微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置
【課題】検出感度を高めたリング共振型の微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置を提供する。
【解決手段】リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、光リング共振器と近接して配置された第2の導波路とを含む。第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含む。光リング共振器は、コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されている。コアの断面形状は、コアから被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、コアから被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される。
【解決手段】リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、光リング共振器と近接して配置された第2の導波路とを含む。第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含む。光リング共振器は、コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されている。コアの断面形状は、コアから被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、コアから被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物質を検出するための微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学デバイスを用いて微生物などの微小物質を検出するための微小物質検出センサが実用化されている。このような微小物質検出センサは、バイオセンサとも称されており、このセンサを用いることで、各種の微小物質の有無、その量、その種類などを検出することができる。このような微小物質検出センサの動作原理としては、光学デバイスの周囲に検出対象の微小物質(被検出物質)が付着することで、当該光学デバイスが示す光学特性が変化することを利用している。
【0003】
例えば、特開2008−304216号公報(特許文献1)には、光学デバイスとして光リング共振器を用いた物質検知装置が開示されている。このような光リング共振器を用いる場合には、その光リング共振器の周囲に微生物が付着するように構成するとともに、光リング共振器での共振波長の変化を検出できるように構成される。この光リング共振器での共振波長の変化は、微生物の付着によって光リング共振器の屈折率が変化することに起因している。特に、特開2008−304216号公報(特許文献1)には、波長選択性を有しない第1の光導波路と共振結合する位置に第2の光導波路を配置してマイクロリング共振器を形成するとともに、第2の光導波路に、検出対象の物質が入り得る孔を設ける構成が開示されている。
【0004】
また、特開2005−331614号公報(特許文献2)には、光学デバイスとして光導波路を用いた導波路型光センサが開示されている。この特許文献2に開示される導波路型光センサでは、導波方向を変更して往復するコアから検出領域を構成するとともに、コアの一部でスラブ型分光部を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−304216号公報
【特許文献2】特開2005−331614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示される物質検知装置では、マイクロリング共振器の一部に孔を設けた構造を採用しており、構造が複雑化する上に、光リング共振器としての性能(光共振性)が損なわれるという課題がある。また、特許文献1に開示される物質検知装置は、単に、被検出物質が存在するか否かを検出するものであり、その量を検出することはできない。
【0007】
また、上述の特許文献2に開示される導波路型光センサでは、光リング共振器を用いる場合に比較して、より長い光導波路を用いる必要があり、製造上のコストが増加するとともに、共振構造を有していないために検出感度を高めることが難しいという課題がある。また、光を被検出物質にしみ出させるためにコアを露出する必要があり、長期保存時にデバイスとしての安定性が損なわれるという課題もある。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、検出感度を高めたリング共振型の微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある局面に従う微小物質検出センサは、リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、光リング共振器と近接して配置された第2の導波路とを含む。第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含む。光リング共振器は、コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されている。コアの断面形状は、コアから被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、コアから被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される。
【0010】
好ましくは、光リング共振器は、第1の導波路がシングルモード条件を満足するように構成される。
【0011】
さらに好ましくは、コアの断面形状は、シングルモード条件を満足するとともに、第1の長さと第2の長さとのアスペクト比が所定条件を満足するように構成される。
【0012】
好ましくは、光リング共振器は、コアを伝搬する光波の電界振動方向が、コアから被検出物質へ向かう方向と一致するように構成される。
【0013】
好ましくは、光リング共振器は、被検出物質が第1の導波路のリング形状に対応する一方の環状面の全部または一部に接触するように構成される。
【0014】
好ましくは、光リング共振器は、被検出物質が第1の導波路のリング形状に対応する内径面または外形面の全部または一部に接触するように構成される。
【0015】
好ましくは、第2の導波路は、伝搬する光波のスポットサイズを整合するためのスポットサイズ変換導波路を含む。
【0016】
この発明の別の局面に従う微小物質検出装置は、リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、光リング共振器と近接して配置された第2の導波路と、第1の導波路の一方端に接続され、光を発生する光源と、第1の導波路の他方端に接続され、光源からの光を検出する検出部とを含む。第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含む。光リング共振器は、コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されている。コアの断面形状は、コアから被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、コアから被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、検出感度を高めたリング共振型の微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置を構成する微小物質検出センサ1の全体構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に従うサンプルの一例を示す模式図である。
【図4】本実施の形態に従う光リング共振器の光導波路の断面構造を示す模式図である。
【図5】有限差分法を用いて計算した実効屈折率のコアの高さについての依存性を示す図である(TEモード)。
【図6】有限差分法を用いて計算した実効屈折率のコアの高さについての依存性を示す図である(TMモード)。
【図7】実効屈折率の変化の外部屈折率変化についての依存性を示す図である(TEモード)。
【図8】実効屈折率の変化の外部屈折率変化についての依存性を示す図である(TMモード)。
【図9】サンプルSMPへ向かう方向の電界振幅を示す図である(比較例)。
【図10】サンプルSMPへ向かう方向の電界振幅を示す図である(実施例)。
【図11】図12に示すシミュレーションでのモード数の定義を示す表である。
【図12】有限差分法を用いて計算した許容される導波モードのコアのサイズについての依存性を示す図である。
【図13】本実施の形態の変形例に従う光リング共振器の光導波路の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
[A.概要]
本実施の形態に従う微小物質検出センサは、光リング共振器を用いて微小物質を検出する。特に、光リング共振器においては、光導波路を構成するコアとクラッドとについて、コアの厚さを、シングルモード条件を満足させるとともに、サンプルが存在する方向に薄くすることで、サンプル側への光波の電磁界成分のしみ出し量を増加させる。これにより、光リング共振器の共振条件の変化量をより大きくし、検出感度を高めることができる。
【0021】
本実施の形態に従う光導波路では、コアの周囲がクラッドで覆われているため、コアの酸化等による劣化を防止し、デバイスを長期間安定に保つことができる。
【0022】
また、本実施の形態に従う光リング共振器では、コアを伝搬する光波の電界振動方向が、コアとサンプルとを結ぶ方向と一致するように構成されることが好ましい。これにより、コアからサンプルへ向かう電界強度をより高めることができる。
【0023】
また、スポットサイズ変換導波路を用いることで、光ファイバなどの既存の光導波路との接続を容易化できる。
【0024】
[B.装置構成]
図1は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置SYSの全体構成を示す模式図である。図2は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置SYSを構成する微小物質検出センサ1の全体構成を示す模式図である。
【0025】
図1を参照して、微小物質検出装置SYSは、微小物質検出センサ1と、微小物質検出センサ1に検出用の光を供給する光源10と、微小物質検出センサ1を通過した後の光を検出する検出部20とを含む。
【0026】
本実施の形態に従う微小物質検出装置SYSにおいては、微小物質検出センサ1における共振条件の変化を観測することで、被検出物質を検出する。そのため、光源10は、微小物質検出センサ1における共振波長を含む波長範囲の光波を発生するように構成される。なお、微小物質検出センサ1における設計バラツキなどを考慮して、ある程度のマージンをもった波長範囲を有する光源10を用いることが好ましい。
【0027】
検出部20は、上述のような微小物質検出センサ1における共振条件の変化を観測できるような検出範囲(波長感度)を有する。具体的には、微小物質検出センサ1の共振波長を含む所定波長における光量を検出するためのフィルタおよびフォトディテクタなどから構成される。なお、検出部20として、分光光学系を採用して、スペクトルを検出するようにしてもよい。
【0028】
図2を参照して、微小物質検出センサ1は、リング状の光導波路を有する光リング共振器(マイクロリング共振器)3と、光リング共振器3と近接して配置された直線状の光導波路とを有する。この微小物質検出センサ1は、基材としての基板2を有しており、この基板2の上に、コア(光導波路コア)およびクラッド(光導波路クラッド)からなる光導波路が形成される。すなわち、基板2の上面には、主として、相対的に屈折率の低い材料からなるクラッド4が形成されるとともに、光を伝搬させる経路に対応して、相対的に屈折率の高い材料からなるコア31および32が形成されている。すなわち、コア32とクラッド4とにより、光リング共振器3を構成する光導波路が形成され、コア31とクラッド4とにより、光源10からの光を伝搬させるための光導波路が形成される。
【0029】
コア31の入射端34には光源10が接続され、コア31の出射端35には検出部20が接続される。また、コア31は、コア32(光リング共振器3)の一部と近接して配置される。この結果、コア31とコア32との間には、電磁気的(光学的)な相互作用を生じることになる。すなわち、直線状の光導波路は、リング状の光導波路と電磁的に接続される、方向性結合部33を含むことになる。
【0030】
図1に示す微小物質検出装置SYSにおいては、被検出物質が光リング共振器3を構成する光導波路のリング形状に対応する一方の環状面の全部または一部に接触するように構成される。すなわち、測定時には、被検出物質を吸着したサンプルSMPを微小物質検出センサ1の上側表面に接触配置する。これにより、光リング共振器3は、リング状の光導波路の断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触することになる。
【0031】
図3は、本発明の実施の形態に従うサンプルSMPの一例を示す模式図である。例えば、タンパク質を被検出物質とする場合には、当該タンパク質を捕捉する抗体といった吸着物質を下地層として用いることができる。図3に示すように、多数の吸着物質102を含むサンプルSMPを用いて、被検出物質104を捕捉する。このように被検出物質104が捕捉された状態のサンプルSMPを微小物質検出装置SYSの上表面に配置することで、そのサンプルSMPに含まれる被検出物質の量や種類などを測定できる。
【0032】
特に、本実施の形態に従う微小物質検出装置SYSにおいては、このような被検出物質に対する検出感度を高めるために、シングルモード条件を満たしながら光導波路のコア32の厚さをサンプルSMPが存在する方向について薄くすることで、サンプルSMP側に光導波路の電磁界成分をしみ出させることである。これにより、光リング共振器3を用いた微小物質検出センサの検出感度を高めることができる。
【0033】
以下、光リング共振器3を用いた微小物質を検出するための原理について説明した後、本実施の形態に従う光リング共振器3の構造について詳述する。あわせて、このような扁平した断面形状を有するコア32を採用することで検出感度を高めることができる理由についても説明する。
【0034】
[C.光リング共振器による検出原理]
次に、光リング共振器3を用いて微小物質を検出するための原理について説明する。
【0035】
上述したように、微小物質を高感度に検出するためのセンサとして光共振器を応用することが注目されている。一般的な光共振器に使用される光導波路の構造としては、直線形状の光導波路を形成し、その両端面で光波が繰返し反射により位相をそろえて重ねることで共振させるものと、閉じたリング形状として光波がそのリングを一周した後に位相が重なるように光路長を設定することで共振させるものなどがある。
【0036】
リング形状の共振器は、光導波路内での反射構造が必要ないため、構成を簡素化できるとともに、反射による光路損失が小さく効率の高い共振が得られるというメリットがある。
【0037】
そのため、本実施の形態に従う微小物質検出装置SYSにおいては、リング状の光導波路を有する光リング共振器3を採用する。
【0038】
この光リング共振器3を微小物質検出センサとして用いる場合には、光リング共振器3へ光のエネルギーが集中する効果と、共振器近傍にある物質によって光リング共振器3の共振条件がずれる効果とを利用することになる。
【0039】
光リング共振器3においては、光波は、光導波路の屈折率に幾何行路長を乗じた光路長(実効行路長)がその波長の整数倍と一致している場合のみに存在できる。この条件を満たさない場合には急激に光リング共振器3内での光量が減衰する。
【0040】
ここで、光リング共振器3の周囲に微小物質が付着した場合には、光リング共振器3の共振条件がずれるため、この共振条件のずれを観測することで、周囲の媒質の屈折率変化を高感度に検出できる。また、光リング共振器3が共振条件を満たした状態において、光リング共振器3の周囲に電磁界が集中するため、この現象を利用して、光リング共振器3の周囲に配置した蛍光物質を高効率で光らせることもできる。
【0041】
次に、光リング共振器3の共振条件について説明する。
図1に示す微小物質検出装置SYSにおいて、コア31の入射端34から入射された光(所定幅にわたる波長成分を有するものとする)は、方向性結合部33を介して光リング共振器3へ伝えられる。この光のうち、光リング共振器3での共振条件を満たした波長成分のみが光リング共振器3内に閉じ込められることになる。
【0042】
この結果、共振条件を満たした波長についてみれば、コア31の入射端34から出射端35までの透過率が大きく低下する。光リング共振器3の共振波長は、光導波路(コア32)の実効屈折率Neffと光リング共振器3の共振器長Lとを用いて、(1)式のように示すことができる。ここで、mは共振次数(整数)、λは真空中における光の波長を示す。
【0043】
【数1】
【0044】
上述したように、微小物質検出センサ1を特定の物質を検出するバイオセンサとして利用する場合には、サンプルSMPを光リング共振器3に近接配置する。あるいは、クラッド4の上部に流路を設けて、流路表面に被検出物質のみを付着させる下地層を形成してもよい。例えば、タンパク質を被検出物質とする場合には、抗体などを含む下地層を用いて検出対象のタンパク質を捕捉するとともに、それを水溶させたサンプルを光リング共振器3の表面に配置してもよい。
【0045】
光リング共振器3の表面に被検出物質が存在すると、その被検出物質の量に応じて、(1)式に示す実効屈折率Neffが変化する。この結果、光リング共振器3の共振条件が初期状態から変化するため、初期状態と比較して光リング共振器3の透過率が大きく変動することになる。この透過率の変動を観測することで、サンプルSMP中における被検出物質の存在の有無や被検出物質の濃度などを測定することができる。
【0046】
なお、光リング共振器3の透過率を観測することで、被検出物質を測定する例を示したが、例えば、被検出物質に蛍光標識をつけておくことで、発生する蛍光の量によって被検出物質の存在や量を特定することもできる。
【0047】
[D.光リング共振器の構造]
次に、光リング共振器3の構造について説明する。
【0048】
上述した(1)式に示すように、微小物質検出センサにおける検出感度を高めるためには、被検出物質に起因して実効屈折率Neffが大きく変化することが重要である。そこで、本実施の形態に従う光リング共振器3においては、被検出物質に起因して実効屈折率Neffを大きく変化させるための構成を採用する。以下、光リング共振器3の構造について説明する。
【0049】
図4は、本実施の形態に従う光リング共振器3の光導波路の断面構造を示す模式図である。なお、図4に示す断面構造は、図2に示すIV−IV破断線に対応する。
【0050】
図4を参照して、光リング共振器3は、基板2の上に形成された光導波路によって構成される。より具体的には、図4に示す光リング共振器3においては、リング形状の(光導波路)コア32(コア材料の屈折率ncore)が形成されるとともに、コア32の周囲に(光導波路)クラッド4(クラッド材料の屈折率nclad)が形成されている。
【0051】
コア32は、方形状の断面形状(高さH×幅W)を有する。本実施の形態に従う光リング共振器3においては、その中を伝搬する光波の伝搬モードがシングルモードとなるように設計されることが好ましい。そのため、光リング共振器3の光導波路がシングルモード条件を満足するように、コア32の断面形状(幅W×高さH)などが設計される。
【0052】
また、コア32とサンプルSMPとの間に存在するクラッド4の厚さDは、光リング共振器3のコア32を伝搬する光波の電磁界成分のサンプルSMP側へのしみ出し量が実質的に影響する程度の厚さに設計されている。すなわち、コア32を伝搬する光波がある程度の割合でしみ出るように、クラッド4の厚さDが決定される。このため、サンプルSMP中に被検出物質53が存在する場合には、直線状の光導波路(コア31)を伝搬する光波の実効屈折率Neffがより大きく変化する。
【0053】
特に、本実施の形態に従う光リング共振器3のコア32は、光リング共振器3の光導波路についてシングルモード条件を満たしつつ、(光導波路)コア32の断面形状をサンプルSMPが存在する側に薄くするように設計される。すなわち、コア32の断面形状は、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と平行な方向の長さ(高さH)が、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向の長さ(幅W)と比較して、より短くなるように構成される。言い換えると、コアの高さHは、コアの幅Wよりも薄くなるように構成される。
【0054】
言い換えれば、コア32の断面形状は、(1)シングルモード条件、および、(2)高さH<幅Wとの条件のいずれをも満足するように設計される。
【0055】
このような構造を採用することで、光リング共振器3の光導波路(コア32)による、光波の閉じ込め作用は、サンプルSMPが存在する側に相対的に弱くなり、電磁界漏れ成分を大きくできる。すなわち、光リング共振器3を伝搬する光波の一部が被検出物質の側により多く「しみ出す」ことになる。このような「しみ出す」効果によって、被検出物質との間の相互作用が生じて、光リング共振器3にける共振条件の変化量が増大し、その結果、検出感度を高めることができる。
【0056】
なお、コア32の断面形状は、上記の2つの条件に加えて、結合効率の観点から、アスペクト比(高さHと幅Wとの比)の大きさが所定範囲に制限されることが好ましい。このようなコア32の実際の設計例については、後述する。
【0057】
[E.設計手順]
次に、光リング共振器3の具体的な設計手順について示す。
【0058】
本実施の形態に従う微小物質検出装置SYSにおいて使用される光波の一例としては、1.3〜1.6[μm]の波長帯域を有する近赤外線が考えられる。このような近赤外線の波長帯域では、光導波路を構成するコアの材料としては、シリコン(Si)が考えられる。
【0059】
リング共振器および光導波路などの集積といった応用を考えた場合、光導波路のスポットサイズ(ビーム断面積)が小さいことが望ましい。スポットサイズに関係する量として、比屈折率差Δが知られている。この比屈折率差Δは、(2)式のように示すことができる。ここで、ncoreはコア材料の屈折率、ncladはクラッドの屈折率を示す。なお、理論的には、比屈折率差Δは、0<Δ<0.5の範囲の大きさをとる。
【0060】
【数2】
【0061】
スポットサイズを小さくするためには、光導波路が(2)式で定義される比屈折率差Δの値が0.2以上であることが望ましい。このような高い比屈折率差Δを有する光導波路は、高屈折率差導波路と称される。
【0062】
また、高速信号伝搬における波形乱れに起因する分散の影響を避けるためには、存在する伝搬モードが単一となる、いわゆるシングルモード条件を満たしていることが望ましい。本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置SYSを構成する光導波路のような、2次元のスラブ導波路におけるシングルモード条件は既知である。例えば、参考文献1(岡本勝就著、“フォトニクスシリーズ13 光導波路の基礎”、コロナ社、1992年)などに、シングルモード条件について詳述されているので参照されたい。
【0063】
また、3次元矩形導波路については、実用上は、等価屈折率法、有限差分法、および有限要素法などの手法を用いてシングルモード条件を求めることができる。
【0064】
一般的に光導波路に用いられる誘電体材料を材質(屈折率)で示すと、以下のようになる。
【0065】
波長1.3〜1.5[μm]帯においては、コア材料として、シリコンSi(3.48)があり、クラッド材料または低屈折率層の材料として、SiOx(1.4〜3.48)やAl2O3(1.8)などがある。このとき、比屈折率差Δとしては、0.001〜0.42といった範囲の値に設計することができる。
【0066】
波長400〜800[nm]の可視帯域においては、コア材料として、GaAs(3.3)やSi(3.7)などがあり、クラッド材料または低屈折率層の材料として、Ta2O5(2.5)やSiOx(1.4〜3.7)などがある。このとき比屈折率差Δとしては、0.001〜0.41といった範囲の値に設計することができる。
【0067】
上述したもの以外にコアに用いることができる高屈折率材料(波長域)としては、以下のような例が挙げられる。
【0068】
(1)ダイヤモンド(可視全域)
(2)III−V族半導体:AlGaAs(近赤外,赤)、GaN(緑,青)、GaAsP(赤,橙,青)、GaP(赤,黄,緑)、InGaN(青緑,青)、AlGaInP(橙,黄橙,黄,緑)
(3)II−VI族半導体:ZnSe(青)
上述したもの以外にクラッドまたは低屈折率層に用いることができる材料としては、炭化シリコンSiC、弗化カルシウムCaF、チッ化シリコンSi3N4、酸化チタンTiO2、ダイヤモンドCなどが挙げられる。
【0069】
本実施の形態に係るデバイスでは、上述したような材料に限定されず、例えば、TiO2,SiN,ZnSなどの複数の材料を組み合わせたり、フォトニック結晶構造を用いたりすることで、比屈折率差Δの値をある程度自由に設計することができる。
【0070】
また、モードフィールド径を0.5[μm]程度に小さくするためには、例えば、コア屈折率を3.5程度にすることで、比屈折率差Δを0.4程度まで高めた高屈折率差導波路を用いる方法を採用してもよい。
【0071】
次に、近赤外線の波長帯域の光源を用いる場合の具体的なコアサイズの具体例について説明する。
【0072】
一例として、光導波路を伝搬する光波の設計波長を1.31[μm]とし、基板2(図4参照)として石英(屈折率1.44)を用い、コア32(図4参照)としてシリコン(屈折率3.48)を用い、クラッド4として石英を用いることとする。また、サンプルSMPは、被検出物質53を含んだ水(屈折率1.33)を想定する。ここで、コア32の幅W(図4参照)を300[nm](固定)とする。
【0073】
上述のような前提条件下において、コア32からサンプルSMPへ向かう方向におけるコア32の大きさである、コア32の高さH(図4参照)を変化させると、設計波長を有する光波が光導波路の中を伝搬することが許容される伝搬モードの数が変化する。図5には、その状態を示す。
【0074】
ここで、光導波路(コア32)を伝搬する光波のうち、基板2に対して平行な方向の電界成分を主とするモードをTEモードと称し、基板2に対して垂直な方向の電界成分を主とするモードをTMモードと称する。すなわち、TEモードにおいては、コア32を伝搬する光波の主たる電界成分の方向が基板2の表面に平行な方向と一致し、TMモードにおいては、コア32を伝搬する光波の主たる電界成分の方向が基板2とサンプルSMPとを結ぶ方向と一致する。
【0075】
「シングルモード条件」は、TEモードおよびTMモードがそれぞれ1つしか存在しない条件に相当する。シングルモード条件については、上述したとおり、有限差分法や有限要素法などの手法を用いて計算できる。
【0076】
図5および図6は、有限差分法を用いて計算した実効屈折率Neffのコア32の高さHについての依存性を示す図である。図5にはTEモードについての解析結果を示し、図6にはTMモードについての解析結果を示す。
【0077】
図5を参照して、TEモードについてのシングルモード条件としては、コア32の高さHが300[nm]以下となり、TMモードについてのシングルモード条件としては、コア32の高さHが300[nm]以下となる。
【0078】
一般的には、光導波路の対称性を良くするために、断面形状が正方形のコアが採用される。そこで、以下の検討においては、比較例として、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向のコア32の大きさである幅Wを300[nm]とし、コア32からサンプルSMPへ向かう方向のコア32の大きさであるコアの高さHを300[nm]とするコア(比較例)を考える。
【0079】
これに対して、本実施の形態に従う光リング共振器3の光導波路を構成するコア32として、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向のコア32の大きさである幅Wが300[nm]であり、コア32からサンプルSMPへ向かう方向のコア32の大きさであるコアの高さHが250[nm]である断面形状を有するコア32(実施例)を考える。すなわち、コア32からサンプルSMPへ向かう方向のコア32の長さであるコアの高さHは、サンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向のコア32の長さである幅Wより短くなるように構成される。
【0080】
なお、このような幅Wおよび高さHに設定したとしても、図5および図6に示すとおり、TEモードおよびTMモードがそれぞれ1つしか存在しないため、このコアサイズは、TEモードおよびTMモードのいずれの場合もシングルモード条件を満たしていることになる。このように、サンプルSMPへ向かう方向のコア32の長さ(この場合には、高さH)がシングルモード条件を満たしつつ、サンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向の長さ(この場合には、幅W)より短く設計することで、検出感度を高めることができる。以下、検出感度を高めることができる原理について説明する。
【0081】
光リング共振器3に近接した位置に被検出物質53が存在することで、サンプルSMPの平均屈折率N1が変化する。検出感度を高めるためには、サンプルSMPの平均屈折率N1の変化に対する、光リング共振器3における共振波長(共振条件)の変化を大きくすることが重要である。(1)式から、初期波長λ0に対する相対的な波長変動の大きさを計算すると、(3)式のように示すことができる。ここで、mは共振次数(整数)、N0は初期状態における光導波路の実効屈折率Neffの値を示す。
【0082】
【数3】
【0083】
(3)式によれば、サンプルSMPの平均屈折率N1の変化に対する共振波長の変化の大きさは、平均屈折率N1の変化に対する実効屈折率Neffの変化の大きさとみなすことができる。すなわち、測定の感度を上げることは平均屈折率N1の変化に対するNeffの変化を大きくすることと同じである。
【0084】
そこで、TEモードおよびTMモードのそれぞれについて、平均屈折率N1の変化(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)の大きさについて評価した。
【0085】
より具体的には、上述したような比較例のコア(幅W:300[nm]×高さ:300[nm])を採用した場合と、本実施の形態に従うコア(幅W:300[nm]×高さ:250[nm])を採用した場合とを比較した。なお、現実の計算方法としては、有限要素法を用いた導波路解析を採用した。
【0086】
図7および図8は、実効屈折率の変化の外部屈折率変化についての依存性を示す図である。すなわち、図7には、TEモード(TE0:0次モード)について、平均屈折率N1の変化量(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)の比較結果を示す。また、図8には、TMモード(TM0:0次モード)について、平均屈折率N1の変化量(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)の比較結果を示す。
【0087】
図7および図8においては、平均屈折率N1を1.0〜1.4まで変化させた場合の計算例を示す。また、図7および図8においては、断面形状が正方形のコア(比較例)についての特性を丸印(●)で示し、断面形状が長方形のコア32(実施例)についての特性を角印(■)で示す。
【0088】
図7に示すように、TEモードについてみれば、本実施の形態に従う長方形のコア32を採用することで、平均屈折率N1の変化量(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)、すなわち、検出感度を約1.7倍に高めることができる。
【0089】
図8に示すように、TMモードについてみれば、本実施の形態に従う長方形のコア32を採用することで、平均屈折率N1の変化量(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)、すなわち、検出感度を約3.7倍に高めることができる。
【0090】
図7および図8に示す比較結果によれば、TEモードおよびTMモードのいずれにおいても、本実施の形態に従う長方形のコア32を採用することで、検出感度を高めることができる。但し、その検出感度を高める効果は、TEモードに比較してTMモードの方が著しい。この理由は、TMモードにおいては、光波の電界の振動方向がサンプルSMPの存在する方向と一致しているためであると考えられる。すなわち、TMモードでは、コア32に垂直な電界成分が多く存在するため、電束密度の連続性からコア32からサンプルSMPへ向かう電界強度を高めることができるためである。以下、この電束密度の連続性について検討する。
【0091】
コア32とクラッド4との境界における電束密度の境界条件(境界における連続性)に従うと、電界の境界面に対する法線方向の成分は、相対的に屈折率の低いクラッド4側で大きくなる。すなわち、コア32とクラッド4との境界面において、サンプルSMPへ向かう方向のコア32側の電界成分Ecoreとクラッド4側の電界成分Ecladについて、(4)式に示す関係式が成立する。
【0092】
【数4】
【0093】
ここで、クラッド4側により多くの電界成分が分布するための、比屈折率差Δについての条件は、(5)式に示す不等式によって算出される。
【0094】
【数5】
【0095】
すなわち、比屈折率差Δ>0.25となるときに、サンプルSMPへ向かう方向の電界成分が大きく分布することがわかる。
【0096】
次に、TMモードにおいて、サンプルSMPへ向かう方向の電界成分を具体的に計算した。比較のため、断面形状が正方形のコア(比較例)を採用した場合と、断面形状が長方形のコア32(実施例)を採用した場合とについてそれぞれ計算した。
【0097】
図9および図10は、サンプルSMPへ向かう方向の電界振幅を示す図である。図9には、断面形状が正方形のコアを採用した光リング共振器(比較例)における計算結果を示し、図10には、断面形状が長方形のコアを採用した光リング共振器(実施例)における計算結果を示す。
【0098】
図9および図10には、いずれも、TMモード(TM0:0次モード)についての電界成分の大きさを示す。図9(a)および図10(a)は、光導波路の断面における強度分布を示す。なお、図9(a)および図10(a)のX軸は、基板2の表面に平行な方向に対応し、Y軸は基板2に対して垂直な方向に対応する。一方、図9(b)および図10(b)には、それぞれ図9(a)および図10(a)に示す強度分布において、X=0に対応する軸上の強度変化を示す。
【0099】
図9と図10とを比較すると、本実施の形態に従う光リング共振器3を採用することで、サンプルSMPが存在する方向の電界成分が増大していることがわかる。このように、光導波路(コア32)を伝搬する光波の電界振動方向が、コア32とサンプルSMPとを結ぶ方向と一致するように構成されることで、検出感度をより高めることができる。
【0100】
次に、コア32の好ましい断面形状について検討する。
まず、コア32の断面形状は、(1)シングルモード条件、(2)高さH<幅Wの条件、および、(3)アスペクト比の条件のいずれをも満足することが好ましい。(1)および(2)の条件については、上述したのでその内容については繰返さない。一方、(3)アスペクト比の条件については、光ファイバなどの対称性が良い光導波路との結合効率を所定レベルに維持するための条件である。例えば、参考文献2(河野健治著、“光結合系の基礎と応用”、現代工学社、1991年)に記述されているように、コア32の幅Wと高さHとのアスペクト比を4倍程度以内に抑えることが好ましい。すなわち、一般的に正方形または円状の断面形状を有する光ファイバを伝搬する光波のスポットサイズ(w1)と、コア32を伝搬する光波のスポットサイズ(w2)との不整合が生じると、両者の間の結合効率は(6)式に示される。
【0101】
【数6】
【0102】
(6)式によれば、スポットサイズが4倍異なると、結合効率は1/5に低下する。そのため、アスペクト比は4倍程度以内に維持することが好ましい。
【0103】
このような条件を考慮して、コア32の幅Wおよび高さHを所定単位ずつ変化させて、当該光導波路において許容される導波モード数について計算した。なお、計算には、有限要素法を用いた。
【0104】
図11は、図12に示すシミュレーションでのモード数の定義を示す表である。図12は、有限差分法を用いて計算した許容される導波モードのコアのサイズについての依存性を示す図である。
【0105】
このシミュレーションにおいては、許容される導波モード数について、図11に示すような定義を採用した。すなわち、TEモードまたはTMモードが少なくとも一つ存在する場合を導波モードが1つ存在するとみなすように定義している。例えば、モード数が「2」の場合は、少なくとも1つのTEモードと少なくとも1つのTMモードに加えて、さらに、少なくとも1つのTEモードまたはTMモードが存在する状態に相当する。図11に示す表において、モード数が「1」である場合がシングルモード条件を満たしている状態に相当する。
【0106】
図12には、モード数が「1」,「2」,「3」となる、幅Wに対する高さHの限界値を示す。すなわち、図12では、モード数が「1」となるために必要な高さHをそれぞれの幅Wについて算出した値を白抜き丸印(○)で示している。コア32の高さHが、この白抜き丸印(○)をトレースすることで得られるライン(「1」と表記)より小さい場合には、モード数が「0」となり、光波が光リング共振器3の光導波路(コア32)を伝搬できないことを意味する。従って、コア32の幅Wに対する高さHは、白抜き丸印(○)で示したラインより大きい(グラフにおいて右側に位置する)ことが必要である。
【0107】
また、図12では、モード数が「2」となるために必要な高さHをそれぞれの幅Wについて算出した値を白抜き三角(△)で示している。シングルモード条件を満足するためには、従って、コア32の幅Wに対する高さHは、白抜き三角(△)で示したライン(「2」と表記)より小さい(グラフにおいて左側に位置する)ことが必要である。
【0108】
以上が、(1)シングルモード条件を満足するための制約である。
次に、(2)高さH<幅Wの条件を満足するためには、図12に示すグラフにおいて、高さH=幅Wの直線より下側に位置する必要がある。
【0109】
さらに、(3)アスペクト比の条件(アスペクト比が4以下)を満足するためには、図12に示すグラフにおいて、高さH=幅W/4の直線より上側に位置する必要がある。
【0110】
以上の制約をまとめると、図12に示すグラフにおいて、4つの黒丸印(●)で示した点で囲まれた領域にコア32のサイズを設定することが好ましい。
【0111】
以上のように、コア32の断面形状は、シングルモード条件を満足するとともに、高さHと幅Wとのアスペクト比が所定条件を満足するように構成される。
【0112】
[F.変形例]
(f1.クラッドの変形例)
上述の実施の形態に従う光リング共振器においては、典型例として、クラッド4として石英を用いる構成について例示したが、これに限られることはない。すなわち、クラッド4は、コア31,32の材料よりも低い屈折率を有する材料であればよく、上部のクラッドは空気や水で構成してもよい。
【0113】
(f2.サンプルSMPの接触位置の変形例)
上述の実施の形態においては、被検出物質を吸着したサンプルSMPを微小物質検出センサ1の上側表面に接触配置する構成について例示したが、サンプルSMPを微小物質検出センサ1の接触させる位置は、これに限られない。例えば、サンプルSMPを、光リング共振器(マイクロリング共振器)3のリング形状に対応する内径面または外形面の全部または一部に接触するように配置されてもよい。
【0114】
図13は、本実施の形態の変形例に従う光リング共振器3の光導波路の断面構造を示す模式図である。図13を参照して、本実施の形態の変形例に従う微小物質検出センサにおいては、サンプルSMPは、基板2上においてコア32の側面に(コア32に並んで)配置されている。このとき、コア32の断面形状としては、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向の長さ(高さH)と比較して、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と平行な方向の長さ(幅W)がより短くなるように構成される。言い換えると、コア幅Wはコア高さHよりも薄くなるように構成される。
【0115】
図13に示すような構造は、例えば、光リング共振器3の中心に孔を設けておき、流路などを通じて当該孔へサンプルSMPを導入することによって実現できる。光導波路などの作成については、半導体リソグラフィなどの公知技術を用いて、高精度かつ安価に大量生産することができる。
【0116】
また、この場合には、TEモードの光波を測定に用いることが好ましい。上述したように、検出感度を高めるためには、光導波路(コア32)を伝搬する光波の電界振動方向が、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と一致するように構成することが好ましい。図13に示す構成においては、サンプルSMPが基板2に対して平行な方向に位置することになるので、コア32を伝搬する光波の主たる電界成分の方向が基板2の表面に平行な方向と一致するTEモードを採用することが好ましい。
【0117】
(f3.スポットサイズ変換導波路)
既存の光ファイバなどの光導波路と微小物質検出センサ1とを接続するためには、伝搬する光波のスポットサイズを整合するためのスポットサイズ変換導波路を設けることが望ましい。より具体的には、図2に示す直線状の光導波路(コア31)の入射端34にスポットサイズ変換導波路を設け、光源10(図1参照)などから供給される光を微小物質検出センサ1内に導くことになる。
【0118】
このようにスポットサイズ変換導波路を設けることで、一般的な光デバイスを用いることができるため、汎用性を高めることができる。そのため、本実施の形態に従う微小物質検出センサを用いた微小物質検出装置を容易に実現できる。
【0119】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0120】
1 微小物質検出センサ、2 基板、3 光リング共振器、4 クラッド、10 光源、20 検出部、31,32 コア、33 方向性結合部、34 入射端、35 出射端、53,104 被検出物質、102 吸着物質、SMP サンプル、SYS 微小物質検出装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物質を検出するための微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学デバイスを用いて微生物などの微小物質を検出するための微小物質検出センサが実用化されている。このような微小物質検出センサは、バイオセンサとも称されており、このセンサを用いることで、各種の微小物質の有無、その量、その種類などを検出することができる。このような微小物質検出センサの動作原理としては、光学デバイスの周囲に検出対象の微小物質(被検出物質)が付着することで、当該光学デバイスが示す光学特性が変化することを利用している。
【0003】
例えば、特開2008−304216号公報(特許文献1)には、光学デバイスとして光リング共振器を用いた物質検知装置が開示されている。このような光リング共振器を用いる場合には、その光リング共振器の周囲に微生物が付着するように構成するとともに、光リング共振器での共振波長の変化を検出できるように構成される。この光リング共振器での共振波長の変化は、微生物の付着によって光リング共振器の屈折率が変化することに起因している。特に、特開2008−304216号公報(特許文献1)には、波長選択性を有しない第1の光導波路と共振結合する位置に第2の光導波路を配置してマイクロリング共振器を形成するとともに、第2の光導波路に、検出対象の物質が入り得る孔を設ける構成が開示されている。
【0004】
また、特開2005−331614号公報(特許文献2)には、光学デバイスとして光導波路を用いた導波路型光センサが開示されている。この特許文献2に開示される導波路型光センサでは、導波方向を変更して往復するコアから検出領域を構成するとともに、コアの一部でスラブ型分光部を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−304216号公報
【特許文献2】特開2005−331614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示される物質検知装置では、マイクロリング共振器の一部に孔を設けた構造を採用しており、構造が複雑化する上に、光リング共振器としての性能(光共振性)が損なわれるという課題がある。また、特許文献1に開示される物質検知装置は、単に、被検出物質が存在するか否かを検出するものであり、その量を検出することはできない。
【0007】
また、上述の特許文献2に開示される導波路型光センサでは、光リング共振器を用いる場合に比較して、より長い光導波路を用いる必要があり、製造上のコストが増加するとともに、共振構造を有していないために検出感度を高めることが難しいという課題がある。また、光を被検出物質にしみ出させるためにコアを露出する必要があり、長期保存時にデバイスとしての安定性が損なわれるという課題もある。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、検出感度を高めたリング共振型の微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある局面に従う微小物質検出センサは、リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、光リング共振器と近接して配置された第2の導波路とを含む。第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含む。光リング共振器は、コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されている。コアの断面形状は、コアから被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、コアから被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される。
【0010】
好ましくは、光リング共振器は、第1の導波路がシングルモード条件を満足するように構成される。
【0011】
さらに好ましくは、コアの断面形状は、シングルモード条件を満足するとともに、第1の長さと第2の長さとのアスペクト比が所定条件を満足するように構成される。
【0012】
好ましくは、光リング共振器は、コアを伝搬する光波の電界振動方向が、コアから被検出物質へ向かう方向と一致するように構成される。
【0013】
好ましくは、光リング共振器は、被検出物質が第1の導波路のリング形状に対応する一方の環状面の全部または一部に接触するように構成される。
【0014】
好ましくは、光リング共振器は、被検出物質が第1の導波路のリング形状に対応する内径面または外形面の全部または一部に接触するように構成される。
【0015】
好ましくは、第2の導波路は、伝搬する光波のスポットサイズを整合するためのスポットサイズ変換導波路を含む。
【0016】
この発明の別の局面に従う微小物質検出装置は、リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、光リング共振器と近接して配置された第2の導波路と、第1の導波路の一方端に接続され、光を発生する光源と、第1の導波路の他方端に接続され、光源からの光を検出する検出部とを含む。第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含む。光リング共振器は、コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されている。コアの断面形状は、コアから被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、コアから被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、検出感度を高めたリング共振型の微小物質検出センサおよびそれを有する微小物質検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置を構成する微小物質検出センサ1の全体構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に従うサンプルの一例を示す模式図である。
【図4】本実施の形態に従う光リング共振器の光導波路の断面構造を示す模式図である。
【図5】有限差分法を用いて計算した実効屈折率のコアの高さについての依存性を示す図である(TEモード)。
【図6】有限差分法を用いて計算した実効屈折率のコアの高さについての依存性を示す図である(TMモード)。
【図7】実効屈折率の変化の外部屈折率変化についての依存性を示す図である(TEモード)。
【図8】実効屈折率の変化の外部屈折率変化についての依存性を示す図である(TMモード)。
【図9】サンプルSMPへ向かう方向の電界振幅を示す図である(比較例)。
【図10】サンプルSMPへ向かう方向の電界振幅を示す図である(実施例)。
【図11】図12に示すシミュレーションでのモード数の定義を示す表である。
【図12】有限差分法を用いて計算した許容される導波モードのコアのサイズについての依存性を示す図である。
【図13】本実施の形態の変形例に従う光リング共振器の光導波路の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
[A.概要]
本実施の形態に従う微小物質検出センサは、光リング共振器を用いて微小物質を検出する。特に、光リング共振器においては、光導波路を構成するコアとクラッドとについて、コアの厚さを、シングルモード条件を満足させるとともに、サンプルが存在する方向に薄くすることで、サンプル側への光波の電磁界成分のしみ出し量を増加させる。これにより、光リング共振器の共振条件の変化量をより大きくし、検出感度を高めることができる。
【0021】
本実施の形態に従う光導波路では、コアの周囲がクラッドで覆われているため、コアの酸化等による劣化を防止し、デバイスを長期間安定に保つことができる。
【0022】
また、本実施の形態に従う光リング共振器では、コアを伝搬する光波の電界振動方向が、コアとサンプルとを結ぶ方向と一致するように構成されることが好ましい。これにより、コアからサンプルへ向かう電界強度をより高めることができる。
【0023】
また、スポットサイズ変換導波路を用いることで、光ファイバなどの既存の光導波路との接続を容易化できる。
【0024】
[B.装置構成]
図1は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置SYSの全体構成を示す模式図である。図2は、本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置SYSを構成する微小物質検出センサ1の全体構成を示す模式図である。
【0025】
図1を参照して、微小物質検出装置SYSは、微小物質検出センサ1と、微小物質検出センサ1に検出用の光を供給する光源10と、微小物質検出センサ1を通過した後の光を検出する検出部20とを含む。
【0026】
本実施の形態に従う微小物質検出装置SYSにおいては、微小物質検出センサ1における共振条件の変化を観測することで、被検出物質を検出する。そのため、光源10は、微小物質検出センサ1における共振波長を含む波長範囲の光波を発生するように構成される。なお、微小物質検出センサ1における設計バラツキなどを考慮して、ある程度のマージンをもった波長範囲を有する光源10を用いることが好ましい。
【0027】
検出部20は、上述のような微小物質検出センサ1における共振条件の変化を観測できるような検出範囲(波長感度)を有する。具体的には、微小物質検出センサ1の共振波長を含む所定波長における光量を検出するためのフィルタおよびフォトディテクタなどから構成される。なお、検出部20として、分光光学系を採用して、スペクトルを検出するようにしてもよい。
【0028】
図2を参照して、微小物質検出センサ1は、リング状の光導波路を有する光リング共振器(マイクロリング共振器)3と、光リング共振器3と近接して配置された直線状の光導波路とを有する。この微小物質検出センサ1は、基材としての基板2を有しており、この基板2の上に、コア(光導波路コア)およびクラッド(光導波路クラッド)からなる光導波路が形成される。すなわち、基板2の上面には、主として、相対的に屈折率の低い材料からなるクラッド4が形成されるとともに、光を伝搬させる経路に対応して、相対的に屈折率の高い材料からなるコア31および32が形成されている。すなわち、コア32とクラッド4とにより、光リング共振器3を構成する光導波路が形成され、コア31とクラッド4とにより、光源10からの光を伝搬させるための光導波路が形成される。
【0029】
コア31の入射端34には光源10が接続され、コア31の出射端35には検出部20が接続される。また、コア31は、コア32(光リング共振器3)の一部と近接して配置される。この結果、コア31とコア32との間には、電磁気的(光学的)な相互作用を生じることになる。すなわち、直線状の光導波路は、リング状の光導波路と電磁的に接続される、方向性結合部33を含むことになる。
【0030】
図1に示す微小物質検出装置SYSにおいては、被検出物質が光リング共振器3を構成する光導波路のリング形状に対応する一方の環状面の全部または一部に接触するように構成される。すなわち、測定時には、被検出物質を吸着したサンプルSMPを微小物質検出センサ1の上側表面に接触配置する。これにより、光リング共振器3は、リング状の光導波路の断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触することになる。
【0031】
図3は、本発明の実施の形態に従うサンプルSMPの一例を示す模式図である。例えば、タンパク質を被検出物質とする場合には、当該タンパク質を捕捉する抗体といった吸着物質を下地層として用いることができる。図3に示すように、多数の吸着物質102を含むサンプルSMPを用いて、被検出物質104を捕捉する。このように被検出物質104が捕捉された状態のサンプルSMPを微小物質検出装置SYSの上表面に配置することで、そのサンプルSMPに含まれる被検出物質の量や種類などを測定できる。
【0032】
特に、本実施の形態に従う微小物質検出装置SYSにおいては、このような被検出物質に対する検出感度を高めるために、シングルモード条件を満たしながら光導波路のコア32の厚さをサンプルSMPが存在する方向について薄くすることで、サンプルSMP側に光導波路の電磁界成分をしみ出させることである。これにより、光リング共振器3を用いた微小物質検出センサの検出感度を高めることができる。
【0033】
以下、光リング共振器3を用いた微小物質を検出するための原理について説明した後、本実施の形態に従う光リング共振器3の構造について詳述する。あわせて、このような扁平した断面形状を有するコア32を採用することで検出感度を高めることができる理由についても説明する。
【0034】
[C.光リング共振器による検出原理]
次に、光リング共振器3を用いて微小物質を検出するための原理について説明する。
【0035】
上述したように、微小物質を高感度に検出するためのセンサとして光共振器を応用することが注目されている。一般的な光共振器に使用される光導波路の構造としては、直線形状の光導波路を形成し、その両端面で光波が繰返し反射により位相をそろえて重ねることで共振させるものと、閉じたリング形状として光波がそのリングを一周した後に位相が重なるように光路長を設定することで共振させるものなどがある。
【0036】
リング形状の共振器は、光導波路内での反射構造が必要ないため、構成を簡素化できるとともに、反射による光路損失が小さく効率の高い共振が得られるというメリットがある。
【0037】
そのため、本実施の形態に従う微小物質検出装置SYSにおいては、リング状の光導波路を有する光リング共振器3を採用する。
【0038】
この光リング共振器3を微小物質検出センサとして用いる場合には、光リング共振器3へ光のエネルギーが集中する効果と、共振器近傍にある物質によって光リング共振器3の共振条件がずれる効果とを利用することになる。
【0039】
光リング共振器3においては、光波は、光導波路の屈折率に幾何行路長を乗じた光路長(実効行路長)がその波長の整数倍と一致している場合のみに存在できる。この条件を満たさない場合には急激に光リング共振器3内での光量が減衰する。
【0040】
ここで、光リング共振器3の周囲に微小物質が付着した場合には、光リング共振器3の共振条件がずれるため、この共振条件のずれを観測することで、周囲の媒質の屈折率変化を高感度に検出できる。また、光リング共振器3が共振条件を満たした状態において、光リング共振器3の周囲に電磁界が集中するため、この現象を利用して、光リング共振器3の周囲に配置した蛍光物質を高効率で光らせることもできる。
【0041】
次に、光リング共振器3の共振条件について説明する。
図1に示す微小物質検出装置SYSにおいて、コア31の入射端34から入射された光(所定幅にわたる波長成分を有するものとする)は、方向性結合部33を介して光リング共振器3へ伝えられる。この光のうち、光リング共振器3での共振条件を満たした波長成分のみが光リング共振器3内に閉じ込められることになる。
【0042】
この結果、共振条件を満たした波長についてみれば、コア31の入射端34から出射端35までの透過率が大きく低下する。光リング共振器3の共振波長は、光導波路(コア32)の実効屈折率Neffと光リング共振器3の共振器長Lとを用いて、(1)式のように示すことができる。ここで、mは共振次数(整数)、λは真空中における光の波長を示す。
【0043】
【数1】
【0044】
上述したように、微小物質検出センサ1を特定の物質を検出するバイオセンサとして利用する場合には、サンプルSMPを光リング共振器3に近接配置する。あるいは、クラッド4の上部に流路を設けて、流路表面に被検出物質のみを付着させる下地層を形成してもよい。例えば、タンパク質を被検出物質とする場合には、抗体などを含む下地層を用いて検出対象のタンパク質を捕捉するとともに、それを水溶させたサンプルを光リング共振器3の表面に配置してもよい。
【0045】
光リング共振器3の表面に被検出物質が存在すると、その被検出物質の量に応じて、(1)式に示す実効屈折率Neffが変化する。この結果、光リング共振器3の共振条件が初期状態から変化するため、初期状態と比較して光リング共振器3の透過率が大きく変動することになる。この透過率の変動を観測することで、サンプルSMP中における被検出物質の存在の有無や被検出物質の濃度などを測定することができる。
【0046】
なお、光リング共振器3の透過率を観測することで、被検出物質を測定する例を示したが、例えば、被検出物質に蛍光標識をつけておくことで、発生する蛍光の量によって被検出物質の存在や量を特定することもできる。
【0047】
[D.光リング共振器の構造]
次に、光リング共振器3の構造について説明する。
【0048】
上述した(1)式に示すように、微小物質検出センサにおける検出感度を高めるためには、被検出物質に起因して実効屈折率Neffが大きく変化することが重要である。そこで、本実施の形態に従う光リング共振器3においては、被検出物質に起因して実効屈折率Neffを大きく変化させるための構成を採用する。以下、光リング共振器3の構造について説明する。
【0049】
図4は、本実施の形態に従う光リング共振器3の光導波路の断面構造を示す模式図である。なお、図4に示す断面構造は、図2に示すIV−IV破断線に対応する。
【0050】
図4を参照して、光リング共振器3は、基板2の上に形成された光導波路によって構成される。より具体的には、図4に示す光リング共振器3においては、リング形状の(光導波路)コア32(コア材料の屈折率ncore)が形成されるとともに、コア32の周囲に(光導波路)クラッド4(クラッド材料の屈折率nclad)が形成されている。
【0051】
コア32は、方形状の断面形状(高さH×幅W)を有する。本実施の形態に従う光リング共振器3においては、その中を伝搬する光波の伝搬モードがシングルモードとなるように設計されることが好ましい。そのため、光リング共振器3の光導波路がシングルモード条件を満足するように、コア32の断面形状(幅W×高さH)などが設計される。
【0052】
また、コア32とサンプルSMPとの間に存在するクラッド4の厚さDは、光リング共振器3のコア32を伝搬する光波の電磁界成分のサンプルSMP側へのしみ出し量が実質的に影響する程度の厚さに設計されている。すなわち、コア32を伝搬する光波がある程度の割合でしみ出るように、クラッド4の厚さDが決定される。このため、サンプルSMP中に被検出物質53が存在する場合には、直線状の光導波路(コア31)を伝搬する光波の実効屈折率Neffがより大きく変化する。
【0053】
特に、本実施の形態に従う光リング共振器3のコア32は、光リング共振器3の光導波路についてシングルモード条件を満たしつつ、(光導波路)コア32の断面形状をサンプルSMPが存在する側に薄くするように設計される。すなわち、コア32の断面形状は、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と平行な方向の長さ(高さH)が、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向の長さ(幅W)と比較して、より短くなるように構成される。言い換えると、コアの高さHは、コアの幅Wよりも薄くなるように構成される。
【0054】
言い換えれば、コア32の断面形状は、(1)シングルモード条件、および、(2)高さH<幅Wとの条件のいずれをも満足するように設計される。
【0055】
このような構造を採用することで、光リング共振器3の光導波路(コア32)による、光波の閉じ込め作用は、サンプルSMPが存在する側に相対的に弱くなり、電磁界漏れ成分を大きくできる。すなわち、光リング共振器3を伝搬する光波の一部が被検出物質の側により多く「しみ出す」ことになる。このような「しみ出す」効果によって、被検出物質との間の相互作用が生じて、光リング共振器3にける共振条件の変化量が増大し、その結果、検出感度を高めることができる。
【0056】
なお、コア32の断面形状は、上記の2つの条件に加えて、結合効率の観点から、アスペクト比(高さHと幅Wとの比)の大きさが所定範囲に制限されることが好ましい。このようなコア32の実際の設計例については、後述する。
【0057】
[E.設計手順]
次に、光リング共振器3の具体的な設計手順について示す。
【0058】
本実施の形態に従う微小物質検出装置SYSにおいて使用される光波の一例としては、1.3〜1.6[μm]の波長帯域を有する近赤外線が考えられる。このような近赤外線の波長帯域では、光導波路を構成するコアの材料としては、シリコン(Si)が考えられる。
【0059】
リング共振器および光導波路などの集積といった応用を考えた場合、光導波路のスポットサイズ(ビーム断面積)が小さいことが望ましい。スポットサイズに関係する量として、比屈折率差Δが知られている。この比屈折率差Δは、(2)式のように示すことができる。ここで、ncoreはコア材料の屈折率、ncladはクラッドの屈折率を示す。なお、理論的には、比屈折率差Δは、0<Δ<0.5の範囲の大きさをとる。
【0060】
【数2】
【0061】
スポットサイズを小さくするためには、光導波路が(2)式で定義される比屈折率差Δの値が0.2以上であることが望ましい。このような高い比屈折率差Δを有する光導波路は、高屈折率差導波路と称される。
【0062】
また、高速信号伝搬における波形乱れに起因する分散の影響を避けるためには、存在する伝搬モードが単一となる、いわゆるシングルモード条件を満たしていることが望ましい。本発明の実施の形態に従う微小物質検出装置SYSを構成する光導波路のような、2次元のスラブ導波路におけるシングルモード条件は既知である。例えば、参考文献1(岡本勝就著、“フォトニクスシリーズ13 光導波路の基礎”、コロナ社、1992年)などに、シングルモード条件について詳述されているので参照されたい。
【0063】
また、3次元矩形導波路については、実用上は、等価屈折率法、有限差分法、および有限要素法などの手法を用いてシングルモード条件を求めることができる。
【0064】
一般的に光導波路に用いられる誘電体材料を材質(屈折率)で示すと、以下のようになる。
【0065】
波長1.3〜1.5[μm]帯においては、コア材料として、シリコンSi(3.48)があり、クラッド材料または低屈折率層の材料として、SiOx(1.4〜3.48)やAl2O3(1.8)などがある。このとき、比屈折率差Δとしては、0.001〜0.42といった範囲の値に設計することができる。
【0066】
波長400〜800[nm]の可視帯域においては、コア材料として、GaAs(3.3)やSi(3.7)などがあり、クラッド材料または低屈折率層の材料として、Ta2O5(2.5)やSiOx(1.4〜3.7)などがある。このとき比屈折率差Δとしては、0.001〜0.41といった範囲の値に設計することができる。
【0067】
上述したもの以外にコアに用いることができる高屈折率材料(波長域)としては、以下のような例が挙げられる。
【0068】
(1)ダイヤモンド(可視全域)
(2)III−V族半導体:AlGaAs(近赤外,赤)、GaN(緑,青)、GaAsP(赤,橙,青)、GaP(赤,黄,緑)、InGaN(青緑,青)、AlGaInP(橙,黄橙,黄,緑)
(3)II−VI族半導体:ZnSe(青)
上述したもの以外にクラッドまたは低屈折率層に用いることができる材料としては、炭化シリコンSiC、弗化カルシウムCaF、チッ化シリコンSi3N4、酸化チタンTiO2、ダイヤモンドCなどが挙げられる。
【0069】
本実施の形態に係るデバイスでは、上述したような材料に限定されず、例えば、TiO2,SiN,ZnSなどの複数の材料を組み合わせたり、フォトニック結晶構造を用いたりすることで、比屈折率差Δの値をある程度自由に設計することができる。
【0070】
また、モードフィールド径を0.5[μm]程度に小さくするためには、例えば、コア屈折率を3.5程度にすることで、比屈折率差Δを0.4程度まで高めた高屈折率差導波路を用いる方法を採用してもよい。
【0071】
次に、近赤外線の波長帯域の光源を用いる場合の具体的なコアサイズの具体例について説明する。
【0072】
一例として、光導波路を伝搬する光波の設計波長を1.31[μm]とし、基板2(図4参照)として石英(屈折率1.44)を用い、コア32(図4参照)としてシリコン(屈折率3.48)を用い、クラッド4として石英を用いることとする。また、サンプルSMPは、被検出物質53を含んだ水(屈折率1.33)を想定する。ここで、コア32の幅W(図4参照)を300[nm](固定)とする。
【0073】
上述のような前提条件下において、コア32からサンプルSMPへ向かう方向におけるコア32の大きさである、コア32の高さH(図4参照)を変化させると、設計波長を有する光波が光導波路の中を伝搬することが許容される伝搬モードの数が変化する。図5には、その状態を示す。
【0074】
ここで、光導波路(コア32)を伝搬する光波のうち、基板2に対して平行な方向の電界成分を主とするモードをTEモードと称し、基板2に対して垂直な方向の電界成分を主とするモードをTMモードと称する。すなわち、TEモードにおいては、コア32を伝搬する光波の主たる電界成分の方向が基板2の表面に平行な方向と一致し、TMモードにおいては、コア32を伝搬する光波の主たる電界成分の方向が基板2とサンプルSMPとを結ぶ方向と一致する。
【0075】
「シングルモード条件」は、TEモードおよびTMモードがそれぞれ1つしか存在しない条件に相当する。シングルモード条件については、上述したとおり、有限差分法や有限要素法などの手法を用いて計算できる。
【0076】
図5および図6は、有限差分法を用いて計算した実効屈折率Neffのコア32の高さHについての依存性を示す図である。図5にはTEモードについての解析結果を示し、図6にはTMモードについての解析結果を示す。
【0077】
図5を参照して、TEモードについてのシングルモード条件としては、コア32の高さHが300[nm]以下となり、TMモードについてのシングルモード条件としては、コア32の高さHが300[nm]以下となる。
【0078】
一般的には、光導波路の対称性を良くするために、断面形状が正方形のコアが採用される。そこで、以下の検討においては、比較例として、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向のコア32の大きさである幅Wを300[nm]とし、コア32からサンプルSMPへ向かう方向のコア32の大きさであるコアの高さHを300[nm]とするコア(比較例)を考える。
【0079】
これに対して、本実施の形態に従う光リング共振器3の光導波路を構成するコア32として、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向のコア32の大きさである幅Wが300[nm]であり、コア32からサンプルSMPへ向かう方向のコア32の大きさであるコアの高さHが250[nm]である断面形状を有するコア32(実施例)を考える。すなわち、コア32からサンプルSMPへ向かう方向のコア32の長さであるコアの高さHは、サンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向のコア32の長さである幅Wより短くなるように構成される。
【0080】
なお、このような幅Wおよび高さHに設定したとしても、図5および図6に示すとおり、TEモードおよびTMモードがそれぞれ1つしか存在しないため、このコアサイズは、TEモードおよびTMモードのいずれの場合もシングルモード条件を満たしていることになる。このように、サンプルSMPへ向かう方向のコア32の長さ(この場合には、高さH)がシングルモード条件を満たしつつ、サンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向の長さ(この場合には、幅W)より短く設計することで、検出感度を高めることができる。以下、検出感度を高めることができる原理について説明する。
【0081】
光リング共振器3に近接した位置に被検出物質53が存在することで、サンプルSMPの平均屈折率N1が変化する。検出感度を高めるためには、サンプルSMPの平均屈折率N1の変化に対する、光リング共振器3における共振波長(共振条件)の変化を大きくすることが重要である。(1)式から、初期波長λ0に対する相対的な波長変動の大きさを計算すると、(3)式のように示すことができる。ここで、mは共振次数(整数)、N0は初期状態における光導波路の実効屈折率Neffの値を示す。
【0082】
【数3】
【0083】
(3)式によれば、サンプルSMPの平均屈折率N1の変化に対する共振波長の変化の大きさは、平均屈折率N1の変化に対する実効屈折率Neffの変化の大きさとみなすことができる。すなわち、測定の感度を上げることは平均屈折率N1の変化に対するNeffの変化を大きくすることと同じである。
【0084】
そこで、TEモードおよびTMモードのそれぞれについて、平均屈折率N1の変化(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)の大きさについて評価した。
【0085】
より具体的には、上述したような比較例のコア(幅W:300[nm]×高さ:300[nm])を採用した場合と、本実施の形態に従うコア(幅W:300[nm]×高さ:250[nm])を採用した場合とを比較した。なお、現実の計算方法としては、有限要素法を用いた導波路解析を採用した。
【0086】
図7および図8は、実効屈折率の変化の外部屈折率変化についての依存性を示す図である。すなわち、図7には、TEモード(TE0:0次モード)について、平均屈折率N1の変化量(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)の比較結果を示す。また、図8には、TMモード(TM0:0次モード)について、平均屈折率N1の変化量(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)の比較結果を示す。
【0087】
図7および図8においては、平均屈折率N1を1.0〜1.4まで変化させた場合の計算例を示す。また、図7および図8においては、断面形状が正方形のコア(比較例)についての特性を丸印(●)で示し、断面形状が長方形のコア32(実施例)についての特性を角印(■)で示す。
【0088】
図7に示すように、TEモードについてみれば、本実施の形態に従う長方形のコア32を採用することで、平均屈折率N1の変化量(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)、すなわち、検出感度を約1.7倍に高めることができる。
【0089】
図8に示すように、TMモードについてみれば、本実施の形態に従う長方形のコア32を採用することで、平均屈折率N1の変化量(Δnout)に対する実効屈折率Neffの変化量((Neff−N0)/N0)、すなわち、検出感度を約3.7倍に高めることができる。
【0090】
図7および図8に示す比較結果によれば、TEモードおよびTMモードのいずれにおいても、本実施の形態に従う長方形のコア32を採用することで、検出感度を高めることができる。但し、その検出感度を高める効果は、TEモードに比較してTMモードの方が著しい。この理由は、TMモードにおいては、光波の電界の振動方向がサンプルSMPの存在する方向と一致しているためであると考えられる。すなわち、TMモードでは、コア32に垂直な電界成分が多く存在するため、電束密度の連続性からコア32からサンプルSMPへ向かう電界強度を高めることができるためである。以下、この電束密度の連続性について検討する。
【0091】
コア32とクラッド4との境界における電束密度の境界条件(境界における連続性)に従うと、電界の境界面に対する法線方向の成分は、相対的に屈折率の低いクラッド4側で大きくなる。すなわち、コア32とクラッド4との境界面において、サンプルSMPへ向かう方向のコア32側の電界成分Ecoreとクラッド4側の電界成分Ecladについて、(4)式に示す関係式が成立する。
【0092】
【数4】
【0093】
ここで、クラッド4側により多くの電界成分が分布するための、比屈折率差Δについての条件は、(5)式に示す不等式によって算出される。
【0094】
【数5】
【0095】
すなわち、比屈折率差Δ>0.25となるときに、サンプルSMPへ向かう方向の電界成分が大きく分布することがわかる。
【0096】
次に、TMモードにおいて、サンプルSMPへ向かう方向の電界成分を具体的に計算した。比較のため、断面形状が正方形のコア(比較例)を採用した場合と、断面形状が長方形のコア32(実施例)を採用した場合とについてそれぞれ計算した。
【0097】
図9および図10は、サンプルSMPへ向かう方向の電界振幅を示す図である。図9には、断面形状が正方形のコアを採用した光リング共振器(比較例)における計算結果を示し、図10には、断面形状が長方形のコアを採用した光リング共振器(実施例)における計算結果を示す。
【0098】
図9および図10には、いずれも、TMモード(TM0:0次モード)についての電界成分の大きさを示す。図9(a)および図10(a)は、光導波路の断面における強度分布を示す。なお、図9(a)および図10(a)のX軸は、基板2の表面に平行な方向に対応し、Y軸は基板2に対して垂直な方向に対応する。一方、図9(b)および図10(b)には、それぞれ図9(a)および図10(a)に示す強度分布において、X=0に対応する軸上の強度変化を示す。
【0099】
図9と図10とを比較すると、本実施の形態に従う光リング共振器3を採用することで、サンプルSMPが存在する方向の電界成分が増大していることがわかる。このように、光導波路(コア32)を伝搬する光波の電界振動方向が、コア32とサンプルSMPとを結ぶ方向と一致するように構成されることで、検出感度をより高めることができる。
【0100】
次に、コア32の好ましい断面形状について検討する。
まず、コア32の断面形状は、(1)シングルモード条件、(2)高さH<幅Wの条件、および、(3)アスペクト比の条件のいずれをも満足することが好ましい。(1)および(2)の条件については、上述したのでその内容については繰返さない。一方、(3)アスペクト比の条件については、光ファイバなどの対称性が良い光導波路との結合効率を所定レベルに維持するための条件である。例えば、参考文献2(河野健治著、“光結合系の基礎と応用”、現代工学社、1991年)に記述されているように、コア32の幅Wと高さHとのアスペクト比を4倍程度以内に抑えることが好ましい。すなわち、一般的に正方形または円状の断面形状を有する光ファイバを伝搬する光波のスポットサイズ(w1)と、コア32を伝搬する光波のスポットサイズ(w2)との不整合が生じると、両者の間の結合効率は(6)式に示される。
【0101】
【数6】
【0102】
(6)式によれば、スポットサイズが4倍異なると、結合効率は1/5に低下する。そのため、アスペクト比は4倍程度以内に維持することが好ましい。
【0103】
このような条件を考慮して、コア32の幅Wおよび高さHを所定単位ずつ変化させて、当該光導波路において許容される導波モード数について計算した。なお、計算には、有限要素法を用いた。
【0104】
図11は、図12に示すシミュレーションでのモード数の定義を示す表である。図12は、有限差分法を用いて計算した許容される導波モードのコアのサイズについての依存性を示す図である。
【0105】
このシミュレーションにおいては、許容される導波モード数について、図11に示すような定義を採用した。すなわち、TEモードまたはTMモードが少なくとも一つ存在する場合を導波モードが1つ存在するとみなすように定義している。例えば、モード数が「2」の場合は、少なくとも1つのTEモードと少なくとも1つのTMモードに加えて、さらに、少なくとも1つのTEモードまたはTMモードが存在する状態に相当する。図11に示す表において、モード数が「1」である場合がシングルモード条件を満たしている状態に相当する。
【0106】
図12には、モード数が「1」,「2」,「3」となる、幅Wに対する高さHの限界値を示す。すなわち、図12では、モード数が「1」となるために必要な高さHをそれぞれの幅Wについて算出した値を白抜き丸印(○)で示している。コア32の高さHが、この白抜き丸印(○)をトレースすることで得られるライン(「1」と表記)より小さい場合には、モード数が「0」となり、光波が光リング共振器3の光導波路(コア32)を伝搬できないことを意味する。従って、コア32の幅Wに対する高さHは、白抜き丸印(○)で示したラインより大きい(グラフにおいて右側に位置する)ことが必要である。
【0107】
また、図12では、モード数が「2」となるために必要な高さHをそれぞれの幅Wについて算出した値を白抜き三角(△)で示している。シングルモード条件を満足するためには、従って、コア32の幅Wに対する高さHは、白抜き三角(△)で示したライン(「2」と表記)より小さい(グラフにおいて左側に位置する)ことが必要である。
【0108】
以上が、(1)シングルモード条件を満足するための制約である。
次に、(2)高さH<幅Wの条件を満足するためには、図12に示すグラフにおいて、高さH=幅Wの直線より下側に位置する必要がある。
【0109】
さらに、(3)アスペクト比の条件(アスペクト比が4以下)を満足するためには、図12に示すグラフにおいて、高さH=幅W/4の直線より上側に位置する必要がある。
【0110】
以上の制約をまとめると、図12に示すグラフにおいて、4つの黒丸印(●)で示した点で囲まれた領域にコア32のサイズを設定することが好ましい。
【0111】
以上のように、コア32の断面形状は、シングルモード条件を満足するとともに、高さHと幅Wとのアスペクト比が所定条件を満足するように構成される。
【0112】
[F.変形例]
(f1.クラッドの変形例)
上述の実施の形態に従う光リング共振器においては、典型例として、クラッド4として石英を用いる構成について例示したが、これに限られることはない。すなわち、クラッド4は、コア31,32の材料よりも低い屈折率を有する材料であればよく、上部のクラッドは空気や水で構成してもよい。
【0113】
(f2.サンプルSMPの接触位置の変形例)
上述の実施の形態においては、被検出物質を吸着したサンプルSMPを微小物質検出センサ1の上側表面に接触配置する構成について例示したが、サンプルSMPを微小物質検出センサ1の接触させる位置は、これに限られない。例えば、サンプルSMPを、光リング共振器(マイクロリング共振器)3のリング形状に対応する内径面または外形面の全部または一部に接触するように配置されてもよい。
【0114】
図13は、本実施の形態の変形例に従う光リング共振器3の光導波路の断面構造を示す模式図である。図13を参照して、本実施の形態の変形例に従う微小物質検出センサにおいては、サンプルSMPは、基板2上においてコア32の側面に(コア32に並んで)配置されている。このとき、コア32の断面形状としては、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と垂直な方向の長さ(高さH)と比較して、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と平行な方向の長さ(幅W)がより短くなるように構成される。言い換えると、コア幅Wはコア高さHよりも薄くなるように構成される。
【0115】
図13に示すような構造は、例えば、光リング共振器3の中心に孔を設けておき、流路などを通じて当該孔へサンプルSMPを導入することによって実現できる。光導波路などの作成については、半導体リソグラフィなどの公知技術を用いて、高精度かつ安価に大量生産することができる。
【0116】
また、この場合には、TEモードの光波を測定に用いることが好ましい。上述したように、検出感度を高めるためには、光導波路(コア32)を伝搬する光波の電界振動方向が、コア32からサンプルSMPへ向かう方向と一致するように構成することが好ましい。図13に示す構成においては、サンプルSMPが基板2に対して平行な方向に位置することになるので、コア32を伝搬する光波の主たる電界成分の方向が基板2の表面に平行な方向と一致するTEモードを採用することが好ましい。
【0117】
(f3.スポットサイズ変換導波路)
既存の光ファイバなどの光導波路と微小物質検出センサ1とを接続するためには、伝搬する光波のスポットサイズを整合するためのスポットサイズ変換導波路を設けることが望ましい。より具体的には、図2に示す直線状の光導波路(コア31)の入射端34にスポットサイズ変換導波路を設け、光源10(図1参照)などから供給される光を微小物質検出センサ1内に導くことになる。
【0118】
このようにスポットサイズ変換導波路を設けることで、一般的な光デバイスを用いることができるため、汎用性を高めることができる。そのため、本実施の形態に従う微小物質検出センサを用いた微小物質検出装置を容易に実現できる。
【0119】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0120】
1 微小物質検出センサ、2 基板、3 光リング共振器、4 クラッド、10 光源、20 検出部、31,32 コア、33 方向性結合部、34 入射端、35 出射端、53,104 被検出物質、102 吸着物質、SMP サンプル、SYS 微小物質検出装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、
前記光リング共振器と近接して配置された第2の導波路とを備え、
前記第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含み、
前記光リング共振器は、前記コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されており、
前記コアの断面形状は、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される、微小物質検出センサ。
【請求項2】
前記光リング共振器は、前記第1の導波路がシングルモード条件を満足するように構成される、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項3】
前記コアの断面形状は、シングルモード条件を満足するとともに、前記第1の長さと前記第2の長さとのアスペクト比が所定条件を満足するように構成される、請求項2に記載の微小物質検出センサ。
【請求項4】
前記光リング共振器は、前記コアを伝搬する光波の電界振動方向が、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と一致するように構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微小物質検出センサ。
【請求項5】
前記光リング共振器は、前記被検出物質が前記第1の導波路のリング形状に対応する一方の環状面の全部または一部に接触するように構成される、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項6】
前記光リング共振器は、前記被検出物質が前記第1の導波路のリング形状に対応する内径面または外形面の全部または一部に接触するように構成される、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項7】
前記第2の導波路は、伝搬する光波のスポットサイズを整合するためのスポットサイズ変換導波路を含む、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項8】
リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、
前記光リング共振器と近接して配置された第2の導波路と、
前記第1の導波路の一方端に接続され、光を発生する光源と、
前記第1の導波路の他方端に接続され、前記光源からの光を検出する検出部とを備え、
前記第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含み、
前記光リング共振器は、前記コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されており、
前記コアの断面形状は、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される、微小物質検出装置。
【請求項1】
リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、
前記光リング共振器と近接して配置された第2の導波路とを備え、
前記第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含み、
前記光リング共振器は、前記コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されており、
前記コアの断面形状は、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される、微小物質検出センサ。
【請求項2】
前記光リング共振器は、前記第1の導波路がシングルモード条件を満足するように構成される、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項3】
前記コアの断面形状は、シングルモード条件を満足するとともに、前記第1の長さと前記第2の長さとのアスペクト比が所定条件を満足するように構成される、請求項2に記載の微小物質検出センサ。
【請求項4】
前記光リング共振器は、前記コアを伝搬する光波の電界振動方向が、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と一致するように構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微小物質検出センサ。
【請求項5】
前記光リング共振器は、前記被検出物質が前記第1の導波路のリング形状に対応する一方の環状面の全部または一部に接触するように構成される、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項6】
前記光リング共振器は、前記被検出物質が前記第1の導波路のリング形状に対応する内径面または外形面の全部または一部に接触するように構成される、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項7】
前記第2の導波路は、伝搬する光波のスポットサイズを整合するためのスポットサイズ変換導波路を含む、請求項1に記載の微小物質検出センサ。
【請求項8】
リング状の第1の導波路からなる光リング共振器と、
前記光リング共振器と近接して配置された第2の導波路と、
前記第1の導波路の一方端に接続され、光を発生する光源と、
前記第1の導波路の他方端に接続され、前記光源からの光を検出する検出部とを備え、
前記第1の導波路は、方形状の断面形状を有するコアを含み、
前記光リング共振器は、前記コアの断面における特定の辺に対応する表面部分で被検出物質と接触するように構成されており、
前記コアの断面形状は、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と平行な方向の第1の長さが、前記コアから前記被検出物質へ向かう方向と垂直な方向の第2の長さと比較して、より短くなるように構成される、微小物質検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−83168(P2012−83168A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228617(P2010−228617)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]