説明

微多孔性膜及び形成法

本開示は、微多孔性膜を形成する方法について記載する。より具体的には、蒸気誘導相分離法が、材料処理量が向上したマルチゾーン微多孔性膜を形成するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微多孔性膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な特性を有する微多孔性膜が、フィルタ、通気性物品、吸収性物品、及び医薬用物品などとして多くの近代製品に使用されている。微多孔性膜を製造するには、ドープ層中の相分離を含む多くの方法が知られている。相分離を引き起こす条件を操作することで、異なる形態で微多孔性膜を生じさせ、それをエンドユーザーの特定の要求に適応させることが可能である。
【0003】
相分離が誘発され得る方法の1つは、ドープ配合物を非溶媒と接触させることである。微多孔性膜の作製方法は、米国特許第6,736,971号(Saleら)、同第5,869,174号(Wang)、同第6,632,850号(Hughesら)、同第4,992,221号(Malonら)、同第6,596,167号(Jiら)、同第5,510,421号(Dennisら)、同第5,476,665号(Dennisonら);及び米国特許出願公開第2003/0209485号、同第2004/0084364号(Kools)に更に記載されている。
【0004】
ドープ層を凝固浴槽で凝固させることについて説明されている。ドープ層を凝固させる別の方法としては、非溶媒を蒸気の形態でドープ層に導入することが挙げられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、微多孔性膜を形成する方法を記載する。より具体的には、蒸気誘導相分離法が、材料処理量が向上したマルチゾーン微多孔性膜を形成するために使用される。
【0006】
一態様では、2つ以上のゾーン(例えば、マルチゾーン)を有する微多孔性膜を形成するための方法が提供される。この膜は、高い処理量用途に好適である。本方法は、支持体上に複数のドープ配合物をキャストして、第1主表面を有する多層シートを得ることと、水蒸気が第1主表面内に拡散するように多層シートを第1相対湿度レベルにさらすことと、を含む。本方法は、追加の水蒸気が多層シート中に拡散して相分離を生じさせて、微多孔性膜を得るように、多層シートを、第1相対湿度レベルより大きい第2相対湿度レベルにさらすことを含む。本方法は更に、微多孔性膜を洗浄することと、乾燥させることと、を含む。
【0007】
一態様では、第1ゾーン及び第2ゾーンを含むマルチゾーン微多孔性膜について記載する。マルチゾーン微多孔性膜は、第1ゾーンの平均孔径が第2ゾーンの平均孔径より大きくなるような平均孔径を有する孔を独立して含む。マルチゾーン微多孔性膜は、少なくとも3,000lmh/psi(0.44lmh/Pa)の水分流動率測定値並びに5psi(34kPa)未満の第1ゾーン圧力ピーク及び15psi(103kPa)未満の初期バブルポイント圧力測定値を含む前進流バブルポイント測定値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】マルチゾーン微多孔性膜を形成するプロセスの略図。
【図2】マルチゾーン微多孔性膜の略図。
【図3】三成分系相図の略図。
【図4】第1ゾーン及び第2ゾーンを有する実施例1のマルチゾーン微多孔性膜のSEM顕微鏡写真(断面図)。
【図5a】図4のマルチゾーン微多孔性膜の第1ゾーンの第1主表面のSEM顕微鏡写真(平面図)。
【図5b】図4のマルチゾーン微多孔性膜の第2ゾーンの第2主表面のSEM顕微鏡写真(平面図。
【図6】実施例1のマルチゾーン微多孔性膜(図4)の前進流バブルポイントグラフのグラフ的な説明図。
【図7】実施例4の単一ゾーン微多孔性膜のSEM顕微鏡写真(断面図)。
【図8】実施例4の単一ゾーン微多孔性膜(図7)の前進流バブルポイントグラフのグラフ的な説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、本明細書では特定の実施形態に関して記載されているが、本発明の趣旨から逸脱することなく、様々な修正、再構成、及び置換を行えることは、当業者には極めて明白であろう。したがって、本発明の範囲は、本明細書において添付される請求項によってのみ制限される。
【0010】
用語「ドープ配合物」とは、ポリマー材料及び補助剤を溶媒中に含む組成物を意味する。
【0011】
用語「キャスト」とは、ダイ形成及びドープ配合物を層中に堆積させて、多層シートを形成することを意味する。
【0012】
用語「相対湿度レベル」とは、空気中の水蒸気濃度を意味し、混合物中の水蒸気の分圧対同一温度での水の飽和蒸気圧の比として定義される。相対湿度は通常、百分率で表される。
【0013】
用語「相分離」とは、均質な系(例えば、ドープ配合物)が2つ以上の相に形質転換することを指す。相分離機構の例としては、水蒸気誘発相分離(VIPS)、熱誘起相分離(TIPS)及び液液相分離(LIPS)が挙げられる。
【0014】
用語「補助剤」とは、ドープ配合物のための添加剤(類)を意味する。
【0015】
用語「マルチゾーン微多孔性膜」とは、少なくとも2つの異なる多孔質部分(多孔質部分のそれぞれは「ゾーン」又は「微多孔性ゾーン」と呼ばれる)を有する膜を意味する。
【0016】
端点による数値範囲の記載には、その範囲内に含まれる全ての数が含まれる(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.8、4、及び5を含む)。
【0017】
本明細書及び添付の特許請求の範囲に含まれるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を包含する。したがって、例えば「化合物」を含む組成物の言及は、2つ以上の化合物の混合物を含む。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、用語「又は」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、一般的に「及び/又は」を含む意味で用いられる。
【0018】
特に指示がない限り、明細書及び特許請求の範囲に使用されている成分の量、特性の測定値等を表す全ての数は、全ての例において、用語「約」により修飾されていることを理解されたい。したがって、特に指示がない限り、先行の本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載の数値的パラメータは、本開示の教示を利用して当業者により得ることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低でも、各数値パラメータは、少なくとも報告された有効桁数を考慮して、及び通常の四捨五入法を適用して解釈されるべきである。本開示の広範囲で示す数値的範囲及びパラメータは、近似値であるが、具体例に記載の数値は可能な限り正確に報告する。しかし、いずれの数値もそれらの試験測定値それぞれにおいて見られる標準偏差から必然的に生じる誤差を本来含む。
【0019】
本開示は、VIPSプロセスを使用して、微多孔性膜を形成する。本プロセスは、支持体上にドープ配合物をキャストして多層シートを得ることと、多層シートを2つの異なる相対湿度レベルにて水蒸気にさらすことと、を含む。多層シートは、第1相対湿度レベルにてまずは水蒸気にさらす。水蒸気は、第1主表面に沿って多層シート中に拡散する。理論に束縛されるものではないが、第1相対湿度で水蒸気にさらすことで、多層シート中のドープ配合物が準安定状態へと転換すると考えられている。次に、第1相対湿度レベルより大きい第2相対湿度レベルにて、多層シートを水蒸気にさらす。第2相対湿度レベルの水蒸気もまた、多層シート中に拡散して、そこでの水の濃度を増大させ、ドープ配合物の相分離を引き起こす。水処理した多層シートを洗浄及び乾燥した後、シートの元の層それぞれは、異なる微多孔性ゾーンとなり、それが共通の界面に沿ってお互いに結合し、共にマルチゾーン微多孔性膜を形成する。
【0020】
図1は、上記の方法によって微多孔性膜を形成するためのプロセスフローチャートである。示されるように、ドープ配合物を最初に支持体上にキャストして、多層シートを形成する。次に、多層シートを第1相対湿度レベルにて水蒸気にさらし、続いて第2相対湿度レベルにて水蒸気にさらす。第2相対湿度レベルにさらした後、微多孔性膜は通常、洗浄及び乾燥されて、マルチゾーン微多孔性膜を得る。
【0021】
図2は、本開示のマルチゾーン微多孔性膜200を示す。マルチゾーン微多孔性膜200は、第1ゾーン210及び第2ゾーン220を有する。第1ゾーン210及び第2ゾーン220は、共通の界面230に沿ってお互いに接合される。第1ゾーン210及び第2ゾーン220は共に、VIPSプロセスによって形成された複数の微細孔(図示せず)を含む。本開示の実施形態では、第1ゾーン210は、第2ゾーン220の孔の平均孔寸法よりも大きな平均孔寸法を持つ孔構造を含む。第1ゾーン210の第1主表面240は共通の界面230の反対に位置し、第2ゾーン220の第2主表面250は、マルチゾーン微多孔性膜200の共通の界面230の反対に位置する。
【0022】
本明細書で形成されるマルチゾーン微多孔性膜は、凝固浴槽を使用することなく形成され、あるいは複数の単一ゾーン膜層の構造体から形成される。凝固浴槽を排除することで、濾過及びこのような浴槽及び関連装置を洗浄する必要が無くなったため、微多孔性膜の形成に従来伴った全体コストが削減される。得られたマルチゾーン微多孔性膜は、高い材料処理量、速い水流及びしっかりした親水性の組み合わせを有する。
【0023】
様々な実施形態では、ドープ配合物は、多層シートの厚み全体を通して相分離の速度及び深さを制御するため、並びに最終マルチゾーン微多孔性膜中の特定のミクロ構造の形成に影響を与えるためのポリマー材料、補助剤、溶媒及び添加剤を含む。
【0024】
ポリマー材料及び/又はドープ配合物の補助剤の濃度は、ゾーンそれぞれでの最終ミクロ構造の形成に影響を与え、第1及び第2相対湿度レベルでの多層中への水蒸気の拡散度を高め、得られた微多孔性膜の一体性に影響を与え得る。簡単に述べると、ドープ配合物のポリマー材料の濃度が低すぎると、膜は形成されない。同様に、ドープ配合物中のポリマー材料の濃度が高すぎると、好ましくない又は不規則なミクロ構造が生じ得る。
【0025】
多層シート中の層として配合物をキャストすることを促進するためにドープ配合物の所望の粘度及び/又は表面張力を提供するために、ある程度はポリマー材料の濃度を選択できる。好適なポリマー材料は一般に、水蒸気にさらすことによって微細孔(例えば、ミクロ構造)を形成できる材料を含む。幾つかの実施形態では、ドープ配合物は、ドープ配合物の総重量を基準にして約5重量%〜約15重量%の範囲の濃度を有するポリマー材料を含む。幾つかの実施形態では、ポリマー材料の濃度は、ドープ配合物の総重量を基準にして約7重量%〜約14重量%の範囲、又は約9重量%〜約14重量の範囲である。
【0026】
少なくとも2つの異なるドープ配合物(即ち、第1ドープ配合物及び第2ドープ配合物)から構成される膜の製造において、第2ドープ配合物は、当該第1ドープ配合物中のポリマー材料の濃度より高いポリマー材料濃度を有し得る。
【0027】
多数のポリマー材料が、ドープ配合物中に含まれるのが好適であり、好適なドープ配合物は、単一ポリマー材料又はポリマー材料のブレンドを含み得る。ポリマー材料は、非晶質、結晶性、又は部分的に結晶性であり得る。幾つかの実施形態では、第1ドープ配合物中のポリマー材料は、第2ドープ配合物中のポリマー材料と同じである。他の実施形態では、第1ドープ配合物中のポリマー材料は、第2ドープ配合物中のポリマー材料とは異なる。
【0028】
好適なポリマー材料の例としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、酢酸セルロース又は硝酸セルロースなどのセルロースエステル、ポリスチレン、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、アクリル又はメタクリルポリマーのコポリマー、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
幾つかの実施形態では、ドープ配合物のポリマー材料は式(I)のポリエーテルスルホンである。
【0030】
【化1】

【0031】
更なる実施形態では、ドープ配合物のポリマー材料は式(II)のポリエーテルイミドである。
【0032】
【化2】

【0033】
様々な実施形態では、好適なドープ配合物は、当該配合物が多層シートの層としてキャストできるほど十分な粘度を持つように処方される。ドープ配合物に好適な粘度は、キャスト工程に続いて、溶融したドープ配合物を支持する基材の実際の又は予想されるラインスピードなどの特定のプロセス条件に依存し得る。同様に、ドープ配合物の表面張力、一般的ビード安定性及びその他の流体特性などの因子が、コーティング均一性を確実にするために考慮される。前述の因子は更に、本明細書で利用されるVIPSプロセスによるドープ配合物層中への水蒸気の拡散にも影響を与え得る。
【0034】
幾つかの実施形態では、ドープ配合物の適切な粘度は約2,000センチポアズ〜約8,000センチポアズの範囲内である。幾つかの実施形態では、ドープ配合物の粘度は約2,000センチポアズ〜約7,000センチポアズの範囲であり、又は約3,000センチポアズ〜約6,500センチポアズの範囲である。
【0035】
本明細書のドープ配合物は、少なくとも1つの溶媒を含む。好適な溶媒とは、ポリマー材料を溶解して均質な溶液を提供するようなものである。様々な実施形態では、溶媒は、ドープ配合物中に存在するポリマー材料、補助剤及び任意の添加剤と相溶性である。溶媒は、VIPSプロセスの1つ以上の工程、並びに得られる微多孔性膜の特性に影響を与えるように、当業者が選択することができる。例えば、溶媒の選択によって、多層シートの相分離速度、完成した膜内に形成されるミクロ構造のタイプ、又はドープ配合物の層内のミクロ構造形成の深さに影響を与え得る。本開示において有用なドープ配合物のための溶媒の例としては、例えば、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、テトラメチル尿素、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルアセテート、エチルアセテート及びその他のアルキルアセテート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。ポリエーテルスルホンポリマーを使用する幾つかの実施形態では、溶媒はN−メチル−2−ピロリジノンである。溶媒は、本質的にオリゴマー又はポリマーであることができる。幾つかの実施形態では、ドープ配合物は、1つを超える溶媒、又は溶媒のブレンドを含むことができる。
【0036】
溶媒は、ドープ配合物をキャストして微多孔性膜を形成するための安定した均質な溶液を提供する。溶媒は、中にある選択されたポリマーを溶解する能力に応じて、「良」溶媒、「非溶媒」、及び「貧」溶媒に分類される。「良」と分類される溶媒は、ポリマー分子と溶媒分子との間の相互作用(引きつける力)が、ポリマー分子間の引きつける力より大きいものである。非溶媒においては、その逆である。「貧」とされる溶媒は、ポリマーと溶媒との間の相互作用が、ポリマー分子間の引きつける力に等しいものである。
【0037】
一実施形態では、安定した均質なドープ配合物は、良溶媒中に選択したポリマーをまず溶解させることによって得ることができる。ポリマー材料をポリエーテルスルホンの形態で有するドープ配合物の場合、好適な「良」溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルアセトアミド、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、テトラメチル尿素、及びテトラクロロエタンが挙げられる。一般に、良溶媒は相当量のポリマー材料を溶解することができる。幾つかの実施形態では、「良」溶媒は、ドープ配合物の総重量を基準にして、少なくとも約5重量%のポリマー濃度のポリマー材料と混和性であるものである。
【0038】
ポリマーとの相溶性について溶媒を評価するための1つの有用な方法は、ヒルデブランド溶解度パラメータの使用である。これらのパラメータは、材料の凝集エネルギー密度の平方根で表される溶解度パラメータ((圧力)1/2単位を有する)を意味し、これは、
(ΔH−RT)1/21/2
に等しく、
式中、
ΔHは、材料のモル蒸発エンタルピーであり、
Rは一般気体定数であり、
Tは絶対温度であり、
Vは溶媒のモル体積である。
【0039】
ヒルデブランド溶解度パラメータは、溶媒については、Barton,A.F.M.の「Handbook of Solubility and Other Cohesion Parameters」(第2版、CRC Press、Boca Raton、Fla.、1991年)にて、モノマー及び代表的ポリマーについては、「Polymer Handbook」(第4版、J.Brandrup)及びE.H.Immergut)編、John Wiley、NY、VII 675〜714ページ、1999年)にて、そして多くの市販のポリマーについては、Barton,A.F.M.の「Handbook of Polymer−Liquid Interaction Parameters and Solubility Parameters」(CRC Press、Boca Raton、Fla.、1990年)にて、表の形にまとめられている。
【0040】
ドープ配合物のために選択される補助剤は一般に、溶媒に可溶性でありかつポリマー材料と相溶性である。補助剤をドープ配合物に加えて、それを多層シートの層としてキャストする前に、ドープ配合物の粘度を調整することができる。同様に、ドープ配合物中の補助剤の濃度は、VIPSプロセス中にドープ配合物の層中への水蒸気の拡散に影響を与え得る。補助剤をドープ配合物に添加して、VIPSプロセスでの相分離の率(速度)を制御することもできる。幾つかの有用な補助剤としては、例えば、ポリ(アルキレン)グリコール、ポリエーテル、又はこれらの組み合わせが挙げられる。幾つかの実施形態では、補助剤はポリ(エチレン)グリコールである。
【0041】
選択された濃度でドープ配合物に加えられる補助剤は、ドープ配合物の層内の所定の深さでの相分離に影響を与え得る。幾つかの実施形態では、ドープ配合物の層内での相分離の深さは、層の厚みの約5パーセント〜約100パーセントの範囲である。
【0042】
幾つかの実施形態では、複数のドープ配合物中の補助剤(類)の濃度は、相分離に影響を与えるように、かつ異なる孔径分布及び異なる多孔性をマルチゾーン微多孔性膜内の各々の異なる領域に付与するように選択される。異なる平均孔径のゾーンを有するマルチゾーン微多孔性膜は、特定の高い材料処理量の及び高流動率の濾過の用途において有用である。
【0043】
幾つかの実施形態では、ドープ配合物中の補助剤濃度は、ドープ配合物の総重量を基準にして約60重量%〜70重量%の範囲であることができる。幾つかの実施形態では、補助剤の濃度は、ドープ配合物の総重量を基準にして約60重量%〜約68重量%の範囲、又は約62重量%〜約68重量の範囲である。
【0044】
VIPSプロセスを使用したマルチゾーン微多孔性膜の製造において、ドープ配合物をまず支持体上にキャストして多層シートを得る。支持体は、プラスチック又は金属シートであることができ、連続的又は不連続的(例えば、分離性)であり得る。選択された支持体は、キャスト中、並びに第1及び第2加湿環境下での移送中、並びに洗浄及び乾燥プロセス中に、ドープ配合物の積み重ね層に安定性を提供する。
【0045】
複数のドープ配合物は通常、キャストして支持体上に多層シートを形成する。この構成では、第1ドープ配合物層は第2ドープ配合物層上に積み重ねられ、層間で界面が形成される。第2ドープ配合物層は、直接支持体上に配置され、第1ドープ配合物層は支持体の反対側の第2ドープ配合物の上部に配置される。得られた多層シートは、第1ドープ配合物層上の露出表面と一致する第1主表面を有する。
【0046】
幾つかの実施形態では、2つのドープ配合物層を同時にキャストして、上述の構成を得る。多数の既知の技術及び装置のうちのいずれかを使用して、複数のドープ配合物を同時にキャストすることができる。幾つかの有用な装置としては、マルチパスアプリケーター、デュアルナイフオーバーロール装置、デュアルレイヤースロット供給ナイフダイ、及びドープ配合物のキャストのための当該技術分野において公知のその他関連装置が挙げられる。
【0047】
任意のドープ配合物層の厚みは、当業者には知られているように、幾つかの変数に依存する。例えば、層厚は、対応するドープ配合物のレオロジー及び粘度と同様に、装置設定に依存し得る。更に、キャストのための前述の方法は通常、ドープ配合物を多層シートへとキャストする際に、それらを成形するためのダイの使用を伴う。したがって、ドープ配合物層の厚みは、キャスト作業に使用される特定のダイスロットのギャップ寸法の影響を直接受ける。更に、ドープ配合物の粘度に適応するように、ギャップ寸法をある程度調整してよい。デュアルナイフオーバーロール装置を使用してドープ配合物をキャストする場合、ギャップ寸法は、約150マイクロメートル〜約300マイクロメートルの範囲であることができる。
【0048】
ドープ配合物層をキャストして多層シートを形成した後、多層シートを少なくとも2種の加湿環境にさらして、層状のドープ配合物層内における相分離及びミクロ構造の形成を引き起こす。
【0049】
微多孔性膜の形成に好適なドープ配合物の構造は、ポリマー溶解度、成分の混和性、並びにポリマー、溶媒、及び水の濃度の原理を考察することを通じてより良く理解される。ある濃度において、ポリマー材料は溶媒と完全に混和する。その他の濃度では、相分離領域が存在する。
【0050】
図3を参照すると、代表的ドープ配合物の成分の三成分系相図300、つまりポリマー濃度、水濃度及び溶媒濃度が示されている。図3は、3つの成分間の関係を示す。この図300では、バイノーダル曲線305が領域320及び330を描いている。各領域は、ドープ配合物の成分濃度の領域を表しているが、領域320は熱力学的に安定な成分濃度を表し、領域330は熱力学的に不安定な成分濃度を表している。したがって、ポリマー濃度と溶媒及び水濃度との関係はバイノーダル曲線305によって図示されている。領域330は、スピノーダル曲線310とバイノーダル曲線305との間に領域340を含むように更に分割される。スピノーダル曲線310及びバイノーダル曲線305は、いわゆるシータ状態(θ)を表すポイント315で交差する。理論に束縛されるものではないが、θにおいては、ポリマー材料分子と溶媒分子との間の相互作用の力は、同一ポリマーの他の分子に対するポリマー分子の相互作用の力に等しい。領域304内に成分濃度を有するドープ配合物は、組成物が相分離前に準安定状態にあると考えられることを示している。領域330内かつ領域340外に成分濃度を有するドープ配合物は、相分離した組成物を表す。
【0051】
VIPSプロセスによるドープ配合物の処理において、配合物は水蒸気にさらされて、配合物の含水量を増加させ、それによって溶媒及びポリマーの濃度を変える。VIPSプロセスでは、水(例えば、水蒸気として)をドープ配合物に加え、成分濃度が領域320(ここでは、配合物が熱力学的に安定(例えば、溶液))から領域340(ここでは、配合物が準安定状態で存在すると考えられている)まで移動するまで配合物の成分濃度を変えることによって、均質な溶液の相分離を誘導しようとする。第2相対湿度レベルでの水蒸気に少なくとも1回更にさらすことにより、十分な量の水蒸気がドープ配合物中に拡散して、配合物の成分濃度がそれを領域340外に、更には相分離が生じる領域330内に移動させる。
【0052】
加湿環境(即ち、チャンバ又はステーション)を使用して、水蒸気を多層シートのドープ配合物に送達してよい。例えば、水蒸気は加湿チャンバ内へ蒸気を注入することによって送達させることができる。チャンバ内に置かれたセンサーを使用して、実際の気温及び相対湿度(%)(例えば、相対湿度レベル)をモニターすることができる。水蒸気への曝露時間は、用いられる相対湿度レベル、気温、及び気相(例えば、蒸気)速度などの因子に応じて、有用な範囲内で変化し得る。様々な実施形態では、多層シートの曝露時間は、例えば、約7.5分〜約25分の範囲であることができる。幾つかの実施形態では、曝露時間は、例えば、約10分〜約22.5分の範囲、約10分〜約20分の範囲、又は約12.5分〜約20分の範囲であることができる。
【0053】
本明細書に記載されたポリマー及び溶媒からなるドープ配合物へ水蒸気を送達する際に、第1相対湿度レベルは、約45パーセント〜約55パーセントの範囲であることができる。幾つかの実施形態では、第1相対湿度レベルは、約46パーセント〜約54パーセントの範囲、約46パーセント〜約53パーセントの範囲、又は約46パーセント〜約52パーセントの範囲であることができる。第1湿度レベルにてしばらくの間、水蒸気にさらした後、多層シートを第2相対湿度レベルにさらして、相分離を生じさせる。第2相対湿度レベルは、第1相対湿度レベルよりも少なくとも5パーセント高い。幾つかの実施形態では、第2相対湿度レベルは、第1相対湿度レベルよりも、少なくとも6パーセント、少なくとも7パーセント、少なくとも8パーセント、少なくとも9パーセント、又は少なくとも10パーセント大きい。第2相対湿度レベルは、約60パーセント〜約80パーセントの範囲であることができる。幾つかの実施形態では、第2相対湿度レベルは、約60パーセント〜約75パーセントの範囲、約62パーセント〜約75パーセントの範囲、又は約65パーセント〜約75パーセントの範囲である。
【0054】
幾つかの実施形態では、多層シート内のドープ配合物は、第1相対湿度レベルと第2相対湿度レベルとの中間にある相対湿度レベルにて水にさらされる。ある種のドープ配合物に関して、又は特定のプロセス条件下では、ドープ配合物の含水量を徐々に増加させるために、中間の相対湿度レベルが望ましい場合がある。一実施形態では、第1相対湿度レベルは、約45パーセント〜50パーセントの範囲であることができ、中間相対湿度レベル(例えば、中間)は、約50パーセント〜55パーセントの範囲であることができ、第2相対湿度レベルは、約55パーセント〜65パーセントの範囲であることができる。
【0055】
水蒸気の送達に使用される加湿環境及び上述の相対湿度レベルは通常、約15℃〜約55℃の所望の温度範囲内に維持される。幾つかの実施形態では、温度は、例えば約20℃〜約50℃、約20℃〜約47℃、又は約20℃〜約45℃の範囲であり得る。
【0056】
水蒸気にさらした後、得られた相分離微多孔性膜は洗浄及び乾燥プロセスにさらされる。微多孔性膜を洗浄することは、ドープ配合物中に使用される、水などの溶媒の除去に役立つ。記載された洗浄工程は、膜のミクロ構造が崩壊しないようにするのを助ける。洗浄は、スプレー、浸漬、並びに溶媒及び水を除去するためのその他の技術によって達成することができる。一実施形態では、膜は流体ベアリングローラーによってタンク内を移動する。洗浄後、微多孔性膜は、対流、自然乾燥及び真空処理により乾燥させることができる。幾つかの実施形態では、膜は周囲条件にて空気中で乾燥される。
【0057】
マルチゾーン微多孔性膜に形成される効果的な孔径(例えば、平均孔径)は、約0.05マイクロメートル〜約2マイクロメートルの範囲であり得る。幾つかの実施形態では、微多孔性膜からの孔寸法は、例えば、約0.1マイクロメートル〜約1.5マイクロメートルの範囲、又は約0.2マイクロメートル〜約0.8マイクロメートルの範囲であることができる。幾つかの実施形態では、微多孔性膜の孔寸法は、1つ以上のゾーンの厚みを通して、ほぼ均一又は対称であり得る。ゾーンは、ゾーンの厚みの一部又はゾーンの厚み全体を通して延びる孔の対称分布を有することができる。幾つかの実施形態では、記載された方法により形成されるマルチゾーン微多孔性膜は、それらの対応するゾーンの厚みを通して延びる、ほぼ対称の孔分布を有する少なくとも2つのゾーンを含む。
【0058】
膜の孔径とは、相分離中に形成されるミクロ構造内の開口部の平均直径を指す。孔径は、例えば、バブルポイント圧力方法(bubble point pressure methods)により測定できる。幾つかのその他の孔径及び孔径分布測定方法には、例えば、溶質保持、及び流量/圧力法が挙げられる。孔の直径は、多孔度(porometry)分析により、及び別個のバブルポイント測定(高いバブルポイントは、より稠密な又はより小さい孔であることを示す)により推定することもできる。
【0059】
異なる孔寸法をそれらの対応するゾーンそれぞれの中に有する少なくとも2つのゾーンを含むマルチゾーン微多孔性膜を形成することができる。
【0060】
本明細書で記載された方法により形成される微多孔性膜は、第1ゾーン及び第2ゾーンを有するマルチゾーン微多孔性膜を提供する。第1ゾーンの孔は、第2ミクロ構造を提供する第2ゾーンに形成される孔より大きな孔寸法を有する第1ミクロ構造を提供する。
【0061】
形成されるミクロ構造は、ドープ配合物及び処理パラメータに依存し得る。第1のミクロ構造及び第2のミクロ構造は、膜を貫く連続的又は非連続的な経路を提供できる。ミクロ構造の形成は、ドープ配合物の幾つかの成分(例えば、ポリマー材料、コーティング補助剤、非溶媒)の濃度及び水蒸気濃度に依存し得る。ミクロ構造のモルホロジー(例えば、対称又は非対称)は、ドープ配合物の計測(例えば、層厚み)、相対湿度レベル及び/又は相分離速度に更に依存し得る。モルホロジーは、相分離メカニズム、並びに関連する圧力及び温度処理条件にも依存し得る。
【0062】
幾つかの実施形態では、微多孔性膜の第1ゾーンは、第2ゾーンの平均孔寸法より大きい平均孔寸法を有する。第1ゾーンの平均孔寸法対第2ゾーンの平均孔寸法の比は、例えば、約10:1〜約2:1の範囲であることができる。
【0063】
キャストされ、続いて溶媒を除去し、次に微多孔性膜の洗浄及び乾燥工程を経た時点での形成された微多孔性膜の厚みは、ドープ配合物層の厚みに依存し得る。幾つかの実施形態では、微多孔性膜の厚みは、例えば、約125マイクロメートル〜約150マイクロメートルの範囲であることができる。幾つかの実施形態では、微多孔性膜の厚みは、約125マイクロメートル〜約145マイクロメートルの範囲、約125マイクロメートル〜約140マイクロメートルの範囲、又は約125マイクロメートル〜約135マイクロメートルの範囲であることができる。
【0064】
一実施形態では、マルチゾーン微多孔性膜の第1ゾーンの厚みは、第2ゾーンの厚みよりも大きい。別の実施形態では、マルチゾーン微多孔性膜の第1ゾーンの厚みは、第2ゾーンの厚みに等しい。
【0065】
本出願の方法により形成されたマルチゾーン微多孔性膜は、濾過用途にて使用可能である。例えば、第1ゾーンは、より大きな粒子を捕捉するためのプレフィルタとして機能することができ、第2ゾーンはより小さい粒子を捕捉することができる。
【0066】
第1ゾーン及び第2ゾーンを含むマルチゾーン微多孔性膜は、平均孔径を有する孔を含む。第1ゾーンの平均孔径は通常、第2ゾーンの平均孔径より大きい。
【0067】
一態様においては、本明細書で形成されるマルチゾーン微多孔性膜は、少なくとも3,000lmh/psi(0.44lmh/Pa)の水分流動率測定値並びに5psi(34kPa)未満の第1ゾーン圧力ピーク及び15psi(103kPa)未満の初期バブルポイント圧力測定値を含む前進流バブルポイント測定値を有する。
【0068】
幾つかの実施形態では、既に述べたように単一ゾーン微多孔性膜に重ね合わせたマルチゾーン微多孔性膜を含む微多孔性膜の組み合わせを形成することができる。本発明で使用する場合、用語「単一ゾーン微多孔性膜」とは、単一ドープ配合物の蒸気誘導相分離から生じた少なくとも1つの多孔質ゾーンを有する微多孔性膜を意味する。幾つかの実施形態では、単一ゾーン膜は、2つ以上の層を有することができるが、得られた膜ゾーンはほぼ同一の平均孔径を有する。このような単一ゾーン膜は、マルチゾーン微多孔性膜について本明細書で記載したのと同一方法だが、同一の又は少なくともほぼ同一の第1及び第2ドープ配合物を使用して作製される。単一ゾーン膜は、2つの「ゾーン」を含むが、両ゾーンは同一モルホロジー及び平均孔径のものであり、結果として、単一濾過ゾーンを形成する。
【0069】
マルチゾーン微多孔性膜及び単一ゾーン微多孔性膜の積層は、加圧若しくは加熱法を含む既知の積層技術を使用して、及び/又は好適な添加剤若しくは接着剤を使用して実施することができる。得られた物品は、第2ゾーンの主表面に貼り付けられた(例えば、積層された)単一ゾーン膜を有する多層微多孔性膜からなる微多孔性膜の組み合わせと称される。
【0070】
本明細書で形成されるマルチゾーン膜は、少なくとも2つの膜からなる積層によって形成される組み合わせ膜の必要性を削除する。記載された方法により形成された微多孔性膜は、製造コストを下げ、製造効率を増大させることができる。多層シート内での相分離を誘発するために水蒸気をシートに送達するための加湿環境の使用は、凝固浴槽及び複数の洗浄工程を不要とする。
【0071】
本明細書にて開示されたマルチゾーン微多孔性膜は、高い材料処理量を有する。マルチゾーン微多孔性膜は、薬学、生物学、医学、食品及び飲料用途にて使用可能である。カートリッジ、入口、出口、及びカートリッジ内に収められたマルチゾーン微多孔性膜を含むフィルタアセンブリは、住宅、商業及び工業用途にて使用可能である。
【0072】
本開示を以下の無制限の実施例により更に明らかにする。
【実施例】
【0073】
特に断らないかぎり、以下の実施例において記載する割合、百分率、及び比率はすべて重量を基準としたものであり、実施例において使用する試薬はすべて、後述する化学製品供給業者から得られるか、又は入手可能なものであり、あるいは従来の技法によって合成することも可能である。
【0074】
初期バブルポイント圧力(IBP)−ASTM規格E−128−99(2005)。フルオロケミカルFC−43(Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri)を有する、47mm直径、予め濡らした微多孔性膜におけるIBP測定値を記録した。
【0075】
水の流速(WFR)−微多孔性膜におけるWFR測定値を記録した。イソプロパノール及び脱イオン水で膜を予め濡らした。減圧下(59cm Hg(78.7kPa))で、100mLの脱イオン水が微多孔性膜を通過するのに必要とした時間を記録した。WRF法は、米国特許第7,125,603号及び同第6,878,419号(Mekelaら)(本明細書に参照により組み込まれる)にて更に記載されている。
【0076】
ロバストモラセススループット(Robust Molasses Throughput)(RMT)−0.1重量%の糖蜜溶液(B&G Foods,Incorporated)、ニュージャージー州パーシパニー(Parsippany))を備えたマルチステーションスタンド(例えば、同一プロセス条件下で幾つかの実験を同時に実施するための複数のサンプルステーション)についてRMT測定値を記録した。糖蜜溶液は、47mm直径の微多孔性膜ディスクを通して、48mL/分の一定体積流量にてポンプで送り込んだ。微多孔性膜は、60重量%イソプロパノール/40重量%脱イオン水の溶液ブレンドで予め濡らした。25psi(平方インチ当たりポンド)(172kPa(キロパスカル))の膜間圧力が得られたときの、ろ液の積算容量(mL)を得た。
【0077】
前進流バブルポイント(FFBP)−FFBP測定値は、イソプロパノール/脱イオン水(60/40体積/体積)混合物で予め濡らした47mm直径の膜を使用して記録した。マルチゾーン微多孔性膜については、第1ゾーン圧力ピーク及び初期バブルポイント圧力測定値を記録した。FFBP測定については、米国特許第4,341,480号(Pallら)、米国特許第6,413,070号(Meyeringら)、及び米国特許第6,994,789号(Saleら)にも同様に記載されている。
【0078】
比較実施例1〜2(CE 1及びCE 2)
傾斜形態(gradient morphologies)を有する市販の2層膜について調査した:CE1−Sterile High Capacity(SHC)(Millipore、Billerica、Massachusetts)、及びCE2−DuraPES TM−600(Membrana、Wuppertal、Germany)。
【0079】
(実施例1)
ドープ配合物を調製し、デュアルナイフオーバーロール装置に供給した。第1ドープ配合物(第1ドープ)は、1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)(Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri)/ポリエチレングリコール(PEG−400(Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri))の溶液ブレンド(27.3/63重量%)中に溶解させた、9.7重量%のポリエーテルスルホン(Radel H−2000P;Solvay,Alpharetta,Georgia)を含んでいた。第2ドープ配合物(例えば、第2ドープ)は、1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)/ポリエチレングリコール(PEG−400)の溶液ブレンド(17/69重量%)中に溶解させた、14重量%のポリエーテルスルホン(Sigma−Aldrich、St.Louis、Missouri)を含んでいた。
【0080】
第1及び第2ドープ配合物は、0.41メートル(m)/分のラインスピードにて運ばれる、125マイクロメートル厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(3M Company、St.Paul、Minnesota)上に共にキャストした。デュアルナイフオーバーロール装置のギャップ寸法は、第2ドープ配合物については150マイクロメートルに設定し、第1ドープ配合物については、ギャップ寸法を225マイクロメートルに設定した。第1ドープ配合物及び第2ドープ配合物の粘度は、それぞれ3,000センチポアズ(cps)及び7,500cpsであった。第1ドープ及び第2ドープ配合物は、互いの上に層としてキャストし、2つの配合物の間に境界面を形成して、多層シートを得た。
【0081】
多層シートは、第1及び第2加湿環境チャンバ、並びに洗浄及び乾燥セクションを有する、7.31メートル長のエアーフローテーション乾燥機ライン内に導入した。第1及び第2加湿環境チャンバのそれぞれは、約2.45mの長さを有していた。チャンバ内に蒸気を注入して、第1及び第2相対湿度レベルを得た。加湿チャンバの相対湿度は、蒸気インジェクタの下流に設置されたニードル弁によって制御された。湿度センサーを使用して、チャンバ内の実温度及び相対湿度(%)をモニターした。多層シートを第1加湿チャンバ内で45℃にて56%の第1相対湿度レベルにさらして、水蒸気を第1主表面内に拡散させた。次に、多層シートを第2加湿チャンバ内で43.3℃にて65%の第2相対湿度レベルにさらして、相分離を生じさせた。得られた物品を洗浄及び乾燥して、マルチゾーン微多孔性膜を得た。
【0082】
図4はSEM顕微鏡写真であり、断面図にて、実施例1によるマルチゾーン微多孔性膜400の微多孔性構造を示す。マルチゾーン微多孔性膜400は、2つの異なる孔径を有する2つの個々のゾーンを含む。第1ゾーン405は、約0.6マイクロメートルの孔径を有し、第2ゾーン410は、境界面415によって分離され、約0.2マイクロメートルの孔径を有する。例えば、マルチゾーン微多孔性膜400の第1ゾーン405はプレフィルタリング膜特性を提供することができ、第2ゾーン410は高処理量の濾過用途にて滅菌膜特性を提供することができる。
【0083】
図5aは、図4の第1ゾーン405の第1主表面を示すSEM顕微鏡写真(平面図)である。図5bは、図4の第2ゾーン410の第2主表面を示すSEM顕微鏡写真(平面図)である。
【0084】
実施例1のFFBP曲線を図6に示す。曲線は、第1ゾーン及び第2ゾーンを有するマルチゾーンモルホロジーであることを支持している。図6では、窒素が第1ゾーンを一掃した(clears)際に、第1ゾーン圧力ピークが約4psi(27.5kPa)で示される。約11.34psi(78.1kPa)でのバルク流量は、マルチゾーン微多孔性膜の第2ゾーンを一掃するための適切な窒素圧力に到達したことを示す。実施例1の試験結果を、表1に示す。
【0085】
(実施例2)
マルチゾーン微多孔性膜は、以下の点を除いて、実施例1と類似の方法によって形成された:ポリエーテルスルホンポリマー(Ultrson E−6020;BASF、ロケーション(location))を第1及び第2ドープ配合物に使用した;第1湿度レベルは45℃で50%であり、第2湿度レベルは43℃で65%であった。得られたFFBPプロファイル(図示せず)は、4.5psi(31kPa)の第1ゾーン圧力ピークを有するマルチゾーンモルホロジーを支持していた。実施例2の試験結果を、表1に示す。
【0086】
(実施例3)
マルチゾーン微多孔性膜は、以下の点を除いて、実施例1と類似の方法によって形成された:第1ドープ層を供給するためのデュアルナイフオーバーロール装置のギャップ寸法は、350マイクロメートルに設定した;第2ドープ層を供給するためのギャップ寸法は、125マイクロメートルに設定した;第1相対湿度レベルは、47.2℃で48パーセントであった;第2相対湿度レベルは、45.6℃で70パーセントであった。得られたFFBPプロファイル(図示せず)は、4.5psi(31kPa)の第1ゾーン圧力ピークを有するマルチゾーンモルホロジーを支持していた。実施例3の結果を、表1に示す。
【0087】
(実施例4)
組み合わせ膜の構築に使用するために、単一層の単一ゾーン微多孔性膜(滅菌グレード膜)を調製した。実施例1のデュアルナイフオーバーロール装置を使用して、単一ゾーン微多孔性膜を形成した。実施例2の第2ドープ配合物をキャストし、43%の第1相対湿度レベル及び45℃にさらした。次に、単一ドープ配合物層を65パーセントの第2相対湿度レベル及び43.3℃にさらした。得られた材料を洗浄し、乾燥させた。
【0088】
図7は、単一ゾーン微多孔性膜の断面図のSEM顕微鏡写真であり、単一ゾーン微多孔性膜の厚み全体にわたって対称モルホロジーを示している。
【0089】
実施例4のFFBP曲線を図8に示す。曲線は、単一ゾーンモルホロジーを支持している。図8では、窒素(g)は、約35psi(241.3kPa)のピークにて、単一ゾーンを一掃する。単一ゾーン微多孔性膜について試験したが、その結果を表1に示す。
【0090】
微多孔性膜の組み合わせを形成するために、図7の単一ゾーン微多孔性膜をマルチゾーン微多孔性膜に適用(例えば、積層)することができる。微多孔性膜の組み合わせは、滅菌膜としての単一ゾーン膜(第1層)及びプレフィルタリング膜として機能するマルチゾーン微多孔性膜(第2層)を有することができる。
【0091】
【表1】

【0092】
本開示の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本開示の様々な修正形態及び変更形態が、当業者には明らかとなろう。また、本開示は、本明細書に記載した例示的な要素に限定されないことが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性膜を形成する方法であって、
支持体上に複数のドープ配合物をキャストして第1主表面を有する多層シートを得ることと、
水蒸気が第1主表面中に拡散するように前記多層シートを第1相対湿度レベルにさらすことと、
追加の水蒸気が前記多層シート中に拡散して相分離を生じさせて、微多孔性膜を得るように、前記多層シートを、前記第1相対湿度レベルより大きい第2相対湿度レベルにさらすことと、
前記微多孔性膜を洗浄することと、
前記微多孔性膜を乾燥させることと、
を含む、方法。
【請求項2】
複数のドープ配合物をキャストすることが、第1ドープ配合物及び第2ドープ配合物をキャストして前記多層シートを得ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1ドープ配合物が前記第2ドープ配合物と同一配合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数のドープ配合物を配合することを更に含み、前記複数のドープ配合物のそれぞれがポリマー材料、補助剤及び溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のドープ配合物のそれぞれの中の前記ポリマー材料が、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリアルキレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン、セルロース系誘導体、ポリスチレン、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、アクリル又はメタクリルポリマーのコポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記補助剤が、ポリ(アルキレングリコール)、ポリエーテル、又はこれらの組み合わせを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリ(アルキレングリコール)がポリ(エチレングリコール)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1ドープ配合物及び前記第2ドープ配合物の補助剤の濃度が独立して、前記ドープ配合物の総重量を基準にして約60〜約70重量%の範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記第2ドープ配合物のポリマー材料の濃度が、前記第1ドープ配合物のポリマー材料の濃度より高い、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記第1ドープ配合物及び前記第2ドープ配合物のポリマー材料の前記濃度が独立して、前記ドープ配合物の総重量を基準にして約5〜約15重量%の範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記第2相対湿度レベルが、前記第1相対湿度レベルよりも少なくとも5パーセント高い、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1相対湿度レベルが約45〜約55パーセントの範囲であり、第2相対湿度レベルが約60〜約80パーセントの範囲である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記多層シートをさらすことが、前記多層シートを中間湿度レベルにさらすことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記中間湿度レベルが、第1相対湿度レベル及び第2相対湿度レベルに対して中間的である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第1ゾーンの平均孔径が第2ゾーンの平均孔径より大きくなるような平均孔径を有する孔を独立して含む第1ゾーン及び第2ゾーンを含むマルチゾーン微多孔性膜であって、前記マルチゾーン微多孔性膜が、少なくとも3,000lmh/psi(0.44lmh/Pa)の水分流動率測定値を有し、前進流バブルポイント測定値が、5psi(34kPa)未満の第1ゾーン圧力ピーク及び15psi(103kPa)未満の初期バブルポイント圧力測定値を含む、マルチゾーン微多孔性膜。
【請求項16】
前記第1ゾーンが第1厚みを有し、前記第2ゾーンが第2厚みを有し、前記第1厚みが前記第2厚みよりも大きい、請求項15に記載のマルチゾーン微多孔性膜。
【請求項17】
前記第1ゾーンが、約0.5マイクロメートル〜約0.7マイクロメートルの範囲の平均孔径を有し、前記第2ゾーンが、約0.1マイクロメートル〜約0.3マイクロメートルの範囲の平均孔径を有する、請求項15に記載のマルチゾーン微多孔性膜。
【請求項18】
前記第1ゾーン及び前記第2ゾーンが独立して対称形態を有する、請求項15に記載のマルチゾーン微多孔性膜。
【請求項19】
単一ゾーン微多孔性膜に積層された請求項15に記載のマルチゾーン微多孔性膜を含み、前記単一ゾーン微多孔性膜は前記第2ゾーンに隣接して積層されており、前記単一ゾーン微多孔性膜の平均孔径が、前記第2ゾーンの平均孔径より小さい、微多孔性膜の組み合わせ。
【請求項20】
入口及び出口を有するカートリッジ、並びに前記カートリッジ内に収められた請求項15に記載のマルチゾーン微多孔性膜を含む、フィルタアセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−509171(P2012−509171A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537474(P2011−537474)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/061572
【国際公開番号】WO2010/059327
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】