニチノールは約1,300℃以上に、例えば約1,320〜1,340℃に加熱される。一般的に言えば、十分なレベルの溶解と気化を生じさせて局所的な化学的性質を変化させ、付加的な変態点などの所望の結果を提供するための温度が選択される。
【0044】
加熱のためのエネルギの印加は好適には局在化され、局所的な化学的性質の変化が局在化されて、該SMAシートの他の領域にはこの効果が不適に広がらないように構成される。多くの場合、エネルギを短期間印加するプロセスによって、局所的な化学的性質が明確に変化した、従って変態点の変化が局在化した領域または区間をより良好に定義し得る。このように、レーザ溶解は好適であるが、抵抗溶解またはプラズマ溶解などの他の加熱形態を用いてもよい。レーザ溶解の場合、通常、1msec以内という短い時間で適切な温度に達し、SMAの非常に急速な加熱と処理が行える。特定の場合では、0.5msecで適切な温度に達し得る。抵抗加熱またはプラズマ加熱であっても、熱印加時間は1秒以下と短くできる。
【0045】
レーザ加熱であっても他の加熱であっても、エネルギ印加プロセスは一般に、アルゴンやまたは同様の既知の生産ガスなどのシールドガスの存在下で行われるであろう。該成分や形状記憶材料は酸素と反応して不要な副生成物を作るために、シールドガスを用いる。
【0046】
処理された材料の冷却および再凝固は、エネルギ源を除去後直ちに起こるであろう。プロセスパラメータは、制御されたその場の冷却速度が提供できるように構成できる。ある場合には、ニチノールワークピースをさらに加工(140)し、例えば、より急速な冷却用のヒートシンク(すなわち、冷却装置または冷温ガスとしての銅ブロック)を用いて冷却や再凝固を制御してもよい。付加的な加工はさらに、以下の一実施例で述べるような熱処理あるいは特定の用途に対して準備される他の加工を備えていてもよい。
【0047】
図2は、局所的な化学的性質/構造の変化を生じさせるための、ある実施形態による材料の加工装置のブロック図である。この特定の実施形態では、該装置は、複数の変態点を有するSMAを形成するものである。該装置は、ニチノールワークピースを、処理前およびまたは処理中にニチノールワークピースの位置を調節する位置決めモジュール160に提供する供給モジュール150と、さらに加工するために前記ニチノールワークピースを移動させる除去モジュール170と、を備える。該装置は、前記位置決めモジュールに保持されたニチノールワークピースの適切な領域にエネルギを印加する加熱/溶解モジュール180を備えていてもよい。本明細書に記載するように、前記加熱/溶解モジュール180は、エネルギを印加するレーザまたは他の装置/材料を備えていてもよい。該装置は、前記加熱/溶解プロセス中の不要な反応を防止するシールドガスを提供するシールドガスモジュール190も含む。一部の実施形態では、該装置は、入力パラメータまたは入力パラメータに基づいて自動的に計算された値に基づいた、前記位置決めモジュール160と加熱/溶解モジュール180の制御に用いられる加工モジュール200を含んでいてもよい。入力パラメータは、実行される加工の種類または所望の結果に関連していてもよい。
【0048】
本明細書に記載の方法と装置は、1つまたは複数の加工ステーションで行われてもよく、また、別の加工ステーションとして記載されたものが適宜組み合わせられてもよいことは理解されるであろう。同様に、第1の成分が移されたと記載された場合は、代替となる成分が移されて前記第1の成分がその場所に残されてもよく、あるいは両方の成分が移されてもよい。例えば、前記レーザ、前記ニチノールワークピース、あるいはその両方が局所領域の処理を提供するために移されてもよい。本明細書に記載の装置及び方法は、NiMnGaなどの磁気形状記憶合金で有効となるように予想されることもまた注目されるべきである。
【0049】
レーザ処理によってニチノールの局所変態点を首尾よく変更する実験を行った。上記の通り、この効果は主に、各成分の蒸気圧の差によって生じる選択成分の気化に基づくものと考えられる。また、その後の溶解金属の再凝固の間に生じる分離によって、前記局所的な化学的性質をさらに変える。これらの結果は、再凝固部分の局所的な化学的性質に変化をもたらし、次に局所変態点と形状記憶効果とを変えて、単一のワークピースあるいは部分が複数の形状記憶効果を有することが可能になるものと考えられる。局所的な化学的性質の変化は、用いられるプロセスパラメータに応じて非常に僅かなものでものであり得る。
【0050】
ある実験では、ネオジム−ドープイットリウムアルミニウムガーネット(Nd:YAG)レーザを用いた。いくつかの主要パラメータを用いてパルスNd:YAGレーザ処理を制御する。これらのパラメータは、これに限定されないが、パルス幅、ピーク電力、周波数、レーザ移動速度(溶接速度とも呼ぶ)および焦点はずし距離などである。材料に受け渡されたエネルギ量を概念化するために、パルスエネルギと平均電力も用いられる。オペレータは、レーザ加工機のピーク電力、パルス幅および周波数を事前にセットする。ピーク電力はレーザパルスの瞬間的な電力であり、材料の温度上昇に影響を及ぼすことができる。十分な熱が存在して、該ワークピースの液化温度以上にピーク温度が上がると溶解が始まる。このプロセスは、伝導と対流による熱損失を克服するステップを含む。パルス幅は、各パルスがワークピースを照射する時間である。パルス幅が大きければ大きいほど、ピーク電力が印加される時間が長くなる。最後に、パルス周波数は、レーザが1秒間当たりにパルス化される回数であり、これを用いてパルスのオーバラップ量とワークピースに入力する熱量が制御できる。この実験では、パルスレーザを用いるが、これは必ずしも本明細書における要件ではない。
【0051】
レーザの移動速度と焦点はずし距離は、ワークピースの全体的な加工にも影響を及ぼし得るパラメータである。レーザ移動速度は、あるパルス周波数に対する各スポットサイズ上のオーバラップ量に影響する。しかしながら、パルス周波数とレーザ移動速度は、典型的には相互に関連して所望のスポットオーバラップが得られる。溶接の分野では、スポットオーバラップは典型的に、溶接部強度用途では約50%から変化し、溶接部を気密シールの形成に用いる用途では80%から変化する。
【0052】
図3Aは、伝導溶接と呼ばれる方法での材料加工を示し、図3Bは、レーザ加工中に生じるキーホール溶接モードを示す。伝導モード中のレーザビーム210からのレーザ強度は、単にワークピースの溶解に十分なものであってもよい。溶融池220は表面で発生し、伝導によって全ての方向に成長して半楕円形の溶接部および熱影響域230ができる。レーザエネルギは材料の頂面に吸収されるだけなので、伝熱量は材料の反射率によって実質的に低減される。
【0053】
キーホールモードは、表面のピーク温度が十分高くワークピース材料が気化するときに生じる。融解した溶融池250のキーホール凹部240は、気化圧で形成されてもよい。これによって、図3Bに示すように、深い突入と熱影響域260を有する狭小な溶接部が得られる。伝導溶接と比較して、キーホール溶接はワークピースへの伝熱を有してより効率的である。キーホールは、レーザエネルギを捕捉し、キーホール内の内部反射によって黒体として作用できる。
【0054】
この実験では、市販のSE508ニチノール片(厚み:0.37mm)を用いた。この特定の合金の化学的性質は、Niが55.8質量%、Tiが44.2質量%、酸素および炭素の最大含量がそれぞれ0.05質量%および0.02質量%であった。これの冷間圧延材を800℃×1時間加熱して、擬弾性特性を得た。フッ化水素酸と硝酸の希釈液を用いて、レーザ加工前に表面の黒い酸化物を除去した。
【0055】
スポット径400μm、パルス時間3msecでレーザ加工を行った。この実験では、最小基準として、十分な突入と気密シール状態(オーバラップ80%)が含まれていた。十分な突入の形成は、0.6kWのピークパルス電力で十分であると判断された。慣例的には、80%の溶解スポットオーバラップによって、気密シール状態が形成されることが示されている。下記の表1には、選択されたパラメータと、パルス周波数およびピーク電力を含む可変プロセスパラメータが示されている。パラメータは、周波数(f)、スポット径(ds)、レーザ移動速度(V)およびオーバラップパーセント(%OL)を含む種々のパラメータを相互に関連付けた式1を用いて選択した。
f=100V/(ds)(100−%OL) 〔1〕
【0056】
上記式から、パルス周波数とレーザ移動速度は直接に関連する(すなわち、パルス周波数が高ければ高いほど、溶接速度は速くなる)ことが示される。従って、レーザ移動速度(V)は、パルス周波数(T)と呼ばれることもある。
【表1】
【0057】
機械的な変形時のバリの影響を最小化するために、ワイヤ放電加工(EDM)切断を用いて引張試験片を準備した。溶接部金属とベース金属の両方の影響を調べるために、横溶接部の構成を選択した。図4Aは、ゲージ長に沿って十分な溶接部領域を有するように、サブゲージドサンプルが選択された寸法を有する試験片の引張試験片270を示す概略図である。図4Bは、溶接部位置280を有する試験片を示す。ロードセル分解能が±3NのInstron型5548ミクロ引張試験機を用いて、試験を行った。試験はすべてほぼ室温(25℃)で行なった。第1の載荷サイクルを歪みが0.06mm/mmになるまで行い、次に、除荷サイクルを応力が7MPaに低下するまで行う繰り返し載荷を、クロスヘッド速度0.04mm/分で行った。母材試験片およびレーザ溶接試験片に対して、同じサイクルを50回(50サイクル)繰り返した。50サイクル終了後、クロスヘッド速度0.4mm/分で破断するまで試験片を引張った。
【0058】
擬弾性挙動を示す典型的なNiTiに対する載荷−除荷サイクルにおける応力−歪み曲線の概略図を図5に示す。擬弾性パラメータE1、E2および永久残留歪みがこの図で定義される。E1は、1つの完全なサイクルにおいて単位体積当たりに消失されるエネルギであり、E2は、載荷時に単位体積当たりに蓄積され、除荷中に解放時に利用可能なエネルギである。エネルギ蓄積効率(η)は、式2で表され得る。
η=E2/(E2+E1) 〔2〕
【0059】
金属組織学的手法を用いて溶接部の寸法を測定した。連続的に減少するグリットサイズを有するSiCペーパを用いて搭載サンプルを磨いた。1μmダイヤモンド用いてサンプルを研磨し、HNO3:14ml、HF:3mlおよびH2O:82mlを用いてエッチングした。図6Aおよび図6Bは、パルス周波数とピーク電力の最小溶接部幅への影響を示す。最小溶接部幅を図6Aに示す。図6Bに示すように、溶接電力が維持された状態でのパルス周波数の上昇に伴って、溶接部幅に対する名目変化が見られた。しかしながら、溶接電力が0.6kWから0.9kWに上昇するのに伴って、最小溶接部幅は260μmから460μmまで上昇した。
【0060】
未溶接試験片と溶接試験片について、パルス周波数と入力電力を種々変えた時の工学的応力−歪み曲線の比較を、それぞれ図7および図8に示す。ベース金属試験片では、形状記憶合金の典型的な擬弾性挙動が見られたが、それは、歪みが0.03mm/mm、応力が290MPa近傍の、線形的弾性歪み後の平坦領域(水平域)で示されている。歪みが0.12mm/mmを超えると、マルテンサイトの塑性変形が生じて荷重は歪み硬化によって上昇し、その後歪みが0.90mm/mm近傍で破断した。
【0061】
図7は、0.6kWレーザ溶接試験片では、パルス周波数の上昇(5pps、10ppsおよび15pps)と共に延性と強度が低下したことを示している。これは、十分な応力を印加して隣接のベース金属をマルテンサイトに転移する前の、溶接部帯の初期破壊によるものであった。しかしながら、0.6kWレーザ溶接での最小パルス周波数1ppsにおいて、延性と強度の僅かな上昇が見られた(図7)。該1pps溶接物では、ゲージ長に沿ってマルテンサイトの塑性変形を生じさせることができる歪みに達することもできた。パルス周波数を一定(10pps)にし、ピーク電力を0.6、0.7、0.8および0.9kWに変えた溶接条件での工学的応力−歪み曲線を図8に示す。0.6kW溶接を除いた他の条件(0.7、0.8および0.9kW)の各々では擬弾性領域を越えた。しかしながら、すべての溶接試験片の破断強度と延性は、ベース金属に対してそれぞれ70%と50%未満であった。溶接電力の上昇に伴う引張り強度の上昇は、溶接パラメータの効果であった。レーザ溶接したNiTi合金の破断歪みの低下は、凝固時の溶質の分離や溶接部金属中の粗粉と樹枝状構造を含むいくつかの要因によるものである。しかしながら、電流の結果からは、溶接パラメータが機械的特性に影響を与え得ること、具体的には、入力エネルギが大きくパルス周波数が低いほど、機械的性能が改善されることが示されている。
【0062】
図9は、未溶接試験片と溶接試験片とで溶接電力を変えた場合の、弾性変形から擬弾性変形開始までの応力−歪み線図を詳述するものである。多くの引張り試験片の引張り(オーステナイト→マルテンサイト)の間に、マルテンサイト(SIM)転移によって生じる応力によるNiTiの典型的な擬弾性挙動が見られた。しかしながら、溶接試験片において、ピーク溶接電力の上昇に伴ってより顕著となる初期降伏の兆候が結果から示された。これらの結果から、ベ−ス金属の通常の擬弾性挙動前の引張り時に、溶接部帯で非弾性変形が起こったことが示唆される。横溶接部引張り試験片では、載荷の間、ベース金属と溶接部金属の両方に応力が発生した。従って、初期降伏は溶接部領域に起因し、その後の擬弾性特性は残りの基材から起こり得る。
【0063】
初期降伏は、歪みが0.015mm/mm〜0.022mm/mmの間に溶接部金属で生じ、その後、付加的な引張りによって残りのゲージ長での転移が生じた。該SIM転移は、ベース金属(BM)の応力−歪み曲線を反映すると解釈される。図9では、溶接試験片における降伏が低応力で発生しており、転移が溶接部で生じたことがこれから示唆される。ピーク電力の上昇と共に拡大する降伏領域は、図6Bで見られるように、溶接部幅の上昇によるものであり得る。溶接電力の上昇に伴って最小溶接部幅が大きくなった。従って、ゲージ長内の溶接部領域が大きくなるほど、初期SIM転移が起こる。
【0064】
十分な付加的応力がある温度で加えられると、双晶マルテンサイト相の塑性変形による変形は不可逆になることは既知である。この非双晶化をさらに詳述するために、2−サイクル載荷試験を室温で行った。図10は、歪みが最高で0.06mm/mmとなる0.9kW×10ppsの溶接条件での第1の載荷曲線と第2の載荷曲線を示す。初期載荷の間、該降伏で示される溶接部金属の非双晶化が起こり、その後、基材のSIM転移が起こる。第2の載荷サイクルでは降伏は起こらず、これによって、溶接部金属内で不可逆的の非双晶化が起こっていることが示された。
【0065】
ニチノール変態点は、SIM転移に緊密に関連しており、加工経路と方法によって強く影響され得る。レーザ加工による再溶解によってベース金属の構造が変更され、ニチノールでは、樹枝状晶や粗粉の形成および粒界分離が起こり得る。また、レーザ処理によるニチノールの異常な室温相シフトも起こり得る。溶接部金属に対するこうした変更は、その変更された変態点によるものであり得る。変態点の変更をもたらすすべての要因を決定するには、溶接部金属のより詳細なミクロ構造分析が必要であると思われる。
【0066】
図11Aおよび図11Bに、サイクル回数(N)に伴うエネルギ蓄積効率(η)および永久残留歪みの変化を示す。0.06mm/mm歪み前に初期破壊が起こるため、5pps、10ppsおよび15pps×0.6kW電力でのレーザ溶接サンプルでは繰り返し載荷は行なわなかった。図11Aは、ベース金属と溶接部金属の両方に対する1〜5サイクル間の永久残留歪みの急激な上昇を示す。5サイクルを越えると、各材料は定常状態に達した。材料の除荷後に当初の形状を回復する能力は、永久残留歪みによって測定できる。最高0.06mm/mmまでの引張り時、すべての溶接試験片は、BMと比較して大きな永久残留歪みを示した。10サイクル後、ベース金属および溶接部金属での残留歪みの大きさは、それぞれ0.020%および0.026%であった。図11Bは、サイクル数(N)の関数としてのエネルギ蓄積効率(η)を示す。基材および溶接部材では共に、5サイクルまでにηが上昇した。溶接部材では、最初の5サイクルの間に効率がわずかに上昇した。20サイクルを超えると、効率は0.9%近傍で安定した。従って、溶接試験片では、ベース金属に比べて全体的な残留永久歪みが高く、最初の5サイクル時のエネルギ効率が僅かに高いことが示された。
【0067】
前述のように、溶接部金属では初期降伏が起こり、冷間加工された溶接部領域が得られた。従って、溶接試験片の永久残留歪みの上昇は、初期載荷後の永久SIM転移によるものであり得る。また、大きな入力電力で作られた試験片における永久残留歪みの僅かな上昇は、溶接部幅の上昇によるものであり得る。向上したη値は、冷間加工されたTiNi SMAによるものであり得ることが示された。従って、溶接部金属における初期サイクル時の効率の向上は、溶接部金属の初期サイクル後の、非弾性変形が生じる塑性変形によるものであり得る。
【0068】
各溶接試験片の引張り試験片の溶接部帯に破断が生じた。ベース金属の破壊表面には、延性破壊を示唆するくぼんだ表面が現れた。溶接条件が0.6kW×1ppsの破壊表面の引張り強度は最小であった。溶接部の指向性の樹枝状凝固構造を示す平滑な破壊表面が見られた。これは、破壊が樹枝状晶界面で伝播する粒内破壊であることを示す。対照的に、溶接条件が0.9kW×10ppsでは比較的粗い表面が現れた。詳しく観察すると、より微細なくぼんだ構造が露出していたが、これは、融合部樹枝状晶を貫く延性粒内破断であることを示唆している。これらの結果から、溶接条件を変えることによって、違った破断モードになり得ることが明らかであるが、しかしながら、この破断モード遷移を起こすメカニズムを決定するためには、溶接部ミクロ構造を詳述するさらなる研究が必要であることが示唆される。
【0069】
図12Aおよび図12Bは、溶接部横断面の硬度跡を示す。すべてのサンプルで、融合部の硬度はX軸に沿って低下した。溶接部中心線から離れ最終的にベース金属の溶接部中心線に収束するまでの間、硬度値は徐々に上昇する。ベース金属硬度値の範囲は370〜400Hvであった。溶接部硬度最小値は、0.6kW×10ppsの条件時に見られ、ほぼ250Hvであった。対照的に、0.6kW×1ppsおよび0.9kW×10pps溶接条件での溶接部硬度最小値は、ほぼ280Hvであった。先にアニーリングした材料の溶接部中心の硬度が低いことは、ほとんど歪みのないより大きな再結晶粒を生じ得る、溶接による再凝固によるものであり得る。しかしながら、軟化を生じた主要な理由は、室温でのより柔らかいマルテンサイトへの局所相変化によるものであり得る。
【0070】
図12Aに示した溶接部中心線:Y軸に沿った硬度値は、サンプル間で同じようなものであった。0.6kW×10ppsでの溶接部底部の硬度値は、溶接部表面と比較するとわずかに低かった。0.6kW×1pps溶接での硬度値は、縦方向のパターンと同様に、中心線全体に亘って拡散していた。しかしながら、0.9kW×10ppsでは、横方向で比較的一貫した硬度値を示した。
【0071】
図13は、基材と溶接部材での示差走査熱量曲線を示す。オーステナイト終了(Af)温度およびマルテンサイト開始(Ms)温度は共に室温より低く、それぞれ−8.61℃および−33.27℃であった。これは、室温相は主にオーステナイトであり、従って、引張り試験の間は擬弾性挙動が現れることを示している。溶接部材は基材と同様な熱イベントを示したが、一対の高温ピークも存在した。
【0072】
付加的なピークは、R−相転移中の冷間加工ニチロールまたは熟成ニチロールで典型的に見られる。しかしながら、マルテンサイト転移の中間のR−相転移の事例では、冷却の間、オーステナイトとマルテンサイト間に1つのピークが出来、本溶接部材では、その範囲外に2つの別個の転移ピークを示す。また、十分にアニーリングした基材では、概略室温までの焼き入れによる固溶体の保持により、R−相転移のいかなる存在も示さなかった。従って、これらの付加的なピークによって、低温転移(<室温)と高温転移(>室温)を含む複数の相転移の存在が示唆される。ピーク開始温度を表2に示す。
【表2】
【0073】
溶接部横断面の光学顕微鏡写真を撮影した。溶接部は、パルスNd:YAG処理時のそれぞれの熱サイクルの間に生成された典型的なバンド構造を示した。溶接部表面近傍に集中して現れた分離相の定義に、偏光の利用が役立った。パルシNd:YAG溶接処理の間、ワークピースの鉛直面に沿った冷却速度の可能な相違によって、頂面が最後まで凝固しない領域になり得る。これは次に、溶接部頂面近傍での金属間相形成を促進し得る。しかしながら、冷却速度勾配の存在およびその大きさを決定するためには、詳細な熱分析が必要である。
【0074】
ベース金属のミクロ構造と融合境界のそれとを、それぞれ図14Aおよび図14Bに示す。予想通りに、アニーリングプロセスによって、室温におけるオーステナイトNiTiであることがDSC結果から示された、より大きな粒子が生成した。図14Bは、再融解材と基材の界面に位置する、0.9kW×10pps溶接での代表的な融合境界ミクロ構造を示す。円柱状の樹枝状成長が融合境界近傍で見られた。狭小な熱影響域(HAZ)は、その小さな熱入力のために、パルスNd:YAG処理に固有のものであり、その結果として、HAZは図14Bでは定義できない。
【0075】
各溶接条件での融合部ミクロ構造も見られた。各条件ではそれぞれ、異なる量の連続的なサブミクロンレベルの分離が存在した。0.6kW×10pps溶接では、高濃度の連続的な粒子間分離が示された。対照的に、0.6kW×1pps溶接では、比較的低濃度の同様な分離が示された。しかしながら、0.9KW×10pps溶接では、断続的な第2の位相分布が見られた。融合部の分離相は、破断が開始あるいは伝播する優先部位として作用する。該異なる量の分離は、図7および図8に示した溶接部の機械的性能に相互に関連する。高濃度に分離した0.6kW×10pps溶接では、機械的性能が最も劣り、断続的に分離した0.9kW×10pps溶接では、比較的良好な性能を有することが示された。
【0076】
すべての条件でのベース金属、溶接部表面、溶接部底部に対してインデックスを付けたピークを示す室温XRDデータを図15A、図15B、および図15Cに示す。図13のBM DSCから予想されるように、ベース金属ピークは、オーステナイトの唯一の存在を明確に特定した。すべての溶接条件で、高濃度の分離相が存在する溶接部表面には、オーステナイト相とマルテンサイト相の両方の兆候が示された。各溶接部の底部は、異なる相タイプとその相対的な量を示した。0.6kW×10pps溶接部は単にオーステナイト相を示し、0.6kW×1pps溶接部はオーステナイトといくらかのマルテンサイト兆候を示した。しかしながら、0.9kW×10pps溶接部は、頂面と同様にオーステナイト相とマルテンサイト相の両方を示し、それによって、0.9kW×10ppsにおける硬度傾向がさらに裏付けられた。従って、溶接パラメータによって、溶接部それぞれの頂部および底部において違った相が生成されることがこれらの結果から示唆される。
【0077】
溶接サンプル内で見られた高温DSCピークは、XRD結果に見られたマルテンサイト相に関連し得る。表2に示したピーク開始温度から、この相のMs温度範囲は60〜67℃であることが示唆される。従って、溶接部金属中に見られたマルテンサイト相の化学的性質は、等原子比またはTiリッチな化学的性質に由来し得る。このことは次に、融合部の観察された分離相は、恐らく、Ti2Niが主に観察されるTiリッチな金属間化合物であることが暗示される。しかしながら、検出可能なXRD信号の生成に必要な粒子群が恐らくはなかったために、XRD分析では、これらの金属間化合物の存在を検出することはできなかった。従って、溶接部金属内のサブミクロンオーダの分離相を特定し特徴付けるためには、詳細なミクロ構造観察(TEMを含めて)が必要である。
【0078】
パルスNd:YAGレーザ処理したニチノールの機械的特性を実験によって調査した。異なるパラメータでの溶接強度、擬弾性特性および繰り返し載荷特性を基材と比較し、破断表面を分析した。また、硬度試験、DSCスキャン、金属組織学的検査およびXRD分析を用いて、選択した溶接条件を分析した。主要な観察結果は以下の通りであった。1)加工パラメータ(ピーク電力とパルス周波数)は、ミクロレーザ処理したNiTi合金の機械的特性(引張り強度および延性)に強く影響することが示された。ピーク電力が高いほどまたパルス周波数が低いほど、機械的性能が向上した。2)溶接試験片では、横引張り載荷中に初期降伏の兆候が見られた。降伏は、引張り変形時に溶接部領域で起こる非双晶化によるものであった(溶接部金属およびベース金属)。3)レーザ処理サンプルでは基材と比較して、永久残留歪みが大きく、初期の5サイクルの間のエネルギ蓄積効率がわずかに高かった。4)融合部DSCスキャンで、複数の相転移が見られた。これらの転移は、低温(室温未満)および高温(室温超)で起こった。5)ミクロ構造観察により、アニール処理した基材には大きなオーステナイト粒子が見られ、融合部境界では円柱状の樹枝状成長が存在した。0.6kW×10pps処理では、多量の分離が発生し、擬弾性領域前に破断した。対照的に、0.6kW×1pps溶接は、断続的な分離を示し、良好な機械的性能を示した。6)XRD結果から、溶接部金属は、すべての条件でその表面にオーステナイト相とマルテンサイト相の両方を含んでいた。しかしながら、溶接部底部では、溶接条件に依存して異なる量のマルテンサイト相が見られた。
【0079】
上記の実験ではパルスNd:YAGレーザを用いたが、他の局所的なエネルギ/熱源を用いても同様な結果が得られることは理解されるであろう。レーザの場合、パルスレーザに替えて連続波レーザを適用してもよい。これには、これに限定されないが、ダイオードレーザ、ファイバレーザおよび炭酸ガスレーザが含まれ得る。
【0080】
図16A、図16B、図16Cは、上記の実験の結果として、単一のニチノールリボンに仕込まれた2つの別個の記憶を示す。図16Aは、加熱により図16Bに示す第1の記憶形状に転移可能な「C」の変形形状を示し、さらに加熱して完全に転移させて、図16Cに示す最終の記憶形状が得られる。
【0081】
図17Aおよび図17Bは、複数の変態点の2次元構成(図17A)および3次元構成(図17B)への潜在的な適用を示す。これらの実施例では、異なる変態点域は、灰色の違った陰影で示す。これらの異なる変態点を利用することによって、種々の形状が得られることは理解されるであろう。特に、温度範囲は、所望のものと使用材料によって決定され、例えば、NiTiでは約−150〜150℃であり、他の合金ではそれより高いかあるいは低い。
【0082】
図18は、アクチュエータ装置300に対する異なる変態点の潜在的な適用を示す。この実施例では、3−アームアクチュエータ装置300の内、中央アーム310を処理して、外側のアーム320および330とは異なる変態点を持たせられる。これらの異なる変態点によって、アクチュエータ装置300を2段階作動で使用可能になる。上記の方法のさらなる実施形態では、局所的な構造や化学的性質を変えて中央アーム310に沿ってNi濃度勾配を形成し、これによって中央アーム310に沿って変態点勾配を設けるために、アクチュエータ装置300をさらに熱処理(アニーリングなど)してもよい。概略の実施例として、Ni濃度が51原子%になるようにまた第1の変態点を有するように、アクチュエータ装置300を最初に処理する場合、Ni濃度が49原子%になるようにまた第2の変態点を有するように、中央アームを処理してもよい。以降の熱処理によって、Ni原子を中央アームに拡散させて、中央アーム310に沿った濃度勾配と従って変態点勾配を設けることができ、スムーズな作動が提供できる。
【0083】
材料に付与された付加的な変態点は、開始パラメータとプロセスパラメータに依存することは理解されるであろう。そのため、開始パラメータおよびプロセスパラメータ(例えば、必要となる局所加熱/溶解の範囲)は、変態点を調整するために変更できる。利用可能な変態点は、医療機器などに使用されるものに限定されず、使用される形状記憶材料の特性によってのみ限定される。
【0084】
変態点や域/領域を細かく調整するために、付加的な技術も用いることができ、あるいは局所的な構造や化学的性質の変更を支援し得ると予想される。これには、レーザ再溶解、ミクロ−アーク再溶解、抵抗溶解などの、溶解を起こす種々の熱処理の利用が含まれ、個別でもあるいは一部組み合わせでも用いられる。特に、局所的な構造や化学的性質を調整するために材料に印加されるエネルギ源を調整できる。
【0085】
代替となる技術は、種々の組成を有し、次にレーザ処理の一部としての材料に配合される追加の材料、第2の材料、あるいは充填材などの利用や結合技術の利用などを含んでいてもよい。充填材としては、純ニッケル、純チタン、パラジウムおよびプラチナなどが挙げられる。
結合方法としては、固相拡散結合/ろう付け、レーザ溶接、アーク溶接、抵抗溶接などが挙げられる。ある場合には、エネルギを添加して(例えば、本明細書に記載のプロセスを用いて)、異なる変態点を有する形状記憶材料を互いに結合し、例えば、結合部位に第3の変態点を有するモノリスな形状記憶成分を生成することも期待される。
【0086】
局所的な化学的性質を変えて、複数の変態点(記憶)を形容記憶材料に提供する別の態様は、これによって、該材料が複数の擬弾性領域を反映する応力−歪み曲線を有することである。図19は、長さ方向に複数の変態点を有する形状記憶材料片に期待される応力−歪み曲線のタイプを示す。図示のように、載荷曲線に対して、材料は、弾性変形の後に擬弾性変形の水平域が続く、複数のシーケンスを示すものと期待される。除荷曲線は同様に影響されるものと期待される。
【0087】
当業者であれば、本明細書に記載のプロセスおよび装置は、適切に改質された他のSMAおよびSMPに適用できることは理解するであろう。例えば、SMPの場合、必要とされる温度範囲や時間(すなわち、パルス周波数など)が異なり、代替のエネルギ源あるいは技術を用いてSMPの局所領域の局所的な構造や化学的性質を調整し、同様な効果を提供してもよい。
【0088】
本明細書に記載の方法と装置は、種々の産業用途に適用でき、特定の用途に取り組むためにユニークな解決法を実行することができる。現在の用途の一例としては、SMAアクチュエータがある。現在のSMAアクチュエータでは典型的に、SMA材を当初の位置に引っ込めるためにバイアスを必要とする。該バイアスは一般に、従来のスプリングを用いて容易化されている。しかしながら、複数の変態点を有するSMAが使用されれば、バイアスの使用は削除され得る。
【0089】
複数の変態点を有する形状記憶材料は、対象物が違った温度で反応する必要がある用途およびまたは対象物の形状を徐々に調整する必要がある用途などの、種々の用途に使用できる。特に、複数の変態点によって、特定の金属の唯一の開形状または閉形状ではなく、該対象物に加えられる温度に基づいて徐々に開放または閉鎖されるような用途が可能になる。そうした用途としては、フラッパ弁などのバルブ、医療用途または産業用途のダイヤフラム、温度センサまたは複数の変態点を有するモノリスアクチュエータセンサ、マイクログリッパ、ステントおよび微小電子機械システム(MEMS)などが挙げられる。ある特定の実施例として、複数の変態点によって、加熱により延長できてその後接続可能なチューブ構造が可能になるであろう。別のチューブ部材に接続するために、該チューブの一端を大きくし、次に加熱して小さな記憶形状に収縮させることが可能であろう。
【0090】
さらに、本方法と装置によって、付加的な変態点を加えるためのプレハブ式の市販部分の加工が可能となり、これによって、全く新規の部品を製作しなければならないテープ成形やLENSなどの技術と比較すると、製作コストを低減できる。さらに、本プロセスではチタン成分が不要なため、チタン酸化も回避できる。さらに、最終製品は一般的に多孔性がなく、変態点が一つのモノリス形状記憶材と本質的に同等の機械的性能を有する。さらに、製品重量を軽くすることもでき得る。
【0091】
図20は、複数の変態点を有する形状記憶材の応用実施例を示す。図20は、種々の用途に使用可能なあるタイプのダイヤフラムを示す。この実施例において、中央領域400は、室温より高く、支持フレーム410とは異なる変態点を有する。これによって、中央領域400は室温で、ダイヤフラム形状を形成する支持フレーム410とは別に変形することができる。支持フレーム410は非弾性状態でありながら、中央領域400を弾性状態あるいは擬弾性状態とすることを可能にするために、複数の変態点がこの状況では重要である。
【0092】
図21、図22Aおよび図22Bは、複数の変態点を有する形状記憶材の産業用途における他の実施例を示す。この場合、該用途はバルブである。図21は、入口または出口の端部に搭載され、異なる2(以上)レベルでの流路の開口に該複数の変態点が使用可能な第1の実施例のバルブを示す。より具体的には、該バルブは、複数の記憶が仕込まれたフラッパアームを備えている。該フラッパアームは一端に確保されており、他端は、液流路を被覆するように配置されている。該フラッパアームは第1の位置で、すべてあるいは大部分の液が液流路を流れないように制限する。このフラッパアームは、形状を変えることによってこれらの複数の記憶に応答し、ある温度での所望の応答に応じて、多くのあるいは少量の液を流すことができる。このフラッパアーム配置を熱交換に用いて、液温に基づいて液制御を調節してもよい。
【0093】
図22Aおよび図22Bは、ドーム状に形成され、該ドーム部分は、開くとバルブ内の種々の方向に流れるように形成されたバルブの実施例である。該ドーム部分は、典型的には異なった変態点で形成されるが、これは要求される流れパターン/流路に依存してもよい。該ドームは、摩擦(すなわち、プレート間あるいはチューブなどの内に挟まれて)、結合、留め具などを含む種々の方法で、流路内に搭載されることは理解されるであろう。バルブは、産業全体で多くの用途で利用される。ある具体的な実施例としては、自動車産業においてエンジン冷却液の流れを変えるバルブの利用がある。例えば、エンジンが始動すると、エンジンが十分高温になって冷却が必要になるまで、エンジン冷却液は熱交換器内を流れてはならない。そのために、温度作動性のバルブは、エンジン冷却液の流れ変換に非常に便利であり得る。
【0094】
本明細書に記載のプロセスと装置に関する進行中の研究において、その他の態様も明らかになってきた。例えば、処理される材料の組成の局所的変化によって、耐食性が向上することも期待される。強固な酸化被膜は耐食性の達成において重要であり、酸化物安定化成分が存在するときに、強固な酸化被膜が得られる。NiTiの場合には、チタンリッチな合金ほど酸化に対して高い親和性を有するが、しかしながら、過剰なニッケルの存在下では、酸化被膜を形成しそうにない。例えば、TiO2(あるいはNiTi2O4であっても)酸化物は、十分なチタンが存在する場合に出来るが、典型的なNiTi系では、近等原子比組成物は、室温アーステナイト相の擬弾性特性を利用するためにはわずかにNiリッチであることが多い。さらに、この擬弾性は、医療機器用途で開発された主要な機能特性である。その結果、Niリッチなニチノールの腐食特性について理解を進展させる研究が現在進められている。
【0095】
本明細書に記載の形状記憶材料プロセスは、その化学組成を局所的に改質するので、これによって局所耐食性特性も変化させ得る。より具体的には、ニチノールワークピース表面でのNi濃度の低下(従ってTi濃度は上昇)によって、より強固な酸化被膜と向上した耐食性が形成される。耐食性のために形状記憶材料プロセスを適用する利点の一部としては、これに限定されないが、下記のものがある。1)表面のみを改質して向上した腐食性能を得るので、バルク材の特性は同じままにできる。例えば、NiリッチなNiTiの表面がTiリッチ合金と同様な特性を示しながら、該NiTiの擬弾性特性を保持できる。2)ワークピースの選択した場所を処理できる。例えば、他の成分との流電結合が成形でき得る場合、加工を行って抵抗界面を作ることができる。3)レーザパルス周波数と処理時間を調整することによって、突入深さを正確に制御でき、コーティング技術と比較して、はるかに強固な保護皮膜を形成できる可能性がある。突入深さは、レーザ出力密度に依存し得、それについては業界で進められている。深さ50mmの現在の技術でそれは達成可能である。それ以上および最低数十ミクロンの深さは実現できそうになくとも、ナノメートル範囲のより小さな最小値も可能であり得る。
【0096】
特に、蒸気圧がより高い成分は、上記の加工方法で気化させて除去でき、表面の他の成分の濃度を上昇させて、材料表面の局所的な化学的性質を調節できる。また、処理深さを調節して表面の酸化物レベルの厚みを調節することによって、当分野で既知のプロセスである電界研磨を用いてその光学的特性も操作し得る。NiTi材料の観点から記載したが、本プロセスは、その中に複数の成分が存在し、従って成分間の蒸気圧差が存在する他の材料にも適用し得ることは理解されるべきである。
【0097】
上記のように、加工中にピーク温度が融点を越え、冷却時に凝固が起こる。この際の凝固速度に基づいて表面形態が制御できる。表面テクスチャ(あるいは粗度も)としては、平滑さ(遅い冷却速度で達成)、波状(中間の冷却速度)、あるいは多孔性(急速な冷却速度のために取り込まれる)がある。さらに、種々の熱サイクルの相互作用によって表面形態をさらに改良して、所望のテクスチャを得ることができる。これに関連した利点の一部としては下記のものがある。1)局所化された加工では、所望の領域だけを処理することができる。さらに、単一の成分中に、複数の表面テクスチャあるいは表面テクスチャ勾配さえも仕込める。2)変更された表面テクスチャと他のプロセス結果(すなわち、耐食性、形状記憶)とを組み合わせると、該局所領域をさらに調整することができ、例えば、表面は、多孔性に加えて、より柔らかくより耐食性になるであろう。3)加工深さは、バルク材に対する影響を最小にしながら、比較的正確に(推測では、数十ミクロン〜cmの範囲で)制御できる。これらの改質による利点の1つは、医療機器用途における骨あるいは細胞成長用の改良表面であり得る。
【0098】
本明細書に記載のプロセスと装置の別の態様は、材料からの汚染物質の除去に関する。材料、特に合金の製造中、汚染物質が原料中に存在するか、あるいは材料中に進入し得る。例えば、NiTi合金は、炭素あるいは他の汚染物質を含み得る。また、ある場合には、この汚染物質によって、バルク材から成分を消費し全体の化学的比率を変化させ得る金属間化合物(例えばTiC)を生成し得る。こうして、汚染物によって、所望の変態点が得られ難くなり得る。さらに、機械的性能の低下(すなわち、応力上昇により経験する疲労)が起こり得る。ここに記載の加工装置と方法を用いることによって、汚染物質を首尾よく除去し、処理領域でより純粋な合金を得ることができる。該形状記憶材料プロセスを用いてNiTiに付加的な記憶を仕込んだ時に、この結果が見られた。図23は、処理領域の中心およびバルク材端部の横断面を示す。この実施例において、バルク材中の黒点は、TiCまたは他の汚染物質と考えられる。図23に示すように、加工後、この汚染物質は削減あるいは除去される。この汚染物質はこのプロセスの間に蒸発し、より純粋な材料ができるものと考えられる。汚染物質が、図23に示すように除去されるにつれて、バルク材の体積はわずかな変化し得る。NiTi合金を実施例として用いたが、しかしながら、他の適切な材料に対して、本明細書における方法と装置を用いて同様な結果が得られることは再度理解されるべきである。
【0099】
耐食性処理と汚染物質除去の両方において、材料が処理され得る深さは一般的に、レーザに関連する電力および材料の化学的特性とその成分などに依存し得る。NiTiでは約50mmの深さまで処理できることが電流試験で示されたが、この深さは他の材料では違ってくる可能性があり、より強力なレーザが用いられ、あるいは利用可能になるとともに、上昇し得る。
【0100】
本明細書における方法と装置のさらに別の態様では、該プロセスを用いてある種類の材料の強化ができることが決定できた。特に、NiTi合金の場合には、本明細書におけるプロセスを用いてニッケルを除去した後に、第2相(Ti2Ni)の小粒子の形成が観察された。図24は、直径が約100〜150nmの一対の粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。図24には、マルテンサイト相双晶構造を有する基材も見れる。これらの第2相粒子によって、NiTi合金および他の形状記憶材料の特性は、多数の核形成サイトの生成によりさらに強化されると考えられる。特性の強化を支援すると考えられるメカニズムは少なくとも2つあり、それらを下記する。1)複合材料が複合する材料(または2相鋼であっても)を強化するのと酷似して、第2相粒子は、析出強化点として作用し得ること、および2)これらの第2相粒子は、凝固中に、粒子の核形成を促進する接種材料として作用することができ、より微細な粒子構造が形成され得る(材料をより強くする)こと、である。
【0101】
より小さな粒子構造の証拠を図25A〜図25Dに示す。これらの図では、用いた腐食液が粒界を攻撃し、より暗い領域は、小粒子領域における粒界への優先的攻撃を示すことに留意する必要がある。また、印加したレーザパルス数の上昇と共に、除去されるニッケル量も上昇している。図25Aは最初のパルス後の状況を示し、粒径の顕著な変化は見られないが、2回目のパルス後(図25B)および3回目のパルス後(図25C)では、この構造には、益々微細な粒子構造が含まれ得る。10回のパルスサンプル(図25D)をより詳しく検査すると、Ti2Ni相が見られた。さらに、凝固中に行った急速冷却によって、粒子成長が阻止され得る。従って、第2相粒子の形成によって、処理領域に微細な粒子構造が促進され得る。用いたプロセスによって、質量変化もある程度起こり得るが、10質量%を超える可能性はない。多くの材料で、原子質量変化は2質量%を超える可能性はない。
【0102】
組成変化(例えば、よりTiリッチになる)のミクロ構造に与える効果は、図26に示すように、近原子比領域近傍の部分的なNi−Ti二元状態図を調べることによって予測できる。Coでラベル化された冷却経路が合金(約50.7原子%)の初期バルク組成を代表すると仮定すると、組成がチタンリッチになるにつれて、凝固範囲は、一致凝固が等原子比組成(C1)で得られるまで減少する。さらに、C1からC2へのNiの減少によって、凝固範囲は、共融転移が984℃で起こるまで急激に上昇する(0℃から約300℃に)。Ni含量がC2未満の組成は安定して、NiTiおよびTi2Niを含む二相構造または多相構造になる。形状記憶材料プロセスから経験される急速冷却によって、Ti2Ni核形成サイトが増加し、図26に見られるように、より微細な粒子が形成され得る。この結果は他の合金系にも起こり得るが、それはNiTiに限定されるものではないことは再度理解されるべきである。
【0103】
本明細書における装置と方法の実施形態を適用するに当たって、種々の組み合わせが用いられ得ることは理解されるであろう。記憶を追加するために、あるいは材料表面を処理するためなどで、該材料の所定部分を処理することが適切であり得る場合もあり、例えば、材料から汚染物質を除去する場合に、該材料のすべてを含む所定部分を処理することが適切であり得る場合もある。さらに、本明細書における実施形態を用いて、単一の材料の処理、あるいは1つまたは複数の材料を、その結合部位の局所的な化学的性質を制御しながら結合してもよい。
【0104】
上記のように、マルチメモリ形状記憶合金、特に、本明細書におけるプロセスを用いて作られたものは、向上した機能性を既存のデバイスに提供する用途や、ある場合には、従来の技術では不可能なデバイスの開発を可能にする用途などを含む様々な分野における用途を有し得る。いくつかの実施例を提供するために、マルチメモリ形状記憶材料技術から便益を得られる現在のデバイスには、これに限定されないが、下記のものが含まれる。1)ダイヤフラム:形状記憶材料に仕込まれ得る複数の別個の記憶を利用して、今や、多段ダイヤフラムが構築され得る。ダイヤフラムは、例えば航空宇宙用途で使用され得る。2)アクチュエータ:モノリスなアクチュエータは、共にマルチメモリ形状記憶材料技術を用いてモノリスなニチノールデバイスに付与可能な形状記憶特性と擬弾性特性を利用し得る。MEMS用途では、これらのアクチュエータが求められている。3)自動車テンショナ:自動車テンショナは、タイミングベルトの張力を動的に変えて、エンジンの温度上昇に伴う滑りや電力損失を防ぎ得る。この用途によって、クランクシャフトとカムシャフトが広い温度範囲で正確に計時されることが保証されるであろう。4)バルブ:上記で説明した温度条件に準拠して、液流を正確に制御できる多段バルブ。5)多段ステント:医療用の多段ステントも設計可能である。これによって向上した機能性が提供され、ある場合には、ステントの拡張が、恐らく超音波加熱などにより遠隔でも制御し得る。多段ステントについては、形状記憶効果を引き起こすために、形状記憶合金における冷却と加熱間の周知のヒステリシス関係が利用され得ることが想定される。例えば、形状記憶合金は、NiTiの場合には50℃までであり得る、加熱変態点と冷却変態点間のオフセットを有することが多い。埋め込み可能なステントの場合、操作環境は体温(すなわち37℃)に近い。従って、外部エネルギ源を用いてわずかに体温以上(すなわち39℃)に遠隔的に加熱することによって、徐々に開く多段ステントを作ることができる。この熱は、患者を傷つけないように一時的に印加されるであろう。熱を取り除くと、温度が実質的に低下(NiTiで10〜50℃)しない限りステントは閉じない。そのように温度が低下する場合は、温度変化は患者にとっては致命的であろう。同様に、磁性SMAを用いる場合、付与された複数の記憶および同様の結果を得るために印加された磁界により、ステントを実現し得る。
【0105】
前述のデバイス類は、本明細書に記載の方法と装置を利用し得ると想定される用途タイプの単なるサンプリングである。
【0106】
当業者には理解されるように、本明細書に記載あるいは図示した実施形態例に、種々の変更が可能であることは理解されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の所定部分に制御された方法でエネルギを印加して、前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するステップを備えることを特徴とする材料の処理方法。
【請求項2】
前記エネルギを印加するステップは、前記所定部分をレーザで加工するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定部分をレーザで加工する前記ステップは、前記所定の結果を得るために、前記レーザに対する電力、ビームサイズおよび移動速度を選択するステップと、前記所定部分のサブセット上に前記レーザの焦点を合わせるステップと、前記レーザからのビームが前記所定部分のすべてに当たるように前記レーザと前記材料の空間的関係を調節するステップと、を備えることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザをパルス操作してより短いエネルギ爆発を提供して、前記エネルギの印加を制御することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記印加されるエネルギを制御して前記材料の前記所定部分外への伝導を低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記材料は形状記憶材料であり、前記所定の結果は、前記形状記憶材料の前記所定部分に付加的な記憶を提供することであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記所定部分は前記材料の表面であり、前記所定の結果は、前記材料の成分濃度を調節して前記材料の表面上に酸化被膜を形成し、耐食性を提供することであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の結果は、前記材料から汚染物質を除去することであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記材料は形状記憶材料であり、前記所定の結果は、前記形状記憶材料の擬弾性特性を変えることであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記所定の結果は、前記材料中に少なくとも1つの付加的な相粒子を生成し、粒子成長用の核形成サイトを提供することであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記所定部分を所定の速度で冷却して前記所定部分の表面テクスチャを変えるステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記エネルギ印加中に利用する充填材を添加するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記材料は2つの形状記憶材料片を含み、前記所定部分は、前記2つの片が結合させる領域を含み、前記所定の結果は、前記片の内の少なくとも1つの変態点とは異なる変態点を前記所定部分に与えることであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも2つの変態点を含む形状記憶材料であって、少なくとも1つの変態点は、前記材料の形成後に加えられることを特徴とする形状記憶材料。
【請求項15】
前記少なくとも2つの変態点の内の少なくとも1つは、請求項1方法で形成されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
材料の所定部分にエネルギを印加するエネルギモジュールと、
前記材料とエネルギモジュールを互いに関連させて位置決めする位置決めモジュールと、
前記位置決めモジュールとエネルギモジュールを制御して、前記材料の前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するように前記材料を処理する加工モジュールと、
を備えることを特徴とする材料の処理装置。
【請求項17】
材料の所定部分に制御された方法でエネルギを印加して、前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて、前記材料は形状記憶材料であり、前記形状記憶材料の前記所定部分に付加的な記憶を提供するか、あるいは前記形状記憶材料の擬弾性特性を変えること、前記所定部分は前記材料の表面であり、前記材料の成分濃度を調節して前記材料の前記表面上に酸化被膜を形成し、耐食性を提供すること、前記材料から汚染物質を除去すること、および、前記材料中に少なくとも1つの付加的な相粒子を生成し、粒子成長用の核形成サイトを提供すること、の中から選択される少なくとも1つの結果を提供するステップを備えることを特徴とする材料の処理方法。
【請求項18】
前記所定部分を所定の速度で冷却して前記所定部分の表面テクスチャを変えるステップをさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項1】
材料の所定部分に制御された方法でエネルギを印加して、前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するステップを備えることを特徴とする材料の処理方法。
【請求項2】
前記エネルギを印加するステップは、前記所定部分をレーザで加工するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定部分をレーザで加工する前記ステップは、前記所定の結果を得るために、前記レーザに対する電力、ビームサイズおよび移動速度を選択するステップと、前記所定部分のサブセット上に前記レーザの焦点を合わせるステップと、前記レーザからのビームが前記所定部分のすべてに当たるように前記レーザと前記材料の空間的関係を調節するステップと、を備えることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザをパルス操作してより短いエネルギ爆発を提供して、前記エネルギの印加を制御することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記印加されるエネルギを制御して前記材料の前記所定部分外への伝導を低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記材料は形状記憶材料であり、前記所定の結果は、前記形状記憶材料の前記所定部分に付加的な記憶を提供することであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記所定部分は前記材料の表面であり、前記所定の結果は、前記材料の成分濃度を調節して前記材料の表面上に酸化被膜を形成し、耐食性を提供することであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の結果は、前記材料から汚染物質を除去することであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記材料は形状記憶材料であり、前記所定の結果は、前記形状記憶材料の擬弾性特性を変えることであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記所定の結果は、前記材料中に少なくとも1つの付加的な相粒子を生成し、粒子成長用の核形成サイトを提供することであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記所定部分を所定の速度で冷却して前記所定部分の表面テクスチャを変えるステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記エネルギ印加中に利用する充填材を添加するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記材料は2つの形状記憶材料片を含み、前記所定部分は、前記2つの片が結合させる領域を含み、前記所定の結果は、前記片の内の少なくとも1つの変態点とは異なる変態点を前記所定部分に与えることであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも2つの変態点を含む形状記憶材料であって、少なくとも1つの変態点は、前記材料の形成後に加えられることを特徴とする形状記憶材料。
【請求項15】
前記少なくとも2つの変態点の内の少なくとも1つは、請求項1方法で形成されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
材料の所定部分にエネルギを印加するエネルギモジュールと、
前記材料とエネルギモジュールを互いに関連させて位置決めする位置決めモジュールと、
前記位置決めモジュールとエネルギモジュールを制御して、前記材料の前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて所定の結果を提供するように前記材料を処理する加工モジュールと、
を備えることを特徴とする材料の処理装置。
【請求項17】
材料の所定部分に制御された方法でエネルギを印加して、前記所定部分の局所的な化学的性質を変えて、前記材料は形状記憶材料であり、前記形状記憶材料の前記所定部分に付加的な記憶を提供するか、あるいは前記形状記憶材料の擬弾性特性を変えること、前記所定部分は前記材料の表面であり、前記材料の成分濃度を調節して前記材料の前記表面上に酸化被膜を形成し、耐食性を提供すること、前記材料から汚染物質を除去すること、および、前記材料中に少なくとも1つの付加的な相粒子を生成し、粒子成長用の核形成サイトを提供すること、の中から選択される少なくとも1つの結果を提供するステップを備えることを特徴とする材料の処理方法。
【請求項18】
前記所定部分を所定の速度で冷却して前記所定部分の表面テクスチャを変えるステップをさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23】
【図24】
【図26】
【図14】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図23】
【図24】
【図26】
【図14】
【図25】
【公表番号】特表2013−500864(P2013−500864A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523172(P2012−523172)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001219
【国際公開番号】WO2011/014962
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(512031264)イノベーティブ プロセッシング テクノロジーズ インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001219
【国際公開番号】WO2011/014962
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(512031264)イノベーティブ プロセッシング テクノロジーズ インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
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