説明

微多孔性孔版原紙およびその利用

【課題】 孔版印刷においてインキ乾燥性の高い印刷物を与えることが可能な微多孔性孔版原紙、および、それを用いた孔版印刷用版の製造方法を提供すること。
【解決手段】 非弾性樹脂フィルムからなり、粘度が0.001〜1Pa・sの低粘度インキを用いた孔版印刷に用いられる微多孔性孔版原紙であって、透気度が1〜600秒、厚みが1〜100μmであるようにする。また、上記孔版原紙を用いた製版は、所望の印刷画像の非画線部において熱溶融により上記原紙の微孔を閉塞させてインキ非浸出部を形成するようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、孔版印刷用の原紙として用いられる微多孔性孔版原紙、ならびに、その孔版原紙を用いた孔版印刷用版の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、孔版印刷用の原紙(孔版原紙)としては、赤外線照射またはサーマルヘッドによって穿孔される感熱孔版原紙が知られており、熱可塑性プラスチックフィルムと多孔性薄葉紙とを接着剤で貼り合わせたものが一般に用いられている。また、孔版印刷用インキとしては、主として油中水型(W/O型)エマルションインキが用いられている。孔版印刷では、印刷画像の画線部に穴が開けられた孔版原紙の薄葉紙側からインキが押し出され、印刷用紙に転写されることで印刷が行われる。その際のインキの転移量は、インキの粘度、薄葉紙の密度(インキの通過抵抗の調節)、フィルムの穿孔面積率、印刷圧力、印刷圧時間などで制御される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、これまで孔版印刷においては、印刷用紙へのインキ転移量が多く、インキが印刷用紙に浸透するのに時間がかかるため、インキ乾燥性の点で改良が求められていた。すなわち、印刷用紙表面にインキがなかなか浸透しないことから、印刷直後の印刷物に触れると指等が汚れる、多色印刷の際の2色目以降の印刷や両面印刷における裏面の印刷を続けて行うとインキが印刷機のゴムロール等に転移してそれが印刷用紙に移り印刷物が汚れる、という問題があって、次工程に移るまでに長時間(たとえば10〜20分程度)待たなければならないという不便があった。一方で、単純にインキ転移量を減らしても、得られる画像にかすれが生じるなど画像性が悪くなるという問題が生じる。そこで、画像性を低下させずにインキの転移量を減らすために、1)薄葉紙の密度を上げてインキの通過抵抗を大きくする、2)サーマルヘッド製版においてはサーマルヘッドの素子サイズを小さくして穿孔面積を極力小さくする、3)印刷圧力×印刷圧時間を極力小さくする、といった工夫が行われてきた。
【0004】しかし、上記1)では、薄葉紙の密度を上げるとフィルムと薄葉紙との接点が多くなり、そこにフィルム溶融物がたまりやすいために、製版時の穿孔性が低下して穿孔不良を起こしやすいという問題がある。また、薄葉紙の製法上、その開孔分布を制御することは困難であり、開孔面積の分布が大きいために製版による穿孔面積にばらつきを生じやすく、その結果、インキ通過性の良い部分と悪い部分とが生じて均一なインキ転移量を得ることが難しい。上記2)では、サーマルヘッド素子の高集積化が必要になり、現在600dpiまでは実現しているが、それでも穿孔される孔径は20〜40μm程度の範囲にあり、一般に低粘度インキでインキ転移量を絞るためには穿孔径を20μm以下にする必要にあることから、インキ転移量を制御するには充分とはいえない。さらに、上記3)では、平均値としてインキ転移量を制御することは可能であるが、上述のように、薄葉紙の開孔分布が大きくサーマルヘッドでの穿孔面積にばらつきがありインキ転移量は部分的に不均一となってしまうため、インキ転移量が多い部分では乾燥性が悪いという問題を解決しきれない。
【0005】一方、インキの粘度を低くして印刷用紙へのインキの浸透性を高めることにより乾燥性を上げることも検討されたが、インキの粘度が低くなればそれだけ転移量は多くなるため、さらに孔版の穿孔径を小さくする必要があるが、そのためにサーマルヘッドの素子密度を上げることには限界がある、などの点から現実的な解決策は得られていなかった。このように、孔版印刷において、紫外線硬化型インキのような反応性インキを使用せずに、印刷画像の品質を維持しつつ速乾性の印刷物が得られる印刷方式は未だ提案されていない。
【0006】本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、孔版印刷におけるインキ乾燥性を高めるため、印刷用紙への浸透性の高い低粘度のインキを用いた場合のインキ転移量を制御することが可能な微多孔性孔版原紙、および、それを用いた孔版印刷用版の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、孔版原紙として所定の透気度および厚みを有する非弾性樹脂製フィルムを用いることにより、低粘度のインキを用いた場合にインキの転移量を制御できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】すなわち、本発明に係る微多孔性孔版原紙は、非弾性樹脂フィルムからなり、粘度が0.001〜1Pa・sの低粘度インキを用いた孔版印刷に用いられる微多孔性孔版原紙であって、透気度1〜600秒、厚み1〜100μmであることを特徴とするものである。このような要件を備えた孔版原紙であれば、粘度0.001〜1Pa・sという印刷用紙への浸透性が高い低粘度のインキの透過量を適正に制御することが可能であり、その結果、従来のインキ(粘度2〜10Pa・s)に比べて印刷物におけるインキの乾燥性を格段に高めることができる。また、インキの転移量が絞られているので、印刷物の滲み等も発生しない。原紙を構成するフィルムは非弾性樹脂からなるので、たとえばサーマルヘッド等に押し当てて加熱溶融させる際にも、歪みを生じることなく製版精度を高めることができるとともに、高い印圧で孔版印刷を行っても画像に歪みが生じることがない。
【0009】上記微多孔性孔版原紙の微孔とは、孔版原紙の一方の面から他方の面に通じている気孔であって、インキの通過を可能とするものである。その大きさは、平均孔径0.01〜10μmであることが好ましい。サブミクロン〜ミクロン単位の微孔が高密度に形成されていることにより、にじみにくいような印刷用紙に対しても容易にベタ印刷を行うことができる。また、このような微孔は、非弾性樹脂フィルムを少なくとも一軸方向に延伸させることにより設けられたものであることが好ましい。
【0010】好ましい実施態様においては、熱溶融による製版を可能とするために、非弾性樹脂フィルムとして熱可塑性樹脂フィルムが選ばれ、特に好ましくはポリオレフィンフィルムが用いられる。さらに、製版時の熱溶融を電磁波を用いて行う場合には、微多孔性孔版原紙は、表面または内部に光熱変換物質を備えていることが好ましい。ここで、光熱変換物質とは、任意の波長の電磁波を受けてその光エネルギーを熱エネルギーに変換できる化合物をいい、波長に応じた任意の光吸収剤を用いることができる。また、静電気による搬送不良を防止するために、微多孔性孔版原紙は、表面または内部に帯電防止剤を備えていることが好ましい。上記において、光熱変換物質・帯電防止剤を孔版原紙表面に備えているとは、塗工等の任意の手段により樹脂フィルム表面に少なくともこれらを含む層が形成されていることであり、孔版原紙内部に備えているとは、フィルムを構成する樹脂内にこれらが任意の形態で取り込まれていることをいう。
【0011】さらに、好ましい実施態様において、本発明の微多孔性孔版原紙には、シリコーン系、フッ素系、ワックス系、および界面活性剤系の中から選ばれた離型剤を含む剥離層が表面に設けられている。このような剥離層が形成されていることにより、たとえばサーマルヘッド等の加熱手段を用いた熱溶融により原紙の微孔を塞いで製版するような場合に、溶融孔版原紙の加熱手段への融着や熱収縮を防ぐことができる。離型性能の観点から、この剥離層は、好ましくは、シリコーンリン酸エステルを主成分とする離型剤を含んでいる。
【0012】次に、本発明に係る孔版印刷用版の製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムからなり、透気度1〜600秒、厚み1〜100μmである微多孔性孔版原紙を用いた孔版印刷用版の製造方法であって、所望の印刷画像の非画線部において熱溶融により微多孔性孔版原紙の微孔を閉塞させてインキ非浸出部を形成することを特徴とするものである。このように非画線部の微孔を閉塞させることにより、画線部においてのみ原紙の微孔を通じてインキが浸出するように鏡像で製版を行うことができる。熱溶融に用いる加熱手段としては、サーマルヘッドを用いることが好ましい。それにより、電子データに基づき製版時の制御を容易かつ正確に行うことができ、鮮明な印刷画像を得ることができる。用いられる微多孔性孔版原紙がその表面または内部に光熱変換物質を備えたものである場合は、任意の波長の電磁波を照射して孔版原紙の熱溶融を行ってもよい。
【0013】なお、上記の製版において、非画線部における微孔は、インキの浸出を妨げるために、少なくとも製版面において閉塞されて孔版原紙の一方の面から他方の面に貫通しない気孔となっていればよい(つまり、非製版面においては全面に気孔が残っていてもよい)。
【0014】さらに別の本発明に係る孔版印刷用版の製造方法は、透気度1〜600秒、厚み1〜100μmである微多孔性孔版原紙を用いた孔版印刷用版の製造方法であって、所望の印刷画像の非画線部において樹脂および/またはワックスを付着させることにより、微多孔性孔版原紙の微孔を閉塞させてインキ非浸出部を形成することを特徴とするものである。その際、好ましくは、感熱転写シートからの溶融転写により樹脂および/またはワックスを付着させて微孔を閉塞させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳しく説明する。本発明の微多孔性孔版原紙は、非弾性樹脂フィルムからなり、粘度が0.001〜1Pa・sの低粘度インキを用いた孔版印刷に用いられる微多孔性孔版原紙であって、透気度1〜600秒、厚み1〜100μmであることを特徴とするものである。
【0016】インキの粘度が小さいほど印刷用紙への浸透性が高くなり、粘度が1Pa・sを越えると、印刷用紙への浸透性が充分に得られない。また、一層高いインキ乾燥性(速乾性)が求められる場合は、好ましくは、0.1Pa・s以下の粘度のインキが用いられる。さらに、インキの表面張力は、インキ通過性の観点から、5×10−2N/m以下、さらには4×10−2N/m以下であることが好ましい。インキの着色剤は、孔版原紙の微孔の孔径との関係で、顔料であると目詰まりを起こす恐れがあるので、顔料の場合は微分散性のものを使用し、あるいは染料を使用することが好ましい。その他、インキのビヒクル、添加剤などの成分は特に限定されることはなく、また、特に孔版印刷用インキに限定されることもなく、たとえばインクジェットやスタンプ用の水性あるいは油性インキなどを好ましく用いることができる。
【0017】このような低粘度のインキの転移量を制御するために、上記範囲の透気度(一定の圧力差の下で空気を通過させる程度:ガーレー・デンソメーター(JISP 8117)で測定;以下同様)を有する孔版原紙が用いられる。透気度が600秒を越えるとインキが通過しにくくなるため、実用的ではない。一方、1秒未満であると、インキの転移量の制御が困難になる。
【0018】孔版原紙の厚みは、上記範囲であって、100μmを越えるとインキ通過性が悪くなって充分なベタ均一性が得られなくなるほか、腰が強くなりすぎて製版時のサーマルヘッド等の加熱手段との接触性や操作性が低下する。一方、1μm未満であると、必要な強度が確保できないために実用性に乏しい。操作性を向上させる観点からは、好ましくは10μm以上の厚みのものが用いられる。
【0019】孔版原紙の微孔の大きさは、使用する低粘度インキの粘度や表面張力に応じて任意に選択することができるが、平均孔径(水銀圧入式ポロシメータで測定;以下同様)は、インキの通過性の観点から0.01μm以上であることが好ましく、低粘度インキの粘度が低い場合の転移量制御の観点から10μm以下程度であることが好ましく、さらに好ましくは、0.01〜1μm程度が選ばれる。
【0020】さらに、孔版原紙の気孔率は、インキ通過性の観点から40%以上であることが好ましく、強度の点から90%以下であることが好ましいが、これに限定されることはない。ここで、気孔率は、孔版原紙を構成するフィルム材の比重(A)および微多孔性孔版原紙の比重(B)から、以下の式を用いて求められる。気孔率=(100−B/A)×100
【0021】また、孔版原紙の表面粗さは、製版時のサーマルヘッド等の加熱手段との接触性や、気孔を塞ぐための熱転写シートからの転写性の観点から、Rz(十点平均粗さ:JIS B 0601)で20μm以下であることが好ましい。また、表面粗さが大きすぎると、印刷用紙と孔版原紙との間の凹凸が大きくなって、その隙間に過剰なインキが供給される結果、インキ転移量が必要以上に多くなる恐れもある。
【0022】孔版原紙を構成する非弾性樹脂フィルムのポリマーは、特に限定されることはないが、熱溶融による製版を可能とするために、熱可塑性樹脂を好ましく用いることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;66ナイロン、ナイロン12等のポリアミド;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンまたはそれらの共重合体等の塩素系樹脂;または、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等のフッ素系樹脂;等が挙げられる。これらのうち、特に、ポリオレフィン、なかでもポリエチレンを好ましく用いることができる。これらの非弾性樹脂は、単独で、または、2種以上を組み合わせて多層構造にすることもできる。
【0023】本発明の孔版原紙用フィルム用に好ましく用いることができるポリエチレンの一例として、特開平11−130900号公報に開示されたポリエチレン微多孔膜用のポリエチレンが挙げられる。すなわち、高密度〜低密度の各種ポリエチレン単独ポリマーや、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン等のα−オレフィン単位を含むコポリマー(線状共重合ポリエチレン)を好ましく用いることができ、そのコモノマーの含有量は、エチレン単位に対し数モル%程度(たとえば4モル%以下)であることが好ましい。また、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィンを任意に混合して用いることもでき、その際のポリエチレン以外のポリオレフィンの含有量は、30重量%以下であることが好ましい。
【0024】ポリマーの分子量は、特に限定されず、フィルムの破断強さ、製造時の操作性等の観点から樹脂の種類に応じて任意に選ばれる。たとえばポリエチレンであれば、その重量平均分子量(Mw:ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定;以下同様)は、フィルム延伸時の破断強さ等の点から10万以上であり、成膜時の溶液製造性から400万以下程度であることが好ましく、20万〜70万、さらには25万〜50万であることが一層好ましい。また、ブレンドや多段重合等の手段により重合平均分子量を好ましい範囲に調節することもできる。
【0025】なお、上記のような樹脂はさらに、必要に応じて、分散剤、チクソトロピー性付与剤、消泡剤、レベリング剤、希釈剤、可塑化剤、酸化防止剤、充填剤、着色剤などの添加剤が、微孔の形成等を阻害しない範囲で含んでいてもよい。
【0026】このような樹脂を用いたフィルム(孔版原紙)の作成方法(成膜方法)は、溶融ポリマーを用いたキャスティング法(Tダイ法)等の通常の方法を用いることができる。あるいは、樹脂粒子を焼結させてシート状にしたものでもよい。
【0027】得られたフィルムへの微孔の形成方法についても、特に限定されることはなく、一般的なミクロボイド生成法や溶媒抽出法を用いることができる。具体的には、たとえば、フィルムを熱処理することにより微結晶化させ、これを少なくとも一軸方向に延伸させることで、結晶領域と非結晶領域との境界部分に微小な裂け目を作ることができる。また、フィルム作成時に溶融ポリマーにフィラーを混合しておき、フィルム作成後少なくとも一軸方向に延伸してフィラーの部分で微小な裂け目を作ることもできる。あるいは、ポリマーと溶剤とを加熱溶融してフィルムを作成した後、冷却して溶剤を相分離させ、これを延伸してもよい(このとき、溶剤は延伸前・後のいずれかで抽出される)。その際、樹脂の分散性を上げ造孔性を高めるために無機フィラーを添加してもよい。
【0028】本発明の孔版原紙用のフィルムは、上記のようにして製造できるほか、市販の多孔性プラスチックフィルム、たとえば、旭化成工業(株)の「ハイポア」、(株)トクヤマの「NFシート」(PP系微多孔シート)、「ポーラム」(PE系微多孔シート)、日東電工(株)の「サンマップ」(PE焼結シート)、「ミクロテックス」(四フッ化エチレン樹脂シート)、「ブレスロン」(PE多孔シート)、丸善ポリマー(株)の「パーミラン」(ポリオレフィン系多孔シート)、三井東圧化学(株)の「エスポアール」(ポリオレフィン系多孔シート)、宇部興産(株)の「ユーポア」(PE系微多孔シート)等を用いることも可能である。
【0029】また、孔版原紙は、延伸フィルムであることが好ましい。プラスチックフィルムは、製造時に一定方向に延伸されることで、その後、熱をかけられたときに逆方向に収縮しやすいという特徴を有するため、延伸により熱収縮性が付与された原紙を用いることにより、サーマルヘッドの熱で製版を行う際に、熱溶融による微孔の閉塞性が高まるためである。
【0030】電磁波照射で製版を行う場合に備えて好ましく用いられる光熱変換物質としては、光のエネルギーを効率よく熱のエネルギーに変換する材料が好ましく、具体的にはカーボンブラック、炭化ケイ素、窒化ケイ素、金属粉、金属酸化物、無機顔料、有機顔料、有機染料等が挙げられる。これらの中でも、フタロシアニン系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、ポリメチン系色素のように特定波長領域で大きな吸収をするものが好ましい。これらは単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】また、静電気防止のために用いられる帯電防止剤としては、各種の界面活性剤を用いることができる。具体的には、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、脂肪酸アミン類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、脂肪酸アマイドの硫酸塩類、脂肪族アルコールリン酸エステル塩類等のアニオン系界面活性剤;脂肪族アミン類、第4級アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩類等のカチオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類等のノニオン系界面活性剤;イミダゾリン誘導体、高級アルキルアミン型(ベタイン型)、硫酸エステルリン酸エステル型、スルホン酸型等の両性界面活性剤;が挙げられる。これらは単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】光熱変換物質や帯電防止剤は、成形前の樹脂内部に練り込んでフィルム内部に含まれるようにしてもよいし、フィルム形成後その表面に塗布されてもよい。塗布方法は特に限定されず、たとえば水やアルコールなどの溶剤で希釈して、スプレー、浸漬、刷毛、ロールコーター等を用いて塗布した後、乾燥すればよい。それらの塗布は、微孔形成の前・後いずれの段階で行ってもよい。これらの含有量または塗布量は、特に限定されず、それぞれの添加目的が充分に達せられると共にインキ通過性を阻害しない範囲で、任意に設定されうる。
【0033】さらに、孔版原紙表面には、シリコーン系、フッ素系、ワックス系、および界面活性剤系の中から選ばれた離型剤を含む剥離層が表面に設けられていることが好ましい。具体的には、シリコーンオイル等のシリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、水系エマルションワックス等のワックス系離型剤、リン酸エステル系活性剤等の界面活性剤系離型剤等が挙げられる。これらは単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】これらの中でも、シリコーン系離型剤が優れており、特に、シリコーンオイルの優れた潤滑性と離型性、リン酸エステルの優れた帯電防止性と基材への吸着性、を兼ね備えたシリコーンリン酸エステルを主成分とする離型剤であることが好ましい。また、シリコーンリン酸エステルは常温で液体であるため、サーマルヘッド等の加熱手段に溶融カスが付着することもない。具体的には、ジメチルポリシロキサンと、たとえば(ポリオキシアルキレン)オレフィンアルコールリン酸エステル等のポリオールとを共重合して得られるものであり、下記一般式(1)で表される。
【0035】
【化1】


(式中、a、bは1または2の整数で、a+bは3であり、MはH、Na、K、LiまたはNHであり、Rは、ジメチルポリシロキサンの側鎖にポリオールリン酸エステルを導入した場合には下記式(2)で表され、ジメチルポリシロキサンの末端にポリオールリン酸エステルを導入した場合には下記式(3)で表される。)
【化2】


【化3】


[ただし、式(2)および(3)において、x、y、zは0〜20、好ましくはx+y+zが1〜5、l、mおよびnは0〜200、Rは−(CHCH(式中のpは0〜10であり、好ましくはメチル基)またはフェニル基、Rは−(CH−(OCHCH−(OCHCH(CH))−(OCHCH−OH(式中、q、r、sは0〜20)を示す。]
上記の具体例としては、ジメチコンコポリオールリン酸エステルなどが挙げられる。
【0036】離型剤の塗布方法は特に限定されず、たとえば、剥離剤を含む成分を任意の溶剤に分散または溶解させ、ロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、バーコーター等を用いて塗工してから、溶剤を蒸発させればよい。また、塗布は、微孔形成の前・後いずれの段階で行ってもよい。形成される剥離層の厚みは、インキ通過性を阻害せず且つ充分な離型性が得られるよう、0.001〜0.5g/m程度であることが好ましい。上記のような離型剤を含む剥離層は、さらに、帯電防止剤(上述)、熱溶融物質、バインダー樹脂などを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜含んでいてもよい。
【0037】次に、本発明に係る孔版印刷用版の製造方法の実施態様について説明する。本発明の製版方法は、熱可塑性樹脂フィルムからなり、透気度1〜600秒、厚み1〜100μmである微多孔性孔版原紙を用いた孔版印刷用版の製造方法であって、所望の印刷画像の非画線部において熱溶融により微多孔性孔版原紙の微孔を閉塞させてインキ非浸出部を形成することを特徴とするものである。
【0038】上記熱溶融に用いる加熱手段としては、サーマルヘッドを好ましく用いることができる。サーマルヘッドとしては、ラインサーマルヘッドでもよいし、シリアルタイプのサーマルヘッドであってもよい。
【0039】図1に、サーマルヘッドにより微多孔性孔版原紙の熱溶融を行って製版している状態を模式的に示す。微多孔性孔版原紙10は、任意の送りローラ(図示せず)によりサーマルヘッド20とプラテンローラ21とから構成される画像形成部に送られる。そして、画像信号に基づき発熱するサーマルヘッド20の発熱素子22の熱により、微多孔性孔版原紙10の表面(製版面)が溶融され、微孔が閉塞された閉塞部(非画線部)11が設けられる。ここで、 微多孔性孔版原紙10は、サーマルヘッドへの融着が生じないように、剥離層12を備えている。
【0040】また、別の実施態様においては、γ線、X線、紫外線、可視光線、レーザー光などの任意の電磁波を照射して熱溶融を行うこともできる。その場合は、上述の場合光熱変換物質を備えた孔版原紙を用いることが必要である。
【0041】図2に、電磁波照射により微多孔性孔版原紙の熱溶融を行って製版している状態を模式的に示す。微多孔性孔版原紙10表面に、半導体レーザ30から、画像信号に基いてビームスポット径50μmに集光した赤外線31が照射されると、赤外線照射部において、微多孔性孔版原紙10の表面に設けられた光熱変換物質層13により発生する熱エネルギーによって孔版原紙10の熱溶融が起こり、微孔が閉塞された閉塞部(非画線部)11が設けられる。
【0042】さらに別の本発明の製版方法では、熱溶融により微孔を閉塞する代わりに、所望の印刷画像の非画線部において樹脂および/またはワックスを付着させることにより微多孔性孔版原紙の微孔を閉塞させてインキ非浸出部を形成する。その際、好ましくは、サーマルヘッド等を用いて感熱転写シートから樹脂等を溶融転写させて孔版原紙の非画像部に付着させることができる。なお、付着した樹脂等の一部を微孔内に浸透させることにより、閉塞性を一層高めることもできる。また、PPCトナーを転写してこれを溶融することで微孔を塞ぐようにしてもよい。
【0043】上記樹脂としては、ポリオレフィン系、酢酸ビニル系、ポリアクリル酸系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリスチレン系、石油系、ゴム系樹脂等が挙げられる。ワックスとしては、植物系、動物系、鉱物系等の天然ワックス、石油系ワックス、合成炭化水素ワックス、変性ワックス、水素化ワックス、脂肪酸アミドワックス等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】図3に、サーマルヘッドにより感熱転写シートから樹脂を溶融転写させて微多孔性孔版原紙を製版している状態を模式的に示す。微多孔性孔版原紙10は、任意の送りローラ(図示せず)によりサーマルヘッド20とプラテンローラ21とから構成される画像形成部に送られる。そして、画像信号に基づき発熱するサーマルヘッド20の発熱素子22の熱により、感熱転写シート40の感熱転写層41の一部が微多孔性孔版原紙10の表面(製版面)に転写されて、感熱転写層部42が形成される。この感熱転写層部42の下に、微孔が閉塞された閉塞部(非画線部)が形成される。
【0045】以上のようにして製造された版を用い、その製版面を印刷用紙と重ね、孔版の反対側(非製版面側)から加圧下で低粘度インキを供給することにより、閉塞されなかった原紙の微孔(画線部に相当)からインキがしみ出し印刷用紙に転移して孔版印刷が行われる。具体的な印刷方法は特に限定されず、孔版印刷装置のドラムに版を巻装しドラム内部からインキを供給して連続印刷を行ってもよいし、プリントゴッコのような家庭用の簡易孔版印刷装置を用いて押圧印刷してもよい。その際のインキは、インキ含浸可能な連続気泡を有する材質の含浸体(たとえば、天然ゴム、合成ゴム系のスポンジゴムや合成樹脂発泡体)にインキを含浸させ、これを得られた版の非製版面とを重ねて押圧することで供給することができる。
【0046】
【実施例】以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。孔版原紙としては、表1に示した膜厚、平均孔径、気孔率、透気度、表面粗さを有するポリエチレン微多孔性フィルム(実施例1:ハイポアH3050、実施例2:ハイポアH6022、実施例3:ハイポア4050U3、実施例4:ユーポアupz063、実施例5:ハイポアHN710、実施例6:ユーポアUP2015、実施例7:ハイポアX9817、実施例8:ハイポアH1100A、比較例1:ハイポアH1080C、比較例2:サンマップLC)を用いた。なお、「ハイポア」は旭化成工業(株)の、「ユーポア」は宇部興産(株)の、「サンマップ」は日東電工(株)の、それぞれ商品名である。また、各フィルムの製法を、表1に併せて示す。
【0047】1.被覆性評価以下のようにして、上記各フィルムにおいて約15cm×15cmの面積範囲の微孔を塞いだ(すなわち、白地原稿を製版した)。
(製版1)熱転写プリンターMD5500(アルプス電気(株)製)とMD5500用のプリンターリボン(型番MDC−FLK3)を用い、ワックスで各フィルムの孔を塞いだ。
(製版2)上記各フィルム上に、ジメチコンコポリオールリン酸エステル(Pecosil PS-200, Phoenix Chemical Incorp.)1.0重量部およびイソプロピルアルコール99.0重量部からなる離型剤溶液をワイヤーバーで塗布し、乾燥膜厚0.05g/mの剥離層を形成した。プリントゴッコデジタル製版機(サーマルヘッド付、理想科学工業(株)製)を用い、熱溶融により、各剥離層付フィルムの孔を塞いだ。
【0048】製版1および製版2で得られた版を用い、以下のようにして印刷実験を行い、各フィルムの孔の被覆性(孔閉塞性)を、以下の基準に従い目視で評価した。
(印刷)上記製版1および製版2で得られた版をそれぞれ枠貼りし、プリントゴッコPG−11(理想科学工業(株)製)にセットして、連続気泡スポンジ(「ルビーセル」トーヨーポリマー(株)製)に表面張力3.2×10−2N/m、粘度3.2×10−3Pa・sの水性染料インキ(エプソンIJプリンタ用インキ:型番IC1−BK05)を含浸させたものをインキ含浸体として、孔版印刷を行った。
(孔の被覆性)
◎:孔は完全に塞がっている(印刷物にインキが転移しない)
○:版に若干のピンホール(印刷物に若干の点)が存在するが、実用上問題がない程度×:版にピンホール(印刷物に点)が目立つ
【0049】2.印刷性評価6〜10.5ポイントの文字部分とベタ部分とが混在した印字率25%の原稿を使用して、以下のようにして、上記各フィルムの製版と印刷を行った。
(製版1)上記と同じ熱転写プリンターとプリンターリボンを用いて、上記各フィルム上にワックスの画像(原稿のネガ状態)を形成し、製版を行った。
(製版2)上記と同じ各剥離層付フィルム上に、上記と同じプリントゴッコデジタル製版機を用い、ネガポジ反転させて製版を行った。
【0050】得られた版を用いて上記同様に印刷を行い、得られた印刷物のインキ通過性、画像性およびインキ乾燥性を、以下の評価基準に従って目視で評価した。
(インキ通過性:印刷物のベタ部分の評価)
◎:インキ通過性がよく、ベタが均一に出ている○:ベタに若干の濃度ムラがあるが、実用上問題がない程度×:インキ通過性が悪く、ベタの濃度ムラが目立つ(画像性:印刷物の文字部分の評価)
◎:画像に滲みもなくシャープである○:わずかな滲み・かすれがあるが、実用上問題がない程度×:見た目に明らかな滲み・かすれがある(インキ乾燥性:印刷物の文字部分を指で擦り、擦れ具合を評価)
◎:擦れが生じず、印刷物が汚れない○:若干の擦れが生じ印刷物も若干汚れるが、実用上問題がない程度×:擦れが生じ、印刷物の汚れが目立つ結果を、表1に示す。なお、それぞれの評価項目において、製版1および製版2で得られた結果は同じであった。
【0051】
【表1】


上記実施例の孔版原紙では、被覆性に優れるとともにインキ通過性も良く、得られた印刷物は、ベタ部分も文字部分も良好に表現されていた。また、印刷直後に指で擦っても画像が乱れることもなかった。一方、透気度が2000秒と高い孔版原紙を用いた比較例1では、インキの通過性が悪く、画像品質の低下(かすれ)が見られた。また、透気度が1秒未満と低い孔版原紙を用いた比較例2では、インキ通過性の制御が充分にできず、インキが通過しすぎて画像に滲みが発生するという問題が生じた。また、被覆性の点で劣っていたのは、フィルムが延伸フィルムではないことやフィルムの孔径、表面粗さなどの影響であると考えられる。
【0052】
【発明の効果】本発明の微多孔性孔版原紙は、透気度および厚みが所定範囲に制御されているので、低粘度のインキを用いた孔版印刷用に適しており、乾燥性の高い印刷物を与えることができる。
【0053】また、本発明の孔版印刷用版の製造方法により、低粘度のインキを用いた孔版印刷に用いることができる微多孔性孔版原紙の製版を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る製版方法の一実施形態として、サーマルヘッドを用いて製版を行っている状態を示した模式図である。
【図2】図2は、本発明に係る製版方法の一実施形態として、半導体レーザを用いて製版を行っている状態を示した模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る製版方法の一実施形態として、感熱転写シートとサーマルヘッドとを用いて製版を行っている状態を示した模式図である。
【符号の説明】
10 微多孔性孔版原紙
11 閉塞部(非画線部)
20 サーマルヘッド
30 半導体レーザ
40 感熱転写シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非弾性樹脂フィルムからなり、粘度が0.001〜1Pa・sの低粘度インキを用いた孔版印刷に用いられる微多孔性孔版原紙であって、透気度1〜600秒、厚み1〜100μmであることを特徴とする微多孔性孔版原紙。
【請求項2】 前記非弾性樹脂フィルムが熱可塑性樹脂フィルムである請求項1に記載の微多孔性孔版原紙。
【請求項3】 前記非弾性樹脂フィルムがポリオレフィンフィルムである請求項2に記載の微多孔性孔版原紙。
【請求項4】 前記微多孔性孔版原紙の微孔が平均孔径0.01〜10μmである請求項1〜3のいずれか一に記載の微多孔性孔版原紙。
【請求項5】 前記非弾性樹脂フィルムを少なくとも一軸方向に延伸させることにより微孔が設けられている請求項1〜4のいずれか一に記載の微多孔性孔版原紙。
【請求項6】 表面または内部に光熱変換物質を備えている請求項1〜5のいずれか一に記載の微多孔性孔版原紙。
【請求項7】 表面または内部に帯電防止剤を備えている請求項1〜6のいずれか一に記載の微多孔性孔版原紙。
【請求項8】 シリコーン系、フッ素系、ワックス系、および界面活性剤系の中から選ばれた離型剤を含む剥離層が表面に設けられている請求項1〜7のいずれか一に記載の微多孔性孔版原紙。
【請求項9】 前記剥離層がシリコーンリン酸エステルを主成分とする離型剤を含む請求項8に記載の微多孔性孔版原紙。
【請求項10】 熱可塑性樹脂フィルムからなり、透気度1〜600秒、厚み1〜100μmである微多孔性孔版原紙を用いた孔版印刷用版の製造方法であって、所望の印刷画像の非画線部において熱溶融により前記微多孔性孔版原紙の微孔を閉塞させてインキ非浸出部を形成することを特徴とする孔版印刷用版の製造方法。
【請求項11】 前記熱溶融をサーマルヘッドの熱により行う請求項10に記載の孔版印刷用版の製造方法。
【請求項12】 前記微多孔性孔版原紙がその表面または内部に光熱変換物質を備えたものであって、前記熱溶融を電磁波照射により行う請求項11に記載の孔版印刷用版の製造方法。
【請求項13】 透気度1〜600秒、厚み1〜100μmである微多孔性孔版原紙を用いた孔版印刷用版の製造方法であって、所望の印刷画像の非画線部において樹脂および/またはワックスを付着させることにより前記微多孔性孔版原紙の微孔を閉塞させてインキ非浸出部を形成することを特徴とする孔版印刷用版の製造方法。
【請求項14】 感熱転写シートからの溶融転写により前記樹脂および/またはワックスを付着させる請求項13に記載の孔版印刷用版の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【公開番号】特開2002−2140(P2002−2140A)
【公開日】平成14年1月8日(2002.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−188504(P2000−188504)
【出願日】平成12年6月22日(2000.6.22)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】