説明

微粒子の分級方法および成膜方法

【課題】 目的の粒径をもった微粒子を効率よく分級する分級方法を提供し、該分級方法を用いた、成膜装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 搬送ガス中に分散させた微粒子を搬送管内に流しながら該微粒子を分級する分級方法であって、前記搬送ガス中に分散させた前記微粒子の進行方向に対して、前記搬送管内に、各々の孔の位置が一致しないように、各々が多数の孔を備える多孔フィルタを複数配置すると共に、前記多孔フィルタを加熱する、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の発生方法に関わらず、目的とする粒径以上の径をもつ粒子を排除する分級方法であって、特に圧電体などのセラミック微粒子を含むエアロゾルを基板上に吹き付けて成膜するエアロゾルデポジション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゾル中の超微粒子を粒径に応じて分級する方法として、エアロゾルの流れと対面するように遮蔽板を設けてエアロゾルを吹き付けることにより、特定の粒径以上の超微粒子を遮蔽板に堆積させて除去する方法が特許文献1に開示されている。また、エアロゾル中の微粒子を分級するに際し、対象となる微粒子を帯電させた上で静電界を印加し、微粒子の大きさによって媒質ガス中の移動度が異なることを利用して行う分級方法がある。
【特許文献1】特開平11−21677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記遮蔽板を用いた分級の場合には、エアロゾルおよび搬送ガスの流れに対して対面するように遮蔽板が設置されるため、微粒子およびガス流が妨げられてしまい、エアロゾルの流速が落ちてしまう。このため粒子が十分な運動エネルギーをもたないまま基板に衝突し、微粒子の運動エネルギーが熱エネルギーに変換される際に、焼結を生じるのに充分な高温が得られない。また微粒子の飛翔経路が複雑になるため、微粒子同士が再結合して分級装置を通り抜けて以降に粒径の大きな粒子が発生してしまう。
【0004】
このため、堆積膜中に焼結していない部分が残る、あるいは粒径の大きな微粒子によって堆積膜がエッチングされてしまうことによって成膜レートが著しく低下するといった問題を有していた。
【0005】
また、上記第二の従来例のような電気的な分級においては、微粒子を帯電させるために静電気力による微粒子の凝集が起こりやすくなり、目的とする粒径を持つエアロゾルの絶対数が減少し、成膜レートが低下するという問題を有していた。
【0006】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、目的の粒径をもった微粒子を効率よく分級し、成膜レートを向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は上記課題を解決するものであり、エアロゾル中の微粒子を粒径に応じて分級する分級方法であって、エアロゾル搬送管内に多孔フィルタを前記エアロゾルの進行方向に対してフィルタの孔位置が一致しないように複数配置し、さらに前記多孔フィルタを加熱することによって、インパクター効果に併せて微粒子の熱泳動効果をもって微粒子を分級する方法を提供するものである。
【0008】
(2)本発明は、また、前記微粒子の進行方向に対して重ならないように存在する孔を通過できるように、前記複数のフィルタのうちエアロゾル供給源側に設置してあるフィルタの方を微粒子の進行方向に対して厚くしておき、熱泳動により微粒子が移動できる距離を充分に確保し、さらに噴射ノズル側のフィルタを供給源側のフィルタより300℃以上高温に保持することによって前記エアロゾル供給源側のフィルタを通過してきた微粒子が、噴射ノズル側のフィルタに衝突しないようになっていることによって効率的に微粒子を分級する方法を提供するものである。
【0009】
(3)本発明は、また、前記微粒子を搬送するガスを150℃以上に加熱し、また前記複数のフィルタのうちエアロゾル発生源側に設置してあるフィルタを前記搬送ガスより100℃以上低温に、前記複数のフィルタのうち噴射ノズル側に設置してあるフィルタを前記搬送ガスより100℃以上高温に保持することによって、フィルタおよび媒質ガス間に温度差を設け、充分な熱泳動効果を得ることによって微粒子を分級する方法を提供するものである。
【0010】
(4)本発明は、また、前記搬送管を300℃以上に保持することによって、前記搬送管に微粒子が付着することを防ぎ、効率よく分級および微粒子の噴射を行う方法を提供するものである。
【0011】
(5)本発明は、また、前記フィルタの孔径を500〜1500μmとし、一枚のフィルタに500〜1000個の孔をもたせることで所望の粒径の微粒子を選択的に分級する方法を提供するものである。
【0012】
(6)本発明は、また、前記熱泳動による効果を最大限発揮させるために、前記複数のフィルタ間の距離を、フィルタ孔径の2〜5倍とすることによって微粒子を分級する方法を提供するものである。
【0013】
(7)本発明は、また、微粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾル中に含まれる前記微粒子を分級した後に、前記エアロゾルを搬送管中を差圧を利用して搬送し、基板に高速で噴射して成膜を行う成膜方法において、上記分級方法を用いることを特徴とする成膜方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成された本発明の分級方法によれば、複数配置されたフィルタは請求項6記載のように多孔フィルタであり、微粒子の搬送ガス流が阻害されにくく、各々の微粒子の運動エネルギー低下が最小限に抑えられるため、微粒子が基板に衝突した際に微粒子の持つ運動エネルギーが焼結に必要な充分な熱エネルギーに変換されるため、成膜時の密着性を向上させることができる。
【0015】
また、上記のように構成された本発明の分級方法によれば、粒子を帯電させることなく熱を用いて分級を行うため、静電気による凝集が起こらず、微粒子の噴射レートを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を図を用いて説明する。図1は本発明を含むエアロゾルデポジション法による成膜装置の全体図である。図中1に示されるエアロゾル化室には、原料となる粉体9が満たされており、マスフローコントローラ7によって制御された搬送ガスがエアロゾル化室1に導入される。前記搬送ガスによって発生したエアロゾル微粒子は、成膜室3間との差圧によって吸い上げられ、搬送管2内を成膜室へ向かって移動するようになっている。搬送されたエアロゾルは分級器8を通ることによって特定の粒径をもつ粒子のみが分級され、噴射ノズル5から基板10に向かって噴射される。このとき基板はステージ4によって位置制御がなされ、所望の位置に微粒子を噴射し、膜をパターニングできるようになっている。
【0017】
図1においてはガス導入によるエアロゾル化が図示されているが、本発明においてエアロゾルの発生方法はアーク放電やレーザーアブレーション等、他の方法でも構わない。
【0018】
図2は分級器の内部構造を模式的に表している。300℃以上に加熱された搬送管2内部にはエアロゾル粒子を含む搬送ガス13が流れており、概搬送ガスは150℃以上に加熱されている。エアロゾル発生源側に設置された分級フィルタ11は、噴射ノズル側に設置された分級フィルタ12より厚くなっており、特に加熱されずに、または冷却されて室温〜50℃程度の温度範囲に維持されている。噴射ノズル側に設置された分級フィルタ12は、前記搬送ガスより100℃以上(300℃以上が望ましい)に保持され、前記分級フィルタ11と併せて熱泳動による分級効果を発揮できるようになっている。前記分級フィルタ11および12には、直径500〜1500μmの孔が800〜1000個あいており、これらの孔をすり抜けた微粒子のみが噴射ノズルから噴射され、基板上に堆積される。
【0019】
所望の径以上の大きな粒子は運動エネルギーが大きく、また熱泳動による移動効果も低いため、図2に示されるように分級フィルタ11または分級フィルタ12の孔以外の部分に衝突し、前記フィルタ上に堆積される。運動エネルギーの小さな小粒子は熱泳動効果も大きく、また前記分級フィルタによるインパクター効果によってその軌道を変え、前記分級フィルタに衝突することなく噴射ノズルから噴射される。
【0020】
熱泳動による粒子の移動は、以下の式で定義される。
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

νTh:熱泳動速度
KT :熱泳動係数
α :気体と粒子の熱伝導比率
Kn :クヌーセン数
η :気体の粘性係数
ρ :気体の密度
【0023】
各パラメータを代入し、粒径による移動速度を計算したものが図5である。
【0024】
図5より、粒径が大きいほど熱泳動速度が遅くなることがわかる。すなわち粒径の大きな粒子は、熱をかけてもほとんど移動せず、その軌道を変えることがない。従って前記分級フィルタに衝突し、噴射ノズルまで到達しない。
【0025】
次にインパクターの効果は、以下の式によって定義される。
【0026】
【数3】

dp :エアロゾルの粒径
C :カニンガムのスリップ補正係数
Q :吸引流量
ρ :エアロゾルの比重
μ :空気の粘度
N :ジェットノズルの数
Dc :ジェットノズルの直径
Ψ50:無次元慣性パラメータ
Ψ50:無次元慣性パラメータ
【0027】
孔径を600μm、孔数を20とすると、ガス流量1L/minで約1μmの粒子を分級することができる。分級したい粒子の径によって、前記孔径および孔数、ガス流速などを変化させることで様々な径の粒子を分級することが可能となる。
【実施例1】
【0028】
以下に本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。前記図1に示されるような装置において、エアロゾル化室1に平均粒径1μmのPZTの紛体9を20g封入し、成膜室3の真空度を0.5Paにし、その状態で20L/minの空気を前記エアロゾル化室1に導入した。エアロゾル化室1に封入されているPZTの紛体9はこのガス流によってエアロゾル化し、成膜室3との差圧によって搬送管2に引き込まれ、噴射ノズル5に向かって移動する。
【0029】
エアロゾル化したPZTの微粒子は分級器8に到達し、そこで分級される。この分級器の構造を図3に示す。分級器は搬送管2と連通しており、分級器内径bは20mm、搬送管の直径aが4.3mmである。分級器の内部には複数のフィルタ11および12が設置されており、それぞれのフィルタの孔径cを500μmとし、孔数800個のものを使用した。エアロゾル発生源側分級フィルタ11の厚さは10mm、噴射ノズル側分級フィルタ12の厚さは5mmであり、前記分級フィルタ11および12の間隔dは25mmとした。
【0030】
前記フィルタは、エアロゾルガス流13の進行方向に対して孔の位置が一致しないように設置した。これを図示したものが図4である。前記噴射ノズル側分級フィルタ12およびエアロゾル発生源側分級フィルタ11には前述の通り、それぞれ500μmの孔が800個あり、図4に示されているのはその一部である。
【0031】
前記分級器を含めた搬送管は、ヒーターによって300℃に加熱されている。加熱手段は何でもよいが、本装置ではテープヒーターを用いて加熱した。エアロゾル粒子は前記搬送管中を前記搬送ガス流によって移動するが、概搬送ガスを150℃に加熱する。このとき前記搬送管と搬送ガスとの温度差によって熱泳動が起こり、エアロゾル粒子の搬送管への付着を低減できる。
【0032】
前記分級器内に設置した前記噴射ノズル側分級フィルタは通電加熱によって400℃に加熱されており、概噴射ノズル側分級フィルタとの温度差を設けるために、前記エアロゾル発生源側分級フィルタは水冷機構18をもって冷却し、室温〜50℃程度の温度範囲に維持する。
【0033】
以上の条件でPZTのエアロゾル粒子を基板に噴射し成膜を行い、接触式の膜厚計で膜厚を測定したところ、膜厚は5μmであり、膜厚分布は±5%であった。また、噴射された粒子の粒径をSEMを用いて観察したところ、膜を構成する粒子の平均粒径は1μm程度であった。なお、成膜条件は、噴射ノズル形状:5mm×0.5mmの長方形、基板:ガラス基板、基板加熱:150℃である。
【実施例2】
【0034】
図2に示されるような装置において、エアロゾル化室1に平均粒径0.1μmのAlの紛体9を20g封入し、成膜室3の真空度を0.5Paにし、その状態で10L/minの空気を前記エアロゾル化室1に導入した。エアロゾル化室1に封入されているAlの紛体9はこのガス流によってエアロゾル化し、成膜室3との差圧によって搬送管2に引き込まれ、噴射ノズル5に向かって移動する。
【0035】
エアロゾル化したAlの微粒子は分級器8に到達し、そこで分級される。図3に詳細に示される分級器は搬送管2と連通しており、分級器内径bは20mm、搬送管の直径aが4.3mmである。分級器の内部には複数のフィルタ11および12が設置されており、それぞれのフィルタの孔径cを500μmとし、孔数400個のものを使用した。エアロゾル発生源側分級フィルタ11の厚さは10mm、噴射ノズル側分級フィルタ12の厚さは5mmであり、前記分級フィルタ11および12の間隔dは20mmとした。
【0036】
前記フィルタは、図4のようにエアロゾルガス流13の進行方向に対して孔の位置が一致しないように設置した。前記噴射ノズル側分級フィルタ12およびエアロゾル発生源側分級フィルタ11には前述の通り、それぞれ500μmの孔が400個あり、図4に示されているのはその一部である。
【0037】
前記分級器を含めた搬送管は、ヒーターによって300℃に加熱されている。加熱手段は何でもよいが、本装置ではテープヒーターを用いて加熱した。エアロゾル粒子は前記搬送管中を前記搬送ガス流によって移動するが、概搬送ガスを150℃に加熱する。このとき前記搬送管と搬送ガスとの温度差によって熱泳動が起こり、エアロゾル粒子の搬送管への付着を低減できる。
【0038】
前記分級器内に設置した前記噴射ノズル側分級フィルタは通電加熱によって400℃に加熱されており、概噴射ノズル側分級フィルタとの温度差を設けるために、前記エアロゾル発生源側分級フィルタは水冷機構18をもって冷却し、室温〜50℃程度の温度範囲に維持する。
【0039】
以上の条件でAlのエアロゾル粒子を基板に噴射し成膜を行い、接触式の膜厚計で膜厚を測定したところ、膜厚は3μmであり、膜厚分布は±5%であった。また、噴射された粒子の粒径をSEMを用いて観察したところ、膜を構成する粒子の平均粒径は1μm程度であった。なお、成膜条件は、噴射ノズル形状:5mm×0.5mmの長方形、基板:ガラス基板、基板加熱:150℃である。
【0040】
以上のように各部を所定の温度にすることにより、各々の温度差によって熱泳動効果を得ることができ、さらに分級フィルタの孔径および孔数、フィルタ間の距離を調整することによって所望の粒径をもつ粒子のみを分級することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態における分級装置を含むエアロゾルデポジション法成膜装置の全体図である。
【図2】本発明における分級装置の基本的な原理図である。
【図3】本発明の実施形態における分級装置の基本的な原理図である。
【図4】本発明の実施形態における分級装置内に設置された分級フィルタの配置図である。
【図5】粒径による移動速度を計算した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 エアロゾル化室
2 エアロゾル搬送管
3 成膜室
4 ステージ
5 エアロゾル噴射ノズル
6 排気ポンプ
7 マスフローコントローラ
8 分級器
9 原料紛体
10 成膜基板
11 エアロゾル発生源側分級フィルタ
12 噴射ノズル側分級フィルタ
13 搬送ガス流
14 微小粒子
15 大粒子
16 搬送管過加熱機構
17 分級フィルタ加熱用電極
18 水冷管
19 噴射口側分級フィルタの孔
20 エアロゾル発生源側分級フィルタの孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ガス中に分散させた微粒子を搬送管内に流しながら該微粒子を分級する分級方法であって、前記搬送ガス中に分散させた前記微粒子の進行方向に対して、前記搬送管内に、各々の孔の位置が一致しないように、各々が多数の孔を備える多孔フィルタを複数配置すると共に、前記多孔フィルタを加熱する、ことを特徴とする微粒子の分級方法。
【請求項2】
微粒子を搬送ガス中に分散させたエアロゾル中に含まれる前記微粒子を分級した後に、前記エアロゾルを搬送管中を差圧を利用して搬送し、基板に高速で噴射して成膜を行う成膜方法において、
前記微粒子を分級するに際し、前記エアロゾルが前記搬送管内を進行する方向に対して、前記搬送管内に、各々の孔の位置が一致しないように各々が多数の孔を備える多孔フィルタを多数配置し、さらに前記多孔フィルタを加熱することを特徴とする成膜方法。
【請求項3】
前記フィルタは、噴射ノズル側に設置してあるフィルタの方が微粒子の進行方向に対して薄くなっており、さらに噴射ノズル側のフィルタが供給源側のフィルタより300℃以上高温に保持されていることを特徴とする請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記搬送ガスは150℃以上に加熱されていることを特徴とする請求項2または3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記エアロゾルの進行方向に対して上流側のフィルタの温度が、前記搬送ガスの温度に比して100℃以上低温に保持され、前記エアロゾルの進行方向に対して下流側のフィルタの温度が前記搬送ガスの温度に比して100℃以上高温に保持されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項6】
前記搬送管が300℃以上に保持されていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項7】
前記フィルタの孔径は500〜1500μmであることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項8】
前記複数のフィルタは、フィルタ孔直径の2〜5倍の間隔をあけて設置されていることを特徴とする請求項2乃至7のいずれかに記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−198577(P2006−198577A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15524(P2005−15524)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】