説明

往復圧縮機用のパッキン箱ケーシング

【課題】従来の圧縮機に対して圧縮機のパッキン箱パックの動作の信頼性および耐用年数を改善可能にする、往復圧縮機用、排他的ではないが具体的には、ポリエチレンポリマーおよびコポリマーを生成するハイパー圧縮機用のパッキン箱ケーシングを提供すること。
【解決手段】往復圧縮機のシリンダ(10)用のパッキン箱ケーシング(22)は、第1の外側ディスク(28)および第2の内側ディスク(30)を備え、第2の内側ディスク(30)は、外側ディスク(28)に対して同心であり、少なくとも1つのピストン(10)シーリング要素用のシートが内部に形成される。パッキン箱ケーシング(22)の少なくとも一部分は、パッキン箱ケーシング(22)の機械的特徴を改善するための、溶解ステップと、後続の塑性変形ステップと、最後の熱処理ステップとを含むプロセスによって準備される、高強度合金材料から作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排他的ではないが具体的には、エチレンポリマーおよびコポリマーを生成する高圧圧縮機(いわゆる「ハイパー圧縮機」)で用いられるように適合された、往復圧縮機用のパッキン箱ケーシングに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、圧縮機は、圧縮可能な(ガス状)流体の圧力を、機械動力を用いて上昇させる機械である。往復圧縮機では、流体は、各シリンダ中で往復駆動される1つまたは複数の可動式ピストンで圧縮される。圧縮する流体は、1つまたは複数の吸込みダクトを通してシリンダ中に吸引され、圧縮された流体は、1つまたは複数の送出ダクトを通してシリンダから排出される。往復圧縮機の1つまたは複数のピストンは通常、電動機、または駆動するクランクシャフトおよび本質的に周知のコネクティングロッド−クランク機構を介して内燃機関によって駆動される。
【0003】
例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)またはエチルビニルアセテート(EVA)を生成する、ポリマーおよびコポリマー生成システムで動作する往復圧縮機は、非常に大きい疲労ストレスを受ける。例えば、ポリマーおよびコポリマーを生成するハイパー圧縮機の第2段階では、ガス(ガス状エチレン)を圧縮して圧力を3500バール以上にすることができる。したがって、動作圧力および吸込みダクトと送出ダクトとの間の圧力変動が非常に大きいので、往復ハイパー圧縮機のシリンダは、高い疲労動作サイクルの疲労ストレスに対して抵抗するように作製しなければならない。
【0004】
一般に、往復圧縮機のシリンダは、シーリング要素をそれぞれ含むパッキン箱ケーシング組立体を備え、このケーシング組立体は、通常「パッキン箱パック」と呼ばれる。圧縮機の耐疲労性能を改善するには、各パッキン箱ケーシングはさらに、2つの同心のリングまたはディスク要素を備える。それら同心のリングまたはディスク要素は、ガスの圧力変動によってより大きいストレスを受ける内側ディスクを予め圧縮した状態にするために、締まり嵌めタイプの連結によって互いに組み付けられる。
【0005】
パッキン箱パックが、ハイパー圧縮機のシリンダの信頼性の高い動作に影響を及ぼす通常最も重要な構成要素であることが実験によって分かっている。実際に、この機械の通常の動作中に、パッキン箱ケーシングは、例えば、浸食および磨耗現象がその連結面に影響するので様々な形で破損し、疲労が原因で径方向および円周方向にひび割れが発生することがある。その結果、各圧縮機が破損すると、圧縮機は必要なメンテナンス作業を行うために停止しなければならず、これは、圧縮機のユーザにとって、使用する予備部品が高価であることおよびシステムの生産性が低下することによる経済的な損失を意味する。
【0006】
現在では、通常弱く合金化された合金製のハイパー圧縮機のパッキン箱ケーシング組立体の強度を向上させるために、様々な方法が用いられる。具体的には、パッキン箱ケーシングの磨耗現象を減らし、疲労動作耐用年数を長くするために、その内側ディスクは、オートフレッテージ、ショットピーニングおよび表面被覆法によって加工しなければならない。しかし、従来のパッキン箱ケーシングの材料の性質および前記パッキン箱ケーシングに加えられる負荷のタイプが原因で、上記で言及した疲労破壊の問題を十分に解決していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の主目的は、従来の圧縮機に対して圧縮機のパッキン箱パックの動作の信頼性および耐用年数を改善可能にする、往復圧縮機用、排他的ではないが具体的には、ポリエチレンポリマーおよびコポリマーを生成するハイパー圧縮機用のパッキン箱ケーシングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、請求項1で請求される往復圧縮機パッキン箱によって上記の目的を達成することができる。
【0009】
本発明のさらなる特徴を、この開示の組み込む部分を構成する従属請求項で説明する。
【0010】
本発明による往復圧縮機パッキン箱ケーシングのさらなる特徴および利点は、本明細書の以下で、添付の概略図面を参照して非限定的な例によって与えられた以下の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による1つまたは複数のパッキン箱ケーシングを使用できる往復ハイパー圧縮機シリンダの部分断面図である。
【図2】図1に示す往復ハイパー圧縮機のパッキン箱パックの断面図である。
【図3】本発明による往復圧縮機のパッキン箱ケーシングの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、往復圧縮機のシリンダ10、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)またはエチルビニルアセテート(EVA)コポリマーなど、エチレンポリマーおよびコポリマーを生成するために用いられる往復ハイパー圧縮機の第2段階のシリンダを部分断面図によって本明細書に概略的に示す。
【0013】
シリンダ10は、本質的に、図示していない圧縮機支持フレーム構造に連結するフランジ12と、ガスを圧縮する吸込みおよび送出バルブ16を収容するヘッド14とを備える。このガスは、パッキン箱パック中で往復駆動される円柱形のロッド、いわゆる「プランジャ」を備える特別なピストン18と、前記ヘッド14とパッキン箱パックとの間に配置されたスペーサ要素26とによって圧縮される。
【0014】
パッキン箱パックは、複数のパッキン箱ケーシング22を備える(図2)。そのパッキン箱パックの外側に、パッキン箱ケーシング22の外側で循環する冷却油を保持する構成要素20、いわゆる「シース」が設けられる。
【0015】
さらに、潤滑および冷却システムは、(本明細書で以下に説明する)シーリング要素とプランジャ18との間の摩擦を低減し、プランジャの摺動で生成する熱を除去するために、油供給ダクト24(図1)を通して潤滑油および冷却油をパッキン箱ケーシング22中に供給する。
【0016】
パッキン箱ケーシング22(図3)はそれぞれ、2つの同心のディスク、すなわち第1の外側ディスク28と、シーリング要素用のシート)がその中に形成された第2の内側ディスク30とを備える。それら2つの同心のディスク28および30は、締まり嵌めによって互いに組み付けられ、それにより圧縮機の通常の動作条件の下で圧縮により内側ディスク30に負荷をかける。したがって、そのためには、潤滑ダクトまたはろうそく24を通して前記シーリング要素を潤滑する潤滑油を供給する、1つまたは複数の軸方向の貫通孔32が内側ディスク30を通して形成される。
【0017】
本発明によれば、各パッキン箱ケーシング22の少なくとも内側ディスク30は、前記パッキン箱ケーシング22が非常に高い信頼性および疲労および磨耗強度の特徴を有するように適合された高強度合金材料から作製される。より具体的には、前記合金材料、典型的には鋼合金材料は、以下の化学組成を有する(値は材料の全重量に基づいた重量割合で表現されている)。
【0018】
【表1】

この材料は、最初に真空誘導溶解法(いわゆる「真空誘導溶解」すなわちVIM)、次に適切なアーク炉、すなわち制御された雰囲気または真空のボルタアーク溶解法で行われる再溶解法(いわゆる「真空アーク再溶解」すなわちVAR)によって生成され、それにより、存在する可能性のある不純物を最低限まで減少しながら、したがって破損強度が改善された合金材料を生成する。
【0019】
最終的に、機械的特徴を改善するために合金材料を一連の塑性変形サイクルにかけた後で、前記材料は、合金材料の硬度、靭性および強度の特徴を最大にするために、制御された雰囲気の炉で行われる周期的な熱(高温)処理によってさらに処理される。
【0020】
本発明によるパッキン箱ケーシング22は、それらが作られた特定の材料およびそれらが受ける冶金処理の結果、同じ使用条件で従来のパッキン箱ケーシングより信頼性係数が40%高いことが分かっている。
【0021】
本発明による往復圧縮機用のパッキン箱ケーシングは上記で言及した目的を達成していることも分かった。
【0022】
上記で開示した本発明の往復圧縮機用のパッキン箱ケーシングは、添付の特許請求の範囲で定義される同じ発明のアイデアおよび範囲内に全て包含される複数の改変および変更が可能であることが明らかなはずである。
【符号の説明】
【0023】
10 シリンダ
12 フランジ
14 ヘッド
16 吸込みおよび送出バルブ
18 ピストン
20 構成要素、シース
22 パッキン箱ケーシング
24 油供給ダクト
26 スペーサ要素
28 第1の外側ディスク
30 第2の内側ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復圧縮機シリンダ(10)用のパッキン箱ケーシング(22)において、第1の外側ディスク(28)および第2の内側ディスク(30)を備え、前記第2の内側ディスク(30)が、前記第1の外側ディスク(28)に対して同心であり、少なくとも1つのピストン(18)シーリング要素のためのシートを内部に含む、パッキン箱ケーシング(22)であって、
前記内側ディスク(30)または外側ディスク(28)の少なくとも一方が、それぞれ高強度合金材料の全重量に基づいた重量割合で示した合金元素、
炭素(0.13%〜0.17%)、
クロム(1.80%〜2.20%)、
ニッケル(9.50%〜10.50%)、
コバルト(13.50%〜14.50%)、
モリブデン(0.90%〜1.10%)
を含む前記合金材料から作製されることを特徴とする、パッキン箱ケーシング(22)。
【請求項2】
前記高強度合金材料が、それぞれ前記合金材料の全重量に基づいた重量割合で示した合金元素、
アルミニウム(0%〜0.015%)、
チタン(0%〜0.015%)、
マンガン(0%〜0.10%)、
ケイ素(0%〜0.10%)、
硫黄(0%〜0.005%)、
リン(0%〜0.008%)
をさらに含むことを特徴とする、請求項1記載のパッキン箱ケーシング(22)。
【請求項3】
前記高強度合金材料が、真空誘導溶解法および/または制御された雰囲気もしくは真空のボルタアーク溶解法によって生成されることを特徴とする、請求項1または2記載のパッキン箱ケーシング(22)。
【請求項4】
前記高強度合金材料が、その機械的特徴を改善するために塑性変形サイクルによって生成されることを特徴とする、請求項3記載のパッキン箱ケーシング(22)。
【請求項5】
前記高強度合金材料が、硬度、靭性および強度の特徴を最大にするために、制御された雰囲気の炉で行われる熱処理サイクルによって生成されることを特徴とする、請求項3または4記載のパッキン箱ケーシング(22)。
【請求項6】
前記2つの同心のディスク(28、30)が、締まり嵌めの連結によって組み付けられ、それにより前記内側ディスク(30)を圧縮よって張力をかけることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項記載のパッキン箱ケーシング(22)。
【請求項7】
前記内側ディスク(30)が、前記少なくとも1つのシーリング要素を潤滑する潤滑油のための1つまたは複数の軸方向の貫通孔(32)を備えることを特徴とする、請求項6記載のパッキン箱ケーシング(22)。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の1つまたは複数のパッキン箱ケーシング(22)を備える往復圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−75071(P2011−75071A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−229156(P2009−229156)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(500445479)ヌオーヴォ ピニォーネ ホールディング ソシエタ ペル アチオニ (34)
【氏名又は名称原語表記】Nuovo Pignone Holding S.p.A.
【Fターム(参考)】