説明

心房収縮性の選択的増加及び心不全の治療のためのKv1.5遮断剤

本発明は、心房収縮性の低下及び心不全、特に拡張機能障害に起因する心不全を治療するための Kv1.5 遮断剤、特に式Ia及び/又はIbのフェニルカルボン酸アミド(I)、(II)及び/又はそれらの製薬上許容される塩の心房収縮性増加作用に関する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心房収縮性の低下及び心不全、特に拡張機能障害に起因する心不全を治療するための Kv1.5 遮断剤、特に式Ia及び/又はIbのフェニルカルボキサミド及び/又はそれらの製薬上許容される塩の心房収縮性増加効果に関する。
【化1】

【背景技術】
【0002】
心房細動(AF)及び心房粗動は最も一般的な持続性心不整脈である。発生率は加齢とともに増加し、そして致命的な続発症、例えば卒中などをしばしばもたらす。AFは、アメリカでは毎年約 100 万のアメリカ人を侵し、そして毎年 80 000 を超える卒中をもたらす。高齢者において、そして心房細動の結果として、心房虚脱と呼ばれる心房収縮の障害が生じる。このような場合には、能動的な心房収縮の減退、心房の拡大、及び心室充満の減少が存在する。心室充満の減少は、心臓からの駆出の減少、従って運動耐容能の減少をもたらす。
【0003】
心房機能の劣化は、全体的な血行力学作用、血栓易形成作用及び不整脈惹起作用を有する。それは、特に運動中に心臓のパフォーマンスを障害する。心房収縮性の欠損は心房中の血液停滞をもたらすことがあり、血栓形成及びその後の塞栓症(卒中)を引き起こす。心房虚脱は心房の拡張をもたらし、これは心房が不整脈になる傾向をかなり増加させる。それ故に、心房収縮性の増加により心房の大きさを縮小することは、不整脈感受性を減少させ、従って心房細動の再開始に対して保護を与える。
【0004】
心房収縮性の増加が心房それ自体に与える利益は別として、心房収縮性の選択的増加は、心不全の治療において、それが拡張機能障害に基づく場合には特に、治療的に有益である。これは、このような場合に、心室の拡張性及び弾力性の減少に基づく左心室充満障害が存在するためである。このような障害は、心臓壁が肥厚又は線維化することのある心臓肥大又は心筋症にしばしば関連する。拡張性の障害は、心室コンプライアンスの減少とも呼ばれる。この用語は、心室の拡張性が原則として保持されるが、より大きな力(より高い充満圧)をかけることによってのみ心室の十分な拡張、従って充満を達成できることを意味する。能動的な心房収縮性は、心室に必要な充満圧を生じさせる。正常レベルを超えて心房収縮性を増加させることによって、心室機能の障害を改善することが可能である。これには、陽性変力作用物質、例えば強心配糖体は不適当である。なぜならば、特に、それらが心室収縮を直接増加させ、従って心室の大きさを減少させ、その結果、心房に対する同時収縮性増加効果が可能であるにもかかわらず、心室充満が再び劣化するからである。これには心房収縮性の選択的増加が必要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
麻酔したブタに関する実験において、Kv1.5 遮断剤は、心室収縮性に直接影響を与えることなく心房収縮性を選択的に増加させることを見出した。同様に、心房収縮性増加効果は、心室の充満が実験的に妨害される(拡張機能障害モデルの)場合に循環状態の改善をもたらすことをブタにおいて示すことが可能であった。心拍出量の減少、すなわち心臓パフォーマンスの決定的なパラメーターの著しい改善は、Kv1.5 遮断剤で可能であった。これらの実験は、Kv1.5 遮断剤による心房収縮性の選択的増加、及び心不全、特に拡張期心不全に対するそれらの有益な効果を示す。
【0006】
本発明は、心不全の治療又は予防用の医薬を製造するための、式Ia及び/又はIbの化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩の使用に関し、
式中の意味は下記のとおりである:
R(1)は、3、4又は5個のC原子を有するアルキル又はキノリニルであり、
R(2)は、1、2又は3個のC原子を有するアルキル又はシクロプロピルであり、
R(3)は、フェニル又はピリジルであり、
ここで、フェニル及びピリジルは非置換であるか、又はF、Cl、CF3、OCF3、1、2又は3個のC原子を有するアルキル及び1、2又は3個のC原子を有するアルコキシからなる群から選択される1又は2個の置換基で置換されており、
Aは、−Cn2n−であり、
nは、0、1又は2であり、
R(4)、R(5)、R(6)及びR(7)は、互いに独立して、水素、F、Cl、CF3、OCF3、CN、1、2又は3個のC原子を有するアルキル、1、2又は3個のC原子を有するアルコキシであり、
Bは、−Cm2m−であり、
mは、1又は2であり、
R(8)は、2又は3個のC原子を有するアルキル、フェニル又はピリジルであり、ここで、フェニル及びピリジルは非置換であるか、又はF、Cl、CF3、OCF3、1、2又は3個のC原子を有するアルキル及び1、2又は3個のC原子を有するアルコキシからなる群から選択される1又は2個の置換基で置換されており、
R(9)は、C(O)OR(10)又はCOR(10)であり、
R(10)は、−Cx2x−R(11)であり、
xは、0、1又は2であり、
R(11)は、フェニルであり、
ここで、フェニルは非置換であるか、又はF、Cl、CF3、OCF3、1、2又は3個のC原子を有するアルキル及び1、2又は3個のC原子を有するアルコキシからなる群から選択される1又は2個の置換基で置換されている。
【0007】
式Ia及び/又はIbの化合物が、
N−(2−ピリジン−3−イルエチル)−2'−{[2−(4−メトキシフェニル)アセチルアミノ]メチル}ビフェニル−2−カルボキサミド、
N−(2−(2−ピリジル)エチル)−2'−(ベンジルオキシカルボニルアミノメチル)ビフェニル−2−カルボキサミド、
N−(2,4−ジフルオロベンジル)−2'−{[2−(4−メトキシフェニル)アセチルアミノ]メチル}ビフェニル−2−カルボキサミド、
N−(2−(2−ピリジル)エチル)−(S)−2'−(α−メチルベンジルオキシカルボニルアミノメチル)ビフェニル−2−カルボキサミド、
2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−[1(R)−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミド、
2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−(シクロプロピルピリジン−3−イルメチル)−5−メチルベンズアミド、
(S)−5−フルオロ−2−(キノリン−8−スルホニルアミノ)−N−(1−フェニルプロピル)ベンズアミド、
及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩の群から選択される、心不全の治療又は予防用の医薬を製造するための、式Ia及び/又はIbの化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩の使用が好ましい。
【0008】
拡張期心不全の治療又は予防用の医薬を製造するための、式Ia及び/又はIbの化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩の使用が特に好ましい。
【0009】
アルキル基及びアルキレン基は直鎖状又は分枝鎖状であってよい。これは、式Cn2n、Cm2m及びCx2xのアルキレン基にも適用される。アルキル基及びアルキレン基は、それらが置換されているか又は他の基に、例えばアルコキシ基に存在する場合にも、直鎖状又は分枝鎖状であってよい。アルキル基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソプチル、sec−ブチル、tert−ブチル又は n−ペンチルである。これらの気から誘導される2価の基、例えばメチレン、1,1−エチレン、1,2−エチレン、1,1−プロピレン、1,2−プロピレン、その他は、アルキレン基の例である。
【0010】
ピリジルは、2−、3−又は 4−ピリジルの何れかである。
キノリニルは、2−、3−、4−、5−、6−、7−又は8−キノリニルを包含し、8−キノリニル基が好ましい。
一置換フェニル基は、2、3又は4位で置換されていてよく、そして 2,3、2,4、2,5、2,6、3,4又は3,5位で二置換されていてよい。相当する記述はピリジル基にも同様に適用される。
基が二置換されている場合には、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0011】
式Ia又はIbの化合物が1個又はそれ以上の酸性基又は塩基性基又は1個又はそれ以上の塩基性ヘテロ環を含有する場合には、本発明は、相当する生理的又は毒物学的に許容される塩、特に製薬上使用可能な塩を包含する。従って、式Iaの化合物はスルホンアミド基上で脱プロトンされていてよく、そして例えばアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム若しくはカリウム塩として、又はアンモニウム塩として、例えばアンモニア又は有機アミン又はアミノ酸との塩として使用することができる。ピリジン又はキノリン置換基を含む式Ia又はIbの化合物は、それらと無機酸又は有機酸との生理的に許容される酸付加塩の形態で、例えば塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、等として使用することもできる。
【0012】
式Ia又はIbの化合物は、適切に置換されている場合には、立体異性体の形態で存在することができる。式Ia又はIbの化合物が1個又はそれ以上の不斉中心を含有する場合には、これらは互いに独立してS配置又はR配置を有することができる。
【0013】
本発明は、可能な全ての立体異性体、例えばエナンチオマー又はジアステレオマー、及び2種又はそれ以上の立体異性体形態、例えばエナンチオマー及び/又はジアステレオマーの任意の比率の混合物を包含する。従って、本発明は、エナンチオマーを、純エナンチオマー形態で左旋性及び右旋性の対掌体の両方として、並びに両方のエナンチオマーの種々の比率の混合物の形態で又はラセミ体の形態で包含する。個々の立体異性体は、従来法による混合物の分別によって、又は例えば異性体として純粋なシントンの使用によって、望みどおりに製造することができる。
【0014】
式Ia又はIbの化合物は、WO 0125189、WO 02088073 又は WO 02100825 に記載の製造方法により製造することができる。
式Ia又はIbの化合物は、それら単独で、相互に混合して又は医薬調製物の形態で、本発明により心不全を治療するためにヒト又は動物に用いることができる。
【0015】
医薬調製物は、従来の製薬上許容される担体及び賦形剤、並びに適切ならば1種又はそれ以上の他の医薬活性物質に加えて、有効用量の少なくとも1種の式Ia及び/又はIbの化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩を活性成分として含む。医薬調製物は、0.1〜90 重量%の式Ia及び/又はIbの化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩を含む。
【0016】
医薬調製物は、本来公知の方法で製造することができる。この目的のために、活性物質及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩を、1種又はそれ以上の固体又は液体の製薬用担体及び/又は賦形剤と一緒に、好適な形態又は剤形に変換することができ、これは次いでヒト医療又は動物医療において医薬として使用することができる。
【0017】
式Ia又はIbの本発明の化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩を含む医薬は、例えば経口的、非経口的、静脈内、直腸内に、吸入により又は局所的に投与することができ、好ましい投与法は個々の症例に依存する。
【0018】
当業者は自らの専門知識に基づいて、望ましい医薬製剤にはどの賦形剤が適するかについて精通している。溶剤、ゲル形成剤、坐剤基剤、錠剤賦形剤及び他の活性物質担体のほかに、例えば抗酸化剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、マスキング矯味矯臭剤、保存剤、可溶化剤、デポー効果を得るための物質、緩衝物質又は着色剤を使用することができる。
【0019】
経口使用形態のために、活性化合物はこの目的に適する添加物、例えば担体、安定剤又は不活性希釈剤と混合され、そして従来法により好適な形態、例えば錠剤、被覆錠剤、ツーピースカプセル、水性、アルコール性又は油性の溶液に変換される。使用できる不活性担体の例は、アラビアゴム、マグネシア、炭酸マグネシウム、リン酸カリウム、乳糖、ブドウ糖又は澱粉、特にトウモロコシ澱粉である。調製物は乾燥及び湿潤顆粒の両者として生成することができる。油性の担体又は溶剤として適するものは、例えば、植物油又は動物油、例えばヒマワリ油又は肝油である。水性又はアルコール性溶液に適する溶剤は、例えば、水、エタノール又は糖溶液又はそれらの混合物である。他の賦形剤の例は、他の投与形態のためにも、ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールである。
【0020】
皮下、筋肉内又は静脈内投与のために、活性化合物は、所望によりこの目的のための通常の物質、例えば可溶化剤、乳化剤又は他の賦形剤とともに溶液、懸濁液又はエマルジョンに変換される。好適な溶剤の例は、水、生理食塩水又はアルコール、例えばエタノール、プロパノール、グリセロール、並びに糖溶液、例えばブドウ糖又はマンニトールの溶液、又はそのほかに上記の種々の溶剤の混合物である。
【0021】
エアゾール又はスプレーの形態で投与するための医薬製剤として適するものは、例えば、製薬上許容される担体、例えば特にエタノール又は水又はこのような溶剤の混合物中の、活性物質又はそれらの生理的に耐容性の塩の溶液、懸濁液又はエマルジョンである。製剤は、必要ならば、他の製薬用担体、例えば界面活性剤、乳化剤及び安定剤、並びに噴射剤ガスを含むことができる。このような調製物は、活性物質を通常は約 0.1〜10、特に約 0.3〜3 重量%の濃度で含む。
【0022】
本発明により投与すべき活性化合物、又はそれらの生理的に耐容性の塩の投与量は、個々の症例に依存し、そして最適効果にとって通常であるように、個々の症例の事情に適合させるべきである。従って、投与量は、投与頻度及び治療又は予防に用いられる特定化合物の作用の効力及び持続時間だけでなく、治療すべき疾患の種類及び重症度、並びに治療されるヒト又は動物の性別、年齢及び体重に、そして治療が救急若しくは長期であるか又は予防を意図するかどうかに依存する。
【0023】
式Ia及び/又はIbの Kv1.5 遮断剤の投与量は、通常1日及び1人(約 75kg の体重)当たり約 1mg〜1g、好ましくは1日及び1人当たり約 5〜750mgの範囲で変化させることができる。しかしながら、より高い用量も適切な場合がある。活性物質の1日量を一度に投与することができるか、又は複数の投与、例えば2回、3回又は4回に分割することもできる。
【実施例】
【0024】
略語のリスト
DMAP 4−ジメチルアミノピリジン
EDAC N−エチル−N'−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩
HOBT 1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール
RT 室温
THF テトラヒドロフラン
【0025】
〔実施例1〕
N−(2−ピリジン−3−イルエチル)−2'−{[2−(4−メトキシフェニル)アセチルアミノ]メチル}ビフェニル−2−カルボキサミド
【化2】

15.5g (0.115mol) の HOBT 及び 21.9g (0.115mol) の EDAC を、550ml の THF 中の37.8 g (0.11mol) の 2'−(tert−ブトキシカルボニルアミノメチル)ビフェニル−2−カルボン酸 (Brandmeier, V.; Sauer, W.H.B.; Feigel, M.; Helv. Chim. Acta 1994, 77(1), 70-85) の溶液に加え、反応混合物を室温で45分間攪拌した。次いで、14.0g (0.115mol) の 3−(2−アミノエチル)ピリジンを加え、この混合物をRTで一夜攪拌した。400ml の水及び 500ml の酢酸エチルを加えて激しく攪拌した後、相を分離した。有機相を 400ml の飽和塩化ナトリウム溶液で1回及び毎回 400ml の飽和重炭酸ナトリウム溶液で2回洗浄した。活性炭の存在下に硫酸マグネシウム上で乾燥した後、濾過し、回転蒸発器中で濃縮した。
【0026】
生成した中間体 (40.7g) を600ml の塩化メチレンに溶解し、次いで 100ml のトリフルオロ酢酸を徐々に滴下した。一夜攪拌した後、真空濃縮した。残留物を 250ml の酢酸エチルと混合し、過剰のトリフルオロ酢酸を留去するために再び真空濃縮した。生成した粗生成物を170ml の塩化メチレンに溶解し、72.8ml (530mmol) のトリエチルアミンを滴下し、1g の DMAP を加えた。次いで 5〜10℃で、18.7g (100mmol) の 4−メトキシフェニルアセチルクロリドを 30分間かけて滴下し、この混合物を室温で一夜攪拌した。150ml の水を加えて激しく攪拌した後、相を分離し、有機相を 100ml の塩化ナトリウム溶液で1回、25ml の 1M 塩酸で1回及び毎回 100ml の飽和重炭酸ナトリウム溶液で2回洗浄した。硫酸マグネシウム及び活性炭上で乾燥した後、真空濃縮した。生成した油状物を熱アセトニトリルに溶解し、放置して徐々に結晶化させた。
21.5g のN−(2−ピリジン−3−イルエチル)−2'−{[2−(4−メトキシフェニル)アセチルアミノ]メチル}ビフェニル−2−カルボキサミド、融点 116℃ を得た。
【0027】
〔実施例2〕
N−(2−(2−ピリジル)エチル)−2'−(ベンジルオキシカルボニルアミノメチル)ビフェニル−2−カルボキサミド
【化3】

この化合物は、WO 0125189 に記載の合成方法により得た。
【0028】
〔実施例3〕
N−(2,4−ジフルオロベンジル)−2'−{[2−(4−メトキシフェニル)アセチルアミノ]メチル}ビフェニル−2−カルボキサミド
【化4】

この化合物は、WO 0125189 に記載の合成方法により得た。
【0029】
〔実施例4〕
N−(2−(2−ピリジル)エチル)−(S)−2'−(α−メチルベンジルオキシカルボニルアミノメチル)ビフェニル−2−カルボキサミド
【化5】

この化合物は、WO 0125189 に記載の合成方法により得た。
【0030】
〔実施例5〕
2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−[1(R)−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミド
【化6】

【0031】
a)2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)安息香酸
20g (188mmol) の炭酸ナトリウムを、250ml の水中の 20g (146mmol) の 2−アミノ安息香酸 の懸濁液に加えた。次いで 11.4g (72.8mmol) のブチルスルホニルクロリドを滴下し、反応混合物を室温で2日間攪拌した。これを濃塩酸で酸性化し、室温で3時間攪拌し、沈殿した生成物を吸引濾別した。真空乾燥して、9.6g の 2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)安息香酸を得た。
【0032】
b)1−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピルアミン
3ml (23.2 mmol) の 5−ブロモ−メトキシピリジンを、50ml のジエチルエーテル中の10.2ml の ブチルリチウム (ヘキサン中の 2.5M 溶液; 25.5mmol) の溶液に−70℃で加えた。10分後、1.4ml (19.5mmol) のプロピオニトリルを加えた。−70℃で2時間後、反応混合物を徐々に室温にした。次いで 2.2g の硫酸ナトリウム十水和物を加え、この混合物を1時間攪拌したままにした。次いで 5g の硫酸マグネシウムを加えて軽く攪拌した後、塩を濾別し、濾液を濃縮した。残留物を 70ml のメタノールに溶解し、0℃で 1.1g (28mmol) の水素化ホウ素ナトリウムを加えた。一夜攪拌した後、反応混合物を濃塩酸でpH 2 に調節し、回転蒸発器中で濃縮した。残留物を 10ml の水を加え、ジエチルエーテルで1回抽出した。次いで水相を重炭酸ナトリウムで飽和し、真空濃縮し、残留物を酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル抽出物を乾燥して濃縮して、1.4g のラセミ体 1−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピルアミンを得た。
【0033】
c)2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−[1(R)−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミド
4.4g (32.7mmol) の 1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール及び 6.3g (32.7mmol) の N−エチル−N'−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を、250ml テトラヒドロフラン中の 8.0g (31.1mmol) の 2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)安息香酸の溶液に加え、反応混合物を 90分間攪拌した。次いで 20ml のテトラヒドロフラン中のラセミ体 1−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピルアミンの溶液を滴下し、この混合物を一夜攪拌した。反応混合物を 250ml の水と混合し、300ml 酢酸エチルで抽出した。有機相を毎回 100 ml の飽和重炭酸ナトリウム溶液で5回抽出し、次いで硫酸マグネシウム上で乾燥した。9.0g の 2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−[1−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミドを得た。
【0034】
エナンチオマーの分離を、Chiralpak ADH カラム (250 x 4.6mm) 上の分取 HPLC により;溶離剤:ヘプタン/エタノール/メタノール 10:1:1;温度:30℃;流速:1ml/min で行った。5.9分の保持時間で最初に溶離されたものは、4.0g の 2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−[1(R)−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミドであった。混合分画に続いて、7,2分の保持時間で 3.0g の 2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−[1(S)−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミドが生じた。
2g の 2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−[1(R)−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミドを 9ml の熱イソプロパノールに溶解し、次いで 8ml の熱水を加えた後、反応混合物を一夜かけて徐々に冷却させた。0℃で吸引濾過した後、1.5g の2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−[1(R)−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミドを無色針状結晶として得た;融点 97℃。
【0035】
〔実施例6〕
2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−(シクロプロピルピリジン−3−イルメチル)−5−メチルベンズアミド
【化7】

この化合物は、WO 0208873 に記載の合成方法により得た。
【0036】
〔実施例7〕
(S)−5−フルオロ−2−(キノリン−8−スルホニルアミノ)−N−(1−フェニルプロピル)ベンズアミド
【化8】

【0037】
a)5−フルオロ−2−(キノリン−8−スルホニルアミノ)安息香酸
325ml の水及び 325ml の酢酸エチル中の 10.0g (64mmol) の 5−フルオロ−2−アミノ安息香酸、16.3g (193mmol) の重炭酸ナトリウム及び 16.3g の 8−キノリンスルホニルクロリドの反応混合物を、RTで一夜攪拌した。水相を分離し、50ml の酢酸エチルで1回抽出した。次いで水相を濃塩酸で酸性化し、2時間攪拌した。析出した沈殿を吸引濾別し、真空乾燥して、19.5g の 5−フルオロ−2−(キノリン−8−スルホニルアミノ)安息香酸を得た。
【0038】
b)5−フルオロ−2−(キノリン−8−スルホニルアミノ)−N−(1−フェニルプロピル)ベンズアミド
5.7g の表題の化合物は、5.5g (15.9mmol) の5−フルオロ−2−(キノリン−8−スルホニルアミノ)安息香酸及び 2.3g (16.7mmol) の (S)−フェニルプロピルアミンから、WO 0
2100825 に記載の方法により得た。
融点163℃。
【0039】
〔実施例8〕
(S)−5−フルオロ−2−(キノリン−8−スルホニルアミノ)−N−(1−フェニルプロピル)ベンズアミドのナトリウム塩
2ml の濃度 30%のナトリウムメタノラート溶液を、120ml の酢酸エチル中の 5g の実施例7の化合物の溶液に加えた。沈殿したナトリウム塩を吸引濾別し、25ml のエタノールから再結晶して、3.3g の表題の化合物を得た。
【0040】
薬理学的研究
Kv1.5チャンネルに対する活性の測定
ヒト Kv1.5 チャンネルをツメガエル卵母細胞で発現させた。この目的のために、最初に卵母細胞をアフリカツメガエルから単離し、卵胞を除去した。次いで、Kv1.5 をコードするインビトロで合成した RNA をこれらの卵母細胞に注入した。Kv1.5 タンパク質を1〜7日間発現させた後、2本微小電極電圧固定技術を用いて、Kv1.5 電流を卵母細胞で測定した。この場合、Kv1.5 チャンネルを普通は 500ms 持続する0mV 及び 40mV への電圧ジャンプで活性化した。次の組成の溶液を浴に流通させた:NaCl 96mM、KCl 2mM、CaCl21.8mM、MgCl2 1mM、HEPES 5mM (NaOH で pH 7.4 に滴定した)。これらの実験を室温で行った。次のものをデータ収集及び分析のために用いた: Geneclamp 増幅器 (Axon Instruments, Foster City, USA) 及び MacLab D/A コンバーター及びソフトウェア(ADInstruments, Castle Hill, Australia)。本発明の物質を種々の濃度で浴液に加えることにより、これらの物質を試験した。物質の効果を、溶液に物質を加えなかった場合に得られた Kv1.5 対照電流のパーセント抑制として計算した。次いで、それぞれの物質の抑制濃度 IC50を決定するために、Hill の式を用いてデータを外挿した。
【0041】
このようにして測定した以下に示す化合物の IC50値は下記のとおりである:
【表1】

【0042】
ブタ左心房の収縮性に対する Kv1.5 遮断剤の直接効果を以下に示す(A)。第二の実験計画(B)において、妨害された心室充満(拡張期障害)に対する心房収縮性の改善効果を示す。
【0043】
A)麻酔ブタの心房収縮性に対する Kv1.5 遮断剤の効果の試験
材料及び方法:ドイツランドレース種(German Landrace)ブタに、混合シリンジでそれぞれ 2.5〜3.5mg/kg のキシラジン、チレタミン及びゾラゼパムを筋肉内注射することにより前投薬した。ペントバルビタール(約 30mg/kg i.v.)で麻酔を誘発し、ペントバルビタールの連続的注入(12〜17mg/kg/h)により維持した。
麻酔を誘発した後及び気管切開した後、動物に挿管し、周囲空気と40%酸素との混合物を用いて換気した。換気の速度及び量を、血液ガス及び pH レベルの定期的測定により管理した。体温を連続的に記録し、加熱した下敷き及び/又は赤外線ランプ及び/又は吸込む空気の加温により制御して、体温を一定に保った(約37〜38℃)。
【0044】
ブタの下記の血管を露出し、カニューレを挿入した:
外頸静脈(麻酔剤を注入する)、頸動脈(チップ圧力計カテーテルを左心室に導入してそこの圧力を記録する)、外側伏在静脈(試験物質を投与する)、浅腹壁頭側静脈(液体を注入する)、大腿動脈(末梢血圧を記録する)、大腿静脈(右心房 MAP カテーテルを導入する)。
【0045】
収縮性に関与するパラメーターを、左心房で二つの超音波センサー(P/N JP 5-2, Triton Technology(登録商標))を用いて決定する[参考文献1及び2]。これら二つの電圧センサーを、心房の最先端に中断切開を通して頭−尾方向に埋め込む。切開部をそれぞれUステッチ(2-0 Vicryl(登録商標))で閉じた。次いで二つの超音波センサーを評価装置に接続した。さらに、左心房圧を記録するために、圧力測定カテーテルを心房の腹側端に埋め込んだ。
【0046】
左心房収縮期短縮(LASS)を、能動的心房圧曲線の初めの心房直径及び最小直径から決定した。心房収縮性は初期拡張に依存するので、左心房収縮期短縮を能動的心房収縮の初めの値で除した(LASS 指数)。曲線の最大急勾配を計算するための Microsoft Excel に生データポイントをインポートすることによって、収縮曲線の最大急勾配を決定した。呼吸関連変異を排除するために、少なくとも 10 の心臓周期を分析した。収縮性の改善をも示すこのパラメーターは、LASS 急勾配と呼ばれる。
【0047】
初期値の記録に続いて、ビヒクルを 10 分間注入した。このビヒクルは後で用いたものであり、0.5ml の DMSO、2.5ml の PEG 及び 2.0ml の glucose G20 からなる。次いで洞調律において、上記のビヒクルに溶解した 1 mg/kg の試験物質を静脈内(i.v.)投与し
た。
他の一連の実験において、右心房の持続的高周波刺激(1200ビート/分)により誘発させた心房粗動の1時間後にだけ試験物質を投与した。この場合、心房収縮性のパラメーターを、粗動期間の前/後及び試験化合物の投与後に記録し、ビヒクル対照後のパラメーターと比較した。
【0048】
実施例1の化合物は、正常洞調律において(表1)及び心房粗動の1時間後(表2)の両方で、ブタの心房機能に統計学的に有意な改善をもたらした。心房機能の改善は、LASS 指数及び LACC 急勾配の両方のパラメーターから明らかであった。心房粗動の1時間後の実施例1の化合物の効果は、収縮性がそこの初期値の 57〜69%のレベルまで低下したので、特に強調すべきである。この状況で、実施例1の化合物は、基線レベル(心房粗動前)を超える値に改善することができた。
【0049】
実施例1の化合物は、正常洞調律において及び心房粗動の1時間後の両方で心房収縮性を大幅に改善し、その場合、心房収縮性は電気的リモデリングと呼ばれる過程によって病態生理学的に有意な程度まで増加する。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
実施例5も、洞調律における同じ実験計画で左心房収縮性の改善を示した。心房収縮性(LASS)は、1mg/kg i.v.後の洞調律において 68%だげ改善された。(表3)
【表4】

【0053】
B)拡張期障害のモデルにおける Kv1.5 遮断剤後の左心室駆出の改善
方法:ブタをA)に記載したように麻酔し、開胸した。流量センサーを大静脈上に取り付けて心拍出量を測定した。安定な血行動態的状態において、カニューレを用いて空気(約 30ml)を心嚢に注入した。心嚢空気注入の意図は心室充満の妨害であり、これは最終的に心拍出量の減少(拡張期心不全)をもたらす。この実験の目的は、心房収縮性(これは妨害された心室充満の改善をもたらす Kv1.5 遮断により増加する)を介した心房収縮性の向上によって、心拍出量の減少を増加させ得ることを示すことであった。
【0054】
心嚢空気注入は、心拍出量の明確な減少をもたらす(表4)。30分間注入した実施例1の化合物(3mg/kg)の投与(n = 11)によって、心拍出量を大幅に増加させることが可能であった。減少した心拍出量の実施例1の化合物による最大増加は 25%であった。
実施例1の化合物による Kv1.5 遮断は、心室充満が妨害された場合に心拍出量を増加させる。これらの結果は、Kv1.5 遮断が拡張期心不全にとって特に有効であることを示している。
【0055】
【表5】

【0056】
参考文献:
Leistad E, Aksnes G, Verburg E, Christensen G. Atrial contractile dysfunction after short-term atrial fibrillation is reduced by verapamil but increased by BAY K8644. Circulation 1996;93:1747-1754.
Recordati G, Lombardi F, Malliani A, Brown AM. Instantaneous dimensional chang
es of the right atrium of the cat. J Appl Physiol 1974;36:686-692.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全の治療又は予防用の医薬を製造するための、式Ia及び/又はIb:
【化1】

[式中:
R(1)は、3、4又は5個のC原子を有するアルキル又はキノリニルであり、
R(2)は、1、2又は3個のC原子を有するアルキル又はシクロプロピルであり、
R(3)は、フェニル又はピリジルであり、
ここで、フェニル及びピリジルは非置換であるか、又はF、Cl、CF3、OCF3、1、2又は3個のC原子を有するアルキル及び1、2又は3個のC原子を有するアルコキシからなる群から選択される1又は2個の置換基で置換されており、
Aは、−Cn2n−であり、
nは、0、1又は2であり、
R(4)、R(5)、R(6)及びR(7)は、互いに独立して、水素、F、Cl、CF3、OCF3、CN、1、2又は3個のC原子を有するアルキル、1、2又は3個のC原子を有するアルコキシであり、
Bは、−Cm2m−であり、
mは、1又は2であり、
R(8)は、2又は3個のC原子を有するアルキル、フェニル又はピリジルであり、ここ
で、フェニル及びピリジルは非置換であるか、又はF、Cl、CF3、OCF3、1、2又は3個のC原子を有するアルキル及び1、2又は3個のC原子を有するアルコキシからなる群から選択される1又は2個の置換基で置換されており、
R(9)は、C(O)OR(10)又はCOR(10)であり、
R(10)は、−Cx2x−R(11)であり、
xは、0、1又は2であり、
R(11)は、フェニルであり、
ここで、フェニルは非置換であるか、又はF、Cl、CF3、OCF3、1、2又は3個のC原子を有するアルキル及び1、2又は3個のC原子を有するアルコキシからなる群から選択される1又は2個の置換基で置換されている]
の化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩の使用。
【請求項2】
式Ia及び/又はIbの化合物が、
N−(2−ピリジン−3−イルエチル)−2’−{[2−(4−メトキシフェニル)アセチルアミノ]メチル}ビフェニル−2−カルボキサミド、
N−(2−(2−ピリジル)エチル)−2’−(ベンジルオキシカルボニルアミノメチル)ビフェニル−2−カルボキサミド、
N−(2,4−ジフルオロベンジル)−2’−{[2−(4−メトキシフェニル)アセチルアミノ]メチル}ビフェニル−2−カルボキサミド、
N−(2−(2−ピリジル)エチル)−(S)−2’−(α−メチルベンジルオキシカルボニルアミノメチル)ビフェニル−2−カルボキサミド、
2−(ブチル −1−スルホニルアミノ)−N−[1(R)−(6−メトキシピリジン−3−イル)プロピル]ベンズアミド、
2−(ブチル−1−スルホニルアミノ)−N−(シクロプロピルピリジン−3−イルメチル)−5−メチルベンズアミド、
(S)−5−フルオロ−2−(キノリン−8−スルホニルアミノ)−N−(1−フェニルプロピル)ベンズアミド、
及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩の群から選択される、心不全の治療又は予防用の医薬を製造するための、請求項1に記載の式Ia及び/又はIbの化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩の使用。
【請求項3】
拡張期心不全の治療又は予防用の医薬を製造するための、請求項1又は2に記載の式Ia及び/又はIbの化合物及び/又はそれらの生理的に耐容性の塩の使用。

【公表番号】特表2007−523926(P2007−523926A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500093(P2007−500093)
【出願日】平成17年2月12日(2005.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001422
【国際公開番号】WO2005/084675
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】