説明

微孔性PVDFフィルムおよび製造方法

造形微孔性物品が、熱誘起相分離(TIPS)プロセスを用いてポリフッ化ビニリデン(PVDF)および核剤から製造される。前記造形微孔性物品が、少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において少なくとも1つの方向に延伸される。前記造形物品はまた、希釈剤と、グリセリルトリアセテートとを含んでもよい。前記造形微孔性物品はまた、膜をイオン伝導性膜として機能させるために十分な量のイオン伝導電解質で充填された微小孔を有してもよい。微孔性物品の作製方法が、ポリフッ化ビニリデンと、核剤とグリセリルトリアセテートとを溶融ブレンドする工程と、混合物の造形物品を形成する工程と、前記造形物品を冷却して前記ポリフッ化ビニリデンの結晶化および前記ポリフッ化ビニリデンとグリセリルトリアセテートとの相分離を起こさせる工程と、前記造形物品を少なくとも1つの方向に少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において伸長する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に微孔性フィルムに関する。特に、本発明は、ポリフッ化ビニリデンから形成された微孔性フィルムおよびグリセリルトリアセテートおよび核剤を用いて同微孔性フィルムを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性フィルムは、流体および/またはガスが貫流することができる構造を有する。有効な細孔寸法は、流動分子の平均自由行程の少なくとも数倍、すなわち、数マイクロメートル〜約100オングストロームである。微孔性フィルムのシートは、表面および内部構造が可視光線を散乱させるので、本来透明な材料から作製される時でも、概して不透明である。
【0003】
微孔性フィルムは、固形分の濾過、コロイドの限外濾過、拡散隔壁などの多種多様な用途において、および布積層体において利用されている。さらに別の用途には、抗生物質、ビール、油、および細菌培養液を清浄にするフィルター、空気、微生物試料、静脈流およびワクチンの分析などがある。微孔性フィルムはまた、外科手当て用品、包帯の作製において、および他の流体透過医療用途において利用される。
【0004】
イオン伝導性膜(ICM)もまた、微孔性フィルムから開発されている。イオン伝導性膜は、膜電極接合体(MEA)において固体電解質として適用されている。MEAの1つの特定の適用例は、水素/酸素燃料電池である。ICMは、MEAにおいてカソードとアノードとの間に配置され、水素電極の触媒の付近から酸素電極にプロトンを輸送し、それによって電流をMEAから引き出すことを可能にする。ICMは、危険なリン酸燃料電池において用いられるような酸性液体電解質の代わりに用いられるので、これらの用途において特に有用である。
【0005】
イオン伝導性膜はまた、ブライン混合物を分離しおよび塩素ガスおよび水酸化ナトリウムを形成するためにクロロアルカリ用途において用いられる。前記膜は、塩化物イオンを排除しながら、膜の向こう側にナトリウムイオンを選択的に輸送する。ICMはまた、拡散透析の分野において有用であり、そこにおいて、例えば、苛性アルカリ溶液はそれらの不純物をストリッピングされる。前記膜はまた、それらが極性種を無極性種よりも速い速度において移動させることができるため、蒸気の透過および分離においてのそれらの運転に有用である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微孔性フィルムは、これらの様々な用途において有用である十分な強度を有しなくてはならない。しばしば、強度の増加のこの必要性は、膜厚の増加を必要とするが、それは、例えば、イオン伝導性膜のイオン伝導度を減少させることによって膜の有用性を損なうことがある。薄い厚さ(例えば0.050mm未満)において本質的に弱い膜は、付加的な材料で補強されて最終製品に増大された厚さを持たせなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリフッ化ビニリデンの造形微孔性物品に関し、それは核剤をさらに含有する。前記造形微孔性物品は、少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において少なくとも1つの方向に延伸される。前記造形物品はまた、ポリフッ化ビニリデンと混和性でありかつポリフッ化ビニリデンがポリフッ化ビニリデンの融解温度以上の温度において溶解し、ポリフッ化ビニリデンの結晶化温度または相分離温度以下の温度に冷却した時に相分離する化合物を含んでもよい。
【0008】
微孔性物品の作製方法は、ポリフッ化ビニリデン、核剤およびグリセリルトリアセテートを溶融ブレンドする工程と、混合物の造形物品を形成する工程と、前記造形物品を冷却して前記ポリフッ化ビニリデンの結晶化および前記ポリフッ化ビニリデンとグリセリルトリアセテートとの相分離を起こさせる工程と、前記造形物品を少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において少なくとも1つの方向に伸長する工程と、を含む。
【0009】
本発明はまた、イオン伝導性膜に関し、そこにおいてポリフッ化ビニリデンと核剤との造形物品が、少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において少なくとも1つの方向に延伸されて微小孔の網目を提供する。造形物品は、泡立ち点の細孔寸法が約0.4ミクロンより大きくなるように延伸され、造形物品は、約1.5ミル(37.5ミクロン)より小さい厚さおよび約10秒/50ccより小さいガーレイを有する。造形物品の微小孔は、イオン伝導性膜として機能させるために十分な量のイオン伝導電解質を充填される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、様々な用途に適した微孔性ポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルムを提供する。本発明は、微孔性フィルムの製造のために適した希釈剤および核剤を選択して熱誘起相分離(TIPS)の方法をPVDFに適用する。グリセリルトリアセテートは、PVDFから微孔性フィルムを製造するために希釈剤として良好に使用される。グリセリルトリアセテートは、水によって微孔性フィルムから容易に除去され、下水処理可能な、危険性のない副生成物のために、経済的および環境的に有利である。本発明は、新規なPVDF微孔性フィルムに使用するためのいくつかの核剤をさらに提供する。熱誘起相分離(TIPS)方法を用いてポリフッ化ビニリデン(PVDF)から製造された微孔性膜は、他の通常の膜材料と比較して改良された強度、耐化学薬品性、および低減された厚さなどの広範囲の微孔性性質を有するように特化されてもよい。
【0011】
特定の用途のための微孔性フィルムは、適した熱可塑性ポリマーを選択し、次いで希釈剤および核剤を前記ポリマーに適合させることによって作製され、所望の性質を達成する。得られたキャストフィルムが十分な強度がある場合、それを延伸してフィルムの所望の微孔性特性を形成する。
【0012】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は本質的に耐化学薬品性、耐紫外線性および耐火性、低タンパク質結合、および電気絶縁性である。このため、この熱可塑性ポリマーを微孔性フィルムの開発のために適用することが望ましい。しかしながら、微孔性フィルムのかっての開発の大半は、ポリプロピレンなどの他の熱可塑性樹脂に焦点を合わせていた。概して、ポリマーの1つのクラスのための希釈剤および核剤は、ポリマーの他のクラスに容易に適用されない。
【0013】
熱誘起相分離、またはTIPSとして公知のプロセスを用いて、本発明の微孔性PVDFフィルムを製造する。この方法は概して、熱可塑性ポリマーまたはポリマーブレンドを混和性化合物、すなわち希釈剤と溶融ブレンドする工程を必要とし、そこにおいて希釈剤は、熱可塑性樹脂の融解温度において熱可塑性樹脂と混和性であるが、熱可塑性樹脂の相分離温度より低い温度に冷却した時に相分離する。本明細書中で用いられた用語「希釈剤」は、固体および液体の薬剤の両方を包含するものとする。PVDFと希釈剤との間の相分離は、液体−液体または液体−固体のどちらであってもよい。フィルムまたは物品は、相分離された後、少なくとも1つの方向に延伸されて全体にわたり相互接続された微小孔の網目を提供する。さらに、混和性化合物(すなわち希釈剤)は、延伸する前または延伸した後のいずれかに除去されるか、あるいは代わりに、フィルム中に保持され、細孔構造の充填を促進することができる。
【0014】
概して、TIPSプロセスは、単一の均質な相を高温において形成するポリマーおよび希釈剤を必要とする。TIPSフィルムを加工するために、希釈剤とポリマーとを押出機に供給し、2つを加熱および混合して均質な液体溶液を形成する。次に、この溶液を空気中で冷却するか、あるいは、好ましくは、フィルム状物品にキャストし、キャスチングホイールと接触時に冷却する。固体/液体TIPS構造の冷却プロセスの間、ポリマーは溶液から結晶化して固体ポリマー相および液体希釈剤相を形成させる。固体相は、ポリマー鎖タイフィブリルによって一体に保持された球晶からなる。液体−液体TIPSプロセスの場合、ポリマーは溶液から分離してポリマーの少ない材料(polymer−lean material)の第2の液体相を形成する。
【0015】
相分離した後、フィルム状物品は典型的に透明であり、希釈剤除去(diluent−out)または希釈剤保持(diluent−in)製品のいずれかとして微孔性フィルム物品に加工可能である。希釈剤除去フィルムは、揮発性溶剤を用いて希釈剤のほとんど全てをフィルムから抽出することによって作製される。次に、この溶剤を蒸発させ、希釈剤があった場所に気泡を残し、このように多孔性フィルムを形成する。気泡容積を増加させるために、次いで、フィルムは、少なくとも1つの方向におよび好ましくはダウンウェブ(長手方向または縦方向とも呼ばれる)および横断(クロスウェブとも呼ばれる)方向の両方に延伸または伸長される。希釈剤保持フィルムは、単に抽出工程を行なわず、フィルムを延伸することによって作製される。延伸した後、希釈剤はポリマーの非晶質部分および多孔性構造の内面に閉じ込められ、これは多孔性フィルムを触感で乾燥状態にする。この方法はまた、費用のかかる、律速抽出工程を行なわない。
【0016】
特に、TIPSプロセスは、4つの工程を必要とする。すなわち、
(1)全溶液含有量に対して、ポリマー成分を約10〜90質量部ならびに、希釈剤成分を約90〜10質量部で含む溶液を溶融ブレンドして形成し、前記希釈剤成分が、前記ポリマー成分の融解温度、または前記全溶液の液体−液体相分離温度より高い温度において前記ポリマー成分と混和性である、工程と、
(2)前記溶液を造形する工程と、
(3)(i)ポリマー成分を結晶化してポリマードメインの網目を形成するか、または(ii)液体−液体相分離してポリマーの少ない相の網目を形成するかのいずれかによって、造形された溶液を相分離して相分離された材料、すなわち、ポリマー領域を形成する工程と、
(4)前記材料領域に隣接した空気の領域を生じて多孔性物品を形成する工程。
【0017】
6つの工程変数、すなわち、(1)急冷速度(ポリマー/希釈剤溶液が冷却および相分離する時間)、(2)(固体/液体TIPSに有用な)不均質な核剤の存在および濃度、(3)ポリマー成分と希釈剤成分の質量比、(4)伸長、(5)希釈剤の抽出、および(6)アニール、の操作によって構造を変化させることができる。
【0018】
材料領域の望ましい寸法を形成するための相分離工程は、(1)溶液を十分に迅速に冷却する工程、(2)(固体/液体TIPSによって)核剤を使用する工程、または(3)両方の組合せによって行なわれてもよい。TIPSにおいて、冷却は、高温溶液の、急冷表面または媒体への密着を最大にすることによって行なわれてもよい。典型的に固体/液体TIPSプロセスによって作製される微孔性フィルムは、パターン化ロールでキャストすることによって冷却される。あるいは、微孔性TIPSはまた、平滑なホイールでキャストされてもよい。所望の性能の性質が好ましい急冷方法を決定する。TIPSプロセスはまた、例えば、米国特許第5,976,686号明細書に記載されている。
【0019】
本発明の物品および方法において利用されるPVDFは、単一のPVDFポリマーに限定されない。PVDFとしては概して、PVDF樹脂、ホモポリマー、コポリマー、およびポリマーブレンドが挙げられるが、そこにおいて大部分のポリマーはPVDFである。PVDFはまた、PVDFの密接に関連した誘導体を包含するかまたはそれらを指す。本発明においての使用に適したPVDF樹脂の例は、ニュージャージー州、ソロフェアのソルベイ・ソレキス(Solvay Solexis,Thorofare、New Jersey)から商品名ハイラー(HYLAR)およびソルフ(SOLEF)として、およびペンシルベニア州、ペンシルベニアのアトフィナ・ケミカルズ社(AtoFina Chemicals,Inc.,Philadephia,Pennsylvania)から商品名カイナー(KYNAR)として入手可能である。個々の樹脂を以下の実施例の節に記載する。これらのPVDF樹脂は概して、約0.3〜約0.4の結晶比(crystallinity ratios)を有するが、本発明はこのように限定されない。さらに、使用されたPVDF樹脂は、分子量およびメルトフローなどの性質において変化してもよい。メルトフローインデックスは概して、230℃、5kgにおいて約0.13〜約6.0の間で変化した。鎖が長くなるかまたはメルトフローが低くなると得られた物品の強度を増加させる場合があることが知られているが、本発明はこのように限定されない。
【0020】
微孔性PVDFフィルムは、グリセリルトリアセテートを希釈剤として利用するTIPSプロセスから製造される。グリセリルトリアセテートはまた、TIPSプロセスにおいてPVDFのための希釈剤として機能することに加えて、その危険性のない性質に関連したさらに別の利点を有する。グリセリルトリアセテートは、以前は食品添加剤として用いられており、従って、非毒性である。グリセリルトリアセテートはフィルム中に残るか、あるいは部分的またはほとんど完全に除去されてもよい。グリセリルトリアセテートを、溶剤として水を用いてPVDF微孔性膜から容易に除去することができる。さらに、副生成物または流出物はグリセロールと酢酸であり、両方とも、同様に非毒性かつ下水処理可能である。除去プロセスの間に廃棄されなければならない有機溶剤を必要としないかまたは生じないという相当な経済的および環境的利点がある。
【0021】
本発明においてPVDF対希釈剤の好ましい範囲は、所望の性質に応じて約60:40〜約40:60の範囲である。本発明において希釈剤として用いられたグリセリルトリアセテートは、ニューヨーク州、ロチェスターのイーストマン・コダック・カンパニー(Eastman Kodak Company,Rochester、New York)から商品名トリアセチン(TRIACETIN)として入手可能である。PVDF対グリセリルトリアセテートの特に好ましい範囲は約50:50〜40:60である。
【0022】
TIPSプロセスによる本発明の方法はまた、核剤を使用してPVDFフィルムの性質を操作および改良する。核剤は概して、結晶化部位の発生を促進し、液体状態からPVDFの結晶化を促し、それによって結晶化速度を増加させる。結晶化速度の増加は概して、結晶化ポリマーの球晶または粒子の寸法の低減をもたらす。このように、使用された核剤は、ポリマーの結晶化温度において固体であるのがよい。球晶の好ましい寸法低減の証拠はそれ自体、核剤が、微孔性構造を形成するための延伸に耐える十分な強度を有するPVDFフィルムの製造を容易にすることを保証しない。
【0023】
本発明による核剤の使用は、PVDFの結晶化を実質的に促進し、それによってより均一な、より強いミクロ構造をもたらす。PVDFのより良い核形成によるより強い、より均一なミクロ構造は、単位容積当たりの増大したタイフィブリルの数を有し、フィルムのより大きな伸長または延伸を可能にし、以前に達成可能であったよりも高い多孔度および大きな引張強さをもたらす。これらの性質はさらに、2.0ミル(50μm)未満の、より薄い膜の使用を容易にし、この膜は、補強を必要としないほど十分に強い。TIPSプロセスに使用するための核剤は他のポリマーのタイプからの微孔性物品の製造と関連して知られているが、それらの核剤は、PVDFからの微孔性膜の製造に容易に適用されなかった。
【0024】
本発明は、PVDFを核形成するために「バットタイプ」顔料と呼ばれる顔料のクラスの特定のメンバーを利用する。これらの有機顔料には、アントラキノン、ペリレン、フラバントロン、およびインダンスロンなどがある。色指数(CI)は、化合物に一意の「色指数名」(CI名)および「色指数番号」(CI番号)を与えることによって各々の顔料を特定する。顔料の分類は、化学構造または色彩の性質のいずれかによって顔料を分類することによって行なわれてもよい。いくつかの顔料は、例えばインダンスロンブルー(Indanthrone Blue)(CI69800ピグメントブルー60)は「分類されない」。ペリレン顔料は、ペリレンテトラカルボン酸の二無水物およびジイミド、ならびに前記ジイミドの誘導体を包含する。アントラキノン顔料は、構造的にまたは合成によってアントラキノン分子から誘導される。
【0025】
PVDFの核形成を良好に行なうために見出された材料には、オレゴン州、ポートランドのTCIアメリカ(TCI America,Portland,Oregon)(「TCI」)から入手可能なインダンスレンイエローGCNと呼ばれるCI 67300バットイエロー2、同様にTCIから入手可能なフラバントロン(Flavanthrone)と呼ばれるCI70600ピグメントイエロー24、商標クロモフタルブルー(CHROMOPHTAL Blue) A3Rとしてニューヨーク州、ホーソーンのチバスペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals,Hawthorne,New York)から入手可能なインダントロンであるCI 69800 ピグメントブルー 60、商標ぺリンドマルーン(PERRINDO Maroon)R−6438としてペンシルベニア州、ピッツバーグのベイヤー・コーポレーション−コーティング・アンド・カラランツ(Bayer Corporation−Coatings and Colorants,Pittsburgh, Pennsylvania)から入手可能なペリレンであるCI 71130 ピグメントレッド 179、および商標ファンチョンマルーン(FANCHON Maroon)MV7013としてペンシルベニア州、ピッツバーグのベイヤー・コーポレーション−コーティング・アンド・カラランツ(Bayer Corporation−Coatings and Colorants,Pittsburgh, Pennsylvania)から入手可能なアントラキノンであるCI58055:1ピグメントバイオレット5:1などがあるがそれらに限定されない。核剤として用いられる好ましいバットタイプ顔料は、ピグメントブルー60(CI No.69800)、ピグメントレッド179(CI No.71130)、ピグメントバイオレット5:1(CI No.58055:1)、バットイエロー2(CI No67300)、およびピグメントイエロー24(CI No.70600)である。
【0026】
さらに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のナノメートル寸法の粒子もまた、PVDFの核形成を良好に行なうことが確認された。PTFEは、本発明の微孔性フィルムと対照的に、密度の高い非多孔性PVDFフィルムを製造するために以前は用いられていた。微孔性フィルムの製造用にPVDFの核形成を良好に行なうために、PTFEのナノメートルサイズの粒子は、PVDFの全体にわたって均一に分散される必要がある。このため、PTFE粒子の凝結は望ましくない。本発明において核剤として使用するためのPTFEを分散させる適した方法の例を以下に記載する。
【0027】
1つの方法は、ミネソタ州、オークデールのダイネオン・コーポレーション(Dyneon Corp.,Oakdale,Minnesota)から入手可能なダイネオンTF−5235などの水溶液中にPTFEのナノメートルサイズの粒子を懸濁することである。PTFEナノ粒子の分散体をPVDF樹脂ペレット上にコーティング/塗布した。次いで、PVDFペレットを乾燥させ、TIPSプロセスにおいてそれらを使用する前に樹脂ペレット上にコーティングされたPTFEを残した。前記溶液は水に限定されない。樹脂ペレットまたはPTFEと異なって反応せず、揮発されるかまたは影響を与えずに得られた物品中に残ってもよいいずれの溶液を用いてもよい。別個の乾燥工程は除かれてもよく、そこにおいて適切なベントがTIPSプロセスの間、樹脂を溶融する間に導入される。
【0028】
別の方法は、ニューヨーク州、ニューヨークの三菱レイヨンコーポレーション(Mitsubishi Rayon Corporation.,New York,NY)から入手可能なメタブレン(Metablen)A−3000の形のPTFEのナノメートル寸法の粒子を使用する。PTFE粒子は第2のポリマーに包まれ、そこにおいて第2のポリマーは(以下に記載された)溶融ブレンドに混和性である。1つの実施例は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に包まれたナノメートルサイズのPTFE粒子である。PMMAは、PVDF樹脂、希釈剤および(メタブレンA−3000の形の)PTFEが混合される時にPTFE粒子の分散を助ける。PTFEは、TIPSプロセスの間にPMMAコーティングをPMMA溶融体として流し出す。PTFE粒子は溶融せず、PVDF結晶化を核形成するために露出される。
【0029】
概して、核剤は、TIPSプロセスの間に混合物を溶融ブレンドする前に希釈剤、あるいは代わりに、樹脂と予備混合される。例えば、本発明において核剤として用いられる顔料は、回転剪断ミキサーまたはミニ・ゼタ(Mini−Zeta)ビードミルでグリセリルトリアセテートと混合されてもよい。PTFEは、上述のようにプレコンパウンドされ、ペレット供給装置によって供給されるか、あるいは代わりに、粉末供給装置によって溶融ブレンドに供給される。
【0030】
さらに、特定の通常の添加剤は、PVDF、またはグリセリルトリアセテートおよび/またはその溶融ブレンドとブレンドされてもよい。使用時に、通常の添加剤は、微孔性フィルムの形成を妨げないような量および添加剤の望ましくないにじみ出しをもたらさないような量に限定されるのがよい。このような添加剤には、染料、可塑剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。添加剤の量は典型的に、ポリマー成分の質量の10パーセントより少なく、好ましくは2質量パーセントより少ない。
【0031】
微孔性PVDFフィルムを製造するためにPVDF、グリセリルトリアセテート、および特定の核剤を使用することは、TIPSプロセスの場合において以下にさらに記載される。
【0032】
最初に、PVDF樹脂と、グリセリルトリアセテートと核剤との混合物を含む溶融ブレンドを調製する。様々な成分、例えば、本明細書に記載された核剤が、溶融する前にプレコンパウンドされてもよい。溶融ブレンドという用語は、PVDFポリマー、グリセリルトリアセテートおよび核剤のブレンドを指し、そこにおいて少なくともPVDFおよびグリセリルトリアセテートは溶融、半−液体または液体状態である。溶融ブレンドを調製するために、約40〜60質量パーセントの結晶化可能なPVDF熱可塑性ポリマーを約60〜40質量パーセントのグリセリルトリアセテートと混合し、さらに核剤を含有する。核剤は、溶融ブレンドの全質量によって約0.1〜約1%、特に約0.25〜約1%に相当する。あるいは、核剤は、ポリマーの約0.2〜約2.5質量%に相当する。溶融ブレンドをPVDFの少なくとも融解温度まで加熱する。溶融ブレンドの取扱いを容易にするために、およびそのキャスチングを容易にするために、PVDFの融解温度より約25℃〜約100℃高い範囲の温度で混合物を加熱することによって溶融ブレンドの形成を開始するのが便利である。
【0033】
本発明の微孔性フィルムは、シートまたは層などの造形物品を、PVDFとグリセリルトリアセテートと核剤とを含む溶融ブレンドからキャストすることによって作製される。微孔性フィルムの性質は、溶融ブレンド中のポリマー対希釈剤の比、使用される核剤のタイプおよび量、冷却速度、および延伸比ならびに温度に依存するがそれらに限定されない。冷却する間、溶融ブレンド中のPVDFの結晶化温度に達し、PVDFの制御された結晶化および相分離が開始可能となるまで溶融ブレンドから熱を除く。高純度の結晶化可能なPVDFポリマーの平衡融点より約125℃超低い冷却温度は、溶融ブレンドの非常に急速な急冷を起こす。材料は、延伸によって均一に微孔性にすることができるが、より高い温度において急冷された材料に比べて洗浄または希釈剤除去状態において本質的に弱い。対照的に、米国特許第4,539,256号明細書には、高純度の結晶化可能なPVDFポリマーの平衡融点より約225℃超低い冷却温度が溶融ブレンドの非常に急速な急冷を起こし、単一相フィルムをもたらすことができ、それは強度があり透明であるが、延伸によって均一に微孔性にすることがほとんどできないことが記載されている。所望の高希釈剤レベルにおいて、高純度の結晶化可能なPVDFポリマーの平衡融点より約74℃未満低いキャスチングホイール温度は、PVDFの非常に緩慢な相分離(結晶化)をもたらし、トリアセチン(TRIACETIN)または水などの付加的な急冷潤滑剤を用いずに、材料をパターン化ホイールに付着させる。このように、高純度の結晶化可能なPVDFポリマーの平衡融点より約71℃〜131℃低い冷却温度はプロセスの改良を行なわずに達成可能であるが、好ましい温度は、高純度の結晶化可能なPVDFポリマーの平衡融点より82℃〜124℃低い。
【0034】
1つの方法は、キャスト物品を適切な温度の急冷槽中で冷却することである。別の方法は、キャスチングホイールの使用であり、そこにおいてホイールの温度は、急冷槽と同様な所望の冷却温度の範囲内に制御される。
【0035】
TIPSプロセスから形成されたキャストフィルムは概して固体であり、任意選択の希釈剤除去および延伸する前に透明である。キャストフィルムのミクロ構造をPVDFの球晶および球晶の凝結体として説明することができ、グリセリルトリアセテートが粒子間のスペースを占める(図3および図4AおよびBを参照のこと)。PVDFの隣接した球晶および凝結体ははっきり区別できるが、複数の連続的な領域を有する。PVDF球晶および凝結体は概して、グリセリルトリアセテートによって囲まれるかまたはコーティングされるが、完全にではない。隣接したPVDF球晶および凝結体の間に接触領域があり、このような連続的な領域に1つの球晶//凝結体から次の隣接した球晶//凝結体へのPVDFの連続体がある。
【0036】
延伸した時に、PVDF球晶および凝結体が引き離され、連続的な領域のポリマーを永久的に細長化し、それによってフィブリルを形成し、コーティングされた球晶および凝結体の間の微細なボイドを形成し、相互接続された微小孔の網目を生じる。本明細書中で用いるとき、「延伸」は、物品の永久歪または伸びを導入するために、典型的に少なくとも、約10%または約1.1〜1.0の比として表される長さの増加を得るために弾性限界を超えるかかる伸長を意味する。伸長して約10%〜約1000%の伸びをもたらすのが一般的である。必要とされる伸長の実際の大きさは、フィルムの組成および所望の多孔度(例えば細孔寸法)に依存する。
【0037】
伸長は、少なくとも1つの方向に伸長を行なうことができるいずれの適したデバイスによって行なわれてもよく、その方向と横断方向の両方において伸長を行なってもよい。伸長は、両方の方向において連続的にまたは同時に行なわれてもよい。例えば、フィルムは、縦方向および横断方向の両方において延伸されてもよい。伸長は、均一かつ制御された多孔度を得るために均一であるのがよい。1つの方向においての伸長は典型的に、フィルムが横方向に狭くなるかまたは「ネッキング」する原因となり、フィルムを伸長して50%の伸びをもたらすことは、例えば、フィルムの表面積の50%の増加にはならない。
【0038】
このような永久細長化はまた、物品を永久的に半透明にする。また、延伸したとき、希釈剤が除去されない場合、希釈剤は、得られたPVDF粒子の表面の上にコーティングされたままであるかまたは少なくとも部分的に囲む。典型的に、微孔性フィルムは、延伸されたフィルムを熱安定化温度に抑えたまま加熱することによって通常の公知の技術によって寸法安定化される。これはまた、アニールと称される。
【0039】
核形成フィルムは、フィブリルによって結合されたPVDFの多数の離隔された(互いに分離されている)、不規則に分散された、不均一な造形等軸粒子を特徴とする微孔性構造を有し、粒子の内部に核剤を有する。(等軸(Equiaxed)は、全ての方向にほぼ等しい寸法を有することを意味する。)希釈剤が除去されない場合、PVDFの粒子はまた、グリセリルトリアセテートでコーティングされる。
【0040】
グリセリルトリアセテート希釈剤が微孔性フィルムから除去される場合、核剤がその中に混入されたPVDFの独自の微孔性シートが残る。得られた微孔性フィルムを様々な材料で膨潤して様々な特定の機能のいずれか一つを提供することができ、それによって独自の物品を提供することができる。前記フィルムは、グリセリルトリアセテートを除去した後に膨潤されてもよく、あるいは代わりに、グリセリルトリアセテートは、膨潤プロセスの前に微孔性PVDFフィルム中に残されてもよい。多浸漬、ロングソーク、真空、液圧プレスおよび蒸発など、微孔性フィルムを膨潤させるためのいくつかの方法が公知である。本発明において使用されてもよい膨潤材料の例には、薬剤、芳香性物質、帯電防止剤、界面活性剤、殺虫剤、および固体粒状材料などがあるがそれらに限定されない。帯電防止剤または界面活性剤などの特定の材料は、グリセリルトリアセテート希釈剤を事前に除去せずに膨潤されてもよい。
【0041】
微孔性フィルムは、希釈剤を除去する前かまたは後のどちらかに、様々な公知のコーティングまたは堆積技術のいずれか一つを用いてその上に様々な組成物のいずれか一つを堆積することによってさらに改良されてもよい。例えば、微孔性フィルムは、蒸着またはスパッタリング技術によって金属でコーティングされてもよく、または接着剤、水性または溶剤ベースのコーティング組成物または染料でコーティングされてもよい。コーティングは、ロールコーティング、噴霧コーティング、浸漬コーティングまたはいずれかの他のコーティング技術などの通常の技術によって行なわれてもよい。
【0042】
微孔性フィルムを他のシート材料など、様々な他の構造物のいずれか一つに積層して複合構造物を提供することができる。積層は、接着結合、スポット溶接などの通常の技術によって、または多孔度を破壊しないかあるいは他の方法で妨げない、または望ましくない多孔度または穿孔を生じない他の技術によって行なわれてもよい。
【0043】
本発明の微孔性PVDFは概して、シートまたはフィルムの形であるが、他の物品の形状が予想され、形成されてもよい。例えば、物品がシート、管、フィラメント、または中空ファイバーの形状であってもよい。
【0044】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)微孔性膜は、イオン交換膜などのイオン伝導性膜(ICM)として使用するために以下に記載される。しかしながら、PVDF膜はその使用に制限されない。それらの化学安定性および相対的強度もまた、様々な濾過用途において有用である。本発明によって作製された微孔性フィルムは、イオン伝導性膜、電気化学電池のセパレータ、拡散隔壁、ウィルス隔壁、吸収性布、およびコロイド状物質の限外濾過などの様々な用途に用いられてもよい。さらに、PVDF膜は、バイオテクノロジー関連の用途に有用である場合がある低特異的タンパク質結合を有する。PVDF膜はまた、他の化学物質を添加せずに本質的に難燃性であり、その特性を必要とする用途においてコスト削減デバイスであり得る。
【0045】
PVDF微孔性フィルムの性質は、イオン伝導性膜として使用するために特化されるとき、先行技術のイオン伝導性膜よりも利点を提供する。先行技術の単一成分膜は、強度および安定性という2つの主要な問題を有する。膜自体はしばしば非常に脆い。このため、このような膜は概して、増加された厚さを有さなくてはならず、および/または破壊および/または引き裂けを避けるように支持体に取り付けられるかあるいは他の方法で付着されなければならない。さらに、ポリマー電解質だけから作製された通常の膜は非常に費用がかかり、極めて脆い。
【0046】
イオン伝導性膜は、膜の対向する面に配置されたアノードとカソードとの間にイオン導電率を提供しながら、電気化学電池構造内に反応体のガス隔壁ブロッキング流を形成する。イオン伝導性膜は、正の電荷または負の電荷のどちらかのイオンだけについて伝導性、すなわち、カチオン交換膜またはアニオン交換膜のどちらであってもよく、またはイオンの1つのタイプについてだけ伝導性、例えば、プロトン交換膜であってもよい。プロトン交換膜(PEM)は、燃料電池、電解槽および電気化学反応器を製造するために使用可能な膜電極接合体において用いられるイオン伝導性膜の1つのタイプである。本開示は、燃料電池に使用するためのプロトン交換膜などの複合イオン伝導性膜に焦点を合わせるが、電解槽および電気化学反応器の類推が簡単である。
【0047】
50として略示された実施例の5層MEAを図2に示す。電流を発生するための燃料の電気化学酸化および酸化剤の還元のための様々な層には、イオン伝導性膜52、触媒層54、56、および電極支持層58、60がある。電気化学電池の成分の形状および寸法は、特定の設計に依存して広範囲にわたって変化することができる。MEAは、多孔性金属フィルムまたは表面に堆積された金属粒子または炭素担持触媒粉末の平面分布を備えることができる。反応体の代表的な流れを図2にさらに示す。
【0048】
複合イオン伝導性膜は、微孔性PVDFフィルムの微孔性構造をイオン伝導性材料で膨潤することによって作製される。複合ICMは、MEA中で使用される時に単一成分膜よりもすぐれた性質を提供する。複合ICMは、より少ない電解質で同等の導電率を与えながらより薄くかつより強化され得ると共に、水で飽和された後でもより大きな寸法安定性を有することができる。しかしながら、使用された膜は初期に多孔性であるので、得られた膜のガス透過性は、部分的に、膜が電解質によって充填される度合に依存する。
【0049】
微孔性PVDFフィルムを含むイオン伝導性膜は、プロトンまたは他のイオンを伝導性である一方、非導電性電子およびガス反応体に対して非伝導性である。ガス反応体の通過を妨げるために、イオン伝導性膜は、機械的安定性のために十分な厚さを有するのがよく、有効に非透過性(ピンホールがない)であるのがよい。ガス反応体にイオン伝導性膜を伝導させることは、反応体の望ましくない直接反応をもたらすことがある。同様に、電子にプロトン交換膜を伝導させることは、電池の望ましくない短絡をもたらすことがある。PVDFは有利には、非伝導性である。膜が反応体の直接反応または短絡を起こさなくても、酸化剤による燃料の反応によって放出されたエネルギーを用いて電気を発生することはできず、それによって膜電極接合体の目的を達することができない。
【0050】
微孔性フィルムの細孔寸法は、ICM用途において制御される。有効な細孔寸法は、流動分子の平均自由行程の少なくとも数倍であり、およそ数マイクロメートル〜約100Åの範囲で変化してもよい。ICMにおいて、細孔寸法は、電解質が膜中に移動することができるように十分に大きい必要がある。例えば、約0.4ミクロンより大きい細孔寸法が適している。電解質が微孔性膜の細孔を充填するかまたはほぼ完全に充填することが望ましい。膜の細孔寸法が非常に小さい場合、膜は、電解質導入プロセスの間、フィルターとして実際に作用し、それによって非機能性または不完全機能性ICMをもたらす。細孔寸法の範囲の上限もまた、膜強度および膜中の電解質の保持の問題のために制御される。
【0051】
本発明の1つの実施において、PVDF微孔性フィルムは、イオン伝導電解質を適切に含浸され、PEMまたはイオン伝導性膜の他のタイプとして使用するために膜の内部容積を有効に充填する。イオン伝導電解質は、触媒が汚染されないように化学的に安定性であり、MEAにおいて用いられる触媒と相溶性であるのがよい。イオン伝導電解質は好ましくはポリマー電解質であり、しばしばイオノマーと称される。ポリマー電解質は、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリ(エチレンスクシネート)、ポリ(β−プロピオラクトン)、およびデラウェア州、ウィルミントンのE.I.デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I.DuPont De Nemours and Company,Wilmington,Delaware)から市販されているナフィオンなどのスルホン化フルオロポリマーなど、様々なポリマーから製造可能である。
【0052】
微孔性フィルムを充填する時に用いられる電解質溶液の量は、所望の充填度を達成するために十分であるのがよいが、好ましくは、膜を理論的に充填する量を超える。充填した後に細孔中に膨潤されるかまたは膜のフィブリル上に吸着された電解質の量は、有効細孔容積の95%〜100%を充填するのに十分であるのがよい。好ましくは、有効細孔容積の95%超が充填される。最も好ましくは、有効細孔容積の95%〜100%が充填される。電解質は、多孔性膜の構造フィブリル上にコーティングとして存在してもよく、あるいはそれは膜を湿潤し、特定の細孔の全断面を充填してもよい。
【0053】
微孔性膜を膨潤するために用いられる電解質溶液は、典型的に5〜20重量パーセントの濃度の溶液中に、X線小角散乱(SAXS)を用いてミセルの回転半径の測定によって測定したとき、約260Åの粒子を有するイオン伝導電解質の分散体としてより正確に説明される。微孔性膜の細孔は、電解質が膜に入るのを可能にするために十分な寸法であることが重要である。細孔寸法が非常に小さい場合、微孔性膜が代わりにフィルターとして作用し、電解質を溶液から除去し、同時に、電解質を膜の細孔に混入しない。電解質の性質は、必要とされる細孔寸法を決定するときに考慮される。より高い分子量を有し、および/または非常に枝分かれしているかまたは架橋しているイオン伝導電解質は典型的に、より低分子量の線状分子よりも大きな細孔寸法を必要とする。
【0054】
PVDF膜をイオン伝導電解質で膨潤する前、膨潤前にグリセリルトリアセテート希釈剤を除去することは必要でない。希釈剤が除去されていない微孔性PVDF膜は、「希釈剤保持(diluent in)」と称される。また、「希釈剤除去(diluent out)」と称される、希釈剤が除去された微孔性PVDF膜をPEMとして使用するためにイオン伝導電解質で良好に膨潤することができる。
【0055】
微孔性PVDF膜は、希釈剤を除去した後に疎水性になることができる。一般に本質的に水性および/またはイオン性である電解質溶液で疎水性の希釈剤除去膜を充填するのを助けるために、膜は充填する前に処理される。使用されてもよい技術には、予備湿潤、放射線グラフト、コロナ処理、あるいは他の化学処理などがある。例えば、希釈剤除去膜は、n−プロパノールとグリセロールとの溶液で予備湿潤されてもよい。過剰なn−プロパノール/グリセロールは、分配された電解質溶液中に微孔性膜を置く前にスキージーによって除去されてもよい。
【実施例】
【0056】
以下の実施例は、本発明によって作製された微孔性材料を示すために与えられる。しかしながら、以下の実施例は、例示目的のためにすぎず、本発明によって製造され得る多くの異なった微孔性材料を包括することを意図しないことは理解されよう。
【0057】
材料
PVDFポリマー
ハイラー(HYLAR)MP−20 1,1−ジフルオロエタンベースのポリマー、166〜170℃の溶融温度、1.57のメルトフローインデックス(ニュージャージー州、ソロフェアのソルベイ・ソレキス(Solvay Solexis,Thorofare、NJ))
ハイラーMP−32 1,1−ジフルオロエタンベースのポリマー、166〜170℃の溶融温度、0.13のメルトフローインデックス(ニュージャージー州、ソロフェアのソルベイ・ソレキス)
カイナー(Kynar)1000HD 1,1−ジフルオロエテンベースのポリマー、166〜170℃の溶融温度、1.86のメルトフローインデックス(ペンシルベニア州、フィラデルフィアのアトフィナ・ケミカルズ(Atofina Chemicals Philadelphia,PA))
ソルフ(SOLEF)1010 PVDFポリマー、170〜175℃の溶融温度、5.33のメルトフローインデックス(ニュージャージー州、ソロフェアのソルベイ・ソレキス)
ソルフ1012 PVDFポリマー、170〜175℃の溶融温度、1.3のメルトフローインデックス(ニュージャージー州、ソロフェアのソルベイ・ソレキス)
ソルフ1015 PVDFポリマー、170〜175℃の溶融温度、0.14のメルトフローインデックス(ニュージャージー州、ソロフェアのソルベイ・ソレキス)
【0058】
希釈剤
トリアセチン(TRIACETIN) グリセリルトリアセテート(ニューヨーク州、ロチェスターのイーストマン・コダックカンパニー(Eastman Kodak Co.,Rochester,NY))
【0059】
核剤
CI69800、ピグメントブルー60、インダンスロン、クロモフタルブルー(CHROMOPHTAL Blue)A3R(ニューヨーク州、ホーソーンのチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals、Hawthorne、NY))
CI71130、ピグメントレッド179、ペリレン、ぺリンド・マルーン(PERRINDO Maroon)R−6438(ペンシルベニア州、ピッツバーグのベイヤー・コーポレーション−コーティング・アンド・カラランツ)
METABLEN A−3000 ポリメチルメタクリレートでコーティングされたナノメートルサイズのPTFE粒子(ニューヨーク州、ニューヨークの三菱レイヨンコーポレーション)
ダイネオン(DYNEON)TF−5235 225nmのPTFE粒子の水性分散体(ミネソタ州、オークデールのダイネオン・コーポレーション(Dyneon Corp.,Oakdale,MN))
【0060】
イオン伝導電解質
ナフィオン(NAFION)1000 そのスルホニル基をスルホン酸基に変換することによる、ペルフルオロスルホニルエトキシビニルエーテルによるポリテトラフルオロエチレンの加水分解コポリマーの溶液。溶液の組成:21.53%の固形分、21.33%の水、22.20%のエタノール、33.71%のプロパノールおよび1.23%他の組成物(デラウェア州、ウィルミントンのデュポン・ケミカルズ・カンパニー(DuPont Chemicals Company,Wilmington,DE))
【0061】
試験方法
引張強さ
インストロンモデル(INS(登録商標)TRON Model)1122引張試験機を用いて25cm/分のクロスヘッド速度および5cmのゲージ長で破断点引張強さをASTM D882によって測定した。試験片の幅は2.5cmであった。試料の破断点引張強さは、破断点における負荷(力)を試験片の元の断面積で割ることによって計算され、kg−力/cm2単位で記録される。破断点伸びのパーセントは、破断点伸びを元のゲージ長で割り、100で乗じることによって計算された。
【0062】
ガーレイ多孔度
ガーレイは、ASTM D726−58、方法Aに規定されているように、標準条件下でガスの所定の容積が膜の標準面積を通過するために必要な時間として表される、膜のガス流に対する耐性の尺度である。ガーレイは、空気、または別の特定の容積の50立方センチメートル(cc)が、水の124mmの圧力において膜の6.35cm2(1平方インチ)を通過するための秒単位の時間である。フィルム試料をシリンダーリングの間にクランプし、その最上部がピストンと空気の特定の容積とを含有し、解放時に、ピストンがその自重下で上シリンダー中の空気に圧力を加え、空気の特定の容積が膜を通過するためにかかった時間を測定した。約10秒/50ccより小さいガーレイ値を有する膜が複合イオン伝導性膜を製造するために好ましい。
【0063】
泡立ち点
泡立ち点の細孔寸法は、ASTM−F−316−80によるミクロン単位で測定された最大有効細孔寸法を表す泡立ち点の値である。
【0064】
Hポンプ
Hポンプ試験は、電流を印加し、膜電極接合体のアノード側で水素燃料をプロトンに分解させた。プロトンが膜を通過し、カソード側で再結合して水素−H2を製造した。水素を分離および再結合するこの水素間の反応は、診断のために用いられる。Hポンプは、水素イオンが膜を通ってz軸に(膜に垂直に)移動する時にそれらの抵抗を測定する。Hポンプ値を用いて膜抵抗を計算することが可能である。
【0065】
2クロスオーバー
2クロスオーバーは、膜を通しての水素の拡散を測定する。H2クロスオーバーのより大きな値は概して、H2のより大きな拡散を示す。複合PVDF ICMは典型的に、通常の緻密なイオノマー膜に比べて水素の拡散が小さくなっている。H2クロスオーバーはまた、MEAに組み立てる前に膜にピンホールがあるかどうか調べるために用いられる。
【0066】
0.8Vおよび0.6VにおいてのMEA性能
0.8Vにおいての性能および0.6Vにおいての性能の値を用いて、70℃においてのMEAの電圧対電流プロットまたは分極曲線を得ることによってMEAの性能を評価する。これらの電池は、100%RH(相対湿度)の水素および100%RHの空気で実験された。触媒配合量は、アノードおよびカソードの両側で0.4mg/cm2であった。得られた分極曲線は、電池を流れる電流を電池の両端の電位差に関連づけた。
【0067】
破壊強度:
破壊強度試験は、膜の破壊ピーク負荷を測定する。特に、破壊強度試験を用いて、キャストナフィオン膜または複合PVDF/ナフィオン膜の破壊ピーク負荷を測定した。用いられた計測器は、10Nロードセルを有するインストロン(INS(登録商標)TRON)シリーズ5500Rであった。破壊先端は、0.0030インチ(0.0076cm)の先端直径を有する0.090インチ(0.23cm)のマンドレル上に取付けられた0.040インチ(0.10cm)の大きさのナジェット(NAJET)マンドレルマウントシリーズ#400−材料HSSC(品目0201)シャンクである。破壊強度は、公知の厚さのフィルムを破壊するために必要な平方センチメートル当たりの力を測定する。試料寸法は、1.5インチ(3.8cm)×1.5インチ(3.8cm)の正方形であった。クロスヘッド速度は2mm/分であった。
【0068】
実施例1〜7
微孔性PVDFフィルムを以下に記載された方法を用いて図1に示された機器と同様な機器を用いて作製した。これらのフィルムの性質を以下の表1に示す。表1は、非核形成対照用PVDFフィルムに比べて核剤としてのCI69800ピグメントブルー60、CI71130ピグメントレッド179およびPTFEの有効性を示す。使用された核剤および量は、フィルム間で変えられ、溶融ブレンドの全重量によるパーセントとして表1に記載される。各フィルムの厚さを測定し、表1に示す。縦方向(MD)および横断方向(TD)の両方においてのフィルムの破断引張強さを測定した。核形成フィルムは、どんな測定可能な程度にも延伸することができない非核形成対照標準に比べてすぐれた破断強度および伸びを示した。
【0069】
図1を参照して、PVDFポリマーペレット(ソルフ1012)を、毎時3.6〜4.5キログラムのおよその全押出速度および150RPMのスクリュー速度を有する25mm同時回転二軸スクリュー押出機のホッパー12に導入した。実施例1〜5について、粉末の形の核剤をミニ・ゼタビードミル内でグリセリルトリアセテート希釈剤と予備混合し、次いでホッパー12と押出機出口30との中間の押出機壁の孔11経由で押出機10中に供給デバイス13によって付加的な希釈剤を供給した。実施例6〜7については、分散体の形の核剤を先述のようにPVDFペレット上にコーティングし、次いでホッパー12経由で供給した。ポリマー対希釈剤の比は使用された成核剤の量によってわずかに変えられたが、概して約0.41:1.0であった。押出機は、204℃の領域1、266℃の領域2、266℃の領域3、221℃の領域4、182℃の領域5、182℃の領域6、182℃の領域7および182℃の領域8の温度プロフィールの8つの領域を有した(図1においてそれぞれ、領域16、18、20、22、24、26、および28として示される)。次に、溶融体を、2度クロムめっきしたコートハンガースロットフィルムダイ32にポンプ輸送し、実施例2について52℃から実施例1および3〜7について63℃までの範囲のクロムロール36上にキャストし、次いでロールに巻き取った。フィルム試料をロールから切り取り、15cm×28cmの大きさの金属フレーム内に置いた。次に、フレームを20分間、脱イオン水の小皿内に置き(トリアセチン希釈剤をフィルムから有効に除去し)、次いで周囲空気中で乾燥させた。次に、洗浄されたフィルム試料を132℃においてTM長フィルム伸長機(ニュージャージー州、サマービルのTM・ロング・カンパニー(TM Long Co.,Somerville,NJ))で1.75×1.75に二軸伸長した。伸長が終わった後に132℃において2〜5分間、フィルムを伸長機内に保持し、フィルムをアニールした。
【0070】
あるいは、層34を、水または他の適した溶剤を用いてPVDFの結晶化温度より低い適した温度に維持された液体急冷槽またはガス急冷槽中に供給することができる。急冷槽38が水ガスまたは他の適した溶剤を用いる場合、槽は、グリセリルトリアセテート希釈剤を除去するように機能する。次に、フィルムを縦方向伸長デバイス42および横断方向伸長デバイス44に誘導し、次いでロールに巻き取るための引取ローラー46に誘導した。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例8〜19
実施例10〜17および19の微孔性PVDFフィルムを実施例1〜7の場合と同様に作製した(すなわち試料を切り、15cm×28cmの大きさのフレーム内に置き、次いで20分間、脱イオン水の小皿内に置いた)。PVDF樹脂のタイプ、ポリマー対希釈剤の比、クロムロール温度(すなわち冷却速度)、ならびに延伸比および温度を変えて、以下の表2に示されるような広範囲の性質を生じさせる。P.B.60を溶融ブレンドの全重量による様々なパーセンテージで成核剤として用いた。実施例8〜12および14の予備洗浄トリアセチン含有量は50重量%であり、実施例13の予備洗浄トリアセチン含有量は55重量%であり、実施例15〜19の予備洗浄トリアセチン含有量は58重量%であった。クロムロールは、52℃から82℃まで変化された。クロムロールの後に、実施例8、9、および18の急冷された押出物を、周囲温度(22℃)に維持された水洗槽中に供給してグリセリルトリアセテート希釈剤を除去した。
【0073】
次に、実施例10〜17および19の洗浄されたフィルム試料を、132℃においてTM長フィルム伸長機で2×2に二軸伸長した。伸長が終わった後に132℃において2〜5分間、フィルムを伸長機内に保持し、フィルムをアニールした。図1に示すように長さ延伸機42およびテンタ44で実施例8〜9をインラインで2×2に二軸伸長し、実施例18を1.7×1.85に二軸伸長した。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例20〜25
PEMとして使用するための微孔性PVDFフィルムを実施例10〜17および19の場合と同様に作製したが、ただし、フィルムは、毎時9〜11.4キログラムの押出速度および216℃、271℃、221℃、188℃、188℃、188℃、および188℃のバレル温度プロフィールを用いて40mm同時回転二軸スクリュー押出機で製造された。150RPMのスクリュー速度を用いた。溶融ブレンドは、PVDFおよびグリセリルトリアセテート希釈剤を約45:55〜約40:60の範囲の比で含んだ。CI69800ピグメントブルー60を、溶融ブレンドの全重量によって約0.4パーセントの濃度において溶融ブレンドに添加した。溶融ブレンドを、冷却されたパターン化クロムロール上に、2度クロムめっきしたコートハンガースロットフィルムダイを通してポンプ輸送した。クロムロールは一連の交差ローレット線(25線/cm)で彫刻され、約140ミクロンの高さを有するロール面にわたって一連の隆起角錐構造をもたらした。クロムロール温度は、約35℃〜約74℃の範囲であった。フィルムは、希釈剤を除去するために洗浄されなかった。次に、フィルムを、実施例8〜9および18の場合と同様に延伸した。
【0076】
次に、PVDF微孔性フィルムにイオン伝導電解質(ナフィオン1000)を含浸し、PEMとして使用するために膜の内部容積を有効に充填した。
【0077】
微孔性PVDF膜は、以下の技術を用いてナフィオン1000イオン伝導電解質溶液の等量を膜の各面にコーティングすることによって膨潤された。2つのガラスプレートを50:50溶液のイソプロパノールおよび水で清浄にした。微孔性PVDF膜を第1のプレートの端縁に沿ってテープで止め、次いで隣接した第2のプレートの上に置いた。アプリケーターゲージを用いて、イオン伝導溶液の制御された量を第1のプレート上に分配した。微孔性膜を一切の波しわおよび気泡を避けるように第1のプレートの上に、分配された電解質中に注意深く置いた。電解質溶液を10〜30秒間、膜を通して拡散させた。次に、電解質溶液の制御された量を、第1のプレートによって支持された微孔性膜上に分配した。次いで、微孔性膜を10分間、90℃において乾燥させ、10分間、160℃においてアニールした。引き続いて、得られたイオン伝導性膜(ICM)を、上述の試験方法によって試験のために膜電極接合体に組み立てた。膜は本質的に親水性であり、それは、イオノマー溶液による膜のコーティングを容易にした。ICMの多孔度および電気的性質を以下の表3および4に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
実施例26〜30
微孔性PVDFフィルムを実施例8〜9の場合と同様にして作製し、それによって、クロムロールのすぐ後に水洗槽を用いてトリアセチン希釈剤を膜から洗い流した。微孔性PVDF膜は希釈剤の除去後に疎水性になり、膜細孔にイオン伝導溶液を充填してPEMとして使用するための膜を作製することを難しくした。膜の疎水性を減少させるために、約65:35〜75:25の範囲のn−プロパノールとグリセロールとの溶液を用いて、以下の手順を用いて膜を予備湿潤した。2つのガラスプレートを、イソプロパノールと水との50:50溶液で清浄にした。一片の微孔性フィルムを、清浄にされたプレートの1つにテープで付けた。次いで、プレートを両端を突き合わせて置き、次に、アプリケーターゲージを用いて、「ブランク」ガラスプレートをn−プロパノール/グリセロール溶液でコーティングし、フィルムを注意深く溶液中に置いた。ゴムローラーを用いて、大きいストロークを用いて過剰溶液をフィルムから押出した。第2のプレートを、清浄にされた/拭い取られたアプリケーターゲージを用いてナフィオン1000イオノマー溶液ですみやかにコーティングした。次いで、予備湿潤されたフィルムをイオノマー溶液中に置き、フィルムに気泡を閉じ込めるかまたは皺を形成するのを避けることを確実にした。次に、イオノマー溶液を10〜30秒間、膜を通して拡散させた。次いで、膜の上部を、アプリケーターゲージを用いて所望の厚さのイオノマー溶液でコーティングした。次いで、膜を10分間、90℃において乾燥させ、さらに10分間、160℃においてアニールした。引き続いて、得られたイオン伝導性膜(ICM)を、上述の試験方法によって試験のために膜電極接合体に組み立てた。ICMの多孔度および電気的性質を以下の表5および6に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
実施例20〜24のPVDF ICMも破壊試験を行なわれ、キャストされて乾燥されるナフィオン1000溶液から作製された通常のICMと比べた時にそれらの改良された強度を示した。5つの異なったナフィオン対照用フィルムを製造し、測定した。強度を厚さで割ることによって膜の破壊強度を正規化し、単位厚さ当たりに基づいて、本発明の膜は通常のICMより強いことを示した。
【0084】
【表7】

【0085】
全破壊性能は、複合PVDFプロトン交換膜が緻密な膜の厚さより小さい厚さを有した場合でも、通常の緻密なポリマー電解質PEMと同等であった。本発明の微孔性PVDF膜は、MEA中のPEMとして機能するためにうまく受け入れられた。
【0086】
本発明は好ましい実施態様を参照して記載されたが、本発明の精神および範囲から逸脱せずに形状および詳細において変更を行なうことができることを当業者は理解するだろう。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による微孔性フィルムの製造方法の実施および製造のために用いることができる機器の斜視図である。
【図2】5層MEAの略断面図である。
【図3】膜構造のノードおよびフィブリル性質を示す顕微鏡写真である。
【図4A】核形成なしに達成されたミクロ構造を示す膜断面の顕微鏡写真である。球晶の寸法は変化し、核形成がない場合、より大きな球晶が得られる(A)。
【図4B】核形成によって達成されたミクロ構造を示す膜断面の顕微鏡写真である。球晶の寸法は変化し、核形成がある場合、より小さな球晶が得られる(B)。
【図5A】不整構造を有する微孔性PVDFフィルムの空気側を示す顕微鏡写真である(実施例9を参照のこと)。
【図5B】不整構造を有する微孔性PVDFフィルムのホイール側を示す顕微鏡写真である(実施例9を参照のこと)。
【図5C】不整構造を有する微孔性PVDFフィルムの断面(ホイール側が上)を示す顕微鏡写真である(実施例9を参照のこと)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーと、
b)核剤を用いない結晶化に比べてかなり多量の結晶化部位において前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーの結晶化を開始するために十分な量の核剤と、を含み、
微孔性であり、少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において少なくとも1つの方向に延伸された造形物品。
【請求項2】
前記十分な量の核剤が、前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーの約0.2質量パーセント〜約2.5質量パーセントである、請求項1に記載の造形物品。
【請求項3】
前記核剤が、ピグメントブルー60、ピグメントレッド179、ピグメントバイオレット5:1、バットイエロー2、ピグメントイエロー24、およびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される、請求項2に記載の造形物品。
【請求項4】
二軸延伸された請求項1に記載の造形物品。
【請求項5】
微小孔を有し、前記微小孔が付加的な物質で部分的または完全に充填される、請求項1に記載の造形物品。
【請求項6】
管、シート、フィラメント、または中空ファイバーの形状である、請求項1に記載の造形物品。
【請求項7】
コーティング材料でコーティングされる、請求項1に記載の造形物品。
【請求項8】
少なくとも1つの他の材料と組み合わされて積層構造物を形成する、請求項1に記載の造形物品。
【請求項9】
前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーが半結晶質であり、約0.13〜約6.0のメルトフローインデックスを有する、請求項1に記載の造形物品。
【請求項10】
a)ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーと、
b)核剤を用いない結晶化に比べてかなり多量の結晶化部位において前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーの結晶化を開始するために十分な量の核剤と、
c)前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーが混和性である希釈剤であって、前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーが、前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーの融解温度以上の温度において溶解し、前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーの結晶化温度または相分離温度以下の温度に冷却した時に相分離する希釈剤と、を含み、
微孔性であり、少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において少なくとも1つの方向に延伸された造形物品。
【請求項11】
前記十分な量の核剤が、前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーと前記希釈剤との約0.1質量パーセント〜約1.0質量パーセントである、請求項10に記載の造形物品。
【請求項12】
前記核剤が、ピグメントブルー60、ピグメントレッド179、ピグメントバイオレット5:1、バットイエロー2、ピグメントイエロー24、およびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される、請求項11に記載の造形物品。
【請求項13】
微小孔を有し、前記微小孔が、付加的な物質で部分的または完全に充填される、請求項10に記載の造形物品。
【請求項14】
管、シート、フィラメント、または中空ファイバーの形状である、請求項10に記載の造形物品。
【請求項15】
二軸延伸された請求項10に記載の造形物品。
【請求項16】
コーティング材料でコーティングされる、請求項10に記載の造形物品。
【請求項17】
a)ポリフッ化ビニリデンポリマーまたはそのコポリマーと、核剤を用いない結晶化に比べてかなり多量の結晶化部位において前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーの結晶化を開始するために十分な核剤と、グリセリルトリアセテートとを含む混合物を溶融ブレンドして形成する工程と、
b)前記混合物の造形物品を形成する工程と、
c)前記グリセリルトリアセテートと前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーとの間で相分離を起こさせるように前記核剤が前記混合物中の前記結晶化部位を発生させる温度に前記造形物品を冷却する工程と、
d)前記造形物品を少なくとも1つの方向に少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において伸長する工程と、
を含む微孔性物品の作製方法。
【請求項18】
前記冷却工程が、前記造形物品を液体冷却媒体中に浸漬する工程を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記冷却工程が、前記造形物品をキャスチングホイール上にキャストする工程を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
延伸が二軸延伸である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
延伸が、前記物品の元の長さの約10〜約1,000パーセントの前記物品の長さの増大をもたらす、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記グリセリルトリアセテートを除去する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記グリセリルトリアセテートが溶剤可溶性であり、前記除去工程が溶剤抽出による、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記グリセリルトリアセテートが前記グリセリルトリアセテートの揮発によって除去される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記微孔性物品を付加的な物質で充填する工程をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記付加的な物質がイオン伝導電解質である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記イオン伝導電解質がプロトン伝導電解質である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
延伸された物品を熱安定化温度に抑えたまま加熱することによって前記物品を寸法安定化する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項29】
前記微孔性物品を第2の物品に積層する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項30】
前記微孔性物品を付加的な物質で充填する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項31】
前記付加的な物質がイオン伝導電解質である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記イオン伝導電解質がプロトン伝導電解質である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
a)ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーと、
核剤を用いない結晶化に比べてかなり多量の結晶化部位において前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーの結晶化を開始するために十分な量の核剤と、を含み、少なくとも約1.1〜1.0の延伸比において少なくとも1つの方向に延伸されて微小孔の網目を提供し、微小孔寸法が約0.4ミクロンより大きく、約1.5ミルより小さい厚さおよび約10秒/50ccより小さいガーレイを有する造形物品と、
b)前記微小孔を充填して前記膜をイオン伝導性膜として機能させるために十分な量のイオン伝導電解質と、
を含むイオン伝導性膜。
【請求項34】
前記十分な量の核剤が、ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーの約0.2質量パーセント〜約2.5質量パーセントである、請求項33に記載のイオン伝導性膜。
【請求項35】
前記核剤が、ピグメントブルー60、ピグメントレッド179、ピグメントバイオレット5:1、バットイエロー2、ピグメントイエロー24、およびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される、請求項34に記載のイオン伝導性膜。
【請求項36】
前記ポリフッ化ビニリデンまたはそのコポリマーが半結晶質であり、約0.13〜約6.0のメルトフローインデックスを有する、請求項33に記載のイオン伝導性膜。
【請求項37】
前記造形物品が1.1〜1.0の延伸比において二軸延伸される、請求項33に記載のイオン伝導性膜。
【請求項38】
十分な量のイオン伝導電解質が、前記膜の細孔容積の少なくとも約95〜100%以上を充填するために十分なイオン伝導電解質の容積である、請求項33に記載のイオン伝導性膜。
【請求項39】
請求項33に記載のイオン伝導性膜を含む膜電極接合体。
【請求項40】
請求項39に記載の膜電極接合体を含む電気化学デバイス。
【請求項41】
請求項39に記載の膜電極接合体を含む燃料電池。
【請求項42】
不整構造を有する膜を含む、請求項1に記載の造形物品。
【請求項43】
不整構造を有する膜を含む、請求項10に記載の造形物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公表番号】特表2007−505185(P2007−505185A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526064(P2006−526064)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/021609
【国際公開番号】WO2005/035641
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】