説明

後施工アンカー工法

【課題】既設コンクリート構造物に対するアンカーの固着強度に優れ、アンカーの埋め込み深さを浅くすることができると同時に、使用するアンカーの小径化を図ることができる後施工アンカー工法を提供する。
【解決手段】既設コンクリート構造物11に底部を拡幅部15とした下孔13を穿設し、端部に大径の定着部27が設けられたアンカー筋28を前記下孔13内に挿入し、この下孔13内の前記アンカー筋28との空間を樹脂やモルタル等を使用した充填材26で埋める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設コンクリート構造物に新設部材を一体化するために用いるアンカーを、既設のコンクリート構造物に固着するための後施工アンカー工法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、構造物の耐震補強を行う場合、既設コンクリート構造物と新設部材の一体化を図るため、一般的には、既設コンクリート構造物に後施工でアンカーを埋設固定し、このアンカーを介して既設コンクリート構造物に新設部材を固定化するようにしている。
【0003】
従来の後施工アンカー工法としては、金属系アンカー工法と接着系アンカー工法に大別される。
【0004】
金属系アンカー工法は、図5(a)のように、既設コンクリート構造物1に所定深さの削孔2を穿設し、この削孔2内に、筒状のアンカー本体3と錐形の拡張栓4を組み合わせたアンカー金具5を打ち込み、拡張栓4でアンカー本体3の端部を拡形させることにより、既設コンクリート構造物1にアンカー金具5を固着し、その後、アンカー本体3にアンカー筋6を螺合連結するものである。
【0005】
また、接着系アンカー工法は、図5(b)のように、既設コンクリート構造物1に所定深さの削孔2を穿設し、この削孔2内にアンカー筋6を挿入し、削孔2内の前記アンカー筋6との間に生じた空間に接着剤7を充填して埋め、接着剤7の硬化によりアンカー筋6を既設コンクリート構造物1に固着するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した金属系アンカー工法や接着系アンカー工法は、所要の耐力を確保するためには、その削孔深さが深くなり、かつ、その径も太くなる。そのため、鉄骨鉄筋コンクリート構造では、アンカーの設置場所の条件によって鉄骨にアンカーがぶつかるような事態が発生し、アンカー筋6を設置することができないこともある。
【0007】
また、大きな引張り荷重に対しては、既設コンクリート構造物に貫通孔を設け、既設コンクリート構造物の一面側からこの貫通孔に挿通したアンカーを他面側で締結することも行われているが、既設コンクリート構造物を貫通させる工法は内部工事を伴うことになり、施工が煩雑でコスト高となる。
【0008】
上記したような既設コンクリート構造物に埋設したアンカー筋6に引き抜き力が作用した場合、既設コンクリート構造物1におけるコーン破断面aはアンカー筋6の下端部を基点に円錐形となって発生し、既設コンクリート構造物に対する耐引抜強度を大きくするにはこのコーン破断面の下部基点をできるだけ大きくし、円錐角度を広げるようにする必要があるが、上記した従来の後アンカー工法において、何れの場合も、コーン破断面aの下部基点を大きくしたり、円錐角度を広げるのに困難があり、前記した耐引抜強度の向上を図ることに限界がある。
【0009】
そこで、この発明の課題は、既設コンクリート構造物に対するアンカーの固着強度に優れ、アンカーの埋め込み深さを浅くすることができると同時に、使用するアンカーの小径化を図ることができる後施工アンカー工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決するため、この発明は、既設コンクリート構造物に底部を拡幅した削孔を穿設し、端部に大径の定着部が設けられたアンカーを前記削孔内に挿入し、この削孔内の前記アンカーとの空間を充填材で埋める構成を採用したものである。
【0011】
ここで、上記削孔の下端部に形成する拡幅部は、ドリルを用いた下孔の穿孔後に、ウォータジェットや特殊ドリルを用いて下孔の下端を削って拡径することにより形成し、上記アンカーは、鉄筋、全ねじボルト、PC鋼棒等を用い、その下端部に下孔を通過できる外径の拡径した定着部が設けられている。
【0012】
また、上記充填材は、樹脂やモルタル等を用い、削孔内に所定量を注入した状態で、削孔内にアンカーを挿入し、削孔とアンカーとの空間を埋めるようにしたり、削孔内にアンカーを挿入した状態で充填材の注入を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、既設コンクリート構造物に穿設した削孔の底部に拡幅部を設け、端部に大径の定着部が設けられたアンカーを前記削孔内に挿入した後、この削孔内を充填材で埋めるようにしたので、充填材の下端部に拡幅塊が形成でき、この拡張塊内にアンカーの定着部が納まることになるので、コンクリート構造物に埋設したアンカーの既設コンクリート構造物に対する耐引抜強度が、拡幅塊と定着部のアンカー効果によって向上し、これによって、アンカーの埋め込み深さを浅くすることができると同時に、使用するアンカーの小径化を図ることができる。
【0014】
また、アンカーの埋め込み深さを浅くすることができるので、SRC造でもアンカーが設置でき、既設コンクリート構造物に対して大きな固着強度が得られるので、大きな荷重の部材を圧着するような場合でも、コンクリート構造物を貫通させる必要がなく、外部のみの工事で施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1(a)乃至(d)は、この発明の後施工アンカー工法の施工順序を示し、先ず、図1(a)のように、既設コンクリート構造物11に対して、ハンマードリルやダイヤモンドコアドリル等のドリル12を用いて円形の下孔(削孔)13を所定深さになるよう穿設する。
【0017】
次に、図1(b)のように、上記下孔13内に拡幅装置14を挿入し、下孔13の下端底部に下孔よりも大径となる拡幅部15を形成する。
【0018】
ここで、上記拡幅装置14は、図1(b)の場合、研磨剤を混入した圧力水を噴射するウォータジェット方式を用い、導管16の先端ノズルから周囲に圧力水を噴射させながら上下動と回転を与え、下孔の周囲を円形に削って拡幅部15を形成する。
【0019】
図2乃至図4は、特殊ドリルを用いた拡幅装置14の異なった例を示し、図2(a)、(b)の第1例は、下孔13に挿入する筒体17の内部に操作軸18と下端に拡縮自在の切削刃物19を設け、下孔13に筒体17を挿入した状態で、操作軸18の下端に設けたコーン20を切削刃物19に油圧力等で圧入しながら全体に回転と上下動を与え、下孔13の周囲を円形に削って拡幅部15を形成するものである。
【0020】
また、図3(a)、(b)に示す拡幅装置14の第2例は、上記と略同様であるが、拡縮自在の切削刃物21を回転による遠心力で拡散させることにより、下孔13の周囲を円形に削って拡幅部15を形成するものである。
【0021】
図4(a)と(b)に示す拡幅装置14の第3例は、下孔13に挿入する筒体22の内部を貫通する操作軸23の下端に複数のリンク24を介して拡縮自在の切削刃物25を設け、下孔13に筒体22を挿入した状態で、操作軸23に対して筒体22を押し下げ、リンク24の作用で切削刃物25を拡径させながら全体に回転と上下動を与え、下孔13の周囲を円形に削って拡幅部15を形成するものである。
【0022】
上記のような拡幅装置14を用いて図1(b)のように、下孔13の下端底部に下孔13よりも大径となる拡幅部15を形成し、拡幅部15内の切削屑を外部に除去した後、この下孔15内に所定量の充填材26を注入し、続いて、図1(c)のように、下端部に大径の定着部27が設けられたアンカー筋28を、定着部27を拡幅部15の部分に位置するよう下孔13内に挿入する。
【0023】
上記充填材26としては、樹脂やモルタル等を使用し、また、アンカー筋28は、鉄筋、全ねじボルト、PC鋼棒等を用い、その下端部に設けた定着部27は下孔13を通過できる外径になっている。
【0024】
なお、下孔13内に所定量の充填材26を注入した状態でアンカー筋28を下孔13内に挿入すれば、充填材26はアンカー筋28の進入で加圧され、下孔13とアンカー筋28の間の空間を埋めることになるが、下孔13への充填材26の注入は、図1(c)のように下孔13内にアンカー筋28を挿入した後、下孔13に充填材26を注入するようにしてもよい。
【0025】
図1(d)のように、アンカー筋28を挿入した下孔13内を充填材26で埋め、この充填材26が固化すれば、コンクリート構造物11に対してアンカー筋28を固定することができる。
【0026】
上記下孔13内を埋める充填材26の下部は、拡幅部15によって下孔13よりも大径の拡幅塊26aとなり、この拡張塊26a内にアンカー筋28の定着部27が納まることになるので、既設コンクリート構造物11に埋設したアンカー筋28の耐引抜強度が、拡幅塊26aと定着部27のアンカー効果によって向上し、これによって、アンカー筋28の埋め込み深さを浅くすることができると同時に、使用するアンカー筋28の小径化を図ることができる。
【0027】
また、耐引抜強度の向上によりアンカー筋28の埋め込み深さを浅くすることができるので、SRC造でもアンカー筋28が設置でき、既設コンクリート構造物に対して大きな固着強度が得られるので、大きな荷重の部材を圧着するような場合でも、既設コンクリート構造物11を貫通させる必要がなく、外部のみの工事で施工することができる。
【0028】
更に、充填材26の下端部が大径の拡幅塊26aとなることで、既設コンクリート構造物11におけるコーン破断面aは拡幅塊26aの下端周囲を基点に円錐形となって発生することになり、コーン破断面aの下部基点を大きくすることで円錐角度を広げることができ、これにより、アンカー筋28の耐引抜強度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)乃至(d)は、この発明の後施工アンカー工法の施工順序を示し、(a)は既設コンクリート構造物にドリルを用いて円形の下孔を穿設した状態の縦断面図、(b)はウォータジェット方式の拡幅装置を用いて下孔の下端部に拡幅部を加工した状態の縦断面図、(c)は下孔にアンカー筋を挿入した状態の縦断面図、(d)は既設コンクリート構造物にアンカー筋を固定した縦断面図
【図2】(a)は第1の例の特殊ドリルを用いた拡幅装置を下孔に挿入した状態の縦断面図、(b)は下孔下端部に拡幅部を形成した状態の縦断面図
【図3】(a)は第2の例の特殊ドリルを用いた拡幅装置を下孔に挿入した状態の縦断面図、(b)は下孔下端部に拡幅部を形成した状態の縦断面図
【図4】(a)は第3の例の特殊ドリルを用いた拡幅装置を下孔に挿入した状態の縦断面図、(b)は下孔下端部に拡幅部を形成した状態の縦断面図
【図5】(a)は従来の後施工アンカー工法における金属系アンカー工法の縦断面図、(b)は同じく接着系アンカー工法の縦断面図
【符号の説明】
【0030】
11 既設コンクリート構造物
12 ドリル
13 下孔
14 拡幅装置
15 拡幅部
16 導管
17 筒体
18 操作軸
19 切削刃物
20 コーン
21 切削刃物
22 筒体
23 操作軸
24 リンク
25 切削刃物
26 充填材
27 定着部
28 アンカー筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に底部を拡幅した削孔を穿設し、端部に大径の定着部が設けられたアンカーを前記削孔内に挿入し、この削孔内の前記アンカーとの空間を充填材で埋める後施工アンカー工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−208597(P2008−208597A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45651(P2007−45651)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000156204)株式会社淺沼組 (26)
【Fターム(参考)】