説明

微多孔性フィルム及びその製造方法並びに電池用セパレータ

【課題】高い破膜温度を有する耐破膜性に優れた微多孔性フィルム、及びそれを用いた電池用セパレータを提供すること。
【解決手段】ポリプロピレン樹脂組成物からなり、透気度が10秒/100cc〜5000秒/100cc、伸長粘度が30000Pa・s〜60000Pa・s、重量平均分子量が50万〜75万であり、−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程と、90℃以上150℃未満の温度で延伸する熱延伸工程を含む事を特徴とする微多孔性フィルム及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔性フィルム及びその製造方法並びに電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔性フィルム、特にポリオレフィン系微多孔性フィルムは、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等に用いられており、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適に用いられている。また、近年、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器用途として用いられる一方で、ハイブリッド電気自動車等への応用も図られている。
【0003】
リチウムイオン電池に備えられる電池用セパレータは、安全性を確保するために、シャットダウン機能を備えることが必須とされている。シャットダウン機能とは、電池内部の温度が過度に上昇した場合に、電池用セパレータの電気抵抗を急激に増大させることにより、電池反応を停止させて、それ以上の温度上昇を防止する機能である。上記シャットダウン機能の発現機構として、例えば、微多孔性フィルム製の電池用セパレータの場合、所定の温度まで電池内部温度が上昇すると、その多孔質構造を喪失して無孔化し、イオン透過を遮断することが挙げられる。しかしながら、このように無孔化してイオン透過を遮断しても、温度が更に上昇してフィルム全体が溶融し破膜してしまった場合は、電気的絶縁性を維持できなくなってしまう。このようにフィルムがその形態を保持できなくなりイオン透過を遮断することができなくなる温度を破膜温度といい、この破膜温度が高いほど電池用セパレータは耐熱性に優れているといえる。また、上記破膜温度とシャットダウンが開始する温度との差が大きいほど、安全性に優れているといえる。
【0004】
このような事情に対応可能なセパレータとなる微多孔性フィルムを提供することを目的として、例えば、特許文献1には、従来のポリエチレン微多孔性フィルムにポリプロピレン微多孔性フィルムを積層した積層構造を有する複合微多孔性フィルム(電池用セパレータ)が提案されている。
また、特許文献2には、特定の重量平均分子量を有するポリプロピレンから形成される積層微多孔性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3003830号公報
【特許文献2】特許第3939778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載された微多孔性フィルムはいずれも、高い破膜温度を達成する観点からは、なお改良の余地がある。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、高い破膜温度を有する耐破膜性に優れた微多孔性フィルム、及びそれを用いた電池用セパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前述の課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の伸長粘度を有する微多孔性フィルムが、高温においても破れ難いことを見出した。これにより、高い破膜温度を有し、且つリチウムイオン二次電池用セパレータとして好適な耐破膜性を備えた微多孔フィルムを得ることができることを本発明者らは見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
ポリプロピレン樹脂組成物からなり、透気度が10秒/100cc〜5000秒/100ccであり、伸長粘度が30000Pa・s〜60000Pa・sである微多孔性フィルム。
[2]
前記ポリプロピレン樹脂組成物の重量平均分子量が50万〜75万である、上記[1]記載の微多孔性フィルム。
[3]
上記[1]又は[2]記載の微多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。
[4]
上記[1]又は[2]記載の微多孔性フィルムの製造方法であって、以下の(A)、(B)の各工程を含む微多孔性フィルムの製造方法:
(A)ポリプロピレン樹脂組成物からなるフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、
(B)前記冷延伸工程において延伸されたフィルムを90℃以上150℃未満の温度で延伸する熱延伸工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、高い破膜温度を有する耐破膜性に優れた微多孔性フィルム、及びそれを用いた電池用セパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施形態の微多孔性フィルムは、ポリプロピレン樹脂組成物(以下「ポリプロピレン樹脂組成物Ac」と表記する)からなり、透気度が10〜5000秒/100cc、伸長粘度が30000〜60000Pa・sに調整されている。
【0012】
ポリプロピレン樹脂組成物Acは、ポリプロピレン樹脂のみからなるものも含む概念であり、ポリプロピレン樹脂と他の樹脂との混合物であってもよく、さらに任意の添加剤を含有してもよい。
また、「ポリプロピレン樹脂」とは、そのモノマーの主成分がプロピレンであるポリマーをいう。ここで「主成分」とは、ポリプロピレン樹脂を構成するモノマーの全体量に対して50質量%以上を占めるモノマーを意味し、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上、特に好ましくは100質量%(すなわち全量)、を示すモノマーを意味する。
【0013】
本実施形態のポリプロピレン樹脂とは、プロピレンを単量体成分として含む重合体であり、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。透気性や破膜温度の観点からは、ホモポリマーが好ましい。コポリマーである場合、ランダムコポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよい。また、コポリマーである場合、その共重合成分としては、特に限定はなく、例えば、エチレン、ブテン、ヘキセン等が挙げられる。
【0014】
ポリプロピレン樹脂がコポリマーである場合、プロピレンの共重合割合は50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0015】
ポリプロピレン樹脂は、1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。また、重合触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系の触媒やメタロセン系の触媒等が挙げられる。また、立体規則性にも特に制限はなく、アイソタクチックポリプロピレンやシンジオタクチックポリプロピレンを使用することができる。
【0016】
前記他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂や、オレフィン系エラストマー樹脂等が挙げられる。ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0017】
前記ポリプロピレン樹脂と、前記他の樹脂との配合割合としては、前記他の樹脂が前記ポリプロピレン樹脂と前記他の樹脂との総量中に占める割合として、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下であり、0質量%であっても良い。
【0018】
また、本実施形態のポリプロピレン樹脂組成物Acは、上記の成分の他に本発明の特徴及び効果を損なわない範囲で必要に応じて他の付加的成分、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等を含有してもよい。これらの付加的成分の総含有量は、ポリプロピレン樹脂組成物Acの100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0019】
本実施形態のポリプロピレン樹脂組成物AcのMFR(メルトフローレート)は、0.01〜20g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10g/10分であり、更に好ましくは0.3〜1.0g/10分である。MFRが0.01g/10分以上であると、溶融時の伸びが高く、成膜性が良好となる傾向にあり、20g/10分以下であると、ドローダウンが起こり難くなり、成膜性が良好となる傾向にある。ポリプロピレン樹脂組成物AcのMFRは、下記実施例に記載した方法に準じて測定される。
【0020】
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、(A)ポリプロピレン樹脂組成物Acからなるフィルム(以下「原反フィルムAf」と表記する)を−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程と、(B)前記冷延伸工程において延伸されたフィルムを90℃以上150℃未満の温度で延伸する熱延伸工程と、を含むことが好ましい。
【0021】
本実施形態のポリプロピレン樹脂組成物Acからなる原反フィルムAfの製造方法としては、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形、スカイフ法等のシート成形方法を採用し得る。中でも、本実施形態の微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、Tダイ押出成形が好ましい。
【0022】
原反フィルムAfの製造方法において、押出し後のドロー比、すなわち、フィルムの巻取速度(単位:m/分)をポリプロピレン樹脂組成物Acの押出速度(ダイリップを通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度。単位:m/分)で除した値は、好ましくは10〜500、より好ましくは100〜400、更に好ましくは150〜350である。また、原反フィルムAfを巻き取る際のフィルムの巻取速度は、好ましくは約2〜400m/分、より好ましくは10〜200m/分である。ドロー比を上記範囲とすることは、得られる微多孔性フィルムの透気性を向上させる観点から好適である。
【0023】
また、原反フィルムAfには、必要に応じて熱処理(アニール)を施すことが好ましい。アニールの方法としては、例えば、原反フィルムAfを加熱ロール上に接触させる方法、巻き取る前に加熱気相中に曝す方法、原反フィルムAfを芯体上に巻き取り加熱気相又は加熱液相中に曝す方法、並びにこれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。これらのアニールの条件は、例えば、100℃〜150℃の加熱温度で、10秒間〜100時間アニールすることが好ましい。加熱温度が100℃以上であれば、後に得られる微多孔性フィルムの透気性が更に良好となる傾向となり、150℃以下であれば原反フィルムAfを芯体上に巻き取った状態でアニールしてもフィルム同士が融着し難くなる傾向となる。より好ましい加熱温度の範囲は、120℃〜140℃である。
【0024】
冷延伸工程においては、ポリプロピレン樹脂組成物Acからなる原反フィルムAfを、−20℃以上90℃未満に保持した状態で、少なくとも一方向に好ましくは1.05倍〜2.0倍に冷延伸する。
【0025】
冷延伸工程における冷延伸の延伸温度は、−20℃以上90℃未満、好ましくは0℃以上50℃以下の温度である。−20℃以上で延伸すれば原反フィルムAfが破断し難くなる傾向となり、90℃未満で延伸すれば、得られる微多孔性フィルムの透気性がより良好になる傾向となる。ここで、冷延伸の延伸温度とは、冷延伸工程におけるフィルムの表面温度を示す。
【0026】
冷延伸工程における冷延伸の延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上2.0倍以下であり、より好ましくは1.2倍以上1.7倍以下である。延伸倍率が1.05倍以上であると、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向にあり、2.0倍以下であると、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。原反フィルムAfの冷延伸は、少なくとも一方向に行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは、フィルムの押出し方向(以下「MD方向」という)にのみ一軸延伸を行う。
【0027】
本実施形態の製造方法においては、冷延伸工程において、原反フィルムAfを、0℃以上70℃以下の温度で、MD方向に1.1倍〜2.0倍に一軸延伸することが好ましい。
【0028】
次に、熱延伸工程について説明する。
本実施形態における微多孔性フィルムの製造方法は、冷延伸工程において延伸されたフィルムを、90℃以上150℃未満に保持した状態で、少なくとも一方向に好ましくは1.05倍以上5.0倍以下に熱延伸する。
【0029】
熱延伸の延伸温度は、上記冷延伸の延伸温度よりも高ければ特に限定されない。また、熱延伸の延伸温度は、90℃以上150℃未満、好ましくは110℃以上140℃以下の温度である。90℃以上で熱延伸すればフィルムが破断し難くなり、150℃未満で熱延伸すれば得られる微多孔性フィルムの透気性が良好となる。ここで、熱延伸の延伸温度とは、熱延伸工程におけるフィルムの表面温度を示す。
【0030】
熱延伸工程における熱延伸の延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上5.0倍以下であり、より好ましくは1.1倍以上5.0倍以下、更に好ましくは2.0倍以上4.0倍以下である。熱延伸工程における延伸倍率が1.05倍以上であると、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向にあり、5.0倍以下であると、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。熱延伸は、少なくとも一方向に対して行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向に行い、より好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向にのみ一軸延伸を行う。
【0031】
本実施形態の製造方法においては、熱延伸工程において、冷延伸工程を経て冷延伸されたフィルムを、90℃以上150℃未満の温度で、MD方向に2.0倍〜5.0倍に一軸延伸することが好ましい。
【0032】
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、微多孔性フィルムに要求される良好な透気性や用途の観点から、冷延伸工程と熱延伸工程との2段階の延伸工程を含む。微多孔性フィルムの製造方法が延伸工程を1段階で行う方法である場合、得られる微多孔性フィルムは、要求される良好な透気性を満たし難くなる。なお、本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、上述の各延伸工程に加えて、更なる延伸工程を含んでもよい。
【0033】
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、熱延伸工程を経て得られた微多孔性フィルムに対して、好ましくは100℃以上150℃以下の温度で熱固定を施す熱固定工程を含むことが好ましい。この熱固定の方法としては、熱固定後の微多孔性フィルムの長さが、熱固定前の微多孔性フィルムの長さに対して3〜50%減少する程度熱収縮させる方法(以下、この方法を「緩和」という)、延伸方向の寸法が変化しないように熱固定する方法が挙げられる。
【0034】
熱固定温度は、100℃以上150℃以下であることが好ましく、130℃以上140℃以下であることがより好ましい。ここで、熱固定温度とは、熱固定工程における微多孔性フィルムの表面温度を示す。
【0035】
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法における冷延伸工程、熱延伸工程、その他の延伸工程及び熱固定工程の各工程において、延伸又は熱固定は、ロール、テンター、オートグラフ等により、1段階又は2段階以上で、一軸方向及び/又は二軸方向に行うことができる。特に、得られる微多孔性フィルムに要求される透気度や気孔率等の物性や用途の観点から、少なくとも1つの工程において、ロールによる2段階以上の一軸延伸/固定を行うことが好ましい。
【0036】
次に、本実施形態における微多孔性フィルムの物性について説明する。
【0037】
本実施形態の微多孔性フィルムの伸長粘度は30000〜60000Pa・sであり、好ましくは40000〜50000Pa・sである。伸長粘度が30000Pa・s以上であると、微多孔性フィルムの破膜温度が良好となり、60000Pa・s以下であると、フィルム成形時に破断し難くなる。
【0038】
微多孔性フィルムの伸長粘度は、温度200℃、伸長歪み速度10s-1の条件で測定される値であり、ツインキャピラリーレオメーターによる流入圧力損失法を用い、Cogswellの理論[Polymer Engineering Science、12、64(1972)]に従って測定を行うことにより得られる。
【0039】
本発明者らは、微多孔性フィルムの伸長粘度を上記範囲にすることで破膜温度が顕著に向上することを見出した。この要因は、完全には解明できていない。従来技術では、破膜温度を向上させるためには、より融点の高い樹脂を用いることが必要であると考えられていた。しかし、本発明者は、融点が同程度の樹脂であっても、伸長粘度を上記範囲にすることで、微多孔性フィルムの破膜温度を飛躍的に向上させ得ることを見出した。
【0040】
なお、微多孔性フィルムの伸長粘度を高める方法としては、例えば、長鎖分岐を含有するポリプロピレン樹脂組成物を用いる方法や、ポリプロピレン樹脂組成物を有機過酸化物等の架橋剤と共に溶融混練し、適度に架橋させる方法が挙げられる。
【0041】
本実施形態のポリプロピレン樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、30万〜200万であることが好ましく、より好ましくは50万〜100万、更に好ましくは50万〜75万である。Mwが30万以上であれば、微多孔性フィルムの破膜温度が向上する傾向にあり、200万以下であれば、微多孔性フィルムの成膜性が良好となる傾向にある。Mwが50万〜75万であれば、更に、微多孔性フィルムの熱収縮率が低くなる傾向にある。熱収縮率が低くなると、微多孔性フィルムを電池用セパレータとして使用した場合に、電池温度が異常に上昇しても、セパレータの収縮が起こり難くなり、正負極が接触してショートする危険性が低減する傾向にある。
【0042】
また、ポリプロピレン樹脂組成物の分子量分布は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(以下「Mw/Mn」と表記する)で、2.0〜20.0であることが好ましく、より好ましくは3.0〜10.0であり、更に好ましくは5.0〜7.0である。Mw/Mnが2.0以上であれば、ポリプロピレン樹脂組成物Acを成形する際の発熱が抑えられ、樹脂劣化が起こり難くなる傾向にあり、20.0以下であれば、高分子量成分由来の未溶融物が少なくなる傾向にある。Mw及びMnは、ポリスチレンを標準試料として、微多孔性フィルムのゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下「GPC」と表記する)から求められ、詳細には下記実施例に記載した方法に準じて測定される。
【0043】
本実施形態の微多孔性フィルムの気孔率は、20%〜80%であることが好ましく、より好ましくは30%〜70%、更に好ましくは40%〜60%である。気孔率を20%以上に設定することにより、微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合に、十分なイオン透過性を確保し得る傾向にある。一方、気孔率を80%以下に設定することにより、微多孔性フィルムが十分な機械強度を確保し得る傾向にある。
【0044】
なお、微多孔性フィルムの気孔率は、ポリプロピレン樹脂組成物Acの組成、各延伸工程における延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。例えば、その気孔率を高くするには、原反フィルムAfを成形する際のドロー比を高くしたり、延伸倍率を高くしたりすればよい。また、微多孔性フィルムの気孔率は、そのフィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積V(cm3)及び質量M(g)と、フィルムを構成する樹脂組成物Acの密度d(g/cm3)とから下記式を用いて算出される。
気孔率(%)={(V−M/d)/V}×100
【0045】
また、微多孔性フィルムの透気度は、10秒/100cc〜5000秒/100ccであり、好ましくは50秒/100cc〜1000秒/100cc、より好ましくは100秒/100cc〜300秒/100ccである。透気度が5000秒/100cc以下である場合、微多孔性フィルムが十分なイオン透過性を確保し得る。一方、透気度が10秒/100cc以上である場合、欠陥のない、より均質な微多孔性フィルムが得られる。
【0046】
なお、微多孔性フィルムの透気度は、ポリプロピレン樹脂組成物Acの組成、各延伸工程における延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。例えば、その透気度を高くするには、延伸倍率を高くしたり、熱固定における緩和倍率を低くすればよい。また、微多孔性フィルムの透気度は、JIS P−8117に準拠し、ガーレー式透気度計を用いて測定される。
【0047】
微多孔性フィルムの膜厚は、好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜30μmである。
【0048】
本実施形態における微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的にはリチウムイオン二次電池用セパレータとして好適に用いられる。電池用セパレータは、本実施形態の微多孔性フィルムを備える他は、公知の構成を有し、公知の方法により作製されればよい。その他、本実施形態の微多孔性フィルムは各種分離膜としても用いられる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各種特性の評価方法は下記の通りである。
【0050】
(1)MFR
MFRは、メルトインデックスと同義であり、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件下でポリプロピレン樹脂組成物のMFRを測定した。MFRの単位はg/10分である。
【0051】
(2)融点
ポリプロピレン樹脂組成物の融点をJIS K−7121に準拠した方法で測定した。融点の単位は℃である。
【0052】
(3)分子量,分子量分布(Mw/Mn)
ポリプロピレン樹脂組成物における樹脂の分子量分布は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)から求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnの値である。GPC測定は、東ソー社製のGPS装置(商品名「HLC−8121GPC/HT」)を用いて行った。カラムとして東ソー社製の商品名「TSKgel GMHHR−H(20)」(2本)を用い、移動相o−ジクロロベンゼン(o−DCB)、カラム温度155℃、流量1.0mL/分、試料濃度0.5mg/mL(o−DCB)、注入量500μL、試料溶解温度160℃、試料溶解時間3時間の条件で行った。分子量の校正は、ポリスチレンで行い、ポリスチレン換算分子量でMw及びMnを求め、分子量分布を導出した。
【0053】
(4)伸長粘度
微多孔性フィルムの伸長粘度は、流入圧力損失法を用い、Cogswellの理論[Polymer Engineering Science、12、64(1972)]に従って測定を行うことにより得た。測定装置として、ロザンド社製のツインキャピラリーレオメーターを用い、オリフィスは、以下に示すロングダイ及びショートダイを用い、温度200℃、伸長歪み速度10s-1の条件で測定を行った。
ロングダイ:長さ16mm、直径1mm、流入角180°
ショートダイ:長さ0.25mm、直径1mm、流入角180°
【0054】
(5)膜厚(μm)
微多孔性フィルムの膜厚は、ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)を用いて測定した。
【0055】
(6)気孔率(%)
微多孔性フィルムの気孔率は、微多孔性フィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積V(cm3)及び質量M(g)と、フィルムを構成する樹脂組成物の密度d(g/cm3)とから下記式を用いて算出した。
気孔率(%)={(V−M/d)/V}×100
【0056】
(7)透気度(秒/100cc)
微多孔性フィルムの透気度は、JIS P−8117に準拠したガーレー式透気度計にて測定した。なお、微多孔性フィルムの膜厚を20μmとした場合の値に換算した値を、その微多孔性フィルムの透気度とした。
【0057】
(8)熱収縮率
フィルムから12cm×12cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルのMD方向に10cm間隔で2つの印を付け、サンプルを紙で挟んだ状態で、100℃のオーブン中に60分間静置した。オーブンからサンプルを取り出し冷却した後、印間の長さ(cm)を測定し、下記式にてMD方向の熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=(10−加熱後の印間の長さ(cm))/10×100
【0058】
(9)シャットダウン温度
微多孔性フィルムを40mm角のホルダ−に全周拘束状態で取付け、120℃に設定された熱風循環式オ−ブン中に60分間放置した。次いで試料オ−ブンから取り出して拘束状態のまま20℃まで冷却し透気度を測定した。透気度が、10000秒/100cc以下であれば、新たに微多孔性フィルムを用意し、オーブンの温度を5℃上げて同様の試験を行い、透気度が10000秒/100cc以上になる温度をシャットダウン温度とした。
【0059】
(10)破膜温度
微多孔性フィルムを40mm角のホルダ−に全周拘束状態で取付け、170℃に設定された熱風循環式オ−ブン中に60分間放置した。次いで試料オ−ブンから取り出して目視により膜が破れているかどうかを判定した。膜が破れていなければ、新たに微多孔性フィルムを用意し、オーブンの温度を5℃上げて同様の試験を行い、膜が破れる温度を破膜温度とした。
【0060】
尚、使用したポリプロピレン樹脂組成物は以下の通りである。
(Ac−1) プロピレンホモポリマー、プライムポリマー製 E111G
(Ac−2) 長鎖分岐を含有するプロピレンホモポリマー、日本ポリプロ製 SH9000
(Ac−3) プロピレンホモポリマー、プライムポリマー製 F113G
(Ac−4) 長鎖分岐を含有するプロピレンホモポリマー、サンアロマー製 PF814
【0061】
[実施例1]
表1の「ポリプロピレン樹脂組成物の組成」に示したとおり、ポリプロピレン樹脂組成物(Ac−1)80質量部とポリプロピレン樹脂組成物(Ac−3)20質量部を混合し、スクリュー径40mmの二軸押出機を用い、シリンダー温度200℃、押出量40kg/時間の条件で混練しながら押出し、ポリプロピレン樹脂組成物(Ac−5)を得た。得られたポリプロピレン樹脂組成物(Ac−5)について、MFR、融点を測定した。その結果を表1に示す。
【0062】
ポリプロピレン樹脂組成物(Ac−5)を、口径20mm、L/D=30の220℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚4.0mmのTダイから押し出した。押し出した後の溶融したポリプロピレン樹脂組成物(Ac−5)に直ちに25℃の冷風を当て、次いで、95℃に冷却したキャストロールでドロー比200、巻き取り速度15m/分の条件で巻き取り、原反フィルム(Af−1)を得た。
【0063】
得られた原反フィルム(Af−1)を芯体上に巻き取った状態で、130℃の温度で3時間アニールした後、25℃まで冷却し、25℃の温度でMD方向に1.3倍に一軸延伸(冷延伸工程)し、続いて、120℃の温度でMD方向に2.5倍に一軸延伸(熱延伸工程)し、更に、145℃の温度で0.9倍に緩和させて熱固定を施し、微多孔性フィルムを得た。
得られた微多孔性フィルムについて、分子量、分子量分布、伸長粘度、膜厚、気孔率、透気度、シャットダウン温度、破膜温度、熱収縮率を測定した。その結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2〜8、比較例1〜4]
表1に記載した条件以外は実施例1と同様にして、微多孔性フィルムを得た(比較例2については、微多孔性フィルムが得られなかった)。
得られた微多孔性フィルムについて諸物性を評価した。結果を表1に示す。
【表1】

【0065】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜8の微多孔性フィルムは、いずれも、高い破膜温度と良好な透気性(低い透気度)を示した。また、シャットダウン温度と破膜温度の差も大きかった。
これに対し、伸長粘度が30000Pa・sよりも小さい比較例1、比較例3、比較例4は破膜温度が低く、シャットダウン温度と破膜温度の差も小さかった。また、伸長粘度が60000Pa・sを超える比較例2は、原反フィルムの成形が困難であり、微多孔性フィルムを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的には、リチウム二次電池用セパレータとしての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂組成物からなり、透気度が10秒/100cc〜5000秒/100ccであり、伸長粘度が30000Pa・s〜60000Pa・sである微多孔性フィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレン樹脂組成物の重量平均分子量が50万〜75万である、請求項1記載の微多孔性フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の微多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の微多孔性フィルムの製造方法であって、以下の(A)、(B)の各工程を含む微多孔性フィルムの製造方法:
(A)ポリプロピレン樹脂組成物からなるフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、
(B)前記冷延伸工程において延伸されたフィルムを90℃以上150℃未満の温度で延伸する熱延伸工程。

【公開番号】特開2010−265414(P2010−265414A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118916(P2009−118916)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】