説明

微粉炭燃焼灰を利用した環境改善材

【課題】産業廃棄物である微粉炭燃焼灰(フライアッシュ)と、同じく産業廃棄物である高炉スラグを原料として用い、また粒度を大きくすることで、用途を広くした環境改善材を提供する。
【解決手段】微粉炭燃焼灰と、水溶性高分子と、高炉スラグ微粉と、石膏を混合し、断面形状を5〜20mmの円形、長さを10〜50mmに造粒した環境改善材。微粉炭燃焼灰と水溶性高分子にて製作した製品では強度不足であるが、高炉スラグを使用した結果、空隙率が増し、液体の吸収性が増大し、石膏添加により強度が増す。微粉炭燃焼灰の固化剤として多く使用されているセメントと比較し、少量の使用で固化が始まり、製造時間が短縮する。その結果、製品製造時の乾燥工程の短縮が実現できる。大粒に造粒することで、水、油の吸着性が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物である微粉炭燃焼灰を利用して、消臭、吸湿、吸水、流失油の吸着等の機能を持つ環境改善材に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所の微粉炭燃焼ボイラでは、微粉炭燃焼灰である石炭灰が発生する。石炭灰の発生箇所によって、フライアッシュ(飛灰)、シンダアッシュ、クリンカアッシュに分類される。フライアッシュは、微粉炭燃焼ボイラの燃焼ガスから集塵器で採取された石炭灰である。シンダアッシュは、微粉炭燃焼ボイラの燃焼ガスが、空気予熱器・節炭器などを通過する際に落下採取された石炭灰である。クリンカアッシュは、微粉炭燃焼ボイラの炉底に落下して採取された石炭灰である。
【0003】
フライアッシュの主成分はSiO2とAl23であり、この2つが全体の70〜80%を占める。
フライアッシュは、全国の石炭火力発電所で年間に800万トン程が産業副産物として発生しており、その有効利用が研究され、実用化が図られている。微粉炭燃焼のフライアッシュの平均粒径は25μm程度で、そのままでは風で飛散しやすいなど、取り扱いが難しい。
【0004】
特許文献1には、石炭灰と、カルボキシル基を有する水溶性高分子と、水を混合して平均粒径1.7〜1.9mmの粒状体を製造する方法が開示されており、また、無機系固化剤として水硬性セメントを用いることが記載されている。その用途は、コンクリートの骨材、路盤材、アスファルト合材である。
【0005】
特許文献2には、石炭灰と、水溶性ポリマーと、セメントを混合し、粒径が0.3〜5mm、平均粒径1mmの粒状体を製造する方法が開示されており、その用途は建築材の骨材とすることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、石炭灰、セメントを含む混合物を発泡、硬化させた、粒径が1〜6mmの多孔性セラミック粒子が開示されており、その用途は、水分調整材、脱臭剤、微生物定着材、ろ過材、土壌改良材、家畜用敷料とすることが記載されている。
【0007】
特許文献4には、焼却灰と、セメント系固化材と、ゼオライトを含有しているペット及び家畜の糞尿処理材が開示されており、その平均粒径は0.1〜10mm、pHは6〜12好ましくは7〜10としている。
【0008】
特許文献5には、石炭灰に、コンクリートと水溶性ポリマーと有機酸/無機酸を混合して粒状化する方法が記載されている。
【0009】
特許文献6には、石炭灰と、高炉スラグ微粉末と、骨材とを含む組成物から形成された固化体において、骨材としてガラスカレットを用いて、高強度を発現する固化体を得ることが開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開平8−243527号公報
【特許文献2】特開平10−296207号公報
【特許文献3】特開2001−37040号公報
【特許文献4】特開2003−23894号公報
【特許文献5】特開平10−296208号公報
【特許文献6】特開2004−115291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前掲の特許文献1〜5には、微粉炭燃焼灰(フライアッシュ)を建築材の骨材として用いる場合、造粒のための固化剤として、水溶性高分子と、セメント固化剤を用いているが、セメントは新材であるので、産業副産物(産業廃棄物)をリサイクルする用途としては、不十分であった。さらに、セメントは微量の六価クロムや鉛等の重金属を含むことが知られており、これを環境改善材として用いることの問題が指摘されている。
【0012】
さらに、これらの材料は、造粒後の粒度が2〜3mm、大きくても10mm以下であり、水分や油分の吸収性能に限界があり、屋外で使用した場合に、風で飛散したり、畜舎や等での家畜の重量で押しつぶされたりするという問題があった。
【0013】
特許文献6では、セメントを使用せず、フライアッシュの固化剤として産業廃棄物である高炉スラグ微粉末を使用しているので、リサイクルとして一歩進んでいるが、骨材としてガラスカレットを使用した固化体であり、コンクリート製品の骨材である砂、砂利の代替物として使用することを目的としており、フライアッシュの特性である消臭、吸湿、吸水、流失油の吸着等の機能を活かしたものではない。
【0014】
本発明は、産業廃棄物である微粉炭燃焼灰(フライアッシュ)と、同じく産業廃棄物である高炉スラグを原料として用い、また粒度を大きくすることで、用途を広くした環境改善材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明の環境改善材は、微粉炭燃焼灰と、水溶性高分子と、高炉スラグ微粉と、石膏を混合し、断面形状を5〜20mmの円形、長さを10〜50mmに造粒したことを特徴とする。
【0016】
微粉炭燃焼灰(フライアッシュ)は、ポーラスであるため、水分および他の液体吸収性に優れている。また、水と反応して硬化する潜在水硬性を示す。さらに、造粒が容易である。
【0017】
水溶性高分子は、セルロースを原料として得られるアニオン系水溶性高分子を使用することができる。これは、食品、化粧品、医療品に使用される水溶性高分子であり、家畜、家禽土壌に利用するのに最も適した安全性が保障される。また、水溶性高分子は、造粒時の膨化性、抱水性、押出安定性があり、粘結剤として機能する。造粒後には、乾燥強度増強補助剤としても機能する。
【0018】
高炉スラグは、溶鉱炉で銑鉄製造の際に生じる鉱滓である。微粉炭燃焼灰と水溶性高分子にて製作した製品では強度不足であるが、高炉スラグを使用した結果、空隙率が増し、液体の吸収性が増大し、石膏添加により強度が増す。微粉炭燃焼灰の固化剤として多く使用されているセメントと比較し、少量の使用で固化が始まり、製造時間が短縮する。その結果、製品製造時の乾燥工程の短縮が実現できる。高炉スラグとセメントの特性の比較を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
以上のことから、環境的にも、また、製造上やコスト的にも、高炉スラグがセメントに比して優れていることがわかる。
【0021】
石膏(CaSO4・2H2O)は、高炉スラグの固化を早めるために、また強度を高めるために使用する。
【0022】
形状としては、動物園における象等の大動物飼育用に、長さ50mm、直径20mmとする。また、土壌の水分調整材として土中に30cm〜1mの深さに埋め込み、保水性、過剰水の調整に使用する場合のサイズとして、長さ50mm、直径20mmとした。その他の用途については、断面形状を5〜20mmの円形、長さを10〜50mmとすることができる。
【0023】
断面形状の径が5mm未満、長さが10mm未満では、水や油の吸着性が低くなる。径が20mm、長さが50mmを超えると、成型上の問題と、強度を維持することが困難になる。粒の形状として、球状にすることが考えられるが、パン型、ドラム型、振動型等の転動造粒機が必要であり、造粒の工程が複雑になり、またつぶれにくい硬い粒を作るのが困難である。棒状に押し出したものを所定の長さに切断して造粒すれば、工程が簡単で連続して一定形状のものを製造できる。
【0024】
微粉炭燃焼灰のpHを11〜13とすることにより、酸性土壌中和に適したものとすることができる。また、アンモニア揮散を低減することができる。
【0025】
本発明の環境改善材の用途としては、その特性を利用して、水分、油分の吸着剤、畜舎、動物園における動物の糞尿の消臭のための敷料、堆肥製造のための発酵促進剤、土壌pH調整剤、肥料、食肉処理場における内臓、血液、汚物等の吸着剤等、多くの用途に使用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、産業廃棄物である微粉炭燃焼灰と、同じく産業廃棄物である高炉スラグを原料として用い、また粒度を大きくすることで、用途を広くした環境改善材を提供することができる。
【0027】
特に、断面形状を5〜20mmの円形、長さを10〜50mmの粒状としたことにより、次の効果が得られる。
1.微粉炭燃焼灰(フライアッシュ)が圧縮され、水分、油分の吸収が5倍程度増える。
2.水溶性高分子を造粒物に入れることにより、微粉炭燃焼灰や高炉スラグの粒子間の接着効果によって強度が増し、水分油分の吸収が10倍ほど増える。
3.高炉スラグを造粒物に入れることにより、造粒物強度が増し、牛や象等の大動物の敷料として長期間、使用に耐える。
4.造粒により、微粉炭燃焼灰の畜舎飛散を防止できる。
5.不足している従来の敷料(鋸くず、チップかす、籾殻)を補い、コストも軽減できる。
6.造粒物が堆肥製造時に粒体であり、酸素の通気を促し、発酵を促進する。
7.チップかす、鋸くず、籾殻は堆肥として完熟するのに長期間(2〜3年)必要であるが、微粉炭燃焼灰は堆肥切り返しの時点で粉砕され、混合物となる。
8.造粒物は流失油吸着後、形状が破壊せず、簡単に撤去でき、吸収油量も多く、焼却後には微粉炭燃焼灰しか残らず、肥料等に再生できる。
9.食肉、食鶏処理場等から発生する血液、汚物等の液状物質吸着剤として利用することができ、液体吸着後においては、固形物の水分は減少し、処理が容易となる。液体吸着物は焼却し、肥料または再度吸着剤として利用できる。
【0028】
また、pHを12程度(11〜13)とすることによりアンモニア濃度を低下させ、畜舎内外、動物園近傍の環境を改善することができる。また、pH12程度の微粉炭燃焼灰は、それ自体が良質の肥料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、本発明の環境改善材の製造プラントを示す構成図である。このプラントは、微粉炭燃焼灰ホッパー1、水溶性高分子ホッパー2、高炉スラグホッパー3、スクリュー式の造粒機4、乾燥機5、製品ホッパー6よりなっている。
【0030】
まず、微粉炭燃焼灰ホッパー1からの微粉炭燃焼灰、水溶性高分子ホッパー2からの水溶性高分子、高炉スラグホッパー3からの高炉スラグを定量、造粒機4に投入する。これに、水を20〜30質量%加えながら、スクリューで撹拌する。材料は造粒機4の下流側に行くにつれてよく混合され、造粒機4の出口の部分でスクリューにより棒状の粘稠物として所定の圧力で押し出され、所定の長さに切断されて粒状となる。その粒状のものは、乾燥機5で乾燥され、製品ホッパー6に排出される。これにより、断面形状が5〜20mmの円形、長さが10〜50mmの粒が製造される。
【0031】
本発明のように、比較的大粒に造粒することの狙いは次の通りである。
比較的清潔な場所においての環境改善材の使用例としては、家庭の屋内飼育で使用する猫用トイレとしての猫砂などがある。大粒であると、猫の体に付着して室内を汚すようなことが少ない。また、消臭効果も高い。
【0032】
屋外で使用する場合としては、肉用鶏(ブロイラー)の鶏舎における吸水、脱臭材であり、これには断面形状が5mm径、長さが10mm程度のものが適している。鶏の場合には、糞を排便するが、哺乳類のような排尿はない。よって、造粒物の液体吸着量は少なくてよい。しかし、大羽数飼育の鶏が飲水時に水をこぼす場合がある。また夏季では、飲水量が増え、排尿はないものの軟便となり大量の吸収物が発生する。従来の敷料は2mm〜10mm程の鋸屑、チップ屑が主体であり、このサイズが標準的である。このサイズに合わせ、環境改善材のサイズも5〜10mmの形状とした。糞尿処理時に好気性発酵を促進するために、この鶏糞を取り扱う用途については、このサイズが理想的である。
【0033】
牛や豚の場合、とくに搾乳する乳牛(ホルスタイン)の場合は、大量の水を引水するため、その排尿の量も多い。この用途に対しては、大量な吸収能力を持たせるため、断面10〜20mmの径、長さが20〜50mmの大粒の造粒物が好ましい。同様に、食肉処理場、動物園等においては、汚物吸着量並びに消臭の目的においても、大粒の形状が最も効果的であった。
【0034】
糞尿処理場において、処理物水分含水量は、水分60%〜90%(質量)以上と、様々な含水率である。粉乳処理場においての水分吸着剤として断面20mm径、長さ50mmが理想的であった。
【0035】
糞尿に他の混合剤(鋸屑、チップ屑、籾殻)等を加え、発酵適正水分60%にするためには、他の混合物では吸水性が少なく、大量の混合物が必要となるが、処理量が増大し、臭気も増す。しかし、本発明の造粒物を用いることで、吸収性が高くなり、少量にて水分を吸収する上に、脱臭効果が大であった。
【0036】
油分の吸収については、漏油量に応じて、少量の場合には直径5mm、長さ10mmの造粒物、多量の場合には直径20mm、長さ50mmの造粒物が適していた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の環境改善材は、水分、油分の吸着剤、畜舎、動物園における動物の糞尿の消臭のための敷料、堆肥製造のための発酵促進剤、土壌pH調整剤、肥料、食肉処理場における内臓、血液、汚物等の吸着剤等、多くの用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の環境改善材の製造プラントを示す構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1 微粉炭燃焼灰ホッパー
2 水溶性高分子ホッパー
3 高炉スラグホッパー
4 造粒機
5 乾燥機
6 製品ホッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉炭燃焼灰と、水溶性高分子と、高炉スラグ微粉と、石膏を混合し、断面形状を5〜20mmの円形、長さを10〜50mmに造粒した環境改善材。
【請求項2】
pHを11〜13とした請求項1記載の環境改善材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−7610(P2007−7610A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194139(P2005−194139)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(505251668)
【Fターム(参考)】