説明

徐放性組成物を用いた創傷の治療方法

本発明は、医療インプラントの挿入に関する創傷の治療方法に関し、その中で、カリウム、ルビジウム、カルシウムおよび亜鉛カチオンを含む無機の治療剤がシリコンまたは生体吸収膜上で創傷部位に適用される。治療組成物は、持続性で、時間に合わせて送達される製剤に提供されて、治療剤の効果を改善する。該膜はマイクロテクスチャーを含み、治療剤の創傷部位への送達をさらにコントロールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国仮出願番号第60/581,636号(2004年6月22日出願)で、「Medical Applications Employing PHI-5 Loaded Silicone Membrane」と題された出願の優先権を主張し、本明細書で十分に示されているように引例として本明細書に引用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、創傷、特に治癒に抵抗があり、それ故インプラントを受け入れることに対して否定的な障害がある医療インプラントに関連する創傷の治療に関する。本発明はさらに、細胞外マトリックスに関連する化学的環境について確立および/またはコントロールにおける補助として、シリコンまたは生体吸収性膜で送達される水性オーク樹皮(oak bark)抽出物の鍵になる成分を含む合成組成物の徐放性製剤の使用に関する。
【0003】
(背景技術)
米国特許第5,080,900号および第6,149,947号(本明細書に引用される)に記載された、オーク樹皮抽出物およびオーク樹皮抽出物に基づいた合成組成物が、慢性創傷、並びに、皮膚潰瘍、特に褥瘡または床ずれを含む皮膚障害の治療に明確な効果を有することを、先行の研究は示している。PHI−5(デルマゲニックス(Dermagenics)、メンフィス、TN、USA)はその他の中に亜鉛およびルビジウムを含んだ新規な物質であり、慢性創傷の治療のために開発された赤オーク樹皮抽出物の分析に基づいている。
【0004】
特にPHI−5は、カリウム、ルビジウム、カルシウムおよび亜鉛カチオンの溶液を含む。一つの態様として、PHI−5は、医薬的に許容される担体、並びに10〜80重量部のカリウムイオン、0.00001〜20重量部の亜鉛イオン、0.01〜10重量部のカルシウムイオン、および40重量部までの量のルビジウムイオンを含んだ無機固形物の活性成分を含む(すべての重さはカチオン型における無機固形物の全重量に基づく)。さらにPHI−5の記述は、同時係属中の米国特許出願番号第09/716,890号にあり、該文献は本明細書にそのまま引用される。商業的にはPHI−5は、創傷手当て物質 デルマックス(Dermax、登録商標)として入手可能である。通常の治療行為に応答しない慢性創傷に適用する場合、PHI−5が創傷治癒に有効な作用を有することが示されている(参照:Effect of Polyhydrated Ionogen in Cultures of Normal and Diabetic Human Dermal Fibroblasts, S. Monroe, PhD, E. M. Sampson, MS, M. P. Popp, PhD, R. Lobmann, MD, and G. S. Schultz PhD.)。PHI技術が評価されている創傷保護の適用の例には、慢性糖尿病性下肢潰瘍および第IIIステージ褥瘡(圧力)および医療インプラント器具の挿入に関連する創傷が含まれる。これらのタイプの慢性創傷は、組織損傷に応じて産生される亜鉛依存性タンパク質であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の過剰産生のために問題がある。
【0005】
MMPは通常の局所組織の損傷に対する身体の反応の通常の部分であり、通常の反応パターンでは、傷ついた部位から損傷を受けた組織を除去し、該苦痛な部位に置換組織の成長をさせる準備をさせるのを手助けする。しかしながら、慢性創傷においては、MMPは過剰産生され、新たに再生成した組織の分解および破壊を生じる結果となる。この異常な反応は、創傷の遅い治癒をもたらすか完全に治癒を妨げることとなる。医療器具の挿入の間に形成される創傷においては、この異常な反応は、身体の医療インプラントを受け入れることに対して否定的に障害を与える可能性を有しており、そのことで治癒に抵抗し続ける創傷を生じることとなる。PHI製剤は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のレベルに影響を与えて、損傷を受けた組織の局所に作用することが見出されている。より厳密に言えば、PHI製剤はMMPレベルを下方制御し、創傷の中や周りの環境を修復し、より通常の創傷治癒反応を促進する手助けをする。このようにPHI製剤は、医療インプラントの挿入から生じる創傷の治療に有利であり、それによって周りの組織によるインプラントの受け入れの可能性を改善する。したがって、インプラントとその周りの身体組織の間の界面に位置する創傷に、PHIイオンを継続的に送達する方法を開発することは望ましいことである。しかしながら、PHI−5は水溶性イオン性物質であるので、おそらくタンパク質よりむしろ速く放出される。実際、臨床医は通常PHI−5を含んだ包帯を毎日取り替えている。このように創傷部位へのPHI−5物質の持続的な放出の方法の必要性はなおさらにある。
【0006】
(発明の概要)
様々な著者がすでに、慢性創傷組織および体液における、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の不均衡、およびMMP阻害剤の不均衡について記述している。PHI−5がMMPおよびMMP阻害剤の間のかかる不均衡を訂正する能力を有することは仮定されている。以前は、多くの研究で、様々な化学源および生物源からの亜鉛および他の二価の金属イオン(銅、カドミウム、ニッケル、カルシウム)によるいくつかのプロテイナーゼの比較できる阻害が示されていた。PHI−5がのせられたマイクロテクスチャー化工されたシリコン創傷カバーは、インビボで標準化した全層熱傷皮膚創傷に置かれた場合、創傷治癒を改善できることが現在見出されている。標準化された動物モデルにおけるPHI−5の効力の研究を通して、PHI−5組成物のシリコン創傷カバーを介しての創傷部位への送達が創傷治癒の第一の効力を改善することが発見されている。
【0007】
標準化された研究は、同一の全層熱傷皮膚創傷を有するモルモットにおいて行われ、その中で該創傷は、創傷部位にインプラントされたシリコン基質上で送達されるPHI−5の初期濃度を変化させて処置した。結果は、送達されたPHI−5の濃度に対応して、最初の週の治癒において創傷サイズに有意な減少を示した。続く3週および6週の解析結果は、創傷の間の創傷サイズの有意な差を示さなかった。これらの初期の結果はPHI−5の持続的放出処方の使用なしに成し遂げられており、したがって創傷治癒の効力における有意な初期の増加は、シリコンで充満した創傷カバーの最初の週の長い適用の結果であったと信じられる。延長し、ゆっくり放出する担体を、マイクロテクスチャー化工されたシリコンパッドまたは生体吸収性インプラント上にのせられたPHI−5に添加することは、さらに創傷治癒の効力を改善する。先行技術で公知のいずれの持続放出性担体または持続放出の方法も、PHI−5と組み合わせて用いて、PHI−5イオンの放出の期間を変化しながら行い、それにより慢性創傷の治療におけるPHI−5の効力を改善させてもよく、これらには特に制限するものではないが、微粒子、コラーゲンまたは成長因子の塩との組合せ、生物分解性の微粒子製剤における被包、フィルムとの組合せまたは持続放出泡が含まれる。
【0008】
一つの態様として例えば、PHI−5は、PHI−5の放出時間をさらに延長するのにマイクロテクスチャー化工されたシリコンパッド上にのせる前に、生物分解性のポリエステルホモポリマー[例えばポリグリコリド、ポリアクチド、およびポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)]と組み合わせてもよい。ここで、該ポリマーは、該ポリマー器具がその機能的な完全な状態を失うまで、生体液などの水環境に曝して分解させ、それによってミクロカプセル化したPHI−5製剤を放出する。該ポリマーの分解速度、およびしたがってカプセル化したPHI−5製剤の送達速度は、用いたポリマーの種類および該ポリマーの特定の組成物で変化し得る。
【0009】
あるいは、コラーゲン送達システムはPHI−5イオンを生体吸収性コラーゲンパッドに組み込んでもよく、次いで該コラーゲンが創傷部位に生体吸収されるので、該イオンが送達される。別の態様として、該PHI−5をナノスパムファイバーおよびコラーゲンパッド上に直接のせてもよい。さらに別の態様として、多層状のシステムを該イオンの遊走をゆっくりにする泡状物をインプラント床に導入する。
【0010】
別の態様として、該PHI−5製剤は成長因子の塩を用いて組み合わせてもよい。成長因子自身のシステムは、PLGA送達およびリポソーム送達のような徐放性システムの使用として開発されてきている。ここで、同システムは成長因子の塩と共に用いられる。別の態様として、該PHI塩はリポソーム送達を介して送達してもよい。この態様において、該PHI−5塩は無極性送達システム中カプセル化されうる。
【0011】
表面上の創傷については、PHI−5の徐放性製剤を含む充満したシリコンパッドの多適用がさらに創傷治癒の効力を改善し得るとさらに信じられている。また、医療インプラント(例えば、歯科用インプラント)の挿入に関連する皮下創傷については、該PHI−5が徐放性製剤内に含まれているPHI−5が充満した本発明の膜は、時間を変化させて該PHI−5製剤の創傷部位への継続的な送達を提供することによって、特に有益となりうる。また、PHI−5を充満したパッドは第IVステージ褥瘡の他の適用する治療に有用でありうる。
【0012】
(発明の詳細な説明)
本発明において用いられるPHI−5用シリコン送達パッドを作るために、医薬グレードのシリコンゴム、例えば、ポリジメチルシロキサン、NuSil MED−4211(NuSilテクノロジー、CA、USA)を規定どおり混合してもよい。該混合物は次いで、微細溝を含むシリコンテンプレートに型取らせ、シリコンの片面が混ぜ織られた(mixtotextured)シートを得てもよい。一つの態様として、該テンプレートは1.0μmの溝の深さおよび10.0μmの隆起部および溝の幅を有してもよい。重合化後、シリコン創傷パッドを作成するために生成したシートから基質を切ってもよい。該基質は創傷を覆うのに適した形および大きさであり得る。該基質は次いで滅菌され、織り込まれた範囲は親水性にされる。一つの態様として、該基質は高周波グロー放電(RFGD;アルゴン、5分)を適用して親水性にされる。最終的に、該基質はPHI−5と同量のアリコートと共にのせて、凍結乾燥する。例えば、該基質は1.25、5.00、10.00、15.00、20.00または25.00μgのPHI−5と共にのせてもよい。あるいは、該基質は全溶液の1重量%まで、より好ましくは全溶液の5重量%まで、より好ましくは全溶液の10重量%まで含む溶液の量と共にのせてもよい。
【0013】
該PHI−5製剤は、PHI−5イオンの持続的放出を様々な時間、例えば、6時間、あるいは12時間、あるいは24時間、あるいは48時間、あるいは72時間、あるいは1週間、あるいは2週間、あるいは3週間、あるいは1ヵ月、あるいは2ヵ月、あるいは3ヵ月の期間にわたって行うために、様々な長期持続的放出製剤または方法のいずれかと組み合わせてもよい。
【0014】
一つの態様として、PHI−5は、PHI−5の放出時間をさらに延ばすために、マイクロテクスチャー化工されたシリコンパッドにのせる前に、生物分解性のポリエステルホモポリマー、例えば、ポリグリコリド、ポリアクチド、およびポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)と組み合わせてもよい。ここで、該ポリマーは、生体液のような水性環境に曝されて劣化し、次いで該ポリマーの仕掛けはその機能的完全性を失い、それによりミクロカプセル化したPHI−5製剤を放出し得る。ポリマーの劣化速度、およびそれによるカプセル化したPHI−5製剤の送達速度は、用いられるポリマーの種類およびポリマーの特定の組成によって変化し得る。
【0015】
あるいは、コラーゲン送達システムは、PHI−5イオンを生体吸収性コラーゲンパッドに組み込んでもよく、次いでコラーゲンが創傷部位で生体吸着されるにつれ、該イオンが送達される。あるいは別の態様として、該PHI−5はナノスパンの繊維およびコラーゲンパッド上に直接のせてもよい。更に別の態様として、インプラント床に該イオンの遊走をゆっくりにする泡を組み込んだ多層のシステムがある。
【0016】
別の態様として、該PHI−5製剤は成長因子の塩を用いて組み合わせてもよい。成長因子自身のシステムは、PLGA送達およびリポソーム送達を含む時間放出システムを用いるために開発されてきている。ここで、同システムは成長因子の塩と共に用いられる。あるいは、該PHI塩は、非極性送達システムにカプセル化されたリポソーム送達を介して送達されてもよい。
【0017】
PHI−5がのせられた膜は、次いで創傷部位にインプラントされてもよい。該膜は、創傷と接触する表面がPHI−5の持続放出性製剤を含むように、およびPHI−5イオンの該創傷への継続的な送達に備えるように、縫合するか、あるいは該創傷に付けてもよい。その後、該充満したシリコンパッドを含む創傷は、滅菌包帯剤で覆われうる。一つの態様として、半透過性ポリウレタン包帯剤がシリコン膜を覆うのに最初用いられ、続いて滅菌メカニカルガーゼおよび包帯剤を更にしっかりとめる外科用テープが用いられ得る。
【0018】
該充満した膜は創傷部位にPHI−5を継続的に送達し、次いで該膜は周りの体組織によって除去、吸着または包摂される。該膜は、負荷されていたPHI−5が創傷に吸着された後、いずれかの適当な間隔で除去されうる。一つの態様として、該膜は1週間後除去されたが、例えば、創傷の種類および深さ、シリコン上にのせられたPHI−5の量およびPHI−5の持続放出の時間に依存して、該膜は残ってより長いまたはより短い間隔で創傷に付いて残っていてもよいことが想像される。例えば、該膜は1週間、あるいは2週間、あるいは3週間、あるいは1ヵ月、あるいは2ヵ月、あるいは3ヵ月間創傷に付けたままでもよい。別の態様として、生体吸収性膜は周りの体組織によって吸収される。
【0019】
さらに、除去された膜はまた、創傷の種類および深さ、治療における進行、適用されたPHI−5の投与量および置き換えの間隔のような要素に依存して、同量、より少ない量またはより多い量のPHI−5で充満した新たなシリコン膜で再度置き換えてもよい。例えば、該膜は毎月、2月毎、毎週、2週毎またはより短い間隔で、除去され、置き換えられ得る。置き換えの間隔は、膜上にのせられているPHIの量、該膜のマイクロテクスチャーのパターン、徐放製剤の送達速度、創傷の大きさおよび創傷の位置のような要素に依存する。PHI−5は水溶性イオン物質であるので、おそらくタンパク質よりずっと速く放出する。このように、長期持続的放出担体をPHI−5に加えることおよび負荷されたシリコン膜の多数の置き換えは、PHI−5イオンの創傷部位への継続的および持続的な放出を可能にし、それにより創傷治癒でのPHI−5の効力を改善する。本出願は更に以下の制限のない実施例によって説明される。
【0020】
実施例1:
標準化された動物モデルにおける全層熱傷皮膚創傷を治療するための速放性製剤中のPHI−5の効力について実験した。あらかじめの処置として、動物を完全に剃毛した。肉様層(panniculus carnosus)に拡がった円形全層熱傷皮膚創傷は、無菌技術を用いて、各モルモットの右側腹部に作られた。次いで、微細溝が彫られたシリコンゴム膜は、速放性製剤中0(コントロール)、1.25、5.00、または10.00μgのPHI−5を含むよう、該創傷の上に縫合された。該シリコン基質は、医療インプラントでPHI−5が充満した膜の挿入をシュミレートするために、該創傷と接触するPHI−5を含む側でインプラントした。実験の方法および結果は以下の段落で説明される。
【0021】
PHI−5との基質
医薬グレードのシリコンゴム(ポリジメチルシロキサン、NuSil MED-4211、NuSil Technology、CA、USA)を規定のとおり混合した。単面を有するマイクロテクスチャーを得るために、該混合物を1.0μmの溝の深さおよび10.0μmの隆起部および溝の幅を有する微細溝を含むシリコンテンプレート(C2V、Enschede、オランダ)に型取らせた。ポリマー化後、直径20mmのコイン型の基質は、生成したシートからカットされた。基質を10%リキノックス(liquinox)溶液(Alconox、New York、NY、USA)中洗浄し、超音波洗浄できれいにし、逆浸透水(MilliQ、Millipore Corp、Bedford、MA、USA)ですっかりすすいだ。その後、該基質を70%および100%エタノール中洗浄し、空気乾燥した。該膜を121℃で15分間滅菌オートクレーブした。高周波グロー放電(RFGD;アルゴン、5分)処置をして、表面付着物を除き、織り込まれた側を親水性にした(hydrophilize)。最終的に、該膜を0(コントロール)、1.25、5.00および10.00μgのPHI−5を含んだ同量のアリコートで負荷させ、終夜凍結乾燥した。
【0022】
適用方法
あらかじめの処置として、動物を完全に剃毛した。手術はO2、N2O、およびイソフルランの一般的な吸入麻酔下行った。創傷を作る前に、アドレナリンを2%含むリドカインで局所麻酔を浸潤して与えた。皮膚をヨウ素で擦り、続いて創傷縮小を測定する標準化された定位ポイント(orientation point)を、あらかじめ作ったスチール型中の固定された穴を用いて、入れ墨インクで作った。図1Aに示したように、この型の中心は、摘出される組織の量の印を付けるのに用いられる20mmφの円形穴を含んでいた。次いで、肉様層(panniculus carnosus)に拡がった円形全層熱傷皮膚創傷は、無菌技術を用いて、各モルモットの右側腹部に作られた。図1Cに示したように、該シリコン基質を、創傷と接触するPHI−5を含む側で、該創傷に縫合した。続いて、創傷を半透過性ポリウレタン包帯剤(テガダーム Tegaderm、3M Co、ミネアポリス、Mn、USA)で覆った。乾燥無菌細密メッシュガーゼ(Tendra Mesoft 5×5cm、Moeilnlycke、Goeteborg、スウェーデン)の1層をテガダーム上に用い、外科用絆創膏(エラストプラスト−E 6cm、バイヤスドルフ、スペイン)の2つの円形層で、該包帯剤を適所に固定した。特別の注意を該包帯のデザインに払った。包帯の外層も前足の前に覆い、これによって、モルモットが前足をかく動きまたは噛むことでそれが除かれるのを防いだ(図1D)。1週間後、PHI−5を含んだシリコン膜を除き、その後包帯を再度巻いた。3または6週後、該創傷およびすべての周りの組織は、組織学的および組織形態計測学的な分析として回復した。
【0023】
創傷の形態計測学的評価
マクロにセッティングしたデジタルカメラを用いて、7、21および42日目に標準化したデジタル創傷写真を取った。写真は、ライカQウィンソフトウェア(Leica Microsystems Imaging Solutions、Ltd、UK)を用いて、各写真上の定規を用いて距離を補正した。写真毎に、創傷表面範囲(WSA)および対照表面範囲(RSA)の2つの測定を作成した(図2A−C参照)。これらは創傷の閉じる量、および創傷の縮小量をそれぞれ示す。
【0024】
組織学的評価技術
回復後、摘出した組織を24時間4%ホルムアルデヒド含有緩衝液中固定し、一連のエタノール中脱水し、およびパラフィン中に包埋した。その後、6μmの部分を、ライカRM2165ミクロトームを用いて切った。25番目毎の部分を集め、ヘマトキシリン−エオシン(Merck、Darmstadt、ドイツ)で染色した。
【0025】
組織形態計測
再上皮化、創傷領域および肉芽組織のコンピューターに基づく画像解析は、組織学的像に基づき行われた。創傷毎に、3つの組織部分を、150μm離して評価用に選択した。3週の切片において、3つのパラメーター:すなわち、新生上皮層の長さ、創傷開口の大きさ、および肉芽コアの最狭の幅を、創傷におけるあらかじめ定められた位置で測定した(図3参照)。6週の切片において、測定は表面の肉芽組織の3つの層においてなされ、その後、表面の肉芽組織の平均の長さを計算した。また、元々摘出された創傷組織のいずれかの側における毛嚢間の最狭距離(元々の皮膚組織の縁を表す)は測定された(図4参照)。
【0026】
統計解析
含量測定からのデータの平均および標準偏差を計算した。次いで、データは、インスタット ソフトウェア(InStat software)(v3.05、GraphPad InStat software、GraphPad Inc.)を用いて、一元配置のANOVAおよびチューキー ポスト ホック試験(Tukey post−hoc test)で比較した。0.05以下のp値は有意差があると考えられた。
【0027】
図2A−Cおよび5A−Dは、1、3、および6週後の標準化されたデジタル創傷写真で行われた測定を示す。また、図3、4、8A−B、9A−B、および10A−Bに示すように、創傷組織を3および6週後、組織学的および組織形態計測学的な評価のために、摘出した。PHI−5の増加濃度が用いられた場合、1週間後により速く創傷が閉じた結果が示された。特に、図6に示すように、1週間後、該創傷の写真は、高濃度のPHI−5について創傷表面範囲(WSA)における減少を示した。特に、有意な結果はコントロール群と最高濃度群との間で見出された。しかしながら、3および6週間後、我々の測定のいずれにおいても試験群の間で差は見出されなかった。これらの結果はPHI−5組成物の速放性製剤を用いて行った。短期間の効果だけが見出される一つのもっともらしい説明は、PHI−5の放出パターンにある。早期の研究から、我々はすでにタンパク質性の成長因子がマイクロテクスチャー化工した表面から、破裂するような方法で24時間以内に放出されることを知っている。PHI−5は水溶性イオン性物質であるので、おそらくタンパク質よりずっと速く放出され、したがって最初の適用物は送達されて1〜2日以内に吸収された。1週目の有意な改善は、速放性製剤での初期の治療を反映する。しかしながら、PHI−5イオンを継続的な適用することなく3週間経過後、創傷の開口の長さ、新生上皮(neo-上皮)、または肉芽組織に関して実験群の中で有意差は見出されなかった(表1)。また、PHI−5イオンを継続的な適用しない6週群において、表面の肉芽組織の長さまたは毛嚢間の距離において有意差は見出されなかった(表2)。
【0028】
組織学
手術から3週間後、摘出された皮膚を、類線維素物質および炎症細胞からなる様々な量の肉芽組織で置換した(図8A−B、9A−B)。すべての摘出された創傷のうち2つは、完全な肉様層(panniculus carnosus)を有しているようであった。5つの創傷(コントロールのすべておよび低濃度群)だけが再認識できる基底の細胞層を含む完全な上皮によって覆われたが、再上皮化は創傷床の範囲全体で観察された。上皮の内層の欠損がまだ存在する場合、創傷の縁での上皮の濃厚化と同様に、多くの表面の毛細血管が見られた。
【0029】
6週の試料のすべての部分において、完全なケラチン状で鱗状の上皮の内層が見られ、それはいくつかの場合釘脚(rete peg)形成の開始を示した(図10)。上皮のすぐ下に、様々な量の肉芽組織が存在し、毛嚢および結合組織のレベル面においてより狭くなった。これらの部分のより深いところでさえ、肉芽組織の広範囲は、あらかじめ存在した肉様層(panniculus carnosus)の両側の間に常に卓越して存在した。
【0030】
組織形態計測
表1に3週後の組織形態計測学的測定の平均および標準偏差を示す(mm)。異なる濃度の群間の有意差は、上皮の欠損の幅、肉芽コアの幅、または新生上皮(neo-epithelial)の長さにおいて見出されなかった。

【0031】
表2に6週後の組織形態計測学的測定の平均および標準偏差を示す(mm)。異なる濃度の群間の有意差は、表面の肉芽組織の幅または群間の最狭の濾胞の距離において見出されなかった。

【0032】
動物モデルを用いた場合のように、創傷床の範囲へのPHI−5のベヒクルの我々の送達の使用に際しては、特別の注意を払わなければならない。創傷の上にシリコン膜を縫合することは創傷開口に副木をする効果を有し、最初の週において創傷収縮を防ぐことが示唆されうる。しかし、これまでの研究で、シリコン膜で覆われたコントロール群と創傷が残った開口を有するシャム(sham)群との間に差はないことはすでに証明されていた。
【0033】
我々の測定結果を考慮すると、1週間後創傷の写真はPHI−5の高濃度について創傷表面範囲における減少を示した。特に、有意な結果がコントロール群と最高濃度群の間で見出された。このことは、インビボで全層熱傷皮膚創傷に置かれる場合、PHI−5で負荷したマイクロテクスチャー化工したポリマー性膜が創傷治癒を改善しうるという我々の仮説を少なくとも部分的に我々が支持できることを意味する。しかしながら、2週間後、両群の間で有意な差はそれ以上測定されなかった。短期間の効果だけを見出したという1つのもっともな説明が、PHI−5の放出パターンにはある。早期の研究から、我々はすでにタンパク質性の成長因子がマイクロテクスチャー化工した表面から、破裂するような方法で24時間以内に放出されることを知っている。PHI−5は水溶性イオン性物質であるので、おそらくタンパク質よりずっと速く放出される。実際、医者は通常PHI−5を含んだ包帯を毎日取り替える。したがって、動物モデルにおけるフォローアップ実験は多様な送達に向けられるか、または適当な遅放性担体を含むべきである。送達の時間構成の次に、PHI−5の効力はまた、投与量にも依存され得る。創傷毎に我々が10.00μgの高濃度で適用させた場合、PHI−5の最大の効果が測定された。治療の最適のレベルを見出すには、ずっと高い濃度で試験しなければならない。
【0034】
実施例2:
PHI−5の長期持続的放出製剤を、PHI−5イオンをミクロカプセル化するために生物分解性のポリマーを用いて製造する。1.25、5.00、10.00、15.00、20.00および25.00μgのPHI−5組成物を含む長期持続的放出製剤のアリコートを、マイクロテクスチャー化工したシリコン膜にのせる。該創傷はアルコールでこすってきれいにし、混入した雑菌をすっかり除き、該創傷に接触するPHI−5を含む側で、該シリコン基質を創傷の上に縫合した。その後、創傷を半透過性ポリウレタン包帯剤で覆い、PHI−5を負荷したシリコン膜を1週間、2週間および1ヵ月該創傷の上に残す。持続放出製剤での結果は、創傷治癒において有意な改善を示す。
【0035】
実施例3:
PHI−5の長期持続的放出製剤を、コラーゲン送達システムを用いて製造する。次いで、1.25、5.00、10.00、15.00、20.00および25.00μgのPHI−5組成物を含む長期持続的放出製剤のアリコートを、マイクロテクスチャー化工したシリコン膜にのせる。該創傷はアルコールでこすってきれいにし、混入した雑菌をすっかり除き、該創傷に接触するPHI−5を含む側で、該シリコン基質を創傷の上に縫合した。その後、創傷を半透過性ポリウレタン包帯剤で覆い、それを1週間該創傷の上に残す。1週間後、該シリコン膜を除き、コラーゲン送達システム中に同用量のPHI−5製剤を負荷した新しいシリコン膜に置換する。該第二のシリコン膜は該創傷部位上に縫合され、半透過性ポリウレタン包帯剤で覆われ、1週間該創傷上に置く。徐放性製剤の多様な連続した適用での結果は、創傷治癒における有意な改善を示す。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1Aは、あらかじめ作成したスチールの型を用いて皮膚の上に描いた手術の領域を示す実施例1の手術の手順の写真である。図1Bは、右側腹部に描いた麻酔されたモルモットを示す実施例1の手術の手順の写真である。図1Cは、シリコン膜を適用させた後の2cmφの円形の創傷を示す実施例1の手術の手順の写真である。図1Dは、包帯の適用を示す実施例1の手術の手順の写真である。
【図2】図2Aは、実験の7日目のキャリブレーションルーラーと共に示す実施例1の創傷の写真である。図2Bは、7日目の実施例1からの創傷の創傷表面範囲(WSA)を図示する。図2Cは、7日目の実施例1からの創傷の対照表面範囲(RSA)を図示する。
【図3】図3は、手術3週間後の実施例1から得られた創傷の組織構造部分における組織形態計測学的測定を図示する。図中、A=新生上皮(neo-epithelium)の長さ、B=創傷の開口、C=肉芽組織の幅、ED=表皮、HF=毛嚢、CT=結合組織、GT=肉芽組織、PC=肉様層、PA=脂肪層。
【図4】図4は、手術6週間後の実施例1から得られる創傷の組織構造部分における組織形態計測学的測定を図示する(表面の肉芽組織の長さは3つの面(A、B、C)、並びに毛嚢(D)間の最狭距離で測定される)。
【図5】図5Aは、7日目の実施例1から得られる創傷の、すべての創傷がまだ開いている創傷の外観を表す。図5Bおよび図5Cは、21日目の実施例1から得られる創傷の、B)創傷がほとんど閉じている、またはC)創傷が完全に閉じている、創傷の外観を表す。図5Dは、42日目の実施例1から得られる創傷の、すべての創傷が閉じている創傷の外観を表す。
【図6】図6は、1週および3週の実施例1での平均の創傷表面範囲(WSA)を図示する。
【図7】図7は、1週、3週および6週の実施例1での平均の対照表面範囲(RSA)を図示する。
【図8】図8Aは、手術3週間後の大きな上皮の欠損を伴った組織構造部分がなお存在することを示す。図8Bは、手術3週間後の組織構造部分のより高倍率の拡大を示す。基底細胞層が創傷床の範囲で不十分であることが示されている。
【図9】図9Aは、手術3週間後の組織構造部分を示す。全手術の創傷範囲は上皮の新たな層で覆われている。図9Bは、手術3週間後の組織構造部分のより高倍率の拡大を示す。新たな上皮層が基底細胞の完全な層を含んでいることを示している。
【図10】図10Aは、手術6週間後の組織構造部分を示す。すべての箇所は上皮で完全に覆われているが、様々な量の肉芽組織が含まれることを示している。図10Bは、手術6週間後の組織構造部分を示す。すべての箇所は上皮で完全に覆われているが、様々な量の肉芽組織が含まれることを示している。
【図1A−D】

【図2A−C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウムイオン、カルシウムイオンおよび亜鉛イオンの治療上の有効量を含む治療組成物の徐放性製剤の有効量をシリコン膜の表面に適用して、徐放性製剤が一定の期間にわたって該治療組成物を送達させるようにし;および
該治療組成物を含んだ側が創傷に接するように該膜を創傷部位にインプラントする工程を含む医療インプラントの挿入に関連した創傷の治療方法。
【請求項2】
該膜がシリコン膜である請求項1の方法。
【請求項3】
該膜が生体吸収性膜である請求項1の方法。
【請求項4】
該生体吸収性膜がコラーゲン膜である請求項3の方法。
【請求項5】
該膜が皮下にインプラントされる請求項1の方法。
【請求項6】
該徐放性製剤が12時間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項1の方法。
【請求項7】
該徐放性製剤が24時間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項1の方法。
【請求項8】
該徐放性製剤が48時間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項1の方法。
【請求項9】
該徐放性製剤が72時間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項1の方法。
【請求項10】
該徐放性製剤が1週間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項1の方法。
【請求項11】
該徐放性製剤が2週間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項1の方法。
【請求項12】
該徐放性製剤が3週間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項1の方法。
【請求項13】
該徐放性製剤が1ヵ月間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項1の方法。
【請求項14】
該シリコン膜の表面がマイクロテクスチャー化工され、その中で該治療組成物がマイクロテクスチャー化工された表面に適用される請求項2の方法。
【請求項15】
該マイクロテクスチャーがシリコン膜の表面の縦にわたって走る複数の微細溝を含む請求項2の方法。
【請求項16】
該微細溝が少なくとも1.0μmの深さを有する請求項15の方法。
【請求項17】
該微細溝が少なくとも10.0μmの溝幅を有する請求項15の方法。
【請求項18】
治療組成物がPHI−5である請求項1の方法。
【請求項19】
1.25μgの治療組成物に相当する1日投与量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項20】
5.0μgの治療組成物に相当する1日投与量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項21】
10.0μgの治療組成物に相当する1日投与量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項22】
15.0μgの治療組成物に相当する1日投与量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項23】
20.0μgの治療組成物に相当する1日投与量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項24】
0.25重量%までの該治療組成物を含む溶液の量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項25】
1重量%までの該治療組成物を含む溶液の量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項26】
5重量%までの該治療組成物を含む溶液の量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項27】
10重量%までの該治療組成物を含む溶液の量を該シリコン膜にのせた請求項18の方法。
【請求項28】
創傷部位から該膜を除き;そして
治療組成物の有効量を第二の膜にのせ;そして
該治療剤を含んだ側が創傷に接するように該第二の膜を創傷に適用する工程をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項29】
該第二の膜に適用される治療剤の量が第一のシリコン膜に適用される量と同じである、請求項28の方法。
【請求項30】
該第二の膜に適用される治療剤の量が第一のシリコン膜に適用される量より多い、請求項28の方法。
【請求項31】
該第二の膜に適用される治療剤の量が第一のシリコン膜に適用される量より少ない、請求項28の方法。
【請求項32】
該膜が毎週取り替えられる請求項28の方法。
【請求項33】
該膜が2週に一度取り替えられる請求項28の方法。
【請求項34】
該膜が毎月取り替えられる請求項28の方法。
【請求項35】
該膜が2ヵ月に一度取り替えられる請求項28の方法。
【請求項36】
創傷から該シリコン膜を除き、有効量の該治療剤をのせた新しい膜を複数回適用させる工程をさらに含む、請求項28の方法。
【請求項37】
該創傷が全層熱傷皮膚創傷である請求項1の方法。
【請求項38】
該創傷が褥瘡である請求項1の方法。
【請求項39】
歯科用インプラントを患者の顎にインプラントする前に、カリウムイオン、カルシウムイオンおよび亜鉛イオンの治療上の有効量を含む治療組成物の徐放性製剤有効量を医療インプラントの表面に適用させて、徐放性製剤が一定の期間にわたって該治療組成物を該インプラント部位に送達させるようにした工程を含む、医療インプラントから生じる創傷の治療方法。
【請求項40】
治療組成物がPHI−5である請求項39の方法。
【請求項41】
該徐放性製剤が1週間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項40の方法。
【請求項42】
該徐放性製剤が2週間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項40の方法。
【請求項43】
該徐放性製剤が3週間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項40の方法。
【請求項44】
該徐放性製剤が1ヵ月間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項40の方法。
【請求項45】
該徐放性製剤が2ヵ月間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項40の方法。
【請求項46】
該徐放性製剤が3ヵ月間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項40の方法。
【請求項47】
該徐放性製剤が3ヵ月間にわたって持続的に該治療組成物を送達させる、請求項40の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5A−D】
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【図6】
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【図7】
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【図8A−B】
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【図9A−B】
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【図10A−B】
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【公表番号】特表2008−503592(P2008−503592A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518276(P2007−518276)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/022306
【国際公開番号】WO2006/002326
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(504206816)グレイストーン メディカル グループ、インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】