説明

微生物検査装置及び微生物検査チップ

【課題】励起光の光軸と蛍光用集光レンズ又は対物レンズの中心軸を同軸としても、励起光の反射による影響を低減することが可能な微生物検査チップと、それを用いた微生物検査装置を提供する。
【解決手段】微生物検査チップ10は、本体15と菌体検出部17とを有する。菌体検出部17は、カバー部材171,流路部材172を貼り合わせて形成され、菌体検出用流路173を有する。菌体検出部17の入射面における法線ベクトルと励起光の光軸が平行とならないように、微生物検査チップ10内において菌体検出部17を傾斜させて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の計測を行う微生物検査装置及び微生物検査チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生菌数計測の迅速化および簡便化を目的とした様々な菌数測定装置が知られている。菌数測定装置には、蛍光フローサイトメトリ法を用いたものがある。蛍光フローサイトメトリ法は、蛍光色素によって染色した検体を含む流体が、小さな径の流路を通過するとき、検体を一個ずつ直接計測する粒子計測方法である。
【0003】
蛍光フローサイトメトリ法において、さらに簡易に微生物を検査するようにした技術として、微生物を含む検体液や蛍光色素を含む試薬液(染色液)を収容する容器を微生物検査チップ内に設け、検体液や試薬液を予め微生物チップ内の各容器に保持させ、この微生物検査チップを検出装置に載置又は挿入し、検体液を微生物検査チップ内の流路を流れるようにし、流路途中に設けられた検出部に励起光を照射させて微生物を計数するようにしたものがある(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−157829号公報
【特許文献2】特開2009−178078号公報
【特許文献3】特開2009−281753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2では、励起光の反射による迷光の発生を回避し、蛍光量の受光量の減少を回避するために、微生物検出部を光透過性の材料によって形成し、微生物検出部の周囲の少なくとも90度の範囲を露出させるともに、励起光の光軸を微生物検査チップの主面に対して平行にし、また、蛍光検出の蛍光用集光レンズの中心軸を微生物検査チップの主面に対し直交にするように構成している。励起光の光軸と蛍光用集光レンズの中心軸が直交することから、励起光の反射光を迷光として受光光学系が受光しない。
【0006】
しかしながら、光学系を簡素化するためには、励起光の光軸と蛍光用集光レンズ(または対物レンズ)の中心軸を同軸とした方が望ましい。また、励起光の光軸と蛍光用集光レンズの中心軸を同軸とした方が位置合わせも容易となる。
【0007】
本発明は、励起光の光軸と蛍光用集光レンズまたは対物レンズの中心軸を同軸としても、励起光の反射による影響を低減することが可能な微生物検査チップと、それを用いた微生物検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の微生物検査チップは、菌体検出部の入射面における法線ベクトルと励起光の光軸が平行とならないように、菌体検出部を傾斜させて微生物検査チップ内に配置するようにしたことを特徴とする。
【0009】
菌体検出部の表面と励起光の光軸のなす角度をθとすると、θ=80〜30°の範囲となるように、微生物検査チップ内に菌体検出部を傾斜させて設ける(菌体検出部の入射面における法線ベクトルと励起光の光軸の間の角度をαとすると、θ+α=90°であり、θ=80〜30°は、言い換えれば、α=10〜60°となる。)。
【0010】
θは80〜70°がより望ましい(αで言い換えれば、10〜20°がより望ましい。)。
【0011】
また、本発明の微生物検査装置は、上記のように構成した微生物検査チップを、励起光の光軸に対して直角に取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、励起光の光軸と蛍光用集光レンズの中心軸を同軸としても、励起光の反射は受光光学系に入射し難くなるので、励起光の反射による影響を低減することが可能となる。
【0013】
また、本発明では、微生物検査チップ内の菌体検出部を傾斜させているので、微生物検査チップ全体を傾斜させて検査装置に取り付ける場合と比較して、微生物検査チップを検出装置に取り付けることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の微生物検査チップの構成例を示す図である。
【図2】本発明の微生物検査チップの菌体検出部の構成例を示す図である。
【図3】本発明の微生物検査装置の構成例を示す図である。
【図4】本発明の微生物検査装置におけるX方向の位置合わせを説明するための模式図である。
【図5】本発明の微生物検査装置におけるY方向の位置合わせを説明するための模式図である。
【図6】本発明の微生物検査装置における微生物検査チップの位置合わせの手順を示す図である。
【図7】本発明の微生物検査装置における検出装置の構成例を示す図である。
【図8】本発明の微生物検査装置における微生物検査の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本実施例で用いられる微生物検査チップは、本体と該本体に装着された菌体検出部とを有する。本体は、貫通口又は貫通溝である検出用窓枠部を有し、菌体検出部は、検出用窓枠部を覆うように配置されている。菌体検出部は、本体に設けられた流路に接続された菌体検出用流路を有する。菌体検出部は、カバー部材と流路部材を有し、該2個の部材を張り合わせることによって形成される。流路部材は溝を有し、2個の部材を張り合わせることによって、流路部材の溝は、菌体検出用流路を形成する。このような微生物検査チップについて、特許出願人は、先に特願2008−263055号として提案している。即ち、微生物検査チップは、ディスポーザブルなものとするために安価であることが求められ、また、検出精度を向上させるためには、微生物検査チップ自体からの誘導放射や蛍光が原因の自家蛍光の発生を抑制することが求められる。特願2008−263055号で提案した微生物検査チップは、これらの要求を満たす。
【0017】
以下の説明では、特願2008−263055号で提案した微生物検査チップと微生物検査装置を先ず説明し、その後、本発明の微生物検査チップの実施例を詳しく説明する。
【0018】
図1は、本発明の微生物検査装置によって用いる微生物検査チップ10の模式図である。最初に微生物検査チップ10の構成について説明する。微生物検査チップ10は、検体中に含まれる食品残渣の除去や菌体の染色を行う本体15と、菌体を検出するための菌体検出部17を有する。菌体検出部17は、外部光源より励起光を照射し、微生物の蛍光を観測するための菌体検出用流路173を備える。菌体検出部17の構造の詳細は後に図2A及び図2Bを参照して説明する。ここでは、本体15について説明する。
【0019】
本体15は、検体1511を保持するための検体容器151と、死菌染色色素1521を保持する反応容器である死菌染色液保持容器152と、全菌染色色素1531を保持する反応容器である全菌染色液保持容器153と、位置合わせ用試薬1541を保持するための位置合わせ用試薬保持容器154と、希釈液1551を保持するための希釈液保持容器155と、検体中に含まれる食品残渣を取り除くためのフィルタである食品残渣除去部160と、菌体検出用流路173を通過した各種の不要な廃液を廃棄するための検出液廃棄容器156とを有する。検出液廃棄容器156に廃棄する廃液には、検体1511,死菌染色色素1521、及び、全菌染色色素1531の混合液、並びに、位置合わせ用試薬1541がある。
【0020】
これらの容器151,152,153,154,155の底面は、漏斗状に形成されている。図示のように、微生物検査チップ10は、これらの容器の底面が下側になるように立てた状態で保持されている。
【0021】
本体15は、更に、検体容器151,食品残渣除去部160,死菌染色液保持容器152,全菌染色液保持容器153,菌体検出用流路173を連結し、検体1511や混合液が流動させるための溶液用流路1571〜1576と、各容器内の検体1511や混合液を気圧により流動させるための通気口1591〜1596と、通気口1591〜1596と各容器を接続する通気用流路1581〜1586とを備える。溶液用流路1571〜1576,通気口1591〜1596及び通気用流路1581〜1586は連結する容器の名称から、検体容器−死菌染色液保持容器間流路1571,死菌染色液保持容器−全菌染色液保持容器間流路1572,全菌染色液保持容器−希釈液保持容器間流路1573,希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574,位置合わせ用試薬保持容器−菌体検出用流路間流路1575,菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576,検体容器通気口1591,死菌染色液保持容器通気口1592,全菌染色液保持容器通気口1593,希釈液保持容器通気口1594,位置合わせ用試薬保持容器通気口1595,検出液廃棄容器通気口1596,検体容器通気流路1581,死菌染色液保持容器通気流路1582,全菌染色液保持容器通気流路1583,希釈液保持容器通気流路1584,位置合わせ用試薬保持容器通気流路1585,検出液廃棄容器通気流路1586とする。
【0022】
検体容器151,食品残渣除去部160,死菌染色液保持容器152,全菌染色液保持容器153,希釈液保持容器155,菌体検出用流路173、及び、検出液廃棄容器156は、溶液用流路1571〜1574,1576により直列に連結されている。位置合わせ用試薬保持容器−菌体検出用流路間流路1575は、希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574に合流する。
【0023】
溶液用流路1571〜1576の深さおよび流路幅は10μm〜3mm、通気用流路1581〜1586の深さ及び流路幅は10μm〜3mmの範囲で形成され、溶液用流路1571〜1576の断面積は通気用流路1581〜1586の断面積より大きくなるように形成される。本体15の製造方法は特にここで説明しない。特許文献1〜3で引用しているJournal of Biomolecular Techniques、Vol14、Issue2、pp.119-127や特開2005−245317号公報に記載されているように、微生物検査チップの製造方法は既知である。
【0024】
本体15を構成する材料について説明する。微生物検査チップ10はディスポーザブルであるため、本体15は、安価な材料によって形成される。本体15は、内部に複雑な構造を有する。従って、本体15は、微細加工が容易で、且つ、加工費が安価な材料によって形成される。ガラス、及び、石英は、自家蛍光が少なく、光学特性が優れているが、微細加工が容易でない。即ち、微細加工を行うと、加工費が高くなる。本体15は、処理前の検体や染色液を内部に保持する。そのため、本体15は、耐薬品性の材料によって形成される。以上より、本体15に用いる材料には、ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタラート,ポリカーボネイト,ポリスチレン,アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂,ポリメタクリル酸メチルエステル等がある。本体15は、これらの物質から選択された少なくとも1種類の物質によって形成される。
【0025】
死菌染色液1521,全菌染色液1531,位置合わせ用試薬1541は、微生物検査チップ10内に前もって封入されている。検体1511は、検査前に通気口1591より、検体容器151に注入される。希釈液1551は、検査前に通気口1594から希釈液保持容器155に注入される。
【0026】
検体1511は、検査対象の食品に対して質量比10倍の生理食塩水を加え、ストマッキング処理を行ったものである。希釈液1551は主に生理食塩水もしくは純水もしくはリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液である。希釈液1551は、洗浄液としても使用される。
【0027】
死菌染色液1521には、例えば、PI(プロピディウムイオダイド)(0.1μg/ml〜1mg/ml)を使用し、全菌染色液1541には、例えば、DAPI(4′,6−ヂアミジン−2′−フェニルインドール)(1μg/ml〜1mg/ml),AO(アクリジンオレンジ)(1μg/ml〜1mg/ml),EB(エチジウムブロマイド)(1μg/ml〜1mg/ml),LDS751(0.1μg/ml〜1mg/ml)などを使用する。
【0028】
位置合わせ用試薬1541には、PI,DAPI,AO,EB,LDS751などの蛍光色素や、特定の波長の蛍光を発する微粒子を含んだ溶液を使用する。検出のための光学系を共通化するために、位置合わせ用試薬1541の波長ピークは、死菌染色液1521又は全菌染色液1531の波長ピークに近いほうが好ましい。例えば、位置合わせ用試薬1541及び死菌染色液1521として、PI(ピーク波長532nm)を使用し、全菌染色液1531として、LDS751を(ピーク波長710nm)を使用してよい。
【0029】
次に、微生物検査チップ10における検体及び溶液の流動方法を説明する。微生物検査チップ10を用いた生菌数測定では、始めに微生物検査チップ10の位置合わせ、即ち、菌体検出用流路173の位置合わせ、を行い、次に生菌数測定を行う。先ず、位置合わせの工程における位置合わせ用試薬1541の流動について説明する。微生物検査チップ10は、図示のように、容器の漏斗状の底面が下側になるように立てた状態で保持される。位置合わせ用試薬1541を、菌体検出用流路173を経由して検出液廃液容器156に流動させる。位置合わせ用試薬保持容器−菌体検出用流路間流路1575の最高点は、位置合わせ用試薬1541の水位より高くなるように形成される。従って、位置合わせ用試薬保持容器通気口1695及び検出液廃棄容器通気口1596が閉じられている限り、位置合わせ用試薬保持容器154に保持された位置合わせ用試薬1541は、検出液廃棄容器通気口1596に流動することはない。そこで、位置合わせ用試薬保持容器通気口1695を介し、圧力供給装置14(図3)からの圧力を加え、位置合わせ用試薬保持容器154内の気圧を上昇させる。同時に検出液廃棄容器通気口1596を介し、検出液廃液容器156を大気開放する。気圧差により、位置合わせ用試薬1541は、位置合わせ用試薬保持容器−菌体検出用流路間流路1575,菌体検出用流路173を経由し、検出液廃棄容器156に入る。検出装置11(図3)からの励起光が菌体検出用流路173は照射される。そのため、位置合わせ用試薬1541は菌体検出用流路173を通過するときに蛍光を発する。この蛍光は、検出装置11(図3)によって検出される。検出装置11(図3)によって検出される蛍光が最大となるように、微生物検査チップ10の位置を調整する。位置合わせ後に希釈液1551の一部を菌体検出用流路173に流動させる。それによって菌体検出用流路173が洗浄され、菌体検出用流路173に残存する位置合わせ用試薬1541が除去される。
【0030】
次に生菌数測定の工程における各液体の流動について説明する。
【0031】
1.検体1511を死菌染色液保持容器152へ流動させる工程。検体容器−死菌染色液保持容器間流路1571の最高点は、検体容器151に保持される検体1511の水位より高くなるように形成される。従って、検体容器通気口1591及び死菌染色液保持容器通気口1592が閉じられている限り、検体容器151に保持された検体1511は、死菌染色液保持容器152に流動することはない。通気口1591を介し、圧力供給装置14(図3)からの圧力を加え、検体容器151内の気圧を上昇させる。同時に死菌染色液保持容器通気口1592を介し、死菌染色液保持容器152を大気開放する。気圧差により、検体1511は、検体容器151から、食品残渣除去部160を経由して、死菌染色液保持容器152に入り、死菌染色液1531と混合する。検体1511が食品残渣除去部160を通過するとき、検体1511中の食品残渣は、食品残渣除去部160により取り除かれる。検体1511中の死菌は、死菌染色液1521により染色される。一方、死菌染色液1531は生菌の細胞膜を通過しない。そのため検体1511中の生菌は染色されない。
【0032】
死菌染色液保持容器152の体積は、検体1511と死菌染色液1521の合計体積より大きい。死菌染色液保持容器−全菌染色液保持容器間流路1572の最高点は、死菌染色液保持容器152に保持される2液の混合液の水位より高くなるように形成される。2液の混合液の水位は、死菌染色液保持容器−全菌染色液保持容器間流路1572の最高点を越えず、さらに死菌染色液保持容器152中に入っている空気は、死菌染色液保持容器通気口1592を介し外部に放出される。死菌染色液保持容器152の気圧は大気圧と等しいため、2液の混合液は全菌染色液保持容器153に押し出されず、混合液を反応に必要な時間中、死菌染色液保持容器152に保持することができる。同様に、全菌染色液1531は、全菌染色液保持容器153に保持される。即ち、全菌染色液1531は、希釈液保持容器155に押し出されず、また死菌染色液保持容器152に逆流もしない。
【0033】
このとき、混合液の全菌染色液保持容器153への流入を防止するために、各通気口1593〜1596を介し、圧力供給装置からの圧力を加え、検体容器151の気圧より低い範囲まで全菌染色液保持容器153,希釈液保持容器154,位置合わせ用試薬保持容器155,検出液廃液容器156の気圧を上げてもよい。
【0034】
なお、染色中は、微生物検査チップ10の温度を一定に保つことにより、温度変化による染色の影響を小さくすることが良い。
【0035】
2.検体1511と死菌染色液1521の混合液を全菌染色液保持容器153に流動させる工程。通気口1592を介し、圧力供給装置14(図3)からの圧力を加え、死菌染色液保持容器152内の気圧を上昇させる。同時に全菌染色液保持容器通気口1593を介し、全菌染色液保持容器153を大気開放する。気圧差により、検体1511と死菌染色液1521の混合液は、死菌染色液保持容器152から全菌染色液保持容器153に入り、全菌染色液1531と混合する。検体1511中の死菌と生菌は、全菌染色液1531により染色される。
【0036】
全菌染色液保持容器153の体積は、検体1511と死菌染色液1521と全菌染色液1531の合計体積より大きい。全菌染色液保持容器−希釈液保持容器間流路1573の最高点は、全菌染色液保持容器153に保持される3液の混合液の水位より高くなるように形成される。全菌染色液保持容器153の気圧は大気圧と等しいため、3液の混合液は希釈液保持容器154に押し出されず、混合液を反応に必要な時間中、全菌染色液保持容器153に保持することができる。
【0037】
3.検体1511,死菌染色液1521,全菌染色液1531の混合液を希釈液保持容器154に流動させる工程。通気口1593を介し、圧力供給装置14(図3)からの圧力を加え、全菌染色液保持容器153内の気圧を上昇させる。同時に希釈液保持容器通気口1594を介し、希釈液保持容器154を大気開放する。気圧差により、検体1511と死菌染色液1521と全菌染色液1531の混合液は、全菌染色液保持容器153から希釈液保持容器154に入り、希釈液1541と混合する。それによって、混合液中に含まれる未結合色素(微生物を染色しない死菌染色液1521,全菌染色液1531)の濃度が低下する。未結合色素の濃度が低下することで、検出の際にノイズの原因となる未結合色素の発する蛍光量を低減することができる。
【0038】
希釈液保持容器155の体積は、検体1511,死菌染色液1521,全菌染色液1531及び希釈液1551の合計体積より大きい。また、希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574の最高点は、4液の混合液の水位より高くなるように形成される。希釈液保持容器155の気圧は大気圧と等しいため、4液の混合液は検出液廃棄容器156に押し出されず、希釈液保持容器155に保持することができる。
【0039】
4.検体1511,死菌染色液1521,全菌染色液1531,希釈液1541の混合液を菌体検出用流路173に流動させる工程。通気口1594を介し、圧力供給装置14(図3)からの圧力を加え、希釈液保持容器154内の気圧を上昇させる。同時に検出液廃棄容器通気口1596を介し、検出液廃棄容器156を大気開放する。気圧差により、希釈された混合液は、希釈液保持容器154から菌体検出用流路173を経由して、検出液廃棄容器156に入る。菌体検出用流路173に対して垂直方向より、好ましくは、垂直方向に対して偏奇した角度にて、励起光を照射する。それにより、染色された微生物は蛍光を発する。検出装置11により蛍光を検出する。全菌染色液1531による蛍光のピーク波長は、死菌染色液1521による蛍光のピーク波長とは異なる。全菌染色液1531による蛍光を検出することによって、生菌と死菌の総数を検出することができる。死菌染色液1521による蛍光を検出することによって死菌数を検出することができる。両者の差から、生菌数を得ることができる。
【0040】
次に、微生物検査チップの菌体検出部17の詳細について図2に基づき説明する。図2Aは、菌体検出部の励起光入射面における法線ベクトルに沿った断面を示している。菌体検出部は、図7に示すように微生物検査チップの本体に傾斜して設けられている。この傾斜については、図7の説明において詳述する。
【0041】
図2Aは、本体15と菌体検出部17の接合部の断面図である。図2Bは菌体検出部17の分解斜視図である。本体15と菌体検出部17はそれぞれ別工程で作製し、両者は接合される。先ず、菌体検出部17の製造方法を説明する。菌体検出部17はカバー部材171と流路部材172からなり、両者は共に、薄い平板からなる。流路部材172には、溝1731が形成されており、この溝1731の両端には、貫通孔1741,1751が形成されている。溝1731が形成された面が張り合わせ面となるように、カバー部材171と流路部材172を張り合わせる。それによって、菌体検出部17が形成される。流路部材172の溝1731とカバー部材171によって菌体検出用流路173が構成される。流路部材172の貫通孔1741,1751によって、菌体検出用流路入口174と菌体検出用流路出口175が構成される。
【0042】
一方、本体15に形成された希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574は、その下端にて流路方向を変更し、本体15の表面に開口を形成している。同様に、菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576は、その上端にて流路方向を変更し、本体15の表面に開口を形成している。希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574の開口は、菌体検出用流路入口174に接続され、菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576の開口は、菌体検出用流路出口175に接続されている。
【0043】
本体15には検出用窓枠部161が形成されている。検出用窓枠部161は、貫通孔、又は、貫通溝である。検出用窓枠部161は、希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574の開口と菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576の開口の間に形成されている。菌体検出部17が製造されると、それを本体15に装着する。図示のように、本体15の検出用窓枠部161の上に、菌体検出用流路173が配置されるように、菌体検出部17を装着する。
【0044】
染色された菌体162は、希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574,菌体検出用流路入口174,菌体検出用流路173,菌体検出用流路出口175,菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576の順に流動する。菌体検出用流路173に入射した励起光113は、菌体検出用流路173を流動する菌体162を照射する。それによって菌体162は蛍光121を発し、検出装置11(図3)により検出される。
【0045】
本例によると、菌体検出用流路173の背後に、本体15の貫通孔又は貫通溝である検出用窓枠部161が設けられている。従って、励起光113は、菌体検出部17のみを照射し、本体15を照射しない。背景光の増加の原因となる本体15からの反射光や自家蛍光は発生しない。菌体検出用流路173を通過した励起光113が、本体15に照射されないためには、検出用窓枠部161を構成する貫通孔の断面は、励起光113の放射方向に沿って増加することが好ましい。
【0046】
図2Aに示す例では、菌体検出用流路173の中心軸線は、希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574及び菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576の中心軸線に対して、偏奇している。即ち、菌体検出用流路173は、希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574及び菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576と同一線上に配置されていない。しかしながら、菌体検出用流路173が、希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574及び菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576と同一線上に配置されるように構成されてよい。この場合、菌体検出用流路173は、希釈液保持容器−菌体検出用流路間流路1574及び菌体検出用流路−検出液廃棄容器間流路1576と直接接続される。
【0047】
カバー部材171の厚さは、0.01μm〜1mmである。流路部材172の厚さは、0.01μm〜1mmである。菌体検出用流路173の断面形状は、正方形,長方形、又は、台形である。菌体検出用流路173の断面寸法は、大きいほど圧力損失は小さくなるが、微生物を一個ずつ流すためには小さいほうがよい。菌体検出用流路173の断面の一辺は、1μm〜1mmが好ましく、長さは、0.01mm〜10mmが好ましい。菌体検出用流路173に照射する励起光の光軸は、菌体検出用流路173の方向ベクトルに対して垂直になる。
【0048】
菌体検出部17を構成する材料について説明する。微生物検査チップ10はディスポーザブルである。即ち、使用後、菌体検出部17は本体15と共に廃棄する。そのため、菌体検出部17に用いる材料は、安価でなければならない。菌体検出部17に用いる材料は、蛍光計測に好適なように、光学特性に優れている必要がある。即ち、自家蛍光が低く、光透過性,面精度,屈折率などに優れていることが望ましい。菌体からの蛍光の検出を阻害しないためには、菌体検出部17自身が発生する自家蛍光量が、菌体からの蛍光量に比べて十分小さいことが好ましい。
【0049】
菌体検出部17の表面に、曲面,凹凸等が存在すると、表面における光の屈折、又は、乱反射により菌体計測用流路173に照射される励起光113の光量が変動する。そのため、検出される蛍光量も変動し、計測精度が低下する。そのため、菌体検出部17の表面は、所望の平面度を有する必要がある。菌体検出部17は、凹凸が0.1mm以下の平面度を有することが好ましい。
【0050】
このような条件を考慮すると、菌体検出部17に用いる材料には、ガラス,石英,ポリメタクリル酸メチルエステル(PMMA),ポリジメチルシロキサン(PDMS),シクロオレフィンポリマー(COP),ポリエチレンテレフタラート,ポリカーボネイト等が考えられる。菌体検出部17は、これらの物質から選択された1種類以上の物質から形成される。菌体検出部17は好ましくは、本体15と同一の材料によって形成する。特に、流路部材172は、本体15と同一の材料によって形成する。
【0051】
カバー部材171は単なる平板であるが、流路部材172は平板に溝及び貫通孔を形成したものである。従って、流路部材172は、微細加工が容易で、且つ、加工費が安価な材料によって形成される。ガラス、及び、石英は、光学特性が優れているが、微細加工が容易でない。即ち、微細加工を行うと、加工費が高くなる。
【0052】
そこで、カバー部材171をガラス又は石英によって構成し、流路部材172をポリメタクリル酸メチルエステル,ポリジメチルシロキサン,シクロオレフィンポリマー,ポリエチレンテレフタラート,ポリカーボネイトによって構成してよい。好ましくは、流路部材172をポリジメチルシロキサンによって構成してよい。この場合、カバー部材171と流路部材172の接合は、ポリジメチルシロキサンの自己接着性を利用する。
【0053】
菌体検出部17の自家蛍光量は、材料ばかりでなく、菌体検出部の厚さ寸法にも依存する。自家蛍光量を少なくするには、菌体検出部の厚さ寸法を小さくすればよい。菌体検出部17の厚さが小さいほど、菌体検出部17から発生する自家蛍光量は少なくなる。しかしながら、カバー部材171及び流路部材172の厚さ寸法を小さくすると、製造が困難になり、平面度が悪化する。必要な平面度を保ち、菌体の蛍光の検出を阻害しないように自家蛍光量を抑制するには、これらの部品の厚さ寸法は、所定の範囲に制限するする必要がある。
【0054】
ガラス,石英,ポリジメチルシロキサンの自家蛍光量はほぼ同等である。カバー部材171を、ガラス、又は、石英によって製造する場合、その厚さは、0.05mm以上1mm以下が好ましい。流路部材172を、ポリジメチルシロキサンによって製造する場合、その厚さは0.1mm以上1mm以下が好ましい。
【0055】
また、カバー部材171及び流路部材172を、シクロオレフィンポリマー,ポリメタクリル酸メチルエステル,ポリエチレンテレフタラート、又は、ポリカーボネイトによって製造してもよい。この場合、ガラス、又は、石英によってカバー部材171を製造し、ポリジメチルシロキサンによって流路部材172を製造する場合より、単位体積あたりの自家蛍光量が約3倍以上増加する。そのため、カバー部材171及び流路部材172の厚さは0.01mm以上0.3mm以下が好ましい。
【0056】
図3は、本発明の微生物検査装置1の構成図である。微生物検査装置1は、菌体検出部17を有する微生物検査チップ10,微生物検査チップ10をXY方向に移動させるためのX−Yステージ125,微生物検査チップ10の菌体検出部17に励起光を照射し、そこからの蛍光を検出する検出装置11、及び、微生物検査チップ10に所定の圧力の気体を供給する圧力供給装置14を有する。微生物検査装置1には、システム装置18及び出力装置19が接続されている。微生物検査チップ10は、図1を参照して説明した。X−Yステージ125は、微生物検査チップ10を保持(載置または挿入などにより保持)し、システム装置18からの命令信号により、微生物検査チップ10をXY方向に移動させ、その位置合わせを行う。図示のように、水平面上にX軸とY軸をとる。X軸は、菌体検出部17の菌体検出用流路173に照射される励起光に垂直であり、Y軸は、励起光に平行である。
【0057】
圧力供給装置14は、圧力調節装置付のボンベ141を有する。ボンベ141には高圧の空気,不活性気体等が封入されている。ボンベ141と微生物検査チップ10の各通気口1591〜1596(図1)は、チップ連結管1441〜1446によって接続されている。チップ連結管1441〜1446には、バルブ1421〜1426がそれぞれ設けられている。バルブ1421〜1426を開閉することにより、微生物検査チップ10の容器に所定の圧力の気体を供給し、又は、微生物検査チップ10の容器を大気開放する。それによって、図1を参照して説明したように、微生物検査チップ10内にて検体や試薬の搬送を行う。
【0058】
検出装置11は、励起光源111,励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112,対物レンズ114,バンドパスフィルタ117,集光レンズ118,ピンホール119、及び、光検出器120を有する。励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112は、励起光113を反射させ、蛍光を透過させる機能を有する。即ち、励起光113が有する波長付近の波長帯の光を反射し、蛍光が有する波長付近の波長帯の光を透過させる。励起光113の光軸と対物レンズ114の中心軸が一致するように、励起光源111,励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112、及び、対物レンズ114は配置される。それによって、対物レンズ114と集光レンズ118からなるレンズ系の焦点に励起光113は集光される。
【0059】
位置合わせを行うときには、位置合わせ用試薬1541を菌体検出用流路173に流動させる。菌体数の計測を行うときは、検体を菌体検出用流路173に流動させる。
【0060】
励起光源111より出力された励起光113は、励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112を反射し、対物レンズ114によって集光され、菌体検出用流路173に照射される。菌体検出部17の菌体検出用流路173を通過する微生物もしくは位置合わせ用試薬からの蛍光121は、対物レンズ114によって平行光線化され、励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112を透過し、バンドパスフィルタ117を通過し、集光レンズ118によって集光され、ピンホール119を経由して、光検出器120に到達する。ピンホール119は、迷光をカットするための空間フィルタとして機能する。検出装置11からの電気信号は、システム装置18に送られる。システム装置18は、電気信号を処理し、得られた計測結果を出力装置19に出力する。
【0061】
図4及び図5を参照して、菌体検出用流路173の位置合わせ方法を説明する。菌体検出用流路173に照射される励起光113の光軸に平行に、Y軸をとり、励起光113の光軸に垂直にX軸をとる。図4及び図5は、菌体検出部17をXY平面に平行な面によって切断したときの、菌体検出用流路173と励起光113の位置を模式的描いたものである。
【0062】
図4を参照して、菌体検出用流路173のX方向の位置決め方法を説明する。菌体検出用流路173に位置合わせ用試薬1541を流動させ、X−Yステージ125により、微生物検査チップ10をX方向に移動させる。図4Aに、移動前の菌体検出用流路173のX方向の位置173aと移動後の菌体検出用流路173のX方向の位置173bを示す。図4Bに、菌体検出用流路173のX方向の位置と検出装置11(図3)によって検出される蛍光量Iの関係を示すグラフ128の例を示す。菌体検出用流路173が励起光113の光軸上を通過するとき蛍光量Iは最大となる。従って、蛍光量Iは最大となるときに、X−Yステージ125によりX方向の位置を設定すればよい。
【0063】
図5を参照して、菌体検出用流路173のY方向の位置決め方法を説明する。菌体検出用流路173に位置合わせ用試薬1541を流動させ、X−Yステージ125により、微生物検査チップ10をY方向に移動させる。図5Aに、移動前の菌体検出用流路173のY方向の位置173cと移動後の菌体検出用流路173のY方向の位置173dを示す。図5Bは、菌体検出用流路173のY方向の位置と検出装置11(図3)によって検出される蛍光量Iの関係を示すグラフ129の例を示す。菌体検出用流路173が励起光113の光軸上を通過するとき蛍光量Iは最大となる。従って、蛍光量Iは最大となるときに、X−Yステージ125によりY方向の位置を設定すればよい。
【0064】
図6を参照して、微生物検査チップ10の位置合わせ、即ち、菌体検出用流路173の位置合わせの手順を説明する。ステップS101にて、微生物検査チップ10をX−Yステージ125上に装着し、菌体検出用流路173に位置合わせ用試薬1541を流動させる。位置合わせ用試薬1541として、例えばPI(波長ピーク532nm)を使用してよい。ステップS102にて、X−Yステージ125によって、微生物検査チップ10を励起光113の光軸に対し垂直方向に移動させる。即ち、図4Aに示したように、微生物検査チップ10をX方向に移動させる。同時に、図4Bに示したように、X方向の位置と検出装置11によって検出される蛍光量Iのプロファイルの関係を取得する。このプロファイルは、システム装置18(図3)に格納する。ステップS103にて、蛍光量Iが最大となる位置、又は、X方向に対する蛍光量Iの一次微分が0となる位置(X=Xc)を求める。こうして、X方向の位置が得られる。その位置に微生物検査チップ10を移動させる。
【0065】
次に、ステップS104にて、X−Yステージ125によって、微生物検査チップ10を励起光113の光軸に対し平行方向に移動させる。即ち、図5Aに示したように、微生物検査チップ10をY方向に移動させる。同時に、図5Bに示したように、Y方向の位置と検出装置11によって検出される蛍光量Iのプロファイルの関係を取得する。このプロファイルは、システム装置18(図3)に格納する。ステップS105にて、蛍光量Iが最大となる位置、又は、Y方向に対する蛍光量Iの一次微分が0となる位置(Y=Yc)を求める。ステップS102及びステップS103は、X方向の位置決めであり、ステップS104及びステップS105は、Y方向の位置決めである。X方向の位置決めとY方向の位置決めを繰り返すことによって、高精度の位置合わせが可能となる。
【0066】
尚、位置合わせの仕方については、上述の構造,方法の他に、特許出願人が先に提案した特願2009−109153号に記載の構造,方法を用いることができる。
【0067】
図7を参照して、本発明による微生物検査装置の検出装置の構成例を説明する。本例の検出装置11は、食品由来の検体中の生菌数を計測するのに好適である。即ち、本例の検出装置では、生菌数と死菌数を判別する。検出装置の光学系は、蛍光色素の励起スペクトルと蛍光スペクトルによって異なる場合もある。ここでは、死菌染色液としてPI(励起波長ピーク532nm,蛍光波長ピーク615nm)を使用し、全菌染色液としてLDS751(励起波長ピーク541nm,蛍光波長ピーク710nm)を使用する場合を説明する。本例の検出装置の光学系は、2種類の蛍光色素を使用する場合に好適に構成されている。
【0068】
本例では、光学系を簡素化するために、励起光の光軸と蛍光用集光レンズの中心軸を同軸としている。また、励起光の光軸と蛍光用集光レンズの中心軸を同軸とすることにより位置合わせが一度に行えて容易となる。検出装置11は、励起光源111(波長532nm)と、励起光113を反射し、菌体の蛍光を透過する励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112と、菌体検出用流路173を通過する微生物からの蛍光を集光し、平行光にする対物レンズ114と、波長610nm以下の光を反射し、波長610nm以上の光を通過させる蛍光分離用ダイクロイックミラー115と、ミラー116と、波長610nm近傍の波長の光のみ通過させる短波長用バンドパスフィルタ1171と、波長710nm近傍の波長の光を通過させる長波長用バンドパスフィルタ1172と、平行光を集光させるための短波長用集光レンズ1181,長波長用集光レンズ1182と、迷光をカットするための空間フィルタとして用いる短波長用ピンホール1191,長波長用ピンホール1192と、短波長用バンドパスフィルタ1171を通過した光を検出する短波長用光検出器1201と、長波長用バンドパスフィルタ1172を通過した光を検出する長波長用光検出器1202とを有する。
【0069】
励起光源111はレーザーを使用し、短波長光検出器1201と長波長光検出器1202はフォトマルを使用する。上述のように、微生物検査チップ10の菌体検出用流路173の位置合わせは完了しているものとする。対物レンズ114の焦点の位置に、微生物検査チップ10の菌体検出用流路173が配置されている。
【0070】
励起光源111から出力された励起光(波長532nm)は、励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112を反射し、菌体検出用流路173に照射される。それによって、菌体検出用流路173を流れる微生物を染色したPIおよびLDS751は励起される。死菌染色液PIからの蛍光1211(PIは中心波長610nm)、及び、全菌染色液LDS751からの蛍光1212(中心波長710nm)は対物レンズ114に入射する。死菌染色液PIからの蛍光1211は蛍光分離用ダイクロイックミラー115で反射し、全菌染色液LDS751からの蛍光1212は蛍光分離用ダイクロイックミラー115を通過する。こうして、2つの色素由来の蛍光は波長の違いにより分離できる。死菌染色液PIからの蛍光1211は短波長用バンドパスフィルタ1171を通過し、短波長用集光レンズ1181によって集光され、短波長用ピンホール1191を通過し、短波長用光検出器1201に入射する。全菌染色液LDS751からの蛍光1212は長波長用バンドパスフィルタ1172を通過し、長波長用集光レンズ1182によって集光され、長波長用ピンホール1192を通過し、長波長用光検出器1202に入射する。
【0071】
短波長用光検出器1201及び長波長用光検出器1202によって検出された蛍光は、それぞれ電気信号に変換され、電気信号はシステム装置18(図3)に送られる。システム装置18は、短波長用光検出器1201,長波長用光検出器1202から送られた電気信号を処理し、微生物数の情報を検査結果として、出力装置19(図3)に出力する。短波長用光検出器1201の出力より、死菌数が得られ、長波長用光検出器1202の出力より、全菌数が得られる。両者の差から生菌数が得られる。
【0072】
特願2008−263055号では、励起光源の励起光の一部が菌体検出部で表面反射し、検出装置に戻る可能性があることから、菌体検出部の法線ベクトルと励起光の光軸が平行とならないように、微生物検査チップ全体を検査装置に対して傾斜させて位置するようにし、反射光が検出装置に戻らないようにしている。これに対して、本実施例では、本体15の平面に対して菌体検出部17をθだけ傾けて重ね合わせて構成している。
【0073】
即ち、菌体検出部17の表面では、励起光源111からの励起光113の一部が反射し、検出装置11に戻る可能性がある。それを防止するために、菌体検出部17の法線ベクトル(図示省略)と励起光113の光軸は平行とならないようにしている。即ち、菌体検出部17の表面と励起光113の光軸のなす角度をθとすると、θ=80〜30°の範囲となるように、図7に示すように、微生物検査チップ10内(本体15)に菌体検出部17を傾斜させて設ける(菌体検出部17の入射面における法線ベクトルと励起光の光軸の間の角度をαとすると、θ+α=90°であり、θ=80〜30°は、言い換えれば、α=10〜60°となる。)。αの最小値は対物レンズ114の立体角δのおおよそ1/2である。そのため使用する対物レンズによってαの最適値は変わる。本実施例では光の集光効率や焦点深度を考慮し立体角が34゜の対物レンズ114を使用している。この場合、αは17°前後が最適となる(θで言えば73°前後)。δを小さくするとαも小さくなるが、δが小さいレンズは光を集めにくいことから、αの最小値は10°くらいとなる(θで言えば80°くらい)。αの最適値からの誤差範囲は、励起光(レーザー光)の入射角を考慮して決められる。励起光(レーザー光)の入射角βは、対物レンズに入射するレーザー光の直径をd、レンズと焦点までの距離をLとすると、β=arctan((d/2)/L)で求められる。これらを考慮すると、θは80〜70°がより望ましい(αで言い換えれば、α=10〜20°がより望ましい。)。αが大きい程、励起光の反射光は受光光学系に入りにくくなるが、ガラス層(屈折率1.5)から流路層(水:屈折率1.3)の全反射の臨界角が約60゜となることから、αは60°までとする。反射光の影響を低減するには、αは10°以上とした方が良く、効果をより効果的にするには、10〜20°が最も望ましい。
【0074】
尚、菌体検出部17の法線ベクトルと励起光113の光軸が平行とならないように、菌体検出部17を傾斜させるが、励起光は、菌体検出用流路173(流れ方向)に対して垂直方向より照射する。
【0075】
また、本体15に菌体検出部17をθだけ傾けて重ね合わせて構成した微生物検査チップ10を検出装置(X−Yステージ125など)取り付ける際には、励起光113の光軸に対して直角にするようにすれば良いので、微生物検査チップ内に菌体検出部を傾斜させないで設けて微生物検査チップ全体を励起光113の光軸に対して傾斜させて検出装置に取り付ける場合と比較して、検出装置への取り付けが容易となる。
【0076】
図8及び図1を参照して、本発明の微生物検査チップ10を用いて、食品由来の検体中の生菌数を計測する手順を説明する。死菌染色液1521,全菌染色液1531,位置合わせ用試薬1541は、微生物検査チップ10内に前もって封入されている。希釈液1551は、検査前に希釈液保持容器155に注入される。ステップS201にて、検体1511を、通気口1591より、検体容器151に注入する。検体1511は、検査対象の食品に対して質量比10倍の生理食塩水を加え、ストマッキング処理を行ったものである。ステップS202にて、微生物検査チップ10を、微生物検査装置のX−Yステージ125に装着する。ステップS203にて、微生物検査チップの位置合わせ、即ち、菌体検出用流路173の位置合わせを行う。位置合わせは、図6を参照して説明したように、位置合わせ用試薬1541を、菌体検出用流路173に流動させることにより行う。ステップS204にて、菌体検出用流路173に希釈液を流し、流路に付着した位置合わせ用試薬1541を洗浄する。
【0077】
ステップS205〜ステップS211は、検体の生菌数の計測処理である。ステップS205にて、検体1511を、検体容器151から、食品残渣除去部160を経由して、死菌染色液保持容器152に流動させる。ステップS206にて、攪拌により、検体1511と死菌染色液1531を混合させる。検体1511中の死菌は、死菌染色液1521により染色されるが、検体1511中の生菌は染色されない。ステップS207にて、検体1511と死菌染色液1521の混合液を全菌染色液保持容器153に流動させる。ステップS208にて、攪拌により、検体1511と死菌染色液1521の混合液を、全菌染色液1531と混合させる。ステップS209にて、検体1511,死菌染色液1521、及び、全菌染色液1531の混合液を希釈液保持容器154に流動させる。ステップS210にて、攪拌により、検体1511,死菌染色液1521、及び、全菌染色液1531の混合液を、希釈液1541と混合させる。希釈液1541を付加することによって、混合液中に含まれる未結合色素の濃度が低下する。未結合色素の濃度が低下することで、検出の際にノイズの原因となる未結合色素の発する蛍光量を低減することができる。ステップS211にて、検体1511,死菌染色液1521,全菌染色液1531、及び、希釈液1541の混合液を菌体検出用流路173に流動させる。菌体検出用流路173に対して垂直方向より、励起光を照射する。但し、菌体検出部17の法線ベクトルと励起光113の光軸は平行でないことが好ましい。それにより、菌体検出用流路173を流れる染色された微生物は蛍光を発する。検出装置11により蛍光を検出する。全菌染色液1531による蛍光を検出することによって、生菌と死菌の総数を検出することができる。死菌染色液1521による蛍光を検出することによって死菌数を検出することができる。両者の差から、生菌数を得ることができる。
【0078】
以上本発明の例を説明したが本発明は上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは、当業者によって容易に理解されよう。
【符号の説明】
【0079】
1 微生物検査装置
10 微生物検査チップ
11 検出装置
14 圧力供給装置
15 本体
17 菌体検出部
18 システム装置
19 出力装置
111 励起光源
112 励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー
113 励起光
114 対物レンズ
115 蛍光分離用ダイクロイックミラー
116 ミラー
117 バンドパスフィルタ
118 集光レンズ
119 ピンホール
120 光検出器
121 蛍光
125 X−Yステージ
127 X方向位置と出力値の関係
128 Y方向位置と出力値の関係
151 検体容器
152 死菌染色液保持容器
153 全菌染色液保持容器
154 位置合わせ用試薬保持容器
155 希釈液保持容器
156 検出液廃棄容器
157 溶液用流路
158 通気用流路
159 通気口
160 食品残渣除去部
161 検出用窓枠部
162 菌体
171 カバー部材
172 流路部材
173 菌体検出用流路
174 菌体検出用流路入口
175 菌体検出用流路出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物検査チップ本体に、検体を保持するための検体容器と、染色試薬を保持するための試薬保持容器と、菌検出部と、廃液を保持するための検出液廃棄容器と、前記検体容器と前記試薬保持容器の間を接続する流路と、前記試薬保持容器と前記菌体検出部の間を接続する流路と、前記菌体検出部と前記検出液廃棄容器の間を接続する流路とを有する微生物検査チップであって、
前記菌体検出部の励起光の入射面における法線ベクトルと、前記励起光の光軸が平行とならないように、前記菌体検出部を傾斜させて微生物検査チップ本体内に配置したことを特徴とする微生物検査チップ。
【請求項2】
本体と、該本体に装着された菌体検出部とを有し、
前記本体は、検体を保持するための検体容器と、染色試薬を保持するための試薬保持容器と、廃液を保持するための検出液廃棄容器と、前記検体容器と前記試薬保持容器の間を接続する流路と、前記試薬保持容器と前記菌体検出部の間を接続する流路と、前記菌体検出部と前記検出液廃棄容器の間を接続する流路とを有する微生物検査チップであって、
前記菌体検出部は、前記流路に接続された菌体検出用流路を有し、カバー部材と溝を有する流路部材とをはり合わせることによって前記菌体検出用流路を形成するように構成されており、
前記本体は、貫通口又は貫通溝である検出用窓枠部を有し、
前記菌体検出部は、前記菌体検出部の励起光の入射面における法線ベクトルと前記励起光の光軸が平行とならないように傾斜させて前記検出用窓枠部に配置されていることを特徴とする微生物検査チップ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記菌体検出部の表面と励起光の光軸のなす角度をθとすると、θ=80〜30°の範囲となるように、前記微生物検査チップ本体内に前記菌体検出部を傾斜させていることを特徴とする微生物検査チップ。
【請求項4】
請求項1または2において、前記菌体検出部の表面と励起光の光軸のなす角度をθとすると、θ=80〜70°の範囲となるように、前記微生物検査チップ本体内に前記菌体検出部を傾斜させていることを特徴とする微生物検査チップ。
【請求項5】
請求項1または2に記載の微生物検査チップにおいて、
前記カバー部材は、厚さ0.05mm以上1mm以下のガラス又は石英の板材によって形成され、前記流路部材は、厚さ0.1mm以上1mm以下のポリジメチルシロキサンの板材によって形成されていることを特徴とする微生物検査チップ。
【請求項6】
請求項1または2に記載の微生物検査チップにおいて、
前記カバー部材及び前記流路部材は、厚さ0.01mm以上0.3mm以下のシクロオレフィンポリマーまたはポリメタクリル酸メチルエステルまたはポリカーボネイトの板材によって形成されていることを特徴とする微生物検査チップ。
【請求項7】
請求項1または2に記載の微生物検査チップにおいて、
前記本体は、ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリエチレンテレフタラート,ポリカーボネイト,アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂,ポリメタクリル酸メチルエステルのうち一種類以上の物質から構成されることを特徴とする微生物検査チップ。
【請求項8】
請求項1または2に記載の微生物検査チップにおいて、
前記本体と前記流路部材は、同一の物質から構成されていることを特徴とする微生物検査チップ。
【請求項9】
請求項1〜9の何れかに記載の微生物検査チップと、前記生物検査チップが着脱可能に取り付けられ、前記生物検査チップをXY方向に移動させるためのX−Yステージと、前記菌体検出部に励起光を照射し前記菌体検出部からの蛍光を検出する検出装置とを有し、
前記検出装置における前記励起光の光軸と前記蛍光を検出するレンズ系の光軸が同軸であり、
前記微生物検査チップ本体の平面が、前記励起光の光軸に対して直角となるように、前記微生物検査チップを前記X−Yステージに取り付けていることを特徴とする微生物検査装置。
【請求項10】
請求項9に記載の微生物検査装置において、前記励起光は、前記菌体検出部の菌体検出用流路に対して垂直に入射されることを特徴とする微生物検査装置。
【請求項11】
請求項9において、前記蛍光を検出するレンズ系における対物レンズの立体角をδ、前記励起光の入射角度から求められる誤差範囲をβとすると、
前記菌体検出部の表面と励起光の光軸のなす角度θを、θ=90°−(1/2)δ±βとしたことを特徴とする微生物検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−220947(P2011−220947A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92752(P2010−92752)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】