説明

徐放性歯科用組成物

【課題】歯周病を代表とする歯科疾患の治療に際し、患部に貼薬し、罹患部の治療および周囲の組織の疾病予防に用いられ、患部への適用が非常に簡便であり、適用後の除去が容易な徐放性歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】水混和性多官能性ラジカル重合性単量体、水、ラジカル重合開始剤、粘度調整剤、ならびに歯周組織に対する薬効剤、殺菌剤および消毒剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の薬剤を含有する徐放性歯科用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周疾患の予防および治療に用いることができる徐放性歯科用組成物に関する。さらに詳しくは、歯周治療の際に患部に貼薬し、罹患部の治療および周囲の組織の疾病予防に用いられ、重合性を有する半固体状の徐放性歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病はプラーク内に存在する複数の細菌による混合感染症であることが証明されている。従来、歯周病の治療方法としては、軽度の場合、スケーリング等による感染病巣の機械的除去法が用いられ、重度の場合には、歯周外科処置が行われている。これに加え、最近では消毒薬や抗炎症薬、抗生物質等の化学療法を併用する治療法が試みられ、歯周病の進行、予防に有効な方策であることが示されている。
これら薬剤による化学療法の投与方法には、薬剤の経口投与あるいは患部への直接塗布があげられるが、全身的な副作用を惹起せずに、局所に必要な薬効濃度を得ることができることから、直接塗布の方法が好ましく用いられる。しかしながら、健全組織、とりわけ口腔粘膜に対するこれら薬剤の感作性などの悪影響が懸念され、適用部周囲からの薬剤の流出などが問題とされ、治療現場においては、ラバーダム、綿球などにより不必要な部分への流出を防ぐ方法が用いられるが、根本的解決に至っていない。また常に唾液の流れがある口腔内という環境においては、必要な薬剤を局所に滞留させることは困難を極める。
【0003】
これら問題を解決すべく、例えば特許文献1では、水溶性高分子化合物、メタアクリレートポリマー、およびその可溶化材からなる組成物が提案されているが、配合する薬剤が作用するに十分足る時間、局所に滞留し、かつ、持続的に薬剤を放出させ続けるという点に関しては、満足できるものとは言い難い。
また、特許文献2には疎水性軟膏基材、多価アルコール、およびアルミニウムからなる徐放性軟膏組成物が提案されているが、軟膏組成物であるため、組成物適用後の口腔内に不快感が残る点では、患者に不都合を与える結果となり、さらなる改良が求められている。
【特許文献1】特公平2−34325号公報
【特許文献2】特開平7−89847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、歯周病を代表とする歯科疾患の治療に際し、患部に貼薬し、罹患部の治療および周囲の組織の疾病予防に用いられ、患部への適用が非常に簡便であり、適用後の除去が容易な徐放性歯科用組成物を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、本発明の上記目的および利点は、
(A)水混和性多官能性ラジカル重合性単量体、
(B)水、
(C)ラジカル重合開始剤、
(D)粘度調整剤、および
(E)歯周組織に対する薬効剤、殺菌剤および消毒剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の薬剤、
を含有することを特徴とする徐放性歯科用組成物により達成されることを見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明の徐放性歯科用組成物は、上述の構成により、水性ペースト状の形態であり、例えば、遮光性のシリンジに充填した本組成物を治療を要する部分に直接絞り出して塗布し、硬化させることにより配合する薬剤を患部に効果的に滞留させうるとともに、必要量の有効成分を組織へ徐放させることが可能である。さらに塗布した組成物が不必要な部分に広がるような流動性は有していないこと、塗布後容易な操作で硬化するような重合性を有していること、固化物である硬化ゲルが容易に変形することがなく、固化した組成物が容易に除去できること、加えて歯肉などに対して為害性がないこと、などの特性を有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の徐放性歯科用組成物により、特に歯周病に罹患した歯周組織に対して、効果的に薬物を適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳述する。
【0009】
以下、本明細書において特別の断りのない限り「部」あるいは「%」は重量基準を示す。また、「アクリ・・・」と「メタアクリ・・・」の総称として「(メタ)アクリ・・・」を使用する。又、A、B、C、D、E成分、必要に応じて含有されるF、G、M成分等の本発明の徐放性歯科用組成物各成分の配合量の合計は100重量%を超えないものとする。
本発明の徐放性歯科用組成物における(A)成分は水混和性多官能性ラジカル重合性単量体である。本明細書において、水混和性単量体とは25℃において該単量体を5重量%含む水との混合物が均一となる単量体を指し、好ましくは20重量%含む水との混合物が均一となるものを示す。均一とは、両者が均質な溶液となるか、あるいは、コロイドとなり、混合後24時間、好ましくは1年間、さらに好ましくは3年間経ても沈殿を生じないことを意味する。コロイドの粒子径は、好ましくは1,000nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。また、多官能性とは、分子内にラジカル重合性基を少なくとも2つ、好ましくは2〜4つ含む単量体を示す。さらに重合性基としては、ラジカル重合性基が好ましく、好ましい具体例としては、ビニル基、シアン化ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアマイド基などをあげることができる。
【0010】
具体的な化合物例としては、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリコサエチレンジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(前記において、「ジ(メタ)アクリレート」と表記しているが、それぞれの分子に存在する複数の重合性基同士は同一であることを意味するものではない);ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸およびその中和物などの親水性ポリマーに(メタ)アクリル基を複数導入した単量体をあげることができる。これら化合物は1種あるいは2種以上を一緒に使用することができる。
【0011】
上記の(A)水混和性多官能性ラジカル重合性単量体は、重合することによりポリマーネットワークを形成し、後述の(B)水を包含してゲル状になる。たとえ水溶性であっても単官能重合性単量体のみでは、上記のようなポリマーネットワークは形成されないためゲル状にはならず簡単に流動するばかりか、後述する(E)成分を担持できないため、本発明の用途には不適である。本発明では、これらの(A)水混和性多官能重合性単量体のうち、エチレングリコールから誘導される繰り返し単位(−CH−CH−O−)を、好ましくは平均して5個以上、より好ましくは5〜30個、特に好ましくは9〜30個有するポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを好適に使用することができ、
また、重合して(B)水を包含してゲル状になるのに差し支えなければ、エチレングリコール以外のアルキレングリコール(−(CH)−O−、n=1、3、4等)やウレタン構造(−NH−CO−O−)やアミド構造(−NH−CO−)等のその他の置換基や分子鎖構造を、その式量が該単量体の分子量を基準に好ましく50%以下、さらに好ましくは15%以下にて有する単量体であってもよい。また分子の両末端部近傍に重合性基を有することが好ましい。但し、前記その他の置換基や分子鎖構造として、芳香環やシクロ環等の疎水性が高いものや、カルボキシル基等の保存安定性が低いものは好ましくないことがある。(メタ)アクリレート以外のエステルも好ましくないことがある。
【0012】
本発明の徐放性歯科用組成物には、(A)成分は、組成物の合計を基準に、好ましくは7〜95重量%、より好ましくは10〜85重量%、さらに好ましくは20〜75重量%で配合される。この数値範囲の下限を下回ると、後述する薬剤(E)の担持能が著しく低下し、効果を発揮しないばかりか操作性に悪影響を及ぼすおそれがあり、また、上回ると(E)成分の溶出能が低下するおそれがあり、ともに好ましくない。
本発明の徐放性歯科用組成物は、上記のように(A)水混和性多官能重合性単量体を含有するものであるが、組成物の操作性や硬化後の硬さを調整するなどの目的で所望により上記の(A)水混和性多官能重合性単量体以外の重合性単量体(M)を含有していてもよい。(M)成分は、(A)水混和性多官能重合性単量体と(B)水の混合物に溶解して均一な組成物を形成できるものであれば特に限定されない。このような重合性単量体には、単官能重合性単量体(M1)と水混和性でない多官能重合性単量体(M2)とがある。
【0013】
(M1)の具体的な例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
2−ハイドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ハイドロキシブチル(メタ)アクリレート等のハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;
1,2−または2,3−ジハイドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(ポリハイドロキシ)アルキル(メタ)アクリレート;
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;
エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート;
(テトラハイドロフラン−2−イル)(メタ)アクリレートなどの複素環を有する(メタ)アクリレート;
パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等のハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリル酸、マレイン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート等の酸性基を含有する(メタ)アクリレート;
3−(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレートなどの (メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物;
4−スチレンスルホン酸等の酸性基を含有するビニル化合物;
メチル(メタ)アクリルアマイド、2,3−ジハイドロキシプロピル(メタ)アクリルアマイド、1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸等の上記(メタ)アクリレートに代えて(メタ)アクリルアマイドである化合物
等をあげることができる。
【0014】
また(M2)の具体的な例としては、
ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのエチレングリコールから誘導される繰り返し単位を平均して1〜4個、特に好ましくは1〜3個有するポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;
グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、メソ−エリスリトールジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート、ペンタントリオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート、ヘキサントリオールのジ(メタ)アクリレート、ヘキサンテトラオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールのジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート;
あるいは下記式(1)
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中、Rは少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基あるいはシクロアルキル残基、好ましくは下記式(2)
【0017】
【化2】

【0018】
から選択されるいずれかを示し、RおよびRは互いに独立して水素原子またはメチル基を示し、jおよびkはそれぞれ独立に1〜10、好ましくは1〜8の整数を示す〕で示される多官能(メタ)アクリレート、
下記式(3)で示される脂肪族、脂環族または芳香族エポキシジ(メタ)アクリレート
【0019】
【化3】

【0020】
〔式中、Rは少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基あるいはシクロアルキル残基、好ましくは下記式(4)
【0021】
【化4】

【0022】
から選択されるいずれかを示し、RおよびRは互いに独立して水素原子またはメチル基を示し、lは1〜10、好ましくは1〜5の整数を示す〕、
さらに下記式(5)で表される分子内にウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレート
【0023】
【化5】

【0024】
〔式中、Rは少なくとも1個の芳香族環を有しかつ分子中に酸素原子または硫黄原子を有していてもよい2価の芳香族残基あるいはシクロアルキル残基、好ましくは上記式(4)から選択されるいずれかを示し、RおよびRは互いに独立して水素原子またはメチル基を示す〕
などを挙げることができる。
【0025】
さらには、(M)成分の一例として所望により、抗菌性を有するラジカル重合性単量体(Mz)を使用することができる。(Mz)を用いることにより(A)成分に抗菌性を付与することで、長期間にわたりう蝕、歯周病等の歯科疾患の予防効果を期待できる。
かかる化合物(Mz)としては、例えば12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、ベンジルビス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ドデシルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ドデシルアンモニウムクロライドおよびポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートに10−ウンデセニルアルコールがエーテル付加した化合物などを挙げることができる。
これらの(M)成分は単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明の徐放性歯科用組成物において所望により添加される(M)成分の配合量は、組成物の全量を基準に、好ましくは0.5〜62重量%、より好ましくは1〜51重量%、さらに好ましくは6〜38重量%の範囲である。この数値範囲の下限を下回ると、(M)成分の添加による諸性能の向上効果が確認され難く、上回ると、硬化後の組成物の水分保持が低下し、本発明の目的を達成し得ないおそれが出るばかりか、操作性への悪影響が懸念されるため、ともに好ましくない。
【0027】
本発明の歯科用組成物の(B)成分は水である。組成物を水分を包含したゲル状硬化物として口腔内に塗設させることが可能となるほか、配合するラジカル重合開始剤(C)により、硬化時に組成物から発する熱を口腔内での操作が可能な程度まで吸熱させる効果を持つ。
本発明の徐放性歯科用組成物における(B)成分は、蒸留水、脱イオン水等、医薬上許容できる水であれば、いずれのものも使用しうる。
本発明の徐放性歯科用組成物における(B)成分の使用量は、組成物の全量を基準に、好ましくは3.98〜49.3重量%、より好ましくは8〜40重量%、さらに好ましくは12〜30重量%の範囲である。この数値範囲を下回ると、配合する薬剤の保持能力が低くなるおそれがあるばかりか、操作性に影響を与え、また、上回ると、組成物の流動性が著しく高くなったり、組成物が硬化しないために、薬剤が局所へ徐放されないおそれがあることから、ともに好ましくない。
【0028】
さらに組成物の適用面に対する、ぬれ性向上などの目的で所望により水溶性有機溶媒(Bo)を使用することもできる。ここで水溶性有機溶媒とは、25℃において、水に対して50重量%以上の溶解度を持つ有機溶媒をいう。具体的な化合物としては、エタノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチエレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類のほか、グリセロール、ソルビトールなどの多価アルコールを挙げることができる。
本発明の徐放性歯科用組成物において、所望により使用される(Bo)成分の配合量は、組成物の全量を基準に、好ましくは2〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、さらに好ましくは6〜15重量%の範囲であり、かつ、(B)成分との合計を基準に50重量%を超えない範囲が好ましい。この数値範囲を下回ると、配合の効果が現れず、また、上回ると操作性への悪影響や硬化が著しく劣るおそれがあり、ともに好ましくない。
【0029】
本発明の徐放性歯科用組成物は、(C)ラジカル重合開始剤を使用することにより、水分を包含したゲル状に硬化でき、後述する(E)成分を口腔内の目的位置に維持させて徐放させることを可能とする。
本発明の徐放性歯科用組成物における(C)成分としては、有機過酸化物、無機過酸化物、α−ジケトン化合物、ホスフィンオキサイド、有機アミン化合物、有機スルホン酸、有機スルフィン酸、無機硫黄化合物、有機リン化合物およびバルビツール酸類をあげることができる。これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明の徐放性歯科用組成物における(C)成分としては、口腔内で使用することから、常温化学重合タイプ、光重合タイプおよびこれらを複合したデュアル重合タイプなど反応開始形態を有する開始剤を使用することが好ましい。常温化学重合タイプあるいはデュアル重合タイプの開始剤を使用する場合には、保存中に組成物が重合しないように、通常は、組成物を2種類に分けて保存し、使用直前に混合して使用される。
本発明の徐放性歯科用組成物における(C)成分のうち常温化学重合タイプでは、過酸化物(C1)を使用することができる。具体的な(C1)の例として、ジアセチルパーオキサイド、ジプロピルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジカプリルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメトキシベンゾイルパーオキサイド、p,p’−ジメチルベンゾイルパーオキサイドおよびp,p’−ジニトロジベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、ならびに、過硫酸アンモニウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムなどの無機過酸化物をあげることができる。
【0031】
また、光重合タイプの重合開始剤では、紫外光線あるいは可視光線を照射することにより光重合することができる重合開始剤(C2)を使用することができる。(C2)の具体例としては、4,4−ジクロロベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾフェノン、9,10−アントラキノン、ジアセチル、dl−カンファーキノン、トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどをあげることができる。
本発明の徐放性歯科用組成物における(C)成分の配合量は、組成物の全量を基準に、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%の範囲である。この数値範囲を下回ると、口腔内での硬化が著しく劣るおそれがあり、上回ると、保存安定性に影響を及ぼすばかりか、硬化時に組成物が高熱を発するおそれがあり、ともに好ましくない。
【0032】
さらに本発明の徐放性歯科用組成物において、重合開始剤として(C1)および/または(C2)を使用する際には、所望により還元性化合物(Crd)を併用することができる。(Crd)として、無機化合物では、例えば亜硫酸、メタ亜硫酸、メタ重亜硫酸、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、1−亜−2−チオン酸、1,2−チオン酸、次亜硫酸、ヒドロ亜硫酸およびこれらの塩類をあげることができる。これらの還元性無機化合物の中でも、亜硫酸塩を好ましく用いることができる。具体的な化合物としては、特に亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムが好ましく例示することができる。
【0033】
また、有機還元性化合物としては、例えばベンゼンスルホン酸、o−またはp−トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クロルベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸またはその塩;
N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジハイドロキシメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリジン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリンなどのほか、下記式(6)
【0034】
【化6】

【0035】
(ここで、R10およびR11は互いに独立して水素原子あるいは官能基もしくは置換基を有していてもよいアルキル基であり、R12は水素原子または金属原子である。)
で表わされる化合物および/または下記式(7)
【0036】
【化7】

【0037】
(ここで、R13およびR14は互いに独立に水素原子またはアルキル基であり、R15は水素原子あるいは官能基もしくは置換基を有していてもよいアルキル基またはアルコキシル基である。)
で表わされる化合物をあげることができる。
【0038】
上記式(6)で表わされる具体的な化合物としては、N−フェニルグリシン、N−トリルグリシン、N−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ハイドロキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび/またはこれらの塩をあげることができる。このうち、N−フェニルグリシン、および/またはその塩を好ましく使用できる。
【0039】
また、上記式(7)で表わされる具体的な化合物としては、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルのほか、N,N−ジプロピルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N−イソプロピルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N−イソプロピル−N−メチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステルなどで代表される脂肪族アルキルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル;
N,N−ジメチルアミノベンズアルデハイド、N,N−ジエチルアミノベンズアルデハイド、N,N−ジプロピルアミノベンズアルデハイド、N−イソプロピル−N−メチルアミノベンズアルデハイドなどで代表される脂肪族アルキルアミノベンズアルデハイド;
N,N−ジメチルアミノアセチルベンゼン、N,N−ジエチルアミノアセチルベンゼン、N,N−ジプロピルアミノアセチルベンゼン、N−イソプロピルアミノアセチルベンゼン、N−イソプロピル−N−メチルアミノアセチルベンゼンなどで代表される脂肪族アルキルアミノアセチルベンゼンおよび脂肪族アルキルアミノアシルベンゼンなどをあげることができる。
これら化合物は単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明の歯科用組成物において、所望により(Crd)成分を使用する際の配合量は、組成物の全量を基準に、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%の範囲である。この数値範囲を下回ると、配合の効果が発揮されないおそれがあり、上回ると、保存安定性に影響を及ぼすばかりか、硬化時に組成物が高熱を発するおそれがあり、ともに好ましくない。
本発明の徐放性歯科用組成物における(D)成分は、粘度調整剤である。(D)成分を用いることにより、口腔内への適用時操作性が向上し、さらに硬化後の除去が容易となる効果を持つ。
(D)成分としては、例えば無機フィラー(D1a)、有機無機複合フィラー(D1b)、有機フィラー(D1c)および水混和性ポリマー(D2)をあげることができる。
【0041】
無機フィラー(D1a)の例としては、ジルコニウム酸化物、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛および酸化アルミニウム粒子などの金属酸化物粉末、シリカ、炭酸ビスマス、リン酸ジルコニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムあるいは、CaHPO、Ca(PO、Ca(POOH、CaO(PO、Ca(PO、Ca10(PO(OH)、CaP11、Ca(PO、Ca、Ca(HPO、CaO、Ca(OH)、CaHCO、CaCO、CaClなどの無機カルシウム塩、さらには、4−(2−(メタ)アクリロキシエチル)トリメリット酸カルシウムや4−スチレンスルホン酸など、有機酸のカルシウム塩などの金属塩粉末、シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラスおよびジルコニウムシリケートガラスなどのガラスフィラー、銀徐放性を有するフィラー、フッ素徐放性を有するフィラーなどをあげることができる。また、配合する(A)成分あるいは(B)成分への分散性を向上させるために、これら無機フィラーに、従来公知の方法によりシラン処理、ポリマーコートなどの表面処理を施して使用しても構わない。
【0042】
有機無機複合フィラー(D1b)の例としてはトリメチロールプロパンメタアクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したものなどが使用できる。
有機フィラー(D1c)の例としては、ポリ(メチル(メタ)アクリレート)、ポリ(プロピル(メタ)アクリレート)などの(A)成分および/または(M)成分に列挙したモノマーの単独あるいは共重合体をあげることができる。
これらフィラーは粒子径が小さいほど少量の添加で粘度の調整が可能になるが、そのほかに徐放性歯科用重合性組成物の塗布感や塗布時の伸びなどの調整も可能である。好ましくは5nm〜50μm、より好ましくは5nm〜5μmの範囲内にある平均粒子径のフィラーの使用が好ましい。
【0043】
水混和性ポリマー(D2)は、25℃において水に1重量%以上溶解するものである。その例としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、中和されたポリカルボン酸塩などのほか、アラビアゴム、アルギン酸、カラギーナン、デキストリン、プルラン、ザンタンガム、でんぷんなどの天然高分子、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ハイドロキシプロピルセルロース、ハイドロキシプロピルメチルセルロースなど、水に溶解してもほぼ中性であるポリマーが好ましく使用される。このような水混和性ポリマーの重量平均分子量は、大きいほど少量の添加で粘度調整が可能であるが、その他に徐放性歯科用組成物の塗布感や塗布時の延びなどの調整も可能とするので、好ましくは数百〜数十万、より好ましくは5,000〜10万程度である。
【0044】
これらの(D)成分は単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の徐放性歯科用組成物における(D)成分の配合量は、組成物の全量を基準に、好ましくは1〜45重量%、より好ましくは3〜32重量%、さらに好ましくは5〜20重量%の範囲である。この数値範囲を下回ると、適用時の粘度が著しく低くなったり、硬化後の組成物の除去が難しくなり、上回ると、適用時の粘度が著しく高くなるおそれがあり、ともに好ましくない。
【0045】
本発明の徐放性歯科用組成物における(E)成分は、歯周組織に対する薬効剤、殺菌剤および消毒剤である。
歯周組織に対する薬効剤としては、例えば抗生物質、抗炎症剤、鎮痛剤、止血剤、血行促進剤、抗ヒスタミン剤をあげることができる。
【0046】
抗生物質としては、例えばアンピシリンなどのβ−ラクタム類;カナマイシンンなどのアミノグリコシド類;塩酸テトラサイクリンなどのテトラサイクリン類;エリスロマイシンなどのマクロライド類;クロラムフェニコール類;テリスロマイシンなどのケトライド類;アムフォテリシンBなどのポリエンマクロライド類;バンコマイシンなどのグリコペプチド類;ホスミドシンなどの核酸類のほか、レボフロキサシンなどのピリドンカルボン酸類;リネゾリドなどのオキサゾリジノン類などをあげることができる。
抗炎症剤としては、例えばβ−グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、ε−アミノカプロン酸、塩化リゾチーム、インドメタシン、イブプロフェン、エピジハイドロコレステリン、ジハイドロコレステロール、ヒノキチオール、セラペプターゼ、プロナーゼ、オウバクエキス、アラントインなどがあげられる。
【0047】
鎮痛剤としては、例えばアスピリン、アセトアミノフェン、サリチル酸メチル、エピリゾール、ナプロキセン、エトドラク、フルルビプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、メフェナム酸などがあげられる。
止血剤としては、例えばルチン、アスコルビン酸、トラネキサム酸、トロンビンなどがあげられる。
血行促進剤としては、例えばビタミンE、塩化ナトリウム、ニコチン酸−dl−α−トコフェロールなどがあげられる。
抗ヒスタミン剤としては、例えばシメチジン、マレイン酸クロルフェラミン、塩酸プロメタジン、塩酸ジフェンヒドラミンなどをあげることができる。
殺菌剤としては、例えば塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、グリチルリチン酸ジカリウム、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化ベンゼトニウムなどをあげることができる。
消毒剤としては、過酸化水素、ヨードグリセリン、ヨードチンキ、クロラミン、アクリノール、ポピドンヨードなどをあげることができる。
【0048】
これら(E)成分の化合物は1種あるいは2種以上を併用して使用することができる。
また、組織への放出速度をコントロールする目的で、あるいは安定性を付与する目的で、所望により、これら化合物を従来公知の方法、例えば、マイクロカプセル化、ポリマーコーティング、多孔質への吸着等の前処理を行った後に配合しても構わない。
本発明の徐放性歯科用組成物における(E)成分の配合量は、組成物の全量を基準に、好ましくは0.01〜20重量%、より好ましくは0.02〜15重量%、さらに好ましくは0.2〜10重量%の範囲である。この範囲を下回ると薬効が期待できず、上回る場合には副作用が懸念され、ともに好ましくない。
【0049】
本発明の徐放性歯科用組成物には、所望により、(A)〜(E)成分の何れにも該当しない成分であって、水中においてフッ化物イオンを放出する化合物(F)を添加してもよい。(F)成分としては、可溶性の有効フッ素イオンを組成物中に放出するものであり、例えば、フルオロリン酸二ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ケイ素ナトリウム、フルオロアルミノシリケ−トガラス、フッ化アンモニウム等が使用しうるが、中でもフッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズの使用が好ましい。その配合量は、本発明の歯科用組成物の使用量と適用頻度、ならびに耐酸性や再石灰化の有効性と人体への影響を考慮して適宜設定される。(F)成分には、硬組織の耐酸性の向上効果を期待できる。
【0050】
本発明の徐放性歯科用組成物において所望により(F)成分を使用する場合、その使用量は、組成物中のフッ素イオン濃度が、好ましくは0.0001〜5重量%、さらに好ましくは0.001〜2重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%の範囲となる量が好ましい。この範囲を下回ると、所望の歯質の耐酸性効果や再石灰化効果が十分に表れず、上回ると、生体への為害性が懸念される。
【0051】
本発明の徐放性歯科用組成物には、さらに、本発明の効果を損なわない限りにおいて、(A)〜(F)成分の何れにも該当しない成分であるその他の(G)成分を配合することもできる。
【0052】
かかる(G)成分としては、例えば
4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどの重合禁止剤;
アミラーゼ、ムタナーゼ、デキストラナーゼ、プロテアーゼなどのプラーク溶解剤;
ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の発泡剤;
ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリマー;
キシリトール、ソルビトール、アスパルテーム、スクラロース、ステビアなどの甘味料;
ソルビトール、l−メントール、リモネンなどの香料;
雲母チタン、酸化チタン、オキシ塩化ビスマス、合成金雲母、マイカ、酸化鉄などの無機顔料;
青色1号、青色404号、赤色106号、赤色201号、赤色220号、赤色225号、赤色226号、赤色227号、黄色4号、グンジョウ、コンジョウなどの口腔内での組成物の識別を容易にするための着色料;
塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等の金属塩;
レチノール類、リボフラビン、アスコルビン酸、コレカルシフェロール類、ニコチン酸類などのビタミン類;
アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、およびこれらの塩および/または水酸化物のほか、トラネキサム酸、タウリン等のアミノ酸類ないしはその類縁体などを挙げることができる。
【0053】
本発明の歯科用徐放性組成物は、はじめから、この組成にてすべて混合されていることを必要とするものではなく、必要に応じて、各成分を適宜分封して保存して、使用時に混合してもよい。
【0054】
本発明の徐放性歯科用組成物の使用の形態としては、次にあげる様式が好ましい。
【0055】
(1)(A)成分、(B)成分、(D)成分、(E)成分と、(C)成分のうち光重合開始剤から選択される成分とを混合して一緒に含む組成物を調製し、これを遮光容器に保存し、絞り出すかあるいは筆やスポンジ等を用いて直接患部に塗布した後、光照射器により組成物を硬化させる方法、
(2)(A)成分、(B)成分、(D)成分と(E)成分とを含むシリンジ1と(C)成分を含むシリンジ2との2筒式ミックスシリンジに保存し、これら成分を必要時、混合し絞り出すかあるいは筆やスポンジ等を用いて直接患部に塗布する方法、
(3)(A)成分、(B)成分、(D)成分を含むシリンジ1と、(C)成分と(E)成分を含むシリンジ2との2筒式ミックスシリンジに保存し、これら成分を必要時、混合し絞り出すかあるいは筆やスポンジ等を用いて直接患部に塗布する方法、
(4)(A)成分、(B)成分とを含むシリンジ1と(C)成分、(D)成分と(E)成分とを含むシリンジ2との2筒式ミックスシリンジに保存し、これら成分を、必要時、混合し絞り出すかあるいは筆やスポンジ等を用いて直接患部に塗布する方法、
(5)(A)成分を含むシリンジ1と、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分を含むシリンジ2との2筒式ミックスシリンジに保存し、これら成分を、必要時混合し絞り出すかあるいは筆やスポンジ等を用いて直接患部に塗布する方法。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
<光硬化性評価>
直径6mm、厚さ3mmの円形をくりぬいたテフロン(登録商標)製モールドに組成物を填入し、両面にセロファンをのせ、さらにガラス板にて圧接した。ついで歯科用可視光照射器(キャンデラックスLV−5、モリタ製作所製)にて片面に10秒間可視光を照射し、組成物を硬化させた。ガラス板とセロファンを取り外した後、未硬化物を取り除いて硬化物(硬化ゲル)の厚さを測定した。
【0058】
<操作性評価>
経験3年以上の臨床歯科医10人に、以下の操作を行わせた上で所見をアンケートした。
37℃飽和湿度下に設置したブタ下顎の舌側臼歯2本の歯茎部および歯肉に対し、約0.1gの組成物を直接絞り出して塗布した。つづいて歯科用可視光照射器(キャンデラックスLV−5、モリタ製作所製)にて可視光を10秒間照射し、組成物を硬化させ、37℃飽和湿度下で30分間放置後に歯科用エキスカベーター(YDM製、ポピュラータイプ1)を用いて、塗布した組成物を除去するかあるいは、コンポジット錬成充填インスツルメント(ヒューフレッド社製、AB1)のナイフ部分を用いて硬化したゲルを切削した。
経験3年以上の臨床歯科医に絞り出し性能、塗布性能、操作中および硬化・放置中の組成物のたれ、硬化組成物の取り外し性能、硬化組成物の切削・トリミング性能につき、次に示す基準の6段階で判定を行わせ、アンケートを実施した。これにより各性能の最高点を50点、最低点を0点とする評価を行い、各性能につき40点以上を合格とした。評価結果を表1に示す。
【0059】
絞り出し性能 5:組成物は容易に絞り出すことができた。
絞り出し性能 0:組成物は容易に絞り出すことができなかった。
塗布性能 5:組成物は塗布しやすい。
塗布性能 0:組成物は非常に塗布しにくい。
たれ 5:組成物は操作中および放置中のいずれかにたれを生じなかった。
たれ 0:組成物は操作中および放置中のいずれかにたれを生じた。
除去性能 5:組成物の除去は簡便だった。
除去性能 0:組成物の除去が著しく難しかった。
切削・トリミング性能 5:組成物の切削・トリミング性能は簡便だった。
切削・トリミング性能 0:組成物の切削・トリミング性能は著しく難しかった。
【0060】
<歯肉への為害性評価>
チオペンタールナトリウムにて全身麻酔を施した6週齢Sprague−Dawley系ラットの上顎第一臼歯から第三臼歯にかけての口蓋側歯肉に組成物を塗布、組成物に歯科用可視光照射器(キャンデラックスLV−5、モリタ製作所製)にて可視光を10秒間照射し、組成物を硬化させ、1時間後に口腔内から硬化した組成物を除去した。除去直後、除去より6時間後、除去より1日後、除去より3日後にラットを屠殺、パラホルムアルデハイドにより灌流固定した。上顎を摘出し、通法に従い、脱灰、パラフィン包埋し、厚さ3μmの前頭断切片を得た。切片にヘマトキシリン・エオジン重染色を施し、組成物を適用した部位の光学顕微鏡観察を行い、処置を行わない、正常組織と比較した。
【0061】
<薬剤溶出評価>
上述の光硬化性評価にて作製したものと同じ硬化物を作製し、ただちにリン酸緩衝生理食塩水5mlに浸漬、37℃にて放置した。浸漬より10分、30分、1時間および6時間経過後にデカンテーションにてリン酸緩衝生理食塩水を取り出し、次に示す分析条件の溶離液にて希釈、リン酸緩衝生理食塩水中に溶出した塩酸クロルヘキシジンを定量し、(徐放された塩酸クロルヘキシジン量)/(組成物に配合した塩酸クロルヘキシジン)による溶出率を算出した。
検出装置本体:LC−10ATvp(島津製作所製)、検出器:紫外分光光度計SPD−10A(島津製作所製)、カラム:Wakosil−II5C18RS(4.6mmID×150mm、和光純薬製)、溶離液:メタノール/イオン交換水/酢酸/ドデシル硫酸ナトリウム=830/170/4/1.36、流速1.0ml/min、測定波長260nm。
【0062】
実施例1
ノナエチレングリコールジメタアクリレート60.6g、蒸留水26.2g、カンファーキノン20mg、ジメチルアミノ安息香酸2−nーブトキシエチル20mg、シラン処理済み微粒子シリカ(平均粒径10nm、日本アエロジル製)12.1g、塩酸クロルヘキシジン1gより組成物Aを得た。得られた組成物をメタフィルflo(商品名、歯科用流動性コンポジットレジン、サンメディカル製)のシリンジに充填し、上述の光硬化性評価、操作性評価、歯肉への為害性評価、薬剤溶出試験を行った。結果を表1に示す。
【0063】
実施例2
テトラデカエチレングリコールジメタアクリレート62.5g、蒸留水24.0g、カンファーキノン20mg、ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル20mg、シラン処理済み微粒子シリカ(平均粒径10nm、日本アエロジル製)12.5g、塩酸クロルヘキシジン1gより組成物Bを得た。得られた組成物をメタフィルflo(商品名、歯科用流動性コンポジットレジン、サンメディカル製)のシリンジに充填し、上述の光硬化性評価、操作性評価、歯肉への為害性評価、薬剤溶出試験を行った。結果を表1に示す。
【0064】
実施例3
トリコサエチレングリコールジメタアクリレート63.3g、蒸留水19.0g、カンファーキノン20mg、ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル20mg、シラン処理済み微粒子シリカ(平均粒径10nm、日本アエロジル製)16.7g、塩酸クロルヘキシジン1gより組成物Cを得た。得られた組成物をメタフィルflo(商品名、歯科用流動性コンポジットレジン、サンメディカル製)のシリンジに充填し、上述の光硬化性評価、操作性評価、歯肉への為害性評価、薬剤溶出試験を行った。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水混和性多官能性ラジカル重合性単量体、
(B)水、
(C)ラジカル重合開始剤、
(D)粘度調整剤、および
(E)歯周組織に対する薬効剤、殺菌剤および消毒剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の薬剤、
を含有することを特徴とする徐放性歯科用組成物。
【請求項2】
上記(C)ラジカル重合開始剤が光重合開始剤である請求項1に記載の徐放性歯科用組成物。
【請求項3】
上記(A)水混和性多官能単量体がポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートでありかつ該ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがエチレングリコールから誘導される繰り返し単位を平均して5〜30個有する請求項1に記載の徐放性歯科用組成物。
【請求項4】
上記(D)粘度調整剤がシリカおよび/または水混和性ポリマーである請求項1に記載の徐放性歯科用組成物。
【請求項5】
上記(E)薬剤がテトラサイクリン系抗生物質およびその塩、アクリジン化合物、クロルヘキシジン系化合物、クロラムフェニコール、ペニシリンおよびその塩、ヨード化合物、塩化ベンザルコニウムならびに塩化ベンゼトニウムからなる群より選択される少なくとも1つの化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の徐放性歯科用組成物。
【請求項6】
上記徐放性歯科用組成物が遮光性容器に収容されている請求項1〜5のいずれかに記載の徐放性歯科用組成物。
【請求項7】
さらに(F)フッ化化合物を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の徐放性歯科用組成物。

【公開番号】特開2008−291000(P2008−291000A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140917(P2007−140917)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】