心室壁情報抽出装置
【課題】初期輪郭等の初期設定が全く不要でりながら、心臓の心室壁情報を容易に抽出することができ、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能な心室壁情報抽出装置を提供する。
【解決手段】超音波診断装置2のプローブ2Aにより心臓の左心室壁の超音波断層画像が撮像されると、運動ベクトル算出部1Aが左心室壁の運動ベクトルを複数計測し、初期探索点設定部1Bが複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する。そして、設定された初期探索点を原点とする極座標により、輪郭点抽出部1Cが左心室壁の輪郭点を複数抽出する。すなわち、プローブ2Aの操作者が左心室壁の初期輪郭の初期設定をしないにも拘わらず、初期探索点設定部1Bが自動的に初期探索点設定し、輪郭点抽出部1Cが左心室壁の輪郭点を複数抽出する。
【解決手段】超音波診断装置2のプローブ2Aにより心臓の左心室壁の超音波断層画像が撮像されると、運動ベクトル算出部1Aが左心室壁の運動ベクトルを複数計測し、初期探索点設定部1Bが複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する。そして、設定された初期探索点を原点とする極座標により、輪郭点抽出部1Cが左心室壁の輪郭点を複数抽出する。すなわち、プローブ2Aの操作者が左心室壁の初期輪郭の初期設定をしないにも拘わらず、初期探索点設定部1Bが自動的に初期探索点設定し、輪郭点抽出部1Cが左心室壁の輪郭点を複数抽出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の心室壁の輪郭、形状、3次元位置等の情報を抽出する心室壁情報抽出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断法は、患者の体表にプローブを押し付けるだけで患者の体内の超音波断層画像が得られるため、その安全性およびリアルタイム性から心臓の診断には欠かせない手法である。この超音波診断法に使用される超音波診断装置の小型化・ポータブル化の進歩は著しく、場所を選ばない超音波診断が実現している。
【0003】
一方、インターナットなどのネットワーク伝送速度の高速化により、超音波診断装置のプローブにより撮像された超音波断層画像をネットワーク経由で伝送することも可能となっている。このような技術的背景のもと、患者宅から病院に伝送される超音波断層画像に基づいて病院の医師が遠隔地の患者を超音波診断する遠隔超音波診断法の研究も進められている。
【0004】
この種の遠隔超音波診断法として、医師が所望するプローブの位置・姿勢を的確に遠隔地に伝送して患者の的確な超音波断層画像を得るため、プローブ操作用のロボットを使用する遠隔超音波診断法が報告されている。また、拡張現実感と呼称されるAR(Augmented Reality)技術を利用して、プローブの位置・姿勢を表すCG(computer graphic)を患者の体表に投影し、患者側の操作者にプローブの操作を教示する研究も進められている。
【0005】
一方、超音波診断装置に関しては、操作者に多くの操作を強いることなく、かつ、高い精度で超音波断層画像中の対象物の輪郭を抽出することができるようにした超音波診断装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この超音波診断装置は、断層画像に対して等化、2値化および縮退等の画像処理を施すことにより断層画像中の対象物の輪郭を初期輪郭として粗く抽出する初期輪郭抽出部と、抽出された初期輪郭を初期値として断層画像中の対象物に対しSNAKES等の動的な輪郭モデルを適用することで、細かく輪郭を抽出する動的輪郭抽出部とからなる自動輪郭抽出部を備えたものである。
【0006】
また、画像処理装置に関しては、画像中の対象物の動的輪郭抽出の際に、精確な初期輪郭の設定が容易に行える結果、正確で効率的な輪郭抽出を可能とする画像処理装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。この画像処理装置は、入力された画像に対し、画像中の対象物の特徴点に基づき対象物の初期輪郭を生成する手段と、特徴点の位置を変化させずに、対象物の輪郭形状の特徴量と、画像の特徴量と、必要に応じて与えられる初期輪郭の特徴量との総和が最小になるように初期輪郭を変形することにより、画像中の対象物の輪郭を抽出する輪郭抽出手段とを備えたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−224116号公報(要約)
【特許文献2】特開平11−265455号公報(要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、プローブ操作用のロボットを使用する遠隔超音波診断法においては、ロボットを設置することが可能な救急医療の現場では一定の成果が期待されるものの、ロボットを設置するのが難しい患者の自宅等での実現性が薄い。また、プローブの位置・姿勢を表すCGを患者の体表に投影して患者側の操作者にプローブの操作を教示する遠隔超音波診断法においては、医師の指示をネットワーク経由で逐次反映させる必要があるため、通常の超音波診断に比べて目的の超音波断層画像を得るまでに時間が掛かると共に、医師にとっては3次元空間の把握が難しいという問題があった。
【0009】
一方、特許文献1に記載の超音波診断装置においては、SNAKES等の動的輪郭抽出法を適用しているが、SNAKESを用いた従来手法による輪郭抽出法の多くは、一般的に、初期輪郭を対象物体の輪郭線の近傍に配置して、そこからの収束を図っているため、画像毎に利用者が初期輪郭を配置していく必要があり、初期輪郭を探索するのに時間が掛かるという問題がある。同様に、特許文献2に記載の画像処理装置においては、初期輪郭を手動で設定する必要があり、操作者に大きな負担が掛かる。
【0010】
すなわち、従来の超音波診断装置および画像処理装置を使用して心臓の心室壁の輪郭等を抽出するには、心室壁が描画されている領域の全体もしくは一部を初期位置としてプローブの操作者が手動で指定する必要があり、プローブの操作者に大きな負担が掛かっている。
【0011】
本発明は、このような従来技術の問題点に対応してなされたものであり、初期輪郭等の初期設定が全く不要でりながら、心臓の心室壁情報を容易に抽出することができ、その結果、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能な心室壁情報抽出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するため、本発明に係る心室壁情報抽出装置は、超音波診断装置のプローブにより撮像される心臓の超音波断層画像に基づいて心室壁の情報を抽出する装置であって、心室壁の運動ベクトルを複数計測する運動ベクトル計測手段と、運動ベクトル計測手段により計測された複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する初期探索点設定手段と、初期探索点設定手段により設定された初期探索点を原点とする極座標により心室壁の輪郭点を複数抽出する輪郭点抽出手段とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る心室壁情報抽出装置では、超音波診断装置のプローブにより心臓の心室壁の超音波断層画像が撮像されると、運動ベクトル計測手段が心室壁の運動ベクトルを複数計測し、初期探索点設定手段が複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する。そして、設定された初期探索点を原点とする極座標により、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出する。すなわち、プローブの操作者が心室壁の初期輪郭の初期設定をしないにも拘わらず、初期探索点設定手段が自動的に初期探索点設定し、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出する。
【0014】
本発明の心室壁情報抽出装置には、前記輪郭点抽出手段により抽出された心室壁の複数の輪郭点から心室壁の輪郭に沿った近似楕円を最小2乗法により描画する楕円近似手段と、前記プローブのランダム操作に応じて描画される複数の近似楕円に基づいて心室壁の形状および3次元位置の情報を求める3次元計測手段とを付加することができる。
【0015】
この発明では、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出すると、その複数の輪郭点から心室壁の輪郭に沿った近似楕円を楕円近似手段が描画し、プローブのランダム操作に応じて複数の近似楕円が描画されると、その複数の近似楕円に基づいて3次元計測手段が心室壁の形状および3次元位置の情報を求める。ここで、楕円近似手段が描画する近似楕円は、計算処理の負荷の小さい最小2乗法によるため、近似楕円はリアルタイムで描画される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る心室壁情報抽出装置によれば、超音波診断装置のプローブにより心臓の心室壁の超音波断層画像が撮像されると、運動ベクトル計測手段が心室壁の運動ベクトルを複数計測し、初期探索点設定手段が複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定するため、従来、プローブの操作者が手動で設定することが必要であった心室壁の初期輪郭の初期設定等が一切不要となる。そして、初期探索点設定手段により設定された初期探索点を原点とする極座標により、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出するため、心室壁の輪郭を含む心室壁情報を容易に抽出することができる。すなわち、本発明によれば、初期輪郭等の初期設定が全く不要でありながら、心室壁の輪郭を含む心室壁情報を容易に抽出することができ、その結果、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能となる。
【0017】
また、楕円近似手段と3次元計測手段とが付加された本発明の心室壁情報抽出装置によれば、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出すると、その複数の輪郭点から心室壁の輪郭に沿った近似楕円を楕円近似手段が描画し、プローブのランダム操作に応じて複数の近似楕円が描画されると、その複数の近似楕円に基づいて3次元計測手段が心室壁の形状および3次元位置の情報を求めるため、心室壁の形状および3次元位置を含む心室壁情報を容易に抽出することができ、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る心室壁情報抽出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】一実施形態に係る心室壁情報抽出装置が対象とする左心室の長軸断面を撮像するプローブの位置および向きを示す心臓の正面図である。
【図3】図2に示したプローブが撮像する左心室の長軸断面図である。
【図4】左心室の短軸断面を撮像するプローブの位置および向きを示す心臓の正面図である。
【図5】図4に示したプローブが撮像する左心室の短軸断面図である。
【図6】左心室を楕円体と仮定した模式図である。
【図7】左心室を横断する短軸方向の超音波断層画像を示す図である。
【図8】図7に示した超音波断層画像を小領域に分割して領域運動ベクトルを重畳表示した図である。
【図9】左心室壁の輪郭点を抽出する極座標を示す図である。
【図10】左心室壁の輪郭点に沿った近似楕円を示す図である。
【図11】一般的な楕円の2次元投影図である。
【図12】N個のサンプル点から算出される楕円中心点と、真の中心点との距離誤差を示すグラフである。
【図13】楕円近似部が近似した楕円を図7に示した左心室の短軸方向の超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図14】僧帽弁や右心室が描出された超音波断層画像を示す図である。
【図15】図14に示した超音波断層画像に基づいて近似された楕円形状を超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図16】図15に示したdn値およびその分散値dσと、プローブの軸回転角との関係を示すグラフである。
【図17】左心室壁の領域を図7に示した左心室の短軸方向の超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図18】左心室壁から抽出した運動ベクトルを図7に示した左心室の短軸方向の超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図19】バイウェイト(Biweight)法を用いて近似した楕円と、バイウェイト(Biweight)法を用いないで近似した楕円とを左心室の短軸方向の超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図20】患者とカメラとプローブのマーカとモニタとの配置関係を示す斜視図である。
【図21】図20のモニタに映し出されるGUI画面を示す図である。
【図22】図20のモニタに映し出される他のGUI画面を示す図である。
【図23】任意の楕円中心点と超音波断層面との位置関係を示す図である。
【図24】1名の被験者を対象とした左心室壁の長軸断面の推定と呈示状態を示す図である。
【図25】8名の各被験者について得られた楕円中心点の分布から最小2乗法により直線に近似し、その直線から各楕円中心点までの距離平均とその標準偏差を算出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して本発明に係る心室壁情報抽出装置の実施の形態を順次説明する。図1に示すように、一実施形態に係る心室壁情報抽出装置1は、超音波診断装置2のプローブ2Aにより撮像される心臓の超音波断層画像に基づいて心室壁の情報を抽出する装置であって、例えば、肺静脈から左心房を経由して流入する新鮮な血液を大動脈に吐出する左心室の輪郭、形状、3次元位置等の情報を抽出する。
【0020】
超音波診断装置2は、患者の体表に押し付けられて操作されるプローブ2Aと、プローブ2Aで探索された信号に基づいて患者の体内の超音波断層画像を生成する画像生成部2Bと、画像生成部2Bで生成された超音波断層画像を表示するモニタ2Cとを少なくとも備えている。
【0021】
ここで、超音波診断装置2と協働する一実施形態の心室壁情報抽出装置1は、少なくとも左心室壁の運動ベクトルを複数計測する運動ベクトル算出部(運動ベクトル計測手段)1Aと、運動ベクトル算出部1Aにより計測された複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する初期探索点設定部(初期探索点設定手段)1Bと、初期探索点設定部1Bにより設定された初期探索点を原点とする極座標により左心室壁の輪郭点を複数抽出する輪郭点抽出部(輪郭点抽出手段)1Cとを備えている。
【0022】
また、この心室壁情報抽出装置1には、輪郭点抽出部1Cにより抽出された心室壁の複数の輪郭点から左心室壁の輪郭に沿った近似楕円を最小2乗法により描画する楕円近似部(楕円近似手段)1Dと、超音波診断装置2のプローブ2Aのランダム操作に応じて描画される複数の近似楕円に基づいて左心室壁の形状および3次元位置の情報を求める3次元計測部(3次元計測手段)1Eとが付加されている。
【0023】
心室壁情報抽出装置1の運動ベクトル算出部1A、初期探索点設定部1B、輪郭点抽出部1C、楕円近似部1Dおよび3次元計測部1Eは、入出力インターフェースI/O、A/Dコンバータ、プログラムおよびデータを記憶したROM(Read Only Memory)、入力データ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等を備えた図示しないパーソナルコンピュータ等のハードウェアおよびソフトウェアを利用して構成されており、超音波診断装置2と協働する。
<左心室の長軸断面と短軸断面>
【0024】
ここで、心臓の診断の基準となる断面には長軸断面、短軸断面、四腔断面等があるが、このうち長軸断面および短軸断面から診断を開始する場合が多い。長軸断面は、図2に示したような位置および向きに操作されたプローブ2Aによって左心室(Left ventricle)を長軸方向に撮像した断面であり、図3に示すように、心室後壁(Posterior wall)PWと心室中隔(Interventricular septum)IVSを平行に見るため左心室径が最大となり、同時に僧帽弁(Mitral valve)MVや大動脈弁(Aortic valve)AVが観測されるという特徴がある。
【0025】
一方、短軸断面は、図4に示すように、図2に示したプローブ2Aを時計方向の軸廻りに略90度回転させて左心室壁LVの断面積を最小にして見る断面であり、図5に示すように、正常な心臓の場合には左心室壁LVが同心円状に撮像され、僧帽弁MVが対称に開口するという特徴がある。
【0026】
このような短軸断面を取得したときのプローブ2Aの接触位置を固定してプローブ2Aを軸廻りに回転させた場合、左心室壁LVの断面形状は、通常、円形から楕円形へと変形する。
【0027】
ここで、左心室LVの3次元形状が楕円体であると仮定すると、図6に示すように、左心室LVを横断する任意の断面において、左心室LVの壁の断面形状は楕円になる。そこで、複数の断面の空間的位置計測により、楕円体を最も長く捉えることのできる断面、つまり長軸断面を得るためのプローブ2Aの位置を推測できる。
【0028】
すなわち、プローブ2Aの3次元位置を常にモニタリングしておき、左心室LVを横断する断面が楕円形状として認識されたとき、画像処理によってリアルタイムに左心室LVの壁の輪郭を抽出し、楕円Eiに近似する。このときの楕円の中心点の3次元座標Piを算出し、同様に複数のプローブ2Aの位置から得られた楕円の中心点を取得する。長軸断面が得られる断面はそれらの点から近いと考えられるため、長軸断面の候補となる空間の範囲を限定できる。
<左心室壁の輪郭抽出>
【0029】
左心室LVを横断する短軸方向の超音波断層画像を図7に示す。単純な閾値を用いた2値化処理のみでは、体表面からの深さ方向に対する超音波の減衰特性が一様でないため、左心室LVの壁を抽出するのは困難である。そこで、図1に示した一実施形態の心室壁情報抽出装置1が超音波診断装置2と協働して左心室LVの壁の輪郭を抽出する。
【0030】
まず、図8に示すように、超音波断層画像を例えば15×15[pixel]の複数の小領域に分割し、各小領域内の平均ベクトルを各小領域の領域運動ベクトルfと定義して運動ベクトル算出部1Aが以下の数式1により算出する。ここで、Vnは算出ベクトル、Nは小領域内のベクトル数である。
【数1】
【0031】
続いて、運動ベクトル算出部1Aが算出した領域運動ベクトルfを左心室LVの収縮期には終点を無限に延長し、左心室LVの拡張期には始点を無限に延長することで、初期探索点設定部1Bがそれらの交点領域を初期探索点Oとして設定する(図9参照)。その際、算出される交点領域は、領域運動ベクトルfは、その方向のみで算出されるものであるため、領域運動ベクトルfの絶対値(大きさ)を重みとして付加することで、初期探索点設定部1Bは適切な初期探索点Oを設定する。すなわち、初期探索点設定部1Bは、小領域内の交点数pに重みを付加した指標qを以下の数式2により定義する。
【数2】
【0032】
一方、超音波断層画像のゲイン等によって算出されるベクトル数が変動し、q値そのものに影響するため、交点の総数NでN=A(A−1)/2と正規化し、インターセクションインデックスIをI=q/N=2q/A(A−1)と定義する。
【0033】
次に、図9に示すように、初期探索点設定部1Bが設定した初期探索点Oを原点とする半径rの動径を有する極座標により、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの壁の輪郭点を複数抽出する。すなわち、半径rの動径の角度θを1[deg]ずつ変化させて360本の動径上の輝度分布から輝度の極大値を抽出し、動径上の極大値分布により左心室LVの壁の輪郭点を抽出する。
【0034】
その際、輪郭点抽出部1Cは、形状の特徴抽出を行う画像処理手法であるモルフォロジー演算と、各画素にラベルを属性として付加することにより、特定の領域を抽出し、連結している画素に同じラベルを付加することで複数の領域をグループとして分類するラベリング処理を施すことで、微小面積領域を除去した左心室LVの壁の輪郭点を抽出する。
<左心室壁の輪郭の楕円近似>
【0035】
続いて、図10に示すように、輪郭点抽出部1Cが抽出した左心室LVの壁の輪郭点の集合を楕円近似部1Dが最小2乗法を用いて楕円に近似する。ここで一般的な楕円の2次元投影図を図11に、それを表す式を数式3にそれぞれ示す。ただし(Xn,Yn)はn番目の輪郭点の座標、(X0,Y0)は楕円の中心座標、a,bは楕円の長半径および短半径、φは楕円の傾きをそれぞれ表している。
【数3】
【0036】
一般に、複数の点の集合から図形のパラメータを決定する方法としてHough変換や最小2乗法などが考えられるが、Hough変換ではパラメータ数に対する計算処理の負荷が大きく、リアルタイム処理が困難であるため、一実施形態では計算コストを重視して最小2乗法を導入した。
【0037】
ここで数式3を展開し、全ての輪郭点における2乗の総和を数式4のように算出する。ここで、A〜Eはいずれも、楕円のパラメータX0,Y0,a,b,φで表される係数であり、Nは輪郭点の個数である。
【数4】
【0038】
これをA〜Eそれぞれについて偏微分して0となる式を立てると数式5が得られる。そして、数式5の左辺第1項の逆行列を左から両辺にかけることで、A〜Eが求まるため、逆演算によって各パラメータX0,Y0,a,b,φを求めることができる。
【数5】
<楕円近似の信頼性>
【0039】
前述した楕円近似の信頼性を確認するため、まず、楕円の各パラメータを予めX0=50、Y0=30、a=15、b=10[mm]、φ=10[deg]と設定し、その楕円の軌道上からN個のサンプル点を等間隔に採取する。
【0040】
次に、N個のサンプル点から算出される楕円中心点と、真の中心点との距離誤差を求める。この距離誤差を、Nの値を変化させたときにそれぞれ求め、その推移を表した結果を図12に示す。
【0041】
この結果から、楕円の軌道上に等間隔に8点以上あれば、1[mm]以内の誤差で中心点を求めることができることが確認された。ここで、図10に示すように抽出された左心室LVの壁の輪郭点は300点以上であることから、必要なデータ数は十分に満たしていると考えられる。図13は、楕円近似部1Dが近似した楕円を図7に示した左心室LVの短軸方向の超音波断層画像に重畳表示したものであり、楕円は左心室LVの壁の形状に沿って正確に描かれている。
<バイウェイト(Biweight)法による誤認識の修正>
【0042】
ところで以上までの処理では、左心室LVの壁以外の構造物を含む場合に左心室LVの壁の輪郭から大きく外れた楕円を描いてしまう。例えば図14に示すように僧帽弁MVや右心室RV(Right ventricle)が明確に描出された超音波断層画像を処理すると、近似された楕円形状f(x,y)は、図15に示すように、実際と大きく外れてしまう。
【0043】
そこで、僧帽弁MVや右心室RVなどの左心室LVの壁以外の形状を排除するため、楕円近似によって得られた結果に対し、以下の2つの評価基準を設け、それらを判別させることにした。
【0044】
第1に、抽出された楕円に対し、図11に示した長半径aと短半径bとの比率を導出した。これは、左心室LVの壁以外の輪郭点が発生した場合、描かれる楕円は左心室LVの壁の形状からどちらかの方向に歪み、その影響がaとbに現れるためである。
【0045】
ここで、長軸断面の推定に必要な中心点の数はおよそ8点であるので、楕円が描かれた断面のうち、a/b が1に近い上位8枚の断面から楕円中心点を採取することにした。また第2に、抽出された各輪郭点と、それから近似された楕円との一致度dave,dσを評価した。
【0046】
ここで、図15に示した輪郭抽出点(Xn,Yn)と楕円中心点(X0,Y0)とを結ぶ直線y=anx+bnと、描かれた楕円f(x,y)の交点との距離をdnとし、全ての抽出点に対して算出したdnの平均をdaveとした。また、dσはdnの分散を表す。
【0047】
実際の超音波断層画像を用いてこれらの値を検証した。20代健常者男性を対象とし、短軸断面が撮像できるプローブ2Aの軸回転角を0[deg]として−90〜90[deg]において15[deg]刻みで心臓の超音波断層画像を取得し、それぞれにおいてdaveとdσを測定した。その結果は図16に示すように、±30[deg]の範囲ではdaveおよびdσは、いずれも2[mm]以内に収まった。そこでdave、dσ≧2[mm]を満たす超音波断層画像を排除し、その楕円中心点は記憶させないよう制限した。
【0048】
ここで、一実施形態の心室壁情報抽出装置においては、超音波診断装置2のプローブ2Aのランダム操作に応じて描画される複数の近似楕円に基づいて、3次元計測部1Eが左心室LVの壁の形状および3次元位置を計測する。
【0049】
また、図17に示すように、左心室LVの壁の領域のみを自動認識できるため、楕円形状からの中心点を補正し、次フレームの輪郭認識に適用することで、図18に示すように、左心室LVの壁からのみの運動ベクトルの抽出も短時間で可能になる。その結果、ビデオ信号をリアルタイムで表示することができ、心臓の運動機能の自動評価も可能となる。
【0050】
以上説明したように、一実施形態の心室壁情報抽出装置1では、超音波診断装置2のプローブ2Aにより心臓の左心室LVの壁の超音波断層画像が撮像されると、運動ベクトル算出部1Aが左心室LVの壁の運動ベクトルを複数計測し、初期探索点設定部1Bが複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点Oとして設定する。
【0051】
そして、設定された初期探索点Oを原点とする半径rの動径を有する極座標により、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの複数の輪郭点を抽出する。すなわち、プローブ2Aの操作者が左心室LVの初期輪郭の初期設定をしないにも拘わらず、初期探索点設定部1Bが自動的に初期探索点Oを設定し、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの壁の輪郭点を複数抽出する。
【0052】
従って、一実施形態の心室壁情報抽出装置1によれば、従来、プローブ2Aの操作者が手動で設定することが必要であった左心室LVの壁の初期輪郭の初期設定等が一切不要となる。そして、初期探索点設定部1Bにより設定された初期探索点Oを原点とする半径rの動径を有する極座標により、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの壁の輪郭点を複数抽出するため、左心室LVの壁の輪郭を含む心室壁情報を容易に抽出することができる。すなわち、初期輪郭等の初期設定が全く不要でありながら、左心室LVの壁の輪郭を含む心室壁情報を容易に抽出することができ、その結果、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能となる。
【0053】
また、一実施形態の心室壁情報抽出装置1では、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの壁の輪郭点を複数抽出すると、その複数の輪郭点から左心室LVの壁の輪郭に沿った近似楕円を楕円近似部1Dが描画し、プローブ2Aのランダム操作に応じて複数の近似楕円が描画されると、その複数の近似楕円に基づいて楕円近似部1Dが左心室LVの壁の形状および3次元位置を計測する。
【0054】
従って、一実施形態の心室壁情報抽出装置1によれば、左心室LVの壁の形状および3次元位置を含む心室壁情報を容易に抽出することができ、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能となる。
【0055】
本発明の心室壁情報抽出装置は、前述した一実施形態に限定されるものではない。例えば、前述の閾値の範囲内に該当しなかった楕円に関しては、バイウェイト(Biweight)法を用いて更に安定した楕円を導出することができる。
【0056】
バイウェイト(Biweight)法とは各抽出点(Xn,Yn)と描かれた楕円との距離dnに応じてそれぞれ重みw(dn)を付与する手法であり、よりロバストな近似が期待できる。重みw(dn)の算出方法を数式6および数式7に示す。ただし、Wは誤差の許容範囲であり、ここでは前述したdaveとdσの閾値の和の4[mm]とした。
【数6】
【数7】
【0057】
この数式6および数式7によって算出された重みw(dn)を各輪郭点に付与し、再度最小2乗法によって楕円近似を行い、超音波断層画像に重畳表示した結果を図19に示す。バイウェイト(Biweight)法を用いない場合と比べて左心室LVの形状に近い楕円を描いていることが確認できる。
<ARを用いた長軸断面の取得>
【0058】
上記の方法で抽出した楕円中心点の分布を3次元空間内に変換するには、プローブ2Aの絶対的な3次元位置・姿勢を把握する必要がある。しかし磁気式や光学式の3次元位置センサは一般的に高価であり、設置方法の煩雑さから一般家庭での使用になじまない。
【0059】
そこで、一実施形態では、簡便な3次元位置計測方法としてARToolKitを使用することにした。これはカメラと紙に印刷したマーカのみで位置・姿勢をリアルタイム計測できるライブラリであり、主なコストはカメラのみである。動作原理としては、正方形の内部に模様が描かれた複数のマーカについて、固定されたUSBカメラで撮影した画像に対して二値化やラベリング等の画像処理を施すことで検出し、その内部パターンの大きさや向きから相対的な位置・角度を算出している。
【0060】
そこで、一実施形態では図20に示すように、プローブ2Aの操作者が患者の右手側に座り、右手で操作することを想定し、マーカをプローブ2Aの上方、および患者の両肩鎖骨の中心付近に取り付けることにした。また、カメラは胸部全体を撮影でき、且つ手やプローブによってマーカが隠れにくい、患者の右肩上方に設置した。これによりカメラ座標系に対する両者の相対関係から、カメラの設置位置に依存せずに、患者体表を原点としたプローブ先端位置をリアルタイムに算出することができる。
【0061】
図20のモニタ2C上に映し出されるGUI(Graphical User Interface)画面を図21および図22に示す。プログラムの開発にはVisual C++、ビデオ画像の取得にDirectShow、グラフィックスの表示にはOpenGLを使用した。ウィンドウ内には超音波断層像と患者映像が表示され、操作者はプローブ2Aを操作する手元と断層像を同時に観察できる。
【0062】
<楕円中心点の取得と仮想断層面の呈示>
本発明では、前述の手法で抽出された左心室LVの壁の輪郭と、ARToolkitによって取得されたプローブ2Aの位置および角度に応じた仮想断層面を同時にCGで構成し、実映像にリアルタイムで重畳表示させることができる。
【0063】
プローブ2Aの操作者には、予め被験者の胸部をプローブ2Aでゆっくりとなぞるように指示しておき、取得した断層像からは心電図同期によって常に同位相の楕円中心点分布を計測する。
【0064】
楕円中心点が10点程度取得された後、それらの点をできるだけ多く含む断面へプローブ2Aの位置を以下の要領で誘導する。まず、その時点での断層面と、各楕円中心点との距離の平均値を求め、その値に応じた色呈示を行う。
【0065】
任意の楕円中心点Piと超音波断層面との位置関係を図23に示す。また、その距離Liの算出式を数式8に示す。ただし、△ABCは断層面上の任意の3点、nは△ABCに対する単位法線ベクトルである。その上で、全てのLiの平均値Laveを算出し、タブレットの設定に応じて断層面の色を変化させた。これにより、各楕円中心点の分布と仮想断層面との位置関係を視覚的に把握することができるので、それに応じてプローブ2Aの位置・角度調節を行わせた。
【数8】
【0066】
<長軸断面の取得>
このソフトウェアを用いて、20代健常者男性8名を被験者として長軸断面の推定と呈示を行った。そのうちの1名から得られた結果を図24に示す。ここで、超音波断層画像Aは、取得した短軸方向の断面6枚のうちの1枚の断層画像である。また、超音波断層画像Bは、これらを楕円近似し、その中心点と断層平面Lとの距離が最小となるようにして得られた断層像である。
【0067】
更に、近似された楕円、および断層画像Bが得られたプローブ2Aの位置・姿勢の3次元位置関係も同時に表している。この断層画像Bは、先に挙げた長軸断面の特徴を満たしており、また、他の被験者においても同様の断層画像が得られた。
【0068】
また、8名の各被験者について、得られた楕円中心点の分布から最小2乗法により直線に近似し、その直線から各楕円中心点までの距離平均とその標準偏差を算出したところ、図25に示すような結果が得られた。ここで、エラーバーは、距離平均とその標準偏差を加えた範囲を表している。
【0069】
図25から、いずれの被験者の場合も距離平均値で10[mm]以内に、距離平均に標準偏差を加えた値でも13[mm]以内に収まっている。以上の結果により、同一断面内に複数の楕円中心点を含むよう断層像を撮像することで、遠隔診断への適用時にも微調整のみで図3に示したような左心室LVの長軸断面が容易に得られる。
【符号の説明】
【0070】
1…心室壁情報抽出装置
1A…ベクトル計測部
1B…初期探索点設定部
1C…輪郭点抽出部
1D…楕円近似手段
1E…3次元計測手段
2…超音波診断装置
2A…プローブ
2B…画像生成部
2C…モニタ
LV…左心室
MV…僧帽弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の心室壁の輪郭、形状、3次元位置等の情報を抽出する心室壁情報抽出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断法は、患者の体表にプローブを押し付けるだけで患者の体内の超音波断層画像が得られるため、その安全性およびリアルタイム性から心臓の診断には欠かせない手法である。この超音波診断法に使用される超音波診断装置の小型化・ポータブル化の進歩は著しく、場所を選ばない超音波診断が実現している。
【0003】
一方、インターナットなどのネットワーク伝送速度の高速化により、超音波診断装置のプローブにより撮像された超音波断層画像をネットワーク経由で伝送することも可能となっている。このような技術的背景のもと、患者宅から病院に伝送される超音波断層画像に基づいて病院の医師が遠隔地の患者を超音波診断する遠隔超音波診断法の研究も進められている。
【0004】
この種の遠隔超音波診断法として、医師が所望するプローブの位置・姿勢を的確に遠隔地に伝送して患者の的確な超音波断層画像を得るため、プローブ操作用のロボットを使用する遠隔超音波診断法が報告されている。また、拡張現実感と呼称されるAR(Augmented Reality)技術を利用して、プローブの位置・姿勢を表すCG(computer graphic)を患者の体表に投影し、患者側の操作者にプローブの操作を教示する研究も進められている。
【0005】
一方、超音波診断装置に関しては、操作者に多くの操作を強いることなく、かつ、高い精度で超音波断層画像中の対象物の輪郭を抽出することができるようにした超音波診断装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この超音波診断装置は、断層画像に対して等化、2値化および縮退等の画像処理を施すことにより断層画像中の対象物の輪郭を初期輪郭として粗く抽出する初期輪郭抽出部と、抽出された初期輪郭を初期値として断層画像中の対象物に対しSNAKES等の動的な輪郭モデルを適用することで、細かく輪郭を抽出する動的輪郭抽出部とからなる自動輪郭抽出部を備えたものである。
【0006】
また、画像処理装置に関しては、画像中の対象物の動的輪郭抽出の際に、精確な初期輪郭の設定が容易に行える結果、正確で効率的な輪郭抽出を可能とする画像処理装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。この画像処理装置は、入力された画像に対し、画像中の対象物の特徴点に基づき対象物の初期輪郭を生成する手段と、特徴点の位置を変化させずに、対象物の輪郭形状の特徴量と、画像の特徴量と、必要に応じて与えられる初期輪郭の特徴量との総和が最小になるように初期輪郭を変形することにより、画像中の対象物の輪郭を抽出する輪郭抽出手段とを備えたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−224116号公報(要約)
【特許文献2】特開平11−265455号公報(要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、プローブ操作用のロボットを使用する遠隔超音波診断法においては、ロボットを設置することが可能な救急医療の現場では一定の成果が期待されるものの、ロボットを設置するのが難しい患者の自宅等での実現性が薄い。また、プローブの位置・姿勢を表すCGを患者の体表に投影して患者側の操作者にプローブの操作を教示する遠隔超音波診断法においては、医師の指示をネットワーク経由で逐次反映させる必要があるため、通常の超音波診断に比べて目的の超音波断層画像を得るまでに時間が掛かると共に、医師にとっては3次元空間の把握が難しいという問題があった。
【0009】
一方、特許文献1に記載の超音波診断装置においては、SNAKES等の動的輪郭抽出法を適用しているが、SNAKESを用いた従来手法による輪郭抽出法の多くは、一般的に、初期輪郭を対象物体の輪郭線の近傍に配置して、そこからの収束を図っているため、画像毎に利用者が初期輪郭を配置していく必要があり、初期輪郭を探索するのに時間が掛かるという問題がある。同様に、特許文献2に記載の画像処理装置においては、初期輪郭を手動で設定する必要があり、操作者に大きな負担が掛かる。
【0010】
すなわち、従来の超音波診断装置および画像処理装置を使用して心臓の心室壁の輪郭等を抽出するには、心室壁が描画されている領域の全体もしくは一部を初期位置としてプローブの操作者が手動で指定する必要があり、プローブの操作者に大きな負担が掛かっている。
【0011】
本発明は、このような従来技術の問題点に対応してなされたものであり、初期輪郭等の初期設定が全く不要でりながら、心臓の心室壁情報を容易に抽出することができ、その結果、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能な心室壁情報抽出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するため、本発明に係る心室壁情報抽出装置は、超音波診断装置のプローブにより撮像される心臓の超音波断層画像に基づいて心室壁の情報を抽出する装置であって、心室壁の運動ベクトルを複数計測する運動ベクトル計測手段と、運動ベクトル計測手段により計測された複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する初期探索点設定手段と、初期探索点設定手段により設定された初期探索点を原点とする極座標により心室壁の輪郭点を複数抽出する輪郭点抽出手段とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る心室壁情報抽出装置では、超音波診断装置のプローブにより心臓の心室壁の超音波断層画像が撮像されると、運動ベクトル計測手段が心室壁の運動ベクトルを複数計測し、初期探索点設定手段が複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する。そして、設定された初期探索点を原点とする極座標により、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出する。すなわち、プローブの操作者が心室壁の初期輪郭の初期設定をしないにも拘わらず、初期探索点設定手段が自動的に初期探索点設定し、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出する。
【0014】
本発明の心室壁情報抽出装置には、前記輪郭点抽出手段により抽出された心室壁の複数の輪郭点から心室壁の輪郭に沿った近似楕円を最小2乗法により描画する楕円近似手段と、前記プローブのランダム操作に応じて描画される複数の近似楕円に基づいて心室壁の形状および3次元位置の情報を求める3次元計測手段とを付加することができる。
【0015】
この発明では、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出すると、その複数の輪郭点から心室壁の輪郭に沿った近似楕円を楕円近似手段が描画し、プローブのランダム操作に応じて複数の近似楕円が描画されると、その複数の近似楕円に基づいて3次元計測手段が心室壁の形状および3次元位置の情報を求める。ここで、楕円近似手段が描画する近似楕円は、計算処理の負荷の小さい最小2乗法によるため、近似楕円はリアルタイムで描画される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る心室壁情報抽出装置によれば、超音波診断装置のプローブにより心臓の心室壁の超音波断層画像が撮像されると、運動ベクトル計測手段が心室壁の運動ベクトルを複数計測し、初期探索点設定手段が複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定するため、従来、プローブの操作者が手動で設定することが必要であった心室壁の初期輪郭の初期設定等が一切不要となる。そして、初期探索点設定手段により設定された初期探索点を原点とする極座標により、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出するため、心室壁の輪郭を含む心室壁情報を容易に抽出することができる。すなわち、本発明によれば、初期輪郭等の初期設定が全く不要でありながら、心室壁の輪郭を含む心室壁情報を容易に抽出することができ、その結果、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能となる。
【0017】
また、楕円近似手段と3次元計測手段とが付加された本発明の心室壁情報抽出装置によれば、輪郭点抽出手段が心室壁の輪郭点を複数抽出すると、その複数の輪郭点から心室壁の輪郭に沿った近似楕円を楕円近似手段が描画し、プローブのランダム操作に応じて複数の近似楕円が描画されると、その複数の近似楕円に基づいて3次元計測手段が心室壁の形状および3次元位置の情報を求めるため、心室壁の形状および3次元位置を含む心室壁情報を容易に抽出することができ、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る心室壁情報抽出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】一実施形態に係る心室壁情報抽出装置が対象とする左心室の長軸断面を撮像するプローブの位置および向きを示す心臓の正面図である。
【図3】図2に示したプローブが撮像する左心室の長軸断面図である。
【図4】左心室の短軸断面を撮像するプローブの位置および向きを示す心臓の正面図である。
【図5】図4に示したプローブが撮像する左心室の短軸断面図である。
【図6】左心室を楕円体と仮定した模式図である。
【図7】左心室を横断する短軸方向の超音波断層画像を示す図である。
【図8】図7に示した超音波断層画像を小領域に分割して領域運動ベクトルを重畳表示した図である。
【図9】左心室壁の輪郭点を抽出する極座標を示す図である。
【図10】左心室壁の輪郭点に沿った近似楕円を示す図である。
【図11】一般的な楕円の2次元投影図である。
【図12】N個のサンプル点から算出される楕円中心点と、真の中心点との距離誤差を示すグラフである。
【図13】楕円近似部が近似した楕円を図7に示した左心室の短軸方向の超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図14】僧帽弁や右心室が描出された超音波断層画像を示す図である。
【図15】図14に示した超音波断層画像に基づいて近似された楕円形状を超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図16】図15に示したdn値およびその分散値dσと、プローブの軸回転角との関係を示すグラフである。
【図17】左心室壁の領域を図7に示した左心室の短軸方向の超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図18】左心室壁から抽出した運動ベクトルを図7に示した左心室の短軸方向の超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図19】バイウェイト(Biweight)法を用いて近似した楕円と、バイウェイト(Biweight)法を用いないで近似した楕円とを左心室の短軸方向の超音波断層画像に重畳表示した図である。
【図20】患者とカメラとプローブのマーカとモニタとの配置関係を示す斜視図である。
【図21】図20のモニタに映し出されるGUI画面を示す図である。
【図22】図20のモニタに映し出される他のGUI画面を示す図である。
【図23】任意の楕円中心点と超音波断層面との位置関係を示す図である。
【図24】1名の被験者を対象とした左心室壁の長軸断面の推定と呈示状態を示す図である。
【図25】8名の各被験者について得られた楕円中心点の分布から最小2乗法により直線に近似し、その直線から各楕円中心点までの距離平均とその標準偏差を算出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して本発明に係る心室壁情報抽出装置の実施の形態を順次説明する。図1に示すように、一実施形態に係る心室壁情報抽出装置1は、超音波診断装置2のプローブ2Aにより撮像される心臓の超音波断層画像に基づいて心室壁の情報を抽出する装置であって、例えば、肺静脈から左心房を経由して流入する新鮮な血液を大動脈に吐出する左心室の輪郭、形状、3次元位置等の情報を抽出する。
【0020】
超音波診断装置2は、患者の体表に押し付けられて操作されるプローブ2Aと、プローブ2Aで探索された信号に基づいて患者の体内の超音波断層画像を生成する画像生成部2Bと、画像生成部2Bで生成された超音波断層画像を表示するモニタ2Cとを少なくとも備えている。
【0021】
ここで、超音波診断装置2と協働する一実施形態の心室壁情報抽出装置1は、少なくとも左心室壁の運動ベクトルを複数計測する運動ベクトル算出部(運動ベクトル計測手段)1Aと、運動ベクトル算出部1Aにより計測された複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する初期探索点設定部(初期探索点設定手段)1Bと、初期探索点設定部1Bにより設定された初期探索点を原点とする極座標により左心室壁の輪郭点を複数抽出する輪郭点抽出部(輪郭点抽出手段)1Cとを備えている。
【0022】
また、この心室壁情報抽出装置1には、輪郭点抽出部1Cにより抽出された心室壁の複数の輪郭点から左心室壁の輪郭に沿った近似楕円を最小2乗法により描画する楕円近似部(楕円近似手段)1Dと、超音波診断装置2のプローブ2Aのランダム操作に応じて描画される複数の近似楕円に基づいて左心室壁の形状および3次元位置の情報を求める3次元計測部(3次元計測手段)1Eとが付加されている。
【0023】
心室壁情報抽出装置1の運動ベクトル算出部1A、初期探索点設定部1B、輪郭点抽出部1C、楕円近似部1Dおよび3次元計測部1Eは、入出力インターフェースI/O、A/Dコンバータ、プログラムおよびデータを記憶したROM(Read Only Memory)、入力データ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等を備えた図示しないパーソナルコンピュータ等のハードウェアおよびソフトウェアを利用して構成されており、超音波診断装置2と協働する。
<左心室の長軸断面と短軸断面>
【0024】
ここで、心臓の診断の基準となる断面には長軸断面、短軸断面、四腔断面等があるが、このうち長軸断面および短軸断面から診断を開始する場合が多い。長軸断面は、図2に示したような位置および向きに操作されたプローブ2Aによって左心室(Left ventricle)を長軸方向に撮像した断面であり、図3に示すように、心室後壁(Posterior wall)PWと心室中隔(Interventricular septum)IVSを平行に見るため左心室径が最大となり、同時に僧帽弁(Mitral valve)MVや大動脈弁(Aortic valve)AVが観測されるという特徴がある。
【0025】
一方、短軸断面は、図4に示すように、図2に示したプローブ2Aを時計方向の軸廻りに略90度回転させて左心室壁LVの断面積を最小にして見る断面であり、図5に示すように、正常な心臓の場合には左心室壁LVが同心円状に撮像され、僧帽弁MVが対称に開口するという特徴がある。
【0026】
このような短軸断面を取得したときのプローブ2Aの接触位置を固定してプローブ2Aを軸廻りに回転させた場合、左心室壁LVの断面形状は、通常、円形から楕円形へと変形する。
【0027】
ここで、左心室LVの3次元形状が楕円体であると仮定すると、図6に示すように、左心室LVを横断する任意の断面において、左心室LVの壁の断面形状は楕円になる。そこで、複数の断面の空間的位置計測により、楕円体を最も長く捉えることのできる断面、つまり長軸断面を得るためのプローブ2Aの位置を推測できる。
【0028】
すなわち、プローブ2Aの3次元位置を常にモニタリングしておき、左心室LVを横断する断面が楕円形状として認識されたとき、画像処理によってリアルタイムに左心室LVの壁の輪郭を抽出し、楕円Eiに近似する。このときの楕円の中心点の3次元座標Piを算出し、同様に複数のプローブ2Aの位置から得られた楕円の中心点を取得する。長軸断面が得られる断面はそれらの点から近いと考えられるため、長軸断面の候補となる空間の範囲を限定できる。
<左心室壁の輪郭抽出>
【0029】
左心室LVを横断する短軸方向の超音波断層画像を図7に示す。単純な閾値を用いた2値化処理のみでは、体表面からの深さ方向に対する超音波の減衰特性が一様でないため、左心室LVの壁を抽出するのは困難である。そこで、図1に示した一実施形態の心室壁情報抽出装置1が超音波診断装置2と協働して左心室LVの壁の輪郭を抽出する。
【0030】
まず、図8に示すように、超音波断層画像を例えば15×15[pixel]の複数の小領域に分割し、各小領域内の平均ベクトルを各小領域の領域運動ベクトルfと定義して運動ベクトル算出部1Aが以下の数式1により算出する。ここで、Vnは算出ベクトル、Nは小領域内のベクトル数である。
【数1】
【0031】
続いて、運動ベクトル算出部1Aが算出した領域運動ベクトルfを左心室LVの収縮期には終点を無限に延長し、左心室LVの拡張期には始点を無限に延長することで、初期探索点設定部1Bがそれらの交点領域を初期探索点Oとして設定する(図9参照)。その際、算出される交点領域は、領域運動ベクトルfは、その方向のみで算出されるものであるため、領域運動ベクトルfの絶対値(大きさ)を重みとして付加することで、初期探索点設定部1Bは適切な初期探索点Oを設定する。すなわち、初期探索点設定部1Bは、小領域内の交点数pに重みを付加した指標qを以下の数式2により定義する。
【数2】
【0032】
一方、超音波断層画像のゲイン等によって算出されるベクトル数が変動し、q値そのものに影響するため、交点の総数NでN=A(A−1)/2と正規化し、インターセクションインデックスIをI=q/N=2q/A(A−1)と定義する。
【0033】
次に、図9に示すように、初期探索点設定部1Bが設定した初期探索点Oを原点とする半径rの動径を有する極座標により、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの壁の輪郭点を複数抽出する。すなわち、半径rの動径の角度θを1[deg]ずつ変化させて360本の動径上の輝度分布から輝度の極大値を抽出し、動径上の極大値分布により左心室LVの壁の輪郭点を抽出する。
【0034】
その際、輪郭点抽出部1Cは、形状の特徴抽出を行う画像処理手法であるモルフォロジー演算と、各画素にラベルを属性として付加することにより、特定の領域を抽出し、連結している画素に同じラベルを付加することで複数の領域をグループとして分類するラベリング処理を施すことで、微小面積領域を除去した左心室LVの壁の輪郭点を抽出する。
<左心室壁の輪郭の楕円近似>
【0035】
続いて、図10に示すように、輪郭点抽出部1Cが抽出した左心室LVの壁の輪郭点の集合を楕円近似部1Dが最小2乗法を用いて楕円に近似する。ここで一般的な楕円の2次元投影図を図11に、それを表す式を数式3にそれぞれ示す。ただし(Xn,Yn)はn番目の輪郭点の座標、(X0,Y0)は楕円の中心座標、a,bは楕円の長半径および短半径、φは楕円の傾きをそれぞれ表している。
【数3】
【0036】
一般に、複数の点の集合から図形のパラメータを決定する方法としてHough変換や最小2乗法などが考えられるが、Hough変換ではパラメータ数に対する計算処理の負荷が大きく、リアルタイム処理が困難であるため、一実施形態では計算コストを重視して最小2乗法を導入した。
【0037】
ここで数式3を展開し、全ての輪郭点における2乗の総和を数式4のように算出する。ここで、A〜Eはいずれも、楕円のパラメータX0,Y0,a,b,φで表される係数であり、Nは輪郭点の個数である。
【数4】
【0038】
これをA〜Eそれぞれについて偏微分して0となる式を立てると数式5が得られる。そして、数式5の左辺第1項の逆行列を左から両辺にかけることで、A〜Eが求まるため、逆演算によって各パラメータX0,Y0,a,b,φを求めることができる。
【数5】
<楕円近似の信頼性>
【0039】
前述した楕円近似の信頼性を確認するため、まず、楕円の各パラメータを予めX0=50、Y0=30、a=15、b=10[mm]、φ=10[deg]と設定し、その楕円の軌道上からN個のサンプル点を等間隔に採取する。
【0040】
次に、N個のサンプル点から算出される楕円中心点と、真の中心点との距離誤差を求める。この距離誤差を、Nの値を変化させたときにそれぞれ求め、その推移を表した結果を図12に示す。
【0041】
この結果から、楕円の軌道上に等間隔に8点以上あれば、1[mm]以内の誤差で中心点を求めることができることが確認された。ここで、図10に示すように抽出された左心室LVの壁の輪郭点は300点以上であることから、必要なデータ数は十分に満たしていると考えられる。図13は、楕円近似部1Dが近似した楕円を図7に示した左心室LVの短軸方向の超音波断層画像に重畳表示したものであり、楕円は左心室LVの壁の形状に沿って正確に描かれている。
<バイウェイト(Biweight)法による誤認識の修正>
【0042】
ところで以上までの処理では、左心室LVの壁以外の構造物を含む場合に左心室LVの壁の輪郭から大きく外れた楕円を描いてしまう。例えば図14に示すように僧帽弁MVや右心室RV(Right ventricle)が明確に描出された超音波断層画像を処理すると、近似された楕円形状f(x,y)は、図15に示すように、実際と大きく外れてしまう。
【0043】
そこで、僧帽弁MVや右心室RVなどの左心室LVの壁以外の形状を排除するため、楕円近似によって得られた結果に対し、以下の2つの評価基準を設け、それらを判別させることにした。
【0044】
第1に、抽出された楕円に対し、図11に示した長半径aと短半径bとの比率を導出した。これは、左心室LVの壁以外の輪郭点が発生した場合、描かれる楕円は左心室LVの壁の形状からどちらかの方向に歪み、その影響がaとbに現れるためである。
【0045】
ここで、長軸断面の推定に必要な中心点の数はおよそ8点であるので、楕円が描かれた断面のうち、a/b が1に近い上位8枚の断面から楕円中心点を採取することにした。また第2に、抽出された各輪郭点と、それから近似された楕円との一致度dave,dσを評価した。
【0046】
ここで、図15に示した輪郭抽出点(Xn,Yn)と楕円中心点(X0,Y0)とを結ぶ直線y=anx+bnと、描かれた楕円f(x,y)の交点との距離をdnとし、全ての抽出点に対して算出したdnの平均をdaveとした。また、dσはdnの分散を表す。
【0047】
実際の超音波断層画像を用いてこれらの値を検証した。20代健常者男性を対象とし、短軸断面が撮像できるプローブ2Aの軸回転角を0[deg]として−90〜90[deg]において15[deg]刻みで心臓の超音波断層画像を取得し、それぞれにおいてdaveとdσを測定した。その結果は図16に示すように、±30[deg]の範囲ではdaveおよびdσは、いずれも2[mm]以内に収まった。そこでdave、dσ≧2[mm]を満たす超音波断層画像を排除し、その楕円中心点は記憶させないよう制限した。
【0048】
ここで、一実施形態の心室壁情報抽出装置においては、超音波診断装置2のプローブ2Aのランダム操作に応じて描画される複数の近似楕円に基づいて、3次元計測部1Eが左心室LVの壁の形状および3次元位置を計測する。
【0049】
また、図17に示すように、左心室LVの壁の領域のみを自動認識できるため、楕円形状からの中心点を補正し、次フレームの輪郭認識に適用することで、図18に示すように、左心室LVの壁からのみの運動ベクトルの抽出も短時間で可能になる。その結果、ビデオ信号をリアルタイムで表示することができ、心臓の運動機能の自動評価も可能となる。
【0050】
以上説明したように、一実施形態の心室壁情報抽出装置1では、超音波診断装置2のプローブ2Aにより心臓の左心室LVの壁の超音波断層画像が撮像されると、運動ベクトル算出部1Aが左心室LVの壁の運動ベクトルを複数計測し、初期探索点設定部1Bが複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点Oとして設定する。
【0051】
そして、設定された初期探索点Oを原点とする半径rの動径を有する極座標により、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの複数の輪郭点を抽出する。すなわち、プローブ2Aの操作者が左心室LVの初期輪郭の初期設定をしないにも拘わらず、初期探索点設定部1Bが自動的に初期探索点Oを設定し、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの壁の輪郭点を複数抽出する。
【0052】
従って、一実施形態の心室壁情報抽出装置1によれば、従来、プローブ2Aの操作者が手動で設定することが必要であった左心室LVの壁の初期輪郭の初期設定等が一切不要となる。そして、初期探索点設定部1Bにより設定された初期探索点Oを原点とする半径rの動径を有する極座標により、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの壁の輪郭点を複数抽出するため、左心室LVの壁の輪郭を含む心室壁情報を容易に抽出することができる。すなわち、初期輪郭等の初期設定が全く不要でありながら、左心室LVの壁の輪郭を含む心室壁情報を容易に抽出することができ、その結果、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能となる。
【0053】
また、一実施形態の心室壁情報抽出装置1では、輪郭点抽出部1Cが左心室LVの壁の輪郭点を複数抽出すると、その複数の輪郭点から左心室LVの壁の輪郭に沿った近似楕円を楕円近似部1Dが描画し、プローブ2Aのランダム操作に応じて複数の近似楕円が描画されると、その複数の近似楕円に基づいて楕円近似部1Dが左心室LVの壁の形状および3次元位置を計測する。
【0054】
従って、一実施形態の心室壁情報抽出装置1によれば、左心室LVの壁の形状および3次元位置を含む心室壁情報を容易に抽出することができ、遠隔超音波診断も容易に実現することが可能となる。
【0055】
本発明の心室壁情報抽出装置は、前述した一実施形態に限定されるものではない。例えば、前述の閾値の範囲内に該当しなかった楕円に関しては、バイウェイト(Biweight)法を用いて更に安定した楕円を導出することができる。
【0056】
バイウェイト(Biweight)法とは各抽出点(Xn,Yn)と描かれた楕円との距離dnに応じてそれぞれ重みw(dn)を付与する手法であり、よりロバストな近似が期待できる。重みw(dn)の算出方法を数式6および数式7に示す。ただし、Wは誤差の許容範囲であり、ここでは前述したdaveとdσの閾値の和の4[mm]とした。
【数6】
【数7】
【0057】
この数式6および数式7によって算出された重みw(dn)を各輪郭点に付与し、再度最小2乗法によって楕円近似を行い、超音波断層画像に重畳表示した結果を図19に示す。バイウェイト(Biweight)法を用いない場合と比べて左心室LVの形状に近い楕円を描いていることが確認できる。
<ARを用いた長軸断面の取得>
【0058】
上記の方法で抽出した楕円中心点の分布を3次元空間内に変換するには、プローブ2Aの絶対的な3次元位置・姿勢を把握する必要がある。しかし磁気式や光学式の3次元位置センサは一般的に高価であり、設置方法の煩雑さから一般家庭での使用になじまない。
【0059】
そこで、一実施形態では、簡便な3次元位置計測方法としてARToolKitを使用することにした。これはカメラと紙に印刷したマーカのみで位置・姿勢をリアルタイム計測できるライブラリであり、主なコストはカメラのみである。動作原理としては、正方形の内部に模様が描かれた複数のマーカについて、固定されたUSBカメラで撮影した画像に対して二値化やラベリング等の画像処理を施すことで検出し、その内部パターンの大きさや向きから相対的な位置・角度を算出している。
【0060】
そこで、一実施形態では図20に示すように、プローブ2Aの操作者が患者の右手側に座り、右手で操作することを想定し、マーカをプローブ2Aの上方、および患者の両肩鎖骨の中心付近に取り付けることにした。また、カメラは胸部全体を撮影でき、且つ手やプローブによってマーカが隠れにくい、患者の右肩上方に設置した。これによりカメラ座標系に対する両者の相対関係から、カメラの設置位置に依存せずに、患者体表を原点としたプローブ先端位置をリアルタイムに算出することができる。
【0061】
図20のモニタ2C上に映し出されるGUI(Graphical User Interface)画面を図21および図22に示す。プログラムの開発にはVisual C++、ビデオ画像の取得にDirectShow、グラフィックスの表示にはOpenGLを使用した。ウィンドウ内には超音波断層像と患者映像が表示され、操作者はプローブ2Aを操作する手元と断層像を同時に観察できる。
【0062】
<楕円中心点の取得と仮想断層面の呈示>
本発明では、前述の手法で抽出された左心室LVの壁の輪郭と、ARToolkitによって取得されたプローブ2Aの位置および角度に応じた仮想断層面を同時にCGで構成し、実映像にリアルタイムで重畳表示させることができる。
【0063】
プローブ2Aの操作者には、予め被験者の胸部をプローブ2Aでゆっくりとなぞるように指示しておき、取得した断層像からは心電図同期によって常に同位相の楕円中心点分布を計測する。
【0064】
楕円中心点が10点程度取得された後、それらの点をできるだけ多く含む断面へプローブ2Aの位置を以下の要領で誘導する。まず、その時点での断層面と、各楕円中心点との距離の平均値を求め、その値に応じた色呈示を行う。
【0065】
任意の楕円中心点Piと超音波断層面との位置関係を図23に示す。また、その距離Liの算出式を数式8に示す。ただし、△ABCは断層面上の任意の3点、nは△ABCに対する単位法線ベクトルである。その上で、全てのLiの平均値Laveを算出し、タブレットの設定に応じて断層面の色を変化させた。これにより、各楕円中心点の分布と仮想断層面との位置関係を視覚的に把握することができるので、それに応じてプローブ2Aの位置・角度調節を行わせた。
【数8】
【0066】
<長軸断面の取得>
このソフトウェアを用いて、20代健常者男性8名を被験者として長軸断面の推定と呈示を行った。そのうちの1名から得られた結果を図24に示す。ここで、超音波断層画像Aは、取得した短軸方向の断面6枚のうちの1枚の断層画像である。また、超音波断層画像Bは、これらを楕円近似し、その中心点と断層平面Lとの距離が最小となるようにして得られた断層像である。
【0067】
更に、近似された楕円、および断層画像Bが得られたプローブ2Aの位置・姿勢の3次元位置関係も同時に表している。この断層画像Bは、先に挙げた長軸断面の特徴を満たしており、また、他の被験者においても同様の断層画像が得られた。
【0068】
また、8名の各被験者について、得られた楕円中心点の分布から最小2乗法により直線に近似し、その直線から各楕円中心点までの距離平均とその標準偏差を算出したところ、図25に示すような結果が得られた。ここで、エラーバーは、距離平均とその標準偏差を加えた範囲を表している。
【0069】
図25から、いずれの被験者の場合も距離平均値で10[mm]以内に、距離平均に標準偏差を加えた値でも13[mm]以内に収まっている。以上の結果により、同一断面内に複数の楕円中心点を含むよう断層像を撮像することで、遠隔診断への適用時にも微調整のみで図3に示したような左心室LVの長軸断面が容易に得られる。
【符号の説明】
【0070】
1…心室壁情報抽出装置
1A…ベクトル計測部
1B…初期探索点設定部
1C…輪郭点抽出部
1D…楕円近似手段
1E…3次元計測手段
2…超音波診断装置
2A…プローブ
2B…画像生成部
2C…モニタ
LV…左心室
MV…僧帽弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波診断装置のプローブにより撮像される心臓の超音波断層画像に基づいて心室壁の情報を抽出する装置であって、
心室壁の運動ベクトルを複数計測する運動ベクトル計測手段と、
運動ベクトル計測手段により計測された複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する初期探索点設定手段と、
初期探索点設定手段により設定された初期探索点を原点とする極座標により心室壁の輪郭点を複数抽出する輪郭点抽出手段とを備えていることを特徴とする心室壁抽出装置。
【請求項2】
前記輪郭点抽出手段により抽出された心室壁の複数の輪郭点から心室壁の輪郭に沿った近似楕円を最小2乗法により描画する楕円近似手段と、
前記プローブのランダム操作に応じて描画される複数の近似楕円に基づいて心室壁の形状および3次元位置の情報を求める3次元計測手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の心室壁情報抽出装置。
【請求項1】
超音波診断装置のプローブにより撮像される心臓の超音波断層画像に基づいて心室壁の情報を抽出する装置であって、
心室壁の運動ベクトルを複数計測する運動ベクトル計測手段と、
運動ベクトル計測手段により計測された複数の運動ベクトルの延長線の交点領域を初期探索点として設定する初期探索点設定手段と、
初期探索点設定手段により設定された初期探索点を原点とする極座標により心室壁の輪郭点を複数抽出する輪郭点抽出手段とを備えていることを特徴とする心室壁抽出装置。
【請求項2】
前記輪郭点抽出手段により抽出された心室壁の複数の輪郭点から心室壁の輪郭に沿った近似楕円を最小2乗法により描画する楕円近似手段と、
前記プローブのランダム操作に応じて描画される複数の近似楕円に基づいて心室壁の形状および3次元位置の情報を求める3次元計測手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の心室壁情報抽出装置。
【図1】
【図11】
【図12】
【図16】
【図23】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図24】
【図11】
【図12】
【図16】
【図23】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図24】
【公開番号】特開2010−233921(P2010−233921A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87021(P2009−87021)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 第51回自動制御連合講演会 〔主催者名〕 計測自動制御学会 〔開催日〕 平成20年11月2日
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 第51回自動制御連合講演会 〔主催者名〕 計測自動制御学会 〔開催日〕 平成20年11月2日
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
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