説明

微小物体の光固定化方法

【課題】微小物体を効率的に担体表面に光固定化する。
【解決手段】光照射時に微小物体2の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面6の一部に有する担体4の表面6に、微小物体2を含有する微小物体含有液状体10の存在下、微小物体2の微小物体含有媒体10の液状媒体12への溶解が抑制された状態で光照射して微小物体2を担体表面6に固定化する光固定化工程を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微小物体を所定の表面に固定化する技術に属し、特に光によって微小物体を所定表面に固定化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な物体を光照射により固定化した例としては、DNAやタンパク質を光応答性のアゾ色素を含有するポリマー(アゾポリマー)の薄膜表面に配置後、光照射によりその配置パターンに応じてDNA及びタンパク質等をアゾポリマーの表面上に固定したことが開示されている(特許文献1)。また、微小物体を、光固定化材料を表面に有する担体(以下、単に「担体」という)に固定するには、微小物体を担体表面に接触させ配置した状態で光照射することが好ましいとされ、微小物体を担体表面に安定的に配置するため、光固定化材料に微小物体の親和性を持たせることが開示されている(特許文献2)。
【0003】
これらの方法においては、微小物体を担体表面に配置及び固定化するのに、担体表面に容易に微小物体を展開できる等の理由から、液状媒体に微小物体を溶解ないし懸濁させた状態で行うことが開示されている。
【特許文献1】特開2003−329682号公報
【特許文献2】特開2004−251801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らによれば、溶媒中で熱分子運動をしている微小物体を担体表面に接触した僅かの間に分子運動を上回る固定力を発揮させて担体表面に固定化することは容易ではなかった。このため、液状媒体中の微小物体の光固定化効率は低く、高密度で微小物体を固定化するのは困難であった。また、液状媒体を除去した状態で微小物体を担体表面に配置後に光照射する方法は、微小物体に対して意図しない物理的及び/又は化学的ストレスを与えることがあった。
【0005】
そこで、本発明は、微小物体を効率的に担体表面に固定化することを一つの目的とする。また、本発明は、微小物体を高密度で担体表面に固定化することを他の一つの目的とする。さらにまた、本発明は、微小物体を穏和な条件で担体表面に固定化することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、液状媒体中に含まれる微小物体を担体表面に光固定化するための液状媒体に着目し、液状媒体について種々検討したところ、液状媒体における微小物体の溶解を抑制させる媒体組成を採用することで、効率的に微小物体を担体表面に光固定化できることを見出した。また、こうした媒体組成を採用することで、容易に高密度に微小物体を担体表面に光固定化できるとともに、微小物体に付与されるストレスを回避ないし抑制できることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0007】
本発明の一つの形態によれば、光照射時に微小物体の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面の一部に有する担体の該表面に、前記微小物体を含有する微小物体含有液状体の存在下、前記微小物体の前記微小物体含有媒体の液状媒体への溶解が抑制された状態で光照射して前記微小物体を前記担体表面に固定化する光固定化工程
を備える、微小物体の光固定化方法が提供される。
【0008】
前記光固定化工程では、前記微小物体含有液状体に前記微小物体以外の成分であって前記微小物体の溶解度を抑制させる溶解度抑制成分が含まれる及び/又は熱力学的パラメータを変化させることにより前記微小物体含有液状体における前記微小物体の溶解度を抑制させることが好ましい。
【0009】
前記溶解度抑制成分としては、前記微小物体含有液状体のpH、イオン強度、誘電率及び排除体積効果から選択される1種又は2種以上の性質を変化させる成分から選択することができる。また、前記溶解度抑制成分は、前記微小物体が固相化しない程度に前記微小物体を変性させる1種又は2種以上の成分から選択することができる。さらに、前記溶解度抑制成分は、前記微小物体が沈殿しない程度で含まれる塩析剤とすることができる。こうした塩析剤としては、前記塩析剤は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、酢酸アンモニウム及びリン酸カリウムから選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0010】
また、前記光固定化工程は、前記熱力学的パラメータを、攪拌、冷却、加熱、加圧、減圧及び光照射から選択される1種又は2種以上の操作によって変化させる工程とすることができる。また、前記光固定化工程は、前記微小物体含有液状体のpHを前記微小物体の等電点付近に調整する工程とすることができる。
【0011】
こうした光固定化方法においては、前記微小物体は、原子、分子及びこれらが集合した任意形状の粒子とすることができる。また、前記微小物体は、タンパク質、核酸等の生体分子とすることができ、タンパク質とすることが好ましい。
【0012】
こうした光固定化方法においては、前記微小物体含有液状体は前記微小物体を溶質として含有していることが好ましい。また、前記微小物体含有液状体は、微小物体の飽和濃度、飽和濃度近傍又は過飽和濃度の溶液であってもよい。
【0013】
さらにまた、これらのいずれかの光固定化方法においては、前記微小物体含有液状体は2種以上の微小物体を含有しており、前記光固定化工程は、前記液状媒体への溶解度がより低い微小物体を前記担体表面に選択的に固定化する工程とすることができる。また、前記光固定化工程は、前記担体表面の異なる領域のそれぞれに前記微小物体の前記液状媒体への溶解度が異なる微小物体含有液状体を存在させ、前記微小物体を前記異なる領域のそれぞれに異なる密度で固定化する工程とすることもできる。さらに、前記異なる領域に存在させる2種以上の微小物体含有液状体における前記微小物体の濃度はほぼ同一とすることができる。
【0014】
これらのいずれかの光固定化方法においては、アゾ基を有する色素構造を含む材料とすることができる。また、前記微小物体は、少なくとも金属、金属酸化物、半導体、セラミックス、ガラスを含む無機物、少なくともプラスチック及び生理活性を有する有機化合物を含む有機物、なかでも少なくともペプチド、タンパク質、核酸、糖類、脂質及び骨形成物質並びにこれらから選択される2種以上の集合体を含む生体分子、少なくとも各種の生物細胞及びその一部、組織及び生物体を含んでいる生物材料、前記無機物、前記有機物、前記生体分子及び前記生物材料から選択される2種類以上を複合化した複合材料などとすることができる。
【0015】
また、本発明の他の一つの形態によれば、これらの光固定化方法のいずれかに記載の各工程を備える、微小物体担持体の製造方法が提供される。また、さらに、本発明の他の一つの形態によれば、微小物体担持体であって、この微小物体担持体の製造方法によって得られる、微小物体担持体が提供される。
【0016】
また、本発明の他の一つの形態によれば、微小物体の光固定化のためのキットであって、光照射時に微小物体の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面の一部に有する担体と、前記微小物体以外の成分であって前記微小物体含有液状体の液状媒体に含有されていることにより該成分が含有されていない場合と比較して前記微小物体の溶解度を低下させる溶解度抑制成分又は該成分を含有する液状媒体と、を備えるキットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、微小物体の光固定化方法、微小物体担持体の製造方法、微小物体担持体、微小物体の光固定化用液状媒体及びキットに関連している。
本発明における光固定化は、光照射時に微小物体の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面の一部に有する担体の該表面に、前記微小物体を含有する微小物体含有液状体の存在下、前記微小物体の前記微小物体含有液状体の液状媒体への溶解が抑制された状態で光照射して、前記微小物体を前記表面に固定化することを特徴としている。
【0018】
こうした本発明における光固定化によれば、微小物体含有液状体における微小物体の溶解性を抑制することにより、担体表面に対して効率的に光固定化される。また、こうした光固定化によれば、高密度に微小物体を担体表面に光固定化できる。さらに、液状媒体を介して微小物体を担体表面に光固定化できるため、微小物体に付与されるストレスを回避ないし抑制することができる。さらにまた、こうした光固定化によれば、微小物体含有液状体に含有される各種の微小物体の溶解性の差(溶解度の差)を利用して選択的に目的の微小物体を担体表面に固定することができる。
【0019】
また、本発明における光固定化によれば、微小物体が溶質として微小物体含有液状体に含まれている場合においても効率的に担体表面に光固定化される。微小物体が溶質として微小物体含有液状体に含有されていることにより、担体表面の光照射部位に対して均一にまた濃度や供給部位を容易に制御して光固定化できる。また、微小物体を溶質の状態で固定するため、微小物体の立体構造等を制御して光固定化することもできる。
【0020】
また、本発明における光固定化によれば、液状媒体中における溶解の程度を変えることにより、すなわち、液状媒体の組成を変更することにより、微小物体を異なる密度ないし異なる量で担体表面に光固定化することができる。このため、広い密度又は量の範囲で微小物体を担体表面に固定できるとともに、任意の濃度及び量の微小物体を容易に担体表面に固定できるようになる。
【0021】
以下、本発明の各種の実施形態について詳細に説明する。
(光固定化方法)
本発明の光固定化方法は、微小物体を所定の担体表面に固定化する方法であり、光照射時に微小物体の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面の一部に有する担体の該表面に、微小物体を含有する微小物体含有液状体が存在下に光照射して前記微小物体を前記表面に固定化する光固定化工程を備えている。本発明の光固定化の一例を示す概念図を図1に示す。
【0022】
本発明の光固定化方法における光固定化工程では、微小物体2を含有する微小物体液状体10の存在下に、担体4に光照射することで微小物体2を担体4の表面6に固定化する。以下、説明の都合上、微小物体含有液状体10及び担体4について説明し、その後光固定化工程について説明する。
【0023】
(微小物体)
本発明の対象となる微小物体2とは、原子、分子及びこれらが集合した任意形状の粒子を含んでいる。微小物体2は、有形である限り、その存在形態を問うものではない。また、微小物体のサイズ(微小物体2の最長サイズを意味するものとする。)は特に限定しないが、ミリメートルサイズを超えないことが好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。また、微小物体のサイズは、ナノサイズであってもよいが、好ましくは1nm以上である。
【0024】
また、微小物体2は、微小物体2は、必ずしも常に一定の形状を有するものである必要はなく、変形し得るものでも良い。微小物体に含有され、あるいは微小物体を構成する材料としては、特に限定しないが、例えば、有機物、無機物、金属及びこれらのうち2種類以上の複合体から選ばれる1種又は2種以上の材料が挙げられる。本発明においては有機物を含む微小物体2を好ましく用いることができ、有機物のなかでも生体分子を好ましく用いることができる。
【0025】
ここで、生体分子としては、ポリペプチド、タンパク質、核酸、糖類、脂質及び骨形成材料並びにこれらから選択される2種以上の集合体が挙げられる。これらの生体分子は、生体を構成する分子及びその改変体並びにこれらの多量体を含んでいる。また、生体分子は、生体から採取されたものに限定されず、生体から採取され人工的な改変が施されたものであっても、人工的に合成されたものであってもよい。これらの生体分子は、蛍光色素などの色素を含む標識が結合されたものであってもよい。なお、生体分子には、ペプチド核酸も包含する。
【0026】
タンパク質の集合体としては、活性型及び不活性型のタンパク質の双方を含むとともに、複数のタンパク質を共有結合他各種の結合様式で集合化されて複数のユニットとして有する集合体を含んでいる。タンパク質及びその集合体としては、例えば、各種タンパク質、酵素、抗原、抗体又は細胞膜レセプターが挙げられる。本発明の光固定化によれば、液状媒体中の溶質としてのタンパク質が担体表面6に固定化されるため、タンパク質が液状体中に存在する形態で担体表面6に固定化される。したがって、活性型の形態でも変性形態でも液状体における立体構造を維持して固定することができる。
【0027】
核酸は、1本鎖あるいは2本鎖以上、あるいは一部に1本鎖を有するDNA、RNAのほか、人工的な核酸を含んでいる。核酸としては、例えば、ゲノムDNA及びそのマイクロサテライト部あるいは任意の遺伝子の少なくとも一部を含む断片、cDNA及びその断片、mRNA及びその断片のほか、一塩基多型部位など変異部位を含むDNA(cDNA含む)断片、制限酵素部位を含むDNA断片が挙げられる。また、核酸は、オリゴヌクレオチドであってもよいしポリヌクレオチドであってもよい。
【0028】
糖類としては、単糖類、オリゴ糖及び多糖類が挙げられる。糖類には、生体内においてタンパク質や脂質と結合している糖鎖及びその一部も含んでいる。脂質としては、例えば、リポタンパク質、リポ多糖類などにおける脂質鎖あるいはその一部を含んでいる。骨形成材料としては、カルシウムの各種リン酸塩など無機化合物が挙げられる。
【0029】
なお、本発明における微小物体2に用いることのできる無機材物としては、少なくとも金属、金属酸化物、半導体、セラミックス、ガラスが挙げられ、有機物としては、少なくともプラスチック及び生理活性を有する有機化合物挙げられる。また、微小物体2には生物自体も用いることができ、生物としては、少なくとも各種の生物細胞及びその一部、組織及び生物体が挙げられる。さらに、複合材料としては、前記無機物、前記有機物(前記生体分子を含む)及び前記生物から選択される2種類以上を複合化した複合材料が挙げられる。なお、これらの各種材料としては、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報に既に記載されるものを本発明においても使用することができる。
【0030】
(光固定化工程)
光固定化工程においては、少なくとも光照射の際において、担体4の表面6に微小物体2を含有する液状体10が存在され、この微小物体含有液状体10においては、微小物体2の液状媒体12への溶解が抑制された状態が形成されている。ここで「溶解」とは、置換型溶解及び侵入型溶解を含む任意の形態での溶解を含む。また、「微小物体2の液状媒体12への溶解が抑制されている状態」とは、少なくとも以下の(1)〜(4)の態様から選択されるいずれかの態様が挙げられる。
(1)微小物体2と液状媒体12との溶媒和が抑制される。
(2)液状媒体12中において微小物体2間に作用する斥力が抑制される。
(3)液状媒体12中において微小物体2間の凝集が促進される。
(4)液状媒体12中において微小物体2が不安定化される。
【0031】
(微小物体含有液状体)
微小物体含有液状体(以下、単に液状体ともいう。)10は、微小物体2を固相として含有していてもよいが、溶質として含有していることが好ましい。より好ましくは、液状体10は微小物体2を溶質としてのみ含有する。微小物体2を溶質として含有することにより、微小物体2が液状媒体12に均一に分布されるため、均一にしかも容易に担体4の表面6に微小物体2が固定化されることになる。また、液状体10は微小物体2を溶質としてではなくコロイド粒子として含有していてもよい。コロイド粒子もまた液状媒体12に均一に分散されるからである。
【0032】
(液状媒体)
本明細書において、微小物体2を溶質粒子等として保持する液状媒体12は、微小物体2を適切に保持できるものであればよい。操作上の観点及び微小物体2が生体分子や生物材料等である場合には、液状媒体12として、水を主体とする媒体、あるいは水のみを媒体として用いることができる。
【0033】
(微小物体の溶解度を抑制させる成分)
微小物体2の溶解が抑制されている状態とは、液状媒体10に微小物体の溶解度を抑制させる成分が含まれている場合が挙げられる。微小物体の溶解度を抑制させる成分(以下、「溶解度抑制成分」という。)とは、液状媒体10に含まれる微小物体2以外の成分であって、液状媒体12に含有されることにより該成分が含有されない場合と比較して微小物体2の液状媒体12への溶解度を低下させる成分である。なお、こうした溶解度抑制成分が含有された液状体10であっても、微小物体2が固相化(沈殿、凝集等を含む。)されていないことが好ましい。
【0034】
微小物体2の種類によっても相違するが、一般的に物質の溶解度に作用するパラメータとしては、物質を取り巻く液状媒体12のpH、イオン強度、排除体積効果及び誘電率が挙げられる。したがって、溶解度抑制成分としては、液状媒体12におけるこれらのパラメータを微小物体2の溶解度を低下させる方向へ変化させる成分が挙げられる。
【0035】
pHを変化させる成分としては、有機酸及び無機酸などの各種酸及びこれらの塩、有機性及び無機性のアルカリ及びこれらの塩が挙げられる。緩衝性を付与する塩などもこうした成分に含まれる。例えば、微小物体2がタンパク質などアミノ酸の重合体を含有する場合には、液状媒体12のpHを等電点近傍とすることで、微小物体2の溶解度を低下させることができる。
【0036】
イオン強度を変化させる成分としては、各種電解質などの各種化合物の他、キレート剤なども含まれる。液状媒体12に塩を添加してイオン強度を高めることで塩析作用により微小物体2の溶解度を低下させることができる。また、微小物体2が液状媒体12中でコロイド粒子を形成している場合には、コロイド粒子の荷電を打ち消すような電荷の電解質の添加により(凝析作用)、又は微小物体2に水和している水分子を奪うなどにより(塩析作用)、微小物体2の溶解度を低下させることができる。
【0037】
液状媒体12の誘電率を変化させる成分としては、例えば、液状媒体12を構成する溶媒分子とは異なる誘電率を有する有機溶媒などの溶媒や高分子などの有機化合物が挙げられる。また、排除体積効果を変化させる成分としては、非荷電ポリマーなどが挙げられる。
【0038】
こうした溶解度抑制成分は、微小物体2の種類、液状媒体12の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、微小物体2が親水性であって液状媒体12が水性の場合には、溶解度抑制成分は、水溶性の酸やアルカリ、各種の塩類、アセトン、エタノール、DMSOなどの水より誘電率が小さい有機溶媒や荷電していないあるいは荷電が抑制されたポリエチレングリコールなどのポリマーなどの有機化合物が挙げられる。逆に、微小物体2が疎水性であって液状媒体12が有機溶媒性の場合には、有機溶媒へ溶解性のある酸やアルカリ、各種の塩類、当該有機溶媒よりも誘電率の大きい有機溶媒や荷電性のポリマーなどの有機化合物が挙げられる。また、微小物体2が疎水性部分と親水性部分とを有する場合には、液状媒体12に応じて適宜選択されることになる。
【0039】
微小物体2がタンパク質であるなどポリペプチド鎖を含有している場合、こうした溶解度抑制成分として、タンパク質の凝集又は沈殿のために一般に的な塩析剤、凝析剤、沈殿剤などを用いることができる。塩析剤としては、Hofmeister順列として知られるイオンを含む塩を用いることができる。かかる順列には、陰イオンでは、PO3−>SO2−>CHCOO、Cl>Br>NO>ClO>I>SCN、また陽イオンでは、(CH>NH>Rb、K、Na、Cs>Li>Mg2+>Ca2+>Ba2+の各種イオンがこの順序で含まれている。こうした塩としては、具体的には、硫酸アンモニウム((NHSO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カリウム(KSO)、リン酸水素ナトリウム(NaHPO、NaHPO)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化リチウム(LiCl)、酢酸アンモニウム(CHCOONH)リン酸カリウム(KPO)などが挙げられる。なかでも、硫酸アンモニウム((NHSO)、硫酸ナトリウム(NaSO)を好ましく用いることができる。また、塩析剤としては、ポリスチレンやポリアクリル酸などの荷電高分子なども挙げられる。
【0040】
また、沈殿剤としては、アセトン、エタノール、DMSOなどの有機溶媒や、ポリエチレングリコールなどの非荷電高分子が挙げられる。こうした塩析剤や沈殿剤は、微小物体2が凝集又は沈殿などで固相化しない範囲で含有されていることが好ましい。
【0041】
また、微小物体2がタンパク質であるなどポリペプチド鎖を含有している場合には、こうした溶解度抑制成分として一般にタンパク質の変性剤も用いることができる。タンパク質変性剤としては、尿素、塩酸グアニジン、チオシアン酸グアニジン、DTT、2−メルカプトエタノールのほか、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤、トリクロロ酢酸、フェノール、メタノールなどの有機溶媒が挙げられる。例えば、尿素、塩酸グアニジン及びチオシアン酸グアニジンなどの変性剤を用いることが好ましい。これらの変性剤は、微小物体2を微小物体2が凝集又は沈殿などで固相化しない範囲で又は微小物体の機能が損なわれない範囲で含有されていることが好ましい。
【0042】
こうした溶解度抑制成分が液状媒体12に含有されていることにより微小物体2の液状媒体12に対する溶解度(飽和濃度)が低下するため、結果として、微小物体2の濃度が飽和濃度及びその近傍となりうる。微小物体2の濃度が飽和濃度及びその近傍では、微小物体2が液状媒体12へのそれ以上の溶解が抑制されることになるため、微小物体2の液状媒体12への溶解が抑制された状態となっているといえる。さらに、微小物体2が過飽和濃度にある場合も、微小物体2の溶解が抑制された状態にあるといえる。微小物体2が飽和濃度及びその近傍並びに過飽和濃度にあるような液状体10は、微小物体2が溶解度抑制成分を含有しないような単一組成の液状媒体12に溶解している場合においても形成される。また、液状体10が微小物体2をコロイド粒子として含有するコロイド溶液である場合も、微小物体2の溶解が抑制された状態にあるということもできる。
【0043】
(微小物体の溶解度を抑制する熱力学的パラメータ)
また、本発明の光固定化工程における微小物体2の溶解が抑制された状態とは液状体10の熱力学的パラメータを変化させることによって形成されていてもよい。こうした熱力学的パラメータの変化は、攪拌、冷却、加熱、加圧、減圧及び光照射から選択されるいずれかあるいは2種類以上の操作によって液状媒体12及び/又は微小物体2に生じさせることができる。これらの操作のなかでも、加熱、加圧及び光照射から選択されることが好ましく、より好ましくは、加熱及び加圧から選択される。どの操作が有効であるかあるいはどの程度の攪拌、冷却、加熱、加圧および光照射が微小物体2の溶解度の抑制に有効であるかは微小物体2及び液状媒体12の種類及び微小物体2の濃度に応じ適切に設定される。
【0044】
こうした各種の操作により、液状体10、液状媒体12及び/又は微小物体2の熱力学的パラメータが変化されることで、微小物体2における結合や構造などが一部損なわれるなどして溶解性が低下される。こうした熱力学的パラメータの変化は、いずれもタンパク質などの有機物を変性させて溶解度を低下させるものであり、例えば、微小物体2がタンパク質であるなどペプチド鎖を有する場合、これらの熱力学的パラメータの変化により、ペプチド鎖における水素結合などが切断されて液状媒体12に対する溶解度が低下されることになる。微小物体2がペプチド鎖を有する場合には、熱力学的パラメータの変化は、好ましくは、加熱、加圧及び光照射から選択される操作によって付与されるものである。なお、こうした熱力学的パラメータが変化液状体10であっても、微小物体2が固相化されていないことが好ましい。
【0045】
(微小物体含有液状体の供給及び光照射)
微小物体2の液状媒体12への溶解が抑制された状態の微小物体含有液状体10は、図2に示すように、担体4の表面6に供給するのに先立って予め調製してもよいし、表面6においてその場調製してもよい。その場調製する場合とは、例えば、図2に示すように、担体4の表面6上に微小物体2の溶液を供給した上、溶解度抑制成分のみを別途供給するような場合が挙げられる。
【0046】
また、図3に示すように、前記熱力学的パラメータを変化させる各種操作は、担体4の表面6に液状体10を供給する前に液状体10に対して行われていてもよいし、担体4の表面6に液状体10を供給した後に行ってもよい。好ましくはこうした操作は光照射と同時ではなく、光照射に先立って予め施されている。また、光照射の際にはそうした操作による溶解度低下状態が維持されるが、そうした操作による熱力学的パラメータの変化から復帰していてもよい。例えば、ペプチド鎖を有する微小物体2を含有する液状体10を予め加熱してペプチド鎖を変性させて微小物体2の溶解度を低下させておき、その後液状体10を室温ないしそれ以下の適切な温度にまで冷却した後にこのような液状体10を担体4の表面6に供給し光照射してもよいし、担体4の表面6に加熱前の液状体10を供給後に、液状体10を加熱しその後冷却後に光照射してもよい。
【0047】
液状体10を担体4の表面に供給するには、液状体10を担体4の表面に滴下、噴霧、ディッピング、スピンコートなど液体を物体表面に供給するのに用いることのできる公知の方法を採用できる。また、液状体10を所定のパターンで担体表面6に供給するには、各種印刷方法に用いられている液体供給方法を採用することもできる。
【0048】
(光照射)
光照射の方法も特に限定しないで、各種の伝搬光、近接場光又はエバネッセント光などの任意の光が担体4の表面6又はその近傍に到達されるように照射すればよい。光照射に際して液状体10は担体4の表面6に安定的に保持されることが好ましい場合がある。そのような場合には、担体4と液状体10とを同一のチャンバー内に保持させた状態で光照射してもよい。
【0049】
光照射は、担体4の表面6の領域に対して選択的に照射することで、光照射領域にのみ微小物体2を固定化できる。こうした選択的な光照射法としては、光照射パターンに応じたマスクを用いるフォトリソグラフィ技術の他、各種レーザ光などによる描画法が挙げられる。なお、照射領域のみならず必要に応じて光照射の強度についても分布を付与することができる。なお、本発明における光照射については、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報に既に記載される照射光や光照射方法を採用することができる。
【0050】
(微小物体の選択的光固定化)
2種類以上の微小物体2を含む液状体10に対して溶解度抑制成分の種類や付与量及び/又は変化させる熱力学パラメータの種類やその変化量を異ならせて微小物体の溶解度を変化させるだけで同一液状体10から2種類以上の微小物体2を選択的に担体4の表面6の別の又は同一の領域に固定化できる。
【0051】
例えば、2種以上の微小物体2を含有する液状体10において、第1の微小物体2の溶解度が最も低くなるように溶解度抑制成分を付与及び/又は熱力学的パラメータを変化させて光照射して、第1の微小物体2を担体4の表面6の所定の領域に固定化し、その後、第2の微小物体2の溶解度が最も低くなるように溶解度抑制成分を付与及び/又は熱力学的パラメータを変化させて光照射して、第2の微小物体2を所定の領域に固定化することができる。なお、溶解度抑制成分の付与量等及び/又は熱力学的パラメータの変化量等は順次あるいは連続的に異ならせてもよい。
【0052】
(微小物体の固定化量の制御)
また、微小物体10の濃度を特に変化させなくても、溶解度抑制成分の種類や濃度及び/又は熱力学的パラメータの種類や変化量を異ならせることで、異なる密度又は量で微小物体2を担体4の表面6の異なる領域に固定できる。例えば、塩析剤を溶解度抑制成分とした液状体10を用いる場合、第1の塩析剤濃度で担体表面6の第1の領域に光照射して微小物体を固定化し、第2の塩析剤濃度で担体表面6の他の第2の領域に光照射して微小物体を固定化することができる。なお、微小物体2の濃度はほぼ同一とすることができるが、担体4の表面6に固定化しようとする量等に応じて適宜変化させてもよい。
【0053】
このような微小物体の選択的固定化や微小物体の固定化量の制御に際しては、溶解度抑制成分及び/又は熱力学的パラメータの変化量等は段階的に変化させてもよいが連続的に変化させてもよい。また、予め、担体表面6の異なる領域に溶解度抑制成分及び/又は熱力学的パラメータの変化量を異ならせた液状体10を同時に存在させ、一括して光照射して、異なる微小物体を異なる領域に固定したり、同一の微小物体2を異なる濃度又は量で異なる領域に一挙に固定化することもできる。
【0054】
以上説明したように本発明の光固定化方法によれば、液状体10における微小物体2の液状媒体12への溶解が制限されていることにより、担体表面6に対して効率的に光固定化され、高密度に微小物体2を担体表面6に光固定化できる。さらに、液状媒体12を介して微小物体を担体表面に光固定化できるため、微小物体2に付与されるストレスを回避ないし抑制することができる。さらにまた、本発明の光固定化方法によれば、微小物体2が溶質として液状体10に含まれている場合において効率的に担体表面6に光固定化されるとともに、担体表面6の光照射部位に対して均一にまた濃度や供給部位を容易に制御して光固定化できる。また、微小物体2を溶質の状態で固定するため、微小物体2の立体構造等を制御して光固定化することもできる。したがって、本発明の光固定化方法は、タンパク質、DNAなどの核酸を含む生体分子や細胞等の生物材料など、沈殿や乾燥など従来の固定化方法によっては有用な構造が障害を受けやすくその三次元構造が有用な材料に固定化に好ましい。
【0055】
さらに、本発明の光固定化方法によれば、液状体10に含有される各種の微小物体2の溶解性の差(溶解度の差)を利用して選択的に目的の微小物体2を担体表面6に固定することができるとともに、液状媒体12中における微小物体2の溶解度を変化させることにより、微小物体2の濃度を大きく変えることなく微小物体2の固定化量を異ならせることができる。したがって、多種類の微小物体2であっても担体表面6の異なる領域に任意の固定化量で容易に固定化できる。よって、2種類以上の微小物体2を異なる濃度で固定化した担体4を容易に製造できるようになるとともに、微小物体2の担体表面6への固定化パターン及び固定化濃度の自由度、正確性及び精度を高めることができる。
【0056】
(微小物体担持体の製造方法)
こうして担体4の表面6に微小物体2を光固定化することができるが、こうして得られた微小物体2を担持した担体4はそのまま微小物体担持体20とすることもできるし、必要に応じて担体4の表面6から液状体10を除去し、さらに適宜洗浄、乾燥、及び適切な媒体の供給と封入のいずれかあるいは2種類以上を組み合わせることにより、最終的な製品形態あるいはそれに近い形態とすることができる。また、一旦固定化した微小物体2に対してさらに追加の修飾も可能である。
【0057】
(微小物体担持体)
こうして得られる微小物体担持体20は、従来に比較して高濃度で微小物体2が固定されているため、例えば、高感度な分析用チップや多種類の微小物体2を高集積化した分析用及び各種の反応用チップを容易に得ることができる。また、液状媒体12中において微小物体2が担体表面6に固定化されているため微小物体2への化学的及び/又は物理的ストレスが回避又は抑制されているため、担体表面6上で微小物体2の本来の機能を有効に発揮させるものとなっている。したがって、本発明の微小物体担持体20は、生理活性を有するペプチドやタンパク質などの生体分子や生物材料を含む微小物体2を担持する担持体20として好ましく、タンパク質の機能解析用チップとして好ましく用いられる。
【0058】
(微小物体の光固定化用キット)
本発明によれば、微小物体の光固定化用キットも提供される。この光固定化用キットは、微小物体2を光固定化するための用いられる薬剤を組み合わせたものであって、光固定化しようとする微小物体2を溶質粒子及び/又はコロイド粒子として保持可能な液状媒体に添加して使用される1種あるいは2種以上の溶解度抑制成分と、光照射時に微小物体2の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面6の一部に有する担体4と、を備えている。このような溶解度抑制成分と担体4とについて既に説明したとおりである。溶解度抑制成分は、光固定化対象たる微小物体2の種類に応じて予め適当な溶媒に溶解されて液状媒体12及びその原液(希釈して液状媒体12として用いるもの)として供給されてもよい。こうした光固定化用キットによれば、キットに含まれた溶解度抑制成分のいずれかにより微小物体2の液状媒体12への溶解度を低下させて微小物体2を担体4の表面6に光固定化が可能となる。このキットには、担体4上の液状体10の蒸発を防ぐために、担体4上の液状体10を密封可能な容器状のチャンバーあるいはリッドを備えることができる。
【0059】
以上説明した本発明の各種の形態において用いる担体4としては、光照射時に微小物体2の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面の一部に有しているものであればどのような形状を有していてもよく、基板などの平板状形態であってもよく、球形、不定形、針状、棒状、薄片状等の各種の粒子形態であってもよい。また、担体4は、緻密質体であってもよいし、多孔体であってもよい。さらに、担体4の表面とは、外表面のみならず、内表面であってもよい。また、光固定化材料を有するのは担体表面6の全体であってもよいしその一部であってもよい。光固定化材料を担体表面6の一部に有する場合には、所望の二次元的又は三次元的なデザインで光固定化材料領域を有していてもよい。なお、担体4自体の構成材料は特に限定しないが、光透過性材料であることが好ましい。
【0060】
担体4はその表面の少なくとも一部に光固定化材料を有している。光固定化材料は光照射時に微小物体2の固定化能力を発現する材料であれば特に限定しないが、光によって誘起される変形(光変形)を発現させるものであればよい。
【0061】
光固定化材料は特に限定しないが、光が到達されることによりアブレーション,フォトクロミズム,分子の光誘起配向等を起こす成分(光反応性成分)をマトリクス中に含み、結果的に材料の体積,密度,自由体積等が変化して光変形が生成される材料が挙げられる。
【0062】
光反応性成分の種類は限定されないが、例えば材料の形状変化を伴う異方的光反応を起こし得る成分である光異性化成分や光重合性成分が挙げられる。固定化する微小物体2が、光固定化材料との化学反応により活性が損なわれるような生体物質である場合には、光反応性成分として光異性化成分が好ましい。そして光異性化成分としては、例えばトランス−シス光異性化を生じる成分、特に代表的にはアゾ基(−N=N−)を有する色素構造、なかでも、アゾベンゼンやその誘導体の化学構造を持つ成分を好ましく例示できる。
【0063】
光反応性成分は、マトリックス中に分散されていてもよく、また、マトリックスを構成する高分子材料に単量体としてあるいは側鎖として備えられていてもよい。光固定化材料のマトリクス材料としては、通常の高分子材料等の有機材料や、ガラス等の無機材料を用いることができる。マトリクスに対する光反応性成分の均一分散性あるいは結合性を考慮するなら、有機材料、とりわけ有機高分子材料が好ましい。
【0064】
上記高分子材料の種類は限定されないが、高分子の構成単位の中にウレタン基,ウレア基,又はアミド基を含んだものが、更には高分子の主鎖中にフェニレン基のような環構造を備えたものが、耐熱性の点では好ましい。
【0065】
なお、光固定化材料としては、この他、イオウ,セレン及びテルルのいずれかと、ゲルマニウム,ヒ素及びアンチモンのいずれかとが結合した構造を含みカルコゲナイトガラスと総称されるもの等の無機材料も使用できる。
【0066】
以上の点から、光反応性成分を含む高分子材料として、実施例で述べるものの他、次の「化1」〜「化6」に示すものが好ましく例示される。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【0067】
その他、本発明において使用可能な担体4及び光固定化材料としては、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報に記載の担体や光固定化材料が挙げられる。また、本明細書には、特開2003−329682号公報、特開2004−93996号公報及び特開2004−251801号公報に記載されるすべての事項が引用により取り込まれるものとする。
【実施例1】
【0068】
以下、本発明を、具体例を挙げて説明するなお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例では、微小物体としてCy5標識IgG(CHEMICON, International Inc., Anti-igG (Fc), Mouse, Goat−Polv. Cy5)、液状媒体としてPBS(0.15MNaCl、リン酸緩衝液、pH7.4)、溶解度抑制成分として塩析剤である硫酸アンモニウム((NHSO)を用い、Cy5標識IgG濃度が1μg/mlであり、硫酸アンモニウム濃度が0〜1.6Mまで変化させた合計31種類の微小物体含有液状体を調製した。これらの微小物体含有液状体を6000rpmで遠心分離しその上清1μlを、以下の式(化7)に示す構造のアゾポリマーのフィルム(膜厚約40nm)をコートしたスライドグラスのアゾポリマーフィルム上に滴下するとともに、この液滴が乾燥しないようにこのスライドグラスをリアクションチャンバーに密封後、30分間光照射(極大波長470nm、20mW/cm)した。その後、スライドグラスを0.01%Tween20含有リン酸緩衝液(PBS)に浸漬し5分間攪拌し洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、市販のアレイスキャナーでスライドグラス上の蛍光を計測した。結果を図4に示す。
【化7】

【0070】
図4に示すように、硫安濃度が1.2M濃度までは硫安濃度に比例して蛍光強度が上昇し1.2M濃度を超えると低下した。蛍光強度は硫安濃度が0Mのときには、318であったのに対し、1.2Mでは6848であった。このことは、スライドグラス上のCy5標識IgG量が20倍量であることを意味している。硫安濃度が1.2M以上で蛍光強度が低下したのは、凝集したCy5標識IgGが遠心分離操作により上清より除去されたことによると考えられた。
【0071】
以上のことから、本発明によれば、微小物体の液状媒体への溶解が抑制された状態で光照射することにより、異なる固定化密度で微小物体を担体表面に光固定できることがわかった。また、溶解の抑制程度が大きいほど、換言すれば溶解度が低いほどに、微小物体を効率的及び高密度に担体表面に固定できることがわかった。
【実施例2】
【0072】
本実施例では、微小物体として1μg/mlのCy5標識IgG(CHEMICON, International Inc., Anti-igG (Fc), Mouse, Goat−Polv. Cy5)、液状媒体として水、溶解度抑制成分として0.1Mクエン酸ナトリウム(pH5.0−5.8)又は0.1Mカコジル酸(pH6.0−6.8)を用い、合計10種類の微小物体含有液状体を調製した。これら10種の微小物体含有液状体を、以下の式(化7)に示す構造のアゾポリマーフィルム上の滴下するとともに、この液滴が乾燥しないようにこのスライドグラスをリアクションチャンバーに密封後、30分間光照射(極大波長470nm、20mW/cm)した。その後、スライドグラスを0.01%Tween20含有リン酸緩衝液(PBS)に浸漬し5分間攪拌し洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、市販のアレイスキャナーでスライドグラス上の蛍光を計測した。なお、対照として、1μg/mlのCy5標識IgGと液状媒体としてPBS(pH7.4)を用いるが溶解度抑制成分を用いない対照例の液状体を調製し、これについても同様に光照射し、洗浄して蛍光を計測した。これらの結果を表1に示す。
【表1】

【0073】
表1に示すように、pH5.0からpH6.8の領域では、Cy5標識IgGの固定化効率がPBS(7.4)のみを用いた対照例の液状体よりも高かった。
【0074】
以上のことから、本発明によれば、イオン強度の増大、タンパク質の等電点付近への液状媒体のpH調整によって微小物体の液状媒体への溶解が抑制され、これらの条件下で光照射することにより効率的及び高密度に微小物体を担体表面に固定できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】微小物体の光固定化の一例を示す概念図。
【図2】微小物体の光固定化工程の一例を示す工程図。
【図3】微小物体の光固定化工程の他の一例を示す工程図。
【図4】Cy5標識IgG溶液における硫安濃度とスライドグラス上の蛍光強度との関係を示す図。
【符号の説明】
【0076】
2 微小物体、4 担体、6 担体表面、10 微小物体含有液状体、12 液状媒体、20 微小物体担持体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射時に微小物体の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面の一部に有する担体の該表面に、前記微小物体を含有する微小物体含有液状体の存在下、前記微小物体の前記微小物体含有媒体の液状媒体への溶解が抑制された状態で光照射して前記微小物体を前記担体表面に固定化する光固定化工程
を備える、微小物体の光固定化方法。
【請求項2】
前記光固定化工程では、前記微小物体含有液状体に前記微小物体以外の成分であって前記微小物体の溶解度を抑制させる溶解度抑制成分が含まれる及び/又は熱力学的パラメータを変化させることにより前記微小物体含有液状体における前記微小物体の溶解度を抑制させる、請求項1に記載の光固定化方法。
【請求項3】
前記溶解度抑制成分は、前記微小物体含有液状体のpH、イオン強度、誘電率及び排除体積効果から選択される1種又は2種以上の性質を変化させる成分から選択される、請求項2に記載の光固定化方法。
【請求項4】
前記溶解度抑制成分は、前記微小物体が固相化しない程度に前記微小物体を変性させる1種又は2種以上の成分から選択される、請求項2又は3に記載の光固定化方法。
【請求項5】
前記溶解度抑制成分は、前記微小物体が沈殿しない程度で含まれる塩析剤である、請求項2〜4のいずれかに記載の光固定化方法。
【請求項6】
前記塩析剤は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、酢酸アンモニウム及びリン酸カリウムから選択される1種又は2種以上である、請求項5に記載の光固定化方法。
【請求項7】
前記光固定化工程は、前記熱力学的パラメータを、攪拌、冷却、加熱、加圧、減圧及び光照射から選択される1種又は2種以上の操作によって変化させる工程である、請求項2〜6のいずれかに記載の光固定化方法。
【請求項8】
前記光固定化工程は、前記微小物体含有液状体のpHを前記微小物体の等電点付近に調整する工程である、請求項1〜7のいずれかに記載の光固定化方法。
【請求項9】
前記微小物体は、原子、分子及びこれらが集合した任意形状の粒子である、請求項1〜8のいずれかに記載の光固定化方法。
【請求項10】
前記微小物体は、タンパク質、核酸等の生体分子である、請求項1〜9のいずれかに記載の光固定化方法。
【請求項11】
前記微小物体は、タンパク質である、請求項10に記載の光固定化方法。
【請求項12】
前記微小物体含有液状体は2種以上の微小物体を含有しており、
前記光固定化工程は、前記液状媒体への溶解度がより低い微小物体を前記担体表面に選択的に固定化する工程である、請求項1〜11のいずれかに記載の光固定化方法。
【請求項13】
前記光固定化工程は、前記担体表面の異なる領域のそれぞれに前記微小物体の前記液状媒体への溶解度が異なる微小物体含有液状体を存在させ、前記微小物体を前記異なる領域のそれぞれに異なる密度で固定化する工程である、請求項1〜11のいずれかに記載の光固定化方法。
【請求項14】
前記異なる領域に存在させる2種以上の微小物体含有液状体における前記微小物体の濃度はほぼ同一である、請求項13に記載の光固定化方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の各工程を備える、
微小物体担持体の製造方法。
【請求項16】
微小物体担持体であって、
請求項15に記載の製造方法によって得られる、微小物体担持体。
【請求項17】
微小物体の光固定化のためのキットであって、
光照射時に微小物体の固定化能力を発現する光固定化材料を少なくとも表面の一部に有する担体と、
前記微小物体含有液状体に前記微小物体以外の成分であって前記微小物体の溶解度を抑制させる溶解度抑制成分又は該溶解度抑制成分を含有する液状媒体と、
を備えるキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−214741(P2006−214741A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24923(P2005−24923)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】