説明

微生物検出装置

【課題】クリーンルーム内の環境空気中に浮遊する、微生物に由来する有機物と、無機物との混在物を分離し、微生物を短時間で計測する装置の提供。
【解決手段】気体空間中に浮遊する微生物を回収して、微生物の特定をする検出装置として、計測空間の気体を吸引して含有する微粒子濃縮手段10と、濃縮微粒子を付着させる基材41と、基材上の濃縮微粒子への紫外線照射手段21a、22と、濃縮微粒子からの紫外線照射で発する蛍光を蛍光位置検出として捕らえる手段23と、蛍光を発した微粒子にレーザビームを照射し、発生したラマン散乱光を分光する手段36と、分光で得たラマンスペクトルと基準微生物のラマンスペクトル情報を比較して、微生物を特定する手段から微生物検出装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体空間に浮遊する菌を回収して、回収中の菌分類を識別する微生物検出装置に関する。

【背景技術】
【0002】
空中に浮遊する粒子で、その粒子は細菌、ウイルス、バクテリア、原虫、真菌、などの生物や、生物の産物からなる花粉、胞子、酵母、カビなどが上げられるバイオエアロゾルがある。このバイオエアロゾルは、感染性、アレルギー性、毒性の効果を持つため、人間の生活の中での対策が必要である。特に、バイオエアロゾルは、ブドウ球菌や、MRSA(Methicillin Resistant Staphylococcus Aureus;メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などが、院内感染で大きな問題となっている。また、空港・港湾などでは、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome ;重症急性呼吸器症候群)やバイオテロなどの問題が発生が懸念され、公共機関や交通機関などでは、インフルエンザやバイオテロなどの脅威が心配される。
【0003】
一方、製薬分野においては、無菌室にて無菌環境下での医薬品等の製造が求められる。万が一、微生物が製造中の薬品に混入、増殖すると、その薬品を投与された患者の健康が損なわれる恐れがある。そのため、製薬の製造現場においては微生物の混入は致命的な問題となり、微生物の監視の要求が高まりつつある。
【0004】
このような環境に対応するため、従来では、医薬分野のクリールルーム内で、迅速にバイオエアロゾルをモニタリングするために、レーザ光をバイオエアロゾル中の微生物に照射し、その散乱光を検出することで微生物を検出する光学式パーティクルカウンターが用いられていた。
【0005】
また、微生物の特定化を実現するためには、培養法などが用いられている。この培養法は、クリーンルーム内に設置された寒天培地上に落下した微生物を培養槽で培養することで微生物を特定する方法が用いられていた。
【0006】
そして、特許文献1には、空気中の試料を濃縮するバーチャルインパクタと組み合わせた、エアロゾル収集機により試料を収集し、基板の表面に濃縮した試料を、慣性衝突、超音波付着などで付着させ、レーザを照射して、ラマン散乱光子を発生させ、細菌、ウイルス、原生動物などの脅威物質を識別することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−533448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学式パーティクルカウンターの場合は、空間に存在する粒子の個数とサイズに関する情報のみが得られ、有機物・無機物の分離や、有機物が微生物由来のものであるか否かを判断することが出来ない。
【0009】
一方で、培養法による微生物の特定方法は、微生物の特定を行なうことはできるが、微生物の培養に数十時間を要するため迅速性を有さない。
また、特許文献1における脅威物質を検出および識別するシステムにおいては、試料を周囲環境から、バーチャルインパクタと組み合わせたエアロゾル収集機によって資料を収集し、基板の表面に濃縮した試料を付着させる付着手段と、試料にレーザ光を照射して、ラマン散乱光を発生させて、試料物質を識別する方法が開示されているが、収集する環境空気中に混在する微生物に由来する有機物と、無機物とを分離計測する手段がなく、測定が必要な物質を特定することが困難であって、短時間に計測を行なうことが困難であった。
【0010】
さらに、ラマン散乱は、照射した光に対して非常に小さいため、得られるラマン散乱による分光信号は非常に小さなものになる。このため、数μm程度の微生物は、1つの単位で、特定することができない。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、バイオクリーンルーム内などの環境空気中に含まれる浮遊微生物を収集し、菌属レベルでの微生物の特定化を、迅速に行なう、微生物検出計測を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る気体空間中に浮遊する微生物を回収して、微生物の特定をする微生物検出装置は、計測空間の気体を吸引して含有する微粒子を濃縮する微粒子濃縮手段と、微粒子濃縮手段による濃縮微粒子を付着させる基材と、基材上の前記濃縮微粒子に紫外線を照射する紫外線照射手段と、紫外線照射手段により濃縮微粒子から発する蛍光を、蛍光位置の情報で捕らえる蛍光位置検出手段と、蛍光位置検出手段で得た蛍光を発する微粒子にレーザビームを照射するレーザ照射手段と、レーザ照射手段によって、蛍光を発する微粒子からのラマン散乱光を分光する分光手段と、分光手段による分光を検出する分光検出手段と、微生物の種類ごとのラマンスペクトル情報を格納する基準微生物情報格納手段と、分光検出手段で得たラマンスペクトルと基準微生物情報格納手段内のラマンスペクトル情報を比較して、微生物を特定する手段とを有している。
【0013】
この装置では、環境空間の気中の浮遊する微生物を迅速に検査するために、微粒子濃縮手段により、環境空気を吸引して、吸引した微生物を含む微粒子を濃縮する。微粒子濃縮手段としては、フィルター採取やインパクター法がある。インパクター法では、カスケードインパクター法やバーチャルインパクター法を利用することができる。
【0014】
そして、空気中から回収して濃縮した微粒子を、測定のための基材に付着させる。基材への付着方法としては、採取したフィルターごと載置しても良いし、衝突付着や超音波付着など、様々な方法が利用できる。
【0015】
次に、採取した濃縮微粒子には、有機物と無機物が混在しており、微生物(細菌)は有機物であるため、有機物の特定を行なう。有機物は、一般的に紫外線を照射すると蛍光を発するが、無機物は蛍光を発することがない。本発明では、紫外線照射手段として、例えば、紫外線LEDをリング状に配列し、LEDはリングの中心に向かって傾斜して配置して、紫外線発光がリングの中央付近を照らすようなものを用いると良い。そして、有機物からの蛍光を像として捕らえ、どの位置に有機物が存在しているかを把握できるようにするため、蛍光位置検出手段は、基材上の濃縮微粒子の像を、結像光学系により画像取得部の例えばCCDカメラ上に結像するような画像情報検出手段を有すると良い。
【0016】
基材上の有機物の位置が特定できたところで、その有機物の1つ1つ別々に、レーザ照射手段によってレーザビームを照射し、そこから発生するラマン散乱光を計測する。照射するレーザビームは、紫外線から近赤外線域から選ばれるレーザ発振器を利用し、複数の波長を用意しておくこともできる。レーザの種類としては、例えば、Arレーザ、YAGレーザ第二高調波、半導体レーザなど、が利用できる。そして、ラマン散乱光は、回折格子などの分光手段によって分光されたラマンスペクトルは、CCDカメラなどの分光検出手段によって取り込まれ、基準微生物情報格納手段としてパソコンなどに予め格納されている、微生物の種類ごとの指紋情報とも言えるラマンスペクトルと比較を行い、微生物の種類の特定をする。微生物の種類としては、クリーンルーム内で特に監視が必要とされている、枯草菌、大腸菌、Micorococcus luterus やMicorococcus lylaeなどの人の常在菌、ブドウ球菌、Saccharomyces cerevisiae などの一般的な酵母、カビが挙げられる。
【0017】
また、本発明においては、レーザビームを基材上の微粒子に照射する光軸であって、基材に垂直な光軸上に45度に傾けて光学基板を設け、光学基板が蛍光を透過し、レーザビーム及び前記ラマン散乱光を反射するようにしても良い。
【0018】
また、基材は可撓性のシート状からなり、ロール上に巻かれたシート送り出し部とシート巻取り部を有する構成にすると良い。
そして、可撓性のシート状の基材をシート送り出し部とシート巻取り部によって移動させ、基材上の濃縮微粒子に対して、蛍光位置検出手段及びレーザ照射手段の位置に合わせるようにしても良いし、基材上の濃縮微粒子位置に対して、蛍光位置検出手段及びレーザ照射手段を移動して、位置合わせを行なうようにしても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、空気中に含まれている微粒子や微生物のうち、有機物のみを特定し、有機物のみに対象を絞って、ラマン分光測定を行なうことができ、菌属レベルでの微生物として、枯草菌、大腸菌、ヒトの身体に存在する常在菌、ブドウ球菌、真菌、酵母、カビといった約7種類の分類を特定することが可能となる。
【0020】
医薬品や化粧品、食品、飲料の製造・加工・包装・検査工程、医療施設、遺伝子実験施設などで使用するバイオクリーンルームは、空気中の浮遊微生物を制御・管理しており、これら微生物について、消毒・殺菌・滅菌する必要が生じるが、その菌属を把握できることにより、バイオクリーンルーム内などの環境汚染源の特定化が可能とある。例えば、枯草菌、ブドウ球菌等は外部由来からの汚染、カビなどは空調、大腸菌や真菌などは作業者由来の菌として考えることができるため、適切な対策を講じることが可能となる。
【0021】
このような、バイオ環境の把握を、迅速かつ適確に行なうことができるので、製造対象の医薬品や食品などへの微生物の混入を抑制するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る微生物検出と特定を行なう装置構成図
【図2】本発明に係る微生物検出と特定のフロー図
【図3】本発明に係る微生物特定信号のラマンスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る微生物検出と特定を行なう装置構成図である。そして、図2は、本発明に係る微生物検出と特定のフロー図である。
【0024】
図1における本発明に係る微生物検出と特定を行なう微生物特定化検出器においては、微粒子濃縮部10と、有機物・無機物分離部20と、ラマン分光による微生物の特定部30と、シート移動部40とから構成されている。
【0025】
これらの構成において、図1と図2により、その詳細について説明する。
例えば、今回の発明が適用されるバイオクリーンルームの場合、非常にクリーンな環境であることから微粒子の総数が限られ、生物由来の微生物の数も限られることになる。このような環境の中でも、数多くの微生物をサンプリングするため、バイオクリーンルーム内の、微生物を含む微粒子が浮遊する多くの空気を吸引し、微粒子と空気の分離を行なうことで、空気中に含まれる微生物を高い確率で集塵することが可能となる。
【0026】
そこで、図1において、本発明による微粒子濃縮部10では、測定環境中の空気12を、微生物を含む微粒子と空気との分離を行なうバーチャルインパクタ11で構成している。先ず、測定環境中の空気をバーチャルインパクタ11で吸引し、微生物を含む微粒子と空気を分離して、微生物を含む濃縮空気13を取り出す。バーチャルインパクタ11から取り出した微生物を含む濃縮空気13は、バーチャルインパクタ11の取り出し部近傍に設けられた、シート41上に吹き付けて、微生物を含む微粒子をシート41上に固定化する。
【0027】
シート41は、未使用のシート41が巻かれているシート送り出し部42と、シート巻取り部43で構成するシート移動部40によって、シート送り出し部42からシート41を、微粒子濃縮部10と、次に述べる有機物・無機物分離部20に、図示しないシート移動手段によって、順次送られるように移動し、その後、シート巻取り部43に巻取り回収される。
【0028】
このように、微粒子濃縮部10においては、図2のフロー図で示す、Step1の微生物が含まれる空気をバーチャルインパクタ11で濃縮する工程と、Step2のシートに吹き付けた微生物を含む微粒子を固定化する工程とを行なう。
【0029】
次に、バーチャルインパクタ11で濃縮し、シート41に固定化した微生物を含む微粒子中の有機物と無機物の分離について説明する。
図1において、有機物・無機物分離部20は、レンズ21a,21b、紫外線照明22、蛍光検出用CCDカメラ23、光学基板24、有機物位置分析演算部25で構成されている。
【0030】
先ず、シート41上に固定化した微生物を含む微粒子を、有機物・無機物分析部20のレンズ21aの光軸上に、シート移動部40によりシート41を動かして移動する。このように、シート41を動かして、微生物を含む微粒子の固定化箇所が、レンズ21aと、レンズ21bにより、蛍光検出用CCDカメラ23に結像するように配置する。
【0031】
そして、レンズ21aのシート41の配置と反対方向で、レンズ21aの中央を除く周囲に、紫外線照明22を配置する。紫外線照明22は、例えば、LEDをリング状に配置し、リングの中央方向にLEDを傾斜することで、中央付近を明るく均一に照明できるようになっている。このLEDは、紫外線照明光が照射されるタイプを用い、この紫外線照明光が、シート41に固定化した微粒子に照射される。
そして、一般的に、微粒子中の有機物は、紫外線により蛍光を発し、無機物は蛍光を発しないので、有機物から発せられる蛍光を、レンズ21aと、その光軸上に配置されているレンズ21bにより、蛍光検出用CCDカメラ23のCCD面に結像するように構成する。
【0032】
そして、蛍光検出用CCDカメラ23で得られた画像情報は、有機物位置分析演算部25に送られ、有機物の位置情報として処理され、有機物位置分析演算部25内のメモリに格納される。
【0033】
また、図1において、有機物からの蛍光26は、レンズ21bと蛍光検出用CCDカメラ23に入光する前に配置されている光学基板24を通過している。この光学基板24は、後述するラマン分光による菌の特定部30からの光源を、45度で反射させて、シート41に固定化した微粒子に照射するために設置が必要である。このため、有機物・無機物分離部20としては、光学基板24に対して、有機物からの蛍光26が、45度で入光した場合に、蛍光検出用CCDカメラ23にて検出できる光量が得られる程度に透過すれば良い。この場合には、有機物からの蛍光26に対する光学処理を、光学基板24に施す必要は必ずしもないが、光学基板24による表面反射を抑えたい場合や、光学基板24を透過して蛍光検出用CCDカメラ23に到達する光量が少ない場合には、光学基板24表面に、45度入射に対する無反射コートを施すと良い。
【0034】
有機物・無機物分析部20における動作は、図2において、Step3〜Step5に示されている。すなわち、Step3による、シート41を移動し、微生物を含む微粒子の固定化部をレンズの検出位置に合わせ、次いで、Step4による、紫外線照明をシート41に照射し、有機物からの蛍光を蛍光検出受光部で検出して、Step5として、蛍光の有無から有機物と無機物を分離し、有機物の位置を有機物位置分析検算部で演算処理するようにする。
【0035】
シート41に固定化された微生物を含む微粒子において、微生物の確立が高い有機物を特定したので、その有機物に励起光であるレーザ光を照射して、発生するラマン散乱を捕らえて、微生物を特定するための装置構成を、図1で説明する。
【0036】
図1でのラマン分光による微生物の特定部30は、励起用のレーザ光源31と、励起用のレーザ光源31から照射するレーザビーム32と、レーザビーム32の光軸調整用の45度反射ミラー33a,33bと、レーザビーム32が、有機物・無機物分離部20における光学基板24で反射して、レンズ21aにより集光されて、シート41上の有機物に照射されることで発生するラマン散乱光34を、光学基板24で反射し、45度反射ミラー33bを透過したラマン散乱光34を分光する回折格子35と、回折格子35で分光したラマンスペクトルを入光する分光検出用CCDカメラ36により構成する。そして、分光検出用CCDカメラ36で得られた情報は、ラマンスペクトルを解析する分光分析演算部37に取り込まれるようになっている。
【0037】
また、45度反射ミラー33bは、レーザビーム32の波長を、45度の入射角で全反射し、ラマン散乱光34を通過するコーティングが施されていることが好ましく、光学基板24には、レーザビーム32の波長とラマン散乱光34の両方が全反射するコーティングが施されていることが好ましい。そして、ラマン散乱光34を分光する回折格子35にラマン散乱光34が当たる前には、45度反射ミラー33bを透過した、励起光であるレーザビーム32と同じ波長の光として散乱するレイリー散乱光などのラマン散乱光34以外の光をカットするフィルター38を設けても良い。
【0038】
さらに、レーザビーム32は、図2でのStep5において得た、シート41上の有機物の位置情報を基にして、順次、有機物にレーザ光が照射されるように、有機物・無機物分析部20を含むラマン分光による微生物の特定部30の装置全体を、図示しない移動装置で動かしても良いし、レンズ21aと光軸調整用の45度反射ミラー33a,33bを動かすようにしても良い。
【0039】
シート41上の有機物に励起用レーザビーム32を照射してラマン散乱光34を得る動作を、図2のStep6〜Step9により説明する。
Step5で、蛍光の有無から有機物と無機物を分離し、有機物の位置を有機物位置分析検算部で演算処理された情報に対して、Step6として、有機物(微生物)にレーザビーム32を照射する。この時、レーザビーム32を最初に照射する有機物を選び、その有機物にレーザビーム32が照射されるように、シート41を駆動するか、あるいは、図1での有機物・無機物分析部20を含むラマン分光による微生物の特定部30の装置全体を動かすか、レンズ21aと光軸調整用の45度反射ミラー33a,33bを動かすようにする。
【0040】
次に、Step7として、ラマン分光特性を分光検出受光部(分光検出用CCDカメラ36)で検出し、Step8で、分光分析演算部37で波形を解析する。即ち、シート41上の有機物に励起光としてレーザビーム32を照射したことで生じる、ラマン散乱光34が、光学基板24で反射し、45度反射ミラー33bを透過してラマン分光検出用CCDカメラ36で受光し、分光分析演算部37でラマンスペクトルを、例えば、図3のように、縦軸がラマン散乱強度(Intensitiy)で横軸がラマンシフト(cm-1)として示す。
【0041】
そして、Step9で、事前に格納している分光分析演算部37内のデータベースの微生物と比較し、微生物を特定する。そして、データベースの微生物としては、枯草菌、大腸菌、ヒトの身体に存在する常在菌、ブドウ球菌、真菌、酵母、カビといった約7種類の菌属レベルでの微生物を分類可能な情報を有していることが好ましい。
【0042】
ここで、分子内と分子間相互作用は、分子構造ごとの固有の基準振動の周波数および形態を有している。このため、ラマン効果において観察される周波数、強度および分極状態を分析することにより、分子構造の情報が得られる。すなわち、微生物の種類ごとに固有な分子構造を有しており、ラマン効果によって観察される周波数、強度、分極状態が微生物の種類によって変化するため、これらを微生物の指紋情報として得ることができる。大腸菌、枯草菌、乳酸菌を例として、それぞれの菌のラマンスペクトルを、図3に示す。図3においては、特に四角で囲んだ2箇所について、菌の種類ごとに異なった波形を示すことがわかる。このような菌種の情報を、測定した有機物からのラマン散乱光34によるラマンスペクトルと比較して、微生物の有無と、微生物であった場合はどの種類の菌であるかの特定を行なう。
【0043】
以上のようにして、空気中から採取した微粒子中の有機物を検出し、さらに、その有機物が微生物(菌)であるかも含め、菌の種類の特定までを行なうことが可能である。
そして、シート41に固定化された微生物を含む微粒子中の有機物が、複数個存在している場合には、図2におけるStep10〜Step12を実施する。先ず、Step10においては、有機物位置分析用計算器25のメモリに確保された有機物の位置情報に基づいて、未だラマン散乱を測定していない別の有機物の存在有無を判断し、測定を行なっていない別の有機物がある場合には、Step11として、次の有機物の位置にビーム照射位置を合わせる動作を、シート41を駆動するか、あるいは、図1での有機物・無機物分析部20を含むラマン分光による微生物の特定部30の装置全体を動かすか、レンズ21aと光軸調整用の45度反射ミラー33a,33bを動かすようにして行なう。そして、Step6〜Step9を同様にして実施する。
【0044】
また、Step10で、ラマン散乱を測定していない有機物の存在が無かった場合には、Step12として、シート移動部40により、シート41を送って、微粒子濃縮部10で、シート41の次の場所に固定化した微生物を含む微粒子の位置に、有機物・無機物分析部20をStep3と同様の手順で合わせ、Step3〜Step9を同様にして実施する。
【0045】
本実施例においては、微粒子濃縮部10によりシート41上に固定化した微生物を含む微粒子を、ラマン分光による微生物の特定部30を含む有機物・無機物分析部20による測定位置に、シート移動部40によりシート41を移動するようにしているが、本発明は、これに限定するものでは無く、微粒子濃縮部10やラマン分光による微生物の特定部30を含む有機物・無機物分析部20を移動させるような構成として、微粒子濃縮部10で微生物を含む微粒子を固定化した位置へ、微粒子濃縮部10が次ぎのシート41上の次の固定化位置に移動してから、あるいは移動に合わせて、ラマン分光による微生物の特定部30を含む有機物・無機物分析部20を動かして、測定を行なうようにしても良い。
【0046】
ラマン効果により発生するラマン散乱光は、照射する励起用のレーザビーム32に対して、非常の弱い光である。このために、得られるラマン散乱光34からのラマンスペクトルとしての分光信号は、非常に小さい。このことから、ラマン散乱光34によって、数μm程度の微生物(細菌)を、1個の単位で特定することとは難しい。
【0047】
そこで、本発明での微生物の特定を行なうための一つの方法として、微生物を含む微粒子を固定化するシート41の表面に、金、銀あるいは銅などの金属ナノ微粒子を吹き付けたものを用いた、表面増強ラマン散乱(Surface Enhanced Raman Scattering :SERS)を利用することで、微生物1個からのラマン散乱光34が、大きな信号として得るようにすることができる。
【0048】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0049】
10 微粒子濃縮部
11 バーチャルインパクタ
13 微生物を含む濃縮空気
20 有機物・無機物分離部
21a,21b レンズ
22 紫外線照明
23 蛍光検出用CCDカメラ
24 光学基板
25 有機物位置分析演算部
26 有機物からの蛍光
30 ラマン分光による微生物の特定部
31 励起用のレーザ光源
32 レーザビーム
33a,33b 45度反射ミラー
34 ラマン散乱光
35 回折格子
36 分光検出用CCDカメラ
37 分光分析演算部
40 シート移動部
41 シート
42 シート送り出し部
43 シート巻取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体空間中に浮遊する微生物を回収して、微生物の特定をする検出装置において、
計測空間の気体を吸引して含有する微粒子を濃縮する微粒子濃縮手段と、
前記微粒子濃縮手段による濃縮微粒子を付着させる基材と、
前記基材上の前記濃縮微粒子に紫外線を照射する紫外線照射手段と、
前記紫外線照射手段により前記濃縮微粒子から発する蛍光を、蛍光位置の情報で捕らえる蛍光位置検出手段と、
前記蛍光位置検出手段で得た蛍光を発する微粒子にレーザビームを照射するレーザ照射手段と、
前記レーザ照射手段によって、前記蛍光を発する微粒子からのラマン散乱光を分光する分光手段と、
前記分光手段による分光を検出する分光検出手段と、
微生物の種類ごとのラマンスペクトル情報を格納する基準微生物情報格納手段と、
前記分光検出手段で得たラマンスペクトルと前記基準微生物情報格納手段内のラマンスペクトル情報を比較して、微生物を特定する手段とを
有することを特徴とする微生物検出装置。

【請求項2】
前記蛍光位置検出手段は、前記基材上の前記濃縮微粒子の像を、結像光学系により画像情報を検出する手段であることを特徴とする請求項1に記載の微生物検出装置。


【請求項3】
前記レーザビームを前記基材上の前記微粒子に照射する光軸であって、前記基材に垂直な光軸上に45度に傾けて光学基板を設け、前記光学基板が前記蛍光を透過し、前記レーザビーム及び前記ラマン散乱光を反射するようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の微生物検出装置。

【請求項4】
前記基材は可撓性のシート状からなり、ロール上に巻かれたシート送り出し部とシート巻取り部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の微生物検出装置。

【請求項5】
前記可撓性のシート状の前記基材を前記シート送り出し部と前記シート巻取り部によって移動させ、前記基材上の前記濃縮微粒子に対して、前記蛍光位置検出手段及び前記レーザ照射手段の位置に合わせることを特徴とする請求項4に記載の微生物検出装置。

【請求項6】
前記基材上の前記濃縮微粒子位置に対して、前記蛍光位置検出手段及び前記レーザ照射手段を移動して、位置合わせを行なうことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の微生物検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−217382(P2012−217382A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86215(P2011−86215)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】