説明

微細空間への金属充填方法

【課題】空隙やボイドなどを生じることなく、微細空間を硬化金属によって満たし得る方法を提供すること、微細隙間で冷却された硬化金属の凹面化を回避し得る方法を提供すること、及び、工程の簡素化、歩留りの向上などに寄与し得る方法を提供すること。
【解決手段】処理対象である対象物2に存在する微細空間21に溶融金属4を充填し硬化させるに当たって、微細空間21の開口する開口面からその内部に溶融金属4を充填した後、微細空間21内の充填溶融金属41を、大気圧を超える強制外力F1を印加した状態で冷却し硬化させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物に存在する微細空間に溶融金属を充填し硬化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイスによって代表される電子デバイスや、マイクロマシン等においては、内部に高アスペクト比を持つ微細な導体充填構造、接合構造又は機能構造を形成しなければならないことがある。このような場合、予め選択された充填材を微細空間内に充填することによって、導体充填構造、接合構造及び機能構造等を実現する技術が知られている。しかし、高アスペクト比を持つ微細空間内に、空隙や硬化後変形などを生じさせることなく、その底部まで、充填材を充分に充填することは、困難を極める。
【0003】
例えば、半導体デバイスの製造に用いられるウエハ処理の場合を例にとると、ウエハには、電極等を形成するための多数の微細空間(孔)が設けられており、その微細空間は、孔径が例えば数十μm以下であり、非常に小さい。しかも、このような微小孔径の微細空間に対して、ウエハの厚みはかなり厚く、微細空間のアスペクト比が5以上になることも多い。電極を形成するためには、このような微小で、高アスペクト比の微細空間に、その底部に達するように、導電材料を確実に充填しなければならないので、当然、高度の充填技術が要求される。
【0004】
電極形成技術としては、導電金属成分と有機バインダとを混合した導電性ペーストを用いる技術も知られているが、導電性に優れ、損失が低く、しかも高周波特性に優れた溶融金属材料を用いる冶金的な技術が注目されている。そのような技術は、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0005】
まず、特許文献1は、溶融金属埋め戻し法により、微細空間(貫通孔)内に金属を充填する技術を開示している。溶融金属埋め戻し法とは、対象物(ウエハ)の置かれている雰囲気を減圧し、次いで減圧状態を保ったまま、前記対象物を溶融金属に挿入し、次いで前記溶融金属の雰囲ガス圧を加圧して、金属挿入前後における雰囲ガス圧差により前記空間に溶融金属を充填し、次いで対象物を溶融金属槽から引き上げて、大気中で冷やす方法である。
【0006】
しかし、この溶融金属埋め戻し法には、次のような問題点がある。
(a)対象物を溶融金属槽から引き上げて冷やすと、金属表面が、対象物の表面よりも低い位置まで凹面状にくぼんでしまう。このため、外部との間の電気的導通が不完全になることがある。
(b)上述した問題点を解決するためには、凹面を埋めるべく、再度、溶融金属を供給しなければならない。しかも、凹面を埋めるためには、供給された金属の表面を、対象物の表面よりも高く突出させる必要があるから、金属の表面を対象物の表面と一致させるための工程、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)工程が必要になる。これらは、工程の複雑化、それに伴う歩留りの低下など招く要因となる。
(c)更に大きな問題点は、上述したような複雑な工程を要するにもかかわらず、微細空間の、特に底部に、溶融金属の充填の不十分な空隙等が生じてしまうことである。
【0007】
次に、特許文献2は差圧充填方式を開示している。この差圧充填方式では、微細空間が形成された対象物と金属シートとを真空チャンバ内に配置した後、真空チャンバ内を減圧し、金属シートを加熱手段により溶融させ、次いで真空チャンバ内を不活性ガスで大気圧以上に加圧する。これにより、溶融した金属が微細空間内に真空吸入される。次いで真空チャンバを開放して、試料表面に残った溶融状態の金属を取り除き、その後、大気中で室温冷却する。
【0008】
特許文献2の記載によれば、溶融金属埋め戻し法(特許文献1)と比べて、溶融金属の熱容量が少ないから、試料に反りや割れが生じないこと、余剰金属を最小限に抑制することができ、コスト低減を図ることができることなどの効果があるとされている。
【0009】
しかし、特許文献2に記載された差圧充填方式では、溶融金属が微細空間の底部まで完全には充填されず、内部に空隙が生じてしまう。
【0010】
また、試料表面に残った溶融状態の金属を取り除くので、その工程において、微小隙間に充填されている溶融金属の一部(上端側)も削り取られてしまう。このため、依然として凹面の問題が残る。
【0011】
実際、差圧充填方式により製造されたウエハ及びそれを用いたデバイスが、未だ市場に提供されていないのは、上述した問題点が解決できていないことの証左である。
【0012】
微細空間へ溶融金属を充分に充填する際に生じる技術的困難性は、半導体デバイス用ウエハ処理の場合に限って問題となるものではない。他の電子デバイスや、マイクロマシン等においても、同様に問題となり得る。
【特許文献1】特開2002−237468号公報
【特許文献2】特開2002−368082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、凹面化、空隙、ボイドなどを生じることなく、微細空間を金属充填材によって満たすことのできる方法を提供することである。
【0014】
本発明のもう一つの課題は、冷却後の溶融金属の再供給やCMP工程等が不要で、工程の簡素化、歩留りの向上などに寄与しえる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題の少なくとも1つを解決するため、本発明は、処理対象となる対象物に存在する微細空間に、溶融金属を充填し硬化させるに当たり、前記微細空間内の前記溶融金属に強制外力を印加したままで、前記溶融金属を冷却し硬化させる工程を含む。
【0016】
上述したように、本発明に係る方法では、微細空間内の溶融金属に強制外力を加えままで、溶融金属を冷却し硬化させる工程を含むから、外部から加えられる強制外力によって、溶融金属を微細空間の底部まで充分に充填するとともに、熱収縮による金属の変形を抑えることができる。このため、空隙やボイドなどを生じることなく、微細空間を金属体によって満たすことができる。
【0017】
同様の理由で、微細隙間で冷却された際に生じる溶融金属の凹面化も回避しえる。このため、外部との電気的導通を確実に確保し得る。
【0018】
更に、金属体の凹面化を回避しえるから、冷却後の溶融金属の再供給やCMP工程等が不要であり、工程の簡素化、歩留りの向上などに寄与しえる。
【0019】
本発明において、強制外力とは、自然放置したときに加わる圧力、典型的には、大気圧は含まないことを意味する。この強制外力は、圧力、磁力または遠心力から選択された少なくとも一種で与えられる。前記圧力は、正圧で与えられてもよいし、負圧で与えられてもよい。負圧の場合、吸引力となる。前記圧力は、具体的には、プレス圧又はガス圧で与えられる。
【0020】
強制外力の別の形態として、射出機による射出圧力を利用する形態もある。この場合は、対象物の開口面上に射出機によって溶融金属を供給し、その射出圧力による強制外力を印加したままで、前記溶融金属を冷却し硬化させる。
【0021】
強制外力を印加する場合、硬化工程の初期の段階では、静圧のみならず、動圧も積極的に利用し、動圧によるダイナミックな押込み動作を行わせることが好ましい。この手法によれば、溶融金属を、微細空間の底部まで確実に到達させ、底部に未充填領域が生じるのを、更に確実に回避することができるようになる。
【0022】
本発明において、工程の少なくとも一部は、真空チャンバ内の減圧雰囲気内で実行される。真空チャンバ内の減圧雰囲気により、溶融金属を、微細空間に真空吸引することができるからである。減圧雰囲気とは、大気圧を基準にして、それよりも低い圧力の雰囲気をいう。
【0023】
溶融金属は、好ましくは、開口面上にその金属薄膜が生じるように供給される。これにより、金属薄膜の受けた強制外力によって、溶融金属を微細空間の内部に確実に押込むことができる。
【0024】
溶融金属を、開口面上にその金属薄膜が生じるように供給した場合は、溶融金属を硬化させた後、開口面上の金属薄膜を再溶融し、再溶融された金属薄膜を拭き取る工程を採ることができる。再溶融時の熱は、微細隙間の内部の硬化金属体にも加わるが、硬化金属体の持つ熱容量が金属薄膜の熱容量よりも著しく大きいため、金属薄膜が再溶融しても、硬化金属体の再溶融までは進展しない。このため、金属薄膜だけを拭き取り、凹面部を持たない平坦な面を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明に係る方法を示すフローチャートである。図を参照すると、この実施の形態に示す方法は、準備工程、流し込み工程、硬化工程及び後工程を含んでいる。もっとも、これらの工程の区別は、単に説明の都合上の区別に過ぎない。以下、工程順に説明する。
【0026】
(A)準備工程
まず、真空チャンバ1の内部に設けられた支持具3の上に、処理対象となる対象物2を設置する。対象物2は、微細空間21を有している。微細空間21は、対象物2の外面に開口している必要はあるが、その口形、経路及び数等は任意である。図示の貫通孔である必要はないし、非貫通孔であってもよい。あるいは、図示の縦方向のみならず、これと直交する横方向に連なるような複雑な形状であってもよい。微細空間21は、意図的に形成したものに限らない。意図せずに、発生したものであってもよい。
【0027】
対象物2の代表例は、半導体デバイス用ウエハであるが、これに限定されない。本発明は、対象物2に存在する微細空間21に溶融金属を充填し固化する必要のある場合に、広く適用できるもので、例えば、他の電子デバイスや、マイクロマシン等において、内部に微細な導体充填構造、接合構造又は機能部分を形成する場合に、広く適用が可能である。ある場合には、電子デバイスやマイクロマシン以外の通常の大きさを有するデバイスに適用することもできる。
【0028】
また、対象物2は、溶融金属から放散される熱に対する耐熱性を有するものであれば、金属、合金、金属酸化物、セラミックス、ガラス、プラスチックもしくはそれらの複合材、又は、それらの積層体の別を問わず、広く用いることができる。更に、対象物2の外形形状は、平板状に限らず、任意の形状をとることができる。図示の平板状は、単に説明の便宜のために選択された一例に過ぎない。
【0029】
対象物2としてウエハが選択された場合、その物性、構造などは、対象とするデバイスの種類によって異なる。例えば、半導体デバイスの場合には、Siウエハ、SiCウエハ又はSOIウエハ等が用いられる。受動電子回路デバイスの場合には、誘電体、磁性体又はそれらの複合体の形態をとることがある。MRAM (Magnetoresistive Random Access Memory)、MEMS (Micro Electro Mechanical Systems)又は光デバイスなどの製造においても、その要求に沿った物性及び構造を持つウエハが用いられる。ウエハにおいて、微細空間21は、一般には、貫通孔、非貫通孔(盲孔)又はビア・ホールと称される。この微細空間21は、例えば、孔径が10μm〜60μmである。ウエハ自体の厚みは、通常、数十μmである。したがって、微細空間21はかなり高いアスペクト比を持つことになる。これが、溶融金属4を微細空間21に充填する際の問題点を生じる大きな理由となるのである。
【0030】
次に、真空チャンバ1に対して真空引きを実行し、真空チャンバ1の内圧を、例えば真空度10-3Pa程度まで減圧する。もっとも、この真空度は一例であって、これに限定されるものではない。
【0031】
(B)流し込み工程
次に、流し込み工程では、溶融金属4を、微細空間21の開口している開口面から、微細空間21内に流し込む。この流し込み工程は、真空チャンバ1の内部の減圧雰囲気内で実行されることを基本とする。これにより、溶融金属4が微細空間21内に真空吸入され、微細空間21の内部に充填溶融金属41が生じることになる。
【0032】
溶融金属4を構成する金属材料は、対象物2の種類及びその目的に応じて、その組成分が選択される。溶融金属4は、一般には、単一金属元素によって構成されるものではなく、合金化を前提とした複数金属元素を含有する。例えば、対象物2が、半導体ウエハであって、微細空間21の内部に、導体を形成することが目的であれば、Ag、Cu、Au、Pt、Pd、Ir、Al、Ni、Sn、In、Bi、Znの群から選択された少なくとも1種の金属元素を含む金属成分を用いることができる。接合構造を得ようとする場合には、接合される対象物との間の接合性を考慮した金属成分が選択される。
【0033】
上述した金属成分は、好ましくは、ナノコンポジット構造を有する。ここに、ナノコンポジット構造とは、粒径が好ましくは500nm以下の多結晶体を言う。ナノコンポジット構造を有する金属成分を用いることの利点は、溶融金属4の全体としての融点を低下させ得る点にある。
【0034】
融点を低下させるもう一つの手法は、高融点金属成分(Ag、Cu、Au、Pt、Pd、Ir、Al、Ni)と、低融点金属成分(Sn、In、Bi)とを組み合わせことである。
【0035】
溶融金属材料には、好ましくは、ビスマス(Bi)を含有させる。ビスマス(Bi)を含有させることの利点は、ビスマス(Bi)の冷却時体積膨張特性を利用して、微細空間21内に空隙やボイドのない金属導体を形成するのに寄与することができる点にある。
【0036】
更に、微細空間21の底部が導体によって閉じられている場合、上述した溶融金属4を流し込む前に、微細空間21内に貴金属ナノ粒子を供給しておき、しかる後に、溶融金属4を流し込む工程を採ることも有効である。この工程を経ることにより、貴金属ナノ粒子の有する触媒作用により、導体に形成されることのある酸化膜を還元し、溶融金属4と導体との間に電気抵抗の低い接合を形成することができる。貴金属には金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びオスミウム(Os)が含まれる。これらの元素のうちでも、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)から選択された少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0037】
溶融金属4の流し込みに当たっては、上述した金属材料を、真空チャンバ1の外部で予め溶融しておいて真空チャンバ1の内部の対象物2に供給するか、或いは、真空チャンバ1の内部に設置された支持具3に、加熱機構を付設しておき、真空チャンバ1内で金属材料を溶解させる。溶解のための温度は、一例であるが、200〜300℃の範囲で設定することができる。溶解温度は、上述したように、金属成分の組み合わせの選択、及び、ナノ化によって調整し、又は低下させることができる。
【0038】
金属材料は、粉体の形態で供給してもよいし、或いは、上述した金属材料を用いて、対象物2の外形形状に対応する金属薄板を予め準備しておき、この金属薄板を対象物2の一面上に重ね合わせておいて溶解させてもよい。
【0039】
上記の流し込み方法と異なって、減圧雰囲気中で、対象物2を溶融金属槽中に浸漬し、その後引き上げる工程を採用することもできる。
【0040】
流し込み工程は、溶融金属4を加圧する工程を含むことができる。この工程では、溶融金属に対して、静圧のみならず、動圧をも与えることが好ましい。動圧のダイナミックな押込み作用により、溶融金属4を、微細空間21に対して、強制的に流し込むことができるからである。加圧は、機械的なプレス手段を用いたプレス圧として与えてもよいし、孔版及びスキージを用いた押込み力として与えてもよいし、真空チャンバ1内の雰囲気ガス圧を、減圧状態から増圧するによって与えてもよい。減圧状態からの増圧分により、いわゆる差圧充填が実行される。
【0041】
真空チャンバ1の内部のガス圧を増圧する場合には、真空チャンバ1内にN2ガスなどの不活性ガスを供給して、溶融金属材料の酸化を防止しつつ、そのガス圧を加圧するのが好ましい。真空チャンバ1内のガス圧は、一例であるが、0.6〜1kgf/cmの範囲で設定することができる。このガス圧に到達するまでの昇圧ー時間特性をコントロールすることにより、好適な動圧を発生させることができる。
【0042】
さらに、流し込み工程は、溶融金属4を、真空チャンバ1の外部に設置された射出機により射出して微細空間21に充填する工程を含むこともできる。この工程は、上述した加圧手段と組み合わせてもよいし、又は、それとは独立する手段としてもよい。
【0043】
流し込み工程において、溶融金属4は、対象物2の微細空間21の開口する開口面上に、金属薄膜42が生じるように供給することが好ましい。即ち、溶融金属4を、微細空間21の総容積よりも多くなるように供給する。このような工程を踏むことにより、金属薄膜42に加わる動圧を利用して、押込み動作を確実に生じさせることができる。
【0044】
更に、流し込み工程においては、超音波振動を利用した充填、磁力を利用した充填、更には遠心力を利用した充填を行なうこともできる。超音波振動充填では、対象物2に超音波振動を与えるか、プレス手段に超音波振動を与えるか、又は孔版及びスキージに超音波振動を与えることが考えられる。もっとも、振動効率の向上、及び、対象物2の共振作用による溶融金属4の溢流を回避する観点から、振動周波数を適切に選択する必要がある。
【0045】
磁力充填では、溶融金属4に磁性成分を含有させておき、外部から磁界を印加して、磁性成分に作用する磁力を利用し、溶融金属4を微細空間21の内部に引き込むようにすればよい。遠心力充填では、対象物2を回転させたときに発生する遠心力を利用すればよい。
【0046】
(C)硬化工程
次に、硬化工程に移行する。この硬化工程における処理内容が本発明における大きな特徴の一つである。硬化工程では、上述した流し込み工程により、微細空間21内に溶融金属4を流し込んだ後、微細空間21内の充填溶融金属41を、大気圧を超える強制外力F1を印加した状態で、冷却し硬化させる。強制外力F1は、硬化が完了するまで、継続して印加される。冷却は、基本的には室温中での徐冷であるが、室温よりも低い温度条件を設定してもよいし、場合によっては、室温よりも高い温度条件を設定してもよい。更に、時間経過とともに、連続的又は段階的に温度を低下させる冷却方法をとってもよい。
【0047】
強制外力F1の大きさは、対象物2の機械的強度及び微細空間21のアスペクト比などを考慮して定める。一例として、対象物2がシリコンウエハである場合、強制外力F1は、大気圧超〜2kgf/cm以下の範囲で設定することが好ましい。対象物2の機械的強度及び微細空間21のアスペクト比が大きい場合には、更に高い圧力を印加することができる。
【0048】
硬化工程で印加される強制外力F1は、プレス圧、射出圧、ガス圧又は転圧から選択された少なくとも1種で与えられる。これらの圧力を利用する場合、硬化工程の初期の段階では、静圧のみならず、動圧も積極的に利用し、動圧によるダイナミックな押込み動作を行わせることができる。これにより、空隙やボイドの発生をより確実に抑制するとともに、充填溶融金属41が、微細空間21の底部に、より一層確実に到達するように操作することができる。
【0049】
プレス圧は、機械的なプレス手段によって、また、射出圧は、射出機によって印加することができる。ガス圧は、対象物2を、真空チャンバ1又はそれとは別に準備された処理チャンバ内に保持したままで、その雰囲気ガス圧を上昇させることによって印加することができる。ガス圧においても、その時間的な圧力上昇特性をコントロールすることにより、硬化工程の初期の段階では、動圧を積極的に利用し、動圧によるダイナミックな押込み動作を行わせることができる。硬化工程においても、超音波振動充填、磁力充填及び遠心力充填を利用することができる。
【0050】
硬化工程における強制外力による加圧は、流し込み工程における加圧工程から独立して実行してもよいし、連続的な関係で実行してもよい。連続的な関係で実行された場合は、両加圧工程は、一つの加圧工程として吸収されることになる。その典型例は、真空チャンバ1内のガス圧を、大気圧を超える程度まで増圧する場合、及び、対象物2の開口面上に射出機によって溶融金属4を供給し、その射出圧力による強制外力を印加したままで、溶融金属を冷却し硬化させる場合である。もっとも、一つの加圧工程として、一体化した場合でも、印加圧力を調整することが好ましい。
【0051】
上述したように、本発明では、微細空間21内の溶融金属4に対し、強制外力F1を印加したままで、微細空間21内の充填溶融金属41を冷却し硬化させる硬化工程を含むから、微細空間21内に充填溶融金属41を確実に充填するとともに、充填溶融金属41が冷却の過程で熱収縮したとき、印加された強制外力F1によって、熱収縮による金属の変形を抑えることができる。このため、空隙やボイドなどを生じることなく、微細空間21を、その底部に至るまで、硬化金属体40によって満たすことができる。同様の理由で、硬化金属体40が微細空間21内で冷却された際に生じるべき凹面化も回避しえる。
【0052】
更に、微細空間21内の硬化金属体40の凹面化を回避しえるから、冷却後の溶融金属の再供給やCMP工程等が不要であり、工程の簡素化や歩留りの向上などに寄与することができる。
【0053】
特に、流し込み工程において、溶融金属4を、対象物2の外面上に、金属薄膜42が生じるように供給した場合には、この金属薄膜42が圧力を受け、微細空間21の中に充填された充填溶融金属41の形態に応じて膜厚が変わるなど、変化することになるので、微細空間21の中に充填され硬化した硬化金属体40の熱収縮による変形、及び、凹面化を確実に抑えることができる。
【0054】
(D)後工程
次に、対象物2の外面上の金属薄膜42を再溶融させ、再溶融した金属薄膜42を、例えばスキージ5などにより拭き取る。この後工程によれば、対象物2の外面を平坦化しえる。しかも、拭き取りという簡単な操作で済み、従来と異なって、溶融金属冷却後の溶融金属4の再供給やCMP工程等が不要であるから、工程の簡素化、歩留りの向上などに寄与することができる。必要であれば、硬化工程に準じて、更に、再加圧F2し、その後に冷却する工程を実行してもよい。もっとも、この後工程は、金属薄膜42を除去し、対象物2の一面を平坦化するためのものであるから、平坦化の必要がない場合には、省略することもできる。
【0055】
再溶融時の熱は、微細隙間21の内部で硬化している硬化金属体40にも加わるが、硬化金属体40の持つ熱容量が金属薄膜42の熱容量よりも著しく大きいため、金属薄膜42が再溶融しても、硬化金属体40の再溶融までは進展しない。このため、金属薄膜42だけを拭き取ることができる。
【0056】
上述した一連の工程を経て、微細空間21に硬化金属体40を充填した対象物2が得られる。なお、上述した各工程の全てが、真空チャンバ1内で実行される必要はない。硬化工程や、後工程は、真空チャンバ1の外部で実行されてもよい工程を含んでいる。
【0057】
次に、本発明の効果をSEM(Scanning Electron Microscope)写真によって実証する。図2は、図1に示した工程において、硬化工程(加圧冷却)を省略して得られた半導体ウエハ(シリコンウエハ)の断面SEM写真、図3は硬化工程(加圧冷却)を有する本発明に係る方法によって得られた半導体ウエハ(シリコンウエハ)の断面SEM写真である。硬化工程(加圧冷却)の有無を除けば、両SEM写真とも、同じ工程条件下で得られた半導体ウエハの断面を示している。工程条件は次のとおりである。
【0058】
(A)準備工程
真空チャンバ内真空度:10-3(Pa)
対象物:ガラス保護膜を有する300mm×50μmのシリコンウエハ
微細空間:開口径15μm、底部孔径10μm
【0059】
(B)流し込み工程
(1)上記シリコンウエハの上に、同形の金属薄板を配置し、溶解させた。
金属薄板の組成分:Sn、In、Cu、Bi
溶解温度:250℃
(2)次に、真空チャンバ内にNガスを導入し、ガス圧を0.6kgf/cmに設定した(加圧)。
【0060】
(C)硬化工程(本発明の場合のみ)
プレス機により、溶融金属に2.0kgf/cmの圧力を印加し、そのた状態で徐冷した。
【0061】
(D)後工程
再溶融のための溶解温度:250℃
スキージによる拭き取り
再加圧:プレス機により、2.0kgf/cmの圧力を印加
【0062】
まず、図2のSEM写真と見ると、対象物たるウエハ2の微細空間21の内部に充填されている硬化金属体40の上端側に、凹面部P1が生じており、しかも、その底部にも、硬化金属体40の充填されていない空隙部P2が生じている。硬化金属体40の周囲と、微細空間21の内側面との間にも、空隙の存在が認められる。
【0063】
これに対して、本発明の適用に係る図3のSEM写真を見ると、ウエハ2の微細空間21の内部に充填されている硬化金属体40の上端面は、ウエハ2の上面に連続して連なる平坦面となっており、凹面部は認められない。硬化金属体40の下端面は、微細空間21の底部に密接しており、底部空隙は見えない。更に、硬化金属体40の外周面は、微細空間21の内側面に密接しており、空隙の存在は認められない。
【0064】
図4は、本発明に係る方法の別の適用例を示している。この例は、本発明が直線状の単純な構造の微細空間のみならず、曲路を持つ微細空間にも適用できることを示している。図4(A)を参照すると、対象物2は、互いに異なる位置で縦方向に延びる2つの微細空間211、213を有しており、これらの微細空間211、213が横方向に延びる微細空間212を介して連続している。
【0065】
図4(A)に図示したような微細空間構造であっても、図1を参照して説明した本発明に係る方法を適用することによって、図4(B)に示すように、微細空間211、212、213を通って連続する硬化金属体40を形成することができる。図示は、省略するが、更に複雑な形状を有する微細空間であっても、本発明の適用により、硬化金属体40を形成することができる。
【0066】
図4において、対象物2は、金属、合金、金属酸化物、セラミックス、ガラス、プラスチックもしくはそれらの複合材、又は、それらの積層体の形態をとることができる。更に、対象物2の外形形状は、平板状に限らず、任意の形状をとることができる。図示の形状は、やはり、単に説明の便宜のために選択された一例に過ぎない。
【0067】
図5は、本発明に係る方法の更に別の適用例を示している。この例は、本発明を接合技術の分野に適用した場合を示している。図を参照すると、第1の部材201と第2の部材202との間に生じる微細空間21が、硬化金属体40によって埋められている。硬化金属体40は、図1を参照して説明した方法に従って充填・硬化されたものである。溶融金属の流し込み方向は、紙面と直交する方向、又は、紙面と平行する方向の何れの方向でもよい。第1の部材201及び第2の部材202の形状は任意であり、図は単なる一例を示すに過ぎない。また、第1の部材201及び第2の部材202は、同種の金属材料であってもよいし、異種の金属材料であってもよい。
【0068】
第1の部材201と第2の部材202が分離できない関係にあって、一般的なロウ付けなどの溶接技術が適用できない場合であっても、本発明の適用により、溶接することができる。
【0069】
図6は、本発明に係る方法の更に別の適用例を示している。この適用例では、同筒状に配置された2つの筒体201、201の間に生じる微細空間21に、硬化金属体40を充填してある。このような適用場面は、電子デバイスやマイクロマシンの属する技術分野のみならず、それよりも大きな機構部品を取り扱う技術分野でも生じ得る。即ち、本発明の適用範囲は、必ずしも、微小電子デバイスやマイクロマシンの製造プロセスに限定されるものではない。図示はしないが、本発明には、物体に生じた亀裂や隙間を埋める手段としての適用可能性もある。
【0070】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様及び説明されない他の適用技術分野を想到しえることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る方法を示すフローチャートである。
【図2】図1に示した工程において、硬化工程(加圧冷却)を省略して得られた半導体ウエハ(シリコンウエハ)の断面SEM写真である。
【図3】硬化工程(加圧冷却)を有する本発明に係る方法によって得られた半導体ウエハ(シリコンウエハ)の断面SEM写真である。
【図4】本発明に係る方法の別の適用例を示す図である。
【図5】本発明に係る方法の更に別の適用例を示す図である。
【図6】本発明に係る方法の更に別の適用例を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 真空チャンバ
2 対象物
21 微細空間
4 溶融金属
41 充填溶融金属
42 金属膜
40 硬化金属体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に存在する微細空間に溶融金属を充填し硬化させる方法であって、
前記微細空間内の前記溶融金属に対し強制外力を印加したままで、前記溶融金属を冷却し硬化させる工程を含む。
【請求項2】
請求項1に記載された方法であって、前記強制外力は、圧力、磁力または遠心力から選択された少なくとも一種で与えられる。
【請求項3】
請求項2に記載された方法であって、前記圧力はプレス圧又はガス圧で与えられる。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載された方法であって、前記溶融金属を冷却し硬化させる前に、前記対象物の前記開口面上に金属薄板を配置し、真空チャンバ内の減圧された雰囲気内で前記金属薄板を溶解させて前記溶融金属を生成するステップを含む。
【請求項5】
請求項4に記載された方法であって、前記溶融金属を冷却し硬化させる前に、前記真空チャンバ内の雰囲気を減圧状態から増圧し、前記溶融金属を前記微細空間に流し込むステップを含む。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れかに記載された方法であって、前記溶融金属を冷却し硬化させる前、真空チャンバ内の減圧された雰囲気内に置かれた前記対象物の前記開口面上に前記溶融金属を供給した後、前記真空チャンバ内の雰囲気を増圧するステップを含む。
【請求項7】
請求項1又は2に記載された方法であって、前記対象物の前記開口面上に射出機によって前記溶融金属を供給し、その射出による強制外力を印加したままで、前記溶融金属を冷却し硬化させるステップを含む。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載された方法であって、
前記溶融金属は、前記微細空間の開口部の存在する開口面上にその金属薄膜が生じるように供給される。
【請求項9】
請求項8に記載された方法であって、前記溶融金属を硬化させた後、前記開口面上の前記金属薄膜を再溶融し、再溶融された前記金属薄膜を拭き取る工程を含む。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−129662(P2010−129662A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300887(P2008−300887)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【特許番号】特許第4278007号(P4278007)
【特許公報発行日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(504034585)有限会社ナプラ (55)
【Fターム(参考)】