説明

後加工式金属製補強部材埋め込み方法および補強部材埋め込み用超音波ホーン

【課題】 熱可塑性樹脂からなるワークに様々な寸法および形状の金属製補強部材を確実に埋め込むことができ、ワークの補強や補修作業等を短時間で行うことのできる後加工式金属製補強部材埋め込み方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂からなるワーク12に金属製の補強部材11を載置し、超音波ホーン5の振動を伝達させて振動する補強部材11とワーク12の表面との間に生じる摩擦熱でワーク12を早急に溶融させて補強部材12を埋め込む。金属製の補強部材に電極を設ける必要がなくワーク12の表面から不要な部材が突出することもないので、突出部の切断やヤスリがけ等の作業が不要となって、ワーク12の補強や補修作業等に必要とされる全体としての作業時間が短縮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂からなるワークに対する後加工によってワークの補強や補修等を可能とした後加工式金属製補強部材埋め込み方法と、この後加工式金属製補強部材埋め込み方法に適した補強部材埋め込み用超音波ホーンに関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の補強部材を利用してワークの補強を行う加工技術としては、補強部材を埋め込み式のコアとして樹脂成形品を製造するアウトサート成形が既に公知である。
【0003】
しかし、この成形技術はワークの製造過程で適用されるのみであり、既に製品として完成したワークに対しての補強や補修作業等に転用することはできない。
【0004】
また、熱可塑性樹脂からなるワークの補修に利用できる技術としては、非特許文献1に開示されるように、両端部を屈曲させて電極を形成した針金状の電熱ピンの電極部分をハンドピース状の専用工具にセットして通電することで発熱させ、その熱でワークを溶融させながら電熱ピンをワークに押し込んで埋め込むようにしたヒートリペアキットが提案されている。
【0005】
しかし、このものは両端部の電極部分を専用工具にセットして電熱ピンをワークに押し込む関係上、電熱ピンの埋め込み作業が完了した後で必ずワーク表面から電極部分が突出し、この部分をニッパーで切断したりヤスリがけする等して切除する必要があり、工作作業が煩雑となる弊害があった。
【0006】
また、電熱ピンの発熱に時間を要し、一回の埋め込み作業に時間を要する点で不都合があり、電熱ピンをセットする専用工具の仕様が一律に決まっているため、電熱ピンにおける電極部分の離間距離つまりピンの両端部間の長さが一義的に特定されてしまい、様々な寸法のピンを利用するといったことはできない。しかも、電熱ピンの両端部に位置する電極部分を押圧して電熱ピンをワーク内に埋め込む構成であるため、例えば、U字型あるいはコ字型等に屈曲させた道程の長い電熱ピンを使用すると、電熱ピンの中央部付近に十分な押圧力が作用しなくなって浮き上がりが生じる等して埋め込みに支障を生じるといった弊害も想定される。
【0007】
なお、超音波振動子で超音波ホーンを振動させて熱可塑性樹脂同士を溶着する超音波ハンドピース(超音波溶着装置)それ自体の構成や作用原理に関しては特許文献1等で公知であり、既に様々な分野で利用されている。
【0008】
【非特許文献1】HRK、“製品情報”、[online]、[平成17年12月20日検索]、インターネット<URL:http://www.air-asahi.com/prodcucts/pro2.html>
【特許文献1】特開2001−246670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、電極の切断やヤスリがけ等の煩雑な作業工程を排除し、熱可塑性樹脂からなるワークに様々な寸法および形状の金属製補強部材を確実に埋め込むことができ、ワークの補強や補修作業等を短時間で行うことのできる後加工式金属製補強部材埋め込み方法と、この後加工式金属製補強部材埋め込み方法に適した補強部材埋め込み用超音波ホーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の後加工式金属製補強部材埋め込み方法は、前記課題を達成するため、
熱可塑性樹脂からなるワークに金属製の補強部材を載置した後、超音波振動子で駆動される超音波ハンドピースに設けられた超音波ホーンの先端を前記補強部材に接触させて超音波ホーンの振動を前記補強部材に伝達し、前記ワークの表面と補強部材の表面との間に生じる摩擦熱で前記ワークの表面を溶融させながら、超音波ホーンの先端で前記補強部材をワークに押し込むことで前記ワーク内に前記補強部材を埋め込むことを特徴とした構成を有する。
【0011】
超音波ホーンの振動を伝達されて振動する金属製の補強部材とワークの表面との間に生じる摩擦熱でワークを溶融させるようにしているので、ワークを早急に溶融させて補強部材を埋め込むことができ、しかも、金属製の補強部材に電極を設ける必要がなくワークの表面から不要な部材が突出することもないので、突出部の切断やヤスリがけ等の作業が不要となって、ワークの補強や補修作業等に必要とされる全体としての作業時間が短縮される。
また、超音波ホーンの先端を補強部材の様々な箇所に接触させてワークの表面を溶融させることができるので、金属製補強部材の寸法が長い場合あるいは形状が異形であったり複雑な屈曲部を有する場合であっても、金属製補強部材の各箇所を順にワークに埋め込んでいくことで、様々な寸法および形状の金属製補強部材を浮き上がりなく確実にワークに埋め込むことができる。
【0012】
更に、補強部材の2以上の箇所に形成された凹凸部分の各々を、前記ワークに形成された断裂箇所の両側のワーク部分に位置させた状態で、前記と同様にして補強部材の埋め込み作業を行うようにしてもよい。
【0013】
ワーク上の断裂箇所を跨いで金属製の補強部材が埋め込まれ、しかも、断裂箇所の両側のワーク部分の各々に補強部材の凹凸部分が埋め込まれることになるので、断裂箇所に不用意な間隙が生じることがなくなり、特に、断裂したワークの補修作業等に好適である。
【0014】
本発明の補強部材埋め込み用超音波ホーンは専ら前述の後加工式金属製補強部材埋め込み方法を適用して熱可塑性樹脂からなるワークに金属製の補強部材を埋め込む際に利用される補強部材埋め込み用超音波ホーンであり、
その最先端部に、超音波ホーンの当接による補強部材の剪断を防止するに足る幅を有する当接面が形成されていることを特徴とした構成を有する。
【0015】
超音波ホーンの最先端部を鋭利な形状にすると補強部材の特定位置に強力な超音波振動が集中し、補強部材それ自体が剪断されてしまう恐れがあるが、この最先端部に補強部材の剪断を防止するに足る幅を有する当接面を形成して補強部材と超音波ホーンの当接面積を増大させることで補強部材の不用意な剪断を回避することができる。
また、補強部材と超音波ホーンの当接面積が増大することにより、超音波ホーンの振動が的確に補強部材に伝達されることになるので、金属製の補強部材とワークの表面との間に効果的に摩擦熱を発生させてワークを溶融させることができる。
【0016】
更に、この当接面に、補強部材の外周面の一部と凹凸嵌合する溝部を形成するようにしてもよい。
【0017】
補強部材の外周面の一部と凹凸嵌合する溝部を当接面に形成することで補強部材と超音波ホーンの当接面積を更に増長させることができるので、補強部材の不用意な剪断が確実に回避され、また、超音波ホーンの振動が更に的確に補強部材に伝達されることになるため、金属製の補強部材とワークの表面との間に効果的に摩擦熱を発生させてワークを溶融させることができる。
また、超音波ホーンの先端と補強部材との凹凸嵌合によって超音波ホーンの先端と補強部材とが簡易的に固定されるので、超音波ホーンの振動によって不用意に其の先端部が補強部材から外れるといった問題も解消され、作業効率が向上する。
【0018】
前記当接面を除く先端部を全体として楔形に形成し、この楔形の傾斜面に沿ってステップ状の階差面を連続的に形成するようにしてもよい。
【0019】
ステップ状の階差面を箆のように使用してワークの表面を整形することができるので、補強部材の埋め込みで使用した超音波ホーンを其のまま利用して補強部材の埋め込みで生じたワーク表面の凹凸を平らに均すことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の後加工式金属製補強部材埋め込み方法は、熱可塑性樹脂からなるワークに金属製の補強部材を載置し、超音波ホーンの振動を伝達させて振動する補強部材とワークの表面との間に生じる摩擦熱でワークを溶融させるようにしているので、ワークを早急に溶融させて補強部材を埋め込むことができる。
しかも、金属製の補強部材に電極を設ける必要がなくワークの表面から不要な部材が突出することもないので、突出部の切断やヤスリがけ等の作業が不要となって、ワークの補強や補修作業等に必要とされる全体としての作業時間が短縮される。
また、超音波ホーンの先端を補強部材の様々な箇所に接触させてワークの表面を溶融させることができるので、金属製補強部材の寸法が長い場合あるいは形状が異形であったり複雑な屈曲部を有する場合であっても、金属製補強部材の各箇所を順にワークに埋め込んでいくことで、様々な寸法および形状の金属製補強部材を浮き上がりなく確実にワークに埋め込むことができる。
【0021】
更に、補強部材の2以上の箇所に形成された凹凸部分の各々をワークの断裂箇所の両側に位置させた状態で補強部材を埋め込むことによって断裂箇所における間隙の発生を防止できるので、特に、断裂したワークの補修作業等に好適である。
【0022】
本発明の補強部材埋め込み用超音波ホーンは、その先端に補強部材の剪断を防止するに足る幅を有する当接面が形成されているので、補強部材それ自体を剪断することなく超音波ホーンの振動を的確に補強部材に伝達して金属製の補強部材とワークの表面との間に効果的に摩擦熱を発生させてワークを溶融させることができる。
【0023】
しかも、この当接面には補強部材の外周面の一部と凹凸嵌合する溝部を形成して超音波ホーンの先端と補強部材とを簡易的に固定するようにしたので、超音波ホーンの振動によって不用意に其の先端部が補強部材から外れるといった問題も解消され、作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態の幾つかについて図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1は本発明を適用した一実施形態の後加工式金属製補強部材埋め込み方法で使用する超音波ハンドピースの一例について簡略化して示した斜視図である。
【0026】
この超音波ハンドピース1は其の内部に超音波振動子(図示せず)を備え、ハンドピース本体2から突出した超音波ホーン3が前述の超音波振動子によって軸方向に往復駆動されるようになっている。
【0027】
超音波ホーン3はハンドピース本体2に対して着脱可能とされ、必要に応じて様々な形状の超音波ホーン3、例えば、カッティングエッジを有する切断用の超音波ホーン(図示せず)や補強部材埋め込み用超音波ホーン等がハンドピース本体2に選択的に取り付けられるようになっている。図1の例では超音波ホーン3の全体を差し替えて交換作業を行うようになっているが、超音波ホーン3の先端部のみを別部材で構成し、この先端部のみを差し替える構成であってもよい。
【0028】
コントローラ4はハンドピース本体2に内蔵された前述の超音波振動子をV/F変換方式(電圧/周波数変換方式)で駆動制御する。また、ハンドピース本体2にも超音波ホーンの動作をON/OFF制御するための手元スイッチ6が設けられている。
【0029】
超音波ハンドピース自体の構造や機能に関しては既に公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0030】
図1の超音波ホーン3と交換して取り付ける補強部材埋め込み用超音波ホーンの一例を図2に示す。
【0031】
この補強部材埋め込み用超音波ホーン5は、熱可塑性樹脂からなるワークに金属製の補強部材を載置してワークの表面を溶融させる際に利用されるもので、図2(a),図2(b),図2(c)に示されるように、全体として段付きの柱状体として形成され、その先端部には、図2(b)あるいは図2(c)に示されるように、この補強部材埋め込み用超音波ホーン5の当接による補強部材の剪断を防止するに足る幅Wを有する当接面7が形成されている。
補強部材の剪断を防止するに足る幅Wは、例えば、市販のゼムクリップを金属製の補強部材として使用し、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の振幅を10μmo−p前後、また、その振動周波数を40KHz前後とした場合において、概ね2mm前後である。但し、ここでいう幅の向きは、補強部材埋め込み用超音波ホーン5を補強部材に接触させる際に補強部材の長手方向と一致する向きである。
【0032】
そして、この当接面7には、更に、補強部材の外周面の一部と凹凸嵌合する複数の溝部8a,8b,8cが図2(a)あるいは図2(c)に示されるように並列して形成されている。
ここでは円形断面の針金からなる市販のゼムクリップを金属製の補強部材として使用することを前提としているので、溝部8a,8b,8cの形状は半円弧状の溝とすることが望ましいが、U字状の溝あるいは矩形状の溝等とすることも可能である。あるいは、市販される他の針金等を金属製の補強部材として使用することを考慮し、溝部8a,8b,8cの曲率半径に僅かな変化を持たせるようにしてもよい。円弧溝や矩形溝を混在させて並設することも可能である。
半円弧状の溝部8a,8b,8cの曲率半径は使用対象となる金属製の補強部材の半径と同程度にすることが望ましく、当接面7に補強部材の剪断を防止するに足る幅Wを持たせること、および、溝部8a,8b,8cの曲率半径を使用対象となる金属製の補強部材の半径に合わせることにより、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端と補強部材との間の接触面積が更に増大し、補強部材の不用意な剪断が確実に防止されると共に補強部材埋め込み用超音波ホーン5の振動を確実に補強部材に伝達することが可能となり、同時に、両者間の凹凸嵌合により、振動する補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端部が滑って不用意に補強部材から外れるといった不都合も解消される。
【0033】
溝部8a,8b,8cを形成した当接面7を除く補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端部9は、図2(b)に示される通り全体として楔形に形成され、この楔形の傾斜面に沿ってステップ状の階差面10が連続的に形成されている。
【0034】
この階差面10は、金属製の補強部材をワークに埋め込んだことでワークの表面に形成される凹凸部分を均等に均す際に利用されるものであり、連続する階差面10を省略して単純なテーパ形状に構成することも可能であるが、階差面10を設けることで、ワーク表面の整形に際して補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端部9が不用意にワーク面に喰い付く現象を抑制することができる。
【0035】
このように、ワークの表面を均すためのステップ状の階差面10を補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端部9に設けることで、超音波ホーンやハンドピース本体の交換作業を行うことなく補強部材の埋め込み作業と仕上げ工程であるワーク表面の均し作業を連続的に行うことが可能となる。
【0036】
次に、金属製の補強部材として市販のゼムクリップ等の針金を使用し、この針金をワークに埋め込むことによって断裂を生じた熱可塑性樹脂製のワーク、例えば、自動二輪車のカウリング,車両のパンパー,ポリコンテナ等の熱可塑性樹脂からなるワークの補修を行う場合を例にとって本実施形態の後加工式金属製補強部材埋め込み方法について具体的に説明する。
【0037】
ここでは断裂を生じたワークの補修作業を行うことを前提としているので、金属製の補強部材の2以上の箇所に凹凸部分を形成し、この凹凸部分の各々が、ワークに形成された断裂箇所の両側のワーク部分に位置するようにしてワーク上に補強部材を載置するようにする。
【0038】
針金を補強部材として使用する場合、針金それ自体には凹凸部分というものはないので、例えば、図3に示されるようにして針金11をジグザグ形状に屈曲させる等して、この針金11上に実質的な凹凸部分11a,11b,11c,11dを形成するようにする。
【0039】
そして、凹凸部分11a,11b,11c,11dを形成した針金11がワーク12の断裂箇所13と交差し、かつ、針金11の中央部を基準として片側の凹凸部分11a,11bが断裂箇所13の一側のワーク部分12a上に位置し、他側の凹凸部分11c,11dが断裂箇所13の他側のワーク部分12b上に位置するようにして、ワーク12上に針金11を載置する。
【0040】
この際、ワーク12の反りや断裂箇所13部分の欠損等のために断裂箇所13部分に隙間が生じているような場合には、断裂箇所13の一側のワーク部分12aと断裂箇所13の他側のワーク部分12bとを突き合わせた状態で粘着テープ等を貼着する等して両者を仮止めしておく。
【0041】
次いで、コントローラ4側で周波数や振幅等を設定した後、超音波ハンドピース1の手元スイッチ6を操作して補強部材埋め込み用超音波ホーン5の振動を開始させ、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端に位置する当接面7に形成された何れかの溝部、例えば、溝部8bを針金11上の任意位置で針金11の外周面に嵌合させるようにして接触させ、図4(a)に示すようにして、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の振動を針金11に伝達する。溝部8a,8b,8cの曲率半径に変化を持たせている場合は、これらの中から埋め込みの対象とする針金11の径に適したものを選択して使用するものとする。
【0042】
当接面7には補強部材埋め込み用超音波ホーン5の超音波振動による針金11の剪断を防止するに足る幅Wが与えられており、しかも、当接面7に形成された円弧状の溝部8bが図4(b)および図4(c)に示されるようにして針金11の外周部に凹凸嵌合することにより補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端と針金11との間の接触面積が更に増大するので、ホーン先端の超音波振動による針金11の不用意な剪断が確実に防止され、かつ、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の振動が確実に針金11に伝達される。
【0043】
また、この凹凸嵌合によって補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端が針金11に簡易的に固定されることになるので、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の振動により其の先端部が不用意に滑って針金11から外れるといった問題も解消される。
【0044】
補強部材埋め込み用超音波ホーン5の超音波振動を伝達された針金11がワーク12の表面で微小な振動を繰り返すことでワーク12の表面と針金11の表面との間に摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって針金11の周辺部のワーク12が溶融し、図5(a)に示されるように、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端からの押圧力を受ける針金11の部分が、溶融したワーク12の内部に徐々に押し込まれ、埋め込まれていく。
【0045】
図5(a)では針金11の埋め込み作業を開始した直後の状態を示しており、この段階ではワーク12の溶融が必ずしも十分ではないので、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端からの押圧力を直接的に受ける針金11の中央部のみがワーク12の表面に突入して其の両端部がワーク12の表面からの反力を受けて跳ね上がったような状態となっているが、ワーク12の溶融が進むに連れてワーク12の表面からの反力が減少して針金11の両端部がワーク12内に侵入し、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端からの押圧力を受けている箇所の周辺の針金11部分が全体としてワーク12に埋め込まれていく。
【0046】
図3の例のように針金11の全長が比較的長い場合においては補強部材埋め込み用超音波ホーン5の一回の押圧操作で針金11全体をワーク12に埋め込むことはできないので、針金11の描く経路に沿って所定間隔で前記と同様の埋め込み作業を繰り返し実行し、針金11の全体をワーク12に埋め込むようにする。
【0047】
このように、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端を針金11の様々な箇所に接触させてワーク12の表面を溶融させ、針金11の経路を幾つかの区間に分けて埋め込んでいくことができるため、補強部材となる針金11の寸法が長い場合あるいは其の全体形状が異形であったり複雑な屈曲部を有する場合であっても、針金11の各箇所を順にワーク12に埋め込んでいくことで、様々な寸法および形状の針金11を浮き上がりなく確実にワーク12に埋め込むことができる。
針金11の埋め込み作業と共に、補強部材埋め込み用超音波ホーン5の先端でワーク12上の断裂箇所を一旦溶融させ、ワーク部分12aとワーク部分12bを再溶着すると更によい。
【0048】
このようにして針金11をワーク12の内部に完全に埋め込んだ後の状態を図5(c)に示す。
【0049】
図5(c)に示されるように、ワーク12の断裂箇所13を跨いで針金11がワーク12に埋め込まれ、しかも、針金11の中央部を基準として片側の凹凸部分11a,11bが断裂箇所13の一側のワーク部分12aの内部に埋め込まれる一方、他側の凹凸部分11c,11dが断裂箇所13の他側のワーク部分12bの内部に埋め込まれることになる。ワーク12に断裂箇所13の間隙を広げる方向の引張力が作用した場合、凹凸部分11a,11b,11c,11dがアンダーカットとして機能し、針金11がワーク部分12aやワーク部分12bから断裂箇所13の方向に向けて引き抜かれるのを強力に拒むので、断裂箇所13に不用意な間隙が生じることがなくなり、特に、断裂したワークの補修作業等に好適である。
【0050】
針金11が引き抜かれるのを更に確実に防止したい場合には、例えば、針金11の外周部に荒めのサンディング処理を施す等して針金11の表面自体にも微小な凹凸を形成するようにするとよい。
【0051】
金属製の補強部材の他の幾つかの例について図6〜図8に簡単に示す。
【0052】
図6(a)に示される金属製の補強部材14は前記と同様にゼムクリップ等の針金を使用して形成されたもので、その全体が葛折状に屈曲されている。この補強部材14を使用する場合は葛折の直線部分が断裂部13と交差するようにしてワーク12上に載置し、前記と同様の処理手順で此の補強部材14をワーク12の内部に埋め込む。この場合、葛折の屈曲部14a,14b,14cが実質的な凹凸部分として機能し、図6(b)に示されるように、補強部材14の中央部を基準として片側の凹凸部分である屈曲部14bが断裂箇所13の一側のワーク部分12aの内部に埋め込まれる一方、他側の凹凸部分である屈曲部14a,14cが断裂箇所13の他側のワーク部分12bの内部に埋め込まれる。ワーク12に断裂箇所13の間隙を広げる方向の引張力が作用した場合、凹凸部分である屈曲部14a,14b,14cがアンダーカットとして機能し、補強部材14がワーク部分12aやワーク部分12bから断裂箇所13の方向に向けて引き抜かれるのを防止する。また、葛折の複数の直線部分が並列して断裂部13と交差するので、断裂箇所13に沿った剪断方向の力にも十分に対抗することができる。
【0053】
図7(a)に示される補強部材15は帯状の金属片の長手方向に沿って孔15a〜15eを穿設して全体をS字型に屈曲させて形成されたものである。この補強部材15を使用する場合は補強部材15を断裂部13と交差させてワーク12上に載置し、前記と同様の処理手順で此の補強部材15をワーク12の内部に埋め込む。補強部材埋め込み用超音波ホーン5の当接面7には補強部材15の幅方向の端部と嵌合する矩形状の溝を設けておくことが望ましい。この場合、S字を構成する2つのカーブ部分が実質的な凹凸部分として機能すると共に孔15a〜15eも実質的な凹凸部分として機能する。つまり、図7(b)に示されるように、補強部材15の中央部を基準として片側の凹凸部分であるカーブ15Aが断裂箇所13の一側のワーク部分12aの内部に埋め込まれると共にカーブ15A上に穿設された孔15a〜15cにワーク部分12aの溶融樹脂が侵入する一方、他側の凹凸部分であるカーブ15Bが断裂箇所13の他側のワーク部分12bの内部に埋め込まれると共にカーブ15B上に穿設された孔15d〜15fにワーク部分12bの溶融樹脂が侵入する。ワーク12に断裂箇所13の間隙を広げる方向の引張力が作用した場合、凹凸部分であるカーブ15A,15Bと孔15a〜15fに侵入した樹脂がアンダーカットとして機能し、補強部材15がワーク部分12aやワーク部分12bから断裂箇所13の方向に向けて引き抜かれるのを防止する。また、補強部材15の埋め込みが不完全な場合であっても、孔15a〜15fに侵入した樹脂がアンダーカットとなってワーク12の法線方向への補強部材15の抜け出しを防止するので、特に、振動が多い部分のワークの補修等に適する。
【0054】
図8(a)に示される補強部材16は大径部16aと小径部16bを交互に備えたピンによって形成されたものである。この補強部材16を使用する場合は補強部材16を断裂部13と交差させてワーク12上に載置し、前記と同様の処理手順で此の補強部材16をワーク12の内部に埋め込む。この場合、複数の大径部16aが凹凸部分として機能し、図8(b)に示されるように、補強部材16の中央部を基準として片側の凹凸部分である2つの大径部16aが断裂箇所13の一側のワーク部分12aの内部に埋め込まれる一方、他側の凹凸部分である2つの大径部16aが断裂箇所13の他側のワーク部分12bの内部に埋め込まれる。ワーク12に断裂箇所13の間隙を広げる方向の引張力が作用した場合、凹凸部分である大径部16aがアンダーカットとして機能し、補強部材16がワーク部分12aやワーク部分12bから断裂箇所13の方向に向けて引き抜かれるのを防止する。
【0055】
ここで、ポリプロピレンを試験片として補修作業を行った場合の引張試験の結果について図9(a),図9(b)を参照して簡単に説明する。
【0056】
試験片の形状は短冊型,厚みは4.00mm,幅は10.00mm,標点距離は50.00mmであり、無垢の試験片(A)と、中央部を幅方向に切断して超音波溶着のみによる補修作業を行った試験片(B)と、中央部を幅方向に切断し超音波ハンドピース1および補強部材埋め込み用超音波ホーン5を使用して市販のゼムクリップを図3のように屈曲させた針金11を試験片の片面に埋め込んだ試験片(C)を準備し、これらを同一条件下で引張試験機に取り付けて荷重を加えた場合の数値データを図表9(a)に、また、各試験片が完全に破断するまでの応力と引張歪との関係を図9(b)に示す。
【0057】
また、図10(a),図10(b)は、ABS樹脂を試験片として同様の補修作業を行った場合の引張試験の結果である。
【0058】
これらの結果から明らかなように、試験片となる熱可塑性樹脂の種別とは関わりなく、補強に使用する金属製の補強部材が同一のものであれば、実質的に同等な補強強度を得ることが可能であり、超音波振動によって金属製の補強部材の埋め込みが可能なワーク、即ち、熱可塑性樹脂のワークであれば、ワークの種別を問わず安定した補強性能を得ることが可能である。
【0059】
以上、一例として、市販のゼムクリップからなる針金11をワーク12に埋め込むことによって断裂を生じた熱可塑性樹脂製のワーク12の補修を行う場合について述べたが、図7や図8に示すような金属製の補強部材15,16をワーク12に埋め込むことによっても同等の作業が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】超音波ハンドピースの一例について簡略化して示した斜視図である。
【図2】超音波ハンドピースに取り付けられる補強部材埋め込み用超音波ホーンの一例を示した図で、図2(a)は正面図、図2(b)は側面図、図2(c)は下面図である。
【図3】針金を補強部材として使用して断裂を生じたワークの補修作業を行う場合の段取りを示した斜視図である。
【図4】針金を補強部材として使用して断裂を生じたワークの補修作業を行う場合の詳細について示した図で、図4(a)は補強部材埋め込み用超音波ホーンの先端周辺を示した斜視図、図4(b)は補強部材埋め込み用超音波ホーンの先端周辺を示した側面図、図4(c)は補強部材埋め込み用超音波ホーンの先端周辺を示した断面図である。
【図5】針金を補強部材として使用して断裂を生じたワークの補修作業を行う場合の詳細について示した図で、図5(a)は補強部材の埋め込みを開始した直後の状態、図5(b)は補強部材が埋め込まれた状態を示した側面図、図5(c)は補強部材が埋め込まれた状態を透視して示した斜視図である。
【図6】他の針金を補強部材として使用して断裂を生じたワークの補修作業を行う場合の詳細について示した図で、図6(a)は補強部材を載置した状態、図6(b)は補強部材が埋め込まれた状態を透視して示した斜視図である。
【図7】他の補強部材を使用して断裂を生じたワークの補修作業を行う場合の詳細について示した図で、図7(a)は補強部材を載置した状態、図7(b)は補強部材が埋め込まれた状態を透視して示した斜視図である。
【図8】更に他の補強部材を使用して断裂を生じたワークの補修作業を行う場合の詳細について示した図で、図8(a)は補強部材を載置した状態、図8(b)は補強部材が埋め込まれた状態を透視して示した斜視図である。
【図9】ポリプロピレンを試験片として補修作業を行った場合の引張試験を示した図で、図表9(a)は無垢の試験片(A)と、超音波溶着のみによる補修作業を行った試験片(B)と、屈曲した針金を試験片の片面に埋め込んだ試験片(C)を引張試験機に取り付けて荷重を加えた場合の数値データについて示し、また、図9(b)では各試験片が完全に破断するまでの応力と引張歪との関係について線図で示している。
【図10】ABS樹脂を試験片として補修作業を行った場合の引張試験を示した図で、図表10(a)は無垢の試験片(A)と、超音波溶着のみによる補修作業を行った試験片(B)と、屈曲した針金を試験片の片面に埋め込んだ試験片(C)を引張試験機に取り付けて荷重を加えた場合の数値データについて示し、また、図10(b)では各試験片が完全に破断するまでの応力と引張歪との関係について線図で示している。
【符号の説明】
【0061】
1 超音波ハンドピース
2 ハンドピース本体
3 超音波ホーン
4 コントローラ
5 補強部材埋め込み用超音波ホーン
6 手元スイッチ
7 当接面
8a,8b,8c 溝部
9 当接面を除く超音波ホーンの先端部
10 ステップ状の階差面
11 針金(金属製の補強部材)
11a,11b,11c,11d 実質的な凹凸部分
12 ワーク
12a 断裂箇所の一側のワーク部分
12b 断裂箇所の他側のワーク部分
13 断裂箇所
14 金属製の補強部材
14a,14b,14c 屈曲部(実質的な凹凸部分)
15 金属製の補強部材
15A,15B カーブ(実質的な凹凸部分)
15a〜15f 孔(実質的な凹凸部分)
16 金属製の補強部材
16a 大径部
16b 小径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるワークに金属製の補強部材を載置した後、超音波振動子で駆動される超音波ハンドピースに設けられた超音波ホーンの先端を前記補強部材に接触させて超音波ホーンの振動を前記補強部材に伝達し、前記ワークの表面と補強部材の表面との間に生じる摩擦熱で前記ワークの表面を溶融させながら、超音波ホーンの先端で前記補強部材をワークに押し込むことで前記ワーク内に前記補強部材を埋め込むことを特徴とした後加工式金属製補強部材埋め込み方法。
【請求項2】
前記補強部材の2以上の箇所に形成された凹凸部分の各々が、前記ワークに形成された断裂箇所の両側のワーク部分に位置するようにして前記補強部材をワーク上に載置することを特徴とした請求項1記載の後加工式金属製補強部材埋め込み方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の後加工式金属製補強部材埋め込み方法を適用して熱可塑性樹脂からなるワークに前記補強部材を埋め込む際に利用される補強部材埋め込み用超音波ホーンであって、
その最先端部に、超音波ホーンの当接による補強部材の剪断を防止するに足る幅を有する当接面が形成されていることを特徴とした補強部材埋め込み用超音波ホーン。
【請求項4】
前記当接面に、前記補強部材の外周面の一部と凹凸嵌合する溝部が形成されていることを特徴とした請求項3記載の補強部材埋め込み用超音波ホーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−182039(P2007−182039A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3062(P2006−3062)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【出願人】(391008537)ASTI株式会社 (73)
【Fターム(参考)】