説明

微小メカニカル素子およびその作製方法

【課題】メカニカルに動作(振動)する可動構造体を、より高い機械的強度で支持された状態とし、振動のQ値や共振周波数の低下などが抑制できるようにする。
【解決手段】基部パターン103bの基板101の露出部との境界線を含む基板101の平面に垂直な平面に平行な第1方向より反応性イオン104を基板101に入射させることで基板101をエッチングし、ストライプパターン103aの延在方向に垂直な方向の第1の側より基板101に第1空間111を形成する。第1方向を、ストライプパターン103aの中心部に向かう側に基板101の平面の法線と所定の角度とする。例えば、法線と45°の角度を成して、反応性イオン104を基板101に入射させる。このことにより、第1空間111が、ストライプパターン103aの下部にかけて形成された状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高感度な各種センサやレゾネータなどに利用される微小メカニカル素子およびその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の微小メカニカル素子は、基板の上に予め設計された形状のレジストパターンを形成するリソグラフィー技術、形成したレジストパターンの形状を基板に転写するドライエッチング技術およびウエットエッチング技術などを用い、設計されたメカニカルな動作をする微小部分を形成することで作製されている。場合によっては、基板の上に薄膜を形成する薄膜形成技術も用いられている。また、形成された微小部分は、電気回路と組み合わせることで、微細な機械やセンサ素子として用いられている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、近年では、上述したような微小メカニカル素子の動作部分をさらに微細にすることで、センサの感度を大幅に向上させ、また、共振周波数を大幅に向上させたナノ電気機械システムが注目されている(非特許文献2,3参照)。
【0004】
ここで、メカニカルに動作する微小部分を形成する技術として最も一般に用いられている方法では、溶液を用いたウエットエッチングにより微小部分の直下をエッチングし、微小部分を基板の上に離間した状態に形成している。この具体的な作製方法について説明すると、まず、図2(a)に示すように、基板201を用意し、次に、図2(b)に示すように、基板201の上に薄膜202が形成された状態とする。次いで、図2(c)に示すように、薄膜202の上に感光性を有するレジスト膜203が形成された状態とする。
【0005】
次に、公知のリソグラフィー技術によりレジスト膜203をパターニングし、図2(d)に示すように、薄膜202の上に、後述する微小動作部分となるパターン部を備えたレジストパターン203aが形成された状態とする。次いで、図2(e)に示すように、レジストパターン203aをマスクとし、いわゆる真空状態に減圧された処理装置内で、反応性イオン204の照射によるドライエッチングで、レジストパターン203aの形状が、薄膜202および基板201に転写され、薄膜202には、取り付け部202aおよびこれに連結する可動構造体である微小振動部分202bが形成された状態とする。
【0006】
次に、レジストパターン203aを除去した後、今度は、パターンが転写された薄膜202をマスクとした等方的なウエットエッチングにより、選択的に基板201をエッチングする。このエッチングでは、薄膜202に対して基板201を選択的に溶解する溶液をエッチング液として用いる。このウエットエッチング処理により、図2(f)に示すように、幅が狭い微小振動部分202bの下の部分は除去され、微小振動部分202bは、基板201の上に離間した状態となる。また、取り付け部202aは、基板201の支持部201aの上に支持された状態となる。
【0007】
【非特許文献1】江刺 正喜 監修、「マイクロマシン」、産業技術サービスセンター発行、2002年。
【非特許文献2】D.Rugar, et al., "Single Spin detection by magnetic resonance force microscopy", Nature, Vol.430, pp.329-332, 2004.
【非特許文献3】Xue Ming Henry Huang, et al., "Nanodevice motion at microwave frequencies", Nature, Vol.421, p.496, 2003.
【非特許文献4】A.N.Cleland and M.L.Roukes, "Fabrication of high frequency nanometer scale mechanical resonators from bulk Si crystals", Appl. Phys. Lett., Vol.69, No.18, pp.2653-2655, 1996.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した作製方法では、溶液を用いた等方的なエッチングにより基板201をエッチング除去しているので、微小振動部分202bの下部に加えて、図2(g)に示すように、取り付け部202aの下部の一部までエッチングされる。なお、図2(g)は、図2(f)の一点鎖線で示す面の断面を模式的に示している。このため、取り付け部202aの機械的強度が不充分となり、微小振動部分202bを支持する機械的強度が高くなく、メカニカル素子の動作として微小振動部分202bを例えば振動させると、この動作が不安定になるという問題がある。例えば、微小振動部分202bを共振させると、振動エネルギーの一部が取り付け部202aの動きによって散逸し、振動のQ値が低下するという問題が発生する。加えて、取り付け部202aが動くので、微小振動部分202bの共振周波数が、設計値より低下するという問題がある。
【0009】
また、ウエットエッチングではなく、等方的なドライエッチングを用いて上述同様に微小振動部分を形成する技術も提案されている(非特許文献4参照)。しかしながら、この方法においても、等方的にエッチングを行うため、上述同様に、取り付け部の下部がエッチングされることになり、上述同様の問題が発生する。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、メカニカルに動作(振動)する可動構造体を、より高い機械的強度で支持された状態とし、振動のQ値や共振周波数の低下などが抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る微小メカニカル素子の作製方法は、基板の上に所定の方向に延在する所定の幅の第1パターンおよびこの第1パターンが連結して第1パターンより幅広の第2パターンが形成された状態とするマスクパターン形成工程と、第1パターンおよび第2パターンをマスクとし、第2パターンの基板の露出部との境界線を含む基板平面に垂直な平面に平行な第1方向よりエッチング粒子を基板に入射させることで基板をエッチングし、第1パターンの延在方向に垂直な第1の側より基板に第1空間を形成する第1エッチング工程と、第1パターンおよび第2パターンをマスクとし、第2パターンの基板の露出部との境界線を含む基板平面に垂直な平面に平行かつ第1方向とは異なる第2方向よりエッチング粒子を基板に入射させることで基板をエッチングし、第1パターンの第1の側に対向する第2の側より第1空間に接続する第2空間を基板に形成する第2エッチング工程とを少なくとも含み、第1方向および第2方向の少なくとも1つは、第1パターンの中心部に向かう側に基板の平面の法線と所定の角度とされ、第1空間および第2空間の少なくとも1つは、第1パターンの下部にかけて形成されているようにしたものである。従って、第1パターンの下部に、第1エッチング工程および第2エッチング工程により新たに形成された基板の表面と離間している可動構造体が形成されるようになる。
【0012】
また、本発明に係る微小メカニカル素子は、上述した微小メカニカル素子の作製方法によって作成された微小メカニカル素子であって、第2パターンの下部の基板の上に形成された支持部と、支持部に連結して第1パターンの下部領域に形成された可動構造体とを備え、可動構造体は第1エッチング工程および第2エッチング工程により新たに形成された基板の表面と離間して形成されているものである。可動構造体の延在方向に垂直な断面の形状は、少なくとも3つの辺を有する多角形である。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、第2パターンの基板の露出部との境界線を含む前記基板平面に垂直な平面に平行な第1方向および第2方向よりエッチング粒子を基板に入射させることで基板をエッチングし、第1パターンの第1の側および第2の側より基板に第1空間および第2の空間を形成し、これら空間を接続させるようにしたので、メカニカルに動作(振動)する可動構造体を、より高い機械的強度で支持された状態とし、振動のQ値や共振周波数の低下などが抑制できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1(a)〜図1(f)は、本発明の実施の形態における微小メカニカル素子の作製方法を説明するための工程図である。まず、図1(a)の模式的な断面図に示すように、基板101を用意する。基板101は、例えば単結晶シリコンから構成されたものである。また、酸化シリコンなどの絶縁性基板であってもよい。
【0015】
次に、図1(b)の模式的な断面図に示すように、基板101の上に感光性を有する樹脂から構成されたレジスト膜103が形成された状態とする。例えば、よく知られた回転塗布法により、基板101の上にレジスト材料を塗布することで、レジスト膜103が形成可能である。
【0016】
次に、レジスト膜103に所定のパターンを露光して潜像を形成し、次いで、これを現像することで、図1(c)の斜視図および図1(c’)の模式的な断面図に示すように、基板101の上に、所定の幅で所定の方向に延在するストライプ状のストライプパターン(第1パターン)103aおよびこれが連結する基部パターン(第2パターン)103bが形成された状態とする。なお、図1(c’)は、図1(c)の一点鎖線で示す面の断面を模式的に示している。また、図1(d)および図1(e)も同様である。
【0017】
ここで、ストライプパターン103aの延在方向に垂直で基板101の平面に平行な方向の幅は、基部パターン103bの幅より狭く形成されている。言い換えると、基部パターン103bは、ストライプパターン103aよりも幅広に形成されている。なお、本実施の形態では、ストライプパターン103aは、基部パターン103bの基板101の露出部との境界線に対して垂直な方向に延在している。
【0018】
次に、図1(d)および図1(e)の模式的な断面図に示すように、ストライプパターン103aをマスクとし、反応性イオン(エッチング粒子)104を用いた公知のドライエッチング法により、基板101をパターニング(加工)する。このドライエッチング法によれば、いわゆる垂直異方性を備えた状態でエッチングが成される。なお、反応性イオンに限らず、例えば、電界をかけることで所定方向に飛行させた中性粒子(ラジカル)など、定まった方向に飛行して基板101をエッチング可能なエッチング粒子であればよい。
【0019】
ここで、まず、図1(d)に示すように、基部パターン103bの基板101の露出部との境界線を含む基板101の平面に垂直な平面に平行な第1方向より反応性イオン104を基板101に入射させることで基板101をエッチングし、ストライプパターン103aの延在方向に垂直な方向の第1の側より基板101に第1空間111を形成する。この実施の形態では、第1方向を、ストライプパターン103aの中心部に向かう側に基板101の平面の法線と所定の角度とする。例えば、法線と45°の角度を成して、反応性イオン104を基板101に入射させる。このことにより、第1空間111が、ストライプパターン103aの下部にかけて形成された状態とする。
【0020】
次いで、図1(e)に示すように、基部パターン103bの基板101の露出部との境界線を含む基板101の平面に垂直な平面に平行で、第1方向とは異なる第2方向より反応性イオン104を基板101に入射させることで基板101をエッチングし、ストライプパターン103aの第1の側に対向する第2の側より第1空間111に接続する第2空間112を基板101に形成する。この実施の形態では、第2方向も、ストライプパターン103aの中心部に向かう側に基板101の平面の法線と所定の角度とする。例えば、法線と45°の角度を成して、反応性イオン104を基板101に入射させる。このことにより、第2空間112も、ストライプパターン103aの下部にかけて形成された状態となり、第1空間111に接続する状態が得られる。
【0021】
以上の2つのエッチング工程により、図1(e)に示すように、ストライプパターン103aの下部の基板101に、空間が形成された状態とする。言い換えると、上記エッチングにより新たに形成された基板101の表面上に、この表面とは離間した状態にメカニカルに動作(振動)する可動構造体101aが形成された状態とする。本実施の形態では、可動構造体101aは、この延在方向に垂直な断面の形状が3角形に形成される。
【0022】
また、いずれのエッチングにおいても、第1方向および第2方向は、基部パターン103bの基板101の露出部との境界線を含む基板101の平面に垂直な平面に平行としているので、この境界線より基部パターン103b側の基板101(基部パターン103bの下の基板101)がエッチングされることがない。また、境界線における基板101のエッチング側面(加工側面)は、基板101の平面に対して垂直な状態となる。
【0023】
この後、ストライプパターン103aおよび基部パターン103bを除去することで、図1(f)の斜視図に示すように、支持部101bに支持されて基板101上に離間する可動構造体101aが形成された状態が得られる。ここで、前述したように、基部パターン103bの下部はエッチングされることがなく、可動構造体101aが連結されている支持部101bの側面は、基板101の平面に対して垂直に形成される。このため、可動構造体101aが連結している支持部101bの端部が動くことがなく、高い機械的強度を備えた状態に形成される。この結果、本実施の形態における可動構造体101aは、安定した動作を行うことが可能となる。
【0024】
また、本実施の形態によれば、マスクとなるパターンに対して選択比が得られる状態で、基板101をエッチングすればよいため、材料の選択の自由度が向上ずる。
【0025】
なお、上述した実施の形態では、第1方向を、ストライプパターン103aの中心部に向かう側に基板101の平面の法線と所定の角度(例えば45°)とすることで、第1空間111が、ストライプパターン103aの下部にかけて形成された状態としたがこれに限るものではない。
【0026】
例えば、第1方向は、基板101の平面の法線方向とし、ストライプパターン103aの第1の側に、基板101の平面に対して垂直に掘られた第1空間が形成されるようにしてもよい。このように形成された第1空間に対し、例えば、第2方向を、ストライプパターン103aの中心部に向かう側に基板101の平面の法線と45°として第2空間を形成すれば、第2空間を第1空間に接続させることができる。
【0027】
また、第2方向は基板101の平面の法線方向とし、第1方向を、ストライプパターン103aの中心部に向かう側に基板101の平面の法線と所定の角度(例えば45°)としてもよい。いずれにしても、第1方向と第2方向とが異なり、少なくとも一方が、ストライプパターン103aの中心部に向かう側に基板101の平面の法線と所定の角度とされていればよい。
【0028】
また、反応性イオン104の基板101平面に対する斜めの入射角度、およびストライプパターン103a形成やエッチング処理の回数を変更することにより、可動構造体101aの延在方向に垂直な断面の形状が制御可能である。可動構造体の延在方向に垂直な断面の形状は、3角形,4角形,5角形など、少なくとも3つの辺を有する多角形にするとができる。この断面形状は、可動構造体101aの機械的特性の因子となるが、本実施の形態によれば、この断面形状を制御できるため、可動構造体の機械的特性を細かく制御できることになる。
【0029】
なお、上述では、片持ち梁構造の可動構造体101aを形成する場合について説明したが、これに限るものではなく、両持ち梁構造など他の構造の微細振動部分も同様に形成できる。また、上述では、マスクとしてレジストパターンを用いるようにしたが、これに限るものではなく、レジストパターンを用いて転写した無機材料からなる薄膜のパターンをマスクとして用いるようにしてもよい。また、公知のリフトオフ法により形成したパターンをマスクとして用いるようにしてもよい。
【0030】
また、上述では、可動構造体101aを単層の薄膜から形成するようにしたが、これに限るのではなく、例えば、異なる材料が積層された多層膜から、上述同様に可動構造体を形成することも可能である。例えば、スパッタリング法および蒸着法などにより、種々の材料の薄膜を積層し、各薄膜材料に適した1種または複数種の反応性イオン104(反応性イオン)により、垂直異方性を有する状態で上述同様の2方向からの斜めエッチングを行うことで、多層膜から構成された可動構造体を形成することができる。
【0031】
なお、以上に例示した本発明における実施の形態は、本発明により考え得る形態の一部であり、例えば、ドライエッチングの方法、リソグラフィーの方法、目的とする微小メカニカル素子の機能・構造によって、本発明は多数の実施形態をとり得るものである。具体的な組み合わせは、用いるマスクやドライエッチングの方法、目的とする微小メカニカル素子の機能/構造に応じ、適宜最適なものを選択すればよく、適切な組み合わせにより前述同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態における微小メカニカル素子の作製方法を説明するための工程図である。
【図2】従来の微小メカニカル素子の作製方法を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0033】
101…基板、101a…可動構造体、101b…支持部、103…レジスト膜、103a…ストライプパターン(第1パターン),103b…基部パターン(第2パターン)、104…反応性イオン(エッチング粒子)、111…第1空間、112…第2空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に所定の方向に延在する所定の幅の第1パターンおよびこの第1パターンが連結して前記第1パターンより幅広の第2パターンが形成された状態とするマスクパターン形成工程と、
前記第1パターンおよび前記第2パターンをマスクとし、前記第2パターンの基板の露出部との境界線を含む前記基板平面に垂直な平面に平行な第1方向よりエッチング粒子を前記基板に入射させることで前記基板をエッチングし、前記第1パターンの延在方向に垂直な第1の側より前記基板に第1空間を形成する第1エッチング工程と、
前記第1パターンおよび前記第2パターンをマスクとし、前記第2パターンの基板の露出部との境界線を含む前記基板平面に垂直な平面に平行かつ前記第1方向とは異なる第2方向よりエッチング粒子を前記基板に入射させることで前記基板をエッチングし、前記第1パターンの第1の側に対向する第2の側より前記第1空間に接続する第2空間を前記基板に形成する第2エッチング工程と
を少なくとも含み、
前記第1方向および前記第2方向の少なくとも1つは、前記第1パターンの中心部に向かう側に前記基板の平面の法線と所定の角度とされ、
前記第1空間および前記第2空間の少なくとも1つは、前記第1パターンの下部にかけて形成されている
ことを特徴とする微小メカニカル素子の作製方法。
【請求項2】
請求項1記載の微小メカニカル素子の作製方法によって作成された微小メカニカル素子であって、
前記第2パターンの下部の前記基板の上に形成された支持部と、
前記支持部に連結して前記第1パターンの下部領域に形成された可動構造体と
を備え、
前記可動構造体は前記第1エッチング工程および前記第2エッチング工程により新たに形成された前記基板の表面と離間して形成されている
ことを特徴とする微小メカニカル素子。
【請求項3】
請求項2記載の微小メカニカル素子において、
前記可動構造体の延在方向に垂直な断面の形状は、少なくとも3つの辺を有する多角形である
ことを特徴とする微小メカニカル素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−226489(P2009−226489A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70930(P2008−70930)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】