微生物担体及び排水処理装置
【課題】低濃度有機性排水の微生物処理にも適用でき、既設の好気性処理槽の改造に好適であり、余剰汚泥の発生が少なく、悪臭の発生を抑えたコンパクトな構造の排水処理装置の提供にある。
【解決手段】略方形形状の排水処理装置であって、上部に好気性細菌を担体に保持した好気性濾床室と、下部に嫌気性細菌を担体に保持した嫌気性固定床室とを備え、嫌気性固定床室で処理した処理水を上部の好気性濾床室に上向流させることを特徴とする。
【解決手段】略方形形状の排水処理装置であって、上部に好気性細菌を担体に保持した好気性濾床室と、下部に嫌気性細菌を担体に保持した嫌気性固定床室とを備え、嫌気性固定床室で処理した処理水を上部の好気性濾床室に上向流させることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水を浄化するための排水処理装置に関し、特に、排水処理に用いる微生物担体の構造、及びその微生物担体を用いた排水処理装置と排水処理方法に係る。
【背景技術】
【0002】
従来、高濃度有機性排水の処理に利用されてきた嫌気性微生物を用いた排水処理は、曝気を必要としないため省エネルギー的で、管理が容易で、好気性の微生物を用いた排水処理に比較して汚泥発生量が少ないなどの特長を有する。
しかし、嫌気性プロセスは生物膜が蓄積するのに長いスタートアップ期間が必要であり、低濃度の有機性排水には不向きであり悪臭が発生しやすい問題もある。
これらの対策として、嫌気性プロセスのみでは有機物処理が満足できない場合、嫌気性プロセスの後に好気性プロセスの活性汚泥法、散水濾床法などを組み合わせることにより、必要な処理水質を得ることがなされている。(特開2004−148242、特開2005−199182)
しかしながら、これらは嫌気性プロセスと好気性プロセスを別の処理槽で行うため、装置の複雑化、大型化は避けられない。
次に、硫酸塩を含む低温・低濃度有機性排水に対しては、上向流嫌気性汚泥床(以下UASB)内で硫酸塩還元細菌による硫酸還元で硫化物を生成し、この硫化物を後段の好気性濾床内の硫黄酸化細菌で酸化して硫酸塩に戻す提案がなされている。(特開2004−148242)
一般に、硫黄の酸化還元サイクルを利用して安定した浄化処理を行うためには、硫酸還元細菌と硫黄酸化細菌が処理槽内に高濃度に安定して保持される必要がある。
しかし、低濃度有機性排水を対象としたUASBによる嫌気性プロセスでは、負荷変動や有機性排水の水質変動が大きい工場排水に対して、汚泥濾床(スラッジベッド)の形成までに長期間を要し、なおかつ形成した汚泥濾床の流出の危険性がある。
また、嫌気性濾床に用いる充填濾材として石材、活性炭、プラスチック等が使用されているが、高密度に微生物を固定化すると濾床閉塞の問題がある。
さらに、好気性濾床内では、生成膜表面の好気域と内部の嫌気域においても硫黄の酸化還元サイクルが存在することから、好気性濾床に存在する硫黄酸化細菌は処理水中で溶存する硫化物以外に生物膜内部から放出される酸化物の負荷を受けるので、過負荷状態となりやすく、急速に生物膜の増殖が進み、短期間に濾床閉塞が発生するという問題がある。
加えて、硫化物対策としては、硫化水素によるメタン発酵阻害が起きないように薬剤を添加するもの(特開平10−249383)、嫌気性処理槽に空気や酸素を供給して硫酸還元細菌の活性を下げる方式(特開2003−136089)、CODCr/SO42−をコントロールして硫化水素の発生を抑制する方式(特開2005−296891)が提案されているが、これらは薬品や制御装置を用いるため、システムが複雑でありイニシャルコストやランニングコストが嵩む。
現在、稼働中の排水処理装置の殆どは膨大な曝気エネルギーを消費し、除去する有機物の40〜60%もの余剰汚泥という産業廃棄物を出す好気性プロセスの排水処理装置である。
そして、これらを省エネルギー型で廃棄物発生量の少ない設備へ、既存設備を最大限に利用しつつ、スムーズに移行することが社会的な要請となっている。
【0003】
また、排水処理用の微生物担体材料として、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、炭素等の極細繊維が、微生物膜の付着性能が高く、比面積(容積あたりの表面積)を大きく確保できることから、利用されている。(特開平5−7885、特開平5−237490、特開平9−131593、特開2000−254677)
特に、炭素繊維は生物親和性が高く、微生物膜の活性が長時間持続すること、余剰汚泥の発生がきわめて少ないこと、付着した微生物膜の剥離が起きにくい等の特長をもつ。
一般に、固定床方式の生物膜処理法では、負荷量を大きくすると担体表面の微生物膜が増殖し、溶存酸素の消費量が多くなるので、酸素の溶解効率が同じであれば、送気量を増やして曝気強度を高める必要がある。
このとき、処理槽内の攪拌流速は早くなり、微生物膜表面の剪弾力は増大するため微生物膜の損失速度も大きくなる。
同時に、微生物担体に作用する剪弾力も大きくなるので、高負荷条件で極細繊維からなる微生物担体を曝気して使用すると生物膜の流出や繊維フィラメントの損耗が起こるという問題がある。
また、前記の問題に対して、微細気泡により酸素の溶解効率を高めて、処理槽内の攪拌流速を抑えつつ微生物膜を保持するように曝気すると、微生物膜表面の剪弾力が小さくなり、微生物膜の増殖が進みすぎるという問題が発生する。
このように、生物膜処理法では、微生物膜の増殖により水流の短絡や濾床閉塞が発生するので、定期的に曝気強度を高めて空気水流による濾床の逆洗工程が必要となる。
しかし、従来の微生物担体では、逆洗時に繊維フィラメントに大きな引張力や剪弾力が働き、損耗し易くなるという問題がある。
そして、当然のことながら、逆洗が必要な状態にまで微生物膜が厚くなると、微生物膜表面の物質移動速度が制限され、好気プロセスの反応速度が低下するので、高い除去速度は期待できなくなり、高負荷処理は困難になる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−148242公報
【特許文献2】特開2005−199182公報
【特許文献3】特開平10−249383公報
【特許文献4】特開2003−136089公報
【特許文献5】特開2005−296891公報
【特許文献6】特開平5−7885公報
【特許文献7】特開平5−237490公報
【特許文献8】特開平9−131593公報
【特許文献9】特開2000−254677公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の目的は、低濃度有機性排水の微生物処理にも適用でき、既設の好気性処理槽の改造に好適であり、余剰汚泥の発生が少なく、悪臭の発生を抑えたコンパクトな構造の排水処理装置の提供にある。
第2の目的は、濾床閉塞が起こりにくく、なおかつ逆洗時にも繊維フィラメントの損耗が少ない微生物担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の排水処理装置ユニットは、略方形形状の排水処理装置であって、上部に好気性細菌を担体に保持した好気性濾床室と、下部に嫌気性細菌を担体に保持した嫌気性固定床室とを備え、嫌気性固定床室で処理した処理水を上部の好気性濾床室に上向流させることを特徴とする。
本発明は、嫌気性処理プロセスからの硫化物や悪臭の発生を防止するため、また硫黄酸化還元サイクルを活用するにあたり、上向流方式の生物処理槽の下部には硫酸塩還元細菌を高濃度に保持して汚泥の流出が少ない嫌気性固定床を採用し、上部は硫黄酸化細菌を高濃度に保持しつつも閉塞しにくい好気性濾床を配置したものである。
請求項2記載の既設排水処理装置の改造方法は、請求項1記載の排水処理装置ユニットを複数用いて、既設の略方形形状からなる好気性処理槽内に所定の期間を設けながら順次配置することを特徴とする。
これにより本発明に係るこの嫌気好気一体型の生物処理装置を組み込んだ排水処理装置ユニットを既設の好気性処理槽内に順次設備することで、既存の排水処理装置内において嫌気性処理のスタートアップ時間を十分に確保しながら、容易に好気性処理プロセスに嫌気性処理プロセスを導入することを可能とした。
【0007】
請求項3に記載の嫌気性固定床用微生物担体は、請求項1記載の排水処理装置ユニットの嫌気性固定床室に用いる微生物担体であって、微生物担体は複数の支持担体からなり、支持担体は支持部材と支持部材に上下方向に複数段配置した繊維束とを有し、繊維束は複数の繊維フィラメントからなり、一端または途中を支持部材に束ねて固定し、他端又は端部が繊維フィラメントの自由端となっており、複数の支持担体を並設し、隣接する支持担体の繊維フィラメントの自由端が相互に一部重なり合うように配置したものであることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の好気性濾床用微生物担体は、請求項1記載の排水処理装置ユニットの好気性濾床室に用いる微生物担体であって、側壁に複数の通水孔を有する筒体と、繊維束とを有し、繊維束は筒体の両端部で固定しながら、筒体の側壁に沿って、且つ所定の間隔を隔てて配置してあることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の排水処理方法は、請求項3記載の嫌気性固定床用微生物担体を嫌気性固定床室に配置し、請求項4記載の好気性濾床用微生物担体を繊維束が上下になるように好気性濾床室に配置し、好気性濾床用微生物担体の側部に向けて溶存酸素を含ませた処理水の流れを形成し、好気性濾床用微生物担体の下部から散気したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る排水処理装置ユニットは略方形形状になっているので既設の活性汚泥処理装置等の好気性排水処理槽に設置改造がしやすく、しかも、嫌気好気一体型の排水処理装置ユニットになっているので嫌気処理プロセスのスタートアップ時間を確保しつつ、改造できる。
これにより既設排水処理装置の曝気エネルギーの節約と余剰汚泥の低減ができる。
【0011】
本発明に係る嫌気性固定床用微生物担体においては、支持部材に固定した繊維束の端部は繊維フィラメント自由端になっていて、隣接する支持担体の繊維フィラメントが一部重なるように配置してあるため、嫌気性処理槽内の上昇流で、繊維フィラメント同士が絡み合いフィルター層を形成する。
このフィルター層は、成長が遅い硫酸塩還元細菌やメタン発酵細菌を高濃度に保持し、生物膜の形成により有機物を浄化する生物学的濾過層になると同時に、フィルター層内で浮遊性の物質を吸着濾過する物理的な濾過効果も発揮するので、流出しやすい嫌気性汚泥を捕捉してくれる。
【0012】
本発明に係る好気性濾床用微生物担体においては、繊維束を筒体の両端部で固定しながら、筒体の側壁に沿って、所定の間隔を隔てて配置したため、この微生物担体を散気装置上に並べ、マイクロバブルにより溶存酸素濃度を高めた処理水と水平方向に接触させ、同時に鉛直方向に弱い散気を行うことで、微細繊維束に適度な剪弾力を与えつつ、且つ筒状の微生物担体には振動を与える。
微生物担体表面の生物膜は適度に損耗するため、好気性微生物を高濃度に保持しつつも閉塞しにくく、活性が高い状態を保つことができる。
生物膜が増殖しすぎて閉塞が発生した場合には、処理水の放流を止め、好気性濾床室の水位を上昇させ、鉛直方向に曝気を強くして逆洗を行う場合にも繊維束を筒体の両端部で固定してあるので繊維フィラメントの損耗を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に本発明に係る排水処理ユニット10の構造例を模式的に示す。
排水処理装置ユニット10は平面視略方形形状の箱型になっていて、下部に嫌気性固定床室11を設け、その上部に好気性濾床室12を設けてある。
まず、処理水の全体フローについて説明し、嫌気性の微生物担体20及び好気性の微生物担体30の構造については後述する。
有機性排水を貯溜してある原水槽14から被処理水をポンプ等の送水手段14aを用いて送水管14bから排水処理装置ユニット10a底部に投入する。
本発明に係る排水処理装置は上向流式になっていて、嫌気性固定床室11に設置した嫌気性固定床用の微生物担体20には硫酸塩還元細菌の生物膜が形成されていて嫌気性処理プロセスで生物処理される。
嫌気性固定床室11の上部の好気性濾床室12に設置した好気性濾床用の微生物担体30には硫黄酸化細菌の生物膜が形成されている。
嫌気性固定床室11で生物処理された被処理水はポンプ12bで微細気泡(マイクロバブル)発生装置12aに通水し、溶存酸素濃度を高くする。
溶存酸素濃度が高くなった被処理水は好気性の微生物担体30と略水平方向に接触するように流水を形成し、微生物担体の下からは散気管Bを用いて弱い散気をしてある。
装置上部からは処理水15として次の排水処理装置ユニットに移送又は放流される。
なお、増加しすぎた生物膜を剥がすには散気管Bからの散気量を強くし、発生した浮上分離スカムは原水槽に戻すことができる。
また、嫌気性固定床室11においても定期的に逆洗することで発生する汚泥13を取り出し、逆洗排水は原水槽14に戻すことができる。
【0014】
本発明に係る排水処理装置ユニット10は単独の排水処理装置として活用することもできるが、箱型の処理槽にしたことにより、図13及び図14に示すように、活性汚泥処理施設等の既設の曝気槽100に嫌気性処理プロセスのスタートアップ時間を十分に確保しながら順次拡張することで既存の好気性排水処理装置に嫌気、好気処理プロセスを導入することができる。
図13(a)は既設の活性汚泥処理装置を模式的に示したもので原水槽14に受水した原水は曝気槽100に投入され、この曝気槽100は比較的強い曝気(B)をしながら好気性微生物による生物処理がされている。
この種の活性汚泥処理装置では微生物による多量の余剰汚泥が発生している。
この余剰汚泥は固液分離槽101にて分離処理され、上部から処理水115として放流される。
従って、固液分離槽101の底部から定期的に余剰汚泥を引抜部113から引抜いてやる必要がある。
この稼働中の既設の曝気槽100に、図13(a)に示すように、第1段階として図1に示した排水処理装置ユニット10aを1基設置する。
この状態で、曝気槽を稼働させながら、排水処理装置ユニット10a嫌気性固定床室に充分な微生物膜が形成されるまで待つ。
排水処理装置ユニット10aに必要な量の微生物膜が形成されると、図14(c)、(d)に示すように第2段階10b、第3段階10c、・・・・として順次拡張することができる。
なお、拡張するユニット数に制限はなくユニット化したことにより既設の曝気槽の大きさに合わせて設置するユニット数を決定すればよく、容易に既存の好気性排水処理装置に嫌気、好気プロセスを導入でき、余剰汚泥の低減と曝気エネルギーの省エネ化が可能になる。
既存の活性汚泥処理施設を本発明に係る排水処理装置ユニット10に置換した場合のBOD比較例を図15に示す。
これにより本発明に係る嫌気、好気一体型の処理装置の浄化能力は活性汚泥法とほぼ同水準であることが明らかになった。
次に微生物担体について説明する。
図2に嫌気性固定床用微生物担体20を模式的に示す。
図2(a)は側面図で図2(b)は平面図を示す。
1つの支持担体は支持部材21に複数の繊維束22を上下に固定(22a)してあり、繊維束22の一端22bが切りっ放しになっていて、水中で繊維フィラメント一本一本が自由にばらけた状態で浮遊できる支持担体を、隣接する支持担体の繊維フィラメントが重なるように配置する。
なお、繊維フィラメントは直径1〜10μm好ましくは3〜7μmの高弾性微細繊維がよく、その重ね合わせラップ長dは水中での支持担体径Dもしくは幅の10〜25%、且つ50mm以下が望ましく、ラップ長が大きいと材料費が嵩むこと、フィラメント同士の絡み合いが強くなり過ぎ、逆に少ないと絡みが弱くフィルター層が形成されにくくなる。
そして、微生物担体20は万一濾床閉塞が発生した場合、嫌気処理槽内の処理水を排水すると、長繊維からなる微生物担体に付着した生物膜は、自重が浸漬時に比べ極めて大きくなるため、繊維フィラメントの絡み合いでできたフィルター層は解消され、付着汚泥を容易に剥離することができる。
【0015】
好気性濾床室12の微生物担体30は、筒状網目骨格材31の表面にひも状の微細繊維束32を部分拡大図13(c)に示すように間隔d1=2mm〜30mm、望ましくは3mm〜8mmに配置し、筒状網目骨格体の両端で固定(33)して縦方向に配置した円筒形構造になっている。
繊維束の固定間隔は20〜35cmであり、もし円筒構造が長い場合には中間でも固定するとよい。
なお、筒状網目骨格材32は筒体の側部に通水孔を有していればよく、網目状に限定されない。
この微生物担体30をマイクロバブルにより溶存酸素濃度を高めた処理水と水平方向に接触させ、同時に鉛直方向に弱い散気を行うことで、微細繊維束に適度な剪弾力を与えつつ、なおかつ筒状の微生物担体には振動を与える。
ひも状の微細繊維束は両端が固定されており、繊維フィラメントの移動や変形を適度に制限している。
このため、1本の微細繊維束には微生物膜が大量に付着することはないが、微細繊維束の間隔を調整することにより、筒状の微生物担体全体として適度な微生物膜を保持することができる。
この微生物担体は、微細繊維束に対し直角方向からの流れが小さくても溶存酸素を多く含み、繊維フィラメントに微生物膜を成長させる。
一方、微細繊維束方向には弱い散気による上昇下降流が発生するため、繊維フィラメントには剪弾力が作用し適度な微生物膜の損失が起こる。
また、下からの弱い散気により微生物担体は小さな振動を続けるので、両端を固定された微細繊維束も僅かに振動する。
この振動で生物膜が擦れ合うので生物膜の活性が高まり、なおかつ微生物担体の内と外の間には絶えず処理水の水平移動が発生するので、微細繊維束間においても処理水と生物膜の接触が行われる。
さらに、高負荷条件におかれた場合には、下からの散気量を増やして微細繊維方向の剪弾力を適度に増加させることで生物膜は比較的容易に剥がすことができるので、繊維フィラメントの損耗を抑えながら濾床全体を速やかに逆洗することができる。
【0016】
次に図4に示した実験装置を用いて処理水の調査した結果を説明する。
縦800mm、横1300mm容積2m3の箱型反応槽10dを縦に半分に仕切り、下部には嫌気性の微生物担体20を配置し嫌気条件にした。
上部には好気性の微生物担体30を配置し、マイクロバブルによる微細気泡の供給と槽横方向の水流を形成し、ろ過機能をもたせる構造とした。
以下嫌気性固定床室を嫌気槽、好気性濾床室を好気槽と称する。
装置の滞留時間は40時間に設定した。
図5の表に排水処理実験に用いた原水としての染色排水の組成を示す。
染色排水は非常に組成変動の大きい排水であり、pH調整のために硫酸塩を300〜500mg/L含む排水であった。
原則として毎週水曜日午前に原水,嫌気槽,好気槽,処理水を採水し、現地でpHおよび透視度を測定した後、実験室に持ち帰り、SS,COD,BODおよびTOC,0.2μmろ液のDOC,有機酸濃度,硫酸塩,亜硝酸塩,硝酸塩濃度を測定した。
また、着色の指標として0.45μmろ液の390nmの吸光度を測定した。
好気槽表面に汚泥の浮上が認められたため、定期的に引き抜いて嫌気槽に投入した。
運転開始から257日目に実験装置内の各槽生物膜を取り出し、硫酸塩還元速度と硫黄酸化速度を回分実験により求めた。
図6にSS,BOD,透視度,図7にDOC,TOC,CODの経日変化を示す。
運転開始50日目からSS 20mg/l以下、BOD 30mg/l以下と処理水質が良好となったが、難分解性物質のDOCが90mg/l程度残存した。その後、好気槽の生物膜の増殖量が増大し、SSの流出に起因するBODの増大が認められたことから211日後に好気槽の生物膜を25L引き抜き嫌気槽に投入したところ、処理水質の改善が認められた。
透視度では、始めの方を除き、原水よりも処理水の方が高い値を示していた。
TOCでは、SSの影響を受けSSの分高い値となっていた。
CODでは、難分解性物質が多く含まれているために、処理水は100mg/l前後となっていた。
図8に処理槽内の水質変化を示す。
嫌気槽で硫酸塩が減少し、好気槽で増加していることから、処理槽内では硫黄の酸化還元サイクルが形成されていたと考えられる。
運転期間257日間で発生した余剰汚泥はすべて嫌気槽に投入したが、処理水質が悪化することなく運転を維持することが可能であった。これは、嫌気槽の硫酸塩還元により汚泥の可溶化が進んだためと考えられる。
図9にHRT(水理学的滞留時間)と処理水SSの関係を示す。滞留時間が長くなれば、処理水SS濃度が低くなっており、処理槽滞留時間が38時間以上であれば、処理水SSは20mg/l以下になることがわかる。
また、図10のHRTとBOD除去率の関係では、処理槽滞留時間が38時間以上であればBOD除去率は80%以上を維持維持することが可能であった。
図11に水温とDOC除去率の関係を示す。DOC除去率は水温に依存していた。
図12の表に各槽の硫酸塩還元活性と硫黄酸化活性を示す。
中間槽40と好気槽ともに、嫌気槽と同程度以上の硫酸塩還元活性が認められた。
一方、硫黄酸化活性では、特に中間槽での活性が高かったことから、生物膜内に硫黄の酸化還元サイクルが形成されていたと考えられる。
運転期間中の余剰汚泥の引き抜きは3回であり、引き抜き量は合計で0.19kgであった。
また、好気槽で発生した汚泥は嫌気槽に投入していたが、処理水質の悪化は認められなかった。
除去TOC当たりの余剰汚泥発生量は2.9mgSS/gTOCであった。このことから、実験装置は極めて余剰発生量の少ない処理が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る排水処理装置ユニットの例を示す。
【図2】嫌気性固定床用微生物担体の構造例を示す。
【図3】好気性濾床用微生物担体の構造例を示す。
【図4】実験に用いた装置構造を示す。
【図5】原水の水質を示す。
【図6】水質変化を示す。
【図7】水質変化を示す。
【図8】水質変化を示す。
【図9】HRTとSSとの関係を示す。
【図10】HRTとBOD除去率の関係を示す。
【図11】水温とDOC除去率の関係を示す。
【図12】活性評価結果を示す。
【図13】既設処理装置の改造例を示す。
【図14】既設処理装置の改造例を示す。
【図15】BODの変化を示す。
【符号の説明】
【0018】
10 排水処理装置ユニット
11 嫌気性固定床室
12 好気性濾床室
13 汚泥
14d 逆洗排水
15 処理水
16 浮上分離スカム
20 微生物担体(嫌気)
30 微生物担体(好気)
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水を浄化するための排水処理装置に関し、特に、排水処理に用いる微生物担体の構造、及びその微生物担体を用いた排水処理装置と排水処理方法に係る。
【背景技術】
【0002】
従来、高濃度有機性排水の処理に利用されてきた嫌気性微生物を用いた排水処理は、曝気を必要としないため省エネルギー的で、管理が容易で、好気性の微生物を用いた排水処理に比較して汚泥発生量が少ないなどの特長を有する。
しかし、嫌気性プロセスは生物膜が蓄積するのに長いスタートアップ期間が必要であり、低濃度の有機性排水には不向きであり悪臭が発生しやすい問題もある。
これらの対策として、嫌気性プロセスのみでは有機物処理が満足できない場合、嫌気性プロセスの後に好気性プロセスの活性汚泥法、散水濾床法などを組み合わせることにより、必要な処理水質を得ることがなされている。(特開2004−148242、特開2005−199182)
しかしながら、これらは嫌気性プロセスと好気性プロセスを別の処理槽で行うため、装置の複雑化、大型化は避けられない。
次に、硫酸塩を含む低温・低濃度有機性排水に対しては、上向流嫌気性汚泥床(以下UASB)内で硫酸塩還元細菌による硫酸還元で硫化物を生成し、この硫化物を後段の好気性濾床内の硫黄酸化細菌で酸化して硫酸塩に戻す提案がなされている。(特開2004−148242)
一般に、硫黄の酸化還元サイクルを利用して安定した浄化処理を行うためには、硫酸還元細菌と硫黄酸化細菌が処理槽内に高濃度に安定して保持される必要がある。
しかし、低濃度有機性排水を対象としたUASBによる嫌気性プロセスでは、負荷変動や有機性排水の水質変動が大きい工場排水に対して、汚泥濾床(スラッジベッド)の形成までに長期間を要し、なおかつ形成した汚泥濾床の流出の危険性がある。
また、嫌気性濾床に用いる充填濾材として石材、活性炭、プラスチック等が使用されているが、高密度に微生物を固定化すると濾床閉塞の問題がある。
さらに、好気性濾床内では、生成膜表面の好気域と内部の嫌気域においても硫黄の酸化還元サイクルが存在することから、好気性濾床に存在する硫黄酸化細菌は処理水中で溶存する硫化物以外に生物膜内部から放出される酸化物の負荷を受けるので、過負荷状態となりやすく、急速に生物膜の増殖が進み、短期間に濾床閉塞が発生するという問題がある。
加えて、硫化物対策としては、硫化水素によるメタン発酵阻害が起きないように薬剤を添加するもの(特開平10−249383)、嫌気性処理槽に空気や酸素を供給して硫酸還元細菌の活性を下げる方式(特開2003−136089)、CODCr/SO42−をコントロールして硫化水素の発生を抑制する方式(特開2005−296891)が提案されているが、これらは薬品や制御装置を用いるため、システムが複雑でありイニシャルコストやランニングコストが嵩む。
現在、稼働中の排水処理装置の殆どは膨大な曝気エネルギーを消費し、除去する有機物の40〜60%もの余剰汚泥という産業廃棄物を出す好気性プロセスの排水処理装置である。
そして、これらを省エネルギー型で廃棄物発生量の少ない設備へ、既存設備を最大限に利用しつつ、スムーズに移行することが社会的な要請となっている。
【0003】
また、排水処理用の微生物担体材料として、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、炭素等の極細繊維が、微生物膜の付着性能が高く、比面積(容積あたりの表面積)を大きく確保できることから、利用されている。(特開平5−7885、特開平5−237490、特開平9−131593、特開2000−254677)
特に、炭素繊維は生物親和性が高く、微生物膜の活性が長時間持続すること、余剰汚泥の発生がきわめて少ないこと、付着した微生物膜の剥離が起きにくい等の特長をもつ。
一般に、固定床方式の生物膜処理法では、負荷量を大きくすると担体表面の微生物膜が増殖し、溶存酸素の消費量が多くなるので、酸素の溶解効率が同じであれば、送気量を増やして曝気強度を高める必要がある。
このとき、処理槽内の攪拌流速は早くなり、微生物膜表面の剪弾力は増大するため微生物膜の損失速度も大きくなる。
同時に、微生物担体に作用する剪弾力も大きくなるので、高負荷条件で極細繊維からなる微生物担体を曝気して使用すると生物膜の流出や繊維フィラメントの損耗が起こるという問題がある。
また、前記の問題に対して、微細気泡により酸素の溶解効率を高めて、処理槽内の攪拌流速を抑えつつ微生物膜を保持するように曝気すると、微生物膜表面の剪弾力が小さくなり、微生物膜の増殖が進みすぎるという問題が発生する。
このように、生物膜処理法では、微生物膜の増殖により水流の短絡や濾床閉塞が発生するので、定期的に曝気強度を高めて空気水流による濾床の逆洗工程が必要となる。
しかし、従来の微生物担体では、逆洗時に繊維フィラメントに大きな引張力や剪弾力が働き、損耗し易くなるという問題がある。
そして、当然のことながら、逆洗が必要な状態にまで微生物膜が厚くなると、微生物膜表面の物質移動速度が制限され、好気プロセスの反応速度が低下するので、高い除去速度は期待できなくなり、高負荷処理は困難になる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−148242公報
【特許文献2】特開2005−199182公報
【特許文献3】特開平10−249383公報
【特許文献4】特開2003−136089公報
【特許文献5】特開2005−296891公報
【特許文献6】特開平5−7885公報
【特許文献7】特開平5−237490公報
【特許文献8】特開平9−131593公報
【特許文献9】特開2000−254677公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の目的は、低濃度有機性排水の微生物処理にも適用でき、既設の好気性処理槽の改造に好適であり、余剰汚泥の発生が少なく、悪臭の発生を抑えたコンパクトな構造の排水処理装置の提供にある。
第2の目的は、濾床閉塞が起こりにくく、なおかつ逆洗時にも繊維フィラメントの損耗が少ない微生物担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の排水処理装置ユニットは、略方形形状の排水処理装置であって、上部に好気性細菌を担体に保持した好気性濾床室と、下部に嫌気性細菌を担体に保持した嫌気性固定床室とを備え、嫌気性固定床室で処理した処理水を上部の好気性濾床室に上向流させることを特徴とする。
本発明は、嫌気性処理プロセスからの硫化物や悪臭の発生を防止するため、また硫黄酸化還元サイクルを活用するにあたり、上向流方式の生物処理槽の下部には硫酸塩還元細菌を高濃度に保持して汚泥の流出が少ない嫌気性固定床を採用し、上部は硫黄酸化細菌を高濃度に保持しつつも閉塞しにくい好気性濾床を配置したものである。
請求項2記載の既設排水処理装置の改造方法は、請求項1記載の排水処理装置ユニットを複数用いて、既設の略方形形状からなる好気性処理槽内に所定の期間を設けながら順次配置することを特徴とする。
これにより本発明に係るこの嫌気好気一体型の生物処理装置を組み込んだ排水処理装置ユニットを既設の好気性処理槽内に順次設備することで、既存の排水処理装置内において嫌気性処理のスタートアップ時間を十分に確保しながら、容易に好気性処理プロセスに嫌気性処理プロセスを導入することを可能とした。
【0007】
請求項3に記載の嫌気性固定床用微生物担体は、請求項1記載の排水処理装置ユニットの嫌気性固定床室に用いる微生物担体であって、微生物担体は複数の支持担体からなり、支持担体は支持部材と支持部材に上下方向に複数段配置した繊維束とを有し、繊維束は複数の繊維フィラメントからなり、一端または途中を支持部材に束ねて固定し、他端又は端部が繊維フィラメントの自由端となっており、複数の支持担体を並設し、隣接する支持担体の繊維フィラメントの自由端が相互に一部重なり合うように配置したものであることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の好気性濾床用微生物担体は、請求項1記載の排水処理装置ユニットの好気性濾床室に用いる微生物担体であって、側壁に複数の通水孔を有する筒体と、繊維束とを有し、繊維束は筒体の両端部で固定しながら、筒体の側壁に沿って、且つ所定の間隔を隔てて配置してあることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の排水処理方法は、請求項3記載の嫌気性固定床用微生物担体を嫌気性固定床室に配置し、請求項4記載の好気性濾床用微生物担体を繊維束が上下になるように好気性濾床室に配置し、好気性濾床用微生物担体の側部に向けて溶存酸素を含ませた処理水の流れを形成し、好気性濾床用微生物担体の下部から散気したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る排水処理装置ユニットは略方形形状になっているので既設の活性汚泥処理装置等の好気性排水処理槽に設置改造がしやすく、しかも、嫌気好気一体型の排水処理装置ユニットになっているので嫌気処理プロセスのスタートアップ時間を確保しつつ、改造できる。
これにより既設排水処理装置の曝気エネルギーの節約と余剰汚泥の低減ができる。
【0011】
本発明に係る嫌気性固定床用微生物担体においては、支持部材に固定した繊維束の端部は繊維フィラメント自由端になっていて、隣接する支持担体の繊維フィラメントが一部重なるように配置してあるため、嫌気性処理槽内の上昇流で、繊維フィラメント同士が絡み合いフィルター層を形成する。
このフィルター層は、成長が遅い硫酸塩還元細菌やメタン発酵細菌を高濃度に保持し、生物膜の形成により有機物を浄化する生物学的濾過層になると同時に、フィルター層内で浮遊性の物質を吸着濾過する物理的な濾過効果も発揮するので、流出しやすい嫌気性汚泥を捕捉してくれる。
【0012】
本発明に係る好気性濾床用微生物担体においては、繊維束を筒体の両端部で固定しながら、筒体の側壁に沿って、所定の間隔を隔てて配置したため、この微生物担体を散気装置上に並べ、マイクロバブルにより溶存酸素濃度を高めた処理水と水平方向に接触させ、同時に鉛直方向に弱い散気を行うことで、微細繊維束に適度な剪弾力を与えつつ、且つ筒状の微生物担体には振動を与える。
微生物担体表面の生物膜は適度に損耗するため、好気性微生物を高濃度に保持しつつも閉塞しにくく、活性が高い状態を保つことができる。
生物膜が増殖しすぎて閉塞が発生した場合には、処理水の放流を止め、好気性濾床室の水位を上昇させ、鉛直方向に曝気を強くして逆洗を行う場合にも繊維束を筒体の両端部で固定してあるので繊維フィラメントの損耗を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に本発明に係る排水処理ユニット10の構造例を模式的に示す。
排水処理装置ユニット10は平面視略方形形状の箱型になっていて、下部に嫌気性固定床室11を設け、その上部に好気性濾床室12を設けてある。
まず、処理水の全体フローについて説明し、嫌気性の微生物担体20及び好気性の微生物担体30の構造については後述する。
有機性排水を貯溜してある原水槽14から被処理水をポンプ等の送水手段14aを用いて送水管14bから排水処理装置ユニット10a底部に投入する。
本発明に係る排水処理装置は上向流式になっていて、嫌気性固定床室11に設置した嫌気性固定床用の微生物担体20には硫酸塩還元細菌の生物膜が形成されていて嫌気性処理プロセスで生物処理される。
嫌気性固定床室11の上部の好気性濾床室12に設置した好気性濾床用の微生物担体30には硫黄酸化細菌の生物膜が形成されている。
嫌気性固定床室11で生物処理された被処理水はポンプ12bで微細気泡(マイクロバブル)発生装置12aに通水し、溶存酸素濃度を高くする。
溶存酸素濃度が高くなった被処理水は好気性の微生物担体30と略水平方向に接触するように流水を形成し、微生物担体の下からは散気管Bを用いて弱い散気をしてある。
装置上部からは処理水15として次の排水処理装置ユニットに移送又は放流される。
なお、増加しすぎた生物膜を剥がすには散気管Bからの散気量を強くし、発生した浮上分離スカムは原水槽に戻すことができる。
また、嫌気性固定床室11においても定期的に逆洗することで発生する汚泥13を取り出し、逆洗排水は原水槽14に戻すことができる。
【0014】
本発明に係る排水処理装置ユニット10は単独の排水処理装置として活用することもできるが、箱型の処理槽にしたことにより、図13及び図14に示すように、活性汚泥処理施設等の既設の曝気槽100に嫌気性処理プロセスのスタートアップ時間を十分に確保しながら順次拡張することで既存の好気性排水処理装置に嫌気、好気処理プロセスを導入することができる。
図13(a)は既設の活性汚泥処理装置を模式的に示したもので原水槽14に受水した原水は曝気槽100に投入され、この曝気槽100は比較的強い曝気(B)をしながら好気性微生物による生物処理がされている。
この種の活性汚泥処理装置では微生物による多量の余剰汚泥が発生している。
この余剰汚泥は固液分離槽101にて分離処理され、上部から処理水115として放流される。
従って、固液分離槽101の底部から定期的に余剰汚泥を引抜部113から引抜いてやる必要がある。
この稼働中の既設の曝気槽100に、図13(a)に示すように、第1段階として図1に示した排水処理装置ユニット10aを1基設置する。
この状態で、曝気槽を稼働させながら、排水処理装置ユニット10a嫌気性固定床室に充分な微生物膜が形成されるまで待つ。
排水処理装置ユニット10aに必要な量の微生物膜が形成されると、図14(c)、(d)に示すように第2段階10b、第3段階10c、・・・・として順次拡張することができる。
なお、拡張するユニット数に制限はなくユニット化したことにより既設の曝気槽の大きさに合わせて設置するユニット数を決定すればよく、容易に既存の好気性排水処理装置に嫌気、好気プロセスを導入でき、余剰汚泥の低減と曝気エネルギーの省エネ化が可能になる。
既存の活性汚泥処理施設を本発明に係る排水処理装置ユニット10に置換した場合のBOD比較例を図15に示す。
これにより本発明に係る嫌気、好気一体型の処理装置の浄化能力は活性汚泥法とほぼ同水準であることが明らかになった。
次に微生物担体について説明する。
図2に嫌気性固定床用微生物担体20を模式的に示す。
図2(a)は側面図で図2(b)は平面図を示す。
1つの支持担体は支持部材21に複数の繊維束22を上下に固定(22a)してあり、繊維束22の一端22bが切りっ放しになっていて、水中で繊維フィラメント一本一本が自由にばらけた状態で浮遊できる支持担体を、隣接する支持担体の繊維フィラメントが重なるように配置する。
なお、繊維フィラメントは直径1〜10μm好ましくは3〜7μmの高弾性微細繊維がよく、その重ね合わせラップ長dは水中での支持担体径Dもしくは幅の10〜25%、且つ50mm以下が望ましく、ラップ長が大きいと材料費が嵩むこと、フィラメント同士の絡み合いが強くなり過ぎ、逆に少ないと絡みが弱くフィルター層が形成されにくくなる。
そして、微生物担体20は万一濾床閉塞が発生した場合、嫌気処理槽内の処理水を排水すると、長繊維からなる微生物担体に付着した生物膜は、自重が浸漬時に比べ極めて大きくなるため、繊維フィラメントの絡み合いでできたフィルター層は解消され、付着汚泥を容易に剥離することができる。
【0015】
好気性濾床室12の微生物担体30は、筒状網目骨格材31の表面にひも状の微細繊維束32を部分拡大図13(c)に示すように間隔d1=2mm〜30mm、望ましくは3mm〜8mmに配置し、筒状網目骨格体の両端で固定(33)して縦方向に配置した円筒形構造になっている。
繊維束の固定間隔は20〜35cmであり、もし円筒構造が長い場合には中間でも固定するとよい。
なお、筒状網目骨格材32は筒体の側部に通水孔を有していればよく、網目状に限定されない。
この微生物担体30をマイクロバブルにより溶存酸素濃度を高めた処理水と水平方向に接触させ、同時に鉛直方向に弱い散気を行うことで、微細繊維束に適度な剪弾力を与えつつ、なおかつ筒状の微生物担体には振動を与える。
ひも状の微細繊維束は両端が固定されており、繊維フィラメントの移動や変形を適度に制限している。
このため、1本の微細繊維束には微生物膜が大量に付着することはないが、微細繊維束の間隔を調整することにより、筒状の微生物担体全体として適度な微生物膜を保持することができる。
この微生物担体は、微細繊維束に対し直角方向からの流れが小さくても溶存酸素を多く含み、繊維フィラメントに微生物膜を成長させる。
一方、微細繊維束方向には弱い散気による上昇下降流が発生するため、繊維フィラメントには剪弾力が作用し適度な微生物膜の損失が起こる。
また、下からの弱い散気により微生物担体は小さな振動を続けるので、両端を固定された微細繊維束も僅かに振動する。
この振動で生物膜が擦れ合うので生物膜の活性が高まり、なおかつ微生物担体の内と外の間には絶えず処理水の水平移動が発生するので、微細繊維束間においても処理水と生物膜の接触が行われる。
さらに、高負荷条件におかれた場合には、下からの散気量を増やして微細繊維方向の剪弾力を適度に増加させることで生物膜は比較的容易に剥がすことができるので、繊維フィラメントの損耗を抑えながら濾床全体を速やかに逆洗することができる。
【0016】
次に図4に示した実験装置を用いて処理水の調査した結果を説明する。
縦800mm、横1300mm容積2m3の箱型反応槽10dを縦に半分に仕切り、下部には嫌気性の微生物担体20を配置し嫌気条件にした。
上部には好気性の微生物担体30を配置し、マイクロバブルによる微細気泡の供給と槽横方向の水流を形成し、ろ過機能をもたせる構造とした。
以下嫌気性固定床室を嫌気槽、好気性濾床室を好気槽と称する。
装置の滞留時間は40時間に設定した。
図5の表に排水処理実験に用いた原水としての染色排水の組成を示す。
染色排水は非常に組成変動の大きい排水であり、pH調整のために硫酸塩を300〜500mg/L含む排水であった。
原則として毎週水曜日午前に原水,嫌気槽,好気槽,処理水を採水し、現地でpHおよび透視度を測定した後、実験室に持ち帰り、SS,COD,BODおよびTOC,0.2μmろ液のDOC,有機酸濃度,硫酸塩,亜硝酸塩,硝酸塩濃度を測定した。
また、着色の指標として0.45μmろ液の390nmの吸光度を測定した。
好気槽表面に汚泥の浮上が認められたため、定期的に引き抜いて嫌気槽に投入した。
運転開始から257日目に実験装置内の各槽生物膜を取り出し、硫酸塩還元速度と硫黄酸化速度を回分実験により求めた。
図6にSS,BOD,透視度,図7にDOC,TOC,CODの経日変化を示す。
運転開始50日目からSS 20mg/l以下、BOD 30mg/l以下と処理水質が良好となったが、難分解性物質のDOCが90mg/l程度残存した。その後、好気槽の生物膜の増殖量が増大し、SSの流出に起因するBODの増大が認められたことから211日後に好気槽の生物膜を25L引き抜き嫌気槽に投入したところ、処理水質の改善が認められた。
透視度では、始めの方を除き、原水よりも処理水の方が高い値を示していた。
TOCでは、SSの影響を受けSSの分高い値となっていた。
CODでは、難分解性物質が多く含まれているために、処理水は100mg/l前後となっていた。
図8に処理槽内の水質変化を示す。
嫌気槽で硫酸塩が減少し、好気槽で増加していることから、処理槽内では硫黄の酸化還元サイクルが形成されていたと考えられる。
運転期間257日間で発生した余剰汚泥はすべて嫌気槽に投入したが、処理水質が悪化することなく運転を維持することが可能であった。これは、嫌気槽の硫酸塩還元により汚泥の可溶化が進んだためと考えられる。
図9にHRT(水理学的滞留時間)と処理水SSの関係を示す。滞留時間が長くなれば、処理水SS濃度が低くなっており、処理槽滞留時間が38時間以上であれば、処理水SSは20mg/l以下になることがわかる。
また、図10のHRTとBOD除去率の関係では、処理槽滞留時間が38時間以上であればBOD除去率は80%以上を維持維持することが可能であった。
図11に水温とDOC除去率の関係を示す。DOC除去率は水温に依存していた。
図12の表に各槽の硫酸塩還元活性と硫黄酸化活性を示す。
中間槽40と好気槽ともに、嫌気槽と同程度以上の硫酸塩還元活性が認められた。
一方、硫黄酸化活性では、特に中間槽での活性が高かったことから、生物膜内に硫黄の酸化還元サイクルが形成されていたと考えられる。
運転期間中の余剰汚泥の引き抜きは3回であり、引き抜き量は合計で0.19kgであった。
また、好気槽で発生した汚泥は嫌気槽に投入していたが、処理水質の悪化は認められなかった。
除去TOC当たりの余剰汚泥発生量は2.9mgSS/gTOCであった。このことから、実験装置は極めて余剰発生量の少ない処理が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る排水処理装置ユニットの例を示す。
【図2】嫌気性固定床用微生物担体の構造例を示す。
【図3】好気性濾床用微生物担体の構造例を示す。
【図4】実験に用いた装置構造を示す。
【図5】原水の水質を示す。
【図6】水質変化を示す。
【図7】水質変化を示す。
【図8】水質変化を示す。
【図9】HRTとSSとの関係を示す。
【図10】HRTとBOD除去率の関係を示す。
【図11】水温とDOC除去率の関係を示す。
【図12】活性評価結果を示す。
【図13】既設処理装置の改造例を示す。
【図14】既設処理装置の改造例を示す。
【図15】BODの変化を示す。
【符号の説明】
【0018】
10 排水処理装置ユニット
11 嫌気性固定床室
12 好気性濾床室
13 汚泥
14d 逆洗排水
15 処理水
16 浮上分離スカム
20 微生物担体(嫌気)
30 微生物担体(好気)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略方形形状の排水処理装置であって、
上部に好気性細菌を担体に保持した好気性濾床室と、下部に嫌気性細菌を担体に保持した嫌気性固定床室とを備え、嫌気性固定床室で処理した処理水を上部の好気性濾床室に上向流させることを特徴とする排水処理装置ユニット。
【請求項2】
請求項1記載の排水処理装置ユニットを複数用いて、
既設の略方形形状からなる好気性処理槽内に所定の期間を設けながら順次配置することを特徴とする既設排水処理装置の改造方法。
【請求項3】
請求項1記載の排水処理装置ユニットの嫌気性固定床室に用いる微生物担体であって、
微生物担体は複数の支持担体からなり、支持担体は支持部材と支持部材に上下方向に複数段配置した繊維束とを有し、繊維束は複数の繊維フィラメントからなり、一端または途中を支持部材に束ねて固定し、他端又は端部が繊維フィラメントの自由端となっており、複数の支持担体を並設し、隣接する支持担体の繊維フィラメントの自由端が相互に一部重なり合うように配置したものであることを特徴とする嫌気性固定床用微生物担体。
【請求項4】
請求項1記載の排水処理装置ユニットの好気性濾床室に用いる微生物担体であって、
側壁に複数の通水孔を有する筒体と、繊維束とを有し、
繊維束は筒体の両端部で固定しながら、筒体の側壁に沿って、且つ所定の間隔を隔てて配置してあることを特徴とする好気性濾床用微生物担体。
【請求項5】
請求項3記載の嫌気性固定床用微生物担体を嫌気性固定床室に配置し、請求項4記載の好気性濾床用微生物担体を繊維束が上下になるように好気性濾床室に配置し、好気性濾床用微生物担体の側部に向けて溶存酸素を含ませた処理水の流れを形成し、好気性濾床用微生物担体の下部から散気したことを特徴とする請求項1記載の排水処理装置ユニットを用いた排水処理方法。
【請求項1】
略方形形状の排水処理装置であって、
上部に好気性細菌を担体に保持した好気性濾床室と、下部に嫌気性細菌を担体に保持した嫌気性固定床室とを備え、嫌気性固定床室で処理した処理水を上部の好気性濾床室に上向流させることを特徴とする排水処理装置ユニット。
【請求項2】
請求項1記載の排水処理装置ユニットを複数用いて、
既設の略方形形状からなる好気性処理槽内に所定の期間を設けながら順次配置することを特徴とする既設排水処理装置の改造方法。
【請求項3】
請求項1記載の排水処理装置ユニットの嫌気性固定床室に用いる微生物担体であって、
微生物担体は複数の支持担体からなり、支持担体は支持部材と支持部材に上下方向に複数段配置した繊維束とを有し、繊維束は複数の繊維フィラメントからなり、一端または途中を支持部材に束ねて固定し、他端又は端部が繊維フィラメントの自由端となっており、複数の支持担体を並設し、隣接する支持担体の繊維フィラメントの自由端が相互に一部重なり合うように配置したものであることを特徴とする嫌気性固定床用微生物担体。
【請求項4】
請求項1記載の排水処理装置ユニットの好気性濾床室に用いる微生物担体であって、
側壁に複数の通水孔を有する筒体と、繊維束とを有し、
繊維束は筒体の両端部で固定しながら、筒体の側壁に沿って、且つ所定の間隔を隔てて配置してあることを特徴とする好気性濾床用微生物担体。
【請求項5】
請求項3記載の嫌気性固定床用微生物担体を嫌気性固定床室に配置し、請求項4記載の好気性濾床用微生物担体を繊維束が上下になるように好気性濾床室に配置し、好気性濾床用微生物担体の側部に向けて溶存酸素を含ませた処理水の流れを形成し、好気性濾床用微生物担体の下部から散気したことを特徴とする請求項1記載の排水処理装置ユニットを用いた排水処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−29943(P2008−29943A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205321(P2006−205321)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月15日 社団法人 日本水環境学会発行の「第40回 日本水環境学会年会講演集」に発表
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(503310464)スプリング・フィールド有限会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月15日 社団法人 日本水環境学会発行の「第40回 日本水環境学会年会講演集」に発表
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(503310464)スプリング・フィールド有限会社 (4)
【Fターム(参考)】
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